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三姉妹探偵団 3 珠美・初恋篇, 三姉妹探偵団 3 Chapter 01

三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 01

1 ぬれぎぬ

「 知ら ない って ば !

珠美 が 、 これ 以上 は ふくれ られ ない と いう くらい の ふくれ っつ ら を して 、 強調 した 。

「 お 姉ちゃん 、 悲しい ……」

と 、 シクシク 泣いて いる の は ── まあ 、 佐々 本家 の 三 姉妹 を 既に ご存知 の 方 なら 、 お 察し であろう ── 長女 の 綾子 である 。

「 ねえ ── ちょっと 、 二 人 と も 、 そう 泣か ないで よ 」

上 の 綾子 、 下 の 珠美 の 間 に 挟ま れて 、 困り 切った 顔 で いる の は 、 次女 の 夕 里子 である 。

「 私 、 泣いて なんかいな いもん ね 」

と 、 珠美 が 抗議 した 。

「 綾子 姉ちゃん が 勝手に 泣いて んじゃ ない の 」

「 珠美 、 あんた も 何とか 言ったら ?

謝る と か 反省 する と か ──」

「 何 を 反省 す ん の よ !

やって も い ない こと を 反省 なんて でき ない わ ! 「 だけど 学校 の 先生 は ──」

と 、 綾子 が 涙声 で 言い かける と 、

「 何も 分 っちゃ い ない んだ から 、 先生 なんて !

珠美 は 、 そう 切り返した 。

「 じゃ 、 珠美 、 本当に あなた が やった んじゃ ない の ね ?

と 、 綾子 は 、 もう クシャクシャ に なって いる ハンカチ で 目 を こすり ながら 言った 。

「 くどい !

珠美 は 簡潔に 答えた 。

何しろ 生れつき ケチ な 性格 である 。 言葉 だって 、 必要 以上 に は 発し ない 。

「── 分 った わ 」

綾子 は 立ち上る と 、 ダイニング キッチン の 方 へ と 姿 を 消した 。

「── 参った なあ !

珠美 が ドサッ と ソファ に もたれかかる 。

佐々 本家 ── と いって も マンション 住い の 三 人 である 。

父親 と 、 この 三 人 の 娘 たち で 暮して いる のだ が 、 今日 は 折悪しく 、 父親 が 海外 出張 中 。 そして ──。

「 パパ が 出張 に 出る と 、 ろくな こと が 起ら ない の よ ねえ 」

と 、 夕 里子 が 嘆く 通り な のである 。

「 先生 も 分 って ない んだ よ 」

と 、 珠美 が 口 を 尖らした 。

「 うん ……。

まあ 、 私 も 、 あんた が やった んじゃ ない と は 思う けど ね 」

と 、 夕 里子 は 肯 いた 。

「 その こと じゃ ない の 」

「 じゃ 、 何 よ ?

「 もちろん 、 それ も ある けど さ 」

と 、 珠美 は 、 天井 へ 目 を やって 、「 私 だって 、 そりゃ お 金儲け は 大好き よ 。

でも 、 その ため に 、 試験 の 問題 を 盗む なんて 真似 、 し ない わ 」

「 いくら 何でも ねえ 」

「 そんな こと して 、 いくら 儲かる ?

学生 の 小づかい なんて 、 たかが 知れて んじゃ ない 。 大体 、 そういう の を 買おう って の は 、 出来 の 悪い 奴 でしょ 。 そんな 、 いつも 出来 の 悪い の が 、 突然 、 何 人 も いい 点 取ったら 、 一 発 で ばれちゃ う よ 。 私 が そんな 馬鹿な 商売 する と 思う ? 十五 歳 、 中学 三 年生 に して は 、 ちゃんと 損得 勘定 が しっかり して いる 。

道徳 上 、 して は なら ない から し ない 、 と いう ので ない の が 、 珠美 らしい ところ である 。

「 そりゃ 、 私 に は 分 る けど ──」

と 、 夕 里子 が 苦笑 して 、「 だけど 、 その 問題 の 案 の コピー が 、 あんた の 鞄 に 入って た 、 って の が 奇妙 ね 」

「 陰謀 よ 」

「 何 か 陥れ られる 理由 で も ある の ?

「 知ら ない わ 」

と 、 珠美 は 肩 を すくめて 、「 先生 が 分 って ない の は ね 、 より に よって 、 綾子 姉ちゃん を 呼びつけた こと よ 」

それ は 言える 、 と 夕 里子 は 思った 。

佐々 本家 で の 母親 代り は ── 三 人 の 母親 は 、 六 年 前 に 亡くなって いる ── 次女 の 夕 里子 が つとめて いる のだ 。

十八 歳 、 私立 高校 の 三 年生 だ が 、 しっかり して いる こと で は 、 大人 の 女性 ── いや 、 男性 も 顔負け だった 。

もっとも 、 当人 は 必ずしも そう 思って いる わけで は ない 。

年頃 の 娘 らしく 、 女らし さ も 徐々に 、 にじみ出て 来て いる つもりな のだ が 、 客観 的に は 、 一向に 女らしく なら ない 、 と いう 意見 の 方 が 多かった 。

夕 里子 が こう も しっかり者 に なって しまった の は 、 やはり 、 本来 しっかり して いる べき 、 今年 二十 歳 の 長女 、 綾子 が 、 どうにも 頼りない 性格 だ から だろう 。

その 逆 も 言える 。 ── つまり 、 夕 里子 が あまりに しっかり して いる ので 、 綾子 が 一向に 長 女らしく なら ない のだ 、 と も 。

しかし 、 ともかく 女子 大 生 に して は 純真 、 気弱 、 かつ 泣き虫 の 綾子 ── 人 の よ さ は 、 ちょっと 人間 離れ して いる (?

) くらい だ が 、 その 故 に 、 妹 二 人 が 苦労 する こと も しばしば であった 。

「 夕 里子 姉ちゃん が 行って れば 、 ハイハイ って 、 先生 の 話 を おとなしく 聞いちゃ い なかった でしょ ?

と 、 珠美 は 言った 。

「 そう ね 。

証拠 が どこ に ある んです か 、 ぐらい の こと は 言った でしょう ね 。 でも 、 先生 の 方 は 、 うち の 事情 なんか 知ら ない んだ から 、 母親 が い なきゃ 、 一 番 上 の お 姉さん を 呼ぶ わ よ 。 仕方ない じゃ ない の 」

「 おかげ で 、 こっち は いい 迷惑 よ 」

と 、 珠美 は しかめ っつ ら を して 、「 先生 の 話 を 聞く 前 から 、 もう 綾子 姉ちゃん なんか 涙ぐんで んだ から 」

こんな 場合 ながら 、 その 光景 を 想像 して 、 夕 里子 は つい 吹き出して しまい そうに なった 。

「 先生 の 方 も びっくり した だろう ね 」

「 そりゃ ね 。

── こっち が ケロッ と して ん のに 、 綾子 姉ちゃん 、 ワンワン 泣き出して さ 。 おかげ で 早々 と 話 は 終った んだ けど ……」

「 じゃ 、 良かった じゃ ない の 」

「 だけど 、 完全に 、 こっち が 悪い って 認めた ように 取ら れる じゃ ない の 。

それ が 困る の よ 」

「 そう ねえ 」

夕 里子 は 肯 いた 。

「 あんた の 鞄 に 、 問題 の コピー を 誰 か が 隠した と して ── その 機会 は あった の ? 「 その 気 に なりゃ 出来る わ よ 。

