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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (4)

悪人 下 (4)

夕方 に なって 、 数 組 の 客 が 同時に 訪れた 。 うち 馬 込 光代 が 受け持った の は 、 二十 代 半 ば の 男性 二 人 組 で 、 スーツ を 選び ながら の まるで 漫才 の ような 掛け合い を 聞いて いる 限 り で は 、 背 の 低い ほう が 最近 やっと 再 就職 の 面接 に 受かった ようで 、 友人 を 引き連れて 来店 した らしかった 。 「 これ まで ずっと 作業 服 や つけ ん 、 スーツって いまいち どれ を 買えば よか と か 分から ん けん な 」 「 しかし 、 普通 、 スーツ と か 買う とき は 、 女房 連れて こんや ? 」 「 馬鹿 言え 、 あれ と 一緒に 来たら 、 シャシ から ネクタイ まで 、 一式 最 安値 商品 で 揃 えら れる 」 「 なん や 、 高級 スーツ 買う つもり や ? 」 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? 「 そう じゃ なか けど 、 中級 さ 、 中級 」 なんだ かんだ と 言い ながら 、 ラック に 吊られた スーツ を 片っ端から 手 に 取って 、 二 人 仲良く 胸 に 当てて いく 。 光代 は 「 まだ 若く 見える が 、 もう この 年代 でも 結婚 して いる んだ なあ 」 と 思い ながら 、 つか ず 離れ ず 、 気長に 声 を かけられる の を 待って いた 。 試着 室 の 前 に は メジャー を 首 に かけた 売り場 主任 の 水谷 和子 が 立って いた 。 さっき 休 憩 を 終えて フロア へ 戻って きた 水谷 に 、 光代 は 今夜 少し 時間 が ない か と 尋ねた 。 もし あ れば 軽く 飲み に 行か ない か と 。 珍しい 誘い に 、 一瞬 、 水谷 は 首 を 捻った が 、「 大丈夫 よ 。 うち の 旦那 も ちょっと 遅う かいてん ずし なるって 言い よった し 、 どこ 行こう か ? この 前 ビックリ バー の 隣 に 出来た 回転 寿司 で も ょかたい ね 」 と 妙に 乗り気に なって くれた 。 じゃあ 、 その 回転 寿司 に 行こう と 決まって 、 光代 が 持ち場 へ 戻ろう と する と 、 水谷 が さっと その 手 を 掴み 、「 この前 の 土 日 、 珍しゅう 休み 取ったり する けん 、 なんか ある と やろう なぁ と は 思う とった けど ……。 よか 話 ね ? 」 と ニャニヤ する 。 光代 は 、「 いや 、 大した こと じゃ なか です よ 。 ただ 、 久しぶりに 水谷 さん と ごはん でもって 思う て 」 とそ の 場 を 逃れた が 、 顔 が ほころぶ の を 止められ なかった 。 土曜 の 昼 に 会った 清水 祐一 と 、 結局 丸一 日 以上 一緒に 過ごした 。 うなぎ を 食べて 、 灯 台 へ 行く つもりで ホテル を 出た のに 、 うなぎ を 食べて 店 を 出る と 、 とつぜんの どしゃ ぶ り に なり 、 結局 、 ドライブ は 諦めて 、 また 別の ホテル に 入った 。 日曜 の 晩 、 祐一 に アパート まで 送って もらい 、 車 の 中 で 長い キス を して 、 別れた の が おととい 、 翌月 曜 の 夜 に は 電話 で 三 時間 も 話 を した 。 途中 、 妹 の 珠代 が 旅行 から 戻った ので 、 最後 の 三十 分 は 寒風 吹きすさぶ アパート の 階段 に 腰かけて 。 あれ から まだ 丸一 日 も 経って いない 。 なのに もう 祐一 の 声 が 聞き たくて 仕方 が ない 。 気 が つく と 、 漫才 コンビ の ような 二 人 組 は 、 壁 際 の ラック に かかった スーツ を 手 に 取って いた 。 壁 際 の ほう は セット 料金 で 三千 円 高く なって いる 上 に 、 替え の ズボン が つい てい ない 。 威圧 感 を 与え ない 程度 に 近寄る と 、 男 たち の 会話 が 聞こえて くる 。 「 そう 言えば 、 この 前 、『 釣り バカ 」 観 に 行った けん な 」 「 一 人 で ? 」 「 まさか 、 息子 と 二 人 で 」 「 お前 、 息子 連れて 、 あげ ん 映画 に 行く と や ? 」 「 子供 、 けつ こう 喜ぶ と ぞ 」 「 マジ で ? うち の ガキ なんか 、 まん が 祭り 以外 全然 興味 なか けど な 」 二十 代 半ば 、 見かけ は 大学 の 友人 同士 と 言って も 通用 する 。 そんな 二 人 が スーツ を 選 ぴ ながら 互い の 子供 の 話 なんか を して いる 。 光代 は そんな 二 人 の 背中 を 微笑ま しく 見つめて いた 。 その 視線 に 気づいた の か 、「 す いま せ ん 。 これ 、 ちょっと 試着 して も よか です か ? 」 と 背 の 低い ほう の 子 が 振り返る 。 すると 、 すぐに 隣 の 子 が その スーツ を 奪い 、「 なん や 、 結局 、 これ に する と や ? なん か ホストっぽう ないや ? 」 と 茶化す 。 言わ れた ほう も 根 が 素直な ようで 、「 そう や ? 」 と せっかく 決めた スーツ を 眺めて 首 を 傾げる 。 「 よかったら 、 試着 して みたら どう です か ? 」 と 光代 は 笑顔 を 向けた 。 「 手 に したら 、 ちょっと 光る 感じ も します けど 、 中 に 白い シャシ と か 合わせたら 、 落ち 着いた 感じ に なります よ 」 光代 の 言葉 に 、 男 は 自信 を 取り戻した ようで 素直に 試着 室 へ ついてきた 。 残った ほう は いかにも 買う 気 が ない 客 らしく 、 目 に ついた スーツ の 値札 を 次 から 次に 捲って 回る 。 サイズ は ぴったりだった 。 様子 を 見る ため に 光代 が 渡した 白い シャシ も 、 男 の 童顔 に 妙に 合って いる 。 「 いかがです か ? 」 鏡 の 前 で 身 を 振り ながら 確認 する 男 に 声 を かける と 、 いつの間にか やってきて いた 男 の 連れ が 、「 あら 、 ほんと 、 そげ ん 派手じゃ なか な 〜」 と 背後 から 声 を かけて くる 。 「 よか ご たる な ? 」 狭い 試着 室 で 、 男 が 鏡 に 映った 光代 と 友人 に 頷いて み せる 。 光代 は 使い込んだ メジャー を ポケット から 出して 、 ズボン の 裾 上げ に 取りかかった 。 続く とき に は 続く もの で 、 その後 も 客 は ひっきりなしに 来店 し 、 来店 する ばかり か 、 次々 に スーツ が 売れて いった 。 閉店 時間 を 回り 、 フロア の 照明 を 半分 落とした レジ の テーブル で 、 光代 が 補 整 に 出す 商品 伝票 を 整理 して いる と 、「 たまに 飲み に 行こうって いう H に 限って これ や ねえ 」 と 言い ながら 、 水谷 が 同じ ように 伝票 の 束 を 掴んで やってくる 。 「 ほんとです ね 」 光代 は 相づち を 打ち ながら 時計 を 確認 した 。 八 時 四十五 分 。 普段 なら すでに 着替えて 、 自転車 を 漕いで いる 時間 だ 。 「 まだ かかり そう ? 」 すでに 整理 を 終えた らしい 水谷 に 訊 かれ 、 光代 は 、「 十五 分 も あれば 」 と 伝票 を 捲って みせた 。 「 じゃあ 、 更衣室 で 待つ とく けん 」 水谷 が そう 言い残して 階段 を 下りて いく 。 半分 照明 が 落とさ れた フロア は 薄暗く 、 暖 房 も 切られて いる ので 、 足元 から 底冷え して くる 。 レジ 台 の 上 に 置か れた 携帯 の 着信 音 が 聞こえた の は その とき だった 。 珠代 か と 思って 手 に 取る と 、 そこ に 祐一 の 名前 が ある 。 光代 は 伝票 の 間 に 親指 を 入れた まま 、 もう 片方 の 手 で 出た 。 「 もしもし 。 俺 」 受話器 の 向こう から 祐一 の 声 が 聞こえて くる 。 光代 は 薄暗い フロア に 誰 も いない の を 確認 し 、「 もしもし 。 どうした と ? 」 と 嬉し そうな 声 を 返した 。 「 まだ 仕事 中 ? 」 祐一 の 問いかけ に → 光代 は 、「 うん 、 なんで ? 」 と 問い返した 。 「 今日 、 なんか 用 ある ? 」 「 今日って 、 今 からって こと ? 」 フロア に 響いた 自分 の 声 が 、 もう すでに 喜んで いる 。 「 だって 長崎 やろ ? 仕事 もう 終わった と ? 」 と 光代 は 訊 いた 。 「 六 時 に 終わった 。 今日 、 自分 の 車 で 現場 に 行った けん 、 そこ から 直接 そっち に 行こう か と 思う て 」 運転 中 な の か 、 ときどき 電波 が 途切れる 。 「 今 、 どこ ? 」 と 光代 は 訊 いた 。 知ら ぬ 間 に 立ち上がって いて 、 伝票 に 差し込んで いた 親指 も 抜けて いる 。 「 今 、 もう 高速 降りる 」 「 え ? 高速って 、 佐賀 大和 ? 」 光代 は 思わず ガラス 窓 へ 目 を 向けた 。 佐賀 大和 の インター から なら 、 ここ まで 十分 と かから ない 。 光代 は 椅子 に 座り 直す と 、「 来て くれる なら 、 もっと 早う 知らせて くれ れ ば よか と に 」 と 、 嬉しくて 文句 を 言った 。 隣 に ある ファーストフード 店 の 駐車 場 で 待ち合わせる こと に して 、 光代 は 祐一 から の 電話 を 切った 。 平日 の 夜 、 思い も 寄ら ぬ 祐一 の 行動 に 、 からだ が カツ と する ほど の 幸福 感 が 押し寄せ て 〃 くる 。 残って いた 伝票 を 手早く 処理 し ながら も 、 高速 を 降りた 祐一 の 車 が 、 今 、 走り抜けて いる 街道 の 風景 が 浮かび 、 一 枚 確認 済み の はんこ を 押す 度 に 、 車 が 近づいて くる の が 感 じられる 。 十五 分 は かかる と 思って いた 仕事 を 、 光代 は 五 分 で 終わら せた 。 フロア の 電気 を 消し て 、 一 階 の 更衣室 へ 駆け込む と 、 すでに 着替えた 水谷 が いつも 持参 して いる 水筒 から 、 どくだみ 茶 を 注いで 飲んで いる 。 「 あら 、 もう 終わった と ? 」 水谷 に 尋ねられ 、 光代 は 一瞬 、「 あ 、 えっと 」 と 言葉 を 詰まら せた 。 これ から 二 人 で 回転 寿司 に 行く 約束 を 忘れて いた わけで は なかった が 、 あまり の 急 展開 に 断る 言い訳 を 考えて い なかった のだ 。 「 どうした と ? 」 言葉 を 詰まら せた 光代 を 見つめ 、 水谷 が 心配 そうに 訊 いて くる 。 「 あの 、 えっと ……」 「 どうした と ? なんか あった ? 」 「 いや 、 そう じゃ なくて 、 今 、 ちょっと 電話 が あって ……」 「 電話 ? 誰 から ? 」 光代 は また 口ごもった 。 水谷 に は 、 これ から 行く はずの 回転 寿司 店 で 、 祐一 と の 出会 い に ついて 話そう と して いた くせ に 、 いざ と なる と それ が 口 からすっと 出て こ ない 。 光代 の 様子 を じっと 見つめて いた 水谷 が 、「 また 今度 に する ? 私 は いっでも よか よ 」 と 意味 深 な 笑み を 浮かべる 。 「 すいません ……」 と 光代 は 謝った 。 「 彼 氏 が 急に 迎え に きた と やる ? 」 急な 変更 を 気 に も せ ず 、 水谷 が 微笑む 。 「 なんか あった と やろう と は 思う とった よ 。 珍しゅう 週 末 に 休み 取ったり する し 、 昨日 から 幸せ そうな 顔 し とった もん 」 「 すいません ….:」 と 光代 は また 謝った 。 「 ほんと 、 気 に せ んで よ かって 。 :。 … で 、 佐賀 の 人 ね ? 」 「 いや 、 長崎 の ……」 「 へえ 、 長崎 から 急に 会い に 来た と ? あら ら 、 じゃあ 、 私 と 回転 寿司 なんか 食べ とる 場合 じゃ なか ねえ 。 ほら 、 早う 着替えて 行か ん ね 」 水谷 は そう 言って 、 突っ立って いる 光代 の 尻 を 叩いた 。 水谷 が 先 に 帰り 、 誰 も い なく なった 更衣室 で 光代 は 急いで 着替えた 。 