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世界から猫が消えたなら (If Cats Disappeared from the World), 世界から猫が消えたなら:世界から時計が消えたなら:3

世界から猫が消えたなら:世界から時計が消えたなら:3

アルバム を めくり ながら 、 僕 は キャベツ に いろいろな 話 を 聞か せた 。

ゆらゆら 、 ゆらゆら 。

母さん の 膝 の 上 に 乗って 揺れて いる この 子 猫 が キャベツ 。 君 だ よ 。 ここ は 君 の 定 位置 だった 。 大好きだった 毛糸 。 いつまでも 遊んで いた ね 。 古ぼけた ブリキ の バケツ 。 気 が 付く と いつも その 中 に すっぽり 入って 母さん の こと を 見て い た ね 。 お気に入り の うすみどり の タオル 。 母さん の お気に入り だった んだ けど 、 すっかり 君 の もの に なって し まった 。 母さん が クリスマス に 君 に プレゼント した 小さな ピアノ の おもちゃ 。 あ 、 この 写真 。 弾いて る 弾いて る 。 少々 乱暴 で は あった けれど 見事な 演奏 だった んだ 。 あと これ だ 。 クリスマス ツリー 。 毎年 母さん が 飾り はじめる と 、 いつも 君 は 大 興奮 。 すぐ 壊しちゃ う から 母さん は 大変 そうだった 。 ほら 、 この 写真 。 飛びつ い ちゃ って る でしょ 。 めちゃくちゃ だ 。 ひどい ね キャベツ 。 でも 母さん は なんだか 嬉し そうだ 。

ひと つ の アルバム が 終わる と また 次の アルバム へ 。

レタス が 死んで 、 母さん が 動か なく なって しまった こと 。

そして 母さん が キャベツ を 拾って きた 日 の こと 。 それ から の 幸せな 日々 の こと 。 そして 、 母さん が 病気 に なって しまった こ と 。 キャベツ は じっと 黙って 僕 の 話 を 聞いて いた 。

時々 、 僕 は 「 覚えて る ?

」 と 尋ねた が キャベツ は どうやら 何も 覚えて い ない ようだった 。

キャベツ は なにも かも 忘れて いた 。

そんな キャベツ が 一 枚 の 写真 に 目 を 留めた 。

浴衣 を 着た 僕 と 、 母さん と 、 そして 父 。

母さん は 車 いす に 座って いて 、 その 膝 の 上 に は 不機嫌 そうな 顔 を した キャベツ 。 そして 僕 と 父 は ちょっと 気恥ずかし そうに 笑って いる 。 その 笑顔 が なんだか 物珍しくて 僕 も 思わず その 写真 に 見入って しまった 。

「 これ は 、 誰 で ご ざる か ?

」 父 の 姿 が 珍しい の か 、 キャベツ が 興味深 そうに 聞いて きた 。 あまり 父 の 話 は し たく ない 。

「 これ は どこ で ご ざる か ?

」 「 これ は 確か 、 温泉 に 行った とき だ な 」 写真 に 印字 さ れた 日付 を 見る と 、 母さん が 亡くなる ちょうど 一 週間 前 だった 。

」 「 最後に 思い出 で も 作り たかった んだ と 思う よ 。 旅行 なんて ろくに して こ なかった 人 だった から 」

キャベツ は 、 その 写真 を 食い入る ように 見つめて いる 。

」 「 う うむ …… 何 か 感じる で ご ざる 」 もしかしたら キャベツ の なか の 、 記憶 の 断片 が よみがえって きて いる の かも しれ ない 。

僕 は キャベツ の 記憶 を もう 少し 手繰り寄せ たく なって 、 この 写真 に ついて 語って 聞か せる こと に した 。

いま から 四 年 前 の こと だ 。

毎日 吐いて 苦しんで 、 眠れ ず に 過ごして いた 。

でも ある 朝 、 起きる と 突然 僕 を 呼び出して 言った 。

「 海 の 見える 温泉 に 行き たい わ 」

僕 は 困惑 して 、 本意 な の か 何度 も 確認 した 。

けれども 、 母さん は どうしても 行き たい と 言って 聞か なか った 。

いま まで そんな わがまま を 一 度 も 言った こと が ない 人 だった から 、 僕 は 驚いた 。

僕 は なんとか 医者 を 説得 して 外出 する 許可 を 得た が 、 ひと つ 厄介な 問題 が あった 。

長い 年月 を かけて 固まり きって しまった 関係 は どう しよう も ない ところ まで 来て いた 。

だから 、 父 と 温泉 に 行く こと は もちろん 、 父 に その 話 を する こと も 躊躇 われた 。 けれど 、 これ が 母さん に とって 最後 の 旅 に なる こと は 分かって いた 。 僕 は 父 を 説得 する こと に した 。

「 そんな 馬鹿げた こと を 」 と 父 は 相変わらず 紋切り型 な 返答 を 繰り返し 、 僕 は そんな 父 に 心底 呆れ ながら も なんとか 説き伏せた 。

いま まで 母さん を 旅行 に 連れて いく こと なんて なかった から 、 僕 は 最高の 旅程 を 作る こと に した 。

電車 に 乗って 三 時間 の 海辺 の 温泉 地 。 遠浅 の 海岸 が 広がり 、 柔らかな 太陽 の 光 に 包ま れて 、 風情 の ある 旅館 が 海辺 に 立ち 並ぶ 美しい 街 だった 。

「 いつか 行って み たい わ 」 と 母さん は いつも 雑誌 で その 温泉 地 を 見る 度 に 言って いた 。

築 百 年 を 超える 日本 家屋 を 改築 し 、 旅館 に 仕立てた 美しい 宿 。

ふたつ しか 部屋 が なく 、 二 階 の 部屋 から は 海 が 一望 できる 。 露天 風呂 の 先 に は 海岸 が 広がり 、 夕日 を 見る こと も できる 宿 だった 。 きっと 母さん が 喜んで くれる だろう と 思い 、 僕 は 奮発 して その 宿 を 予約 した 。

そして 約束 の 日 、 医者 や 看護 師 たち に 見送ら れ 、 僕たち 家族 は 旅 に 出た 。

久々 の 家族 三 人 ( と 猫 ) の 旅だった 。

電車 の 中 。

狭い ボックスシート に 隣り合わせ で 座って いる のに 、 ろくに 話さ ない 僕 と 父 を 母さん は にこにこ しながら 見て いた 。

無言 の 三 時間 が 続き 、 同じ 空間 を 共有 して いる こと が 限界 に 達し 始めた とき 、 車掌 の アナウンス が 温泉 地 に 到着 した こと を 告げた 。

僕 は 母さん の 車 いす を 押し ながら 、 足取り 軽く 宿 に 向かった 。

予約 が 入って おら ず 、 すでに ほか の 客 で 埋まって しまって いる のだ と いう 。

僕 は 怒った 。

これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。

それなのに 、 あまりに 理不尽 だ 。 だが 宿 の 女将 は 平謝り する だけ で 、 どうにも なら ない 状態 だった 。 途方 に くれた 。 母さん に 申し訳なかった 。

「 気 に し なくて いい わ よ 」

母さん は 笑い ながら 言った 。

でも 僕 は 自分 が 許せ なかった 。

情けなくて 、 悔しくて 涙 が 出 そうだった 。 ど う したら いい の か 分から ず 、 僕 は ただ 立ち尽くして いた 。

すると 父 が 、 その 大きくて 固い 手 で 僕 の 肩 を 強く たたいた 。

あまり に 唐突な 父 の 行動 に 虚 を 突か れた が 、 僕 は あわてて 後 を 追った 。

父 は 並び 立つ 旅館 に 次 から 次 へ と 飛び込み 、 空き が ない か どう か 聞いて 回った 。

時計 店 の なか で 、 何 時間 も 黙って 座り込み 時計 の 修理 を して いる 父 の 姿 しか 見た こと が なかった 僕 は 、 驚き 圧倒 さ れて しまった 。

僕 の 運動 会 に 来て も 石 の ように 座って 動か ない 人 だった から 、 こんなに 走り回る 姿 を 見る の は 生まれて 初めて だった 。

「 ああ 見えて 父さん は 、 昔 とても 足 が 速かった の よ 」

小さく 骨太な その 体躯 に 似合わ ず 美しい フォーム で 温泉 街 を 走って いく 父 の 後ろ姿 を 追い ながら 、 母 さん が よく 僕 に 言って いた 言葉 が よみがえって くる 。

断ら れ 、 また 断ら れ 、 僕 と 父 は 駆けずり回 っ た 。

ときに は 手分け して 、 ときに は 一緒に 頭 を 下げて 。 母さん に 野宿 を さ せる わけに は いか ない 。 これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。 それ は 僕 が 大人 に なって 初めて 父 と 心 を 通わせ 、 同じ 気持ち で 動いた 瞬間 だった 。 僕ら は 海辺 の 旅館 を 探して 探して 、 走り回って 、 ようやく 空いて いる 宿 を 見つけた 。

もう あたり は 暗く な って おり 、 外観 は よく 見え なかった のだ が 、 一目 で ずいぶん と 古びた 宿 である こと が 分かった 。

中 に 入る と 、 やはり 建物 は 古くて 、 歩く と 床 が ぎしぎし と 鳴った 。

「 なかなか いい 宿 じゃ ない 」

母さん は 嬉し そうに 言った 。

でも 僕 は 苦しかった 。

こんな 宿 に 泊まら せる の か と 思う と 、 胸 が つまり そうだ った 。 でも 仕方 が ない 。 父 が 言う ように 、 野宿 を する わけに は いか なかった 。 僕ら は 仕方なく この 宿 に 泊まる ことにした 。

宿 は 古かった が 、 仲居 さん も ご 主人 も とても 親切 だった 。

食事 も 豪華 で は ない が 、 手 が 込んで いて 美味しかった 。

母さん は 何度 も 何度 も 、 いい わ ね 、 美味しい わ ね 、 と 笑った 。 その 笑顔 で 僕 の 申し訳ない 気持ち は 少し だけ 和らいだ 。

