三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 07
7 消えた 珠美
何だか お 葬式 づい てる わ ね 。
珠美 は 、 いささか うんざり した 気分 で 、 考えた 。
と いって 、 今日 の ところ は 仕方ない 。
何しろ 殺さ れた 丸山 の 葬儀 な のである 。
珠美 と して も 、「 容疑 者 」 である 勇一 を マンション に かくまって いる 立場 上 、 やはり 、 多少 の 関心 は あった 。
つまり 、 本当の 犯人 が 見付から ない 限り 、 有田 勇一 を 置いて おか なくて は なら ない から だ 。
いくら 珠美 が 勇一 の こと を 好きだ と して も 、 そこ まで 面倒 は 見 切れ ない 。
大体 、 父親 が 帰って 来たら 、 いやで も 勇一 に は 出て って もらう しか ない わけな のだ から ……。
警察 の 方 で は 、 勇一 を 手配 して 、 その後 は 全く 新しい 動き も なかった 。
「 や あ 、 珠美 君 」
と 、 声 が した 。
焼香 を 終って 、 中 に いる わけに も いか ず 、 外 に 出て 、 出 棺 を 待って いる ところ だった 。
── 寒い こと は 寒い が 、 陽 が 射 して いる ので 、 それなり に 快い 気候 である 。
「 あら 、 国 友 さん 」
珠美 は 、 逃亡 犯 を かくまって いる と は とても 思え ない 愛想 の 良 さ で 、 国 友 に 微笑み かけた 。
「 クラス の 全員 が 来て る の ?
と 、 国 友 は 訊 いた 。
「 うん 。
一応 ね 。 もう 帰った の も 沢山 いる 。 今日 は 土曜日 だ もん ね 」
「 殺人 事件 の 捜索 に は 休日 なんか ない よ 」
国 友 は 、 やや 悲壮な 面持ち で 言った 。
「 何 か 分 った の ?
「 いや 。
── 丸山 の 身辺 を 当って みた んだ が 、 あの 有田 信 子 と つながり が あった と いう 証拠 は 出て 来 なかった よ 」
「 捜査 が 手ぬるい んじゃ ない ?
「 や あ 、 こりゃ 叱ら れちゃ った な 」
と 、 国 友 は 苦笑 した 。
「 丸山 先生 を 殺した 犯人 の 方 は ?
「 有田 勇一 ?
まだ 足取り が つかめ ない んだ よ 」
と 、 国 友 は 首 を 振った 。
「 どこ へ 消え ち まった の か なあ 」
「 そう ねえ 」
珠美 は とぼけて 、「 もしかしたら 、 うち に でも 隠れて ん の かも しれ ない よ 」
「 そう だ な 。
夕 里子 君 なら 、 やり かね ない 」
と 、 国 友 は 笑い ながら 言った 。
「 でも ── その 子 が やった って いう の は 、 確かな の ?
「 夕 里子 君 と も 話した んだ 。
夕 里子 君 は 、 有田 勇一 が 刺した ところ を 見た わけじゃ ない 。 血 の ついた ナイフ を 持って 立って る ところ を 見た だけ だって ね 」
「 そう 。
じゃ 、 犯人 は 別に いる かも しれ ない って わけ ね ? 「 しかし 、 一応 、 何といっても 容疑 者 と して ナンバーワン だ から ね 」
「 あんまり ありがたく ない ナンバーワン ね 」
と 、 珠美 は 笑った 。
「── あ 、 いけない 。 お 葬式 な のに 」
「 まあ 、 確かに ね 」
と 、 国 友 は 肯 いて 、「 僕 も 有田 勇一 が やった の か どう か 、 まだ いささか 疑問 は 持って る んだ 」
しかし 、 国 友 は 何といっても 勇一 を 直接 は 知ら ない のだ 。
珠美 は 、 勇一 から 話 を 聞いて いた 。
もちろん 夕 里子 が 、 国 友 に 話 を した と いう の も 、 それ を 聞いて から の こと である 。
「── 俺 じゃ ない よ 」
夜中 に 目 を 覚ました 勇一 は 、 三 姉妹 を 前 に 、 はっきり 否定 した 。
「 もちろん 、 そう 言った って 、 信じちゃ くれ ない だろう けど な 」
「 言って み なきゃ 分 ら ない わ よ 」
と 、 夕 里子 が 言った 。
「 丸山 先生 を 、 あんた 知って た の ? 「 うん 。
前 に あの 学校 に いた とき 、 習って た から な 」
「 向 う も 憶 えて た かしら ?
