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三姉妹探偵団 1, 三姉妹探偵団01 chapter 09 (2)

三 姉妹 探偵 団 01 chapter 09 (2)

「 ずいぶん 遠い 所 に インタホン が ある の ね 」

「 中 と は 無線 で 連絡 できる の よ 。

いちいち コード 引 張る わけに いか ない もの ね 」

国友 が インタホン の ボタン を 押す と 、

「 どちら 様 でしょう ?

と 女性 の 声 が した 。

「 まあ 珍しい 。

奥さん だ わ 」

と 、 幸代 が 言った 。

「 ご 主人 に お目にかかり たい のです が 。

警察 の 者 です 」

断わら れる か と 思った が 、 向 う は 意外に すんなり と 、

「 どうぞ お 入り 下さい 」

と 、 答えた 。

大きな 門 の わき の 扉 が 静かに 開いた 。

「 今 、 手伝い の 者 が 出払って おり まして 」

夫人 は 、 三 人 を 応接間 へ 通す と 言った 。

「 何の ご用 でしょう ?

夕 里子 は 、 一見 して 、 この 夫人 に 好感 は 持て なかった 。

取り 澄ました 上流 夫人 と いう 印象 が 、 あまりに も 強烈だった から である 。

美人 と いえば 美人 である 。

植松 の 年齢 を 考えれば 、 ずいぶん 若く 見える 。 実際 の 年齢 は もっと 行って いる と して も 、 せいぜい 四十 代 の 前半 であろう 。

色 の 白い 、 きつい 顔立ち で 、 気位 の 高 さ 、 傲慢 さ が はっきり と 出て いる 。

「 いや 、 実は ご 主人 に お 話 が ある のです が 」

と 、 国友 が 言う と 、

「 主人 は 私 です が 」

と 、 夫人 は 言った 。

「 は ?

しかし ……」

「 ああ 、 夫 の こと です の 」

と 夫人 は 、 ちょっと 笑って 、「 この 家 の 主人 は 私 です から 、 てっきり 私 に ご用 か と 思い まして 」

「 は あ ……」

これ は 凄い 女性 だ なあ 、 と 夕 里子 は 思った 。

「 夫 に 何の ご用 です の ?

会社 へ 行って いる はずです が 」

「 それ が 、 会社 へ お 訪ね したら 、 早退 さ れた と いう こと で 、 ここ へ お 帰り か と 思った のです 」

「 早退 ?

夫人 は 、 ちょっと 険しい 顔 に なって 、「 私 に 無断 で そんな こと を !

早退 する のに 、 いちいち 奥さん に 断わら なきゃ いけない と は 珍しい 夫婦 だ 、 と 夕 里子 は 思った 。

「 分 り ました 。

では 帰り ましたら 、 おいでになった こと を 伝えて おき ます わ 」

と 夫人 は 話 を 切り上げ かける 。

「 ちょっと 待って 下さい 」

国友 は あわてて 、「 本当に お宅 に は おら れ ない んです か ?

「 私 が い ない と 申し上げて る んです よ 」

夫人 は きっぱり と 、 言った 。

「 は あ ……。

しかし 、 それ ならば 少々 待た せて いただいて も ──」

そこ へ ドア が 開いて 、

「 おい 、 お 客 様 か ?

私 は 急な 出張 で ──」

と 、 入って 来た 植松 は 、 夕 里子 たち を 見て 、 ギョッ と 立ちすくんだ 。

「 あら 、 いつ 帰って いた の ?

と 夫人 が 言った 。

どう 見て も 、 隠して いた ので は ない 。

本当に 、 夫 が 帰った こと など まるで 気付いて い ない のだ 。

「 い 、 いや 、 つい さっき ……」

「 その方 たち が 何 かご 用 だ そう よ 」

「 うん …… 分 っと る 。

よく 分 っと る 」

「 あなた 、 今日 、 会社 を 早退 した そう ね 」

「 あ 、 ああ 。

── つまり 、 急な 出張 な もの だ から 」

「 出張 と 早退 で は 大分 違う んじゃ ない ?

