17.2.2 スリザリンの継承者 - The Heir of Slytherin
ハリー の 杖 が 床 に 落ちて カタカタ と 音 を たて 、 そして 静寂 が 訪れた 。
インク が 日記帳 から 浸み 出し 、 ポタッポタッ と 落ち 続ける 音 だけ が 静けさ を 破って いた 。
バジリスク の 猛毒 が 、 日記 帳 の 真ん中 を 貫いて 、 ジュウジュウ と 焼け 爛れた 穴 を 残して い た 。
体中 を 震わせ 、 ハリー は やっと 立ち上がった 。 暖炉 飛行 粉 で 、 何 キロ も 旅 を した あと の よう に クラクラ して いた 。
ゆっくり と ハリー は 杖 を 拾い 、「 組 分け 帽子 」 を 拾い 、 そして 満身 の 力 で 、 バジリスク の 上 顎 を 貫いて いた 眩 い 剣 を 引き抜いた 。
「 秘密の 部屋 」 の 隅 の 方 から 微かな うめき声 が 聞こえて きた 。 ジニー が 動いて いた 。
ハリー が 駆け寄る と 、 ジニー は 身 を 起こした 。 トロン と した 目 で 、 ジニー は バジリスク の 巨大な 死骸 を 見 、 ハリー を 見 、 血 に 染まった ハリー の ローブ に 目 を やった 。 そして ハリー の 手 に ある 日記 を 見た 。
途端 に ジニー は 身震い して 大きく 息 を 呑んだ 。 それ から 涙 が どっと 溢れた 。
「 ハリー ―― あぁ 、 ハリー ―― あたし 、 朝食 の とき あなた に 打ち明けよう と した の 。 でも 、 パーシー の 前 で は 、 い 、 言え なかった 。 ハリー 、 あたし が やった の ―― でも 、 あたし ―― そ 、 そんな つもり じゃ なかった 。 う 、 嘘 じゃ ない わ ―― リ 、 リドル が やら せた の 。 あたし に 乗り移った の ―― そして 一 いったい どう やって あれ を やっつけた の ? あんな すごい もの を ? リドル は ど 、 どこ ! リドル が 日記帳 から 出て きて 、 その あと の こと は 、 お 、 覚えて いない わ ――」 「 もう 大丈夫 だ よ 」 ハリー は 日記 を 持ち上げ 、 その 真ん中 の 毒 牙 で 焼か れた 穴 を 、 ジニー に 見せた 。 「 リドル は おしまい だ 。 見て ごらん ? リドル 、 それ に バジリスク も だ 。 おいで 、 ジニー 。 早 く ここ を 出よう ――」
「 あたし 、 退学 に なる わ !」
ハリー は さめざめ と 泣く ジニー を 、 ぎこちなく 支えて 立ち上がら せた 。
「 あたし 、 ビ 、 ビル が ホグワーツ に 入って から ずっと 、 この 学校 に 入る の を 楽しみに して い た のに 、 も 、 もう 退学 に なる んだ わ ―― パパ や ママ が 、 な 、 なんて 言う かしら !」
フォークス が 入口 の 上 を 浮かぶ ように 飛んで 、 二 人 を 待って いた 。
ハリー は ジニー を 促して 歩か せ 、 死んで 動か なく なった バジリスク の とぐろ を 乗り越え 、 薄 暗がり に 足音 を 響かせ 、 トンネル へ と 戻って きた 。
背後 で 石 の 扉 が 、 シューッ と 低い 音 を たてて 閉じる の が 聞こえた 。 暗い トンネル を 数 分 歩く と 、 遠く の 方 から ゆっくり と 岩 が ずれ 動く 音 が 聞こえて きた 。 「 ロン !」 ハリー は 足 を 速め ながら 叫んだ 。
「 ジニー は 無事だ ! ここ に いる よ !」 ロン が 、 胸 の 詰まった ような 歓声 を あげる の が 聞こえた 。
二 人 は 次の 角 を 曲がった 。
崩れ落ちた 岩 の 間 に 、 ロン が 作った 、 かなり 大きな 隙間 の むこう から 、 待ちきれ ない ような ロン の 顔 が 覗いて いた 。
「 ジニー !」 ロン が 隙間 から 腕 を 突き出して 、 最初に ジニー を 引っ張った 。 「 生きて た の か ! 夢 じゃ ない だろう な ? いったい 何 が あった んだ ?」 ロン が 抱きしめよう と する と 、 ジニー は しゃくりあげ 、 ロン を 寄せつけ なかった 。 「 でも 、 ジニー 、 もう 大丈夫だ よ 」 ロン が ニッコリ 笑い かけた 。 「 もう 終わった んだ よ 、 もう ―― あの 鳥 は どっから 来た ん だい ?」 フォークス が ジニー の あと から 隙間 を スイーッ と くぐって 現れた 。 「 ダンブルドア の 鳥 だ 」 ハリー が 狭い 隙間 を くぐり抜け ながら 答えた 。 「 それ に 、 どうして 剣 なんか 持って る んだ ?」 ロン は ハリー の 手 に した 眩 い 武器 を まじまじ と 見つめた 。 「 ここ を 出て から 説明 する よ 」 ハリー は ジニー の 方 を チラッ と 横目 で 見 ながら 言った 。 「 でも ――」
「 あと に して 」 ハリー が 急いで 言った 。
