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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第 二 の 手記 (6)

第 二 の 手記 (6)

惜しい と いう 気持 では ありません でした。 自分 に は 、もともと 所有 慾 と いう もの は 薄く 、また 、たまに 幽 か に 惜しむ 気持 は あって も 、その 所有 権 を 敢然と 主張 し 、人 と 争う ほど の 気力 が 無い のでした。 のち に 、自分 は 、自分 の 内縁 の 妻 が 犯さ れる の を 、黙って 見て いた 事 さえ あった ほど な のです。

自分 は 、人間 の いざこざ に 出来る だけ 触り たく ない のでした。 その 渦 に 巻き込ま れる の が 、おそろしい のでした。 ツネ子 と 自分 と は 、一夜 だけ の 間柄 です。 ツネ子 は 、自分 の もの では ありません。 惜しい 、など 思い上った 慾 は 、自分 に 持てる 筈 は ありません。 けれども 、自分 は 、ハッと しました。

自分 の 眼 の 前 で 、堀木 の 猛烈な キス を 受ける 、その ツネ子 の 身の上 を 、ふびんに 思った から でした。 堀木 に よごさ れた ツネ子 は 、自分 と わかれ なければ なら なく なる だろう 、しかも 自分 に も 、ツネ子 を 引き留める 程 の ポジティヴ な 熱 は 無い 、ああ 、もう 、これ で おしまい な のだ 、と ツネ子 の 不幸に 一瞬 ハッと した もの の 、すぐに 自分 は 水 の ように 素直に あきらめ 、堀木 と ツネ子 の 顔 を 見 較 べ 、に やに や と 笑いました。

しかし 、事態 は 、実に 思いがけなく 、もっと 悪く 展開 せられました。

「やめた!

と 堀木 は 、口 を ゆがめて 言い、

「さすが の おれ も 、こんな 貧乏 くさい 女 に は、……」

閉口 し 切った ように 、腕組み して ツネ子 を じろじろ 眺め 、苦笑 する のでした。

「お 酒 を。 お 金 は 無い」

自分 は 、小声 で ツネ子 に 言いました。 それ こそ 、浴びる ほど 飲んで みたい 気持 でした。 所 謂俗 物 の 眼 から 見る と 、ツネ子 は 酔 漢 の キス に も 価 いし ない 、ただ 、みすぼらしい 、貧乏 くさい 女 だった のでした。 案外 と も 、意外 と も 、自分 に は 霹靂 へ きれ き に 撃ち くだか れた 思い でした。 自分 は 、これ まで 例 の 無かった ほど 、いくら でも 、いくら でも 、お 酒 を 飲み 、ぐらぐら 酔って 、ツネ子 と 顔 を 見合せ 、哀 かなしく 微笑 ほほえみ 合い 、いかにも そう 言われて みる と 、こいつ は へんに 疲れて 貧乏 くさい だけ の 女 だ な 、と 思う と 同時に 、金 の 無い 者 どうし の 親和 (貧富 の 不和 は 、陳腐 の よう でも 、やはり ドラマ の 永遠の テーマ の 一 つ だ と 自分 は 今では 思って います が )そい つ が 、その 親和 感 が 、胸 に 込み上げて 来て 、ツネ子 が いとしく 、生れて この 時 はじめて 、われ から 積極 的に 、微弱 ながら 恋 の 心 の 動く の を 自覚 しました。 吐きました。 前後不覚 に なりました。 お 酒 を 飲んで 、こんなに 我 を 失う ほど 酔った の も 、その 時 が はじめて でした。

眼 が 覚めたら 、枕 もと に ツネ子 が 坐って いました。 本所 の 大工 さん の 二 階 の 部屋 に 寝て いた のでした。

「金 の 切れ め が 縁 の 切れ め 、なんて おっしゃって 、冗談 か と 思う ていた ら 、本気 か。 来て くれ ない のだ もの。 ややこしい 切れ め や な。 うち が 、かせいで あげて も 、だめ か」

「だめ」

それ から 、女 も 休んで 、夜明け が た 、女 の 口 から 「死 」と いう 言葉 が はじめて 出て 、女 も 人間 と して の 営み に 疲れ切って いた ようでした し 、また 、自分 も 、世の中 へ の 恐怖 、わずらわし さ 、金 、れいの 運動 、女 、学業 、考える と 、とても この上 こらえて 生きて 行け そう も なく 、その ひと の 提案 に 気軽に 同意 しました。

けれども 、その 時 に は まだ 、実感 と して の 「死のう 」と いう 覚悟 は 、出来て い なかった のです。 どこ か に 「遊び 」が ひそんで いました。

その 日 の 午前 、二 人 は 浅草 の 六 区 を さまよって いました。 喫茶 店 に はいり 、牛乳 を 飲みました。

「あなた 、払う て 置いて」

自分 は 立って 、袂 たもと から がま口 を 出し 、ひらく と 、銅 銭 が 三 枚 、羞恥 しゅうち より も 凄 惨 せいさん の 思い に 襲わ れ 、たちまち 脳 裡 のうり に 浮ぶ もの は 、仙遊 館 の 自分 の 部屋 、制服 と 蒲 団 だけ が 残されて ある きり で 、あと は もう 、質 草 に なり そうな もの の 一 つ も 無い 荒涼たる 部屋 、他 に は 自分 の いま 着て 歩いて いる 絣 の 着物 と 、マント 、これ が 自分 の 現実 な のだ 、生きて 行け ない 、と はっきり 思い知りました。

自分 が まごついて いる ので 、女 も 立って 、自分 の がま口 を のぞいて、

「あら 、たった それ だけ?

無心の 声 でした が 、これ が また 、じん と 骨身 に こたえる ほど に 痛かった のです。 はじめて 自分 が 、恋した ひと の 声 だけ に 、痛かった のです。 それ だけ も 、これ だけ も ない 、銅 銭 三 枚 は 、どだい お 金 で ありません。 それ は 、自分 が 未 いまだかつて 味わった 事 の 無い 奇妙な 屈辱 でした。 とても 生きて おら れ ない 屈辱 でした。 所詮 しょせん その頃 の 自分 は 、まだ お 金持ち の 坊ちゃん と いう 種 属 から 脱し 切って い なかった のでしょう。 その 時 、自分 は 、みずから すすんで も 死のう と 、実感 と して 決意 した のです。

その 夜 、自分 たち は 、鎌倉 の 海 に 飛び込みました。 女 は 、この 帯 は お 店 の お 友達 から 借りて いる 帯 や から 、と 言って 、帯 を ほどき 、畳んで 岩 の 上 に 置き 、自分 も マント を 脱ぎ 、同じ 所 に 置いて 、一緒に 入 水 じゅ すい しました。

女 の ひと は 、死にました。 そうして 、自分 だけ 助かりました。

自分 が 高等 学校 の 生徒 で は あり 、また 父 の 名 に も いくらか 、所 謂 ニュウス ・ヴァリュ が あった の か 、新聞 に も かなり 大きな 問題 と して 取り上げられた ようでした。

自分 は 海辺 の 病院 に 収容 せられ 、故郷 から 親戚 しんせき の 者 が ひとり 駈 け つけ 、さまざまの 始末 を して くれて 、そうして 、くに の 父 を はじめ 一家 中 が 激怒 して いる から 、これっきり 生家 と は 義 絶 に なる かも 知れ ぬ 、と 自分 に 申し渡して 帰りました。 けれども 自分 は 、そんな 事 より 、死んだ ツネ子 が 恋い しく 、めそめそ 泣いて ばかり いました。 本当に 、いま まで の ひと の 中 で 、あの 貧乏 くさい ツネ子 だけ を 、すきだった のです から。

下宿 の 娘 から 、短歌 を 五十 も 書きつらねた 長い 手紙 が 来ました。 「生き くれよ 」と いう へんな 言葉 で はじまる 短歌 ばかり 、五十 でした。 また 、自分 の 病室 に 、看護 婦 たち が 陽気に 笑い ながら 遊び に 来て 、自分 の 手 を き ゅっと 握って 帰る 看護 婦 も いました。

自分 の 左 肺 に 故障 の ある の を 、その 病院 で 発見 せられ 、これ がたいへん 自分 に 好都合な 事 に なり 、やがて 自分 が 自殺 幇助 ほうじょ 罪 と いう 罪名 で 病院 から 警察 に 連れて 行か れました が 、警察 で は 、自分 を 病人 あつかい に して くれて 、特に 保護 室 に 収容 しました。

深夜 、保護 室 の 隣り の 宿直 室 で 、寝ずの番 を して いた 年寄り の お 巡 まわり が 、間 の ドア を そっと あけ、

「おい!