まあ いい わ 。 先 に お 話 を 伺い なさい よ 」

「 そ 、 そう だ ね ……」

夕 里子 は 、 何となく 植松 が 可哀そうに なって 来た 。

もう 、 おどおど して 、 敗北 を 認めて いる 。 そして 、 哀れ っぽい 目 で 、 夕 里子 たち の 方 を 、 じっと 見つめて いる のだ 。

夕 里子 は 立ち上る と 、

「 じゃ 、 植松 課長 さん 、 お 約束 の 通り 案内 して いただけ ます ね 」

と 言った 。

「 案内 ……」

植松 は 一瞬 ポカン と して いた が 、 すぐに 察して 、「 うん 、 そうだ 。

じゃ 、 早速 出かける こと に する か 」

と 調子 を 合わせる 。

そして 、 妻 の 方 を 向いて 、

「 ちょっと 出かけて くる よ 。

この 人 たち を 、 会社 の 施設 に ご 案内 する 約束 に なって いた んだ 。 つい 、 忘れる ところ だった よ 、 ハハハ ……」

学芸 会 並み と いえば 小学生 が 怒る かも しれ ない 、 わざとらし さ だった が 、 夫人 の 方 は 一応 納得 した 様子 で 、

「 じゃ 、 車 を 出して お 使い なさい 」

と 言って 、「 では 、 失礼 いたし ます 」

軽く 頭 を 傾けた の が 挨拶 の つもり らしい 。

── 植松 は 妻 が 出て 行く と 、 額 の 汗 を 拭った 。

「 いや 、 すま ん 。

助かった よ 」

と 、 弱々しい 声 を 出す 。

「 あなた も 正直に 話して 下さる でしょう な 」

と 、 国友 は 言った 。

しかし ──

「 申し訳ない 。

妻 の 耳 に 入れば 、 私 は たちまち あの 家 から 叩き出さ れる 」

と 、 植松 が 言った 。

「 つまり 、 同時に 会社 から も 追い出さ れる のだ 」

「 情 ない わ ね 、 全く 」

と 、 野上 幸代 が ため息 を つく 。

「 課長 な んでしょ 。 ち っと は 毅然と して 下さい よ 」

「 そんな こと より 、 話 を うかがい ましょう 」

国友 が 言った 。

「 佐々 本 さん の 休暇 届 を 偽造 した の は 、 あなた です か ? 植松 は 肯 いた 。

夕 里子 は 、 フウッ と 息 を ついた 。 一 歩 を 踏みだした のだ !

「 つまり 、 佐々 本 さん は 、 本当 は 出張 に 行って いた 、 と ?

「 私 の 個人 的な 用 で 、 出かけて もらった んだ 」

「 どういう 用 です ?

植松 は 情 ない 顔 で 、 国友 を 見て 、

「 この 話 は 、 家内 の 耳 に は 入れ ないで くれる かね ?

「 お 約束 し ます 」

「 私 に は 愛人 が いた 」

と 植松 は 言った 。

「 何しろ あの 女房 と 一緒に 暮す の は 地獄 だ 。 社長 から 、 課長 の 地位 と 引きかえ に 押しつけ られた んだ が 、 何しろ 気位 の 高 さ で こり固まって いる ような 女 だ 。 こっち は まるで 使用人 扱い しか さ れ ない 」

それ は 夕 里子 も 納得 できた 。

「 子供 さん は ない んです か ?

と 夕 里子 は 訊 いた 。

「 だめな んだ よ 」

「 だめ ?

「 女房 は 病的な 潔癖 症 で 、 手 を 触れる こと も 許さ ん 。

社長 が 私 に あれ を 押しつけた の も 、 それ を 知っていた から だ 」

「 じゃあ …… 結婚 して て も …… 全然 ?

と 幸代 が 呆れ顔 で 訊 いた 。

「 一 度 だけ 、 酔って 、 無理に …… やろう と した 。

女房 の 奴 、 ナイトテーブル の 上 の スタンド で 私 の 頭 を 殴った 。 ── おかげ で 五 針 も 縫った よ 」

「 ああ 、 あの とき …… 車 の 事故 と おっしゃって ました ね 」

「 本当の こと が 言える か ね ?

「 で 、 愛人 が できた 、 と いう わけです な 」

と 国友 が 促す 。

夕 里子 も 、 植松 が 愛人 を 作った こと は 同情 の 余地 が ある 、 と 思った 。

もっとも 、 当人 に 課長 の 地位 に しがみつく 気 が なければ 、 離婚 して しまえば 良かった のである 。

「 女房 は 何しろ 、 そういう 点 、 鋭い 勘 を 持った 女 だ から な 。

細心の 注意 を して 付き合う ように して いた 。 その こと を 知っていた の は 佐々 本 君 だけ だった 」

「 父 が ?

「 彼 は 信頼 できる 男 だ 。

それ に 、 彼 に 、 偶然 私 は 彼女 と 二 人 の ところ を 見 られて しまった から 、 隠して おく こと も でき なかった 」

「 女 と いう の は 、 水口 淳子 です か ?

「 水口 ?

── いや 、 違う ! あんな 女 は 知ら ん ! 私 の 愛人 は 三十 過ぎ の 、 事情 も よく わかって くれて いる 女 だ 。 若い 女 に 手 を 出して 、 下手に 女房 の 所 へ 告げ口 でも さ れたら 大変だ 。 安心 して 付き合って い られる 女 だった のだ 」

「 それ が 佐々 本 さん の 失踪 と どう 関係 する んです ?

「 失踪 の 方 は 私 に も よく 分 らん よ 。

本当だ 。 ともかく あの とき は ……」

植松 は 、 五 時 に なる の を 、 もう 何 時間 も 前 から 、 今 か 今 か と 待って いた 。

正確に 言えば 、 この 日 の 朝 九 時 に 仕事 が 始まって から 、 ずっと 待って いた のである 。

席 に いて も 、 仕事 など 手 に つか ない 。

朝 から 、 植松 の やった こと と いえば 、 課 員 の 持って 来る 伝票 に 、 ろくに 目 も 通さ ず に 判 を 押した だけ である 。

この 日 は 、 正に 生涯 に 一 度 、 あるか ない か の 奇跡 的な 日 だった のだ 。

つまり 、 妻 の 琴江 は 、 女子 大 の 同窓 会 で 旅行 に 出て 、 あさって まで 帰ら ない 。

そして 植松 自身 も 、 この 日 から 翌々日 まで 、 札幌 へ 出張 する こと に なって いた のである 。

出張 と いって も 、 仕事 は 簡単な もの で 、 午前 中 一 杯 も あれば 楽に 片付け られる 。

この 機会 を 逃す 手 は ない !

