三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 14 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

14　 女 の 影 おんな||かげ

「 命拾い ね 」 いのちびろい|

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 うん ……」

「 あんた 、 国 友 さん に 感謝 し なさい 」 |くに|とも|||かんしゃ||

「 うん ……」

「 いい んだ よ 。

もともと 、 僕 の 不注意だった んだ から 」 |ぼく||ふちゅういだった||

と 、 国 友 が 言う 。 |くに|とも||いう

「 うん ……」

珠美 は 、 しおらしく うつむいて ── いた わけで は なかった 。 たまみ|||||||

夕 里子 が 作った カレーライス を 、 猛烈な 勢い で 平らげて いて 、 返事 どころ じゃ なかった のだ 。 ゆう|さとご||つくった|||もうれつな|いきおい||たいらげて||へんじ||||

もちろん 、 佐々 本家 の 食堂 である 。 |ささ|ほんけ||しょくどう|

「── ああ 、 生き返った ！ |いきかえった

三 杯 目 を ペロリ と 平らげ 、 珠美 は 、 息 を ついた 。 みっ|さかずき|め||ぺろり||たいらげ|たまみ||いき||

「 呆れた 。 あきれた

胃 を こわす わ よ 」 い||||

「 死ぬ より いい でしょ 」 しぬ|||

珠美 は 、 ワーオ と 大 欠 伸 を して 、「 顔 、 洗って 来 よ 」 たまみ||||だい|けつ|しん|||かお|あらって|らい|

と 、 立って 行く 。 |たって|いく

「── いい わ ねえ 末っ子 って 」 |||すえっこ|

と 、 夕 里子 が ため息 。 |ゆう|さとご||ためいき

「 私 は お 姉さん の こと が 心配で 食欲 ない って いう のに 」 わたくし|||ねえさん||||しんぱいで|しょくよく||||

「 いや 、 珠美 君 だって 心配 して る さ 。 |たまみ|きみ||しんぱい|||

ただ 、 それ を ストレートに 表わさ ない だけ だ 。 |||すとれーとに|あらわさ||| It just does not show it straight. そういう 世代 な んだ よ 」 |せだい|||

「 何だか 私 が 凄く 年寄り みたい 」 なんだか|わたくし||すごく|としより|

と 、 夕 里子 は 国 友 を にらんだ 。 |ゆう|さとご||くに|とも||

「── だけど 、 本当に ありがとう 」 |ほんとうに|

「 職務 だ よ 」 しょくむ||

「 あら 、 私 の ため に 頑張って くれた の か と 思った わ 」 |わたくし||||がんばって|||||おもった|

「 それ も ある けど ね 」

国 友 は 大真面目に 言った 。 くに|とも||おおまじめに|いった

「 しかし 、 運 が 良かった んだ 。 |うん||よかった| 客 の 一 人 が 、 あの 騒ぎ の 後 、 珠美 君 を 運んで 行く 車 を 見て 、 ナンバー を 憶 えて て くれた んだ から ね 」 きゃく||ひと|じん|||さわぎ||あと|たまみ|きみ||はこんで|いく|くるま||みて|なんばー||おく||||||

