第 三 の 手記 二 (4)
だい|みっ||しゅき|ふた
||||two
Third Note II (4)
Troisième note ii (4).
제 3의 수기 2 (4)
Terceira nota ii (4).
第三注2 (4)
第三份備忘錄 2 (4)
けれども 、自分 は それ から すぐに 、あの はにかむ ような 微笑 を する 若い 医師 に 案内 せられ 、或る 病棟 に いれられて 、ガチャン と 鍵 かぎ を おろさ れました。
|じぶん||||||||びしょう|||わかい|いし||あんない|せら れ|ある|びょうとう||いれ られて|||かぎ||||れ ました
but|||||right away||to smile shyly|like|smile|||young|doctor||guided|was guided||ward||put in|with a clatter||||||was locked
But soon after, I was guided by a young doctor with a grinning smile, put me in a ward, and took down Gachan and the key.
脳 病院 でした。
のう|びょういん|
||was
It was a brain hospital.
女 の いない ところ へ 行く と いう 、あの ジアール を 飲んだ 時 の 自分 の 愚かな うわごと が 、まことに 奇妙に 実現 せられた わけでした。
おんな|||||いく||||||のんだ|じ||じぶん||おろかな||||きみょうに|じつげん|せら れた|
|||||||||ジアール||||||||||||||
My stupid shit when I drank that Gir, going to a place without a woman, was really strangely realized.
その 病棟 に は 、男 の 狂 人 ばかり で 、看護 人 も 男 でした し 、女 は ひと り も いま せ ん でした。
|びょうとう|||おとこ||くる|じん|||かんご|じん||おとこ|||おんな||||||||
||||||||||nursing||||||||||||||
いま は もう 自分 は 、罪人 どころ で は なく 、狂 人 でした。
|||じぶん||ざいにん|||||くる|じん|
いいえ 、断じて 自分 は 狂って など い なかった のです。
|だんじて|じぶん||くるって||||
|by no means|||||||
一 瞬間 と いえ ども 、狂った 事 は 無い んです。
ひと|しゅんかん||||くるった|こと||ない|
けれども 、ああ 、狂 人 は 、たいてい 自分 の 事 を そう 言う もの だ そうです。
||くる|じん|||じぶん||こと|||いう|||そう です
つまり 、この 病院 に いれられた 者 は 気 違い 、いれられ なかった 者 は 、ノーマル と いう 事 に なる ようです。
||びょういん||いれ られた|もの||き|ちがい|いれ られ||もの||のーまる|||こと|||
||||put|||||placed||||normal||||||
神 に 問う。
かみ||とう
無抵抗 は 罪な りや?
むていこう||つみな|
no resistance|||
堀木 の あの 不思議な 美しい 微笑 に 自分 は 泣き 、判断 も 抵抗 も 忘れて 自動車 に 乗り 、そうして ここ に 連れて 来られて 、狂 人 と いう 事 に なりました。
ほりき|||ふしぎな|うつくしい|びしょう||じぶん||なき|はんだん||ていこう||わすれて|じどうしゃ||のり||||つれて|こ られて|くる|じん|||こと||なり ました
||||||||||||resistance|||||||||||||||||
いまに 、ここ から 出て も 、自分 は やっぱり 狂 人 、いや 、癈人 はいじん と いう 刻印 を 額 に 打た れる 事 でしょう。
|||でて||じぶん|||くる|じん||はいじん||||こくいん||がく||うた||こと|
|||||||||||useless person|invalid|||stigma|||||||
人間 、失格。
にんげん|しっかく
|not qualified
もはや 、自分 は 、完全に 、人間 で 無くなりました。
|じぶん||かんぜんに|にんげん||なくなり ました