着替えて いる 最 中 に 携帯 が 鳴り 、「 今 、 着いた 」 と いう 祐一 から の メール が 入って いる 。 革 ジャケット を 着て きて よかった 。 いつも 着て いる ダウン ジャケット の 襟 が 汚れて い て 、 今朝 、 もう 一 日 着て から クリーニング に 出そう か と 思った のだ が 、 なんとなく やめ た のだ 。 週 末 、 祐一 に 会った とき に も 、 この 革 ジャケット を 着て いた 。 一 年 ほど 前 、 珠代 と バ ス で 博多 に 買い物 に 行った とき 、 十一万 円 と いう 値段 に 跨踏 は した が 、 十 年 に 一 度 と 奮発して 買った もの だった 。 更衣室 の 鍵 を 閉め 、 管理 室 の 警備貝 に 渡して 通用口 を 出た 。 寒風 が 足元 を 吹き抜け 、 マフラー を しっかり と 首 に 巻き 直す 。 がらんと した 駐車 場 に は 白線 だけ が くっきり と 浮 かび 、 フェンス の 向こう に は 、 休 閑中 の 畑 と 鉄塔 が ある 。 視線 を 転じる と 、 隣 に ある ファーストフード 店 の 駐車 場 に 、 見覚え の ある 白い 車 が 停 まって いる 。 さほど 混 んで いない が 、 よく 磨か れた 祐一 の 車 だけ が 、 駐車 場 の 照明 に き ら きら と 輝いて いる 。 光代 は 一旦 駐車 場 から 国道 に 出て 、 フェンス の 向こう を 覗き ながら 、 隣 の 駐車 場 へ と 急いだ 。 ファーストフード 店 の 駐車 場 に 入る と 、 祐一 の 車 の ライト が チカッ と 光った 。 隣 から 歩いて くる 自分 の 姿 を ずっと 見て いた らしい 。 光代 は 暗い 車 内 に いる だろう 祐一 に 向かって 、 小さく 手 を 振って 見せた 。 近寄って いく と 、 祐一 が 助手 席 の ドア を 内側 から 開けて くれた 。 開いた とたん 、 車 内 が 明るく なり 、 作業 服 を 着た 祐一 の 姿 が 見える 。 光代 は 車 に 駆け寄り 、「 さ ぶ 〜 い 」 と 身震い し ながら 助手 席 に 乗り込んだ 。 その 間 、 一 度 も 祐一 と は 目 を 合わせ なかった が 、 ドア が 閉まり 、 また 車 内 が 暗く なった とたん 、 「 ほんとに 仕事 終わって すぐに 来た と ? 」 と 祐一 の ほう へ 顔 を 向けた 。 「 家 に 帰って から や と 、 もっと 遅う なる けん 」 祐一 が 車 内 の 暖房 を 強め ながら 言う 。 「 もっと 早う 電話 くれれば よかった と に 」 「 しよう か なって 思う た けど 、 仕事 中 やろう と 思う て 」 「 もし 、 今日 、 会 えんかつ たら どう する つもり やった と ? 」 光代 が ちょっと 意地 悪く 尋ねる と 、「 もし 会え ん かつ たら 、 そのまま 帰る つもり やった 」 と 生真面目に 答える 。 光代 は シフト レバー に 置か れた 祐一 の 手 に 自分 の 手 を のせた 。 祐一 の 作業 着 の せい か 、 車 内 に 廃 嘘 の ような 匂い が した 。 車 は ファーストフード 店 の 駐車 場 に 停められた まま 、 なかなか 動き出さ なかった 。 す で に 三 組 ほど 、 店 内 から 出て きた 客 が 車 に 乗り込み 、 駐車 場 から 走り去って いる 。 逆に 入って くる 車 が ない ので 、 車 が 減る たび に 、 まるで 大海 の 小舟 の ように 自分 たち の 車 だ け が 残さ れる 。 もう 何分 くらい 経つ の か 、 光代 の 指 と 祐一 の 指 は 、 未 だに シフト レバー の 上 で 絡み合って いる 。 言葉 は なく 、 ただ 指先 だけ が 、 もう 何分 も 話 を して いる 。 「 明日 も 仕事 、 早い と やる ? 」 光代 は 祐一 の 中指 を 握り ながら 尋ねた 。 フェンス の 向こう に 見える 国道 を 、 スピード を 上げた 車 が 走って いく 。 「 五 時 半 起き 」 祐一 が 光代 の 手首 を 親指 の 腹 で 撫でる 。 「 ここ から 長崎 まで 二 時間 くらい かかる よ ね ? あんまり 時間 ない ね 」 「 ちょっと 顔 見 たかった だけ やけん ..…・」 エンジン を かけた まま の 車 の 中 で 、 デジタル 時計 が 9” 肥 を 示して いる 。 「 帰る と やる ? 」 と 光代 は 尋ねた 。 指 の 動き を 止めた 祐一 が 、「…… うん 、 今夜 の うち に 帰ら ん と 、 明日 三 時 起き に なる し 」 と 苦笑 する 。 会い たくて 、 会い たくて 、 仕方 が なくなった んだ 。 仕方 が なくて 、 仕事場 から 真っす ぐ 走って きた んだ 。 祐一 が そう 言って くれる こと は なかった が 、 自分 の 手首 を 撫でる 祐一 の 指 の 動き で 、 そんな 気持ち が 伝わって きた 。 これ から 近く の ラブ ホテル に 入れば 、 二 時間 くらい は 一緒に いられる 。 ただ 、 それ か ら 長崎 へ 帰る と なる と 、 到着 は 深夜 一 時 過ぎ に なる 。 すぐに 寝て も 、 四 時間 ほど しか 眠 ら ず に 、 祐一 は きつい 仕事 へ 出かけ なければ なら ない 。 二 時間 で いい から 一緒に いたい 。 でも 、 一 時間 でも 多く 、 祐一 を 眠ら せて あげたい 。 「 うち に 妹 が おら ん やったら ね :…・」 思わず そんな 言葉 が 漏れて 、 光代 は 自分 で 自分 の 言葉 に ハツ と した 。 これ まで 妹 の 珠 代 を 邪魔だ と 思った こと は ない 。 逆に いつも 妹 の 帰り ばかり を 心配 して いる 生活 だった のだ 。 「 ホテル .:… 行く ? 」 祐一 が ぼ そっと 訊 いて きた 。 その 訊 き 方 が 、 明日 の 朝 を 心配 して いる の か 、 どこ か 跨 踏 して いる 。 「 でも 今 から 入ったら 、 帰る の 遅く なる よ 」 「…… そう やけど 」 シフト レバー の 上 で 、 祐一 の 指先 に 力 が 入る 。 「 なんか 、 やっぱり 佐賀 と 長崎って 遠い ね 」 光代 は ふと そう 眩 いて しまい 、 すぐに 、「 あ 、 じゃ なくて 」 と 首 を 振った 。 「::: そう じゃ なくて 、 なんか 、 せっかく 来て くれた と に 、 ゆっくり する 時間 も ない 〆 一 1 し 」 「 平日 やけん 、 仕方 なか よ 」 祐一 が 諦めた ように 眩 く ・ それ が どこ か 冷たく 響き 、「 祐一って 真面目 か ょね 」 と 思 わ ず 光代 は 言い返した 。 「 仕事 は 休め ん よ 。 おじさん の 会社 やし 」 「 でも 、 土 日 は 私 が なかなか 仕事 休め ん よ 。 この前 の ように 二 日 続けて 一緒に おる んな ん て 、 滅多に でき ん かも 」 少し 意地悪な 言い 方 だった 。 その とたん 、 祐一 の 指先 から 力 が なくなる 。 私 に 会い に きて くれた 人 な のだ 、 と 光代 は 思う 。 自分 たち に は 会う 時間 が ない んだ と 、 そんな こと を わざわざ 聞き に きた わけで は なくて 、 きつい だろう 仕事 を 終えた その 足 で 、 二 時間 も 車 を 走ら せて 、 わざわざ 私 に 会い に 来て くれた 人 な のだ と 。 「 ねえ 、 隣 の 駐車 場 に 移動 せ ん ? 」 光代 は 力 の 抜けた 祐一 の 指 を 引っ張った 。 「 もう 店 も 終わっと る し 、 他の 車 が 入って くる こと も ない けん 、 ゆっくり 話 できる よ 。 建物 の 裏 に 停めれば 、 通り から も 見え ん し 」 光代 の 言葉 に 祐一 が フェンス の 向こう 、 すでに 照明 も 消さ れた 紳士 服 店 の 駐車 場 に 目 を 向け 、 すぐに サイド ブレーキ を 下ろそう と する 。 「 あ 、 ちょっと 待って 。 晩 ご飯 まだ 食べ とら ん と やる ? そこ で なんか 買って くる け ん 」 光代 が 慌てて そう 言う と 、「 いや 、 高速の サービス エリア で うどん 食 うて きた 。 我慢 でき ん で 」 と 祐一 は 笑った 。 車 は ファーストフード 店 の 駐車 場 を 出て 、 紳士 服 店 「 若葉 」 の 駐車 場 に 入った 。 店舗 の 裏 に 回る と 辺り は 真っ暗で 、 フェンス の 向こう に 見える 畑 の 中 、 ライト アップ さ れた 化粧 品 の 大きな 看板 だけ が 風景 に なる 。 「 私 、 今度 の 金曜日 、 公休 やけん 、 長崎 に 行こう か な 。 日帰り やけど 」 車 が 停 まる と 、 光代 は ハンドル を 握った まま の 祐一 に 言った 。 その 瞬間 、 祐一 の 腕 が 伸びて きて 、 耳元 から 首すじ に かけて 、 熱い 手のひら が 置か れる 。 祐一 は 何も 言わ ず に キス を して きた 。 一瞬 焦った が 、 あっという間 に 祐一 の からだ が のしかかって くる 。 光 代 は 目 を 閉じて 、 からだ を 任せた 。 駐車 場 を 出た の は 、 十 時 を 回った ころ だった 。 いつまで でも 抱き合って い たかった が 、 それ 以上 に 、 明日 の 朝 、 祐一 に つらい 思い を さ せ たく ない と いう 気持ち が 強かった 。 車 を 出す と 、 祐一 は 案内 も なし に 光代 の アパート へ 向かった 。 器用に 車線 を 変更 し 、 次々 と 他の 車 を 抜いて いく 。 「 じゃあ 、 しあさって バス で 長崎 に 行く ね 」 光代 は すでに 慣れた 車 の 揺れ に 身 を 任せ ながら 言った 。 「 六 時 に は 仕事 終わる けん 」 祐一 が 前 の 車 を 煽り ながら 眩 く ・ 「 せっかく やけん 、 午前 中 に 行って 、 一 人 で 観光 しょっと 。 長崎 市 内 に 行く とって 、 も う 何 年 ぶり やろ ……、 去年 、 妹 たち と ハウステンボス に は 行った けど 」 「 俺 が 案内 できれば いい と けど 。 …:」 「 大丈夫 。 ちゃんぽん 食べて 、 教会 と か 見て :…・」 297 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? 自転車 で 十五 分 かかる 距離 が 、 祐一 の 運転 だ と ほんの 三 分 だった 。 祐一 は 先日 と 同じ ように 未 舗装 の アパート 敷地 内 に 車 を 入れた 。 「 あ 〜、 やっぱり 、 妹 、 もう 帰っと る 」 光代 は 明かり の ついた 二 階 の 窓 を 見上げた 。 「…… さっき 会う た ばっかり と に ね 」 そう 眩 く 光代 の 唇 に 、 祐一 の 乾いた 唇 が 重なる 。 「 気 を つけて 帰って よ 」 光代 は 唇 を つけた まま 言った 。 祐一 も そのまま で 頷いた 。 一瞬 、 祐一 が 何 か 言い かけ たような 気 が して 、「 え ? 」 と 光代 は からだ を 離した 。 しかし 祐一 は 目 を 伏せた だけ だった 。 光代 は 敷地 から 出て いく 車 を 見送った 。 車道 へ 出る と 、 祐一 は 一 度 クラクション を 鳴 らし 、 あっという間 に 走り去った 。 もう 寂しかった 。 もう 会い たく なって いた 。 光代 は 赤い テールランプ が 見え なく なる まで 立って いた 。 あれ は いつ だった か 、 珠代 が 美容 師 の 男の子 と 付き合って いる ころ 、 同じ ような こと を 言って いた 。 デート が 終わる と もう 寂しい 。 もう 会い たくて 仕方ない 。 当時 は その 気 持ち が いまいち 理解 でき ず に いた が 、 今 なら 分かる 。 分かる どころ か 、 こんな 気持ち に なって 、 よく 平気で いられた もの だ と さえ 思う 。 光代 は 車 を 追いかけて 走り出したい 気 分 だった 。 座り込んで 、 声 を 上げて 泣き たかった 。 祐一 と 一緒に いられる ならば 、 なん だって でき そうな 気 さえ した 。

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悪人 下 (4) あくにん|した Böser Mann, unten (4). The Bad Guy (4) Homme méchant, en bas (4).

