29.1 或る 女
ある|おんな
29.1 A woman
29.1 Una mujer
この 事 が あって から また しばらく の 間 、 倉地 は 葉子 と ただ 二 人 の 孤独に 没頭 する 興味 を 新しく した ように 見えた 。
|こと|||||||あいだ|くらち||ようこ|||ふた|じん||こどくに|ぼっとう||きょうみ||あたらしく|||みえた
||||||||||||||||||immersed|||||||
そして 葉子 が 家 の 中 を いやが上にも 整頓 して 、 倉地 の ため に 住み心地 の いい 巣 を 造る 間 に 、 倉地 は 天気 さえ よければ 庭 に 出て 、 葉子 の 逍遙 を 楽しま せる ため に 精魂 を 尽くした 。
|ようこ||いえ||なか||いやがうえにも|せいとん||くらち||||すみごこち|||す||つくる|あいだ||くらち||てんき|||にわ||でて|ようこ||しょうよう||たのしま||||せいこん||つくした
|||||||||||||||||||build|||||||if||||||stroll||||||soul||
いつ 苔 香 園 と の 話 を つけた もの か 、 庭 の すみ に 小さな 木戸 を 作って 、 その 花園 の 母屋 から ずっと 離れた 小 逕 に 通い うる 仕掛け を したり した 。
|こけ|かおり|えん|||はなし|||||にわ||||ちいさな|きど||つくって||はなぞの||おもや|||はなれた|しょう|けい||かよい||しかけ|||
||||||||||||||||gate||||flower garden|||||||path||||device|||
二 人 は 時々 その 木戸 を ぬけて 目立た ない ように 、 広々 と した 苔 香 園 の 庭 の 中 を さまよった 。
ふた|じん||ときどき||きど|||めだた|||ひろびろ|||こけ|かおり|えん||にわ||なか||
|||||||through|||||||||||||||wandered
店 の 人 たち は 二 人 の 心 を 察する ように 、 なるべく 二 人 から 遠ざかる ように つとめて くれた 。
てん||じん|||ふた|じん||こころ||さっする|||ふた|じん||とおざかる|||
||||||||||to sense||as much as possible||||||tried|
十二 月 の 薔薇 の 花園 は さびしい 廃 園 の 姿 を 目の前 に 広げて いた 。
じゅうに|つき||ばら||はなぞの|||はい|えん||すがた||めのまえ||ひろげて|
||||||||ruins||||||||
可憐な 花 を 開いて 可憐な 匂い を 放つ くせ に この 灌木 は どこ か 強い 執着 を 持つ 植木 だった 。
かれんな|か||あいて|かれんな|におい||はなつ||||かんぼく||||つよい|しゅうちゃく||もつ|うえき|
|||||||emits|||||||||||||
寒 さ に も 霜 に も めげ ず 、 その 枝 の 先 に は まだ 裏 咲き の 小さな 花 を 咲か せよう と もがいて いる らしかった 。
さむ||||しも||||||えだ||さき||||うら|さき||ちいさな|か||さか|||||
|||||||||||||||||blooming||||||||struggling||
種々な 色 の つぼみ が おおかた 葉 の 散り 尽くした こずえ に まで 残って いた 。
しゅじゅな|いろ|||||は||ちり|つくした||||のこって|
|||bud|||||||||||
しかし その 花べん は 存分に 霜 に しいたげられて 、 黄色 に 変色 して 互いに 膠着 して 、 恵み 深い 日 の 目 に あって も 開き よう が なくなって いた 。
||かべん||ぞんぶんに|しも||しいたげ られて|きいろ||へんしょく||たがいに|こうちゃく||めぐみ|ふかい|ひ||め||||あき||||
|||||||overwhelmed||||||||||||||||||||
But the petals were so much frost-crushed that they had turned yellow and were glued together, unable to open even in the glorious light of day.
