3- gatsu no Lion ( March comes in like a lion ) Episode 15
( 零 ( れい )) なぜ だろう ?
( 鳥 の 鳴き声 )
急に 思い出した んだ
( 島田 ( しま だ )) 宗谷 ( そう や )?
( 島田 ) そうだ な …
( 零 ) 子供 の ころ —
家 の 庭 に 迷い 込んだ 大きな 翼 の …
白い 鳥
( 島田 ) 鳥 に 似て る
( 関係 者 A ) 宗谷 名人 が 和服 だ !
( 関係 者 B ) 記念 対局 は 双方 スーツ が 通常 だった よ な
( 神宮寺 ( じんぐうじ )) いや ぁ 助かり ました よ 遠野 ( と おの ) 名誉 九 段
( 遠野 ) いやいや 地元 開催 の とき で 良かった
わし の 着物 道楽 が やっと 役 に 立ち ました よ
宗谷 名人 に 着て もらえる なぞ 名誉な こと です
家宝 に さ せて もらい ます よ
( 零 ) 不思議だ
ずっと 物語 の 中 に いた はずな のに —
今 目の前 に 座って いる
息 を して 動いて いる
そして 僕 と 戦う と いう
しっかり しろ ! 昨日 自分 で 言った じゃ ない か
( 零 ) あっという間 に 終わって しまわ ない ように —
集中 して 指し たい … です
今 から 僕 は この 人 と 渡り合わ ねば なら ない のだ
力 の 差 など 分かりきって いる
だが “ 勝つ ため ” 以外 の 心 で 飛び込んだら —
一瞬 で 首 を 吹っ飛ば さ れる
お 願い し ます
♪〜
〜♪
( 関係 者 D ) 相 矢倉 ( あい やぐら ) か ( 関係 者 E ) 初手 合わせ だ から な
( 関係 者 E ) まあ お互い を しっかり 知って おこう と いう と こか
( 関係 者 F ) 自然に 指し 合って いる って 流れ です かな
( 駒 を 打つ 音 )
( 関係 者 D ) うん ? 宗谷 2八 銀 ( 関係 者 E )2八 銀 ?
ホホッ … 質問 状 じゃ な
宗谷 君 から の
“ もしもし あなた は 誰 です か ” って な
( 零 )2八 銀 この 手 は 初めて だ 研究 か ?
… と いう こと は 3八 飛 1九 銀 成
5七 銀 右 8三 香 … か
確かに 脅威 だ けれど 直線 的 すぎる
直撃 さえ 避ければ 問題 ない
むしろ 今 行く べき は 密集 して いる あの —
角 頭 ( かくとう ) だ
( 関係 者 G ) いや ぁ しかし 桐山 ( きり やま ) よく 戦って る よ
( 関係 者 H ) さすが 宗谷 に 次いで 中学生 プロ に なった だけ ある
( 関係 者 I ) う 〜 ん … むしろ この 段階 じゃ —
桐山 の ほう が いい くらい じゃ ない の か ?
( 関係 者 J ) いやいや 新人 の 五 段 と 現 名人 の 対局 の 中盤 で —
“ 新人 の ほう が むしろ 優勢 か ” と か 来たら —
それ は もう ドラマ だったら ただ の 敗北 フラグ だろう
( 遠野 ) ホホホッ … 議論 が 起きる だけ 大した もん じゃ
( 遠野 ) それ だけ の もん が —
あの 子 の 中 に ある って こと じゃ
( 零 ) そうだ 5五 歩 同 銀 左 7五 歩
ここ で ねらい どおり 角 頭 を …
7四 歩 だ
( スパーク 音 )
なぜ だろう ?
駒 から 手 を 離す とき 指先 に かすかに 痛み が 走った
7四 歩 …
違う 何 やって んだ 俺 !
なんで 気づか ない ? 8六 歩 が ある だろう !
ここ で 8六 歩 と とがめ られたら もう あと が ない !
