第 三 章 彼女 は 誰 に 出会った か?【3】
だい|みっ|しょう|かのじょ||だれ||であった|
ordinal number|three|chapter|she||who||met|
Kapitel 3: Wen hat sie getroffen? [3
Chapter 3 Who did she meet? [3
Capítulo 3: ¿A quién conoció? [3
제3장 그녀는 누구를 만났을까? (3)【제3장】그녀는 누구를 만났을까?
Kapitel 3: Vem träffade hon [3]?
第 3 章:她遇见了谁?[3
日 が 暮れて 暗く なれば 、 蛍光 灯 を つける 。
ひ||くれて|くらく||けいこう|とう||
day|(subject marker)|dusk|dark|if it becomes|fluorescent|light||turn on
||||||||켜다
日ごろ は 当たり前に やって いる こと が 、 石橋 佳男 に は ひどく 特別な こと に 思えた 。
ひごろ||あたりまえに|||||いしばし|よしお||||とくべつな|||おもえた
usually||naturally|doing||||stone bridge|Yoshio||topic marker|||||
일상적으로|||||||||||||||생각되었다
暗く なれば 、 明かり を つける 。
くらく||あかり||
||light||
簡単な こと だ 。
かんたんな||
ただ 、 この 簡単な こと を する ため に 、 人 は 多く の こと を 感じて いる のだ 。
||かんたんな||||||じん||おおく||||かんじて||
まずは 目 で 暗く なった こと を 感じる 。
|め||くらく||||かんじる
暗く なれば 不便だ と 思う 。
くらく||ふべんだ||おもう
||inconvenient||
明るく すれば 不便で なく なる 。
あかるく||ふべんで||
||inconvenient||
明るく する に は 蛍光 灯 を つければ いい 。
あかるく||||けいこう|とう|||
|||||||if you turn on|
蛍光 灯 を つける に は 、 畳 から 立ち上がり 、 紐 を 引っ張れば いい 。
けいこう|とう|||||たたみ||たちあがり|ひも||ひっぱれば|
fluorescent||||||tatami|||string||pull|
|||||||||||pull|
あの 紐 さえ 引っ張れば 、 ここ が 、 暗く 、 不便な 場所 で は なく なる 。
|ひも||ひっぱれば|||くらく|ふべんな|ばしょ||||
|||||||inconvenient|||||
佳男 は 薄暗い 部屋 で 、 じっと 頭上 の 紐 を 眺めた 。
よしお||うすぐらい|へや|||ずじょう||ひも||ながめた
||||||above||||
立ち上がれば 済む こと な のに 、 蛍光 灯 の 紐 が とても 遠かった 。
たちあがれば|すむ||||けいこう|とう||ひも|||とおかった
stood up|finished||||||||||
実際 、 部屋 は 暗かった 。
じっさい|へや||くらかった
actually|||
ただ 、 何 を やる わけで も ない 。
|なん|||||
暗くて も 不便 は 感じ なかった 。
くらくて||ふべん||かんじ|
||inconvenient|||
不便で なければ 蛍光 灯 を つける こと も ない 。
ふべんで||けいこう|とう|||||
蛍光 灯 を つけ ない の なら 、 何も 立ち上がる こと は ない 。
けいこう|とう||||||なにも|たちあがる|||
結局 、 佳男 は また 畳 に ご ろん と 横 に なった 。
けっきょく|よしお|||たたみ|||||よこ||
|Yoshio|||||honorable|thud||||
部屋 に は 線香 の 匂い が こもって いる 。
へや|||せんこう||におい|||
|||incense|||||
つい さっき 、「 少し は 窓 開けたら どう や ?
||すこし||まど|あけたら||
just|||||||
」 と 、 佳男 は 妻 の 里子 に 言った 。
|よしお||つま||さとご||いった
「…… はい 」
朝 から 仏壇 の 前 に 座り込んで いる 里子 は 返事 を した が 、 あれ から すでに 十 数 分 、 座布団 から 立ち上がる 気配 は ない 。
あさ||ぶつだん||ぜん||すわりこんで||さとご||へんじ|||||||じゅう|すう|ぶん|ざぶとん||たちあがる|けはい||
morning||Buddhist altar||||||Satoko||||||||||||cushion|||sign||
薄暗い 部屋 の 向こう に 、 同じく 明かり の ついて いない 理容 店 の 店 内 が 見える 。
うすぐらい|へや||むこう||おなじく|あかり||||りよう|てん||てん|うち||みえる
dim||||||||||barber||||||
表 を 走る トラック の 風圧 が 、 ときどき 薄い ドア を 揺らす 。
ひょう||はしる|とらっく||ふうあつ|||うすい|どあ||ゆらす
hood|||||air pressure||||||shake
耳 を 澄ませば 、 線香 や 蝋燭 が 燃える 音 まで 聞こえて くる 。
みみ||すませば|せんこう||ろうそく||もえる|おと||きこえて|
||listen|incense||candle||||||will come
一 人 娘 である 佳乃 の 通夜 と 葬式 を 終わら せて 、 もう 何 日 くらい 経った の か 。
ひと|じん|むすめ||よしの||つや||そうしき||おわら|||なん|ひ||たった||
||||||wake service||||finished||||||passed||
||||||funeral vigil||||||||||||
つい さっき 泣き叫ぶ 里子 を 連れて 葬儀 場 から 戻って きた ような 気 も する し 、 もう 半年 も 前 に 佳乃 に 別れ を 告げた ような 気 も する 。
