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三姉妹探偵団 3 珠美・初恋篇, 三姉妹探偵団 3 Chapter 09

三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 09

9 カップル 誕生

「 そう か 」

と 、 父 は 肯 いた 。

「 申し訳 ありません 」 と 、 綾子 が 頭 を 垂れた まま 、 言った 。 「 謝って 済む と いう もの で は ない ぞ 。

分って いる んだろう な ? 父 の 言葉 は 厳しかった 。

「 はい 。

よく 分って います 」 綾子 は 、 うなだれて いた 。 「 お前 は 佐々 本家 の 長女 だ 。

と いう こと は 、 私 が 留守 の 間 は 、 お前 が 責任 を 持って 、 妹 二 人 の 面倒 を みて やら なくて は なら ん のだ 」

「 はい 」

「 ところが 、 珠美 が 誘拐 されて しまった 」 「 はい ……」 「 この 責任 は お前 に ある 。 分って いる だろう な 」 「 はい 」 と 、 綾子 は 肯 いて 、 言った 。 「 私 ──」

「 うむ 。

どう する つもりだ ? 「 死んで お 詫び を したい と 思います 」 「 よく 言った 」 と 、 父 は 肯 いた 。 「 覚悟 は できて いる か ? 「 はい 。

この 場 にて 切腹 して 果てる つもりで ございます 」

「 うむ 。

── やむ を 得 まい 。 では 、 みごと 切腹 して 、 己 れ の 落度 を 償え 」

「 はい 。

── で は 、 短刀 を お 貸し 下さい 」

「 うむ 。

ちょっと 今 、 短刀 が 品 切に なって おる 。 包丁 で は どう だ ? 「 でも 、 うち の 包丁 は 豆腐 も ろくに 切れません 」 「 お前 は 豆腐 か ? 「 いいえ 」

「 では 何とか しろ 」

「 そんな 無 茶 な !

お 父さん 、 冗談 も いい加減に して よ ! 「 どっち が 冗談 だ 。

珠美 が 誘拐 さ れた の は 、 お前 の せい だ ぞ 」

「 お 父さん が 年中 出張 で 家 を 留守 に する から いけない の よ !

お 父さん が いない と 、 ろくな こと が 起ら ない んだ から 」 「 お前 は 自分 の 責任 を 私 に 押し付けよう と いう の か ! 「 何 言って や がん だ 、 この ヘボ 親父 !

── まあ 、 私 、 何て 口 の きき 方 を して る の かしら !

綾子 は 、 自分 が 父親 に 向って 怒鳴って いる の を 見 ながら 、 思わず 顔 を 赤らめた 。 そして ── ふっと 目 を 開いた 。

「 夢 …… か あ 」

ソファ に 寝て いる のだった 。

何だか 部屋 は 薄暗くて 、 家 の 中 は 、 いやに 静かだ 。

ああ 、 やれやれ 、 と ため息 を つく 。

パッと 起き上る と 貧血 を 起す 恐れ が ある ので 、 しばらく 横 に なった まま 、 天井 を 眺めて いる 。

でも 、 変な 夢 を 見た もん だ わ 、 と 思った 。

父親 に あんな 口 を きく なんて 、 何 か 潜在 的に 反抗 したい と いう 欲求 が ある の かしら ? 「 変だ わ 」

と 、 綾子 は 呟いた 。

いや 、 父親 を 、「 ヘボ 親父 」 と 呼んだ こと を 言って いる ので は ない 。

どうして こんな 所 で 寝て いる のだろう 、 と いう 疑問 が 、 やっと 頭 に 浮んだ のである 。

それ に 何だか 後 頭部 が やけに 痛い 。

まるで 殴ら れ でも した か の ように ……。

あれ は ── まさか 、 あれ が 「 事実 」 だ なんて こと が ……。

珠美 が 本当に 誘拐 さ れた と したら ……。

突然 、 綾子 は はっきり と 思い出した 。

国友 刑事 が やって 来て いた とき 、 何だか 変な 女の子 が 訪ねて 来た 。

そして 、 珠美 が 誰 やら の 車 に 押し込められて 連れ 去ら れる の を 見た 、 と 言った のだ ……。 「 ああ 、 どう しよう !

ソファ に 起き上った 綾子 は 、 痛む 後 頭部 を さすり ながら 言った 。

── 話 を 聞いて 、 失神 し 、 倒れた 拍子 に 頭 を 打った のだ 。

呑気 に (?

) 気 を 失って なんか いられ ない わ 、 と 綾子 は 自分 へ 言い聞かせた 。 私 が しっかり し なきゃ ! 私 は 長女 な の よ 。 年上 で 、 年長な の よ ( 同じ こと だ が )。

「 夕 里子 !

どこ に いる の ? 綾子 は 、 声 を 上げて 呼んだ 。

「 珠美 ! ── は 、 いる わけ ない か 」

綾子 は 、 家中 を 捜し 回った 。

もちろん 、 たかが マンション の 一室 である 。 夕 里子 は もちろん 、 国友 の 姿 も 見え ない こと は 、 すぐに 分った 。 「 どこ 行っちゃった の かしら ! 珠美 が 誘拐 さ れたって いう のに 、 二 人 で きっと デート なんか して る んだ わ 。 呑気 なんだ から ! 姉 の 私 の 心痛 も 知ら ず に ──」

どうも 綾子 は 、 おとなしい ロマンチスト の 常 と して 、 多少 思い込み の 激しい ところ が ある 。

玄関 の チャイム が 鳴った 。

「 帰って 来た !

もう ! 勘弁 し ない から ね 」

綾子 は 、 腕 まくり し ながら 、 玄関 へ 出て 行った 。

ドア を パッと 開けて 、

「 今 まで 何 やって た の よ !

姉 の 威厳 を 示さ ん と 、 頭 の 天辺 から 突き抜ける ような 金切り声 を 上げて やった 。

が ── 目の前 に 立って いた の は 、 ヒョロリ と 背 は 高い が 、 やけに オドオド した 感じ の 男の子 であった 。

ドア が 開く なり 、 綾子 が かみつき そうな 顔 で 怒鳴った ので 、 男の子 の 方 は 仰天 して 飛び上った 。

「 す 、 すみません !

勘弁 して ! 「 あら ──」

綾子 も 、 人違い と 分って 、 相手 に 劣ら ず びっくり した 。 「 ごめんなさい 、 てっきり 妹 か と 思って ……」

「 は あ 」

男の子 は 、 胸 を 押えて ハアハア 喘いで いる 。

よっぽど 気 が 弱い らしい 。

よく 見る と 、 背 は 高い が 、 せいぜい 十五 、 六 歳 の 顔 を して いる 。

「 あの ── 何 か ご用 ?

