JIN - 仁 - #02
( 仁 ) 坂本 … 龍 馬
《( 男 ) 戻る ぜ よ あん 世界 へ 》
あの 患者 が …
ホントに あの 坂本 龍 馬 さん です か ?
( 龍 馬 )「 あの 」 か どう か は 分から ん けん ど 土佐 の 坂本 じゃ
あの 乙女 さん と いう 男 まさり の お 姉さん いらっしゃい ます か ?
お まん どう いて そな いな こと 知 っち ょる が ぜ よ
いや …
ほ いたら お まん も 土佐 かい !?
いや …
あ ッ 夢 で
夢 で 見た んです
夢 で あなた の 声 を 聞いて 江戸 に 来た んです
夢 ?
でも … 勘違い だった みたいです
すいません お 忙しい ところ
先生 !
名 は ?
これ も 何 か の 縁 じゃき ね ッ
南方 仁 と いい ます
南方 先生
コロリ が 再び ?
洪 庵 殿 の 記さ れた コロリ の 治療 法
「 虎 狼 痢治 準 」 を 増刷 し 江戸 の 蘭 方 医 たち に 配り
各所 で 治療 に あたら せて は いかが かな ?
《( 佐分利 ) その 医者 私 の 経験 でも →》
《 見た こと ない ような こと ばっかり やり よる んです わ 》
龍 馬 って 確か
暗殺 さ れる んだ よ な
もし あの 男 が 坂本 龍 馬 だった と したら
暗殺 さ れ ず に 2009 年 に タイム スリップ して きて
なぜ か その 龍 馬 の 代わり に 俺 が こっち に 来た
じゃあ 俺 が 坂本 龍 馬 ?
でも 坂本 龍 馬 は いた よ なあ
考えて も 戻れ ない んだ よ なあ
≪( 志士 A ) 今 の 幕府 は 腰抜け じゃ !→
夷 てき に いい ように 振り回さ れ うち はらう こと すら でき ぬ
( 志士 B ) 異国 に こそ 見習う べきだ と
しっぽ を 振る 奴 ら まで 出て きた と いう で は ない か
( 志士 C ) 天 誅 じゃ 天 誅 !
( 志士 A ) 土佐 から 来た 坂本 殿 と やら
先ほど から 難しい 顔 を さ れて おる が
おんし ら この 国 を 守る 守る っ ちゅうけん ど
一体 どう やって 守る つもりな のじゃ ?
刀 で に 決まって おろう 刀 を 抜く 前 に
船 から 大砲 を 撃た れて しまい じゃ ろ
天 誅 ちゅう た ところ で 奸物 を よ
一人一人 斬って いった ところ で
一体 何 年 かかる と 思う ち ょる が じゃ
どうも おんし ら の 言う こと は うまく いく ように は 思 えんぜよ
貴 様 我ら を 愚 ろうする か ッ
≪( 志士 D ) 君 の 意見 も 一理 ある →
だが 天 誅 は 有効だ と 私 は 思う
将 を 失った 軍 は なぜ か 壊滅 する もの だ →
我ら が 今回 狙う は 軍艦 奉行 並 勝 麟太郎 だ が
一 人 は この 稲葉 くん が 行って くれる もう 一 人 は 誰 か …
私 が … ワシ が 行く ぜ よ
先ほど まで 天 誅 は ムダ だ と … 気 が 変わった
是非 ワシ が 行く ぜ よ
≪( 浪人 A ) 女 を 売り このうえ 国 まで 売る か 売 国 奴 め !
( 彦三郎 ) 助けて くれ … 覚悟 !
お ーーーーッ ! おい まずい ぞ おんし ら
今 そこ に おかっ引き が おった ぜ よ
わしゃ 土佐 脱 藩 の 坂本 ち 言う が
脱 藩 !? さすれば … 同志 じゃ
ここ で 事 を 起こしたら 成る もん も なら ん
( 浪人 B ) かたじけない おい !
