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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第五章 イゼルローン攻略 (2)

第 五 章 イゼルローン 攻略 (2)

「 第 一三 艦隊 に は 名人 が いる から 」

と 言って 、 ヤン は その 方面 は フィッシャー に 完全に まかせ きり 、 彼 が なに か 言えば うなずいて 承認 する だけ だった 。

ヤン の 頭脳 は 、 イゼルローン 要塞 攻略 法 の ただ 一事 に 集中 して いる 。 この 計画 を 最初 、 艦隊 首脳 部 の 三 人 ―― フィッシャー 、 ムライ 、 パトリチェフ ―― に 打ち明けた とき 、 もどって きた の は 〝 絶句 〟 だった 。

銀色 の 髪 と ひげ を もつ 初老 の フィッシャー 、 神経質 そうな やせた 中年 男 の ムライ 、 軍服 が はち きれ そうな ボリューム の ある 肉体 、 丸顔 に 長い も みあげ の パトリチェフ ―― 三 人 と も しばらく の あいだ 、 ただ 若い 司令 官 を 見つめて いた 。

「 もし 失敗 したら どう します ? 」 間 を おいて の ムライ の 質問 は 当然の こと だった 。 「 しっぽ を まいて 退散 する しか ない ね 」

「 しかし それ で は ……」

「 なに 、 心配 ない 。 もともと 半 個 艦隊 で イゼルローン を 陥 せ と いう の が 無理 難題 な んだ 。 恥 を かく の は シトレ 本 部長 と 私さ 」

三 人 を さがら せる と 、 ヤン は 今度 は 副 官 の フレデリカ ・ グリーンヒル 中尉 を 呼んだ 。

副 官 と いう 立場 上 、 フレデリカ は 三 人 の 幹部 より さき に 、 ヤン の 計画 を 知った のだ が 、 異議 を となえ も せ ず 、 懸念 を 表明 も し なかった 。 否 、 それどころか 、 ヤン 本人 以上 の 確信 を もって 成功 を 予言 した もの である 。

「 どうして そう 自信 満々 な んだ ? 」 奇妙な こと と 自覚 は し ながら も 、 ヤン は そう 問わ ず に い られ なかった 。 「 八 年 前 、 エル ・ ファシル の とき も 、 提督 は 成功 なさい ました もの 」

「 それ は また 薄弱 きわまる 根拠 じゃ ない か 」

「 でも 、 あの とき 提督 は 、 ひと り の 女の子 の 心 に 絶対 的な 信頼 を 植えつける こと に 成功 なさい ました 」

「……? 」 不審 げ な 上官 に むかって 、 金 褐色 の 頭髪 の 美しい 女性 士官 は 言った 。 「 わたし は その とき 母 と 一緒に エル ・ ファシル に いた のです 。 母 の 実家 が そこ に あり ました から 。 食事 する 暇 も ろくに なくて 、 サンドイッチ を かじり ながら 脱出 行 の 指揮 を とって いた 若い 中尉 さん の 姿 を 、 わたし は はっきり と 憶 えて います 。 でも 、 その サンドイッチ を 咽 喉 に 詰まら せた とき 、 紙 コップ に コーヒー を いれて もってきた 一四 歳 の 女の子 の こと など 、 中尉 さん の ほう は とっくに 忘れて おいで でしょう ね 」

「…………」

「 その コーヒー を 飲んで 生命 が 助かった あと で なんと 言った か 、 も 」

「…… なんと 言った ? 」 「 コーヒー は 嫌いだ から 紅茶 に して くれた ほう が よかった ――って 」 笑い の 発作 が おこり かけ 、 あわてた ヤン は 大きな せき を して 、 それ を 体 外 に おいだした 。

「 そんな 失礼な こと を 言った か な 」

「 ええ 、 おっしゃい ました 。 空 の 紙 コップ を 握りつぶし ながら ……」

「 そう か 、 謝る 。 しかし 、 きみの 記憶 力 は もっと 有益な 方面 に 生かす べきだ ね 」

もっともらしく 言った が 、 それ は 負けおしみ 以上 の もの で は ない ようだった 。 フレデリカ は 、 一万四〇〇〇 枚 に のぼる イゼルローン 要塞 の スライド 写真 の なか から 前後 矛盾 する 六 枚 を 発見 して 、 その 記憶 力 の 有益 さ を すでに 証明 して いた のだ から ……。

「 シェーンコップ 大佐 を 呼んで くれ 」

ヤン は そう 命じた 。

ワルター ・ フォン ・ シェーンコップ 大佐 は 正確に 三 分 後 、 ヤン の 前 に 姿 を あらわした 。 同盟 軍 陸 戦 総監 部 に 所属 する 〝 薔薇 の 騎士 〟 連隊 の 隊長 である 。 洗練 さ れた 容姿 を もつ 三〇 代 前半 の 男 だ が 、 同性 から は 〝 きざな 野郎 〟 と 思わ れる こと が 多い 。 れっきとした 帝国 貴族 の 出身 で 、 本来 なら 帝国 軍 の 提督 服 を 着て 戦場 に 立って いる ところ だ 。