と 自分 に 声 を かけ、

「寒い だろう。 こっち へ 来て 、あたれ」

と 言いました。

自分 は 、わざと しおしお と 宿直 室 に は いって 行き 、椅子 に 腰かけて 火鉢 に あたりました。

「やはり 、死んだ 女 が 恋い しい だろう」

「はい」

ことさら に 、消え 入る ような 細い 声 で 返事 しました。

「そこ が 、やはり 人情 と いう もの だ」

彼 は 次第に 、大きく 構えて 来ました。

「はじめ 、女 と 関係 を 結んだ の は 、どこ だ」

ほとんど 裁判 官 の 如く 、もったいぶって 尋ねる のでした。 彼 は 、自分 を 子供 と あなどり 、秋 の 夜 の つれ づれ に 、あたかも 彼 自身 が 取調べ の 主任 で も ある か の よう に 装い 、自分 から 猥談 わ い だ ん めいた 述懐 を 引き出そう と いう 魂胆 の ようでした。 自分 は 素早く それ を 察し 、噴き出したい の を 怺 こらえる のに 骨 を 折りました。 そんな お 巡り の 「非公式な 訊問 」に は 、いっさい 答 を 拒否 して も かまわ ない のだ と いう 事 は 、自分 も 知っていました が 、しかし 、秋 の 夜 な が に 興 を 添える ため 、自分 は 、あくまでも 神妙に 、その お 巡り こそ 取調べ の 主任 であって 、刑罰 の 軽重 の 決定 も その お 巡り の 思召 おぼしめし 一 つ に 在る のだ 、と いう 事 を 固く 信じて 疑わ ない ような 所 謂 誠意 を おもて に あらわし 、彼 の 助平 の 好奇心 を 、やや 満足 さ せる 程度 の いい加減な 「陳述 」を する のでした。

「うん 、それ で だいたい わかった。 何でも 正直に 答える と 、わし ら の ほう でも 、そこ は 手心 を 加える」

「ありがとう ございます。 よろしく お 願い いたします」

ほとんど 入 神 の 演技 でした。 そうして 、自分 の ため に は 、何も 、一 つ も 、とくに なら ない 力 演 な のです。

夜 が 明けて 、自分 は 署長 に 呼び出さ れました。 こんど は 、本式 の 取調べ な のです。

ドア を あけて 、署長 室 に は いった とたん に、

「おう 、いい 男 だ。 これ あ 、お前 が 悪い んじゃ ない。 こんな 、いい 男 に 産んだ お前 の おふくろ が 悪い んだ」

色 の 浅黒い 、大学 出 みたいな 感じ の まだ 若い 署長 でした。 いきなり そう 言われて 自分 は 、自分 の 顔 の 半面 に べったり 赤 痣 あか あざ で も ある ような 、みにくい 不 具 者 の ような 、みじめな 気 が しました。

この 柔道 か 剣道 の 選手 の ような 署長 の 取調べ は 、実に あっさり して いて 、あの 深夜 の 老 巡査 の ひそかな 、執拗 しつよう きわまる 好 色 の 「取調べ 」と は 、雲泥 の 差 が ありました。 訊問 が すんで 、署長 は 、検事 局 に 送る 書類 を したため ながら、

「からだ を 丈夫に し なけ れ ゃ 、いかん ね。 血 痰 けった ん が 出て いる ようじゃ ない か」

と 言いました。

その 朝 、へんに 咳 せき が 出て 、自分 は 咳 の 出る たび に 、ハンケチ で 口 を 覆って いた のです が 、その ハンケチ に 赤い 霰 あられ が 降った みたいに 血 が ついて いた のです。 けれども 、それ は 、喉 のど から 出た 血 で は なく 、昨夜 、耳 の 下 に 出来た 小さい おでき を いじって 、その おでき から 出た 血 な のでした。 しかし 、自分 は 、それ を 言い 明 さ ない ほう が 、便宜 な 事 も ある ような 気 が ふっと した もの です から 、ただ、

「はい」

と 、伏 眼 に なり 、殊勝 げ に 答えて 置きました。

署長 は 書類 を 書き 終えて、

「起訴 に なる か どう か 、それ は 検事 殿 が きめる こと だ が 、お前 の 身元 引受 人 に 、電報 か 電話 で 、きょう 横浜 の 検事 局 に 来て もらう ように 、たのんだ ほう が いい な。 誰 か 、ある だろう 、お前 の 保護 者 と か 保証人 と か いう もの が」

父 の 東京 の 別荘 に 出入り して いた 書画 骨董 こっとう 商 の 渋田 と いう 、自分 たち と 同郷 人 で 、父 のたいこ 持ち みたいな 役 も 勤めて いた ずんぐり した 独身 の 四十 男 が 、自分 の 学校 の 保証人 に なって いる の を 、自分 は 思い出しました。 その 男 の 顔 が 、殊に 眼 つき が 、ヒラメ に 似て いる と いう ので 、父 は いつも その 男 を ヒラメ と 呼び 、自分 も 、そう 呼び なれて いました。

自分 は 警察 の 電話 帳 を 借りて 、ヒラメ の 家 の 電話 番号 を 捜し 、見つかった ので 、ヒラメ に 電話 して 、横浜 の 検事 局 に 来て くれる ように 頼みましたら 、ヒラメ は 人 が 変った みたいな 威張った 口調 で 、それ でも 、とにかく 引受けて くれました。

「おい 、その 電話 機 、すぐ 消毒 した ほう が いい ぜ。 何せ 、血 痰 が 出て いる んだ から」

自分 が 、また 保護 室 に 引き上げて から 、お 巡り たち に そう 言いつけて いる 署長 の 大きな 声 が 、保護 室 に 坐って いる 自分 の 耳 に まで 、とどきました。

お 昼 すぎ 、自分 は 、細い 麻 繩 で 胴 を 縛ら れ 、それ は マント で 隠す こと を 許さ れました が 、その 麻 繩 の 端 を 若い お 巡り が 、しっかり 握って いて 、二 人 一緒に 電車 で 横浜 に 向 いました。

けれども 、自分 に は 少し の 不安 も 無く 、あの 警察 の 保護 室 も 、老 巡査 も なつかしく 、嗚呼 ああ 、自分 は どうして こう な のでしょう 、罪人 と して 縛ら れる と 、かえって ほっと して 、そうして ゆったり 落ちついて 、その 時 の 追憶 を 、いま 書く に 当って も 、本当に のびのび した 楽しい 気持 に なる のです。

しかし 、その 時期 の なつかしい 思い出 の 中 に も 、たった 一 つ 、冷 汗 三 斗 の 、生涯 わすれられ ぬ 悲惨な しくじり が あった のです。 自分 は 、検事 局 の 薄暗い 一室 で 、検事 の 簡単な 取調べ を 受けました。 検事 は 四十 歳 前後 の 物静かな 、(もし 自分 が 美貌 だった と して も 、それ は 謂 いわば 邪 淫 の 美貌 だった に 違い ありません が 、その 検事 の 顔 は 、正しい 美貌 、と でも 言いたい ような 、聡明な 静 謐 せいひ つ の 気配 を 持って いました )コセコセ し ない 人柄 の ようでした ので 、自分 も 全く 警戒 せ ず 、ぼんやり 陳述 して いた のです が 、突然 、れいの 咳 が 出て 来て 、自分 は 袂 から ハンケチ を 出し 、ふと その 血 を 見て 、この 咳 も また 何 か の 役 に 立つ かも 知れ ぬ と あさましい 駈引 き の 心 を 起し 、ゴホン 、ゴホン と 二 つ ばかり 、おまけ の 贋 に せ の 咳 を 大袈裟 おおげさ に 附 け 加えて 、ハンケチ で 口 を 覆った まま 検事 の 顔 を ちら と 見た 、間一髪、 「ほんとう かい? ものしずかな 微笑 でした。 冷 汗 三 斗 、いいえ 、いま 思い出して も 、きりきり舞い を し たく なります。 中学 時代 に 、あの 馬鹿 の 竹一 から 、ワザ 、ワザ 、と 言われて 脊中 せなか を 突か れ 、地獄 に 蹴落 けおとさ れた 、その 時 の 思い 以上 と 言って も 、決して 過言 で は 無い 気持 です。 あれ と 、これ と 、二 つ 、自分 の 生涯 に 於 ける 演技 の 大 失敗 の 記録 です。 検事 の あんな 物静かな 侮 蔑 ぶ べつに 遭う より は 、いっそ 自分 は 十 年 の 刑 を 言い渡さ れた ほう が 、ましだった と 思う 事 さえ 、時たま ある 程 な のです。 自分 は 起訴 猶予 に なりました。 けれども 一向に うれしく なく 、世にも みじめな 気持 で 、検事 局 の 控室 の ベンチ に 腰かけ 、引取り 人 の ヒラメ が 来る の を 待って いました。 背後 の 高い 窓 から 夕焼け の 空 が 見え 、鴎 かもめ が 、「女 」と いう 字 みたいな 形 で 飛んで いました。

