第 二 章 アスターテ 会戦 (1)
だい|ふた|しょう||かいせん
Ⅰ
同盟 軍 第 四 艦隊 司令 官 パストーレ 中将 は 、「 帝国 軍艦 隊 急速 接近 」 の 報 に ショック を うけた 。
どうめい|ぐん|だい|よっ|かんたい|しれい|かん||ちゅうじょう||ていこく|ぐんかん|たい|きゅうそく|せっきん||ほう||しょっく||
I. Lieutenant General Pastore, Commander of the 4th Fleet of the Alliance Army, was shocked by the news of the "Rapid Approach of the Imperial Army Fleet."
艦隊 旗 艦 レオニダス の ディスプレイ ・ スクリーン 全体 に 人工 の 光 点 が 群がり 生じ 、 それ が 一瞬 ごと に 明度 を まし つつ 拡大 して くる 。
かんたい|き|かん|||でぃすぷれい|すくりーん|ぜんたい||じんこう||ひかり|てん||むらがり|しょうじ|||いっしゅん|||めいど||||かくだい||
Fleet flagship Leonidas' display screen A swarm of artificial light spots all over the screen, which expands with increasing brightness every moment.
見る 者 の 鼓動 を 早め 、 口 の なか を 干上がら せる 、 威圧 感 に みちた 光景 だった 。
みる|もの||こどう||はや め|くち||||ひあがら||いあつ|かん|||こうけい|
It was an intimidating sight, accelerating the heartbeat of the viewer and letting the mouth dry up.
「 これ は どういう こと だ 」
"What does this mean?"
中将 は 指揮 官 席 から 身 を おこして うめいた 。
ちゅうじょう||しき|かん|せき||み|||
The lieutenant general woke up from the commander's seat and moaned.
「 帝国 軍 は どういう つもり だ ?
ていこく|ぐん||||
"What is the Imperial Army going to do?
なに を 考えて いる ?
||かんがえて|
」
奇妙な 質問 だ 、 と 思った 者 も いた が 、 その 数 は すくなかった 。
きみょうな|しつもん|||おもった|もの|||||すう||
Some thought it was a strange question, but the number was small.
帝国 軍 の 意図 は その 総力 を あげて 第 四 艦隊 を 攻撃 する に ある 。
ていこく|ぐん||いと|||そうりょく|||だい|よっ|かんたい||こうげき|||
それ は あきらかな はずであった が 、 三 方向 から 包囲 さ れ つつ ある 敵 が 、 これほど 大胆に 攻勢 を かけて こよう と は 、 同盟 軍 首脳 部 は 想像 して い なかった のである 。
|||||みっ|ほうこう||ほうい|||||てき|||だいたんに|こうせい||||||どうめい|ぐん|しゅのう|ぶ||そうぞう||||
彼ら の 予測 に よれば 、 包囲 態勢 下 に おか れた 帝国 軍 は 、 多数 の 敵 にたいする 防御 本能 に 身 を ゆだね 、 戦線 を 縮小 さ せて 密集 態 形 を とる はずだった 。
かれら||よそく|||ほうい|たいせい|した||||ていこく|ぐん||たすう||てき||ぼうぎょ|ほんのう||み|||せんせん||しゅくしょう|||みっしゅう|なり|かた|||
それ にたいして 同盟 軍 は 三 方向 から おなじ スピード で 殺到 し 、 厳重な 包囲 網 を しいて 火力 を 集中 さ せ 、 ゆっくり と 、 だが 確実に その 抵抗 力 を そぎとって いけば よい 。
||どうめい|ぐん||みっ|ほうこう|||すぴーど||さっとう||げんじゅうな|ほうい|あみ|||かりょく||しゅうちゅう||||||かくじつに||ていこう|ちから||||
一五六 年 前 、〝 ダゴン の 殲滅 戦 〟 は そのように 戦わ れ 、 勝者 たる 二 名将 の 令 名 が 今日 に 伝わって いる 。
いちごろく|とし|ぜん|||せんめつ|いくさ||そのよう に|たたかわ||しょうしゃ||ふた|めいしょう||れい|な||きょう||つたわって|
ところが 、 この 敵 は 同盟 軍 の 計算 に のら なかった 。
||てき||どうめい|ぐん||けいさん|||
「 なんという こと だ !