夕方 に なって 、 数 組 の 客 が 同時に 訪れた 。 ゆうがた|||すう|くみ||きゃく||どうじに|おとずれた |||||||||visited In the evening, several sets of guests visited at the same time. うち 馬 込 光代 が 受け持った の は 、 二十 代 半 ば の 男性 二 人 組 で 、 スーツ を 選び ながら の まるで 漫才 の ような 掛け合い を 聞いて いる 限 り で は 、 背 の 低い ほう が 最近 やっと 再 就職 の 面接 に 受かった ようで 、 友人 を 引き連れて 来店 した らしかった 。 |うま|こみ|てるよ||うけもった|||にじゅう|だい|はん|||だんせい|ふた|じん|くみ||すーつ||えらび||||まんざい|||かけあい||きいて||げん||||せ||ひくい|||さいきん||さい|しゅうしょく||めんせつ||うかった||ゆうじん||ひきつれて|らいてん|| |||||was in charge of||||||half|||||||||||||comic duo|||banter||||limit||||||||||||||||||||bringing||| |||||||||||||||||||||||||||やり取り||||||||||||||||||||||||||| Mitsuyo Magome accepted a pair of men in their mid-twenties, and as far as I could tell from their comic dialogue while choosing suits, the shorter of the two seemed to have finally passed an interview for a new job and had brought a friend with him. 「 これ まで ずっと 作業 服 や つけ ん 、 スーツって いまいち どれ を 買えば よか と か 分から ん けん な 」 「 しかし 、 普通 、 スーツ と か 買う とき は 、 女房 連れて こんや ? |||さぎょう|ふく||||すーつ って||||かえば||||わから|||||ふつう|すーつ|||かう|||にょうぼう|つれて| ||||||||suits|not great|||||||||||||||||||wife||tonight "Since I've been in work clothes all this time, I don't really know which suit to buy," he said, "but normally, when I buy a suit, I don't bring my wife with me, do I? 」 「 馬鹿 言え 、 あれ と 一緒に 来たら 、 シャシ から ネクタイ まで 、 一式 最 安値 商品 で 揃 えら れる 」 「 なん や 、 高級 スーツ 買う つもり や ? ばか|いえ|||いっしょに|きたら|||ねくたい||いっしき|さい|やすね|しょうひん||そろ|||||こうきゅう|すーつ|かう|| ||||||suit||tie||set||lowest price|||gathered|can be arranged|||||||| "Don't be silly, if you come with them, you can get the whole set from shirts to ties at the lowest price. 」 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? だい|よっ|しょう|かれ||だれ||であった| |four||||||| 「 そう じゃ なか けど 、 中級 さ 、 中級 」 なんだ かんだ と 言い ながら 、 ラック に 吊られた スーツ を 片っ端から 手 に 取って 、 二 人 仲良く 胸 に 当てて いく 。 ||||ちゅうきゅう||ちゅうきゅう||||いい||らっく||つり られた|すーつ||かたっぱしから|て||とって|ふた|じん|なかよく|むね||あてて| ||||||||and so on||||rack||hung|||one by one|||||||chest||| The two of them, while talking, took the suits hanging on the rack one by one, and put them on their chests. 光代 は 「 まだ 若く 見える が 、 もう この 年代 でも 結婚 して いる んだ なあ 」 と 思い ながら 、 つか ず 離れ ず 、 気長に 声 を かけられる の を 待って いた 。 てるよ|||わかく|みえる||||ねんだい||けっこん||||||おもい||||はなれ||きながに|こえ||かけ られる|||まって| |||young|||||age||||||||||||||patiently||||||| ||||||||||||||||||||||気長に||||||| Mitsuyo thought, "She still looks young, but she's already married at this age," and waited patiently for him to approach her. 試着 室 の 前 に は メジャー を 首 に かけた 売り場 主任 の 水谷 和子 が 立って いた 。 しちゃく|しつ||ぜん|||めじゃー||くび|||うりば|しゅにん||みずたに|かずこ||たって| trying||||||measuring tape|||||sales area|sales floor chief|||||| Kazuko Mizutani, the sales floor manager, was standing in front of the fitting room with a measuring tape around her neck. さっき 休 憩 を 終えて フロア へ 戻って きた 水谷 に 、 光代 は 今夜 少し 時間 が ない か と 尋ねた 。 |きゅう|いこ||おえて|ふろあ||もどって||みずたに||てるよ||こんや|すこし|じかん|||||たずねた ||break|||||||||||||||||| When Mizutani returned to the floor after a short break, Mitsuyo asked him if he had some time to spare tonight. もし あ れば 軽く 飲み に 行か ない か と 。 |||かるく|のみ||いか||| |||a little|||||| I was wondering if you would like to go out for a quick drink. 珍しい 誘い に 、 一瞬 、 水谷 は 首 を 捻った が 、「 大丈夫 よ 。 めずらしい|さそい||いっしゅん|みずたに||くび||ねじった||だいじょうぶ| ||||||||turned||| Mizutani twisted her head for a moment at the unusual invitation, but then said, "It's okay. うち の 旦那 も ちょっと 遅う かいてん ずし なるって 言い よった し 、 どこ 行こう か ? ||だんな|||おそう|||なる って|いい||||いこう| ||||||tardy|conveyor belt sushi||||||| My husband said he's going to be a little late, so where should we go? この 前 ビックリ バー の 隣 に 出来た 回転 寿司 で も ょかたい ね 」 と 妙に 乗り気に なって くれた 。 |ぜん|びっくり|ばー||となり||できた|かいてん|すし|||ょか たい|||みょうに|のりきに|| ||surprised|||||||sushi|||yokatai||||excited|| ||||||||||||||||乗り気|| He became strangely enthusiastic, saying, "I want to go to the sushi restaurant that opened next to the Surprise Bar. じゃあ 、 その 回転 寿司 に 行こう と 決まって 、 光代 が 持ち場 へ 戻ろう と する と 、 水谷 が さっと その 手 を 掴み 、「 この前 の 土 日 、 珍しゅう 休み 取ったり する けん 、 なんか ある と やろう なぁ と は 思う とった けど ……。 ||かいてん|すし||いこう||きまって|てるよ||もちば||もどろう||||みずたに||||て||つかみ|この まえ||つち|ひ|めずらしゅう|やすみ|とったり||||||||||おもう|| ||||||||||workstation||||||||quickly|||||||||rarely|||||||||||||| ||||||||||自分の場所||||||||||||||||||||||||||||||| When they decided to go to the sushi restaurant and Mitsuyo was about to return to her post, Mizutani quickly grabbed her hand and said, "I had a rare day off this past Saturday and Sunday, so I thought we should do something. ....... よか 話 ね ? |はなし| Good talk, right? 」 と ニャニヤ する 。 |snickering| |ニャニャ| And I'm going to grin. 光代 は 、「 いや 、 大した こと じゃ なか です よ 。 てるよ|||たいした||||| Mitsuyo replied, "No, it wasn't a big deal. ただ 、 久しぶりに 水谷 さん と ごはん でもって 思う て 」 とそ の 場 を 逃れた が 、 顔 が ほころぶ の を 止められ なかった 。 |ひさしぶりに|みずたに||||でも って|おもう||||じょう||のがれた||かお|||||とどめ られ| ||Mizutani||||but|||quotation particle||||escaped||||broke into a smile|||could not stop| |||||||||||||||||ほころび|||| 土曜 の 昼 に 会った 清水 祐一 と 、 結局 丸一 日 以上 一緒に 過ごした 。 どよう||ひる||あった|きよみず|ゆういち||けっきょく|まるいち|ひ|いじょう|いっしょに|すごした |||||||||one full|||| I ended up spending more than a whole day with Yuichi Shimizu, whom I met at noon on Saturday. うなぎ を 食べて 、 灯 台 へ 行く つもりで ホテル を 出た のに 、 うなぎ を 食べて 店 を 出る と 、 とつぜんの どしゃ ぶ り に なり 、 結局 、 ドライブ は 諦めて 、 また 別の ホテル に 入った 。 ||たべて|とう|だい||いく||ほてる||でた||||たべて|てん||でる||||||||けっきょく|どらいぶ||あきらめて||べつの|ほてる||はいった ||||||||||||||||||||downpour||||||||gave up||||| I left the hotel with the intention of eating eels and going to the lighthouse, but as soon as I left the restaurant after eating eels, I got hit by a sudden heavy rainstorm, so I gave up driving and entered another hotel. 日曜 の 晩 、 祐一 に アパート まで 送って もらい 、 車 の 中 で 長い キス を して 、 別れた の が おととい 、 翌月 曜 の 夜 に は 電話 で 三 時間 も 話 を した 。 にちよう||ばん|ゆういち||あぱーと||おくって||くるま||なか||ながい|きす|||わかれた||||よくげつ|よう||よ|||でんわ||みっ|じかん||はなし|| ||||||||||||||||||||the day before|next month|day|possessive particle||||||||||| ||||||||||||||||||||おととい|||||||||||||| Yuichi dropped me off at my apartment on Sunday night, we had a long kiss in the car, and we broke up the day before yesterday. 途中 、 妹 の 珠代 が 旅行 から 戻った ので 、 最後 の 三十 分 は 寒風 吹きすさぶ アパート の 階段 に 腰かけて 。 とちゅう|いもうと||たまよ||りょこう||もどった||さいご||さんじゅう|ぶん||かんぷう|ふきすさぶ|あぱーと||かいだん||こしかけて on the way|||Tamayo|||||||||||||||||sitting down |||||||||||||||吹きすさぶ||||| On the way, my sister Tamayo returned from her trip, so I sat on the stairs of the apartment, where the cold wind blew fiercely, for the last thirty minutes. あれ から まだ 丸一 日 も 経って いない 。 |||まるいち|ひ||たって| |||one|||has passed| It hasn't even been a full day since then. なのに もう 祐一 の 声 が 聞き たくて 仕方 が ない 。 ||ゆういち||こえ||きき||しかた|| but|||||||||| Yet, I can't help but want to hear Yuichi's voice already. 気 が つく と 、 漫才 コンビ の ような 二 人 組 は 、 壁 際 の ラック に かかった スーツ を 手 に 取って いた 。 き||||まんざい|こんび|||ふた|じん|くみ||かべ|さい||らっく|||すーつ||て||とって| ||||comedy|comedy duo|||two||||wall|edge|||||||||| Before I knew it, a pair of two who looked like a comedy duo were picking up a suit that was hanging on a rack by the wall. 壁 際 の ほう は セット 料金 で 三千 円 高く なって いる 上 に 、 替え の ズボン が つい てい ない 。 