||なきさけぶ|さとご||つれて|そうぎ|じょう||もどって|||き|||||はんとし||ぜん||よしの||わかれ||つげた||き||
||screaming|foster child|||funeral|||||||||||||||||||told goodbye||||
筑後 川 沿い の メモリアルホール で の 葬儀 に は 多く の 人 たち が 集まった 。
ちくご|かわ|ぞい|||||そうぎ|||おおく||じん|||あつまった
Chikugo||||memorial hall|||funeral||||||||
親類 縁者 、 ご 近所 さん 、 佳男 と 里子 の 昔 から の 友人 たち も 競って 手伝い を して くれた 。
しんるい|えんじゃ||きんじょ||よしお||さとご||むかし|||ゆうじん|||きそって|てつだい|||
relatives|relatives||||handsome man||||||||||eagerly||||
relatives|relatives||||||||||||||競って||||
もちろん 佳乃 本人 の 同級 生 たち や 同僚 たち も 来て くれた 。
|よしの|ほんにん||どうきゅう|せい|||どうりょう|||きて|
最後 の 夜 まで 佳乃 と 一緒だった と いう 同僚 二 人 は 、 献花 の とき 、 冷たく なった 佳乃 の 顔 に 触れ ながら 、「 ごめん ねぇ 。
さいご||よ||よしの||いっしょだった|||どうりょう|ふた|じん||けんか|||つめたく||よしの||かお||ふれ|||
||||||together with|||||||offering flowers|||||||||touched|||
|||||||||||||献花||||||||||||
ごめん ねぇ 。
一 人 で 行か せて 、 ごめん ねぇ 」 と 周囲 も 気 に せ ず 号泣 して いた 。
ひと|じん||いか|||||しゅうい||き||||ごうきゅう||
||||||||||||||crying loudly||
||||||||||||||大泣き||
しかし 、 みんな 佳乃 の ため に 集まって いる はずな のに 、 誰 も 佳乃 の 話 を し なかった 。
||よしの||||あつまって||||だれ||よしの||はなし|||
佳乃 が なぜ こんな 姿 に なった の か 、 誰 も 口 に しよう と し なかった 。
よしの||||すがた|||||だれ||くち|||||
メモリアルホール の 外 に は テレビ カメラ が 何 台 も 来て いた 。
||がい|||てれび|かめら||なん|だい||きて|
もちろん 警察 も おり 、 捜査 状況 を 探ろう と する レポーター たち と の 会話 が 、 慰問 客 たち の 口 から 口 へ と 伝わって いた 。
|けいさつ|||そうさ|じょうきょう||さぐろう|||れぽーたー||||かいわ||いもん|きゃく|||くち||くち|||つたわって|
||||investigation|situation||trying to find|||||||||condolences||||||||||
|||||||探る|||||||||||||||||||
その 夜 、 佳乃 と 待ち合わせ を して いた と いう 大学生 は 、 未 だ 行方 が 分から なかった 。
|よ|よしの||まちあわせ||||||だいがくせい||み||ゆくえ||わから|
断定 は でき ない が 、 逃走 して いる のならば 、 彼 が 犯人 に 違いない だろう と 言う 警官 も いた 。
だんてい|||||とうそう||||かれ||はんにん||ちがいない|||いう|けいかん||
assertion|||||escape|||if|||||||||police officer||
「 大学生 一 人 、 捕まえ らん で 、 何 が 警察 か !
だいがくせい|ひと|じん|つかまえ|||なん||けいさつ|
|||catch||||||
佳男 は 涙声 で 怒鳴った 。
よしお||なみだごえ||どなった
こんな ところ で 線香 など 上げて いないで 、 もっと 必死に 探して くれ !
|||せんこう||あげて|い ないで||ひっしに|さがして|
|||incense|||without||desperately||
と 行き場 の ない 怒り に からだ を 震わせた 。
|ゆきば|||いかり||||ふるわせた
|place to go|||||||shook
通夜 の 晩 、 岡山 から 駆けつけて くれた 大 叔母 たち に 、「 きつ か やろう けど 、 少し は 眠ら ん と いけん よ 」 と 諭されて 、 会場 の 控え室 に 布団 を 敷いて もらった 。
つや||ばん|おかやま||かけつけて||だい|おば|||||||すこし||ねむら||||||さとさ れて|かいじょう||ひかえしつ||ふとん||しいて|
|||Okayama||rushed|||aunt|||strict||||||sleep|||necessary|||advised|funeral hall||waiting room||futon||spread|
|||||||||||||||||||||||言われて||||||||
|||||||Gran||||||||||||||||aconsejado por||||"a"||||
眠れる はず も ない のだ が 、 もしも ここ で 眠れれば 、 これ が 夢 に 変わる かも しれ ない と 必死に 目 を 閉じた 。
ねむれる|||||||||ねむれれば|||ゆめ||かわる|||||ひっしに|め||とじた
could sleep|||||||||were able to sleep|||||||||||||
襖 の 向こう で は 親戚 や 友人 たち が ひそひそ と 言葉 を 交わし 、 ときどき 缶 ビール を 開ける 音 や 、 お かき を 齧る 音 が そこ に 混じった 。
ふすま||むこう|||しんせき||ゆうじん|||||ことば||かわし||かん|びーる||あける|おと|||||かじる|おと||||まじった
