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三姉妹探偵団 1, 三姉妹探偵団01 chapter 01 (1)

三姉妹探偵団01 chapter 01 (1)

1 灰 の 中 から

「── おはよう 」

佐々 本 夕 里子 は 、 目 を 開いて 、 一瞬 戸惑った 。

いつも なら 自分 が 真 先 に 起きて 、 朝食 の 仕度 を する 。 ちょっと 寝坊 した とき に は 、 妹 の 珠美 を けっ とばして 起こして 手伝わ せる 。

それ が 、 今 自分 の 方 を 覗き込んで いる の は 、 高校 の クラスメート 、 片瀬 敦子 の 顔 である 。

「 あ ── 敦子 。 私 ……」

夕 里子 は 起き上って 、 頭 を 、 妹 の ベッド の 底 板 に 打ちつけ ない ように 、 と 少し 低く して ── やっと 思い出した 。

ここ は 敦子 の 家 な のだ 。

「 どう 、 気分 は ? 敦子 が 訊 いた 。

夕 里子 は すっかり 思い出して いた 。 ── 家 が 焼けた んだ 。 そして 、 私 は 敦子 の 所 に 泊めて もらった 。

「 大丈夫 よ 」

夕 里子 は 大きく 息 を ついた 。 何だか 、 丸一 日 も 眠って いた ような 気 が する 。

「 今 何 時 な の ? 「 十一 時 頃 。 もう 起き られる ? 「 うん 。 あれ 、 今日 は 学校 ない の ? 「 日曜日 よ 」

そう か あ 。 土曜 の 夜 に 焼け 出さ れた のだ 。

「 朝 ご飯 できて る 。 そこ に 私 の 服 置 い と いた から 、 着て 来て ね 」

「 ありがとう 」

夕 里子 は 肯 いて 、「 ご 迷惑 かけちゃ って 」

「 何 よ 、 夕 里子 らしく も ない こと 言って 」

敦子 は 見るからに 本当に 可愛い 女の子 である 。 同性 の 夕 里子 が ほれぼれ と する ほど の 、 愛らし さ 。 しかし 、 夕 里子 とて 、 決して 可愛く ない わけで は ない 。 美人 である 、 と 多少 の 自負 も ある 。

ただ ── ちょっと は ねっ かえり で 気 の 強い の が 玉 に キズ な のだ 。

敦子 の 服 は 、 幸い サイズ 的に は ピッタリ だった 。 ただ 好み の 違い はいかん と も し がたく 、 かなり フォーマル な 装い を 好んで 、 家 に いる とき でも 、 まるで ホテル の ロビー に でも 来て いる みたいな 格好 を して いる 敦子 に 比べ 、 夕 里子 は 大体 が ジーパン に Tシャツ と いう スタイル だった 。

夕 里子 は 、 敦子 の 兄 が 結婚 前 に 使って いた 部屋 に 泊めて もらった のだった 。 姉 の 綾子 と 妹 の 珠美 は 、 安東 先生 の お宅 に 厄介に なって いる 。 夕 里子 も 一緒に と 言わ れた のだ が 、 いくら 何でも 三 人 は 、 と 思い 、 すぐ 近く の 、 この 片瀬 家 に 泊めて もらった のだった 。

前 に も 泊った こと が ある ので 、 夕 里子 は 勝手 が 分 って いる 。 洗面 所 で 顔 を 洗う と 、 ダイニング キッチン へ 入って 行った 。

「 まあ 、 夕 里子 さん 、 大丈夫 ? 敦子 を そのまま ふくらま せた ような 、 若々しい 母親 が 、 大 仰 に 声 を 上げた 。 人 の いい 、 世話好きな タイプ な のである 。

「 さ 、 座って 。 お腹 空いて る でしょ ? ベーコンエッグ で いい ? ハムエッグ ? 「 ベーコン で 結構です 」

「 卵 は 目玉 で いい の かしら ? そう ? じゃ すぐに 作る わ ね 。 敦子 、 コーヒー を 出して あげ なさい 。 ── まあ 、 本当に 災難 だった わ ねえ 。 私 も 弟 の 所 が 一 度 火事 に あって ね 、 やっぱり 着のみ着のまま で 焼け 出さ れちゃ った の よ 。 でも 幸い けが人 も なくて 。 その後 で 、 弟 の 店 は ますます 繁盛 した わ 。 人間 、 何 が 幸いする か 分 ら ない もの です よ 。 だから 、 あなた 方 も 気 を 落としちゃ だめ 」

「 ママ が 黙って ない と 、 夕 里子 疲れる よ 」

と 敦子 が 言った 。

「 何 です か 、 お前 は 。 夕 里子 さん 、 パパ は 出張 で すって ? 「 ええ 、 そう な んです 」

「 そう 。 子供 たち だけ で 、 よく 助かった わ ねえ 」

「 連絡 ついた の ? と 敦子 が 訊 いた 。

「 まだ 。 ── 今日 日曜 だ から 、 会社 に も 誰 も い ない し 。 どう しよう かしら ね 」

「 ニュース か 新聞 見て 帰って 来る んじゃ ない ? 「 だ と いい けど ……」

遅い 朝食 を 取り 終えた ところ へ 、 玄関 の チャイム が 鳴った 。 敦子 の 母親 が 出て 行く 。

「 敦子 、 お 父さん は ? 「 ゴルフ 。 朝っぱら から ね 。 ご 近所 が 火事 で 焼けた って いう のに 」

「 そんな の 仕方ない わ よ 」

と 、 夕 里子 は 微笑んだ 。

「── 夕 里子 さん 」

敦子 の 母 が 戻って 来た 。 「 何 か 、 あなた に 会い た いって 方 が 」

「 私 に です か ? 「 警察 の 人 よ 」

警察 ? ── そう か 。 火事 の 後 だ も の 、 当り前だ わ 、 と 夕 里子 は 思った 。

居間 へ 入って 行く と 、 男 が 二 人 、 ソファ に 座って いた 。 一 人 は 紺 の 背広 の 、 若い 男 で 、 髪 を きれいに 分けて 、 およそ いい センス と は いえ なかった が 、 それ でも 好感 の 持てる 青年 と いう ところ だった 。

もう 一 人 は 五十 がらみ の 、 小柄な 男 で 、 こちら は 対照 的に くたびれた 背広 姿 。 おまけに ……。

「 あの 、 佐々 本 夕 里子 です けど 」

と 言う と 、 若い 方 が ちょっと びっくり した 様子 で 、

「 あ 、 僕 は M 署 の 国友 と いい ます が ……」

と 言って 、 隣 の 男 を 突 っ ついた 。 眠って いた のだ 。

「 ん ? ああ ── こりゃ 失礼 」

その 男 は 夕 里子 を 見る と 、「 あんた が 夕 里子 さん ? 」 と 目 を 丸く した 。

「 はい 」

「 いや …… てっきり お 母さん か と 思った んで ね 」

「 母 は 五 年 前 に 死に ました 」

「 そう か 。 ── 私 は 三崎 。 これ は 国友 」

「 あの 、 火事 の こと でしょう か 」

「 うん 、 まあ …… 気の毒だった ね 」

「 どうも 」

「 実は 安東 先生 と いう 方 の お宅 へ 行き まして ね 」

と 若い 国友 刑事 が 言った 。 「 綾子 さん と いう の は ──」

「 姉 です 。 私 が 二 番 目 で 、 下 が 珠美 と いい ます 」

「 そう です か 。 いや 、 綾子 さん が 、 こちら の 夕 里子 さん に 訊 いて くれ と おっしゃった んで 来た んです よ 」

「 姉 は 朝 が 弱い んです 、 低 血圧 で 」

と 夕 里子 は 言った 。 「 それ に 、 私 と 違って 神経 が 細い もの です から 、 たぶん 火事 の ショック で まだ ぼんやり して いる んだ と 思い ます 」

「 なるほど 」

三崎 刑事 は 欠 伸 を かみ殺して 、「 では 、 あんた に 色々 訊 いて も いい の か な ? ── 出火 の 原因 は 心当り ある か ね ? 「 考えて みた んです けど 、 分 り ませ ん 。 いつも 私 が 寝る 前 に 火の元 や 戸締り を する こと に なって いて 、 ゆうべ も 、 ちゃんと 全部 見て 回った んです 」