かべ|さい||||せっと|りょうきん||さんせん|えん|たかく|||うえ||かえ||ずぼん|||| wall|edge|||||fee||three thousand|||||||replacement|||||| The wall-side has a set price that is three thousand yen higher, and it doesn't come with a spare pair of pants. 威圧 感 を 与え ない 程度 に 近寄る と 、 男 たち の 会話 が 聞こえて くる 。 いあつ|かん||あたえ||ていど||ちかよる||おとこ|||かいわ||きこえて| intimidation|||gave||程度||approach|||||||| As I approached close enough not to give an intimidating presence, I could hear the men's conversation. 「 そう 言えば 、 この 前 、『 釣り バカ 」 観 に 行った けん な 」 「 一 人 で ? |いえば||ぜん|つり|ばか|かん||おこなった|||ひと|じん| ||||fishing||viewed||||||| "Speaking of which, the other day, I went to see 'Fishing Fool.' Did you go alone?" 」 「 まさか 、 息子 と 二 人 で 」 「 お前 、 息子 連れて 、 あげ ん 映画 に 行く と や ? |むすこ||ふた|じん||おまえ|むすこ|つれて|||えいが||いく|| "No way, just the two of you, your son?" "Are you really taking your son to the movies?" 」 「 子供 、 けつ こう 喜ぶ と ぞ 」 「 マジ で ? こども|||よろこぶ|||| |butt||to be happy|||| "The kid will be really happy, you know?" "Seriously?" うち の ガキ なんか 、 まん が 祭り 以外 全然 興味 なか けど な 」 二十 代 半ば 、 見かけ は 大学 の 友人 同士 と 言って も 通用 する 。 ||がき||||まつり|いがい|ぜんぜん|きょうみ||||にじゅう|だい|なかば|みかけ||だいがく||ゆうじん|どうし||いって||つうよう| ||kid||||festival|||||||||mid-twenties|appearance|||||friends||||can pass| My kid isn't interested in anything other than manga festivals." In his mid-twenties, he could easily be mistaken for a college friend. そんな 二 人 が スーツ を 選 ぴ ながら 互い の 子供 の 話 なんか を して いる 。 |ふた|じん||すーつ||せん|||たがい||こども||はなし|||| ||||||chosen|choosing|||||||||| 光代 は そんな 二 人 の 背中 を 微笑ま しく 見つめて いた 。 てるよ|||ふた|じん||せなか||ほおえま||みつめて| Mitsuyo||||||||adoringly||| その 視線 に 気づいた の か 、「 す いま せ ん 。 |しせん||きづいた|||||| |gaze|||||||| これ 、 ちょっと 試着 して も よか です か ? ||しちゃく||||| ||trying on||||| 」 と 背 の 低い ほう の 子 が 振り返る 。 |せ||ひくい|||こ||ふりかえる |back||low|||||to look back すると 、 すぐに 隣 の 子 が その スーツ を 奪い 、「 なん や 、 結局 、 これ に する と や ? ||となり||こ|||すーつ||うばい|||けっきょく||||| |||||||||snatched|||||||| Then, immediately, the child next door snatched the suit and said, 'So, in the end, is this what you're going with?' なん か ホストっぽう ないや ? ||ほすと っぽう| ||like a host| ||ホスト風| Doesn't it look like something a host would wear? 」 と 茶化す 。 |ちゃかす |to tease |からかう They teased. 言わ れた ほう も 根 が 素直な ようで 、「 そう や ? いわ||||ね||すなおな||| ||||root||honest||| It seems the one being told is quite honest, saying, 'Is that so?' 」 と せっかく 決めた スーツ を 眺めて 首 を 傾げる 。 ||きめた|すーつ||ながめて|くび||かしげる ||||||neck||tilt While glancing at the suit that was finally decided upon, they tilt their head. 「 よかったら 、 試着 して みたら どう です か ? |しちゃく||||| |trying on||||| If you'd like, why don't you try it on? 」 と 光代 は 笑顔 を 向けた 。 |てるよ||えがお||むけた |Mitsuyo||smile|| 「 手 に したら 、 ちょっと 光る 感じ も します けど 、 中 に 白い シャシ と か 合わせたら 、 落ち 着いた 感じ に なります よ 」 光代 の 言葉 に 、 男 は 自信 を 取り戻した ようで 素直に 試着 室 へ ついてきた 。 て||||ひかる|かんじ||し ます||なか||しろい||||あわせたら|おち|ついた|かんじ||なり ます||てるよ||ことば||おとこ||じしん||とりもどした||すなおに|しちゃく|しつ|| ||||glow|||||||||||if combined||settled|||||Hikari||||||confidence|object marker|regained|it seems|honestly|trying on|||followed 残った ほう は いかにも 買う 気 が ない 客 らしく 、 目 に ついた スーツ の 値札 を 次 から 次に 捲って 回る 。 のこった||||かう|き|||きゃく||め|||すーつ||ねふだ||つぎ||つぎに|まくって|まわる |||indeed|||||customer|||||||price tag|||||flipping| |||まさに||||ない||||||||price tag|||||| サイズ は ぴったりだった 。 さいず|| ||just right 様子 を 見る ため に 光代 が 渡した 白い シャシ も 、 男 の 童顔 に 妙に 合って いる 。 ようす||みる|||てるよ||わたした|しろい|||おとこ||どうがん||みょうに|あって| appearance|||||Mitsuyo||handed over||||||baby face||strangely|| |||||||||||||young face|||| The white chassis that Mitsuyo handed over to check the situation oddly suits the boyish face of the man. 「 いかがです か ? how about| How is it? 」 鏡 の 前 で 身 を 振り ながら 確認 する 男 に 声 を かける と 、 いつの間にか やってきて いた 男 の 連れ が 、「 あら 、 ほんと 、 そげ ん 派手じゃ なか な 〜」 と 背後 から 声 を かけて くる 。 きよう||ぜん||み||ふり||かくにん||おとこ||こえ||||いつのまにか|||おとこ||つれ||||||はでじゃ||||はいご||こえ||| mirror||||body||振り|||||||||||||||companion||||such||not so flashy||||||||| |||||||||||||||||||||||||||派手だ||||||||| When I called out to the man who was checking himself while moving in front of the mirror, the man's companion who had arrived without my notice said from behind, 'Oh, really, that's quite flashy, isn't it?' 「 よか ご たる な ? よか||| How does it look? 」 狭い 試着 室 で 、 男 が 鏡 に 映った 光代 と 友人 に 頷いて み せる 。 せまい|しちゃく|しつ||おとこ||きよう||うつった|てるよ||ゆうじん||うなずいて|| narrow|fitting|room||||mirror||reflected|||||nodding|| In the small fitting room, the man nodded at Mitsuyo and her friend reflected in the mirror. 光代 は 使い込んだ メジャー を ポケット から 出して 、 ズボン の 裾 上げ に 取りかかった 。 てるよ||つかいこんだ|めじゃー||ぽけっと||だして|ずぼん||すそ|あげ||とりかかった ||well-used|measuring tape|||||||hem|||started |||measuring tape|||||||||| Mitsuyo took out a worn measuring tape from her pocket and began to shorten the pants. 続く とき に は 続く もの で 、 その後 も 客 は ひっきりなしに 来店 し 、 来店 する ばかり か 、 次々 に スーツ が 売れて いった 。 つづく||||つづく|||そのご||きゃく|||らいてん||らいてん||||つぎつぎ||すーつ||うれて| continues||||will continue|||||||without stopping|coming to the store||coming to the store||||||suit||sold| When it continues, it continues, and even after that, customers kept coming to the store one after another, and not only did they visit, but suits were also selling one after another. 閉店 時間 を 回り 、 フロア の 照明 を 半分 落とした レジ の テーブル で 、 光代 が 補 整 に 出す 商品 伝票 を 整理 して いる と 、「 たまに 飲み に 行こうって いう H に 限って これ や ねえ 」 と 言い ながら 、 水谷 が 同じ ように 伝票 の 束 を 掴んで やってくる 。 へいてん|じかん||まわり|ふろあ||しょうめい||はんぶん|おとした|れじ||てーぶる||てるよ||ほ|ひとし||だす|しょうひん|でんぴょう||せいり|||||のみ||いこう って||h||かぎって|||||いい||みずたに||おなじ||でんぴょう||たば||つかんで| closing|||around|floor||lighting||||||||Mitsuyo||supplement|adjustment|||product|invoice||organizing||is|||||let's go||||especially|||||||Mizutani||||invoice||bundle||grasped| As closing time approached, while Hikariyo was organizing the product invoices to be submitted for adjustments at the register table with half the floor lights dimmed, Mizutani came over, saying, 'It's always like this when H is the one saying, let’s go out for drinks,' and grabbed a bundle of invoices just like Hikariyo. 「 ほんとです ね 」 光代 は 相づち を 打ち ながら 時計 を 確認 した 。 ||てるよ||あいづち||うち||とけい||かくにん| really||||backchanneling|(object marker)|to nod||||| 'That's true,' Hikariyo said, nodding as she checked the time. 八 時 四十五 分 。 やっ|じ|しじゅうご|ぶん 8:45. 普段 なら すでに 着替えて 、 自転車 を 漕いで いる 時間 だ 。 ふだん|||きがえて|じてんしゃ||こいで||じかん| usually|||changed|||cycling||| At this time, I would usually have already changed clothes and be cycling. 「 まだ かかり そう ? "Does it still seem like it will take a while?" 」 すでに 整理 を 終えた らしい 水谷 に 訊 かれ 、 光代 は 、「 十五 分 も あれば 」 と 伝票 を 捲って みせた 。 |せいり||おえた||みずたに||じん||てるよ||じゅうご|ぶん||||でんぴょう||まくって| |sorting||finished|||||||||||||invoice||rolled| Mizutani, who seems to have already finished organizing, asked Hikayo, who replied, 'With fifteen minutes, I can manage,' while turning over the invoice. 「 じゃあ 、 更衣室 で 待つ とく けん 」 水谷 が そう 言い残して 階段 を 下りて いく 。 |こういしつ||まつ|||みずたに|||いいのこして|かいだん||おりて| |changing room||||||||leaving a message|stairs||| 'Well then, I'll wait in the changing room,' Mizutani said as he left down the stairs. 半分 照明 が 落とさ れた フロア は 薄暗く 、 暖 房 も 切られて いる ので 、 足元 から 底冷え して くる 。 