あ ッ …
今 の は ホラ じゃ
≪( 彦三郎 ) 恥ずかし ながら ここ が 私 の 店 で ございまして
お 礼 と 申して は なんで ございます が
ひと つ 憂 さ でも 晴らして いって ください ませ
どんな 女 郎 が お好み で ? ワシ か ?
( 咲 ) おはよう ございます 先生
おはよう ございます シッ
どうした ん です か ? 咲 さ ん
あの 「 消毒 」 なる もの は 煮る こと や
焼酎 に 浸す こと と 理解 すれば よろしゅう ございます か ?
具体 的に は そう です が 本来 は その 作用 の こと を 言い ます
毒 を 消す こと です で は 布 や 金づち に
毒 が ついて いた と いう こと で ございます か ?
毒 と いう か 物 の 表面 に は 目 に 見え ない 小さな 生き物
細菌 と いう もの が くっついて る んです
さいきん なる もの が
どうした ん です か ? 急に
先生 の お 手伝い を
先生 の 知識 が もっと たくさんの 人 に 広まれば
もっと たくさんの 方 を 治す こと が できる
と いう こと で は ございませ ぬ か
咲 は 少し でも その お 手伝い が し たく
煮たり 焼酎 を かけたり する と
なぜ 細菌 は 死ぬ ので ございます か ?
先生 ?
いや そこ から 先 忘れちゃ った なあ
( 栄 ) 咲 や 何 を して いる んです ?
何でも ございませ ぬ
すぐ 朝げ の 支度 を
南方 様 は い
咲 を 医術 の 道 に 巻き込む の は ご 容赦 いただき たく 存じます
咲 に は ごく 普通の 娘 と して
幸せに なって ほしい ので ございます
もちろん です そんな つもり は まったく あり ませ ん から
さ ようで ございます か で は もう 一 つ
頭 を お 剃 り に なって は いかがでしょう ?
は ッ ? お 医者 様 と いえば
坊主 か 総 髪 で ございます
総 髪 に は 御 髪 の 長 さ が 足り ぬ ように お 見受け いたし ます ので
坊主 が よろしい か と 存じ ます 私 は これ で …
お 言葉 で は ございます が
そのような 頭 は ゴロツキ に しか 見え ませ ぬ
折よく 恭 太郎 が 髪 を 結って おり ます ゆえ
ああ … えっ と …
考え とき ます んで 今度 是非
《( 未来 ) なんて った っけ チョウ の 羽ばたき が さ 》
《 地球 の 裏側 で 台風 を 引き起こす って いう 話 》
《 ああ バタフライ エフェクト ?》 《 それ だ 》
《 運命 も そういう もの かも ね 》
《 もし A さん が 石 を けら なかったら 》
《 B さん は 病気 に は なら なかった かも しれ ない みたいな 》
《 どうした の ? 急に 》
《 私さ 脳 に 腫瘍 が できた みたいな んだ 》
〈 俺 が ここ で 医療 行為 を 続ける こと は 〉
〈 歴史 を 変えて しまう こと に なる かも しれ ない 〉
〈 死ぬ はずだった 誰 か を 生かす と いう こと は 〉
〈 その 人 の 運命 を 変える こと だ 〉
〈 それ は もし かして 生きる はずだった 〉
〈 どこ か の 誰 か を 〉
〈 殺して いる と いう こと な の かも しれ ない 〉
〈 俺 の 一 歩 さえ 回り 回って 〉
〈 誰 か の 運命 を 変えて しまう の かも しれ ない 〉
〈 俺 は 本当 は 今 この 場 で 〉
〈 消えて しまう べき な の かも しれ ない 〉
〈 それ が でき ない なら せめて …〉
おい 大変だ ! どうした ?
両 国 で コロリ が コロリ が また ?
浅草 でも 出た って 聞いた ぞ
〈 息 を ひそめ 〉
〈 できる だけ 目立た ぬ よう に 生きる べきだ 〉
〈 いつか 戻れる …〉
〈 その 日 まで 〉
〈 そうだ よ な 未来 〉
≪( 男 ) コロリ だ !