先生 が 急に 鞄 の 中 を 改める 、 って 言い出して 、 全員 の 鞄 を 開けて みた の は 、 五 時間 目 の 終った 後 な んだ もの 。 朝 から ずっと 鞄 を 持ち歩いて た わけじゃ ない し 、 お 昼 休み だけ だって 、 充分に 時間 は あった はず よ 」

「 そう か ……。

すると 、 犯人 は 、 鞄 の 検査 が ある こと を 事前 に 察知 して 、 他の 生徒 の 鞄 へ 入れて おく こと だけ を 考えて た の かも しれ ない わ ね 。 特に あんた の 鞄 を 狙った わけじゃ なくて 」

「 かも ね 。

でも 、 ともかく 入れ られた の は 私 の 鞄 な んだ から 」

「 困った もん ね 」

と 、 夕 里子 は 首 を 振った 。

生来 、 冒険 したり と か 、 探険 したり と か が 大好きで 、 加えて 、 この ところ たまたま 殺人 事件 に 巻き込ま れたり する こと が あって 、 ますます 「 探偵 的 性格 」 が 身 に ついた 夕 里子 である 。

しかし 、 今度 の 場合 は 、「 謎 の 連続 殺人 」 と いう わけじゃ ない から 、 つまらない ── など と 、 つい 恐ろしい こと を 考えて しまったり する 夕 里子 である 。

「 ま 、 いい や !

と 、 珠美 が ウーン と 伸び を して 、「 三 日 も 休める !

「 呑気 な こ と 言って 。

停学 処分 な の よ 」

「 休み に ゃ 違いない じゃ ない 。

平日 だ と 映画 館 は 空いて る だろう な 。 ディズニーランド に でも 行って 来よう か 」

「 勝手に し なさい 」

と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。

その とき 、 玄関 の チャイム が ポロンポロン と 鳴った 。

「 誰 だ ろ ?

「 出て あげる 」

珍しく 、 珠美 が 玄関 へ と 出て 行く 。

夕 里子 は 、

「 さて 、 寝る か 」

と 、 欠 伸 を し ながら 、 ダイニング キッチン へ と 入って 行った が ……。

ん ?

── お 姉さん 、 椅子 の 上 に 立って 何 して んだ ろ ? 洗濯物 、 干して る の か な 、 あんな ロープ と か 持っちゃ って 。

でも 、 台所 で 洗濯物 を 干 すって の も 妙な もん だ し 、 大体 、 ロープ を 輪 っか に して 、 それ に 頭 を 入れる なんて こと は ……。

あ 、 あれ じゃ 首吊り だ !

「 お 姉ちゃん !

大声 で 叫ぶ と 同時に 、 夕 里子 は 綾子 めがけて 飛びかかった 。

仰天 した 綾子 が 、 ワッ と のけぞり ── 椅子 が 引っくり返る 。

ロープ の 輪 に 、 完全に 頭 を 入れて い なかった の が 幸いして 、 綾子 は 、 飛びついて 来た 夕 里子 共々 、 凄い 勢い で 転落 、 そもそも が そう 広い ダイニング キッチン と いう わけで も なく 、 食器 戸棚 に 衝突 して 、 中 の 茶碗 や 皿 が 派手な 音 を たてて 引っくり返った 。

「 痛い !

「 助けて !

どっち が どっち の 悲鳴 やら 。

── ともかく 二 人 して 床 に もつれ 合って 倒れて いる と 、 物音 を 聞きつけた 珠美 が 駆けつけて 来て 、 目 を 丸く した 。

「── 二 人 で プロレス やって ん の ?

「 冗談 じゃ …… ない わ よ 」

夕 里子 は 、 したたかに 打った お 尻 を こすり ながら 起き上る と 、「 あれ を 見な よ 」

と 、 照明 器具 を 下げる フック に 結びつけた ロープ を 指す 。

「 じゃ …… 綾子 姉ちゃん が ?

死んだ の ? 「 生きて る わ よ !

と 、 綾子 は 、 やけに なって いる 様子 で 、 床 に あぐら を かいて 、「 死んで 世間 様 に お 詫び しよう と 思った のに 」

「 やめて よ 、 見 っと も ない 」

と 、 珠美 が うんざり した 顔 で 言った 。

「 見 っと も ない の は どっち よ 」

「 だ から しつこく 言って んじゃ ない の 。

あれ を やった の 、 私 じゃ ない んだ 、 って 」

「 だ と して も 、 停学 処分 に なった の は 事実 でしょ 。

この 佐々 本家 から 、 停学 処分 に なる 子 が 出た なんて 、 ご 先祖 様 に 申し訳 が ない わ ! それ ほど の 名門 で も ない でしょう が 、 と 言い たかった が 、 夕 里子 は 、 じっと こらえて 、

「 ね 、 ともかく 落ちついて 。

珠美 が やった んじゃ ない と 分 れば 、 処分 だって 取り消して くれる わ よ 」

と 、 慰めた 。

「 珠美 が やった んじゃ ない って こと を 、 どう やって 立証 する の ?

「 それ なら 任し といて !

と 、 珠美 が 突然 胸 を 張った 。

「 ちょうど いい ところ に お 客 様 です 」

「 そうだ 。

玄関 に 誰 か 来て た んだ わ ね 」

と 夕 里子 が 、 お 尻 の 痛み に 顔 を しかめ つつ 息 を つく 。

「 誰 な の 、 こんな 夜 遅く に ? 「── 取りこみ 中 みたいだ ね 」

ヒョイ と 顔 を 出した の は ──。

「 国友 さん !

夕 里子 が 赤く なった 。

「 何 よ 、 珠美 、 早く 言って くれ なきゃ ! 「 だって 、 お 姉ちゃん たち 、 二 人 で 寝て んだ もの 」

「 寝て や し ない わ 。

── あ 、 リビング の 方 で 、 ゆっくり して て ね 」

「 しかし 、 穏やかで ない なあ 」

若くて 独身 。

二枚目 ── で は ない が 、 いかにも 人 の いい 感じ の 国友 は 、 M 署 の 刑事 である 。 佐々 本 三 姉妹 を 巻き込む 殺人 事件 で 、 すっかり 仲良し に なり 、 かつ 、 夕 里子 は 、 国友 の 前 で は いとも 女らしく ── は なら ない まで も 、 多少 優しく なる と いう 仲 で も ある 。

「 ありゃ 何 だい ?

と 、 国友 が 、 輪 っか に なった ロープ を 指した 。

「 え ?

ああ 、 あれ です か ? と 、 綾子 も あわてて 立ち上る と 、「 あの ね 、 ほら 、 お 正月 も 近い し 、 新巻 鮭 でも 吊 し と こう か と 思った んです 」

「 部屋 の 真中 に ?

と 、 国友 が 目 を 丸く した 。

「── なるほど 、 そりゃ 災難 だった ねえ 」

国友 は 、 珠美 の 停学 処分 の 話 を 聞く と 、 肯 いた 。

「 国友 さん 、 学校 に かけ合って 、 処分 を 取り消さ せて くれ ない ?

と 、 珠美 が 言った 。

「 そい つ は 無理だ よ 。

学校 の 決定 に 文句 を つける って の は ……」

「 じゃ 、 乙女 心 の 傷 は どう なって も いい の ?

