2. 第 一夜 (1)
だい|いちや
|first night
2. erste Nacht (1)
2. first night (1)
2. primera noche (1)
2. première nuit (1)
2. 第一晚 (1)
第 二 夜
だい|ふた|や
こんな 夢 を 見た
|ゆめ||みた
和尚 の 室 を 退 がって 、 廊下 伝い に 自分 の 部屋 へ 帰る と 行灯 が ぼんやり 点って いる 。
おしょう||しつ||しりぞ||ろうか|つたい||じぶん||へや||かえる||あんどう|||てん って|
Buddhist priest||||left||corridor|along||||||returns||paper lantern||dimly|lit|
monge||||sair|||corredor||||||||lanterna de papel|||acende|
After leaving the monk's room, I walked along the corridor back to my room, where the lantern was dimly lit.
片 膝 を 座 蒲 団 の 上 に 突いて 、 灯心 を 掻き立てた とき 、 花 の ような 丁子 が ぱたり と 朱塗 の 台 に 落ちた 。
かた|ひざ||ざ|がま|だん||うえ||ついて|とうしん||かきたてた||か|||ちょうじ||||しゅぬり||だい||おちた
knee|knee||sit|floor mat|cushion||||poked|wick||stirred|||||quince||lightly||vermilion lacquer||platform||fell
um pedaço||||banco de assento||||||pavio da lamparina||acendeu|||||cravo-da-índia||||vermelho pintado||||
As I plunged one knee onto the zabuton and stirred the lantern, the flowery dingko fell with a snap onto the vermilion-lacquered pedestal.
同時に 部屋 が ぱっと 明 かるく なった 。
どうじに|へや|||あき||
at the same time|||suddenly|bright|lightly|
At the same time, the room became bright.
・・
襖 の 画 は 蕪 村 の 筆 である 。
ふすま||え||かぶ|むら||ふで|
sliding door||||turnip||||
painel deslizante||||nabo||||
The painting on the sliding door is done by the brush of Kaburamura.
As pinturas nas portas de correr são da autoria de Kabura.
黒い 柳 を 濃く 薄く 、 遠近 と かいて 、 寒 むそう な 漁夫 が 笠 を 傾けて 土手 の 上 を 通る 。
くろい|やなぎ||こく|うすく|おちこち|||さむ|||ぎょふ||かさ||かたむけて|どて||うえ||とおる
|||||sense of distance||||cold||fisherman|||||embankment||||
|salgueiro||escuro|levemente|distância||||||pescador||chapéu|||||||
A fisherman, looking cold, walks along the embankment with his hat tilted, painted in thick and thin black willows, portraying perspective.
床 に は 海中 文殊 の 軸 が 懸って いる 。
とこ|||かいちゅう|もんじゅ||じく||かかって|
|||under the sea|Manjusri||axis||suspended|
On the floor hangs a hanging scroll of Monju from under the sea.
焚 き 残した 線香 が 暗い 方 で いまだに 臭って いる 。
ふん||のこした|せんこう||くらい|かた|||におって|
burned|||incense||||||smelling|
The incense left burning still smells in the dark corner.
広い 寺 だ から 森 閑 と して 、 人気 が ない 。
ひろい|てら|||しげる|ひま|||ひとけ||
|||||quiet|||||
Because the temple is spacious, it is deep in the forest and unpopular.
黒い 天井 に 差す 丸 行灯 の 丸い 影 が 、 仰向く 途端 に 生きて る ように 見えた 。
くろい|てんじょう||さす|まる|あんどん||まるい|かげ||あおむく|とたん||いきて|||みえた
|||cast|||||||looking up||||||
The round shadow of the round lantern hanging on the black ceiling seemed to come alive as I looked up.
・・
立 膝 を した まま 、 左 の 手 で 座 蒲 団 を 捲って 、 右 を 差し込んで 見る と 、 思った 所 に 、 ちゃんと あった 。
た|ひざ||||ひだり||て||ざ|がま|だん||まくって|みぎ||さしこんで|みる||おもった|ところ|||
|||||||||||||rolled up|||inserted|||||||
あれば 安心だ から 、 蒲 団 を もと の ごとく 直して 、 その 上 に どっかり 坐った 。
|あんしんだ||がま|だん|||||なおして||うえ|||すわった
|relieved||bamboo mat|bamboo chair|||||||||heavily|
I felt safe, so I fixed the comforter back to its original position and sat down on it.
・・
お前 は 侍 である 。
おまえ||さむらい|
You are a samurai.
侍 なら 悟れ ぬ はず は なかろう と 和尚 が 云った 。
さむらい||さとれ||||||おしょう||うん った
||understand||||||||
The monk told him that there was no reason why a samurai couldn't realize this.
