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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (8)

悪人 下 (8)

祐一 は ハンドル を 握った まま 、 じっと 森 の 赤い 眼 を 見つめて いた 。 峠 だけ が 呼吸 して いる ようだった 。 次の 瞬間 、 車 の ルーム ライト が ついた 。 光 の 中 、 佳乃 と 男 の 影 が 動 い た 。 あっという間 だった 。 ドア が 開き 、 佳乃 が 降りよう と した 。 その 背中 を 男 が 蹴った のだ 。 佳乃 は 車 に 跳ねられた 動物 の ようだった 。 路肩 に 崩れ落ち 、 後 頭部 を ガードレー ル で 強打 した 。 うずく ま ガード レール を 背 に 跨った 佳乃 を 置いて 、 男 の 車 が 走り出す 。 祐一 は 一瞬 、 自分 が 何 を 見た の か 分から なく なり 、 慌てて 男 の 車 を 追おう と した 。 しかし サイド ブレーキ を 下 ろ した 途端 、 道ばた に 置き去り に さ れた 佳乃 の 姿 が 、 車 の 走り去った 後 の 風景 に 、 ぽつ ん と 残されて いる の が 見えた 。 テールランプ に 染まった 佳乃 の 姿 は 、 まるで 燃えて いる ようだった 。 祐一 は サイド ブレーキ を 引き 直した 。 あまりに も 強く 引いた ので 、 車体 の 底 で 妙な 音 が 立つ 。 男 の 車 が 先 の カーブ を 曲がって しまう と 、 辺り から すべて の 色 が 消えた 。 赤く 染 まっていた 佳乃 の 姿 は 、 今や 峠 の 暗闇 に 呑み込まれて いた 。 男 の 車 が 去って 、 どれ くらい 経った の か 、 祐一 は 恐る恐る 車 の ライト を つけた 。 光 は 佳乃 が 鱒った 場所 まで 届か なかった が 、 それ でも 冬 の 月光 より も 役 に は 立った 。 サイド ブレーキ を 下ろし 、 かすかに 足 を アクセル に 乗せた 。 峠 の 道 を 照らす 青い ライ ト が 、 水 が 染みる ような 速度 で 、 佳乃 の 元 へ 近づいて いく 。 ライト が はっきり と 佳乃 の 姿 を 捕らえた とき 、 青白い 光 の 中 で 佳乃 は 怯え 、 光 の 中 を 見よう と 、 必死に 目 を 細めて いた 。 再び サイド ブレーキ を 引いて 、 祐一 は 運転 席 の ドア を 開けた 。 佳乃 が 身構える ように 、 バッグ を 抱きかかえる 。 「 大丈夫 ? 」 祐一 は 声 を かけた 。 が 、 真っ暗な 峠 に 声 は すぐに 呑み込ま れる 。 遠い 地鳴り の ように 、 車 の エンジン 音 だけ が する 。 祐一 が 光 の 中 に 踏み込む と 、 佳乃 の 表情 に 変化 が あった 。 「 なんで 、 ここ に おる と ? も しか して つけて 来た わけ ? もう 、 やめて よ ! 」 ほ バッグ を 抱えて 、 路肩 に 樽って いる 女 が そう 吠えた 。 男 に 蹴り 降ろさ れ 、 暗い 峠 に 置 き 去り に さ れた 女 だった 。 「 だ 、 大丈夫 ? 」 祐一 は それ でも 佳乃 へ 近づいて 、 立ち上がら せよう と 手 を 差し伸べた 。 しかし 佳乃 は その 手 を 払い 、「 見とった わけ ? もう 信じられ ん ! 」 と 悪態 を つき ながら 自分 で 立ち 上がろう と する 。 「 ど 、 どうした と ね ? 」 と 祐一 は 訊 いた 。 ヒール の 高い ブーツ で よろける 佳乃 の 手 を 取 る と 、 手のひら に 小石 が 埋まって いる 感触 が した 。 「 どうも こう も ない ! あんた に 教える 義務 なか や ん ! 」 祐一 の 手 を 払って 、 佳乃 は 歩き 出そう と した 。 祐一 は その 腕 を また 取った 。 「 車 に 乗ら ん ね 。 送って やる けん 」 祐一 の 言葉 に 、 佳乃 が ちらっと 車 の ほう へ 目 を 向ける 。 二 人 と も ライト の 中 に 立って いた 。 そこ に だけ 世界 が ある ようだった 。 祐一 が 腕 を 引く と 、「 もう 、 よかって ! 放つ と いて よ ! 」 と 、 また 佳乃 が 振り払う 。 「 ここ から 歩いて 帰ら れ ん やろ ! 」 売り言葉 に 買い 言葉 で 、 祐一 は 強く 佳乃 の 腕 を 引いた 。 タイミング が 悪く 、 その 反動 で 歩き 出そう と して いた 佳乃 の 足 が 宙 を 滑る 。 バランス を 崩して 倒れ込んだ ところ が 、 ちょうど 車 の 真っ正面 だった 。 慌てて 支えよう と した 祐一 の 肘 が 、 運 悪く 佳乃 の 背 を 押 した 。 佳乃 は 奇妙な 格好で から だ を くねら せて 、 そのまま 車体 の フロント に ぶつかった 。 思わず 手 を ついた 場所 に 、 佳乃 の 小指 が 差し込ま れる 。 「 痛 ッ ! 」 叫び声 が こだま した 。 暗い 森 で 眠って いた 烏 たち が 一斉に 飛び立つ ほど だった 。 「 だ 、 大丈夫 ? 」 祐一 は 慌てて 抱き 起こそう と した 。 バンパー と 車体 の 間 に 入り込んで しまった 指 がそ の まま だった 。 起こそう と 佳乃 の 腋 の 下 を 持ち上げた とたん 、 悲鳴 と 共に 、 小指 が 奇妙 な 形 で 曲がった 。 何もかも が 一瞬 の 出来事 だった 。 血の気 が 引いた 。 ライト の 前 に しゃがみ込んで しまった 佳乃 の 顔 を 、 強い ライト が 照らし 、 髪 の 毛 一 本 一 本 が 逆 立って いた 。 「 ご 、 ごめん 。 …… ごめん 」 痛み に 顔 を 歪めた 佳乃 が 、 やっと 抜けた 指 を 握り 、 奥歯 を 噛み締めて いる 。 「 人殺し ! 」 祐一 が 肩 に 手 を 置いた 途端 、 佳乃 が そう 叫んだ 。 祐一 は 思わず 手 を 引いた 。 らち 「 人殺し ! 警察 に 言って やる けん ね ! 襲わ れたって 言って やる ! ここ まで 拉致 ら れたって ! 拉致られて 、 レイプ さ れ そうに なったって ! 私 の 親戚 に 弁護 士 おる つち やけん 。 馬鹿に せ んで よ ! 私 、 あんた みたいな 男 と 付き合う ような 女 じゃ ない つち や けん ! 人殺し ! 」 佳乃 が 叫ぶ 。 まったく の 嘘 な のに 、 祐一 は なぜ か 膝 が 震えて 止まら なかった 。 佳乃 は それ だけ 言い放つ と 、 痛む 指 を 握って 歩き 出した 。 車 の 周囲 を 離れれば 、 街灯 も ない 峠 道 で 、 すぐに 佳乃 の 姿 は 闇 に 呑 ま れる 。 「 ちよ 、 ちょっと 、 待てって 」 と 祐一 は 声 を かけた が 、 それ でも 佳乃 は 歩いて いく 。 佳乃 の 足音 が 遠ざかる 闇 の 中 へ 、 祐一 は たまら ず に 駆け込んだ 。 「 嘘 つく な ! 俺 は 何も し とら ん ぞ ! 」 叫び ながら 駆け込む と 、 立ち止まった 佳乃 が 振り返り 、「 絶対 に 言う て やる ! 拉致られたって 、 レイプ さ れたって 言う て やる ! 」 と 叫び 返して くる 。 真冬 の 峠 の 中 な のに 、 せみ 山 全体 から 蝉 の 声 が 聞こえた 。 耳 を 塞ぎ たく なる ほど の 鳴き声 だった 。 自分 でも 何 に 怯えて いる の か 分から なかった 。 ここ まで 拉致 さ れた 。 レイプ さ れた 。 佳乃 の 言葉 は まったく の 嘘 な のに 、 まるで 自分 が それ を 犯して しまった ようで 、 血の気 ぬぎ ぬ が 引いた 。 必死に 、「 嘘 だ ! 濡れ衣 だ ! 」 と 、 心 の 中 で 叫ぶ のだ が 、「 誰 が 信じて くれ る ? 誰 が お前 の こと なんか 信じて くれる ? 」 と 真っ暗な 峠 が 畷 き かけて くる 。 そこ に は 暗い 峠 道 しか なかった 。 証人 が い なかった 。 俺 が ここ で 何も して いない と い う こと を 証明 して くれる 者 が い なかった 。 婆さん に 、「 俺 は 何も やつ とら ん ! 」 と 弁解 する 自分 の 姿 が 見えた 。 「 俺 は 何も やつ とら ん ! 」 と 、 自分 を 取り囲む 人々 に 叫び 続け る 自分 の 姿 が 見えた 。 その とき ふいに 「 母ちゃん は ここ に 戻って くる ! 」 と フェリー 乗 り 場 で 叫んだ 、 幼い 自分 の 声 が 蘇った 。 誰 も 信じて くれ なかった あの とき の 声 が 。 祐一 は 佳乃 の 肩 を 掴んだ 。 「 触ら んで ! 」 振り払おう と した 佳乃 の 腕 が 、 祐一 の 耳 に 当たった 。 まるで 金 棒 を 差し込ま れた よう な 痛 み が 走る 。 祐一 は 思わず 佳乃 の 腕 を 取った 。 逃げよう と する 佳乃 を 押さえ 込もう と して いる うち に 、 冷たい 路面 で 馬乗り に なって いた 。 月 明かり に 照らさ れた 佳乃 の 顔 が 怒り に 歪んで いた 。 「::: 俺 は 何も し とら ん 」 佳乃 の 両 肩 を 強く 押さえた 。 痛み に 声 を 漏らす 佳乃 が 、 それ でも 噛みつく ように 、 「 誰 が あんた の こと なんか 信じる と よ ! 」 と 叫ぶ 。 「 人殺し ! 助けて ! 人殺し ! 」 佳乃 の 悲鳴 が 峠 の 樹 々 を 揺らす 。 佳乃 が 声 を 上げる たび 、 祐一 は 恐ろし さ に 身 が 震え た 。 こんな 嘘 を 誰 か に 聞か れたら ……。 「…… 俺 は 何も し とら ん 。 俺 は 何も し とら ん 」 祐一 は 目 を 閉じて いた 。 佳乃 の 喉 を 必死に 押さえつけて いた 。 恐ろしくて 仕方 なかった 。 佳乃 の 嘘 を 誰 に も 聞か せる わけに は いか なかった 。 早く 嘘 を 殺さ ない と 、 真実の ほ う が 殺さ れ そうで 怖かった 。 ◇ 岸壁 に いろんな ゴミ が 打ち寄せて いる 。 洗剤 の ペットボトル 。 汚れた 発泡 スチロール 347 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? の 箱 。 片方 だけ の ビーチ サンダル 。 それぞれ に 藻 や ビニール 袋 が 絡まって 、 いくら 波 に 揺られて も 、 岸壁 に ぶつかって は 跳ね返り 、 どこ へ も 逃げ出せ ず に いる 。 たわ 岸壁 に は 数 艘 の イカ 釣り 漁船 が 停泊 して いる 。 ロープ が 僥 み 、 船底 から 小魚 の 群れ が 泳ぎ 出て くる 。 岸壁 の 背後 に は 干し イカ を 売る 露店 が 並び 、 行き交う 観光 客 に 声 を かけ て いる 。 さっき から 小さな 女の子 が 三輪車 に 乗って 、 岸壁 に 立つ 光代 と 祐一 の 元 へ 来て は 、 また 露店 に 立つ 母親 の 元 へ 戻って いく 。 結局 、 料理 の 途中 で 光代 と 祐一 は 店 を 出て きた 。 運ば れた とき 、 皿 の 上 で 生々しく 動 いて いた イカ の 脚 も 、 祐一 の 話 が 終わる ころ に なる と 、 ぐったり と 動か なく なって いた 。 幸い 、 他の 客 が 広間 に 入って くる こと は なかった 。 代わり に 給仕 の おばさん が 何度 も 様 子 を 見 に きた 。 話 が 終わる と 、 祐一 は 、「 ごめん 」 と 小声 で 眩 いた 。 そして 黙り 込んだ まま の 光代 に 、 「 これ から 、 警察 に 行く けん 」 と 言った 。 光代 は ほとんど 何も 考え ず に 頷いた 。 ちょうど 給仕 の おばさん が 現れて 、「 刺身 は 苦 手 です か ? 」 と 訊 く ので 、「…… すいません 、 ちょっと 気分 が 悪くて 」 と 光代 は 嘘 を つ いた 。 