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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第六章 それぞれの星 (2)

キルヒアイス は 中将 に 昇進 し 、 黄金色 燦 然 たる 〝 双 頭 鷲 武 勲章 〟 を 授与 さ れた 。 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 が 帝国 宰相 代理 と して の 資格 で それ ら を キルヒアイス に さずけ 、 彼 の 武 勲 を たたえ 、 皇帝 陛下 の 恩 寵 に 感謝 して いっそう の 忠誠 を つくせ 、 と 諭した 。

裏面 の 事情 を キルヒアイス は すべて 知っていた から 、 ワイツ に 教 唆さ れた リヒテンラーデ 侯 の 〝 ご 機嫌 とり 〟 は ばかばかしい だけ だった が 、 もちろん そんな 心情 は 表面 に は ださ なかった 。

それにしても 、 皇帝 に 忠誠 を つくせ 、 と は 論外な こと を 言わ れる もの だ 、 と キルヒアイス は 思う 。 彼 が 忠誠 を つくす 対象 を 、 彼 の 前 から 拉致 し 、 現在 なお 独占 して いる の は 、 皇帝 フリードリヒ 四 世 その 人 で は ない か 。 自分 が 戦って いる の は 、 帝国 の ため でも 、 帝 室 の ため でも 、 皇帝 の ため で も ない 。

じつのところ 、 赤毛 で 長身 の ジークフリード ・ キルヒアイス 青年 は 、 上 は 公爵 家 の 令嬢 から 下 は 小 間 使 の 少女 まで 、 宮中 の 女性 に かなり の 人気 が ある のだった 。 本人 は まるで 気づいて い なかった が 、 気づいた ところ で 迷惑 に しか 思わ なかった だろう 。

こうして 、 ラインハルト と キルヒアイス が それぞれ の 地歩 を 確立 し つつ ある とき 、 彼ら の 前 に 、 半 白 の 頭髪 の オーベルシュタイン 大佐 が あらわれた のだ 。

Ⅱ 参謀 が ほしい ―― ラインハルト の 願望 は この ところ 強まる いっぽう だった 。 彼 の のぞむ 参謀 と は 、 かならずしも 軍事 上 の もの と は いえ ない 。 それ なら ラインハルト 自身 と キルヒアイス で 充分だ 。 むしろ 政略 ・ 謀略 方面 の 色彩 が 濃い 。 これ から は 、 宮廷 に 巣 喰 う 貴族 ども を 相手 に 、 その 種 の 闘争 が 、 はっきり 言えば 陰謀 や だまし あい が ふえる だろう 、 と 、 ラインハルト は 予想 して いる 。 とすると 、 その 方面 に おける 相談 の 相手 と して は キルヒアイス は むいて いない のだ 。 これ は 知能 の 問題 で は なく 性格 や 思考 法 の 問題 な のである 。

衛兵 に ブラスター を あずけ 、 非 武装 で 執務 室 に は いって きた 男 の 姿 を 、 ラインハルト は 脳裏 の 人名 カード で 確認 した 。 彼 に かんして 好意 的である べき 理由 は 、 それ に は 記されて い なかった 。 「 オーベルシュタイン 大佐 だった な 。 私 に どんな 用件 が ある のだ ? 」 「 まず 、 お 人 払い を 願います 」 尊大 と 称する に ちかい 態度 で 、 招か れ ざる 客人 は 要求 した 。

「 ここ に は 三 人 しか いない 」 「 そう 、 キルヒアイス 中将 が おら れる 。 ですから お 人 払い を と 願って います 」 キルヒアイス は 黙 然 と 、 ラインハルト は するどい 眼光 で 、 ともに 客人 を 見つめた 。

「 キルヒアイス 中将 は 私 自身 も 同様だ 。 それ を 卿 は 知ら ない の か 」

「 存じて おります 」 「 あえて 彼 に 聞か せ たく ない 話 が ある と いう のだ な 。 だが あと で 私 が 彼 に 話せば 、 けっきょく は おなじ こと だ ぞ 」

「 それ は むろん 、 閣下 の ご 自由に 。 ですが 閣下 、 覇業 を 成就 さ れる に は 、 さまざまな ことなる タイプ の 人材 が 必要でしょう 。 A に は A に むいた 話 、 B に は B に ふさわしい 任務 、 と いう もの が ある と 思います が ……」 キルヒアイス が ラインハルト を 見 やって 遠慮がちに 言った 。