敵 の 司令 官 は 用 兵 を 知ら ぬ 。
てき||しれい|かん||よう|つわもの||しら|
The enemy commander is unaware of the soldiers.
こんな 戦い かた が ある か 」
|たたかい||||
愚 か しい こと を 中将 は 口走った 。
ぐ|||||ちゅうじょう||くちばしった
The lieutenant general said something stupid.
指揮 官 席 から たちあがり 、 手の甲 で 額 の 汗 を ぬぐう 。
しき|かん|せき|||てのこう||がく||あせ||
Get up from the commander's seat and wipe the sweat on your forehead with the back of your hand.
一六・五 度 C に たもた れた 艦 内 で 汗 の 噴きだす はず は ない のだ が ……。
いちろく|いつ|たび|||||かん|うち||あせ||ふきだす|||||
「 司令 官 閣下 、 どう なさいます ?
しれい|かん|かっか||
"What do you do, Commander-in-Chief?
」
問いかける 幕僚 の 声 も 、 抑制 を 欠いて うわずって いる 。
といかける|ばくりょう||こえ||よくせい||かいて||
The voices of the staff members asking are also screaming without restraint.
その 口調 が 、 中将 の 癇 に さわった 。
|くちょう||ちゅうじょう||かん||
三 方向 から の 分 進 合 撃 こそ 必勝 の 戦法 である と となえた の は 、 彼ら 幕僚 団 で は なかった の か 。
みっ|ほうこう|||ぶん|すすむ|ごう|う||ひっしょう||せんぽう||||||かれら|ばくりょう|だん|||||
Wasn't it the staff members who said that defeat in detail from three directions was the tactic of victory?
それ が 失敗 した とき の 対策 を たてる 責任 も 、 当然 、 彼ら に は ある はずだった 。
||しっぱい||||たいさく|||せきにん||とうぜん|かれら||||
Of course, they should have been responsible for taking action when it failed.
「 どう なさいます 」 と は なにごと だ !
しかし 怒り に 身 を まかせて いられる 場合 で は なかった 。
|いかり||み|||いら れる|ばあい|||
But it wasn't the case when he was left to anger.
帝国 軍艦 隊 は 二万 隻 、 同盟 軍 第 四 艦隊 は 一万二〇〇〇 隻 である 。
ていこく|ぐんかん|たい||にまん|せき|どうめい|ぐん|だい|よっ|かんたい||いちまんに|せき|
完全に 予定 が くるった 。
かんぜんに|よてい||
The schedule is completely over.
三 個 艦隊 の 四万 隻 で 二万 隻 の 敵 を 包囲 攻撃 する はずであった のに 、 圧倒 的 多数 の 敵 と 単独 で 戦わ なければ なら なく なった のである 。
みっ|こ|かんたい||しまん|せき||にまん|せき||てき||ほうい|こうげき||||あっとう|てき|たすう||てき||たんどく||たたかわ|||||
「 第 二 、 第 六 の 両 艦隊 に 緊急 連絡 !
だい|ふた|だい|むっ||りょう|かんたい||きんきゅう|れんらく
"Urgent contact with both the 2nd and 6th fleets!
α 七・四 、 β 三・九 、 γ マイナス 〇・六 の 宙 域 に おいて 敵 と 衝突 、 ただちに 応援 に 来 られた し 、 と 」
|なな|よっ||みっ|ここの||まいなす|むっ||ちゅう|いき|||てき||しょうとつ||おうえん||らい|||
In the space of α7 ・ 4, β3 ・ 9, γ minus 〇 ・ 6, he collided with the enemy and immediately came to support him. "
中将 は 命令 した が 、 旗 艦 レオニダス の 通信 長 ナン 技術 少佐 は 絶望 の 動作 と 表情 で それ に 応じた 。
ちゅうじょう||めいれい|||き|かん|||つうしん|ちょう||ぎじゅつ|しょうさ||ぜつぼう||どうさ||ひょうじょう||||おうじた
The lieutenant general ordered, but Major Nan, the chief of communications for the flagship Leonidas, responded with desperate movements and facial expressions.