そんな 間 を 二 人 は 静かな 豊かな 心 で さまよった 。
|あいだ||ふた|じん||しずかな|ゆたかな|こころ||
風 の ない 夕暮れ など に は 苔 香 園 の 表門 を 抜けて 、 紅葉 館 前 の だらだら 坂 を 東 照 宮 の ほう まで 散歩 する ような 事 も あった 。
かぜ|||ゆうぐれ||||こけ|かおり|えん||おもてもん||ぬけて|こうよう|かん|ぜん|||さか||ひがし|あきら|みや||||さんぽ|||こと||
|||||||||||||||||||||east|east|shrine|||||||||
冬 の 夕方 の 事 とて 人通り は まれで 二 人 が さまよう 道 と して は この上 も なかった 。
ふゆ||ゆうがた||こと||ひとどおり|||ふた|じん|||どう||||このうえ||
||||||||seldom|||||||||||
葉子 は たまたま 行きあう 女 の 人 たち の 衣装 を 物珍しく ながめ やった 。
ようこ|||いきあう|おんな||じん|||いしょう||ものめずらしく||
|||met||||||costume||curiously||
それ が どんなに 粗末な 不格好な 、 いでたち であろう と も 、 女 は 自分 以外 の 女 の 服装 を ながめ なければ 満足 でき ない もの だ と 葉子 は 思い ながら それ を 倉地 に いって みたり した 。
|||そまつな|ぶかっこうな|||||おんな||じぶん|いがい||おんな||ふくそう||||まんぞく||||||ようこ||おもい||||くらち||||
||||awkward|appearance|||||||||||||||||||||||||||||||
つや の 髪 から 衣服 まで を 毎日 の ように 変えて 装わ して いた 自分 の 心持ち に も 葉子 は 新しい 発見 を した ように 思った 。
||かみ||いふく|||まいにち|||かえて|よそおわ|||じぶん||こころもち|||ようこ||あたらしい|はっけん||||おもった
|||||||||||dressed|||||||||||||||
ほんとう は 二 人 だけ の 孤独に 苦しみ 始めた の は 倉地 だけ で は なかった の か 。
||ふた|じん|||こどくに|くるしみ|はじめた|||くらち||||||
ある 時 に は その さびしい 坂道 の 上下 から 、 立派な 馬車 や 抱え 車 が 続々 坂 の 中段 を 目ざして 集まる の に あう 事 が あった 。
|じ|||||さかみち||じょうげ||りっぱな|ばしゃ||かかえ|くるま||ぞくぞく|さか||ちゅうだん||めざして|あつまる||||こと||
|||||||||||||car||||||middle|||||||||
坂 の 中段 から 紅葉 館 の 下 に 当たる 辺 に 導か れた 広い 道 の 奥 から は 、 能楽 の はやし の 音 が ゆかし げ に もれて 来た 。
さか||ちゅうだん||こうよう|かん||した||あたる|ほとり||みちびか||ひろい|どう||おく|||のうがく||||おと||||||きた
||||||||||||guided||||||||Noh theater||music||||inviting||||
二 人 は 能楽 堂 で の 能 の 催し が 終わり に 近づいて いる の を 知った 。
ふた|じん||のうがく|どう|||のう||もよおし||おわり||ちかづいて||||しった
|||||||Noh||event||||||||
同時に そんな 事 を 見た ので その 日 が 日曜日 である 事 に も 気 が ついた くらい 二 人 の 生活 は 世間 から かけ離れて いた 。
どうじに||こと||みた|||ひ||にちようび||こと|||き||||ふた|じん||せいかつ||せけん||かけはなれて|
・・
こうした 楽しい 孤独 も しかしながら 永遠に は 続き 得 ない 事 を 、 続か して いて は なら ない 事 を 鋭い 葉子 の 神経 は 目ざとく さ とって 行った 。
|たのしい|こどく|||えいえんに||つづき|とく||こと||つづか||||||こと||するどい|ようこ||しんけい||めざとく|||おこなった
|||||forever|||||||||||||||||||||||
ある 日 倉地 が 例 の ように 庭 に 出て 土 いじり に 精 を 出して いる 間 に 、 葉子 は 悪事 でも 働く ような 心持ち で 、 つや に いいつけて 反 古紙 を 集めた 箱 を 自分 の 部屋 に 持って 来 さして 、 いつか 読み も し ないで 破って しまった 木村 から の 手紙 を 選 り 出そう と する 自分 を 見いだして いた 。