「 それ は 確か かね ? 「 はい 、 絶対 です 」

「 ふむ ……」

三崎 は 顎 を 手 で こすり ながら 、「 する と 放火 と いう こと も 考え られる わけだ 」

「 放火 ? でも 誰 が ? 「 それ は まだ 分 らん が ──」

三崎 は 何 か 言い かけて 言葉 を 切る と 、「 火 が 出た の に 気付いて から 逃げ出す まで の こと を 話して くれ ない か ね 」

と 言った 。

夕 里子 は 煙 に 気付いて 目 が 覚めた こと から 、 窓 を 破って 逃げた こと まで を 話した 。

「 する と 、 寝て いた 八 畳 間 から 直接 外 へ 逃げた わけだ ね 」

「 はい 、 そう です 」

「 どこ から 火 が 出た か は 、 見当 が つか ない 、 と いう わけ か 」

「 ええ 」

「 家 の 中 の 見取り図 を 書いて みて くれ ない か ね 。 大体 の ところ で いい 」

「 はい 」

国友 が 、 手帳 を 一 枚 破いて 、 鉛筆 と 一緒に くれた 。 夕 里子 は 、 記憶 を 頼り に 図面 を 書いて 行った が 、 意外に よく 憶 えて い ない の に 驚いた 。 それ でも 何とか 苦労 して 書き上げる と 、

「 こんな 風 だった と 思い ます 」

と 三崎 へ 手渡す 。

三崎 は しばらく それ を 見て いた が 、 テーブル の 上 に 図面 を 置く と 、 自分 の 鉛筆 で 、 父 の 部屋 の 窓 側 の 隅 に × 印 を つけた 。

「 この 部屋 は ? 「 父 の 部屋 です 」

「 ここ から 火 が 出た らしい んだ よ 」

「 でも …… 火の気 が あり ませ ん 。 それ に 父 は 出張 で いま せ ん でした 」

三崎 と 国友 が ちょっと 目 を 見交わした 。

「 だ から おかしい んだ よ 。 どう 考えて も 放火 と しか 思え ない 」

夕 里子 は 啞然 と した 。 うち に 放火 ! そんな ひどい こと を ……。

「 もう 一 つ 大変な こと が あり まして ね 」

と 国友 が 申し訳な さ そうに 言った 。

「 何 でしょう ? 三崎 が 、 鉛筆 で 、 父 の 部屋 の 押入れ の 所 へ 、 人 の 形 を 描いた 。

夕 里子 は 戸惑って 三崎 の 顔 を 見た 。

「 この 押入れ の あたり から ね 」

と 三崎 は 言った 。 「 女 の 死体 が 見付かった んだ よ 」

「 う っそ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 あんた 、 私 が そんな 冗談 言い に 来た と 思って ん の ! 夕 里子 は ドンと テーブル を 叩いた 。

「 お 姉ちゃん 、 ここ うち じゃ ない の よ 」

「 あ 、 いけない 」

夕 里子 は ちょっと 舌 を 出した 。 ── 安東 の 家 へ 来て いる のである 。

「 紅茶 を 淹 れ ました よ 。 召し上れ 」

安東 の 妻 、 岐子 は やはり 学校 の 教師 である 。 夫 が 中学 、 妻 が 高校 、 というのも 珍しい 。

「 しかし 、 妙な 話 だ ねえ 」

安東 が ドッカ と 座り込んで 言った 。 大柄で 、 がっしり と した 体つき 。 健康 そうに よく 陽焼 けして 、 いかにも 人 の 好 い 印象 を 与える 。 実際 、 珠美 の 学校 でも 、 生徒 の 間 で 人気 の 高い 教師 の 一 人 だった 。

「 本当 ねえ 。 そんな こと って ある かしら ? 妻 の 岐子 が 紅茶 を 配り ながら 言った 。

岐子 は 夫 と は 好 対照 の 、 ほっそり と した 色白の 美人 で 、 子供 が ない せい か 、 若々しく 見えた 。

「 どんな 女 の 人 な の ? と 、 綾子 が 言った 。

「 分 んな いわ よ 。 だって 、 焼け 死んだ んだ から 」

「 あ 、 そう か 」

綾子 は 、 まだ 半ば 放心 状態 の ようだ 。 おっとり と 大柄で 、 ふくよかな 顔 の 、 なかなか の 美人 である 。 モダンな ファッション より は 、 和服 姿 の 方 が よく 似合う 。

「 でも 、 いつ から その 女 の 人 、 うち に いた の ? と 珠美 が 言った 。 「 全然 気 が 付か なかった わ 」

「 当り前 よ 。 知って りゃ 忘れ ない わ 。 ── 参っちゃ った なあ 、 早く パパ 帰って 来 ない かしら 」

「 お 父さん の 部屋 で その 女 の 人 が 見付かった の ね ? と 岐子 が 訊 いた 。

「 そう らしい んです 。 でも 、 正確に は 分 ら ない けど 。 ── ただ 、 パパ の 部屋 に は めったに 入り ませ ん から 、 押入れ の 中 に いた と したら 、 まるで 気 が 付か なかった と 思い ます 」

「 それ に したって ……」

珠美 は 、 もう 何 に でも 八つ当り し たい 様子 だ 。 末っ子 の せい か 、 こらえ 性 の ない ところ が ある 。

「 お 父さん と は 連絡 取れ ない の か 」

と 安東 が 言った 。

「 札幌 へ 行って る の は 分 って る んです けど 、 どこ に 泊って る か 見当 つか ない し 、 それ に 、 会社 の 電話 も 、 手帳 なんか が 全部 焼けちゃ って 」

「 電話 帳 で 引け 」

「 今日 は 日曜日 でしょう 、 あなた 」

「 そう か 。 誰 か 、 お 父さん の 同僚 の 自宅 の 電話 でも 知ら ん の か ? 姉妹 は 顔 を 見合わせ 、 首 を 振った 。

「 ふむ 。 いつ 帰る 予定 な んだ ? 「 確か 月曜日 って ……」

「 火曜 じゃ ない ? 「 私 、 月曜 って 聞いた わ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 いずれ に せよ 、 明日 まで 待つ 他 ない の か 」

安東 は 難しい 顔 で 言った 。

「 すみません 、 お 世話に なって 」

何 か 言わ なきゃ 悪い と 思った の か 、 綾子 が 頭 を 下げる 。

「 いや 、 そんな こと は いい んだ 。 しかし 、 親類 の 人 と か 、 連絡 する 先 は ない の か ? 「 うち は 父 も 母 も 近い 親類 が 全然 ない んです 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 すみません 、 姉 と 妹 を もう 一晩 置いて 下さい 」

「 そんな こと は 構わ ない よ 」

と 、 快く 安東 が 肯 く 。

「 早く お 父さん が お 帰り に なる と いい のに ね 」

と 岐子 が 言った 。

電話 が 鳴って 、 岐子 が 立って 行った 。 受話器 を 上げて 、 向 う の 声 を 聞く と 、

「 夕 里子 さん 、 あなた よ 」

と 言った 。

「 国友 さん って いう 方 」

「 国友 ……。 あ 、 さっき の 刑事 さん だ わ 」

夕 里子 は 受話器 を 取った 。

「── 実は 、 今 検死 官 が 例の 女性 の 死体 を 見た んです が ね 」

と 、 国友 は あまり 気 が 進ま ない 口ぶり で 言った 。 「 死因 は 焼死 じゃ ない んだ な 」

「 え ? それ じゃ 何 です か ? 「 体 に ね 、 ナイフ の 刃 先 が 残って いた んです 。 心臓 を 刺して 、 ナイフ が 折れた らしい 。 つまり 女 は 刺し殺さ れて いる んです よ 」

「 殺さ れ …… た ? 夕 里子 は 頭 が 混乱 して 来た 。 「 つまり 、 誰 か が その 女 の 人 を 刺し殺して 、 うち の 押入れ に 入れて おいた んです か ? 「 そして 火 を つけた んです ね 、 おそらく 。 身 許 を 知ら れ たく なかった の か 。 ── あの 女性 は 服 を はぎ取ら れて いる らしい んです よ 」

「 じゃ …… 裸 で ? 「 そう 。 死後 、 せいぜい 一 日 しか たって い ない 。 つまり 、 殺して すぐに 押入れ へ 裸 に して 押し込んだ らしい です ね 」

夕 里子 は 悪い 夢 を 見て いる ようだった 。 夕 里子 は 昨日 、 学校 から 帰った 後 、 家 を 掃除 した のだ 。 その とき 、 パパ の 部屋 も 掃除 した 。 押入れ は 開け なかった が ……。 あの とき 、 もう 死体 は あった の かも しれ ない 。 襖 一 枚 の 向 うに ……。

「 それ から 、 これ は 言いにくい んです が 」

と 、 国友 は ためらい がちに 言った 。 「 お 父さん の 会社 は K 建設 です ね 」

「 そうです 」

「 販売 第 二 課 、 と 」

「 はい 」

「 その 課長 さん が 、 植松 と いう 人 でして ね 、 自宅 の 電話 が 分 った ので 連絡 した んです よ 」

「 ああ 、 そう だ わ 、 植松 って 人 です 。 父 の 居場所 、 分 り ました か ? 「 それ が ね 、 お 父さん は 出張 に なんか 行って ない 、 って こと な んです 」

夕 里子 は ポカン と して 、 綾子 と 珠美 の 心配 そうな 顔 を 眺めた 。 左手 の 指 を 三 本 出して 、

「 これ 、 三 本 ? 「 そう よ 」

「 じゃ 、 おかしく ない んだ ……」

「 どうした の 、 お 姉ちゃん ? 夕 里子 は 受話器 を 握り 直した 。

「 あの ── それ は 、 どういう 意味 です か ? 父 は 木曜日 から 出張 で 札幌 へ 行って る んです よ 」

「 それ が ね 、 実際 は お 父さん は 休み を 取って る んです よ 。 木曜日 から 」

「 じゃ …… 札幌 に は ? 「 どこ へ 行って る の か は 分 り ませ ん 。 心当り は ? 「 そんな …… 私 に 分 る はず が ない でしょう 」

ショック が 夕 里子 に 反抗 的な 口 を きかせた 。 パパ が そんな 噓 を つく なんて ! そんな こと が ある もんか !