立ち上がる 光代 を 、 祐一 が 諦めた ように 見上げて いた 。 光代 は 、「 ねえ 、 出よ う 」 と 声 を かけた 。 自分 は 置いて いか れる と 思って いた のだろう 、 祐一 は ひどく 驚いて いた 。 おばさん に 詫びる と 、「 お 金 はいらん けん ね 」 と 言って くれた 。 店 を 出て 、 漁船 の 停泊 する 岸壁 を 歩いた 。 足 が 自然 と 駐車 場 に 向いて いた 。 人 を 殺し た 男 の 車 に また 乗り込もう と して いる 。 頭 で は 分かって いる のだ が 、 冷たい 潮風 の 吹き 抜ける 岸壁 で 、 他 に 向かう 場所 も なかった 。 祐一 の 話 を 最後 まで 悲鳴 も 上げ ず 、 逃げ出 し も せ ず 、 聞き 終えた 自分 が 不思議だった 。 あまりに も 話 の 内容 が 大き すぎた 。 あまり に も 大き すぎて 、 何も 考えられ なかった 。 岸壁 の 端 まで 来る と 、 光代 は 立ち止まった 。 足元 の 岸壁 に 、 いろんな ゴミ が 集まって 、 静かに 波 に 揺られて いた 。 「 今 から 、 警察 に 行く けん 」 祐一 の 声 に 、 光代 は ゴミ を 見つめた まま 頷いた 。 「 ごめん 。 光代 に 迷惑 かける 気 は …。 :」 言葉 の 途中 で 、 光代 は また 頷いた 。 三輪車 に 乗った 女の子 が 、 再び こちら に 近寄って くる 。 ハンドル に ついた ピンク 色 の リボン が 、 冷たい 潮風 に 千 切れ そうに 扉 いて いる 。 近寄って きた 三輪車 は 、 光代 と 祐一 の 間 を 抜けて 、 また 露店 の 母親 の 元 へ 戻った 。 光 代 は 必死に ペダル を 漕ぐ 女の子 の 小さな 背中 を 見送った 。 その とき 、「 本当に 、 ごめん 」 と 頭 を 下げた 祐一 が 、 一 人 で 駐車 場 の ほう へ 歩き 出す 。 一回り 背中 が 縮んだ ように 見えた 。 少し でも 触れる と 、 泣き出し そうな 背中 だった 。 「 警察って 、 どこ の ? 」 と 光代 は 声 を かけた 。 振り向いた 祐一 が 、「 分から ん 、 この 辺 なら 唐津 まで 出れば ある やろ 」 と 答える 。 祐一 の 答え を 訊 き ながら 、 そんな こと もう どうでも いい じゃ ない か と 光代 は 思った 。 早く 逃げ出せ と いう 声 も 聞こえた 。 それなのに 、 なぜ か 悔しくて 仕方なかった 。 何 か 言って やり たくて 仕方なかった 。 「 私 だけ 、 こげ ん 所 に 置いて いか んで よ 」 と 光代 は 言った 。 「…… こげ ん 所 に 、 一 人 で 置いて かれて も 困るたい 。 …: 私 も 一緒に 行く 。 警察 まで 、 一緒に 行く 」 と 。 海 から の 突風 が 、 光代 の 言葉 を 千切り 取る 。 祐一 は じっと 光代 を 見つめて いた 。 そし て 何も 言わ ず に 、 また 一 人 で 歩き 出した 。 「 待って よ ! 」 光代 が 叫ぶ と 、 足 を 止めた 祐一 が 、「 ごめん 。 そげ ん こと したら 、 光代 に 迷惑 かか る 」 と 振り返ら ず に 言う 。 「 もう 迷惑 か かつ とる ! 」 光代 は その 背中 に 怒鳴った 。 道 の 向こう で イカ を 割いて いた おばさん が 、 ちらっと こ ちら に 目 を 向ける 。 返事 も せ ず に 歩き 出した 祐一 を 、 光代 は 追いかけた 。 何 か 言って やり たかった 。 でも 、 こんな こと を 言って やりたい わけじゃ なかった 。 駐車 場 へ 入る と 、 祐一 は また 足 を 止めた 。 両手 を 握りしめ 、 肩 を 震わせて いた 。 ◇ 雲行き が 怪しく なった の は 、 午後 二 時 を 過ぎた ころ だった 。 警察 から の 説明 を 受けて 、 思わず 店 を 飛び出した 石橋 佳男 は 、 自宅 から 歩いて 三 分 ほど の 所 に 借りて いる 駐車 場 へ 向かい 、 行く 当て も なく 車 に 乗り込んだ 。 福岡 の 大学生 が 犯人 で は なく 、 出会い 系 サイト で 知り合った 男 が 犯人 の ようだ 、 とい う 警察 の 説明 が 、 いくら 納得 しよう と して も でき なかった 。 いや 、 もっと 言えば 、 この 事件 に 娘 の 佳乃 が 関わって いる と いう こと さえ 、 何 か の 間違い の ような 気 が して 、 誰 か が 何 か の 目的 の ため 、 よってたかって 自分 や 妻 を 鯛 して いる ような 気 さえ した 。 佳乃 は まだ どこ か で 生きて いる んじゃ ない か 。 どこ か で 自分 が 助け に 来る の を 待って 「…… なんで 、 こげ ん こと に なって しも うた と やる 」 洩 を 畷 る 祐一 の 声 が 、 遠い 波 止め に ぶつかる 波 の 音 に 重なる 。 光代 は 祐一 の 前 へ 回り 込む と 、 硬く 握ら れた その 拳 を 手 に とった 。 「 行こう 、 警察 に 。 一緒に 行こう よ 。 …: 怖かった と やる ? 一 人 で 行く の 、 怖かった と やる ? 私 が 一緒に 行って やる けん 。 一緒 なら :.…、 一緒 なら 行ける やろ ? 」 光代 の 両手 の 中 で 、 祐一 の 拳 が 震えて いた 。 その 震え が 伝わる ように 、 祐一 が 何度 も 「…… うん 、 うん 」 と 頷く 。 いる ので は ない か ……。 でも どこ に 佳乃 が いる の か 分から ない 。 誰 に 訊 いて も 、 佳乃 は もう 死んだ のだ と 言う 。 行く 当て も なく 久留米 市街 を 車 で 走った 。 見慣れた 景色 な のに 、 涙 に くもる 目 で 見 知 ら ぬ 街 の ようだった 。 佳男 が 運転 する 車 は 、 まだ 高校 に 入った ばかりの 佳乃 が 選んだ もの だった 。 派手な 車 は 嫌だ と 言った のに 、「 絶対 、 赤い ほう が 可愛 か よ ! 」 と 佳乃 は 譲ら ず 、 結局 、 折衷 案 で 決まった 薄い グリーン の 軽 自動車 だった 。 納 車 の 日 、 家族 三 人 で 写真 を 撮った 。 佳乃 は 新しい 車 を 喜び 、 佳男 が いくら 説得 して は も 、 シート の ビニール を 剥がす こと を 許さ なかった 。 もう 何 時間 も 久留米 市 内 を 走り回って いた 。 ただ 佳乃 に 会い たかった 。 佳乃 が どこ に いる の か 知り たかった 。 助け を 求める 声 は 聞こえる のに 、 娘 が どこ に いる の か 分から な かった 。 気 が つく と 、 佳男 は ハンドル を 三瀬 峠 へ 向けて いた 。 久留米 市街 を 出た 車 は 国道 に 乗 り 、 川 を 渡り 、 気 が つけば 、 佐賀 平野 に 伸びる 田園 の 一 本道 を 走って いた 。 道 の 先 に は 、 三瀬 峠 を 含む 脊振 山地 の 山々 が あった 。 とつぜん 雲行き が 怪しく なって きた の は 、 ガソリン スタンド に 寄った ころ だった 。 給 油 を 待つ 間 に 便所 へ 行く と 、 便所 の 小 窓 から 見えた 脊振 山地 の 上空 に 黒い 雨雲 が 迫って 見えた 。 雨雲 は 峠 の 頂上 を 隠す ように 広がって 、 佳男 が いる 平野 部 の ほう へ も 迫って く ワー 便所 を 出る と 、 雨 が ぱらぱら と 降り出した 。 佳男 は 屋外 に あった 洗面 所 で 手 も 洗わ ず に 、 給油 の 終わった 自分 の 車 に 駆け込んだ 。 佳乃 と 同じ 年 くらい の 女の子 が 、 領収 書 を 持って 駆けて くる 。 渡さ れた 領収 書 が 雨 に 濡れて いた 。 佳男 は 代金 を 払って アクセル を 踏んだ 。 雨 の 中 、 女の子 が いつまでも 見送る 姿 が 、 ルームミラー に 映って いた 。 車 が 峠 道 に 入る ころ に は どしゃぶり だった 。 まだ 午後 の 三 時 前 だ と 言う のに 、 低い 空 に 広がった 雨雲 が 、 峠 道 を 暗く して いた 。 佳男 は ライト を つけた 。 激しく 動く ワイパー の 先 に 、 青白く アスファルト 道路 が 浮か び 上がる 。 フロント ガラス を 滝 の ように 雨 が 流れ 、 まるで 千切れ そうに ワイパー が 動き 続ける 。 峠 を 下りて くる 対向 車 の ライト で 、 フロント ガラス の 雨 粒 が 光る 。 エンジン 音 は 聞こ え ず 、 辺り の 樹 々 を 叩く 雨音 が 、 閉め切った 車 内 に も 響いて くる 。 い 、 とこ 葬儀 の 日 、 久留米 の 工場 で 働く 従兄 に 、「 佳乃 ちゃん の 亡くなった 場所 に 、 一緒に 線 香 あげて やら ん や 」 と 言わ れた 。 あまりに も いろんな こと が 立て続け に 起こり 、 佳男 が 返事 も でき ず に いる と 、 そば に いた 親戚 の 女 たち が 、「 行 くん なら 、 私 たち も 行くたい 。 お 花 も 供えて 、 佳乃 ちゃん の 好き やった お 菓子 と か ・・・…」 と ざ わ ついた 。 みんな が 親切で 言って くれて いる の は 分かって いた が 、 その 親切 を 受けた 途端 に 、 二 度 と 佳乃 に 会え ない ような 気 が して 仕方なかった 。 佳男 は 、「 俺 は 、 行か ん 」 と だけ 言った 。 ざ わ ついて いた 親戚 たち が その 一言 で 黙り 込んだ 。 あれ は いつごろ だった か 、 テレビ 中継 されて いた 峠 の 現場 に 、 花 や ジュース が 並べ られて いる 映像 を 見た 。 親戚 たち が こっそり 行って くれた の か 、 それとも 見ず知らず の 誰 か が 、 佳乃 に 、 テレビ や 雑誌 であれ だけ 非難 さ れた 佳乃 に 、 花 を 手 向けて くれた の か 。 佳男 は その 映像 を 見て 、 声 を 上げて 泣いた 。 テレビ や 雑誌 で は 遠回しに 表現 されて いて も 、 手元 に 届く 嫌がらせ の ファックス や 手紙 は 、 やはり 露骨だった 。 ぱい た 「 売 女 の 娘 が 殺されて 悲しい か ? 自業自得 」 「 俺 も お前 の 娘 買いました 。 一晩 五百 円 」 「 あんな 女 、 殺されて 当然 。 売春 は 違法です 」 「 仕送り して やれよ -」 直筆 の もの も あれば 、 パソコン から プリント アウト さ れた もの も あった 。 毎朝 、 郵便 配達 員 が 来る の が 恐ろしかった 。 電話 線 を 抜いて も 、 夢 の 中 で 電話 が 鳴った 。 娘 が 日本 中 から 嫌われて いる ようだった .

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悪人 下 (8) あくにん|した Evil Man (8) L'homme maléfique à terre (8)