と 、 綾子 は 、 打って変った 優しい 口調 で 言った 。

「 ええ と …… 僕 、 坂口 正明 と いいます 」 と 、 男の子 は 、 律 儀 に 名乗って 、「 ここ に 、 彼女 、 来ません でした ? 「 彼女 ?

── その 人 、 名前 ない の ? 「 いいえ 、 あります 」 「 彼女 、 じゃ 分 ら ない わ 」 「 すみません 」 よく 謝る 子 である 。 「 あの ── 杉下 ルミって いう んです 」 「 杉下 ……」 「 ここ に ── 国友って 刑事 が 来ません でした ? 「 国友 さん ?

ええ 、 来た わ よ 。 あなた 、 ちゃんと 年上 の 人 に は 『 さん 』 を つけ なさい よ 」

「 すみません 」

「 ああ 、 分った ! ── 国友 さん の こと を 、『 私 の 国友 さん 』って 呼んで た 変な 女の子 ね ? 「 そ 、 そうです 。

でも ── 変な 女の子 、 じゃ ありません 。 とても 可愛い んです 」

と 、 坂口 正明 は ふくれっつ ら に なった 。 「 そんな こと 関係ない でしょ !

私 も 会い たかった の 。 その子 ── ルミって 子 は 、 どこ に いる の ? 「 ここ に いる か と 思って 捜し に 来た んです 。

いま せんか ? 「 いりゃ 私 だって 訊 か ない わ よ 」

「 すみません 」

「 大変な こと に なって る の よ 。

妹 が 誘拐 されて 、 妹 が い なく なって ……。 妹 と 来たら 、 本当に 無鉄砲な んだ から ! 何だか わけ の 分 ら ない 様子 で 、 坂口 正明 は 目 を パチクリ さ せて いた 。

「 じゃ ── い なきゃ いい んです 」

ペコン と 頭 を 下げ 、「 失礼 しました 」 と 、 帰り かける の を 、 綾子 はぐ いと 腕 を つかんで 引き戻した 。 「 待って よ !

その ルミって 子 に 私 も 会わ なきゃ なら ない の 。 どこ に いる か 、 心当り ない の ? 綾子 の 剣幕 に 、 坂口 正明 は 少々 恐れ を なした 様子 で 、

「 あ 、 あの ── たぶん パーティ に ──」

「 パーティ ?

「 そ 、 そう な んです 。

すみません 」

「 謝ら なく たって い いわ よ 。

でも 、 ルミって 子 が パーティ に 行って る の は 確かな の ? 「 たぶん ……。

あの 国友 ── さんって 刑事 を 誘って 行く と 言って た んです 。 だから 、 僕 、 もしかしたら ここ へ 来た か と ──」

「 そう ……」

綾子 は 肯 いた 。

「 あなた 、 これ から その パーティ に 行く の ? 「 行きたい んです けど ……。 入れて くれ ない かも 」

「 どうして ?

綾子 は 、 坂口 正明 が やけに 大人っぽい 、 タキ シード など 着込んで いる のに 、 初めて 気付いた 。

今 まで は 、 そこ まで 頭 が 回ら なかった のである 。

「 カップル で ない と だめな んです 」

「 カッポレ ?

「 カップル です 。

女の子 同伴 で ない と 入れて くれ ない から ……」

綾子 は 、 ほんの 少し 迷った だけ で 、 言った 。

「 いい わ 」

「 え ?

「 私 が あなた と カップル に なる 。

それ で いい でしょ ? 坂口 正明 は 目 を 丸く した 。

「 あなた が ?

── でも 、『 女の子 』 で ない と だめな んだ けど なあ ……」

綾子 は 、 表情 を こわばら せた 。

「 私 が 『 女の子 』 で ないって いう の ? 男 に 見える ? 夕 里子 なら ともかく 、 自分 が 「 男 みたい 」 と 言わ れた こと の ない 綾子 に は 、 いささか ショック だった 。

「 いいえ 。

でも ……」

「 何 な の よ ?

はっきり 言って 」

「 ええ ……。

でも ……『 おばさん 』 で も いい の か なあ ……」

「 く 、 苦しい よ ……」

「 何 よ 、 男 でしょ 。

しっかり し なさい ! と 、 夕 里子 は 叱りつけた 。

「 そんな こと 言ったって ──」 と 、 ふてくされて いる の は 、 有田 勇一 である 。 「 男 は 、 ネクタイ ぐらい しめられ なきゃ 」 エイッ 、 と 締めて 、「 これ で いい や 」 勇一 は 目 を 白黒 さ せて いる 。 か の パーティ へ と 向 う 車 の 中 。

車 は 、 国友 の 車 で は ボロ すぎて ( 杉下 ルミ の 言葉 である ) 入れて くれ ない かも しれ ない と いう ので 、 ルミ の 家 の 自家 用 車 。 ベンツ で 、 かつ 運転 手つき である 。

「 しかし 、 全く 君 ら 姉妹 は 危 い こと が 好きだ なあ 」

と 、 国友 は 言った が 、 怒って いる と いう より 、 笑って いる の に 近かった 。

「 好きで やって る んじゃ ない わ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 俺 の せい で 、 悪い なあ 」

と 、 首 の まわり を 指 で ゆるめる べく 空しい 努力 を し つつ 、 勇一 が 言った 。

「 お前 が 丸山 を 殺して ない と して も 、 素直に 出頭 して 、 事情 話して て くれりゃ 、 こんな こと に は なら なかった んだ ぞ 」

と 、 国友 が 言った 。

「 そう よ 。

ねえ 、 私 の 国友 さん 」

助手 席 に 座った ルミ が 甘ったれた 声 を 出す 。

夕 里子 は ムッと した が 、 ここ は ルミ と いう 娘 の 協力 が ない と 、 どうにも なら ない 。 ぐっと こらえて 口 を つぐんで いた 。

夕 里子 は 、 パーティ なんて もの と は 無縁である 。

ドレス なんて もの は 、 小さい ころ の 、 お 人形 の 着て いた もの ぐらい しか 持って いない 。 従って 、 ここ は 目一杯 、 外出 用 の 一 番 上等な ワンピース を 着る こと に した 。

ただ 、 ちょっと 涼しかった 。

何しろ 、 今 は 冬 だ と いう のに 、 夏 の ワンピース な のだ から ……。

国友 は 、 ごく 当り前の 背広 姿 。

これ ばかり は 仕方ない 。 勇一 は 、 夕 里子 が 父 の 服 を 、 無理に 着せて しまった ので 、 チンチクリン で は ある が 、 まあ 品物 は 悪く ない 。

「 息 が 詰り そうだ 」

と 、 勇一 は ハアハア 舌 を 出して 言った 。

「 犬 みたい よ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 私 を エスコート する んだったら 、 もう 少し シャンと して て ! 「 分った よ 」 勇一 は 渋い 顔 で 言った 。 夕 里子 は 、 まだ 心 の 中 に 引っかかって いる 。

── 国友 の 話 が 、 である 。

珠美 が もしかしたら この 勇一 と ……。

珠美 が 、 何 を 好んで か 、 この 不良 じみ た少 年 に 恋して いる の は 分って いた が 、 二 人 の 仲 が どこ まで 進んで いる の か ── 国友 が 見た と いう ように 、 珠美 と この 勇一 が 、「 怪しい 仲 」 に なって いる の か ……。 珠美 に も 、 この 勇一 に も 、 訊 いて は みたい が 、 答え を 聞く の が 怖く も ある のである 。 下手 すりゃ 、 珠美 を 十六 ぐらい で 嫁 に 出す なんて こと に なり かね ない ……?