はんぶん|しょうめい||おとさ||ふろあ||うすぐらく|だん|ふさ||きら れて|||あしもと||そこびえ|| |lighting||dropped||||dimly lit|warm|room||turned off|||at feet||chill from below|| The floor, half dimmed, is dark, and with the heating turned off, a chill rises from the ground. レジ 台 の 上 に 置か れた 携帯 の 着信 音 が 聞こえた の は その とき だった 。 れじ|だい||うえ||おか||けいたい||ちゃくしん|おと||きこえた||||| |||||placed||||incoming call|||||||| 珠代 か と 思って 手 に 取る と 、 そこ に 祐一 の 名前 が ある 。 たまよ|||おもって|て||とる||||ゆういち||なまえ|| Tamayo|||||||||||||| I thought it was Tamashiro and picked it up, and there was Yuichi's name. 光代 は 伝票 の 間 に 親指 を 入れた まま 、 もう 片方 の 手 で 出た 。 てるよ||でんぴょう||あいだ||おやゆび||いれた|||かたほう||て||でた ||slip||||thumb|||||the other|||| Mitsuyo inserted her thumb between the slips and took out the other one with her other hand. 「 もしもし 。 Hello. 俺 」 受話器 の 向こう から 祐一 の 声 が 聞こえて くる 。 おれ|じゅわき||むこう||ゆういち||こえ||きこえて| |telephone receiver||||||||| I can hear Yuichi's voice from the other side of the receiver. 光代 は 薄暗い フロア に 誰 も いない の を 確認 し 、「 もしもし 。 てるよ||うすぐらい|ふろあ||だれ|||||かくにん|| Mitsuyo||dim|floor||||||||| どうした と ? 」 と 嬉し そうな 声 を 返した 。 |うれし|そう な|こえ||かえした |||||returned 「 まだ 仕事 中 ? |しごと|なか 」 祐一 の 問いかけ に → 光代 は 、「 うん 、 なんで ? ゆういち||といかけ||てるよ||| ||question||||| ||question||||| 」 と 問い返した 。 |といかえした |asked 「 今日 、 なんか 用 ある ? きょう||よう| 」 「 今日って 、 今 からって こと ? きょう って|いま|から って| today||| 」 フロア に 響いた 自分 の 声 が 、 もう すでに 喜んで いる 。 ふろあ||ひびいた|じぶん||こえ||||よろこんで| ||echoed|||||||gladly| My own voice echoed in the floor, and it was already filled with joy. 「 だって 長崎 やろ ? |ながさき| |Nagasaki| Because it's Nagasaki, right? 仕事 もう 終わった と ? しごと||おわった| Has the work already finished? 」 と 光代 は 訊 いた 。 |てるよ||じん| 「 六 時 に 終わった 。 むっ|じ||おわった It ended at six o'clock. 今日 、 自分 の 車 で 現場 に 行った けん 、 そこ から 直接 そっち に 行こう か と 思う て 」 運転 中 な の か 、 ときどき 電波 が 途切れる 。 きょう|じぶん||くるま||げんば||おこなった||||ちょくせつ|||いこう|||おもう||うんてん|なか|||||でんぱ||とぎれる |||||site||||||||||||||driving||||||signal||cut off |||||||||||||||||||||||||||途切れる Today, I went to the site in my own car, so I was thinking about going directly there from there. While driving, the signal keeps cutting out occasionally. 「 今 、 どこ ? いま| Where are you now? 」 と 光代 は 訊 いた 。 |てるよ||じん| 知ら ぬ 間 に 立ち上がって いて 、 伝票 に 差し込んで いた 親指 も 抜けて いる 。 しら||あいだ||たちあがって||でんぴょう||さしこんで||おやゆび||ぬけて| did not know||||||slip||inserted||thumb||pulled out| Without realizing it, I was standing up, and my thumb that was inserted into the invoice is also gone. 「 今 、 もう 高速 降りる 」 「 え ? いま||こうそく|おりる| ||highway|| "I'm getting off the highway now." "Huh?" 高速って 、 佐賀 大和 ? こうそく って|さが|だいわ fast||Yamato The highway, is it Saga Yamato? 」 光代 は 思わず ガラス 窓 へ 目 を 向けた 。 てるよ||おもわず|がらす|まど||め||むけた 佐賀 大和 の インター から なら 、 ここ まで 十分 と かから ない 。 さが|だいわ||いんたー|||||じゅうぶん||| Saga|Yamato|||||||||| 光代 は 椅子 に 座り 直す と 、「 来て くれる なら 、 もっと 早う 知らせて くれ れ ば よか と に 」 と 、 嬉しくて 文句 を 言った 。 てるよ||いす||すわり|なおす||きて||||はやう|しらせて||||||||うれしくて|もんく||いった ||chair|||sit up straight||||||sooner|let me know||||||||happy||| 隣 に ある ファーストフード 店 の 駐車 場 で 待ち合わせる こと に して 、 光代 は 祐一 から の 電話 を 切った 。 となり||||てん||ちゅうしゃ|じょう||まちあわせる||||てるよ||ゆういち|||でんわ||きった |||||||||meet up||||||||||| 平日 の 夜 、 思い も 寄ら ぬ 祐一 の 行動 に 、 からだ が カツ と する ほど の 幸福 感 が 押し寄せ て 〃 くる 。 へいじつ||よ|おもい||よら||ゆういち||こうどう||||かつ|||||こうふく|かん||おしよせ|| weekday|||||did not expect||||action||||sudden sound|||||happiness|feeling||overwhelming|| |||||||||||||カツン|||||||||| On a weekday night, an unexpected action from Yuichi floods me with a sense of happiness that makes my body feel alive. 残って いた 伝票 を 手早く 処理 し ながら も 、 高速 を 降りた 祐一 の 車 が 、 今 、 走り抜けて いる 街道 の 風景 が 浮かび 、 一 枚 確認 済み の はんこ を 押す 度 に 、 車 が 近づいて くる の が 感 じられる 。 のこって||でんぴょう||てばやく|しょり||||こうそく||おりた|ゆういち||くるま||いま|はしりぬけて||かいどう||ふうけい||うかび|ひと|まい|かくにん|すみ||||おす|たび||くるま||ちかづいて||||かん|じら れる ||slip||quickly|processing||||highway||got off||||||running through||highway||scenery||浮かび -浮かぶ|one|sheet||confirmed||stamp||pressed|each time|||||||||to be teased While quickly processing the remaining receipts, the scenery of the road that Yuichi's car is currently passing through after getting off the highway comes to mind, and with every stamp of the confirmed seal, I can feel the car approaching. 十五 分 は かかる と 思って いた 仕事 を 、 光代 は 五 分 で 終わら せた 。 じゅうご|ぶん||||おもって||しごと||てるよ||いつ|ぶん||おわら| |||||||work||Mitsuyo|||||| Mitsuyo finished a task that I thought would take fifteen minutes in just five minutes. フロア の 電気 を 消し て 、 一 階 の 更衣室 へ 駆け込む と 、 すでに 着替えた 水谷 が いつも 持参 して いる 水筒 から 、 どくだみ 茶 を 注いで 飲んで いる 。 ふろあ||でんき||けし||ひと|かい||こういしつ||かけこむ|||きがえた|みずたに|||じさん|||すいとう|||ちゃ||そそいで|のんで| |||||||first||changing room||rushed in|||changed||||brought with him|||water bottle||plantain herb|tea||poured|| |||||||||||||||||いつも||||||どくだみ茶||||| 「 あら 、 もう 終わった と ? ||おわった| 」 水谷 に 尋ねられ 、 光代 は 一瞬 、「 あ 、 えっと 」 と 言葉 を 詰まら せた 。 みずたに||たずね られ|てるよ||いっしゅん||えっ と||ことば||つまら| Mizutani||asked by|Mitsuyo||||||words||stumbled| これ から 二 人 で 回転 寿司 に 行く 約束 を 忘れて いた わけで は なかった が 、 あまり の 急 展開 に 断る 言い訳 を 考えて い なかった のだ 。 ||ふた|じん||かいてん|すし||いく|やくそく||わすれて||||||||きゅう|てんかい||ことわる|いいわけ||かんがえて||| |||||rotation||||||||||||||sudden|sudden development|||||||| 「 どうした と ? 」 言葉 を 詰まら せた 光代 を 見つめ 、 水谷 が 心配 そうに 訊 いて くる 。 ことば||つまら||てるよ||みつめ|みずたに||しんぱい|そう に|じん|| ||stopped||Mitsuyo||staring|Mizutani|||||| 「 あの 、 えっと ……」 「 どうした と ? |えっ と|| なんか あった ? 」 「 いや 、 そう じゃ なくて 、 今 、 ちょっと 電話 が あって ……」 「 電話 ? ||||いま||でんわ|||でんわ 誰 から ? だれ| 」 光代 は また 口ごもった 。 てるよ|||くちごもった |||mumbled |||もごもごした 水谷 に は 、 これ から 行く はずの 回転 寿司 店 で 、 祐一 と の 出会 い に ついて 話そう と して いた くせ に 、 いざ と なる と それ が 口 からすっと 出て こ ない 。 みずたに|||||いく||かいてん|すし|てん||ゆういち|||であ||||はなそう||||||||||||くち|からす っと|でて|| |||||||rotation|||||||meeting||||to talk||||||いざ|||||||smoothly||| ||||||||||||||||||||||||いざ|||||||||| 光代 の 様子 を じっと 見つめて いた 水谷 が 、「 また 今度 に する ? てるよ||ようす|||みつめて||みずたに|||こんど|| ||||quietly|||||||| Mizutani, who had been staring intently at Mitsuyo, said, 'Shall we do it another time?' 私 は いっでも よか よ 」 と 意味 深 な 笑み を 浮かべる 。 わたくし||いっ でも||||いみ|ふか||えみ||うかべる ||always|||||deep||||浮かべる I don't mind at any time, ' she said with a meaningful smile. 「 すいません ……」 と 光代 は 謝った 。 ||てるよ||あやまった ||||apologized 'I'm sorry ...' Mitsuyo apologized. 「 彼 氏 が 急に 迎え に きた と やる ? かれ|うじ||きゅうに|むかえ|||| ||||pick-up|||| Did he suddenly come to pick you up? 」 急な 変更 を 気 に も せ ず 、 水谷 が 微笑む 。 きゅうな|へんこう||き|||||みずたに||ほおえむ sudden|change|||||||Mizutani||smile Without caring about the sudden change, Mizutani smiles. 「 なんか あった と やろう と は 思う とった よ 。 ||||||おもう|| I thought something might have happened. 珍しゅう 週 末 に 休み 取ったり する し 、 昨日 から 幸せ そうな 顔 し とった もん 」 「 すいません ….:」 と 光代 は また 謝った 。 めずらしゅう|しゅう|すえ||やすみ|とったり|||きのう||しあわせ|そう な|かお||||||てるよ|||あやまった rare||||||||yesterday||||||||||Mitsuyo|||apologized 「 ほんと 、 気 に せ んで よ かって 。 |き||||| "I'm really glad you care. :。 … で 、 佐賀 の 人 ね ? |さが||じん| |Saga||| 」 「 いや 、 長崎 の ……」 「 へえ 、 長崎 から 急に 会い に 来た と ? |ながさき|||ながさき||きゅうに|あい||きた| |Nagasaki|||Nagasaki|||||| あら ら 、 じゃあ 、 私 と 回転 寿司 なんか 食べ とる 場合 じゃ なか ねえ 。 |||わたくし||かいてん|すし||たべ||ばあい||| |||||conveyor belt|||||||| ほら 、 早う 着替えて 行か ん ね 」 水谷 は そう 言って 、 突っ立って いる 光代 の 尻 を 叩いた 。 |はやう|きがえて|いか|||みずたに|||いって|つったって||てるよ||しり||たたいた |soon|changing||||Mizutani||||standing there||Mitsuyo||butt||tapped "Come on, hurry up and change!" Mizutani said as he slapped Mitsuyo's backside while she stood there. 