|ひ|くらち||れい|||にわ||でて|つち|||せい||だして||あいだ||ようこ||あくじ||はたらく||こころもち|||||はん|こし||あつめた|はこ||じぶん||へや||もって|らい|||よみ||||やぶって||きむら|||てがみ||せん||だそう|||じぶん||みいだして|
|||||||||||||||||||||||||||||||old paper||||||||||||||||||||||||選び||||||||
いろいろな 形 に 寸断 さ れた 厚い 西 洋紙 の 断片 が 木村 の 書いた 文句 の 断片 を いく つ も いく つ も 葉子 の 目 に さらし 出した 。
|かた||すんだん|||あつい|にし|ようし||だんぺん||きむら||かいた|もんく||だんぺん||||||||ようこ||め|||だした
|||cut|||||Western paper|||||||||||||||||||||exposed|
しばらく の 間 葉子 は 引きつけられる ように そういう 紙片 を 手当たり次第 に 手 に 取り上げて 読みふけった 。
||あいだ|ようこ||ひきつけ られる|||しへん||てあたりしだい||て||とりあげて|よみふけった
|||||attracted|||piece of paper|||||||immersed
For a while, Yoko picked up any slips of paper she could find and read them.
半 成 の 画 が 美しい ように 断 簡 に は いい 知れ ぬ 情緒 が 見いださ れた 。
はん|しげ||が||うつくしい||だん|かん||||しれ||じょうちょ||みいださ|
|||||||sudden|simplicity|||||||||
その 中 に 正しく 織り込ま れた 葉子 の 過去 が 多少 の 力 を 集めて 葉子 に 逼って 来る ように さえ 思え 出した 。
|なか||まさしく|おりこま||ようこ||かこ||たしょう||ちから||あつめて|ようこ||ひつ って|くる|||おもえ|だした
|||correctly|woven||||||||||||||||||
葉子 は われ に も なく その 思い出 に 浸って 行った 。
ようこ|||||||おもいで||ひたって|おこなった
しかし それ は 長い 時 が 過ぎる 前 に くずれて しまった 。
|||ながい|じ||すぎる|ぜん|||
葉子 は すぐ 現実 に 取って返して いた 。
ようこ|||げんじつ||とってかえして|
そして すべて の 過去 に 嘔 き 気 の ような 不快 を 感じて 箱 ごと 台所 に 持って行く と つや に 命じて 裏庭 で その 全部 を 焼き捨て させて しまった 。
|||かこ||おう||き|||ふかい||かんじて|はこ||だいどころ||もっていく||||めいじて|うらにわ|||ぜんぶ||やきすて|さ せて|
|||||||||||||||||||||ordered||||||burned up||
・・
しかし この 時 も 葉子 は 自分 の 心 で 倉地 の 心 を 思いやった 。
||じ||ようこ||じぶん||こころ||くらち||こころ||おもいやった
そして それ が どうしても いい 徴候 で ない 事 を 知った 。
|||||ちょうこう|||こと||しった
|||||sign|||||
それ ばかり で は ない 。
二 人 は 霞 を 食って 生きる 仙人 の ように して は 生きて いられ ない のだ 。
ふた|じん||かすみ||くって|いきる|せんにん|||||いきて|いら れ||
||||||||possessive particle|||||||
職業 を 失った 倉地 に は 、 口 に こそ 出さ ない が 、 この 問題 は 遠からず 大きな 問題 と して 胸 に 忍ばせて ある の に 違いない 。
しょくぎょう||うしなった|くらち|||くち|||ださ||||もんだい||とおからず|おおきな|もんだい|||むね||しのばせて||||ちがいない
|||||||||||||||soon|||||||hidden||||
事務 長 ぐらい の 給料 で 余 財 が できて いる と は 考えられ ない 。
じむ|ちょう|||きゅうりょう||よ|ざい||||||かんがえ られ|
|||||||surplus|||||||
まして 倉地 の ように 身分 不相応な 金 づ かい を して いた 男 に は なお の 事 だ 。
|くらち|||みぶん|ふそうおうな|きむ||||||おとこ|||||こと|