夕 里子 は 、 珠美 の 花嫁 姿 なんて の を 、 とても 想像 でき なかった ……。

「── で 、 パーティ は 、 何て ところ で やって る んだ ?

と 、 国友 が ルミ に 訊 いた 。

「 回り 持ち みたい よ 」 と 、 ルミ が 助手 席 から 答える 。 「 何 人 か 、 中心 に なる 大 金持 の 人 が いて 、 その 人 たち が 順番 で 、 屋敷 を 開放 する の 。 そこ の 中 や 外 で 、 夜っぴ て パーティ を 続ける の よ 」 「 へえ ……」 と 、 夕 里子 は 呆れて 、 言った 。 世の中 に ゃ 、 暇な 人間 が 多い もの な んだ わ 。

「 今回 は 、 小峰って 家 な の 」 と 、 ルミ が 言った 。 「 前 に も 私 、 行った こと ある けど 、 凄い 屋敷 よ 」

「 小峰 ?

「 そう 。

── 何 やって ん の かしら ね 、 ああいう 人って 。 私 の 家 なんか 、 せいぜい 敷地 が 千 坪 しか ない のに 、 あそこ は 三千 坪 以上 じゃ ない か なあ 」

「 せ 、 千 坪 ?

夕 里子 が 思わず 言った 。

── 確か 、 焼けちゃった 前 の 家 が 、 敷地 五十 坪 ……。 あまり 考え ない ように しよう 、 と 思った 。

負けちゃ い そうだ 。

「 小峰 か ……」

国友 が 考え込んだ 。

「 どこ か で 聞いた 名 だ な 」

「 そう だ わ !

千 坪 に 気 を 取られて いた 夕 里子 も 、 やっと 気付いた 。 「 珠美 が 言って た 。 殺さ れた 有田 信子 が ──」

夕 里子 が ハッと 口 を つぐんだ 。

勇一 が 眉 を ひそめて 、

「 お袋 が ?

お袋 が 何 だって ? 「 そう か 。

僕 も 思い出した 」

国友 が 肯 いた 。

「 おい 、 お前 は 知ら ない の か ? 「 何 を ?

「 小峰って 名 に 、 聞き 憶 え は ? 「 小峰 ?

知ら ない ぜ 」

と 、 勇一 は 言って 、「 何 だ よ 、 そ いつ ?

── 夕 里子 は 、 話した もの か 、 ちょっと 迷った 。

その 小峰 と いう 紳士 が 、 有田 信子 の 父親 ── つまり 、 勇一 の 祖父 に 当る 、 と いう こと な のだ が ……。

しかし 、 話 は 、 その先 まで 進ま なかった 。

ルミ が 呑気 な 声 を 上げた のである 。

「 ほら 見えた !

あの 塀 、 ずーっと 続いて る でしょ ? あそこ が 全部 小峰って 家 な の よ 」 ベンツ が 、 門 の 前 に 着く と 、 がっしり した 体格 の 男 が 二 人 、 車 の 方 へ やって 来た 。 「 失礼 します 。 パーティ へ ご 出席 で ? 「 ええ 」

と 、 ルミ が にこやかに 、「 はい 、 これ 、 招待 状 」

やたら 大判 の 封筒 を 出す と 、 相手 が ちょっと 敬礼 する ような 手つき を して 、

「 失礼 しました 。 中 へ 入られて ──」 「 分って る わ 。 駐車 場 は 左 ね 」

ルミ が 軽く 手 を 振る と 、 門 が サッと 開いた 。

ベンツ が 中 へ 乗り入れる 。

へえ 、 と 夕 里子 は 感心 した 。

── さすが に ルミ と いう 娘 、 こういう 場 で は 決って いる 。 駐車 場 と いって も 、 庭 の 一角 を 、 それ に あてて いる ようだった が 、 そこ だけ だって いい加減 広い 。

すでに 車 が 三十 台 以上 並んで いた 。

「 まだ 始まった と こね 」

と 、 ルミ が 外 へ 出て 言った 。

「 百 台 ぐらい すぐ 並ぶ んだ から 」

貸 駐車 場 なら 、 いくら に なる かしら 、 など と 、 夕 里子 は 珠美 みたいな こと を 考えて いた 。

「 じゃ 、 問題 の 車 を 捜して みよう 」

と 、 国友 が 言った 。

「 しかし 、 で かい 車 ばかり だ なあ 」

── ざっと 見て 回った が 、 それ らしい ビュイック は 見当ら ない 。

「 もう 少し 時間 が たったら 、 また 来て みる と いい わ 」

ルミ が そう 言って 、「 さ 、 私 の 国友 さん 。

── 行き ま しょ 」

「 分った よ 」 国友 が ため息 を つく 。 「 この 安物 の 背広 でも 大丈夫 か ね 」

「 そう ねえ 。

── 確かに 安物 ね 」

「 はっきり 言う な よ 」

「 そういう 当り前の 格好 、 却って 目 に つく の よ ね 。

── じゃ 、 こう しよう 」

ルミ は 、 国友 の 頭 に 手 を やる と 、 いきなり 髪 を くしゃくしゃに した 。

「 お 、 おい ──」

「 じっと して !

ルミ は 、 国友 の ネクタイ を ぐ いと ゆるめて 、 ワイシャツ の 一 番 上 の ボタン を 外した 。

それ から 、 ワイシャツ を ズボン から エイッ と 引 張り出して 、 外 へ 出した まま に して 、

「 うん !

これ で ナウ く なった ! と 、 肯 いた 。

「 おい ……。

これ じゃ 、 まるで 大 喧嘩 した 後 みたいじゃ ない か 」

「 いい の 。

それ なら パーティ 用 の スタイル に 見える の よ 」

「 シャツ を 出した まま に する の が ?