そう いつまでも 悟れ ぬ ところ を もって 見る と 、 御前 は 侍 で は ある まい と 言った 。
||さとれ|||||みる||おまえ||さむらい||||||いった
|||||||||||samurai||||||
When he saw that he could not realize that he was not a samurai, he said that he would never be a samurai.
人間 の 屑 じゃ と 言った 。
にんげん||くず|||いった
||trash|||
I told him he was a piece of trash.
は は あ 怒った な と 云って 笑った 。
|||いかった|||うん って|わらった
||||||saying|
He laughed and said, "You're angry.
口惜しければ 悟った 証拠 を 持って来い と 云って ぷい と 向 を むいた 。
くちおしければ|さとった|しょうこ||もってこい||うん って|||むかい||
regret|realized|||bring|||||||
He turned to me and said, "Bring me proof of your realization if you want to talk about it.
怪しから ん 。
あやしから|
suspicious|
I don't believe it.
・・
隣 の 広間 の 床 に 据えて ある 置 時計 が 次の 刻 を 打つ まで に は 、 きっと 悟って 見せる 。
となり||ひろま||とこ||すえて||お|とけい||つぎの|きざ||うつ|||||さとって|みせる
||hall||||placed||||||moment|||||||realize|
By the time the clock on the floor in the adjoining hall strikes the next hour, I will know.
悟った 上 で 、 今夜 また 入室 する 。
さとった|うえ||こんや||にゅうしつ|
|||||enter|
そうして 和尚 の 首 と 悟り と 引 替 に して やる 。
|おしょう||くび||さとり||ひ|かわ|||
|||||||pull|withdraw|||
I will do so in exchange for the monk's head and enlightenment.
悟ら なければ 、 和尚 の 命 が 取れ ない 。
さとら||おしょう||いのち||とれ|
realize|||||||
If you don't realize it, you won't be able to take the monk's life.
どうしても 悟ら なければ なら ない 。
|さとら|||
I have to realize it.
自分 は 侍 である 。
じぶん||さむらい|
I am a samurai.
・・
もし 悟れ なければ 自刃 する 。
|さとれ||じじん|
|understand||committing suicide|
If he does not realize it, he will cut himself.
侍 が 辱 しめられて 、 生きて いる 訳 に は 行か ない 。
さむらい||じょく|しめ られて|いきて||やく|||いか|
||humiliation|humiliated|||||||
A samurai cannot live in disgrace.
綺麗に 死んで しまう 。
きれいに|しんで|
beautifully||
They die a clean death.
・・
こう 考えた 時 、 自分 の 手 は また 思わず 布団 の 下 へ 這 入った 。
|かんがえた|じ|じぶん||て|||おもわず|ふとん||した||は|はいった
||||||||unintentionally||||under|crawled|
When I thought of this, my hand involuntarily crawled under the bedclothes again.
そうして 朱 鞘 の 短刀 を 引き摺り出した 。
|しゅ|さや||たんとう||ひきずりだした
|red|sheathe||dagger||drew
ぐっと 束 を 握って 、 赤い 鞘 を 向 へ 払ったら 、 冷たい 刃 が 一度に 暗い 部屋 で 光った 。
|つか||にぎって|あかい|さや||むかい||はらったら|つめたい|は||いちどに|くらい|へや||ひかった
|||||scabbard|||toward|paid||||||||shone
凄い もの が 手元 から 、 すう すう と 逃げて 行く ように 思わ れる 。
すごい|||てもと|||||にげて|いく||おもわ|
|||at hand|||||running away||||
It seems as if something amazing is escaping from your hand with a whimper.
そうして 、 ことごとく 切 先 へ 集まって 、 殺気 を 一 点 に 籠 め て いる 。
||せつ|さき||あつまって|さっき||ひと|てん||かご|||
||||||killing intent|||||gather|||
They all gathered at the tip of the cut, and their murderous intent was concentrated in a single point.
自分 は この 鋭い 刃 が 、 無念に も 針 の 頭 の ように 縮められて 、 九 寸 五 分 の 先 へ 来て やむ を えず 尖って る の を 見て 、 たちまち ぐさり と やり たく なった 。
じぶん|||するどい|は||むねんに||はり||あたま|||ちぢめ られて|ここの|すん|いつ|ぶん||さき||きて||||とがって||||みて||||||
||||||regrettably|||||||sharpened|||||||||||unavoidably|pointed||||||with a sharp sound||||
When I saw the sharp blade, regrettably reduced to the head of a needle and forced to sharpen to a point nine and a half inches in length, I wanted to immediately strike it down.
身体 の 血 が 右 の 手首 の 方 へ 流れて 来て 、 握って いる 束 が にちゃ に ちゃ する 。
からだ||ち||みぎ||てくび||かた||ながれて|きて|にぎって||たば|||||
||||||||||||holding||||sticky|to||
The blood from my body is flowing toward my right wrist, and the bundle I'm holding is churning.
唇 が 顫 えた 。
くちびる||せん|
||trembled|