Katanagatari Episode 3 (3)
ああ 信じて いた さ 心 の 底 から ね
あたし の 全て だ
あの 大 乱 まで は
大 乱
二十 年 前 奥 州 の 顔役 飛騨 鷹 比 等 が 起こした 反乱 の こと さ
あたし の 父 は
出雲 の 地 を 守護 して いた 護 神 三 連隊 の 二 番 隊 隊長 である と 同時に
古くから 伝わる 剣道 場 の 道場 主だった
そこ で 千 刀 流 を 教えて いた のだ
あたし は その 跡取り 娘 だった
だから 物心 ついた 頃 から
千 刀 流 を 絶対 の 護身 術 だ と 信じて 疑わ なかった
けれど 千 刀 流 は 大 乱 の 最中 に は まるで 役 に 立た なかった
父 は 死に
門弟 たち も 一 人 残らず 討ち 死んだ
生き残った の は 戦場 に 出 なかった あたし だけ だった
あたし は 大 乱 で 全て を 失った
家 も 家族 も
信念 すら も
気 が つく と あたし は 千 刀 流 を 殺す ため の 道具 と して 使って いた
やがて 出雲 で 一 番 規模 の 大きかった 山賊 衆 に 参入 した
その 頭 目 が 千 刀 · 鎩 を 持って いた の さ
千 刀 流 と は 『 自ら 武装 し ない 絶対 の 護身 術 』
それ は 『 刀 は 消耗 品 である 』 と いう 考え に 基づ り
鎩 と 同じ 主題 だ
自分 の 元 に この 刀 が 来た の は 偶然で は ない 運命 だ と 感じた よ
いつの間にか あたし は 山賊 の 頭 目 に なって いた
そこ から 先 は 語る 価値 も ない
ただ 戦い
ただ 殺す 日々 だった
何の ため に 戦う の か
そんな こと を 考える 余裕 すら なかった
そんな あたし が
生まれて 初めて その 疑問 に ぶつかった の は
当時 神主 だった 敦賀 迷彩 に 会った 時 だ
三 途 神社 の こと は 以前 から 知っていた
弱き 女 達 に とって の 療養 所 だ と
ならば なぜ あたし を 救って くれ なかった の か
誰 でも 救って くれる から 神様 と いう んじゃ ない の か
当時 の 敦賀 迷彩 は 言った
『 どうか あの 子 たち の 事 は 許して あげて ください 』
『 あの 子 たち は 悪く ない んです 』
それ が 最後 の 言葉 だった
死ぬ 間際 に そんな こと を 言った 人間 は 初めて だった
だから こう 考えて しまった
何の ため に 戦う の か
何の ため に 生きる の か
山賊 の 根城 に 戻った あたし は 仲間 を 斬った
四十三 人 の 仲間 を 一 人 残ら ず
そして あたし は 敦賀 迷彩 の 遺志 を 受け継いだ のだ
以来 あたし は あの 子 達 の ため に 戦って いる
だから あたし は 負ける わけに は いか ない
あの 子 達 の ため に も
話 は ここ まで だ
さあ どう する ね
無駄な 抵抗 は よす こと だ
負け を 認めて しまえば 良い
虚 刀 流 は 千 刀 流 に 及ば なかった
ただ それ だけ の こと な のだ から
俺 獣 の 肉 を 食う んだ よ な
え それ が どうした 肉食 らい など 武芸 者 の 間 で は 珍しく も ない
獣 って よ
素早くて 簡単に 捕まえ られ ねえ んだ
どうしても 食い たい 時 に は 罠 を 仕掛け なきゃ
でも 俺 は バカだ から
家 の すぐ そば に 罠 を 仕掛けちゃ った んだ
それ に 姉ちゃん が 掛か っち まって さ
あん とき は 大変だった
要は 獲物 に 対する 罠 な んだ から
自分 の 家 の 周り に 罠 を 仕掛けちゃ いけ ねえ って こと だ
一体 何 を 言って る ん だい
降参 し ない と いう の なら もう
一 つ だけ 思いついた
ずっと 考えて た んだ よ
この 千 刀 巡り を 脱する 方法 を
ない よ そんな もの は
千 刀 巡り は 無敵だ
千 刀 流 は 絶対 の 護身 術 だ
虚 刀 流 が 本当に 千 刀 流 に 劣る の か
試して みる んだ よ
な っ まさか
さすが に ここ に は 仕掛け られ ない よ な
俺 は ともかく とがめ を 警戒 し ない わけに は いか ない もん な
千 刀 を 入手 した と して も
尾張 まで 運ぶ 手段 を きみ たち は まだ 思いついて い ない ので は ない か な
もしも あたし が 勝負 に 負けたら
巫女 達 全員 で 協力 し 尾張 まで 届ける ように 指示 して ある