〝 薔薇 の 騎士 〟 連隊 は 帝国 から 同盟 へ 亡命 して きた 貴族 の 子弟 を 中心 に 創設 さ れた もの で 、 半 世紀 の 歴史 を 有して いる 。 その 歴史 に は 黄金 の 文字 で 書か れた 部分 も ある が 、 黒く 塗りつぶさ れた 部分 も ある のだ 。 歴代 の 隊長 一二 名 。 四 名 は 旧 母国 と の 戦闘 で 死亡 。 二 名 は 将官 に 出世 した のち 、 退役 。 六 名 は 旧 母国 に はしった ―― ひそかに 脱出 した 者 も おり 、 戦闘 中 に それ まで の 敵 と 味方 を とりかえた 者 も いる 。 シェーンコップ は 一三 代 目 の 隊長 だった 。

一三 と いう 数 から して 不吉だ 、 奴 は いつか かならず 七 人 目 の 裏 切 者 に なる ぞ ―― そう 主張 する 者 が いる 。 なぜ 一三 と いう 数 が 不吉 か と いう と 、 これ に は 定説 が ない 。 地球 人類 を あやうく 全滅 さ せ かけて 核 分裂 兵器 全廃 の きっかけ と なった 熱 核 戦争 が 一三 日間 つづいた から 、 と いう 説 が ある 。 すでに 滅び さった 古い 宗教 の 開祖 が 一三 人 目 の 弟子 に 背か れた から と いう 説 も ある 。

「 フォン ・ シェーンコップ 、 参上 いたし ました 」

うやうやしい 口調 と 不謹慎な 表情 と が 不調和だった 。 自分 より 三 、 四 歳 年長の 旧 帝国 人 を 見 ながら 、 ヤン は 考える 。 この 男 は こういう わざとらしい 態度 を とる こと で 、 彼 なり に 人物 鑑別 の 手段 と して いる の かも しれ ない 、 と 。 だ と して も 、 いちいち つきあって は い られ ない が ……。

「 貴 官 に 相談 が ある 」

「 重要な こと で ? 」 「 たぶん ね 。 イゼルローン 要塞 攻略 の こと で だ 」

シェーンコップ の 視線 が 数 秒間 、 室 内 を 遊泳 した 。

「 それ は きわめて 重要です な 。 小 官 ごとき に よろしい のです か 」

「 貴 官 で なくて は だめな んだ 。 よく 聞いて ほしい 」

ヤン は 説明 を はじめた 。

…… 五 分 後 、 説明 を 聞き 終えた シェーンコップ の 褐色 の 目 に 奇妙な 表情 が あった 。 驚愕 を おし 隠そう と 苦労 して いる ようである 。

「 さきまわり して 言う と ね 、 大佐 、 こいつ は まともな 作戦 じゃ ない 。 詭計 、 いや 小細工 に 属する もの だ 」

黒い 軍用 ベレー を ぬいで 行儀 悪く 指先 で まわし ながら ヤン は 言った 。

「 しかし 難 攻 不 落 の イゼルローン 要塞 を 占領 する に は 、 これ しか ない と 思う 。 これ で だめ なら 、 私 の 能力 の およぶ ところ じゃ ない 」

「―― たしかに 、 他の 方法 は ない でしょう な 」

とがり ぎみの あご を シェーンコップ は なでた 。

「 堅 牢 な 要塞 に 拠 る ほど 、 人 は 油断 する もの 。 成功 の 可能 性 は 大いに あります 。 ただし ……」

「 ただし ? 」 「 私 が 噂 どおり 七 人 目 の 裏 切 者 に なった と したら 、 こと は すべて 水泡 に 帰します 。 そう なったら どう します ? 」 「 こまる 」 ヤン の 真剣な 表情 を 見て 、 シェーンコップ は 苦笑 した 。

「 そりゃ お こまり でしょう な 、 たしかに 。 し かしこまって ばかり いる わけです か ? なに か 対処 法 を 考えて おいで でしょう に 」

「 考え は した けど ね 」

「 で ? 」 「 なにも 思い浮かば なかった 。 貴 官 が 裏切ったら 、 そこ で お手上げ だ 。 どう しよう も ない 」

ベレー 帽 が ヤン の 指 を はずれて 床 に 飛んだ 。 旧 帝国 人 の 手 が 伸びて それ を 拾いあげ 、 ついて も いない 埃 を 払って から 上官 に 手わたす 。 「 悪い な 」

「 どう いたし まして 。 すると 私 を 全面 的に 信用 なさる わけで ? 」 「 じつは あまり 自信 が ない 」 あっさり と ヤン は 答えた 。

「 だが 貴 官 を 信用 し ない かぎり 、 この 計画 そのもの が 成立 し ない 。 だから 信用 する 。 こいつ は 大 前提 な んだ 」

「 なるほど 」

と は 言った もの の 、 かならずしも 納得 した シェーンコップ の 表情 で は なかった 。 〝 薔薇 の 騎士 〟 連隊 の 指揮 官 は 、 なかば 探り なかば 自省 する ような 視線 で あらためて 若い 上官 を 見 やった 。

「 ひと つ うかがって よろしい です か 、 提督 」

「 ああ 」

「 今回 あなた に かせ られた 命令 は 、 どだい 無理な もの だった 。 半 個 艦隊 、 それ も 烏 合 の 衆 に ひとしい 弱 兵 を ひきいて 、 イゼルローン 要塞 を 陥落 せ と いう のです から な 。 拒否 なさって も 、 あなた を 責める 者 は すくない はず 。 それ を 承諾 なさった の は 、 実行 の 技術 面 で は この 計画 が お あり だった から でしょう 。 しかし 、 さらに その 底 に は なに が あった か を 知りたい もの です 。 名誉 欲 です か 、 出世 欲 です か 」