「 そこ が 若々しい んじゃ ない 。

だらしなく 着こなす の が 、 今 の 流行 。 さ 、 行き ま しょ 」

と 、 国友 の 腕 を 取って 、 言った 。

夕 里子 は 、 ポカン と して 、 それ を 眺めて いた が 、

「── さ 、 私 たち も 行く の よ 」

と 、 勇一 を 促した 。

「 どうした の ? 「 俺 ── いやだ ぜ 、 シャツ を 出して 行く の なんて 」

と 、 勇一 が 、 少々 恐れ を なした 様子 で 言った 。

「 私 だって 、 そんな の と 一緒に 行く の なんて ごめん よ !

夕 里子 は 、 勇一 の 腕 を ぐ い と つかんで 、

「 早く いらっしゃい !

と 、 叱りつける ように 言った 。


三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 09 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 3 Chapter 09

9 カップル 誕生 かっぷる|たんじょう

「 そう か 」

と 、 父 は 肯 いた 。 |ちち||こう|

「 申し訳 ありません 」 と 、 綾子 が 頭 を 垂れた まま 、 言った 。 もうしわけ|あり ませ ん||あやこ||あたま||しだれた||いった 「 謝って 済む と いう もの で は ない ぞ 。 あやまって|すむ|||||||

分って いる んだろう な ? ぶん って||| 父 の 言葉 は 厳しかった 。 ちち||ことば||きびしかった

「 はい 。

よく 分って います 」 綾子 は 、 うなだれて いた 。 |ぶん って|い ます|あやこ||| 「 お前 は 佐々 本家 の 長女 だ 。 おまえ||ささ|ほんけ||ちょうじょ|

と いう こと は 、 私 が 留守 の 間 は 、 お前 が 責任 を 持って 、 妹 二 人 の 面倒 を みて やら なくて は なら ん のだ 」 ||||わたくし||るす||あいだ||おまえ||せきにん||もって|いもうと|ふた|じん||めんどう||||||||

「 はい 」

「 ところが 、 珠美 が 誘拐 されて しまった 」 「 はい ……」 「 この 責任 は お前 に ある 。 |たまみ||ゆうかい|さ れて||||せきにん||おまえ|| 分って いる だろう な 」 「 はい 」 と 、 綾子 は 肯 いて 、 言った 。 ぶん って||||||あやこ||こう||いった 「 私 ──」 わたくし

「 うむ 。

どう する つもりだ ? 「 死んで お 詫び を したい と 思います 」 「 よく 言った 」 と 、 父 は 肯 いた 。 しんで||わび||し たい||おもい ます||いった||ちち||こう| 「 覚悟 は できて いる か ? かくご|||| 「 はい 。

この 場 にて 切腹 して 果てる つもりで ございます 」 |じょう||せっぷく||はてる||

「 うむ 。

── やむ を 得 まい 。 ||とく| では 、 みごと 切腹 して 、 己 れ の 落度 を 償え 」 ||せっぷく||おのれ|||おちど||つぐなえ

「 はい 。

── で は 、 短刀 を お 貸し 下さい 」 ||たんとう|||かし|ください

「 うむ 。

ちょっと 今 、 短刀 が 品 切に なって おる 。 |いま|たんとう||しな|せつに|| 包丁 で は どう だ ? ほうちょう|||| 「 でも 、 うち の 包丁 は 豆腐 も ろくに 切れません 」 「 お前 は 豆腐 か ? |||ほうちょう||とうふ|||きれ ませ ん|おまえ||とうふ| 「 いいえ 」

「 では 何とか しろ 」 |なんとか|

「 そんな 無 茶 な ! |む|ちゃ|

お 父さん 、 冗談 も いい加減に して よ ! |とうさん|じょうだん||いいかげんに|| 「 どっち が 冗談 だ 。 ||じょうだん|

珠美 が 誘拐 さ れた の は 、 お前 の せい だ ぞ 」 たまみ||ゆうかい|||||おまえ||||

「 お 父さん が 年中 出張 で 家 を 留守 に する から いけない の よ ! |とうさん||ねんじゅう|しゅっちょう||いえ||るす||||||

お 父さん が いない と 、 ろくな こと が 起ら ない んだ から 」 「 お前 は 自分 の 責任 を 私 に 押し付けよう と いう の か ! |とうさん|||||||おこら||||おまえ||じぶん||せきにん||わたくし||おしつけよう|||| 「 何 言って や がん だ 、 この ヘボ 親父 ! なん|いって||||||おやじ

── まあ 、 私 、 何て 口 の きき 方 を して る の かしら ! |わたくし|なんて|くち|||かた|||||

綾子 は 、 自分 が 父親 に 向って 怒鳴って いる の を 見 ながら 、 思わず 顔 を 赤らめた 。 あやこ||じぶん||ちちおや||むかい って|どなって||||み||おもわず|かお||あからめた そして ── ふっと 目 を 開いた 。 ||め||あいた

「 夢 …… か あ 」 ゆめ||

ソファ に 寝て いる のだった 。 ||ねて||

何だか 部屋 は 薄暗くて 、 家 の 中 は 、 いやに 静かだ 。 なんだか|へや||うすぐらくて|いえ||なか|||しずかだ

ああ 、 やれやれ 、 と ため息 を つく 。 |||ためいき||

パッと 起き上る と 貧血 を 起す 恐れ が ある ので 、 しばらく 横 に なった まま 、 天井 を 眺めて いる 。 ぱっと|おきあがる||ひんけつ||おこす|おそれ|||||よこ||||てんじょう||ながめて|

でも 、 変な 夢 を 見た もん だ わ 、 と 思った 。 |へんな|ゆめ||みた|||||おもった

父親 に あんな 口 を きく なんて 、 何 か 潜在 的に 反抗 したい と いう 欲求 が ある の かしら ? ちちおや|||くち||||なん||せんざい|てきに|はんこう|し たい|||よっきゅう|||| 「 変だ わ 」 へんだ|

と 、 綾子 は 呟いた 。 |あやこ||つぶやいた

いや 、 父親 を 、「 ヘボ 親父 」 と 呼んだ こと を 言って いる ので は ない 。 |ちちおや|||おやじ||よんだ|||いって||||

どうして こんな 所 で 寝て いる のだろう 、 と いう 疑問 が 、 やっと 頭 に 浮んだ のである 。 ||しょ||ねて|||||ぎもん|||あたま||うかんだ|

それ に 何だか 後 頭部 が やけに 痛い 。 ||なんだか|あと|とうぶ|||いたい

まるで 殴ら れ でも した か の ように ……。 |なぐら||||||

あれ は ── まさか 、 あれ が 「 事実 」 だ なんて こと が ……。 |||||じじつ||||

珠美 が 本当に 誘拐 さ れた と したら ……。 たまみ||ほんとうに|ゆうかい||||

突然 、 綾子 は はっきり と 思い出した 。 とつぜん|あやこ||||おもいだした

国友 刑事 が やって 来て いた とき 、 何だか 変な 女の子 が 訪ねて 来た 。 くにとも|けいじ|||きて|||なんだか|へんな|おんなのこ||たずねて|きた

そして 、 珠美 が 誰 やら の 車 に 押し込められて 連れ 去ら れる の を 見た 、 と 言った のだ ……。 |たまみ||だれ|||くるま||おしこめ られて|つれ|さら||||みた||いった| 「 ああ 、 どう しよう !