その 夜 、 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝た 。

こんな こと は 、 何 十 年 ぶり だろう 。

僕 は 古い 板張り の 天井 を 見上げ ながら 、 小学生 の 頃 に 住んで いた 家 を 思い出して いた 。

僕ら が 住 ん で いた 家 は 部屋 数 が 少なくて 、 いつも 二 階 の 寝室 に 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝て いた 。

二十 年 が 経ち 、 僕ら は また こう やって 天井 を 見上げて いる 。

不思議な 気持ち だった 。

きっと 今夜 が 三 人 で 過ごす 最後 の 夜 に なる 。 そう 思う と 眠れ なかった 。 たぶん 父 も 、 そして 母さん も 眠れ なかった んだ と 思う 。 狭く 暗い 部屋 の 中 を 、 ただ キャベツ の スースー と いう 小さな 寝息 だけ が 、 波 音 に 重なって 反復 して いた 。

ようやく 外 が 明るく なり 始めた 。

おそらく 四 時 か 五 時 か 。

僕 は 布団 から 抜け出し 、 窓際 の いす に 腰かけ た 。 カーテン を 引き 、 窓 の 外 を 見て 、 驚いた 。 古びた 旅館 の 窓 の 外 に は 、 広大な 海 が 広がって いた の だ 。 暗がり の 中 を 走り回って 見つけた 宿 だった から 、 まさか こんな 目の前 に 海 が ある と は 思わ なかった 。

それ から しばらく の あいだ 、 ぼんやり と した 光 に 包ま れる 幻想 的な 海 を 眺めて いる と 、 背後 で 父 と 母さん が 起き だした 。

ふり返って 見る と 、 ふた り と も 目 の 下 に は クマ 。

やっぱり みんな 眠れ なかった のだろう 。

「 写真 、 撮ろう 。

朝 の 海 が 大好きな の 」

浴衣 姿 の 母さん は 、 窓 の 外 に 広がる 海 を 見て 、 僕 に 提案 した 。

車 いす を 押して 海 岸 へ 向かう 。

まだ 外 は 薄暗く 、 肌寒かった 。 もっと 海 の 近く へ 、 と 母さん が 言う のだ が 、 湿って 重たい 砂 に つかまり 、 車 いす は なかなか 前 に 進ま ない 。 すると 海岸 線 の 向こう に 朝日 が 昇り 始め 、 キラキラ と 海面 を 照らし 始める 。 あまりに も 美しい その 景色 に 圧倒 さ れて 、 僕ら 家族 は 立ち止まった 。 そして 、 光り輝く 海 を じっと 見つめた 。

「 早く !

写真 !

」 母さん の 言葉 に 我 に 返り 、 僕 は カメラ を 用意 する 。 父 と 僕 が 交互に 写真 を 撮ろう と して いる と 、 宿 の ご 主人 が 出て きて 「 撮り ましょう か 」 と 言って くれた 。

海 を 背負い 、 車 いす に 座った 母さん を 挟んで 、 父 と 僕 が 横 に しゃがむ 。 ようやく 目 を 覚ました キャベツ は 不機嫌 そうに 、 母さん の 膝 の 上 で 大きな あくび を して い る 。

「 はい 、 チーズ 」

ご 主人 が シャッター を 押す 。

」 かなり 強引な ご 主人 の ダジャレ に 無理やり 僕ら が 笑わ さ れた 瞬間 に 、 シャッター が 切ら れた 。 」 最後 の 旅 の 物語 を 話し 終えた 僕 は 、 キャベツ に 尋ねた 。 キャベツ 」

「 申し訳ない 。

どうしても 思い出せ ないで ご ざる 。

ただ ……」

「 ただ ?

」 「 幸せ だった 、 と いう こと だけ は 覚えて いる で ご ざる 」 「 幸せだった ?

」 「 そうで ご ざる 。 この 写真 に 写って いる 、 この とき が 、 幸せだった と いう こと だけ は 覚えて いる ので ご ざる 」

母さん の こと も 、 父 の こと も 、 古ぼけた 旅館 や この 海 の こと も 、 キャベツ は 何も 覚えて い ない 。

でも 〝 幸 せ だった 〟 と いう こと だけ を 覚えて いた 。

何 か 不思議な 感覚 だった 。

キャベツ の 言葉 に 引っかかる もの が あった 。

そして 改めて 写真 を 見直して 僕 は 気付いた 。

僕 を 生んで から 、 すべて の 時間 を 父 と 僕 の ため に ささげて きた 母さん が 、 最後 の 最後に 自分 の ため に その 時間 を 使う はず が なかった 。

母さん は 最後 まで 父 と 僕 の ため に 、 み ず から の 時間 を 使おう と した のだ 。

母さん 騙さ れた よ 。

いま まで 全然 気付か なかった よ 。

僕 は 写真 を 見つめる 。 写真 の なか の 父 は なんだか 照れくさ そうに 笑って いる 。 僕 も そっくりな 顔 で 照れ 笑い を して いる 。 そして 母さん は 、 これ 以上 ない ほど 幸せ そうに 笑って いた 。

その 母さん の 顔 を 見て いる と 、 胸 が 苦しく なって きた 。

苦しくて 、 悲しくて 、 情けなくて 、 気 が つく と 僕 は キ ャベツ の 前 で 涙 を 流して いた 。

声 も 出さ ず 、 表情 も 変え ず 。 ただ 写真 を 見つめ ながら 静かに 僕 は 泣いて いた 。

心配 そうに キャベツ が そば に 寄って きて 、 膝 の 上 に ちょこんと 乗る 。

その 温もり が 僕 の 体 に 伝わり 、 心 が 穏やかに なって いく 。

猫 と いう の は 大した もの だ 。

いつも 僕 の 気持ち に は 反応 して くれ ない くせ に 、 本当に 辛い とき は こうして そば に いて くれる 。

時間 と 同じ ように 、 猫 の 世界 に は 「 孤独 」 も 存在 し ない のだろう 。

ただ 「 自分 だけ の 時 」 と 「 自分 以外 も いる 時 」

だけ が 存在 する のだ 。

孤独 は 人間 だけ の 持ち物 な の かも しれ ない 。

だ けれども 。

母さん の 笑顔 を 見 ながら 僕 は 思う 。

孤独 が ある から 僕ら に は 〝 ある 感情 〟 が ある 。

」 「 それ は …… なんで ご ざる か ? 」 「 まあ 猫 に は 分から ない かも しれ ない けれど 、 人間 に は ある んだ 。 誰 か が 好き だったり 、 大切 だったり 、 と に かく 一緒に いたい と 思う 気持ち だ よ 」

「 それ は いい もの で ご ざる か ?

」 「 うーん 。 まあ 面倒くさかったり 、 ときに は 邪魔 だったり も する のだ けれど 、 でも いい もの だ よ 。

うん 、 とても い い もの な んだ 」

そう だ 。

僕ら に は 愛 と いう 感情 が ある 。

この 母さん の 表情 を 愛 と 言わ ず に なん と 言う のだろう か 。

時間 、 色 、 温度 、 孤独 、 そして 愛 。

人間 の 世界 に しか 存在 し ない もの たち 。 人間 を 規制 し ながら も 、 人間 を 自由に する そのもの たち 。 そのもの たち こそ が 僕ら を 人間 たら しめて いる 。

そう 思った 瞬間 、 僕 の 耳 に カチコチ と いう 時計 の 音 が 飛びこんで きた 。

やはり 時計 は ない 。

ただ 目 に は 見え ない けれども 、 確かに そこ に 僕 を 支えて いる 何 か が ある こと を 感じた 。

無数の カチコチ と いう 音 が 、 この 世界 に 生きる ありとあらゆる 人間 の 心臓 の 音 の ように 聞こえて くる 。

回る ストップウォッチ の 秒針 。

ボタン が 押さ れる 。

押さ れた の は 目覚まし時計 の ボタン 。

鳴り響く 音 。

時 を 刻む 音 。

その 音 の 気配 に しばらく 僕 は 耳 を 傾ける 。

嫌な 予感 が する 。

「 がっかり した で 、 ご ざる か ?

」 突然 背後 から 声 が 聞こえる 。 驚いて 後ろ を 振り返る と アロハ が 立って いる 。

夜 の 海 を 描いた 不気味な 柄 の 黒い アロハシャツ を 着て 、 ニヤニヤ と 笑って いる 。

「 お 代官 様 は もう すぐ 死ぬ で ご ざる か ?

」 「 笑え ない ジョーク です ね 」 「 いやいや すみません !

なんか 思った より 魔法 の 効き目 が 続か なかった みたい っす ね 。

もう 普通の 猫 に 戻っちゃ った ! がっかり した で ご ざる か ? 」 「 やめて ください 」 「 いや ね 、 でも ちょうど 良かった です よ 」

そういう と アロハ は また ニヤリ と 笑う 。

いつか 見た 、 悪魔 的な 笑い 。

悪意 。

これ も また 人間 しか 持ち え ない 感情 。

「 次に 世界 から 消して もらう もの を 決めた んです 」

アロハ は 笑い ながら 続ける 。

息 が 苦しく なって くる 。

想像 力 。

人間 しか 持ち え ない 能力 。

残酷な イメージ が 僕 の 脳 内 を かけめぐる 。

」 思わず 叫ぶ 。 いや 、 僕 が 叫んだ ので は ない 。

僕 と 同じ 顔 を した 悪魔 が 叫んだ のだ 。

「 って 叫び たい でしょう ?