── すでに 五 年 来 、 愛人 関係 に ある 長田 洋子 と 、 二 人 の 旅 を 楽しむ つもりだった のである 。

「 五 時 五 分 前 か ……」

あと 五 分 で 、 自由な 身 に なる 。

五 時 半 に 、 洋子 と 、 小さな ラブ ・ ホテル で 待ち合わせて いる のだ 。 飛行機 は 九 時 。 ── ゆっくり と 二 人きり の 時 を 過 して から 、 羽田 へ 行って も 悠々と 間に合う 。

考えて みれば 、 五 年 の 間 、 洋子 と 二 人きり で のんびり した こと など なかった のだ 。

旅行 は おろか 、 ちょっと 人通り の 多い 場所 、 琴江 の 現われ そうな 辺り は 、 常に 避けて い なくて は なら なかった 。

洋子 は 、 よく 我慢 して くれて いる 。

この 出張 で 、 彼女 を 思い切り 楽しま せて やら なくて は ……。

もう 二 分 で 五 時 に なる 。 植松 は 、 机上 の 時計 を 眺め ながら 、 とっくに 気分 は 五 時 を 回って いる のだった 。

机 の 上 の ガラス 板 に 、 女 の 姿 が 映った 。

ん ?

── 植松 は 顔 を 上げた 。

「 あなた 、 暇 そう ね 」

目の前 に 立って いる の は 、 妻 の 琴江 だった ……。

片瀬 家 の 外 。

家 の 中 から は 読経 の 声 と 香 の 匂い が 流れて 来て いる 。

道 に ぼんやり と 立って いた 綾子 は 、

「 えっ ?

何 ? と 振り向いた 。

「 夕 里子 姉ちゃん 、 まだ 来 ない の ?

「 うん 、 そう み たい 」

「 変 ね 。

お 昼 過ぎ に は 戻って 来る って 言って た のに 」

珠美 は 足 の ふくらはぎ を 手 で もんで 、「 ああ 、 ずっと 座って たら 、 しびれ が 切れちゃ った 」

と 文句 を 言って いる 。

「 仕方ない わ よ 、 お 葬式 だ もの 」

「 ねえ 、 お 姉ちゃん は ここ で 何 して ん の ?

「 え ?

私 は …… お 客 さん を 案内 して くれ って 言わ れて ……」

「 お 葬式 やって る こと ぐらい 、 案内 し なく たって 分 る じゃ ない 」

「 いい でしょ 、 そんな こと !

綾子 は 苛々 と 叫ぶ ように 言った 。

「 あんた は 戻って なさい よ ! 「 は あい 」

珠美 は 肩 を すくめて 、 玄関 の 方 へ 歩いて 行く 。

入れ違い に 、 近所 の 奥さん が 出て 来た 。

「 綾子 さん 」

「 はい 」

「 電話 よ 」

「 私 に です か 」

「 女 の 人 。

神田 さん と か ……」

「 はい !

綾子 は 面食らった 。

神田 初江 か ? 夕 里子 たち が 会い に 行って いる はずだ が 。

綾子 は 、 玄関 を 入る と 、 電話 へ と 急いだ 。

「 もしもし 、 佐々 本 です 」

「 あ 、 佐々木 綾子 さん ね 」

神田 初江 が 皮肉 っぽく 言った 。

「 私 よ 、 初江 」

「 どうも ……。

あの 、 すみません 、 色々 と ……」

「 まんまと しゃべら さ れちゃ った わ ね 」

神田 初江 は 、 そう 怒って いる 口調 で も なかった 。

「 あの 、 妹 が 伺い ませ ん でした か ?

「 ええ 、 来た わ よ 。

可愛い 刑事 さん と 二 人 で アパート に ね 」

「 アパート に ?

「 ちょうど 私 の とこ に 婚約 者 が 来て た もん だ から 、 まさか ホテル で 水口 さん を 見た なんて 言え ない じゃ ない ?

で 、 何も 知ら ない 、 って 追い返しちゃ った の よ 」

「 そう です か ……」

「 でも 、 やっと 彼 、 仕事 で 出かけた から 、 話 を しよう と 思って 。

── 妹 さん たち 、 もう そっち に いる の ? 「 いいえ 。

まだ 戻ら ない んです 。 あの ── どうして この 番号 を ? 「 あんた の 連絡 先 へ かけたら 教えて くれた の よ 。

安東 と かって 家 に 居候 して んでしょ 」

「 そう な んです 。

じゃ 、 どう し ましょう か 」

「 そう ねえ 、 困った な 」

と 、 初江 は 少し 間 を 置いて 、「 私 、 今夜 、 また 彼 と 約束 ある の よ ね 。

じゃ 、 こう し ましょう 。 私 、 話 を ね 、 思い出せる 限り 、 書いて おく わ 。 あんた 、 取り に 来て くれ ない ? 「 アパート へ です か ?