祐一 は ハンドル を 握った まま 、 じっと 森 の 赤い 眼 を 見つめて いた 。 ゆういち||はんどる||にぎった|||しげる||あかい|がん||みつめて| ||||||||||eyes||| 峠 だけ が 呼吸 して いる ようだった 。 とうげ|||こきゅう||| mountain pass|||breathing||| 次の 瞬間 、 車 の ルーム ライト が ついた 。 つぎの|しゅんかん|くるま||るーむ|らいと|| 光 の 中 、 佳乃 と 男 の 影 が 動 い た 。 ひかり||なか|よしの||おとこ||かげ||どう|| |||||||shadow|||| あっという間 だった 。 あっというま| in no time| ドア が 開き 、 佳乃 が 降りよう と した 。 どあ||あき|よしの||おりよう|| その 背中 を 男 が 蹴った のだ 。 |せなか||おとこ||けった| |back||||kicked| |back||||kicked| A man kicked him in the back. 佳乃 は 車 に 跳ねられた 動物 の ようだった 。 よしの||くるま||はね られた|どうぶつ|| ||||hit by car||| Yoshino looked like an animal that had been hit by a car. 路肩 に 崩れ落ち 、 後 頭部 を ガードレー ル で 強打 した 。 ろかた||くずれおち|あと|とうぶ|||||きょうだ| ||collapsed||back of the head||guardrail|||strong impact| ||崩れ落ちた|||||||強打した| He fell to the shoulder of the road and was struck in the back of the head by a guardrail. うずく ま ガード レール を 背 に 跨った 佳乃 を 置いて 、 男 の 車 が 走り出す 。 ||がーど|れーる||せ||またがった|よしの||おいて|おとこ||くるま||はしりだす to throb|||||||straddled|||left||||| The man's car starts to drive away, leaving Kano cowering against the guardrail. 祐一 は 一瞬 、 自分 が 何 を 見た の か 分から なく なり 、 慌てて 男 の 車 を 追おう と した 。 ゆういち||いっしゅん|じぶん||なん||みた|||わから|||あわてて|おとこ||くるま||おおう|| ||||||||||||||||||try to catch|| Yuichi, for a moment, was unsure of what he had seen and panicked, trying to follow the man's car. しかし サイド ブレーキ を 下 ろ した 途端 、 道ばた に 置き去り に さ れた 佳乃 の 姿 が 、 車 の 走り去った 後 の 風景 に 、 ぽつ ん と 残されて いる の が 見えた 。 |さいど|ぶれーき||した|||とたん|みちばた||おきざり||||よしの||すがた||くるま||はしりさった|あと||ふうけい|||||のこさ れて||||みえた |||||||just as|roadside||left behind||||||||||ran away|||||||||||| However, as soon as I released the side brake, I saw Yoshino's figure left on the side of the road in the landscape after the car drove away. テールランプ に 染まった 佳乃 の 姿 は 、 まるで 燃えて いる ようだった 。 ||そまった|よしの||すがた|||もえて|| ||stained|||||||| 祐一 は サイド ブレーキ を 引き 直した 。 ゆういち||さいど|ぶれーき||ひき|なおした ||||||pulled again Yuichi pulled the side brake again. あまりに も 強く 引いた ので 、 車体 の 底 で 妙な 音 が 立つ 。 ||つよく|ひいた||しゃたい||そこ||みょうな|おと||たつ |||||||bottom||||| The pull was so hard that a strange sound was heard at the bottom of the car. 男 の 車 が 先 の カーブ を 曲がって しまう と 、 辺り から すべて の 色 が 消えた 。 おとこ||くるま||さき||かーぶ||まがって|||あたり||||いろ||きえた ||||||||turned||||||||| As the man's car rounded the bend ahead, all color disappeared from the area. 赤く 染 まっていた 佳乃 の 姿 は 、 今や 峠 の 暗闇 に 呑み込まれて いた 。 あかく|し|まって いた|よしの||すがた||いまや|とうげ||くらやみ||のみこま れて| |dyed|waiting|||||now|||||swallowed up| 男 の 車 が 去って 、 どれ くらい 経った の か 、 祐一 は 恐る恐る 車 の ライト を つけた 。 おとこ||くるま||さって|||たった|||ゆういち||おそるおそる|くるま||らいと|| |||||||passed|||||with hesitation||||| 光 は 佳乃 が 鱒った 場所 まで 届か なかった が 、 それ でも 冬 の 月光 より も 役 に は 立った 。 ひかり||よしの||ます った|ばしょ||とどか|||||ふゆ||げっこう|||やく|||たった light||||squirmed||||||||||moonlight|||||| The light didn't reach the spot where Yoshino had trouted, but it was still more useful than the moonlight in winter. サイド ブレーキ を 下ろし 、 かすかに 足 を アクセル に 乗せた 。 さいど|ぶれーき||おろし||あし||あくせる||のせた He releases the side brake and puts his foot on the gas pedal. 峠 の 道 を 照らす 青い ライ ト が 、 水 が 染みる ような 速度 で 、 佳乃 の 元 へ 近づいて いく 。 とうげ||どう||てらす|あおい||||すい||しみる||そくど||よしの||もと||ちかづいて| |||||||||||soaks in||||||||| The blue lights illuminating the road on the mountain pass are approaching Yoshino at a water-soaked speed. ライト が はっきり と 佳乃 の 姿 を 捕らえた とき 、 青白い 光 の 中 で 佳乃 は 怯え 、 光 の 中 を 見よう と 、 必死に 目 を 細めて いた 。 らいと||||よしの||すがた||とらえた||あおじろい|ひかり||なか||よしの||おびえ|ひかり||なか||みよう||ひっしに|め||ほそめて| ||||||||captured||pale blue|||||||afraid|light|||||||||squinted| |||||||||||||||||||||||||||細めていた| When the light caught Kano clearly, she was frightened in the pale light and squinted her eyes desperately to see inside the light. 再び サイド ブレーキ を 引いて 、 祐一 は 運転 席 の ドア を 開けた 。 ふたたび|さいど|ぶれーき||ひいて|ゆういち||うんてん|せき||どあ||あけた again|||||||||||| Yuichi pulled the side brake again and opened the driver's door. 佳乃 が 身構える ように 、 バッグ を 抱きかかえる 。 よしの||みがまえる||ばっぐ||だきかかえる ||brace oneself||||hugging tightly ||構える|||| Kano holds the bag in her arms as if she is preparing herself. 「 大丈夫 ? だいじょうぶ 」 祐一 は 声 を かけた 。 ゆういち||こえ|| が 、 真っ暗な 峠 に 声 は すぐに 呑み込ま れる 。 |まっくらな|とうげ||こえ|||のみこま| |pitch dark||||||was swallowed| 遠い 地鳴り の ように 、 車 の エンジン 音 だけ が する 。 とおい|じなり|||くるま||えんじん|おと||| |rumbling||||||||| 祐一 が 光 の 中 に 踏み込む と 、 佳乃 の 表情 に 変化 が あった 。 ゆういち||ひかり||なか||ふみこむ||よしの||ひょうじょう||へんか|| ||||||stepped into|||||||| 「 なんで 、 ここ に おる と ? も しか して つけて 来た わけ ? ||||きた| But did you follow me? もう 、 やめて よ ! Oh, stop it! 」 ほ バッグ を 抱えて 、 路肩 に 樽って いる 女 が そう 吠えた 。 |ばっぐ||かかえて|ろかた||たる って||おんな|||ほえた |||holding|||squatting|||||barked |||||||||||吠えた The woman on the side of the road with the bag in her arms barked at me. 男 に 蹴り 降ろさ れ 、 暗い 峠 に 置 き 去り に さ れた 女 だった 。 おとこ||けり|おろさ||くらい|とうげ||お||さり||||おんな| ||kick|dropped|||||||||||| 「 だ 、 大丈夫 ? |だいじょうぶ 」 祐一 は それ でも 佳乃 へ 近づいて 、 立ち上がら せよう と 手 を 差し伸べた 。 ゆういち||||よしの||ちかづいて|たちあがら|||て||さしのべた |||||||stood up|||||extended しかし 佳乃 は その 手 を 払い 、「 見とった わけ ? |よしの|||て||はらい|みとった| ||||||brushed away|watching| However, Kano brushes off his hand and says, "Did you see that? もう 信じられ ん ! |しんじ られ| I can't believe it anymore! 」 と 悪態 を つき ながら 自分 で 立ち 上がろう と する 。 |あくたい||||じぶん||たち|あがろう|| |bad language|||||||let's stand up|| |悪態||||||||| He swears and tries to stand up for himself. 「 ど 、 どうした と ね ? 」 と 祐一 は 訊 いた 。 |ゆういち||じん| ヒール の 高い ブーツ で よろける 佳乃 の 手 を 取 る と 、 手のひら に 小石 が 埋まって いる 感触 が した 。 ||たかい|ぶーつ|||よしの||て||と|||てのひら||こいし||うずまって||かんしょく|| |||boots||stumble|||||took|||||||buried in|||| |||||つまずく|||||||||||||||| When I took her hand, I felt a pebble buried in my palm. 「 どうも こう も ない ! どうしても||| There's nothing I can do about it! あんた に 教える 義務 なか や ん ! ||おしえる|ぎむ||| I wasn't obligated to tell you! 」 祐一 の 手 を 払って 、 佳乃 は 歩き 出そう と した 。 ゆういち||て||はらって|よしの||あるき|だそう|| ||||brushed|||||| The actuality that you can be a lot more than just a little bit of a person. 祐一 は その 腕 を また 取った 。 ゆういち|||うで|||とった |||arm||| Yuichi took his arm again. 「 車 に 乗ら ん ね 。 くるま||のら|| "I'm not getting in the car. 