「 元帥 閣下 、 わたくし は 隣室 に ひかえて いた ほう が よろしい か と ……」

「 そう か 」

ラインハルト は なに か 考える 表情 で うなずいた 。 キルヒアイス が たち去る と 、 オーベルシュタイン は ようやく 本題 に はいった 。

「 じつは 閣下 、 私 は 現在 、 いささか 苦しい 立場 に たた されて います 。 ご存じ か と 思います が ……」 「 イゼルローン から の 逃亡 者 。 糾弾 されて 当然だろう な 。 ゼークト 提督 は 壮烈な 玉砕 を とげた と いう のに 」

ラインハルト の 返答 は 冷たい 。 しかし オーベルシュタイン に 動じる 気配 は なかった 。

「 凡 百 の 指揮 官 に とって 、 私 は 卑劣な 逃亡 者 に すぎます まい 。 しかし 閣下 、 私 に は 私 の 言い ぶん が あります 。 閣下 に それ を 聞いて いただきたい のです 」 「 筋違いだ な 。 卿 が それ を 主張 す べき は 私 に で は なく 軍 法 会議 で だろう 」

イゼルローン 駐留 艦隊 旗 艦 の ただ ひと り の 生存 者 である オーベルシュタイン は 、 生き残った と いう 、 まさに その 一事 に よって 処 断 さ れ かね ない 立場 に あった 。 指揮 官 を 補佐 しそ の 誤り を 矯正 する 、 と いう 任務 を まっとうせ ず 、 しかも 一身 の 安全 を はかった ―― それ が 白 眼 視 と 弾劾 の 理由 であった が 、 イゼルローン 失 陥 の 場 に 居合わせた 適当な 人物 に なんらか の 責任 を とら せ ねば なら ない 、 と いう 事情 も あった 。

ラインハルト の 冷淡な 応答 を 聞く と 、 オーベルシュタイン は 不意に 右 眼 に 手 を やった 。 やがて 手 が おろさ れる と 、 顔 の 一部 に 、 小さい が 異様な 空洞 が 生じた 。 右 の 掌 に のせた 小さな 、 ほぼ 球 型 の 結晶 体 に 似た もの を 、 半 白 の 髪 の 男 は 若い 元帥 の ほう へ さしだした 。

「 これ を ごらん ください 、 閣下 」

「…………」

「 キルヒアイス 中将 から お 聞き に なった と 思います が 、 この とおり 私 の 両眼 は 義 眼 です 。 あの ルドルフ 大帝 の 治 世 であれば 〝 劣悪 遺伝子 排除 法 〟 に よって 赤ん坊 の ころ に 抹殺 されて いた でしょう 」 はずした 義 眼 を ふたたび 眼 窩 に はめこむ と 、 オーベルシュタイン は 正面 から ラインハルト の 視界 に えぐる ような 眼光 を 送りこんで きた 。

「 お わかり に なります か 。 私 は 憎んで いる のです 。 ルドルフ 大帝 と 彼 の 子孫 と 彼 の 産み だした すべて の もの を …… ゴールデンバウム 朝 銀河 帝国 そのもの を ね 」

「 大胆な 発言 だ な 」

閉 所 恐怖 症 患者 の おぼえる ような 息苦し さ が 、 若い 元帥 を 一瞬 だ が とらえた 。 この 男 の 義 眼 の 機能 に は 人 を 圧倒 する ―― あるいは 圧迫 する 素子 が セット されて いる ので は ない か 、 と いう 非 合理 的な 疑惑 さえ そそら れた 。 防音 装置 が 完備 した 室 内 で 、 オーベルシュタイン の 声 は 低かった が 、 ときならぬ 春 雷 の ように 轟いた 。

「 銀河 帝国 、 いや 、 ゴールデンバウム 王朝 は 滅びる べきです 。 可能であれば 私 自身 の 手 で 滅ぼして やりたい 。 ですが 、 私 に は その 力量 が ありません 。 私 に できる こと は あらたな 覇者 の 登場 に 協力 する こと 、 ただ それ だけ です 。 つまり あなた です 、 帝国 元帥 、 ローエングラム 伯 ラインハルト 閣下 」

