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LibriVOX 04 - Japanese, (10) Shiawase - 幸福 (Tōson Shimazaki 島崎藤村)

(10) Shiawase - 幸福 (Tōson Shimazaki 島崎藤村)

「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行き ました 。 誰 でも 幸福 の 欲しく ない 人 は あり ませ ん から 、 どこ の 家 を 訪ね まして も 、 みんな 大喜びで 迎えて くれる に ちがい あり ませ ん 。 けれども 、 それでは 人 の 心 が よく 分り ませ ん 。 そこ で 「 幸福 」 は 貧しい 貧しい 乞食 の ような 服装 を し ました 。 誰 か 聞いたら 、 自分 は 「 幸福 」 だ と 言わ ず に 「 貧乏 」 だ と 言う つもりでした 。 そんな 貧しい 服装 を して いて も 、 それ でも 自分 を よく 迎えて くれる 人 が あり ましたら 、 その 人 の ところ へ 幸福 を 分けて 置いて 来る つもりでした 。 この 「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行き ます と 、 犬 の 飼って ある 家 が あり ました 。 その 家 の 前 へ 行って 「 幸福 」 が 立ち ました 。 そこ の 家 の 人 は 「 幸福 」 が 来た と は 知り ませ ん から 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 家 の 前 に いる の を 見て 、 「 お前 さん は 誰 です か 。」 と 尋ね ました 。 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 「 ああ 、「 貧乏 」 か 。 「 貧乏 」 は 吾家 じゃ お 断り だ 。」 と そこ の 家 の 人 は 戸 を ぴ しゃんと しめて しまい ました 。 おまけに 、 そこ の 家 に 飼って ある 犬 が おそろしい 声 で 追い 立てる ように 鳴き ました 。 「 幸福 」 は 早速 ごめん を 蒙 り まして 、 今度 は 鶏 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ち ました 。 そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら なかった と 見えて 、 いやな もの でも 家 の 前 に 立った ように 顔 を しかめて 、 「 お前 さん は 誰 です か 。」 と 尋ね ました 。 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 「 ああ 、「 貧乏 」 か 、「 貧乏 」 は 吾家 じゃ 沢山だ 。」 と そこ の 家 の 人 は 深い 溜息 を つき ました 。 それ から 飼って ある 鶏 に 気 を つけ ました 。 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 来て 鶏 を 盗んで 行き は し ない か と 思った のでしょう 。 「 コッ 、 コッ 、 コッ 、 コッ 。」 と そこ の 「 と そこ の 」 は 底 本 で は 「 と そこ の 」] 家 の 鶏 は 用心深い 声 を 出して 鳴き ました 。 「 幸福 」 は また そこ の 家 でも ごめん を 蒙 り まして 、 今度 は 兎 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ち ました 。 「 お前 さん は 誰 です か 。」 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 「 ああ 、「 貧乏 」 か 。」 と 言い ました が 、 そこ の 家 の 人 が 出て 見る と 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 表 に 立って い ました 。 そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら ない ようでした が 、 なさけ と いう もの が ある と 見えて 、 台所 の 方 から おむすび を 一 つ 握って 来て 、 「 さあ 、 これ を お あがり 。」 と 言って くれ ました 。 そこ の 家 の 人 は 、 黄色い 沢庵 の お こうこ まで その おむすび に 添えて くれ ました 。 「 グウ 、 グウ 、 グウ 、 グウ 。」 と 兎 は 高い いびき を かいて 、 さも 楽し そうに 昼寝 を して い ました 。 「 幸福 」 に は そこ の 家 の 人 の 心 が よく 分り ました 。 おむすび 一 つ 、 沢庵 一切 に も 、 人 の 心 の 奥 は 知れる もの です 。 それ を うれしく 思い まして 、 その 兎 の 飼って ある 家 へ 幸福 を 分けて 置いて 来 ました 。


(10) Shiawase - 幸福 (Tōson Shimazaki 島崎藤村) shiawase|こうふく|tōson|shimazaki|しまさき ふじむら (10) Shiawase - Glück (Tōson Shimazaki) (10) Shiawase - Happiness (Tōson Shimazaki) (10) Shiawase - Happiness (Tōson Shimazaki)

