三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 08
8 閉ざさ れた 扉
「── どう ?
と 、 夕 里子 は 、 声 を かけた 。
「 だめだ 」
国 友 が 、 雪 の 斜面 を 上って 来て 、 息 を ついた 。
「 何の 跡 も ない よ 」
「 そう ……」
「 あまり 遠く へ は 行け ない 。
どんどん 傾斜 が 急に なって る んだ 。 雪 が ゴソッ と 落ちたら 、 こっち も 一緒に 谷底 だ から ね 」
「 戻り ましょう 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
山荘 から 、 二 人 は あの 道 を 辿 って 、 昨日 、 車 が 落ちた 辺り まで 来て いた のである 。
「 でも ── 川西 みどり さん 、 どこ へ 行っちゃ った の かしら ?
山荘 の 方 へ と 歩き ながら 、 夕 里子 は 言った 。
「 うん ……。
あの とき 、 そば に 誰 か そっと やって 来た と して も 、 分 ら なかった だろう な 。 みんな 夢中で ロープ を 引いて た から 」
「 そう ね 。
── でも 、 何だか 気 に 入ら ない 」
「 君 も か ?
僕 も だ 」
「 今朝 も 、 あそこ の ご 主人 、 姿 を 見せ なかった わ 」
「 うん 。
奇妙だ な 」
「 いくら 気分 が すぐれ ない って いって も ……。
食事 の 仕度 は して る って いう のに 」
「 本当 は あの 奥さん が やって る んじゃ ない の か 」
「 だったら 、 そう 言えば いい わ 。
なぜ 、 いちいち 、 食事 は ご 主人 が 作って る なんて 、 噓 を つく 必要 が ある ? 「 そう か ……」
国 友 は 肯 いた 。
「 あそこ に は 、 ご 主人 って い ない んじゃ ない かしら 」
「 いない ?
「 そう 。
── それ を 、 いる と 思わ せる ため に ……」
「 しかし 、 あの ドライブ ・ イン の 主人 が 、 言って た じゃ ない か 」
「 それ な の よ 」
と 、 夕 里子 は 、 夫 が 先 に ここ へ 向 った と 聞いた とき の 、 園子 の 様子 を 話して やった 。
「 相 変ら ず だ な 、 君 は 」
と 、 国 友 が 笑って 言った 。
「 あら 、 何 よ 」
「 いや 、 実に 観察 が 鋭い 、 って 言い たかった の さ 」
「 取って つけた みたい ね 。
── ともかく 、 ご 主人 は 、 東京 に 女 が いて 、 奥さん より 先 に 戻り たかった んだ と 思う わ 」
「 ふむ 。
それ で ?
「 奥さん は 、 山荘 へ 着いて から 、 私 たち が 一 息 ついて いる 間 に ご 主人 を 殺して ──」
「 おい !
と 、 国 友 が 目 を 丸く した 。
「 そう 簡単に 殺す な よ 」
「 仮説 よ 、 もちろん 。
でも 、 可能 性 ある と 思わ ない ? まだ ご 主人 が 生きて る と 思わ せる ため に 、 料理 を ご 主人 が 作って る 、 と 強調 したり して ……」
「 あまり 効果 的 と は 思え ない ね 」
「 もちろん よ 。
でも 、 とっさ の こと だ も の 、 それ ぐらい しか 思い 付か なかった んじゃ ない かしら 」
「 考え られ ない こと じゃ ない けど ね 」
国 友 は 肯 いて 、「 しかし 、 死体 を どこ へ 隠した んだろう ?