ここ へ 来た の は 初夏 の 頃 で 、鉄 の 格子 の 窓 から 病院 の 庭 の 小さい 池 に 紅 あかい 睡蓮 の 花 が 咲いて いる の が 見えました が 、それ から 三 つき 経ち 、庭 に コスモス が 咲き はじめ 、思いがけなく 故郷 の 長兄 が 、ヒラメ を 連れて 自分 を 引き取り に やって 来て 、父 が 先月 末 に 胃 潰瘍 いか い ようで なく なった こと 、自分 たち は もう お前 の 過去 は 問わ ぬ 、生活 の 心配 も かけ ない つもり 、何も し なくて いい 、その代り 、いろいろ 未練 も ある だろう が すぐに 東京 から 離れて 、田舎 で 療養 生活 を はじめて くれ 、お前 が 東京 で しでかした 事 の 後 仕末 は 、だいたい 渋田 が やって くれた 筈 だ から 、それ は 気 に し ないで いい 、と れい の 生真面目な 緊張 した ような 口調 で 言う のでした。
||きた|||しょか||ころ||くろがね||こうし||まど||びょういん||にわ||ちいさい|いけ||くれない||すいれん||か||さいて||||みえ ました||||みっ||たち|にわ||こすもす||さき||おもいがけなく|こきょう||ちょうけい||ひらめ||つれて|じぶん||ひきとり|||きて|ちち||せんげつ|すえ||い|かいよう|||||||じぶん||||おまえ||かこ||とわ||せいかつ||しんぱい|||||なにも||||そのかわり||みれん||||||とうきょう||はなれて|いなか||りょうよう|せいかつ||||おまえ||とうきょう|||こと||あと|しまつ|||しぶた||||はず|||||き||||||||きまじめな|きんちょう|||くちょう||いう|
|||||early summer||||iron||grid|||||||||||||water lily|||||||||||||||||cosmos|||||||eldest brother|||||||||||||||||stomach ulcer||||||||||||||||||||||||||||その代り||lingering attachment|||||||||||medical care|||||||||caused||||||||||||was||||||||||||overly serious|||||||
故郷 の 山河 が 眼前 に 見える ような 気 が して 来て 、自分 は 幽 か に うなずきました。
こきょう||さんか||がんぜん||みえる||き|||きて|じぶん||ゆう|||うなずき ました
||mountains and rivers|||||||||||||||
まさに 癈人。
|はいじん
父 が 死んだ 事 を 知って から 、自分 は いよいよ 腑抜 ふ ぬけた ように なりました。
ちち||しんだ|こと||しって||じぶん|||ふばつ||||なり ました
||||||||||coward||foolish||
父 が 、もう いない 、自分 の 胸中 から 一刻 も 離れ なかった あの 懐 しく おそろしい 存在 が 、もう いない 、自分 の 苦悩 の 壺 が からっぽに なった ような 気 が しました。
ちち||||じぶん||きょうちゅう||いっこく||はなれ|||ふところ|||そんざい||||じぶん||くのう||つぼ|||||き||し ました
|||||||||||||nostalgic|||||||||anguish||bowl|(subject marker)||||||
自分 の 苦悩 の 壺 が やけに 重かった の も 、あの 父 の せい だった ので は なかろう か と さえ 思わ れました。
じぶん||くのう||つぼ|||おもかった||||ちち||||||||||おもわ|れ ました
まるで 、張合い が 抜けました。
|はりあい||ぬけ ました
|energy||lost
苦悩 する 能力 を さえ 失いました。
くのう||のうりょく|||うしない ました
|||||lost
I even lost the ability to suffer.
長兄 は 自分 に 対する 約束 を 正確に 実行 して くれました。
ちょうけい||じぶん||たいする|やくそく||せいかくに|じっこう||くれ ました
eldest brother||||||||||
自分 の 生れて 育った 町 から 汽車 で 四 、五 時間 、南下 した ところ に 、東北 に は 珍 らしい ほど 暖かい 海辺 の 温泉 地 が あって 、その 村 は ずれ の 、間数 は 五 つ も ある のです が 、かなり 古い 家 らしく 壁 は 剥 はげ 落ち 、柱 は 虫 に 食わ れ 、ほとんど 修理 の 仕様 も 無い ほど の 茅 屋 ぼう おく を 買いとって 自分 に 与え 、六十 に 近い ひどい 赤毛 の 醜い 女 中 を ひとり 附 け て くれました。
じぶん||うまれて|そだった|まち||きしゃ||よっ|いつ|じかん|なんか||||とうほく|||ちん|||あたたかい|うみべ||おんせん|ち||||むら||||まかず||いつ|||||||ふるい|いえ||かべ||む||おち|ちゅう||ちゅう||くわ|||しゅうり||しよう||ない|||かや|や||||かいとって|じぶん||あたえ|ろくじゅう||ちかい||あかげ||みにくい|おんな|なか|||ふ|||くれ ました
