影 踏み :消息:4
かげ|ふみ|しょうそく
Schattentreter: Verschwinden: 4
Shadow Treading: Extinguished: 4
그림자 밟기 : 소식 : 4
Podążanie za cieniem: zniknięcie: 4
Deslocação das sombras: desaparecimento: 4
Уход в тень: исчезновение: 4
Gölgede gezinme: kaybolma: 4
真壁 は 鮒戸 駅 の ホーム で 夕刊 を 買い 、 鉄骨 の 柱 を 背 に 紙面 を 開いた 。
まかべ||ふなこ|えき||ほーむ||ゆうかん||かい|てっこつ||ちゅう||せ||しめん||あいた
||||||||||steel frame||||||||
Makabe bought an evening edition at the home of Funado Station and opened the paper with a steel pillar behind him.
この 時間 帯 は 降りる 一方 の 駅 だ から 人影 は 疎らだ 。
|じかん|おび||おりる|いっぽう||えき|||ひとかげ||まばらだ
||||||||||||sparse
People are sparse because it is the one station getting off during this time.
待ちかねた ような 声 が した 。
まちかねた||こえ||
《 ラ ・ ベリテ も 何 か 関係 ある わけ ?
|||なん||かんけい||
〈 下りた んじゃ なかった の か 〉
おりた||||
Maybe he wasn't going down.
《 もう 意地悪 言う な よ 。
|いじわる|いう||
わかった よ 、 謝る よ 。
||あやまる|
だから 教えて よ 最初っから 。
|おしえて||さいしょ っ から
ホント 言う と さ 、 俺 、 ぜんぜん わかん ない んだ 。
ほんと|いう|||おれ||||
稲村 葉子 の 殺意 だって さ 、 なんで 修 兄 ィ が そう 思った の か と か 》
いなむら|ようこ||さつい||||おさむ|あに||||おもった||||
|||murderous intent|||||||||||||
〈………〉
《 ねえ 、 ねえって ば あ 、 修 兄 ィ 》 真壁 は 小さく 舌打ち して 新聞 を 畳んだ 。
|ねえ って|||おさむ|あに||まかべ||ちいさく|したうち||しんぶん||たたんだ
|hey|||||||||||||
〈 現場 を もう いっぺん 思い出して みろ 〉
げんば||||おもいだして|
《 現場って …… 稲村 ん と この ?
げんば って|いなむら|||
the site||||
〈 そう だ 〉
十 秒 ほど して 中 耳 に 声 が 戻った 。
じゅう|びょう|||なか|みみ||こえ||もどった
《 あの …… 修 兄 ィ 》
|おさむ|あに|
〈 何 だ ?
なん|
《 何 を 思い出せば いい の ?
なん||おもいだせば||
||if I remember||
わかん ない よ 》
真壁 は 一 つ 息 を 吐いた 。
まかべ||ひと||いき||はいた
〈 電話 台 の 引き出し に 何 が あった ?
でんわ|だい||ひきだし||なん||
《 ああ 、 そういう こと か 》
声 が 弾んだ 。
こえ||はずんだ
啓二 の 最も 得意 と する ところ だ 。
けいじ||もっとも|とくい||||
《 アナログ の 腕 時計 、 名刺 入れ 、 マイルドセブン 、 タイ ピン 、 ボールペン 、 それ に 薄茶色 の 札 入れ 。
あなろぐ||うで|とけい|めいし|いれ||たい|ぴん|ぼーるぺん|||うすちゃいろ||さつ|いれ
中身 は 大きい の が 二 枚 》
なかみ||おおきい|||ふた|まい
〈 なかった 物 は 〉
|ぶつ|
《 えっ?
〈 あるべき 物 で 、 なかった 物 だ 〉
|ぶつ|||ぶつ|
should be|||||
こう なる と 啓二 の 領域 から 外れる 。
|||けいじ||りょういき||はずれる
《 なぞなぞ ?
riddle
〈………〉
《 降参 。
こうさん
ねえ 、 教えて よ 》
|おしえて|
〈 ライター だ 。
らいたー|
煙草 が あって 、 ライター が なかった 〉
たばこ|||らいたー||
《 あっ、 そう いえば そうだ ね 》 〈 テーブル の 上 に は 何 が あった 〉 《 えー と 、 グラス が 一 つ 、 空 の オールド 、 半分 ぐらい 飲んだ ホワイトホース 、 ピーナッツ 、 テレビ の リモコン 、 くしゃくしゃの マイルドセブン 、 灰皿 》 〈 ライター は ?
|||そう だ||てーぶる||うえ|||なん|||||ぐらす||ひと||から|||はんぶん||のんだ||ぴーなっつ|てれび||りもこん|||はいざら|らいたー|
《 なかった よ 》
〈 灰皿 は 吸殻 の 山 だった 。
はいざら||すいがら||やま|
<The ashtray was a pile of butts.