ソファ に 起き上った 綾子 は 、 痛む 後 頭部 を さすり ながら 言った 。 ||おきあがった|あやこ||いたむ|あと|とうぶ||||いった

── 話 を 聞いて 、 失神 し 、 倒れた 拍子 に 頭 を 打った のだ 。 はなし||きいて|しっしん||たおれた|ひょうし||あたま||うった|

呑気 に (? のんき|

) 気 を 失って なんか いられ ない わ 、 と 綾子 は 自分 へ 言い聞かせた 。 き||うしなって||いら れ||||あやこ||じぶん||いいきかせた 私 が しっかり し なきゃ ! わたくし|||| 私 は 長女 な の よ 。 わたくし||ちょうじょ||| 年上 で 、 年長な の よ ( 同じ こと だ が )。 としうえ||ねんちょうな|||おなじ|||

「 夕 里子 ! ゆう|さとご

どこ に いる の ? 綾子 は 、 声 を 上げて 呼んだ 。 あやこ||こえ||あげて|よんだ

「 珠美 ! たまみ ── は 、 いる わけ ない か 」

綾子 は 、 家中 を 捜し 回った 。 あやこ||うちじゅう||さがし|まわった

もちろん 、 たかが マンション の 一室 である 。 ||まんしょん||いっしつ| 夕 里子 は もちろん 、 国友 の 姿 も 見え ない こと は 、 すぐに 分った 。 ゆう|さとご|||くにとも||すがた||みえ|||||ぶん った 「 どこ 行っちゃった の かしら ! |おこなっちゃ った|| 珠美 が 誘拐 さ れたって いう のに 、 二 人 で きっと デート なんか して る んだ わ 。 たまみ||ゆうかい||れた って|||ふた|じん|||でーと||||| 呑気 なんだ から ! のんき|| 姉 の 私 の 心痛 も 知ら ず に ──」 あね||わたくし||しんつう||しら||

どうも 綾子 は 、 おとなしい ロマンチスト の 常 と して 、 多少 思い込み の 激しい ところ が ある 。 |あやこ|||||とわ|||たしょう|おもいこみ||はげしい|||

玄関 の チャイム が 鳴った 。 げんかん||ちゃいむ||なった

「 帰って 来た ! かえって|きた

もう ! 勘弁 し ない から ね 」 かんべん||||

綾子 は 、 腕 まくり し ながら 、 玄関 へ 出て 行った 。 あやこ||うで||||げんかん||でて|おこなった

ドア を パッと 開けて 、 どあ||ぱっと|あけて

「 今 まで 何 やって た の よ ! いま||なん||||

姉 の 威厳 を 示さ ん と 、 頭 の 天辺 から 突き抜ける ような 金切り声 を 上げて やった 。 あね||いげん||しめさ|||あたま||てっぺん||つきぬける||かなきりごえ||あげて|

が ── 目の前 に 立って いた の は 、 ヒョロリ と 背 は 高い が 、 やけに オドオド した 感じ の 男の子 であった 。 |めのまえ||たって||||||せ||たかい|||||かんじ||おとこのこ|

ドア が 開く なり 、 綾子 が かみつき そうな 顔 で 怒鳴った ので 、 男の子 の 方 は 仰天 して 飛び上った 。 どあ||あく||あやこ|||そう な|かお||どなった||おとこのこ||かた||ぎょうてん||とびあがった

「 す 、 すみません !

勘弁 して ! かんべん| 「 あら ──」

綾子 も 、 人違い と 分って 、 相手 に 劣ら ず びっくり した 。 あやこ||ひとちがい||ぶん って|あいて||おとら||| 「 ごめんなさい 、 てっきり 妹 か と 思って ……」 ||いもうと|||おもって

「 は あ 」

男の子 は 、 胸 を 押えて ハアハア 喘いで いる 。 おとこのこ||むね||おさえて|はあはあ|あえいで|

よっぽど 気 が 弱い らしい 。 |き||よわい|

よく 見る と 、 背 は 高い が 、 せいぜい 十五 、 六 歳 の 顔 を して いる 。 |みる||せ||たかい|||じゅうご|むっ|さい||かお|||

「 あの ── 何 か ご用 ? |なん||ごよう

と 、 綾子 は 、 打って変った 優しい 口調 で 言った 。 |あやこ||うってかわった|やさしい|くちょう||いった

「 ええ と …… 僕 、 坂口 正明 と いいます 」 と 、 男の子 は 、 律 儀 に 名乗って 、「 ここ に 、 彼女 、 来ません でした ? ||ぼく|さかぐち|まさあき||いい ます||おとこのこ||りつ|ぎ||なのって|||かのじょ|き ませ ん| 「 彼女 ? かのじょ

── その 人 、 名前 ない の ? |じん|なまえ|| 「 いいえ 、 あります 」 「 彼女 、 じゃ 分 ら ない わ 」 「 すみません 」 よく 謝る 子 である 。 |あり ます|かのじょ||ぶん||||||あやまる|こ| 「 あの ── 杉下 ルミって いう んです 」 「 杉下 ……」 「 ここ に ── 国友って 刑事 が 来ません でした ? |すぎした|るみ って|||すぎした|||くにとも って|けいじ||き ませ ん| 「 国友 さん ? くにとも|

ええ 、 来た わ よ 。 |きた|| あなた 、 ちゃんと 年上 の 人 に は 『 さん 』 を つけ なさい よ 」 ||としうえ||じん|||||||

「 すみません 」

「 ああ 、 分った ! |ぶん った ── 国友 さん の こと を 、『 私 の 国友 さん 』って 呼んで た 変な 女の子 ね ? くにとも|||||わたくし||くにとも|||よんで||へんな|おんなのこ| 「 そ 、 そうです 。 |そう です

でも ── 変な 女の子 、 じゃ ありません 。 |へんな|おんなのこ||あり ませ ん とても 可愛い んです 」 |かわいい|

と 、 坂口 正明 は ふくれっつ ら に なった 。 |さかぐち|まさあき||ふくれ っつ||| 「 そんな こと 関係ない でしょ ! ||かんけいない|

私 も 会い たかった の 。 わたくし||あい|| その子 ── ルミって 子 は 、 どこ に いる の ? その こ|るみ って|こ||||| 「 ここ に いる か と 思って 捜し に 来た んです 。 |||||おもって|さがし||きた|

