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Readings (6-7mins), 4. 愚かな男の話 - 岡本かの子

4. 愚かな 男 の 話 - 岡本 か の 子

愚かな 男 の 話 - 岡本 か の 子

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「 或る 田舎 に 二 人 の 農夫 が あった 。 両方 共 農 作 自慢 の 男 であった 。 或る 時 、 二 人 は 自慢 の 鼻 突き合せて 喋 べ り 争った 末 、 それでは 実際 の 成績 の 上 で 証拠 を 見せ 合おう と いう 事 に なった 。 それ に は 互 に 甘 蔗 を 栽培 して 、 どっち が 甘い の が 出来る か 、 それ に よって 勝負 を 決しよう と 約束 した 。 ・・

ところで 一方 の 男 が 考えた 。 甘 蔗 は 元来 甘い もの である が 、 その 甘い もの へ もって 来て 砂糖 の 汁 を 肥料 と して かけたら 一層 甘い 甘 蔗 が 出来る に 相違 ない 。 これ は 名案 々々 ! と 、 せっせと 甘 蔗 の 苗 に 砂糖 汁 を かけた 。 そし たら 苗 は 腐って しまった 」・・

○ .

「 或 ところ に 愚 な 男 が あった 。 知人 が 家屋 を 新築 した と いう ので 拝見 に 出かけた 。 普請 は 上出来で 、 何 処 も 彼 処 も 感心 した 中 に 特に 壁 の 塗り の 出来栄え が 目 に 止まった 。 そこ で 男 は 知人 に 其 の 塗り 方 を 訊 いて みた 。 知人 が 言う に は 、 此の 壁 は 土 に 籾殻 を 混ぜて 塗った ので 斯 う 丈夫に 出来た のである と 答えた 。 ・・

愚 な 男 は 考えた 。 土 に 籾殻 を 混ぜて さえ ああ 美 事 に 出来る のである 。 一層 、 実 の 入って いる 籾 を 混ぜて 塗ったら どんなに 立派な 壁 が 出来る だろう 。 そして 今度 は 自分 の 家 を 新築 する 際 に 、 此の プラン を 実行 して みた 。 そし たら 壁 は 腐った 」・・

以上 二 話 と も 、 あまり 意気込んで 程度 を 越した 考え は 、 却って 不 成績 を 招く と いう 道理 の 譬 え 話 に なる ようである 。 ・・

○ .

「 或る ところ に 狡 く て 知 慧 の 足りない 男 が あった 。 一 月 ばかり 先 に 客 を 招 んで 宴会 を する こと に なった 。 ところで 其 の 宴会 に 使う 牛乳 である が 、 相当 沢山の 分量 が 要る のである 。 ・・

それ を 其 の 時 、 方々 から 買い 集める ので は 費用 も かかり 手数 も かかる と 、 男 は 考えた のである 。 そこ で 知人 から 乳 の 出る 牝牛 を 一 ヶ月 の 約束 で 賃借 りして 庭 に 繋いで 飼って 置いた 。 ・・

牝牛 の 腹 から 出る 牛乳 を 毎日 搾ら ず に 牝牛 の 腹 に 貯 め て 置いた なら 、 宴会 まで に は 三十 日 分 の もの が 貯って 充分 入用の 量 に は なる だろう と 思った のである 。 ・・

宴会 の 日 が 来た 。 男 は して やったり と 許 り 牝牛 の 乳 を 搾った 。 そし たら 牝牛 の 腹 から は やっぱり 一 日 分 の 分量 しか 牛乳 は 出 なかった 」・・

○ .