煙草 の 空 箱 も あった 。
たばこ||から|はこ||
なのに ライター が ない 〉
|らいたー||
《 それ じゃあ ライター は ……》
||らいたー|
〈 おそらく 女 が 握りしめて いた ―― 布団 の 中 で な 〉
|おんな||にぎりしめて||ふとん||なか||
《 え えっ!
大声 が 耳 骨 から 蝸牛 に 響いた 。
おおごえ||みみ|こつ||かぎゅう||ひびいた
|||||cochlea||
真壁 は 顔 を 顰 め て 軽く 耳 に 手 を 当て 、 清掃 の 駅員 を やり過ごして から 言った 。
まかべ||かお||ひん|||かるく|みみ||て||あて|せいそう||えきいん||やりすごして||いった
||||frown|||||||||cleaning||||let pass||
〈 オールド が 空き 、 ホワイトホース も 半分 減って いた 。
||あき|||はんぶん|へって|
グラス は 一 つ 。
ぐらす||ひと|
旦那 は 一 人 で 飲み 、 かなり 酔って 寝込んだ と みて いい 〉
だんな||ひと|じん||のみ||よって|ねこんだ|||
||||||||collapsed from drinking|||
《 それ じゃあ 、 稲村 葉子 は ライター で 放火 して 旦那 を ……って こと ?
||いなむら|ようこ||らいたー||ほうか||だんな|||
|||||||arson|||||
間もなく 上り 電車 が 到着 する と アナウンス が 告げた 。
まもなく|のぼり|でんしゃ||とうちゃく|||あなうんす||つげた
行 く あて は ある が 、 真壁 は 迷って いた 。
ぎょう||||||まかべ||まよって|
《 けど さあ 、 しつこい ようだ けど それって みんな 修 兄 ィ の 想像 じゃ ん か 》 〈 女 も な 〉 《 えっ?
|||||それ って||おさむ|あに|||そうぞう||||おんな|||
〈 女 も じっくり 想像 を 巡らした 〉
おんな|||そうぞう||めぐらした
|||||considered
《 どういう こと ?
〈 家 が 焼けた あと の こと を 考えた 。
いえ||やけた|||||かんがえた
ストーブ の 灯油 を 撒く 。
すとーぶ||とうゆ||まく
||kerosene||spill
火 を 放つ 。
ひ||はなつ
旦那 が 焼け 死ぬ 。
だんな||やけ|しぬ
サツ が 調べ に 入る ……。
さつ||しらべ||はいる
万一 タンス で も 焼け残り 、 中 が 空っぽだったり したら 自分 に 疑い の 目 が 向く 。
まんいち|たんす|||やけのこり|なか||からっぽだったり||じぶん||うたがい||め||むく
||||remnant of fire|||empty||||||||
それ で 服 は 諦めた 。
||ふく||あきらめた
靴 も 小物 も 家財 道具 も そうして すべて 諦めた 。
くつ||こもの||かざい|どうぐ||||あきらめた
||||household goods|||||
だが な 、 化粧 品 だけ は 諦めきれ ず 事前 に 運び出して おいた 〉
||けしょう|しな|||あきらめきれ||じぜん||はこびだして|
||||||could not give up|||||
《 なんで 化粧 品 なんか 》
|けしょう|しな|
真壁 は 宙 を 見つめた 。
まかべ||ちゅう||みつめた
〈 白かった から な 〉
しろかった||
《 えっ?
〈 女 の 肌 だ ―― ラ ・ ベリテ は 店頭 売り して いない 。
おんな||はだ|||||てんとう|うり||
取り寄せ に 日数 が かかる 〉
とりよせ||にっすう||
ordering||||
It takes days to order >
《 金目 の 物 より 白い 肌って こと ?
かねめ||ぶつ||しろい|はだ って|
golden eyes|||||skin|
〈 あれ だけ 白い と 白い まま に して おき たく なる だろう 〉
||しろい||しろい|||||||
《 へえ ー 、 そういう もんか なあ ……》
|-|||
〈 白い 肌 が 好きな 男 は ご まん と いる しな 〉
しろい|はだ||すきな|おとこ||||||
<There are many men who like white skin>
《 えっ?
