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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 91. 大きな蝙蝠傘 - 竹久夢二

91. 大きな 蝙蝠 傘 - 竹 久 夢 二

大きな 蝙蝠 傘 - 竹 久 夢 二

それ はたいそう 大きな 蝙蝠 傘 でした 。 ・・

幹子 は 、 この 頃 田舎 の 方 から 新しく こちら の 学校 へ 入って きた 新入 生 でした 。 髪 の 形 も 着物 も 、 東京 の 少女 に 較 べ る と 、 かなり 田舎 染みて 見えました 。 けれど 、 幹子 は そんな 事 を 少しも 気 に かけ ないで 、 学科 の 勉強 と か 運動 と か 、 つまり 、 少女 の す べき こと だけ を やってのける と 言った 質 の 少女 でした 。 たとえば 青い 空 に 葉 を さしのべ 、 太陽 の 方 へ 向いて ぐんぐん 育って ゆく 若木 の ように のんびり した 少女 でした 。 ・・

それにしても 、 幹子 が 毎日 学校 へ 持ってくる 蝙蝠 傘 は 非常に 大きな もの で 、 忽ち 学校 中 の 評判 に なりました 。 ・・

どこ の 級 に も 、 頓智 が あってたいへん 口 が 軽く 、 気 の 利いた こと を 言って は 皆 を 笑わ せる こと の 好きな 愚 な 生徒 が 一 人 や 二 人 は ある もの です 。 幹子 の 級 に も 、 時子 と 朝子 と いう 口 の わるい 生徒 が ありました 。 ・・

ある 日 、 幹子 は 学校 へ ゆく 途中 で 、 この 口 の わるい 連中 に 出会いました 。 むろん この 時 、 幹子 は 例の 蝙蝠 傘 を 持って いた ので 、 忽ち それ が 冷笑 の 的に なりました 。 ・・

「 あら 何 処 の 紳士 か と 思ったら 、 幹子 さん だった わ 、 幹子 さん お 早う 」・・

時子 が 言った 。 なるほど 幹子 の 蝙蝠 傘 は 、 黒い 毛 繻子 張 で 柄 の 太い 大きな もの だ から 、 どう 見て も 、 祖父 様 の 古い の を さした と しか 見えません でした 。 事実 また そう であった かも しれません 。 この 場合 「 何 処 の 紳士 か と 思ったら 」 と いう の は 、 ほんとに 適 評 だった ので 、 皆 は どっと 笑い くずれました 。 ・・

幹子 も 一緒に なって 笑い ながら 「 お 早う 」 と 挨拶 して 、 つまらない お 友達 に かまって は いられ ない と 言った ように 、 さっさと そこ を 通りぬけて 、 まっすぐに 学校 の 方 へ 歩いた 。 ・・

「 あの くらい 蝙蝠 傘 が 大きかったら 日 に やけ ないで 好 いわ ね 」・・

「 ええ 、 だから 幹子 さん は 、 お 色 が 白い わ よ 」・・

そう 言って 冷笑 して いる の も 幹子 の 耳 へ 這 入った 。 けれど 幹子 は 何 を 言われて も 平気で いた 。 ・・

「 でも 幹子 さん の 田舎 じゃ あれ でたいへん ハイカラな の かも 知れ ない わ 」・・

「 そう ね 。 私 は こう 思う の 、 幹子 さん の お 父 様 は きっと 薬屋 さん に 違いない わ 。 だから 幹子 さん を いまに 薬 売 に する んだ わ 。 ほら 、 よく 薬 売 が あんな 大きな 蝙蝠 傘 を さして 来る でしょう 。 「 本家 、 讃岐 は 高松 千 金 丹 …… つて 歌って 来る じゃ ない の 」 そう 言って 時子 は 、 面白く 節 を つけて 歌って 見せた 。 ・・

「 そう よ 、 そう よ 」・・

「 きっと そう だ わ 」・・

と 口口に 言う のでした 。 ・・

この 時 、 幹子 は 静かに 気 に も かけ ない ような 風 で 振返り ながら 、・・

「 私 が 薬屋 に なったら 、 好 い 薬 を 売って あげます から 、 安心 して いらっしゃい な 」・・

幹子 は 、 笑い ながら そう 言って 、 すたすた と 行って しまった 。 ・・

そう 言わ れる と 、 口 の わるい 連中 も 、 さすが に 何も 言え ないで 黙って いた 。 ・・

それ から 四五 日 して から 学校 の 授業 中 、 俄に 雨 が 降りだして 、 授業 の 終る 頃 に は 流れる ように 降って きた 。 ・・

今 こそ 、 この 冷笑 の 種 に なった 大きな 蝙蝠 傘 が 役 に たつ 時 が 来た 。 ・・

幹子 は 、 時子 や 朝子 が 、 小さな 美しい 蝙蝠 傘 を 持てあまして いる の を 見かねて 、・・

「 皆様 この 中 へ 這 入って いらっしゃい な 、 大きい から みんな 這 入れて よ 」・・

三 人 は 仲よく 、 大きな ハイカラな 蝙蝠 傘 の お蔭 で 、 少しも 雨 に ぬれ ないで 家 へ 帰る こと が 出来た のでした 。

91. 大きな 蝙蝠 傘 - 竹 久 夢 二 おおきな|こうもり|かさ|たけ|ひさ|ゆめ|ふた |bat||||| 91. big bat umbrella - takehisa yumeji 91. gran paraguas murciélago - Takehisa Yumeji 91. большой зонт летучей мыши - Такехиса Юмэдзи 91. 大蝙蝠傘 - 竹久夢二