8六 歩 …
ンンッ … ハァ …
( 零 ) 同 歩 …
9五 角
7七 金 寄
( 関係 者 M ) 宗谷 8五 歩 桐山 これ は 厳しい か
( 関係 者 N ) どう する ? ( 関係 者 O ) 同 歩 と 取る か ?
( 関係 者 A ) 9六 歩 ! 同 歩 じゃ ない
( どよめき ) そう か 8五 歩 を 同 歩 と 取る と —
9三 桂 と 跳ね られて 玉 頭 ( ぎょ くとう ) が 支え きれ ない
( 関係 者 P ) なるほど だが ここ まで だろう
( 関係 者 P ) さっき の 7四 歩 が 痛い
( 関係 者 A ) いや でも 宗谷 の 8五 歩 は かわした ぞ
( 遠野 ) お やおや 6八 成 香 と は
宗谷 君 も また 悩ましい 手 を 指して くる
さて さて 桐山 五 段
この 成 香 を 飛車 で 取る か 取ら ぬ か
正解 は …
( 遠野 ) おお エサ に は 手 を 出さ ず じっと 7三 歩 成
淡々と 最善 手 を 指して くる の ぅ
まったく だ から こいつ は 面白い
( 駒 を 打つ 音 )
( 駒 を 打つ 音 )
( 零 ) それ から は 夢中だった ( 駒 を 打つ 音 )
頭 の 中 で 駒 音 が フラッシュ を たいた みたいに バチバチ と 光った
頭 の 中 で 何 か が どんどん 手 を つなげて いく の が 分かった
まるで …
銀色 に 光る まぶしい 水 が —
隅々 に まで 流れ込んで いく ようだった
( 駒 を 打つ 音 )
( 零 ) 指した 7四 歩 から 手 を 離す とき —
指 の 表面 を 引き 剥がす ような 感覚 が あった
( スパーク 音 )
手 を 離した 瞬間 に 敗 着 だ と 気 が ついた
もう あと が なくなった こと が 分かった
… と 同時に ふと 思った
もし ここ から の 手 を 全て 最善 手 のみ で 指し 通せた と したら …
この 将棋 は どこ まで 行ける の か なって
( 風 の 音 )
風 強い な 台風 太平洋 に 抜ける んじゃ ない の か ?
止まったり し ない と いい な
午後 から は 授業 に 出て 半日 休み 扱い に して ほしい んだ けど
宗谷 さん だ
そ っか 同じ 新幹線 か
随分 早い 列車 で 戻る んだ な
長居 は し ない タイプ だ と は 思って いた けれど
あんまり 他人 と 行動 して いる の を 見た こと が ない
笑って 誰 か と 話して いる ところ も
子供 の ころ から ずっと 見て いた けれど —
記憶 の 中 の この 人 は …
そう だ いつも ひと り だ
そう だ 不思議だ
僕 は 昨日 この 人 と 戦った んだ
戦って そして 負けた
何 だろう ?