それって 旦那 の 他 に 男 が いた ……って こと ?
それ って|だんな||た||おとこ||||
真壁 は ホーム に 入って きた 上り 電車 に 目 を 戻し 、 だが その 眩 い 車両 に 背 を 向けて 、 下り線 の 側 に 立ち 直した 。
まかべ||ほーむ||はいって||のぼり|でんしゃ||め||もどし|||くら||しゃりょう||せ||むけて|くだりせん||がわ||たち|なおした
|||||||||||||||||||||down line|||||
啓二 は 反応 せ ず 、 話 を 続けた 。
けいじ||はんのう|||はなし||つづけた
《 修 兄 ィ ―― でも やっぱり 、 俺 、 稲村 葉子 に 殺意 は なかった と 思う な 》
おさむ|あに||||おれ|いなむら|ようこ||さつい||||おもう|
〈 なぜ だ 〉
《 だって そうだ ろ 。
|そう だ|
本気で 旦那 を 殺す 気 なら 、 稲村 葉子 は 修 兄 ィ を やり過ごして 、 それ から 火 を つければ よかった んだ よ 。
ほんきで|だんな||ころす|き||いなむら|ようこ||おさむ|あに|||やりすごして|||ひ|||||
なのに 一一〇 番 した じゃ ない か 》
|いちいち|ばん||||
〈 それ で 俺 は 気づいた んだ 〉
||おれ||きづいた|
《 えっ?
〈 なんで 女 は 一一〇 番 した 〉
|おんな||いちいち|ばん|
《 そんな の 決まって ら あ 、 忍び込んだ 修 兄 ィ に 気づいた から さ 》
||きまって|||しのびこんだ|おさむ|あに|||きづいた||
|||||sneaked in|||||||
〈 違う 。
ちがう
俺 が 車 に 近づいた から だ 〉
おれ||くるま||ちかづいた||
《 どういう こと それ ?
〈 ラ ・ ベリテ は 車 に 積んで あった んだ 〉
|||くるま||つんで||
《 そう な の ?
修 兄 ィ 見た の ?
おさむ|あに||みた|
〈 いや 〉
《 だったら なんで 断言 できる の さあ 》
||だんげん|||
〈 お前 が 言う ように 、 女 は 俺 を やり過ごす つもりで いた 。
おまえ||いう||おんな||おれ||やりすごす||
||||||||let pass||
だが 、 俺 は 二 階 の 様子 を 窺 おうと 車 の 陰 に 身 を 潜めた 。
|おれ||ふた|かい||ようす||き||くるま||かげ||み||ひそめた
女 は どこ か の 窓 から それ を 見て いた んだろう 。
おんな|||||まど||||みて||
車 の 中 を 物色 されて いる と 勘違い して 慌てた 。
くるま||なか||ぶっしょく|さ れて|||かんちがい||あわてた
女 に して みれば 、 殺意 を 秘めた 唯一 の 証拠 が 積んで あった わけだ から な 〉
おんな||||さつい||ひめた|ゆいいつ||しょうこ||つんで||||
||||||hidden|||||||||
《 うーん 、 そう か なあ ……。
なんか ピンと こない けど 》
|ぴんと||
〈 ある はずの 物 で なかった 物 が もう 一 つ あったろう 〉
||ぶつ|||ぶつ|||ひと||
《 えっ?
なに ?
〈 車 の キー だ 。
くるま||きー|
それ も 女 が 握って いた 。
||おんな||にぎって|
家 が 焼け落ちて 見つから なく なったら 困る から な 〉
いえ||やけおちて|みつから|||こまる||
||burned down||||||
啓二 の 驚き の 声 は 、 ホーム に 迫った 電車 の 警笛 に 掻き消さ れた 。
けいじ||おどろき||こえ||ほーむ||せまった|でんしゃ||けいてき||かきけさ|
|||||||||||train whistle|||
真壁 は ガラガラ の 車 内 の 隅 に 立ち 、 次の 下 三郷 で 降りた 。
まかべ||||くるま|うち||すみ||たち|つぎの|した|さんごう||おりた
||||||||||||Shimomisato||
落ち着き を 取り戻した 声 が 中 耳 に 流れた 。
おちつき||とりもどした|こえ||なか|みみ||ながれた
《 だけど 不思議だ ね 》
|ふしぎだ|
〈 何 が だ 〉
なん||
《 五 日 後 に 黛 が 入った 時 は ラ ・ ベリテ が ちゃんと 並んで いた んだ から 、 稲村 葉子 は 旦那 を 殺す 気 が なくなったって こと でしょ ?