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第 二 の 手記 (6) だい|ふた||しゅき Notizen aus zweiter Hand (6) Second Memorandum (6) Notes d'occasion (6) 두 번째 수기 (6) Notas em segunda mão (6) Записки из вторых рук (6) 第二注 (6) 第二註 (6)

惜しい と いう 気持 では ありません でした。 おしい|||きもち||あり ませ ん| regrettable|||||| lamentável|||||| I did not feel any sense of regret. 自分 に は 、もともと 所有 慾 と いう もの は 薄く 、また 、たまに 幽 か に 惜しむ 気持 は あって も 、その 所有 権 を 敢然と 主張 し 、人 と 争う ほど の 気力 が 無い のでした。 じぶん||||しょゆう|よく|||||うすく|||ゆう|||おしむ|きもち|||||しょゆう|けん||かんぜんと|しゅちょう||じん||あらそう|||きりょく||ない| ||||||||||||||||珍惜|||||||||||||||||精力||| |||||desire|||||||||||regret|||||||||boldly|assert|||||||will||| ||||posse||||||fraco||||||lamentar|||||||||||||||||vontade||| I have always had a weak sense of ownership, and even when I sometimes have a faint feeling of regret, I have no energy to boldly assert that ownership or to fight with others over it. 對我來說,本來擁有欲是很薄弱的,而且雖然偶爾會有些許可惜的心情,但卻沒有勇氣去主張那個所有權,也不會為了此與人爭鬥。 のち に 、自分 は 、自分 の 内縁 の 妻 が 犯さ れる の を 、黙って 見て いた 事 さえ あった ほど な のです。 ||じぶん||じぶん||ないえん||つま||おかさ||||だまって|みて||こと||||| ||||||内缘|||||||||||||||| ||||||common-law||||was violated|||||||||||| ||||||concubina||||cometer|||||||||||| Later on, there were even times when I quietly watched my common-law wife be violated. 後來,我甚至有過默默看著我的內侍妻子被侵犯的情況。

自分 は 、人間 の いざこざ に 出来る だけ 触り たく ない のでした。 じぶん||にんげん||||できる||さわり||| 自己||||纠纷||||||| ||||conflict||||||| ||||conflitos||||tocar||| I didn't want to get involved in human conflicts as much as possible. 我不想盡可能地介入人類之間的紛爭。 その 渦 に 巻き込ま れる の が 、おそろしい のでした。 |うず||まきこま||||| |whirlpool||||||| |vórtice||||||| ツネ子 と 自分 と は 、一夜 だけ の 間柄 です。 つねこ||じぶん|||いちや|||あいだがら| ||||||||关系| ||||||||relationship| ||||||||relação| ツネ子 は 、自分 の もの では ありません。 つねこ||じぶん||||あり ませ ん 惜しい 、など 思い上った 慾 は 、自分 に 持てる 筈 は ありません。 おしい||おもいあがった|よく||じぶん||もてる|はず||あり ませ ん ||||||||可能|| regrettable||overestimated||||||should|| ||elevada|||||||| It's regrettable; the desire that has arisen is something I cannot possibly have. けれども 、自分 は 、ハッと しました。 |じぶん||はっと|し ました |||startled| |||de repente| However, I was taken aback. 然而,我驚覺。

自分 の 眼 の 前 で 、堀木 の 猛烈な キス を 受ける 、その ツネ子 の 身の上 を 、ふびんに 思った から でした。 じぶん||がん||ぜん||ほりき||もうれつな|きす||うける||つねこ||みのうえ|||おもった|| |||||||||||||||||可怜||| ||||||||fierce|||||||situation||helplessly||| ||||||||feroz|||||||destino||infelizmente||| It was because I felt pity for that Tsunekko, who was receiving Horiguchi's passionate kiss right before my eyes. 我眼前的堀木對著露子猛烈的吻,讓我感到她的境遇真是可憐。 堀木 に よごさ れた ツネ子 は 、自分 と わかれ なければ なら なく なる だろう 、しかも 自分 に も 、ツネ子 を 引き留める 程 の ポジティヴ な 熱 は 無い 、ああ 、もう 、これ で おしまい な のだ 、と ツネ子 の 不幸に 一瞬 ハッと した もの の 、すぐに 自分 は 水 の ように 素直に あきらめ 、堀木 と ツネ子 の 顔 を 見 較 べ 、に やに や と 笑いました。 ほりき||||つねこ||じぶん|||||||||じぶん|||つねこ||ひきとめる|ほど||||ねつ||ない|||||||||つねこ||ふこうに|いっしゅん|はっと|||||じぶん||すい|||すなおに||ほりき||つねこ||かお||み|かく||||||わらい ました ||||||||||||||||||||留住|||积极|||||||||结束||||||||||||||||||||||||||||||||| ||polluted||||||||||||||||||to stop|||positive||||||||||||||||||||||||||||gave up||||||||compared|||||| ||suja||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| Tsunekko, who was sullied by Horiki, would have to part ways, and moreover, I also lacked the positive passion to hold Tsunekko back. Ah, this is it; this is the end. I was momentarily startled by Tsunekko's misfortune, but soon I straightforwardly gave up like water, compared the faces of Horiki and Tsunekko, and smiled with a grin. 被堀木玷污的露子,恐怕必須和我分開,而且我也沒有足夠的積極熱情去挽留露子,啊,這樣就結束了,我一瞬間驚訝於露子的不幸,但馬上我就像水一樣坦然地放棄,對照堀木和露子的面龐,嘴角露出微笑。

しかし 、事態 は 、実に 思いがけなく 、もっと 悪く 展開 せられました。 |じたい||じつに|おもいがけなく||わるく|てんかい|せら れ ました |situation|||unexpectedly||||was worsened |a situação|||inesperadamente|||se desenrolou|foi (passivamente) However, the situation unexpectedly deteriorated even further.

「やめた! "I quit!"

と 堀木 は 、口 を ゆがめて 言い、 |ほりき||くち|||いい |||||歪着| |||||twisted| Horiki distorted his mouth and said,

「さすが の おれ も 、こんな 貧乏 くさい 女 に は、……」 |||||びんぼう||おんな|| ||||||臭的|||

閉口 し 切った ように 、腕組み して ツネ子 を じろじろ 眺め 、苦笑 する のでした。 へいこう||きった||うでぐみ||つねこ|||ながめ|くしょう|| ||||抱臂|||||||| tight-lipped||||crossing arms||||staring at||wry smile|| fechou a boca||||de braços cruzados||||de forma insistente|||| As if struck dumb, he crossed his arms and stared at Tsuneko, chuckling wryly.

「お 酒 を。 |さけ| Alcohol. お 金 は 無い」 |きむ||ない I don't have any money.