「── どうか な 」
勇一 は 、 なぜ か ちょっと ためらって 、「 どっち に した って 、 あれ きり 会って ない んだ から ……」
夕 里子 は 、 少し 考え ながら 、
「 あの とき の こと 、 話して よ 」
と 促した 。
「 うん ……。
俺 は ガード の 反対 側 の 方 から 歩いて 来た 。 向 う から 、 誰 か が 歩いて 来て ── それ が 丸山 だった と 思う けど な 。 いやに せかせか した 歩き 方 だった 」
夕 里子 は 真剣な 表情 で 、 勇一 の 話 に 耳 を 傾けて いる 。
珠美 は 勇一 を かばった 立場 上 、 ハラハラ し ながら 聞いて いる 。
そして 、 綾子 は ── 座って は いた が 、 もう ウトウト 、 半分 眠り かけて 、 聞いて …… いる ( と いう べきだろう か ?
)。
「 それ で ?
と 、 夕 里子 が 言った 。
「 丸山 の 姿 は 、 ちょうど ガード 下 へ 入った んで 、 シルエット に なって 、 見えて た んだ 。
そ したら 、 そこ へ 、 いきなり 誰 か が 飛び出して 行った 」
「 どこ から ?
「 ガード 下 の 暗がり から だ 。
丸山 に ぶつかった ように 見えた な 。 ── アッ 、 と か ウッ と か いう 低い 声 が して ……。 その 人影 が 走って 行 っ ち まった 」
と 、 勇一 は 言った 。
「 それ は どんな 人 ?
「 よく 分 ん ねえ けど ……」
勇一 は 眉 を 寄せて 、「 コート 着た 男 だった と 思う よ 」
「 男 ?
確かに ? 「 うん 。
でも 顔 は 見え なかった 。 パーッ と 走って っちゃ った から 」
「 それ から ?
「 俺 、 スリ か かっぱ らい な の か な 、 と 思った んだ 。
見て たら 、 その ぶつから れた 方 ── 丸山 が 、 フラフラ して ん の さ 。 酔って る の か と 思った よ 。 で 、 歩いて 行って 、 ヒョイ と 見る と 、 いきなり 俺 の 方 へ ドドッ と よろけて 来て さ 。 ── ワッ と 抱きつく んだ 。 びっくり した ぜ 」
「 そりゃ そう でしょう ね 」
「 何だか 手 に 触った もん が あって ── つかんだら 、 それ が ナイフ だった んだ 。
それ で 、 やっと 分 った 。 こいつ 、 刺さ れた んだ 、 って 」
「 そこ へ 私 が 行き合わ せた わけ ね 」
「 俺 が 、 無意識に 押し戻した んだ な 。
丸山 は よろけ ながら 歩いて 行って ── そこ へ あんた が 来て さ 。 俺 、 何 が 何だか 分 ん なくて 、 ポカン と して た けど 、 気 が 付いたら 、 ナイフ 握って 立って る だ ろ 。 これ じゃ 、 俺 が やった と 思わ れる 。 そう 考えて 、 パッと 逃げ 出した んだ 」
「 逃げりゃ 、 もっと 疑わ れる わ よ 」
「 そりゃ 、 理屈 は そう だ けど よ 」
と 、 勇一 は 肩 を すくめた 。
「 大体 、 ワル って こと に なって んだ し 、 言い訳 した って 、 聞いちゃ くれ ねえ だ ろ 。 それ に 、 あんた の 後 から 走って 来た の 、 刑事 だ ろ ? 「 よく 知って る わ ね 」
「 見りゃ 分 る よ 。
だから 、 余計に ヤバイ と 思って さ 」
勇一 は 、 珠美 の 方 を 見て 、「 どこ へ 行こう か と 考えて も 、 全然 思い 付か なくて 。
腹 も 減って 来る し 、 このまま じゃ こごえ死 ん じまい そうだ と 思って さ 。 ── その とき 、 こいつ の こと 思い出した んだ 。 飯 だけ 食って 、 出て く つもりだった 。 迷惑 かけ たく ねえ から な 。 まさか 、 あんた が これ の 姉さん だ なんて 思い も し なかった し 」
「 こっち だって 、 あんた が ここ で 寝て る なんて 思って も い なかった わ よ 」
と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。
「 出て って も いい よ 。
俺 は どこ で だって 寝 られる 」
「 この 寒い のに ?