」 アロハ は 笑う 。 弱々しく 、 膝 を ついて 。

そして 悪魔 は 僕 に 告げた 。

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世界から猫が消えたなら:世界から時計が消えたなら:3 せかい から ねこ が きえた なら|せかい から とけい が きえた なら |Si les horloges If cats disappeared|if clocks disappeared Wenn die Katze aus der Welt verschwindet: wenn die Uhr aus der Welt verschwindet: 3 If the cat disappears from the world: If the clock disappears from the world: 3 Si el gato desapareciera del mundo: si el reloj desapareciera del mundo: 3 Si le chat disparaissait du monde : si l'horloge disparaissait du monde : 3 세상에서 고양이가 사라졌다면: 세상에서 시계가 사라졌다면: 문고리 Se o gato desaparecesse do mundo: se o relógio desaparecesse do mundo: 3 Om katten försvann från världen: om klockan försvann från världen: 3 如果猫从世界上消失: 如果钟表从世界上消失: 3 如果貓從世界上消失: 如果鐘錶從世界上消失: 3

アルバム を めくり ながら 、 僕 は キャベツ に いろいろな 話 を 聞か せた 。 あるばむ||||ぼく||きゃべつ|||はなし||きか| ||||||||||||聞かせた ||flipping through||||cabbage|||||| As I flipped through the album, I told various stories to the cabbage. Enquanto folheava o álbum, pedi a Cabbage que nos contasse muitas histórias. 我一邊翻著相冊,一邊跟高麗菜講各種故事。

ゆらゆら 、 ゆらゆら 。 swaying|swaying |swaying swaying| Swaying, swaying.

母さん の 膝 の 上 に 乗って 揺れて いる この 子 猫 が キャベツ 。 かあさん||ひざ||うえ||のって|ゆれて|||こ|ねこ||きゃべつ |||||||tremble|||||| ||knee|||||swaying||||||cabbage |||||||is shaking|||||| This kitten that is shaking on my mother's lap is a cabbage. Ce petit chat tremble en roulant sur les genoux de sa mère. 這隻在媽媽腿上盪來盪去的小貓是一棵高麗菜。 君 だ よ 。 きみ|| It's you. Ти є. ここ は 君 の 定 位置 だった 。 ||きみ||てい|いち| |||||position| ||||designated|| ||||designated|| This was your home position. 這是你的永久職位。 大好きだった 毛糸 。 だいすきだった|けいと |la laine loved|wool yarn |毛糸 |yarn The yarn I loved so much. いつまでも 遊んで いた ね 。 |あそんで|| We used to play forever, didn't we? 古ぼけた ブリキ の バケツ 。 ふるぼけた|ぶりき||ばけつ worn-out|tin||bucket 古びた|tin||バケツ rusty|tin|| An old tin bucket. Balde de lata velho . 一個舊錫桶。 気 が 付く と いつも その 中 に すっぽり 入って 母さん の こと を 見て い た ね 。 き||つく||||なか|||はいって|かあさん||||みて||| ||to notice||||||||||||||| ||||||||すっぽり||||||||| Whenever I noticed, I was completely inside it and looked at my mother. 在我意識到之前,我總是完全沉浸在其中,看著我的母親。 お気に入り の うすみどり の タオル 。 おきにいり||||たおる ||vert pâle|| ||light green|| ||薄緑|| ||light green|| Favorite light green towel. 母さん の お気に入り だった んだ けど 、 すっかり 君 の もの に なって し まった 。 かあさん||おきにいり|||||きみ|||||| ||favorite||||completely|||||||completely It was mom's favorite, but it completely became yours. 母さん が クリスマス に 君 に プレゼント した 小さな ピアノ の おもちゃ 。 かあさん||くりすます||きみ||ぷれぜんと||ちいさな|ぴあの|| |||||||||||toy The small piano toy that mom gave you for Christmas. 你妈妈送给你的圣诞节小玩具钢琴。 あ 、 この 写真 。 ||しゃしん 弾いて る 弾いて る 。 はじいて||はじいて| playing||jouant| playing||playing| playing||| playing||| 少々 乱暴 で は あった けれど 見事な 演奏 だった んだ 。 しょうしょう|らんぼう|||||みごとな|えんそう|| |brutal|||||||| |a bit rough||||||performance|| ||||あった||||| |rough||||||performance|| It was a bit violent but it was a splendid performance. 虽然有些粗糙,但还是一场精彩的表演。 あと これ だ 。 クリスマス ツリー 。 くりすます|つりー |tree 毎年 母さん が 飾り はじめる と 、 いつも 君 は 大 興奮 。 まいとし|かあさん||かざり||||きみ||だい|こうふん ||||||||||excitation ||||starts decorating||||||great excitement |||decoration|||||||gets excited すぐ 壊しちゃ う から 母さん は 大変 そうだった 。 |こわしちゃ|||かあさん||たいへん|そう だった |will break|||||| My mother seemed to be in trouble as I will destroy it. ほら 、 この 写真 。 ||しゃしん look here|| You see, this photo. 飛びつ い ちゃ って る でしょ 。 とびつ||||| sauter sur||||| jumping||||| 飛びつ||||| I'm jumping. 飛びつ い ちゃ って る でしょ 。 你马上就要跳进去了。 你馬上就要跳進去了。 めちゃくちゃ だ 。 crazy| It's messed up. ひどい ね キャベツ 。 ||きゃべつ でも 母さん は なんだか 嬉し そうだ 。 |かあさん|||うれし|そう だ ||||happy|

ひと つ の アルバム が 終わる と また 次の アルバム へ 。 |||あるばむ||おわる|||つぎの|あるばむ|

レタス が 死んで 、 母さん が 動か なく なって しまった こと 。 れたす||しんで|かあさん||うごか|||| lettuce||||||||| lettuce||||||||| The fact that the lettuce died and mom stopped moving. Sałata umarła, a moja matka utknęła.

そして 母さん が キャベツ を 拾って きた 日 の こと 。 |かあさん||きゃべつ||ひろって||ひ|| |||||to pick|||| And the day mom picked up the cabbage. それ から の 幸せな 日々 の こと 。 |||しあわせな|ひび|| The happy days that followed. そして 、 母さん が 病気 に なって しまった こ と 。 |かあさん||びょうき||||| And my mother got sick. キャベツ は じっと 黙って 僕 の 話 を 聞いて いた 。 きゃべつ|||だまって|ぼく||はなし||きいて|

時々 、 僕 は 「 覚えて る ? ときどき|ぼく||おぼえて|

」 と 尋ねた が キャベツ は どうやら 何も 覚えて い ない ようだった 。 |たずねた||きゃべつ|||なにも|おぼえて||| |||||apparemment||||| |asked||||it seems|||||seemed like

キャベツ は なにも かも 忘れて いた 。 きゃべつ||||わすれて| ||何も||| I have forgotten anything about cabbage.

そんな キャベツ が 一 枚 の 写真 に 目 を 留めた 。 |きゃべつ||ひと|まい||しゃしん||め||とどめた ||||||||||arrêté ||||||||||stopped at ||||||||目を留める|| Such a cabbage caught my eye in one photo.

浴衣 を 着た 僕 と 、 母さん と 、 そして 父 。 ゆかた||きた|ぼく||かあさん|||ちち yukata|||||||| summer kimono|||||||| yukata||||||||

母さん は 車 いす に 座って いて 、 その 膝 の 上 に は 不機嫌 そうな 顔 を した キャベツ 。 かあさん||くるま|||すわって|||ひざ||うえ|||ふきげん|そう な|かお|||きゃべつ ||||||||genoux|||||sullen||||| |||wheelchair||||||||||sullen||||| mom||car|||||||||||grumpy||||| The mother was sitting in a wheelchair, and on her lap was a cabbage with a moody face. そして 僕 と 父 は ちょっと 気恥ずかし そうに 笑って いる 。 |ぼく||ちち|||きはずかし|そう に|わらって| ||||||gênant||| ||||||a little embarrassed||| 我和父親都笑了,有點尷尬。 その 笑顔 が なんだか 物珍しくて 僕 も 思わず その 写真 に 見入って しまった 。 |えがお|||ものめずらしくて|ぼく||おもわず||しゃしん||みいって| ||||curious|||||||regardé| ||||novelty|||||||gazed at| That smile was somehow unusual, and I couldn't help but become fascinated by that photo. Uśmiech był tak niezwykły, że nagle spojrzałem na zdjęcie. 那笑容有些奇怪,我忍不住盯著照片。

「 これ は 、 誰 で ご ざる か ? ||だれ|||| Who is this?

」 父 の 姿 が 珍しい の か 、 キャベツ が 興味深 そうに 聞いて きた 。 ちち||すがた||めずらしい|||きゃべつ||きょうみぶか|そう に|きいて| |||||||||interesting|semblant intéressé|| |||||||||very interesting||| Perhaps it's rare to see my father, as Cabbage seemed to be curious and asked. あまり 父 の 話 は し たく ない 。 |ちち||はなし|||| I don't want to talk about my father too much.

「 これ は どこ で ご ざる か ? |||||ございます|

」 「 これ は 確か 、 温泉 に 行った とき だ な 」 ||たしか|おんせん||おこなった||| |||hot spring||||| 写真 に 印字 さ れた 日付 を 見る と 、 母さん が 亡くなる ちょうど 一 週間 前 だった 。 しゃしん||いんじ|||ひづけ||みる||かあさん||なくなる||ひと|しゅうかん|ぜん| ||imprimé|||||||||||||| ||printing|||date||||||||||| |||||日付||||||||||| ||print|||data||||||||||| Looking at the date printed on the photo, it was just a week before my mother died.