自分 は 、小声 で ツネ子 に 言いました。 じぶん||こごえ||つねこ||いい ました それ こそ 、浴びる ほど 飲んで みたい 気持 でした。 ||あびる||のんで||きもち| That was the feeling that I wanted to drink as much as I could bathe. 所 謂俗 物 の 眼 から 見る と 、ツネ子 は 酔 漢 の キス に も 価 いし ない 、ただ 、みすぼらしい 、貧乏 くさい 女 だった のでした。 しょ|いぞく|ぶつ||がん||みる||つねこ||よ|かん||きす|||か|||||びんぼう||おんな|| ||||||||||||||||||||可怜的||||| place|so-called||||||||||drunk man|||||worth||||shabby||||| |chamar de|||||||||seco|漢||||||価|||miserável||||| 案外 と も 、意外 と も 、自分 に は 霹靂 へ きれ き に 撃ち くだか れた 思い でした。 あんがい|||いがい|||じぶん|||へきれき|||||うち|||おもい| 意外|||||||||||||||||| |||||||||thunderbolt|||||shot|struck||| |||||||||relâmpago|||||atirar|||| 自分 は 、これ まで 例 の 無かった ほど 、いくら でも 、いくら でも 、お 酒 を 飲み 、ぐらぐら 酔って 、ツネ子 と 顔 を 見合せ 、哀 かなしく 微笑 ほほえみ 合い 、いかにも そう 言われて みる と 、こいつ は へんに 疲れて 貧乏 くさい だけ の 女 だ な 、と 思う と 同時に 、金 の 無い 者 どうし の 親和 (貧富 の 不和 は 、陳腐 の よう でも 、やはり ドラマ の 永遠の テーマ の 一 つ だ と 自分 は 今では 思って います が )そい つ が 、その 親和 感 が 、胸 に 込み上げて 来て 、ツネ子 が いとしく 、生れて この 時 はじめて 、われ から 積極 的に 、微弱 ながら 恋 の 心 の 動く の を 自覚 しました。 じぶん||||れい||なかった|||||||さけ||のみ||よって|つねこ||かお||みあわせ|あい||びしょう||あい|||いわ れて||||||つかれて|びんぼう||||おんな||||おもう||どうじに|きむ||ない|もの|どう し||しんわ|ひんぷ||ふわ||ちんぷ|||||どらま||えいえんの|てーま||ひと||||じぶん||いまでは|おもって|い ます||||||しんわ|かん||むね||こみあげて|きて|つねこ|||うまれて||じ||||せっきょく|てきに|びじゃく||こい||こころ||うごく|||じかく|し ました ||这个||||||||||||||摇摇晃晃||||||对视||||微笑||果然|||||||||贫穷|||||||||||||||||亲和||||||||||||||||||||||||||||||||||涌上||||可怜|生|||||||||||||||||| ||||||||||||||||swaying||||||looked at||||||||||||||||||||||||||||||||affinity|disparity||discord||common|||||drama|||||||||||||||||||affinity|||||rose up||||dear|||||||||faint|||||||||| ||||||||||quanto|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||pobreza||desunião||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||fraco|||||||||autoconsciência| 我到目前為止,從未有過如此,無論多少喝酒,醉得搖搖欲墜,和 Tsunekko 互看著對方,悲傷地微笑著,說來也是,這傢伙看起來只是怪累又窮酸的女人,這樣想的同時,我也認為,金錢的缺乏彼此之間的親和(雖然貧富不和似乎很陳腐,但我現在認為這仍然是戲劇的永恆主題之一),這種親和感湧上心頭,Tsunekko 變得可愛,這是我出生以來第一次,積極主動地覺察到,雖然微弱,但內心的戀愛情感在動搖。 吐きました。 はき ました vomited 吐了。 前後不覚 に なりました。 ぜんごふかく||なり ました 前后不觉|| losing consciousness|| 變得失去意識。 お 酒 を 飲んで 、こんなに 我 を 失う ほど 酔った の も 、その 時 が はじめて でした。 |さけ||のんで||われ||うしなう||よった||||じ||| |||||||||||||||第一次| |||||||||drunk|||||||

眼 が 覚めたら 、枕 もと に ツネ子 が 坐って いました。 がん||さめたら|まくら|||つねこ||すわって|い ました ||||边||||| |||pillow|||||| 本所 の 大工 さん の 二 階 の 部屋 に 寝て いた のでした。 ほんじょ||だいく|||ふた|かい||へや||ねて|| ||大工|||||||||| honjo||carpenter|||||||||| 我住在本所的木匠的二樓房間裡。

「金 の 切れ め が 縁 の 切れ め 、なんて おっしゃって 、冗談 か と 思う ていた ら 、本気 か。 きむ||きれ|||えん||きれ||||じょうだん|||おもう|||ほんき| 「金錢一旦斷絕,就會是緣分的結束」這話您真是這麼說的,我還以為是在開玩笑呢,沒想到您是認真的。 来て くれ ない のだ もの。 きて|||| They won't come. 果然是因為您不會來嘛。 ややこしい 切れ め や な。 |きれ||| 麻烦|||| complicated|||| It's a confusing cut. 有點麻煩呢。 うち が 、かせいで あげて も 、だめ か」 ||因为|||| ||by chance|||| Is it no good if I give it to you?" 雖然我家給了,但也沒用嗎?

「だめ」 「不行」

それ から 、女 も 休んで 、夜明け が た 、女 の 口 から 「死 」と いう 言葉 が はじめて 出て 、女 も 人間 と して の 営み に 疲れ切って いた ようでした し 、また 、自分 も 、世の中 へ の 恐怖 、わずらわし さ 、金 、れいの 運動 、女 、学業 、考える と 、とても この上 こらえて 生きて 行け そう も なく 、その ひと の 提案 に 気軽に 同意 しました。 ||おんな||やすんで|よあけ|||おんな||くち||し|||ことば|||でて|おんな||にんげん||||いとなみ||つかれきって|||||じぶん||よのなか|||きょうふ|||きむ||うんどう|おんな|がくぎょう|かんがえる|||このうえ||いきて|いけ|||||||ていあん||きがるに|どうい|し ました |||||黎明||||||||||||||||||||生存||疲惫不堪|||||||||||烦恼|||||||||||忍耐|||||||||||轻松地|| |||||||||||||||||||||||||activity|||||||||||||trouble|||||||||||endure||||||||||||| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||preocupação||||||||||||||||||||proposta|||| After that, the woman took a rest, and dawn came, and the word "death" came out of her mouth for the first time. When I thought about the fear of the world, the hassles, the money, the youth movement, women, and schoolwork, I couldn't possibly live with it any more, so I casually agreed with that person's suggestion.

けれども 、その 時 に は まだ 、実感 と して の 「死のう 」と いう 覚悟 は 、出来て い なかった のです。 ||じ||||じっかん||||しのう|||かくご||できて||| ||||||||||let's die|||||できて||| どこ か に 「遊び 」が ひそんで いました。 |||あそび|||い ました |||||潜藏| |||||hidden| |||||estava escondido|

その 日 の 午前 、二 人 は 浅草 の 六 区 を さまよって いました。 |ひ||ごぜん|ふた|じん||あさくさ||むっ|く|||い ました ||||||||||||徘徊| |||||||Asakusa|||||| ||||||||||||perdido| 喫茶 店 に はいり 、牛乳 を 飲みました。 きっさ|てん|||ぎゅうにゅう||のみ ました

「あなた 、払う て 置いて」 |はらう||おいて |||after

自分 は 立って 、袂 たもと から がま口 を 出し 、ひらく と 、銅 銭 が 三 枚 、羞恥 しゅうち より も 凄 惨 せいさん の 思い に 襲わ れ 、たちまち 脳 裡 のうり に 浮ぶ もの は 、仙遊 館 の 自分 の 部屋 、制服 と 蒲 団 だけ が 残されて ある きり で 、あと は もう 、質 草 に なり そうな もの の 一 つ も 無い 荒涼たる 部屋 、他 に は 自分 の いま 着て 歩いて いる 絣 の 着物 と 、マント 、これ が 自分 の 現実 な のだ 、生きて 行け ない 、と はっきり 思い知りました。 じぶん||たって|たもと|||がまぐち||だし|||どう|せん||みっ|まい|しゅうち||||すご|さん|||おもい||おそわ|||のう|り|||うかぶ|||せんゆう|かん||じぶん||へや|せいふく||がま|だん|||のこさ れて|||||||しち|くさ|||そう な|||ひと|||ない|こうりょうたる|へや|た|||じぶん|||きて|あるいて||かすり||きもの||まんと|||じぶん||げんじつ|||いきて|いけ||||おもいしり ました ||||袂||钱包|||打开|||||||羞耻||||||凄惨||||||立刻||||||东西||||||||||||||剩下||||||||||||||||||荒凉|||||||||走||絣||||斗篷||||||||||||| |||sleeve|||coin purse||||||copper coin||||shame|shame|||terrifying||horrible||||||suddenly||brain|brain||floats up|||fairyland||||||school uniform||bulrush||||||||||||||||||||||desolate|||||||||||kasuri||||mantle|||||||||||||realized clearly |||manga||||||||cobre|moeda||||vergonha|||||||||||||||na cabeça|||||||||||||||||||||||||||||||||||desolada|||||||||||||||||||||||||||| 我站起來,從衣袖裡拿出錢包,打開一看,裡面有三枚銅錢,襲來的不是羞恥,而是更為慘痛的思緒,腦海中立刻浮現出來的是仙遊館我自己的房間,裡面僅僅剩下制服和蒲團,其餘的已經是一片可以變成質草的荒涼房間,除此之外,只有我現在穿著的絣花和服與斗篷,這就是我的現實,我明確地意識到無法活下去了。

自分 が まごついて いる ので 、女 も 立って 、自分 の がま口 を のぞいて、 じぶん|||||おんな||たって|じぶん||がまぐち|| ||犹豫||||||||钱包||查看 ||flustered||||||||purse|| 因為我手忙腳亂,女人也站起來,朝我的錢包瞥了一眼,