と 、 珠美 が 言った 、「 風邪 ひく よ 」
「 いい わ よ 」
夕 里子 が 息 を ついて 、「 ともかく 、 差し 当って は ここ に いなさ い 。
── 警察 だって 、 あんた が やった と 決めてかかって る わけじゃ ない んだ から 。 ── ねえ 、 お 姉さん 」
と 、 夕 里子 が 綾子 の 方 を 見た が …… 綾子 は 完全に 眠って いた ……。
そして 、 その後 、 また 勇一 が 眠り 込んで から 、 夕 里子 は 珠美 に 言った 。
「 私 たち 、 大変な 危険 を かかえ 込んで る の よ 。
分 って る ? 「 うん 」
「 犯人 を かくまう って の は 犯罪 な んだ から 。
── ま 、 大体 が 無 茶 やって 来て んだ し 、 私 も あんた の こと 、 言え ない けど ね 」
「 そう だ そうだ 」
「 調子 に 乗る な !
── いい ? いくら 、 あんた や お 姉さん が 、 あの 子 を 信じて たって 、 現実 に あの 子 が 犯人 だって こと も あり 得る の よ 」
「 分 って る わ よ 」
「 私 は ね 、 母親 代り の 立場 で 言って る の 。
分 る ? パパ が 帰って 来て 、 娘 三 人 、 皆殺し に なって る なんて 悲惨な こと に し たく ない でしょ ? 「 まさか !
「 最悪の 場合 は 、 よ 。
── いい ? 決して あの 子 と 二 人きり に なら ないで 。 帰る とき は 、 外 で 私 と 待ち合せて 帰る の よ 」
珠美 も 、 夕 里子 の この 言葉 に は 反論 の しよう も なく 、 ただ コックリ と 肯 く ばかり だった ……。
「── そろそろ 出 棺 か な 」
と 、 国 友 が 、 丸山 の 家 の 方 へ 目 を やった 。
「 そう ね 。
もう 焼香 客 も 来 ない みたいだ し ……」
と 、 珠美 が 言った 。
「 ちょっと 電話 を かけて 来る 。
── 珠美 君 、 まだ ここ に いる かい ? 「 うん 。
見送る つもり よ 」
「 じゃ 、 待って て くれ 」
国 友 が 行って しまう と 、 珠美 は 、 いささか 重苦しい 気分 で 、 考え 込んだ 。
珍しい こと である 。
── 珠美 と して も 、 夕 里子 の 心配 は よく 分 る 。
勇一 の こと を 信じて は いる のだ が 、 それ でも 、 世の中 、 人 に 裏切ら れる なんて 、 珍しく も 何とも ない こと ぐらい 、 承知 して いる 。
「── 夕 里子 姉ちゃん に 心配 かけちゃ いけない わ 」
と 、 珠美 は 呟いた 。
「 私 、 自分 で 犯人 捜そう ! その方 が 、 よっぽど 心配 を かける こと に なり そうだ が ……。
女 が 一 人 、 目の前 を 通って 行った 。
── 黒い スーツ 。 弔問 客 だろう 。
珠美 が 、 ふと その 女 に 目 を ひか れた の は 、 何となく 、 どこ か で 見た こと の ある 顔 の ように 見えた から だった 。
誰 だろう ?