「 連絡 が あったら 、 すぐに 知らせて 下さい 。 いい です ね 」

国友 の 言葉 は 優しかった が 、 言い 方 は 厳しく なって いた 。

受話器 を 置いた 夕 里子 は 、 物 問い た げ な みんな の 視線 を 受け止め かねて 、 目 を 伏せて しまった 。

「 何事 な の ? と 安東 岐子 が 訊 いた 。

「 あの …… 大した こと じゃ あり ませ ん 」

大した こと 、 どころ で は ない のだ が 、 なぜ か 口 に し たく なかった 。 みんな に しゃべら ない 内 に 、 もう 一 度 警察 から 電話 が かかって 来て 、

「 今 の は 植松 さん の 勘違い でした よ 」

と 言って くれる ので は ない か と 思った のだ 。

「 でも 、 今 の 様子 じゃ ──」

「 すみません 」

夕 里子 は ピョコン と 頭 を 下げて 、「 私 たち 三 人 だけ に して 下さい 、 お 願い です 」

父 が 噓 を ついて いた と は 言い たく なかった 。 他人 に 聞か れる の は 、 もっと いやだった 。

「 よし 、 席 を 外そう 」

安東 が 立ち上って 、 岐子 を 促す 。

「── どうした の よ 、 一体 」

綾子 が 咎め だて する ように 、「 失礼じゃ ない の 、 先生 に 」

と 言った 。

「 他人 に 言い たく ない 話 だって ある わ よ 」

「 だって 先生 よ 」

「 先生 だって 、 他人 は 他人 よ ! と 、 夕 里子 は また テーブル を ドンと 叩いた 。 ティーカップ が ガチャン 、 と 音 を 立てる 。

「 ねえ 、 よく 聞いて 」

夕 里子 は 、 今 の 国友 の 電話 の 内容 を 説明 した 。

「 じゃ 、 パパ 、 どこ に いる の ? 綾子 は 当惑 し 切った 表情 で 言った 。

「 分 んな いわ よ 」

「 どうして 噓 ついた の かしら ? 「 噓 と は 限 ん ない じゃ ない の 。 その 課長 って 人 の 勘違い かも しれ ない し 、 何 か 特別な 事情 が あって ──」

「 ねえ 」

突然 、 珠美 が 言った 。 「 はっきり さ せ なきゃ 」

夕 里子 と 綾子 は 、 珠美 を 見た 。

「 だって さ 、 私 たち が ここ で ああ だ こう だ 言って たって 仕方ない じゃ ない 。 本当の こと は 分 り っこ ない んだ し 。 それ より 、 警察 の 人 が どう 思って る か よ 」

珠美 は 三 人 姉妹 の 中 でも 、 一 番 の 現実 主義 者 な のである 。 そういう 世代 な の かも しれ ない 。

「 つまり 、 あんた の 言い たい こと は ──」

「 家 の 中 に 、 殺さ れた 女 の 人 の 死体 が あった んでしょ 。 それ も パパ の 部屋 の 押入れ に 。 そして パパ は 出張 と 言って 出かけた けど 、 実際 は 出張 なんか じゃ なくて 、 行方 が 分 ら ない 。 ── はっきり して る わ よ 。 その 女 の 人 は パパ が 殺した んだ わ 」

夕 里子 は じっと 珠美 を 見つめた 。

「 あんた 、 本気で そう 思って ん の ? 「 私 が 思って んじゃ ない よ 。 警察 が そう 思って る って こと 」

「 なら いい けど 」

「 でも 、 そんな こと ……」

と 綾子 一 人 は まだ 事態 が よく 呑み込め てい ない 。

「 パパ が 帰って 来れば 分 る わ よ 」

夕 里子 は 、 自分 に 言い聞かせる ように 言った 。 「 何もかも 、 ちゃんと 説明 して くれて 、 何でもなかった って 分 る わ よ 」

「 女 の 死体 が 押入れ に あった の が 、『 何でもない 』 こと な の ? 「 珠美 ったら 、 もう ちょっと 希望 的 観測 を 述べ られ ない の ? 「 希望 なんか 持って っ から 、 裏切ら れ んだ よ 」

「 言って くれる わ ね 」

しばらく 三 人 は 黙り 込んで いた 。 ── やがて 、 綾子 が ポツンと 言った 。

「 パパ に 電話 して みたら ?


三姉妹探偵団01 chapter 01 (1) みっ しまい たんてい だん| Three Sisters Detective Agency 01 chapter 01 (1) Three Sisters Detetive Agency 01 capítulo 01 (1)

1  灰 の 中 から はい||なか| From within 1 ash

「── おはよう 」 "── Good morning"

佐々 本 夕 里子 は 、 目 を 開いて 、 一瞬 戸惑った 。 ささ|ほん|ゆう|さとご||め||あいて|いっしゅん|とまどった Yuko Sasamoto opened her eyes and was confused for a moment.

いつも なら 自分 が 真 先 に 起きて 、 朝食 の 仕度 を する 。 ||じぶん||まこと|さき||おきて|ちょうしょく||したく|| As always, I get up early and prepare my breakfast. ちょっと 寝坊 した とき に は 、 妹 の 珠美 を けっ とばして 起こして 手伝わ せる 。 |ねぼう|||||いもうと||たまみ||||おこして|てつだわ| When I overslept a little, I let my sister's Tamami out and let her help.

それ が 、 今 自分 の 方 を 覗き込んで いる の は 、 高校 の クラスメート 、 片瀬 敦子 の 顔 である 。 ||いま|じぶん||かた||のぞきこんで||||こうこう|||かたせ|あつこ||かお| Now it's the face of high school classmate Reiko Katase who is looking into myself now.

「 あ ── 敦子 。 |あつこ "Oh 敦 Reiko. 私 ……」 わたくし

夕 里子 は 起き上って 、 頭 を 、 妹 の ベッド の 底 板 に 打ちつけ ない ように 、 と 少し 低く して ── やっと 思い出した 。 ゆう|さとご||おきあがって|あたま||いもうと||べっど||そこ|いた||うちつけ||||すこし|ひくく|||おもいだした Yuriko got up and kept her head a bit low so as not to strike the bottom plate of her sister's bed-it finally remembered.

ここ は 敦子 の 家 な のだ 。 ||あつこ||いえ|| Here is a dumpling's house.

「 どう 、 気分 は ? |きぶん| "How are you feeling? 敦子 が 訊 いた 。 あつこ||じん| A dumpling came.

夕 里子 は すっかり 思い出して いた 。 ゆう|さとご|||おもいだして| Yuuriko was completely remembered. ── 家 が 焼けた んだ 。 いえ||やけた| -The house was burned. そして 、 私 は 敦子 の 所 に 泊めて もらった 。 |わたくし||あつこ||しょ||とめて| And I was allowed to stay at a place of dumplings.

「 大丈夫 よ 」 だいじょうぶ|

夕 里子 は 大きく 息 を ついた 。 ゆう|さとご||おおきく|いき|| Yuuriko has a big breath. 何だか 、 丸一 日 も 眠って いた ような 気 が する 。 なんだか|まるいち|ひ||ねむって|||き|| I feel like I was sleeping for a whole day.

「 今 何 時 な の ? いま|なん|じ|| 「 十一 時 頃 。 じゅういち|じ|ころ "About eleven o'clock. もう 起き られる ? |おき| Can you wake up already? 「 うん 。 あれ 、 今日 は 学校 ない の ? |きょう||がっこう|| Oh, don't you have a school today? 「 日曜日 よ 」 にちようび| "Sunday"

そう か あ 。 土曜 の 夜 に 焼け 出さ れた のだ 。 どよう||よ||やけ|ださ|| It was burnt out on Saturday night.