「 天 は 我 を 見捨て ず 、 だ わ 」 てん||われ||みすて|||

夕 里子 は 十字 を 切った 。 ゆう|さとご||じゅうじ||きった

「 アーメン 」

「 何だか いい加減な 感謝 の 祈り だ ね 」 なんだか|いいかげんな|かんしゃ||いのり||

「 いい の 。

全部 の 神様 に お 礼 を 言った から 」 ぜんぶ||かみさま|||れい||いった|

と 、 夕 里子 は 涼しい 顔 で 言った 。 |ゆう|さとご||すずしい|かお||いった

「── ああ 、 サッパリ した ！ |さっぱり|

と 、 珠美 が 戻って 来る 。 |たまみ||もどって|くる

もちろん 、 ごく 普通の 服 に 着替えて いた 。 ||ふつうの|ふく||きがえて|

「 井口 と 草間 由美子 を 、 うんと 絞り 上げて やら なきゃ な 」 いぐち||くさま|ゆみこ|||しぼり|あげて|||

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 ああ 、 そう だ 。 珠美 君 」 たまみ|きみ

「 何 です か ？ なん||

「 君 、 気 を 失う とき 、 何だか 変な こと 言った よ 」 きみ|き||うしなう||なんだか|へんな||いった|

「 私 が ？ わたくし|

何て 言った か な 」 なんて|いった||

「『 全部 は いや よ 、 全部 は 』 って 。 ぜんぶ||||ぜんぶ||

── どういう 意味 だい ？ |いみ| 「 私 、 そんな こと 言った ？ わたくし|||いった

と 、 珠美 は とぼけた 。 |たまみ||

「 きっと 混乱 して 、 わけ の 分 ら ない こと を 口走った の よ 」 |こんらん||||ぶん|||||くちばしった||

「 そう か 。

なら い い んだ が 」

「 だけど 、 珠美 ──」 |たまみ

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 カレー は もう いら ない 」 かれー||||

「 そんな こ と 言って ない わ よ 。 |||いって|||

── 小峰 さん は 、 自分 で 『 殺さ れる かも しれ ない 』 と 言った の ね ？ こみね|||じぶん||ころさ||||||いった|| 「 うん 。

でも 、 それ 以上 は 何も 言わ なかった 。 ||いじょう||なにも|いわ| ── あの お じいさん は 、 割と いい 人 の ようだった けど 。 ||||わりと||じん||| That old man looked like a nice guy. 助かり そうな の ？ たすかり|そう な| 「 今夜 一杯 もてば 、 何とか なり そうだ と 言って た よ 」 こんや|いっぱい||なんとか||そう だ||いって|| "I said that if I had a cup of it tonight, I was going to manage somehow."

「 そう 。

良かった 。 よかった ── 勇一 の 奴 に も 、 一 度 会わ せて やり たい もん ね 」 ゆういち||やつ|||ひと|たび|あわ|||||

「 その 勇一 も 行方 不明 よ 」 |ゆういち||ゆくえ|ふめい|

「 どこ に いる んだろう ？

もう 夜 でしょ ？ |よ| 「 七 時 過ぎ よ 」 なな|じ|すぎ|

「 寒い だろう なあ ……」 さむい||

急に 、 低い 呟き に なって 、 珠美 は 、 表 の 方角 へ と 目 を やった ……。 きゅうに|ひくい|つぶやき|||たまみ||ひょう||ほうがく|||め||

「 そう だ な 。

今日 は もう ずいぶん 寒い 。 きょう||||さむい 雪 に でも なり そうな 雲 だった よ 」 ゆき||||そう な|くも||

「── ねえ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

何 か を 思い 付いた とき 、 いつも 夕 里子 は 目 を 輝か せて いる 。 なん|||おもい|ついた|||ゆう|さとご||め||かがやか||

「 うん ？

「 勇一 が 見つかる かも しれ ない 」 ゆういち||みつかる|||

「 どこ で ？

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 病院 よ 」 びょういん|

国 友 が 、 ゆっくり と 肯 いて 、 くに|とも||||こう|

「 そう か 。

── あいつ も 、 小峰 が 重体 な の は 知って る 。 ||こみね||じゅうたい||||しって| 一 度 は 会い に 行く かも しれ ない ……」 ひと|たび||あい||いく|||

