パン を 踏んだ 娘
パン を 踏んだ 娘
むかし むかし 、 インゲル と いう 、 貧しい 家 の 娘 が い ました 。 インゲル は 、 うわべ ばかり 気 に する 様 な 心 も 貧しい 娘 です 。
さて 、 インゲル は 年 と ともに 美しく なり 、 上品な 家庭 で 働く 様 に なり ました 。 ある 日 、 主人 が 言い ました 。 「 インゲル や 、 お前 が 来て から もう 一 年 に なる 。 お 父さん や お 母さん に 会い たい だろう から 、 行って おい で 」 インゲル は 貧乏な 家 に は 帰り たく ない けれど 、 美しく なった 自分 を 見せびらかし たくて 出かけて 行き ました 。 でも 、 家 の 近く で たき ぎ 拾い を して いた お 母さん を 見た 時 、 「 まあ 、 汚 らしい ! 」 と 、 顔 を そむけ ました 。 そして とうとう 、 インゲル は 家 に 帰り ませ ん でした 。
二 年 目 に 、 主人 は また 言い ました 。 「 お 父さん や お 母さん に 会い たい だろう 。 ひま を あげる から 、 行って おい で 」 主人 は 、 こんがり と 焼けた 大きくて おいし そうな パン を お 土産 に 持た せ ました 。 そして 新しい 服 と 、 靴 ( くつ ) も 買って くれ ました 。 「 まあ 、 すてき 。 わたし が どんなに きれいに なった か を 、 見せ に 行き ましょう 」 と 、 インゲル が 歩いて 行く と 、 途中 に 沼 が あり ました 。 沼 の 水 は ドロドロ に あふれ 、 道 の 方 まで ぬらして い ます 。 「 これ で は 、 せっかく の 靴 が 汚れて しまう わ 。 え いっ 」 インゲル は 、 ドロ 水 に パン を 投げ ました 。 そして 靴 を 汚さ ない 様 に 、 その 上 に 足 を のせ ました 。 する と 、 どう でしょう 。 インゲル は パン ごと 、 ず ぶっ 、 ず ぶ っと 、 沼 の 中 に 引き 込ま れた のです 。 「 助けて ! 」 と 、 インゲル は 叫ぼう と し ました が 、 声 が 出て 来 ませ ん 。 手 も 足 も 、 凍り 付いた 様 に 動き ませ ん 。 とうとう インゲル は 、 沼 の 底 まで 沈んで いって しまい ました 。
ふと 目 を 開ける と 、 目の前 で 沼 女 が くさい お 酒 を つくって い ました 。 ちょうど そこ に 遊び に 来て いた 悪魔 ( あくま ) の おばあ さん が 、 インゲル を 見る と ニタリ と 笑い ました 。 「 おや 、 なかなか いい 娘 じゃ ない の 。 もらって いこう 」 おばあ さん は 、 心 の 貧しい 人間 を 集めて いる のです 。 おばあ さん の 家 の 長い 長い 廊下 に は 、 目玉 ばかり ギョロギョロ さ せた 人間 の 置物 が ずらり と 並んで い ました 。 その 列 の 中 に 、 インゲル も 並べ られ ました 。 インゲル の 美しい 服 も 髪 も 、 今 は ドロ まみれ です 。 インゲル の 美しい 顔 の 上 に 、 気味 の 悪い ヘビ や ヒキガエル が ベッタリ と くっついて い ました 。 でも そんな 事 より 、 インゲル は お腹 が 空いて たまり ませ ん 。 「 ああ 、 この 汚い パン でも いい から 、 食べ たい わ 」 と 、 手 を 足 の パン の 方 に 伸ばし ました が 、 どうしても 届き ませ ん 。 「 お 父 さ ー ん ! お 母 さ ー ん ! 」 と 、 呼んで も 、 誰 に も 聞こえ ませ ん 。
その頃 、 地上 で は インゲル の うわさ が 広がって い ました 。 沼 に 沈む の を 、 ウシ 飼い が 丘 の 上 で 見て いた のです 。 「 バチ 当たり め 、 パン を 踏む から さ 」 「 あの 娘 は 、 もともと そんな 娘 だった んだ よ 」 と 、 誰 も 良い 事 は 言い ませ ん でした 。 でも 、 その 中 で たった 1 人 、 話 を 聞いて 泣き 出した 女の子 が い ました 。 「 可愛 そうに 。 悪い 事 を したら 、 謝って も 駄目な の ? その 人 が もし 、 この世 に 戻って 来たら 、 わたし 、 お 人形 箱 を あげる わ 」 やがて その 女の子 は おばあ さん に なり 、 神さま に めさ れ ました 。 おばあ さん は 神さま の 前 で 、 また インゲル の 為 に 泣き ました 。 「 わたし だって 、 インゲル の 様 な 間違い を おかした かも しれ ませ ん 。 どうか 、 インゲル を 助けて あげて ください 」 その 優しい 心 に 、 天使 ( てんし ) の 1 人 が ホロッ と 涙 を こぼし ました 。 涙 は 沼 に 落ちて 行って 、 インゲル の 胸 に 入り ました 。 やさしい おばあ さん の おかげ で 、 インゲル は 地上 に 戻る 事 が 出来た のです 。 でも 人間 で は なく 、 小鳥 の 姿 に なって い ました 。 小鳥 は お腹 の 空いた 鳥 たち に パン くず を 拾って は 与え 、 自分 は 食 ベ ませ ん でした 。 そして その パン くず が ドロ 水 に 投げた パン と 同じ 量 に なった 時 、 小鳥 は カモメ に なって 飛び 立ち ました 。 はるか 、 遠い 太陽 に 向かって 。 それ から 、 その 鳥 を 見た 者 は い ませ ん 。
おしまい