水谷 が 先 に 帰り 、 誰 も い なく なった 更衣室 で 光代 は 急いで 着替えた 。 みずたに||さき||かえり|だれ|||||こういしつ||てるよ||いそいで|きがえた ||||||||||changing room||||quickly| Mizutani left first, and in the empty changing room, Mitsuyo hurriedly changed her clothes. 着替えて いる 最 中 に 携帯 が 鳴り 、「 今 、 着いた 」 と いう 祐一 から の メール が 入って いる 。 きがえて||さい|なか||けいたい||なり|いま|ついた|||ゆういち|||めーる||はいって| ||most|||cell phone||ringing||arrived||||||||| While changing, her phone rang, and there was a message from Yuichi saying, 'I just arrived.' 革 ジャケット を 着て きて よかった 。 かわ|じゃけっと||きて|| leather|||wearing|| I'm glad I wore my leather jacket. いつも 着て いる ダウン ジャケット の 襟 が 汚れて い て 、 今朝 、 もう 一 日 着て から クリーニング に 出そう か と 思った のだ が 、 なんとなく やめ た のだ 。 |きて||だうん|じゃけっと||えり||けがれて|||けさ||ひと|ひ|きて||くりーにんぐ||だそう|||おもった|||||| ||||||collar||dirty|||this morning||||||cleaning||will put out||||||||| The collar of the down jacket I always wear was dirty, and this morning, I thought about wearing it one more day before taking it to the cleaners, but somehow I decided against it. 週 末 、 祐一 に 会った とき に も 、 この 革 ジャケット を 着て いた 。 しゅう|すえ|ゆういち||あった|||||かわ|じゃけっと||きて| |||||||||leather|||| When I met Yuichi on the weekend, I was also wearing this leather jacket. 一 年 ほど 前 、 珠代 と バ ス で 博多 に 買い物 に 行った とき 、 十一万 円 と いう 値段 に 跨踏 は した が 、 十 年 に 一 度 と 奮発して 買った もの だった 。 ひと|とし||ぜん|たまよ|||||はかた||かいもの||おこなった||じゅういちまん|えん|||ねだん||また ふ||||じゅう|とし||ひと|たび||ふんぱつ して|かった|| ||||Tomoyo||quotation particle|||Hakata||||||110,000 yen||||price||stepped over||||||||||splurged||| |||||||||||||||||||||踏み切った||||||||||||| About a year ago, when I went shopping in Hakata by bus with Tamayo, I hesitated at the price of 110,000 yen, but I splurged because it was something I had bought once in ten years. 更衣室 の 鍵 を 閉め 、 管理 室 の 警備貝 に 渡して 通用口 を 出た 。 こういしつ||かぎ||しめ|かんり|しつ||けいび かい||わたして|つうようぐち||でた changing room||key|(object marker)|closed|management|room||security bell||passed|staff entrance|| I locked the dressing room door, handed the key to the security guard in the management room, and exited through the common entrance. 寒風 が 足元 を 吹き抜け 、 マフラー を しっかり と 首 に 巻き 直す 。 かんぷう||あしもと||ふきぬけ|まふらー||||くび||まき|なおす cold wind||||blew through|scarf||||neck||wrapped| The cold wind blew past my feet, and I tightened my scarf around my neck. がらんと した 駐車 場 に は 白線 だけ が くっきり と 浮 かび 、 フェンス の 向こう に は 、 休 閑中 の 畑 と 鉄塔 が ある 。 ||ちゅうしゃ|じょう|||はくせん|||||うか||ふぇんす||むこう|||きゅう|ひまなか||はたけ||てっとう|| empty|empty|||||white line|||clearly||浮かび|floated||||||rest|during休息||field||transmission tower|| 空っぽの||||||||||||||||||||||||| In the empty parking lot, only the white lines stood out clearly, and beyond the fence, there were fields in rest and a transmission tower. 視線 を 転じる と 、 隣 に ある ファーストフード 店 の 駐車 場 に 、 見覚え の ある 白い 車 が 停 まって いる 。 しせん||てんじる||となり||||てん||ちゅうしゃ|じょう||みおぼえ|||しろい|くるま||てい|| gaze||to turn|||||||||||recollection||||||stopped|| When I turned my eyes, a familiar white car was parked in the parking lot of the fast food restaurant next door. さほど 混 んで いない が 、 よく 磨か れた 祐一 の 車 だけ が 、 駐車 場 の 照明 に き ら きら と 輝いて いる 。 |こん|||||みがか||ゆういち||くるま|||ちゅうしゃ|じょう||しょうめい||||||かがやいて| not so||||||polished||||||||||lighting||||||sparkling| ||||||磨かれた||||||||||light||||||| Although it is not very crowded, only Yuichi's well-polished car is shining brightly under the parking lot lights. 光代 は 一旦 駐車 場 から 国道 に 出て 、 フェンス の 向こう を 覗き ながら 、 隣 の 駐車 場 へ と 急いだ 。 てるよ||いったん|ちゅうしゃ|じょう||こくどう||でて|ふぇんす||むこう||のぞき||となり||ちゅうしゃ|じょう|||いそいだ ||for a moment||||national road|||||||peeked||||||||hurried Mitsuyo exited the parking lot onto the national highway, peeking over the fence and hurriedly headed to the neighboring parking lot. ファーストフード 店 の 駐車 場 に 入る と 、 祐一 の 車 の ライト が チカッ と 光った 。 |てん||ちゅうしゃ|じょう||はいる||ゆういち||くるま||らいと||||ひかった ||||||||||||||flashed|quotation particle|flashed ||||||||||||||点滅した|| Upon entering the fast food restaurant's parking lot, the lights of Yuichi's car flashed brightly. 隣 から 歩いて くる 自分 の 姿 を ずっと 見て いた らしい 。 となり||あるいて||じぶん||すがた|||みて|| 光代 は 暗い 車 内 に いる だろう 祐一 に 向かって 、 小さく 手 を 振って 見せた 。 てるよ||くらい|くるま|うち||||ゆういち||むかって|ちいさく|て||ふって|みせた ||dark||||||||||||waved| Mitsuyo waved her hand gently towards Yuichi, who was probably inside the dark car. 近寄って いく と 、 祐一 が 助手 席 の ドア を 内側 から 開けて くれた 。 ちかよって|||ゆういち||じょしゅ|せき||どあ||うちがわ||あけて| approaching||||||||||inside||| As I approached, Yuichi opened the door of the passenger seat from the inside. 開いた とたん 、 車 内 が 明るく なり 、 作業 服 を 着た 祐一 の 姿 が 見える 。 あいた||くるま|うち||あかるく||さぎょう|ふく||きた|ゆういち||すがた||みえる opened|||||bright||work|||||||| As soon as it opened, the inside of the car became bright, and I could see Yuichi wearing work clothes. 光代 は 車 に 駆け寄り 、「 さ ぶ 〜 い 」 と 身震い し ながら 助手 席 に 乗り込んだ 。 てるよ||くるま||かけより|||||みぶるい|||じょしゅ|せき||のりこんだ ||||ran over|||||shivering|||||| |||||さぶ|||||||||| その 間 、 一 度 も 祐一 と は 目 を 合わせ なかった が 、 ドア が 閉まり 、 また 車 内 が 暗く なった とたん 、 「 ほんとに 仕事 終わって すぐに 来た と ? |あいだ|ひと|たび||ゆういち|||め||あわせ|||どあ||しまり||くるま|うち||くらく||||しごと|おわって||きた| that|||||||||||||||closed|||||dark|||||||| During that time, I never once made eye contact with Yuichi, but as soon as the door closed and the interior became dark again, I asked, "Did you really come right after finishing work?" 」 と 祐一 の ほう へ 顔 を 向けた 。 |ゆういち||||かお||むけた 「 家 に 帰って から や と 、 もっと 遅う なる けん 」 祐一 が 車 内 の 暖房 を 強め ながら 言う 。 いえ||かえって|||||おそう|||ゆういち||くるま|うち||だんぼう||つよ め||いう |||||||later||so||||||heating||stronger|| 「 もっと 早う 電話 くれれば よかった と に 」 「 しよう か なって 思う た けど 、 仕事 中 やろう と 思う て 」 「 もし 、 今日 、 会 えんかつ たら どう する つもり やった と ? |はやう|でんわ||||||||おもう|||しごと|なか|||おもう|||きょう|かい||||||| |||if you had given|||||||||||||||||||couldn't meet|||||| 」 光代 が ちょっと 意地 悪く 尋ねる と 、「 もし 会え ん かつ たら 、 そのまま 帰る つもり やった 」 と 生真面目に 答える 。 てるよ|||いじ|わるく|たずねる|||あえ|||||かえる||||きまじめに|こたえる |||stubbornness||||||||||||||with all seriousness| 光代 は シフト レバー に 置か れた 祐一 の 手 に 自分 の 手 を のせた 。 てるよ||しふと|ればー||おか||ゆういち||て||じぶん||て|| ||shift|lever||placed||||||||||placed 祐一 の 作業 着 の せい か 、 車 内 に 廃 嘘 の ような 匂い が した 。 ゆういち||さぎょう|ちゃく||||くるま|うち||はい|うそ|||におい|| Yuichi|||clothes|||||||abandoned|smell||||| Due to Yuichi's work clothes, there was a smell in the car that was like garbage. 車 は ファーストフード 店 の 駐車 場 に 停められた まま 、 なかなか 動き出さ なかった 。 くるま|||てん||ちゅうしゃ|じょう||とめ られた|||うごきださ| ||||||||stopped|||started moving| The car was parked in the fast-food restaurant's parking lot and did not start moving for a while. す で に 三 組 ほど 、 店 内 から 出て きた 客 が 車 に 乗り込み 、 駐車 場 から 走り去って いる 。 |||みっ|くみ||てん|うち||でて||きゃく||くるま||のりこみ|ちゅうしゃ|じょう||はしりさって| ||locative particle|||||||||||||boarding||||driving away| Already, about three groups of customers had come out from the store, got into their cars, and drove away from the parking lot. 逆に 入って くる 車 が ない ので 、 車 が 減る たび に 、 まるで 大海 の 小舟 の ように 自分 たち の 車 だ け が 残さ れる 。 ぎゃくに|はいって||くるま||||くるま||へる||||たいかい||こぶね|||じぶん|||くるま||||のこさ| on the contrary|||||||||decreases||||great sea||small boat||||||||||left| もう 何分 くらい 経つ の か 、 光代 の 指 と 祐一 の 指 は 、 未 だに シフト レバー の 上 で 絡み合って いる 。 |なにぶん||たつ|||てるよ||ゆび||ゆういち||ゆび||み||しふと|ればー||うえ||からみあって| |how many minutes||has passed|||Hikari||||||||still|still|shift|||||entwined| 言葉 は なく 、 ただ 指先 だけ が 、 もう 何分 も 話 を して いる 。 