送って やる けん 」 祐一 の 言葉 に 、 佳乃 が ちらっと 車 の ほう へ 目 を 向ける 。 おくって|||ゆういち||ことば||よしの|||くるま||||め||むける |||||||||glanced||||||| 二 人 と も ライト の 中 に 立って いた 。 ふた|じん|||らいと||なか||たって| They were both standing in the light. そこ に だけ 世界 が ある ようだった 。 |||せかい||| It was like there was a whole world out there. 祐一 が 腕 を 引く と 、「 もう 、 よかって ! ゆういち||うで||ひく|||よか って |||||||it's fine Yuichi pulled his arm and said, "Oh, come on, it's okay! 放つ と いて よ ! はなつ||| release||| Let go of me! 」 と 、 また 佳乃 が 振り払う 。 ||よしの||ふりはらう ||Yoshino||shakes off Kano shakes her off again. 「 ここ から 歩いて 帰ら れ ん やろ ! ||あるいて|かえら||| "You can't walk home from here, can you? 」 売り言葉 に 買い 言葉 で 、 祐一 は 強く 佳乃 の 腕 を 引いた 。 うりことば||かい|ことば||ゆういち||つよく|よしの||うで||ひいた provocative remark||buy|||||||||| selling words|||||||||||| タイミング が 悪く 、 その 反動 で 歩き 出そう と して いた 佳乃 の 足 が 宙 を 滑る 。 たいみんぐ||わるく||はんどう||あるき|だそう||||よしの||あし||ちゅう||すべる |||||||||||||||air|| The timing was so bad that Kano's foot, which was about to start walking, slipped in the air as a reaction. バランス を 崩して 倒れ込んだ ところ が 、 ちょうど 車 の 真っ正面 だった 。 ばらんす||くずして|たおれこんだ||||くるま||まっしょうめん| ||lost|fell over||||||directly in front| I lost my balance and fell down right in front of the car. 慌てて 支えよう と した 祐一 の 肘 が 、 運 悪く 佳乃 の 背 を 押 した 。 あわてて|ささえよう|||ゆういち||ひじ||うん|わるく|よしの||せ||お| |try to support|||||elbow||||||||pushed| Yuichi's elbow, which he rushed to support her, unluckily pushed Kano's back. 佳乃 は 奇妙な 格好で から だ を くねら せて 、 そのまま 車体 の フロント に ぶつかった 。 よしの||きみょうな|かっこうで|||||||しゃたい||ふろんと|| ||strange|||||twisted|||||||hit Kano twisted her body in a strange manner and hit the front of the car as it was. 思わず 手 を ついた 場所 に 、 佳乃 の 小指 が 差し込ま れる 。 おもわず|て|||ばしょ||よしの||こゆび||さしこま| ||||||||little finger||inserted| Kano's pinky finger is inserted into the place where she unintentionally put her hand. 「 痛 ッ ! つう| ouch| Ouch! 」 叫び声 が こだま した 。 さけびごえ||| ||echo| ||echo| The shouts were coded. 暗い 森 で 眠って いた 烏 たち が 一斉に 飛び立つ ほど だった 。 くらい|しげる||ねむって||からす|||いっせいに|とびたつ|| ||||||||all at once|took off|| The crows that had been sleeping in the dark woods all flew away at once. 「 だ 、 大丈夫 ? |だいじょうぶ "Hey, are you okay? 」 祐一 は 慌てて 抱き 起こそう と した 。 ゆういち||あわてて|いだき|おこそう|| バンパー と 車体 の 間 に 入り込んで しまった 指 がそ の まま だった 。 ||しゃたい||あいだ||はいりこんで||ゆび|||| bumper|||||||||just||| bumper|||||||||||| The finger that got stuck between the bumper and the body of the car was still there. 起こそう と 佳乃 の 腋 の 下 を 持ち上げた とたん 、 悲鳴 と 共に 、 小指 が 奇妙 な 形 で 曲がった 。 おこそう||よしの||わき||した||もちあげた||ひめい||ともに|こゆび||きみょう||かた||まがった ||||armpit||||||scream||together with|||||shape|| As soon as I lifted Yoshino's armpit to wake her up, she screamed and her pinky finger bent in a strange way. 何もかも が 一瞬 の 出来事 だった 。 なにもかも||いっしゅん||できごと| ||a moment||| Everything happened in an instant. 血の気 が 引いた 。 ちのけ||ひいた color drained|| I'm out of my mind. ライト の 前 に しゃがみ込んで しまった 佳乃 の 顔 を 、 強い ライト が 照らし 、 髪 の 毛 一 本 一 本 が 逆 立って いた 。 らいと||ぜん||しゃがみこんで||よしの||かお||つよい|らいと||てらし|かみ||け|ひと|ほん|ひと|ほん||ぎゃく|たって| ||||squatting down||||||||||||||||||逆立って|| Kano crouched down in front of the light, her face illuminated by the strong light, and her hair stood on end. 「 ご 、 ごめん 。 I'm sorry. …… ごめん 」 痛み に 顔 を 歪めた 佳乃 が 、 やっと 抜けた 指 を 握り 、 奥歯 を 噛み締めて いる 。 |いたみ||かお||ゆがめた|よしの|||ぬけた|ゆび||にぎり|おくば||かみしめて| |pain||face||twisted|||||||gripped|back tooth||biting down| 「 人殺し ! ひとごろし murderer 」 祐一 が 肩 に 手 を 置いた 途端 、 佳乃 が そう 叫んだ 。 ゆういち||かた||て||おいた|とたん|よしの|||さけんだ |||||||at that moment||||screamed 祐一 は 思わず 手 を 引いた 。 ゆういち||おもわず|て||ひいた |||||pulled back |||手|| らち 「 人殺し ! |ひとごろし hostage| 警察 に 言って やる けん ね ! けいさつ||いって||| 襲わ れたって 言って やる ! おそわ|れた って|いって| was attacked||| ここ まで 拉致 ら れたって ! ||らち||れた って ||abduction|| ||誘拐|| 拉致られて 、 レイプ さ れ そうに なったって ! らち られて|れいぷ|||そう に|なった って abducted||||| 私 の 親戚 に 弁護 士 おる つち やけん 。 わたくし||しんせき||べんご|し||| ||relatives||lawyer|||| 馬鹿に せ んで よ ! ばかに||| 私 、 あんた みたいな 男 と 付き合う ような 女 じゃ ない つち や けん ! わたくし|||おとこ||つきあう||おんな||||| 人殺し ! ひとごろし 」 佳乃 が 叫ぶ 。 よしの||さけぶ ||screams まったく の 嘘 な のに 、 祐一 は なぜ か 膝 が 震えて 止まら なかった 。 ||うそ|||ゆういち||||ひざ||ふるえて|とまら| |||||||||knee||shaking|| 佳乃 は それ だけ 言い放つ と 、 痛む 指 を 握って 歩き 出した 。 よしの||||いいはなつ||いたむ|ゆび||にぎって|あるき|だした ||||blurted out|||||gripped|| 車 の 周囲 を 離れれば 、 街灯 も ない 峠 道 で 、 すぐに 佳乃 の 姿 は 闇 に 呑 ま れる 。 くるま||しゅうい||はなれれば|がいとう|||とうげ|どう|||よしの||すがた||やみ||どん|| ||surroundings||if離れる|streetlight|||||||||||||swallowed|| 「 ちよ 、 ちょっと 、 待てって 」 と 祐一 は 声 を かけた が 、 それ でも 佳乃 は 歩いて いく 。 ||まて って||ゆういち||こえ||||||よしの||あるいて| ||wait a minute||||||||||||| 佳乃 の 足音 が 遠ざかる 闇 の 中 へ 、 祐一 は たまら ず に 駆け込んだ 。 よしの||あしおと||とおざかる|やみ||なか||ゆういち|||||かけこんだ ||||fades away|||||||couldn't bear|not|| |||||||||||たまらず||| Yuichi rushed into the darkness, where Kano's footsteps were far away. 「 嘘 つく な ! うそ|| Don't lie! 俺 は 何も し とら ん ぞ ! おれ||なにも|||| I didn't do anything! 」 叫び ながら 駆け込む と 、 立ち止まった 佳乃 が 振り返り 、「 絶対 に 言う て やる ! さけび||かけこむ||たちどまった|よしの||ふりかえり|ぜったい||いう|| scream||rushed in|||||looking back||||| 拉致られたって 、 レイプ さ れたって 言う て やる ! らち られた って|れいぷ||れた って|いう|| was abducted|||||| 」 と 叫び 返して くる 。 |さけび|かえして| |shout|| 真冬 の 峠 の 中 な のに 、 せみ 山 全体 から 蝉 の 声 が 聞こえた 。 まふゆ||とうげ||なか||||やま|ぜんたい||せみ||こえ||きこえた |||||||cicada||||cicada|||| |||||||||||蝉の|||| 耳 を 塞ぎ たく なる ほど の 鳴き声 だった 。 みみ||ふさぎ|||||なきごえ| It was so loud that I wanted to cover my ears. 自分 でも 何 に 怯えて いる の か 分から なかった 。 じぶん||なん||おびえて||||わから| ||||afraid||||| I didn't know what was scaring me. ここ まで 拉致 さ れた 。 ||らち|| I've been abducted. レイプ さ れた 。 れいぷ|| 佳乃 の 言葉 は まったく の 嘘 な のに 、 まるで 自分 が それ を 犯して しまった ようで 、 血の気 ぬぎ ぬ が 引いた 。 