「 いや ── そう じゃ ない けど ──」

と 、 国友 は たじたじ である 。

「 珠美 ったら 、 無 茶 言わ ないで よ 」

と 、 夕 里子 が たしなめた 。

「 お茶 も 飲め ない じゃ ない の 、 国友 さん 」

「 いや 、 僕 だって ね 、 珠美 君 が そんな こと を する 子 じゃ ない の は 分 って る さ 。

たぶん 、 夕 里子 君 の 考えた 通り 、 誰 か が 、 鞄 の 中 を 検査 さ れる の を 恐れて 、 珠美 君 の 鞄 へ 、 その コピー を 隠した んだろう な 」

「 故意 に 珠美 を 選んだ の か 、 それとも 偶然だった の か は ともかく ね 」

「 誰 か に 恨ま れる 覚え で も ある かい ?

珠美 は 肩 を すくめて 、

「 他人 の 気持 まで は 分 ん ない わ 」

「 珠美 ったら 、 そんな 生意気 言って ──」

と 、 夕 里子 が にらむ 。

「 いや 、 しかし 確かに ね 、 珠美 君 の 言う 通り だ よ 」

国友 は 、 熱い お茶 を すすって 、「 いくら 他人 に 気 を つかって 暮して る つもり でも 、 恨み を 買う こと は ある 。

世の中 に ゃ 、 親切 を お節 介 と しか とら ない 人間 も いる から ね 」

「 でも 、 私 、 タダ じゃ 親切に し ない もん 」

「 それ が いけない の よ 」

と 、 綾子 が 言った 。

「 あなた は ね 、 少し お 金 、 お 金 と 言い 過ぎる の 。 反省 なさい 」

「 まあ 、 それ が 関係 ある か どう か は 分 ら ない けど な 」

と 、 国友 は 珠美 の ふくれ っつ ら を 見て 笑い ながら 言った 。

「 ともかく 何とか 汚名 を 晴らす こと が でき ない か ね 」

「 きっと 、 裏 に は 大規模な 犯罪 が 隠さ れて る の よ 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 どうして ?

と 、 綾子 が キョトンと して 訊 く 。

「 その方 が 面白い じゃ ない 」

「 もう 、 夕 里子 ったら 」

綾子 は 眉 を ひそめて 、「 そんな 怖い こと ばっかり 、 面白がって いる んじゃ 、 仕方ない でしょ 」

「 いい じゃ ない 。

ただ の 想像 な んだ から 」

と 、 平気な 顔 で 言って 、「 ね 、 国友 さん ?

夕 里子 に そう 言わ れる と 、 国友 と して も 、 答え にくい 。

「 まあ 、 僕 と して は 夕 里子 君 に 、 あまり 物騒な こと に 首 を 突っ込んで ほしく は ない ね 」

「 ほら 、 ごらん なさい 」

「 いや 、 こんな 遅い 時間 に 邪魔 しちゃ って 、 すまなかった ね 」

と 、 国友 は あわてて 言った 。

もちろん 、 国友 も 、 ただ お茶 を 飲み に 来た わけで は ない 。

仕事 半分 で 、 旅行 に 出た ので 、 おみやげ の お 菓子 を 買って 来た のである 。

「 あら 、 いい の よ 。

どうせ 私 、 明日 から 三 日間 休み だし 」

と 、 珠美 が 呑気 な こと を 言って いる 。

「 あんた は 停学 、 姉さん は お 昼 から 。

── 結局 、 私 一 人 が 寝不足な んだ よ ね 」

と 、 夕 里子 が ふてくされた ……。

もう 行か なきゃ 、 と 言い つつ 、 国友 が 腰 を 上げた の は 、 更に 十五 分 ほど 後 の こと である 。

「── 下 まで 送る わ 」

と 、 夕 里子 が 玄関 へ 下りて 、 サンダル を はいた 。

佐々 本家 は マンション の 五 階 である 。

── もちろん 、 もう 深夜 、 一 時 を 回って いる と あって は 、 マンション の 中 も シンと 静まり返って いた 。

エレベーター で 一 階 へ 降りる 。

「── いや 、 三 人 と も いつも 変ら なくて 安心だ な 」

と 、 国友 が 楽しげに 言った 。

「 成長 し ない 、 って 皮肉 ?

「 違う よ 。

いつも ね 、 君 ら に 会って る と 安心 する んだ 。 何だか こう ── ここ へ 来れば 、 いつも 愛情 と か 幸福 と か 、 僕 みたいな 稼業 じゃ 、 あまり お目にかかれ ない もの に 出会える と 思う と 、 ホッ と する 」

夕 里子 は 、 ちょっと 胸 が 熱く なった 。

── 私 の 方 は ね 、 国友 さん 、 あなた が 来る と 、 ちょっと ドキドキ して 、 落ちつか なく なる んだ けど な ……。

でも 、 そんな こと 、 口 に 出して は 言わ ない 。

私 は まだ 十八 歳 の 高校 生 なんだ もの ね ……。

一 階 へ 来て 、 二 人 は 何となく 足 を 止めた 。

「 もう ここ で いい よ 」

と 、 国友 が 言った 。

「 早く 寝て くれ 。 夜ふかし さ せて すまない ね 」

「 どう いたし まして 。

学校 で 居眠り して 怒ら れたら 、『 警察 の 調査 に 協力 して た んです 』 って 言う から 」

国友 が 笑って 何 か 言い かけた とき 、 ポケット ベル が ピーッ と 鳴り 出した 。

「 お やおや 、 こんな 所 で ……」

「 そこ 、 玄関 の わき に 電話 が ある わ 」

「 ありがとう 。

── もう 君 は 戻って くれ 」

「 ええ 。

お やすみ なさい 」

夕 里子 は 、 微笑んで ちょっと 手 を 振る と 、 エレベーター の 方 へ 歩き 出した 。

「 あら 、 何 だ ……」

地下 一 階 の 駐車 場 から 、 誰 か が 乗った らしい 。

ちょうど エレベーター は 一 階 を 通過 して 、 上って 行って しまった 。

割と のんびり した エレベーター が 戻って 来る の を 、 ぼんやり と 待って いる と 、 電話 して いる 国友 の 声 が 、 玄関 ホール に 響いた 。

「── 国友 です 。

── ええ 、 まだ 外 で ──。 分 り ました 。

現場 は ? ── M 中学 ? この 近く だ な 」

M 中 ?

夕 里子 は ちょっと 眉 を 寄せた 。

どこ か で 聞いた 名前 だ わ 。

誰 か 通って た んだ っけ ?

「 分 り ました 。

すぐ 現場 へ 向 い ます 。 ── 殺し です ね 」

M 中 ……。

「 あら 、 いやだ わ 」

と 、 夕 里子 は 口 に 出して 言った 。

「── 国友 さん ! と 、 マンション を 出よう と して いた 国友 の 背中 へ 呼びかける 。

「 何 だい ?

「 M 中 で 何 が あった の ?

「 死体 が 見付かった んだ と さ 。

どうして だい ? 「 M 中 って ── 珠美 の 通って る 中学 な の よ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。


三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 01 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 3 Chapter 01

1  ぬれぎぬ 1 Wet

「 知ら ない って ば ! しら||| "If you don't know!