── いくら 考えて も 分 ら ない 。
珠美 は 、 中 へ 入って みた 。
その 女 が 焼香 して いる 。
ふと 、 珠美 は 、 丸山 の 妻 に 目 を やって みた 。
丸山 の 妻 は 、 もう 大分 老け 込んで いて 、 もちろん 夫 を 亡くした せい で も あった だろう が 、 誰 が 焼香 に 来て も 、 ほとんど 気 に も 止め ない ように 、 機械 的に 頭 を 下げて いる 感じ だった 。
だが ── 今 は 違って いた 。
はっきり と 頭 を 上げて 、 目 を 見開いて 、 焼香 して いる 女 の 方 を 見て いる 。
ただ 見て いる ので は なかった 。 にらんで いる のだ 。
そう 。
それ は 、「 にらんで いる 」 と しか 言え ない 視線 だった 。
青ざめて いた 顔 に パッと 朱 が さし 、 キュッ と 唇 を 固く 結んで 、 何 か 爆発 し そうな もの を 抑えて いる 、 と いう 様子 だった 。
何 だろう ?
珠美 は 、 焼香 を 終って 、 こっち へ 向いた 女 の 顔 を 見つめた 。
年齢 は ── 珠美 は そう 観察 眼 の 鋭い 方 で は ない が ── せいぜい 三十 か そこら 。
なかなか 美人 。
まあ 、 多少 きつい 感じ で は ある 。
その 女 、 丸山 の 妻 の 方 は 全く 見よう と も せ ず 、 来た とき と 同じ ように 、 足早に 出て 行って しまった 。
妻 の 視線 は 、 その 女 の 背中 へ 、 突き刺さら ん ばかりだ 。
夫 の 恋人 か 何 か だった の か な ?
でも 、 あんな 美人 なら 、 丸山 なんか を 恋人 に する かしら ?
珠美 は なかなか 厳しい こと を 考えて いた 。
それ に 、 丸山 の 妻 の 視線 は 、 そういう 嫉妬 と か 怒り と いう の と は 、 どことなく 違って いる ように 、 珠美 に は 感じ られた 。
よし 。
── あの 女 の こと 、 探って やれ 。
別に 、 その 女 が 事件 と 関係 ある と いう 理由 も なかった のだ が 、 ともかく 、 珠美 は その 女 の 後 を 追って 行った 。
女 は 足早に 道 を 歩いて 行き 、 角 を 曲った 。
珠美 は 急いで その 角 まで 行って 足 を 止め 、 そっと 覗いて 見た 。
車 が 停 って いて 、 男 が ドア を 開けて 立って いる 。
── どこ か で 見た 男 だ な 、 と 思った 。
車 は 高 そうな 外車 で ……。
アッ と 珠美 は 声 を 上げ そうに なった 。
思い出した !
車 の わき に 立って いる 男 。
それ は 、 小 峰 と いう 老 紳士 ── 有田 信子 の 父親 と 名乗った ── の 秘書 だ 。
つい 、 興奮 して 顔 を ぐ い と 出して しまって いた らしい 。
その 秘書 が 、 珠美 に 気付いた 。
「 おい !
何 やって る ? 「 あ ── いえ 」
珠美 は あわてて 、 首 を 引っ込めた 。
帰り ま しょ ── と 歩き 出した が ……。
「 待てよ 」
秘書 が 走って 来て 、 珠美 の 前 に 立った 。
「 あの ── ご用 です か ?
「 そっち こそ 用 じゃ ない の か ?
何 を 覗いて た んだ ? 「 いえ ── ただ 、 車 が 珍しかった から 」
と 、 出まかせ を 言う 。
「 待てよ ……」
と 、 秘書 は 考え 込んだ 。
「 どこ か で 会った かな ? 「 人違い でしょ 」
「 いや 、 確かに ……。
そう だ ! あの 葬式 の とき 、 来て た 娘 だ な 」
「 ああ 、 そう でした ね 」
と 、 珠美 は とぼけて 、「 お 久しぶりで 」
「 ちょうど 良かった 」
「 え ?