「 部屋 へ 隠す こと ない わ 。
何しろ 、 この 雪 です もの 。 たとえば ──」
足 を 止め 、 夕 里子 は 振り返った 。
大量の 雪 が 、 すっかり 道 を 塞いで しまって いる の が 見える 。
「 あの 下 か 」
「 それ も 可能 性 の 一 つ ね 」
── 二 人 は また 歩き 出した 。
「 でも ね 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 そう だ と して も 、 他の 事 は 説明 でき ない の 。 車 の 転落 、 川西 みどり の 行方 不明 ……」
「 それ に あの 超 能力 少年 か 」
国 友 は 首 を 振って 、「 どうも 好きに なれ ない ね 、 あの タイプ は 」
「 そんな こと 言う と 、 聞こえる わ よ 」
と 、 夕 里子 は 、 谷 の 向 う の 山荘 を 指して 、
「 凄い 耳 を 持って る の かも しれ ない わ 」
「 なるほど 。
ちょっと 指 を 動かせば 、 僕 ら を 殺せる の かも しれ ない な 。 人形 に 針 を 刺す と か ……」
「 あら 、 雪 ?
こんなに 晴れて いる のに 。
── パラパラ と 白い もの が 落ちて 来た 。
ゴーッ と いう 唸り 。
ハッと 国 友 が 、 頭上 を 見上げた 。 夕 里子 も 、 ほとんど 同時に 、 山 の 高 み を 見上げる 。
雪 が 、 白い 雲 の ように なって 、 頭上 から 崩れ落ちて 来る 。
「 走れ !
と 、 国 友 が 叫んだ 。
二 人 が 駆け 出す 。
── 下敷き に なったら 終り だ !
ここ まで 何 秒 で 落ちて 来る だろう ?
一 秒 ?
── 二 秒 ?
息 を つめ 、 必死に 駆ける ……。
突然 、 巨大な 手 で 殴ら れた ように 、 夕 里子 は 、 地面 に 叩き 伏せ られた 。
ドドド 、 と いう 地響き と 共に 、 夕 里子 の 背 に どんどん と 重 み が 加わって 来た 。
── 生き埋め に なる ! 神様 !
そして …… 不意に 静かに なった 。
夕 里子 は 、 必死で 起き上ろう と した 。
体 の 上 の 雪 が 、 ガタガタ と 動く 。 どれ ぐらい 積って いる のだろう ?
背骨 が 折れる か と 思う ほど の 力 で 、 歯 を くいしばり 、 夕 里子 は 、 両手 で 体 を 押し上げよう と した 。
と ── パッと 雪 の 壁 を 突き破って 、 夕 里子 の 上半身 が 雪 の 上 に 出て いた 。
「 国 友 さん !
手 が 見えた 。
雪 から 突き出て 、 空 を つかんで もがいて いる 。
「 国 友 さん !
待って て ! 夕 里子 は 、 雪 の 中 から 這い 出す と 、 国 友 の 方 へ と 駆け寄った 。
両手 で 、 力一杯 雪 を かき 出し 、 腕 を つかんで 、 体重 を かけて 引 張った 。
「── お 手伝い し ましょう か 」
振り向く と 、 珠美 が やって 来た 。
「 珠美 、 何 のんびり して ん の よ !
と 、 夕 里子 は 叫んだ 。
「 早く 来て ! 国 友 さん が 窒息 しちゃ う ! 「 は いはい 」
と 、 珠美 が やって 来る 。
「 手 が 冷たく なっちゃ う なあ ……」
「 つべこべ 言って ないで 、 早く 引 張 ん の よ !
「 そう キーキー 言わ ない の 。
── それにしても 、 今度 は 腕 の 疲れる 旅行 だ ね 」
珠美 とて 、 怪力 の 持主 と いう わけで は ない けれど 、 一 人 と 二 人 の 差 は 大きく 、 やがて 、 国 友 の 頭 が 、 雪 から 出て 来た 。
「── ああ 、 助かった !
雪 だらけ で 、 雪 男 みたいに なった 国 友 は 、 激しく 呼吸 を した 。
「 お 安く し とき ます 」
と 、 珠美 が 言った 。
国 友 も 、 やっと 雪 の 中 から 出て 来た が 、 歩こう と して 、
「 痛い !
と 、 顔 を しかめる 。
「 足 を 痛めた の ?