「あら 、たった それ だけ? 「哎呀,就這麼一點兒?」

無心の 声 でした が 、これ が また 、じん と 骨身 に こたえる ほど に 痛かった のです。 むしんの|こえ||||||||ほねみ|||||いたかった| 无心的|||||||人||骨身||回答|||| innocent|||||||||whole body||affected|||| It was an innocent voice, but it was also painful enough to respond to my bones. 雖然是無心的聲音,但這聲音卻讓我感到刺痛,幾乎深入骨髓。 はじめて 自分 が 、恋した ひと の 声 だけ に 、痛かった のです。 |じぶん||こいした|||こえ|||いたかった| |||fell in love||||||| For the first time, I was hurt only by the voice of the person I fell in love with. 第一次聽到自己愛的人聲音,讓我感到如此的痛苦。 それ だけ も 、これ だけ も ない 、銅 銭 三 枚 は 、どだい お 金 で ありません。 |||||||どう|せん|みっ|まい||||きむ||あり ませ ん ||||||||||||根本|||| ||||||||||||from the start|||| 光是這三枚銅錢,根本稱不上是金錢。 それ は 、自分 が 未 いまだかつて 味わった 事 の 無い 奇妙な 屈辱 でした。 ||じぶん||み||あじわった|こと||ない|きみょうな|くつじょく| ||||未|从未||||||| |||||never|experienced||||strange|humiliation| とても 生きて おら れ ない 屈辱 でした。 |いきて||||くつじょく| 所詮 しょせん その頃 の 自分 は 、まだ お 金持ち の 坊ちゃん と いう 種 属 から 脱し 切って い なかった のでしょう。 しょせん||そのころ||じぶん||||かねもち||ぼっちゃん|||しゅ|ぞく||だっし|きって||| ||||||||||少爷|||种||||||| after all||||||||||||||||escaped|||| After all, at that time, I probably still hadn't gotten out of the genus called a rich boy. 所詮那時的我,還是無法完全脫離富家公子的身份。 その 時 、自分 は 、みずから すすんで も 死のう と 、実感 と して 決意 した のです。 |じ|じぶん|||||しのう||じっかん|||けつい|| ||||自己|||||||||| 那時,我自願並真心下定決心要去死。

その 夜 、自分 たち は 、鎌倉 の 海 に 飛び込みました。 |よ|じぶん|||かまくら||うみ||とびこみ ました |夜|||||||| |||||Kamakura||||jumped in 那個晚上,我們跳進了鎌倉的海裡。 女 は 、この 帯 は お 店 の お 友達 から 借りて いる 帯 や から 、と 言って 、帯 を ほどき 、畳んで 岩 の 上 に 置き 、自分 も マント を 脱ぎ 、同じ 所 に 置いて 、一緒に 入 水 じゅ すい しました。 おんな|||おび|||てん|||ともだち||かりて||おび||||いって|おび|||たたんで|いわ||うえ||おき|じぶん||まんと||ぬぎ|おなじ|しょ||おいて|いっしょに|はい|すい|||し ました |||||||||||||带|||||||解开|||||||||斗篷|||||||||||| |||obi|||||||||||||||||untied|folded|||||placed|||||took off|||||||||| The woman said that this obi was borrowed from a friend at the store, so she untied the obi, folded it, and placed it on a rock. I entered the water.

女 の ひと は 、死にました。 おんな||||しに ました ||||died A woman died. そうして 、自分 だけ 助かりました。 |じぶん||たすかり ました |||was saved

自分 が 高等 学校 の 生徒 で は あり 、また 父 の 名 に も いくらか 、所 謂 ニュウス ・ヴァリュ が あった の か 、新聞 に も かなり 大きな 問題 と して 取り上げられた ようでした。 じぶん||こうとう|がっこう||せいと|||||ちち||な||||しょ|い|||||||しんぶん||||おおきな|もんだい|||とりあげ られた| |||||||||||||||多少|||新闻|价值|||||||||||||| |||||||||||||||some|||news|value|||||||||||||featured| Perhaps because I was a high school student and because my father's name had something to do with the so-called Nuus Valu, the newspapers seemed to have taken up this as a fairly big problem.

自分 は 海辺 の 病院 に 収容 せられ 、故郷 から 親戚 しんせき の 者 が ひとり 駈 け つけ 、さまざまの 始末 を して くれて 、そうして 、くに の 父 を はじめ 一家 中 が 激怒 して いる から 、これっきり 生家 と は 義 絶 に なる かも 知れ ぬ 、と 自分 に 申し渡して 帰りました。 じぶん||うみべ||びょういん||しゅうよう|せら れ|こきょう||しんせき|||もの|||く||||しまつ|||||||ちち|||いっか|なか||げきど||||これ っきり|せいか|||ただし|た||||しれ|||じぶん||もうしわたして|かえり ました ||||||||||||||||||||处理|||||||||||||||||就这一次|家乡|||||||||||||告诉自己| ||seashore||||admitted||||||||||rushed||||various matters|||||||||||||furious||||this time|ancestral home|||dissociation|cut off|||||||||informed| I was put in a hospital by the sea, and one of my relatives from my hometown ran up to me and took care of me. I told myself that the family I was born in might end up in ruin, so I went home. 我被收容在海邊的醫院,從故鄉來的親戚中有一位匆匆趕來,為我處理各種事宜。而且,由於國內的父親和全家都非常憤怒,我不得不告訴自己,可能會因此與生家斷絕關係,然後我回去了。 けれども 自分 は 、そんな 事 より 、死んだ ツネ子 が 恋い しく 、めそめそ 泣いて ばかり いました。 |じぶん|||こと||しんだ|つねこ||こい|||ないて||い ました |||||||||恋||呜咽||| |||||||||longed for||sniffling||| 然而,我對於這些事情,比起死去的常子更感到戀戀不捨,總是哭哭啼啼的。 本当に 、いま まで の ひと の 中 で 、あの 貧乏 くさい ツネ子 だけ を 、すきだった のです から。 ほんとうに||||||なか|||びんぼう||つねこ||||| ||||||||||||||liked|| 其實,在我所認識的人當中,只有那個窮酸的常子讓我真的喜歡。

下宿 の 娘 から 、短歌 を 五十 も 書きつらねた 長い 手紙 が 来ました。 げしゅく||むすめ||たんか||ごじゅう||かきつらねた|ながい|てがみ||き ました ||||||||写了|||| ||||tanka||||scribbled|||| 下宿的女孩寄來了一封寫了五十首短歌的長信。 「生き くれよ 」と いう へんな 言葉 で はじまる 短歌 ばかり 、五十 でした。 いき|||||ことば|||たんか||ごじゅう| 全是以「活下去啊」這句奇怪的話開頭的短歌,總共有五十首。 また 、自分 の 病室 に 、看護 婦 たち が 陽気に 笑い ながら 遊び に 来て 、自分 の 手 を き ゅっと 握って 帰る 看護 婦 も いました。 |じぶん||びょうしつ||かんご|ふ|||ようきに|わらい||あそび||きて|じぶん||て|||ゅっ と|にぎって|かえる|かんご|ふ||い ました |||||||||||||||||||||||护士||| |||hospital room|||||||||||||||||tight|||||| 此外,還有護士們開心地笑著來到我的病房,有的還緊緊握著我的手就回去了。

自分 の 左 肺 に 故障 の ある の を 、その 病院 で 発見 せられ 、これ がたいへん 自分 に 好都合な 事 に なり 、やがて 自分 が 自殺 幇助 ほうじょ 罪 と いう 罪名 で 病院 から 警察 に 連れて 行か れました が 、警察 で は 、自分 を 病人 あつかい に して くれて 、特に 保護 室 に 収容 しました。 じぶん||ひだり|はい||こしょう||||||びょういん||はっけん|せら れ||が たいへん|じぶん||こうつごうな|こと||||じぶん||じさつ|ほうじょ||ざい|||ざいめい||びょういん||けいさつ||つれて|いか|れ ました||けいさつ|||じぶん||びょうにん|||||とくに|ほご|しつ||しゅうよう|し ました |||||故障|||||||||||非常|||好都合的||||不久||||||罪|||||||||||||||||||对待||||||||| ||left|lung||malfunction|||||||||||very|||convenient||||||||assistance|assistance||||charge||||||||||||||||treated||||||||confinement| 我在左肺有故障,這在那家醫院被發現,這對我來說是非常有利的事情,隨後我因為自殺幫助罪被從醫院帶到警察局,但在警察那裡,他們將我當作病人對待,特別是把我收容在保護室內。

深夜 、保護 室 の 隣り の 宿直 室 で 、寝ずの番 を して いた 年寄り の お 巡 まわり が 、間 の ドア を そっと あけ、 しんや|ほご|しつ||となり||しゅくちょく|しつ||ねずのばん||||としより|||めぐり|||あいだ||どあ||| ||||||值班||||||||||巡警|||||||轻轻地| ||||||night duty|||sleepless watch||||elderly person|||round|||||||| 深夜,保護室旁邊的值班室裡,一位沒睡的老警察輕輕打開了隔壁的門,

「おい! 「喂!