帯 電 した 空気 が ひび割れる 音 を ラインハルト は 聴いた 。

「 キルヒアイス ! 」 椅子 から たちあがり ながら 、 ラインハルト は 腹心 の 友 を 呼んだ 。 壁 が 音 も なく 開き 、 赤毛 の 若者 が 丈 高い 姿 を あらわす 。 ラインハルト の 指 が オーベルシュタイン を さした 。

「 キルヒアイス 、 オーベルシュタイン 大佐 を 逮捕 しろ 。 帝国 にたいし 不 逞 な 反逆 の 言 辞 が あった 。 帝国 軍人 と して 看過 でき ぬ 」

オーベルシュタイン は 義 眼 を 激しく 光らせた 。 赤毛 の 青年 士官 は 神 速 の 技 で 右手 に ブラスター を 抜き もって 、 彼 の 胸 の 中央 に 狙い を さだめて いた 。 幼年 学校 以来 、 射撃 の 技 倆 で 彼 を 凌ぐ 者 は すくない 。 たとえ オーベルシュタイン が 拳銃 を 所持 して おり 、 抵抗 を 試みた と して も 無益であったろう 。

「 しょせん 、 あなた も この ていど の 人 か ……」

オーベルシュタイン は つぶやいた 。 失望 と 自嘲 の 苦い 陰 翳 が 、 もともと 血の気 の 薄い 顔 に さしこんで いる 。

「 けっこう 、 キルヒアイス 中将 ひと り を 腹心 と たのんで 、 あなた の 狭い 道 を お 征 き なさい 」

なかば 演技 、 なかば 本心 の 発言 だった 。 ラインハルト の 沈黙 する 姿 に 視線 を 投げる と 、 彼 は キルヒアイス に むきなおった 。

「 キルヒアイス 中将 、 私 を 撃てる か 。 私 は この とおり 丸 腰 だ 。 それ でも 撃てる か ? 」 ラインハルト が あらためて 命令 を ださ なかった こと も ある が 、 キルヒアイス は 狙い を さだめた まま 、 引金 に かけた 指 に 力 を いれる こと を ためらった 。 「 撃て んだろう 。 貴 官 は そういう 男 だ 。 尊敬 に 値する が 、 それ だけ で は 覇業 を なす に 充分 と は 言え ん のだ 。 光 に は 影 が したがう …… しかし お 若い ローエングラム 伯 に は まだ ご 理解 いただけ ぬ か 」

ラインハルト は オーベルシュタイン を 凝視 した まま 、 ブラスター を おさめる よう キルヒアイス に 合図 した 。 微妙に 表情 が 変わって いた 。

「 言いたい こと を 言う 男 だ な 」 「 恐縮 です 」

「 ゼークト 提督 から も さぞ 嫌わ れた こと だろう 、 ちがう か 」

「 あの 提督 は 部下 の 忠誠 心 を 刺激 する 人 では ありません でした 」 平然と オーベルシュタイン は 答えた 。 賭け に 勝った こと を 彼 は 知った 。

ラインハルト は うなずいた 。

「 よかろう 、 卿 を 貴族 ども から 買う 」

Ⅲ 軍務 尚 書 、 統帥 本部 総長 、 宇宙 艦隊 司令 長官 の 三 者 を 帝国 軍 三 長官 と 称する が 、 ひと り で この 三 者 を 兼任 した 例 は 、 一 世紀 ちかく も 昔 に 当時 の 皇太子 オトフリート が ある だけ である 。 彼 は また 帝国 宰相 を も かねた が 、 その後 、 帝国 宰相 が 正式に おか れ ず 、 国務 尚 書 を その 代理 に あてる ように なった の は 、 臣下 が 皇帝 の 先例 に ならう こと を 避ける ため だった 。

オトフリート は 皇太子 時代 は 有能で 人望 も あった が 、 即位 して 皇帝 オトフリート 三 世 と なって から は 、 たびかさなる 宮廷 陰謀 の 渦中 で 猜 疑心 のみ が 肥大 し 、 四 度 に わたって 皇后 を かえ 、 五 度 に わたって 帝 位 継承 者 を かえ 、 最後に は 毒殺 を おそれる あまり 食事 も ひかえる ように なって 、 四〇 代 なかば で 衰弱 死 して いる ……。

その 帝国 軍 三 長官 ―― 軍務 尚 書 エーレンベルク 、 統帥 本部 総長 シュタインホフ 、 宇宙 艦隊 司令 長官 ミュッケンベルガー は 、 帝国 宰相 代理 たる 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 に 辞表 を 提出 した 。 イゼルローン 失 陥 の 責任 を とる ため である 。

