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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 46. 片隅の幸福 - 種田山頭火

46. 片隅の幸福 - 種田山頭火

片隅 の 幸福 - 種田 山頭 火

大の 字 に 寝て 涼し さ よ 淋し さ よ

一 茶 の 句 である 。 いつごろ の 作 である か は 、 手 もと に 参考 書 が 一 冊 も ない から 解ら ない けれど 、 多分 放浪 時代 の 句 であろう と 思う 。 とにかく その つもり で 筆 を すすめて ゆく 。 ――

一 茶 は 不幸な 人間 であった 。 幼 に して 慈母 を 失い 、 継母 に 虐められ 、 東 漂 西 泊 する より 外 は なかった 。 彼 は 幸 か 不幸 か 俳人 であった 。 恐らくは 俳句 を 作る より 外 に は 能力 の ない 彼 であったろう 。 彼 は 句 を 作った 。 悲しみ も 歓 び も 憤り も 、 すべて を 俳句 と して 表現 した 。 彼 の 句 が 人間 臭 ふん ぷん たる 所 以 である 。 煩悩 無 尽 、 煩悩 そのもの が 彼 の 句 と なった のである 。

しかし 、 この 句 に は 彼 独特 の 反感 と 皮肉 が なくて 、 のんびり と して そして しんみり と した もの が ある 。

大 の 字 に 寝て 涼し さ よ ―― は さすが に 一 茶 的である 。 いつも の 一 茶 が 出て いる が 、 つづけて 、 淋し さ よ ―― と うたった ところ に 、 ひねくれて いない 正直な 、 すなおな 一 茶 の 涙 が 滲 んで いる で は ない か 。 彼 が 我 儘気 儘 に 寝転んだ の は どこ であったろう 。 居候 して いた 家 の 別 間 か 、 道中 の 安 宿 か 、 それとも 途上 の 樹 蔭 か 、 彼 は そこ で しみじみ 人間 の 幸 不 幸運 不運 を 考えた のであろう 。 切って も 切れ ない 、 断とう と して も 断て ない 執着 の 絆 を 思い 、 孤独 地獄 の 苦悩 を 痛感 した のであろう 。

所詮 、 人 は 人 の 中 である 。 孤立 は 許さ れ ない 。 怨み 罵り つつ も 人 と 人 と は 離れ がたい のである 。 人 は 人 を 恋う 。 愛して も 愛さ なくて も 、 家 を 持た ず に は いられ ない のである 。 みだりに 放浪 と か 孤独 と か いう なかれ !

一 茶 の 作品 は 極めて 無造作に 投げ出した ようである が 、 その 底 に 潜んで いる 苦労 は 恐らく 作家 で なければ 味読 する こと が 出来 まい ( 勿論 、 芭蕉 ほど 彫 心 鏤骨 で は ない が )。

いう まで も なく 、 一 茶 に は 芭蕉 的 の 深 さ は ない 。 蕪 村 的な 美し さ も ない 。 しかし 彼 に は 一 茶 の 鋭 さ が あり 、 一 茶 的な 飄逸 味 が ある 。

私 は 一 茶 の 句 を 読む と 多少 憂鬱に なる が 、 同時に また 、 いわば 片隅 の 幸福 を 感じて 、 駄作 一 句 を 加え たく なった 。 ――

ひとり 住めば あ を あ を と して 草

(「 愚 を 守る 」 初版 本 )

46. 片隅の幸福 - 種田山頭火 かたすみ の こうふく|おいだ さんとう ひ small happiness|Taneda Santoka 46. Glück in einer Ecke - Taneda Yamatohka 46. happiness in a corner - taneda yamatoka 46. felicidad en un rincón - Taneda Yamatohka 46. 한쪽 구석의 행복 - 타네다 산토끼 46. счастье в углу - Танеда Яматоха 46. 角落的幸福-種田桑託卡

片隅 の 幸福 - 種田 山頭 火 かたすみ||こうふく|おいだ|さんとう|ひ |||Taneda|Yamatogata| Happiness in one corner-Santoka Taneda

大の 字 に 寝て 涼し さ よ 淋し さ よ だいの|あざ||ねて|すずし|||さびし||

一 茶 の 句 である 。 ひと|ちゃ||く| いつごろ の 作 である か は 、 手 もと に 参考 書 が 一 冊 も ない から 解ら ない けれど 、 多分 放浪 時代 の 句 であろう と 思う 。 ||さく||||て|||さんこう|しょ||ひと|さつ||||わから|||たぶん|ほうろう|じだい||く|||おもう とにかく その つもり で 筆 を すすめて ゆく 。 ||||ふで||| ――

一 茶 は 不幸な 人間 であった 。 ひと|ちゃ||ふこうな|にんげん| 幼 に して 慈母 を 失い 、 継母 に 虐められ 、 東 漂 西 泊 する より 外 は なかった 。 おさな|||じぼ||うしない|ままはは||いじめ られ|ひがし|ただよ|にし|はく|||がい|| |||loving mother|||||bullied||||||||| 彼 は 幸 か 不幸 か 俳人 であった 。 かれ||こう||ふこう||はいじん| He was a poet, fortunately or unfortunately. 恐らくは 俳句 を 作る より 外 に は 能力 の ない 彼 であったろう 。 おそらくは|はいく||つくる||がい|||のうりょく|||かれ| ||||||||||||probably 彼 は 句 を 作った 。 かれ||く||つくった 悲しみ も 歓 び も 憤り も 、 すべて を 俳句 と して 表現 した 。 かなしみ||かん|||いきどおり||||はいく|||ひょうげん| 彼 の 句 が 人間 臭 ふん ぷん たる 所 以 である 。 かれ||く||にんげん|くさ||||しょ|い| |||||||smell|||| 煩悩 無 尽 、 煩悩 そのもの が 彼 の 句 と なった のである 。 ぼんのう|む|つく|ぼんのう|その もの||かれ||く|||

しかし 、 この 句 に は 彼 独特 の 反感 と 皮肉 が なくて 、 のんびり と して そして しんみり と した もの が ある 。 ||く|||かれ|どくとく||はんかん||ひにく|||||||||||| |||||||||||||||||somber||||| However, this phrase lacks his peculiar antipathy and sarcasm, and is laid-back and poignant.

