第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【5】
だい|ふた|しょう|かれ||だれ||あい||
Kapitel 2 Wen wollte er treffen? [5
Chapter 2 Who Did He Want to See? [5
Capítulo 2 ¿A quién quería conocer? [5
제2장 그는 누구를 만나고 싶었나? [5]【5】그는 누구를 만나고 싶었나?
Kapitel 2: Vem missade han [5]?
第 2 章 他想见谁?[5
刑事 たち は 了解 した と も し ない と も 答え ず に 帰った 。
けいじ|||りょうかい||||||||こたえ|||かえった
The detectives returned without answering with or without acknowledging.
自分 を 疑って いる ように は 見え なかった が 、 自分 の 将来 を 考えて くれて いる ように も 思え なかった 。
じぶん||うたがって||||みえ|||じぶん||しょうらい||かんがえて|||||おもえ|
It didn't seem like I was doubting myself, but I did not think I was thinking about my future.
刑事 に 告げた こと は 、 まったく の 真実 だった 。
けいじ||つげた|||||しんじつ|
|||||||truth|
What I told the detective was quite true.
ただ 、 真実 を 真実 と して 告げる の が 、 こんなに 難しい と は 思わ なかった 。
|しんじつ||しんじつ|||つげる||||むずかしい|||おもわ|
||||||||||difficult||||
However, I did not think it so difficult to tell the truth as the truth.
これ ならば 嘘 を つく ほう が よほど 簡単だ と 林 は 思った 。
||うそ||||||かんたんだ||りん||おもった
|||||||much|||||
Hayashi thought that it would be much easier to tell a lie if this was done.
とにかく 塾 へ 向かう んだ 。
|じゅく||むかう|
|cram school|||
Anyway, I'm going to the beach.
とにかく 真面目 に 働いて 、 もしも 万が一 の とき は 、 もう 二度と 過ち を 繰り返さ ない と 謝罪 する んだ 。
|まじめ||はたらいて||まんがいち|||||にどと|あやまち||くりかえさ|||しゃざい||
|||||||||||mistake|||||apology||
Anyway, I'm working seriously, and I apologize if I'm not sure I won't repeat my mistakes again.
それ に これ だけ は 誓って 言える 。
|||||ちかって|いえる
|||||swear|
And I swear I can only say this.
塾 に 通って くる 小学生 の 女の子 たち に 性 的な 興味 を 持った こと は ない 。
じゅく||かよって||しょうがくせい||おんなのこ|||せい|てきな|きょうみ||もった|||
||commuting||||||||||||||
I have never been sexually interested in primary school girls who come to school.
言葉 は 出て くる のだ が 、 座り込んだ 場所 から 立ち上がる こと が でき なかった 。
ことば||でて||||すわりこんだ|ばしょ||たちあがる||||
The words came out, but I couldn't get up from the place I sat down.
正確な 人数 は 教えて くれ なかった が 、 刑事 たち は すでに 彼女 と 関係 の あった 何 人 か の 男 たち に 面会 した と 言った 。
せいかくな|にんずう||おしえて||||けいじ||||かのじょ||かんけい|||なん|じん|||おとこ|||めんかい|||いった
accurate|number|||||||||||||||||||||||||
The exact number was not shown but the detectives said they had already met some men who had a relationship with her.
暇つぶし に 登録 した サイト で 知り合った 女 に とつぜん 死な れて 、 途方 に 暮れて いる 男 たち だ 。
ひまつぶし||とうろく||さいと||しりあった|おんな|||しな||とほう||くれて||おとこ||
killing time||||||||||||loss||at a loss||||
自分 も そう だ が 、 彼女 を 殺そう と 思って 会った ヤツ など 誰 も い なかった はずだ 。
じぶん|||||かのじょ||ころそう||おもって|あった|やつ||だれ||||
As I did, no one was supposed to kill her.
なのに 彼女 は 殺さ れた 。
|かのじょ||ころさ|
But she was killed.