いつ|ひ|あと||まゆずみ||はいった|じ||||||ならんで||||いなむら|ようこ||だんな||ころす|き||なくなった って||
|||||||||||||||||||||||||no longer||
〈………〉
《 そうだ よ ね 》
そう だ||
啓二 の 声 が 弾んだ 。
けいじ||こえ||はずんだ
《 もう どう で も いい よ ね 、 そんな こと 。
修 兄 ィ の 言う 通り で いい や 。
おさむ|あに|||いう|とおり|||
稲村 葉子 は 旦那 を 殺そう と 思って 起きて いた 。
いなむら|ようこ||だんな||ころそう||おもって|おきて|
車 を 物色 さ れた と 思って 慌てて 一一〇 番 した 。
くるま||ぶっしょく||||おもって|あわてて|いちいち|ばん|
それ で いい よ 。
発信 機 を 仕掛けられて たって こと も わかった し さ 、 ねっ、 これ で 修 兄 ィ が パクられた 時 の 状況 はぜ ー ん ぶ わかった んだ から 。
はっしん|き||しかけ られて||||||||||おさむ|あに|||パク られた|じ||じょうきょう||-|||||
|||||||||||||||||arrested||||also||||||
結局 、 殺し は なかった し 、 二 人 は 別れちゃった し 、 そう すりゃ 俺 たち に は もう ぜんぜん 関係ない わけだ し 。
けっきょく|ころし||||ふた|じん||わかれちゃ った||||おれ||||||かんけいない||
||||||||broke up||||||||||||
なんか 俺 、 嫌で さあ 。
|おれ|いやで|
今回 の 稲村 ん ち の 件 、 修 兄 ィ が どんどん 遠く なって いく みたいな 感じ が して ――》
こんかい||いなむら||||けん|おさむ|あに||||とおく||||かんじ||
〈 久子 に 会う 〉
ひさこ||あう
Hisako||
《 あ ……》
暗がり の 路地 の 突き当たり 。
くらがり||ろじ||つきあたり
At the end of a dark alley.
二 階建て の 『 福寿 荘 』 が 見えて いた 。
ふた|かいだて||ふくじゅ|そう||みえて|
|||happiness and longevity||||
わかって た さ 。
そんな 溜め息 を 漏らして 啓二 は 気配 を 断った 。
|ためいき||もらして|けいじ||けはい||たった
|sigh|||||||
真壁 は 錆 の 浮いた 鉄 階段 を 上った 。
まかべ||さび||ういた|くろがね|かいだん||のぼった
左 端 の 部屋 。
ひだり|はし||へや
「 安西 」 の プラスチック 表札 。
あんざい||ぷらすちっく|ひょうさつ
Anzai|||
中指 の 節 で ドア を 叩いた 。
なかゆび||せつ||どあ||たたいた
応答 が ない 。
おうとう||
もう 一 度 叩いた 。
|ひと|たび|たたいた
やや あって 細く ドア が 開き 、 青ざめた 安西 久子 の 左 半分 が 覗いた 。
||ほそく|どあ||あき|あおざめた|あんざい|ひさこ||ひだり|はんぶん||のぞいた
「 そんなに 叩か ないで 」
|たたか|
「…… 一 人 か 」
ひと|じん|
諦め 顔 で 小刻みに 頷く 肩 先 を かすめ 、 真壁 は フローリング の ひんやり した 床 を 踏んだ 。
あきらめ|かお||こきざみに|うなずく|かた|さき|||まかべ||||||とこ||ふんだ
|||||||||||flooring||||||
いじらしい ほど 狭い 台所 の 奥 に 八 畳 の 和室 。
||せまい|だいどころ||おく||やっ|たたみ||わしつ
adorably small||||||||||
二 年 前 の まま だった 。
ふた|とし|ぜん|||
ブルー の 絨毯 、 薄紫 色 の カーテン 、 安っぽい 洋風 の 電灯 を 背丈 より 低い ところ まで 吊 り 下ろして いる 。
ぶるー||じゅうたん|うすむらさき|いろ||かーてん|やすっぽい|ようふう||でんとう||せたけ||ひくい|||つり||おろして|
|||light purple|||||Western style||||||||||||
折り畳み 式 の テーブル に は 保育 園 の 真 新しい 通 園 手帳 が どっさり 積ま れ 、 ベッド の 脇 に は 色とりどりの ティッシュ の 造花 と 「 ご 」「 入 」「 園 」 の 順で 並んだ 筆 書き の 模造 紙 が あった 。
おりたたみ|しき||てーぶる|||ほいく|えん||まこと|あたらしい|つう|えん|てちょう|||つま||べっど||わき|||いろとりどりの|てぃっしゅ||ぞうか|||はい|えん||じゅんで|ならんだ|ふで|かき||もぞう|かみ||
||||||nursery|||||||||a lot|||||||||||artificial flowers||||||in order|||||dummy paper|||
久子 は 他人 の 家 に 上がり 込んだ か の ように 、 突っ立った まま 落ちつき なく 部屋 を 見回す と 、 視線 を 合わせ ず 「 いつ ?