いま せんか ? 「 いりゃ 私 だって 訊 か ない わ よ 」 |わたくし||じん||||

「 すみません 」

「 大変な こと に なって る の よ 。 たいへんな||||||

妹 が 誘拐 されて 、 妹 が い なく なって ……。 いもうと||ゆうかい|さ れて|いもうと|||| 妹 と 来たら 、 本当に 無鉄砲な んだ から ! いもうと||きたら|ほんとうに|むてっぽうな|| 何だか わけ の 分 ら ない 様子 で 、 坂口 正明 は 目 を パチクリ さ せて いた 。 なんだか|||ぶん|||ようす||さかぐち|まさあき||め|||||

「 じゃ ── い なきゃ いい んです 」

ペコン と 頭 を 下げ 、「 失礼 しました 」 と 、 帰り かける の を 、 綾子 はぐ いと 腕 を つかんで 引き戻した 。 ||あたま||さげ|しつれい|し ました||かえり||||あやこ|||うで|||ひきもどした 「 待って よ ! まって|

その ルミって 子 に 私 も 会わ なきゃ なら ない の 。 |るみ って|こ||わたくし||あわ|||| どこ に いる か 、 心当り ない の ? ||||こころあたり|| 綾子 の 剣幕 に 、 坂口 正明 は 少々 恐れ を なした 様子 で 、 あやこ||けんまく||さかぐち|まさあき||しょうしょう|おそれ|||ようす|

「 あ 、 あの ── たぶん パーティ に ──」 |||ぱーてぃ|

「 パーティ ? ぱーてぃ

「 そ 、 そう な んです 。

すみません 」

「 謝ら なく たって い いわ よ 。 あやまら|||||

でも 、 ルミって 子 が パーティ に 行って る の は 確かな の ? |るみ って|こ||ぱーてぃ||おこなって||||たしかな| 「 たぶん ……。

あの 国友 ── さんって 刑事 を 誘って 行く と 言って た んです 。 |くにとも|さん って|けいじ||さそって|いく||いって|| だから 、 僕 、 もしかしたら ここ へ 来た か と ──」 |ぼく||||きた||

「 そう ……」

綾子 は 肯 いた 。 あやこ||こう|

「 あなた 、 これ から その パーティ に 行く の ? ||||ぱーてぃ||いく| 「 行きたい んです けど ……。 いき たい|| 入れて くれ ない かも 」 いれて|||

「 どうして ?

綾子 は 、 坂口 正明 が やけに 大人っぽい 、 タキ シード など 着込んで いる のに 、 初めて 気付いた 。 あやこ||さかぐち|まさあき|||おとなっぽい|たき|しーど||きこんで|||はじめて|きづいた

今 まで は 、 そこ まで 頭 が 回ら なかった のである 。 いま|||||あたま||まわら||

「 カップル で ない と だめな んです 」 かっぷる|||||

「 カッポレ ?

「 カップル です 。 かっぷる|

女の子 同伴 で ない と 入れて くれ ない から ……」 おんなのこ|どうはん||||いれて|||

綾子 は 、 ほんの 少し 迷った だけ で 、 言った 。 あやこ|||すこし|まよった|||いった

「 いい わ 」

「 え ?

「 私 が あなた と カップル に なる 。 わたくし||||かっぷる||

それ で いい でしょ ? 坂口 正明 は 目 を 丸く した 。 さかぐち|まさあき||め||まるく|

「 あなた が ?

── でも 、『 女の子 』 で ない と だめな んだ けど なあ ……」 |おんなのこ|||||||

綾子 は 、 表情 を こわばら せた 。 あやこ||ひょうじょう|||

「 私 が 『 女の子 』 で ないって いう の ? わたくし||おんなのこ||ない って|| 男 に 見える ? おとこ||みえる 夕 里子 なら ともかく 、 自分 が 「 男 みたい 」 と 言わ れた こと の ない 綾子 に は 、 いささか ショック だった 。 ゆう|さとご|||じぶん||おとこ|||いわ|||||あやこ||||しょっく|

「 いいえ 。

でも ……」

「 何 な の よ ? なん|||

はっきり 言って 」 |いって

「 ええ ……。

でも ……『 おばさん 』 で も いい の か なあ ……」

「 く 、 苦しい よ ……」 |くるしい|

「 何 よ 、 男 でしょ 。 なん||おとこ|

しっかり し なさい ! と 、 夕 里子 は 叱りつけた 。 |ゆう|さとご||しかりつけた

「 そんな こと 言ったって ──」 と 、 ふてくされて いる の は 、 有田 勇一 である 。 ||いった って||||||ありた|ゆういち| 「 男 は 、 ネクタイ ぐらい しめられ なきゃ 」 エイッ 、 と 締めて 、「 これ で いい や 」 勇一 は 目 を 白黒 さ せて いる 。 おとこ||ねくたい||しめら れ||||しめて|||||ゆういち||め||しろくろ||| か の パーティ へ と 向 う 車 の 中 。 ||ぱーてぃ|||むかい||くるま||なか

車 は 、 国友 の 車 で は ボロ すぎて ( 杉下 ルミ の 言葉 である ) 入れて くれ ない かも しれ ない と いう ので 、 ルミ の 家 の 自家 用 車 。 くるま||くにとも||くるま|||||すぎした|るみ||ことば||いれて|||||||||るみ||いえ||じか|よう|くるま ベンツ で 、 かつ 運転 手つき である 。 |||うんてん|てつき|

「 しかし 、 全く 君 ら 姉妹 は 危 い こと が 好きだ なあ 」 |まったく|きみ||しまい||き||||すきだ|

と 、 国友 は 言った が 、 怒って いる と いう より 、 笑って いる の に 近かった 。 |くにとも||いった||いかって|||||わらって||||ちかかった

「 好きで やって る んじゃ ない わ 」 すきで|||||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 俺 の せい で 、 悪い なあ 」 おれ||||わるい|

と 、 首 の まわり を 指 で ゆるめる べく 空しい 努力 を し つつ 、 勇一 が 言った 。 |くび||||ゆび||||むなしい|どりょく||||ゆういち||いった

「 お前 が 丸山 を 殺して ない と して も 、 素直に 出頭 して 、 事情 話して て くれりゃ 、 こんな こと に は なら なかった んだ ぞ 」 おまえ||まるやま||ころして|||||すなおに|しゅっとう||じじょう|はなして||||||||||

と 、 国友 が 言った 。 |くにとも||いった

「 そう よ 。

ねえ 、 私 の 国友 さん 」 |わたくし||くにとも|

助手 席 に 座った ルミ が 甘ったれた 声 を 出す 。 じょしゅ|せき||すわった|るみ||あまったれた|こえ||だす

夕 里子 は ムッと した が 、 ここ は ルミ と いう 娘 の 協力 が ない と 、 どうにも なら ない 。 ゆう|さとご||むっと|||||るみ|||むすめ||きょうりょく|||||| ぐっと こらえて 口 を つぐんで いた 。 ||くち|||