帝国 軍 の 放つ 妨害 電波 が 、 同盟 軍 の 通信 回路 を 貪欲に 侵 蝕 し つつ あった のだ 。
ていこく|ぐん||はなつ|ぼうがい|でんぱ||どうめい|ぐん||つうしん|かいろ||どんよくに|おか|むしば||||
Interfering radio waves emitted by the Imperial Army were greedily eroding the communication circuits of the Alliance Army.
ラインハルト が 散布 さ せた 数 万 の 妨害 電波 発生 器 が 、 宇宙 空間 を 漂い ながら 効力 を 発揮 して いた 。
||さんぷ|||すう|よろず||ぼうがい|でんぱ|はっせい|うつわ||うちゅう|くうかん||ただよい||こうりょく||はっき||
「 では 連絡 艇 を だせ 、 両 艦隊 に 二 隻 ずつ だ 」
|れんらく|てい|||りょう|かんたい||ふた|せき||
そう どなる 中将 の 顔 を 、 スクリーン から 放た れた 閃光 が 一瞬 、 白く 染め あげた 。
||ちゅうじょう||かお||すくりーん||はなた||せんこう||いっしゅん|しろく|しめ|
敵 の 攻撃 が はじまり 、 中性子 ビーム 砲 が 斉 射 さ れた のだ 。
てき||こうげき|||ちゅうせいし||ほう||ひとし|い|||
膨大な エネルギー の 射 出 と 、 それ に ともなう 発光 は 、 兵士 たち の 眼 底 まで 染色 して しまう か と 思わ せる 。
ぼうだいな|えねるぎー||い|だ|||||はっこう||へいし|||がん|そこ||せんしょく|||||おもわ|
虹 に も 似た きらめき が 、 同盟 軍艦 隊 の 各 処 に 生じて いた 。
にじ|||にた|||どうめい|ぐんかん|たい||かく|しょ||しょうじて|
敵 の ビーム を 、 エネルギー 中和 磁場 が さえぎる 、 その 瞬間 に 生じる きらめき だ 。
てき||||えねるぎー|ちゅうわ|じば||||しゅんかん||しょうじる||
極 小 の エネルギー 粒子 が 高速で 衝突 し 、 共食 現象 を おこして いる のだった 。
ごく|しょう||えねるぎー|りゅうし||こうそくで|しょうとつ||ともぐい|げんしょう||||
中将 は 腕 を 大きく ふって 叫んだ 。
ちゅうじょう||うで||おおきく||さけんだ
「 先頭 集団 、 迎撃 せよ !
せんとう|しゅうだん|げいげき|
全 艦 、 総 力戦 用意 !
ぜん|かん|そう|りきせん|ようい
」
パストーレ 中将 の 命令 を 受信 した わけで は なかった が 、 帝国 軍 総 旗 艦 ブリュンヒルト の 艦 橋 で は 、 ラインハルト が 蒼氷 色 の 瞳 に 冷 嘲 の 波 を ゆらめか せて 独 語 して いた 。
|ちゅうじょう||めいれい||じゅしん||||||ていこく|ぐん|そう|き|かん|||かん|きょう|||||あおこおり|いろ||ひとみ||ひや|あざけ||なみ||||どく|ご||
「 無能 者 め 、 反応 が 遅い !
むのう|もの||はんのう||おそい
」
「 戦闘 艇 、 発進 せよ !
せんとう|てい|はっしん|
接近 格闘 戦 に うつる ぞ 」
せっきん|かくとう|いくさ|||
この 命令 は ファーレンハイト 少将 である 。
|めいれい|||しょうしょう|
戦い の 昂 揚 感 に 、 先手 を とった 自信 が くわわって 、 彼 の 表情 と 声 に するどい 生気 を みなぎら せて いた 。
たたかい||たかし|よう|かん||せんて|||じしん|||かれ||ひょうじょう||こえ|||せいき||||
〝 金髪 の 孺子 〟 の 功績 に なる に して も 、 とにかく 勝つ こと だ !