」 「 最後に 思い出 で も 作り たかった んだ と 思う よ 。 さいごに|おもいで|||つくり||||おもう| "Finally, I think I wanted to make a memory. 旅行 なんて ろくに して こ なかった 人 だった から 」 りょこう||||||じん|| ||barely|||||| Because he was the one who didn't travel

キャベツ は 、 その 写真 を 食い入る ように 見つめて いる 。 きゃべつ|||しゃしん||くいいる||みつめて| cabbage|||||staring intently||| |||||Gnaw||| The cabbage is staring at the photo as if it were digging into it. 白菜目不轉睛地盯著照片。

」 「 う うむ …… 何 か 感じる で ご ざる 」 ||なん||かんじる||| |well|||||| "Umm ... I can't help feeling something." もしかしたら キャベツ の なか の 、 記憶 の 断片 が よみがえって きて いる の かも しれ ない 。 |きゃべつ||||きおく||だんぺん|||||||| |||||||fragment||might be returning|||||| |||||||fragments|||||||| Perhaps a piece of memory in the cabbage is being revived.

僕 は キャベツ の 記憶 を もう 少し 手繰り寄せ たく なって 、 この 写真 に ついて 語って 聞か せる こと に した 。 ぼく||きゃべつ||きおく|||すこし|たぐりよせ||||しゃしん|||かたって|きか|||| ||||||||pull closer|||||||speak about||||| ||||||||引き寄せ|||||||||||| ||||||||to pull closer|||||||||||| I wanted to get a little more recollection of the cabbage, so I decided to talk about this photo. 我想找回一些關於高麗菜的記憶,所以我決定告訴他們這張照片。

いま から 四 年 前 の こと だ 。 ||よっ|とし|ぜん||| It was four years ago.

毎日 吐いて 苦しんで 、 眠れ ず に 過ごして いた 。 まいにち|はいて|くるしんで|ねむれ|||すごして| |vomiting|suffering|could not sleep|||| |it vomits|||||| I was suffering from vomiting every day and was spending time without sleeping.

でも ある 朝 、 起きる と 突然 僕 を 呼び出して 言った 。 ||あさ|おきる||とつぜん|ぼく||よびだして|いった ||||||||called out| But one morning, when I woke up, I suddenly called me and said.

「 海 の 見える 温泉 に 行き たい わ 」 うみ||みえる|おんせん||いき||

僕 は 困惑 して 、 本意 な の か 何度 も 確認 した 。 ぼく||こんわく||ほんい||||なんど||かくにん| ||confused||true intention||||||| ||confused||||||||| ||confused||true intention||||||confirm| I was confused and repeatedly confirmed whether it was my intention.

けれども 、 母さん は どうしても 行き たい と 言って 聞か なか った 。 |かあさん|||いき|||いって|きか|| but|||by all means|||||would not listen|| However, my mother insisted that she wanted to go no matter what.

いま まで そんな わがまま を 一 度 も 言った こと が ない 人 だった から 、 僕 は 驚いた 。 |||||ひと|たび||いった||||じん|||ぼく||おどろいた |||selfishness||||||||||||||surprised Because she had never once expressed such selfishness until now, I was surprised.

僕 は なんとか 医者 を 説得 して 外出 する 許可 を 得た が 、 ひと つ 厄介な 問題 が あった 。 ぼく|||いしゃ||せっとく||がいしゅつ||きょか||えた||||やっかいな|もんだい|| |||||persuaded||going out||||||||troublesome||| |||||||||||||||troublesome||| I managed to convince the doctor to grant permission for her to go out, but there was one troublesome problem.

長い 年月 を かけて 固まり きって しまった 関係 は どう しよう も ない ところ まで 来て いた 。 ながい|ねんげつ|||かたまり|||かんけい||||||||きて| ||||solidified|completely||||||||||| ||||solidified|||relationship||||||||| The relationship that has been solidified over the years has come to a point where it can't be helped. Relacje, które ustabilizowały się przez lata, osiągnęły punkt, w którym nie można było pomóc. 多年來的關係已經僵化,已經到了無能的地步。

だから 、 父 と 温泉 に 行く こと は もちろん 、 父 に その 話 を する こと も 躊躇 われた 。 |ちち||おんせん||いく||||ちち|||はなし|||||ちゅうちょ| |||||||||||||||||hesitated|was hesitated |||||||||||||||||hesitated| |||||||||||||||||to hesitate| So I hesitated not only to go to the hot springs with my dad, but also to tell him the story. 所以,我不僅猶豫著要不要和爸爸一起去泡溫泉,也猶豫著要不要跟他談這件事。 けれど 、 これ が 母さん に とって 最後 の 旅 に なる こと は 分かって いた 。 |||かあさん|||さいご||たび|||||わかって| But I knew this would be my mother's last trip. 僕 は 父 を 説得 する こと に した 。 ぼく||ちち||せっとく|||| I decided to persuade my father.

「 そんな 馬鹿げた こと を 」 と 父 は 相変わらず 紋切り型 な 返答 を 繰り返し 、 僕 は そんな 父 に 心底 呆れ ながら も なんとか 説き伏せた 。 |ばかげた||||ちち||あいかわらず|もんきりがた||へんとう||くりかえし|ぼく|||ちち||しんそこ|あきれ||||ときふせた |silly|||||||stereotypical||stereotypical response||repeated|||||||||||persuaded |馬鹿げた|||||||型通りの|||||||||||||||説得した ||||||||formulaic||||||||||deep down|astonishment||||to convince "That's ridiculous," he said, as usual, with a striated response, and I managed to persuade him, even though he was deeply disappointed. 「這真是一派胡言。」父親不斷重複他的標準回答,雖然我深感失望,但我還是設法說服了他。

いま まで 母さん を 旅行 に 連れて いく こと なんて なかった から 、 僕 は 最高の 旅程 を 作る こと に した 。 ||かあさん||りょこう||つれて||||||ぼく||さいこうの|りょてい||つくる||| |||||||||||||||itinerary||||| |||||||||||||||itinerary||||| I never took my mother to travel until now, so I decided to make the best itinerary.

電車 に 乗って 三 時間 の 海辺 の 温泉 地 。 でんしゃ||のって|みっ|じかん||うみべ||おんせん|ち ||||||seaside||| A seaside hot spring area that takes three hours by train. 遠浅 の 海岸 が 広がり 、 柔らかな 太陽 の 光 に 包ま れて 、 風情 の ある 旅館 が 海辺 に 立ち 並ぶ 美しい 街 だった 。 とおあさ||かいがん||ひろがり|やわらかな|たいよう||ひかり||つつま||ふぜい|||りょかん||うみべ||たち|ならぶ|うつくしい|がい| shallow|||||soft|||||||||||||||||| shallow||||||||||||||||||||||| shallow||coast||spreads||sun||||||scenery|||inn||seaside|||||| A beautiful town with shallow beaches, enveloped in soft sunlight, where charming ryokans stand side by side along the shore. 這是一個美麗的小鎮,海岸寬闊而淺,沐浴在柔和的陽光下,古色古香的旅館沿著海岸鱗次櫛比。

「 いつか 行って み たい わ 」 と 母さん は いつも 雑誌 で その 温泉 地 を 見る 度 に 言って いた 。 |おこなって|||||かあさん|||ざっし|||おんせん|ち||みる|たび||いって| My mother always said, 'I want to visit there someday,' every time she saw that hot spring area in a magazine.

築 百 年 を 超える 日本 家屋 を 改築 し 、 旅館 に 仕立てた 美しい 宿 。 きず|ひゃく|とし||こえる|にっぽん|かおく||かいちく||りょかん||したてた|うつくしい|やど built||||||house||renovation||||converted into|| ||||||||||||仕立てた|| to build||||||house||renovation||||converted into|| A beautiful inn that has been remodeled into a Japanese inn over 100 years ago. 由100多年前建造的日式房屋改建而成的美麗旅館。

ふたつ しか 部屋 が なく 、 二 階 の 部屋 から は 海 が 一望 できる 。 ふた つ||へや|||ふた|かい||へや|||うみ||いちぼう| |||||||||||||at a glance| There are only two rooms, and from the room on the second floor, you can get a panoramic view of the sea. ふたつ しか 部屋 が なく 、 二 階 の 部屋 から は 海 が 一望 できる 。 房间只有两间,二楼的一间可以看到大海全景。 露天 風呂 の 先 に は 海岸 が 広がり 、 夕日 を 見る こと も できる 宿 だった 。 ろてん|ふろ||さき|||かいがん||ひろがり|ゆうひ||みる||||やど| |||||||||夕阳||||||| open-air|||||||||||||||| Beyond the open-air bath, the coastline stretches out, and it was an inn where you could also watch the sunset. きっと 母さん が 喜んで くれる だろう と 思い 、 僕 は 奮発 して その 宿 を 予約 した 。 |かあさん||よろこんで||||おもい|ぼく||ふんぱつ|||やど||よやく| ||||||||||splurged|||||| ||||||||||奮発する|||||| ||||||||||splurged|||||| I thought my mom would surely be happy, so I splurged and booked that inn. 我確信媽媽會很高興,所以我冒險預訂了酒店。

そして 約束 の 日 、 医者 や 看護 師 たち に 見送ら れ 、 僕たち 家族 は 旅 に 出た 。 |やくそく||ひ|いしゃ||かんご|し|||みおくら||ぼくたち|かぞく||たび||でた ||||||||||sent off||||||| ||||||nurses||||||||||| そして 約束 の 日 、 医者 や 看護 師 たち に 見送ら れ 、 僕たち 家族 は 旅 に 出た 。

久々 の 家族 三 人 ( と 猫 ) の 旅だった 。 ひさびさ||かぞく|みっ|じん||ねこ||たびだった 久しぶりの||||||||trip 久しぶり||||人|||| It was a trip with the family of three (and the cat) after a long time.

電車 の 中 。 でんしゃ||なか On the train.