この 感じ は 初めて だ
負けた の に 体 が 全然 疲れて い ない
気持ち が 全然 重く ない
勝てる わけ が ない と 思って —
はな から 諦めて 当たった わけで は 決して ない つもりだ
ただ 強く 分かった こと は 経験 も 研究 も —
“ 年 の 差 ” と いう 時間 の 分 だけ —
圧倒 的に 追いつけて い ない と いう こと
( 発車 ベル )
その 差 は どう やって 詰めたら いい の かも —
まだ 分から なかった こと
うまく 言え ない けれど 負けて も すがすがしく —
楽しい 気持ち で いら れる なんて —
本当 は 相手 に とても 失礼な こと に 思える
ただ 相手 を 神棚 に 祀 ( まつ ) って 勝手に 拝んで —
一方的に すっきり して いる ようで
まるで 人 を 人 と も 思って い ない ような 気 が して …
( スパーク 音 )
( 零 ) そう 思って きた のに … な のに …
何 だった んだろう ? 昨日 の 対局 は
ほか の 棋士 と 戦って いる とき は どんなに 力 の 差 が あって も —
相手 の 思考 が ある 程度 は トレース できる のに …
彼 だけ は ただ …
真っ白だった
指して いる 間 2 人 で ずっと 真っ白い 中 に いた
それ が とても 心地よかった
( 関係 者 Q ) 何 だった んでしょう ね ? 昨日 の …
宗谷 名人 と 桐山 五 段 の 感想 戦
( 関係 者 R ) あんな の 初めて 見た
2 人 と も ひと っ 言 も しゃべ ん ない まん ま —
進んで いく んだ もん な
( 関係 者 S ) 対局 が 終わって 感想 戦 に なったら —
いきなり 桐山 が —
黙って すごい 勢い で —
駒 を 並べ 始めた んだ よ な
( 関係 者 Q ) そして 63 手 目 まで 戻って —
本 譜 に は なかった 6六 銀 を 指した
( 関係 者 Q ) 宗谷 名人
あの とき うなずき ました よ ね 小さかった けど
( 関係 者 R ) 桐山 の 敗 着 は やっぱり あの 7四 歩 で —
感想 戦 で 指した 6六 銀 が 有望だった と いう こと な んだろう な
( 関係 者 Q ) … で すごい の は その あと だ
桐山 が 感想 戦 が 終わった とき —
一瞬 自分 の 指 を チラッ と 見た んです よ
ただ それ だけ な のに …
( 宗谷 ) そういう もん だ よ
( 関係 者 Q ) あれ は 何 だった んでしょう ね ?
確かに 言った んです よ 名人 が “ そういう もん だ よ ” って
桐山 は ただ の ひと言 も しゃべって ない のに
( 零 ) あの とき びっくり した んだ
考えて た こと が 口 に 出て しまった の か と 思った
言葉 に して ない の に 通じた
こんな 世界 が ある の か と 思った
静かで 明るくて 何も —
怖く ない 所 に いた
( 零 )12 時 を 過ぎて 仙台 ( せんだい ) 駅 に 入った ところ で —
新幹線 が 動か なく なった
( アナウンス ) 阿武 隈 川 ( あぶく ま がわ ) 水位 上昇 の ため 運行 を 見合わせ ます
なお 運転 再開 の 見通し は 立って おり ませ ん
繰り返し ご 乗車 の …
( 零 ) えっ ? えっ ? 早 ( はや ) っ !
( アナウンス ) 台風 2 号 の 影響 で 運行 を 見合わせて おり ます
繰り返し ます
台風 2 号 の 影響 で 運行 を 見合わせて おり ます
お 急ぎ の ところ 大変 申し訳 あり ませ ん
台風 2 号 の 影響 で 運行 を 見合わせて おり ます
( 零 ) あっ …
( 零 ) 寝て る
宗谷 さん あの …
あの … 宗谷 さん
どう しよう
( 零 ) あの … ( 宗谷 ) うん ?
( 宗谷 ) ハッ … ( 零 ) あっ …
すいません
あの … でも この 電車 もう 動か ない みたいな んで
ハァ …
( 零 ) 宗谷 さん ?
今日 は もう 運転 の 再開 の 見込み は ない みたいだ って さっき 放送 で …
な ので チケット の 払い戻し と あと …
( 零 ) 何も 届いて い ない か の ような 表情 に —
胸 が ザワザワ と 騒ぎ だした
今晩 泊まる 所 を 押さえ ない と
全て の ピース が 合致 した
放って は おけ ない と 思い 手 を 引いた
この 人 の 周り から 音 が 消えて 見えた ので は なかった
この 人 の 中 に 音 が ない のだ
どうして ? いつ から ?