sliding door|possessive particle|||||||||in hushed voices||||exchanging|||||||||snack||gnaw|||||mixed
||||||||||ひそひそ話||||||||||||||||||||
Puerta corrediza||||||||||||||||||||||el sonido de||||||||
襖 の 向こう から 聞こえて くる 会話 で は 、 妻 の 里子 は 相変わらず 祭壇 の 佳乃 の そばから 離れられ ず 、 誰 か が 声 を かければ 泣き出して いる らしかった 。
ふすま||むこう||きこえて||かいわ|||つま||さとご||あいかわらず|さいだん||よしの|||はなれ られ||だれ|||こえ|||なきだして||
sliding door||||||||||||||altar||||by|unable to move away|||||||if called|started to cry||
正直 、 眠って しまい たかった 。
しょうじき|ねむって||
honestly|||
娘 を 殺さ れた と いう のに 、 こんな 川 沿い の メモリアルホール で 、 アニメ の 人形 集 め が 趣味 と いう 若い 坊主 の 到着 を ただ じっと 待つ しか でき ない 自分 が 、 情けなくて 悔しくて 仕方なかった 。
むすめ||ころさ||||||かわ|ぞい||||あにめ||にんぎょう|しゅう|||しゅみ|||わかい|ぼうず||とうちゃく||||まつ||||じぶん||なさけなくて|くやしくて|しかたなかった
|||||||||||||anime||doll|collect|||||||young monk||arrival|||intently|||||||pitiful|frustrated|
いくら 必死に 目 を つぶって も 、 襖 の 向こう から 聞こえて くる ひそひそ 声 に 耳 を 塞ぐ こと は でき ない 。
|ひっしに|め||||ふすま||むこう||きこえて|||こえ||みみ||ふさぐ||||
||||||sliding door|||||||||||cover||||
||||閉じて|||||||||||||||||
「 しかし 、 ここ だけ の 話 、 その 大学生 が 犯人 なら まだ 佳男 さん たち も 救わ れる と よ 。
||||はなし||だいがくせい||はんにん|||よしお||||すくわ|||
|||||||||||handsome||||saved|||
だって 、 もし よ 、 警察 が 言う ように その 『 出会い 系 』 か 何 か で 知り合った 男 やったり して ごらん よ 。
|||けいさつ||いう|||であい|けい||なん|||しりあった|おとこ||||
||||||||||||||||such as|||
テレビ の 話 じゃ 、 それ で 男 と 知り合う て お 小遣い もらい よったって 話 も ある らしい や ない ね 」 「 そこ に 佳男 が 寝 とる と ぞ !
てれび||はなし||||おとこ||しりあう|||こづかい||よった って|はなし|||||||||よしお||ね|||
|||||||||||allowance||said|||||||||||||||
大 叔母 たち の 話 を 誰 か が 抑えた 口調 で 制す 。
だい|おば|||はなし||だれ|||おさえた|くちょう||せいす
|||||||||restrained|||control
||||||||||||制止する
ただ 、 一瞬 会話 が おさまって も 、 また すぐに 誰 か が おずおず と 口火 を 切って しまう 。
|いっしゅん|かいわ||||||だれ|||||くちび||きって|
||||settled|||||||timidly||starting the conversation|||
|||||||||||おどおど||話し始め|||
|||||||||||tímidamente|con timidez|romper el hielo|||
「 でも 、 その 大学生 も 犯人 じゃ なかったら 逃げ 隠れ せ ん やろ 」
||だいがくせい||はんにん|||にげ|かくれ|||
|||||||flee|hide|||
「 そりゃ 、 そう さ 。
もし かして 、 その お 小遣い の こと を 知られて 、 その 大学生 と 喧嘩 でも した と じゃ ない やろ か 。
||||こづかい||||しら れて||だいがくせい||けんか|||||||
||||allowance||||||||fight|||||||
それ で 話 が こじれて ……」
||はなし||
|||(subject marker)|escalated
||||こじれている
理容 店 と 繋がって いる 台所 から 冷たい すきま 風 が 吹いて くる 。
りよう|てん||つながって||だいどころ||つめたい||かぜ||ふいて|
|||connected|||||gap||||
||||||||隙間||||
佳男 は 畳 に 寝 転がった まま 足 を 伸ばして 障子 を 閉めた 。
よしお||たたみ||ね|ころがった||あし||のばして|しょうじ||しめた
|||||rolled|||||sliding door||closed
||||||||||puerta corrediza japonesa||
相変わらず 薄暗い 部屋 が いよいよ 光 を 失って しまう 。
あいかわらず|うすぐらい|へや|||ひかり||うしなって|
||||finally||||
「 里子 ……」
さとご
foster child
力なく 仏壇 前 の 妻 を 呼ぶ と 、「…… はい 」 と 、 まるで もう 五 分 も 前 に 呼んだ とき の 返事 が 、 今 戻って きた ような 声 を 出す 。
ちからなく|ぶつだん|ぜん||つま||よぶ||||||いつ|ぶん||ぜん||よんだ|||へんじ||いま|もどって|||こえ||だす
|Buddhist altar|||||called||||||||||||||||||||||
「 晩 メシ 、 なんか 店屋 もの で も とる か ?