「 何 か 勲 功 が あった ので 褒美 に 王様 から 屠った 駱駝 を 一 匹 貰った 男 が あった 。 男 は 喜んで 料理 に 取りかかった 。 なにしろ 大きな 駱駝 一 匹 料理 する のである から 手数 が かかる 。 切り 剖 く 庖丁 は じき 切れ なく なって 何遍 も 研ぎ 直さ ねば なら なかった 。 男 は 考えた 。 こう 一 々 研ぎ 直す ので は 手数 が かかって やり切れない 。 一遍に 幾 度 分 も 研 いど いて やろう 。 そこ で 男 は 二三 日 がかり で 庖丁 ばかり 研ぎ に かかった 。 ・・

かくて 、 庖丁 の 刃 金 は 研ぎ 減り 、 駱駝 は 暑気 に 腐って しまった 」・・

○ .

「 やはり 愚 な 男 が あった 。 腹 が 減って いた ので 有り合せ の 煎餅 を つまんで は 食べた 。 一 枚 食べ 、 二 枚 食べ して 行って 七 枚 目 の 煎餅 を 半分 食べた とき 、 彼 の 腹 は ちょうど 一 ぱい に なった の を 感じた 。 男 は 考えた 、 腹 を くちく した の は 此の 七 枚 目 の 半分 である のだ 。 さすれば 前 に 食べた 六 枚 の 煎餅 は 無駄 と いう もの である 。 それ から と いう もの は 、 この 男 は 腹 が 減って 煎餅 を 食べる とき に は 、 先 ず 煎餅 を 取って 数えた 。 一 枚 、 二 枚 、 三 枚 、 四 枚 、 五 枚 、 六 枚 、 そして これ 等 の 六 枚 の 煎餅 は 数えた だけ で 食わ ない のである 。 彼 は 七 枚 目 に 当った 煎餅 を 口 へ 持って行き 半分 だけ 食った 。 そして それ だけ で は 一 向 腹 が くちく なら ない の を 如何にも 不思議 そうに 考え込んだ 」( 百 喩経 より )


4. 愚かな 男 の 話 - 岡本 か の 子 おろかな|おとこ||はなし|おかもと|||こ 4. a foolish man's story - Kanoko Okamoto

愚かな 男 の 話 - 岡本 か の 子 おろかな|おとこ||はなし|おかもと|||こ

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「 或る 田舎 に 二 人 の 農夫 が あった 。 ある|いなか||ふた|じん||のうふ|| 両方 共 農 作 自慢 の 男 であった 。 りょうほう|とも|のう|さく|じまん||おとこ| 或る 時 、 二 人 は 自慢 の 鼻 突き合せて 喋 べ り 争った 末 、 それでは 実際 の 成績 の 上 で 証拠 を 見せ 合おう と いう 事 に なった 。 ある|じ|ふた|じん||じまん||はな|つきあわせて|しゃべ|||あらそった|すえ||じっさい||せいせき||うえ||しょうこ||みせ|あおう|||こと|| それ に は 互 に 甘 蔗 を 栽培 して 、 どっち が 甘い の が 出来る か 、 それ に よって 勝負 を 決しよう と 約束 した 。 |||ご||あま|しょ||さいばい||||あまい|||できる|||||しょうぶ||けっしよう||やくそく| ・・

ところで 一方 の 男 が 考えた 。 |いっぽう||おとこ||かんがえた 甘 蔗 は 元来 甘い もの である が 、 その 甘い もの へ もって 来て 砂糖 の 汁 を 肥料 と して かけたら 一層 甘い 甘 蔗 が 出来る に 相違 ない 。 あま|しょ||がんらい|あまい|||||あまい||||きて|さとう||しる||ひりょう||||いっそう|あまい|あま|しょ||できる||そうい| これ は 名案 々々 ! ||めいあん| と 、 せっせと 甘 蔗 の 苗 に 砂糖 汁 を かけた 。 ||あま|しょ||なえ||さとう|しる|| そし たら 苗 は 腐って しまった 」・・ ||なえ||くさって|

○ .