狭い ボックスシート に 隣り合わせ で 座って いる のに 、 ろくに 話さ ない 僕 と 父 を 母さん は にこにこ しながら 見て いた 。 せまい|||となりあわせ||すわって||||はなさ||ぼく||ちち||かあさん|||し ながら|みて| |box seat||sitting side by side||||||||||||||smiling||| |||||||||||||||||にこにこ||| Even though we were sitting next to each other in the cramped box seat, my mother was smiling as she watched my father and me, who hardly talked. 尽管我们坐在小包厢里,但我和妈妈看着我和爸爸,微笑着,几乎没有说话。 儘管我們坐在小包廂裡,我和媽媽看著我和爸爸,微笑著,幾乎沒有說話。

無言 の 三 時間 が 続き 、 同じ 空間 を 共有 して いる こと が 限界 に 達し 始めた とき 、 車掌 の アナウンス が 温泉 地 に 到着 した こと を 告げた 。 むごん||みっ|じかん||つづき|おなじ|くうかん||きょうゆう|||||げんかい||たっし|はじめた||しゃしょう||あなうんす||おんせん|ち||とうちゃく||||つげた ||||||||||||||||reached|||conductor||||||||||| |||||||||||||||||||conductor||||||||||| ||||||||||||||limit||to reach|||conductor||||||||||| The three hours of silence continued, and when it began to reach its limit of sharing the same space, the conductor's announcement informed us that we had arrived at the hot spring area. 三個小時的沉默持續著,正當我們即將達到共享同一空間的極限時,售票員宣布我們已到達溫泉區。

僕 は 母さん の 車 いす を 押し ながら 、 足取り 軽く 宿 に 向かった 。 ぼく||かあさん||くるま|||おし||あしどり|かるく|やど||むかった ||||car||||||||| |||||||||step|lightly|inn|| As I pushed my mother's wheelchair, I headed towards the inn with a light step. Kiedy pchałem wózek mojej mamy, zrobiłem szybki krok w stronę gospody. 我推著媽媽的輪椅,慢慢朝飯店走去。

予約 が 入って おら ず 、 すでに ほか の 客 で 埋まって しまって いる のだ と いう 。 よやく||はいって||||||きゃく||うずまって||||| |||||already|||||||||| ||||||||||満席になって||||| reservation||||||||||is buried||||| They said that there was no reservation and that they were already fully booked with other guests. Mówi się, że został już zarezerwowany i jest już zajęty przez innych klientów. Disseram que não tinham reservas e que já estavam cheios com outros clientes.

僕 は 怒った 。 ぼく||いかった ||怒った Byłem zły.

これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。 ||かあさん||さいご||たび||

それなのに 、 あまりに 理不尽 だ 。 ||りふじん| ||unreasonable| Nevertheless, it is too unreasonable. だが 宿 の 女将 は 平謝り する だけ で 、 どうにも なら ない 状態 だった 。 |やど||おかみ||ひらあやまり|||||||じょうたい| ||possessive particle|||apologizing profusely|||||||| |||||平謝り|||||||| |||innkeeper||apologizing profusely|||||||| However, the lady general of the inn is only in a state of apology, and it was in a state of disappointment. 途方 に くれた 。 とほう|| lost|| despair|| I was at a loss. Fiquei sem saber o que fazer. 我不知所措。 母さん に 申し訳なかった 。 かあさん||もうし わけなかった I felt sorry for my mother. Nie powiedziałem tego mojej matce. 我为我的母亲感到难过。

「 気 に し なくて いい わ よ 」 き|||||| You don't have to worry about it. „Nie musisz się tym martwić”.

母さん は 笑い ながら 言った 。 かあさん||わらい||いった

でも 僕 は 自分 が 許せ なかった 。 |ぼく||じぶん||ゆるせ| |||||forgive| But I couldn't forgive myself.

情けなくて 、 悔しくて 涙 が 出 そうだった 。 なさけなくて|くやしくて|なみだ||だ|そう だった |frustrated|||| pathetic||||| I felt pathetic, frustrated, and was on the verge of tears. 我如此的可憐和沮喪,以至於我想哭。 ど う したら いい の か 分から ず 、 僕 は ただ 立ち尽くして いた 。 ||||||わから||ぼく|||たちつくして| |||||||||||stood still| |||||||||||stand still| |||||||||||standing there| Not knowing what to do, I just stood there. 我只是站在那里,不知道该怎么办。 我只是站在那裡,不知道該怎麼辦。

すると 父 が 、 その 大きくて 固い 手 で 僕 の 肩 を 強く たたいた 。 |ちち|||おおきくて|かたい|て||ぼく||かた||つよく| |||||||||||||tapped |||||||||||||叩いた Then my father, with his large and strong hand, strongly patted my shoulder.

あまり に 唐突な 父 の 行動 に 虚 を 突か れた が 、 僕 は あわてて 後 を 追った 。 ||とうとつな|ちち||こうどう||きょ||つか|||ぼく|||あと||おった ||sudden|||||||surprised||||||||followed ||唐突な|||||虚しさ|||||||||| ||sudden|||||emptiness|to|pierced||||||||followed I was caught off guard by my father's sudden action, but I hurriedly followed after him. Uderzyło mnie zachowanie mojego ojca, który był tak gwałtowny. Fiquei surpreendido com a ação súbita do meu pai, mas corri atrás dele. 我被父親突然的舉動嚇了一跳,但還是趕緊追了上去。

父 は 並び 立つ 旅館 に 次 から 次 へ と 飛び込み 、 空き が ない か どう か 聞いて 回った 。 ちち||ならび|たつ|りょかん||つぎ||つぎ|||とびこみ|あき||||||きいて|まわった |||||||||||||||||||asked around ||||inn||||||||||||||| My father jumped into the inns standing in a row, asking one after another whether there were any vacancies. Mój ojciec wskakiwał jeden po drugim do stojących karczm i pytał, czy są jakieś wolne miejsca. 我父亲闯入一家又一家旅馆,询问是否还有空房。

時計 店 の なか で 、 何 時間 も 黙って 座り込み 時計 の 修理 を して いる 父 の 姿 しか 見た こと が なかった 僕 は 、 驚き 圧倒 さ れて しまった 。 とけい|てん||||なん|じかん||だまって|すわりこみ|とけい||しゅうり||||ちち||すがた||みた||||ぼく||おどろき|あっとう||| |||||||||sitting quietly||||||||||||||||||||| |||||||||||||||||||||||||||overwhelmed||| Among the watch shops, I was stared silent for hours and I only saw the figure of my father sitting in the watch for repair, I was surprised and overwhelmed. Byłem zaskoczony i przytłoczony faktem, że mogłem zobaczyć tylko pojawienie się mojego ojca w sklepie z zegarkami, który siedział bez słowa przez wiele godzin i naprawiał zegarek.

僕 の 運動 会 に 来て も 石 の ように 座って 動か ない 人 だった から 、 こんなに 走り回る 姿 を 見る の は 生まれて 初めて だった 。 ぼく||うんどう|かい||きて||いし|||すわって|うごか||じん||||はしりまわる|すがた||みる|||うまれて|はじめて| |||||||||||||||||running around|||||||| |||||||||||||||||走り回る||||||初めて|| ||exercise||||||||||||||||||||||| Even though I came to the athletic meeting, I was sitting like a stone and not moving, so it was my first time to see a running appearance like this.

「 ああ 見えて 父さん は 、 昔 とても 足 が 速かった の よ 」 |みえて|とうさん||むかし||あし||はやかった|| ||||||||fast|| ああ|見える||||||||| "You know, my father used to be a very fast man.

小さく 骨太な その 体躯 に 似合わ ず 美しい フォーム で 温泉 街 を 走って いく 父 の 後ろ姿 を 追い ながら 、 母 さん が よく 僕 に 言って いた 言葉 が よみがえって くる 。 ちいさく|ほねぶとな||からだ く||にあわ||うつくしい|ふぉーむ||おんせん|がい||はしって||ちち||うしろすがた||おい||はは||||ぼく||いって||ことば||| |sturdy||build||not fitting||||||||||||||||||||||||||| |骨太な||体格|||||姿勢|||||||||||||||||||||||| |broad-shouldered||body||to befit||||||||||||||||||||||||||| The words that my mother used to say to me are resurrected while chasing the back of my father who runs in the hot spring town in a beautiful form that doesn't look like a small and heavy body. 当我跟着父亲跑过温泉小镇时,他那美丽的身姿与他矮小而粗壮的身躯相得益彰,母亲曾经对我说过的话又浮现在我的脑海里。 當我跟著父親跑過溫泉小鎮時,他那優美的身姿與他矮小而粗壯的身軀相得益彰,母親曾經對我說過的話又浮現在我的腦海裡。

断ら れ 、 また 断ら れ 、 僕 と 父 は 駆けずり回 っ た 。 ことわら|||ことわら||ぼく||ちち||かけずりまわ|| rejected|||rejected||||||ran around|| were refused|||||||||to run around|| I was refused, and again, I and my father ran around. 我和父親四處奔走,一次又一次被拒絕。

ときに は 手分け して 、 ときに は 一緒に 頭 を 下げて 。 ||てわけ||||いっしょに|あたま||さげて ||dividing work||||||| Sometimes you have to break it up, sometimes you lower your head. 有時我們分開,有時我們一起低頭。 母さん に 野宿 を さ せる わけに は いか ない 。 かあさん||のじゅく||||||| ||camping out||||||| ||camping||||||| I can't let my mom go wild. 我不能让妈妈睡在野外。 我不能讓媽媽睡在野外。 これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。 それ は 僕 が 大人 に なって 初めて 父 と 心 を 通わせ 、 同じ 気持ち で 動いた 瞬間 だった 。 ||かあさん||さいご||たび|||||ぼく||おとな|||はじめて|ちち||こころ||かよわせ|おなじ|きもち||うごいた|しゅんかん| |||||||||||||||||||||communicate|||||| |||||||||||||||||||||通じ合った|||||| |||||||||||||||||||||connect|||||| 僕ら は 海辺 の 旅館 を 探して 探して 、 走り回って 、 ようやく 空いて いる 宿 を 見つけた 。 ぼくら||うみべ||りょかん||さがして|さがして|はしりまわって||あいて||やど||みつけた ||||||||running around|||||| We looked for a seaside inn, ran around and finally found a vacant inn. 我们四处寻找海边旅馆,最后找到了一间空着的。

もう あたり は 暗く な って おり 、 外観 は よく 見え なかった のだ が 、 一目 で ずいぶん と 古びた 宿 である こと が 分かった 。 |||くらく||||がいかん|||みえ||||いちもく||||ふるびた|やど||||わかった |||||||appearance|||||||at a glance||||||||| It was dark around here, and I couldn't see the appearance well, but at a glance I found that it was a very old inn. 天已經黑了,外面看不清,但一看就知道這是一家很古老的客棧。

中 に 入る と 、 やはり 建物 は 古くて 、 歩く と 床 が ぎしぎし と 鳴った 。 なか||はいる|||たてもの||ふるくて|あるく||とこ||ぎし ぎし||なった ||||||||||||creaked|| ||||||||||床||きしむ音|| When I entered, the building was indeed old, and as I walked, the floor creaked.