珠美 が 、 これ 以上 は ふくれ られ ない と いう くらい の ふくれ っつ ら を して 、 強調 した 。 たまみ|||いじょう||||||||||||||きょうちょう| Tamami emphasized that he couldn't swell any more.

「 お 姉ちゃん 、 悲しい ……」 |ねえちゃん|かなしい "Sister, sad ..."

と 、 シクシク 泣いて いる の は ── まあ 、 佐々 本家 の 三 姉妹 を 既に ご存知 の 方 なら 、 お 察し であろう ── 長女 の 綾子 である 。 |しくしく|ないて|||||ささ|ほんけ||みっ|しまい||すでに|ごぞんじ||かた|||さっし||ちょうじょ||あやこ| And, the one who is crying ── Well, if you already know the three sisters of the Sasa Honke, you might have guessed ── Ayako, the eldest daughter.

「 ねえ ── ちょっと 、 二 人 と も 、 そう 泣か ないで よ 」 ||ふた|じん||||なか|| "Hey ── Hey, don't cry so much with us."

上 の 綾子 、 下 の 珠美 の 間 に 挟ま れて 、 困り 切った 顔 で いる の は 、 次女 の 夕 里子 である 。 うえ||あやこ|した||たまみ||あいだ||はさま||こまり|きった|かお|||||じじょ||ゆう|さとご| Sandwiched between Ayako on the top and Tamami on the bottom, the embarrassed face is her second daughter, Yuriko.

「 私 、 泣いて なんかいな いもん ね 」 わたくし|ないて||| "I don't want to cry."

と 、 珠美 が 抗議 した 。 |たまみ||こうぎ| Tamami protested.

「 綾子 姉ちゃん が 勝手に 泣いて んじゃ ない の 」 あやこ|ねえちゃん||かってに|ないて||| "Ayako-neechan isn't crying on her own."

「 珠美 、 あんた も 何とか 言ったら ? たまみ|||なんとか|いったら "Tamami, what should you say?

謝る と か 反省 する と か ──」 あやまる|||はんせい||| Apologize or reflect on it ── "

「 何 を 反省 す ん の よ ! なん||はんせい||||

やって も い ない こと を 反省 なんて でき ない わ ! ||||||はんせい|||| 「 だけど 学校 の 先生 は ──」 |がっこう||せんせい| "But the school teacher is ──"

と 、 綾子 が 涙声 で 言い かける と 、 |あやこ||なみだごえ||いい||

「 何も 分 っちゃ い ない んだ から 、 先生 なんて ! なにも|ぶん||||||せんせい| "I don't know anything, so what a teacher!

珠美 は 、 そう 切り返した 。 たまみ|||きりかえした Tamami turned back.

「 じゃ 、 珠美 、 本当に あなた が やった んじゃ ない の ね ? |たまみ|ほんとうに||||||| "Then, Tamami, you didn't really do it, right?

と 、 綾子 は 、 もう クシャクシャ に なって いる ハンカチ で 目 を こすり ながら 言った 。 |あやこ|||くしゃくしゃ||||はんかち||め||||いった Ayako said, rubbing her eyes with a handkerchief that was already crunchy.

「 くどい ! "It's terrible!

珠美 は 簡潔に 答えた 。 たまみ||かんけつに|こたえた Tamami replied briefly.

何しろ 生れつき ケチ な 性格 である 。 なにしろ|うまれつき|||せいかく| 言葉 だって 、 必要 以上 に は 発し ない 。 ことば||ひつよう|いじょう|||はっし| Words don't speak more than necessary.

「── 分 った わ 」 ぶん||

綾子 は 立ち上る と 、 ダイニング キッチン の 方 へ と 姿 を 消した 。 あやこ||たちのぼる||だいにんぐ|きっちん||かた|||すがた||けした When Ayako stood up, she disappeared toward the dining kitchen.

「── 参った なあ ! まいった| "── I'm here!

珠美 が ドサッ と ソファ に もたれかかる 。 たまみ|||||| Tamami leans against the sofa.

佐々 本家 ── と いって も マンション 住い の 三 人 である 。 ささ|ほんけ||||まんしょん|すまい||みっ|じん| The Sasa Honke ── are the three people who live in the condominium.

父親 と 、 この 三 人 の 娘 たち で 暮して いる のだ が 、 今日 は 折悪しく 、 父親 が 海外 出張 中 。 ちちおや|||みっ|じん||むすめ|||くらして||||きょう||おりあしく|ちちおや||かいがい|しゅっちょう|なか I live with my father and these three daughters, but today it's awkward, and my father is on a business trip abroad. そして ──。

「 パパ が 出張 に 出る と 、 ろくな こと が 起ら ない の よ ねえ 」 ぱぱ||しゅっちょう||でる|||||おこら||||

と 、 夕 里子 が 嘆く 通り な のである 。 |ゆう|さとご||なげく|とおり|| That's exactly what Yuriko mourns.

「 先生 も 分 って ない んだ よ 」 せんせい||ぶん||||

と 、 珠美 が 口 を 尖らした 。 |たまみ||くち||とがらした

「 うん ……。

まあ 、 私 も 、 あんた が やった んじゃ ない と は 思う けど ね 」 |わたくし|||||||||おもう||

と 、 夕 里子 は 肯 いた 。 |ゆう|さとご||こう|

「 その こと じゃ ない の 」

「 じゃ 、 何 よ ? |なん|

「 もちろん 、 それ も ある けど さ 」

と 、 珠美 は 、 天井 へ 目 を やって 、「 私 だって 、 そりゃ お 金儲け は 大好き よ 。 |たまみ||てんじょう||め|||わたくし||||かねもうけ||だいすき|

でも 、 その ため に 、 試験 の 問題 を 盗む なんて 真似 、 し ない わ 」 ||||しけん||もんだい||ぬすむ||まね|||

「 いくら 何でも ねえ 」 |なんでも|

「 そんな こと して 、 いくら 儲かる ? ||||もうかる

学生 の 小づかい なんて 、 たかが 知れて んじゃ ない 。 がくせい||こづかい|||しれて|| 大体 、 そういう の を 買おう って の は 、 出来 の 悪い 奴 でしょ 。 だいたい||||かおう||||でき||わるい|やつ| そんな 、 いつも 出来 の 悪い の が 、 突然 、 何 人 も いい 点 取ったら 、 一 発 で ばれちゃ う よ 。 ||でき||わるい|||とつぜん|なん|じん|||てん|とったら|ひと|はつ|||| 私 が そんな 馬鹿な 商売 する と 思う ? わたくし|||ばかな|しょうばい|||おもう 十五 歳 、 中学 三 年生 に して は 、 ちゃんと 損得 勘定 が しっかり して いる 。 じゅうご|さい|ちゅうがく|みっ|ねんせい|||||そんとく|かんじょう||||

道徳 上 、 して は なら ない から し ない 、 と いう ので ない の が 、 珠美 らしい ところ である 。 どうとく|うえ||||||||||||||たまみ||| In moral, it is a place where it seems to be a beautiful place not to say that it should not do.