「 きっと 行く わ よ ！ |いく||

珠美 が 、 ピョン と 飛び はねる ように 立ち上った 。 たまみ||||とび|||たちのぼった

「 ね ！ 私 たち も 行こう よ 、 早く ！ わたくし|||いこう||はやく 「 そう ね 。

だけど ──」

と 、 夕 里子 が ためらって 、「 もし お 姉さん が 連絡 して 来たら ……」 |ゆう|さとご|||||ねえさん||れんらく||きたら

「 連絡 できる って こと は 、 放っといて も 大丈夫 って こと よ ！ れんらく|||||ほっといて||だいじょうぶ|||

ほら 、 早く 仕度 して ！ |はやく|したく| 「 分 った わ よ 」 ぶん|||

夕 里子 は 、 珠美 が アッという間 に コート を 着て 玄関 へ 出て 行く の を 見て 、「 学校 に 行く とき 、 あれ ぐらい の スピード で やって くれる と 楽な のに ね 」 ゆう|さとご||たまみ||あっというま||こーと||きて|げんかん||でて|いく|||みて|がっこう||いく|||||すぴーど|||||らくな|| Yuriko saw that Armi wears a coat while going out to the entrance and went to the entrance, "Even if you go to school, it is easy to do at that speed"

と 言った 。 |いった

── 病院 は 、 もう 夜中 だった 。 びょういん|||よなか|

いや 、 時間 的に は 、 三 人 が 着いた とき 、 やっと 、 八 時 に なった ばかりだった が 、 もう 明り が 消えて いる 病室 も 結構 あった 。 |じかん|てきに||みっ|じん||ついた|||やっ|じ||||||あかり||きえて||びょうしつ||けっこう| No, when three people arrived in time, it was only 8 o'clock at last, but there were quite a few rooms where the lights had disappeared.

「 や あ 、 刑事 さん 」 ||けいじ|

若い 医師 が 、 国 友 を 見て 、 やって 来た 。 わかい|いし||くに|とも||みて||きた

「 度々 すみません 」 たびたび|

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 どう です か 、 小 峰 の 具合 は ？ |||しょう|みね||ぐあい| 「 良く も 悪く も ない 、 と いう ところ です ね 」 よく||わるく|||||||

と 、 医師 は 首 を 振った 。 |いし||くび||ふった

「 危険 を 脱した わけで は ない んです が 、 ここ まで 落ちついて ます から 、 一応 希望 は 持て ます 」 きけん||だっした||||||||おちついて|||いちおう|きぼう||もて|

「 どうも 、── 病室 へ 入って も ？ |びょうしつ||はいって|

「 いい です よ 。

ロック コンサート でも やら なきゃ ね 」 ろっく|こんさーと||||

ユーモア の ある 医師 だ 。 ゆーもあ|||いし|

夕 里子 は 、 つい 微笑んで いた 。 ゆう|さとご|||ほおえんで|

「 行こう 」 いこう

と 、 国 友 が 、 二 人 を 促す 。 |くに|とも||ふた|じん||うながす

廊下 を 少し 行く と 、 ドア の 一 つ が 開いて 、 若い 男 が 出て 来た 。 ろうか||すこし|いく||どあ||ひと|||あいて|わかい|おとこ||でて|きた

「 刑事 だ よ 」 けいじ||

と 、 国 友 が 夕 里子 に 言った 。 |くに|とも||ゆう|さとご||いった

「 おい 、 どう だ ？ 「 あ 、 国 友 さん 」 |くに|とも|

ウーン と 伸び を して いた 若い 刑事 は 、 あわてて 、 手 を おろした 。 うーん||のび||||わかい|けいじ|||て||

「 変り ない か ？ かわり||

「 今 の ところ は 。 いま|||

犯人 の 手がかり は ？ はんにん||てがかり| 「 拳銃 を 洗わ せて る が 、 時間 が かかり そうだ 」 けんじゅう||あらわ||||じかん|||そう だ

「 そう です か 。

── 入り ます か ？ はいり|| 「 いや 、 後 で 覗く よ 」 |あと||のぞく|

「 じゃ 、 ちょっと 手 を 洗って 来 ます んで ──」 ||て||あらって|らい||

「 ああ 、 見て る よ 」 |みて||

「 すみません 」

若い 刑事 が 歩いて 行く 。 わかい|けいじ||あるいて|いく

「── 一 階 じゃ ない 方 が 良かった な 」 ひと|かい|||かた||よかった|

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 窓 から 入ら れる 」 まど||はいら|

「 でも 、 まさか ──」

「 入院 の とき は 、 それ どころ じゃ なかった から ね 」 にゅういん|||||||||

「 国 友 さん 」 くに|とも|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 もし 犯人 が 、 また 小 峰 を 殺し に 来たら ？ |はんにん|||しょう|みね||ころし||きたら 「 それ は ある まい 」