よしの||ことば||||うそ||||じぶん||||おかして|||ちのけ||||ひいた ||||||||||||||committed|||loss of color|blood drained||| I felt as if I had committed the crime, even though what Kano had said was an outright lie, and my blood boiled. 必死に 、「 嘘 だ ! ひっしに|うそ| Desperately, he said, "It's a lie! 濡れ衣 だ ! ぬれぎぬ| false accusation| false accusation| It's a false accusation! 」 と 、 心 の 中 で 叫ぶ のだ が 、「 誰 が 信じて くれ る ? |こころ||なか||さけぶ|||だれ||しんじて|| 誰 が お前 の こと なんか 信じて くれる ? だれ||おまえ||||しんじて| 」 と 真っ暗な 峠 が 畷 き かけて くる 。 |まっくらな|とうげ||なわて||| ||||crossing||| そこ に は 暗い 峠 道 しか なかった 。 |||くらい|とうげ|どう|| |||dark|||| 証人 が い なかった 。 しょうにん||| witness||| 俺 が ここ で 何も して いない と い う こと を 証明 して くれる 者 が い なかった 。 おれ||||なにも||||||||しょうめい|||もの||| 婆さん に 、「 俺 は 何も やつ とら ん ! ばあさん||おれ||なにも||| She told the old woman, "I don't own anything! 」 と 弁解 する 自分 の 姿 が 見えた 。 |べんかい||じぶん||すがた||みえた |excuse|||||| I could see myself making excuses. 「 俺 は 何も やつ とら ん ! おれ||なにも||| I don't own anything! 」 と 、 自分 を 取り囲む 人々 に 叫び 続け る 自分 の 姿 が 見えた 。 |じぶん||とりかこむ|ひとびと||さけび|つづけ||じぶん||すがた||みえた |||surrounding|||||||||| I could see myself screaming at the people around me. その とき ふいに 「 母ちゃん は ここ に 戻って くる ! |||かあちゃん||||もどって| ||suddenly|||||| Then, suddenly, he said, "Mom will come back here! 」 と フェリー 乗 り 場 で 叫んだ 、 幼い 自分 の 声 が 蘇った 。 |ふぇりー|じょう||じょう||さけんだ|おさない|じぶん||こえ||よみがえった ||||||shouted|young|||||returned I remembered the voice of my young self shouting at the ferry terminal, "I'm not a child! 誰 も 信じて くれ なかった あの とき の 声 が 。 だれ||しんじて||||||こえ| 祐一 は 佳乃 の 肩 を 掴んだ 。 ゆういち||よしの||かた||つかんだ ||||||grabbed 「 触ら んで ! さわら| don't touch| 」 振り払おう と した 佳乃 の 腕 が 、 祐一 の 耳 に 当たった 。 ふりはらおう|||よしの||うで||ゆういち||みみ||あたった shook off||||||||||| まるで 金 棒 を 差し込ま れた よう な 痛 み が 走る 。 |きむ|ぼう||さしこま||||つう|||はしる |gold|||||||||| |金|||||||||| The pain is as if a metal rod has been inserted into my body. 祐一 は 思わず 佳乃 の 腕 を 取った 。 ゆういち||おもわず|よしの||うで||とった Yuichi unintentionally took Kano's arm. 逃げよう と する 佳乃 を 押さえ 込もう と して いる うち に 、 冷たい 路面 で 馬乗り に なって いた 。 にげよう|||よしの||おさえ|こもう||||||つめたい|ろめん||うまのり||| |||||pinned down|press down|||||||road surface||on horseback||| |||||||||||||||馬に乗る||| While trying to hold back Kano, who was trying to escape, I found myself riding on a horse on the cold road surface. 月 明かり に 照らさ れた 佳乃 の 顔 が 怒り に 歪んで いた 。 つき|あかり||てらさ||よしの||かお||いかり||ゆがんで| |||||||||anger||twisted| Kano's face was twisted in anger under the moonlight. 「::: 俺 は 何も し とら ん 」 佳乃 の 両 肩 を 強く 押さえた 。 おれ||なにも||||よしの||りょう|かた||つよく|おさえた ||||||||||||held The first time I saw her, I was so excited that I had to go to the store and buy a new one. 痛み に 声 を 漏らす 佳乃 が 、 それ でも 噛みつく ように 、 「 誰 が あんた の こと なんか 信じる と よ ! いたみ||こえ||もらす|よしの||||かみつく||だれ||||||しんじる|| |||||||||bites|||||||||| Kano, who was in pain, bit down on the pain and said, "Who's going to believe you, huh? 」 と 叫ぶ 。 |さけぶ |to shout 「 人殺し ! ひとごろし 助けて ! たすけて 人殺し ! ひとごろし 」 佳乃 の 悲鳴 が 峠 の 樹 々 を 揺らす 。 よしの||ひめい||とうげ||き|||ゆらす 佳乃 が 声 を 上げる たび 、 祐一 は 恐ろし さ に 身 が 震え た 。 よしの||こえ||あげる||ゆういち||おそろし|||み||ふるえ| ||||||||fearful|||||| こんな 嘘 を 誰 か に 聞か れたら ……。 |うそ||だれ|||きか| 「…… 俺 は 何も し とら ん 。 おれ||なにも||| ...... I didn't do anything. 俺 は 何も し とら ん 」 祐一 は 目 を 閉じて いた 。 おれ||なにも||||ゆういち||め||とじて| Yuichi had his eyes closed. 佳乃 の 喉 を 必死に 押さえつけて いた 。 よしの||のど||ひっしに|おさえつけて| |||||pressed down| She was desperately holding down Yoshino's throat. 恐ろしくて 仕方 なかった 。 おそろしくて|しかた| 佳乃 の 嘘 を 誰 に も 聞か せる わけに は いか なかった 。 よしの||うそ||だれ|||きか||||| 早く 嘘 を 殺さ ない と 、 真実の ほ う が 殺さ れ そうで 怖かった 。 はやく|うそ||ころさ|||しんじつの||||ころさ||そう で|こわかった ||||||true||||||| I was afraid that if I didn't kill the lie quickly, the truth would kill me. ◇ 岸壁 に いろんな ゴミ が 打ち寄せて いる 。 がんぺき|||ごみ||うちよせて| pier|||||washed up| Various kinds of garbage are washing up on the quay. 洗剤 の ペットボトル 。 せんざい||ぺっとぼとる detergent|| PET bottles of detergent . 汚れた 発泡 スチロール 347 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? けがれた|はっぽう||だい|よっ|しょう|かれ||だれ||であった| |styrofoam|||||||||| Dirty Styrofoam 347 Chapter 4 Who Did He Meet? の 箱 。 |はこ |box Boxes of . 片方 だけ の ビーチ サンダル 。 かたほう|||びーち|さんだる One-sided flip flops . それぞれ に 藻 や ビニール 袋 が 絡まって 、 いくら 波 に 揺られて も 、 岸壁 に ぶつかって は 跳ね返り 、 どこ へ も 逃げ出せ ず に いる 。 ||も||びにーる|ふくろ||からまって||なみ||ゆられて||がんぺき||||はねかえり||||にげだせ||| ||seaweed||plastic||(subject marker)|tangled up||||rocked by||pier||||bounced back||||cannot escape||| Each one is tangled with algae and plastic bags, and no matter how much they are bounced by the waves, they hit the shore and bounce back, unable to escape to any place. たわ 岸壁 に は 数 艘 の イカ 釣り 漁船 が 停泊 して いる 。 |がんぺき|||すう|そう||いか|つり|ぎょせん||ていはく|| locative particle|||||boats||squid|squid fishing|||anchored|| There are several squid fishing boats anchored at the quay. ロープ が 僥 み 、 船底 から 小魚 の 群れ が 泳ぎ 出て くる 。 ろーぷ||ぎょう||せんてい||こざかな||むれ||およぎ|でて| ||suddenly stopped||bottom of the boat||small fish||school||swimming|| ||揺れ|||||||||| The ropes are not tight, and schools of small fish swim out from the bottom of the boat. 岸壁 の 背後 に は 干し イカ を 売る 露店 が 並び 、 行き交う 観光 客 に 声 を かけ て いる 。 がんぺき||はいご|||ほし|いか||うる|ろてん||ならび|ゆきかう|かんこう|きゃく||こえ|||| pier||behind||||||selling|street vendor||lined up|coming and going|||||||| さっき から 小さな 女の子 が 三輪車 に 乗って 、 岸壁 に 立つ 光代 と 祐一 の 元 へ 来て は 、 また 露店 に 立つ 母親 の 元 へ 戻って いく 。 ||ちいさな|おんなのこ||さんりんしゃ||のって|がんぺき||たつ|てるよ||ゆういち||もと||きて|||ろてん||たつ|ははおや||もと||もどって| |||||tricycle||||||Mitsuyo||||||||||||||||| 結局 、 料理 の 途中 で 光代 と 祐一 は 店 を 出て きた 。 けっきょく|りょうり||とちゅう||てるよ||ゆういち||てん||でて| 運ば れた とき 、 皿 の 上 で 生々しく 動 いて いた イカ の 脚 も 、 祐一 の 話 が 終わる ころ に なる と 、 ぐったり と 動か なく なって いた 。 はこば|||さら||うえ||なまなましく|どう|||いか||あし||ゆういち||はなし||おわる|||||||うごか||| was carried||||||||||||||||||||||||sluggishly||||| 幸い 、 他の 客 が 広間 に 入って くる こと は なかった 。 