大きな 蝙蝠 傘 - 竹 久 夢 二 おおきな|こうもり|かさ|たけ|ひさ|ゆめ|ふた

それ はたいそう 大きな 蝙蝠 傘 でした 。 |は たいそう|おおきな|こうもり|かさ| |very||bat|| ・・

幹子 は 、 この 頃 田舎 の 方 から 新しく こちら の 学校 へ 入って きた 新入 生 でした 。 みきこ|||ころ|いなか||かた||あたらしく|||がっこう||はいって||しんにゅう|せい| new student||||||||||||||||| 髪 の 形 も 着物 も 、 東京 の 少女 に 較 べ る と 、 かなり 田舎 染みて 見えました 。 かみ||かた||きもの||とうきょう||しょうじょ||かく|||||いなか|しみて|みえ ました けれど 、 幹子 は そんな 事 を 少しも 気 に かけ ないで 、 学科 の 勉強 と か 運動 と か 、 つまり 、 少女 の す べき こと だけ を やってのける と 言った 質 の 少女 でした 。 |みきこ|||こと||すこしも|き||||がっか||べんきょう|||うんどう||||しょうじょ|||||||||いった|しち||しょうじょ| |a certain girl||||||||||||||||||||||||||accomplish|||||| たとえば 青い 空 に 葉 を さしのべ 、 太陽 の 方 へ 向いて ぐんぐん 育って ゆく 若木 の ように のんびり した 少女 でした 。 |あおい|から||は|||たいよう||かた||むいて||そだって||わかぎ|||||しょうじょ| ||||||reaching out||||||quickly||||||||| ・・

それにしても 、 幹子 が 毎日 学校 へ 持ってくる 蝙蝠 傘 は 非常に 大きな もの で 、 忽ち 学校 中 の 評判 に なりました 。 |みきこ||まいにち|がっこう||もってくる|こうもり|かさ||ひじょうに|おおきな|||たちまち|がっこう|なか||ひょうばん||なり ました ・・

どこ の 級 に も 、 頓智 が あってたいへん 口 が 軽く 、 気 の 利いた こと を 言って は 皆 を 笑わ せる こと の 好きな 愚 な 生徒 が 一 人 や 二 人 は ある もの です 。 ||きゅう|||とんち||あって たいへん|くち||かるく|き||きいた|||いって||みな||わらわ||||すきな|ぐ||せいと||ひと|じん||ふた|じん|||| |||||sudden wisdom||very|||||||||||||||||||||||||||||| 幹子 の 級 に も 、 時子 と 朝子 と いう 口 の わるい 生徒 が ありました 。 みきこ||きゅう|||ときこ||あさこ|||くち|||せいと||あり ました |||||Tomiko|||||||||| ・・

ある 日 、 幹子 は 学校 へ ゆく 途中 で 、 この 口 の わるい 連中 に 出会いました 。 |ひ|みきこ||がっこう|||とちゅう|||くち|||れんちゅう||であい ました むろん この 時 、 幹子 は 例の 蝙蝠 傘 を 持って いた ので 、 忽ち それ が 冷笑 の 的に なりました 。 ||じ|みきこ||れいの|こうもり|かさ||もって|||たちまち|||れいしょう||てきに|なり ました ||||||||||||suddenly|||||| ・・

「 あら 何 処 の 紳士 か と 思ったら 、 幹子 さん だった わ 、 幹子 さん お 早う 」・・ |なん|しょ||しんし|||おもったら|みきこ||||みきこ|||はやう

時子 が 言った 。 ときこ||いった なるほど 幹子 の 蝙蝠 傘 は 、 黒い 毛 繻子 張 で 柄 の 太い 大きな もの だ から 、 どう 見て も 、 祖父 様 の 古い の を さした と しか 見えません でした 。 |みきこ||こうもり|かさ||くろい|け|しゅす|ちょう||え||ふとい|おおきな|||||みて||そふ|さま||ふるい||||||みえ ませ ん| ||||||||silk||||||||||||||||||||||| 事実 また そう であった かも しれません 。 じじつ|||||しれ ませ ん この 場合 「 何 処 の 紳士 か と 思ったら 」 と いう の は 、 ほんとに 適 評 だった ので 、 皆 は どっと 笑い くずれました 。 |ばあい|なん|しょ||しんし|||おもったら||||||てき|ひょう|||みな|||わらい|くずれ ました ||||||||||||||||||||||collapsed ・・