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 それ こそ 自殺 行為 だ よ 。 ||じさつ|こうい|| 特に 、 小 峰 の 容態 も 、 まだ 危 い わけだ 。 とくに|しょう|みね||ようだい|||き|| そんな とき に ──」

「 そう ね ……」

と 、 夕 里子 が 肯 く 。 |ゆう|さとご||こう|

「 何 だい 、 気 に なって る こと が ある らしい な 」 なん||き||||||||

「 有田 信子 を 殺した 人間 と 、 小峰 さん を 撃った の は 、 同じ 人 じゃ ない か と 思った の 」 ありた|のぶこ||ころした|にんげん||こみね|||うった|||おなじ|じん|||||おもった|

「 しかし 、 二 人 が 親子 だ と いって も 、 両方 を 殺す 動機 の ある 人間 が いる かい ？ |ふた|じん||おやこ|||||りょうほう||ころす|どうき|||にんげん|||

財産 の 問題 でも 、 有田 信子 は 、 そんな もの 、 欲し がって も い なかった だろう 。 ざいさん||もんだい||ありた|のぶこ||||ほし||||| 却って 有田 信子 が 殺さ れた ばかりに 、 孫 の 存在 が 明るみ に 出た わけだ し 」 かえって|ありた|のぶこ||ころさ|||まご||そんざい||あかるみ||でた||

「 そう 。

それ に 小峰 さん と 、 有田 信子 の 殺さ れた 現場 ── あの 中学校 と は 全く 無縁だ もの ね 」 ||こみね|||ありた|のぶこ||ころさ||げんば||ちゅうがっこう|||まったく|むえんだ||

「 うん 、 そう だ 」

「 それ でも 、 同じ 犯人 って こと 、 あり 得る と 思う の 」 ||おなじ|はんにん||||える||おもう|

夕 里子 の 言葉 に 、 国 友 が 戸惑って いる とき だった 。 ゆう|さとご||ことば||くに|とも||とまどって|||

「 しっ ！

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 ねえ ！ 「 どうした の ？

「 静かに ──」 しずかに

珠美 は 声 を 低く した 。 たまみ||こえ||ひくく|

「 今 、 中 で 足音 が した の よ 」 いま|なか||あしおと||||

「 足音 ？ あしおと

確かに ？ たしかに 「 もしかしたら ……」

珠美 は 、 病室 の ドア に 手 を 伸し 、 サッと 開けた 。 たまみ||びょうしつ||どあ||て||のし|さっと|あけた

正面 に 、 勇一 が いた 。 しょうめん||ゆういち||

小 峰 の ベッド の わき に 立って いる 。 しょう|みね||べっど||||たって|

中 は 薄暗かった 。 なか||うすぐらかった

廊下 の 明り を 受けて 、 勇一 は ハッと した 。 ろうか||あかり||うけて|ゆういち||はっと|

そして 、 勇一 は 、 正面 の 窓 へ と 駆けて 行った 。 |ゆういち||しょうめん||まど|||かけて|おこなった

「 待って ！ まって

と 、 珠美 が 駆け 出す 。 |たまみ||かけ|だす

窓 に 向 って 。 まど||むかい|

── しかし 、 間に合わ なかった 。 |まにあわ|

勇一 は 、 窓 を 開けて おいた らしい 。 ゆういち||まど||あけて||

一瞬 の 内 に 、 窓 から 外 へ 、 飛び出して いた 。 いっしゅん||うち||まど||がい||とびだして|

珠美 は 、 窓 へ 駆け寄る と 、「 私 よ ！ たまみ||まど||かけよる||わたくし| と 、 身 を 乗り出して 叫んだ 。 |み||のりだして|さけんだ