シェーンコップ の 眼光 は 辛辣で 容赦 が なかった 。

「 出世 欲 じゃ ない と 思う な 」

ヤン の 返答 は 淡々と して いて 、 むしろ 他人事 の ようだった 。

「 三〇 歳 前 で 閣下 呼ばわり さ れれば 、 もう 充分だ 。 だいいち 、 この 作戦 が 終わって 生きて いたら 私 は 退役 する つもりだ から 」

「 退役 です と ? 」 「 うん 、 まあ 、 年金 も つくし 退職 金 も でる し …… 私 と もう ひと り ぐらい 、 つつましく 生活 する ぶん に は ね 、 不自由 ない はずだ 」 「 この 情勢 下 に 退役 する と おっしゃる ? 」 理解 に 苦しむ と 言わんばかり の シェーンコップ の 声 に ヤン は 笑った 。 「 それ 、 その 情勢 と いう やつ さ 。 イゼルローン を わが 軍 が 占領 すれば 、 帝国 軍 は 侵攻 の ほとんど 唯一 の ルート を 断た れる 。 同盟 の ほう から 逆 侵攻 など と いう ばかな ま ね を し ない かぎり 、 両軍 は 衝突 し たく と も でき なく なる 。 すくなくとも 大規模に は ね 」

「…………」

「 そこ で これ は 同盟 政府 の 外交 手腕 しだい だ が 、 軍事 的に 有利な 地歩 を しめた ところ で 、 帝国 と の あいだ に 、 なんとか 満足の いく 和平 条約 を むすべる かも しれ ない 。 そうなれば 私 と して は 安心 して 退役 できる わけ さ 」

「 しかし その 平和 が 恒久 的な もの に なり えます か な 」 「 恒久 平和 なんて 人類 の 歴史 上 なかった 。 だから 私 は そんな もの のぞみ は し ない 。 だが 何 十 年 か の 平和で ゆたかな 時代 は 存在 できた 。 吾々 が つぎの 世代 に なに か 遺産 を 託さ なくて は なら ない と する なら 、 やはり 平和 が いちばん だ 。 そして 前 の 世代 から 手わたさ れた 平和 を 維持 する の は 、 つぎの 世代 の 責任 だ 。 それぞれ の 世代 が 、 のち の 世代 へ の 責任 を 忘れ ないで いれば 、 結果 と して 長 期間 の 平和 が たもてる だろう 。 忘れれば 先人 の 遺産 は 食いつぶさ れ 、 人類 は 一 から 再 出発 と いう こと に なる 。 まあ 、 それ も いい けど ね 」

もてあそんで いた 軍用 ベレー を ヤン は かるく 頭 に のせた 。

「 要するに 私 の 希望 は 、 たかだか このさき 何 十 年 か の 平和な んだ 。 だが それ でも 、 その 十 分 の 一 の 期間 の 戦乱 に 勝る こと 幾 万 倍 だ と 思う 。 私 の 家 に 一四 歳 の 男の子 が いる が 、 その 子 が 戦場 に ひきださ れる の を 見 たく ない 。 そういう こと だ 」

ヤン が 口 を 閉ざす と 沈黙 が おりた 。 それ も 長く は なかった 。

「 失礼 ながら 、 提督 、 あなた は よほど の 正直 者 か 、 でなければ ルドルフ 大帝 以来 の 詭弁 家 です な 」

シェーンコップ は に やり と 笑って みせた 。

「 とにかく 期待 以上 の 返答 は いただいた 。 このうえ は 私 も 微力 を つくす と しましょう 。 永遠 なら ざる 平和 の ため に 」

感激 して 手 を にぎりあう ような 趣味 は ふた り と も もちあわせて い なかった ので 、 話 は すぐ 実務 的な こと に はいり 、 細部 の 検討 が おこなわ れた 。

Ⅲ イゼルローン に は 二 名 の 帝国 軍 大将 が いる 。 ひと り は 要塞 司令 官 トーマ ・ フォン ・ シュトックハウゼン 大将 で 、 いま ひと り は 要塞 駐留 艦隊 司令 官 ハンス ・ ディートリヒ ・ フォン ・ ゼークト 大将 である 。 年齢 は どちら も 五〇 歳 、 長身 も 共通 して いる が 、 シュトックハウゼン の 胴 囲 は ゼークト より ひとまわり 細い 。

両者 の 仲 は 親密で は なかった が 、 これ は 個人 的な 責任 と いう より 伝統 的な もの だった 。 同一の 職場 に 同格 の 司令 官 が 二 名 いる のだ 。 角突きあわせ ない の が 不思議である 。

感情 的 対立 は 彼ら の 配下 の 兵士 たち に も 当然 およんで いた 。 要塞 守備 兵 から みれば 、 艦隊 は で かい 面 を した 食 客 であり 、 外 で 戦って 危険に なれば 安全な 場所 を もとめて 逃げ 帰って くる 、 いわば どら 息子 であった 。 艦隊 乗組員 に 言わ せれば 、 要塞 守備 兵 は 安全な 隠れ家 に こもって 適当に 戦争 ごっこ に 興じて いる 宇宙 もぐら だった 。