「 朝 ご飯 できて る 。 あさ|ごはん|| "I have breakfast. そこ に 私 の 服 置 い と いた から 、 着て 来て ね 」 ||わたくし||ふく|お|||||きて|きて| I was there to put on my clothes, so please come on

「 ありがとう 」

夕 里子 は 肯 いて 、「 ご 迷惑 かけちゃ って 」 ゆう|さとご||こう|||めいわく||

「 何 よ 、 夕 里子 らしく も ない こと 言って 」 なん||ゆう|さとご|||||いって "What are you saying that it 's not like Yuuriko?"

敦子 は 見るからに 本当に 可愛い 女の子 である 。 あつこ||みるからに|ほんとうに|かわいい|おんなのこ| Reiko is a really cute girl because she sees. 同性 の 夕 里子 が ほれぼれ と する ほど の 、 愛らし さ 。 どうせい||ゆう|さとご|||||||あいらし| Love is the same as Yuuriko, who is the same sex, loves you. しかし 、 夕 里子 とて 、 決して 可愛く ない わけで は ない 。 |ゆう|さとご||けっして|かわいく|||| However, Yuuriko is not always cute. 美人 である 、 と 多少 の 自負 も ある 。 びじん|||たしょう||じふ|| There are also some prides that they are beautiful.

ただ ── ちょっと は ねっ かえり で 気 の 強い の が 玉 に キズ な のだ 。 ||||||き||つよい|||たま||きず|| Just ── a little bit addicting to the ball is a scratchy thing.

敦子 の 服 は 、 幸い サイズ 的に は ピッタリ だった 。 あつこ||ふく||さいわい|さいず|てきに||ぴったり| Sadako's clothes were fortunately good in size. ただ 好み の 違い はいかん と も し がたく 、 かなり フォーマル な 装い を 好んで 、 家 に いる とき でも 、 まるで ホテル の ロビー に でも 来て いる みたいな 格好 を して いる 敦子 に 比べ 、 夕 里子 は 大体 が ジーパン に Tシャツ と いう スタイル だった 。 |よしみ||ちがい|||||||||よそおい||このんで|いえ||||||ほてる||ろびー|||きて|||かっこう||||あつこ||くらべ|ゆう|さとご||だいたい||じーぱん||t しゃつ|||すたいる| Just like the difference in preferences I prefer a pretty formal dress, and I like Yuko who is dressed like she is coming to the lobby of a hotel when she 's at home, even when she' s at home. There was a style called T-shirt on jeans.

夕 里子 は 、 敦子 の 兄 が 結婚 前 に 使って いた 部屋 に 泊めて もらった のだった 。 ゆう|さとご||あつこ||あに||けっこん|ぜん||つかって||へや||とめて|| Yuuriko was asked to stay in the room used by Yuko's older brother before her marriage. 姉 の 綾子 と 妹 の 珠美 は 、 安東 先生 の お宅 に 厄介に なって いる 。 あね||あやこ||いもうと||たまみ||あんどう|せんせい||おたく||やっかいに|| My sister Reiko and my sister Tamami are in trouble in Mr. Ando's house. 夕 里子 も 一緒に と 言わ れた のだ が 、 いくら 何でも 三 人 は 、 と 思い 、 すぐ 近く の 、 この 片瀬 家 に 泊めて もらった のだった 。 ゆう|さとご||いっしょに||いわ|||||なんでも|みっ|じん|||おもい||ちかく|||かたせ|いえ||とめて|| Yuriko was also said to be with me, but three people thought, whatever, whatever, and they were allowed to stay at this nearby Katase house.

前 に も 泊った こと が ある ので 、 夕 里子 は 勝手 が 分 って いる 。 ぜん|||とまった|||||ゆう|さとご||かって||ぶん|| Yuuriko knows the selfishness because she has stayed before. 洗面 所 で 顔 を 洗う と 、 ダイニング キッチン へ 入って 行った 。 せんめん|しょ||かお||あらう||だいにんぐ|きっちん||はいって|おこなった When I washed my face in the bathroom, I entered the dining kitchen.

「 まあ 、 夕 里子 さん 、 大丈夫 ? |ゆう|さとご||だいじょうぶ 敦子 を そのまま ふくらま せた ような 、 若々しい 母親 が 、 大 仰 に 声 を 上げた 。 あつこ||||||わかわかしい|ははおや||だい|あお||こえ||あげた A youthful mother, who made Ayako inflate as it was, raised her voice. 人 の いい 、 世話好きな タイプ な のである 。 じん|||せわずきな|たいぷ|| It is a good, caring type of people.

「 さ 、 座って 。 |すわって "Let's sit down. お腹 空いて る でしょ ? おなか|あいて|| Are you hungry? ベーコンエッグ で いい ? ハムエッグ ? 「 ベーコン で 結構です 」 べーこん||けっこうです

「 卵 は 目玉 で いい の かしら ? たまご||めだま|||| "Are eggs good and good? そう ? じゃ すぐに 作る わ ね 。 ||つくる|| 敦子 、 コーヒー を 出して あげ なさい 。 あつこ|こーひー||だして|| Dumplings, give me some coffee. ── まあ 、 本当に 災難 だった わ ねえ 。 |ほんとうに|さいなん||| ま あ Well, it was really a disaster. 私 も 弟 の 所 が 一 度 火事 に あって ね 、 やっぱり 着のみ着のまま で 焼け 出さ れちゃ った の よ 。 わたくし||おとうと||しょ||ひと|たび|かじ|||||きのみきのまま||やけ|ださ|||| My brother was in a fire once, and I was burned in my clothes. でも 幸い けが人 も なくて 。 |さいわい|けがにん|| But fortunately there were no injuries. その後 で 、 弟 の 店 は ますます 繁盛 した わ 。 そのご||おとうと||てん|||はんじょう|| After that, my brother's shop prospered more and more. 人間 、 何 が 幸いする か 分 ら ない もの です よ 。 にんげん|なん||さいわい する||ぶん||||| Human beings do not know what's good for you. だから 、 あなた 方 も 気 を 落としちゃ だめ 」 ||かた||き||おとしちゃ| So don't you bother

「 ママ が 黙って ない と 、 夕 里子 疲れる よ 」 まま||だまって|||ゆう|さとご|つかれる| "If Mama isn't silent, Yuriko will get tired."

と 敦子 が 言った 。 |あつこ||いった

「 何 です か 、 お前 は 。 なん|||おまえ| "What are you? 夕 里子 さん 、 パパ は 出張 で すって ? ゆう|さとご||ぱぱ||しゅっちょう|| Yuiko Yuko, are you on a business trip? 「 ええ 、 そう な んです 」

「 そう 。 子供 たち だけ で 、 よく 助かった わ ねえ 」 こども|||||たすかった|| The children alone helped me a lot.

「 連絡 ついた の ? れんらく|| "Did you contact me? と 敦子 が 訊 いた 。 |あつこ||じん|

「 まだ 。 "Still. ── 今日 日曜 だ から 、 会社 に も 誰 も い ない し 。 きょう|にちよう|||かいしゃ|||だれ|||| -Today is Sunday, there is no one in the company. どう しよう かしら ね 」 I wonder what to do. "

「 ニュース か 新聞 見て 帰って 来る んじゃ ない ? にゅーす||しんぶん|みて|かえって|くる|| "You will come back to see the news or the newspaper, right? 「 だ と いい けど ……」 "I hope it is ..."

遅い 朝食 を 取り 終えた ところ へ 、 玄関 の チャイム が 鳴った 。 おそい|ちょうしょく||とり|おえた|||げんかん||ちゃいむ||なった Just after finishing my late breakfast, the chime at the entrance rang. 敦子 の 母親 が 出て 行く 。 あつこ||ははおや||でて|いく Reiko 's mother goes out.

「 敦子 、 お 父さん は ? あつこ||とうさん| 「 ゴルフ 。 ごるふ 朝っぱら から ね 。 あさっぱら|| It is from morning alone. ご 近所 が 火事 で 焼けた って いう のに 」 |きんじょ||かじ||やけた||| Even though my neighborhood was burned by a fire.

「 そんな の 仕方ない わ よ 」 ||しかたない|| "I can't help it like that."

と 、 夕 里子 は 微笑んだ 。 |ゆう|さとご||ほおえんだ And Yuuriko smiled.

「── 夕 里子 さん 」 ゆう|さとご|

敦子 の 母 が 戻って 来た 。 あつこ||はは||もどって|きた 「 何 か 、 あなた に 会い た いって 方 が 」 なん||||あい|||かた| "Something, who wants to see you?"

「 私 に です か ? わたくし||| 「 警察 の 人 よ 」 けいさつ||じん|

警察 ? けいさつ ── そう か 。 火事 の 後 だ も の 、 当り前だ わ 、 と 夕 里子 は 思った 。 かじ||あと||||あたりまえだ|||ゆう|さとご||おもった

居間 へ 入って 行く と 、 男 が 二 人 、 ソファ に 座って いた 。 いま||はいって|いく||おとこ||ふた|じん|||すわって| 一 人 は 紺 の 背広 の 、 若い 男 で 、 髪 を きれいに 分けて 、 およそ いい センス と は いえ なかった が 、 それ でも 好感 の 持てる 青年 と いう ところ だった 。 ひと|じん||こん||せびろ||わかい|おとこ||かみ|||わけて|||せんす||||||||こうかん||もてる|せいねん|||| One was a young man in a suit of silkworms, who divided the hair cleanly and was not about a good sense, but it was still a young man who had a good feeling.

