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こころ - 夏目漱石 - Soseki Project, Section 036 - Kokoro - Soseki Project

Section 036 - Kokoro - Soseki Project

「 それ だ から 困る の よ 。 あなた から そう いわ れる と 実に 辛い んです が 、 私 に は どう 考えて も 、 考え よう が ない んです もの 。 私 は 今 まで 何遍 あの 人 に 、 どうぞ 打ち明けて 下さいって 頼んで 見た か 分 り ゃ しません 」 「 先生 は 何と おっしゃる んです か 」

「 何にも いう 事 は ない 、 何にも 心配 する 事 は ない 、 おれ は こういう 性質 に なった んだ から と いう だけ で 、 取り合って くれ ない んです 」

私 は 黙って いた 。 奥さん も 言葉 を 途 切らした 。 下 女 部屋 に いる 下 女 は ことり と も 音 を さ せ なかった 。 私 は まるで 泥棒 の 事 を 忘れて しまった 。

「 あなた は 私 に 責任 が ある んだ と 思って や しません か 」 と 突然 奥さん が 聞いた 。 「 いいえ 」 と 私 が 答えた 。

「 どうぞ 隠さ ず に いって 下さい 。 そう 思わ れる の は 身 を 切ら れる より 辛い んだ から 」 と 奥さん が また いった 。 「 これ でも 私 は 先生 の ため に できる だけ の 事 は して いる つもりな んです 」

「 そりゃ 先生 も そう 認めて いられる んだ から 、 大丈夫です 。 ご 安心な さい 、 私 が 保証 します 」 奥さん は 火鉢 の 灰 を 掻き 馴 ら した 。 それ から 水 注 の 水 を 鉄瓶 に 注 した 。 鉄瓶 は 忽ち 鳴り を 沈めた 。

「 私 は とうとう 辛 防 し 切れ なく なって 、 先生 に 聞きました 。 私 に 悪い 所 が ある なら 遠慮 なく いって 下さい 、 改められる 欠点 なら 改める からって 、 すると 先生 は 、 お前 に 欠点 なんか ありゃ し ない 、 欠点 は おれ の 方 に ある だけ だ と いう んです 。 そう いわ れる と 、 私 悲しく なって 仕様がない んです 、 涙 が 出て なお の 事 自分 の 悪い 所 が 聞き たく なる んです 」

奥さん は 眼 の 中 に 涙 を いっぱい 溜 め た 。


Section 036 - Kokoro - Soseki Project section|kokoro|soseki|project Abschnitt 036 - Projekt Kokoro - Soseki Section 036 - Kokoro - Soseki Project Secção 036 - Projeto Kokoro - Soseki

「 それ だ から 困る の よ 。 |||こまる|| あなた から そう いわ れる と 実に 辛い んです が 、 私 に は どう 考えて も 、 考え よう が ない んです もの 。 ||||||じつに|からい|||わたくし||||かんがえて||かんがえ||||| 私 は 今 まで 何遍 あの 人 に 、 どうぞ 打ち明けて 下さいって 頼んで 見た か 分 り ゃ しません 」 わたくし||いま||なんべん||じん|||うちあけて|くださ いって|たのんで|みた||ぶん|||し ませ ん 「 先生 は 何と おっしゃる んです か 」 せんせい||なんと|||

「 何にも いう 事 は ない 、 何にも 心配 する 事 は ない 、 おれ は こういう 性質 に なった んだ から と いう だけ で 、 取り合って くれ ない んです 」 なんにも||こと|||なんにも|しんぱい||こと||||||せいしつ|||||||||とりあって|||

私 は 黙って いた 。 わたくし||だまって| 奥さん も 言葉 を 途 切らした 。 おくさん||ことば||と|きらした 下 女 部屋 に いる 下 女 は ことり と も 音 を さ せ なかった 。 した|おんな|へや|||した|おんな|||||おと|||| 私 は まるで 泥棒 の 事 を 忘れて しまった 。 わたくし|||どろぼう||こと||わすれて|

「 あなた は 私 に 責任 が ある んだ と 思って や しません か 」 と 突然 奥さん が 聞いた 。 ||わたくし||せきにん|||||おもって||し ませ ん|||とつぜん|おくさん||きいた 「 いいえ 」 と 私 が 答えた 。 ||わたくし||こたえた

「 どうぞ 隠さ ず に いって 下さい 。 |かくさ||||ください そう 思わ れる の は 身 を 切ら れる より 辛い んだ から 」 と 奥さん が また いった 。 |おもわ||||み||きら|||からい||||おくさん||| 「 これ でも 私 は 先生 の ため に できる だけ の 事 は して いる つもりな んです 」 ||わたくし||せんせい|||||||こと|||||

「 そりゃ 先生 も そう 認めて いられる んだ から 、 大丈夫です 。 |せんせい|||みとめて|いら れる|||だいじょうぶです ご 安心な さい 、 私 が 保証 します 」 |あんしんな||わたくし||ほしょう|し ます 奥さん は 火鉢 の 灰 を 掻き 馴 ら した 。 おくさん||ひばち||はい||かき|じゅん|| それ から 水 注 の 水 を 鉄瓶 に 注 した 。 ||すい|そそ||すい||てつびん||そそ| 鉄瓶 は 忽ち 鳴り を 沈めた 。 てつびん||たちまち|なり||しずめた

「 私 は とうとう 辛 防 し 切れ なく なって 、 先生 に 聞きました 。 わたくし|||しん|ふせ||きれ|||せんせい||きき ました 私 に 悪い 所 が ある なら 遠慮 なく いって 下さい 、 改められる 欠点 なら 改める からって 、 すると 先生 は 、 お前 に 欠点 なんか ありゃ し ない 、 欠点 は おれ の 方 に ある だけ だ と いう んです 。 わたくし||わるい|しょ||||えんりょ|||ください|あらため られる|けってん||あらためる|から って||せんせい||おまえ||けってん|||||けってん||||かた||||||| Don't hesitate to tell me if there's something wrong with me, because if it's a flaw that can be fixed, then the teacher says that you don't have any flaws, and that the flaws are only for me. そう いわ れる と 、 私 悲しく なって 仕様がない んです 、 涙 が 出て なお の 事 自分 の 悪い 所 が 聞き たく なる んです 」 ||||わたくし|かなしく||しようがない||なみだ||でて|||こと|じぶん||わるい|しょ||きき|||

奥さん は 眼 の 中 に 涙 を いっぱい 溜 め た 。 おくさん||がん||なか||なみだ|||たま||