と 自分 に 声 を かけ、 |じぶん||こえ||

「寒い だろう。 さむい| こっち へ 来て 、あたれ」 ||きて| |||来 |||come 來這邊,來受熱吧。

と 言いました。 |いい ました 這麼說道。

自分 は 、わざと しおしお と 宿直 室 に は いって 行き 、椅子 に 腰かけて 火鉢 に あたりました。 じぶん|||||しゅくちょく|しつ||||いき|いす||こしかけて|ひばち||あたり ました |||沮丧||||||||||||| |||timid||night duty||||||||sat|brazier||sat by 我故意無精打采地走進宿舍,坐在椅子上對著火盆取暖。

「やはり 、死んだ 女 が 恋い しい だろう」 |しんだ|おんな||こい|| |||||可怜|

「はい」

ことさら に 、消え 入る ような 細い 声 で 返事 しました。 ||きえ|はいる||ほそい|こえ||へんじ|し ました 特别|||||细的|||| especially|||||||||

「そこ が 、やはり 人情 と いう もの だ」 |||にんじょう|||| |||人情|||| |||human feelings|||| 「那裡,果然就是人情的所在」

彼 は 次第に 、大きく 構えて 来ました。 かれ||しだいに|おおきく|かまえて|き ました ||||摆出姿势| ||gradually||prepared| 他漸漸地變得氣度不凡。

「はじめ 、女 と 関係 を 結んだ の は 、どこ だ」 |おんな||かんけい||むすんだ|||| 「最初,與女人建立關係的是,哪裡呢」

ほとんど 裁判 官 の 如く 、もったいぶって 尋ねる のでした。 |さいばん|かん||ごとく||たずねる| |裁判||||卖关子|询问| |judge||||pretentiously|to ask| He asked, almost like a judge, pompously. 幾乎像法官一樣,擺出一副賣弄風情的樣子詢問。 彼 は 、自分 を 子供 と あなどり 、秋 の 夜 の つれ づれ に 、あたかも 彼 自身 が 取調べ の 主任 で も ある か の よう に 装い 、自分 から 猥談 わ い だ ん めいた 述懐 を 引き出そう と いう 魂胆 の ようでした。 かれ||じぶん||こども|||あき||よ||||||かれ|じしん||とりしらべ||しゅにん||||||||よそおい|じぶん||わいだん||||||じゅっかい||ひきだそう|||こんたん|| ||||||轻视||||||无聊||仿佛|||||||||||||||||猥谈|||||似乎|述懐|||||魂胆|| he||||||underestimate||||||lack of purpose||as if||||interrogation||lead investigator||||||||appearance|||lewd talk||||||recollection||try to elicit|||intention|| 他輕視自己像個孩子,在秋夜的閒暇中,彷彿自己是這次審訊的主考官,企圖從我這裡引出一些猥褻的談話。 自分 は 素早く それ を 察し 、噴き出したい の を 怺 こらえる のに 骨 を 折りました。 じぶん||すばやく|||さっし|ふきだし たい||||||こつ||おり ました |||||察觉|||||忍耐|||| ||quickly|||understood|wanted to burst|||suppress|to endure||||broke 我迅速察覺到了這一點,努力忍住想要噴出的笑聲,實在很費力。 そんな お 巡り の 「非公式な 訊問 」に は 、いっさい 答 を 拒否 して も かまわ ない のだ と いう 事 は 、自分 も 知っていました が 、しかし 、秋 の 夜 な が に 興 を 添える ため 、自分 は 、あくまでも 神妙に 、その お 巡り こそ 取調べ の 主任 であって 、刑罰 の 軽重 の 決定 も その お 巡り の 思召 おぼしめし 一 つ に 在る のだ 、と いう 事 を 固く 信じて 疑わ ない ような 所 謂 誠意 を おもて に あらわし 、彼 の 助平 の 好奇心 を 、やや 満足 さ せる 程度 の いい加減な 「陳述 」を する のでした。 ||めぐり||ひこうしきな|じんもん||||こたえ||きょひ||||||||こと||じぶん||しってい ました|||あき||よ||||きょう||そえる||じぶん|||しんみょうに|||めぐり||とりしらべ||しゅにん||けいばつ||けいちょう||けってい||||めぐり||おぼしめし||ひと|||ある||||こと||かたく|しんじて|うたがわ|||しょ|い|せいい|||||かれ||じょたいら||こうきしん|||まんぞく|||ていど||いいかげんな|ちんじゅつ||| |||||询问|||一切|答|||||||||||||||||||||||||||||||||||审问||主任|||||||||||||意图||||||||||固地|||||||||表||神妙|||助平||||稍微||||||不负责任的|||| ||||unofficial|interrogation||||||refusal|||||||||||||||||||||interest||adding||||firmly|solemnly|||||interrogation||||punishment||severity||||||||whim|divine will|||||||||||||||||sincerity||||to show|||jovial|||||||||||statement||| 對於這樣的巡邏的「非正式詢問」,我自己也知道完全可以拒絕回答,但是,為了增添秋夜的情趣,我仍然是非常認真的,堅信那位巡邏者才是審問的主任,刑罰的輕重也完全取決於那位巡邏者的意志,因此我表現出某種誠意,讓他的好奇心稍微得到了一些滿足,於是進行了一些不太認真的「陳述」。

「うん 、それ で だいたい わかった。 「嗯,這樣我大概明白了。」 何でも 正直に 答える と 、わし ら の ほう でも 、そこ は 手心 を 加える」 なんでも|しょうじきに|こたえる|||||||||てごころ||くわえる |||||||||||leniency||to add 「不管怎樣,誠實回答的話,我們這邊會稍微放水的。」

「ありがとう ございます。 よろしく お 願い いたします」 ||ねがい|いたし ます

ほとんど 入 神 の 演技 でした。 |はい|かみ||えんぎ| ||||演技| ||||performance| そうして 、自分 の ため に は 、何も 、一 つ も 、とくに なら ない 力 演 な のです。 |じぶん|||||なにも|ひと||||||ちから|えん|| ||||||||||特别|||||| ||||||||||||||performance|| Then, for my own sake, nothing, nothing in particular, is a powerful performance. 因此,對我來說,沒有任何一件特別重要的事。

夜 が 明けて 、自分 は 署長 に 呼び出さ れました。 よ||あけて|じぶん||しょちょう||よびださ|れ ました |||||police chief||| 黎明來臨,我被署長召見了。 こんど は 、本式 の 取調べ な のです。 ||ほんしき||とりしらべ|| ||official|||| 這次是正式的訊問。

ドア を あけて 、署長 室 に は いった とたん に、 どあ|||しょちょう|しつ||||| |||chief||||||

「おう 、いい 男 だ。 ||おとこ| これ あ 、お前 が 悪い んじゃ ない。 ||おまえ||わるい|| 這個啊,你不是錯的。 こんな 、いい 男 に 産んだ お前 の おふくろ が 悪い んだ」 ||おとこ||うんだ|おまえ||||わるい| |||||||妈妈||| |||||||mother||| It's your mother's fault for giving birth to such a good man." 這麼好的男孩都是你媽媽生的,才是她的錯。

色 の 浅黒い 、大学 出 みたいな 感じ の まだ 若い 署長 でした。 いろ||あさぐろい|だいがく|だ||かんじ|||わかい|しょちょう| ||黝黑||||||||| ||dark-skinned||||||||chief| He was a young chief who was dark in color and felt like he was out of college. 是一位膚色微黑,感覺像是大學畢業的還是年輕的署長。 いきなり そう 言われて 自分 は 、自分 の 顔 の 半面 に べったり 赤 痣 あか あざ で も ある ような 、みにくい 不 具 者 の ような 、みじめな 気 が しました。 ||いわ れて|じぶん||じぶん||かお||はんめん|||あか|あざ||||||||ふ|つぶさ|もの||||き||し ました |||||||||||紧紧地|||||||||丑陋||||||悲惨||| |||||||||one side||completely||bruise||||||||not|feature||||||| 突然被這麼說,我感到自己就像半邊臉上滿是淤青,像個醜陋的殘障者,十分可憐。