「 なかなか いい 宿 じゃ ない 」 ||やど|| "This isn't a bad inn."

母さん は 嬉し そうに 言った 。 かあさん||うれし|そう に|いった Mother said happily.

でも 僕 は 苦しかった 。 |ぼく||くるしかった Mother said pleasantly.

こんな 宿 に 泊まら せる の か と 思う と 、 胸 が つまり そうだ った 。 |やど||とまら|||||おもう||むね|||そう だ| ||||||||||||苦しくなる|| Thinking that I would stay in a place like this made my chest feel tight. 一想到能住進這樣的旅館,我的心就揪緊了。 でも 仕方 が ない 。 |しかた|| But there's no helping it. 父 が 言う ように 、 野宿 を する わけに は いか なかった 。 ちち||いう||のじゅく|||||| ||||camp|||||| As my father said, I couldn't camp out. 僕ら は 仕方なく この 宿 に 泊まる ことにした 。 ぼくら||しかたなく||やど||とまる| |||||||decided to As my father says, I could not do the camp.

宿 は 古かった が 、 仲居 さん も ご 主人 も とても 親切 だった 。 やど||ふるかった||なかい||||あるじ|||しんせつ| ||old||waitress|||||||| ||||female inn attendant|||||||| ||||waitstaff|||||||| Karczma była stara, ale Nakai i jej mąż byli bardzo mili. 客棧很舊,但是服務生和主人很友善。

食事 も 豪華 で は ない が 、 手 が 込んで いて 美味しかった 。 しょくじ||ごうか|||||て||こんで||おいしかった ||luxurious|||||effort|subject marker|||tasted good ||luxurious||||||||| The food wasn't gorgeous, but it was elaborate and delicious. Jedzenie nie było wspaniałe, ale było wyszukane i smaczne.

母さん は 何度 も 何度 も 、 いい わ ね 、 美味しい わ ね 、 と 笑った 。 かあさん||なんど||なんど|||||おいしい||||わらった The meal was not luxurious, but it was crowded and it was beautiful. Moja matka ciągle się śmiała, było dobrze, było pyszne. 妈妈笑着说:“真好,真好吃”,一遍又一遍地说。 その 笑顔 で 僕 の 申し訳ない 気持ち は 少し だけ 和らいだ 。 |えがお||ぼく||もうしわけない|きもち||すこし||やわらいだ ||||||||||eased ||||||||||has eased That smile eased my apologetic feelings a little. 那笑容稍微緩解了我的歉意。

その 夜 、 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝た 。 |よ|かぞく|みっ|じん||ふとん||ならべて|ねた ||||||futon|||

こんな こと は 、 何 十 年 ぶり だろう 。 |||なん|じゅう|とし|| This is the first time in decades. 类似的事情已经过去几十年了。

僕 は 古い 板張り の 天井 を 見上げ ながら 、 小学生 の 頃 に 住んで いた 家 を 思い出して いた 。 ぼく||ふるい|いたばり||てんじょう||みあげ||しょうがくせい||ころ||すんで||いえ||おもいだして| |||boarded ceiling||||||||||||||| |||板張り||||||||||||||| |||wooden floor||||||||||||||| I was looking up at the old wooden ceiling, reminiscing about the house I lived in when I was in elementary school.

僕ら が 住 ん で いた 家 は 部屋 数 が 少なくて 、 いつも 二 階 の 寝室 に 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝て いた 。 ぼくら||じゅう||||いえ||へや|すう||すくなくて||ふた|かい||しんしつ||かぞく|みっ|じん||ふとん||ならべて|ねて| The house we lived in had few rooms, and we always spread out our futons and slept together as a family of three in the second-floor bedroom.

二十 年 が 経ち 、 僕ら は また こう やって 天井 を 見上げて いる 。 にじゅう|とし||たち|ぼくら|||||てんじょう||みあげて| Twenty years have passed, and we are once again looking up at the ceiling like this. 二十年过去了,我们再次抬头仰望天花板。

不思議な 気持ち だった 。 ふしぎな|きもち|

きっと 今夜 が 三 人 で 過ごす 最後 の 夜 に なる 。 |こんや||みっ|じん||すごす|さいご||よ|| そう 思う と 眠れ なかった 。 |おもう||ねむれ| It is definitely the last night tonight is spent by three people. たぶん 父 も 、 そして 母さん も 眠れ なかった んだ と 思う 。 |ちち|||かあさん||ねむれ||||おもう 我想我的父亲和母亲可能也睡不着。 狭く 暗い 部屋 の 中 を 、 ただ キャベツ の スースー と いう 小さな 寝息 だけ が 、 波 音 に 重なって 反復 して いた 。 せまく|くらい|へや||なか|||きゃべつ|||||ちいさな|ねいき|||なみ|おと||かさなって|はんぷく|| |||||||||snooze||||sleeping breath||||||||| ||||||||||||||||wave||in|overlapping|repeated|| In the narrow, dark room, only the small sound of the cabbage's gentle breathing was repeating in harmony with the sound of the waves. 又小又黑的房間裡,唯一能聽到的就是白菜嘩啦啦的微弱聲音,在海浪聲中迴盪。

ようやく 外 が 明るく なり 始めた 。 |がい||あかるく||はじめた Finally, it started to become bright outside.

おそらく 四 時 か 五 時 か 。 |よっ|じ||いつ|じ| It was probably around four or five o'clock.

僕 は 布団 から 抜け出し 、 窓際 の いす に 腰かけ た 。 ぼく||ふとん||ぬけだし|まどぎわ||||こしかけ| ||||escaped from|||||sat down| |||||||||sat| I got out of bed and sat down on the chair by the window. 我从蒲团里钻出来,在窗边的椅子上坐下。 カーテン を 引き 、 窓 の 外 を 見て 、 驚いた 。 かーてん||ひき|まど||がい||みて|おどろいた ||||||||was surprised I drew the curtains and looked outside the window, and I was surprised. 古びた 旅館 の 窓 の 外 に は 、 広大な 海 が 広がって いた の だ 。 ふるびた|りょかん||まど||がい|||こうだいな|うみ||ひろがって||| Outside the window of the old-fashioned inn, a vast ocean was spread out. 暗がり の 中 を 走り回って 見つけた 宿 だった から 、 まさか こんな 目の前 に 海 が ある と は 思わ なかった 。 くらがり||なか||はしりまわって|みつけた|やど|||||めのまえ||うみ|||||おもわ| dark||||||||||||||||||| I had found the lodge by running around in the dark, so I had no idea that the ocean was right in front of me. 摸黑跑了一圈才找到客棧,沒想到眼前就是大海。

それ から しばらく の あいだ 、 ぼんやり と した 光 に 包ま れる 幻想 的な 海 を 眺めて いる と 、 背後 で 父 と 母さん が 起き だした 。 ||||||||ひかり||つつま||げんそう|てきな|うみ||ながめて|||はいご||ちち||かあさん||おき| ||||||||||||幻想的な|||||||||||||| ||||||||||||fantasy|||||||||||||| It was a lodging we found running around in the dark, so I did not think there was any sea in front of this. 在那之后的一段时间里,当我凝视着被朦胧的光包围着的梦幻般的海洋时,我的父亲和母亲在我身后醒来了。

ふり返って 見る と 、 ふた り と も 目 の 下 に は クマ 。 ふりかえって|みる||||||め||した|||くま looking back||||||||||||dark circles ||||||||||||クマ look back|||||||||||| Looking back, there is a bear under your eyes. Patrząc wstecz, znalazłem niedźwiedzia pod oczami z pokrywką.

やっぱり みんな 眠れ なかった のだろう 。 ||ねむれ|| I looked back and looked like a bear at the bottom of my eye.

「 写真 、 撮ろう 。 しゃしん|とろう |let's take After all it would have been impossible to sleep.

朝 の 海 が 大好きな の 」 あさ||うみ||だいすきな| "Let's take photos.

浴衣 姿 の 母さん は 、 窓 の 外 に 広がる 海 を 見て 、 僕 に 提案 した 。 ゆかた|すがた||かあさん||まど||がい||ひろがる|うみ||みて|ぼく||ていあん| |||||||||||||I||| |||||||||||||||suggest| I love the morning sea. " 穿着浴衣的母亲看着窗外的大海,向我建议了这个。

車 いす を 押して 海 岸 へ 向かう 。 くるま|||おして|うみ|きし||むかう |||push||coast|| My mother in a yukata rose watched the ocean spreading outside the window and proposed to me. Empurrar uma cadeira de rodas para a praia.