きんぱつ||じゅし||こうせき|||||||かつ||
巨大な 母艦 から 、 X 字 翼 の 単 座 式 戦闘 艇 〝 ワルキューレ 〟 が つぎつぎ と 発進 する 。
きょだいな|ぼかん|||あざ|つばさ||ひとえ|ざ|しき|せんとう|てい|||||はっしん|
超 高速で 宇宙 空間 を 疾走 する 母艦 から きり離さ れた 時点 で 、 慣性 に よって すでに 母艦 以上 の 速度 に 達して おり 、 滑走 路 や 射 出 装置 は 不要な のだ 。
ちょう|こうそくで|うちゅう|くうかん||しっそう||ぼかん||きりはなさ||じてん||かんせい||||ぼかん|いじょう||そくど||たっして||かっそう|じ||い|だ|そうち||ふような|
ワルキューレ は 小型である から 火力 は おちる が 、 運動 性 に 富み 、 接近 格闘 戦 に おいて 大いに 効力 を 発揮 する 。
||こがたである||かりょく||||うんどう|せい||とみ|せっきん|かくとう|いくさ|||おおいに|こうりょく||はっき|
ワルキューレ に 対応 する 単 座 式 戦闘 艇 は 同盟 軍 に も あり 、〝 スパルタニアン 〟 と 称されて いた 。
||たいおう||ひとえ|ざ|しき|せんとう|てい||どうめい|ぐん||||||そやされて|
各 処 に 核 融合 炉 爆発 の 閃光 が はしり 、 解放 さ れた エネルギー の 乱 流 が 無秩序な うねり で 両軍 艦艇 を 揺りうごかす 。
かく|しょ||かく|ゆうごう|ろ|ばくはつ||せんこう|||かいほう|||えねるぎー||らん|りゅう||むちつじょな|||りょうぐん|かんてい||ゆりうごかす
その なか を あらたな エネルギー の 束 が 切り裂き 、 それ を かい くぐって ワルキューレ が 飛翔 する 。
||||えねるぎー||たば||きりさき|||||||ひしょう|
銀色 に 輝く 四 枚 の 翼 を もった 死 の 天使 だ 。
ぎんいろ||かがやく|よっ|まい||つばさ|||し||てんし|
同盟 軍 の スパルタニアン は 格闘 戦 能力 に おいて ワルキューレ に 劣る もの で は なかった が 、 機先 を 制さ れた 不利 は 大きく 、 母艦 から 離脱 する 瞬間 を 狙撃 されて は 乗員 もろとも ビーム で 粉砕 されて いった 。
どうめい|ぐん||||かくとう|いくさ|のうりょく|||||おとる||||||きせん||せいさ||ふり||おおきく|ぼかん||りだつ||しゅんかん||そげき|||じょういん||||ふんさい||
…… 戦闘 開始 後 一 時間 、 帝国 軍 ファーレンハイト 部隊 の 苛烈 な 攻撃 に よって 、 第 四 艦隊 先頭 集団 は ほとんど 潰 滅 状態 に なって いた 。
せんとう|かいし|あと|ひと|じかん|ていこく|ぐん||ぶたい||かれつ||こうげき|||だい|よっ|かんたい|せんとう|しゅうだん|||つぶ|めつ|じょうたい|||
二六〇〇 隻 の 艦艇 中 、 戦闘 に 参加 して いる もの は 二 割 に みたない 。
にろく|せき||かんてい|なか|せんとう||さんか|||||ふた|わり||
核 融合 炉 爆発 を 生じて 蒸発 した 艦 、 爆発 は まぬがれた もの の 大破 して 戦闘 続行 不能 と なった 艦 、 艦 体 の 損傷 は かるい が 乗員 のたいはん を 失って むなしく 宙 を 漂流 して いる 艦 ―― 惨憺たる 状態 で 、 戦線 崩壊 まで は 、 半 歩 の 距離 も ない もの と 思わ れた 。
かく|ゆうごう|ろ|ばくはつ||しょうじて|じょうはつ||かん|ばくはつ|||||たいは||せんとう|ぞっこう|ふのう|||かん|かん|からだ||そんしょう||||じょういん|||うしなって||ちゅう||ひょうりゅう|||かん|さんたんたる|じょうたい||せんせん|ほうかい|||はん|ふ||きょり|||||おもわ|
戦艦 ネストル に いたって は 、 損傷 部分 は 艦 底 の ただ 一 カ 処 に すぎ なかった が 、 艦 内 に 侵入 して 炸裂 した 中性子 弾頭 が 、 荒れくるう 殺人 粒子 の 波 濤 を うんで 全 艦 を 席 捲 し 、 一瞬にして この 巨艦 を 将兵 六六〇 名 の 柩 に して しまった 。