「 うん 。
── 挫いた らしい 。 悪い けど 、 肩 を 貸して くれ ない か 」
「 いい わ よ 。
ほら 、 珠美 、 反対 側 の 方 」
「 は あい 」
夕 里子 と 珠美 の 二 人 で 、 両側 から 国 友 を 支え ながら 、 山荘 の 方 へ と 歩き 出す 。
「── 危ない ところ だった 」
と 、 国 友 は 言った 。
「 夕 里子 君 、 どこ も けが は ? 「 死んで る の かも しれ ない けど 、 今 は 国 友 さん の こと が 心配で 、 感じ ない の 」
「 キザ だ ね 」
と 、 珠美 が 冷やかした 。
「 でも 、 あんた 、 いい 所 へ 来て くれた わ 」
「 そう ?
そう 思ったら 、 お 小づかい 上げて よ 」
「 それ が なきゃ いい のに ね 」
「 これ が なくなったら 、 私 で なく なる 」
それ は そう かも 、 と 夕 里子 は 思った 。
「── 別に ね 、 予感 が あった と か じゃ ない の よ 」
と 、 珠美 は 言った 。
「 ただ 、 お 昼 ご飯 です よ 、 って 呼び に 来た だけ 」
山荘 へ 大分 近付いて いた 。
「── ねえ 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 え ?
お 昼 の おかず なら 、 知ら ない よ 」
「 そう じゃ ない わ よ !
あの 部屋 、 誰 か 泊って る の ? と 、 夕 里子 は 山荘 の 方 へ 目 を やった まま 、 言った 。
「 どの 部屋 」
「 一 番 こっち の 。
二 階 の 窓 。 ── 今 、 カーテン が 閉まって る でしょ 」
「 ああ 、 あれ ?
── さあ 。 二 階 で いえば ……。 私 たち の 方 と は 反対 側 でしょ 」
「 そう ね 」
「 じゃ 、 お 客 は 入れて ない らしい よ 。
みんな 、 私 たち の 方 の 側 の 部屋 に いる んだ もん 」
「 そう か ……」
で は 、 あの 窓 に 今 立って いた の は 誰 な んだろう ?
今 は カーテン が 閉まって いる その 窓 に 、 夕 里子 は 、 確かに 人 の 姿 を 見た のである 。
その 人物 は 、 夕 里子 たち の 方 を 、 じっと 見て いる ようだった 。
もちろん 、 まだ 大分 遠い のだ から 、 どんな 男 だった か ( 男 だ 、 と は 思った のだ が )、 よく 分 ら ない が ……。
しかし 少なくとも 、 それ は 、 水 谷 や 金 田 で は なかった 。
して みる と ── 石垣 園子 の 夫 な の か ?
やはり 、 夫 は 本当に ただ 、「 気分 が 悪い 」 と いう ので 、 休んで いる のだろう か ……。
国 友 と 夕 里子 が 戻って 、 また 一 騒ぎ が あった もの の 、 昼食 の 後 は 、 比較的 のんびり して しまった 。
もちろん 、 川西 みどり の こと も 気 に は なって いたろう が 、 ともかく ここ で 騒いで も 始まら ない のである 。
金田 や 敦子 は 、 裏庭 の 方 へ 出て 、 雪 で 遊んだり して いた 。
国 友 は 、 部屋 で 寝て いた 。
── 捻挫 は 大した こと も ない ようだ が 、 一応 、 湿布 して ある ので 、 動け ない 。
夕 里子 も 、 国 友 を 助ける の に 夢中だった ので 、 一向に 感じ なかった のだ が 、 お 風呂 へ 入って みる と 、 結構 、 かすり傷 が あちこち に できて いて 、 ベッド に 横 に なる と 、 急に 疲れ が 出て 来た の か 、 いつの間にか 眠って しまった 。
── 山荘 の 中 は 静かだった 。
綾子 は 、 と いえば ……。
本来 なら 、 こんな 状況 である 、 勉強 を 教える と いう 雰囲気 で は ない のだ が 、 そこ は 生真面目な 綾子 。
今日 も 、 一 階 の 奥 の 方 に ある 秀 哉 の 部屋 で 「 授業 」 を 続けて いた 。
「── できて る わ 」
綾子 は 、 秀 哉 に 出した 練習 問題 の 答え を ざっと 見て 、 ノート を 置いた 。
「 もう 、 あなた に 教える こと なんて 、 ない みたい 」
「 そんな こと ない よ 」
と 、 秀 哉 は 言った 。
「 どうして ?