|||||inappropriate|||||||||||||
その 点 だけ から 見て も この 孤独 は 破ら れ なければ なら ぬ 。
|てん|||みて|||こどく||やぶら||||
そして それ は 結局 二 人 の ため に いい 事 である に 相違 ない 。
|||けっきょく|ふた|じん|||||こと|||そうい|
葉子 は そう 思った 。
ようこ|||おもった
・・
ある 晩 それ は 倉地 の ほう から 切り出さ れた 。
|ばん|||くらち||||きりださ|
||||||||was cut out|
長い 夜 を 所在な さ そうに 読み も し ない 書物 など を いじ くって いた が 、 ふと 思い出した ように 、・・
ながい|よ||しょざいな||そう に|よみ||||しょもつ||||||||おもいだした|
「 葉子 。
ようこ
一 つ お前 の 妹 たち を 家 に 呼ぼう じゃ ない か …… それ から お前 の 子供って いう の も ぜひ ここ で 育てたい もん だ な 。
ひと||おまえ||いもうと|||いえ||よぼう||||||おまえ||こども って|||||||そだて たい|||
|||||||||call||||||||child|||||||want to raise|||
おれ も 急に 三 人 まで 子 を 失 く したら さびしくって なら ん から ……」・・
||きゅうに|みっ|じん||こ||うしな|||さびしく って|||
||||||||lost|||lonely|||
飛び立つ ような 思い を 葉子 は いち早く も みごとに 胸 の 中 で 押し しずめて しまった 。
とびたつ||おもい||ようこ||いちはやく|||むね||なか||おし||
||||||||||||||suppressed|
そうして 、・・
「 そう です ね 」・・
と いかにも 興味 なげ に いって ゆっくり と 倉地 の 顔 を 見た 。
||きょうみ||||||くらち||かお||みた
・・
「 それ より あなた の お 子 さん を 一 人 なり 二 人 なり 来て もらったら いかが 。
|||||こ|||ひと|じん||ふた|じん||きて||
…… わたし 奥さん の 事 を 思う と いつでも 泣きます ( 葉子 は そう いい ながら もう 涙 を いっぱいに 目 に ためて いた )。
|おくさん||こと||おもう|||なき ます|ようこ||||||なみだ|||め|||
||||||||cries|||||||||||||
けれど わたし は 生きて る 間 は 奥さん を 呼び戻して 上げて ください なんて …… そんな 偽善 者 じみ た 事 は いいません 。
|||いきて||あいだ||おくさん||よびもどして|あげて||||ぎぜん|もの|||こと||いい ませ ん
|||||||||bring back|||||hypocrisy||||||
わたし に は そんな 心持ち は みじんも ありません もの 。
||||こころもち|||あり ませ ん|
お 気の毒な と いう 事 と 、 二 人 が こう なって しまった と いう 事 と は 別物 です もの ねえ 。
|きのどくな|||こと||ふた|じん|||||||こと|||べつもの|||
|pitiful||||||||||||||||different thing|||
せめて は 奥さん が わたし を 詛い 殺そう と でも して くだされば 少し は 気持ち が いい んだ けれども 、 しとやかに して お 里 に 帰って いらっしゃる と 思う と つい 身 に つまされて しまいます 。
||おくさん||||のろい|ころそう|||||すこし||きもち||||||||さと||かえって|||おもう|||み|||しまい ます
||||||curse|will kill||||||||||||||||||||||||||
だからといって わたし は 自分 が 命 を なげ出して 築き上げた 幸福 を 人 に 上げる 気 に は なれません 。
|||じぶん||いのち||なげだして|きずきあげた|こうふく||じん||あげる|き|||なれ ませ ん
|||||||to throw away||||||||||
あなた が わたし を お 捨て に なる まで は ね 、 喜んで わたし は わたし を 通す んです 。
|||||すて||||||よろこんで|||||とおす|
…… けれども お 子 さん なら わたし ほんとうに ちっとも 構い は し ない 事 よ 。
||こ||||||かまい||||こと|
どう お 呼び寄せ に なって は ?