第 五 章 イゼルローン 攻略 (2) だい|いつ|しょう||こうりゃく

「 第 一三 艦隊 に は 名人 が いる から 」 だい|かずみ|かんたい|||めいじん|||

と 言って 、 ヤン は その 方面 は フィッシャー に 完全に まかせ きり 、 彼 が なに か 言えば うなずいて 承認 する だけ だった 。 |いって||||ほうめん||||かんぜんに|||かれ||||いえば||しょうにん|||

ヤン の 頭脳 は 、 イゼルローン 要塞 攻略 法 の ただ 一事 に 集中 して いる 。 ||ずのう|||ようさい|こうりゃく|ほう|||いちじ||しゅうちゅう|| この 計画 を 最初 、 艦隊 首脳 部 の 三 人 ―― フィッシャー 、 ムライ 、 パトリチェフ ―― に 打ち明けた とき 、 もどって きた の は 〝 絶句 〟 だった 。 |けいかく||さいしょ|かんたい|しゅのう|ぶ||みっ|じん|||||うちあけた||||||ぜっく|

銀色 の 髪 と ひげ を もつ 初老 の フィッシャー 、 神経質 そうな やせた 中年 男 の ムライ 、 軍服 が はち きれ そうな ボリューム の ある 肉体 、 丸顔 に 長い も みあげ の パトリチェフ ―― 三 人 と も しばらく の あいだ 、 ただ 若い 司令 官 を 見つめて いた 。 ぎんいろ||かみ|||||しょろう|||しんけいしつ|そう な||ちゅうねん|おとこ|||ぐんぷく||||そう な|ぼりゅーむ|||にくたい|まるがお||ながい|||||みっ|じん|||||||わかい|しれい|かん||みつめて|

「 もし 失敗 したら どう します ? |しっぱい||| 」 間 を おいて の ムライ の 質問 は 当然の こと だった 。 あいだ||||||しつもん||とうぜんの|| 「 しっぽ を まいて 退散 する しか ない ね 」 |||たいさん||||

「 しかし それ で は ……」

「 なに 、 心配 ない 。 |しんぱい| もともと 半 個 艦隊 で イゼルローン を 陥 せ と いう の が 無理 難題 な んだ 。 |はん|こ|かんたい||||おちい||||||むり|なんだい|| 恥 を かく の は シトレ 本 部長 と 私さ 」 はじ||||||ほん|ぶちょう||わたくしさ

三 人 を さがら せる と 、 ヤン は 今度 は 副 官 の フレデリカ ・ グリーンヒル 中尉 を 呼んだ 。 みっ|じん|||||||こんど||ふく|かん||||ちゅうい||よんだ

副 官 と いう 立場 上 、 フレデリカ は 三 人 の 幹部 より さき に 、 ヤン の 計画 を 知った のだ が 、 異議 を となえ も せ ず 、 懸念 を 表明 も し なかった 。 ふく|かん|||たちば|うえ|||みっ|じん||かんぶ||||||けいかく||しった|||いぎ||||||けねん||ひょうめい||| 否 、 それどころか 、 ヤン 本人 以上 の 確信 を もって 成功 を 予言 した もの である 。 いな|||ほんにん|いじょう||かくしん|||せいこう||よげん|||

「 どうして そう 自信 満々 な んだ ? ||じしん|まんまん|| 」 奇妙な こと と 自覚 は し ながら も 、 ヤン は そう 問わ ず に い られ なかった 。 きみょうな|||じかく||||||||とわ||||| 「 八 年 前 、 エル ・ ファシル の とき も 、 提督 は 成功 なさい ました もの 」 やっ|とし|ぜん||||||ていとく||せいこう|||

「 それ は また 薄弱 きわまる 根拠 じゃ ない か 」 |||はくじゃく||こんきょ|||

「 でも 、 あの とき 提督 は 、 ひと り の 女の子 の 心 に 絶対 的な 信頼 を 植えつける こと に 成功 なさい ました 」 |||ていとく|||||おんなのこ||こころ||ぜったい|てきな|しんらい||うえつける|||せいこう||

「……? 」 不審 げ な 上官 に むかって 、 金 褐色 の 頭髪 の 美しい 女性 士官 は 言った 。 ふしん|||じょうかん|||きむ|かっしょく||とうはつ||うつくしい|じょせい|しかん||いった 「 わたし は その とき 母 と 一緒に エル ・ ファシル に いた のです 。 ||||はは||いっしょに|||||の です 母 の 実家 が そこ に あり ました から 。 はは||じっか|||||| 食事 する 暇 も ろくに なくて 、 サンドイッチ を かじり ながら 脱出 行 の 指揮 を とって いた 若い 中尉 さん の 姿 を 、 わたし は はっきり と 憶 えて います 。 しょくじ||いとま||||さんどいっち||||だっしゅつ|ぎょう||しき||||わかい|ちゅうい|||すがた||||||おく|| でも 、 その サンドイッチ を 咽 喉 に 詰まら せた とき 、 紙 コップ に コーヒー を いれて もってきた 一四 歳 の 女の子 の こと など 、 中尉 さん の ほう は とっくに 忘れて おいで でしょう ね 」 ||さんどいっち||むせ|のど||つまら|||かみ|こっぷ||こーひー||||いちし|さい||おんなのこ||||ちゅうい||||||わすれて|||