この 柔道 か 剣道 の 選手 の ような 署長 の 取調べ は 、実に あっさり して いて 、あの 深夜 の 老 巡査 の ひそかな 、執拗 しつよう きわまる 好 色 の 「取調べ 」と は 、雲泥 の 差 が ありました。 |じゅうどう||けんどう||せんしゅ|||しょちょう||とりしらべ||じつに|||||しんや||ろう|じゅんさ|||しつよう|||よしみ|いろ||とりしらべ|||うんでい||さ||あり ました |||||||||||||轻松|||||||||秘密的||执拗|极其||||||||||| |judo||kendo||player|||police chief|||||easily|||||||police officer||secret|relentless|persistent|keen|||||||worlds apart|||| 這位像柔道或劍道選手的署長的審問,簡直是非常簡單,與那深夜老警察私下里執著的、令人厭惡的「取調」相比,簡直是天壤之別。 訊問 が すんで 、署長 は 、検事 局 に 送る 書類 を したため ながら、 じんもん|||しょちょう||けんじ|きょく||おくる|しょるい||した ため| |||||||||||准备| questioning|||police chief||prosecutor||||||writing| 訊問結束後,署長一邊整理寄往檢察官辦公室的文件,

「からだ を 丈夫に し なけ れ ゃ 、いかん ね。 ||じょうぶに|||||| ||strong|||||| "I have to keep my body strong. 「如果不讓身體變得強健,就不行呢。 血 痰 けった ん が 出て いる ようじゃ ない か」 ち|たん||||でて|||| blood|phlegm|blood|||||it seems|| 似乎有血痰咳出來了吧」

と 言いました。 |いい ました 這樣說道。

その 朝 、へんに 咳 せき が 出て 、自分 は 咳 の 出る たび に 、ハンケチ で 口 を 覆って いた のです が 、その ハンケチ に 赤い 霰 あられ が 降った みたいに 血 が ついて いた のです。 |あさ||せき|||でて|じぶん||せき||でる|||||くち||おおって|||||||あかい|あられ|あら れ||ふった||ち|||| ||||||||||||||||||||||||||霰||||||||| |||cough|cough|||||cough|||||||||covering||||||||blood|||fell|||||| けれども 、それ は 、喉 のど から 出た 血 で は なく 、昨夜 、耳 の 下 に 出来た 小さい おでき を いじって 、その おでき から 出た 血 な のでした。 |||のど|||でた|ち||||さくや|みみ||した||できた|ちいさい|||||||でた|ち|| ||||||||||||||||||疙瘩||||||||| ||||||||||||||||||pimple||touched||boil||||| 然而,那並不是從喉嚨裡冒出的血,而是昨晚弄到耳下長出的小睾丸上,流出來的血。 しかし 、自分 は 、それ を 言い 明 さ ない ほう が 、便宜 な 事 も ある ような 気 が ふっと した もの です から 、ただ、 |じぶん||||いい|あき|||||べんぎ||こと||||き||||||| ||||||明白|||||方便||||||||||||| |||||||||||convenient||||||||||||| 但是,我隨即感覺到,自己不說出來似乎會更方便,所以,

「はい」 「是的」

と 、伏 眼 に なり 、殊勝 げ に 答えて 置きました。 |ふ|がん|||しゅしょう|||こたえて|おき ました |伏せ||||admirable|||| I turned downcast eyes and answered auspiciously. 得到了,低下頭,謹慎地回答了。

署長 は 書類 を 書き 終えて、 しょちょう||しょるい||かき|おえて |||||完成 chief||||| 署長寫完了文件,

「起訴 に なる か どう か 、それ は 検事 殿 が きめる こと だ が 、お前 の 身元 引受 人 に 、電報 か 電話 で 、きょう 横浜 の 検事 局 に 来て もらう ように 、たのんだ ほう が いい な。 きそ||||||||けんじ|しんがり||||||おまえ||みもと|ひきうけ|じん||でんぽう||でんわ|||よこはま||けんじ|きょく||きて||||||| |||||||||殿||||||||身份|担保|||||||||||||||||||| indictment||||||||prosecutor|prosecutor||will decide||||||whereabouts|guarantor|||telegram|||||Yokohama||prosecutor||||||requested|||| "Whether or not you will be indicted is for the public prosecutor to decide, but you should ask your sponsor to come to the public prosecutor's office in Yokohama today by telegram or telephone. 「到底會不會起訴,那是檢察官的決定,但最好請你的保釋人,今天通過電報或電話來到橫濱的檢察局。」 誰 か 、ある だろう 、お前 の 保護 者 と か 保証人 と か いう もの が」 だれ||||おまえ||ほご|もの|||ほしょうにん||||| ||||||保护||||担保人||||| ||||||||||guarantor|||||

父 の 東京 の 別荘 に 出入り して いた 書画 骨董 こっとう 商 の 渋田 と いう 、自分 たち と 同郷 人 で 、父 のたいこ 持ち みたいな 役 も 勤めて いた ずんぐり した 独身 の 四十 男 が 、自分 の 学校 の 保証人 に なって いる の を 、自分 は 思い出しました。 ちち||とうきょう||べっそう||でいり|||しょが|こっとう||しょう||しぶた|||じぶん|||どうきょう|じん||ちち|の たいこ|もち||やく||つとめて||||どくしん||しじゅう|おとこ||じぶん||がっこう||ほしょうにん||||||じぶん||おもいだし ました ||||||||||||||||||||||||大鼓|||||||矮胖||||||||||||||||||| |||||||||artworks|antiques|antique|||Shibuta||||||hometown||||round-faced|||||||stocky||bachelor||forty||||||||||||||| 有一位名叫渋田的書畫古董商,他在父親的東京別墅出入,與我們同鄉,還做過父親的太鼓手,這位矮胖的四十歲單身男士,成了我學校的保證人,我想起了這件事。 その 男 の 顔 が 、殊に 眼 つき が 、ヒラメ に 似て いる と いう ので 、父 は いつも その 男 を ヒラメ と 呼び 、自分 も 、そう 呼び なれて いました。 |おとこ||かお||ことに|がん|||ひらめ||にて|||||ちち||||おとこ||ひらめ||よび|じぶん|||よび||い ました |||||especially||||solefish||||||||||||||||||||| 那個男人的臉,特別是眼神,被說得像比目魚,所以父親總是叫他比目魚,我也習慣這樣稱呼他。

自分 は 警察 の 電話 帳 を 借りて 、ヒラメ の 家 の 電話 番号 を 捜し 、見つかった ので 、ヒラメ に 電話 して 、横浜 の 検事 局 に 来て くれる ように 頼みましたら 、ヒラメ は 人 が 変った みたいな 威張った 口調 で 、それ でも 、とにかく 引受けて くれました。 じぶん||けいさつ||でんわ|ちょう||かりて|ひらめ||いえ||でんわ|ばんごう||さがし|みつかった||ひらめ||でんわ||よこはま||けんじ|きょく||きて|||たのみ ましたら|ひらめ||じん||かわった||いばった|くちょう|||||ひきうけて|くれ ました 我|||||||||||||||寻找|||||||||检察官|||||||||||||威风凛凛||||||| |||||||||||||||search|||squid||||||prosecutor||||||I asked|||||||pompous||||||took on| 我借用了警察的電話簿,搜尋比目魚家的電話號碼,找到之後,打電話給比目魚,請他來橫濱的檢察局,結果比目魚用一種變得威嚴的口氣回答,儘管如此,他仍然答應了。

「おい 、その 電話 機 、すぐ 消毒 した ほう が いい ぜ。 ||でんわ|き||しょうどく||||| |||||disinfect||||| 何せ 、血 痰 が 出て いる んだ から」 なにせ|ち|たん||でて||| 何必,血痰都出來了啊。

自分 が 、また 保護 室 に 引き上げて から 、お 巡り たち に そう 言いつけて いる 署長 の 大きな 声 が 、保護 室 に 坐って いる 自分 の 耳 に まで 、とどきました。 じぶん|||ほご|しつ||ひきあげて|||めぐり||||いいつけて||しょちょう||おおきな|こえ||ほご|しつ||すわって||じぶん||みみ|||とどき ました 自己||||||提起|||||||||||||||||||||||| ||||||pulled up|||||||told||chief|||||||||||||||reached 自從自己再次被拉進保護室後,署長那大聲的命令也傳到了坐在保護室裡的自己耳中。

お 昼 すぎ 、自分 は 、細い 麻 繩 で 胴 を 縛ら れ 、それ は マント で 隠す こと を 許さ れました が 、その 麻 繩 の 端 を 若い お 巡り が 、しっかり 握って いて 、二 人 一緒に 電車 で 横浜 に 向 いました。 |ひる||じぶん||ほそい|あさ|なわ||どう||しばら||||まんと||かくす|||ゆるさ|れ ました|||あさ|なわ||はし||わかい||めぐり|||にぎって||ふた|じん|いっしょに|でんしゃ||よこはま||むかい|い ました |||||细的||||身体||||||斗篷||||||||||||||||||||||||||||| ||||||hemp|rope||body||tied||||||||||||||||end||||||||||||||||| 中午過後,自己被細繩綁住腰身,雖然可以用斗篷遮住,但麻繩的末端被一名年輕的警察緊緊握住,兩人一起搭乘電車前往橫濱。