もう 一 人 は 五十 がらみ の 、 小柄な 男 で 、 こちら は 対照 的に くたびれた 背広 姿 。 |ひと|じん||ごじゅう|||こがらな|おとこ||||たいしょう|てきに||せびろ|すがた The other is a fifty-man, small man who, in contrast, has a worn figure. おまけに ……。 As a bonus …….

「 あの 、 佐々 本 夕 里子 です けど 」 |ささ|ほん|ゆう|さとご|| "That 's Uri Sasamoto, though."

と 言う と 、 若い 方 が ちょっと びっくり した 様子 で 、 |いう||わかい|かた|||||ようす| That said, the younger one looks a little surprised.

「 あ 、 僕 は M 署 の 国友 と いい ます が ……」 |ぼく||m|しょ||くにとも|||| "Oh, I'm M.'s national friend, but ..."

と 言って 、 隣 の 男 を 突 っ ついた 。 |いって|となり||おとこ||つ|| Saying, I shook the guy next to me. 眠って いた のだ 。 ねむって|| I was asleep.

「 ん ? ああ ── こりゃ 失礼 」 ||しつれい Oh 失 Excuse me "

その 男 は 夕 里子 を 見る と 、「 あんた が 夕 里子 さん ? |おとこ||ゆう|さとご||みる||||ゆう|さとご| 」 と 目 を 丸く した 。 |め||まるく| "I rounded my eyes.

「 はい 」

「 いや …… てっきり お 母さん か と 思った んで ね 」 |||かあさん|||おもった|| "No ... I thought I was a mother."

「 母 は 五 年 前 に 死に ました 」 はは||いつ|とし|ぜん||しに|

「 そう か 。 ── 私 は 三崎 。 わたくし||みさき これ は 国友 」 ||くにとも This is a national friend

「 あの 、 火事 の こと でしょう か 」 |かじ|||| "That, is it a fire?"

「 うん 、 まあ …… 気の毒だった ね 」 ||きのどくだった| "Yeah, well ... sorry."

「 どうも 」

「 実は 安東 先生 と いう 方 の お宅 へ 行き まして ね 」 じつは|あんどう|せんせい|||かた||おたく||いき|| "Actually, I went to the house of Mr. Ando,"

と 若い 国友 刑事 が 言った 。 |わかい|くにとも|けいじ||いった Said a young detective. 「 綾子 さん と いう の は ──」 あやこ||||| "What are you saying?

「 姉 です 。 あね| 私 が 二 番 目 で 、 下 が 珠美 と いい ます 」 わたくし||ふた|ばん|め||した||たまみ||| I am the second one and the lower one is Tamami ".

「 そう です か 。 いや 、 綾子 さん が 、 こちら の 夕 里子 さん に 訊 いて くれ と おっしゃった んで 来た んです よ 」 |あやこ|||||ゆう|さとご|||じん||||||きた|| No, Ayako-san came here to say that she would like to visit Yuuriko here. "

「 姉 は 朝 が 弱い んです 、 低 血圧 で 」 あね||あさ||よわい||てい|けつあつ| "My sister is weak in the morning, with low blood pressure."

と 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった 「 それ に 、 私 と 違って 神経 が 細い もの です から 、 たぶん 火事 の ショック で まだ ぼんやり して いる んだ と 思い ます 」 ||わたくし||ちがって|しんけい||ほそい|||||かじ||しょっく||||||||おもい| "Also, unlike me, my nervousness is thin, so I think I'm probably still shocked by the fire."

「 なるほど 」

三崎 刑事 は 欠 伸 を かみ殺して 、「 では 、 あんた に 色々 訊 いて も いい の か な ? みさき|けいじ||けつ|しん||かみころして||||いろいろ|じん|||||| Misaki detective slays the abolition, "Well then, do you want to talk to you variously? ── 出火 の 原因 は 心当り ある か ね ? しゅっか||げんいん||こころあたり||| 「 考えて みた んです けど 、 分 り ませ ん 。 かんがえて||||ぶん||| "I thought, but I do not know. いつも 私 が 寝る 前 に 火の元 や 戸締り を する こと に なって いて 、 ゆうべ も 、 ちゃんと 全部 見て 回った んです 」 |わたくし||ねる|ぜん||ひのもと||とじまり||||||||||ぜんぶ|みて|まわった| Every time I go to bed, I'm supposed to shut the fire and shut the house, and I went to see all the music properly.

「 それ は 確か かね ? ||たしか| "Is that true? 「 はい 、 絶対 です 」 |ぜったい|

「 ふむ ……」

三崎 は 顎 を 手 で こすり ながら 、「 する と 放火 と いう こと も 考え られる わけだ 」 みさき||あご||て||||||ほうか|||||かんがえ|| Misaki rubs his jaw with his hand and says, "If you do, you can think of an arson."

「 放火 ? ほうか でも 誰 が ? |だれ| 「 それ は まだ 分 らん が ──」 |||ぶん|| "I still know that ──"

三崎 は 何 か 言い かけて 言葉 を 切る と 、「 火 が 出た の に 気付いて から 逃げ出す まで の こと を 話して くれ ない か ね 」 みさき||なん||いい||ことば||きる||ひ||でた|||きづいて||にげだす|||||はなして|||| Misaki said something and cut off the words, "Could you tell me anything from noticing that the fire had come up to running away?"

と 言った 。 |いった

夕 里子 は 煙 に 気付いて 目 が 覚めた こと から 、 窓 を 破って 逃げた こと まで を 話した 。 ゆう|さとご||けむり||きづいて|め||さめた|||まど||やぶって|にげた||||はなした Yuuriko was aware of the smoke and woke up, and talked about breaking through the window and running away.

「 する と 、 寝て いた 八 畳 間 から 直接 外 へ 逃げた わけだ ね 」 ||ねて||やっ|たたみ|あいだ||ちょくせつ|がい||にげた|| "If you do, you're fleeing directly out of the sleeping area you were sleeping"

「 はい 、 そう です 」

「 どこ から 火 が 出た か は 、 見当 が つか ない 、 と いう わけ か 」 ||ひ||でた|||けんとう||||||| "I wonder where the fire came from, I have no idea."

「 ええ 」

「 家 の 中 の 見取り図 を 書いて みて くれ ない か ね 。 いえ||なか||みとりず||かいて||||| "Would you like to write a sketch of the house? 大体 の ところ で いい 」 だいたい|||| Generally good

「 はい 」

国友 が 、 手帳 を 一 枚 破いて 、 鉛筆 と 一緒に くれた 。 くにとも||てちょう||ひと|まい|やぶいて|えんぴつ||いっしょに| A national friend broke a notebook and gave it with a pencil. 夕 里子 は 、 記憶 を 頼り に 図面 を 書いて 行った が 、 意外に よく 憶 えて い ない の に 驚いた 。 ゆう|さとご||きおく||たより||ずめん||かいて|おこなった||いがいに||おく||||||おどろいた Yuuriko wrote a drawing based on her memory, but was surprisingly surprised that she did not remember well. それ でも 何とか 苦労 して 書き上げる と 、 ||なんとか|くろう||かきあげる| But if you somehow struggle to write it out,

「 こんな 風 だった と 思い ます 」 |かぜ|||おもい| "I think it was like this."

と 三崎 へ 手渡す 。 |みさき||てわたす And hand over to Misaki.

三崎 は しばらく それ を 見て いた が 、 テーブル の 上 に 図面 を 置く と 、 自分 の 鉛筆 で 、 父 の 部屋 の 窓 側 の 隅 に × 印 を つけた 。 みさき|||||みて|||てーぶる||うえ||ずめん||おく||じぶん||えんぴつ||ちち||へや||まど|がわ||すみ||いん|| Misaki looked at it for a while, but when he put the drawing on the table, he used his pencil to put a cross in the corner of the window of the father's room.

「 この 部屋 は ? |へや| 「 父 の 部屋 です 」 ちち||へや|

「 ここ から 火 が 出た らしい んだ よ 」 ||ひ||でた||| "It seems like the fire came out of here."

「 でも …… 火の気 が あり ませ ん 。 |ひのけ|||| "But ... I have no feeling of fire. それ に 父 は 出張 で いま せ ん でした 」 ||ちち||しゅっちょう||||| And my father was on a business trip. "

三崎 と 国友 が ちょっと 目 を 見交わした 。 みさき||くにとも|||め||みかわした Misaki and Kotoumi had a slight glance.