せんかん|||||そんしょう|ぶぶん||かん|そこ|||ひと||しょ|||||かん|うち||しんにゅう||さくれつ||ちゅうせいし|だんとう||あれくるう|さつじん|りゅうし||なみ|とう|||ぜん|かん||せき|まく||いっしゅんにして||きょかん||しょうへい|ろくろく|な||ひつぎ|||
この ため 、 乗員 を 失った ネストル は 、 航 宙 士 の さだめた 最後 の 針路 を まもって 、 惰性 の みえ ざる レール の うえ を 突進 し 、 僚艦 レムノス の 艦 首 を かすめた 。
||じょういん||うしなった|||わたる|ちゅう|し|||さいご||しんろ|||だせい||||れーる||||とっしん||りょうかん|||かん|くび||
それ は レムノス の 前部 主砲 が 敵 艦 めがけて 斉 射 さ れた 瞬間 であった 。
||||ぜんぶ|しゅほう||てき|かん||ひとし|い|||しゅんかん|
ネストル は 至近 距離 から 光子 砲 を 撃ちこま れ 、 一瞬 の のち 、 音 も なく 爆発 した 。
||しきん|きょり||てるこ|ほう||うちこま||いっしゅん|||おと|||ばくはつ|
不運な レムノス も ただちに その あと を 追った 。
ふうんな|||||||おった
核 融合 炉 爆発 の エネルギー が 、 中和 磁場 を 突き破って レムノス の 艦 体 を 直撃 した のである 。
かく|ゆうごう|ろ|ばくはつ||えねるぎー||ちゅうわ|じば||つきやぶって|||かん|からだ||ちょくげき||
白色 の 閃光 が 双生児 の ように 連鎖 して 生じ 、 それ が 消えさった あと に は 無機 物 の ひと かけら さえ 残ら なかった のだ 。
はくしょく||せんこう||そうせいじ||よう に|れんさ||しょうじ|||きえさった||||むき|ぶつ|||||のこら||
レムノス の 乗員 は 僚艦 を 消滅 さ せた ほうび と して 死 を あたえ られた のだった 。
||じょういん||りょうかん||しょうめつ||||||し||||
「 なに を やっとる のだ !
」
その 声 は パストーレ 中将 であり 、
|こえ|||ちゅうじょう|
「 なに を やって いやがる 」
と つぶやいた の は ファーレンハイト 少将 であった 。
|||||しょうしょう|
両者 と も 旗 艦 の スクリーン を とおして 、 その 光景 を ながめて いた のである 。
りょうしゃ|||き|かん||すくりーん||||こうけい||||
一方 は 絶望 と あせり の 叫び であり 、 他方 は 余裕 に みちた 嘲 弄 だった 。
いっぽう||ぜつぼう||||さけび||たほう||よゆう|||あざけ|もてあそ|
その 差 は 同時に 戦況 の 差 であった 。
|さ||どうじに|せんきょう||さ|
Ⅱ
この とき 、 同盟 軍 第 二 ・ 第 六 両 艦隊 は かろうじて 知った 事態 の 急 展開 に 驚き ながら も 、 当初 の 作戦 を 変更 する 決心 が つか ぬ まま 、 以前 と おなじ 速力 で 戦場 へ すすみ つつ ある 。
||どうめい|ぐん|だい|ふた|だい|むっ|りょう|かんたい|||しった|じたい||きゅう|てんかい||おどろき|||とうしょ||さくせん||へんこう||けっしん|||||いぜん|||そくりょく||せんじょう||||
第 二 艦隊 司令 官 パエッタ 中将 は 旗 艦 パトロクロス の 指揮 官 席 に すわって 、 他人 から みえ ぬ ところ で 貧乏 ゆすり を やって いた 。
だい|ふた|かんたい|しれい|かん||ちゅうじょう||き|かん|||しき|かん|せき|||たにん||||||びんぼう||||
焦燥 感 が 彼 の ひざ を 間断 なく 揺さぶって いた のだ 。
しょうそう|かん||かれ||||かんだん||ゆさぶって||
指揮 官 の 心理 が 部下 に 投影 し 、 艦 橋 内 の 空気 は 帯 電 して いる か の ようだった 。
しき|かん||しんり||ぶか||とうえい||かん|きょう|うち||くうき||おび|いなずま|||||
そんな なか で ただ ひと り 、 おちついた 表情 の 者 が いる こと に 中将 は 気づいた 。
|||||||ひょうじょう||もの|||||ちゅうじょう||きづいた
一瞬 ためらった あと 、 声 を かける 。
いっしゅん|||こえ||
「 ヤン 准将 !