ばん|めし||みせや|||||
|||store|||||
|||食事|||||
|||restaurante|||||
「…… そう ね 」
「 来 々 軒 に 電話 かけ ん ね 」
らい||のき||でんわ|||
coming|||||||
Llama a|||||||
「…… うん 」
返事 は する が 、 里子 が 動き出す 気配 は ない 。
へんじ||||さとご||うごきだす|けはい||
||||||started moving|||
それ でも 、 朝 から 仏壇 の 前 を 離れ ない 妻 と 、 佳男 は 今日 初めて きちんと 言葉 を 交わした ような 気 が した 。
||あさ||ぶつだん||ぜん||はなれ||つま||よしお||きょう|はじめて||ことば||かわした||き||
||||||||||||||||properly|||||||
佳男 は 仕方なく 畳 から 立ち上がり 、 蛍光 灯 の 紐 を 引いた 。
よしお||しかたなく|たたみ||たちあがり|けいこう|とう||ひも||ひいた
何度 か 点滅 した あと ついた 明かり が 、 古びた 畳 や 今 まで 枕 に して いた 座布団 を 照らす 。
なんど||てんめつ||||あかり||ふるびた|たたみ||いま||まくら||||ざぶとん||てらす
||blinking||||||old|||||||||cushion||
座 卓 に は 会葬 御礼 品 の 小 箱 が 積み重ねられ 、 その 上 に 葬儀 社 から の 請求 書 が 載って いる 。
ざ|すぐる|||かいそう|おれい|しな||しょう|はこ||つみかさね られ||うえ||そうぎ|しゃ|||せいきゅう|しょ||のって|
table|table|||expression of gratitude for attending the funeral|expression of gratitude||||||stacked||||funeral|company|||bill||||
||||会葬御礼品|||||||||||||||||||
||||Asistencia al funeral|||||||||||||||||||
「 これ から ご 自宅 の ほう に お参り に いらっしゃる 方 も います から ね 」 と 葬儀 屋 は 言って いた 。
|||じたく||||おまいり|||かた||い ます||||そうぎ|や||いって|
|||||||paying respects|||||||||funeral||||
佳男 は 座 卓 から 目 を 逸ら す と 、 来 々 軒 に 電話 を かけて 野菜 ラーメン を 二 杯 注文 した 。
よしお||ざ|すぐる||め||はやら|||らい||のき||でんわ|||やさい|らーめん||ふた|さかずき|ちゅうもん|
|||||||avert|||||shop|||||||||||
相手 は いつも の 親父 だった が 、「 あ !
あいて||||おやじ|||
||||father|||
石橋 さん ?
いしばし|
は いはい 、 すぐに 持っていく けん 」 と 、 対応 は ひどく ぎこちなかった 。
|||もっていく|||たいおう|||
|yes|||||response|||awkward
|||||||||不自然だった
電話 を 切る と 、 仏壇 の ほう から 里子 が また 鼻 を 啜 る 音 が 聞こえた 。
でんわ||きる||ぶつだん||||さとご|||はな||せつ||おと||きこえた
||||||||adopted child|||||sucking||||
泣いて も 泣いて も 涙 が 溢れて くる らしかった 。
ないて||ないて||なみだ||あふれて||
||||||overflowed||
啜って も 啜って も 悔し さ は 啜 り 切れ ない らしかった 。
せつ って||せつ って||くやし|||せつ||きれ||
sipping|||||||||||
「 里子 」
さとご
また 畳 に しゃがみ込み 、 佳男 は 仏壇 の 棚 に 身 を 投げ出した 里子 の 背中 に 声 を かけた 。
|たたみ||しゃがみこみ|よしお||ぶつだん||たな||み||なげだした|さとご||せなか||こえ||
|||crouching|||||shelf|||||||||||
|||squatting down||||||||||||||||
「 お前 、 佳乃 が その 大学生 と 付き合い よった の 、 知っとった と か ?
おまえ|よしの|||だいがくせい||つきあい|||ち っと った||
事件 以来 、 初めて 佳男 は 娘 の 名前 を 口 に した 気 が した 。
じけん|いらい|はじめて|よしお||むすめ||なまえ||くち|||き||
佳男 の 質問 に 里子 は 突っ伏した まま 何も 答え ない 。
よしお||しつもん||さとご||つ っ ふくした||なにも|こたえ|
||question||||prostrated||||
||||||うつ伏せ||||
また 泣き出した の か 、 その 振動 で 棚 に 置か れた 蝋燭 が 揺れる 。
|なきだした||||しんどう||たな||おか||ろうそく||ゆれる
|||||vibration||shelf||placed||candle||
|crying again||||||||||||
「 佳乃 は 、 みんな が 言う ような 娘 じゃ なか ぞ 。
よしの||||いう||むすめ|||
そんな 簡単に 男 と ……」
|かんたんに|おとこ|
喋って いる うち に 声 が 震えた 。
しゃべって||||こえ||ふるえた
||||||shook
気 が つく と 、 頬 を 涙 が 流れて いた 。
き||||ほほ||なみだ||ながれて|
||||cheek|||||
突っ伏した まま の 里子 が 声 を 上げる 。
つ っ ふくした|||さとご||こえ||あげる
remained prostrate|||||||
まるで 子供 の ころ の 佳乃 の ように 、 歯 を 食いしばる ように して 泣く 。
|こども||||よしの|||は||くいしばる|||なく
||||||||teeth||gritting|||
||||||||||grit|||
「 許さ ん ぞ 。
ゆるさ||
絶対 に その 男 を 許さ ん 。
ぜったい|||おとこ||ゆるさ|
誰 が なんて 言おう と 、 俺 は 許さ ん 」
だれ|||いおう||おれ||ゆるさ|
声 が 出 なかった 。
こえ||だ|
喉 に 詰まった 言葉 を 佳男 は ぐっと 呑み込んだ 。
のど||つまった|ことば||よしお|||のみこんだ
throat|||||||firmly|swallowed
あれ は いつごろ だった か 、 いつも の ように 日曜 の 晩 に 電話 を かけて きた 佳乃 と 里子 が 長話 を して いた こと が あった 。
||||||||にちよう||ばん||でんわ||||よしの||さとご||ながばなし||||||
||||||||||evening||||||||||long conversation||||||
佳男 が 風呂 に 入る 前 に かかって きて 、 出て から も しばらく 続いて いた ので 一 時間 以上 は 喋って いた はずだ 。
よしお||ふろ||はいる|ぜん||||でて||||つづいて|||ひと|じかん|いじょう||しゃべって||
湯上がり に 焼酎 の 烏 龍 茶 割 り を 作って 、 テレビ を つけ 、 聞く と も なく 二 人 の 話 を 聞いて いる と 、「 お母さん と お 父さん が 出会った ころ 、 どっち が どっち に 告白 した の か 」 と か 、「 バンド を 組んで 女の子 たち に 人気 の あった お 父さん を 、 どう やって 落とした の か 」 など 、 ちょっと こちら が 照れ臭く なる ような 質問 を 娘 の 佳乃 が して いる らしく 、 里子 も 里子 で それ に 律 儀 に 答えて いる 。
ゆあがり||しょうちゅう||からす|りゅう|ちゃ|わり|||つくって|てれび|||きく||||ふた|じん||はなし||きいて|||お かあさん|||とうさん||であった||||||こくはく||||||ばんど||くんで|おんなのこ|||にんき||||とうさん||||おとした|||||||てれくさく|||しつもん||むすめ||よしの|||||さとご||さとご||||りつ|ぎ||こたえて|
getting out of the bath||shochu||crow|dragon|tea|with||||||||||||||||||||||||||||||confession||||||||formed|||||||||||||||||||embarrassing||||||||||||||||||honestly||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||恥ずかしい||||||||||||||||||||||
いつも なら 「 長 電話 する な !
