くさった リンゴ
くさった リンゴ
むかし むかし 、 ある ところ に 、 それはそれは 仲 の 良い お 百姓 ( ひゃくしょう ) 夫婦 ( ふうふ ) がい ました 。 二 人 の 家 は 屋根 に こけ や 草 が 生えて いて 、 窓 は いつも 開けっぱなしです 。 庭 に は 番犬 が 一 匹 いて 、 池 に は アヒル が 泳いで い ます 。 季節 の 花 が 門 ( もん ) を かざり 、 リンゴ の 木 も 植わって い ました 。
ある 日 の 事 と 、 お 母さん が お 父さん に 言い ました 。 「 ねえ 、 お 父さん 。 今日 は 町 で 、 市 ( いち ) が たつ ん だって 。 家 の ウマ も 、 何かと とりかえて きて くれ ない かい 。 あの ウマ は 草 を 食べて 、 小屋 に いる だけ だ から ね 」 「 それ は いい けど 、 何と とりかえる ? 」 お 父さん が 聞く と 、 お 母さん は ネクタイ を 出して 来て 、 それ を お 父さん の 首 に むすび ながら ニコニコ 顔 で 言い ました 。 「 決まって る じゃ ない か 。 それ は 、 お 父さん に まかせる って 。 だって 家 の お 父さん の する 事 に 、 いつも 間違い は ない んだ から 」 「 そう かね 、 そん なら まかせ られよう 」 と 、 お 父さん は ウマ に 乗って 、 パッカパッカ 出かけて 行き ました 。
「 おや ? 」 向こう から 、 メスウシ を 引いて くる 人 が い ます 。 「 ありゃ 、 見事な メスウシ だ 。 きっと いい 牛乳 が とれる ぞ 」 お 父さん は そう 思う と 、 その 人 に ウマ と メスウシ を とりかえ っこ して ほしい と 頼み ました 。 「 ああ 、 いい よ 」 その 人 は お 父さん に メスウシ を 渡し 、 ウマ に 乗って パッカパッカ 行って しまい ました 。 お 父さん は メスウシ を 引いて 帰ろう か な と 思い ました が 、 せっかく だ から 市 を 見 に 行く こと に し ました 。 する と 、 のんびり と ヒツジ を 連れた 男 に 出会い ました 。 「 こりゃ 毛並み の いい ヒツジ だ 」 お 父さん は メスウシ と ヒツジ を とりかえよう と 、 声 を かけ ました 。 ヒツジ の 持ち主 は 、 大喜びです 。 何しろ ウシ は 、 ヒツジ の 何 倍 も 高い のです から 。 お 父さん が ヒツジ を もらって のんびり 行く と 、 畑 の 方 から 大きな ガチョウ を 抱いた 男 が 来 ました 。 「 あんな ガチョウ が 家 の 池 に 泳いで いたら 、 ちょっと 鼻 が 高い なあ 」 そう 思う と お 父さん は さっそく 、 ヒツジ と ガチョウ の とりかえ っこ を しよう と 言い ました 。 ガチョウ を 抱いた 男 は 、 大喜びです 。 何しろ ヒツジ は 、 ガチョウ の 何 倍 も 高い のです から 。 お 父さん が ガチョウ を 抱いて 町 の 近く まで 行く と 、 メンドリ を ひも で ゆわえて いる 人 に 会い ました 。 「 メンドリ は エサ は いら ねえ し 、 タマゴ も 産む 。 お 母さん も 、 きっと 助かる ぞ 」 お 父さん は ガチョウ と メンドリ を とりかえ ない か と 、 もちかけ ました 。 メンドリ の 持ち主 は 、 大喜びです 。 何しろ ガチョウ は 、 メンドリ の 何 倍 も 高い のです から 。 「 やれやれ 、 大 仕事 だった わい 」 お 父さん は メンドリ を 連れて 、 一休み する こと に し ました 。 お 父さん が お 酒 や パン を 食べ させて くれる 店 に 入ろう と する と 、 大きな 袋 を 持った 男 に ぶつかり ました 。 「 いや 、 すま ん 。 ところで その 袋 に ゃ 、 何 が 入って いる の か ね ? 