「…………」

「 その コーヒー を 飲んで 生命 が 助かった あと で なんと 言った か 、 も 」 |こーひー||のんで|せいめい||たすかった||||いった||

「…… なんと 言った ? |いった 」 「 コーヒー は 嫌いだ から 紅茶 に して くれた ほう が よかった ――って 」 こーひー||きらいだ||こうちゃ||||||| 笑い の 発作 が おこり かけ 、 あわてた ヤン は 大きな せき を して 、 それ を 体 外 に おいだした 。 わらい||ほっさ|||||||おおきな||||||からだ|がい||

「 そんな 失礼な こと を 言った か な 」 |しつれいな|||いった||

「 ええ 、 おっしゃい ました 。 空 の 紙 コップ を 握りつぶし ながら ……」 から||かみ|こっぷ||にぎりつぶし|

「 そう か 、 謝る 。 ||あやまる しかし 、 きみの 記憶 力 は もっと 有益な 方面 に 生かす べきだ ね 」 ||きおく|ちから|||ゆうえきな|ほうめん||いかす||

もっともらしく 言った が 、 それ は 負けおしみ 以上 の もの で は ない ようだった 。 |いった||||まけおしみ|いじょう|||||| フレデリカ は 、 一万四〇〇〇 枚 に のぼる イゼルローン 要塞 の スライド 写真 の なか から 前後 矛盾 する 六 枚 を 発見 して 、 その 記憶 力 の 有益 さ を すでに 証明 して いた のだ から ……。 ||いちまんし|まい||||ようさい||すらいど|しゃしん||||ぜんご|むじゅん||むっ|まい||はっけん|||きおく|ちから||ゆうえき||||しょうめい||||

「 シェーンコップ 大佐 を 呼んで くれ 」 |たいさ||よんで|

ヤン は そう 命じた 。 |||めいじた

ワルター ・ フォン ・ シェーンコップ 大佐 は 正確に 三 分 後 、 ヤン の 前 に 姿 を あらわした 。 |||たいさ||せいかくに|みっ|ぶん|あと|||ぜん||すがた|| 同盟 軍 陸 戦 総監 部 に 所属 する 〝 薔薇 の 騎士 〟 連隊 の 隊長 である 。 どうめい|ぐん|りく|いくさ|そうかん|ぶ||しょぞく||ばら||きし|れんたい||たいちょう| 洗練 さ れた 容姿 を もつ 三〇 代 前半 の 男 だ が 、 同性 から は 〝 きざな 野郎 〟 と 思わ れる こと が 多い 。 せんれん|||ようし|||みっ|だい|ぜんはん||おとこ|||どうせい||||やろう||おもわ||||おおい れっきとした 帝国 貴族 の 出身 で 、 本来 なら 帝国 軍 の 提督 服 を 着て 戦場 に 立って いる ところ だ 。 |ていこく|きぞく||しゅっしん||ほんらい||ていこく|ぐん||ていとく|ふく||きて|せんじょう||たって|||

〝 薔薇 の 騎士 〟 連隊 は 帝国 から 同盟 へ 亡命 して きた 貴族 の 子弟 を 中心 に 創設 さ れた もの で 、 半 世紀 の 歴史 を 有して いる 。 ばら||きし|れんたい||ていこく||どうめい||ぼうめい|||きぞく||してい||ちゅうしん||そうせつ|||||はん|せいき||れきし||ゆうして| その 歴史 に は 黄金 の 文字 で 書か れた 部分 も ある が 、 黒く 塗りつぶさ れた 部分 も ある のだ 。 |れきし|||おうごん||もじ||かか||ぶぶん||||くろく|ぬりつぶさ||ぶぶん||| 歴代 の 隊長 一二 名 。 れきだい||たいちょう|いちに|な 四 名 は 旧 母国 と の 戦闘 で 死亡 。 よっ|な||きゅう|ぼこく|||せんとう||しぼう 二 名 は 将官 に 出世 した のち 、 退役 。 ふた|な||しょうかん||しゅっせ|||たいえき 六 名 は 旧 母国 に はしった ―― ひそかに 脱出 した 者 も おり 、 戦闘 中 に それ まで の 敵 と 味方 を とりかえた 者 も いる 。 むっ|な||きゅう|ぼこく||||だっしゅつ||もの|||せんとう|なか|||||てき||みかた|||もの|| シェーンコップ は 一三 代 目 の 隊長 だった 。 ||かずみ|だい|め||たいちょう|

一三 と いう 数 から して 不吉だ 、 奴 は いつか かならず 七 人 目 の 裏 切 者 に なる ぞ ―― そう 主張 する 者 が いる 。 かずみ|||すう|||ふきつだ|やつ||||なな|じん|め||うら|せつ|もの|||||しゅちょう||もの|| なぜ 一三 と いう 数 が 不吉 か と いう と 、 これ に は 定説 が ない 。 |かずみ|||すう||ふきつ||||||||ていせつ|| 地球 人類 を あやうく 全滅 さ せ かけて 核 分裂 兵器 全廃 の きっかけ と なった 熱 核 戦争 が 一三 日間 つづいた から 、 と いう 説 が ある 。 ちきゅう|じんるい|||ぜんめつ||||かく|ぶんれつ|へいき|ぜんぱい|||||ねつ|かく|せんそう||かずみ|にち かん|||||せつ|| すでに 滅び さった 古い 宗教 の 開祖 が 一三 人 目 の 弟子 に 背か れた から と いう 説 も ある 。 |ほろび||ふるい|しゅうきょう||かいそ||かずみ|じん|め||でし||そむか|||||せつ||