♪♪~
緒方 洪 庵 先生
確か 有名な お 医者 さま
( 山田 ) 緒方 先生 は 大阪 で 適 塾 と いう 蘭学 塾 を 開か れ
その 門弟 は 400 人 を 超え さらに は 全国 に 天然痘 の 予防 策
種痘 を 定着 さ せた お方 で あら れる と 同時に
上 様 を 診 られる 奥 医師 で 西洋 医学 所 の 頭取 で …
やめて ください
江戸 の 蘭 方 医 なる 者 が 先生 の 名 を ご 存じ ない と は
おかしな こと で ございます 真に 信用 できる 者 か どう か
( 橘 ) 南方 先生 は 事故 で 少々 記憶 を 失って おら れる のです
記憶 が ない ?
( 佐分利 ) でも 私 の 見た とこ 医術 は 忘れて はり ませ ん でした よ
見事な 手 さばき で … やめ なさい
お ぬし は 一 見たら 百 言う から のう
やめ なさい と 言う てる の が 聞こえ ませ ん か
お 見苦しい ところ を
当 家 へ は どのような ご 用向き で ?
コロリ の 治療 法 を ご 教授 願 いたく ま かり こし ました
コレラ の !?
いや … コロリ のです か ?
この 夏 は 麻 疹 が 流行 し
江戸 の 幾 千 の 民 が この 病 に 倒れ ました
それ に 重ねて 今度 は コロリ →
このまま で は 江戸 の 町 は 死 の 町 に なって しまい ます
この 者 より 先生 は 見た こと も ない 医術 を
身 に つけて おら れる と 聞き ました
何とぞ 我々 に コロリ の 治療 法 を ご 教授 願 いたく
あの … 私 から も お 頼み 申し上げ ます
私 は 4 年 前 に コロリ で 父 を 亡くし ました
いう なれば コロリ は 父 の 敵 で ございます
先生 何とぞ コロリ 征伐 に 力 を お 貸し いただき たく 存じます
やめて ください あの …
あの …
私 は コロリ を 知ら ない んです
( 洪 庵 ) ご 存じ ない
4 年 前 に も はやった や ないで す か
確か 江戸 だけ でも 10万 人 以上 の 死者 が 出て
いや 知ら ない と いう か
そのへん の 記憶 が なくて
≪( 洪 庵 ) 何でも かまわ ん のです
治療 の 助け に なる ような こと が あれば
思い出して いただけ ませ ん か ?
国 の ため 道 の ため
何とぞ ご 教授 を
すいません
何 を して いる のです か ?
母上
コロリ が また はやって いる と いう お 話 で
たとえ そう であった と して も
間違っても 余計な 手出し は せ ぬ よう
はい
≪( 千葉 ) 人 を 斬る の は 気 が 重い か ?
重う な ん ぞ ある かえ
勝 っ ちゅう が は 日 ノ 本 を 売り渡す 奸物 が じゃ ろう
わしゃ 行く ぜ よ
この 国 の ため じゃき
ねえ なあ ホルマリン
( 喜市 ) 仁 先生 !
仁 先生 !
喜市
はい 枝豆 おう ありがとう
今日 往診 来る んじゃ なかった の か よ ?
ああ お っ 母さん の 傷 どんな 具合 だ ?
めまい と か ふらつき と か ない よ
じゃあ もう 大丈夫だ
そんな こと 言わ ないで さ ねえ ちょっと 来て くれよ →
ね ~ え →
ねえ 来て って ば
( 茜 ) 今 評判 の 黒 米 いなり 黒 米 いなり だ よ
あ ッ 旦那 今日 いら ない の かい ?
出て きて 大丈夫な んです か ?
母 は コロリ 退散 の お参り に 行き ました ので
そう です か コロリ の はい
どうかした んです か ? あまり 近寄ら れて は
一緒に 歩いて いる こと に なり ます ので
は あ ?
お 武家 の お姫様 は 男 と 一緒に 歩いたら ダメな んだ よ
あ ッ そういう こと か
先生 って 変わって る よ なあ 頭 も 変だ し
あれ は ? 棺おけ だ よ
先生 コロリ は どう やって 治す んだ ?