「 或 ところ に 愚 な 男 が あった 。 ある|||ぐ||おとこ|| 知人 が 家屋 を 新築 した と いう ので 拝見 に 出かけた 。 ちじん||かおく||しんちく|||||はいけん||でかけた 普請 は 上出来で 、 何 処 も 彼 処 も 感心 した 中 に 特に 壁 の 塗り の 出来栄え が 目 に 止まった 。 ふしん||じょうできで|なん|しょ||かれ|しょ||かんしん||なか||とくに|かべ||ぬり||できばえ||め||とまった そこ で 男 は 知人 に 其 の 塗り 方 を 訊 いて みた 。 ||おとこ||ちじん||その||ぬり|かた||じん|| 知人 が 言う に は 、 此の 壁 は 土 に 籾殻 を 混ぜて 塗った ので 斯 う 丈夫に 出来た のである と 答えた 。 ちじん||いう|||この|かべ||つち||もみがら||まぜて|ぬった||し||じょうぶに|できた|||こたえた ・・

愚 な 男 は 考えた 。 ぐ||おとこ||かんがえた 土 に 籾殻 を 混ぜて さえ ああ 美 事 に 出来る のである 。 つち||もみがら||まぜて|||び|こと||できる| 一層 、 実 の 入って いる 籾 を 混ぜて 塗ったら どんなに 立派な 壁 が 出来る だろう 。 いっそう|み||はいって||もみ||まぜて|ぬったら||りっぱな|かべ||できる| そして 今度 は 自分 の 家 を 新築 する 際 に 、 此の プラン を 実行 して みた 。 |こんど||じぶん||いえ||しんちく||さい||この|ぷらん||じっこう|| そし たら 壁 は 腐った 」・・ ||かべ||くさった

以上 二 話 と も 、 あまり 意気込んで 程度 を 越した 考え は 、 却って 不 成績 を 招く と いう 道理 の 譬 え 話 に なる ようである 。 いじょう|ふた|はなし||||いきごんで|ていど||こした|かんがえ||かえって|ふ|せいせき||まねく|||どうり||ひ||はなし||| ・・

○ .

「 或る ところ に 狡 く て 知 慧 の 足りない 男 が あった 。 ある|||こう|||ち|さとし||たりない|おとこ|| 一 月 ばかり 先 に 客 を 招 んで 宴会 を する こと に なった 。 ひと|つき||さき||きゃく||まね||えんかい||||| ところで 其 の 宴会 に 使う 牛乳 である が 、 相当 沢山の 分量 が 要る のである 。 |その||えんかい||つかう|ぎゅうにゅう|||そうとう|たくさんの|ぶんりょう||いる| ・・

それ を 其 の 時 、 方々 から 買い 集める ので は 費用 も かかり 手数 も かかる と 、 男 は 考えた のである 。 ||その||じ|ほうぼう||かい|あつめる|||ひよう|||てすう||||おとこ||かんがえた| そこ で 知人 から 乳 の 出る 牝牛 を 一 ヶ月 の 約束 で 賃借 りして 庭 に 繋いで 飼って 置いた 。 ||ちじん||ちち||でる|めすうし||ひと|かげつ||やくそく||ちんしゃく||にわ||つないで|かって|おいた ・・

牝牛 の 腹 から 出る 牛乳 を 毎日 搾ら ず に 牝牛 の 腹 に 貯 め て 置いた なら 、 宴会 まで に は 三十 日 分 の もの が 貯って 充分 入用の 量 に は なる だろう と 思った のである 。 めすうし||はら||でる|ぎゅうにゅう||まいにち|しぼら|||めすうし||はら||ちょ|||おいた||えんかい||||さんじゅう|ひ|ぶん||||ちょ って|じゅうぶん|いりようの|りょう||||||おもった| ・・

宴会 の 日 が 来た 。 えんかい||ひ||きた 男 は して やったり と 許 り 牝牛 の 乳 を 搾った 。 おとこ|||||ゆる||めすうし||ちち||しぼった そし たら 牝牛 の 腹 から は やっぱり 一 日 分 の 分量 しか 牛乳 は 出 なかった 」・・ ||めすうし||はら||||ひと|ひ|ぶん||ぶんりょう||ぎゅうにゅう||だ|