||ちょう|でんわ||
」 と 怒鳴りつける のだ が 、 内容 が 内容 だけ に 、 佳男 も どう 声 を かけて いい の か 分から ず 、 ついつい 酒 の ペース が 速く なる 。
|どなりつける|||ないよう||ないよう|||よしお|||こえ||||||わから|||さけ||ぺーす||はやく|
|shout|||information||||||||||||||||unintentionally||||||
やっと 電話 を 切った 里子 に 、「 何の 話 や ?
|でんわ||きった|さとご||なんの|はなし|
」 と 白々しく 尋ねる と 、「 佳乃 に 好きな 人 が できたって 」 と 嬉し そうな 顔 を した 。
|しらじらしく|たずねる||よしの||すきな|じん||できた って||うれし|そう な|かお||
|obviously||||||||was able to meet||||||
|白々しく||||||||||||||
一瞬 、 佳乃 に 男 が ?
いっしゅん|よしの||おとこ|
と 焦り は した が 、 その 相談 で 母親 に 電話 を かけて きて 、 両親 の 出会い に ついて 質問 した 娘 の 可愛 さ も あった 。
|あせり|||||そうだん||ははおや||でんわ||||りょうしん||であい|||しつもん||むすめ||かわい|||
|impatience|||||||mother|||||||||||||||cuteness|||
「 付き合い よう と か ?
つきあい|||
と 、 佳男 が 突っ慳貪 に 尋ねた 。
|よしお||つ っ けんどん||たずねた
|||suspiciously||
|||無愛想||
「 いや ぁ 、 まだ そこ まで いく もん ね 。
||not yet|||||
ほら 、 昔 から あの 子 は 、 好きな 男の子 の 前 で は 強 がる 癖 の あった や ない ね 。
|むかし|||こ||すきな|おとこのこ||ぜん|||つよ||くせ|||||
||||||||||||to act tough||habit|||||
我 が 強いって いう か 、 素直 や ないって いう か 。
われ||つよい って|||すなお||ない って||
||strong|||not honest||||
…… でも 、 今回 の あの 感じ や と 、 ほん な こと 好 いとう ご た よ 。
|こんかい|||かんじ||||||よしみ||||
||||||||||good||||
電話 の 向こう で ちょっと 泣き そうに なっとった もん 。
でんわ||むこう|||なき|そう に|な っと った|
phone||||||||
ばってん 、 まだ 可愛い もん や ねぇ 、 好きな 人 が できて 、 友達 に も 相談 でき ず 、 母親 に 電話 かけて くる なんて 」 佳男 が 返事 も せ ず に 、 グラス の 焼酎 を 飲み干す と 、「…… よう 聞か ん やった けど 、 湯布院 や 別府 で えらい 高級な 旅館 を 経営 し とる お家 の 一 人 息子 さん ら しか よ 」 と 里子 が 付け加える 。
ばっ てん||かわいい||||すきな|じん|||ともだち|||そうだん|||ははおや||でんわ||||よしお||へんじ|||||ぐらす||しょうちゅう||のみほす|||きか||||ゆふいん||べっぷ|||こうきゅうな|りょかん||けいえい|||おいえ||ひと|じん|むすこ||||||さとご||つけくわえる
by the way|||||||||||||||||||||||||||||||shochu||finish drinking|||||||Yufuin||Beppu||||||management|||house||||||||||||adds
佳男 は その つい 半年 ほど 前 、 理容 組合 の 慰安 旅行 で 訪ねた 湯布院 の 町 を 思い浮かべた 。
よしお||||はんとし||ぜん|りよう|くみあい||いあん|りょこう||たずねた|ゆふいん||まち||おもいうかべた
|||just||||barber|union||recreation||||||||recalled
自分 たち が 宿泊 した の は 安 旅館 だった が 、 散歩 に 出かけた 先 に 、 敷居 の 高 そうな 老舗 旅館 の 門 が あり 、 たまたま そこ の 美しい 若 女将 が 門前 に 立って いた 。
じぶん|||しゅくはく||||やす|りょかん|||さんぽ||でかけた|さき||しきい||たか|そう な|しにせ|りょかん||もん||||||うつくしい|わか|おかみ||もんぜん||たって|
|||stayed|||||inn||||||||threshold||||long-established|||||||||||innkeeper||entrance|||
||||||||||||||||threshold||||||||||||||||||||
若 女将 は 佳男 たち が 別の 旅館 の 浴衣 を 着て いる に も かかわら ず 、 気軽に 声 を かけて きた 。
わか|おかみ||よしお|||べつの|りょかん||ゆかた||きて||||||きがるに|こえ|||
|||||||||yukata||||||||casually||||
佳男 たち が 「 湯布院 は 空気 が おいしい 」 と 言う と 、「 また 、 来て 下さい ね 」 と 笑顔 を 浮かべた 。
よしお|||ゆふいん||くうき||||いう|||きて|ください|||えがお||うかべた