「 だ から おかしい んだ よ 。 どう 考えて も 放火 と しか 思え ない 」 |かんがえて||ほうか|||おもえ| Anyway I can only think of it as an arson "

夕 里子 は 啞然 と した 。 ゆう|さとご||啞ぜん|| Yuuriko was stunned. うち に 放火 ! ||ほうか Arson in my house! そんな ひどい こと を ……。

「 もう 一 つ 大変な こと が あり まして ね 」 |ひと||たいへんな||||| "I have one more thing to do."

と 国友 が 申し訳な さ そうに 言った 。 |くにとも||もうしわけな||そう に|いった And my friend said sorry.

「 何 でしょう ? なん| 三崎 が 、 鉛筆 で 、 父 の 部屋 の 押入れ の 所 へ 、 人 の 形 を 描いた 。 みさき||えんぴつ||ちち||へや||おしいれ||しょ||じん||かた||えがいた Misaki drew a human figure with a pencil to the closet of my father's room.

夕 里子 は 戸惑って 三崎 の 顔 を 見た 。 ゆう|さとご||とまどって|みさき||かお||みた Yuuriko was puzzled and looked at Misaki's face.

「 この 押入れ の あたり から ね 」 |おしいれ|||| "From around this closet"

と 三崎 は 言った 。 |みさき||いった 「 女 の 死体 が 見付かった んだ よ 」 おんな||したい||みつかった|| "I found a woman 's corpse."

「 う っそ 」

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 あんた 、 私 が そんな 冗談 言い に 来た と 思って ん の ! |わたくし|||じょうだん|いい||きた||おもって|| "You think I came to such a joke! 夕 里子 は ドンと テーブル を 叩いた 。 ゆう|さとご||どんと|てーぶる||たたいた Yuuriko beat the table with Don.

「 お 姉ちゃん 、 ここ うち じゃ ない の よ 」 |ねえちゃん|||||| "My sister, I'm not here."

「 あ 、 いけない 」

夕 里子 は ちょっと 舌 を 出した 。 ゆう|さとご|||した||だした Yuriko put out a little bit of tongue. ── 安東 の 家 へ 来て いる のである 。 あんどう||いえ||きて|| ── It is coming to Andong's house.

「 紅茶 を 淹 れ ました よ 。 こうちゃ||えん||| "I had a cup of tea. 召し上れ 」 めしあがれ

安東 の 妻 、 岐子 は やはり 学校 の 教師 である 。 あんどう||つま|しこ|||がっこう||きょうし| Ando's wife, Kiko, is still a school teacher. 夫 が 中学 、 妻 が 高校 、 というのも 珍しい 。 おっと||ちゅうがく|つま||こうこう||めずらしい It is rare for her husband to be in junior high school and his wife to be in high school.

「 しかし 、 妙な 話 だ ねえ 」 |みょうな|はなし|| "But it's a strange story."

安東 が ドッカ と 座り込んで 言った 。 あんどう||||すわりこんで|いった Andong sat down and said, 'Doka. 大柄で 、 がっしり と した 体つき 。 おおがらで||||からだつき It has a large body and a solid body. 健康 そうに よく 陽焼 けして 、 いかにも 人 の 好 い 印象 を 与える 。 けんこう|そう に||ようやき|||じん||よしみ||いんしょう||あたえる Soothing well and well-being, gives a good impression of people. 実際 、 珠美 の 学校 でも 、 生徒 の 間 で 人気 の 高い 教師 の 一 人 だった 。 じっさい|たまみ||がっこう||せいと||あいだ||にんき||たかい|きょうし||ひと|じん| In fact, even at the school at Shumi, it was one of the most popular teachers among the students.

「 本当 ねえ 。 ほんとう| そんな こと って ある かしら ? Is there anything like that? 妻 の 岐子 が 紅茶 を 配り ながら 言った 。 つま||しこ||こうちゃ||くばり||いった My wife, Giko, said while giving me some tea.

岐子 は 夫 と は 好 対照 の 、 ほっそり と した 色白の 美人 で 、 子供 が ない せい か 、 若々しく 見えた 。 しこ||おっと|||よしみ|たいしょう|||||いろじろの|びじん||こども|||||わかわかしく|みえた Giko is a slender, fair-skinned beauty, in good contrast to her husband, and looked young, probably because she had no children.

「 どんな 女 の 人 な の ? |おんな||じん|| "What kind of woman is it? と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった

「 分 んな いわ よ 。 ぶん||| "I don't know. だって 、 焼け 死んだ んだ から 」 |やけ|しんだ|| Because I burned and died. "

「 あ 、 そう か 」

綾子 は 、 まだ 半ば 放心 状態 の ようだ 。 あやこ|||なかば|ほうしん|じょうたい|| Reiko seems to be still in a state of half-heartedness. おっとり と 大柄で 、 ふくよかな 顔 の 、 なかなか の 美人 である 。 ||おおがらで||かお||||びじん| He is a pretty beautiful woman with a big face, a big face, and a large size. モダンな ファッション より は 、 和服 姿 の 方 が よく 似合う 。 もだんな|ふぁっしょん|||わふく|すがた||かた|||にあう Japanese-style clothes look better than modern fashion.

「 でも 、 いつ から その 女 の 人 、 うち に いた の ? ||||おんな||じん|||| "But how long have you been in the house with that woman? と 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった Said Tamami. 「 全然 気 が 付か なかった わ 」 ぜんぜん|き||つか|| "I was not aware at all."

「 当り前 よ 。 あたりまえ| 知って りゃ 忘れ ない わ 。 しって||わすれ|| I will not forget if I know it. ── 参っちゃ った なあ 、 早く パパ 帰って 来 ない かしら 」 まいっちゃ|||はやく|ぱぱ|かえって|らい|| 参 I'm going, I wonder if Dad won't come back soon.

「 お 父さん の 部屋 で その 女 の 人 が 見付かった の ね ? |とうさん||へや|||おんな||じん||みつかった|| "Did you find the woman in your father 's room? と 岐子 が 訊 いた 。 |しこ||じん| And Giko sang.

「 そう らしい んです 。 でも 、 正確に は 分 ら ない けど 。 |せいかくに||ぶん||| But I do not know exactly. ── ただ 、 パパ の 部屋 に は めったに 入り ませ ん から 、 押入れ の 中 に いた と したら 、 まるで 気 が 付か なかった と 思い ます 」 |ぱぱ||へや||||はいり||||おしいれ||なか||||||き||つか|||おもい| た だ However, I seldom enter the dad 's room, so if I were in the closet I would not have noticed it.

「 それ に したって ……」 "That's right ..."

珠美 は 、 もう 何 に でも 八つ当り し たい 様子 だ 。 たまみ|||なん|||やつあたり|||ようす| Suzumi seems to want to hit eight things in everything. 末っ子 の せい か 、 こらえ 性 の ない ところ が ある 。 すえっこ|||||せい||||| Perhaps because it is the youngest child, there are places where there is no protection.

「 お 父さん と は 連絡 取れ ない の か 」 |とうさん|||れんらく|とれ||| "Can't I get in touch with my father?"

と 安東 が 言った 。 |あんどう||いった

「 札幌 へ 行って る の は 分 って る んです けど 、 どこ に 泊って る か 見当 つか ない し 、 それ に 、 会社 の 電話 も 、 手帳 なんか が 全部 焼けちゃ って 」 さっぽろ||おこなって||||ぶん|||||||とまって|||けんとう||||||かいしゃ||でんわ||てちょう|||ぜんぶ|やけちゃ| "I know I'm going to Sapporo, but I have no idea where I am staying, and my office phone and all my notebooks have been burned up."

「 電話 帳 で 引け 」 でんわ|ちょう||ひけ "Close with phonebook"

「 今日 は 日曜日 でしょう 、 あなた 」 きょう||にちようび|| "Today will be Sunday, you"

「 そう か 。 誰 か 、 お 父さん の 同僚 の 自宅 の 電話 でも 知ら ん の か ? だれ|||とうさん||どうりょう||じたく||でんわ||しら||| Does anyone know of your father 's colleague' s phone at home? 姉妹 は 顔 を 見合わせ 、 首 を 振った 。 しまい||かお||みあわせ|くび||ふった The sister saw her face and shook her head.

「 ふむ 。 いつ 帰る 予定 な んだ ? |かえる|よてい|| When are you going to go home? 「 確か 月曜日 って ……」 たしか|げつようび| "Somewhat Monday ..."

「 火曜 じゃ ない ? かよう|| 「 私 、 月曜 って 聞いた わ 」 わたくし|げつよう||きいた| "I heard that Monday"

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 いずれ に せよ 、 明日 まで 待つ 他 ない の か 」 |||あした||まつ|た||| "Anyway, will I have to wait until tomorrow?"

安東 は 難しい 顔 で 言った 。 あんどう||むずかしい|かお||いった Andong said with a difficult face.