ことば||||ゆびさき||||なにぶん||はなし||| There are no words, only the fingertips have been talking for a while. 「 明日 も 仕事 、 早い と やる ? あした||しごと|はやい|| "Do you want to get up early for work tomorrow?" 」 光代 は 祐一 の 中指 を 握り ながら 尋ねた 。 てるよ||ゆういち||なかゆび||にぎり||たずねた ||||middle finger||held|| Mitsuyo asked while gripping Yuichi's middle finger. フェンス の 向こう に 見える 国道 を 、 スピード を 上げた 車 が 走って いく 。 ふぇんす||むこう||みえる|こくどう||すぴーど||あげた|くるま||はしって| |||||national road|||||||| fence||||||||||||| 「 五 時 半 起き 」 祐一 が 光代 の 手首 を 親指 の 腹 で 撫でる 。 いつ|じ|はん|おき|ゆういち||てるよ||てくび||おやゆび||はら||なでる ||||||Mitsuyo||||thumb|possessive particle|pad||gently touches 「 ここ から 長崎 まで 二 時間 くらい かかる よ ね ? ||ながさき||ふた|じかん|||| ||Nagasaki||||||| あんまり 時間 ない ね 」 「 ちょっと 顔 見 たかった だけ やけん ..…・」 エンジン を かけた まま の 車 の 中 で 、 デジタル 時計 が 9” 肥 を 示して いる 。 |じかん||||かお|み||||えんじん|||||くるま||なか||でじたる|とけい||こえ||しめして| ||||||saw|||||||||||||digital|||fat||showing| 「 帰る と やる ? かえる|| 」 と 光代 は 尋ねた 。 |てるよ||たずねた 指 の 動き を 止めた 祐一 が 、「…… うん 、 今夜 の うち に 帰ら ん と 、 明日 三 時 起き に なる し 」 と 苦笑 する 。 ゆび||うごき||とどめた|ゆういち|||こんや||||かえら|||あした|みっ|じ|おき|||||くしょう| |||||||||||||||||||||||wry smile| Yuichi, who stopped moving his fingers, said, '... Yeah, if I don't go home tonight, I'll have to get up at three o'clock tomorrow,' with a wry smile. 会い たくて 、 会い たくて 、 仕方 が なくなった んだ 。 あい||あい||しかた||| I wanted to see you, I wanted to see you, and I couldn't help it. 仕方 が なくて 、 仕事場 から 真っす ぐ 走って きた んだ 。 しかた|||しごとば||まっ す||はしって|| |||||straight|||| I had no choice but to run straight here from work. 祐一 が そう 言って くれる こと は なかった が 、 自分 の 手首 を 撫でる 祐一 の 指 の 動き で 、 そんな 気持ち が 伝わって きた 。 ゆういち|||いって||||||じぶん||てくび||なでる|ゆういち||ゆび||うごき|||きもち||つたわって| |||||||||||||to stroke||||||||||conveyed| これ から 近く の ラブ ホテル に 入れば 、 二 時間 くらい は 一緒に いられる 。 ||ちかく||らぶ|ほてる||はいれば|ふた|じかん|||いっしょに|いら れる If we go into a nearby love hotel from now on, we can be together for about two hours. ただ 、 それ か ら 長崎 へ 帰る と なる と 、 到着 は 深夜 一 時 過ぎ に なる 。 ||||ながさき||かえる||||とうちゃく||しんや|ひと|じ|すぎ|| ||||Nagasaki||||||arrival||midnight||||| However, if we are to return to Nagasaki after that, we would arrive after 1 AM. すぐに 寝て も 、 四 時間 ほど しか 眠 ら ず に 、 祐一 は きつい 仕事 へ 出かけ なければ なら ない 。 |ねて||よっ|じかん|||ねむ||||ゆういち|||しごと||でかけ||| |sleep|||||||||||||||||| Even if he goes to sleep right away, Yuichi will only manage to sleep for about four hours before he has to leave for a tough job. 二 時間 で いい から 一緒に いたい 。 ふた|じかん||||いっしょに|い たい I want to be together for just two hours. でも 、 一 時間 でも 多く 、 祐一 を 眠ら せて あげたい 。 |ひと|じかん||おおく|ゆういち||ねむら||あげ たい |||||Yuichi||to sleep|| But I want to let Yuichi sleep for even just one more hour. 「 うち に 妹 が おら ん やったら ね :…・」 思わず そんな 言葉 が 漏れて 、 光代 は 自分 で 自分 の 言葉 に ハツ と した 。 ||いもうと||||||おもわず||ことば||もれて|てるよ||じぶん||じぶん||ことば||はつ|| ||||||||||||slipped out|Mitsuyo||||||||suddenly realized|| |||||||||||||||||||||発言|| "If I didn’t have a younger sister at home..." those words slipped out before I realized it, and Mitsuyo was taken aback by her own words. これ まで 妹 の 珠 代 を 邪魔だ と 思った こと は ない 。 ||いもうと||しゅ|だい||じゃまだ||おもった||| ||||pearl|||a nuisance||||| 逆に いつも 妹 の 帰り ばかり を 心配 して いる 生活 だった のだ 。 ぎゃくに||いもうと||かえり|||しんぱい|||せいかつ|| on the contrary||younger sister|||||||||| 「 ホテル .:… 行く ? ほてる|いく 」 祐一 が ぼ そっと 訊 いて きた 。 ゆういち||||じん|| ||||asked|| その 訊 き 方 が 、 明日 の 朝 を 心配 して いる の か 、 どこ か 跨 踏 して いる 。 |じん||かた||あした||あさ||しんぱい|||||||また|ふ|| ||||||||||||||||crossing|stepping on|| That way of asking seems to be worried about tomorrow morning, or is somehow stepping over something. 「 でも 今 から 入ったら 、 帰る の 遅く なる よ 」 「…… そう やけど 」 シフト レバー の 上 で 、 祐一 の 指先 に 力 が 入る 。 |いま||はいったら|かえる||おそく|||||しふと|ればー||うえ||ゆういち||ゆびさき||ちから||はいる ||||||late||||||||||||finger|||| "But if I go in now, it will be late when I get back." "...That's true," Yuichi tightened his fingers on the shift lever. 「 なんか 、 やっぱり 佐賀 と 長崎って 遠い ね 」 光代 は ふと そう 眩 いて しまい 、 すぐに 、「 あ 、 じゃ なくて 」 と 首 を 振った 。 ||さが||ながさき って|とおい||てるよ||||くら||||||||くび||ふった ||Saga||Nagasaki|far||||suddenly||squinted||||||||||shook "Somehow, it really feels like Saga and Nagasaki are far away," Mitsuyo suddenly thought this, and immediately shook her head, saying, "Oh, no, that's not it." 「::: そう じゃ なくて 、 なんか 、 せっかく 来て くれた と に 、 ゆっくり する 時間 も ない 〆 一 1 し 」 「 平日 やけん 、 仕方 なか よ 」 祐一 が 諦めた ように 眩 く ・ それ が どこ か 冷たく 響き 、「 祐一って 真面目 か ょね 」 と 思 わ ず 光代 は 言い返した 。 |||||きて||||||じかん||||ひと||へいじつ||しかた|||ゆういち||あきらめた||くら||||||つめたく|ひびき|ゆういち って|まじめ||||おも|||てるよ||いいかえした ||||||||||||||end quotation|||weekday|||||||gave up||bright|||||||echoed|Yuichi|serious||you know|||||Mitsuyo||retorted It's not that... It's just that since you came all this way, we don't even have time to relax. "It's a weekday, so there's nothing we can do about it," Yuichi said, as if he had given up. That sounded somewhat cold, and without thinking, Mitsuyo replied, "Yuichi, you're so serious, aren't you?" 「 仕事 は 休め ん よ 。 しごと||やすめ|| ||take a break|| I can't take time off work. おじさん の 会社 やし 」 「 でも 、 土 日 は 私 が なかなか 仕事 休め ん よ 。 ||かいしゃ|||つち|ひ||わたくし|||しごと|やすめ|| ||||||||||||can休む|| It's my uncle's company, you see." "But on weekends, I can hardly take time off work." この前 の ように 二 日 続けて 一緒に おる んな ん て 、 滅多に でき ん かも 」 少し 意地悪な 言い 方 だった 。 この まえ|||ふた|ひ|つづけて|いっしょに|||||めったに||||すこし|いじわるな|いい|かた| |||||||||||rarely|||||a little mean||| It's rare to spend two days together like we did the other day, I might not be able to do that often,” she said in a somewhat teasing manner. その とたん 、 祐一 の 指先 から 力 が なくなる 。 ||ゆういち||ゆびさき||ちから|| ||||||||loses At that moment, the strength drained from Yuichi's fingertips. 私 に 会い に きて くれた 人 な のだ 、 と 光代 は 思う 。 わたくし||あい||||じん||||てるよ||おもう ||||||||||Mitsuyo|| Hikariyo thinks, 'He is someone who came to see me.' 自分 たち に は 会う 時間 が ない んだ と 、 そんな こと を わざわざ 聞き に きた わけで は なくて 、 きつい だろう 仕事 を 終えた その 足 で 、 二 時間 も 車 を 走ら せて 、 わざわざ 私 に 会い に 来て くれた 人 な のだ と 。 じぶん||||あう|じかん|||||||||きき||||||||しごと||おえた||あし||ふた|じかん||くるま||はしら|||わたくし||あい||きて||じん||| ||||||||||||||||||||||||finished||||||||||||||||||||| 「 ねえ 、 隣 の 駐車 場 に 移動 せ ん ? |となり||ちゅうしゃ|じょう||いどう|| ||||||move|| Hey, why don't we move to the parking lot next door? 」 光代 は 力 の 抜けた 祐一 の 指 を 引っ張った 。 てるよ||ちから||ぬけた|ゆういち||ゆび||ひっぱった ||||lost|||||pulled Hikaru pulled Yuichi's hand, which had lost all strength. 「 もう 店 も 終わっと る し 、 他の 車 が 入って くる こと も ない けん 、 ゆっくり 話 できる よ 。 |てん||しまわ っと|||たの|くるま||はいって|||||||はなし|| |||closed||||||||||||||| The shop is already closed, and since no other cars will be coming in, we can talk slowly. 建物 の 裏 に 停めれば 、 通り から も 見え ん し 」 光代 の 言葉 に 祐一 が フェンス の 向こう 、 すでに 照明 も 消さ れた 紳士 服 店 の 駐車 場 に 目 を 向け 、 すぐに サイド ブレーキ を 下ろそう と する 。 たてもの||うら||とめれば|とおり|||みえ|||てるよ||ことば||ゆういち||ふぇんす||むこう||しょうめい||けさ||しんし|ふく|てん||ちゅうしゃ|じょう||め||むけ||さいど|ぶれーき||おろそう|| ||back||if parked|street||||||||||||fence||||lighting||turned off||gentleman|suit||||||||||side|||release|| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||サイドブレーキ||||| If you park behind the building, you won't be visible from the street,” said Mitsuyo, as Yuichi looked towards the parking lot of the men's clothing store, where the lights had already been turned off, and immediately tried to release the handbrake. 