その 夜 、 台所 で 洗い 物 を 始めた 里子 の 尻 を 眺め ながら 、 佳男 は 知らず知らず の うち に 、 その 老舗 旅館 の 前 に 立ち 、 こちら に 笑み を 浮かべる 着物 姿 の 佳乃 の 姿 を 思い描いて いた 。
|よ|だいどころ||あらい|ぶつ||はじめた|さとご||しり||ながめ||よしお||しらずしらず|||||しにせ|りょかん||ぜん||たち|||えみ||うかべる|きもの|すがた||よしの||すがた||おもいえがいて|
||||||||||buttocks|||||||||||long-established|traditional inn|||||||smile||to浮かべる|kimono|||||||imagining|
我ながら 性急 過ぎる 空想 に 苦笑 も した が 、 若 女将 に なった 娘 を 想像 する の は 、 まんざら 嫌な 気分 で も なかった 。
われながら|せいきゅう|すぎる|くうそう||くしょう||||わか|おかみ|||むすめ||そうぞう|||||いやな|きぶん|||
|impatient||daydream||wry smile||||||||daughter||||||not entirely|||||
|性急||||||||||||||||||必ずしも|||||
仏壇 の 前 で 泣き崩れる 里子 を 眺め ながら 、 佳男 は もう 一 度 、「 俺 は 許さ ん ……」 と 呟いた 。
ぶつだん||ぜん||なきくずれる|さとご||ながめ||よしお|||ひと|たび|おれ||ゆるさ|||つぶやいた
||||broke down crying|||||||||||||||
戻れる もの なら 、 あの 夜 に 戻り 、 長 電話 を する 里子 の 手 から 受話器 を 奪いたい 。
もどれる||||よ||もどり|ちょう|でんわ|||さとご||て||じゅわき||うばい たい
can return|||||||||||||||||want to snatch
「 そげ な 男 と 関わる な 」 と 一言 、 佳乃 に 言って やりたい 。
||おとこ||かかわる|||いちげん|よしの||いって|やり たい
||||involve|||||||
そんな|||||||||||
それ が でき ない 自分 が 悔しかった 。
||||じぶん||くやしかった
||||||regretful
呑気 に 娘 の 着物 姿 など 想像 して しまった 自分 が 、 悔しくて 、 情けなくて 、 仕方なかった 。
のんき||むすめ||きもの|すがた||そうぞう|||じぶん||くやしくて|なさけなくて|しかたなかった
carefree||||||||||||frustrated|embarrassed|
ここ 数 日 、 鶴田 公 紀 は ふと 気 が つけば 増尾 圭 吾 の こと を 考えて いた 。
|すう|ひ|つるた|おおやけ|き|||き|||ますお|けい|われ||||かんがえて|
|||Tsuruta|official|public||suddenly||||Masuo|||||||
事件 の 翌日 に 来て 以来 、 警察 から の 連絡 は なく 、 その後 の 状況 は テレビ や 新聞 に 頼る しか ない 。
じけん||よくじつ||きて|いらい|けいさつ|||れんらく|||そのご||じょうきょう||てれび||しんぶん||たよる||
||following day||||||||||||||||||||
仲 の 良い 同級 生 が 女 を 殺して 逃走 して いる 。
なか||よい|どうきゅう|せい||おんな||ころして|とうそう||
|||||||||escape||
言葉 に する と 、 かなり ドラマティック な 物語 に 巻き込まれて いる のだ が 、 日常 は 至って 平凡で 、 こう やって 大濠公園 の 見 下ろせる 部屋 に こもり 、「 死刑 台 の エレベーター 」 や 「 市民 ケーン 」 など 好きな 映画 を 観て いる だけ だ 。
ことば|||||||ものがたり||まきこま れて||||にちじょう||いたって|へいぼんで|||おおほりこうえん||み|おろせる|へや|||しけい|だい||えれべーたー||しみん|||すきな|えいが||みて|||
|||||dramatic||||being involved||||||quite|ordinary||||||overlooking|||shut in|death penalty||||||Kane|||||watch|||
|||||劇的な|||||||||||||||||||||||||||||||||||
その 上 、 寝る 前 に は 必ず エロビデオ に 切り替えて 、 きちんと 精 を 放つ 。
|うえ|ねる|ぜん|||かならず|||きりかえて||せい||はなつ
|||||||erotic video||switch|properly|energy||
|||||||adult video||||||
同級 生 が 人 を 殺して 逃亡 して いる 現実 が 、 まるで 自分 が 書いた 下手な 脚本 みたいで 、 こんな ありきたりな ストーリー など 映画 に して も 面白く ない んじゃ ない か と 思えて くる 。
どうきゅう|せい||じん||ころして|とうぼう|||げんじつ|||じぶん||かいた|へたな|きゃくほん||||すとーりー||えいが||||おもしろく||||||おもえて|
||||||fleeing||||||||||script|||common|story|||||||||||||
|||||||||||||||||||ありふれた||||||||||||||
しかし 、 増尾 が 女 を 殺して 逃亡 して いる の は 、 自分 の 下手 クソ な 脚本 で は ない 。