娼婦 が 一 人 、 悪い 客 に 当たって 殺さ れた のだ と 思えば 、 少し は そこ に 紋切り型 の 物語 性 も 生まれる のだろう か 。
しょうふ||ひと|じん|わるい|きゃく||あたって|ころさ||||おもえば|すこし||||もんきりがた||ものがたり|せい||うまれる||
||||||||||||||||locative particle|stereotypical|||||||
If you think that a prostitute was killed by one of your bad customers, will a little bit of a crucifixive narrative also be born there?
でも 殺さ れた の は 娼婦 で は ない 。
|ころさ||||しょうふ|||
But it is not a prostitute that was killed.
隠して は いた が 、 地道に 生命 保険 の 勧誘 を する 一 人 の 若い 女 だ 。
かくして||||じみちに|せいめい|ほけん||かんゆう|||ひと|じん||わかい|おんな|
hiding||||diligently||||||||||||
Although hidden, it is a young woman who solicits life insurance on a steady basis.
娼婦 の ふり を した 、 娼婦 で は ない 女 な のだ 。
しょうふ|||||しょうふ||||おんな||
|||||prostitute||||||
It is a woman who is not a prostitute, who pretends to be a prostitute.
ラブ ホテル の 狭い 客室 で 、「 から だ 、 柔らかい ね 」 と 林 が 褒める と 、 佳乃 は 下着 姿 の まま 、 自慢げに 前 屈して 見せた 。
らぶ|ほてる||せまい|きゃくしつ||||やわらかい|||りん||ほめる||よしの||したぎ|すがた|||じまんげに|ぜん|くっして|みせた
||||||||soft|||||praise||||||||proudly||bent|
In a small room at a love hotel, when he gave up, saying, “Body, soft,” Ayano kept showing his underwear and bowed forward.
「 新 体操 部 やった けん 、 前 は もっと 柔らかかった っちゃ けど 」
しん|たいそう|ぶ|||ぜん|||やわらかかった||
|rhythmic gymnastics|||||||soft||
"The new gymnastics club I did, but it was softer than before."
白い 肌 に 背骨 が 浮き出て いた 。
しろい|はだ||せぼね||うきでて|
|skin||spine||was sticking out|
The spine was raised on the white skin.
こちら に 向け られた 笑顔 は 、 二 カ月 後 に 殺さ れる こと など 知る 由 も なかった 。
||むけ||えがお||ふた|かげつ|あと||ころさ||||しる|よし||
|||||||||||||||reason||
同日 の 午前 中 、 福岡 から 百 キロ ほど 離れた 長崎 市 郊 外 で 、 清水 祐一 の 祖母 、 房枝 は 、 週 に 一 度 漁港 へ やって くる 行商 トラック で 買って きた ばかり の 野菜 を 、 痛む 膝 を 押さえ ながら 冷蔵 庫 に 詰めて いた 。
どうじつ||ごぜん|なか|ふくおか||ひゃく|きろ||はなれた|ながさき|し|こう|がい||きよみず|ゆういち||そぼ|ふさえ||しゅう||ひと|たび|ぎょこう||||ぎょうしょう|とらっく||かって||||やさい||いたむ|ひざ||おさえ||れいぞう|こ||つめて|
same day||||||||||||outskirts||||||grandmother|||||||||||traveling salesmanship|||||||vegetables|||||press||||||
茄子 が 安かった ので 漬物 に でも しよう と 十 本 も 買って きた が 、 考えて みれば 茄子 の 漬物 を 祐一 が あまり 好きで は ない こと を 、 今に なって 思い出し 、 後悔 して いた 。