大 の 字 に 寝て 涼し さ よ ―― は さすが に 一 茶 的である 。 だい||あざ||ねて|すずし||||||ひと|ちゃ|てきである Sleeping sprawled and feeling cool -- that's just the way it is. いつも の 一 茶 が 出て いる が 、 つづけて 、 淋し さ よ ―― と うたった ところ に 、 ひねくれて いない 正直な 、 すなおな 一 茶 の 涙 が 滲 んで いる で は ない か 。 ||ひと|ちゃ||でて||||さびし|||||||||しょうじきな||ひと|ちゃ||なみだ||しん|||||| |||||||||||||||||||honest||||||seeping|||||| The usual Issa is pouring out, but when he continues to say, "I'm lonely," isn't Issa's honest, honest tears welling up? 彼 が 我 儘気 儘 に 寝転んだ の は どこ であったろう 。 かれ||われ|ままき|まま||ねころんだ|||| |||selfishly|||laying|||| Where was he selfishly lying down? 居候 して いた 家 の 別 間 か 、 道中 の 安 宿 か 、 それとも 途上 の 樹 蔭 か 、 彼 は そこ で しみじみ 人間 の 幸 不 幸運 不運 を 考えた のであろう 。 いそうろう|||いえ||べつ|あいだ||どうちゅう||やす|やど|||とじょう||き|おん||かれ|||||にんげん||こう|ふ|こううん|ふうん||かんがえた| Whether it was in the other room of the house where he was freeloading, in a cheap inn on the way, or in the shade of a tree on the way, he must have pondered the happiness and misfortune of human beings there. 切って も 切れ ない 、 断とう と して も 断て ない 執着 の 絆 を 思い 、 孤独 地獄 の 苦悩 を 痛感 した のであろう 。 きって||きれ||たとう||||たて||しゅうちゃく||きずな||おもい|こどく|じごく||くのう||つうかん|| ||||||||cut||||||||||suffering||pain|| Thinking about the bond of attachment that could not be cut, even if he tried to cut it, he must have keenly felt the agony of loneliness in hell.

所詮 、 人 は 人 の 中 である 。 しょせん|じん||じん||なか| After all, people are among people. 孤立 は 許さ れ ない 。 こりつ||ゆるさ|| Isolation is not allowed. 怨み 罵り つつ も 人 と 人 と は 離れ がたい のである 。 うらみ|ののしり|||じん||じん|||はなれ|| Even though they complain and curse, it is hard to separate people from each other. 人 は 人 を 恋う 。 じん||じん||こう ||||love People fall in love with people. 愛して も 愛さ なくて も 、 家 を 持た ず に は いられ ない のである 。 あいして||あいさ|||いえ||もた||||いら れ|| Whether you love it or not, you can't help but have a home. みだりに 放浪 と か 孤独 と か いう なかれ ! |ほうろう|||こどく|||| at random|||||||| Don't call me wandering or lonely!

一 茶 の 作品 は 極めて 無造作に 投げ出した ようである が 、 その 底 に 潜んで いる 苦労 は 恐らく 作家 で なければ 味読 する こと が 出来 まい ( 勿論 、 芭蕉 ほど 彫 心 鏤骨 で は ない が )。 ひと|ちゃ||さくひん||きわめて|むぞうさに|なげだした||||そこ||ひそんで||くろう||おそらく|さっか|||みどく||||でき||もちろん|ばしょう||ほ|こころ|るほね|||| |||||||||||||||||||||appreciate reading|||||||Basho||||subtle craftsmanship|||| Issa's work seems to have been thrown out in an extremely careless manner, but perhaps only the artist can appreciate the hardships that lie beneath it (although, of course, he is not as carved as Basho's).

いう まで も なく 、 一 茶 に は 芭蕉 的 の 深 さ は ない 。 ||||ひと|ちゃ|||ばしょう|てき||ふか||| Needless to say, Issa does not have the depth of Basho. 蕪 村 的な 美し さ も ない 。 かぶ|むら|てきな|うつくし||| There is no buson-like beauty either. しかし 彼 に は 一 茶 の 鋭 さ が あり 、 一 茶 的な 飄逸 味 が ある 。 |かれ|||ひと|ちゃ||するど||||ひと|ちゃ|てきな|ひょういつ|あじ|| ||||||||||||||elegance||| However, he has Issa's sharpness and Issa's kind of easygoing taste.

私 は 一 茶 の 句 を 読む と 多少 憂鬱に なる が 、 同時に また 、 いわば 片隅 の 幸福 を 感じて 、 駄作 一 句 を 加え たく なった 。 わたくし||ひと|ちゃ||く||よむ||たしょう|ゆううつに|||どうじに|||かたすみ||こうふく||かんじて|ださく|ひと|く||くわえ|| When I read Issa's haiku, I got a little depressed, but at the same time, I felt a kind of bliss in the corner, so I wanted to add another bad poem. ――

ひとり 住めば あ を あ を と して 草 |すめば|||||||くさ If you live alone

(「 愚 を 守る 」 初版 本 ) ぐ||まもる|しょはん|ほん