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「 何 か 勲 功 が あった ので 褒美 に 王様 から 屠った 駱駝 を 一 匹 貰った 男 が あった 。 なん||いさお|いさお||||ほうび||おうさま||と った|らくだ||ひと|ひき|もらった|おとこ|| 男 は 喜んで 料理 に 取りかかった 。 おとこ||よろこんで|りょうり||とりかかった なにしろ 大きな 駱駝 一 匹 料理 する のである から 手数 が かかる 。 |おおきな|らくだ|ひと|ひき|りょうり||||てすう|| 切り 剖 く 庖丁 は じき 切れ なく なって 何遍 も 研ぎ 直さ ねば なら なかった 。 きり|ぼう||ほうちょう|||きれ|||なんべん||とぎ|なおさ||| 男 は 考えた 。 おとこ||かんがえた こう 一 々 研ぎ 直す ので は 手数 が かかって やり切れない 。 |ひと||とぎ|なおす|||てすう|||やりきれない 一遍に 幾 度 分 も 研 いど いて やろう 。 いっぺんに|いく|たび|ぶん||けん||| そこ で 男 は 二三 日 がかり で 庖丁 ばかり 研ぎ に かかった 。 ||おとこ||ふみ|ひ|||ほうちょう||とぎ|| ・・

かくて 、 庖丁 の 刃 金 は 研ぎ 減り 、 駱駝 は 暑気 に 腐って しまった 」・・ |ほうちょう||は|きむ||とぎ|へり|らくだ||しょき||くさって|

○ .

「 やはり 愚 な 男 が あった 。 |ぐ||おとこ|| 腹 が 減って いた ので 有り合せ の 煎餅 を つまんで は 食べた 。 はら||へって|||ありあわせ||せんべい||||たべた 一 枚 食べ 、 二 枚 食べ して 行って 七 枚 目 の 煎餅 を 半分 食べた とき 、 彼 の 腹 は ちょうど 一 ぱい に なった の を 感じた 。 ひと|まい|たべ|ふた|まい|たべ||おこなって|なな|まい|め||せんべい||はんぶん|たべた||かれ||はら|||ひと||||||かんじた 男 は 考えた 、 腹 を くちく した の は 此の 七 枚 目 の 半分 である のだ 。 おとこ||かんがえた|はら||||||この|なな|まい|め||はんぶん|| さすれば 前 に 食べた 六 枚 の 煎餅 は 無駄 と いう もの である 。 |ぜん||たべた|むっ|まい||せんべい||むだ|||| それ から と いう もの は 、 この 男 は 腹 が 減って 煎餅 を 食べる とき に は 、 先 ず 煎餅 を 取って 数えた 。 |||||||おとこ||はら||へって|せんべい||たべる||||さき||せんべい||とって|かぞえた 一 枚 、 二 枚 、 三 枚 、 四 枚 、 五 枚 、 六 枚 、 そして これ 等 の 六 枚 の 煎餅 は 数えた だけ で 食わ ない のである 。 ひと|まい|ふた|まい|みっ|まい|よっ|まい|いつ|まい|むっ|まい|||とう||むっ|まい||せんべい||かぞえた|||くわ|| 彼 は 七 枚 目 に 当った 煎餅 を 口 へ 持って行き 半分 だけ 食った 。 かれ||なな|まい|め||あたった|せんべい||くち||もっていき|はんぶん||くった そして それ だけ で は 一 向 腹 が くちく なら ない の を 如何にも 不思議 そうに 考え込んだ 」( 百 喩経 より ) |||||ひと|むかい|はら|||||||いかにも|ふしぎ|そう に|かんがえこんだ|ひゃく|ゆけい|