「 待って ！ まって

勇一 が ダダッ と 駆け 出して 病院 の 前庭 の 芝生 を 、 突っ切って 行く 。 ゆういち||||かけ|だして|びょういん||ぜんてい||しばふ||つっきって|いく

「 おい ！

待て ！ まて 国 友 が 、 窓 から 転 り 出た 。 くに|とも||まど||てん||でた

「 話 が ある んだ ！ はなし||| しかし 、 国 友 の 呼びかけ に も 、 勇一 は 足 を 止め なかった 。 |くに|とも||よびかけ|||ゆういち||あし||とどめ|

勇一 が 、 芝生 の 真中 を 駆けて いく 。 ゆういち||しばふ||まんなか||かけて|

その とき ──。

バン 、 と 鋭く 短い 音 が 、 夜 の 空気 を 貫いた 。 ばん||するどく|みじかい|おと||よ||くうき||つらぬいた

「 キャッ ！

と 、 珠美 は 叫んだ 。 |たまみ||さけんだ

銃声 ！ じゅうせい

そして ── 勇一 が 芝生 に 倒れた のである 。 |ゆういち||しばふ||たおれた|

「 撃た れた わ ！ うた||

「 ど いて ！

夕 里子 が 、 後 を 追って 、 窓 から 転 り 出る と 、 珠美 も 負けて い られ ない 。 ゆう|さとご||あと||おって|まど||てん||でる||たまみ||まけて||| When Riko Yuri rolls out of the window after following, she can not bear it.

エイッ 、 と 思い切って 頭から 外 へ ダイビング 。 ||おもいきって|あたまから|がい||だいびんぐ

首 の 骨 は 折ら なかった が 、 したたか お 尻 を 打って 顔 を しかめた 。 くび||こつ||おら|||||しり||うって|かお||

── やっとこ 立って 、 芝生 の 方 を 見る と 、 夕 里子 の 姿 しか なかった 。 |たって|しばふ||かた||みる||ゆう|さとご||すがた||

「── お 姉ちゃん ！ |ねえちゃん

あの 子 は ？ |こ| と 駆け寄って 行く 。 |かけよって|いく

「 い ない わ 。

逃げた みたい 」 にげた|

と 、 夕 里子 は 、 周囲 を 見 回した 。 |ゆう|さとご||しゅうい||み|まわした

「 頭 を 下げて 。 あたま||さげて また 弾丸 が 飛んで 来る と 大変じゃ ない の ！ |だんがん||とんで|くる||たいへんじゃ|| 「 だけど ──」

「 見なさ い よ 」 みなさ||

夕 里子 は 、 芝生 の 上 に かがみ 込んだ 。 ゆう|さとご||しばふ||うえ|||こんだ

水銀 灯 の 青白い 光 が 、 芝生 を 照らし 、 そこ に 、 黒 っぽい 点々 が ……。 すいぎん|とう||あおじろい|ひかり||しばふ||てらし|||くろ||てんてん|

「 これ ── 血 だ わ ！ |ち||

珠美 が 青く なった 。 たまみ||あおく|

「 撃た れた の よ 。 うた|||

国 友 さん は 銃声 の した 方 を 調べて る 」 くに|とも|||じゅうせい|||かた||しらべて|

「 急いで あいつ を 捜さ なくちゃ ！ いそいで|||さがさ|

「 そう ね 。

でも 、 向 う が 出て 来る 気 に なら ない と 、 むずかしい かも 」 |むかい|||でて|くる|き||||||

二 人 が 話して いる と 、 国 友 が 駆けて 戻って 来た 。 ふた|じん||はなして|||くに|とも||かけて|もどって|きた

「 大丈夫 か ？ だいじょうぶ|

「 私 たち は ね 」 わたくし|||

夕 里子 が 肯 く 。 ゆう|さとご||こう|

「 でも ── これ を 」

「 血痕 じゃ ない か ！ けっこん|||

国 友 は 、 通り へ 目 を やった 。 くに|とも||とおり||め||

「 言う こと を 聞か ない んだ から 、 全く ！ いう|||きか||||まったく 「 銃声 の 方 は ？ じゅうせい||かた|

「 車 の 中 から 撃った らしい 。 くるま||なか||うった|

充分に 狙える 位置 だった から ね 。 じゅうぶんに|ねらえる|いち||| 一 発 撃って 、 そのまま 逃げた らしい よ 」 ひと|はつ|うって||にげた|| It seems he shot a shot and ran away as it was. "