「 そう 。

また 必要 なら 、 あの 刑事 さん に 話して も いい けど 、 ともかく 今 は 時間 が ない から 。 ── いい ? 「 分 り ました 」

と 綾子 は 言った 。

本当 は 方向 音痴 で 、 初めて の 場所 へ 行く の は 苦手な のだ が 、 綾子 と して も 、 神田 初江 を 騙して いた と いう 負い目 が ある 。

来い と 言わ れれば 、 断わる こと も でき なかった 。


三 姉妹 探偵 団 01 chapter 09 (2) みっ|しまい|たんてい|だん|

「 ずいぶん 遠い 所 に インタホン が ある の ね 」 |とおい|しょ||||||

「 中 と は 無線 で 連絡 できる の よ 。 なか|||むせん||れんらく|||

いちいち コード 引 張る わけに いか ない もの ね 」 |こーど|ひ|はる|||||

国友 が インタホン の ボタン を 押す と 、 くにとも||||ぼたん||おす|

「 どちら 様 でしょう ? |さま|

と 女性 の 声 が した 。 |じょせい||こえ||

「 まあ 珍しい 。 |めずらしい

奥さん だ わ 」 おくさん||

と 、 幸代 が 言った 。 |さちよ||いった

「 ご 主人 に お目にかかり たい のです が 。 |あるじ||おめにかかり|||

警察 の 者 です 」 けいさつ||もの|

断わら れる か と 思った が 、 向 う は 意外に すんなり と 、 ことわら||||おもった||むかい|||いがいに||

「 どうぞ お 入り 下さい 」 ||はいり|ください

と 、 答えた 。 |こたえた

大きな 門 の わき の 扉 が 静かに 開いた 。 おおきな|もん||||とびら||しずかに|あいた

「 今 、 手伝い の 者 が 出払って おり まして 」 いま|てつだい||もの||ではらって||

夫人 は 、 三 人 を 応接間 へ 通す と 言った 。 ふじん||みっ|じん||おうせつま||とおす||いった

「 何の ご用 でしょう ? なんの|ごよう|

夕 里子 は 、 一見 して 、 この 夫人 に 好感 は 持て なかった 。 ゆう|さとご||いっけん|||ふじん||こうかん||もて| Riko Yuri, at first glance, he did not have a favorable feeling for this wife.

取り 澄ました 上流 夫人 と いう 印象 が 、 あまりに も 強烈だった から である 。 とり|すました|じょうりゅう|ふじん|||いんしょう||||きょうれつだった||

美人 と いえば 美人 である 。 びじん|||びじん|

植松 の 年齢 を 考えれば 、 ずいぶん 若く 見える 。 うえまつ||ねんれい||かんがえれば||わかく|みえる 実際 の 年齢 は もっと 行って いる と して も 、 せいぜい 四十 代 の 前半 であろう 。 じっさい||ねんれい|||おこなって||||||しじゅう|だい||ぜんはん|

色 の 白い 、 きつい 顔立ち で 、 気位 の 高 さ 、 傲慢 さ が はっきり と 出て いる 。 いろ||しろい||かおだち||きぐらい||たか||ごうまん|||||でて|

「 いや 、 実は ご 主人 に お 話 が ある のです が 」 |じつは||あるじ|||はなし||||

と 、 国友 が 言う と 、 |くにとも||いう|

「 主人 は 私 です が 」 あるじ||わたくし||

と 、 夫人 は 言った 。 |ふじん||いった

「 は ?

しかし ……」

「 ああ 、 夫 の こと です の 」 |おっと||||

と 夫人 は 、 ちょっと 笑って 、「 この 家 の 主人 は 私 です から 、 てっきり 私 に ご用 か と 思い まして 」 |ふじん|||わらって||いえ||あるじ||わたくし||||わたくし||ごよう|||おもい|

「 は あ ……」

これ は 凄い 女性 だ なあ 、 と 夕 里子 は 思った 。 ||すごい|じょせい||||ゆう|さとご||おもった

「 夫 に 何の ご用 です の ? おっと||なんの|ごよう||

会社 へ 行って いる はずです が 」 かいしゃ||おこなって|||

「 それ が 、 会社 へ お 訪ね したら 、 早退 さ れた と いう こと で 、 ここ へ お 帰り か と 思った のです 」 ||かいしゃ|||たずね||そうたい||||||||||かえり|||おもった|

「 早退 ? そうたい

夫人 は 、 ちょっと 険しい 顔 に なって 、「 私 に 無断 で そんな こと を ! ふじん|||けわしい|かお|||わたくし||むだん||||

早退 する のに 、 いちいち 奥さん に 断わら なきゃ いけない と は 珍しい 夫婦 だ 、 と 夕 里子 は 思った 。 そうたい||||おくさん||ことわら|||||めずらしい|ふうふ|||ゆう|さとご||おもった

「 分 り ました 。 ぶん||

では 帰り ましたら 、 おいでになった こと を 伝えて おき ます わ 」 |かえり|||||つたえて|||

と 夫人 は 話 を 切り上げ かける 。 |ふじん||はなし||きりあげ|

「 ちょっと 待って 下さい 」 |まって|ください

国友 は あわてて 、「 本当に お宅 に は おら れ ない んです か ? くにとも|||ほんとうに|おたく|||||||

「 私 が い ない と 申し上げて る んです よ 」 わたくし|||||もうしあげて|||

夫人 は きっぱり と 、 言った 。 ふじん||||いった

「 は あ ……。

しかし 、 それ ならば 少々 待た せて いただいて も ──」 |||しょうしょう|また|||

そこ へ ドア が 開いて 、 ||どあ||あいて

「 おい 、 お 客 様 か ? ||きゃく|さま|

私 は 急な 出張 で ──」 わたくし||きゅうな|しゅっちょう| I am on a short business trip ──

と 、 入って 来た 植松 は 、 夕 里子 たち を 見て 、 ギョッ と 立ちすくんだ 。 |はいって|きた|うえまつ||ゆう|さとご|||みて|||たちすくんだ