先生 も 知ら ない んだ よ それ は
( タエ ) すずり箱 です 大した もの じゃ ない んです が
お 父 っつ ぁん の 形見 な んだ 余計な こと 言わ ない の
こんな 大切な もの … 先生 に 使って いただけたら
死んだ 亭主 も 喜ぶ と 思う んです
では 大切に 使わ して いただき ます
( 女 ) タエ さん 水 くん できた よ
ありがとう ございます ちょっと すみません
先生 さ お っ 母さん の こと どう 思う ?
うち の お っ 母さん 美人 だ ろ
喜市 !
どうした の !? 喜市 先生 喜市 が …
コロリ で は ございませ ぬ か
コロリ …
コ コロリ … コロリ が 出た ー !
コロリ ! コロリ が
喜市 喜市 ! 先生 どう したら いい んです か !?→
先生 !
申し訳 あり ませ ん 治し 方 を 知ら ない んです
この 病 は 私 に は 治せ ない
帰り ましょう
咲 さ ん !
私 の 父 も 4 年 前 コロリ に かかり ました
父 は 亡くなり ました けど 生き残った 方 も ございます
希望 を なくして は なり ませ ぬ
やめて ください 咲 さ ん
そんな やり 方 じゃ うつり ます
やめ なさい !
うつる …
これ は うつる 病 な ので ございます ね
どうして 知ら ぬ ふり など なさった のです か ッ
知っていて も やって は いけない こと が ある んです
越えて は いけない 一線 が ある んです
私 は 誰 か を 助けたり して は …
医者 が 人 を 助けて は なら ぬ 道理 と は
どのような もの で ございます か !?
罪 も ない 子供 を 見殺し に せ ねば なら ぬ 道理 と は
いかなる もの に ございます か !?
コロリ と は
コレラ 菌 と いう 細菌 に よって 引き起こさ れる 病気 です
体 の 中 に 入った コレラ 菌 が 下痢 や おう吐 を 引き起こし
必要な 水分 を 失わ せ
人 を 死に 至ら しめ ます
コレラ が 出 ました !
コレラ 菌 は 生 の 水 や 生 の 食物
患者 の 便 や 吐いた もの の 中 に いて
口 を 通じて 体 の 中 に 入り込み ます
ですから 大切な こと は 菌 が 広がら ない ように
患者 を 囲い 込む こと
それ から 生水 や 生 の 食べ物 を 絶対 に 口 に せ ず
必ず 火 を 通して から 食べる こと
それ から 汚染 さ れた もの は 徹底 的に 消毒 する こと です
コレラ 菌 って の が 悪 さ して ん の か ?
そい つ を やっつければ いい の か ? そうです
それ さえ 守れば いたずらに 恐れる こと は あり ませ ん
皆さん それぞれ が 予防 …
コレラ を コレラ を 倒す 方法 を 心がける こと で
コレラ を 早く やっつける こと が できる んです
みんな で 力 を あわせる って こと だ
ご 協力 の ほど お 願い し ます
では まず 喜市 ちゃん を 囲い込み この 部屋 と 私 達 を
消毒 し なければ なら ない と いう こと です ね ?
どなた か 焼酎 あり ませ ん か ? ある よ うち に 持って くん ね
お 願い し ます できる だけ 濃度 の 濃い キツイ やつで
それ から 皆さん 石灰 お 持ち の 方 いらっしゃい ませ ん か ?
いし ばいか ? 持ってくる よ お 願い し ます
消毒 と やら が 終わり ました
では ここ から 出て 行って ください
出た ところ で 着物 を もう 一 度 着替えて
今 着替えた 着物 と 一緒に すぐに 焼いて
灰 は 土 の 中 に 埋めて ください は い
咲 さん も 出て 行って ください 私 は ここ で
火 は …
火打ち石 が ここ に ありがとう ございます
私 が
先生 皆さん が 塩 と 砂糖 持ってきて ください ました
これ で 何 を なさる んです か ?