「 そりゃ 、 私 に は 分 る けど ──」 |わたくし|||ぶん||

と 、 夕 里子 が 苦笑 して 、「 だけど 、 その 問題 の 案 の コピー が 、 あんた の 鞄 に 入って た 、 って の が 奇妙 ね 」 |ゆう|さとご||くしょう||||もんだい||あん||こぴー||||かばん||はいって|||||きみょう|

「 陰謀 よ 」 いんぼう|

「 何 か 陥れ られる 理由 で も ある の ? なん||おちいれ||りゆう||||

「 知ら ない わ 」 しら||

と 、 珠美 は 肩 を すくめて 、「 先生 が 分 って ない の は ね 、 より に よって 、 綾子 姉ちゃん を 呼びつけた こと よ 」 |たまみ||かた|||せんせい||ぶん|||||||||あやこ|ねえちゃん||よびつけた||

それ は 言える 、 と 夕 里子 は 思った 。 ||いえる||ゆう|さとご||おもった

佐々 本家 で の 母親 代り は ── 三 人 の 母親 は 、 六 年 前 に 亡くなって いる ── 次女 の 夕 里子 が つとめて いる のだ 。 ささ|ほんけ|||ははおや|かわり||みっ|じん||ははおや||むっ|とし|ぜん||なくなって||じじょ||ゆう|さとご||||

十八 歳 、 私立 高校 の 三 年生 だ が 、 しっかり して いる こと で は 、 大人 の 女性 ── いや 、 男性 も 顔負け だった 。 じゅうはち|さい|しりつ|こうこう||みっ|ねんせい|||||||||おとな||じょせい||だんせい||かおまけ|

もっとも 、 当人 は 必ずしも そう 思って いる わけで は ない 。 |とうにん||かならずしも||おもって|||| However, the person himself does not necessarily think so.

年頃 の 娘 らしく 、 女らし さ も 徐々に 、 にじみ出て 来て いる つもりな のだ が 、 客観 的に は 、 一向に 女らしく なら ない 、 と いう 意見 の 方 が 多かった 。 としごろ||むすめ||おんならし|||じょじょに|にじみでて|きて|||||きゃっかん|てきに||いっこうに|おんならしく|||||いけん||かた||おおかった

夕 里子 が こう も しっかり者 に なって しまった の は 、 やはり 、 本来 しっかり して いる べき 、 今年 二十 歳 の 長女 、 綾子 が 、 どうにも 頼りない 性格 だ から だろう 。 ゆう|さとご||||しっかりもの|||||||ほんらい|||||ことし|にじゅう|さい||ちょうじょ|あやこ|||たよりない|せいかく|||

その 逆 も 言える 。 |ぎゃく||いえる ── つまり 、 夕 里子 が あまりに しっかり して いる ので 、 綾子 が 一向に 長 女らしく なら ない のだ 、 と も 。 |ゆう|さとご|||||||あやこ||いっこうに|ちょう|おんならしく|||||

しかし 、 ともかく 女子 大 生 に して は 純真 、 気弱 、 かつ 泣き虫 の 綾子 ── 人 の よ さ は 、 ちょっと 人間 離れ して いる (? ||じょし|だい|せい||||じゅんしん|きよわ||なきむし||あやこ|じん||||||にんげん|はなれ||

) くらい だ が 、 その 故 に 、 妹 二 人 が 苦労 する こと も しばしば であった 。 ||||こ||いもうと|ふた|じん||くろう|||||

「 夕 里子 姉ちゃん が 行って れば 、 ハイハイ って 、 先生 の 話 を おとなしく 聞いちゃ い なかった でしょ ? ゆう|さとご|ねえちゃん||おこなって||||せんせい||はなし|||きいちゃ|||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 そう ね 。

証拠 が どこ に ある んです か 、 ぐらい の こと は 言った でしょう ね 。 しょうこ|||||||||||いった|| でも 、 先生 の 方 は 、 うち の 事情 なんか 知ら ない んだ から 、 母親 が い なきゃ 、 一 番 上 の お 姉さん を 呼ぶ わ よ 。 |せんせい||かた||||じじょう||しら||||ははおや||||ひと|ばん|うえ|||ねえさん||よぶ|| 仕方ない じゃ ない の 」 しかたない|||

「 おかげ で 、 こっち は いい 迷惑 よ 」 |||||めいわく|

と 、 珠美 は しかめ っつ ら を して 、「 先生 の 話 を 聞く 前 から 、 もう 綾子 姉ちゃん なんか 涙ぐんで んだ から 」 |たまみ|||||||せんせい||はなし||きく|ぜん|||あやこ|ねえちゃん||なみだぐんで||

こんな 場合 ながら 、 その 光景 を 想像 して 、 夕 里子 は つい 吹き出して しまい そうに なった 。 |ばあい|||こうけい||そうぞう||ゆう|さとご|||ふきだして||そう に|

「 先生 の 方 も びっくり した だろう ね 」 せんせい||かた|||||

「 そりゃ ね 。

── こっち が ケロッ と して ん のに 、 綾子 姉ちゃん 、 ワンワン 泣き出して さ 。 |||||||あやこ|ねえちゃん|わんわん|なきだして| おかげ で 早々 と 話 は 終った んだ けど ……」 ||はやばや||はなし||しまった||

「 じゃ 、 良かった じゃ ない の 」 |よかった|||

「 だけど 、 完全に 、 こっち が 悪い って 認めた ように 取ら れる じゃ ない の 。 |かんぜんに|||わるい||みとめた||とら|||| "But it's totally taken as I admit that this is bad.

それ が 困る の よ 」 ||こまる||

「 そう ねえ 」

夕 里子 は 肯 いた 。 ゆう|さとご||こう|

「 あんた の 鞄 に 、 問題 の コピー を 誰 か が 隠した と して ── その 機会 は あった の ? ||かばん||もんだい||こぴー||だれ|||かくした||||きかい||| "As someone hid a copy of the problem in your bag, did that opportunity happen?" 「 その 気 に なりゃ 出来る わ よ 。 |き|||できる|| "You can do that.

先生 が 急に 鞄 の 中 を 改める 、 って 言い出して 、 全員 の 鞄 を 開けて みた の は 、 五 時間 目 の 終った 後 な んだ もの 。 せんせい||きゅうに|かばん||なか||あらためる||いいだして|ぜんいん||かばん||あけて||||いつ|じかん|め||しまった|あと||| The teacher suddenly said that he would change the inside of the bag, and I tried opening all the bags, after the fifth hour 's end. 朝 から ずっと 鞄 を 持ち歩いて た わけじゃ ない し 、 お 昼 休み だけ だって 、 充分に 時間 は あった はず よ 」 あさ|||かばん||もちあるいて||||||ひる|やすみ|||じゅうぶんに|じかん|||| I did not carry my bag all day since morning, and I only had lunch break, I should have had enough time. "

「 そう か ……。

すると 、 犯人 は 、 鞄 の 検査 が ある こと を 事前 に 察知 して 、 他の 生徒 の 鞄 へ 入れて おく こと だけ を 考えて た の かも しれ ない わ ね 。 |はんにん||かばん||けんさ|||||じぜん||さっち||たの|せいと||かばん||いれて|||||かんがえて||||||| Then, the perpetrator may have thought only about knowing that there is an inspection of the bag beforehand and putting it in the bag of other students. 特に あんた の 鞄 を 狙った わけじゃ なくて 」 とくに|||かばん||ねらった|| Especially not aimed at your bag. "

「 かも ね 。

でも 、 ともかく 入れ られた の は 私 の 鞄 な んだ から 」 ||いれ||||わたくし||かばん|||

「 困った もん ね 」 こまった||

と 、 夕 里子 は 首 を 振った 。 |ゆう|さとご||くび||ふった

生来 、 冒険 したり と か 、 探険 したり と か が 大好きで 、 加えて 、 この ところ たまたま 殺人 事件 に 巻き込ま れたり する こと が あって 、 ますます 「 探偵 的 性格 」 が 身 に ついた 夕 里子 である 。 せいらい|ぼうけん||||たんけん|||||だいすきで|くわえて||||さつじん|じけん||まきこま|||||||たんてい|てき|せいかく||み|||ゆう|さとご|

しかし 、 今度 の 場合 は 、「 謎 の 連続 殺人 」 と いう わけじゃ ない から 、 つまらない ── など と 、 つい 恐ろしい こと を 考えて しまったり する 夕 里子 である 。 |こんど||ばあい||なぞ||れんぞく|さつじん||||||||||おそろしい|||かんがえて|||ゆう|さとご|

「 ま 、 いい や !