「 フォン ・ シェーンコップ 、 参上 いたし ました 」 ||さんじょう||

うやうやしい 口調 と 不謹慎な 表情 と が 不調和だった 。 |くちょう||ふきんしんな|ひょうじょう|||ふちょうわだった 自分 より 三 、 四 歳 年長の 旧 帝国 人 を 見 ながら 、 ヤン は 考える 。 じぶん||みっ|よっ|さい|ねんちょうの|きゅう|ていこく|じん||み||||かんがえる この 男 は こういう わざとらしい 態度 を とる こと で 、 彼 なり に 人物 鑑別 の 手段 と して いる の かも しれ ない 、 と 。 |おとこ||||たいど|||||かれ|||じんぶつ|かんべつ||しゅだん|||||||| だ と して も 、 いちいち つきあって は い られ ない が ……。

「 貴 官 に 相談 が ある 」 とうと|かん||そうだん||

「 重要な こと で ? じゅうような|| 」 「 たぶん ね 。 イゼルローン 要塞 攻略 の こと で だ 」 |ようさい|こうりゃく||||

シェーンコップ の 視線 が 数 秒間 、 室 内 を 遊泳 した 。 ||しせん||すう|びょうかん|しつ|うち||ゆうえい|

「 それ は きわめて 重要です な 。 |||じゅうよう です| 小 官 ごとき に よろしい のです か 」 しょう|かん||||の です|

「 貴 官 で なくて は だめな んだ 。 とうと|かん||||| よく 聞いて ほしい 」 |きいて|

ヤン は 説明 を はじめた 。 ||せつめい||

…… 五 分 後 、 説明 を 聞き 終えた シェーンコップ の 褐色 の 目 に 奇妙な 表情 が あった 。 いつ|ぶん|あと|せつめい||きき|おえた|||かっしょく||め||きみょうな|ひょうじょう|| 驚愕 を おし 隠そう と 苦労 して いる ようである 。 きょうがく|||かくそう||くろう|||

「 さきまわり して 言う と ね 、 大佐 、 こいつ は まともな 作戦 じゃ ない 。 ||いう|||たいさ||||さくせん|| 詭計 、 いや 小細工 に 属する もの だ 」 きけい||こざいく||ぞくする||

黒い 軍用 ベレー を ぬいで 行儀 悪く 指先 で まわし ながら ヤン は 言った 。 くろい|ぐんよう||||ぎょうぎ|わるく|ゆびさき||||||いった

「 しかし 難 攻 不 落 の イゼルローン 要塞 を 占領 する に は 、 これ しか ない と 思う 。 |なん|おさむ|ふ|おと|||ようさい||せんりょう||||||||おもう これ で だめ なら 、 私 の 能力 の およぶ ところ じゃ ない 」 ||||わたくし||のうりょく|||||

「―― たしかに 、 他の 方法 は ない でしょう な 」 |たの|ほうほう||||

とがり ぎみの あご を シェーンコップ は なでた 。

「 堅 牢 な 要塞 に 拠 る ほど 、 人 は 油断 する もの 。 かた|ろう||ようさい||きょ|||じん||ゆだん|| 成功 の 可能 性 は 大いに あります 。 せいこう||かのう|せい||おおいに| ただし ……」

「 ただし ? 」 「 私 が 噂 どおり 七 人 目 の 裏 切 者 に なった と したら 、 こと は すべて 水泡 に 帰します 。 わたくし||うわさ||なな|じん|め||うら|せつ|もの||||||||すいほう||きします そう なったら どう します ? 」 「 こまる 」 ヤン の 真剣な 表情 を 見て 、 シェーンコップ は 苦笑 した 。 ||しんけんな|ひょうじょう||みて|||くしょう|

「 そりゃ お こまり でしょう な 、 たしかに 。 し かしこまって ばかり いる わけです か ? ||||わけ です| なに か 対処 法 を 考えて おいで でしょう に 」 ||たいしょ|ほう||かんがえて|||

「 考え は した けど ね 」 かんがえ||||

「 で ? 」 「 なにも 思い浮かば なかった 。 |おもいうかば| 貴 官 が 裏切ったら 、 そこ で お手上げ だ 。 とうと|かん||うらぎったら|||おてあげ| どう しよう も ない 」

ベレー 帽 が ヤン の 指 を はずれて 床 に 飛んだ 。 |ぼう||||ゆび|||とこ||とんだ 旧 帝国 人 の 手 が 伸びて それ を 拾いあげ 、 ついて も いない 埃 を 払って から 上官 に 手わたす 。 きゅう|ていこく|じん||て||のびて|||ひろいあげ||||ほこり||はらって||じょうかん||てわたす 「 悪い な 」 わるい|