|じゅんしょう
」
「 はい ?
」
「 貴 官 は この 事態 を どう みる ?
とうと|かん|||じたい|||
意見 を 言って みた まえ 」
いけん||いって||
自 席 から たちあがった ヤン は また ベレー 帽 を ぬぎ 、 黒い 頭髪 を かるく 片手 で かきまわした 。
じ|せき|||||||ぼう|||くろい|とうはつ|||かたて||
「 敵 が 各 個 撃破 に でて きた と いう こと でしょう 。
てき||かく|こ|げきは|||||||
まず もっとも 少数 の 第 四 艦隊 を 処理 に かかった の は 当然の 策 です 。
||しょうすう||だい|よっ|かんたい||しょり|||||とうぜんの|さく|
彼ら は 、 分散 した 同盟 軍 の なか から 当面 の 敵 を 選択 する 権利 を 行使 した わけです 」
かれら||ぶんさん||どうめい|ぐん||||とうめん||てき||せんたく||けんり||こうし||わけ です
「…… 第 四 艦隊 は もちこたえる こと が できる だろう か ?
だい|よっ|かんたい|||||||
」
「 両軍 は 正面 から 衝突 し ました 。
りょうぐん||しょうめん||しょうとつ||
と いう こと は 、 数 に おいて 相手 を うわまわり 、 しかも 機先 を 制した 側 が 有利に なります 」
||||すう|||あいて||||きせん||せいした|がわ||ゆうりに|
ヤン の 表情 も 声 も 淡々と して いた 。
||ひょうじょう||こえ||たんたんと||
それ を 見て いた パエッタ 中将 は 、 いらだた し さ を ふりはらう ように 掌 を 開閉 さ せた 。
||みて|||ちゅうじょう|||||||よう に|てのひら||かいへい||
「 とにかく 戦場 に 急行 して 第 四 艦隊 を 救援 し なくて は なら ん 。
|せんじょう||きゅうこう||だい|よっ|かんたい||きゅうえん|||||
うまく いけば 、 帝国 軍 の 側 背 を つく こと も 可能だろう 。
||ていこく|ぐん||がわ|せ|||||かのうだろう
そう すれば いっきょに 戦局 は 有利に なる 」
|||せんきょく||ゆうりに|
「 おそらく 無益でしょう 」
|むえきでしょう
ヤン の 声 は やはり 淡々と して いた ので 、 パエッタ 中将 は あやうく 聞きながして しまう ところ だった 。
||こえ|||たんたんと|||||ちゅうじょう|||ききながして|||
中将 は スクリーン に むき かけた 顔 を ふたたび 若い 幕僚 に むけた 。
ちゅうじょう||すくりーん||||かお|||わかい|ばくりょう||
「 どういう 意味 だ ?