けれども 、自分 に は 少し の 不安 も 無く 、あの 警察 の 保護 室 も 、老 巡査 も なつかしく 、嗚呼 ああ 、自分 は どうして こう な のでしょう 、罪人 と して 縛ら れる と 、かえって ほっと して 、そうして ゆったり 落ちついて 、その 時 の 追憶 を 、いま 書く に 当って も 、本当に のびのび した 楽しい 気持 に なる のです。 |じぶん|||すこし||ふあん||なく||けいさつ||ほご|しつ||ろう|じゅんさ|||ああ||じぶん||||||ざいにん|||しばら||||||||おちついて||じ||ついおく|||かく||あたって||ほんとうに|||たのしい|きもち||| ||||||||||||||||巡查||怀念|||||||||罪人|||||||轻松|||悠闲|||||追忆||||||||轻松|||||| ||||||||||||||||police officer||nostalgically|ah||||||||sinner|||bound|||||||leisurely|settled||||reminiscence|||||upon|||carefree|||||| 然而,我卻一點不感到不安,那個警察的保護室和老巡警都讓我懷念。嗚啊,我究竟為什麼會變成這樣,當我像罪犯一樣被束縛的時候,反而感到安心,然後心情放鬆,現在寫起那時的回憶,真的會讓我感到暢快而愉悅。

しかし 、その 時期 の なつかしい 思い出 の 中 に も 、たった 一 つ 、冷 汗 三 斗 の 、生涯 わすれられ ぬ 悲惨な しくじり が あった のです。 ||じき|||おもいで||なか||||ひと||れい|あせ|みっ|と||しょうがい|わすれ られ||ひさんな|||| |||||||||||||冷|||||||||失误||| ||||nostalgic|||||||||cold|||斗||lifetime|will never forget||tragic mistake|blunder||| 然而,在那段懷念的回憶中,卻有一件終身難忘的悲慘失誤,讓我冷汗直冒。 自分 は 、検事 局 の 薄暗い 一室 で 、検事 の 簡単な 取調べ を 受けました。 じぶん||けんじ|きょく||うすぐらい|いっしつ||けんじ||かんたんな|とりしらべ||うけ ました ||检察官||||||||||| ||prosecutor||||||||||| I had a brief interrogation by the prosecutor in a dimly lit room at the prosecutor's office. 我在檢察官局的昏暗小房間裡,接受了檢察官的簡單訊問。 検事 は 四十 歳 前後 の 物静かな 、(もし 自分 が 美貌 だった と して も 、それ は 謂 いわば 邪 淫 の 美貌 だった に 違い ありません が 、その 検事 の 顔 は 、正しい 美貌 、と でも 言いたい ような 、聡明な 静 謐 せいひ つ の 気配 を 持って いました )コセコセ し ない 人柄 の ようでした ので 、自分 も 全く 警戒 せ ず 、ぼんやり 陳述 して いた のです が 、突然 、れいの 咳 が 出て 来て 、自分 は 袂 から ハンケチ を 出し 、ふと その 血 を 見て 、この 咳 も また 何 か の 役 に 立つ かも 知れ ぬ と あさましい 駈引 き の 心 を 起し 、ゴホン 、ゴホン と 二 つ ばかり 、おまけ の 贋 に せ の 咳 を 大袈裟 おおげさ に 附 け 加えて 、ハンケチ で 口 を 覆った まま 検事 の 顔 を ちら と 見た 、間一髪、 けんじ||しじゅう|さい|ぜんご||ものしずかな||じぶん||びぼう|||||||い||じゃ|いん||びぼう|||ちがい|あり ませ ん|||けんじ||かお||ただしい|びぼう|||いい たい||そうめいな|せい|ひつ||||けはい||もって|い ました|こせこせ|||ひとがら||||じぶん||まったく|けいかい||||ちんじゅつ|||||とつぜん||せき||でて|きて|じぶん||たもと||||だし|||ち||みて||せき|||なん|||やく||たつ||しれ||||くひき|||こころ||おこし||||ふた|||||がん||||せき||おおげさ|||ふ||くわえて|||くち||おおった||けんじ||かお||||みた|かんいっぱつ ||||||安静的|||||||||||||邪||||||||||||||||||||聪明的|静||静谧|||气配||||小心翼翼|||人品||||||||||发呆|陈述|||||||咳||||||袂|||||突然|||||||||||||||||||卑鄙||||||||||||||||||||||||附|||||||||||||似乎|||间一髪 ||||||quiet||||beautiful appearance||||||||so to speak||lewd||evil beauty||||||||||||correct beauty|||||keen|quiet|tranquil presence|serene|||||||rustling||||||||||||||statement|||||||cough||出て||||sleeve|||||||||||||||||||||||||affected||||||cough||||||extra||fake||||fake cough||exaggerated|exaggerated||attached|||||||covered up||prosecutor|||||||barely 「ほんとう かい? 真的| 「真的嗎?」 ものしずかな 微笑 でした。 |びしょう| quiet|| 她的微笑是那麼安靜。 冷 汗 三 斗 、いいえ 、いま 思い出して も 、きりきり舞い を し たく なります。 ひや|あせ|みっ|と|||おもいだして||きりきりまい||||なり ます |||||现在|||忙得不可开交|||| ||||||||tingling dance|||| 中学 時代 に 、あの 馬鹿 の 竹一 から 、ワザ 、ワザ 、と 言われて 脊中 せなか を 突か れ 、地獄 に 蹴落 けおとさ れた 、その 時 の 思い 以上 と 言って も 、決して 過言 で は 無い 気持 です。 ちゅうがく|じだい|||ばか||たけいち|||||いわ れて|せきなか|||つか||じごく||けおと||||じ||おもい|いじょう||いって||けっして|かごん|||ない|きもち| ||||||||技艺|||||背中||||地狱||||||||||||||过分||||| ||||||||||||back|back||poked||||kicked|kicked off|||||||||||||||| |||||||||||||||||||||||||||||||exagero||||| あれ と 、これ と 、二 つ 、自分 の 生涯 に 於 ける 演技 の 大 失敗 の 記録 です。 ||||ふた||じぶん||しょうがい||お||えんぎ||だい|しっぱい||きろく| 検事 の あんな 物静かな 侮 蔑 ぶ べつに 遭う より は 、いっそ 自分 は 十 年 の 刑 を 言い渡さ れた ほう が 、ましだった と 思う 事 さえ 、時たま ある 程 な のです。 けんじ|||ものしずかな|あなど|さげす|||あう||||じぶん||じゅう|とし||けい||いいわたさ||||||おもう|こと||ときたま||ほど|| |||||||特别||||干脆||||||||||||更好|||||有时|||| ||||contempt|contempt||particularly|to meet|||||||||sentence||imposed||||better off|||||sometimes|||| 檢察官那種如此沉靜的蔑視,與其遭遇,不如自己被宣判十年的刑期,還要來得好,這樣的想法偶爾還是會出現。 自分 は 起訴 猶予 に なりました。 じぶん||きそ|ゆうよ||なり ました ||起诉|延期|| ||indictment|suspension|| ||acusação|suspensão|| I have been deferred prosecution. 我被處以起訴猶予。 けれども 一向に うれしく なく 、世にも みじめな 気持 で 、検事 局 の 控室 の ベンチ に 腰かけ 、引取り 人 の ヒラメ が 来る の を 待って いました。 |いっこうに|||よにも||きもち||けんじ|きょく||ひかえしつ||べんち||こしかけ|ひきとり|じん||ひらめ||くる|||まって|い ました ||||||||检察官|||||长椅||坐在|引取||||||||| |not at all|||the world||||prosecutor|||waiting room||bench|||pickup|||flatfish|||||| 不過,我根本高興不起來,心情無比淒慘地坐在檢察局控室的長椅上,等待接人來的平面魚。 背後 の 高い 窓 から 夕焼け の 空 が 見え 、鴎 かもめ が 、「女 」と いう 字 みたいな 形 で 飛んで いました。 はいご||たかい|まど||ゆうやけ||から||みえ|かもめ|||おんな|||あざ||かた||とんで|い ました |||||夕阳|||||||||||||||飞| behind|||||sunset|||||seagull|seagull||||||||||

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