なす||やすかった||つけもの|||||じゅう|ほん||かって|||かんがえて||なす||つけもの||ゆういち|||すきで|||||いまに||おもいだし|こうかい||
eggplant||cheap||pickles||||||||||||||||||||||||||||||
千 円 くらい で 済む だろう と 思って いた ところ 、 総額 で 1630 円 に なった 。
せん|えん|||すむ|||おもって|||そうがく||えん||
||||manage||||||total|at|||
30 円 は まけて くれた が 、 それ でも 来週 まで 郵便 局 に 下ろし に いか なくて いい と 思って いた 財布 の 中身 が 心細く なって いる 。
えん|||||||らいしゅう||ゆうびん|きょく||おろし||||||おもって||さいふ||なかみ||こころぼそく||
||discounted|||||||post|||||||||||||contents||anxious||
この 日 も 、 房枝 は バス で 市 内 の 病院 に 入院 して いる 夫 、 勝治 を 見舞い に 行く 予定 だった 。
|ひ||ふさえ||ばす||し|うち||びょういん||にゅういん|||おっと|かつじ||みまい||いく|よてい|
||||||||||||||||||visit||||
行けば 邪 慳 に する くせ に 、 行か ない と 文句 を 言う ので 、 必ず 行か なければ なら ず 、 保険 で 入院 費 は 無料 と は いえ 、 毎日 の バス 代 まで は 節約 しようがない 。
いけば|じゃ|けん|||||いか|||もんく||いう||かならず|いか||||ほけん||にゅういん|ひ||むりょう||||まいにち||ばす|だい|||せつやく|
|evil|stingy|||||||||||||||||insurance|||||||||||||||saving|
近所 の 停留所 から 長崎 駅前 まで 片道 310 円 。
きんじょ||ていりゅうじょ||ながさき|えきまえ||かたみち|えん
neighborhood||bus stop||||||
駅前 で 乗り換えて 病院 前 まで が 180 円 。
えきまえ||のりかえて|びょういん|ぜん|||えん
||changing|||||
毎日 往復 980 円 の 出費 に なる 。
まいにち|おうふく|えん||しゅっぴ||
|round trip|||expense||
一 週間 の 野菜 代 を 千 円 で 抑え たい 房枝 に は 、 毎日 980 円 と いう バス 代 は 、 上げ 膳 据 膳 の 温泉 旅館 で 贅沢 を して いる ような 後ろめた さ が ある 。
ひと|しゅうかん||やさい|だい||せん|えん||おさえ||ふさえ|||まいにち|えん|||ばす|だい||あげ|ぜん|すえ|ぜん||おんせん|りょかん||ぜいたく|||||うしろめた|||
|||||||||keep||||||||||||increased|meal|excuse|||hot spring|||luxury|||||guilt|||
野菜 を 冷蔵 庫 に しまった あと 、 房枝 は プラスチック 容器 から 梅干し を 一 つ つまんで 口 に 入れた 。
やさい||れいぞう|こ||||ふさえ||ぷらすちっく|ようき||うめぼし||ひと|||くち||いれた
|||||||stem|||container||pickled plum|||||||
「 おばちゃん !
aunt
おる ね ?
聞き覚え の ある 男 の 声 が 玄関 から 聞こえた の は その とき だった 。
ききおぼえ|||おとこ||こえ||げんかん||きこえた|||||
|||||||entrance|||||||
梅干し を しゃぶり ながら 廊下 へ 出る と 、 駐在 所 の 巡査 と 見知らぬ 男 が 立って いる 。
うめぼし||||ろうか||でる||ちゅうざい|しょ||じゅんさ||みしらぬ|おとこ||たって|
||sucking||||||police box|||police officer||||||
「 あら 、 今ごろ 、 朝 メシ ね ?
|いまごろ|あさ|めし|
人なつこい 笑顔 で 小 太り の 巡査 が 中 へ 入って くる 。
ひとなつこい|えがお||しょう|ふとり||じゅんさ||なか||はいって|
friendly|||||||||||
房枝 が 口 から 梅干し の 種 を 取り出して いる と 、「 さっき 聞いた けど 、 また じいちゃん が 入院 した って ?