なんだ よ それ
その代わり と 言って は なんだ が
彼女 達 と 三 途 神社 の 行く末 を 幕府 で 保証 して くれる よう お 願い し たい
おい あんた それ は
あたし の 跡継ぎ は 分かる よ な
ただ あの 子 も まだ 万全に 回復 した わけで は ない
誰 か 人 の 心 に 関する 教養 と 優し さ を 持つ 人間 を 幕府 から 派遣 して くれ
魑魅 魍魎 の 住む 幕府 と いえ ど
一 人 くらい は 心当たり が ある だろう
負け を 認める って ことか
いや 言ったろう
あたし は 負ける わけに は いか ない と あの 子 たち を 守る ため に ね
ただ 矛盾 した こと を 言う ようだ けど
この 勝負 負けて も いい と 思って いた んだ
刀 の 毒 でも って 彼女 達 を 助ける なんて 間違って いる
あたし は 常に そう 考えて いた
刀 は 薬 と して 作用 して いる が
それ で 手放せ なく なって しまう んじゃ
やっぱり 薬 じゃ なくて 毒 だ
だから 待って いた んだ よ
あたし の 下らない 思惑 を 打ち砕いて くれる
きみ たち の ような 人間 が 来る の を ね
無論 まだ 負け は 認めて ない が
それ が 千 刀 · 鎩 の 最初の 一 本 だ
なぜ 分かる
とがめ が 言って た
『 刀 に は 魂 が 宿る 』
刀 は 持ち主 を 選ぶ
ただし 斬る 相手 は 選ば ない
千 刀 · 鎩 は あんた を 選んだ
俺 が とがめ を 選んだ ように な
いかにも
虚 刀 流 七 代 目 当主 鑢 七 花 だ
来 いよ
出雲 大山 三 途 神社 いや
千 刀 流 十二 代 目 当主 敦賀 迷彩 だ
行く さ 千 刀 流 の 千 の 奥義 を 見せて やる
ああ ただし その頃 に は あんた は 八 つ 裂き に なって いる だろう けど な
空中 一 刀
億 文字 斬り
虚 刀 流
『 鏡 花 水 月 』
とがめ 勝った ぞ
見て の 通り だ
誤 審 の 生じる 余地 は ねえ よ な
七 花 何も
うん どうした
でか した ぞ
やはり こう なり ました か
千 人 の 巫女 と 三 途 神社 の 行く末 は 必ず 幕府 が 保証 しよう
ありがとう ございます
これ から どう なる んだろう な この 神社
刀 が ない んだ から
武装 神社 じゃ い られ ない だろう
確かに
しかし それ は 刀 に よって 変わって いた もの が
元 に 戻る だけ の 話 だ
だったら 迷彩 も 最初 から そう すれば よかった のに な
迷彩 は 変 体 刀 の 所有 者 だった
四季 崎 の 刀 の 毒 と 無縁で は なかった はず
奪わ れ でも せ ん 限り 手放せ なかったろう よ
あんた は どう な んだ
俺 が 負けて たら
約束 通り あいつ に 『 鉋 』 と 『 鈍 』 を 渡して いた の か
ご に ょご に ょ
ご に ょご に ょ
いや その
私 は そな た が 負ける こと など あり 得 ん と
だから
は いはい
この 階段 と も お さらば か
名残惜しい ぜ
神社 で なく 階段 が 名残惜しい の か
おかしな 奴 だ な
いや
とがめ を こんなふうに 抱っこ する 機会 なんて もう ない だろう から さ
ち ぇり お
この 時 は まだ 行く先 に
日本 最強 の 剣士 薄 刀 『 針 』 の 所有 者 錆 白 兵 が 待ち構えて いる など
夢にも 思って おり ませ ん でした
錆 白 兵 と 七 花 の 一騎打ち どう なる こと やら
刀 語 ―― 今月 今 宵 の お楽しみ は ここ まで に ございます
日本 最強 錆 白 兵
いかに 七 花 の 虚 刀 流 が 強力だ と して も
今回 ばかり は 安心 出来 ない
いや 安心 出来る 出来 ない など と 思う 遥か 以前 の 問題 だ
刀 集 め の 旅 四 本 目 に して
鑢 七 花 史上 最大 の 危機
とがめ 史上 最大 の 奇 策
聖地 巌 流 島 に 新たな 歴史 が 刻ま れる …… の か
次回 刀 語 薄 刀 『 針 』
あどけな さ は 童 女 の 手 毬 に 込めた 挨拶
銀 を 飲んで も いざ 輝け ぬ かな
一 つ 人 を 逢え ない 身 病
嵐 の 如く 狂 える 胸
まだ とき なお とき
永遠 は とこしえ に 届か ない 場所
阿 修羅 阿 修羅 の 澄む 夜風 がち きる
瞬間 を 花 が 向ける
血 の 影 に 千 の 墓 標