さいわい|たの|きゃく||ひろま||はいって|||| fortunately||||large room|||||| Fortunately, no other guests entered the hall. 代わり に 給仕 の おばさん が 何度 も 様 子 を 見 に きた 。 かわり||きゅうじ||||なんど||さま|こ||み|| instead of||waitress||||||situation||||| ||waitress||||||||||| Instead, the waitress came to check on me several times. 話 が 終わる と 、 祐一 は 、「 ごめん 」 と 小声 で 眩 いた 。 はなし||おわる||ゆういち||||こごえ||くら| When the conversation ended, Yuichi whispered, "I'm sorry," and dazzled her. そして 黙り 込んだ まま の 光代 に 、 「 これ から 、 警察 に 行く けん 」 と 言った 。 |だまり|こんだ|||てるよ||||けいさつ||いく|||いった |silently||||||||||||| He then told Mitsuyo, who remained silent, "I'm going to the police station now. 光代 は ほとんど 何も 考え ず に 頷いた 。 てるよ|||なにも|かんがえ|||うなずいた |||||||nodded Mitsuyo nodded almost without thinking. ちょうど 給仕 の おばさん が 現れて 、「 刺身 は 苦 手 です か ? |きゅうじ||||あらわれて|さしみ||く|て|| |waitress|||||||||| Just then, the waitress came up to me and asked me if I was not a fan of sashimi. 」 と 訊 く ので 、「…… すいません 、 ちょっと 気分 が 悪くて 」 と 光代 は 嘘 を つ いた 。 |じん|||||きぶん||わるくて||てるよ||うそ||| 立ち上がる 光代 を 、 祐一 が 諦めた ように 見上げて いた 。 たちあがる|てるよ||ゆういち||あきらめた||みあげて| |||||gave up||| Yuichi looked up at Mitsuyo as if he had given up. 光代 は 、「 ねえ 、 出よ う 」 と 声 を かけた 。 てるよ|||でよ|||こえ|| |||let's go||||| Mitsuyo said, "Hey, let's get out of here. 自分 は 置いて いか れる と 思って いた のだろう 、 祐一 は ひどく 驚いて いた 。 じぶん||おいて||||おもって|||ゆういち|||おどろいて| ||left||||||||||greatly surprised| Yuichi was very surprised, probably thinking that he would be left behind. おばさん に 詫びる と 、「 お 金 はいらん けん ね 」 と 言って くれた 。 ||わびる|||きむ|||||いって| ||apologize to||||doesn't need||||| When I apologized to the lady, she said, "I don't want your money. 店 を 出て 、 漁船 の 停泊 する 岸壁 を 歩いた 。 てん||でて|ぎょせん||ていはく||がんぺき||あるいた |||fishing boat||anchorage|||| I left the store and walked along the quay where the fishing boats were anchored. 足 が 自然 と 駐車 場 に 向いて いた 。 あし||しぜん||ちゅうしゃ|じょう||むいて| My feet naturally turned to the parking lot. 人 を 殺し た 男 の 車 に また 乗り込もう と して いる 。 じん||ころし||おとこ||くるま|||のりこもう||| |||||||||will board||| 頭 で は 分かって いる のだ が 、 冷たい 潮風 の 吹き 抜ける 岸壁 で 、 他 に 向かう 場所 も なかった 。 あたま|||わかって||||つめたい|しおかぜ||ふき|ぬける|がんぺき||た||むかう|ばしょ|| I knew it in my head, but there was nowhere else to turn on the shore with the cold sea breeze blowing through. 祐一 の 話 を 最後 まで 悲鳴 も 上げ ず 、 逃げ出 し も せ ず 、 聞き 終えた 自分 が 不思議だった 。 ゆういち||はなし||さいご||ひめい||あげ||にげだ|||||きき|おえた|じぶん||ふしぎだった ||||||scream||||ran away||||||||| I was surprised that I could finish listening to Yuichi's story without screaming or running away. あまりに も 話 の 内容 が 大き すぎた 。 ||はなし||ないよう||おおき| The story was too big. あまり に も 大き すぎて 、 何も 考えられ なかった 。 |||おおき||なにも|かんがえ られ| 岸壁 の 端 まで 来る と 、 光代 は 立ち止まった 。 がんぺき||はし||くる||てるよ||たちどまった 足元 の 岸壁 に 、 いろんな ゴミ が 集まって 、 静かに 波 に 揺られて いた 。 あしもと||がんぺき|||ごみ||あつまって|しずかに|なみ||ゆられて| ||||||||quietly|||swayed by| 「 今 から 、 警察 に 行く けん 」 祐一 の 声 に 、 光代 は ゴミ を 見つめた まま 頷いた 。 いま||けいさつ||いく||ゆういち||こえ||てるよ||ごみ||みつめた||うなずいた 「 ごめん 。 光代 に 迷惑 かける 気 は …。 てるよ||めいわく||き| ||trouble||| :」 言葉 の 途中 で 、 光代 は また 頷いた 。 ことば||とちゅう||てるよ|||うなずいた 三輪車 に 乗った 女の子 が 、 再び こちら に 近寄って くる 。 さんりんしゃ||のった|おんなのこ||ふたたび|||ちかよって| tricycle||||||||approaching| ハンドル に ついた ピンク 色 の リボン が 、 冷たい 潮風 に 千 切れ そうに 扉 いて いる 。 はんどる|||ぴんく|いろ||りぼん||つめたい|しおかぜ||せん|きれ|そう に|とびら|| ||||||ribbon|||||about to|||door|| ||||||ribbon|||||||||| The pink ribbon on the handle is almost shredded by the cold sea breeze. 近寄って きた 三輪車 は 、 光代 と 祐一 の 間 を 抜けて 、 また 露店 の 母親 の 元 へ 戻った 。 ちかよって||さんりんしゃ||てるよ||ゆういち||あいだ||ぬけて||ろてん||ははおや||もと||もどった ||tricycle|||||||||||||||| The approaching tricycle passed between Mitsuyo and Yuichi and returned to its mother in the stall. 光 代 は 必死に ペダル を 漕ぐ 女の子 の 小さな 背中 を 見送った 。 ひかり|だい||ひっしに|ぺだる||こぐ|おんなのこ||ちいさな|せなか||みおくった ||||pedal|||||||| ||||ペダル|||||||| Koyo looked over at the small back of the girl pedaling frantically. その とき 、「 本当に 、 ごめん 」 と 頭 を 下げた 祐一 が 、 一 人 で 駐車 場 の ほう へ 歩き 出す 。 ||ほんとうに|||あたま||さげた|ゆういち||ひと|じん||ちゅうしゃ|じょう||||あるき|だす At that time, Yuichi bowed his head and said, "I'm really sorry," and walked toward the parking lot by himself. 一回り 背中 が 縮んだ ように 見えた 。 ひとまわり|せなか||ちぢんだ||みえた a full turn|||shrunk|| I looked like I'd shrunk a size. 少し でも 触れる と 、 泣き出し そうな 背中 だった 。 すこし||ふれる||なきだし|そう な|せなか| The slightest touch on his back would have made him cry. 「 警察って 、 どこ の ? けいさつ って|| police|| Where are the police? 」 と 光代 は 声 を かけた 。 |てるよ||こえ|| 振り向いた 祐一 が 、「 分から ん 、 この 辺 なら 唐津 まで 出れば ある やろ 」 と 答える 。 ふりむいた|ゆういち||わから|||ほとり||からつ||でれば||||こたえる looked back||||||||Karatsu||if you go out|||| 祐一 の 答え を 訊 き ながら 、 そんな こと もう どうでも いい じゃ ない か と 光代 は 思った 。 ゆういち||こたえ||じん||||||||||||てるよ||おもった ||||||||||||||||Mitsuyo|| While listening to Yuichi's answer, Mitsuyo thought that it was no longer important. 早く 逃げ出せ と いう 声 も 聞こえた 。 はやく|にげだせ|||こえ||きこえた I heard voices telling us to get the hell out of here. それなのに 、 なぜ か 悔しくて 仕方なかった 。 |||くやしくて|しかたなかった |||frustrated| And yet, for some reason, I couldn't help but feel frustrated. 何 か 言って やり たくて 仕方なかった 。 なん||いって|||しかたなかった 「 私 だけ 、 こげ ん 所 に 置いて いか んで よ 」 と 光代 は 言った 。 わたくし||||しょ||おいて|||||てるよ||いった ||burned||||||||||| 「…… こげ ん 所 に 、 一 人 で 置いて かれて も 困るたい 。 ||しょ||ひと|じん||おいて|||こまる たい ||||||||||troublesome I don't want to be left alone in a place like ...... . …: 私 も 一緒に 行く 。 わたくし||いっしょに|いく ...: I'm coming with you. 警察 まで 、 一緒に 行く 」 と 。 けいさつ||いっしょに|いく| I'll go with you to the police station." 海 から の 突風 が 、 光代 の 言葉 を 千切り 取る 。 うみ|||とっぷう||てるよ||ことば||ちぎり|とる |||sudden wind||Mitsuyo||||snatches| |||||||||引き裂く| 祐一 は じっと 光代 を 見つめて いた 。 ゆういち|||てるよ||みつめて| そし て 何も 言わ ず に 、 また 一 人 で 歩き 出した 。 ||なにも|いわ||||ひと|じん||あるき|だした 「 待って よ ! まって| 」 光代 が 叫ぶ と 、 足 を 止めた 祐一 が 、「 ごめん 。 てるよ||さけぶ||あし||とどめた|ゆういち|| ||screams||||||| そげ ん こと したら 、 光代 に 迷惑 かか る 」 と 振り返ら ず に 言う 。 ||||てるよ||めいわく||||ふりかえら|||いう |||||||will befall|||without looking back||| 「 もう 迷惑 か かつ とる ! |めいわく||| He's already taken to trouble! 」 光代 は その 背中 に 怒鳴った 。 てるよ|||せなか||どなった Mitsuyo yelled at his back. 道 の 向こう で イカ を 割いて いた おばさん が 、 ちらっと こ ちら に 目 を 向ける 。 どう||むこう||いか||さいて||||||||め||むける ||||||splitting|||||||||| An old lady cracking open a squid across the street glanced over at me. 返事 も せ ず に 歩き 出した 祐一 を 、 光代 は 追いかけた 。 へんじ|||||あるき|だした|ゆういち||てるよ||おいかけた |||||||||||chased after 何 か 言って やり たかった 。 なん||いって|| でも 、 こんな こと を 言って やりたい わけじゃ なかった 。 ||||いって|やり たい|| 駐車 場 へ 入る と 、 祐一 は また 足 を 止めた 。 ちゅうしゃ|じょう||はいる||ゆういち|||あし||とどめた 両手 を 握りしめ 、 肩 を 震わせて いた 。 りょうて||にぎりしめ|かた||ふるわせて| |||||shaking| ◇ 雲行き が 怪しく なった の は 、 午後 二 時 を 過ぎた ころ だった 。 くもゆき||あやしく||||ごご|ふた|じ||すぎた|| cloudiness||suspiciously|||||||||| 警察 から の 説明 を 受けて 、 思わず 店 を 飛び出した 石橋 佳男 は 、 自宅 から 歩いて 三 分 ほど の 所 に 借りて いる 駐車 場 へ 向かい 、 行く 当て も なく 車 に 乗り込んだ 。 けいさつ|||せつめい||うけて|おもわず|てん||とびだした|いしばし|よしお||じたく||あるいて|みっ|ぶん|||しょ||かりて||ちゅうしゃ|じょう||むかい|いく|あて|||くるま||のりこんだ |||||||||||Yoshio|||||||||||rented|||||||||||| Yoshio Ishibashi ran out of the store after receiving the explanation from the police and headed for the parking lot about a three-minute walk from his home. 福岡 の 大学生 が 犯人 で は なく 、 出会い 系 サイト で 知り合った 男 が 犯人 の ようだ 、 とい う 警察 の 説明 が 、 いくら 納得 しよう と して も でき なかった 。 ふくおか||だいがくせい||はんにん||||であい|けい|さいと||しりあった|おとこ||はんにん|||||けいさつ||せつめい|||なっとく|||||| |||||||||||||||||||||||||understood|||||| No matter how hard I tried to convince myself that a university student in Fukuoka was not the culprit, but a man I met on a dating site seemed to be the culprit, the police explained. いや 、 もっと 言えば 、 この 事件 に 娘 の 佳乃 が 関わって いる と いう こと さえ 、 何 か の 間違い の ような 気 が して 、 誰 か が 何 か の 目的 の ため 、 よってたかって 自分 や 妻 を 鯛 して いる ような 気 さえ した 。 ||いえば||じけん||むすめ||よしの||かかわって||||||なん|||まちがい|||き|||だれ|||なん|||もくてき||||じぶん||つま||たい||||き|| ||||incident||||||involved with|||||||||mistake|||||||||||||||ganging up|||wife||target|||||| ||||||||||||||||||||||||||||||||||集まって||||||||||| More to the point, even the fact that my daughter Yoshino was involved in this case made me feel like there was some kind of mistake, like someone was working against me and my wife for some kind of purpose. 佳乃 は まだ どこ か で 生きて いる んじゃ ない か 。 よしの||||||いきて|||| どこ か で 自分 が 助け に 来る の を 待って 「…… なんで 、 こげ ん こと に なって しも うた と やる 」 洩 を 畷 る 祐一 の 声 が 、 遠い 波 止め に ぶつかる 波 の 音 に 重なる 。 |||じぶん||たすけ||くる|||まって|||||||||||えい||なわて||ゆういち||こえ||とおい|なみ|とどめ|||なみ||おと||かさなる |||||help||||||||||||||||leak||||||||||||||||| Yuichi's voice, which was waiting for him to come to the rescue somewhere, "...... why did I end up in this mess?" overlapped with the sound of the waves crashing against the distant wave stopper. 光代 は 祐一 の 前 へ 回り 込む と 、 硬く 握ら れた その 拳 を 手 に とった 。 てるよ||ゆういち||ぜん||まわり|こむ||かたく|にぎら|||けん||て|| |||||||||firmly|gripped|||fist|||| Mitsuyo went around to Yuichi's front and took his tightly clenched fist in her hand. 「 行こう 、 警察 に 。 いこう|けいさつ| "Let's go, let's go to the police. 一緒に 行こう よ 。 いっしょに|いこう| …: 怖かった と やる ? こわかった|| 一 人 で 行く の 、 怖かった と やる ? ひと|じん||いく||こわかった|| 私 が 一緒に 行って やる けん 。 わたくし||いっしょに|おこなって|| 一緒 なら :.…、 一緒 なら 行ける やろ ? いっしょ||いっしょ||いける| 」 光代 の 両手 の 中 で 、 祐一 の 拳 が 震えて いた 。 てるよ||りょうて||なか||ゆういち||けん||ふるえて| ||||||||fist||| その 震え が 伝わる ように 、 祐一 が 何度 も 「…… うん 、 うん 」 と 頷く 。 |ふるえ||つたわる||ゆういち||なんど|||||うなずく ||||||||||||nodding いる ので は ない か ……。 でも どこ に 佳乃 が いる の か 分から ない 。 |||よしの|||||わから| But I don't know where Yoshino is. 誰 に 訊 いて も 、 佳乃 は もう 死んだ のだ と 言う 。 だれ||じん|||よしの|||しんだ|||いう No matter who you ask, they will tell you that Kano is already dead. 行く 当て も なく 久留米 市街 を 車 で 走った 。 いく|あて|||くるめ|しがい||くるま||はしった ||||Kurume|city|||| I drove through Kurume City without any destination. 見慣れた 景色 な のに 、 涙 に くもる 目 で 見 知 ら ぬ 街 の ようだった 。 みなれた|けしき|||なみだ|||め||み|ち|||がい|| familiar||||||clouded|||||||town|| ||||||涙||||||||| 佳男 が 運転 する 車 は 、 まだ 高校 に 入った ばかりの 佳乃 が 選んだ もの だった 。 よしお||うんてん||くるま|||こうこう||はいった||よしの||えらんだ|| |||||||||||||chosen|| 派手な 車 は 嫌だ と 言った のに 、「 絶対 、 赤い ほう が 可愛 か よ ! はでな|くるま||いやだ||いった||ぜったい|あかい|||かわい|| flashy|||don't like||||definitely|||||| 」 と 佳乃 は 譲ら ず 、 結局 、 折衷 案 で 決まった 薄い グリーン の 軽 自動車 だった 。 |よしの||ゆずら||けっきょく|せっちゅう|あん||きまった|うすい|ぐりーん||けい|じどうしゃ| |||gave way|||compromise|proposal|||light|||light|light vehicle| ||||||compromise||||||||| 納 車 の 日 、 家族 三 人 で 写真 を 撮った 。 おさむ|くるま||ひ|かぞく|みっ|じん||しゃしん||とった delivery|||||||||| 佳乃 は 新しい 車 を 喜び 、 佳男 が いくら 説得 して は も 、 シート の ビニール を 剥がす こと を 許さ なかった 。 よしの||あたらしい|くるま||よろこび|よしお|||せっとく||||しーと||びにーる||はがす|||ゆるさ| |||||joy|good man|||persuasion||||||||peel off|||| もう 何 時間 も 久留米 市 内 を 走り回って いた 。 |なん|じかん||くるめ|し|うち||はしりまわって| ||||Kurume||||| ただ 佳乃 に 会い たかった 。 |よしの||あい| 佳乃 が どこ に いる の か 知り たかった 。 よしの|||||||しり| 助け を 求める 声 は 聞こえる のに 、 娘 が どこ に いる の か 分から な かった 。 たすけ||もとめる|こえ||きこえる||むすめ|||||||わから|| help||to seek|||||||||||||| 気 が つく と 、 佳男 は ハンドル を 三瀬 峠 へ 向けて いた 。 き||||よしお||はんどる||みつせ|とうげ||むけて| ||||good man|||||||| 久留米 市街 を 出た 車 は 国道 に 乗 り 、 川 を 渡り 、 気 が つけば 、 佐賀 平野 に 伸びる 田園 の 一 本道 を 走って いた 。 くるめ|しがい||でた|くるま||こくどう||じょう||かわ||わたり|き|||さが|へいや||のびる|でんえん||ひと|ほんどう||はしって| Kurume||||||||||||crossed||||Saga|plains||stretched|farmland|||one road||| 道 の 先 に は 、 三瀬 峠 を 含む 脊振 山地 の 山々 が あった 。 どう||さき|||みつせ|とうげ||ふくむ|せふり|さんち||やまやま|| ||||||||including|Sefuri|mountain range||mountains|| |||||||||脊振山地||||| とつぜん 雲行き が 怪しく なって きた の は 、 ガソリン スタンド に 寄った ころ だった 。 |くもゆき||あやしく|||||がそりん|すたんど||よった|| |cloudiness||suspiciously||||||||stopped by|| 給 油 を 待つ 間 に 便所 へ 行く と 、 便所 の 小 窓 から 見えた 脊振 山地 の 上空 に 黒い 雨雲 が 迫って 見えた 。 きゅう|あぶら||まつ|あいだ||べんじょ||いく||べんじょ||しょう|まど||みえた|せふり|さんち||じょうくう||くろい|あまぐも||せまって|みえた to give|oil|||||||||||||||Sefuri|||above|||rain cloud||approaching| 雨雲 は 峠 の 頂上 を 隠す ように 広がって 、 佳男 が いる 平野 部 の ほう へ も 迫って く ワー 便所 を 出る と 、 雨 が ぱらぱら と 降り出した 。 あまぐも||とうげ||ちょうじょう||かくす||ひろがって|よしお|||へいや|ぶ|||||せまって|||べんじょ||でる||あめ||||ふりだした ||||summit||hide||||||flat land||||||approaching||wow|||||||drizzling||started to fall 佳男 は 屋外 に あった 洗面 所 で 手 も 洗わ ず に 、 給油 の 終わった 自分 の 車 に 駆け込んだ 。 よしお||おくがい|||せんめん|しょ||て||あらわ|||きゅうゆ||おわった|じぶん||くるま||かけこんだ good man||outdoors|||wash basin||||||||refueling||||||| 佳乃 と 同じ 年 くらい の 女の子 が 、 領収 書 を 持って 駆けて くる 。 よしの||おなじ|とし|||おんなのこ||りょうしゅう|しょ||もって|かけて| 渡さ れた 領収 書 が 雨 に 濡れて いた 。 わたさ||りょうしゅう|しょ||あめ||ぬれて| was not given|||||||| 佳男 は 代金 を 払って アクセル を 踏んだ 。 よしお||だいきん||はらって|あくせる||ふんだ ||payment|||||pressed Yoshio paid the bill and stepped on the gas pedal. 雨 の 中 、 女の子 が いつまでも 見送る 姿 が 、 ルームミラー に 映って いた 。 あめ||なか|おんなのこ|||みおくる|すがた||||うつって| |||||forever||||||| In the rain, I saw a girl looking away forever in the rear view mirror. 車 が 峠 道 に 入る ころ に は どしゃぶり だった 。 くるま||とうげ|どう||はいる||||| |||||||||downpour| It was pouring as the car pulled into the pass. まだ 午後 の 三 時 前 だ と 言う のに 、 低い 空 に 広がった 雨雲 が 、 峠 道 を 暗く して いた 。 |ごご||みっ|じ|ぜん|||いう||ひくい|から||ひろがった|あまぐも||とうげ|どう||くらく|| ||||||||||low||||rain cloud||||||| 佳男 は ライト を つけた 。 よしお||らいと|| 激しく 動く ワイパー の 先 に 、 青白く アスファルト 道路 が 浮か び 上がる 。 はげしく|うごく|||さき||あおじろく||どうろ||うか||あがる violently||||||pale blue|||||| ||wiper|||||||||| フロント ガラス を 滝 の ように 雨 が 流れ 、 まるで 千切れ そうに ワイパー が 動き 続ける 。 ふろんと|がらす||たき|||あめ||ながれ||ちぎれ|そう に|||うごき|つづける |||waterfall|||||||about to break||||| 峠 を 下りて くる 対向 車 の ライト で 、 フロント ガラス の 雨 粒 が 光る 。 とうげ||おりて||たいこう|くるま||らいと||ふろんと|がらす||あめ|つぶ||ひかる ||||oncoming|||||||||raindrop||shines エンジン 音 は 聞こ え ず 、 辺り の 樹 々 を 叩く 雨音 が 、 閉め切った 車 内 に も 響いて くる 。 えんじん|おと||ききこ|||あたり||き|||たたく|あまおと||しめきった|くるま|うち|||ひびいて| |||can be heard|||||||||sound of rain||sealed|||||echoing| ||||||||||||||閉め切った|||||| The sound of the engine is inaudible, and the sound of rain beating the trees around us echoes through the closed car. い 、 とこ 葬儀 の 日 、 久留米 の 工場 で 働く 従兄 に 、「 佳乃 ちゃん の 亡くなった 場所 に 、 一緒に 線 香 あげて やら ん や 」 と 言わ れた 。 ||そうぎ||ひ|くるめ||こうじょう||はたらく|いとこ||よしの|||なくなった|ばしょ||いっしょに|せん|かおり||||||いわ| ||funeral|||Kurume|||||cousin|||||||||incense|||||||| ||||||||||いとこ||||||||||||||||| I was told by my cousin, who works at a factory in Kurume, that we should give incense together at the place where Kano passed away. あまりに も いろんな こと が 立て続け に 起こり 、 佳男 が 返事 も でき ず に いる と 、 そば に いた 親戚 の 女 たち が 、「 行 くん なら 、 私 たち も 行くたい 。 |||||たてつづけ||おこり|よしお||へんじ||||||||||しんせき||おんな|||ぎょう|||わたくし|||いく たい |||||one after another|||||||||||||||relatives|||||||||||want to go When Yoshio was unable to respond due to so many things happening to him, his relatives who were nearby said, "If you're going, we want to go too. お 花 も 供えて 、 佳乃 ちゃん の 好き やった お 菓子 と か ・・・…」 と ざ わ ついた 。 |か||そなえて|よしの|||すき|||かし|||||| |||offered||||||||||||| |||供えた|||||||||||ざっ|| みんな が 親切で 言って くれて いる の は 分かって いた が 、 その 親切 を 受けた 途端 に 、 二 度 と 佳乃 に 会え ない ような 気 が して 仕方なかった 。 ||しんせつで|いって|||||わかって||||しんせつ||うけた|とたん||ふた|たび||よしの||あえ|||き|||しかたなかった ||kind|||||||||||||the moment||||||||||||| 佳男 は 、「 俺 は 、 行か ん 」 と だけ 言った 。 よしお||おれ||いか||||いった ざ わ ついて いた 親戚 たち が その 一言 で 黙り 込んだ 。 ||||しんせき||||いちげん||だまり|こんだ |I|||||||||| あれ は いつごろ だった か 、 テレビ 中継 されて いた 峠 の 現場 に 、 花 や ジュース が 並べ られて いる 映像 を 見た 。 |||||てれび|ちゅうけい|さ れて||とうげ||げんば||か||じゅーす||ならべ|||えいぞう||みた ||||||broadcast|||||||flower|||||||video|| 親戚 たち が こっそり 行って くれた の か 、 それとも 見ず知らず の 誰 か が 、 佳乃 に 、 テレビ や 雑誌 であれ だけ 非難 さ れた 佳乃 に 、 花 を 手 向けて くれた の か 。 しんせき||||おこなって|||||みずしらず||だれ|||よしの||てれび||ざっし|||ひなん|||よしの||か||て|むけて||| |||secretly||||||stranger||||||||||||criticism||||||||||| |||||||||||||||||||||非難||||||||||| Did her relatives go there secretly, or did someone, a total stranger, give flowers to Kano, who had been so criticized on TV and in magazines? 佳男 は その 映像 を 見て 、 声 を 上げて 泣いた 。 よしお|||えいぞう||みて|こえ||あげて|ないた good man|||video|||||| Yoshio cried aloud when he saw the video. テレビ や 雑誌 で は 遠回しに 表現 されて いて も 、 手元 に 届く 嫌がらせ の ファックス や 手紙 は 、 やはり 露骨だった 。 てれび||ざっし|||とおまわしに|ひょうげん|さ れて|||てもと||とどく|いやがらせ||ふぁっくす||てがみ|||ろこつだった |||||indirectly|expression||||||arrives at|harassment||fax|||||blatant |||||間接的に|||||||||||||||あからさまだった Despite the indirect expressions on TV and in magazines, the harassing faxes and letters that reached our hands were still explicit. ぱい た 「 売 女 の 娘 が 殺されて 悲しい か ? ||う|おんな||むすめ||ころさ れて|かなしい| pai||selling|||daughter|||| ||売|女|||||| 自業自得 」 「 俺 も お前 の 娘 買いました 。 じごうじとく|おれ||おまえ||むすめ|かい ました one's own fault||||||bought 自業自得|||||| I bought your daughter, too. 一晩 五百 円 」 「 あんな 女 、 殺されて 当然 。 ひとばん|ごひゃく|えん||おんな|ころさ れて|とうぜん |five hundred||||| She deserved to be killed. 売春 は 違法です 」 「 仕送り して やれよ -」 直筆 の もの も あれば 、 パソコン から プリント アウト さ れた もの も あった 。 ばいしゅん||いほうです|しおくり|||じきひつ|||||ぱそこん||ぷりんと|あうと||||| prostitution||illegal|remittance||just do it|handwritten|||||||printed|||||| ||illegal|sending money|||handwritten||||||||||印刷された||| Some were handwritten, while others were printed from a computer. 毎朝 、 郵便 配達 員 が 来る の が 恐ろしかった 。 まいあさ|ゆうびん|はいたつ|いん||くる|||おそろしかった |mail|delivery|||||| 電話 線 を 抜いて も 、 夢 の 中 で 電話 が 鳴った 。 でんわ|せん||ぬいて||ゆめ||なか||でんわ||なった |||pulled out|||||||| 娘 が 日本 中 から 嫌われて いる ようだった . むすめ||にっぽん|なか||きらわ れて|| It was as if my daughter was hated by all of Japan.