「 あら 、 いつ 帰って いた の ? ||かえって||

と 夫人 が 言った 。 |ふじん||いった

どう 見て も 、 隠して いた ので は ない 。 |みて||かくして||||

本当に 、 夫 が 帰った こと など まるで 気付いて い ない のだ 。 ほんとうに|おっと||かえった||||きづいて||| It really does not make me realize that my husband has returned.

「 い 、 いや 、 つい さっき ……」

「 その方 たち が 何 かご 用 だ そう よ 」 そのほう|||なん||よう|||

「 うん …… 分 っと る 。 |ぶん||

よく 分 っと る 」 |ぶん||

「 あなた 、 今日 、 会社 を 早退 した そう ね 」 |きょう|かいしゃ||そうたい|||

「 あ 、 ああ 。

── つまり 、 急な 出張 な もの だ から 」 |きゅうな|しゅっちょう||||

「 出張 と 早退 で は 大分 違う んじゃ ない ? しゅっちょう||そうたい|||だいぶ|ちがう|| "Is not it quite different on a business trip and leaving early?

まあ いい わ 。 先 に お 話 を 伺い なさい よ 」 さき|||はなし||うかがい||

「 そ 、 そう だ ね ……」

夕 里子 は 、 何となく 植松 が 可哀そうに なって 来た 。 ゆう|さとご||なんとなく|うえまつ||かわいそうに||きた

もう 、 おどおど して 、 敗北 を 認めて いる 。 |||はいぼく||みとめて| そして 、 哀れ っぽい 目 で 、 夕 里子 たち の 方 を 、 じっと 見つめて いる のだ 。 |あわれ||め||ゆう|さとご|||かた|||みつめて||

夕 里子 は 立ち上る と 、 ゆう|さとご||たちのぼる|

「 じゃ 、 植松 課長 さん 、 お 約束 の 通り 案内 して いただけ ます ね 」 |うえまつ|かちょう|||やくそく||とおり|あんない||||

と 言った 。 |いった

「 案内 ……」 あんない

植松 は 一瞬 ポカン と して いた が 、 すぐに 察して 、「 うん 、 そうだ 。 うえまつ||いっしゅん|||||||さっして||そう だ

じゃ 、 早速 出かける こと に する か 」 |さっそく|でかける||||

と 調子 を 合わせる 。 |ちょうし||あわせる Together.

そして 、 妻 の 方 を 向いて 、 |つま||かた||むいて

「 ちょっと 出かけて くる よ 。 |でかけて||

この 人 たち を 、 会社 の 施設 に ご 案内 する 約束 に なって いた んだ 。 |じん|||かいしゃ||しせつ|||あんない||やくそく|||| つい 、 忘れる ところ だった よ 、 ハハハ ……」 |わすれる||||

学芸 会 並み と いえば 小学生 が 怒る かも しれ ない 、 わざとらし さ だった が 、 夫人 の 方 は 一応 納得 した 様子 で 、 がくげい|かい|なみ|||しょうがくせい||いかる||||||||ふじん||かた||いちおう|なっとく||ようす|

「 じゃ 、 車 を 出して お 使い なさい 」 |くるま||だして||つかい|

と 言って 、「 では 、 失礼 いたし ます 」 |いって||しつれい||

軽く 頭 を 傾けた の が 挨拶 の つもり らしい 。 かるく|あたま||かたむけた|||あいさつ|||

── 植松 は 妻 が 出て 行く と 、 額 の 汗 を 拭った 。 うえまつ||つま||でて|いく||がく||あせ||ぬぐった

「 いや 、 すま ん 。

助かった よ 」 たすかった|

と 、 弱々しい 声 を 出す 。 |よわよわしい|こえ||だす

「 あなた も 正直に 話して 下さる でしょう な 」 ||しょうじきに|はなして|くださる||

と 、 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

しかし ──

「 申し訳ない 。 もうしわけない

妻 の 耳 に 入れば 、 私 は たちまち あの 家 から 叩き出さ れる 」 つま||みみ||はいれば|わたくし||||いえ||たたきださ|

と 、 植松 が 言った 。 |うえまつ||いった

「 つまり 、 同時に 会社 から も 追い出さ れる のだ 」 |どうじに|かいしゃ|||おいださ||

「 情 ない わ ね 、 全く 」 じょう||||まったく

と 、 野上 幸代 が ため息 を つく 。 |のかみ|さちよ||ためいき||

「 課長 な んでしょ 。 かちょう|| ち っと は 毅然と して 下さい よ 」 |||きぜんと||ください|

「 そんな こと より 、 話 を うかがい ましょう 」 |||はなし|||

国友 が 言った 。 くにとも||いった

「 佐々 本 さん の 休暇 届 を 偽造 した の は 、 あなた です か ? ささ|ほん|||きゅうか|とどけ||ぎぞう|||||| 植松 は 肯 いた 。 うえまつ||こう|