と 、 珠美 が ウーン と 伸び を して 、「 三 日 も 休める ! |たまみ||うーん||のび|||みっ|ひ||やすめる

「 呑気 な こ と 言って 。 のんき||||いって

停学 処分 な の よ 」 ていがく|しょぶん|||

「 休み に ゃ 違いない じゃ ない 。 やすみ|||ちがいない||

平日 だ と 映画 館 は 空いて る だろう な 。 へいじつ|||えいが|かん||あいて||| ディズニーランド に でも 行って 来よう か 」 でぃずにーらんど|||おこなって|こよう|

「 勝手に し なさい 」 かってに||

と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。 |ゆう|さとご||くしょう|

その とき 、 玄関 の チャイム が ポロンポロン と 鳴った 。 ||げんかん||ちゃいむ||||なった

「 誰 だ ろ ? だれ||

「 出て あげる 」 でて|

珍しく 、 珠美 が 玄関 へ と 出て 行く 。 めずらしく|たまみ||げんかん|||でて|いく

夕 里子 は 、 ゆう|さとご|

「 さて 、 寝る か 」 |ねる|

と 、 欠 伸 を し ながら 、 ダイニング キッチン へ と 入って 行った が ……。 |けつ|しん||||だいにんぐ|きっちん|||はいって|おこなった|

ん ?

── お 姉さん 、 椅子 の 上 に 立って 何 して んだ ろ ? |ねえさん|いす||うえ||たって|なん||| 洗濯物 、 干して る の か な 、 あんな ロープ と か 持っちゃ って 。 せんたくもの|ほして||||||ろーぷ|||もっちゃ|

でも 、 台所 で 洗濯物 を 干 すって の も 妙な もん だ し 、 大体 、 ロープ を 輪 っか に して 、 それ に 頭 を 入れる なんて こと は ……。 |だいどころ||せんたくもの||ひ||||みょうな||||だいたい|ろーぷ||りん||||||あたま||いれる|||

あ 、 あれ じゃ 首吊り だ ! |||くびつり|

「 お 姉ちゃん ! |ねえちゃん

大声 で 叫ぶ と 同時に 、 夕 里子 は 綾子 めがけて 飛びかかった 。 おおごえ||さけぶ||どうじに|ゆう|さとご||あやこ||とびかかった

仰天 した 綾子 が 、 ワッ と のけぞり ── 椅子 が 引っくり返る 。 ぎょうてん||あやこ|||||いす||ひっくりかえる

ロープ の 輪 に 、 完全に 頭 を 入れて い なかった の が 幸いして 、 綾子 は 、 飛びついて 来た 夕 里子 共々 、 凄い 勢い で 転落 、 そもそも が そう 広い ダイニング キッチン と いう わけで も なく 、 食器 戸棚 に 衝突 して 、 中 の 茶碗 や 皿 が 派手な 音 を たてて 引っくり返った 。 ろーぷ||りん||かんぜんに|あたま||いれて|||||さいわいして|あやこ||とびついて|きた|ゆう|さとご|ともども|すごい|いきおい||てんらく||||ひろい|だいにんぐ|きっちん||||||しょっき|とだな||しょうとつ||なか||ちゃわん||さら||はでな|おと|||ひっくりかえった

「 痛い ! いたい

「 助けて ! たすけて

どっち が どっち の 悲鳴 やら 。 ||||ひめい|

── ともかく 二 人 して 床 に もつれ 合って 倒れて いる と 、 物音 を 聞きつけた 珠美 が 駆けつけて 来て 、 目 を 丸く した 。 |ふた|じん||とこ|||あって|たおれて|||ものおと||ききつけた|たまみ||かけつけて|きて|め||まるく|

「── 二 人 で プロレス やって ん の ? ふた|じん||ぷろれす|||

「 冗談 じゃ …… ない わ よ 」 じょうだん||||

夕 里子 は 、 したたかに 打った お 尻 を こすり ながら 起き上る と 、「 あれ を 見な よ 」 ゆう|さとご|||うった||しり||||おきあがる||||みな|

と 、 照明 器具 を 下げる フック に 結びつけた ロープ を 指す 。 |しょうめい|きぐ||さげる|||むすびつけた|ろーぷ||さす

「 じゃ …… 綾子 姉ちゃん が ? |あやこ|ねえちゃん|

死んだ の ? しんだ| 「 生きて る わ よ ! いきて|||

と 、 綾子 は 、 やけに なって いる 様子 で 、 床 に あぐら を かいて 、「 死んで 世間 様 に お 詫び しよう と 思った のに 」 |あやこ|||||ようす||とこ|||||しんで|せけん|さま|||わび|||おもった|

「 やめて よ 、 見 っと も ない 」 ||み|||

と 、 珠美 が うんざり した 顔 で 言った 。 |たまみ||||かお||いった

「 見 っと も ない の は どっち よ 」 み||||||| "Which one you do not have an idea?"

「 だ から しつこく 言って んじゃ ない の 。 |||いって|||

あれ を やった の 、 私 じゃ ない んだ 、 って 」 ||||わたくし||||

「 だ と して も 、 停学 処分 に なった の は 事実 でしょ 。 ||||ていがく|しょぶん|||||じじつ|

この 佐々 本家 から 、 停学 処分 に なる 子 が 出た なんて 、 ご 先祖 様 に 申し訳 が ない わ ! |ささ|ほんけ||ていがく|しょぶん|||こ||でた|||せんぞ|さま||もうしわけ||| それ ほど の 名門 で も ない でしょう が 、 と 言い たかった が 、 夕 里子 は 、 じっと こらえて 、 |||めいもん|||||||いい|||ゆう|さとご|||

「 ね 、 ともかく 落ちついて 。 ||おちついて

珠美 が やった んじゃ ない と 分 れば 、 処分 だって 取り消して くれる わ よ 」 たまみ||||||ぶん||しょぶん||とりけして|||

と 、 慰めた 。 |なぐさめた

「 珠美 が やった んじゃ ない って こと を 、 どう やって 立証 する の ? たまみ||||||||||りっしょう||

「 それ なら 任し といて ! ||まかし| "If so please leave it!