何 が です か ? 「 小峰 様 が 君 に 会い たがって おら れる んだ 」
「 小 峰 って ── あの 、 勇一 の ── いえ 、 有田 さん の ……」
「 そうだ 。
来て くれ 」
「 でも ── ちょっと 人 が 待って る んです 」
「 いい 機会 だ よ 。
人 の めぐり合い って の は 、 一 度 逃す と 、 なかなか ない もん だ 」
「 そ 、 そう でしょう か ?
珠美 は 、 その 秘書 に ぐいぐい 押さ れる ように して 、 車 の 方 へ 連れて 行か れた 。
「── さあ 、 乗って 。
心配 する こと は ない 。 ちゃんと 帰り も 送る よ 」
「 は あ ……」
珠美 は 諦めて 、 車 に 乗り 込んだ 。
国 友 さん 、 心配 する か な 。
── でも 、 まあ ついて 行けば 、 この 女 の こと も 分 る だろう し ……。
女 と 並んで 後ろ の 座席 に 座る 。
車 は 、 バス や 地下鉄 と は 比較 に なら ない 滑らか さ で 走り 出した 。
「 あの ── どこ へ 行く んです か ?
珠美 は 訊 いて みた 。
「 小峰 様 の 屋敷 よ 」
と 、 女 が 言った 。
「 よろしく 。 私 は 草間 由美子 」
「 佐々 本 珠美 です 」
「 まあ 、 きれいな 名前 ね 」
と 、 草間 由美子 は 微笑んだ 。
「 可愛い わ ね 。 いく つ ? 「 十五 です 」
「 中学生 ?
「 三 年生 です 」
「 若い わ ねえ !
私 も 十 何 年 か 前 に は 、 そんな とき が あった んだ わ 」
「 いやに 感傷 的じゃ ない か 」
と 、 運転 して いる 秘書 が 言った 。
「 僕 は ね 、 小峰 様 の 秘書 で 井口 と いう んだ 」
「 ゆっくり して ね 。
三十 分 くらい で 着く わ 」
と 、 草間 由美子 が 言った 。
「 ええ ……」
「 何 か 飲む ?
ジュース でも 」
「 ジュース です か ?
ええ 、 でも ──」
草間 由美子 が 、 前 の 座席 の 背 を 開いた 。
ミニバー の セット が スッ と 出て 来る 。 珠美 は 目 を 丸く した 。
これ で 一 つ 、 話 の 種 が できた !
── 珠美 は 呑気 な こと を 考えて いた のである 。
「 いただき ます 」
珠美 は オレンジジュース を 飲んだ 。
── 葬儀 に 出て いて 、 ずっと 外 で 立って いた せい か 、 喉 も 渇いて いた 。
フレッシュジュース らしく 、 甘 み は あまり なく 、 少し 苦い 感じ だった が 、 それなり に おいしい 。
「 どうも 」
すっかり 空 に して 、 コップ を 返す 。
「 あなた 、 ボーイフレンド は ?
と 、 草間 由美子 が 訊 いた 。
「 私 です か ?
── い ない こと も ない けど ……」
勇一 を ボーイフレンド と は 呼び にくい 。
「 可愛い から 、 男の子 が 言い 寄って 来て 困る でしょ 」
「 そう で も ── ないで す 」
あまり 言わ れ つけ ない こと を 言わ れて 、 少々 照れて いる 。
珠美 は 欠 伸 を した 。
何だか 体 が だるく なって 来る 。
「 眠い ?
疲れた んじゃ ない の ? と 、 草間 由美子 が 言った 。
「 そんな こと …… ない んです けど 」
何だか 変だ わ 。
目 が トロン と して 来て 、 くっつき そうで ……。
「 寝て て も いい よ 」
と 、 井口 が 言った 。
「 着いたら 起こして あげる 」
「 いえ …… 大丈夫です 」
おかしい なあ 。
ゆうべ だって 、 ちゃんと いつも ぐらい は 寝て る のに 。
本当に ── おかしい 。
珠美 は 、 それ 以上 、「 おかしい 」 と 思う 間もなく 、 深い 眠り に 引き 込ま れて いた ……。