まだ 外 は 薄暗く 、 肌寒かった 。 |がい||うすぐらく|はださむかった ||||a little chilly |||dim|was肌寒かった = was chilly It was still dim outside and a bit chilly. Ainda estava escuro e frio lá fora. 外面天色還很黑,而且很冷。 もっと 海 の 近く へ 、 と 母さん が 言う のだ が 、 湿って 重たい 砂 に つかまり 、 車 いす は なかなか 前 に 進ま ない 。 |うみ||ちかく|||かあさん||いう|||しめって|おもたい|すな|||くるま||||ぜん||すすま| |||||||||||wet|heavy||||||||||will not move| |||||||||||||||つかまり|||||||| |||||||||||湿って =湿润的|heavy|sand|||||||||| My mom says to go closer to the sea, but the damp, heavy sand grips us, and the wheelchair doesn't move forward easily. 媽媽叫我靠近海邊,但我被困在又濕又重的沙子裡,輪椅很難前進。 すると 海岸 線 の 向こう に 朝日 が 昇り 始め 、 キラキラ と 海面 を 照らし 始める 。 |かいがん|せん||むこう||あさひ||のぼり|はじめ|きらきら||かいめん||てらし|はじめる ||||||||||||sea surface||illuminating| ||||||||||||sea surface||to illuminate| Then, the sunrise begins to rise over the coastline, starting to sparkle on the surface of the sea. あまりに も 美しい その 景色 に 圧倒 さ れて 、 僕ら 家族 は 立ち止まった 。 ||うつくしい||けしき||あっとう|||ぼくら|かぞく||たちどまった ||||||overwhelmed|||||| Overwhelmed by the scenery that was so beautiful, our family stopped. そして 、 光り輝く 海 を じっと 見つめた 。 |ひかりかがやく|うみ|||みつめた |shining||||stared at

「 早く ! はやく

写真 ! しゃしん

」 母さん の 言葉 に 我 に 返り 、 僕 は カメラ を 用意 する 。 かあさん||ことば||われ||かえり|ぼく||かめら||ようい| ||||||return|||||| Returning to my mother's words, I prepare the camera. 「媽媽的話讓我回過神來,我準備好相機了。 父 と 僕 が 交互に 写真 を 撮ろう と して いる と 、 宿 の ご 主人 が 出て きて 「 撮り ましょう か 」 と 言って くれた 。 ちち||ぼく||こうごに|しゃしん||とろう|||||やど|||あるじ||でて||とり||||いって| ||||alternately|||take||||||||||||take||||| While my dad and I were trying to take turns taking pictures, the innkeeper came out and said, 'Shall I take the picture for you?'

海 を 背負い 、 車 いす に 座った 母さん を 挟んで 、 父 と 僕 が 横 に しゃがむ 。 うみ||せおい|くるま|||すわった|かあさん||はさんで|ちち||ぼく||よこ|| ||||||||||||||||squat down ||||||||||||||||しゃがむ ||shoulder|||||||between|||||beside|| With the sea behind us, my dad and I crouch down beside my mother, who is sitting in a wheelchair. 我和爸爸蹲在妈妈身边,妈妈坐在轮椅上,背靠着大海。 我和爸爸蹲在媽媽身邊,媽媽坐在輪椅上,背靠著大海。 ようやく 目 を 覚ました キャベツ は 不機嫌 そうに 、 母さん の 膝 の 上 で 大きな あくび を して い る 。 |め||さました|きゃべつ||ふきげん|そう に|かあさん||ひざ||うえ||おおきな||||| The cabbage has finally awoke and is grumpy yawning on her mother's lap. 当白菜终于醒过来的时候,她心情很不好,趴在妈妈腿上打着哈欠。

「 はい 、 チーズ 」 |ちーず “是的,起司”

ご 主人 が シャッター を 押す 。 |あるじ||しゃったー||おす The master presses the shutter. 主人按下快门。

」 かなり 強引な ご 主人 の ダジャレ に 無理やり 僕ら が 笑わ さ れた 瞬間 に 、 シャッター が 切ら れた 。 |ごういんな||あるじ||||むりやり|ぼくら||わらわ|||しゅんかん||しゃったー||きら| |forceful||||pun||||||||||||| |forceful||||puns||forced||||||||||| |forceful||||pun||||||||||||| At the moment when we were forcibly made to laugh at the master's rather forceful pun, the shutter was released. 」 最後 の 旅 の 物語 を 話し 終えた 僕 は 、 キャベツ に 尋ねた 。 さいご||たび||ものがたり||はなし|おえた|ぼく||きゃべつ||たずねた Having finished telling the story of the last journey, I asked the cabbage. ” 讲完上次旅行的故事后,我问白菜。 キャベツ 」 きゃべつ

「 申し訳ない 。 もうしわけない

どうしても 思い出せ ないで ご ざる 。 |おもいだせ||| I just can't remember no matter what.

ただ ……」 Just ...

「 ただ ? Just?

」 「 幸せ だった 、 と いう こと だけ は 覚えて いる で ご ざる 」 しあわせ|||||||おぼえて|||| I only remember that I was happy. 「 幸せだった ? しあわせだった was happy Were you happy? 「你開心嗎?

」 「 そうで ご ざる 。 そう で|| That's right. この 写真 に 写って いる 、 この とき が 、 幸せだった と いう こと だけ は 覚えて いる ので ご ざる 」 |しゃしん||うつって|||||しあわせだった||||||おぼえて|||| |||appeared||||||||||||||| I only remember that this time when I appeared in this photo was happy. Pamiętam tylko, że byłem wtedy szczęśliwy, jak pokazano na tym zdjęciu.

母さん の こと も 、 父 の こと も 、 古ぼけた 旅館 や この 海 の こと も 、 キャベツ は 何も 覚えて い ない 。 かあさん||||ちち||||ふるぼけた|りょかん|||うみ||||きゃべつ||なにも|おぼえて|| ||||||||old||||||||||||| I don't remember anything about my mother, my father, the old inn, or this sea; I don't remember anything about the cabbage either.

でも 〝 幸 せ だった 〟 と いう こと だけ を 覚えて いた 。 |こう||||||||おぼえて| But I only remembered that I was 'happy.'

何 か 不思議な 感覚 だった 。 なん||ふしぎな|かんかく| It was a strange feeling.

キャベツ の 言葉 に 引っかかる もの が あった 。 きゃべつ||ことば||ひっかかる||| ||||引っかかる||| There was something that caught my attention in the words of the cabbage.

そして 改めて 写真 を 見直して 僕 は 気付いた 。 |あらためて|しゃしん||みなおして|ぼく||きづいた ||||reexamined||| ||||to review||| And then, upon reviewing the photo again, I realized.

僕 を 生んで から 、 すべて の 時間 を 父 と 僕 の ため に ささげて きた 母さん が 、 最後 の 最後に 自分 の ため に その 時間 を 使う はず が なかった 。 ぼく||うんで||||じかん||ちち||ぼく||||||かあさん||さいご||さいごに|じぶん|||||じかん||つかう||| ||gave birth to||||||||||||dedicated||||||||||||||||| A mother who gave all the time for her father and me since I was born, couldn't spend that time for myself at the very end. Moja matka, która poświęciła cały mój czas ojcu i mojemu od urodzenia, nie mogła spędzić tego czasu dla siebie na samym końcu.

母さん は 最後 まで 父 と 僕 の ため に 、 み ず から の 時間 を 使おう と した のだ 。 かあさん||さいご||ちち||ぼく||||||||じかん||つかおう||| ||||||||||from||||||||| Since I was born, my mother who offered all the time for my father and I could not spend that time for myself at the end. 直到最后,我母亲都试图用自己的时间陪伴我和我父亲。

母さん 騙さ れた よ 。 かあさん|だまさ|| My mother was tricked. Matka została oszukana.

いま まで 全然 気付か なかった よ 。 ||ぜんぜん|きづか|| Do tej pory niczego nie zauważyłem.

僕 は 写真 を 見つめる 。 ぼく||しゃしん||みつめる I stare at the photograph. 写真 の なか の 父 は なんだか 照れくさ そうに 笑って いる 。 しゃしん||||ちち|||てれくさ|そう に|わらって| |||||||shyly||| |||||||照れくさい||| In the photo, my father is somehow smiling shyly. 僕 も そっくりな 顔 で 照れ 笑い を して いる 。 ぼく|||かお||てれ|わらい||| |||||bashful smile|||| I am also making a shy smile with a face that looks just like his. そして 母さん は 、 これ 以上 ない ほど 幸せ そうに 笑って いた 。 |かあさん|||いじょう|||しあわせ|そう に|わらって| |||this||||||| I am laughing with a look alike. 我母亲微笑着,好像她高兴极了。

その 母さん の 顔 を 見て いる と 、 胸 が 苦しく なって きた 。 |かあさん||かお||みて|||むね||くるしく|| And my mother was laughing with happiness so much as nothing more.

苦しくて 、 悲しくて 、 情けなくて 、 気 が つく と 僕 は キ ャベツ の 前 で 涙 を 流して いた 。 くるしくて|かなしくて|なさけなくて|き||||ぼく|||||ぜん||なみだ||ながして| |||||||||cabbage|cabbage||||||| It was painful, sad, and pathetic, and before I realized it, I was shedding tears in front of the cabbage. 痛苦、悲伤、可怜,我发现自己在白菜面前哭泣。

声 も 出さ ず 、 表情 も 変え ず 。 こえ||ださ||ひょうじょう||かえ| Without a sound, without changing my expression. ただ 写真 を 見つめ ながら 静かに 僕 は 泣いて いた 。 |しゃしん||みつめ||しずかに|ぼく||ないて| I was just quietly crying while staring at the photo.

心配 そうに キャベツ が そば に 寄って きて 、 膝 の 上 に ちょこんと 乗る 。 しんぱい|そう に|きゃべつ||||よって||ひざ||うえ|||のる ||||||||||||perched lightly| ||||||||||||ちょこんと| Anxiously, the cabbage comes close by and rides a little on his lap. 一棵憂心忡忡的高麗菜走到我身邊,在我腿上坐了一會兒。

その 温もり が 僕 の 体 に 伝わり 、 心 が 穏やかに なって いく 。 |ぬくもり||ぼく||からだ||つたわり|こころ||おだやかに|| |||||||conveyed|||gently|| |暖かさ||||||||||| That warmth spreads to my body, and my heart becomes calm. Ciepło jest przekazywane do mojego ciała, a moje serce staje się spokojne. 它的温暖传遍我的全身,我的心变得平静。

猫 と いう の は 大した もの だ 。 ねこ|||||たいした|| Cats are quite something. Os gatos são uma grande coisa.