夕 里子 は 、 パーティ なんて もの と は 無縁である 。 ゆう|さとご||ぱーてぃ|||||むえんである

ドレス なんて もの は 、 小さい ころ の 、 お 人形 の 着て いた もの ぐらい しか 持って いない 。 どれす||||ちいさい||||にんぎょう||きて|||||もって| 従って 、 ここ は 目一杯 、 外出 用 の 一 番 上等な ワンピース を 着る こと に した 。 したがって|||めいっぱい|がいしゅつ|よう||ひと|ばん|じょうとうな|わんぴーす||きる|||

ただ 、 ちょっと 涼しかった 。 ||すずしかった

何しろ 、 今 は 冬 だ と いう のに 、 夏 の ワンピース な のだ から ……。 なにしろ|いま||ふゆ|||||なつ||わんぴーす|||

国友 は 、 ごく 当り前の 背広 姿 。 くにとも|||あたりまえの|せびろ|すがた

これ ばかり は 仕方ない 。 |||しかたない 勇一 は 、 夕 里子 が 父 の 服 を 、 無理に 着せて しまった ので 、 チンチクリン で は ある が 、 まあ 品物 は 悪く ない 。 ゆういち||ゆう|さとご||ちち||ふく||むりに|きせて|||||||||しなもの||わるく|

「 息 が 詰り そうだ 」 いき||なじり|そう だ

と 、 勇一 は ハアハア 舌 を 出して 言った 。 |ゆういち||はあはあ|した||だして|いった

「 犬 みたい よ 」 いぬ||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 私 を エスコート する んだったら 、 もう 少し シャンと して て ! わたくし||||||すこし|しゃんと|| 「 分った よ 」 勇一 は 渋い 顔 で 言った 。 ぶん った||ゆういち||しぶい|かお||いった 夕 里子 は 、 まだ 心 の 中 に 引っかかって いる 。 ゆう|さとご|||こころ||なか||ひっかかって|

── 国友 の 話 が 、 である 。 くにとも||はなし||

珠美 が もしかしたら この 勇一 と ……。 たまみ||||ゆういち|

珠美 が 、 何 を 好んで か 、 この 不良 じみ た少 年 に 恋して いる の は 分って いた が 、 二 人 の 仲 が どこ まで 進んで いる の か ── 国友 が 見た と いう ように 、 珠美 と この 勇一 が 、「 怪しい 仲 」 に なって いる の か ……。 たまみ||なん||このんで|||ふりょう||たしょう|とし||こいして||||ぶん って|||ふた|じん||なか||||すすんで||||くにとも||みた||||たまみ|||ゆういち||あやしい|なか||||| 珠美 に も 、 この 勇一 に も 、 訊 いて は みたい が 、 答え を 聞く の が 怖く も ある のである 。 たまみ||||ゆういち|||じん|||||こたえ||きく|||こわく||| 下手 すりゃ 、 珠美 を 十六 ぐらい で 嫁 に 出す なんて こと に なり かね ない ……? へた||たまみ||じゅうろく|||よめ||だす||||||

夕 里子 は 、 珠美 の 花嫁 姿 なんて の を 、 とても 想像 でき なかった ……。 ゆう|さとご||たまみ||はなよめ|すがた|||||そうぞう||

「── で 、 パーティ は 、 何て ところ で やって る んだ ? |ぱーてぃ||なんて|||||

と 、 国友 が ルミ に 訊 いた 。 |くにとも||るみ||じん|

「 回り 持ち みたい よ 」 と 、 ルミ が 助手 席 から 答える 。 まわり|もち||||るみ||じょしゅ|せき||こたえる 「 何 人 か 、 中心 に なる 大 金持 の 人 が いて 、 その 人 たち が 順番 で 、 屋敷 を 開放 する の 。 なん|じん||ちゅうしん|||だい|かねもち||じん||||じん|||じゅんばん||やしき||かいほう|| そこ の 中 や 外 で 、 夜っぴ て パーティ を 続ける の よ 」 「 へえ ……」 と 、 夕 里子 は 呆れて 、 言った 。 ||なか||がい||よ っぴ||ぱーてぃ||つづける|||||ゆう|さとご||あきれて|いった 世の中 に ゃ 、 暇な 人間 が 多い もの な んだ わ 。 よのなか|||ひまな|にんげん||おおい||||

「 今回 は 、 小峰って 家 な の 」 と 、 ルミ が 言った 。 こんかい||こみね って|いえ||||るみ||いった 「 前 に も 私 、 行った こと ある けど 、 凄い 屋敷 よ 」 ぜん|||わたくし|おこなった||||すごい|やしき|

「 小峰 ? こみね

「 そう 。

── 何 やって ん の かしら ね 、 ああいう 人って 。 なん|||||||じん って 私 の 家 なんか 、 せいぜい 敷地 が 千 坪 しか ない のに 、 あそこ は 三千 坪 以上 じゃ ない か なあ 」 わたくし||いえ|||しきち||せん|つぼ||||||さんせん|つぼ|いじょう||||

「 せ 、 千 坪 ? |せん|つぼ

夕 里子 が 思わず 言った 。 ゆう|さとご||おもわず|いった

── 確か 、 焼けちゃった 前 の 家 が 、 敷地 五十 坪 ……。 たしか|やけちゃ った|ぜん||いえ||しきち|ごじゅう|つぼ あまり 考え ない ように しよう 、 と 思った 。 |かんがえ|||||おもった

負けちゃ い そうだ 。 まけちゃ||そう だ

「 小峰 か ……」 こみね|

国友 が 考え込んだ 。 くにとも||かんがえこんだ

「 どこ か で 聞いた 名 だ な 」 |||きいた|な||

「 そう だ わ !

千 坪 に 気 を 取られて いた 夕 里子 も 、 やっと 気付いた 。 せん|つぼ||き||とら れて||ゆう|さとご|||きづいた 「 珠美 が 言って た 。 たまみ||いって| 殺さ れた 有田 信子 が ──」 ころさ||ありた|のぶこ|

夕 里子 が ハッと 口 を つぐんだ 。 ゆう|さとご||はっと|くち||

勇一 が 眉 を ひそめて 、 ゆういち||まゆ||

「 お袋 が ? おふくろ|

お袋 が 何 だって ? おふくろ||なん| 「 そう か 。

僕 も 思い出した 」 ぼく||おもいだした

国友 が 肯 いた 。 くにとも||こう|

「 おい 、 お前 は 知ら ない の か ? |おまえ||しら||| 「 何 を ? なん|

「 小峰って 名 に 、 聞き 憶 え は ? こみね って|な||きき|おく|| 「 小峰 ? こみね

知ら ない ぜ 」 しら||

と 、 勇一 は 言って 、「 何 だ よ 、 そ いつ ? |ゆういち||いって|なん||||

── 夕 里子 は 、 話した もの か 、 ちょっと 迷った 。 ゆう|さとご||はなした||||まよった

その 小峰 と いう 紳士 が 、 有田 信子 の 父親 ── つまり 、 勇一 の 祖父 に 当る 、 と いう こと な のだ が ……。 |こみね|||しんし||ありた|のぶこ||ちちおや||ゆういち||そふ||あたる||||||