「 あ 、 ちょっと 待って 。 ||まって Oh, just wait a minute. 晩 ご飯 まだ 食べ とら ん と やる ? ばん|ごはん||たべ|||| dinner||||||| Haven't you eaten dinner yet? そこ で なんか 買って くる け ん 」 光代 が 慌てて そう 言う と 、「 いや 、 高速の サービス エリア で うどん 食 うて きた 。 |||かって||||てるよ||あわてて||いう|||こうそくの|さーびす|えりあ|||しょく|| ||||||||||||||highway||||||| "Well, I'm going to buy something over there," Hikayo said in a hurry, "No, I just had udon at the highway service area." 我慢 でき ん で 」 と 祐一 は 笑った 。 がまん|||||ゆういち||わらった patience||||||| 車 は ファーストフード 店 の 駐車 場 を 出て 、 紳士 服 店 「 若葉 」 の 駐車 場 に 入った 。 くるま|||てん||ちゅうしゃ|じょう||でて|しんし|ふく|てん|わかば||ちゅうしゃ|じょう||はいった ||fast food|||||||gentleman|||Wakaba||||| 店舗 の 裏 に 回る と 辺り は 真っ暗で 、 フェンス の 向こう に 見える 畑 の 中 、 ライト アップ さ れた 化粧 品 の 大きな 看板 だけ が 風景 に なる 。 てんぽ||うら||まわる||あたり||まっくらで|ふぇんす||むこう||みえる|はたけ||なか|らいと|あっぷ|||けしょう|しな||おおきな|かんばん|||ふうけい|| store||back||||surroundings||pitch black||||||field|||||||cosmetics||||sign|||scenery|| 「 私 、 今度 の 金曜日 、 公休 やけん 、 長崎 に 行こう か な 。 わたくし|こんど||きんようび|こうきゅう||ながさき||いこう|| |||Friday|day off||Nagasaki|||| 日帰り やけど 」 車 が 停 まる と 、 光代 は ハンドル を 握った まま の 祐一 に 言った 。 ひがえり||くるま||てい|||てるよ||はんどる||にぎった|||ゆういち||いった day trip||||stopped|||||||held||||| It's a day trip, but when the car stopped, Mitsuyo said to Yuichi, who was still gripping the steering wheel. その 瞬間 、 祐一 の 腕 が 伸びて きて 、 耳元 から 首すじ に かけて 、 熱い 手のひら が 置か れる 。 |しゅんかん|ゆういち||うで||のびて||みみもと||くびすじ|||あつい|てのひら||おか| |moment|||||reaching||ear||neck|||hot|palm||placed| In that moment, Yuichi's arm reached out, and a warm palm was placed from her ear down to her neck. 祐一 は 何も 言わ ず に キス を して きた 。 ゆういち||なにも|いわ|||きす||| Yuichi kissed her without saying anything. 一瞬 焦った が 、 あっという間 に 祐一 の からだ が のしかかって くる 。 いっしゅん|あせった||あっというま||ゆういち||||| |panicked||||||||leaning| |||||||||のしかかってくる| 光 代 は 目 を 閉じて 、 からだ を 任せた 。 ひかり|だい||め||とじて|||まかせた ||||||||trusted 駐車 場 を 出た の は 、 十 時 を 回った ころ だった 。 ちゅうしゃ|じょう||でた|||じゅう|じ||まわった|| |||||||||passed|| いつまで でも 抱き合って い たかった が 、 それ 以上 に 、 明日 の 朝 、 祐一 に つらい 思い を さ せ たく ない と いう 気持ち が 強かった 。 ||だきあって|||||いじょう||あした||あさ|ゆういち|||おもい||||||||きもち||つよかった ||hugging each other|||||more||tomorrow||morning||||||||||||||strong I wanted to hold each other forever, but more than that, I felt strongly that I didn't want to make Yuichi feel painful tomorrow morning. 車 を 出す と 、 祐一 は 案内 も なし に 光代 の アパート へ 向かった 。 くるま||だす||ゆういち||あんない||||てるよ||あぱーと||むかった ||||||guidance||||Mitsuyo|||| Once he started the car, Yuichi headed towards Mitsuyo's apartment without any guidance. 器用に 車線 を 変更 し 、 次々 と 他の 車 を 抜いて いく 。 きように|しゃせん||へんこう||つぎつぎ||たの|くるま||ぬいて| skillfully|lane||change|||||||pass| Skillfully changing lanes, he passed car after car. 「 じゃあ 、 しあさって バス で 長崎 に 行く ね 」 光代 は すでに 慣れた 車 の 揺れ に 身 を 任せ ながら 言った 。 ||ばす||ながさき||いく||てるよ|||なれた|くるま||ゆれ||み||まかせ||いった |the day after tomorrow|||Nagasaki|||||||used to|||swaying||||rely|| |the day after tomorrow||||||||||||||||||| The day after tomorrow, we'll take the bus to Nagasaki," Mitsuyo said, letting the familiar shaking of the car take care of her. 「 六 時 に は 仕事 終わる けん 」 祐一 が 前 の 車 を 煽り ながら 眩 く ・ 「 せっかく やけん 、 午前 中 に 行って 、 一 人 で 観光 しょっと 。 むっ|じ|||しごと|おわる||ゆういち||ぜん||くるま||あおり||くら||||ごぜん|なか||おこなって|ひと|じん||かんこう|しょ っと |||||||||||||tailgating||dazzling|bright||so||||||||sightseeing|probably I'm going to finish work at six o'clock," Yuichi said, dazzling the car in front of him with his agitation, "since I'm going to be there in the morning, I thought I'd go sightseeing by myself. 長崎 市 内 に 行く とって 、 も う 何 年 ぶり やろ ……、 去年 、 妹 たち と ハウステンボス に は 行った けど 」 「 俺 が 案内 できれば いい と けど 。 ながさき|し|うち||いく||||なん|とし|||きょねん|いもうと||||||おこなった||おれ||あんない|||| Nagasaki||||||||||||last year||||Huis Ten Bosch|||||||guidance|||| ||||||||||||||||ハウステンボス||||||||||| It's been years since I've been to Nagasaki city. ......, I went to Huis Ten Bosch with my sisters last year, but I hope I can show you around. …:」 「 大丈夫 。 だいじょうぶ ちゃんぽん 食べて 、 教会 と か 見て :…・」 297 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? |たべて|きょうかい|||みて|だい|よっ|しょう|かれ||だれ||であった| chanpon||church||||first||chapter|||||| ちゃんぽん|||||||||||||| 自転車 で 十五 分 かかる 距離 が 、 祐一 の 運転 だ と ほんの 三 分 だった 。 じてんしゃ||じゅうご|ぶん||きょり||ゆういち||うんてん||||みっ|ぶん| |||||distance|||||||||| The distance that takes fifteen minutes by bicycle took only three minutes with Yuichi driving. 祐一 は 先日 と 同じ ように 未 舗装 の アパート 敷地 内 に 車 を 入れた 。 ゆういち||せんじつ||おなじ||み|ほそう||あぱーと|しきち|うち||くるま||いれた ||recently||||un|paved|||premises||||| Yuichi drove into the unpaved apartment complex just like the other day. 「 あ 〜、 やっぱり 、 妹 、 もう 帰っと る 」 光代 は 明かり の ついた 二 階 の 窓 を 見上げた 。 ||いもうと||かえ っと||てるよ||あかり|||ふた|かい||まど||みあげた ||||going back||||||||||||looked up Ah, I knew it, my sister is already home, Mitsuyo looked up at the lit window on the second floor. 「…… さっき 会う た ばっかり と に ね 」 そう 眩 く 光代 の 唇 に 、 祐一 の 乾いた 唇 が 重なる 。 |あう|||||||くら||てるよ||くちびる||ゆういち||かわいた|くちびる||かさなる a little while ago|||just|||||dazzling||||lips||||dry|lips||overlaps "… We just met a little while ago, didn't we?" With that, Yuichi's dry lips press against the dazzling lips of Mitsuyo. 「 気 を つけて 帰って よ 」 光代 は 唇 を つけた まま 言った 。 き|||かえって||てるよ||くちびる||||いった |||||||lips||touched|| 祐一 も そのまま で 頷いた 。 ゆういち||||うなずいた ||||nodded 一瞬 、 祐一 が 何 か 言い かけ たような 気 が して 、「 え ? いっしゅん|ゆういち||なん||いい|||き||| |||||||seemed to|||| 」 と 光代 は からだ を 離した 。 |てるよ||||はなした |||||separated しかし 祐一 は 目 を 伏せた だけ だった 。 |ゆういち||め||ふせた|| |||||looked down|| However, Yuichi just looked down. 光代 は 敷地 から 出て いく 車 を 見送った 。 てるよ||しきち||でて||くるま||みおくった Mitsuyo||premises||||||saw off Mitsuyo saw off the car leaving the premises. 車道 へ 出る と 、 祐一 は 一 度 クラクション を 鳴 らし 、 あっという間 に 走り去った 。 しゃどう||でる||ゆういち||ひと|たび|||な||あっというま||はしりさった road||||||||horn||sounded||in no time||ran away When he entered the roadway, Yuichi honked once and quickly drove away. もう 寂しかった 。 |さびしかった |lonely もう 会い たく なって いた 。 |あい||| 光代 は 赤い テールランプ が 見え なく なる まで 立って いた 。 てるよ||あかい|||みえ||||たって| |||tail lamp||||||| |||tail lamp||||||| あれ は いつ だった か 、 珠代 が 美容 師 の 男の子 と 付き合って いる ころ 、 同じ ような こと を 言って いた 。 |||||たまよ||びよう|し||おとこのこ||つきあって|||おなじ||||いって| |||||Tamayo||beauty|stylist|||||||||||| When was it? At the time when Tamayo was dating a boy who was a beautician, she said something similar. デート が 終わる と もう 寂しい 。 でーと||おわる|||さびしい |||||lonely When the date ends, I already feel lonely. もう 会い たくて 仕方ない 。 |あい||しかたない I can't help but want to see you again. 当時 は その 気 持ち が いまいち 理解 でき ず に いた が 、 今 なら 分かる 。 とうじ|||き|もち|||りかい||||||いま||わかる at that time||||feeling||not quite|understood|||||||| 分かる どころ か 、 こんな 気持ち に なって 、 よく 平気で いられた もの だ と さえ 思う 。 わかる||||きもち||||へいきで|いら れた|||||おもう ||||||||without concern|||||| 光代 は 車 を 追いかけて 走り出したい 気 分 だった 。 てるよ||くるま||おいかけて|はしりだし たい|き|ぶん| ||||chasing|want to run||| |||||走り出したい||| Mitsuyo felt like she wanted to run after the car. 座り込んで 、 声 を 上げて 泣き たかった 。 すわりこんで|こえ||あげて|なき| sitting||||| She wanted to sit down and cry out loud. 祐一 と 一緒に いられる ならば 、 なん だって でき そうな 気 さえ した 。 ゆういち||いっしょに|いら れる|||||そう な|き|| |||could be|||||||even| If I could be together with Yuuichi, I felt like I could do just about anything.