||よびよせ|||
||summon|||
」・・
「 ばかな 。
今さら そんな 事 が できて たまる か 」 倉地 は かんで 捨てる ように そう いって 横 を 向いて しまった 。
いまさら||こと|||||くらち|||すてる||||よこ||むいて|
ほんとう を いう と 倉地 の 妻 の 事 を いった 時 に は 葉子 は 心 の 中 を そのまま いって いた のだ 。
||||くらち||つま||こと|||じ|||ようこ||こころ||なか|||||
その 娘 たち の 事 を いった 時 に は まざまざ と した 虚 言 を ついて いた のだ 。
|むすめ|||こと|||じ||||||きょ|げん||||
|||||||||||||lie|||||
葉子 の 熱意 は 倉地 の 妻 を におわせる もの は すべて 憎かった 。
ようこ||ねつい||くらち||つま||||||にくかった
||||||||suggesting||||
Yoko's enthusiasm hated anything that made Kurachi's wife smell.
倉地 の 家 の ほう から 持ち 運ば れた 調度 すら 憎かった 。
くらち||いえ||||もち|はこば||ちょうど||にくかった
まして その 子 が 呪わ しく なくって どう しよう 。
||こ||のろわ||なく って||
葉子 は 単に 倉地 の 心 を 引いて みたい ばかりに 怖 々 ながら 心 に も ない 事 を いって みた のだった 。
ようこ||たんに|くらち||こころ||ひいて|||こわ|||こころ||||こと||||
倉地 の かんで 捨てる ような 言葉 は 葉子 を 満足 さ せた 。
くらち|||すてる||ことば||ようこ||まんぞく||
同時に 少し 強 すぎる ような 語調 が 懸念 で も あった 。
どうじに|すこし|つよ|||ごちょう||けねん|||
倉地 の 心底 を すっかり 見て取った と いう 自信 を 得た つもりで いながら 、 葉子 の 心 は 何 か 機 に つけて こう ぐらついた 。
くらち||しんそこ|||みてとった|||じしん||えた|||ようこ||こころ||なん||き||||
|||||||||||||||||||||||swayed
Though she had gained the confidence that she had completely grasped Kurachi's heart, for some reason Yoko's heart shook.
・・
「 わたし が ぜひ と いう んだ から 構わ ない じゃ ありません か 」・・
|||||||かまわ|||あり ませ ん|
「 そんな 負け惜しみ を いわ んで 、 妹 たち なり 定子 なり を 呼び寄せよう や 」・・
|まけおしみ||||いもうと|||さだこ|||よびよせよう|
|||||||||||let's call|
そう いって 倉地 は 葉子 の 心 を すみずみ まで 見抜いて る ように 、 大きく 葉子 を 包みこむ ように 見 やり ながら 、 いつも の 少し 渋い ような 顔 を して ほほえんだ 。
||くらち||ようこ||こころ||||みぬいて|||おおきく|ようこ||つつみこむ||み|||||すこし|しぶい||かお|||
||||||||||||||||包みこむ|||||||||||||
・・
葉子 は いい 潮時 を 見計らって 巧みに も 不 承 不 承 そうに 倉地 の 言葉 に 折れた 。
ようこ|||しおどき||みはからって|たくみに||ふ|うけたまわ|ふ|うけたまわ|そう に|くらち||ことば||おれた
|||timing||||||refusal||||||||
そして 田島 の 塾 から いよいよ 妹 たち 二 人 を 呼び寄せる 事 に した 。
|たしま||じゅく|||いもうと||ふた|じん||よびよせる|こと||
|||||finally||||||to summon|||
同時に 倉地 は その 近所 に 下宿 する の を 余儀なく さ れた 。
どうじに|くらち|||きんじょ||げしゅく||||よぎなく||
それ は 葉子 が 倉地 と の 関係 を まだ 妹 たち に 打ち明けて なかった から だ 。
||ようこ||くらち|||かんけい|||いもうと|||うちあけて|||
それ は もう 少し 先 に 適当な 時機 を 見計らって 知らせる ほう が いい と いう 葉子 の 意見 だった 。
|||すこし|さき||てきとうな|じき||みはからって|しらせる||||||ようこ||いけん|
倉地 に も それ に 不服 は なかった 。
くらち|||||ふふく||
そして 朝 から 晩 まで 一緒に 寝起き を する より は 、 離れた 所 に 住んで いて 、 気 の 向いた 時 に あう ほう が どれほど 二 人 の 間 の 戯れ の 心 を 満足 さ せる か しれ ない の を 、 二 人 は しばらく の 間 の 言葉 どおり の 同棲 の 結果 と して 認めて いた 。
|あさ||ばん||いっしょに|ねおき|||||はなれた|しょ||すんで||き||むいた|じ||||||ふた|じん||あいだ||たわむれ||こころ||まんぞく||||||||ふた|じん||||あいだ||ことば|||どうせい||けっか|||みとめて|
倉地 は 生活 を ささえて 行く 上 に も 必要である し 、 不休 の 活動 力 を 放射 する に も 必要な ので 解職 に なって 以来 何 か 事業 の 事 を 時々 思い ふけって いる ようだった が 、 いよいよ 計画 が 立った ので それ に 着手 する ため に は 、 当座 の 所 、 人々 の 出入り に 葉子 の 顔 を 見られ ない 所 で 事務 を 取る の を 便宜 と した らしかった 。
くらち||せいかつ|||いく|うえ|||ひつようである||ふきゅう||かつどう|ちから||ほうしゃ||||ひつような||かいしょく|||いらい|なん||じぎょう||こと||ときどき|おもい|ふけ って|||||けいかく||たった||||ちゃくしゅ|||||とうざ||しょ|ひとびと||でいり||ようこ||かお||み られ||しょ||じむ||とる|||べんぎ|||
|||||||||necessary|||||||radiation||||||dismissal|||||||||||||||||||||||to start||||||||||||||||||||||||||||
その ため に も 倉地 が しばらく なり と も 別居 する 必要 が あった 。
||||くらち||||||べっきょ||ひつよう||
・・
葉子 の 立場 は だんだん と 固まって 来た 。
ようこ||たちば||||かたまって|きた
||||||solidified|
十二 月 の 末 に 試験 が 済む と 、 妹 たち は 田島 の 塾 から 少し ばかりの 荷物 を 持って 帰って 来た 。
じゅうに|つき||すえ||しけん||すむ||いもうと|||たしま||じゅく||すこし||にもつ||もって|かえって|きた
|||||exam|||||||||||||||||
ことに 貞 世 の 喜び と いって は なかった 。
|さだ|よ||よろこび||||
二 人 は 葉子 の 部屋 だった 六 畳 の 腰 窓 の 前 に 小さな 二 つ の 机 を 並べた 。
ふた|じん||ようこ||へや||むっ|たたみ||こし|まど||ぜん||ちいさな|ふた|||つくえ||ならべた
|||||||||||||||||||||placed
今 まで なんとなく 遠慮がちだった つや も 生まれ 代わった ように 快活な はきはき した 少女 に なった 。
いま|||えんりょがちだった|||うまれ|かわった||かいかつな|||しょうじょ||
ただ 愛子 だけ は 少しも うれし さ を 見せ ないで 、 ただ 慎み深く 素直だった 。
|あいこ|||すこしも||||みせ|||つつしみぶかく|すなおだった
||||||||||||honest
・・
「 愛 ねえさん うれしい わ ねえ 」・・
あい||||
貞 世 は 勝ち誇る もの の ごとく 、 縁側 の 柱 に よりかかって じっと 冬枯れ の 庭 を 見つめて いる 姉 の 肩 に 手 を かけ ながら より添った 。
さだ|よ||かちほこる||||えんがわ||ちゅう||||ふゆがれ||にわ||みつめて||あね||かた||て||||よりそった
|||triumph||||||||||winter desolation||||||||||||||leaned
愛子 は 一 所 を またたき も し ない で 見つめ ながら 、・・
あいこ||ひと|しょ|||||||みつめ|
「 え ゝ 」・・
と 歯切れ 悪く 答える のだった 。
|はぎれ|わるく|こたえる|
|lack of clarity|||
貞 世 は じれった そうに 愛子 の 肩 を ゆすり ながら 、・・
さだ|よ|||そう に|あいこ||かた|||
|||impatient|||||||
「 でも ちっとも うれし そうじゃ ない わ 」・・
|||そう じゃ||
|||not||
と 責める ように いった 。
|せめる||
・・
「 でも うれしい んです もの 」・・
愛子 の 答え は 冷 然 と して いた 。
あいこ||こたえ||ひや|ぜん|||
十 畳 の 座敷 に 持ち込ま れた 行 李 を 明けて 、 よごれ 物 など を 選り分けて いた 葉子 は その 様子 を ちら と 見た ばかりで 腹 が 立った 。
じゅう|たたみ||ざしき||もちこま||ぎょう|り||あけて||ぶつ|||えりわけて||ようこ|||ようす||||みた||はら||たった
|||||brought|||baggage|||dirt||||selecting|||||||glance||||||
しかし 来た ばかりの もの を たしなめる でも ない と 思って 虫 を 殺した 。
|きた||||||||おもって|ちゅう||ころした
||||||||||||killed
・・
「 なんて 静かな 所 でしょう 。
|しずかな|しょ|
塾 より も きっと 静か よ 。
じゅく||||しずか|
でも こんなに 森 が あっちゃ 夜 に なったら さびしい わ ねえ 。
||しげる|||よ|||||
||||there||||||
わたし ひと り で お 便所 に 行ける か しら ん 。
|||||べんじょ||いける|||
|||||||can go|||
…… 愛 ねえさん 、 そら 、 あす こ に 木戸 が ある わ 。
あい||||||きど|||
きっと 隣 の お 庭 に 行ける の よ 。
|となり|||にわ||いける||
あの 庭 に 行って も いい の おね え 様 。
|にわ||おこなって||||||さま
だれ の お家 むこう は ?
||おいえ||
|||across|
……」・・
貞 世 は 目 に は いる もの は どれ も 珍しい と いう ように ひと り で しゃべって は 、 葉子 に と も 愛子 に と も なく 質問 を 連発 した 。
さだ|よ||め||||||||めずらしい|||||||||ようこ||||あいこ|||||しつもん||れんぱつ|
|||||||||||||||||||||||||||||||repeated|
そこ が 薔薇 の 花園 である の を 葉子 から 聞か さ れる と 、 貞 世 は 愛子 を 誘って 庭 下駄 を つっかけた 。
||ばら||はなぞの||||ようこ||きか||||さだ|よ||あいこ||さそって|にわ|げた||
愛子 も 貞 世に 続いて そっち の ほう に 出かける 様子 だった 。
あいこ||さだ|よに|つづいて|||||でかける|ようす|
・・
その 物音 を 聞く と 葉子 は もう 我慢 が でき なかった 。
|ものおと||きく||ようこ|||がまん|||
・・
「 愛さ ん お 待ち 。
あいさ|||まち
お前 さん 方 の もの が まだ 片づいて は いま せ ん よ 。
おまえ||かた|||||かたづいて|||||
遊び 回る の は 始末 を して から に なさい な 」・・
あそび|まわる|||しまつ||||||
愛子 は 従順に 姉 の 言葉 に 従って 、 その 美しい 目 を 伏せ ながら 座敷 の 中 に は いって 来た 。
あいこ||じゅうじゅんに|あね||ことば||したがって||うつくしい|め||ふせ||ざしき||なか||||きた
||obediently||||||||||||||||||