「 あの 子 を 狙った の かしら ？ |こ||ねらった||

「 この 明る さ だ から な 。 |あかる||||

見 間違い は ない だろう 」 み|まちがい|||

「 じゃ 、 犯人 も 、 勇一 が ここ へ 来る と 読んで た の ね 」 |はんにん||ゆういち||||くる||よんで|||

「 もっと 早く 来る んだった ！ |はやく|くる|

と 、 珠美 が 悔し げ に 言った 。 |たまみ||くやし|||いった

「 国 友 さん ！ くに|とも|

若い 刑事 が 駆けて 来る 。 わかい|けいじ||かけて|くる

「 すみません ！ 「 いや 、 君 は 病室 へ 戻って ろ 」 |きみ||びょうしつ||もどって|

国 友 が 厳しく 言った 。 くに|とも||きびしく|いった

「 小 峰 の そば を 離れる な 」 しょう|みね||||はなれる|

「 分 り ました 」 ぶん||

若い 刑事 が 戻って 行く と 、 国 友 たち は 、 血痕 を 追って 歩き 出した 。 わかい|けいじ||もどって|いく||くに|とも|||けっこん||おって|あるき|だした

しかし 、 ついて 歩けた の は 、 ほんの 数 十 メートル 。 ||あるけた||||すう|じゅう|めーとる

血痕 は プッツリ と 切れた 。 けっこん||||きれた

「 タクシー でも 拾った か な 」 たくしー||ひろった||

と 、 国 友 が 首 を 振った 。 |くに|とも||くび||ふった

「 早く 手当 し なきゃ 」 はやく|てあて||

珠美 は 気 が 気 で ない 。 たまみ||き||き||

「 行き ましょう 」 いき|

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 どこ へ ？

国 友 が 夕 里子 を 見た 。 くに|とも||ゆう|さとご||みた

「 何 か 、 あて が ある んだ ね ？ なん|||||| 「 私 の 直感 。 わたくし||ちょっかん

── 今 は 信じて 、 ついて 来て ちょうだい 」 いま||しんじて||きて|

夕 里子 は そう 言って 、 通り かかった タクシー を 自分 で 停めた 。 ゆう|さとご|||いって|とおり||たくしー||じぶん||とめた

「 どこ へ 行く ん だい ？ ||いく||

と 、 乗り 込んで 、 国 友 が 言った 。 |のり|こんで|くに|とも||いった

「 場所 は 知ら ない の 」 ばしょ||しら||

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 丸山 先生 の 家 。 まるやま|せんせい||いえ 国 友 さん 、 知って る でしょ ？ くに|とも||しって|| 「 ああ 。

しかし ──」

国 友 は 、 何 か 言い かけて 、「 ＯＫ 。 くに|とも||なん||いい||ｏｋ

おとなしく ついて 行こう 」 ||いこう

と 、 運転手 に 道順 を 説明 した 。 |うんてんしゅ||みちじゅん||せつめい|

タクシー は 夜 の 町 を 駆け抜けて 行く 。 たくしー||よ||まち||かけぬけて|いく

外 は 木 枯 し が 強く なって いた 。 がい||き|こ|||つよく||

「── 何 か 分 り ました んでしょう か 」 なん||ぶん||||

丸山 の 未亡人 は 、 何となく 気 の ぬけた ような 表情 で 座って いた 。 まるやま||みぼうじん||なんとなく|き||||ひょうじょう||すわって| Maruyama 's widow was sitting with a somewhat crazy expression.