塩 と 砂糖 を 水 に 溶かして ORS と いう 液体 を 作り ます
オーアルエス ?
それ が 喜市 くん を 救う 薬 と なる はずです
塩 と 砂糖 で 治る んです か ? 下痢 や おう吐 に よって 失わ れた
水分 や ミネラル を 補う んです
塩 と 砂糖 は どの くらい の 塩 梅 で …
咲 さ ん 出て 行って ください と 言った はずです が
先 に 火 を お つけ した ほう が …
お 父さん だけ で なく あなた まで コレラ で 失ったら …
お 母さん の 気持ち も 少し は 考えて みて ください
火 を お 願い し ます ≪( タエ ) はい 火種 もらって き ます
スポーツドリンク って こんな もんか
( 荒い 息遣い )
《( 夫 ) 恭 太郎 と 咲 を 頼んだ ぞ 》
《 父上 ! 父上 !》
南方 先生 と 一緒だった ので は ない の か ?
母上 に は 言わ ぬ 隠さ ず と も よい
戻れ と 言わ れた ので ございます
コロリ が うつる から と
コロリ ?
先生 は 今 本所 の 長屋 で
コロリ の 治療 に
しかし 先生 は 知ら ぬ と
事情 が お あり だった ようで ございます
では せめて 皆 の ため に 祈ろう
祈って も
届か なかった で は ないで す か
父上 は 骨 と 皮 に なり
死んで しまった で は ないで す か !
どこ へ 行く のです か ?
コロリ と 闘い に 行く ので ございます
咲 は 悔しい のです !
コロリ と 闘って いる 方 たち が いる のに
ただ ここ で 祈る だけ な の が
私 に も できる こと が … 勘当 し ます よ
父上 は ケガ を して いる 子 が あれば 我が 子 の ように 抱き上げ
送って やる ような 方 だった で は ございませ ぬ か !
もし 父上 が 生きて いらっしゃれば
やはり こう さ れた ので は ない でしょう か ?
行ったら 最後 ! この 家 の 敷居 は またが せ ませ ん よ
咲 は 亡き 父上 の 代わり に 闘い に 行く ので ございます !
我が身 のみ の 安全 を はかり
固く 引きこもる こと が 家 を 守る こと で は ございませ ぬ
コロリ に 打ち勝つ 技 を 身 に つける こと こそ
真に 家 を 守る こと で は ございませ ぬ か
ずるい 言い 方 で ございます ね
母上 羽織 と 袴 を
妹 が 女 の 身 で 闘い に 行く と いう のに
兄 である 私 が 黙って 見て いる わけに は いきま せ ぬ
取り替え ます
塩 と 砂糖 どん ぐらい だ っけ ?
水 1 升 に 対して 塩 が 2 匁 に 砂糖 が 10 匁 だって
先生 でき ました !
ありがとう ございます そこ に 置 い と いて ください
喜市 の 様子 は どう な んでしょう か ? 中 に …
ORS を 作る こと が 助ける こと に なり ます
そういうふうに 考えて いただけ ませ ん か
分かり ました
あの どなた か ! どなた か いらっしゃい ませ ぬ か !?
どうか なさ い ました か ? 緒方 先生 !
もう 一 度 南方 先生 の お 話 を お 聞き いただけ ませ ぬ か ?
先生 は 今 コロリ の 治療 に 一 人 で あたって おいで です
なんとか お 力添え を お 頼み 申し上げ ます !
南方 と か いう 医者 は 今朝 ほど
コロリ は 知ら ぬ と 申して いた で は ない か
それ は … 事情 が
駕籠 を 呼んで ください 緒方 先生
一 分 の 可能 性 が ある の なら
医術 を 志す 者 は 行く べきです
ありがとう ございます !
そう だ えらい ぞ 喜市
≪ おい !
勝 は ここ を 通る が じゃき
登 城 した 日 に は 必ず ここ を 通って 戻る
勝 を 斬ったら ざん 首 じゃ ろ に ゃあ
来た !