夕 里子 は 、 フウッ と 息 を ついた 。 ゆう|さとご||||いき|| 一 歩 を 踏みだした のだ ! ひと|ふ||ふみだした|

「 つまり 、 佐々 本 さん は 、 本当 は 出張 に 行って いた 、 と ? |ささ|ほん|||ほんとう||しゅっちょう||おこなって||

「 私 の 個人 的な 用 で 、 出かけて もらった んだ 」 わたくし||こじん|てきな|よう||でかけて||

「 どういう 用 です ? |よう|

植松 は 情 ない 顔 で 、 国友 を 見て 、 うえまつ||じょう||かお||くにとも||みて

「 この 話 は 、 家内 の 耳 に は 入れ ないで くれる かね ? |はなし||かない||みみ|||いれ|||

「 お 約束 し ます 」 |やくそく||

「 私 に は 愛人 が いた 」 わたくし|||あいじん||

と 植松 は 言った 。 |うえまつ||いった

「 何しろ あの 女房 と 一緒に 暮す の は 地獄 だ 。 なにしろ||にょうぼう||いっしょに|くらす|||じごく| 社長 から 、 課長 の 地位 と 引きかえ に 押しつけ られた んだ が 、 何しろ 気位 の 高 さ で こり固まって いる ような 女 だ 。 しゃちょう||かちょう||ちい||ひきかえ||おしつけ||||なにしろ|きぐらい||たか|||こりかたまって|||おんな| こっち は まるで 使用人 扱い しか さ れ ない 」 |||しようにん|あつかい||||

それ は 夕 里子 も 納得 できた 。 ||ゆう|さとご||なっとく|

「 子供 さん は ない んです か ? こども|||||

と 夕 里子 は 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 だめな んだ よ 」 "I can not do it"

「 だめ ?

「 女房 は 病的な 潔癖 症 で 、 手 を 触れる こと も 許さ ん 。 にょうぼう||びょうてきな|けっぺき|しょう||て||ふれる|||ゆるさ|

社長 が 私 に あれ を 押しつけた の も 、 それ を 知っていた から だ 」 しゃちょう||わたくし||||おしつけた|||||しっていた||

「 じゃあ …… 結婚 して て も …… 全然 ? |けっこん||||ぜんぜん

と 幸代 が 呆れ顔 で 訊 いた 。 |さちよ||あきれがお||じん|

「 一 度 だけ 、 酔って 、 無理に …… やろう と した 。 ひと|たび||よって|むりに|||

女房 の 奴 、 ナイトテーブル の 上 の スタンド で 私 の 頭 を 殴った 。 にょうぼう||やつ|||うえ||すたんど||わたくし||あたま||なぐった ── おかげ で 五 針 も 縫った よ 」 ||いつ|はり||ぬった|

「 ああ 、 あの とき …… 車 の 事故 と おっしゃって ました ね 」 |||くるま||じこ||||

「 本当の こと が 言える か ね ? ほんとうの|||いえる||

「 で 、 愛人 が できた 、 と いう わけです な 」 |あいじん||||||

と 国友 が 促す 。 |くにとも||うながす

夕 里子 も 、 植松 が 愛人 を 作った こと は 同情 の 余地 が ある 、 と 思った 。 ゆう|さとご||うえまつ||あいじん||つくった|||どうじょう||よち||||おもった

もっとも 、 当人 に 課長 の 地位 に しがみつく 気 が なければ 、 離婚 して しまえば 良かった のである 。 |とうにん||かちょう||ちい|||き|||りこん|||よかった|

「 女房 は 何しろ 、 そういう 点 、 鋭い 勘 を 持った 女 だ から な 。 にょうぼう||なにしろ||てん|するどい|かん||もった|おんな|||

細心の 注意 を して 付き合う ように して いた 。 さいしんの|ちゅうい|||つきあう||| その こと を 知っていた の は 佐々 本 君 だけ だった 」 |||しっていた|||ささ|ほん|きみ||

「 父 が ? ちち|

「 彼 は 信頼 できる 男 だ 。 かれ||しんらい||おとこ|

それ に 、 彼 に 、 偶然 私 は 彼女 と 二 人 の ところ を 見 られて しまった から 、 隠して おく こと も でき なかった 」 ||かれ||ぐうぜん|わたくし||かのじょ||ふた|じん||||み||||かくして|||||

「 女 と いう の は 、 水口 淳子 です か ? おんな|||||みずぐち|あつこ||

「 水口 ? みずぐち

── いや 、 違う ! |ちがう あんな 女 は 知ら ん ! |おんな||しら| 私 の 愛人 は 三十 過ぎ の 、 事情 も よく わかって くれて いる 女 だ 。 わたくし||あいじん||さんじゅう|すぎ||じじょう||||||おんな| 若い 女 に 手 を 出して 、 下手に 女房 の 所 へ 告げ口 でも さ れたら 大変だ 。 わかい|おんな||て||だして|へたに|にょうぼう||しょ||つげぐち||||たいへんだ 安心 して 付き合って い られる 女 だった のだ 」 あんしん||つきあって|||おんな||