昨日 、 葬儀 を 終えた ばかりだ 。 きのう|そうぎ||おえた|

一種 の 虚 脱 状態 に あって も 無理 は ない 。 いっしゅ||きょ|だつ|じょうたい||||むり|| There is no mistake even in a kind of collapse state.

「 いや 実は ……」 |じつは

国 友 と して も 、 やって は 来た が 、 どう 訊 いた もの やら 分 ら ない 。 くに|とも||||||きた|||じん||||ぶん||

居間 の ソファ の 、 端 の 方 に かけて いた 夕 里子 が 、 思い切った ように 身 を 乗り出した 。 いま||||はし||かた||||ゆう|さとご||おもいきった||み||のりだした Riko Yuriko, who was hanging over the edge of the living room sofa, embarked on his own feet.

「 あの ── こんな こと を 申し上げたら 、 お 気 を 悪く さ れる でしょう けど 」 ||||もうしあげたら||き||わるく|||| "Um, that would be bad if you mention such a thing,"

「 は あ ……」

未亡人 は 当惑 した 顔 で 夕 里子 を 見た 。 みぼうじん||とうわく||かお||ゆう|さとご||みた

「 ご 主人 ── 丸山 先生 は 、 テスト の 問題 を 、 前もって ある 生徒 に 教えて いた んじゃ あり ませ ん か ？ |あるじ|まるやま|せんせい||てすと||もんだい||まえもって||せいと||おしえて||||||

相手 の 顔 が こわばった 。 あいて||かお||

「 何て こと を ──」 なんて||

「 お 願い です 。 |ねがい|

本当の こと を 教えて 下さい 。 ほんとうの|||おしえて|ください 先生 を 殺した 犯人 は 、 他 に も 人 を 殺して いる かも しれ ない んです 。 せんせい||ころした|はんにん||た|||じん||ころして||||| 逮捕 が 遅れたら 、 また 誰 か を 殺す かも しれ ない 。 たいほ||おくれたら||だれ|||ころす||| If arrest is delayed, we may kill someone again. ── 現に 今 も 一 人 が 撃た れて 重体 です 。 げんに|いま||ひと|じん||うた||じゅうたい| どう か 本当の こと を ──」 ||ほんとうの||

「 主人 が どうして そんな こと を し なきゃ なら ない んです ？ あるじ|||||||||| "Why must my husband do such a thing?"

「 お 金 の ため です 。 |きむ|||

問題 を 売って いた んです 」 もんだい||うって|| I sold the problem. "

夕 里子 は たたみかける ように 言った 。 ゆう|さとご||||いった

「 それ に 、 丸山 先生 に は 恋人 が いた でしょう 」 ||まるやま|せんせい|||こいびと|||

「 おい ──」

国 友 が さすが に 心配に なって 、 止めよう と した 。 くに|とも||||しんぱいに||とどめよう||

未亡人 が 真 青 に なって 、 今にも 夕 里子 を 殴り つける か と 思えた から だ 。 みぼうじん||まこと|あお|||いまにも|ゆう|さとご||なぐり||||おもえた||

しかし ── 未亡人 は 、 しばらく する と 、 ふっと 体 の 力 を 抜いて 、 肩 を 落とした 。 |みぼうじん||||||からだ||ちから||ぬいて|かた||おとした

怒り も 、 消えた ようだった 。 いかり||きえた|

「 あなた の 言う 通り だ わ 」 ||いう|とおり||

と 、 未亡人 は 言った 。 |みぼうじん||いった

「 主人 は …… とても 真面目で 、 正直な 人 だった 。 あるじ|||まじめで|しょうじきな|じん| 気 が 弱くて 、 そんな 、 試験 問題 を 売る なんて こと 、 自分 じゃ 考え も し なかった わ 」 き||よわくて||しけん|もんだい||うる|||じぶん||かんがえ|||| I was weak, I did not think that I would sell the exam questions, I did not even think about myself. "