しかし 、 話 は 、 その先 まで 進ま なかった 。 |はなし||そのさき||すすま|

ルミ が 呑気 な 声 を 上げた のである 。 るみ||のんき||こえ||あげた|

「 ほら 見えた ! |みえた

あの 塀 、 ずーっと 続いて る でしょ ? |へい||つづいて|| あそこ が 全部 小峰って 家 な の よ 」 ベンツ が 、 門 の 前 に 着く と 、 がっしり した 体格 の 男 が 二 人 、 車 の 方 へ やって 来た 。 ||ぜんぶ|こみね って|いえ||||||もん||ぜん||つく||||たいかく||おとこ||ふた|じん|くるま||かた|||きた 「 失礼 します 。 しつれい|し ます パーティ へ ご 出席 で ? ぱーてぃ|||しゅっせき| 「 ええ 」

と 、 ルミ が にこやかに 、「 はい 、 これ 、 招待 状 」 |るみ|||||しょうたい|じょう

やたら 大判 の 封筒 を 出す と 、 相手 が ちょっと 敬礼 する ような 手つき を して 、 |おおばん||ふうとう||だす||あいて|||けいれい|||てつき||

「 失礼 しました 。 しつれい|し ました 中 へ 入られて ──」 「 分って る わ 。 なか||はいら れて|ぶん って|| 駐車 場 は 左 ね 」 ちゅうしゃ|じょう||ひだり|

ルミ が 軽く 手 を 振る と 、 門 が サッと 開いた 。 るみ||かるく|て||ふる||もん||さっと|あいた

ベンツ が 中 へ 乗り入れる 。 ||なか||のりいれる

へえ 、 と 夕 里子 は 感心 した 。 ||ゆう|さとご||かんしん|

── さすが に ルミ と いう 娘 、 こういう 場 で は 決って いる 。 ||るみ|||むすめ||じょう|||けっ って| 駐車 場 と いって も 、 庭 の 一角 を 、 それ に あてて いる ようだった が 、 そこ だけ だって いい加減 広い 。 ちゅうしゃ|じょう||||にわ||いっかく|||||||||||いいかげん|ひろい

すでに 車 が 三十 台 以上 並んで いた 。 |くるま||さんじゅう|だい|いじょう|ならんで|

「 まだ 始まった と こね 」 |はじまった||

と 、 ルミ が 外 へ 出て 言った 。 |るみ||がい||でて|いった

「 百 台 ぐらい すぐ 並ぶ んだ から 」 ひゃく|だい|||ならぶ||

貸 駐車 場 なら 、 いくら に なる かしら 、 など と 、 夕 里子 は 珠美 みたいな こと を 考えて いた 。 かし|ちゅうしゃ|じょう||||||||ゆう|さとご||たまみ||||かんがえて|

「 じゃ 、 問題 の 車 を 捜して みよう 」 |もんだい||くるま||さがして|

と 、 国友 が 言った 。 |くにとも||いった

「 しかし 、 で かい 車 ばかり だ なあ 」 |||くるま|||

── ざっと 見て 回った が 、 それ らしい ビュイック は 見当ら ない 。 |みて|まわった||||||みあたら|

「 もう 少し 時間 が たったら 、 また 来て みる と いい わ 」 |すこし|じかん||||きて||||

ルミ が そう 言って 、「 さ 、 私 の 国友 さん 。 るみ|||いって||わたくし||くにとも|

── 行き ま しょ 」 いき||

「 分った よ 」 国友 が ため息 を つく 。 ぶん った||くにとも||ためいき|| 「 この 安物 の 背広 でも 大丈夫 か ね 」 |やすもの||せびろ||だいじょうぶ||

「 そう ねえ 。

── 確かに 安物 ね 」 たしかに|やすもの|

「 はっきり 言う な よ 」 |いう||

「 そういう 当り前の 格好 、 却って 目 に つく の よ ね 。 |あたりまえの|かっこう|かえって|め|||||

── じゃ 、 こう しよう 」

ルミ は 、 国友 の 頭 に 手 を やる と 、 いきなり 髪 を くしゃくしゃに した 。 るみ||くにとも||あたま||て|||||かみ|||

「 お 、 おい ──」

「 じっと して !

ルミ は 、 国友 の ネクタイ を ぐ いと ゆるめて 、 ワイシャツ の 一 番 上 の ボタン を 外した 。 るみ||くにとも||ねくたい|||||わいしゃつ||ひと|ばん|うえ||ぼたん||はずした

それ から 、 ワイシャツ を ズボン から エイッ と 引 張り出して 、 外 へ 出した まま に して 、 ||わいしゃつ||ずぼん||||ひ|はりだして|がい||だした|||

「 うん !

これ で ナウ く なった ! と 、 肯 いた 。 |こう|

「 おい ……。

これ じゃ 、 まるで 大 喧嘩 した 後 みたいじゃ ない か 」 |||だい|けんか||あと|||

「 いい の 。

それ なら パーティ 用 の スタイル に 見える の よ 」 ||ぱーてぃ|よう||すたいる||みえる||

「 シャツ を 出した まま に する の が ? しゃつ||だした|||||

「 そこ が 若々しい んじゃ ない 。 ||わかわかしい||

だらしなく 着こなす の が 、 今 の 流行 。 |きこなす|||いま||りゅうこう さ 、 行き ま しょ 」 |いき||

と 、 国友 の 腕 を 取って 、 言った 。 |くにとも||うで||とって|いった

夕 里子 は 、 ポカン と して 、 それ を 眺めて いた が 、 ゆう|さとご|||||||ながめて||

「── さ 、 私 たち も 行く の よ 」 |わたくし|||いく||

と 、 勇一 を 促した 。 |ゆういち||うながした

「 どうした の ? 「 俺 ── いやだ ぜ 、 シャツ を 出して 行く の なんて 」 おれ|||しゃつ||だして|いく||

と 、 勇一 が 、 少々 恐れ を なした 様子 で 言った 。 |ゆういち||しょうしょう|おそれ|||ようす||いった

「 私 だって 、 そんな の と 一緒に 行く の なんて ごめん よ ! わたくし|||||いっしょに|いく||||

夕 里子 は 、 勇一 の 腕 を ぐ い と つかんで 、 ゆう|さとご||ゆういち||うで|||||

「 早く いらっしゃい ! はやく|

と 、 叱りつける ように 言った 。 |しかりつける||いった