いつも 僕 の 気持ち に は 反応 して くれ ない くせ に 、 本当に 辛い とき は こうして そば に いて くれる 。 |ぼく||きもち|||はんのう||||||ほんとうに|からい||||||| Even though they never respond to my feelings, they are truly by my side when I'm in real pain.

時間 と 同じ ように 、 猫 の 世界 に は 「 孤独 」 も 存在 し ない のだろう 。 じかん||おなじ||ねこ||せかい|||こどく||そんざい||| |||||||||loneliness||||| Just like time, there is no "loneliness" in the cat world.

ただ 「 自分 だけ の 時 」 と 「 自分 以外 も いる 時 」 |じぶん|||じ||じぶん|いがい|||じ Just "when you are alone" and "when you have something other than yourself" 这只是“当只有我一个人的时候”和“当除了我之外还有其他人的时候”。

だけ が 存在 する のだ 。 ||そんざい|| Only exists.

孤独 は 人間 だけ の 持ち物 な の かも しれ ない 。 こどく||にんげん|||もちもの||||| |||||belonging||||| |||||belonging||||| Loneliness may only be a possession of humans. Samotność może być własnością tylko ludzi.

だ けれども 。 However.

母さん の 笑顔 を 見 ながら 僕 は 思う 。 かあさん||えがお||み||ぼく||おもう

孤独 が ある から 僕ら に は 〝 ある 感情 〟 が ある 。 こどく||||ぼくら||||かんじょう|| We have 感情 some emotions か ら because we have loneliness.

」 「 それ は …… なんで ご ざる か ? 」 「 まあ 猫 に は 分から ない かも しれ ない けれど 、 人間 に は ある んだ 。 |ねこ|||わから||||||にんげん|||| 誰 か が 好き だったり 、 大切 だったり 、 と に かく 一緒に いたい と 思う 気持ち だ よ 」 だれ|||すき||たいせつ|||||いっしょに|い たい||おもう|きもち||

「 それ は いい もの で ご ざる か ?

」 「 うーん 。 まあ 面倒くさかったり 、 ときに は 邪魔 だったり も する のだ けれど 、 でも いい もの だ よ 。 |めんどうくさかったり|||じゃま|||||||||| |a hassle||||||||||||| It can be bothersome and sometimes annoying, but it 's good.

うん 、 とても い い もの な んだ 」

そう だ 。

僕ら に は 愛 と いう 感情 が ある 。 ぼくら|||あい|||かんじょう|| We have the emotion called love. 我们有一种情感,叫做爱。

この 母さん の 表情 を 愛 と 言わ ず に なん と 言う のだろう か 。 |かあさん||ひょうじょう||あい||いわ|||||いう|| What else can we call this mother's expression if not love?

時間 、 色 、 温度 、 孤独 、 そして 愛 。 じかん|いろ|おんど|こどく||あい Time, color, temperature, loneliness, and love. 时间、颜色、温度、孤独和爱。

人間 の 世界 に しか 存在 し ない もの たち 。 にんげん||せかい|||そんざい|||| Those that exist only in the human world. 人間 を 規制 し ながら も 、 人間 を 自由に する そのもの たち 。 にんげん||きせい||||にんげん||じゆうに||その もの| ||regulation||||||||| Those who regulate human beings but liberate them. そのもの たち こそ が 僕ら を 人間 たら しめて いる 。 その もの||||ぼくら||にんげん||| ||||||||makes| |||||||なら|| |||||||to|| That is what makes us human. São estas coisas que nos tornam humanos. 它們使我們成為人類。

そう 思った 瞬間 、 僕 の 耳 に カチコチ と いう 時計 の 音 が 飛びこんで きた 。 |おもった|しゅんかん|ぼく||みみ|||||とけい||おと||とびこんで| |||||||tick-tock|||||||suddenly entered| |||||||硬い音|||||||| ||moment||||||||||||| The moment I thought so, I heard the ticking of a clock coming into my ear. W chwili, gdy tak pomyślałem, do ucha dobiegł mi dźwięk tykającego zegara.

やはり 時計 は ない 。 |とけい|| やっぱり||| After all, there is no clock. W końcu nie ma zegara.

ただ 目 に は 見え ない けれども 、 確かに そこ に 僕 を 支えて いる 何 か が ある こと を 感じた 。 |め|||みえ|||たしかに|||ぼく||ささえて||なん||||||かんじた Although I can't see it, I definitely felt that there is something there supporting me. Jest po prostu niewidoczny, ale z pewnością czułem, że coś mnie wspierało.

無数の カチコチ と いう 音 が 、 この 世界 に 生きる ありとあらゆる 人間 の 心臓 の 音 の ように 聞こえて くる 。 むすうの||||おと|||せかい||いきる||にんげん||しんぞう||おと|||きこえて| ||||||||||あらゆる||||||||| Countless clicks sound like the sounds of every human heart living in this world.

回る ストップウォッチ の 秒針 。 まわる|||びょうしん |stopwatch||second hand |ストップウォッチ|| |stopwatch||second hand The second hand of the stopwatch is turning.

ボタン が 押さ れる 。 ぼたん||おさ| The button is pressed.

押さ れた の は 目覚まし時計 の ボタン 。 おさ||||めざましどけい||ぼたん The button that was pressed is the alarm clock button.

鳴り響く 音 。 なりひびく|おと resounding sound| resounding|

時 を 刻む 音 。 じ||きざむ|おと ||marking| ||to刻む| The sound that marks the time.

その 音 の 気配 に しばらく 僕 は 耳 を 傾ける 。 |おと||けはい|||ぼく||みみ||かたむける ||||||||||leaning towards For a while, I listen to the presence of that sound.

嫌な 予感 が する 。 いやな|よかん|| |premonition|| I have an unpleasant feeling.

「 がっかり した で 、 ご ざる か ? 失望||||| "Are you disappointed?

」 突然 背後 から 声 が 聞こえる 。 とつぜん|はいご||こえ||きこえる Suddenly a voice can be heard from behind. 驚いて 後ろ を 振り返る と アロハ が 立って いる 。 おどろいて|うしろ||ふりかえる||あろは||たって|

夜 の 海 を 描いた 不気味な 柄 の 黒い アロハシャツ を 着て 、 ニヤニヤ と 笑って いる 。 よ||うみ||えがいた|ぶきみな|え||くろい|||きて|||わらって| |||||eerie|||||||sneering||| |||||creepy|pattern||||||||| She is laughing grinning in a black aloha shirt with an eerie pattern depicting the sea at night.

「 お 代官 様 は もう すぐ 死ぬ で ご ざる か ? |だいかん|さま||||しぬ|||| "Do you want your representative to die soon? „Czy zastępca oficera wkrótce nie umiera?

」 「 笑え ない ジョーク です ね 」 わらえ||じょーく|| "It's a joke that can't laugh." „To zabawny żart, prawda?” 「 いやいや すみません !

なんか 思った より 魔法 の 効き目 が 続か なかった みたい っす ね 。 |おもった||まほう||ききめ||つづか|||| |||||||didn't last|||| |||||effect|||||| |||||effect|||||| It seems that the magical effect did not last longer than I thought.

もう 普通の 猫 に 戻っちゃ った ! |ふつうの|ねこ||もどっちゃ| ||||returned| I'm back to a normal cat! がっかり した で ご ざる か ? Are you disappointed? 」 「 やめて ください 」 「 いや ね 、 でも ちょうど 良かった です よ 」 ||||よかった||

そういう と アロハ は また ニヤリ と 笑う 。 ||あろは|||||わらう |||||ニヤリ||

いつか 見た 、 悪魔 的な 笑い 。 |みた|あくま|てきな|わらい The devilish smile I saw someday.

悪意 。 あくい malice Malice.

これ も また 人間 しか 持ち え ない 感情 。 |||にんげん||もち|||かんじょう This is also an emotion that only humans can possess.

「 次に 世界 から 消して もらう もの を 決めた んです 」 つぎに|せかい||けして||||きめた| "Next, I decided what to get removed from the world."

アロハ は 笑い ながら 続ける 。 あろは||わらい||つづける

息 が 苦しく なって くる 。 いき||くるしく||

想像 力 。 そうぞう|ちから Imagination. Imaginação .

人間 しか 持ち え ない 能力 。 にんげん||もち|||のうりょく A capability that only humans possess.

残酷な イメージ が 僕 の 脳 内 を かけめぐる 。 ざんこくな|いめーじ||ぼく||のう|うち|| ||||||||runs through ||||||||駆け巡る |||||brain|||to race Cruel images swirl within my brain. Okrutny obraz krąży w moim mózgu.

」 思わず 叫ぶ 。 おもわず|さけぶ Mimowolnie krzyczę. いや 、 僕 が 叫んだ ので は ない 。 |ぼく||さけんだ||| No, I didn't shout. Nie, nie dlatego, że płakałem.

僕 と 同じ 顔 を した 悪魔 が 叫んだ のだ 。 ぼく||おなじ|かお|||あくま||さけんだ| A demon with the same face as me shouted. Diabeł, który miał taką samą twarz jak ja, krzyczał.

「 って 叫び たい でしょう ? |さけび|| „Chcesz krzyczeć?

」 アロハ は 笑う 。 あろは||わらう Aloha się śmieje. Aloha cười. 弱々しく 、 膝 を ついて 。 よわよわしく|ひざ|| weakly||| 弱々しく||| weakly||| Weakly, kneeling. Słaby i klęczeć. 我無力地跪倒在地。

そして 悪魔 は 僕 に 告げた 。 |あくま||ぼく||つげた |||||told And the devil told me. I diabeł mi powiedział.