何でも 、 よく 分 って る じゃ ない の 」
「 分 ら ない こと だって ある よ 」
「 そう ?
どんな こと ? ── 秀 哉 は 、 何となく 不思議な 目 で 綾子 を 見つめて いた 。
「── 失礼 」
と 、 ドア が 開いて 、 園子 が 入って くる 。
「 あ 、 どうも 」
「 ご苦労様です 。
お 茶 でも 、 と 思って ……」
園子 は 、 いい 香り の 紅茶 を 運んで きた 。
「 どうぞ 」
「 恐れ入り ます 」
綾子 は 匂い を かいで 、「── 素敵な 匂い !
何の 紅茶 です の ? 「 珍しい 葉 な んです よ 。
なかなか 手 に 入ら ない もの で 」
と 、 園子 は 言った 。
「 秀 哉 。 あなた は ココア ね 」
「 うん 」
「 お 勉強 の 方 は ?
「 よく 分 って 楽しい よ 」
と 、 秀 哉 は 言った 。
「 まあ 、 良かった わ 。
こんな 所 まで 来て いただいた かい が あり ました 」
「 いいえ 」
綾子 と して は 、 これ で 一 日 一万 円 も もらって は 申し訳ない 、 と 本気で 思って いる 。
「── あの 、 ご 主人 の 具合 は いかがです の ?
紅茶 を ゆっくり と 飲み ながら 、 綾子 は 訊 いた 。
「 ええ 、 どうも この ところ 疲れ やすくて ね 」
「 いけ ませ ん ね 。
── 何 か ご 病気 を ? 「 病気 と いう わけで は ……。
ただ 、 トシ な んです わ 」
「 でも ── まだ そんなに お 年 で は ……」
「 そう 。
たった 四百 歳 です もの ね 」
と 言って 、 園子 は 笑った 。
綾子 は 、 何となく ゾッと した が 、 一緒に なって 笑う こと に した 。
「 パパ に は 、 必要な もの が ある んだ よ 」
と 、 秀 哉 が 言った 。
「 必要な もの ?
「 うん 。
それ さえ あれば 、 元気に なる んだ けど ね 」
「 まあ 、 それ が 今 は ──」
「 なかなか 手 に 入り ませ ん の 」
と 園子 は 首 を 振った 。
「 お 薬 ── か 何 か です か 」
「 そんな ような もの です 」
綾子 は 、 紅茶 を きれいに 飲み干して しまった 。
── ちょっと 変った 匂い と 味 の 紅茶 だった が 、 本当に おいしい 。
「 ごちそうさま でした 」
「 まあ 、 気 に 入って いただけた ようです わ ね 。
嬉しい わ 」
と 、 園子 は 微笑んだ 。
「 じゃ 、 秀 哉 、 ちゃんと 教えて いただく の よ 」
「 うん 」
「 お邪魔 いたし まして 」
「 いいえ ……」
綾子 は 、 園子 が 出て 行く と 、「 面白い お 母 様 ね 」
と 言った 。
「 そう だ ね 」
秀 哉 は 、 鉛筆 の 先 で 、 机 を トン 、 トン 、 と 叩き 始めた 。
「 じゃ 、 次の ページ に 行き ましょう か 」
と 、 綾子 は 、 本 を めくって 、 欠 伸 を した 。
「 いやだ わ 。
眠く なって 来た ……」
「 そう ?
鉛筆 が トントントン 、 と 単調な リズム を 作って いる 。
綾子 は 、 頭 の 中 に もや が 広がって 来る ような 気 が して 、 頭 を 振った 。
でも 、 一向に スッキリ し ない 。
だめじゃ ない の !
ちゃんと お 金 を もらって 教えて いる のに 、 その 最中 に 寝たり しちゃ ! しっかり して !