「 どう いたし まして 。 すると 私 を 全面 的に 信用 なさる わけで ? |わたくし||ぜんめん|てきに|しんよう|| 」 「 じつは あまり 自信 が ない 」 ||じしん|| あっさり と ヤン は 答えた 。 ||||こたえた

「 だが 貴 官 を 信用 し ない かぎり 、 この 計画 そのもの が 成立 し ない 。 |とうと|かん||しんよう|||||けいかく|その もの||せいりつ|| だから 信用 する 。 |しんよう| こいつ は 大 前提 な んだ 」 ||だい|ぜんてい||

「 なるほど 」

と は 言った もの の 、 かならずしも 納得 した シェーンコップ の 表情 で は なかった 。 ||いった||||なっとく||||ひょうじょう||| 〝 薔薇 の 騎士 〟 連隊 の 指揮 官 は 、 なかば 探り なかば 自省 する ような 視線 で あらためて 若い 上官 を 見 やった 。 ばら||きし|れんたい||しき|かん|||さぐり||じせい|||しせん|||わかい|じょうかん||み|

「 ひと つ うかがって よろしい です か 、 提督 」 ||||||ていとく

「 ああ 」

「 今回 あなた に かせ られた 命令 は 、 どだい 無理な もの だった 。 こんかい|||||めいれい|||むりな|| 半 個 艦隊 、 それ も 烏 合 の 衆 に ひとしい 弱 兵 を ひきいて 、 イゼルローン 要塞 を 陥落 せ と いう のです から な 。 はん|こ|かんたい|||からす|ごう||しゅう|||じゃく|つわもの||||ようさい||かんらく||||の です|| 拒否 なさって も 、 あなた を 責める 者 は すくない はず 。 きょひ|||||せめる|もの||| それ を 承諾 なさった の は 、 実行 の 技術 面 で は この 計画 が お あり だった から でしょう 。 ||しょうだく||||じっこう||ぎじゅつ|おもて||||けいかく|||||| しかし 、 さらに その 底 に は なに が あった か を 知りたい もの です 。 |||そこ||||||||しりたい|| 名誉 欲 です か 、 出世 欲 です か 」 めいよ|よく|||しゅっせ|よく||

シェーンコップ の 眼光 は 辛辣で 容赦 が なかった 。 ||がんこう||しんらつで|ようしゃ||

「 出世 欲 じゃ ない と 思う な 」 しゅっせ|よく||||おもう|

ヤン の 返答 は 淡々と して いて 、 むしろ 他人事 の ようだった 。 ||へんとう||たんたんと||||ひとごと||

「 三〇 歳 前 で 閣下 呼ばわり さ れれば 、 もう 充分だ 。 みっ|さい|ぜん||かっか|よばわり||||じゅうぶんだ だいいち 、 この 作戦 が 終わって 生きて いたら 私 は 退役 する つもりだ から 」 ||さくせん||おわって|いきて||わたくし||たいえき|||

「 退役 です と ? たいえき|| 」 「 うん 、 まあ 、 年金 も つくし 退職 金 も でる し …… 私 と もう ひと り ぐらい 、 つつましく 生活 する ぶん に は ね 、 不自由 ない はずだ 」 ||ねんきん|||たいしょく|きむ||||わたくし|||||||せいかつ||||||ふじゆう|| 「 この 情勢 下 に 退役 する と おっしゃる ? |じょうせい|した||たいえき||| 」 理解 に 苦しむ と 言わんばかり の シェーンコップ の 声 に ヤン は 笑った 。 りかい||くるしむ||いわんばかり||||こえ||||わらった 「 それ 、 その 情勢 と いう やつ さ 。 ||じょうせい|||| イゼルローン を わが 軍 が 占領 すれば 、 帝国 軍 は 侵攻 の ほとんど 唯一 の ルート を 断た れる 。 |||ぐん||せんりょう||ていこく|ぐん||しんこう|||ゆいいつ||るーと||たた| 同盟 の ほう から 逆 侵攻 など と いう ばかな ま ね を し ない かぎり 、 両軍 は 衝突 し たく と も でき なく なる 。 どうめい||||ぎゃく|しんこう|||||||||||りょうぐん||しょうとつ||||||| すくなくとも 大規模に は ね 」 |だいきぼに||

「…………」

「 そこ で これ は 同盟 政府 の 外交 手腕 しだい だ が 、 軍事 的に 有利な 地歩 を しめた ところ で 、 帝国 と の あいだ に 、 なんとか 満足の いく 和平 条約 を むすべる かも しれ ない 。 ||||どうめい|せいふ||がいこう|しゅわん||||ぐんじ|てきに|ゆうりな|ちほ|||||ていこく||||||まんぞくの||わへい|じょうやく||||| そうなれば 私 と して は 安心 して 退役 できる わけ さ 」 そう なれば|わたくし||||あんしん||たいえき|||