ふさえ||くち||うめぼし||しゅ||とりだして||||きいた|||||にゅういん||
||||||seed|||||||||||||
」 と 巡査 が 言う 。
|じゅんさ||いう
|police officer||
房枝 は 種 を 手のひら に 隠し ながら 、 巡査 の 横 に 立つ 背広 姿 の 男 に 目 を 向けた 。
ふさえ||しゅ||てのひら||かくし||じゅんさ||よこ||たつ|せびろ|すがた||おとこ||め||むけた
|||||||||||||suit|||||||
日 に 灼 けた 肌 は 硬 そうで 、 だ ら り と 垂らした 手 の 指 が やけに 短い 。
ひ||しゃく||はだ||かた|そう で|||||たらした|て||ゆび|||みじかい
||burned||||hard||is||||dangled|||||unusually|
「 こちら 、 県警 の 早田 さん 。
|けんけい||はやた|
|prefectural police||Hayata|
ちょっと 祐一 に 訊 きた か こと の ある って 」
|ゆういち||じん||||||
「 祐一 に です か ?
ゆういち|||
そう 訊 き 返す と 、 口 の 中 に ふわ っと 梅 の 香り が 広がった 。
|じん||かえす||くち||なか||||うめ||かおり||ひろがった
|||||||||soft||plum||||
日ごろ 交番 で 茶 飲み 話 を する とき は 、 気 に した こと も ない のだ が 、 巡査 の 腰 に ある 拳銃 が 房枝 の 目 に 飛び込んで くる 。
ひごろ|こうばん||ちゃ|のみ|はなし|||||き||||||||じゅんさ||こし|||けんじゅう||ふさえ||め||とびこんで|
|police box||tea|||||||||||||||||waist|||gun|||||||
「 この前 の 日曜日 の 夜 、 祐一 は ど っか に 出かけ とった と ね ?
この まえ||にちようび||よ|ゆういち|||||でかけ|||
上がり 框 に 座り込んだ 巡査 は 、 無理に からだ を 捻って 訊 いて きた 。
あがり|かまち||すわりこんだ|じゅんさ||むりに|||ねじって|じん||
|frame||||||||twisting|||
横 に 立つ 刑事 が 慌てて その 肩 を 押さえ 、「 質問 は 私 が する けん 」 と 厳しい 顔 で 戒める 。
よこ||たつ|けいじ||あわてて||かた||おさえ|しつもん||わたくし|||||きびしい|かお||いましめる
|||||||||||||||||stern|||warn
房枝 は 上がり 框 に 座り込んだ 巡査 に 、 まるで 寄り添う ように 正座 した 。
ふさえ||あがり|かまち||すわりこんだ|じゅんさ|||よりそう||せいざ|
||finished|doorstep||||||snuggled up||sitting formally|
「 いや ぁ 、 なんか ね 、 福岡 の 三瀬 峠 で 殺さ れた 女の子 が 祐一 の 友達 らしかった い 」
||||ふくおか||みつせ|とうげ||ころさ||おんなのこ||ゆういち||ともだち||
戒め られた に も かかわら ず 、 巡査 は 房枝 に 話し 続けた 。
いましめ||||||じゅんさ||ふさえ||はなし|つづけた
warning|||||||||||
「 は ぁ ?
祐一 の 友達 が 殺さ れた って ?
ゆういち||ともだち||ころさ||
正座 した まま 、 房枝 は 後ろ へ 反り返った 。
せいざ|||ふさえ||うしろ||そりかえった
sitting with legs folded|||||||arched
その 瞬間 、 膝 が 痛んで 、「 あた たた 」 と 声 を 上げる 。
|しゅんかん|ひざ||いたんで||||こえ||あげる
||knee||hurt|ouch|||||
慌てた 巡査 が 房枝 の 腕 を 取り 、「 ほら 、 また 立て ん ごと なる よ 」 と 引き起こして くれる 。
あわてた|じゅんさ||ふさえ||うで||とり|||たて||||||ひきおこして|
flustered|||||arm|||||||||||helped to bring|
「 祐一 の 友達 って いう たら 、 中学 の とき の やろ か ?