「 眠ったら ?
トントントン ……。
「 でも …… だめ よ …… お 勉強 が ……」
瞼 が 重く なる 。
綾子 は 、 必死で 開けて いよう と する のだ が 、 だめな のだ 。
「 大丈夫 さ 」
トントントン ……。
「 そう ……。
そう ね 、 大丈夫 ね ……」
大丈夫 。
教え なく たって 、 この 子 は よく 分 って る んだ もの ……。
「 疲れて る んだ よ 。
それ に お腹 も 一杯で 」
「 そう …… ね 」
「 眠く なって も 当り前 さ 」
「 当り前 ね ……」
「 目 を 閉じて 、 ゆっくり 頭 を 机 に のせて 、 眠ったら ?
「 そう …… そう ね 」
目 が 閉じる と 、 綾子 は 、 ゆっくり と 机 の 上 に 頭 を のせた 。
冷たい 机 の 感触 が 、 かすかに あって ……。
それ きり 、 綾子 は 、 深い 眠り の 中 へ と 、 引きずり 込ま れて 行った 。
夕 里子 は ハッと 起き上がった 。
「 い たた ……」
体 の 節々 が 痛い 。
── 部屋 は 明るかった 。
どうした んだろう ?
どうして 急に 目 が さめた の かしら ?
何だか 、 突然 、 危険な こと に 出あった ような 気 が して 、 ハッと した のだ 。
「 夢 でも 見て た の か なあ 」
と 、 呟いた 。
何の 夢 を ?
── 一向に 思い出せ ない のだ が 、 しかし 恐ろしい 夢 だった こと は 、 間違い ない 。
少し 、 額 に 汗 まで かいて いる 。
夕 里子 は 、 ベッド に 座った まま 、 しばらく ぼんやり して いた 。
窓 の 外 は 明るく 、 雪 を かぶった 山 が 、 少し 覗いて いる 。
空気 も 澄んで いて 、 本当 なら 、 こんなに 楽しい こと は ない はずな のに ……。
でも 、 何 か 重苦しい 影 が 、 のしかかって いる ような 気 が して なら ない のだ 。
トントン 、 と ノック の 音 が した 。
「 どなた ?
「 僕 だ よ 、 金田 」
「 ああ 。
入り なさい よ 」
金田 が 、 そっと 入って 来る 。
「 寝て る の か と 思った 」
「 今 、 起きた ところ よ 。
── どうした の ? 「 うん 」
金田 は 、 空いた ベッド に 腰 を かけた 。
「 口説き に 来た んじゃ ない でしょう ね 」
「 まさか 」
「 あら 、 それ 、 どういう 意味 ?
「 いや ── あの 刑事 さん が いる から さ 」
と 、 金田 は あわてて 言った 。
「 お 世辞 は いい わ よ 。
どうか した の ? 「 今 、 君 の 妹 なんか と さ 、 裏 で 遊んで た んだ よ 」
「 それ で ?
「 雪 ダルマ を 作って ね 。
三 つ も こしらえた んだ 」
「 へえ 、 意外 と 幼い 趣味 ね 」
「 からかう な よ 」
「 いい じゃ ない 。
私 だって 好き よ 」
「 ただ さ ── その とき 、 雪 の 中 から 、 こいつ を 見付けた 」
と 、 金田 が ポケット から 出した の は 、 銀色 の ペンダント だった 。
「 それ が どうした の ?
「 川西 みどり の なんだ 」
夕 里子 は 、 立って 行って 、 ペンダント を 受け取った 。
「── 確かに ?
「 うん 。
僕 が 買って やった んだ もの 。 ほら 、〈 M ・ K 〉 って 彫って ある だ ろ ? 「 そう ね 。
── どの 辺 で ? 「 だ から 、 そこ の 裏 。
── あんまり 崖 の 方 に は 行って ない 」
「 そう ……。
彼女 、 ここ へ 来て いる って こと だ わ 」
「 でも 、 どこ に いる ?