と 、 珠美 が 突然 胸 を 張った 。 |たまみ||とつぜん|むね||はった

「 ちょうど いい ところ に お 客 様 です 」 |||||きゃく|さま|

「 そうだ 。 そう だ

玄関 に 誰 か 来て た んだ わ ね 」 げんかん||だれ||きて||||

と 夕 里子 が 、 お 尻 の 痛み に 顔 を しかめ つつ 息 を つく 。 |ゆう|さとご|||しり||いたみ||かお||||いき||

「 誰 な の 、 こんな 夜 遅く に ? だれ||||よ|おそく| 「── 取りこみ 中 みたいだ ね 」 とりこみ|なか|| "It seems to be getting in"

ヒョイ と 顔 を 出した の は ──。 ||かお||だした||

「 国友 さん ! くにとも|

夕 里子 が 赤く なった 。 ゆう|さとご||あかく|

「 何 よ 、 珠美 、 早く 言って くれ なきゃ ! なん||たまみ|はやく|いって|| 「 だって 、 お 姉ちゃん たち 、 二 人 で 寝て んだ もの 」 ||ねえちゃん||ふた|じん||ねて||

「 寝て や し ない わ 。 ねて||||

── あ 、 リビング の 方 で 、 ゆっくり して て ね 」 |りびんぐ||かた|||||

「 しかし 、 穏やかで ない なあ 」 |おだやかで||

若くて 独身 。 わかくて|どくしん

二枚目 ── で は ない が 、 いかにも 人 の いい 感じ の 国友 は 、 M 署 の 刑事 である 。 にまいめ||||||じん|||かんじ||くにとも||m|しょ||けいじ| 佐々 本 三 姉妹 を 巻き込む 殺人 事件 で 、 すっかり 仲良し に なり 、 かつ 、 夕 里子 は 、 国友 の 前 で は いとも 女らしく ── は なら ない まで も 、 多少 優しく なる と いう 仲 で も ある 。 ささ|ほん|みっ|しまい||まきこむ|さつじん|じけん|||なかよし||||ゆう|さとご||くにとも||ぜん||||おんならしく||||||たしょう|やさしく||||なか|||

「 ありゃ 何 だい ? |なん|

と 、 国友 が 、 輪 っか に なった ロープ を 指した 。 |くにとも||りん||||ろーぷ||さした

「 え ?

ああ 、 あれ です か ? と 、 綾子 も あわてて 立ち上る と 、「 あの ね 、 ほら 、 お 正月 も 近い し 、 新巻 鮭 でも 吊 し と こう か と 思った んです 」 |あやこ|||たちのぼる||||||しょうがつ||ちかい||あらまき|さけ||つり||||||おもった|

「 部屋 の 真中 に ? へや||まんなか|

と 、 国友 が 目 を 丸く した 。 |くにとも||め||まるく|

「── なるほど 、 そりゃ 災難 だった ねえ 」 ||さいなん||

国友 は 、 珠美 の 停学 処分 の 話 を 聞く と 、 肯 いた 。 くにとも||たまみ||ていがく|しょぶん||はなし||きく||こう|

「 国友 さん 、 学校 に かけ合って 、 処分 を 取り消さ せて くれ ない ? くにとも||がっこう||かけあって|しょぶん||とりけさ|||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 そい つ は 無理だ よ 。 |||むりだ|

学校 の 決定 に 文句 を つける って の は ……」 がっこう||けってい||もんく|||||

「 じゃ 、 乙女 心 の 傷 は どう なって も いい の ? |おとめ|こころ||きず||||||

「 いや ── そう じゃ ない けど ──」

と 、 国友 は たじたじ である 。 |くにとも|||

「 珠美 ったら 、 無 茶 言わ ないで よ 」 たまみ||む|ちゃ|いわ||

と 、 夕 里子 が たしなめた 。 |ゆう|さとご||

「 お茶 も 飲め ない じゃ ない の 、 国友 さん 」 おちゃ||のめ|||||くにとも|

「 いや 、 僕 だって ね 、 珠美 君 が そんな こと を する 子 じゃ ない の は 分 って る さ 。 |ぼく|||たまみ|きみ||||||こ|||||ぶん|||

たぶん 、 夕 里子 君 の 考えた 通り 、 誰 か が 、 鞄 の 中 を 検査 さ れる の を 恐れて 、 珠美 君 の 鞄 へ 、 その コピー を 隠した んだろう な 」 |ゆう|さとご|きみ||かんがえた|とおり|だれ|||かばん||なか||けんさ|||||おそれて|たまみ|きみ||かばん|||こぴー||かくした||

「 故意 に 珠美 を 選んだ の か 、 それとも 偶然だった の か は ともかく ね 」 こい||たまみ||えらんだ||||ぐうぜんだった|||||

「 誰 か に 恨ま れる 覚え で も ある かい ? だれ|||うらま||おぼえ||||

珠美 は 肩 を すくめて 、 たまみ||かた||

「 他人 の 気持 まで は 分 ん ない わ 」 たにん||きもち|||ぶん|||

「 珠美 ったら 、 そんな 生意気 言って ──」 たまみ|||なまいき|いって

と 、 夕 里子 が にらむ 。 |ゆう|さとご||

「 いや 、 しかし 確かに ね 、 珠美 君 の 言う 通り だ よ 」 ||たしかに||たまみ|きみ||いう|とおり||

国友 は 、 熱い お茶 を すすって 、「 いくら 他人 に 気 を つかって 暮して る つもり でも 、 恨み を 買う こと は ある 。 くにとも||あつい|おちゃ||||たにん||き|||くらして||||うらみ||かう|||

世の中 に ゃ 、 親切 を お節 介 と しか とら ない 人間 も いる から ね 」 よのなか|||しんせつ||おせち|かい|||||にんげん|||| Because there are people who take friendly kindness only in the world. "

「 でも 、 私 、 タダ じゃ 親切に し ない もん 」 |わたくし|ただ||しんせつに||| "But I, I will not do it for free"

「 それ が いけない の よ 」

と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった

「 あなた は ね 、 少し お 金 、 お 金 と 言い 過ぎる の 。 |||すこし||きむ||きむ||いい|すぎる| 反省 なさい 」 はんせい|

「 まあ 、 それ が 関係 ある か どう か は 分 ら ない けど な 」 |||かんけい||||||ぶん||||

と 、 国友 は 珠美 の ふくれ っつ ら を 見て 笑い ながら 言った 。 |くにとも||たまみ||||||みて|わらい||いった

「 ともかく 何とか 汚名 を 晴らす こと が でき ない か ね 」 |なんとか|おめい||はらす||||||

「 きっと 、 裏 に は 大規模な 犯罪 が 隠さ れて る の よ 」 |うら|||だいきぼな|はんざい||かくさ||||

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 どうして ?

と 、 綾子 が キョトンと して 訊 く 。 |あやこ||きょとんと||じん|

「 その方 が 面白い じゃ ない 」 そのほう||おもしろい||

「 もう 、 夕 里子 ったら 」 |ゆう|さとご|

綾子 は 眉 を ひそめて 、「 そんな 怖い こと ばっかり 、 面白がって いる んじゃ 、 仕方ない でしょ 」 あやこ||まゆ||||こわい|||おもしろがって|||しかたない|

「 いい じゃ ない 。

ただ の 想像 な んだ から 」 ||そうぞう|||

と 、 平気な 顔 で 言って 、「 ね 、 国友 さん ? |へいきな|かお||いって||くにとも|

夕 里子 に そう 言わ れる と 、 国友 と して も 、 答え にくい 。 ゆう|さとご|||いわ|||くにとも||||こたえ|

「 まあ 、 僕 と して は 夕 里子 君 に 、 あまり 物騒な こと に 首 を 突っ込んで ほしく は ない ね 」 |ぼく||||ゆう|さとご|きみ|||ぶっそうな|||くび||つっこんで||||

「 ほら 、 ごらん なさい 」

「 いや 、 こんな 遅い 時間 に 邪魔 しちゃ って 、 すまなかった ね 」 ||おそい|じかん||じゃま||||

と 、 国友 は あわてて 言った 。 |くにとも|||いった

もちろん 、 国友 も 、 ただ お茶 を 飲み に 来た わけで は ない 。 |くにとも|||おちゃ||のみ||きた||| Of course, Kunitomo did not just come to drink tea.