|ますお||おんな||ころして|とうぼう|||||じぶん||へた|くそ||きゃくほん|||
|||||||||||||bad|piece of crap|||||
事件 以後 、 いや 、 事件 以前 も 同じだった が 、 まったく 学校 に も 行って いない 。
じけん|いご||じけん|いぜん||おなじだった|||がっこう|||おこなって|
|after|||before|||||||||
おそらく 今ごろ 学校 で は 、 増尾 の こと で 学園 祭 前夜 の ような 盛り上がり を 見せて いる に 違いない 。
|いまごろ|がっこう|||ますお||||がくえん|さい|ぜんや|||もりあがり||みせて|||ちがいない
|||||||||school||festival eve|||excitement|||||
目立つ 存在 だった 増尾 の こと を 好きだった 奴 も 嫌い だった 奴 も 、 観客 と いう の は 自分勝手な もの で 、 早く 結末 を 見せろ と イライラ して くる 。
めだつ|そんざい||ますお||||すきだった|やつ||きらい||やつ||かんきゃく|||||じぶんかってな|||はやく|けつまつ||みせろ||いらいら||
|||||||||||||||||||selfish||||ending||||||
|||||||||||||||||||自己中心的な||||||||||
あれ から 毎日 、 増尾 の 携帯 に 連絡 を 入れて いる 。
||まいにち|ますお||けいたい||れんらく||いれて|
ただ 、 未 だに 一 度 も 繋がら ない 。
|み||ひと|たび||つながら|
||||||connected|
自分 に とって 増尾 圭 吾 と いう 存在 が 、 世間 と を 結ぶ 唯一 の 糸 だった のだ と 鶴田 は 改めて 思う 。
じぶん|||ますお|けい|われ|||そんざい||せけん|||むすぶ|ゆいいつ||いと||||つるた||あらためて|おもう
|||||||||||||connect|only||||||Tsuruta||once again|
学校 の 話 も 、 友人 たち の 話 も 、 女 の 話 も 、 考えて みれば 全部 増尾 の 口 から 聞か されて 、 それ で 自分 も 一端 に 大学 生活 を 送って いる ような 気分 で いた 。
がっこう||はなし||ゆうじん|||はなし||おんな||はなし||かんがえて||ぜんぶ|ますお||くち||きか|さ れて|||じぶん||いったん||だいがく|せいかつ||おくって|||きぶん||
||||||||||||||||||||||||||part|||||sent|||feeling||
増尾 は 今ごろ どこ に おるっちゃ ろうか 。
ますお||いまごろ|||おる っちゃ|
|||||is|probably
一 人 で 怯え とるっちゃ ろか 。
ひと|じん||おびえ|とる っちゃ|
|||fright|going to|
逃げ 切れる つもりで おるっちゃ ろか 。
にげ|きれる||おる っちゃ|
|||I'm here|
どうせ 捕まる の なら 、 増尾 らしく 捕まって ほしい 。
|つかまる|||ますお||つかまって|
anyway||||||gets caught|
今さら 自首 など せ んで ほしい 。
いまさら|じしゅ||||
|turning oneself in||||
|自首||||
最後 の 最後 まで 逃走 して 、 最後 は 大勢 の 警官 に 囲まれて 、 強い スポット ライト を 浴びる 中 で 、 自分 に は 書け そう も ない 科白 を 叫んで 、 自ら 命 を 断って ほしい 。
さいご||さいご||とうそう||さいご||おおぜい||けいかん||かこま れて|つよい|すぽっと|らいと||あびる|なか||じぶん|||かけ||||せりふ||さけんで|おのずから|いのち||たって|
||||escape||||many|||||||||||||||able to write||||lines||||||refuse|
|||||||||||||||||||||||||||||||||断ってほしい|
気 が つく と 、 鶴田 は エロビデオ の フェラチオシーン を 眺め ながら 、 そんな こと を 考えて いる 。
き||||つるた||||||ながめ|||||かんがえて|
||||||||fellatio scene||||||||
||||||||フェラチオシーン||||||||
いつの間にか 夜 は 明け 、 散らかった 部屋 に 朝日 が 差し込んで いる 。
いつのまにか|よ||あけ|ちらかった|へや||あさひ||さしこんで|
|||dawn|messy||||||
すぐ そこ の 大濠公園 から 聞こえて くる 鳥 の 声 に 、 画面 の 中 で 女 が 立てる 舌 の 音 が 重なって いる 。
|||おおほりこうえん||きこえて||とり||こえ||がめん||なか||おんな||たてる|した||おと||かさなって|
|||||||bird|||||||||||tongue|||||
フェラチオシーン の 間 に 、 鶴田 は さっさと 精 を 放った 。
||あいだ||つるた|||せい||はなった
||||||promptly|semen||released
汚れた ティッシュ を ゴミ 箱 に 投げ 、 中途半端に 下ろした パンツ を 引っ張り 上げる 。
けがれた|てぃっしゅ||ごみ|はこ||なげ|ちゅうとはんぱに|おろした|ぱんつ||ひっぱり|あげる
|||||||halfway|||||
しかし 、 なんで 殺し たっちゃ ろ ?