「 しかし その 平和 が 恒久 的な もの に なり えます か な 」 ||へいわ||こうきゅう|てきな|||||| 「 恒久 平和 なんて 人類 の 歴史 上 なかった 。 こうきゅう|へいわ||じんるい||れきし|うえ| だから 私 は そんな もの のぞみ は し ない 。 |わたくし||||||| だが 何 十 年 か の 平和で ゆたかな 時代 は 存在 できた 。 |なん|じゅう|とし|||へいわで||じだい||そんざい| 吾々 が つぎの 世代 に なに か 遺産 を 託さ なくて は なら ない と する なら 、 やはり 平和 が いちばん だ 。 われ々|||せだい||||いさん||たくさ|||||||||へいわ||| そして 前 の 世代 から 手わたさ れた 平和 を 維持 する の は 、 つぎの 世代 の 責任 だ 。 |ぜん||せだい||てわたさ||へいわ||いじ|||||せだい||せきにん| それぞれ の 世代 が 、 のち の 世代 へ の 責任 を 忘れ ないで いれば 、 結果 と して 長 期間 の 平和 が たもてる だろう 。 ||せだい||||せだい|||せきにん||わすれ|||けっか|||ちょう|きかん||へいわ||| 忘れれば 先人 の 遺産 は 食いつぶさ れ 、 人類 は 一 から 再 出発 と いう こと に なる 。 わすれれば|せんじん||いさん||くいつぶさ||じんるい||ひと||さい|しゅっぱつ||||| まあ 、 それ も いい けど ね 」

もてあそんで いた 軍用 ベレー を ヤン は かるく 頭 に のせた 。 ||ぐんよう||||||あたま||

「 要するに 私 の 希望 は 、 たかだか このさき 何 十 年 か の 平和な んだ 。 ようするに|わたくし||きぼう||||なん|じゅう|とし|||へいわな| だが それ でも 、 その 十 分 の 一 の 期間 の 戦乱 に 勝る こと 幾 万 倍 だ と 思う 。 ||||じゅう|ぶん||ひと||きかん||せんらん||まさる||いく|よろず|ばい|||おもう 私 の 家 に 一四 歳 の 男の子 が いる が 、 その 子 が 戦場 に ひきださ れる の を 見 たく ない 。 わたくし||いえ||いちし|さい||おとこのこ|||||こ||せんじょう||||||み|| そういう こと だ 」

ヤン が 口 を 閉ざす と 沈黙 が おりた 。 ||くち||とざす||ちんもく|| それ も 長く は なかった 。 ||ながく||

「 失礼 ながら 、 提督 、 あなた は よほど の 正直 者 か 、 でなければ ルドルフ 大帝 以来 の 詭弁 家 です な 」 しつれい||ていとく|||||しょうじき|もの||||たいてい|いらい||きべん|いえ||

シェーンコップ は に やり と 笑って みせた 。 |||||わらって|

「 とにかく 期待 以上 の 返答 は いただいた 。 |きたい|いじょう||へんとう|| このうえ は 私 も 微力 を つくす と しましょう 。 ||わたくし||びりょく|||| 永遠 なら ざる 平和 の ため に 」 えいえん|||へいわ|||

感激 して 手 を にぎりあう ような 趣味 は ふた り と も もちあわせて い なかった ので 、 話 は すぐ 実務 的な こと に はいり 、 細部 の 検討 が おこなわ れた 。 かんげき||て||||しゅみ||||||||||はなし|||じつむ|てきな||||さいぶ||けんとう|||

Ⅲ イゼルローン に は 二 名 の 帝国 軍 大将 が いる 。 |||ふた|な||ていこく|ぐん|たいしょう|| ひと り は 要塞 司令 官 トーマ ・ フォン ・ シュトックハウゼン 大将 で 、 いま ひと り は 要塞 駐留 艦隊 司令 官 ハンス ・ ディートリヒ ・ フォン ・ ゼークト 大将 である 。 |||ようさい|しれい|かん||||たいしょう||||||ようさい|ちゅうりゅう|かんたい|しれい|かん|||||たいしょう| 年齢 は どちら も 五〇 歳 、 長身 も 共通 して いる が 、 シュトックハウゼン の 胴 囲 は ゼークト より ひとまわり 細い 。 ねんれい||||いつ|さい|ちょうしん||きょうつう||||||どう|かこ|||||ほそい

両者 の 仲 は 親密で は なかった が 、 これ は 個人 的な 責任 と いう より 伝統 的な もの だった 。 りょうしゃ||なか||しんみつで||||||こじん|てきな|せきにん||||でんとう|てきな|| 同一の 職場 に 同格 の 司令 官 が 二 名 いる のだ 。 どういつの|しょくば||どうかく||しれい|かん||ふた|な|| 角突きあわせ ない の が 不思議である 。 つのつきあわせ||||ふしぎである

感情 的 対立 は 彼ら の 配下 の 兵士 たち に も 当然 およんで いた 。 かんじょう|てき|たいりつ||かれら||はいか||へいし||||とうぜん|| 要塞 守備 兵 から みれば 、 艦隊 は で かい 面 を した 食 客 であり 、 外 で 戦って 危険に なれば 安全な 場所 を もとめて 逃げ 帰って くる 、 いわば どら 息子 であった 。 ようさい|しゅび|つわもの|||かんたい||||おもて|||しょく|きゃく||がい||たたかって|きけんに||あんぜんな|ばしょ|||にげ|かえって||||むすこ| 艦隊 乗組員 に 言わ せれば 、 要塞 守備 兵 は 安全な 隠れ家 に こもって 適当に 戦争 ごっこ に 興じて いる 宇宙 もぐら だった 。 かんたい|のりくみいん||いわ||ようさい|しゅび|つわもの||あんぜんな|かくれが|||てきとうに|せんそう|||きょうじて||うちゅう||