ひさこ||たにん||いえ||あがり|こんだ||||つったった||おちつき||へや||みまわす||しせん||あわせ||
」 と 聞いた 。
|きいた
「 今朝 だ 」
けさ|
「 そう ……。
あたし 、 知ら なかった から 」
|しら||
「 いい んだ 」
「 あ 、 コーヒー 淹 れる ね 」
|こーひー|えん||
||brewing||
「 あと で いい 」
「 淹 れる 」
えん|
つつっと 台所 へ 逃げる 久子 の 手首 を 掴ま えた 。
つつ っと|だいどころ||にげる|ひさこ||てくび||つかま|
quietly||||||||grabbed|
「 やっ……」 久子 は 小さく 発した 。
|ひさこ||ちいさく|はっした
「 コーヒー 淹 れる んだ から 」
こーひー|えん|||
久子 は 無理に 笑顔 を つくり 、 だが 真壁 が 腰 を 引き寄せる と 、 また 顔 を 強 張ら せて 身 を 捩った 。
ひさこ||むりに|えがお||||まかべ||こし||ひきよせる|||かお||つよ|はら||み||ねじった
|||||||||||pulled closer||||||||||twisted
肘 が 電灯 を 突き 、 紐 が 長い 分 、 呆れる ほど 大きく 揺れて 久子 の 頬 に 繰り返し 陰影 を つくる 。
ひじ||でんとう||つき|ひも||ながい|ぶん|あきれる||おおきく|ゆれて|ひさこ||ほお||くりかえし|いんえい||
|||||||||astonished|||||||||shadow||
忘れ かけて いた 香り が 鼻 孔 を くすぐり 、 それ が 悪寒 の ように 全身 を 粟 立た せた 。
わすれ|||かおり||はな|あな|||||おかん|||ぜんしん||あわ|たた|
|||||||||||chill||||(object marker)|goosebumps||
言葉 が 見つから なかった 。
ことば||みつから|
真壁 は 久子 を きつく 抱いて 膝 を 折った 。
まかべ||ひさこ|||いだいて|ひざ||おった
上気 した 顔 が ティッシュ の 造花 に 埋まった 。
じょうき||かお||てぃっしゅ||ぞうか||うずまった
flushed||||||||
利口 そうな 広い 額 が より 際立ち 、 潤んだ 瞳 が 幾 つ も の 内面 を 訴え つつ 揺れた 。
りこう|そう な|ひろい|がく|||きわだち|うるんだ|ひとみ||いく||||ないめん||うったえ||ゆれた
smart||||||stood out|moistened|||||||||||
The wide forehead, which seems to be clever, was more prominent, and the moisturized eyes shook, appealing to the inner side.
真壁 が 腕 に 力 を 込める と 、 細い 体 が 弓 の ように 撓った 。
まかべ||うで||ちから||こめる||ほそい|からだ||ゆみ|||とう った
||||||||||||||bent
「 だって …… まだ ……」
通 園 手帳 の 山 が 崩れて ドミノ の 残骸 の ように 筋 を 引き 、 辛うじて テーブル の 隅 で 止まった 。
つう|えん|てちょう||やま||くずれて|どみの||ざんがい|||すじ||ひき|かろうじて|てーぶる||すみ||とまった
|||||||domino|||||||||||||
こぼれ そうな 笑顔 の 園 服 が 十 ほど も 並んだ 。
|そう な|えがお||えん|ふく||じゅう|||ならんだ
久子 の 下 で 模造 紙 が ガサガサ 騒ぐ 。
ひさこ||した||もぞう|かみ|||さわぐ
|||||||rustling|
The imitation paper rustles under Hisako.
中 耳 は 静まり返って いた 。
なか|みみ||しずまりかえって|
だが 、 わかる 。
啓二 は 久子 の 温もり を 欲して いる 。
けいじ||ひさこ||ぬくもり||ほっして|
Keiji is yearning for Hisako's warmth.