「 すみません 、 お 世話に なって 」 ||せわに| "Excuse me, thank you for your help"

何 か 言わ なきゃ 悪い と 思った の か 、 綾子 が 頭 を 下げる 。 なん||いわ||わるい||おもった|||あやこ||あたま||さげる Ayako lowered her head if I thought it was bad if I had to say something.

「 いや 、 そんな こと は いい んだ 。 "No, that's good. しかし 、 親類 の 人 と か 、 連絡 する 先 は ない の か ? |しんるい||じん|||れんらく||さき|||| However, there is no relative or someone to contact you? 「 うち は 父 も 母 も 近い 親類 が 全然 ない んです 」 ||ちち||はは||ちかい|しんるい||ぜんぜん|| "My father and mother have no close relatives at all."

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 すみません 、 姉 と 妹 を もう 一晩 置いて 下さい 」 |あね||いもうと|||ひとばん|おいて|ください "Excuse me, please leave my sister and sister one more night"

「 そんな こと は 構わ ない よ 」 |||かまわ|| "I do not mind such a thing"

と 、 快く 安東 が 肯 く 。 |こころよく|あんどう||こう| And, Ando feels good.

「 早く お 父さん が お 帰り に なる と いい のに ね 」 はやく||とうさん|||かえり|||||| "I hope your father will return sooner"

と 岐子 が 言った 。 |しこ||いった

電話 が 鳴って 、 岐子 が 立って 行った 。 でんわ||なって|しこ||たって|おこなった The phone rang and Gikko stood up. 受話器 を 上げて 、 向 う の 声 を 聞く と 、 じゅわき||あげて|むかい|||こえ||きく| When you pick up the handset and hear the voice over there,

「 夕 里子 さん 、 あなた よ 」 ゆう|さとご||| "Yuuriko, you are"

と 言った 。 |いった

「 国友 さん って いう 方 」 くにとも||||かた "One who says Kunitomo"

「 国友 ……。 くにとも あ 、 さっき の 刑事 さん だ わ 」 |||けいじ||| Oh, it 's the previous detective. "

夕 里子 は 受話器 を 取った 。 ゆう|さとご||じゅわき||とった

「── 実は 、 今 検死 官 が 例の 女性 の 死体 を 見た んです が ね 」 じつは|いま|けんし|かん||れいの|じょせい||したい||みた||| "Actually, the post-mortemist saw the corpse of a woman in the example."

と 、 国友 は あまり 気 が 進ま ない 口ぶり で 言った 。 |くにとも|||き||すすま||くちぶり||いった Said, Kotomu said with a voice that did not make much progress. 「 死因 は 焼死 じゃ ない んだ な 」 しいん||しょうし|||| "The cause of death is not burning."

「 え ? それ じゃ 何 です か ? ||なん|| What is that then? 「 体 に ね 、 ナイフ の 刃 先 が 残って いた んです 。 からだ|||ないふ||は|さき||のこって|| "There was a knife tip left on my body. 心臓 を 刺して 、 ナイフ が 折れた らしい 。 しんぞう||さして|ないふ||おれた| He stabbed the heart and the knife was broken. つまり 女 は 刺し殺さ れて いる んです よ 」 |おんな||さしころさ|||| In a word, the woman is stabbed away "

「 殺さ れ …… た ? ころさ|| " killed ? 夕 里子 は 頭 が 混乱 して 来た 。 ゆう|さとご||あたま||こんらん||きた Yuuriko was confused in her head. 「 つまり 、 誰 か が その 女 の 人 を 刺し殺して 、 うち の 押入れ に 入れて おいた んです か ? |だれ||||おんな||じん||さしころして|||おしいれ||いれて||| "So, did somebody stab and kill the woman and put it in my closet? 「 そして 火 を つけた んです ね 、 おそらく 。 |ひ||||| "And I put on the fire, probably. 身 許 を 知ら れ たく なかった の か 。 み|ゆる||しら||||| Didn't you want to be informed? ── あの 女性 は 服 を はぎ取ら れて いる らしい んです よ 」 |じょせい||ふく||はぎとら||||| It seems that that woman is stripped of her clothes. "

「 じゃ …… 裸 で ? |はだか| "See you ... naked? 「 そう 。 死後 、 せいぜい 一 日 しか たって い ない 。 しご||ひと|ひ|||| It only lasts one day after death. つまり 、 殺して すぐに 押入れ へ 裸 に して 押し込んだ らしい です ね 」 |ころして||おしいれ||はだか|||おしこんだ||| In a word, it seems that you killed and immediately put it into a closet nakedly and pushed it in.

夕 里子 は 悪い 夢 を 見て いる ようだった 。 ゆう|さとご||わるい|ゆめ||みて|| Yuuriko seemed to have a bad dream. 夕 里子 は 昨日 、 学校 から 帰った 後 、 家 を 掃除 した のだ 。 ゆう|さとご||きのう|がっこう||かえった|あと|いえ||そうじ|| Yuuriko cleaned the house yesterday after returning from school. その とき 、 パパ の 部屋 も 掃除 した 。 ||ぱぱ||へや||そうじ| At that time, I cleaned my dad's room. 押入れ は 開け なかった が ……。 おしいれ||あけ|| I could not open the closet ... あの とき 、 もう 死体 は あった の かも しれ ない 。 |||したい|||||| At that time, there may have been corpses. 襖 一 枚 の 向 うに ……。 ふすま|ひと|まい||むかい| Let's go ahead ...

「 それ から 、 これ は 言いにくい んです が 」 ||||いいにくい|| "And then it 's hard to say this."

と 、 国友 は ためらい がちに 言った 。 |くにとも||||いった Said, his friend was hesitant. 「 お 父さん の 会社 は K 建設 です ね 」 |とうさん||かいしゃ||k|けんせつ|| "Father 's company is K construction."

「 そうです 」 そう です

「 販売 第 二 課 、 と 」 はんばい|だい|ふた|か| "The second part of sales, and"

「 はい 」

「 その 課長 さん が 、 植松 と いう 人 でして ね 、 自宅 の 電話 が 分 った ので 連絡 した んです よ 」 |かちょう|||うえまつ|||じん|||じたく||でんわ||ぶん|||れんらく||| "The manager was Uematsu, and I got in touch with me because I knew my home phone."

「 ああ 、 そう だ わ 、 植松 って 人 です 。 ||||うえまつ||じん| "Oh, yes, Uematsu is a person. 父 の 居場所 、 分 り ました か ? ちち||いばしょ|ぶん||| Did you know where your father was? 「 それ が ね 、 お 父さん は 出張 に なんか 行って ない 、 って こと な んです 」 ||||とうさん||しゅっちょう|||おこなって||||| "That 's right, Father isn't going to go on a business trip."

夕 里子 は ポカン と して 、 綾子 と 珠美 の 心配 そうな 顔 を 眺めた 。 ゆう|さとご|||||あやこ||たまみ||しんぱい|そう な|かお||ながめた Yuuriko was pokan, and looked at the worrying face of Reiko and Tamami. 左手 の 指 を 三 本 出して 、 ひだりて||ゆび||みっ|ほん|だして Put out three fingers of your left hand,

「 これ 、 三 本 ? |みっ|ほん "This, three? 「 そう よ 」

「 じゃ 、 おかしく ない んだ ……」 "That's not funny ..."

「 どうした の 、 お 姉ちゃん ? |||ねえちゃん 夕 里子 は 受話器 を 握り 直した 。 ゆう|さとご||じゅわき||にぎり|なおした Yuriko grabbed the handset again.

「 あの ── それ は 、 どういう 意味 です か ? ||||いみ|| "Uh-what does that mean? 父 は 木曜日 から 出張 で 札幌 へ 行って る んです よ 」 ちち||もくようび||しゅっちょう||さっぽろ||おこなって||| Father is going to Sapporo on a business trip from Thursday. "

「 それ が ね 、 実際 は お 父さん は 休み を 取って る んです よ 。 |||じっさい|||とうさん||やすみ||とって||| "That's right, in fact my father is taking a break. 木曜日 から 」 もくようび| From Thursday

「 じゃ …… 札幌 に は ? |さっぽろ|| 「 どこ へ 行って る の か は 分 り ませ ん 。 ||おこなって|||||ぶん||| 心当り は ? こころあたり| What is your mind? 「 そんな …… 私 に 分 る はず が ない でしょう 」 |わたくし||ぶん||||| "That ...... I can't tell."

ショック が 夕 里子 に 反抗 的な 口 を きかせた 。 しょっく||ゆう|さとご||はんこう|てきな|くち|| The shock made Yuriko a rebellious voice. パパ が そんな 噓 を つく なんて ! ぱぱ|||||| I hope my dad will make such a bag! そんな こと が ある もんか ! Monk that has such a thing!