仕事 半分 で 、 旅行 に 出た ので 、 おみやげ の お 菓子 を 買って 来た のである 。 しごと|はんぶん||りょこう||でた|||||かし||かって|きた|

「 あら 、 いい の よ 。

どうせ 私 、 明日 から 三 日間 休み だし 」 |わたくし|あした||みっ|にち かん|やすみ|

と 、 珠美 が 呑気 な こと を 言って いる 。 |たまみ||のんき||||いって|

「 あんた は 停学 、 姉さん は お 昼 から 。 ||ていがく|ねえさん|||ひる|

── 結局 、 私 一 人 が 寝不足な んだ よ ね 」 けっきょく|わたくし|ひと|じん||ねぶそくな|||

と 、 夕 里子 が ふてくされた ……。 |ゆう|さとご||

もう 行か なきゃ 、 と 言い つつ 、 国友 が 腰 を 上げた の は 、 更に 十五 分 ほど 後 の こと である 。 |いか|||いい||くにとも||こし||あげた|||さらに|じゅうご|ぶん||あと|||

「── 下 まで 送る わ 」 した||おくる|

と 、 夕 里子 が 玄関 へ 下りて 、 サンダル を はいた 。 |ゆう|さとご||げんかん||おりて|さんだる||

佐々 本家 は マンション の 五 階 である 。 ささ|ほんけ||まんしょん||いつ|かい|

── もちろん 、 もう 深夜 、 一 時 を 回って いる と あって は 、 マンション の 中 も シンと 静まり返って いた 。 ||しんや|ひと|じ||まわって|||||まんしょん||なか||しんと|しずまりかえって|

エレベーター で 一 階 へ 降りる 。 えれべーたー||ひと|かい||おりる

「── いや 、 三 人 と も いつも 変ら なくて 安心だ な 」 |みっ|じん||||かわら||あんしんだ|

と 、 国友 が 楽しげに 言った 。 |くにとも||たのしげに|いった

「 成長 し ない 、 って 皮肉 ? せいちょう||||ひにく

「 違う よ 。 ちがう|

いつも ね 、 君 ら に 会って る と 安心 する んだ 。 ||きみ|||あって|||あんしん|| 何だか こう ── ここ へ 来れば 、 いつも 愛情 と か 幸福 と か 、 僕 みたいな 稼業 じゃ 、 あまり お目にかかれ ない もの に 出会える と 思う と 、 ホッ と する 」 なんだか||||くれば||あいじょう|||こうふく|||ぼく||かぎょう|||おめにかかれ||||であえる||おもう||ほっ||

夕 里子 は 、 ちょっと 胸 が 熱く なった 。 ゆう|さとご|||むね||あつく|

── 私 の 方 は ね 、 国友 さん 、 あなた が 来る と 、 ちょっと ドキドキ して 、 落ちつか なく なる んだ けど な ……。 わたくし||かた|||くにとも||||くる|||どきどき||おちつか|||||

でも 、 そんな こと 、 口 に 出して は 言わ ない 。 |||くち||だして||いわ|

私 は まだ 十八 歳 の 高校 生 なんだ もの ね ……。 わたくし|||じゅうはち|さい||こうこう|せい|||

一 階 へ 来て 、 二 人 は 何となく 足 を 止めた 。 ひと|かい||きて|ふた|じん||なんとなく|あし||とどめた

「 もう ここ で いい よ 」

と 、 国友 が 言った 。 |くにとも||いった

「 早く 寝て くれ 。 はやく|ねて| 夜ふかし さ せて すまない ね 」 よふかし||||

「 どう いたし まして 。

学校 で 居眠り して 怒ら れたら 、『 警察 の 調査 に 協力 して た んです 』 って 言う から 」 がっこう||いねむり||いから||けいさつ||ちょうさ||きょうりょく|||||いう|

国友 が 笑って 何 か 言い かけた とき 、 ポケット ベル が ピーッ と 鳴り 出した 。 くにとも||わらって|なん||いい|||ぽけっと|べる||||なり|だした

「 お やおや 、 こんな 所 で ……」 |||しょ|

「 そこ 、 玄関 の わき に 電話 が ある わ 」 |げんかん||||でんわ|||

「 ありがとう 。

── もう 君 は 戻って くれ 」 |きみ||もどって|

「 ええ 。

お やすみ なさい 」

夕 里子 は 、 微笑んで ちょっと 手 を 振る と 、 エレベーター の 方 へ 歩き 出した 。 ゆう|さとご||ほおえんで||て||ふる||えれべーたー||かた||あるき|だした

「 あら 、 何 だ ……」 |なん|

地下 一 階 の 駐車 場 から 、 誰 か が 乗った らしい 。 ちか|ひと|かい||ちゅうしゃ|じょう||だれ|||のった|

ちょうど エレベーター は 一 階 を 通過 して 、 上って 行って しまった 。 |えれべーたー||ひと|かい||つうか||のぼって|おこなって|

割と のんびり した エレベーター が 戻って 来る の を 、 ぼんやり と 待って いる と 、 電話 して いる 国友 の 声 が 、 玄関 ホール に 響いた 。 わりと|||えれべーたー||もどって|くる|||||まって|||でんわ|||くにとも||こえ||げんかん|ほーる||ひびいた

「── 国友 です 。 くにとも|

── ええ 、 まだ 外 で ──。 ||がい| 分 り ました 。 ぶん||

現場 は ? げんば| ── M 中学 ? m|ちゅうがく この 近く だ な 」 |ちかく||

M 中 ? m|なか

夕 里子 は ちょっと 眉 を 寄せた 。 ゆう|さとご|||まゆ||よせた

どこ か で 聞いた 名前 だ わ 。 |||きいた|なまえ||

誰 か 通って た んだ っけ ? だれ||かよって|||

「 分 り ました 。 ぶん||

すぐ 現場 へ 向 い ます 。 |げんば||むかい|| ── 殺し です ね 」 ころし||

M 中 ……。 m|なか

「 あら 、 いやだ わ 」

と 、 夕 里子 は 口 に 出して 言った 。 |ゆう|さとご||くち||だして|いった

「── 国友 さん ! くにとも| と 、 マンション を 出よう と して いた 国友 の 背中 へ 呼びかける 。 |まんしょん||でよう||||くにとも||せなか||よびかける

「 何 だい ? なん|

「 M 中 で 何 が あった の ? m|なか||なん|||

「 死体 が 見付かった んだ と さ 。 したい||みつかった|||

どうして だい ? 「 M 中 って ── 珠美 の 通って る 中学 な の よ 」 m|なか||たまみ||かよって||ちゅうがく|||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった