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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 11

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 11

11 地下 道

ズブッ 。

「 ワッ !

と 、 敦子 が 思わず 声 を 上げる 。

「 静かに 」

と 、 珠美 が 振り向いて 、 にらんだ 。

「 ご 、 ごめんなさい 」

雪 に 足 を 取ら れた 敦子 は 、 あわてて 謝った 。

二 人 は 、 そっと 、 裏庭 へ 出る ドア を 開け 、 外 へ 踏み出した ところ だった 。

── そろそろ 、 陽 は 傾き かけて いる 。

さっき 、 ここ へ 出て 、 金田 と しゃべったり して いた 敦子 も 、 ぐっと 気温 が 下って 、 顔 が こわばり そうに なる 寒 さ に 、 ちょっと びっくり した 。

「 ちゃんと ドア 閉めて 。

── 足跡 を 逆に 辿 る の よ 」

と 、 珠美 は 言った 。

もちろん 、 まだ 暗く なって いる わけで は ない 。

しかし 、 青空 が 広がり 、 雪 は 白く 光って いて も 、 もう目に まぶしい と いう こと が なくなって いる 。

それ だけ 陽 が 弱まり 、 夜 が ひそやかに 忍び寄って いる のだろう 。

こう なる と 暗く なる の も 早い 。

特に 、 山 の 中 である 。 山 の 陰 に なる 辺り で は 、 早くも 、 黒い 影 が 、 巨大な 手のひら の ように 広がり 始めて いた 。

珠美 は 、 さっき 石垣 園子 と 秀 哉 が 戻って 来た 足跡 を 、 逆に 辿 って いた 。

見分ける の は 至って 簡単 。 ともかく 、 二 人 の 足跡 は 、 途中 から 大きく わき へ それて 、 少し 高く なった 岩 の 辺り へ と 向 って いる のである 。

岩 と いって も 、 そう 大きく は ない 。

崖 の 頂上 が 、 そこ だけ 少し 盛り上って いる 、 と いう 格好 で 、 雪 が なければ ゴツゴツ と した 岩肌 が 見える のだろう が 、 今 は 雪 が なだらかな スロープ で 裏庭 の 方 へ と 広がって 来て いる 。

石垣 母子 の 足跡 は 、 その 岩 の 方 へ と 向 って いた が ……。

途中 、 いくらか の 木立 ち が あり 、 その 中 を 二 組 の 足跡 が 縫って 行く 。

「 やっぱり 変だ 」

と 、 木立 ち の 一 つ に 手 を かけて 、 珠美 は 言った 。

「── どうした の ?

敦子 は 、 ハアハア 息 を 切らして いる 。

「 運動 不足 じゃ ない ?

「 ご 心配 なく 」

「 ほら 。

足跡 を 見て 」

岩 の 高 み へ と 向 って いた 足跡 が 、 その 少し 手前 で 、 左 へ 曲って いる 。

そこ から 下 へ ……。 何 段 か 、 階段 の ように 崖 が 落ち 込んで 、 その先 は 、 急な 断崖 である 。

「 あれ じゃ 、 二 人 と も 崖 から 上って 来た と しか 思え ない わ 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 そう ね ……。

どう する ? 「 見 に 行く 」

「 あそこ へ ?

危 い じゃ ない の 」

「 その ため に 来た んだ もん 」

「 そりゃ そう だ けど ……。

国 友 さん に 相談 する と かして ──」

「 大丈夫 。

じゃ 、 敦子 さん 、 ここ で 待って て ね 」

珠美 は 、 ノコノコ と 断崖 の 方 へ と 歩いて 行った 。

「 待って !

敦子 も 、 仕方なく 追い かけて 行く 。

珠美 とて 、 怖く ない わけじゃ ない のである 。

しかし 、 そこ は やはり 夕 里子 の 妹 。 ── 好奇心 と いう やつ に は 勝て ない 。

それ に ── もし 、「 抜け道 」 でも 見付けたら 、 通行 税 を 取り立てて やろう ── と いう の は 冗談 だ が ……。

「 滑ったら 下 へ 落ちる わ よ 」

と 、 敦子 が もっともな こと を 言った 。

「 分 って る …… わ 」

さすが に 、 珠美 も 、 現実 に 崖 の 下 を 覗き 込む と 、 おっかなびっくり 、 一 歩 、 また 一 歩 と 進んで 行った 。

と ── 足 が 何 か 、 固い もの に 触れた 。

雪 が 、 その 部分 、 かき回さ れて 、 後 で 、 手 で 盛って ある の が 、 一目 で 分 る 。

「 何 か ある んだ 」

珠美 は 、 かがみ 込んで 、 雪 を かき分けた 。

「── 見て !

四角い 、 一 メートル 四方 ぐらい の 鉄 の 板 が 現われた のである 。

いや 、 これ は ただ の 板 じゃ なくて 、 蓋 だ 。

その 真中 に 大きな 鉄 の 輪 が ついて いて 、 握って 引 張る ように なって いる らしい 。

「── 秘密の 入口 だ 」

と 、 珠美 は 得意 げ に 言った 。

「 やっぱり あった でしょ 」

「 ない と は 言って ない わ 」

敦子 も 少し は 逆らって み たく なった らしい 。

何といっても 、 珠美 より 年上 な のである 。

「 引 張って みよう 。

── 重そう だ ね 」

「 二 人 で やれば ……」

「 そう ね 」

大きな 輪 な ので 、 充分に 、 二 人 の 手 が かかる 。

「── 一 、 二 、 の ──」

「 三 !

かけ声 と 共に 引 張る と 、 ポン と 簡単に 蓋 が 開いて 、 二 人 と も 雪 の 中 へ 引っくり返って しまった 。

「── 何 だ !

軽く 開く の ね 」

珠美 は 、 雪 だらけ に なり ながら 、 頭 を 振った 。

「 でも ── そう よ 。

あの 石垣 さん や 子供 が 開ける んだ と したら 、 そんなに 重い わけな い じゃ ない 」

と 、 敦子 は 、 雪 ダルマ みたいに なって 、 立ち上った 。

「 もっと 早く 、 それ に 気 が 付いて くれ なくちゃ 」

と 、 珠美 は 文句 を 言った 。

「 ともかく 入って みよう 」

「 そう ね ……」

雪 を 払い 落として 、 二 人 は 中 を 覗き 込んだ 。

鉄 の はしご が 降りて いる 。

── しかし 、 そう 深く は ない 様子 だった 。

「 私 が 入る わ 」

と 、 敦子 は 平静 を 装い つつ 、 先 に 、 はしご を 降って 行った 。

── 地下 道 だった 。

石 を 敷き つ め 、 両側 の 壁 、 天井 も 、 きちんと 石 で 造ら れて いる 。

頑丈な 造り の ようだった 。

「── 秘密の 地下 通路 か 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 もう ちょっと 無気味だ と 面白い のに ね 」

「 やめて よ 。

これ で 充分 」

敦子 が 顔 を しかめた 。

裸 電球 が 、 いく つ かぶら 下って いて 、 薄暗く は ある が 、 充分に 見通し は きく 。

地下 道 は 、 真 直ぐで は なかった 。

一旦 、 山荘 の 方 へ と 向 って いる が 、 その先 で 、 折れ曲って いた 。

「 行って みる ?

と 、 敦子 の 訊 く 声 が 、 地下 道 に 響いた 。

珠美 は 、 返事 を する 代り に 、 先 に 立って 歩き 出した 。

頭 を ぶつける ほど 、 天井 が 低い わけで も ない のだ が 、 何となく 、 つい 頭 を 低く して しまう 。

人間 の 心理 って 、 面白い もん ね 、 など と 、 珠美 は 呑気 な こと を 考えて いた 。

「 待って よ ……。

置いて か ない で 」

敦子 の 方 が 、 情 ない 声 を 出して 、 珠美 に やっと ついて 来る 。

通路 は 左 へ 、 右 へ 、 くねくね と 折れ曲って 、 結局 、 どこ へ 向 って いる の か 、 分 ら なく なって しまった 。

「── 階段 だ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 上 に 出 られる の ね 」

と 、 敦子 が ホッと した 様子 。

「 じゃ なくて 、 下 へ 降りる の 」

と 、 珠美 は 申し訳な さ そうに 言った 。

「 また ?

「 そう 。

── どこ へ 行く んだ ろ 」

「 もう 、 戻ら ない ?

と 、 敦子 は 心細 そうな 声 を 出した 。

「 そろそろ 夜 が 明ける かも しれ ない よ 」

「 たった 二 、 三 分 しか 歩いて ない よ 」

と 、 珠美 は 言った 。

しかし 、 珠美 も 、 そこ から 先 へ 行く の は 少し ためらわ れた 。

階段 の 下 は 、 真 暗 だった から だ 。

懐中 電灯 なんて もの も 、 持ち 合せて い ない 。

「 ここ は 、 やっぱり 戻り ます か 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 ともかく 、 この 地下 道 を 見付けた だけ でも いい や 」

「 そう よ !

敦子 は 、 と たんに 声 まで 元気に なって 、

「 ノーベル 賞 でも もらえる かも しれ ない わ 」

── 二 人 は 、 来た 道 を 戻り 始めた 。

今度 は 、 敦子 が 先 に なる 。

ふと 、 珠美 は 、 足 を 止めた 。

「 ね 、 ちょっと 」

「 どうした の ?

「 何 か 、 聞こえた ……」

「 え ?

そう 。

確かに ……。 ギ 、 ギ 、 ギ ……。

何 か が 、 きしむ ような 音 。

「 何かしら ?

「 分 ん ない けど ── ともかく 早く 出た 方 が いい みたい 」

「 同感 」

と 、 敦子 は 肯 いて 、 また 歩き 出した 。

突然 ── 明り が 消えた 。

「 キャッ !

敦子 が 悲鳴 を 上げる 。

「 ど 、 どうした の ? 「 明り が 消えた だけ 」

珠美 は 、 落ちついて いる 。

「 大丈夫 。

壁 に 手 を 触れて 、 辿 って 行けば ……。 最後 の 角 を 曲れば 、 外 の 光 が 射 して る から 」

「 そ 、 そう ね ……」

敦子 は 、 年下 の 珠美 の 前 で 、 自分 の 方 が 落ちつか なくて は 、 と 思い ながら 、 つい 声 が 震えて 来る の を 、 こらえ られ なかった 。

壁 に 手 を 当て 、 ノロノロ と 進んで 行く 。

「 ね 、 誰 か ──」

と 、 珠美 が 言った 。

「 なに ?

「 誰 か いる !

二 人 は 息 を 殺した 。

── そう 。 足音 だった 。

二 人 の 後 を 追って 、 暗がり の 奥 から 、 引きずる ような 、 重々しい 足音 が 聞こえて 来た のだ 。

「 近付いて 来る 。

── 逃げよう ! と 、 珠美 が 叫んだ 。

「 走って ! 敦子 は 、 壁 を 両手 で 叩く ように して 、 駆け 出した 。

転び そうだ 。

しかし 、 人間 、 必死に なる と 、 たいてい の こと は やって しまう もの である 。

明り が 見えた !

行 手 に 、 上 から 光 が 射 し込み 、 鉄 の はしご が 見えて いる 。

敦子 は 、

「 出口 よ !

と 叫んで 、 駆け 出した 。

はしご を 上る の も もどかしく 、 雪 の 中 へ と 転がり 出る 。

ハアハア と 喘ぎ ながら 、 敦子 は 、 雪 の 冷た さ など 気 に も なら なかった 。

「 珠美 ちゃん ──。

大丈夫 ? と 、 顔 を 上げる と ……。

珠美 の 姿 は なかった 。

「 珠美 ちゃん ……。

早く ── 早く 出て 来 ない と ──」

だが 、 珠美 は 、 一向に 姿 を 見せ ない 。

まさか ……。

まさか ……。

敦子 は 、 よろけ ながら 、 立ち上った 。

あの 穴 の 中 に 戻って 行く だけ の 勇気 は 、 とても なかった 。

── そうだ 。 国 友 さん に ……。

早く 知らせよう 。

助け に 行か なくちゃ 。

もう 、 辺り は 大分 暗く なり つつ あった 。

それ こそ 、 あの 地下 道 へ 入って から 、 十分 と は たって い ない はずだ が 、 急激に 、 夜 の 気配 が 立ち こめて 来て いる 。

「 待って て ね 。

── すぐ 国 友 さん を 呼んで 来る から 」

珠美 へ 呼びかける ように 言って 、 敦子 は 、 雪 を け散らし ながら 、 進んで 行った 。

自分 が 助かって 、 珠美 に 何 か あったり したら ── それ こそ 、 夕 里子 に 何と 言って 詫びれば いい か ……。

木立 ち の 間 を 抜けて 、 敦子 は 、 山荘 の 裏庭 へ ──。

だが 、 その場で 、 敦子 は 、 立ちすくんで しまった 。

こんな …… こんな こと が ……。

膝 近く まで 来る 雪 の 冷た さ が 、 足 の 指 を しびれ させて いる の も 、 一瞬 忘れて しまった 。

吐き出す 息 の 白 さ が 、 煙 の ように 立ち上って 行く 。

「 こんな こと って ── こんな こと って 、 ない わ !

敦子 は 叫ぶ ように 言った 。

目の前 に は ── 何も なかった 。

あの 山荘 は 、 影 も 形 も なく 消え失せて 、 ただ 、 のっぺり と して 、 足跡 一 つ ない 雪原 が 、 広がって いる ばかりだった のである 。

「── ひどい 年 でした よ 、 今年 は ね 」

と 、 やつれ 切った 顔 で 、 その 男 は 言った 。

「 分 り ます 」

三崎 は 、 肯 いた 。

「 お 気の毒でした 、 娘 さん の こと は 」

「 気の毒 ねえ ……」

と 、 男 は 苦々し げ に 、「 全く ── 哀れでしょう が ない んです よ 。

そう でしょう 」

と 、 訴える ように 言った 。

男 の 名 は 笹 田 。

やっと 、 三崎 の 頼み に 応じて 、 この 喫茶 店 まで 出て 来て くれた 。

「 寒い ね 」

と 、 笹 田 は 、 唐突な 言い 方 を して 、 外 の 方 へ 目 を 向けた 。

「 雪 でも 降り そうな 天気 です 」

と 、 三崎 は 肯 いた 。

三崎 は 、 内心 の 焦り を 、 外 へ 現わさ ない ように 、 努力 して いた 。

今 、 ここ で 焦った ところ で 仕方ない 。

石垣 の 山荘 と いう の が 、 一体 どこ に ある の か 、 必死で 調べて いる ところ だった 。

沼 淵 の 話 から 、 一応 は 長野 辺り を 中心 に 調べて いる が 、 石垣 が 、 全く の でたらめな 場所 を 言って い ない と も 限ら ない 。

一応 、 考え 得る 範囲 で 、 捜査 の 依頼 を 出して いた 。

しかし 、 何といっても 年 末 で 、 どこ も 忙しい 。

思う ように は 、 協力 を 取りつける こと が でき なかった 。

三崎 が 焦り を 覚えて いた の も 、 無理 は ない 。

沼 淵 に 石垣 の こと を 話した と いう 「 教え子 」 に 会って 、 話 を 聞いた が 、 直接 石垣 と 付合い が あった わけで は なく 、 具体 的な こと は ほとんど 知ら なかった 。

そして 、 三崎 は ふと 思い 付いて 、 石垣 が 無理 心中 した と いう 女子 学生 の 親 に 連絡 した のである 。

会い たく ない 。

話 も し たく ない 。 ── 父親 の 反応 は 、 至って 素 気 ない もの だった 。

親 の 身 と して は 、 無理 も ない 。

三崎 に も その 気持 は よく 分 った 。

「── そりゃ 、 私 も 娘 が 好きな 男 を 作りゃ 、 怒った かも しれ ませ ん 。

しかし 、 最終 的に ゃ 、 娘 が 幸せに なりゃ 、 それ で いい 。 そう でしょう ? すっかり 老け 込んだ 感じ の 父親 は 、 髪 を 少し かき 上げて 、「 白く なり ました 。

分 る でしょう ? 娘 が 死んで から です 。 それ まで は 、 白髪 なんて 、 一 本 も なかった のに ……」

「 石垣 と いう 男 に 会わ れた こと は ?

「 あり ます よ 」

と 、 笹 田 は 肯 いた 。

「 あの とき 、 もっと よく あいつ の こと を 知って り ゃあ ……」

「 そう です な 」

三崎 は 肯 いた 。

「 もし ── 娘 が 、 本当に 好きな 男 と 心中 した と いう の なら ね 、 もちろん 悲しい が 、 まだ 諦め も つく 。

それ が 、 当人 は 死に たく も ない のに 、 殺さ れて 、 無理 心中 ……。 石垣 の 奴 を 、 生き返ら せて 、 もう 一 度 この 手 で 殺して やり たい です よ 」

笹 田 は 、 自分 の 両手 を 、 じっと 見下ろし ながら 言った 。

「 どんな 男 でした ?

と 、 三崎 は 訊 いた 。

「 石垣 です か ?

まあ ── 神経質 そうな 、 と いう か 、 どことなく 暗い 感じ の 男 でした よ 」

「 どこ で お 会い に なった んです ?

「 ええ と ……。

何とか いう 店 でした ね 。 〈 P 〉 だった か な 。 そう 、 そんな 名前 の 店 だった と 思い ます 」

三崎 の 眉 が 、 ちょっと 寄って 、

「 その 店 の 名 は ── 確か 、 です か ?

と 、 念 を 押す 。

「 たぶん ね 。

── しかし 、 どうして そんな こと が ? 「 いや ……。

偶然 、 その 店 を 知って いる もの です から ね 」

と 、 三崎 は 言った 。

「 石垣 は 、 どこ か 妙な 印象 を 与え ました か 」

「 そう です ね ……。

いやに 落ちつき の ない 男 でした よ 」

「 落ちつき の ない ?

「 そう 。

── こっち の 目 を 真 直ぐ 見 ない と いう か ね 。 いやに キョロキョロ して ……。 後 から 悪い 印象 を でっち上げた わけじゃ あり ませ ん よ 。 その とき 、 帰って 家内 に 石垣 の こと を そう 話した んです から 」

「 そう です か ……」

三崎 は 、 ゆっくり と 肯 いた 。

「 石垣 と は どんな ご用 で 会わ れた んです か ? 「 もちろん 、 娘 の 直子 の こと です 」

と 、 笹 田 は 肩 を すくめて 、「 石垣 が 、 私 の 会社 へ 電話 して 来た んです よ 、 会い たい 、 と ね 」

「 話 と いう の は ──」

「 娘 に 惚れた 、 と いう わけです 。

妻 と 別れる から 、 結婚 を 許して ほしい 、 と 」

「 もちろん 、 あなた は ──」

「 冗談 じゃ ない 、 と 突っぱね ました よ 。

当然でしょう 。 娘 が 同じ 気持 だ と いう の なら ともかく 、 全く その 気 は なかった んです から 」

「 石垣 は 何と ?

「 大して 、 こだわり ませ ん でした ね 。

怒鳴り 合い と か に は なり ませ ん 。 無気力な 感じ だった な 、 あいつ は 」

「 それでいて 無理 心中 を ──」

「 そう な んです 。

信じ られ ませ ん よ 、 全く ! 笹 田 は 、 深々と 息 を ついた 。

「 その 話 を した ので 、 娘 に 、 もう 家庭 教師 に 行く の は やめろ 、 と 言い ました 。 しかし 、 直子 は ……。 生徒 を 途中 で 放り 出せ ない 、 と 言い まして ね 。 責任 感 の 強い 娘 でした から ……」

「 そして 、 無理 心中 」

「 そうです 。

しかし 、 無理 心中 って の は 殺人 です よ 。 そう でしょう ? しかも 犯人 は 死んで しまって いる 。 ── 卑怯 だ ! 笹 田 は 、 吐き 捨てる ように 言った 。

「 同感 です ね 」

三崎 は 、 穏やかな 口調 で 言った 。

「── 娘 さん が 亡くなった とき 、 石垣 の 死体 も 、 ご覧 に なり ました か ? 「 いいえ 。

── それ どころ じゃ あり ませ ん 。 娘 が 殺さ れた と いう ショック だけ で ……」

「 分 り ます 」

三崎 は 、 丁重に 礼 を 述べて 、 笹 田 と 別れた 。

── 確かに 、 雪 に なり そうな 、 冷え 込み だった 。

電話 ボックス へ 入った 三崎 は 、 署 へ 電話 を 入れた 。

「── 三崎 だ 。

何 か 分 った か ? 「 それ らしい 山荘 が 、 三 つ 四 つ 、 出て 来て い ます 」

と 、 部下 の 若い 刑事 が 答える 。

「 今 、 確認 を 取って いる ところ です 」

「 そう か 。

急が せて くれ 」

と 、 三崎 は 言って 、「 国 友 と は 連絡 が ついた か ?

「 いえ 、 まだ です 。

い ない んじゃ あり ませ ん か ね 」

「 うむ ……」

もちろん 、 三崎 自身 が 休め と 言って やった のだ から 、 国 友 が い なくて も 不思議 は ない 。

しかし 、 普通 なら 、 必ず 連絡 が つく ように 、 遠出 する とき は そう 知らせて から に する 。

そう で なければ 、 部屋 に 戻って いる はずだ 。

いや 、 もしかしたら ……。

三崎 も 、 その 可能 性 は 考えて いた 。

国 友 は 、 夕 里子 たち 三 人 姉妹 に 、 ついて 行った の かも しれ ない 。

もし そう なら 、 夕 里子 たち が 危険な 目 に あって も 、 無事に 切り抜ける 可能 性 は 大きい 。

そう であって くれれば 、 と 三崎 は 思って いた 。

「 それ から な ──」

と 、 三崎 は 受話器 を 握り 直した 。

「 例 の 、 石垣 と 笹 田 直子 の 無理 心中 の 事件 だ が 、 詳しく 知り たい 。 特に 、 石垣 の 死体 を 確認 した の が 誰 な の か 」

「 分 り ました 」

「 頼む ぞ 。

俺 は この 近く で 飯 を 食って から 戻る 」

三崎 は 、 受話器 を 戻して 、 ボックス から 外 へ 出る と 、 風 の 冷た さ に 身 を 縮めた 。

「── 畜生 !

三崎 は 、 足早に 歩き 出して いた 。

もし 、 俺 の 考えた 通り だった と したら ……。

いや 、〈 P 〉 と いう 店 で 、 石垣 が 笹 田 と 会った こと も 、 偶然 と は 思え ない 。

もし そう なら 、 今度 の 、 平川 浩子 の 異常な 殺し 方 も 、 分 る と いう もの だ 。

そして ……。

そう だ 。

三崎 は 、 まだ はっきり と 証拠 を つかんで いた わけで は ない が 、 ほとんど 確信 に 近い もの を 持って いた 。

── 石垣 は 、 死んで い ない 。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 11 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 4 Chapter 11

11  地下 道 ちか|どう

ズブッ 。

「 ワッ !

と 、 敦子 が 思わず 声 を 上げる 。 |あつこ||おもわず|こえ||あげる

「 静かに 」 しずかに

と 、 珠美 が 振り向いて 、 にらんだ 。 |たまみ||ふりむいて|

「 ご 、 ごめんなさい 」

雪 に 足 を 取ら れた 敦子 は 、 あわてて 謝った 。 ゆき||あし||とら||あつこ|||あやまった

二 人 は 、 そっと 、 裏庭 へ 出る ドア を 開け 、 外 へ 踏み出した ところ だった 。 ふた|じん|||うらにわ||でる|どあ||あけ|がい||ふみだした||

── そろそろ 、 陽 は 傾き かけて いる 。 |よう||かたむき||

さっき 、 ここ へ 出て 、 金田 と しゃべったり して いた 敦子 も 、 ぐっと 気温 が 下って 、 顔 が こわばり そうに なる 寒 さ に 、 ちょっと びっくり した 。 |||でて|かなだ|||||あつこ|||きおん||くだって|かお|||そう に||さむ||||| Atsuko who went out here and was talking with Kanada a little while ago was also surprised a bit by the coldness as the temperature went down and the face seemed stiff.

「 ちゃんと ドア 閉めて 。 |どあ|しめて

── 足跡 を 逆に 辿 る の よ 」 あしあと||ぎゃくに|てん|||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

もちろん 、 まだ 暗く なって いる わけで は ない 。 ||くらく||||| Of course, it is not getting dark yet.

しかし 、 青空 が 広がり 、 雪 は 白く 光って いて も 、 もう目に まぶしい と いう こと が なくなって いる 。 |あおぞら||ひろがり|ゆき||しろく|ひかって|||もうもくに||||||| However, even though the blue sky spreads and the snow glows white, it is no longer being a dazzling eye.

それ だけ 陽 が 弱まり 、 夜 が ひそやかに 忍び寄って いる のだろう 。 ||よう||よわまり|よ|||しのびよって||

こう なる と 暗く なる の も 早い 。 |||くらく||||はやい

特に 、 山 の 中 である 。 とくに|やま||なか| 山 の 陰 に なる 辺り で は 、 早くも 、 黒い 影 が 、 巨大な 手のひら の ように 広がり 始めて いた 。 やま||かげ|||あたり|||はやくも|くろい|かげ||きょだいな|てのひら|||ひろがり|はじめて|

珠美 は 、 さっき 石垣 園子 と 秀 哉 が 戻って 来た 足跡 を 、 逆に 辿 って いた 。 たまみ|||いしがき|そのこ||しゅう|や||もどって|きた|あしあと||ぎゃくに|てん||

見分ける の は 至って 簡単 。 みわける|||いたって|かんたん ともかく 、 二 人 の 足跡 は 、 途中 から 大きく わき へ それて 、 少し 高く なった 岩 の 辺り へ と 向 って いる のである 。 |ふた|じん||あしあと||とちゅう||おおきく||||すこし|たかく||いわ||あたり|||むかい|||

岩 と いって も 、 そう 大きく は ない 。 いわ|||||おおきく||

崖 の 頂上 が 、 そこ だけ 少し 盛り上って いる 、 と いう 格好 で 、 雪 が なければ ゴツゴツ と した 岩肌 が 見える のだろう が 、 今 は 雪 が なだらかな スロープ で 裏庭 の 方 へ と 広がって 来て いる 。 がけ||ちょうじょう||||すこし|もりあがって||||かっこう||ゆき|||ごつごつ|||いわはだ||みえる|||いま||ゆき|||すろーぷ||うらにわ||かた|||ひろがって|きて| It seems that the top of the cliff is slightly raised only there, and it seems that rocks that are rugged without snow can be seen, but now the snow spreads toward the backyard with a gentle slope ing .

石垣 母子 の 足跡 は 、 その 岩 の 方 へ と 向 って いた が ……。 いしがき|ぼし||あしあと|||いわ||かた|||むかい|||

途中 、 いくらか の 木立 ち が あり 、 その 中 を 二 組 の 足跡 が 縫って 行く 。 とちゅう|||こだち|||||なか||ふた|くみ||あしあと||ぬって|いく

「 やっぱり 変だ 」 |へんだ

と 、 木立 ち の 一 つ に 手 を かけて 、 珠美 は 言った 。 |こだち|||ひと|||て|||たまみ||いった

「── どうした の ?

敦子 は 、 ハアハア 息 を 切らして いる 。 あつこ||はあはあ|いき||きらして|

「 運動 不足 じゃ ない ? うんどう|ふそく||

「 ご 心配 なく 」 |しんぱい|

「 ほら 。

足跡 を 見て 」 あしあと||みて

岩 の 高 み へ と 向 って いた 足跡 が 、 その 少し 手前 で 、 左 へ 曲って いる 。 いわ||たか||||むかい|||あしあと|||すこし|てまえ||ひだり||まがって|

そこ から 下 へ ……。 ||した| 何 段 か 、 階段 の ように 崖 が 落ち 込んで 、 その先 は 、 急な 断崖 である 。 なん|だん||かいだん|||がけ||おち|こんで|そのさき||きゅうな|だんがい|

「 あれ じゃ 、 二 人 と も 崖 から 上って 来た と しか 思え ない わ 」 ||ふた|じん|||がけ||のぼって|きた|||おもえ||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 そう ね ……。

どう する ? 「 見 に 行く 」 み||いく

「 あそこ へ ?

危 い じゃ ない の 」 き||||

「 その ため に 来た んだ もん 」 |||きた|| "I came for that,"

「 そりゃ そう だ けど ……。

国 友 さん に 相談 する と かして ──」 くに|とも|||そうだん|||

「 大丈夫 。 だいじょうぶ

じゃ 、 敦子 さん 、 ここ で 待って て ね 」 |あつこ||||まって||

珠美 は 、 ノコノコ と 断崖 の 方 へ と 歩いて 行った 。 たまみ||||だんがい||かた|||あるいて|おこなった

「 待って ! まって

敦子 も 、 仕方なく 追い かけて 行く 。 あつこ||しかたなく|おい||いく Atsuko will also chase after me.

珠美 とて 、 怖く ない わけじゃ ない のである 。 たまみ||こわく|||| It is irritating and not scary.

しかし 、 そこ は やはり 夕 里子 の 妹 。 ||||ゆう|さとご||いもうと ── 好奇心 と いう やつ に は 勝て ない 。 こうきしん||||||かて|

それ に ── もし 、「 抜け道 」 でも 見付けたら 、 通行 税 を 取り立てて やろう ── と いう の は 冗談 だ が ……。 |||ぬけみち||みつけたら|つうこう|ぜい||とりたてて||||||じょうだん||

「 滑ったら 下 へ 落ちる わ よ 」 すべったら|した||おちる||

と 、 敦子 が もっともな こと を 言った 。 |あつこ|||||いった

「 分 って る …… わ 」 ぶん|||

さすが に 、 珠美 も 、 現実 に 崖 の 下 を 覗き 込む と 、 おっかなびっくり 、 一 歩 、 また 一 歩 と 進んで 行った 。 ||たまみ||げんじつ||がけ||した||のぞき|こむ|||ひと|ふ||ひと|ふ||すすんで|おこなった Truly, Zhi Ami looked down under the cliffs in reality, after all, I made a fun step forward, one step again.

と ── 足 が 何 か 、 固い もの に 触れた 。 |あし||なん||かたい|||ふれた

雪 が 、 その 部分 、 かき回さ れて 、 後 で 、 手 で 盛って ある の が 、 一目 で 分 る 。 ゆき|||ぶぶん|かきまわさ||あと||て||もって||||いちもく||ぶん| At the sight, the snow is scattered, that part is stirred, later, it is packed with hands.

「 何 か ある んだ 」 なん|||

珠美 は 、 かがみ 込んで 、 雪 を かき分けた 。 たまみ|||こんで|ゆき||かきわけた

「── 見て ! みて

四角い 、 一 メートル 四方 ぐらい の 鉄 の 板 が 現われた のである 。 しかくい|ひと|めーとる|しほう|||くろがね||いた||あらわれた|

いや 、 これ は ただ の 板 じゃ なくて 、 蓋 だ 。 |||||いた|||ふた|

その 真中 に 大きな 鉄 の 輪 が ついて いて 、 握って 引 張る ように なって いる らしい 。 |まんなか||おおきな|くろがね||りん||||にぎって|ひ|はる||||

「── 秘密の 入口 だ 」 ひみつの|いりぐち|

と 、 珠美 は 得意 げ に 言った 。 |たまみ||とくい|||いった

「 やっぱり あった でしょ 」

「 ない と は 言って ない わ 」 |||いって||

敦子 も 少し は 逆らって み たく なった らしい 。 あつこ||すこし||さからって||||

何といっても 、 珠美 より 年上 な のである 。 なんといっても|たまみ||としうえ|| Anyway, I am older than Mami.

「 引 張って みよう 。 ひ|はって|

── 重そう だ ね 」 じゅうそう||

「 二 人 で やれば ……」 ふた|じん||

「 そう ね 」

大きな 輪 な ので 、 充分に 、 二 人 の 手 が かかる 。 おおきな|りん|||じゅうぶんに|ふた|じん||て||

「── 一 、 二 、 の ──」 ひと|ふた|

「 三 ! みっ

かけ声 と 共に 引 張る と 、 ポン と 簡単に 蓋 が 開いて 、 二 人 と も 雪 の 中 へ 引っくり返って しまった 。 かけごえ||ともに|ひ|はる||||かんたんに|ふた||あいて|ふた|じん|||ゆき||なか||ひっくりかえって|

「── 何 だ ! なん|

軽く 開く の ね 」 かるく|あく||

珠美 は 、 雪 だらけ に なり ながら 、 頭 を 振った 。 たまみ||ゆき|||||あたま||ふった

「 でも ── そう よ 。

あの 石垣 さん や 子供 が 開ける んだ と したら 、 そんなに 重い わけな い じゃ ない 」 |いしがき|||こども||あける|||||おもい||||

と 、 敦子 は 、 雪 ダルマ みたいに なって 、 立ち上った 。 |あつこ||ゆき|だるま|||たちのぼった

「 もっと 早く 、 それ に 気 が 付いて くれ なくちゃ 」 |はやく|||き||ついて||

と 、 珠美 は 文句 を 言った 。 |たまみ||もんく||いった

「 ともかく 入って みよう 」 |はいって|

「 そう ね ……」

雪 を 払い 落として 、 二 人 は 中 を 覗き 込んだ 。 ゆき||はらい|おとして|ふた|じん||なか||のぞき|こんだ

鉄 の はしご が 降りて いる 。 くろがね||||おりて|

── しかし 、 そう 深く は ない 様子 だった 。 ||ふかく|||ようす|

「 私 が 入る わ 」 わたくし||はいる|

と 、 敦子 は 平静 を 装い つつ 、 先 に 、 はしご を 降って 行った 。 |あつこ||へいせい||よそおい||さき||||ふって|おこなった

── 地下 道 だった 。 ちか|どう|

石 を 敷き つ め 、 両側 の 壁 、 天井 も 、 きちんと 石 で 造ら れて いる 。 いし||しき|||りょうがわ||かべ|てんじょう|||いし||つくら||

頑丈な 造り の ようだった 。 がんじょうな|つくり||

「── 秘密の 地下 通路 か 」 ひみつの|ちか|つうろ|

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 もう ちょっと 無気味だ と 面白い のに ね 」 ||ぶきみだ||おもしろい||

「 やめて よ 。

これ で 充分 」 ||じゅうぶん

敦子 が 顔 を しかめた 。 あつこ||かお||

裸 電球 が 、 いく つ かぶら 下って いて 、 薄暗く は ある が 、 充分に 見通し は きく 。 はだか|でんきゅう|||||くだって||うすぐらく||||じゅうぶんに|みとおし||

地下 道 は 、 真 直ぐで は なかった 。 ちか|どう||まこと|すぐで|| The underground road was not true.

一旦 、 山荘 の 方 へ と 向 って いる が 、 その先 で 、 折れ曲って いた 。 いったん|さんそう||かた|||むかい||||そのさき||おれまがって|

「 行って みる ? おこなって|

と 、 敦子 の 訊 く 声 が 、 地下 道 に 響いた 。 |あつこ||じん||こえ||ちか|どう||ひびいた

珠美 は 、 返事 を する 代り に 、 先 に 立って 歩き 出した 。 たまみ||へんじ|||かわり||さき||たって|あるき|だした

頭 を ぶつける ほど 、 天井 が 低い わけで も ない のだ が 、 何となく 、 つい 頭 を 低く して しまう 。 あたま||||てんじょう||ひくい||||||なんとなく||あたま||ひくく|| The more I hit my head, the lower the ceiling is, but somehow, I will lower my head.

人間 の 心理 って 、 面白い もん ね 、 など と 、 珠美 は 呑気 な こと を 考えて いた 。 にんげん||しんり||おもしろい|||||たまみ||のんき||||かんがえて|

「 待って よ ……。 まって|

置いて か ない で 」 おいて||| Do not leave me. "

敦子 の 方 が 、 情 ない 声 を 出して 、 珠美 に やっと ついて 来る 。 あつこ||かた||じょう||こえ||だして|たまみ||||くる Atsuko comes out with an empty voice, and finally follows Zhu Mi.

通路 は 左 へ 、 右 へ 、 くねくね と 折れ曲って 、 結局 、 どこ へ 向 って いる の か 、 分 ら なく なって しまった 。 つうろ||ひだり||みぎ||||おれまがって|けっきょく|||むかい|||||ぶん||||

「── 階段 だ 」 かいだん|

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 上 に 出 られる の ね 」 うえ||だ|||

と 、 敦子 が ホッと した 様子 。 |あつこ||ほっと||ようす

「 じゃ なくて 、 下 へ 降りる の 」 ||した||おりる| "Not down, get down."

と 、 珠美 は 申し訳な さ そうに 言った 。 |たまみ||もうしわけな||そう に|いった Said Ms. Ami sorryly.

「 また ?

「 そう 。

── どこ へ 行く んだ ろ 」 ||いく||

「 もう 、 戻ら ない ? |もどら|

と 、 敦子 は 心細 そうな 声 を 出した 。 |あつこ||こころぼそ|そう な|こえ||だした

「 そろそろ 夜 が 明ける かも しれ ない よ 」 |よ||あける|||| "The night may come soon"

「 たった 二 、 三 分 しか 歩いて ない よ 」 |ふた|みっ|ぶん||あるいて||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

しかし 、 珠美 も 、 そこ から 先 へ 行く の は 少し ためらわ れた 。 |たまみ||||さき||いく|||すこし||

階段 の 下 は 、 真 暗 だった から だ 。 かいだん||した||まこと|あん|||

懐中 電灯 なんて もの も 、 持ち 合せて い ない 。 かいちゅう|でんとう||||もち|あわせて||

「 ここ は 、 やっぱり 戻り ます か 」 |||もどり||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 ともかく 、 この 地下 道 を 見付けた だけ でも いい や 」 ||ちか|どう||みつけた||||

「 そう よ !

敦子 は 、 と たんに 声 まで 元気に なって 、 あつこ||||こえ||げんきに|

「 ノーベル 賞 でも もらえる かも しれ ない わ 」 のーべる|しょう||||||

── 二 人 は 、 来た 道 を 戻り 始めた 。 ふた|じん||きた|どう||もどり|はじめた

今度 は 、 敦子 が 先 に なる 。 こんど||あつこ||さき||

ふと 、 珠美 は 、 足 を 止めた 。 |たまみ||あし||とどめた

「 ね 、 ちょっと 」

「 どうした の ?

「 何 か 、 聞こえた ……」 なん||きこえた

「 え ?

そう 。

確かに ……。 たしかに ギ 、 ギ 、 ギ ……。

何 か が 、 きしむ ような 音 。 なん|||||おと

「 何かしら ? なにかしら

「 分 ん ない けど ── ともかく 早く 出た 方 が いい みたい 」 ぶん|||||はやく|でた|かた|||

「 同感 」 どうかん

と 、 敦子 は 肯 いて 、 また 歩き 出した 。 |あつこ||こう|||あるき|だした

突然 ── 明り が 消えた 。 とつぜん|あかり||きえた

「 キャッ !

敦子 が 悲鳴 を 上げる 。 あつこ||ひめい||あげる

「 ど 、 どうした の ? 「 明り が 消えた だけ 」 あかり||きえた|

珠美 は 、 落ちついて いる 。 たまみ||おちついて|

「 大丈夫 。 だいじょうぶ

壁 に 手 を 触れて 、 辿 って 行けば ……。 かべ||て||ふれて|てん||いけば 最後 の 角 を 曲れば 、 外 の 光 が 射 して る から 」 さいご||かど||まがれば|がい||ひかり||い|||

「 そ 、 そう ね ……」

敦子 は 、 年下 の 珠美 の 前 で 、 自分 の 方 が 落ちつか なくて は 、 と 思い ながら 、 つい 声 が 震えて 来る の を 、 こらえ られ なかった 。 あつこ||としした||たまみ||ぜん||じぶん||かた||おちつか||||おもい|||こえ||ふるえて|くる||||| Atsuko could not hold on to her trembling voice, thinking that herself would not settle in front of Toshumi younger.

壁 に 手 を 当て 、 ノロノロ と 進んで 行く 。 かべ||て||あて|のろのろ||すすんで|いく

「 ね 、 誰 か ──」 |だれ|

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 なに ?

「 誰 か いる ! だれ||

二 人 は 息 を 殺した 。 ふた|じん||いき||ころした

── そう 。 足音 だった 。 あしおと|

二 人 の 後 を 追って 、 暗がり の 奥 から 、 引きずる ような 、 重々しい 足音 が 聞こえて 来た のだ 。 ふた|じん||あと||おって|くらがり||おく||ひきずる||おもおもしい|あしおと||きこえて|きた|

「 近付いて 来る 。 ちかづいて|くる

── 逃げよう ! にげよう と 、 珠美 が 叫んだ 。 |たまみ||さけんだ

「 走って ! はしって 敦子 は 、 壁 を 両手 で 叩く ように して 、 駆け 出した 。 あつこ||かべ||りょうて||たたく|||かけ|だした

転び そうだ 。 ころび|そう だ It seems to fall.

しかし 、 人間 、 必死に なる と 、 たいてい の こと は やって しまう もの である 。 |にんげん|ひっしに||||||||||

明り が 見えた ! あかり||みえた

行 手 に 、 上 から 光 が 射 し込み 、 鉄 の はしご が 見えて いる 。 ぎょう|て||うえ||ひかり||い|しこみ|くろがね||||みえて|

敦子 は 、 あつこ|

「 出口 よ ! でぐち|

と 叫んで 、 駆け 出した 。 |さけんで|かけ|だした

はしご を 上る の も もどかしく 、 雪 の 中 へ と 転がり 出る 。 ||のぼる||||ゆき||なか|||ころがり|でる

ハアハア と 喘ぎ ながら 、 敦子 は 、 雪 の 冷た さ など 気 に も なら なかった 。 はあはあ||あえぎ||あつこ||ゆき||つめた|||き||||

「 珠美 ちゃん ──。 たまみ|

大丈夫 ? だいじょうぶ と 、 顔 を 上げる と ……。 |かお||あげる|

珠美 の 姿 は なかった 。 たまみ||すがた||

「 珠美 ちゃん ……。 たまみ|

早く ── 早く 出て 来 ない と ──」 はやく|はやく|でて|らい||

だが 、 珠美 は 、 一向に 姿 を 見せ ない 。 |たまみ||いっこうに|すがた||みせ|

まさか ……。

まさか ……。

敦子 は 、 よろけ ながら 、 立ち上った 。 あつこ||||たちのぼった

あの 穴 の 中 に 戻って 行く だけ の 勇気 は 、 とても なかった 。 |あな||なか||もどって|いく|||ゆうき||| There was not much courage to go back into that hole.

── そうだ 。 そう だ 国 友 さん に ……。 くに|とも||

早く 知らせよう 。 はやく|しらせよう

助け に 行か なくちゃ 。 たすけ||いか|

もう 、 辺り は 大分 暗く なり つつ あった 。 |あたり||だいぶ|くらく||| Already, the neighborhood was getting much darker.

それ こそ 、 あの 地下 道 へ 入って から 、 十分 と は たって い ない はずだ が 、 急激に 、 夜 の 気配 が 立ち こめて 来て いる 。 |||ちか|どう||はいって||じゅうぶん||||||||きゅうげきに|よ||けはい||たち||きて| That should not have been enough as it entered the underground path, but the sign of the night is rising rapidly.

「 待って て ね 。 まって||

── すぐ 国 友 さん を 呼んで 来る から 」 |くに|とも|||よんで|くる|

珠美 へ 呼びかける ように 言って 、 敦子 は 、 雪 を け散らし ながら 、 進んで 行った 。 たまみ||よびかける||いって|あつこ||ゆき||けちらし||すすんで|おこなった

自分 が 助かって 、 珠美 に 何 か あったり したら ── それ こそ 、 夕 里子 に 何と 言って 詫びれば いい か ……。 じぶん||たすかって|たまみ||なん||||||ゆう|さとご||なんと|いって|わびれば||

木立 ち の 間 を 抜けて 、 敦子 は 、 山荘 の 裏庭 へ ──。 こだち|||あいだ||ぬけて|あつこ||さんそう||うらにわ|

だが 、 その場で 、 敦子 は 、 立ちすくんで しまった 。 |そのばで|あつこ||たちすくんで|

こんな …… こんな こと が ……。

膝 近く まで 来る 雪 の 冷た さ が 、 足 の 指 を しびれ させて いる の も 、 一瞬 忘れて しまった 。 ひざ|ちかく||くる|ゆき||つめた|||あし||ゆび|||さ せて||||いっしゅん|わすれて| I forgot for a moment that the coldness of the snow coming close to the knee is numbing my fingers.

吐き出す 息 の 白 さ が 、 煙 の ように 立ち上って 行く 。 はきだす|いき||しろ|||けむり|||たちのぼって|いく

「 こんな こと って ── こんな こと って 、 ない わ !

敦子 は 叫ぶ ように 言った 。 あつこ||さけぶ||いった

目の前 に は ── 何も なかった 。 めのまえ|||なにも| In front of us ─ ─ There was nothing.

あの 山荘 は 、 影 も 形 も なく 消え失せて 、 ただ 、 のっぺり と して 、 足跡 一 つ ない 雪原 が 、 広がって いる ばかりだった のである 。 |さんそう||かげ||かた|||きえうせて|||||あしあと|ひと|||せつげん||ひろがって|||

「── ひどい 年 でした よ 、 今年 は ね 」 |とし|||ことし||

と 、 やつれ 切った 顔 で 、 その 男 は 言った 。 ||きった|かお|||おとこ||いった

「 分 り ます 」 ぶん||

三崎 は 、 肯 いた 。 みさき||こう|

「 お 気の毒でした 、 娘 さん の こと は 」 |きのどくでした|むすめ||||

「 気の毒 ねえ ……」 きのどく|

と 、 男 は 苦々し げ に 、「 全く ── 哀れでしょう が ない んです よ 。 |おとこ||にがにがし|||まったく|あわれでしょう||||

そう でしょう 」

と 、 訴える ように 言った 。 |うったえる||いった

男 の 名 は 笹 田 。 おとこ||な||ささ|た

やっと 、 三崎 の 頼み に 応じて 、 この 喫茶 店 まで 出て 来て くれた 。 |みさき||たのみ||おうじて||きっさ|てん||でて|きて|

「 寒い ね 」 さむい|

と 、 笹 田 は 、 唐突な 言い 方 を して 、 外 の 方 へ 目 を 向けた 。 |ささ|た||とうとつな|いい|かた|||がい||かた||め||むけた

「 雪 でも 降り そうな 天気 です 」 ゆき||ふり|そう な|てんき|

と 、 三崎 は 肯 いた 。 |みさき||こう|

三崎 は 、 内心 の 焦り を 、 外 へ 現わさ ない ように 、 努力 して いた 。 みさき||ないしん||あせり||がい||あらわさ|||どりょく||

今 、 ここ で 焦った ところ で 仕方ない 。 いま|||あせった|||しかたない

石垣 の 山荘 と いう の が 、 一体 どこ に ある の か 、 必死で 調べて いる ところ だった 。 いしがき||さんそう|||||いったい||||||ひっしで|しらべて|||

沼 淵 の 話 から 、 一応 は 長野 辺り を 中心 に 調べて いる が 、 石垣 が 、 全く の でたらめな 場所 を 言って い ない と も 限ら ない 。 ぬま|ふち||はなし||いちおう||ながの|あたり||ちゅうしん||しらべて|||いしがき||まったく|||ばしょ||いって|||||かぎら|

一応 、 考え 得る 範囲 で 、 捜査 の 依頼 を 出して いた 。 いちおう|かんがえ|える|はんい||そうさ||いらい||だして|

しかし 、 何といっても 年 末 で 、 どこ も 忙しい 。 |なんといっても|とし|すえ||||いそがしい

思う ように は 、 協力 を 取りつける こと が でき なかった 。 おもう|||きょうりょく||とりつける||||

三崎 が 焦り を 覚えて いた の も 、 無理 は ない 。 みさき||あせり||おぼえて||||むり||

沼 淵 に 石垣 の こと を 話した と いう 「 教え子 」 に 会って 、 話 を 聞いた が 、 直接 石垣 と 付合い が あった わけで は なく 、 具体 的な こと は ほとんど 知ら なかった 。 ぬま|ふち||いしがき||||はなした|||おしえご||あって|はなし||きいた||ちょくせつ|いしがき||つきあい||||||ぐたい|てきな||||しら|

そして 、 三崎 は ふと 思い 付いて 、 石垣 が 無理 心中 した と いう 女子 学生 の 親 に 連絡 した のである 。 |みさき|||おもい|ついて|いしがき||むり|しんじゅう||||じょし|がくせい||おや||れんらく||

会い たく ない 。 あい||

話 も し たく ない 。 はなし|||| ── 父親 の 反応 は 、 至って 素 気 ない もの だった 。 ちちおや||はんのう||いたって|そ|き|||

親 の 身 と して は 、 無理 も ない 。 おや||み||||むり||

三崎 に も その 気持 は よく 分 った 。 みさき||||きもち|||ぶん|

「── そりゃ 、 私 も 娘 が 好きな 男 を 作りゃ 、 怒った かも しれ ませ ん 。 |わたくし||むすめ||すきな|おとこ||つくりゃ|いかった||||

しかし 、 最終 的に ゃ 、 娘 が 幸せに なりゃ 、 それ で いい 。 |さいしゅう|てきに||むすめ||しあわせに|||| そう でしょう ? すっかり 老け 込んだ 感じ の 父親 は 、 髪 を 少し かき 上げて 、「 白く なり ました 。 |ふけ|こんだ|かんじ||ちちおや||かみ||すこし||あげて|しろく||

分 る でしょう ? ぶん|| 娘 が 死んで から です 。 むすめ||しんで|| それ まで は 、 白髪 なんて 、 一 本 も なかった のに ……」 |||しらが||ひと|ほん|||

「 石垣 と いう 男 に 会わ れた こと は ? いしがき|||おとこ||あわ|||

「 あり ます よ 」

と 、 笹 田 は 肯 いた 。 |ささ|た||こう|

「 あの とき 、 もっと よく あいつ の こと を 知って り ゃあ ……」 ||||||||しって||

「 そう です な 」

三崎 は 肯 いた 。 みさき||こう|

「 もし ── 娘 が 、 本当に 好きな 男 と 心中 した と いう の なら ね 、 もちろん 悲しい が 、 まだ 諦め も つく 。 |むすめ||ほんとうに|すきな|おとこ||しんじゅう||||||||かなしい|||あきらめ||

それ が 、 当人 は 死に たく も ない のに 、 殺さ れて 、 無理 心中 ……。 ||とうにん||しに|||||ころさ||むり|しんじゅう 石垣 の 奴 を 、 生き返ら せて 、 もう 一 度 この 手 で 殺して やり たい です よ 」 いしがき||やつ||いきかえら|||ひと|たび||て||ころして||||

笹 田 は 、 自分 の 両手 を 、 じっと 見下ろし ながら 言った 。 ささ|た||じぶん||りょうて|||みおろし||いった

「 どんな 男 でした ? |おとこ|

と 、 三崎 は 訊 いた 。 |みさき||じん|

「 石垣 です か ? いしがき||

まあ ── 神経質 そうな 、 と いう か 、 どことなく 暗い 感じ の 男 でした よ 」 |しんけいしつ|そう な|||||くらい|かんじ||おとこ||

「 どこ で お 会い に なった んです ? |||あい|||

「 ええ と ……。

何とか いう 店 でした ね 。 なんとか||てん|| 〈 P 〉 だった か な 。 p||| そう 、 そんな 名前 の 店 だった と 思い ます 」 ||なまえ||てん|||おもい|

三崎 の 眉 が 、 ちょっと 寄って 、 みさき||まゆ|||よって

「 その 店 の 名 は ── 確か 、 です か ? |てん||な||たしか||

と 、 念 を 押す 。 |ねん||おす

「 たぶん ね 。

── しかし 、 どうして そんな こと が ? 「 いや ……。

偶然 、 その 店 を 知って いる もの です から ね 」 ぐうぜん||てん||しって|||||

と 、 三崎 は 言った 。 |みさき||いった

「 石垣 は 、 どこ か 妙な 印象 を 与え ました か 」 いしがき||||みょうな|いんしょう||あたえ||

「 そう です ね ……。

いやに 落ちつき の ない 男 でした よ 」 |おちつき|||おとこ||

「 落ちつき の ない ? おちつき||

「 そう 。

── こっち の 目 を 真 直ぐ 見 ない と いう か ね 。 ||め||まこと|すぐ|み||||| いやに キョロキョロ して ……。 後 から 悪い 印象 を でっち上げた わけじゃ あり ませ ん よ 。 あと||わるい|いんしょう||でっちあげた||||| その とき 、 帰って 家内 に 石垣 の こと を そう 話した んです から 」 ||かえって|かない||いしがき|||||はなした||