ゆういち||ともだち||||ちゅうがく|||||
と 房枝 は 訊 いた 。
|ふさえ||じん|
高校 が 工業 高校 だった ので 、 だ と したら 中学 の ころ だ と 思い 、 と すれば 、 この 辺 の 娘 さん が 殺さ れた こと に なる 。
こうこう||こうぎょう|こうこう||||||ちゅうがく|||||おもい||||ほとり||むすめ|||ころさ||||
||||||||||||||||||area||daughter|||||||
「 いや 、 中学 じゃ なくて 、 最近 の 友達 やろ 」
|ちゅうがく|||さいきん||ともだち|
「 最近 の ?
さいきん|
房枝 は 巡査 の 言葉 に 、 素っ頓狂 な 声 を 上げた 。
ふさえ||じゅんさ||ことば||すっとんきょう||こえ||あげた
||||||incoherent||||
我が 孫 ながら 、 祐一 に は 心配に なる ほど 女 の 影 が なかった 。
わが|まご||ゆういち|||しんぱいに|||おんな||かげ||
|grandchild||||||||||||
女 の 影 どころ か 、 親しく して いる 男 の 友達 も 一 人 か 、 二 人 と 数 が 知れて いる 。
おんな||かげ|||したしく|||おとこ||ともだち||ひと|じん||ふた|じん||すう||しれて|
口 の 軽い 巡査 に うんざり した ように 、 背広 姿 の 刑事 が 、「 質問 は 私 が する って 言い よる やろう が 」 と 顔 を しかめた 。
くち||かるい|じゅんさ|||||せびろ|すがた||けいじ||しつもん||わたくし||||いい|||||かお||
||talkative|||fed up|||suit|||detective|||||||||||||||
「 ちょっと お 訊 き し ます けど 、 この 前 の 日曜日 です ね ……」
||じん||||||ぜん||にちようび||
威圧 的な 声 で 刑事 に 訊 かれ 、 房枝 は 聞き 終わる の も 待た ず に 、「 日曜日 は 、 家 に おった と 思う と です けど ね 」 と 答えた 。
いあつ|てきな|こえ||けいじ||じん||ふさえ||きき|おわる|||また|||にちようび||いえ||||おもう||||||こたえた
intimidating|||||||||||||||||||||||||||||
「 は ぁ 、 やっぱり おった と ね 」 と 、 巡査 が ほっと した ように また 口 を 挟んで くる 。
|||||||じゅんさ||||||くち||はさんで|
|||||||||relieved||||||interrupt|
「 いや 、 ここ に 来る 前 に 駐在 所 で 岡崎 の ばあちゃん と 会う た と さ 。
|||くる|ぜん||ちゅうざい|しょ||おかざき||||あう|||
祐一 が 出かける と したら 、 いつも 車 やろ ?
ゆういち||でかける||||くるま|
岡崎 の ばあちゃん ち は 駐車 場 の 横 やけん 、 車 が 出て 行く 音 なり 、 帰って くる 音 なり 、 全部 聞こえる って 、 前 から よう 言い よろう が 。
おかざき|||||ちゅうしゃ|じょう||よこ||くるま||でて|いく|おと||かえって||おと||ぜんぶ|きこえる||ぜん|||いい||
||||||||side|||||||||||||||||||probably|
ばっ てん 、 岡崎 の ばあちゃん に 訊 いたら 、 日曜日 、 祐一 の 車 は ずっと あった って 言う けんさ 」
||おかざき||||じん||にちようび|ゆういち||くるま|||||いう|
捲し立てる 巡査 に 、 房枝 も 刑事 も 口 を 挟め なかった 。
まくしたてる|じゅんさ||ふさえ||けいじ||くち||はさめ|
brought up|||||||||interject|
厳しかった 刑事 の 目 に 、 少し 優しい 色 が 滲 む の を 房枝 は 見た 。
きびしかった|けいじ||め||すこし|やさしい|いろ||しん||||ふさえ||みた
strict|||||||||blur||||||
「 あんた は 黙 っと けって 言う て も 、 きかん と や ねぇ 」