|いみ|
」
「 吾々 が 到着 した とき 、 戦闘 は すでに 終わって います 。
われ々||とうちゃく|||せんとう|||おわって|
敵 は 戦場 を 離脱 し 、 第 二 ・ 第 六 の 両 艦隊 が 合流 する より 早く 、 どちら か の 側 背 に まわって 攻撃 を かけて くる でしょう 。
てき||せんじょう||りだつ||だい|ふた|だい|むっ||りょう|かんたい||ごうりゅう|||はやく||||がわ|せ|||こうげき||||
そして 少数 の 第 六 艦隊 が 狙わ れる こと は ほぼ 確実です 。
|しょうすう||だい|むっ|かんたい||ねらわ|||||かくじつ です
吾々 は 先手 を とら れ 、 しかも 現在 の ところ 、 とら れっぱなし です 。
われ々||せんて|||||げんざい|||||
これ 以上 、 敵 の 思惑 に のる 必要 は ない と 考えます が 」
|いじょう|てき||おもわく|||ひつよう||||かんがえます|
「 では 、 どう しろ と 言う のだ ?
||||いう|
」
「 手順 を 変える のです 。
てじゅん||かえる|の です
第 六 艦隊 と 戦場 で 合流 する ので は なく 、 まず 一刻 も 早く 第 六 艦隊 と 合流 し 、 その 宙 域 に 新 戦場 を 設定 します 。
だい|むっ|かんたい||せんじょう||ごうりゅう||||||いっこく||はやく|だい|むっ|かんたい||ごうりゅう|||ちゅう|いき||しん|せんじょう||せってい|
両 艦隊 を 合 すれば 二万八〇〇〇 隻 に なり 、 それ 以後 は 五 分 以上 の 勝負 を いどむ こと が できる でしょう 」
りょう|かんたい||ごう||にまんはち|せき||||いご||いつ|ぶん|いじょう||しょうぶ||||||
「…… する と 、 きみ は 、 第 四 艦隊 を 見殺し に しろ と 言う の か ?
||||だい|よっ|かんたい||みごろし||||いう||
」
中将 の 口調 に は 非難 の 意思 が 露骨だった 。
ちゅうじょう||くちょう|||ひなん||いし||ろこつだった
あまりに 冷徹な こと を 言う と 思った のである 。
|れいてつな|||いう||おもった|
「 いま から 行って も 、 どうせ 間にあいません 」
||おこなって|||まにあいません
中将 の 心理 を 知って か 否 か 、 ヤン の 口調 は 素 気 ない 。
ちゅうじょう||しんり||しって||いな||||くちょう||そ|き|
「 しかし 友軍 の 危機 を 放置 して は おけ ん 」
|ゆうぐん||きき||ほうち||||
中将 の 声 に 、 ヤン は かるく 肩 を すくめた 。
ちゅうじょう||こえ|||||かた||
「 では けっき よく 、 三 艦隊 いずれ も が 、 敵 の 各 個 撃破 戦法 の 好 餌 と なって しまいます 」
|||みっ|かんたい||||てき||かく|こ|げきは|せんぽう||よしみ|えさ|||
「 そう と は かぎら ん 、 第 四 艦隊 とて むざむざ 敗れ は すま い 。
|||||だい|よっ|かんたい|||やぶれ|||
彼ら が もちこたえて いれば ……」
かれら|||
「 無理だ と 先刻 も 申しあげ ました が ……」
むりだ||せんこく||もうしあげ||
「 ヤン 准将 、 現実 は 貴 官 の 言う ような 計算 だけ で は 成立 せ ん のだ 。
|じゅんしょう|げんじつ||とうと|かん||いう||けいさん||||せいりつ|||
敵 の 指揮 官 は ローエングラム 伯 だ 。
てき||しき|かん|||はく|
若くて 経験 も すくない 。
わかくて|けいけん||
それ に くらべて パストーレ 中将 は 百 戦 錬磨 だ 」
||||ちゅうじょう||ひゃく|いくさ|れんま|
「 司令 官 閣下 、 経験 が すくない と おっしゃいます が 、 彼 の 戦略 構想 は ……」
しれい|かん|かっか|けいけん||||||かれ||せんりゃく|こうそう|
「 もう いい 、 准将 」
||じゅんしょう
にがにがし げ に 中将 は さえぎった 。
|||ちゅうじょう||