「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行き ました 。 こうふく|||いえ||たずねて|いき| "Happiness" went to various homes. 誰 でも 幸福 の 欲しく ない 人 は あり ませ ん から 、 どこ の 家 を 訪ね まして も 、 みんな 大喜びで 迎えて くれる に ちがい あり ませ ん 。 だれ||こうふく||ほしく||じん||||||||いえ||たずね||||おおよろこびで|むかえて|||||| There is no one who does not want happiness, so no matter where you visit your house, everyone must be able to welcome you with great joy. けれども 、 それでは 人 の 心 が よく 分り ませ ん 。 ||じん||こころ|||ぶん り|| But then I do not understand people's mind well. そこ で 「 幸福 」 は 貧しい 貧しい 乞食 の ような 服装 を し ました 。 ||こうふく||まずしい|まずしい|こじき|||ふくそう||| So "happiness" dressed like a poor beggar. 誰 か 聞いたら 、 自分 は 「 幸福 」 だ と 言わ ず に 「 貧乏 」 だ と 言う つもりでした 。 だれ||きいたら|じぶん||こうふく|||いわ|||びんぼう|||いう| When I asked someone, I meant to say that I was "poor" without saying "I am happy." そんな 貧しい 服装 を して いて も 、 それ でも 自分 を よく 迎えて くれる 人 が あり ましたら 、 その 人 の ところ へ 幸福 を 分けて 置いて 来る つもりでした 。 |まずしい|ふくそう|||||||じぶん|||むかえて||じん|||||じん||||こうふく||わけて|おいて|くる| Even if you were wearing such poor clothes, if there were any people who could meet me well, I was going to share happiness with them. この 「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行き ます と 、 犬 の 飼って ある 家 が あり ました 。 |こうふく|||いえ||たずねて|いき|||いぬ||かって||いえ||| When this "happiness" went to various homes, there was a home with a dog. その 家 の 前 へ 行って 「 幸福 」 が 立ち ました 。 |いえ||ぜん||おこなって|こうふく||たち| I went to the front of the house and “happiness” stood up. そこ の 家 の 人 は 「 幸福 」 が 来た と は 知り ませ ん から 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 家 の 前 に いる の を 見て 、     「 お前 さん は 誰 です か 。」 ||いえ||じん||こうふく||きた|||しり||||まずしい|まずしい|こじき|||||いえ||ぜん|||||みて|おまえ|||だれ|| People in the house there don't know that 'happiness' has come, so I saw something like a poor poor beggar in front of the house, 'Who are you?' と 尋ね ました 。 |たずね| I asked. 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 ||びんぼう|| 「 ああ 、「 貧乏 」 か 。 |びんぼう| 「 貧乏 」 は 吾家 じゃ お 断り だ 。」 びんぼう||われいえ|||ことわり| と そこ の 家 の 人 は 戸 を ぴ しゃんと しめて しまい ました 。 |||いえ||じん||と|||||| おまけに 、 そこ の 家 に 飼って ある 犬 が おそろしい 声 で 追い 立てる ように 鳴き ました 。 |||いえ||かって||いぬ|||こえ||おい|たてる||なき| 「 幸福 」 は 早速 ごめん を 蒙 り まして 、 今度 は 鶏 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ち ました 。 こうふく||さっそく|||かぶ|||こんど||にわとり||かって||いえ||ぜん||おこなって|たち| そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら なかった と 見えて 、 いやな もの でも 家 の 前 に 立った ように 顔 を しかめて 、     「 お前 さん は 誰 です か 。」 ||いえ||じん||こうふく||きた|||しら|||みえて||||いえ||ぜん||たった||かお|||おまえ|||だれ|| と 尋ね ました 。 |たずね| 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 ||びんぼう|| 「 ああ 、「 貧乏 」 か 、「 貧乏 」 は 吾家 じゃ 沢山だ 。」 |びんぼう||びんぼう||われいえ||たくさんだ と そこ の 家 の 人 は 深い 溜息 を つき ました 。 |||いえ||じん||ふかい|ためいき||| それ から 飼って ある 鶏 に 気 を つけ ました 。 ||かって||にわとり||き||| 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 来て 鶏 を 盗んで 行き は し ない か と 思った のでしょう 。 まずしい|まずしい|こじき|||||きて|にわとり||ぬすんで|いき||||||おもった| 「 コッ 、 コッ 、 コッ 、 コッ 。」 と そこ の 「  と そこ の 」 は 底 本 で は 「 と そこ の 」] 家 の 鶏 は 用心深い 声 を 出して 鳴き ました 。 |||||||そこ|ほん||||||いえ||にわとり||ようじんぶかい|こえ||だして|なき| 「 幸福 」 は また そこ の 家 でも ごめん を 蒙 り まして 、 今度 は 兎 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ち ました 。 こうふく|||||いえ||||かぶ|||こんど||うさぎ||かって||いえ||ぜん||おこなって|たち| 「 お前 さん は 誰 です か 。」 おまえ|||だれ|| 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 ||びんぼう|| 「 ああ 、「 貧乏 」 か 。」 |びんぼう| と 言い ました が 、 そこ の 家 の 人 が 出て 見る と 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 表 に 立って い ました 。 |いい|||||いえ||じん||でて|みる||まずしい|まずしい|こじき|||||ひょう||たって|| そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら ない ようでした が 、 なさけ と いう もの が ある と 見えて 、 台所 の 方 から おむすび を 一 つ 握って 来て 、     「 さあ 、 これ を お あがり 。」 ||いえ||じん||こうふく||きた|||しら|||||||||||みえて|だいどころ||かた||||ひと||にぎって|きて||||| と 言って くれ ました 。 |いって|| そこ の 家 の 人 は 、 黄色い 沢庵 の お こうこ まで その おむすび に 添えて くれ ました 。 ||いえ||じん||きいろい|たくあん||||||||そえて|| 「 グウ 、 グウ 、 グウ 、 グウ 。」 ぐう|ぐう|ぐう|ぐう と 兎 は 高い いびき を かいて 、 さも 楽し そうに 昼寝 を して い ました 。 |うさぎ||たかい|||||たのし|そう に|ひるね|||| 「 幸福 」 に は そこ の 家 の 人 の 心 が よく 分り ました 。 こうふく|||||いえ||じん||こころ|||ぶん り| おむすび 一 つ 、 沢庵 一切 に も 、 人 の 心 の 奥 は 知れる もの です 。 |ひと||たくあん|いっさい|||じん||こころ||おく||しれる|| One corner, one corner, and one corner, the back of a person's mind is something that is known. それ を うれしく 思い まして 、 その 兎 の 飼って ある 家 へ 幸福 を 分けて 置いて 来 ました 。 |||おもい|||うさぎ||かって||いえ||こうふく||わけて|おいて|らい|