||||||train|||||southward||||northeast|||||||seaside||hot spring|||||||outskirts||houses||||||||||||||peeling|peeling|||||||||repair|||||||thatched roof|||||bought||||||||red hair||||||||||
それ から 三 年 と 少し 経ち 、自分 は その 間 に その テツ と いう 老女 中 に 数 度 へんな 犯さ れ 方 を して 、時たま 夫婦 喧嘩 げんか みたいな 事 を はじめ 、胸 の 病気 の ほう は 一進一退 、痩せたり ふとったり 、血 痰 けった ん が 出たり 、きのう 、テツ に カルモチン を 買って おいで 、と 言って 、村 の 薬屋 に お 使い に やったら 、いつも の 箱 と 違う 形 の 箱 の カルモチン を 買って 来て 、べつに 自分 も 気 に とめ ず 、寝る 前 に 十 錠 の ん でも 一向に 眠く なら ない ので 、おかしい な と 思って いる うち に 、おなか の 具合 が へんに なり 急いで 便所 へ 行ったら 猛烈な 下痢 で 、しかも 、それ から 引続き 三 度 も 便所 に かよった のでした。
||みっ|とし||すこし|たち|じぶん|||あいだ|||てつ|||ろうじょ|なか||すう|たび||おかさ||かた|||ときたま|ふうふ|けんか|||こと|||むね||びょうき||||いっしんいったい|やせたり||ち|たん||||でたり||てつ||||かって|||いって|むら||くすりや|||つかい|||||はこ||ちがう|かた||はこ||||かって|きて||じぶん||き||||ねる|ぜん||じゅう|じょう||||いっこうに|ねむく|||||||おもって||||||ぐあい||||いそいで|べんじょ||おこなったら|もうれつな|げり|||||ひきつづき|みっ|たび||べんじょ|||
|||||||||||||Tetsu|||old woman||||||||||||husband and wife|domestic dispute||||||chest||||||back and forth|lost weight|gained weight|||blood phlegm|||||||carmotene||||||||||||||||||||||||||||||||stopped||||||||||||||||||||||||||||||||intense|diarrhea|||||continuously||||||visited|
不審に 堪え ず 、薬 の 箱 を よく 見る と 、それ は ヘノモチン と いう 下剤 でした。
ふしんに|こらえ||くすり||はこ|||みる|||||||げざい|
suspiciously||||||||||||laxative|||laxative|
自分 は 仰向け に 寝て 、おなか に 湯たんぽ を 載せ ながら 、テツ に こごと を 言って やろう と 思いました。
じぶん||あおむけ||ねて|||ゆたんぽ||のせ||てつ||||いって|||おもい ました
||on one's back|||||hot water bottle|||||||||||
「これ は 、お前 、カルモチン じゃ ない。
||おまえ|||
ヘノモチン 、と いう」
と 言い かけて 、う ふ ふ ふと 笑って しまいました。
|いい||||||わらって|しまい ました
「癈人 」は 、どうやら これ は 、喜劇 名詞 の ようです。
はいじん|||||きげき|めいし||
useless person|||||comedy|noun||
眠ろう と して 下剤 を 飲み 、しかも 、その 下剤 の 名前 は 、ヘノモチン。
ねむろう|||げざい||のみ|||げざい||なまえ||
let's sleep||||||||||||laxative
いま は 自分 に は 、幸福 も 不幸 も ありません。
||じぶん|||こうふく||ふこう||あり ませ ん
ただ 、一さい は 過ぎて 行きます。
|いっさい||すぎて|いき ます
|one year|||will pass
自分 が いま まで 阿 鼻 叫 喚 で 生きて 来た 所 謂 「人間 」の 世界 に 於 いて 、たった 一 つ 、真理 らしく 思わ れた の は 、それ だけ でした。
じぶん||||おもね|はな|さけ|かん||いきて|きた|しょ|い|にんげん||せかい||お|||ひと||しんり||おもわ||||||
ただ 、一さい は 過ぎて 行きます。
|いっさい||すぎて|いき ます
自分 は ことし 、二十七 に なります。
じぶん|||にじゅうしち||なり ます
白髪 が めっきり ふえた ので 、たいてい の 人 から 、四十 以上 に 見られます。
しらが|||||||じん||しじゅう|いじょう||み られ ます
white hair||noticeably|increased significantly|||||||||
[#改頁]
かいぺいじ