勝 先生 !
勝 麟太郎 天 誅 !
貴 様 …
すま ん わしゃ どうも 目 が 悪う て のう
大丈夫 か え ? さっさと 斬り かかれ !
おう 勝 ! か か か …
すま ん ワシ は 緊張 したら 屁 が 出る が じゃ
お ぬし さては わざと やって おる ので は ない か
ご 誤解 じゃき 裏切り者 め 覚悟 !
ああ …
ど いた が ぜ ?
なん じゃ お ぬし も 屁 こき …
あら ッ 屁 どころ か 汁 が 出 ちる
( 勝 ) おそらく コロリ だ よ エーッ !
そりゃ えらい こと じゃ しっかり せんかい
夷臭 の しみついた 男 が
南蛮 渡来 の コロリ に 救わ れる た あ できた 話さ
なあ 橘 くん
はい
おい どこ か ええ 医者 は おら ん かい ?
今 は ただ の 病人 じゃ !
本所 相生 町 の 長屋 で 南方 と いう 先生 が
コロリ の 治療 に あたって いる そうだ
南方 先生 が ? 知って おる の か ?
誰 か 知ら ん けん ど 恩 に 着る ぜ よ
さて そっち の 用件 は 何 だい ?
効か ねえ んだ よ こんな 薬 よ ! 下痢 は 止ま ん ねえ しよ お
つらい の は 分かり ます が 段々 よく なり ます から
あ ッ ああ …
きった ねえ な おい さっさと 掃除 しろ よ
少し 待って て ください !
( 喜市 が おう吐 して いる )
喜市 大丈夫 か ?
うまく 吐けた …
おい ら の 手
じいちゃん の 手 みたい
体 の 中 の 水 が 外 に 出ちゃ って る んだ
だから これ 飲む んだ よ な
ここ で おい ら が 死んだら
先生 損する ね
え ッ ?
お っ 母さん の 手術 の 枝豆
一生 届ける って 言った のに
おい ら 数えた んだ よ
枝豆 は 1 房 5 文 だ ろ
お 礼 は 2 両 くらい かなって
勘定 得意な 八百屋 の 玄 さん に 教えて もらって
毎日 5 房 届けた と して
520 日 届け なきゃ いけない んだ
枝豆 は 1 年 に ふた 月 ぐらい しか とれ ない から
きっと おい ら が 20 くらい まで 生き ない と
先生 は 損する んだ よ
そう だ よ 喜市
だから 頑張れ !
喜市 !
〈 不思議な もん だ な 未来 〉
〈 今日 の 朝 まで 誰 の 運命 も 変え たく ない と 願った 俺 が 〉
〈 今 は この 子 の 運命 を なんとか 変えて やり たい と 思って る 〉
今 ヘタ だった ね …
《 仁 先生 !》
〈 いつ 以来 だろう 〉
〈 こんなに も 誰 か を 〉
〈 誰 か を 〉
〈 心 の 底 から 助け たい と 思った の は 〉
喜市 神様 は な
乗り越え られる 試練 しか 与え ない んだ よ
だから 一緒に 頑張ろう
≪( 咲 ) 南方 先生 !
咲 さ ん
先生 お 一 人 で は 限界 が ある か と
患者 さん の ため に も その ほう が よかれ と 思った ので ございます
余計な こと かも しれ ませ ん が … ありがとう
ありがとう ございます
緒方 先生 お 願い が ある のです が …
まず コロリ の 治療 法 に ついて 聞か して もらえ ます か ?
話 は それ から に して いただけ ます か
コロリ は コレラ 菌 と いう 微 生物 に よって
引き起こさ れる 伝染 病 です
急速に 脱水 した 患者 は 虚 脱 状態
全身 に 力 が 入ら ない ように なり 皮膚 は 弾力 を 失い
目 は おち くぼみ ほお は こけ
脈拍 は 微弱 と なり やがて は 死 に 至り ます
して その 治療 法 は ? 水 を 失う の が 原因 です から
その 水分 を 補給 すれば いい んです ≪( 山田 ) 水 を 飲ま せる の か ?