||もく|||いう||||||
||quiet|||||||||
刑事 が お 喋り な 巡査 を 注意 する 。
けいじ|||しゃべり||じゅんさ||ちゅうい|
ただ 、 さっき まで と は 違い 、 その 声 に どこ か 親し み が 感じ られる 。
|||||ちがい||こえ||||したし|||かんじ|
|||||||||||familiar||||
「 私 も じいちゃん も 早う 寝て しまう けん 、 よう 分から ん と です けど 、 日曜日 、 祐一 は 部屋 に おった ような 気 が し ます けど ね 」 と 房枝 は 言った 。
わたくし||||はやう|ねて||||わから|||||にちようび|ゆういち||へや||||き|||||||ふさえ||いった
||||soon||||||||||||||||||||||||||
「 岡崎 の ばあちゃん が そう 言う て 、 一緒に 住 ん ど る ばあちゃん も そう 言う なら 間違い なか やろ 」
おかざき|||||いう||いっしょに|じゅう|||||||いう||まちがい||
巡査 が 房枝 で は なく 、 刑事 に 伝える ように 繰り返す 。
じゅんさ||ふさえ||||けいじ||つたえる||くりかえす
||||||||||repeat
「 いや 、 実は です ね ……」
|じつは||
巡査 の 言葉 を 引き継ぐ ように 、 やっと 刑事 が 話し 始めた 。
じゅんさ||ことば||ひきつぐ|||けいじ||はなし|はじめた
||||take over||||||
房枝 は 手のひら に ある 梅干し の 種 が 気 に なって 仕方なかった 。
ふさえ||てのひら|||うめぼし||しゅ||き|||しかたなかった
|||||||seed|||||
「 福岡 の 三瀬 峠 で 見つかった 女性 の 携帯 の 履歴 に お宅 の お 孫 さん の 番号 が あった と です よ 」
ふくおか||みつせ|とうげ||みつかった|じょせい||けいたい||りれき||おたく|||まご|||ばんごう|||||
||||||||||||your|||||||||||
「 祐一 の ?
ゆういち|
「 お 孫 さん の だけ じゃ なくて 、 その 女性 は 交友 関係 が 広くて です ね 」
|まご|||||||じょせい||こうゆう|かんけい||ひろくて||
||||||||||friendship|||||
「 その 女の子 は 、 この 辺 の 子 です か ?
|おんなのこ|||へん||こ||
||||area||||
「 いやいや 、 長崎 じゃ なくて 福岡 の 博多 の 人 でして ね 」
|ながさき|||ふくおか||はかた||じん||
reluctantly||||||||||
「 博多 ?
はかた
祐一 は 博多 に 友達 の おった と ばい ねぇ 。
ゆういち||はかた||ともだち|||||
||||||||right|
ぜんぜん 知ら ん やった 」
|しら||
丁寧に 説明 する と 、 いちいち 言葉 が 返って くる と 思った の か 、 そこ から 刑事 は 一気に 事情 を 説明 した 。
ていねいに|せつめい||||ことば||かえって|||おもった|||||けいじ||いっきに|じじょう||せつめい|
||||one by one||||||||||||||situation|||
すでに 祐一 が その 晩 、 家 に いた こと に なって いた ので 、 どちら か と いう と 、 ふい の 訪問 を 謝罪 する ような 話し 方 だった 。
|ゆういち|||ばん|いえ|||||||||||||||ほうもん||しゃざい|||はなし|かた|
||||||||||||||||||suddenly||visit||apology|||||
亡くなった 女性 は 石橋 佳乃 と いう 二十一 歳 の 女性 で 、 博多 で 保険 の 外交 員 を やって いる らしい 。
なくなった|じょせい||いしばし|よしの|||にじゅういち|さい||じょせい||はかた||ほけん||がいこう|いん||||
地元 の 友人 、 同僚 、 遊び 仲間 と かなり 顔 の 広い 女の子 で 、 事件 前 の 一 週間 だけ を 見て も 、 五十 人 近い 相手 と メール や 電話 の やりとり を して いる 。