「 そう です か ……」

三崎 は 、 ゆっくり と 肯 いた 。 みさき||||こう|

「 石垣 と は どんな ご用 で 会わ れた んです か ? いしがき||||ごよう||あわ||| 「 もちろん 、 娘 の 直子 の こと です 」 |むすめ||なおこ|||

と 、 笹 田 は 肩 を すくめて 、「 石垣 が 、 私 の 会社 へ 電話 して 来た んです よ 、 会い たい 、 と ね 」 |ささ|た||かた|||いしがき||わたくし||かいしゃ||でんわ||きた|||あい|||

「 話 と いう の は ──」 はなし||||

「 娘 に 惚れた 、 と いう わけです 。 むすめ||ほれた|||

妻 と 別れる から 、 結婚 を 許して ほしい 、 と 」 つま||わかれる||けっこん||ゆるして||

「 もちろん 、 あなた は ──」

「 冗談 じゃ ない 、 と 突っぱね ました よ 。 じょうだん||||つっぱね||

当然でしょう 。 とうぜんでしょう 娘 が 同じ 気持 だ と いう の なら ともかく 、 全く その 気 は なかった んです から 」 むすめ||おなじ|きもち|||||||まったく||き||||

「 石垣 は 何と ? いしがき||なんと

「 大して 、 こだわり ませ ん でした ね 。 たいして|||||

怒鳴り 合い と か に は なり ませ ん 。 どなり|あい||||||| 無気力な 感じ だった な 、 あいつ は 」 むきりょくな|かんじ||||

「 それでいて 無理 心中 を ──」 |むり|しんじゅう|

「 そう な んです 。

信じ られ ませ ん よ 、 全く ! しんじ|||||まったく 笹 田 は 、 深々と 息 を ついた 。 ささ|た||しんしんと|いき||

「 その 話 を した ので 、 娘 に 、 もう 家庭 教師 に 行く の は やめろ 、 と 言い ました 。 |はなし||||むすめ|||かてい|きょうし||いく|||||いい| しかし 、 直子 は ……。 |なおこ| 生徒 を 途中 で 放り 出せ ない 、 と 言い まして ね 。 せいと||とちゅう||はな り|だせ|||いい|| Never say that you can not let students out on the way. 責任 感 の 強い 娘 でした から ……」 せきにん|かん||つよい|むすめ||

「 そして 、 無理 心中 」 |むり|しんじゅう

「 そうです 。 そう です

しかし 、 無理 心中 って の は 殺人 です よ 。 |むり|しんじゅう||||さつじん|| But it is murder that impossible. そう でしょう ? しかも 犯人 は 死んで しまって いる 。 |はんにん||しんで|| Moreover, the criminal has died. ── 卑怯 だ ! ひきょう| 笹 田 は 、 吐き 捨てる ように 言った 。 ささ|た||はき|すてる||いった

「 同感 です ね 」 どうかん||

三崎 は 、 穏やかな 口調 で 言った 。 みさき||おだやかな|くちょう||いった

「── 娘 さん が 亡くなった とき 、 石垣 の 死体 も 、 ご覧 に なり ました か ? むすめ|||なくなった||いしがき||したい||ごらん|||| 「 いいえ 。

── それ どころ じゃ あり ませ ん 。 娘 が 殺さ れた と いう ショック だけ で ……」 むすめ||ころさ||||しょっく||

「 分 り ます 」 ぶん||

三崎 は 、 丁重に 礼 を 述べて 、 笹 田 と 別れた 。 みさき||ていちょうに|れい||のべて|ささ|た||わかれた

── 確かに 、 雪 に なり そうな 、 冷え 込み だった 。 たしかに|ゆき|||そう な|ひえ|こみ|

電話 ボックス へ 入った 三崎 は 、 署 へ 電話 を 入れた 。 でんわ|ぼっくす||はいった|みさき||しょ||でんわ||いれた

「── 三崎 だ 。 みさき|

何 か 分 った か ? なん||ぶん|| 「 それ らしい 山荘 が 、 三 つ 四 つ 、 出て 来て い ます 」 ||さんそう||みっ||よっ||でて|きて||

と 、 部下 の 若い 刑事 が 答える 。 |ぶか||わかい|けいじ||こたえる

「 今 、 確認 を 取って いる ところ です 」 いま|かくにん||とって|||

「 そう か 。

急が せて くれ 」 いそが||

と 、 三崎 は 言って 、「 国 友 と は 連絡 が ついた か ? |みさき||いって|くに|とも|||れんらく|||

「 いえ 、 まだ です 。

い ない んじゃ あり ませ ん か ね 」

「 うむ ……」

もちろん 、 三崎 自身 が 休め と 言って やった のだ から 、 国 友 が い なくて も 不思議 は ない 。 |みさき|じしん||やすめ||いって||||くに|とも|||||ふしぎ|| Of course, as Misaki himself said to be resting, it is no wonder that there is no national friend.

しかし 、 普通 なら 、 必ず 連絡 が つく ように 、 遠出 する とき は そう 知らせて から に する 。 |ふつう||かならず|れんらく||||とおで|||||しらせて|||

そう で なければ 、 部屋 に 戻って いる はずだ 。 |||へや||もどって||

いや 、 もしかしたら ……。

三崎 も 、 その 可能 性 は 考えて いた 。 みさき|||かのう|せい||かんがえて|

国 友 は 、 夕 里子 たち 三 人 姉妹 に 、 ついて 行った の かも しれ ない 。 くに|とも||ゆう|さとご||みっ|じん|しまい|||おこなった||||

もし そう なら 、 夕 里子 たち が 危険な 目 に あって も 、 無事に 切り抜ける 可能 性 は 大きい 。 |||ゆう|さとご|||きけんな|め||||ぶじに|きりぬける|かのう|せい||おおきい

そう であって くれれば 、 と 三崎 は 思って いた 。 ||||みさき||おもって|

「 それ から な ──」

と 、 三崎 は 受話器 を 握り 直した 。 |みさき||じゅわき||にぎり|なおした

「 例 の 、 石垣 と 笹 田 直子 の 無理 心中 の 事件 だ が 、 詳しく 知り たい 。 れい||いしがき||ささ|た|なおこ||むり|しんじゅう||じけん|||くわしく|しり| 特に 、 石垣 の 死体 を 確認 した の が 誰 な の か 」 とくに|いしがき||したい||かくにん||||だれ|||

「 分 り ました 」 ぶん||

「 頼む ぞ 。 たのむ|

俺 は この 近く で 飯 を 食って から 戻る 」 おれ|||ちかく||めし||くって||もどる

三崎 は 、 受話器 を 戻して 、 ボックス から 外 へ 出る と 、 風 の 冷た さ に 身 を 縮めた 。 みさき||じゅわき||もどして|ぼっくす||がい||でる||かぜ||つめた|||み||ちぢめた

「── 畜生 ! ちくしょう

三崎 は 、 足早に 歩き 出して いた 。 みさき||あしばやに|あるき|だして|

もし 、 俺 の 考えた 通り だった と したら ……。 |おれ||かんがえた|とおり|||

いや 、〈 P 〉 と いう 店 で 、 石垣 が 笹 田 と 会った こと も 、 偶然 と は 思え ない 。 |p|||てん||いしがき||ささ|た||あった|||ぐうぜん|||おもえ|

もし そう なら 、 今度 の 、 平川 浩子 の 異常な 殺し 方 も 、 分 る と いう もの だ 。 |||こんど||ひらかわ|ひろこ||いじょうな|ころし|かた||ぶん|||||

そして ……。

そう だ 。

三崎 は 、 まだ はっきり と 証拠 を つかんで いた わけで は ない が 、 ほとんど 確信 に 近い もの を 持って いた 。 みさき|||||しょうこ|||||||||かくしん||ちかい|||もって|

── 石垣 は 、 死んで い ない 。 いしがき||しんで||