幹子 も 一緒に なって 笑い ながら 「 お 早う 」 と 挨拶 して 、 つまらない お 友達 に かまって は いられ ない と 言った ように 、 さっさと そこ を 通りぬけて 、 まっすぐに 学校 の 方 へ 歩いた 。 みきこ||いっしょに||わらい|||はやう||あいさつ||||ともだち||||いら れ|||いった|||||とおりぬけて||がっこう||かた||あるいた ・・

「 あの くらい 蝙蝠 傘 が 大きかったら 日 に やけ ないで 好 いわ ね 」・・ ||こうもり|かさ||おおきかったら|ひ||||よしみ|| |||||if it was big||||||| "If the bat umbrella is that big, I don't want to get burned in the sun."

「 ええ 、 だから 幹子 さん は 、 お 色 が 白い わ よ 」・・ ||みきこ||||いろ||しろい|| "Yes, that's why Mikiko-san is white in color."

そう 言って 冷笑 して いる の も 幹子 の 耳 へ 這 入った 。 |いって|れいしょう|||||みきこ||みみ||は|はいった Even though he was sneering at that, he crawls into Mikiko's ears. けれど 幹子 は 何 を 言われて も 平気で いた 。 |みきこ||なん||いわ れて||へいきで| But Mikiko was fine no matter what she said. ・・

「 でも 幹子 さん の 田舎 じゃ あれ でたいへん ハイカラな の かも 知れ ない わ 」・・ |みきこ|||いなか|||で たいへん|はいからな|||しれ|| ||||||||high-class|||||

「 そう ね 。 私 は こう 思う の 、 幹子 さん の お 父 様 は きっと 薬屋 さん に 違いない わ 。 わたくし|||おもう||みきこ||||ちち|さま|||くすりや|||ちがいない| だから 幹子 さん を いまに 薬 売 に する んだ わ 。 |みきこ||||くすり|う|||| ほら 、 よく 薬 売 が あんな 大きな 蝙蝠 傘 を さして 来る でしょう 。 ||くすり|う|||おおきな|こうもり|かさ|||くる| 「 本家 、 讃岐 は 高松 千 金 丹 …… つて 歌って 来る じゃ ない の 」 そう 言って 時子 は 、 面白く 節 を つけて 歌って 見せた 。 ほんけ|さぬき||たかまつ|せん|きむ|まこと||うたって|くる|||||いって|ときこ||おもしろく|せつ|||うたって|みせた main house|||||||||||||||||||||| ・・

「 そう よ 、 そう よ 」・・

「 きっと そう だ わ 」・・

と 口口に 言う のでした 。 |くちぐちに|いう| |repeatedly|| ・・

この 時 、 幹子 は 静かに 気 に も かけ ない ような 風 で 振返り ながら 、・・ |じ|みきこ||しずかに|き||||||かぜ||ふりかえり| |||||||||||||looking back|

「 私 が 薬屋 に なったら 、 好 い 薬 を 売って あげます から 、 安心 して いらっしゃい な 」・・ わたくし||くすりや|||よしみ||くすり||うって|あげ ます||あんしん|||

幹子 は 、 笑い ながら そう 言って 、 すたすた と 行って しまった 。 みきこ||わらい|||いって|||おこなって| ||||||briskly||| ・・

そう 言わ れる と 、 口 の わるい 連中 も 、 さすが に 何も 言え ないで 黙って いた 。 |いわ|||くち|||れんちゅう||||なにも|いえ||だまって| ・・

それ から 四五 日 して から 学校 の 授業 中 、 俄に 雨 が 降りだして 、 授業 の 終る 頃 に は 流れる ように 降って きた 。 ||しご|ひ|||がっこう||じゅぎょう|なか|にわかに|あめ||ふりだして|じゅぎょう||おわる|ころ|||ながれる||ふって| ||||||||||suddenly|||started to fall|||||||||| ・・

今 こそ 、 この 冷笑 の 種 に なった 大きな 蝙蝠 傘 が 役 に たつ 時 が 来た 。 いま|||れいしょう||しゅ|||おおきな|こうもり|かさ||やく|||じ||きた ・・

幹子 は 、 時子 や 朝子 が 、 小さな 美しい 蝙蝠 傘 を 持てあまして いる の を 見かねて 、・・ みきこ||ときこ||あさこ||ちいさな|うつくしい|こうもり|かさ||もてあまして||||みかねて |||||||||||struggling with||||

「 皆様 この 中 へ 這 入って いらっしゃい な 、 大きい から みんな 這 入れて よ 」・・ みなさま||なか||は|はいって|||おおきい|||は|いれて|

三 人 は 仲よく 、 大きな ハイカラな 蝙蝠 傘 の お蔭 で 、 少しも 雨 に ぬれ ないで 家 へ 帰る こと が 出来た のでした 。 みっ|じん||なかよく|おおきな|はいからな|こうもり|かさ||おかげ||すこしも|あめ||||いえ||かえる|||できた|