じもと||ゆうじん|どうりょう|あそび|なかま|||かお||ひろい|おんなのこ||じけん|ぜん||ひと|しゅうかん|||みて||ごじゅう|じん|ちかい|あいて||めーる||でんわ|||||
その 中 に 祐一 も 入って いる らしい 。
|なか||ゆういち||はいって||
「 最後に お 孫 さん が メール を 出した の は 事件 の 四 日 前 、 逆に その 女性 が 祐一 くん に 最後 の メール を 送った の が その 翌日 です ね 。
さいごに||まご|||めーる||だした|||じけん||よっ|ひ|ぜん|ぎゃくに||じょせい||ゆういち|||さいご||めーる||おくった||||よくじつ||
||||||||||||||||||||||||||||||following day||
ただ 、 その あと に も 十 人 近く も 彼女 と 連絡 を 取り合って る 相手 が おる んです よ 」
|||||じゅう|じん|ちかく||かのじょ||れんらく||とりあって||あいて||||
|||||||||||||communicating||||||
房枝 は 刑事 の 話 を 訊 き ながら 、 殺さ れた と いう 若い 娘 の 姿 を 想像 した 。
ふさえ||けいじ||はなし||じん|||ころさ||||わかい|むすめ||すがた||そうぞう|
交友 関係 が 広い と 聞いた だけ で 、 祐一 と は 縁遠い ような 気 が して なら ない 。
こうゆう|かんけい||ひろい||きいた|||ゆういち|||えんどおい||き||||
friendship|||||||||||distant||||||
恐ろしい 事件 が 起こった の は 事実 な のだろう が 、 どうしても 祐一 と それ が 結びつか ない 。
おそろしい|じけん||おこった|||じじつ|||||ゆういち||||むすびつか|
|incident||||||||||||||connected|
刑事 の 説明 が 一 通り 終わった とき 、 房枝 は ぼんやり と 憲夫 の 言葉 を 思い出して いた 。
けいじ||せつめい||ひと|とおり|おわった||ふさえ||||のりお||ことば||おもいだして|
||||||||||absentmindedly||Norio|||||
事件 の あった 翌日 、 祐一 は 二日酔い で 現場 へ 向かう 途中 、 とつぜん 吐いた と 言った 。
じけん|||よくじつ|ゆういち||ふつかよい||げんば||むかう|とちゅう||はいた||いった
房枝 の 中 で 何 か が 繋がった 。
ふさえ||なか||なん|||つながった
|||||||connected
あの 朝 、 祐一 は この 女性 が 殺さ れた こと を テレビ か 何 か で 、 すでに 知っていた のだ 。
|あさ|ゆういち|||じょせい||ころさ||||てれび||なん||||しっていた|
知人 を 失った 悲しみ が 、 吐き気 と して 現れた のだ 。
ちじん||うしなった|かなしみ||はきけ|||あらわれた|
acquaintance|||||||||
これ が 、 二十 年 近く 祐一 を 育てて きた 房枝 の 直感 だった 。
||にじゅう|とし|ちかく|ゆういち||そだてて||ふさえ||ちょっかん|
|||||||||||intuition|
あまり 時間 が ない らしく 、 刑事 は 事情 を 説明 し 終える と 、「 ま ぁ 、 とにかく 、 おばあ ちゃん は 心配 せ ん でも よ かけ ん ね 」 と 優しく 声 を かけて きた 。
|じかん||||けいじ||じじょう||せつめい||おえる||||||||しんぱい|||||||||やさしく|こえ|||
|||||||||||finished|||||||||||||||||gently||||
心配 など して い なかった が 、 房枝 は 、「 そう です か 」 と 神妙に 頷いた 。
しんぱい||||||ふさえ||||||しんみょうに|うなずいた
||||||||||||seriously|nodded
「 祐一 くん が 仕事 から 戻って くる の は 何時ごろ やろ か ?