「 分 ら ない けど ……」
夕 里子 は 、 ペンダント を 、 金田 に 返した 。
「 彼女 の 身 に 何 か あった と 思う かい ?
「 当然 よ 」
夕 里子 は 即座に 答えた 。
「 あんな 所 で 、 彼女 が 自分 から 姿 を 消す わけな いわ 」
金田 は 、 ため息 を ついた 。
「 どういう こと な んだろう な 。
── さっぱり 分 ら ない よ 」
夕 里子 は 、 ちょっと 考えて から 、
「 ねえ 」
と 、 少し 声 を 低く して 、「 一緒に 調べて み ない ?
「 何 を ?
「 反対の 端 の 部屋 。
── さっき 、 誰 か いる の が 見えた の よ 」
「 二 階 の ?
「 そう 。
── もしかしたら 、 幻 の ご 主人 かも しれ ない わ 、 ここ の 」
「 でも 、 奥さん たち 、 一 階 に いる んじゃ ない の かい ?
「 そう よ 。
だから 、 二 階 に 誰 が いる か 、 興味 ある の よ 」
「 でも 勝手に ──」
「 そう 。
もしかしたら 、 川西 みどり さん の こと だって 分 る かも しれ ない のに 」
と 肩 を すくめて 、「 いい わ 。
私 、 一 人 で 調べる 」
「 待てよ 。
分 った から ……」
金田 は 苦笑い して 、「 きっと 君 の 恋人 の 刑事 さん も 、 いつも こうして 引 張り 回さ れて る んだ な 」
と 言った 。
廊下 へ 出る と 、 夕 里子 は 、 一 階 へ 下りる 階段 の 所 へ 行き 、 下 の 様子 を うかがった 。
「── 別に 、 人 の 来る 気配 は ない わ 」
と 、 囁く ように 言って 、「 行 くわ よ 」
廊下 を 、 あまり 足音 を たて ない ように して 、 進んで 行く 。
「── この ドア よ 」
と 、 夕 里子 は 低く 囁いた 。
「 開く ?
「 分 ら ない けど ……。
ちょっと 待って 」
夕 里子 は 、 ドア に 、 そっと 耳 を 押し当てた 。
誰 か が いる の なら 、 少し ぐらい は 物音 が する だろう 。
── しかし 、 たっぷり 三 分 以上 も 耳 を 澄まして いた が 、 かすかな 音 一 つ 、 聞こえ ない 。
夕 里子 は 、 ドア の ノブ を そっと つかむ と 、 回して みた 。
開く 。
── ドア は スッ と 内側 へ と 開いた 。
「 大丈夫 かい ?
金田 が 、 思わず 言った 。
「 何 よ 、 男 でしょ 」
中 は 、 真 暗 だった 。
いくら カーテン が 引いて ある と は いって も 、 少し は 光 が 入って い い はずだ が 。
何も 見え ない 。
── 夕 里子 は 、 思い切って 、 部屋 の 中 へ と 踏み込んだ 。
と ── 突然 、 ドア が バタン 、 と 音 を たてて 閉った のだ 。
夕 里子 は びっくり した 。
「 金田 君 !
振り向いて 、 ドア を 開けよう と した が 、 今度 は びくとも し ない 。
夕 里子 は 、 一 人 で 部屋 の 中 に いた 。
── ドア も 閉って 真 暗 である 。
目 が なれれば 、 少し は 何 か が ……。
ふと 、 奇妙な 匂い を かいだ 。
── 何の 匂い だろう ?
決して 不快な 匂い で は ない が 、 しかし 、 よく 分 ら ない 匂い である 。
そして ── ガサッ と 何 か の 音 が した 。
「 誰 か …… いる んです か ?
と 、 夕 里子 は 呼びかけた 。
「 いる んだったら 、 返事 して 」
手 は 、 明り の スイッチ の ある はずの 所 を 探って いた 。
しかし 、 何も 手 に 触れ ない 。 のっぺり と した 壁 ばかり 。
ガサッ 、 と また 音 が した 。
その 音 は 、 夕 里子 に ずっと 近付いて 来て いた のである ……。