19. “青い 顔 ” - 間 所 紗織
“ 青い 顔 ” - 間 所 紗織
色 は 万国 共通 の 言葉 であり , どこ の 国 へ 行って も 一目 で 理解 し 合える もの である と 思って いました のに , アメリカ に 留学 した 3 年間 に , 外国 人 と の 色 に 対する 感じ 方 の 相違 や 習慣 の 相違 に ぶつかって , まごついたり , 失敗 したり した こと が ありました 。 ・・
アメリカ に 行って しばらく の 間 , 私 は 英語 の 学校 に 通いました 。 クラス に は , ハンガリア 人 , ポーランド 人 , スペイン 人 , ユダヤ 人 等 , 世界中 の 様々の 国 から 来た 人 達 や , アメリカ 人 な のに スペイン 語 を 話す プエルトリコ 島 から やって 来た 人 達 が まじって 勉強 して いました 。 ある 日 , 生徒 の 1 人 1 人 が 順番 に , 与えられた 単語 を , 他の 単語 を 使って 説明 さ せられた こと が ありました 。 例えば ,“ 誕生日 ” と いわ れたら “ 生れた 日 ” と 答え ,“ 遠い ” と いわ れたら “ 近く ない こと ” と 簡単に 答えれば よい のです 。 私 に は “ ペール PALE ”( 英和 辞典 を ひく と 先 ず , 青く なる ― 顔色 が ― の 意 と 出て います ) と いう 単語 が あたりました 。 私 は その 単語 の 意味 を 辞書 を ひいて よく 覚えて いました ので “ 顔 の 色 が 青く なる こと ” と 自信 たっぷり に 答えました 。 すると , どうした こと か , クラス の 中 が 何となく , ざわめいて , かすかな 笑い の 波 が ひろがって 行く では ありません か 。 おだやかな 先生 は ニコニコ 微笑 さ れ ながら “ 顔 の 色 が ホワイト に なる こと ” と 訂正 して 下さいました 。 とっさに 私 は 何の こと か 理解 でき なくて キョトンと して いました が , やっと どうやら “ ペール ” と いう 言葉 の 持って いる “ 悪い しら せ を 受けて ショック で 青ざめる ” と いう 状態 を “ 青 ” と いう 色 に 感ずる の は 日本 人 だけ の 独特の 感覚 で , 外国 人 は “ 白く なる ” と 感ずる のだ と いう こと が 分 りました 。 でも 日本 で は “ 顔色 が 白く なる ” と いえば , 女性 が 一生懸命 クリーム や 化粧 水 で マッサージ を して 色白に 美しく なる と いう 意味 に なって しまいます 。 また アメリカ 人 は “ 青く なる ” と いった 私 の 答え に , 頬 に ベッタリ と コバルト ブルー や ウルトラマリン の 絵 具 を なすりつけた とんでもない 顔 を 連想 した の かも 知れません 。 ・・
また これ も アメリカ に 着いて 間もなく , アートセンタースクール に 通って , グラフィック の 勉強 を して いた 時 の こと です 。 クリスマス カード を デザイン する 課題 が 出さ れました 。 ・・
私 は 張切って 枝 の ニョキニョキ 出た 奇妙な クリスマス ツリー を 描き , それ を 美しい オレンジ色 と 黄色 に しました 。 今 まで 一 度 も 見た こと も ない 斬新な カード が 出来た と , 我ながら 得意に なって いました ところ が 先生 は いきなり “ クリスマス の 色 は 赤 と 緑 です 。 オレンジ は ハロイン の 色 です し , この 黄色 は イースター の 色 です から 使って は いけません ” と あっさり やり 直し を 命じました 。 ハロイン と は 10 月 末 の お祭り で 人々 は オレンジ色 に うれた 西洋 カボチャ を くりぬいて , ちょうど 日本 の 西瓜 の チョーチン の ように , 目 や 口 を 刻んで , 中 に ローソク を つけて 飾ります 。 また , イースター ( 復活 祭 ) は 卵 から かえる ひよこ の やわらかい 黄色 が この 日 の 色 な のだ そうです 。 でも 私 に は オレンジ色 を みて ハロイン を 連想 する 習慣 など 持ち合わせて いません でした ので , 先生 の 批評 が 納得 でき ず “ 何て 概念 的な 教育 な のだろう ” と 大いに 不満に 思いました 。 ところが アメリカ 生活 を 1 年 ,2 年 と 過 すうち に , 私 に も だんだん アメリカ 人 の 風習 と いう もの が 分って きました 。 各 季節 の お祭 は , それぞれ 個 有 の 色 が きまって いて , その 日 が 近づく と , 街 の 商店 や ショーウインドウ は , その 色 一色 に 飾ら れます 。 何時の間にか 街 中 やわらかい 黄色 で 一杯に 飾ら れる と “ ああ イースター が 近づいた のだ 。 もう 春 だ ナ ” と 思います し , 街 中 に オレンジ色 が あふれ 始める と “ もう ハロイン だ 。 秋 も 深まって 来た ナ ” と しみじみ 思う ように なりました 。 ですから クリスマス カード に ハロイン や イースター の 色 を 使う の は , お 祝い の カード を 黒 ワク に デザイン する ように 間違い だった ようです 。 ・・
画家