分から ない
この 人 の 耳 に は もう 何も 届いて は い ない のだ
( 雨 の 音 )
( アナウンス ) 運転 再開 の 見込み は …
( 零 ) 駅 に は アナウンス が 流れ 続け 重たい 雨 の 湿気 の 中 —
構内 は たくさんの 人 で ごった返して いた
今日 は もう 動か ない
… と いう こと は 特急 券 の 払い戻し を すれば いい の か
( アナウンス ) 台風 2 号 の 影響 の ため …
( 零 ) 切符 売り場 混 んで そうだ な ちょっと 出遅れた から
え 〜 っと … それ じゃ いったん 改札 を 出 ましょう
僕 が 並んで え 〜 特急 券 の 精算 を して くる ので …
うん ? 宗谷 さん ?
あっ …
( 零 ) どうも
そ っか 払い戻し だ から ここ でも できる の か なるほど
これ で 払い戻し と 乗車 券 の 手続き は 済んだ から
え 〜 っと 次 は … そうだ 泊まる 所 泊まる 所 を 確保 し ない と
大きな 駅 だ から きっと 案内 板 と か が …
うん ?
あっ あった
え 〜 っと … どれ が いい んだ ?
とにかく 雨 が すご そうだ から なるべく 駅 から 近くて —
地下 道 と か で つながって る 所
( 零 ) そうです か 満室 です か
分かり ました ありがとう ございます はい
駅 から すぐ の ホテル は もう みんな アウト か
でも じゃ あと ホテル って どれ が いい んだ ?
自分 だけ なら 何でも いい んだ けど
あっ …
“ 盛 泉 ( せいせん ) イン ”… あ 〜 東京 に も よく ある やつ だ
そこ なら 歩いて 行け ます ね そんなに 遠く ない
はい 空いて ます か ? はい シングル 2( ふた ) 部屋 で
はい これ から 行き ます はい
( 電話 を 切る 音 ) よ 〜 し 取れ ました 良かった
さあ 行き ましょう
( 零 ) きっと この グレー の 所 が 地下 道 だ から —
ギリギリ まで 下 で 行って 上 に 出 ましょう
そう だ 傘 ! 傘 買わ ない と
ハッ … ない !
( 零 ) 良かった あった 傘 あり ました
一斉に なくなる んです ね 危なかった
さあ 行き ましょう
( 零 ) 現 実感 が なかった
でも 不思議な 高揚 感 が あった
( 雷鳴 )
きっと 全部 この 台風 の せい だ
( 零 ) ウワッ … タクシー すごい 列
ウオッ … 雨 す ご っ !
( 零 ) あれ ? え 〜 っと … なんか お 店 に なった ぞ
こっち から 出 られる の か な …
( 雨 の 音 )
( 零 ) あれ ? え 〜 っと これ は … トラック ?
搬入 口 か ? こっか ら 出て いい の か な …
おもむろに ?
( 零 ) あっ …
今 の 分 夜 の 分 と 朝 の か
え 〜 っと あと は サンドイッチ と おにぎり と カップ ラーメン と …
よし うん
買い 過ぎ かも しれ ない けど —
この 雨 じゃ もう 買い に 来 られ ない から な
( 店員 ) 合計 で 1,540 円 です
それ だけ ? … てい うか なに か 非 常食 っぽい ラインナップ
( 店員 ) 合計 で 2,980 円 です
えっ ? あれ ? そんなに ?
( ドア チャイム ) ( 店員 ) ありがとう ございました
見えた
多分 あれ だ
♪〜
〜♪
( 零 ) 歩き だす と —
歩き だす
立ち止まる と —
立ち止まる
僕 の あと を 静かに —
神さま が ついてくる
( 神宮寺 ) 俺 だ 俺 お前 大丈夫 か ?
( 零 ) 現 実感 が まるで なかった
( 神宮寺 ) もう ずっと —
〝 聞こえる 〞 と 〝 聞こえ ない 〞 を —
行ったり 来たり して いる
( 零 ) あの 雨 の 中 —
2 人 で 確かに 一緒に 歩いた のに …
( 神宮寺 ) あそこ の 露天 風呂 最高な んだ よ な
桐山 ちゃん も 入れば よかった のに