誰 が 「 秘密の 部屋 」 を 開けた の か を 、 今 、 ロン に 話す の は 好ましく ない と 思った し 、 いずれ に して も 、 ジニー の 前 で は 言わ ない 方 が よい と 考えた のだ 。
「 ロック ハート は どこ ?」
「 あっち の 万 だ 」 ロン は ニヤッ と して 、 トンネル から パイプ へ と 向かう 道筋 を 顎 で しゃくった 。 「 調子 が 悪くて ね 。 行って 見て ごらん 」
フォークス の 広い 真 紅 の 翼 が 闇 に 放つ 、 柔らかな 金色 の 光 に 導か れ 、 三 人 は パイプ の 出口 の ところ まで 引き返した 。
ギルデロイ ・ ロックハート が 一 人 で おとなしく 鼻歌 を 歌い ながら そこ に 座って いた 。
「 記憶 を なくして る 。 『 忘却 術 』 が 逆 噴射 して 、 僕たち で なく 自分 に かかっちゃった んだ 。 自分 が 誰 な の か 、 今 どこ に いる の か 、 僕たち が 誰 な の か 、 チンプンカンプン さ 。 ここ に 来て 待って る ように 言った んだ 。 この 状態 で 一 人 で 放っておく と 、 怪我 したり して 危ない から ね 」
ロック ハート は 人 の よ さ そうな 顔 で 、 闇 を 透かす ように して 三 人 を 見上げた 。 「 や あ 、 なんだか 変わった ところ だ ね 。 ここ に 住んで いる の ?」 ロックハート が 聞いた 。 「 いや 」 ロン は ハリー の 方 に ちょっと 眉 を 上げて 目配せ した 。 ハリー は かがんで 、 上 に 伸びる 長く 暗い パイプ を 見上げた 。 「 どう やって 上 まで 戻る か 、 考えて た ?」 ハリー が 聞いた 。
ロン は 首 を 横 に 振った 。
すると 、 不死鳥 の フオークス が スーッ と ハリー の 後ろ から 飛んで きて 、 ハリー の 前 に 先回り して 羽 を パタパタ いわ せた 。
ビーズ の ような 目 が 闇 に 明るく 輝いて いる 。 長い 金色 の 尾 羽 を 振って いる 。 ハリー は ポカン と して フォークス を 見た 。
「 つかま れって 言って る ように 見える けど ...!」 ロン が 当惑 した 顔 を した 。 「 でも 鳥 が 上 まで 引っ取り上げる に は 、 君 は 重 すぎる な 」 「 フォークス は 普通の 鳥 じゃ ない 」 ハリー は ハッと して みんな に 言った 。 「 みんな で 手 を つなが なきゃ 。 ジニー 、 ロン の 手 に つかまって 。 ロックハート 先生 は ――」
「 君 の こと だ よ 」 ロン が 強い 口調 で ロック ハート に 言った 。
「 先生 は 、 ジニー の 空いて る 方 の 手 に つかまって 」
ハリー は 剣 と 「 組 分け 帽子 」 を ベルト に 挟んだ 。 ロン は 、 ハリー の ローブ の 背中 の ところ に つかまり 、 ハリー は 手 を 伸ばして 、 フォークス の 不思議に 熱い 尾 羽 を しっかり つかんだ 。
全身 が 異常に 軽く なった ような 気 が した 。 次の 瞬間 、 ヒューッ と 風 を 切って 、 四 人 は パイプ の 中 を 上 に 向かって 飛んで いた 。
下 の 方 に ぶら下がって いる ロック ハート が 、「 すごい ! すごい ! まるで 魔法 の ようだ !」 と 驚く 声 が ハリー に 聞こえて きた 。
ひんやり した 空気 が ハリー の 髪 を 打った 。
楽しんで いる うち に 、 飛行 は 終わった ―― 四 人 は 「 嘆き の マートル 」 の トイレ の 湿った 床 に 着地 した 。
ロック ハート が 帽子 を まっすぐに かぶり 直して いる 間 に 、 パイプ を 覆い隠して いた 手洗い 台 が スルスル と 元 の 位置 に 戻った 。
マートル が じろじろ と 四 人 を 見た 。
「 生きて る の 」 マートル は ポカン と して ハリー に 言った 。
「 そんなに がっかり した 声 を 出さ なくて も いい じゃ ない か 」
ハリー は 、 メガネ に ついた 血 や ベトベト を 拭い ながら 、 真顔 で 言った 。
「 あぁ ...... わたし 、 ちょうど 考えて た の 。 もし あんた が 死んだら 、 わたし の トイレ に 一緒に 住んで もらったら 嬉しいって 」 マートル は 頬 を ポッ と 銀色 に 染めた 。 「 ウヘー !」 トイレ から 出て 、 暗い 人気 の ない 廊下 に 立った とき 、 ロン が 言った 。
「 ハリー 、 マートル は 君 に 熱 を 上げて る ぜ ! ジニー 、 ライバル だ !」
しかし 、 ジニー は 声 も たて ず に 、 まだ ポロポロ 涙 を 流して いた 。
「 さあ 、 どこ へ 行く ?」
ジニー を 心配 そうに 見 ながら 、 ロン が 言った 。 ハリー は 指 で 示した 。
フォークス が 金色 の 光 を 放って 、 廊下 を 先導 して いた 。 四 人 は 急ぎ足 で フォークス に 従った 。 間もなく マクゴナガル 先生 の 部屋 の 前 に 出た 。 ハリー は ノック して 、 ドア を 押し 開いた 。