「 それ が 佐々 本 さん の 失踪 と どう 関係 する んです ? ||ささ|ほん|||しっそう|||かんけい||

「 失踪 の 方 は 私 に も よく 分 らん よ 。 しっそう||かた||わたくし||||ぶん||

本当だ 。 ほんとうだ ともかく あの とき は ……」

植松 は 、 五 時 に なる の を 、 もう 何 時間 も 前 から 、 今 か 今 か と 待って いた 。 うえまつ||いつ|じ||||||なん|じかん||ぜん||いま||いま|||まって|

正確に 言えば 、 この 日 の 朝 九 時 に 仕事 が 始まって から 、 ずっと 待って いた のである 。 せいかくに|いえば||ひ||あさ|ここの|じ||しごと||はじまって|||まって||

席 に いて も 、 仕事 など 手 に つか ない 。 せき||||しごと||て|||

朝 から 、 植松 の やった こと と いえば 、 課 員 の 持って 来る 伝票 に 、 ろくに 目 も 通さ ず に 判 を 押した だけ である 。 あさ||うえまつ||||||か|いん||もって|くる|でんぴょう|||め||つう さ|||はん||おした||

この 日 は 、 正に 生涯 に 一 度 、 あるか ない か の 奇跡 的な 日 だった のだ 。 |ひ||まさに|しょうがい||ひと|たび|||||きせき|てきな|ひ||

つまり 、 妻 の 琴江 は 、 女子 大 の 同窓 会 で 旅行 に 出て 、 あさって まで 帰ら ない 。 |つま||ことえ||じょし|だい||どうそう|かい||りょこう||でて|||かえら|

そして 植松 自身 も 、 この 日 から 翌々日 まで 、 札幌 へ 出張 する こと に なって いた のである 。 |うえまつ|じしん|||ひ||よくよくじつ||さっぽろ||しゅっちょう||||||

出張 と いって も 、 仕事 は 簡単な もの で 、 午前 中 一 杯 も あれば 楽に 片付け られる 。 しゅっちょう||||しごと||かんたんな|||ごぜん|なか|ひと|さかずき|||らくに|かたづけ|

この 機会 を 逃す 手 は ない ! |きかい||のがす|て||

── すでに 五 年 来 、 愛人 関係 に ある 長田 洋子 と 、 二 人 の 旅 を 楽しむ つもりだった のである 。 |いつ|とし|らい|あいじん|かんけい|||ちょうだ|ひろこ||ふた|じん||たび||たのしむ||

「 五 時 五 分 前 か ……」 いつ|じ|いつ|ぶん|ぜん|

あと 五 分 で 、 自由な 身 に なる 。 |いつ|ぶん||じゆうな|み||

五 時 半 に 、 洋子 と 、 小さな ラブ ・ ホテル で 待ち合わせて いる のだ 。 いつ|じ|はん||ひろこ||ちいさな|らぶ|ほてる||まちあわせて|| 飛行機 は 九 時 。 ひこうき||ここの|じ ── ゆっくり と 二 人きり の 時 を 過 して から 、 羽田 へ 行って も 悠々と 間に合う 。 ||ふた|ひときり||じ||か|||はた||おこなって||ゆうゆうと|まにあう

考えて みれば 、 五 年 の 間 、 洋子 と 二 人きり で のんびり した こと など なかった のだ 。 かんがえて||いつ|とし||あいだ|ひろこ||ふた|ひときり|||||||

旅行 は おろか 、 ちょっと 人通り の 多い 場所 、 琴江 の 現われ そうな 辺り は 、 常に 避けて い なくて は なら なかった 。 りょこう||||ひとどおり||おおい|ばしょ|ことえ||あらわれ|そう な|あたり||とわに|さけて|||||

洋子 は 、 よく 我慢 して くれて いる 。 ひろこ|||がまん|||

この 出張 で 、 彼女 を 思い切り 楽しま せて やら なくて は ……。 |しゅっちょう||かのじょ||おもいきり|たのしま||||

もう 二 分 で 五 時 に なる 。 |ふた|ぶん||いつ|じ|| 植松 は 、 机上 の 時計 を 眺め ながら 、 とっくに 気分 は 五 時 を 回って いる のだった 。 うえまつ||きじょう||とけい||ながめ|||きぶん||いつ|じ||まわって||

机 の 上 の ガラス 板 に 、 女 の 姿 が 映った 。 つくえ||うえ||がらす|いた||おんな||すがた||うつった

ん ?

── 植松 は 顔 を 上げた 。 うえまつ||かお||あげた

「 あなた 、 暇 そう ね 」 |いとま||

目の前 に 立って いる の は 、 妻 の 琴江 だった ……。 めのまえ||たって||||つま||ことえ|

片瀬 家 の 外 。 かたせ|いえ||がい

家 の 中 から は 読経 の 声 と 香 の 匂い が 流れて 来て いる 。 いえ||なか|||どきょう||こえ||かおり||におい||ながれて|きて|

道 に ぼんやり と 立って いた 綾子 は 、 どう||||たって||あやこ|

「 えっ ?

何 ? なん と 振り向いた 。 |ふりむいた

「 夕 里子 姉ちゃん 、 まだ 来 ない の ? ゆう|さとご|ねえちゃん||らい||

「 うん 、 そう み たい 」

「 変 ね 。 へん|

お 昼 過ぎ に は 戻って 来る って 言って た のに 」 |ひる|すぎ|||もどって|くる||いって||

珠美 は 足 の ふくらはぎ を 手 で もんで 、「 ああ 、 ずっと 座って たら 、 しびれ が 切れちゃ った 」 たまみ||あし||||て|||||すわって||||きれちゃ|

と 文句 を 言って いる 。 |もんく||いって|

「 仕方ない わ よ 、 お 葬式 だ もの 」 しかたない||||そうしき||

「 ねえ 、 お 姉ちゃん は ここ で 何 して ん の ? ||ねえちゃん||||なん|||

「 え ?