「 それ は 私 も そう 思い ます 」 ||わたくし|||おもい|

と 、 夕 里子 が 肯 いた 。 |ゆう|さとご||こう|

「 その 女 が 、 ご 主人 を 操って いた んじゃ あり ませ ん か ？ |おんな|||あるじ||あやつって|||||| 「 そう 。

その 通り な の よ 」 |とおり|||

未亡人 は 、 夕 里子 の 言葉 に 飛びつく ように 、「 総 て は あの 女 が 現われて から 、 狂って しまった んだ わ 」 みぼうじん||ゆう|さとご||ことば||とびつく||そう||||おんな||あらわれて||くるって|||

「 それ じゃ ── 草間 由美子 が 」 ||くさま|ゆみこ|

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 お 葬式 の とき 、 にらんで た でしょう 」 |そうしき|||||

「 ええ 。

あの 女 。 |おんな ── 私 は 名前 も 知ら なかった けど 、 あの 女 だ わ 」 わたくし||なまえ||しら||||おんな||

「 草間 由美子 か ……」 くさま|ゆみこ|

国 友 は 首 を 振った 。 くに|とも||くび||ふった

「 しかし 、 なぜ 彼女 が ──？ ||かのじょ| 「 彼女 は 小峰 家 で は 、 どういう 立場 な の ？ かのじょ||こみね|いえ||||たちば||

と 、 夕 里子 が 国 友 に 訊 いた 。 |ゆう|さとご||くに|とも||じん|

「 自分 で は 、 小 峰 の 身の回り の 世話 を して いる と 言って た が ……。 じぶん|||しょう|みね||みのまわり||せわ|||||いって||

まず 、 愛人 と いう 立場 だった んじゃ ない か な 」 |あいじん|||たちば|||||

「 でも 一方 で は 、 秘書 の 井口 と も 手 を 組んで いた はずだ わ 」 |いっぽう|||ひしょ||いぐち|||て||くんで|||

「 うん 。

しかし ……」

「 奥さん 」 おくさん

と 夕 里子 は 未亡人 の 方 へ 向いて 、「 ご 主人 が 、 試験 問題 を 売って いた 相手 を 、 ご存知 です か ？ |ゆう|さとご||みぼうじん||かた||むいて||あるじ||しけん|もんだい||うって||あいて||ごぞんじ||

「 さあ ……。

何 人 か いた ようです けど ね 。 なん|じん||||| でも 名前 まで は 分 ら ない わ 」 |なまえ|||ぶん|||

と 、 未亡人 は 首 を 振った 。 |みぼうじん||くび||ふった

それ から 不安 げ に 国 友 の 方 を 見て 、 ||ふあん|||くに|とも||かた||みて

「 この こと が 新聞 なんか に 出る んでしょう か ？ |||しんぶん|||でる||

と 訊 いた 。 |じん|

「 さあ ……。

それ は 何とも ──」 ||なんとも

「 死んだ 後 に なって 、 そんな こと を 書き 立て られたら 、 主人 も 悲しむ と 思い ます 。 しんだ|あと||||||かき|たて||あるじ||かなしむ||おもい|

何とか 、 公 に なら ない ように して 下さい ませ ん か 。 なんとか|おおやけ||||||ください||| ── お 願い し ます 」 |ねがい||

と 、 頭 を 下げる 。 |あたま||さげる

もちろん 、 その 気持 は 分 ら ないで も ない 。 ||きもち||ぶん||||

生徒 に 、 金 を 取って 問題 を 教えて いた と なる と 、 学校 側 と して も 見すごして は おけ ない だろう 。 せいと||きむ||とって|もんだい||おしえて|||||がっこう|がわ||||みすごして||||

未亡人 に とって は 、 退職 金 の 問題 など 、 生活 が かかって いる のである 。 みぼうじん||||たいしょく|きむ||もんだい||せいかつ||||

「 極力 、 努力 は し ます 」 きょくりょく|どりょく|||

と 、 国 友 は 答えた 。 |くに|とも||こたえた

「 それ 以上 の こと は お 約束 でき ませ ん が ……」 |いじょう|||||やくそく||||

未亡人 は それ 以上 何も 言わ なかった 。 みぼうじん|||いじょう|なにも|いわ|