ゆういち|||しごと||もどって||||いつごろ||
刑事 に 訊 かれ 、「 いつも は 六 時 半 ぐらい です けど 」 と 房枝 は 答えた 。
けいじ||じん||||むっ|じ|はん|||||ふさえ||こたえた
「 それ じゃ 、 もし また 何 か あったら 連絡 し ます けん 。
||||なん|||れんらく|||
||||||||||so
今日 の ところ は この 辺 で 」
きょう|||||ほとり|
|||||area|
刑事 に そう 言わ れ 、 房枝 は とりあえず 立ち上がる と 、「 ご 苦労 さん でした 」 と 頭 を 下げた 。
けいじ|||いわ||ふさえ|||たちあがる|||くろう||||あたま||さげた
|||||||||||||||head||
口 で は また 連絡 する と 言う が 、 刑事 に その 気 は な さ そうだった 。
くち||||れんらく|||いう||けいじ|||き||||そう だった
刑事 を 見送り 、 また 上がり 框 に 座り込んだ 近所 の 巡査 が 、「 いや ぁ 、 びっくり した やろ ?
けいじ||みおくり||あがり|かまち||すわりこんだ|きんじょ||じゅんさ||||||
|||||doorstep|||||||||||
」 と おどけた 顔 を して 見せる 。
||かお|||みせる
|joking||||
「 俺 も 、 最初に 祐一 が 参考人 って 聞いた とき に は 腰 抜かす か と 思う たよ 。
おれ||さいしょに|ゆういち||さんこうにん||きいた||||こし|ぬかす|||おもう|
|||||person providing information|||||||to give out||||I heard
ただ 、 ちょうど その 電話 を 受けた とき に 、 岡崎 の ばあさん が 駐在 所 に おった けん 、 車 の 事 を 訊 いて みたら 、『 日曜日 、 祐一 は 車 出し とら ん 』 って 言う やろ 。
|||でんわ||うけた|||おかざき||||ちゅうざい|しょ||||くるま||こと||じん|||にちようび|ゆういち||くるま|だし||||いう|
||||||||||||||||so|||||||||||||||||
それ で すぐ 安心 した っさ 。
|||あんしん||
|||||particle
いや 、 実は ね 、 ここ だけ の 話 、 もう 犯人 は 分 か っと る らしい もん ね 。
|じつは|||||はなし||はんにん||ぶん||||||
ただ 、 ま ぁ 、 一応 、 確認 くらい は せ ん と いかんの やろ 」
|||いちおう|かくにん|||||||
||||confirmation||||||important|
「 あら 、 もう 犯人 は 分 か っと る と ?
||はんにん||ぶん||||
房枝 は 大げさに ほっと して 見せ 、「 祐一 が 博多 の 女の子 と 仲良し なんて 、 ぜんぜん ピンと こ ん もん ねぇ 」 と 付け加えた 。
ふさえ||おおげさに|||みせ|ゆういち||はかた||おんなのこ||なかよし|||ぴんと||||||つけくわえた
|||||||||||||||making sense||||||added
「 ま ぁ 、 祐一 も 年頃 の 男 やけん 、 仕方ない さ 。
||ゆういち||としごろ||おとこ||しかたない|
||||age|||||
その 女の子 は どうも 出会い 系 サイト で いろんな 人 と 知り合う とった よう や もん ね 」
|おんなのこ|||であい|けい|さいと|||じん||しりあう|||||
「 出会い 系 っちゃ 何 ね ?
であい|けい||なん|
「 ま ぁ 、 簡単に 言う たら 、 文通 相手 の ような もん さ 」
||かんたんに|いう||ぶんつう|あいて||||
|||||pen pal|||||
「 へ ぇ 、 祐一 が 博多 の 娘 さん と 文通 し とった と は 知ら ん かった 」
||ゆういち||はかた||むすめ|||ぶんつう|||||しら||
房枝 は 手のひら に 梅干し の 種 が ある こと を 思い出し 、 やっと 外 へ 投げ捨てた 。
ふさえ||てのひら||うめぼし||しゅ|||||おもいだし||がい||なげすてた
branch|||||||||||||||threw away