||ころし||
|||killed|
どう 考えて も 、 増尾 が あの 女 を 殺す 理由 が 浮かんで こ ない 。
|かんがえて||ますお|||おんな||ころす|りゆう||うかんで||
逆に あの 女 が つれない 増尾 を 殺した の なら 話 は 分かる 。
ぎゃくに||おんな|||ますお||ころした|||はなし||わかる
||||cold-hearted||||||||
ある 意味 、 増尾 らしい 人生 や ねぇ 、 と 納得 できる 。
|いみ|ますお||じんせい||||なっとく|
||||||||satisfied|
鶴田 は フェラチオ を 続ける 女 の 映像 を リモコン で 消し 、 朝日 に 目 を 細め ながら カーテン を 閉めて 回った 。
つるた||||つづける|おんな||えいぞう||りもこん||けし|あさひ||め||ほそめ||かーてん||しめて|まわった
||fellatio|||||||remote control|||||||narrow|||||
||oral sex|||||||||||||||||||
親 に ねだって 買って もらった 遮 光 カーテン は 、 昼間 でも 部屋 を 夜 に 変えて くれる 。
おや|||かって||さえぎ|ひかり|かーてん||ひるま||へや||よ||かえて|
||persistently asking|||light-blocking|||||||||||
親 の 金 だ と 思えば 腹 も 立つ が 、 この 腹立ち さえ 手懐けて しまえば 、 高 品質 な 遮 光 カーテン は 手 に 入る 。
おや||きむ|||おもえば|はら||たつ|||はらだち||てなずけて||たか|ひんしつ||さえぎ|ひかり|かーてん||て||はいる
|||||||||||anger||tamed|||||intercept||||||
|||||||||||||抑えれば|||||||||||
ベッド に 横 に なり 、 いつも 金 の 計算 ばかり して いる 両親 の 顔 を 思い浮かべた 。
べっど||よこ||||きむ||けいさん||||りょうしん||かお||おもいうかべた
通帳 を 見れば 見る ほど 金 が 増える と でも 思って いる の か 、 夫婦 揃って 計算 機 を 叩いて いる 姿 だ 。
つうちょう||みれば|みる||きむ||ふえる|||おもって||||ふうふ|そろって|けいさん|き||たたいて||すがた|
bankbook|||||||||||||||together||||tapping|||
さすが に 鶴田 も 金 が 必要 ない と は 思わ ない 。
||つるた||きむ||ひつよう||||おもわ|
ただ 金 より も 必要な もの が ある ので は ない か 、 それ が 見つから なければ 、 生きて いく 気力 が 湧か ない と 思う 。
|きむ|||ひつような||||||||||みつから||いきて||きりょく||わか|||おもう
||||||||||||||||||willpower|(subject marker)|welling|||
いつの間にか 、 うつらうつら して いた 。
いつのまにか|||
|dozing||
|うとうと||
気 が つく と 、 ガラス テーブル の 上 で 携帯 が 鳴って いた 。
き||||がらす|てーぶる||うえ||けいたい||なって|
一瞬 、 無視 しよう か と も 思った が 、 無意識に 手 が 伸びた 。
いっしゅん|むし|||||おもった||むいしきに|て||のびた
「 もしもし 」
受話器 の 向こう から 聞き覚え の ある 男 の 声 が 聞こえる 。
じゅわき||むこう||ききおぼえ|||おとこ||こえ||きこえる
receiver||||familiar sound|||||||
「 も 、 もしもし !
思わず からだ を 起こして いた 。
おもわず|||おこして|
「 すま ん 、 寝 とった ?
||ね|
聞こえて きた の は 紛れ も ない 増尾 の 声 だった 。
きこえて||||まぎれ|||ますお||こえ|
||||doubt||||||
「 増尾 ?
ますお
増尾 やろ ?
ますお|
寝起き だ と いう のに 、 つい 大きな 声 を 出して しまい 、 喉 に 痰 が 詰まって 咳き込んだ 。
ねおき||||||おおきな|こえ||だして||のど||たん||つまって|せきこんだ
just woke up|||||||||||throat||phlegm|||coughed
「 き 、 切る な よ !
|きる||
|don't cut||
とりあえず それ だけ 言って 、 鶴田 は 思い切り 咳き込み 、 喉 に つっかえた 痰 を 吐いた 。
|||いって|つるた||おもいきり|せきこみ|のど|||たん||はいた
||||||with all one's might|coughed|throat|||||spit out
||||||思い切り||||詰まった|||
弾み で 踏みつけた エロビデオ の パッケージ が グニャッ と 潰れる 。
はずみ||ふみつけた|||ぱっけーじ||||つぶれる
momentum||stepped on|||package||||crushed
弾み||踏みつけた|adult video||パッケージ||へこむ||
「 もしもし ?
増尾 ?
ますお
お 、 お前 ……、 だ 、 大丈夫 や ?
|おまえ||だいじょうぶ|
鶴田 は 尋ねた 。
つるた||たずねた
||asked
訊 きたい こと は 山ほど あった が 、 咄嗟に 出て きた 言葉 が それ だった 。
じん||||やまほど|||とっさに|でて||ことば|||
|wanted||||||on the spur of the moment||||||
「…… ああ 、 大丈夫 」
|だいじょうぶ
受話器 の 向こう から 、 疲れ切った ような 増尾 の 声 が 聞こえて くる 。
じゅわき||むこう||つかれきった||ますお||こえ||きこえて|
||||completely exhausted|||||||
From the other end of the receiver, a tired-sounding voice of Masuo can be heard.