「 連絡 が あったら 、 すぐに 知らせて 下さい 。 れんらく||||しらせて|ください "Please let me know as soon as you get in touch. いい です ね 」

国友 の 言葉 は 優しかった が 、 言い 方 は 厳しく なって いた 。 くにとも||ことば||やさしかった||いい|かた||きびしく|| His friend's words were good, but his words were strict.

受話器 を 置いた 夕 里子 は 、 物 問い た げ な みんな の 視線 を 受け止め かねて 、 目 を 伏せて しまった 。 じゅわき||おいた|ゆう|さとご||ぶつ|とい||||||しせん||うけとめ||め||ふせて| Yuuriko, who placed the handset, shuts her eyes because she could not catch the eyes of everyone who was questioning.

「 何事 な の ? なにごと|| "What 's wrong? と 安東 岐子 が 訊 いた 。 |あんどう|しこ||じん| And Gyoko Ando wandered.

「 あの …… 大した こと じゃ あり ませ ん 」 |たいした||||| "That ...... not a big deal"

大した こと 、 どころ で は ない のだ が 、 なぜ か 口 に し たく なかった 。 たいした||||||||||くち|||| It wasn't a big deal, but I didn't want to say something about it. みんな に しゃべら ない 内 に 、 もう 一 度 警察 から 電話 が かかって 来て 、 ||||うち|||ひと|たび|けいさつ||でんわ|||きて While I was not talking to everyone, I received another phone call from the police,

「 今 の は 植松 さん の 勘違い でした よ 」 いま|||うえまつ|||かんちがい|| "It was Mr. Uematsu 's misunderstanding now"

と 言って くれる ので は ない か と 思った のだ 。 |いって|||||||おもった| I thought it would mean to say that.

「 でも 、 今 の 様子 じゃ ──」 |いま||ようす| "But, it's the situation now-"

「 すみません 」

夕 里子 は ピョコン と 頭 を 下げて 、「 私 たち 三 人 だけ に して 下さい 、 お 願い です 」 ゆう|さとご||||あたま||さげて|わたくし||みっ|じん||||ください||ねがい| Yuuriko lowered her head with Pyokon and said, "Please give us only three people,"

父 が 噓 を ついて いた と は 言い たく なかった 。 ちち||||||||いい|| I did not want to say that my father was wearing a spear. 他人 に 聞か れる の は 、 もっと いやだった 。 たにん||きか||||| It was more disgusting to be heard by others.

「 よし 、 席 を 外そう 」 |せき||がいそう "Yeah, let's leave our seat"

安東 が 立ち上って 、 岐子 を 促す 。 あんどう||たちのぼって|しこ||うながす Andong gets up and urges Gikko.

「── どうした の よ 、 一体 」 |||いったい "-What the hell is it?"

綾子 が 咎め だて する ように 、「 失礼じゃ ない の 、 先生 に 」 あやこ||とがめ||||しつれいじゃ|||せんせい| "As excuse me, to the teacher, as Reiko is giving up.

と 言った 。 |いった

「 他人 に 言い たく ない 話 だって ある わ よ 」 たにん||いい|||はなし|||| "There is even a story that I do not want to tell others."

「 だって 先生 よ 」 |せんせい|

「 先生 だって 、 他人 は 他人 よ ! せんせい||たにん||たにん| "Even a teacher, others are others! と 、 夕 里子 は また テーブル を ドンと 叩いた 。 |ゆう|さとご|||てーぶる||どんと|たたいた And Yuuriko slammed the table again. ティーカップ が ガチャン 、 と 音 を 立てる 。 ||||おと||たてる The tea cup makes a sound like a gattan.

「 ねえ 、 よく 聞いて 」 ||きいて "Hey, listen carefully"

夕 里子 は 、 今 の 国友 の 電話 の 内容 を 説明 した 。 ゆう|さとご||いま||くにとも||でんわ||ないよう||せつめい| Yuuriko explained the contents of his present friend's phone call.

「 じゃ 、 パパ 、 どこ に いる の ? |ぱぱ|||| "Well, dad, where are you? 綾子 は 当惑 し 切った 表情 で 言った 。 あやこ||とうわく||きった|ひょうじょう||いった Reiko said with an embarrassed look.

「 分 んな いわ よ 」 ぶん||| "I don't know."

「 どうして 噓 ついた の かしら ? "I wonder why you were jealous? 「 噓 と は 限 ん ない じゃ ない の 。 |||げん||||| "It's not limited to jealousy. その 課長 って 人 の 勘違い かも しれ ない し 、 何 か 特別な 事情 が あって ──」 |かちょう||じん||かんちがい|||||なん||とくべつな|じじょう|| The manager may be misunderstood by a person or something special.

「 ねえ 」

突然 、 珠美 が 言った 。 とつぜん|たまみ||いった 「 はっきり さ せ なきゃ 」 "I have to make it clear"

夕 里子 と 綾子 は 、 珠美 を 見た 。 ゆう|さとご||あやこ||たまみ||みた Yuuriko and Yuko saw Tamami.

「 だって さ 、 私 たち が ここ で ああ だ こう だ 言って たって 仕方ない じゃ ない 。 ||わたくし|||||||||いって||しかたない|| "Because we can not say that we're here ah. 本当の こと は 分 り っこ ない んだ し 。 ほんとうの|||ぶん||||| I do not know the true thing. それ より 、 警察 の 人 が どう 思って る か よ 」 ||けいさつ||じん|||おもって||| What does a police person think more than that?

珠美 は 三 人 姉妹 の 中 でも 、 一 番 の 現実 主義 者 な のである 。 たまみ||みっ|じん|しまい||なか||ひと|ばん||げんじつ|しゅぎ|もの|| Sumi is the best realist among the three sisters. そういう 世代 な の かも しれ ない 。 |せだい||||| It may be such a generation.

「 つまり 、 あんた の 言い たい こと は ──」 |||いい||| "That's what you want to say ──"

「 家 の 中 に 、 殺さ れた 女 の 人 の 死体 が あった んでしょ 。 いえ||なか||ころさ||おんな||じん||したい||| "There was a dead body of a killed woman in the house. それ も パパ の 部屋 の 押入れ に 。 ||ぱぱ||へや||おしいれ| そして パパ は 出張 と 言って 出かけた けど 、 実際 は 出張 なんか じゃ なくて 、 行方 が 分 ら ない 。 |ぱぱ||しゅっちょう||いって|でかけた||じっさい||しゅっちょう||||ゆくえ||ぶん|| And dad said he was on a business trip, but he wasn't actually on a business trip, and he did not know where it was. ── はっきり して る わ よ 。 -It's clear. その 女 の 人 は パパ が 殺した んだ わ 」 |おんな||じん||ぱぱ||ころした|| The dad killed that woman. "

夕 里子 は じっと 珠美 を 見つめた 。 ゆう|さとご|||たまみ||みつめた

「 あんた 、 本気で そう 思って ん の ? |ほんきで||おもって|| "Do you really think so? 「 私 が 思って んじゃ ない よ 。 わたくし||おもって||| "I'm not thinking. 警察 が そう 思って る って こと 」 けいさつ|||おもって||| That the police think so "

「 なら いい けど 」

「 でも 、 そんな こと ……」 "But that kind of thing ..."

と 綾子 一 人 は まだ 事態 が よく 呑み込め てい ない 。 |あやこ|ひと|じん|||じたい|||のみこめ|| Toshio and one of them have not been addicted to the situation yet.

「 パパ が 帰って 来れば 分 る わ よ 」 ぱぱ||かえって|くれば|ぶん||| "I know if Daddy comes back"

夕 里子 は 、 自分 に 言い聞かせる ように 言った 。 ゆう|さとご||じぶん||いいきかせる||いった Yuuriko told me to tell her. 「 何もかも 、 ちゃんと 説明 して くれて 、 何でもなかった って 分 る わ よ 」 なにもかも||せつめい|||なんでもなかった||ぶん||| "Everything, explain me properly, I know it wasn't anything."

「 女 の 死体 が 押入れ に あった の が 、『 何でもない 』 こと な の ? おんな||したい||おしいれ|||||なんでもない||| "Is the woman 's corpse in the closet' nothing '? 「 珠美 ったら 、 もう ちょっと 希望 的 観測 を 述べ られ ない の ? たまみ||||きぼう|てき|かんそく||のべ||| "If you are at a loss, can you say a little more hopeful observation? 「 希望 なんか 持って っ から 、 裏切ら れ んだ よ 」 きぼう||もって|||うらぎら||| "I'm betrayed because I have hope."

「 言って くれる わ ね 」 いって||| "I will tell you"

しばらく 三 人 は 黙り 込んで いた 。 |みっ|じん||だまり|こんで| For a while the three were silent. ── やがて 、 綾子 が ポツンと 言った 。 |あやこ||ぽつんと|いった や Before long, Ayako said Potun.

「 パパ に 電話 して みたら ? ぱぱ||でんわ|| "If I try to call daddy?