私 は …… お 客 さん を 案内 して くれ って 言わ れて ……」 わたくし|||きゃく|||あんない||||いわ|

「 お 葬式 やって る こと ぐらい 、 案内 し なく たって 分 る じゃ ない 」 |そうしき|||||あんない||||ぶん|||

「 いい でしょ 、 そんな こと !

綾子 は 苛々 と 叫ぶ ように 言った 。 あやこ||いらいら||さけぶ||いった

「 あんた は 戻って なさい よ ! ||もどって|| 「 は あい 」

珠美 は 肩 を すくめて 、 玄関 の 方 へ 歩いて 行く 。 たまみ||かた|||げんかん||かた||あるいて|いく

入れ違い に 、 近所 の 奥さん が 出て 来た 。 いれちがい||きんじょ||おくさん||でて|きた

「 綾子 さん 」 あやこ|

「 はい 」

「 電話 よ 」 でんわ|

「 私 に です か 」 わたくし|||

「 女 の 人 。 おんな||じん

神田 さん と か ……」 しんでん|||

「 はい !

綾子 は 面食らった 。 あやこ||めんくらった

神田 初江 か ? しんでん|はつえ| 夕 里子 たち が 会い に 行って いる はずだ が 。 ゆう|さとご|||あい||おこなって|||

綾子 は 、 玄関 を 入る と 、 電話 へ と 急いだ 。 あやこ||げんかん||はいる||でんわ|||いそいだ

「 もしもし 、 佐々 本 です 」 |ささ|ほん|

「 あ 、 佐々木 綾子 さん ね 」 |ささき|あやこ||

神田 初江 が 皮肉 っぽく 言った 。 しんでん|はつえ||ひにく||いった

「 私 よ 、 初江 」 わたくし||はつえ

「 どうも ……。

あの 、 すみません 、 色々 と ……」 ||いろいろ|

「 まんまと しゃべら さ れちゃ った わ ね 」

神田 初江 は 、 そう 怒って いる 口調 で も なかった 。 しんでん|はつえ|||いかって||くちょう||| Hatsue Kanda didn't even sound so angry.

「 あの 、 妹 が 伺い ませ ん でした か ? |いもうと||うかがい||||

「 ええ 、 来た わ よ 。 |きた||

可愛い 刑事 さん と 二 人 で アパート に ね 」 かわいい|けいじ|||ふた|じん||あぱーと||

「 アパート に ? あぱーと|

「 ちょうど 私 の とこ に 婚約 者 が 来て た もん だ から 、 まさか ホテル で 水口 さん を 見た なんて 言え ない じゃ ない ? |わたくし||||こんやく|もの||きて||||||ほてる||みずぐち|||みた||いえ|||

で 、 何も 知ら ない 、 って 追い返しちゃ った の よ 」 |なにも|しら|||おいかえしちゃ|||

「 そう です か ……」

「 でも 、 やっと 彼 、 仕事 で 出かけた から 、 話 を しよう と 思って 。 ||かれ|しごと||でかけた||はなし||||おもって

── 妹 さん たち 、 もう そっち に いる の ? いもうと||||||| 「 いいえ 。

まだ 戻ら ない んです 。 |もどら|| あの ── どうして この 番号 を ? |||ばんごう| 「 あんた の 連絡 先 へ かけたら 教えて くれた の よ 。 ||れんらく|さき|||おしえて|||

安東 と かって 家 に 居候 して んでしょ 」 あんどう|||いえ||いそうろう||

「 そう な んです 。

じゃ 、 どう し ましょう か 」

「 そう ねえ 、 困った な 」 ||こまった|

と 、 初江 は 少し 間 を 置いて 、「 私 、 今夜 、 また 彼 と 約束 ある の よ ね 。 |はつえ||すこし|あいだ||おいて|わたくし|こんや||かれ||やくそく||||

じゃ 、 こう し ましょう 。 私 、 話 を ね 、 思い出せる 限り 、 書いて おく わ 。 わたくし|はなし|||おもいだせる|かぎり|かいて|| あんた 、 取り に 来て くれ ない ? |とり||きて|| 「 アパート へ です か ? あぱーと|||

「 そう 。

また 必要 なら 、 あの 刑事 さん に 話して も いい けど 、 ともかく 今 は 時間 が ない から 。 |ひつよう|||けいじ|||はなして|||||いま||じかん||| ── いい ? 「 分 り ました 」 ぶん||

と 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

本当 は 方向 音痴 で 、 初めて の 場所 へ 行く の は 苦手な のだ が 、 綾子 と して も 、 神田 初江 を 騙して いた と いう 負い目 が ある 。 ほんとう||ほうこう|おんち||はじめて||ばしょ||いく|||にがてな|||あやこ||||しんでん|はつえ||だまして||||おいめ||

来い と 言わ れれば 、 断わる こと も でき なかった 。 こい||いわ||ことわる||||