甘い に おい が する けど 」 「 ああ 、 これ は 痛んだ リンゴ が どっさり さ 。 ブタ に やろう と 思って ね 」 それ を 聞く と 、 お 父さん は いつ だった か 、 お 母さん が リンゴ の 木 を 見 ながら こんな こと を 言った の を 思い出し ました 。 「 ああ 、 いっぱい リンゴ が とれて 、 食べ きれ なくて 痛んで しまう くらい 家 に おい とけたら 。 一 度 で いい から 、 そんな ぜいたくな 思い を して み たい ねえ 」 お 父さん は 男 に 、 メンドリ と 痛んだ リンゴ を ぜひ とりかえて ほしい と 頼み ました 。 「 まあ 、 こっち は それ でも かまわ ない が ・・・」 男 は 首 を かしげ ながら 、 リンゴ の 袋 を 渡し ました 。 何しろ メンドリ は 、 リンゴ の 何 倍 も 高い のです から 。 お 父さん は リンゴ の 袋 を 持って 店 に 入り 、 お 酒 を 飲み パン を 食べ ました 。 ところが うっかり して いて 、 リンゴ の 袋 を 暖炉 ( だんろ ) の そば に 置いた ので 、 店 中 に 焼けた リンゴ の に おい が 広がり ました 。 その におい で 、 そば に いた 大 金持ち の 男 が 声 を かけて き ました 。 「 気の毒に 。 リンゴ を 損し ました ね 」 「 いや あ 、 いいん だ 、 いい んだ 」 お 父さん は 笑って 大 金持ち に 、 ウマ が 痛んだ リンゴ に 変わった とりかえ っこ の 話 を 聞か せ ました 。 話 を 聞く と 、 大 金持ち の 男 は 目 を 丸く し ました 。 「 それ は 、 奥さん に 怒ら れ ます よ 」 お 父さん は 、 首 を 大きく 横 に ふり ました 。 「 いや あ 、 家 の かみさん は 、 おれ に キス する よ 」 「 まさか ! 本当に キス したら 、 ぼく は あなた に タル いっぱい の 金貨 を あげ ます よ 」 大 金持ち の 男 は 、 そう 約束 し ました 。
お 父さん は 大 金持ち の 男 と 一緒に 、 家 に 帰り ました 。 「 お かえり 」 と 、 出迎えて くれた お 母さん に 、 お 父さん は 大 金持ち の 男 の 前 で 話し 始め ました 。 「 ウマ は ね 、 まず メスウシ と とりかえた よ 」 「 へえ 、 そりゃ お 父さん 、 牛乳 が とれて あり がたい ねえ 」 「 だが な 、 メスウシ を ヒツジ に とりかえた の さ 」 「 ますます いいね 。 セーター が あめ る よ 」 「 けど 、 ヒツジ を ガチョウ と とりかえた 」 「 ガチョウ は お祭り に 食べ られる よ 。 おいし そうだ ね 」 「 でも 、 ガチョウ は メンドリ と かえ ちまった 」 「 ああ 、 運 が いい 。 タマゴ を 毎日 食べ られる なんて 」 「 その メンドリ を 痛んだ リンゴ と とりかえて 、 ほれ 、 戻って 来た とこ だ 」 「 わ あ 、 幸せだ 。 だって さ 、 お 父さん 、 聞い と くれよ 。 あたし は さっき 、 ネギ を かして もらい に お 向かい に 行った んだ よ 。 そし たら 奥さん が 『 家 に は 痛んだ リンゴ 一 つ あり ませ ん 』 って 、 ことわった の さ 。 でも 、 どう ? 今 の あたし は 、 その 痛んだ リンゴ を 持って いる 。 アハハハ 、 ゆかいだ ねえ 。 こんな いい気 分 は 、 初めて だ 。 やっ ば り 、 お 父さん の する 事 に 間違い は ない ねえ 」 お 母さん は そう 言う と 、 うれし そうに お 父さん の ほっぺた に キス を し ました 。 それ を 見た 大 金持ち の 男 は 、 「 素晴らしい ! なんて 幸せな 夫婦 な んだ ! 」 そう 言って お 父さん と お 母さん に 、 約束 通り タル いっぱい の 金貨 を プレゼント し ました 。
おしまい