た わけた こと を !
ただ の 水 で は あり ませ ん 一定 の 割合 で
塩 と 砂糖 を 加えた 経口 輸液 ORS と いう もの です
オーアールエス ?
我々 の 体 の 中 に ある 水 と ちかい 状態 に した 水 です
それ に よって 水 が 吸収 さ れ やすく なり ます
これ を 根 気強く 患者 に 与え 続ける んです
それ だけ か ? 今 は できる の は それ だけ です
それ で コレラ 菌 っ ちゅう の 殺す こと が できる んで っか ?
殺す こと は でき ませ ん です が そう やって 持ちこたえる こと で
コレラ 菌 が 自然に 排出 さ れる まで 乗り切る こと が できる んです
≪( 山田 ) そんな こと で コロリ が 治る わけ が なかろう →
モスト に よる と アヘン や キニイネ を 飲ま せたり
患者 の 皮膚 を 摩擦 したり 風呂 に 入れ 発汗 さ せたり
手 を かけ ねば なら ぬ と さ れて いる 「 虎 狼 痢治 準 」 に も 書か れて ある
その 治療 は おそらく 有効で は ない と 思い ます
お ぬし ! この 「 虎 狼 痢治 準 」 は 緒方 先生 が 西洋 の 書物 を →
翻訳 し まとめ られた もの である ぞ !
すいません
でも … 承知 して ます
「 虎 狼 痢治 準 」 で は 治り ませ ん
しかし 私 は また
あなた を 信じる こと も でき ませ ん なぜなら あなた は
助けて ください と いう 申し出 に 対し 私 に 嘘 を つかれ ました
それ は つまり 病 で 苦しむ 人 を 見放した ゆう こと です
たとえ あなた に どんな 事情 が ある に せよ
でも あなた の 論旨 は 明かいです
私 は あなた を 信じ たい
では …
信じる ため に 一 つ だけ 教えて もらえ ます か ?
あなた は その 知識 を
どこ で 学ば れ ました ?
それ は …
思い出せ ませ ん か ?
≪( 患者 ) おい じいさん 死んだ んじゃ ない か !?
おい 死んだ の か ?
はい
見ろ ! やはり でまかせで は ない か ッ
残念です
待って ください !
私 の 力 不足 で 患者 を 死な せて しまい ました
これ 以上 犠牲 者 を 出し たく ない んです
その ため に も 私 に 力 を 貸して ください !
お 願い し ます 先生 !
先生 が 追いかけて こ ない の は
コロリ 菌 を 外 へ 出す の を 少し でも 防ぐ ため です
これ こそ 先生 の 言葉 が 真実だ と いう 証拠 で は ございませ ぬ か ?
行き ましょう せ ん …
ぶ え ~ ッ !
コロリ だ !
( 悲鳴 )
( 八木 ) 大丈夫 か !? 山田 殿
( 横 松 ) 何 を やって おる のだ
( 八木 ) お ぬし こそ 手 を 離した で は ない か
なん じゃ お まん ら ひ っど い 友人 じゃ のう
肩 くらい 貸して や ったら よかろう が
≪( 横 松 ) 吐いた もの から うつる こと も ある と …
ちゅうこ と は よ あの 先生 の 言う こと を
まんざら 嘘 で も ない と 思う ち ょる ゆうこ とかい ?
≪( 横 松 ) だ から って 信じて る わけで は ない
どっち に しろ 患者 を 触れ へん 医者 が
どう いて コロリ を 治す が か わしゃ まったく 分から ん きのう
やっ ちょ れ やっ ちょ れ
頼む ぜ よ 南方 先生
はい
龍 馬 さん ここ で 消毒 して って ください
大丈夫じゃ ダメです
焼酎 で 手 や 首 を 洗って その 着物 も 脱いで って ください
南方 先生
南方 先生
山田 を お 願い し ます
どうか 助けて やって ください
国 の ため 道 の ため
はい !