「 卿 ら は 責任 を 回避 して 地位 に 執着 しよう と せ ぬ 。 その いさぎよ さ は 賞す べき と 思う 。 しかし 三 長官 の ポスト が 一 時 に 空けば 、 すくなくとも その ひと つ は ローエングラム 伯 の える ところ と なろう 。 彼 の 階 位 が すすむ 手助け を 卿 ら が わざわざ する こと は ある まい 。 経済 的に こまって おら ぬ 卿 ら だ 、 今後 一 年 ほど 俸給 を 返上 する と いう こと で どう か 」

国務 尚 書 が 言う と 、 シュタインホフ 元帥 が 苦渋 の 表情 を 浮かべて 答えた 。

「 その 点 を 考え ないで も ありません でした が 、 私 ども も 武人 です 。 地位 に 恋 々 と して 出 処 進退 を 誤った と 評さ れる の は あまりに 無念 …… どう か お 受けとり 願います 」 やむ を え ず 、 リヒテンラーデ 侯 は 宮廷 に おもむき 、 皇帝 フリードリヒ 四 世 に 三 長官 の 辞表 を とりついだ 。

あいかわらず 無気力 そうに 国務 尚 書 の 話 を 聞いて いた 皇帝 は 、 侍 従 に 命じて ラインハルト を 元帥 府 から 呼びよせた 。 TV 電話 を 使えば すむ ところ を 、 わざわざ 呼びよせる の が 、 皇帝 の 権力 に 必要な 形式 の 一端 である 。

ラインハルト が 参内 する と 、 皇帝 は 三 通 の 辞表 を 若い 帝国 元帥 に しめして 、 どの 職 が ほしい か 、 と 玩具 でも えらば せる ような 語調 で 訊 ねた 。 憮然と して たたずむ 国務 尚 書 を ちらり と 見る と 、 ラインハルト は 答えた 。

「 みずから 功績 を たてた わけで も ございませ ん のに 、 ほか の 方 の 席 を 奪う こと は できません 。 イゼルローン の 失 陥 は 、 ゼークト 、 シュトックハウゼン 両 提督 の 不覚に よる もの 、 しかも ゼークト 提督 は 死 を もって 罪 を つぐなって おり 、 いま ひと り は 敵 の 獄中 に あります 。 ほか に 罪 を える べき 者 が いる と は 、 わたくし は 思いません 。 なにとぞ 三 長官 を お 咎め なき よう 、 つつしんで 陛下 に お 願い 申しあげます 」 「 ふむ 、 そち は 無欲だ な 」

皇帝 は 事態 の 意外 さ に おどろく 国務 尚 書 を かえりみた 。

「 伯 は こう 申して おる 。


キルヒアイス は 中将 に 昇進 し 、 黄金色 燦 然 たる 〝 双 頭 鷲 武 勲章 〟 を 授与 さ れた 。 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 が 帝国 宰相 代理 と して の 資格 で それ ら を キルヒアイス に さずけ 、 彼 の 武 勲 を たたえ 、 皇帝 陛下 の 恩 寵 に 感謝 して いっそう の 忠誠 を つくせ 、 と 諭した 。

裏面 の 事情 を キルヒアイス は すべて 知っていた から 、 ワイツ に 教 唆さ れた リヒテンラーデ 侯 の 〝 ご 機嫌 とり 〟 は ばかばかしい だけ だった が 、 もちろん そんな 心情 は 表面 に は ださ なかった 。

それにしても 、 皇帝 に 忠誠 を つくせ 、 と は 論外な こと を 言わ れる もの だ 、 と キルヒアイス は 思う 。 彼 が 忠誠 を つくす 対象 を 、 彼 の 前 から 拉致 し 、 現在 なお 独占 して いる の は 、 皇帝 フリードリヒ 四 世 その 人 で は ない か 。 自分 が 戦って いる の は 、 帝国 の ため でも 、 帝 室 の ため でも 、 皇帝 の ため で も ない 。

じつのところ 、 赤毛 で 長身 の ジークフリード ・ キルヒアイス 青年 は 、 上 は 公爵 家 の 令嬢 から 下 は 小 間 使 の 少女 まで 、 宮中 の 女性 に かなり の 人気 が ある のだった 。 本人 は まるで 気づいて い なかった が 、 気づいた ところ で 迷惑 に しか 思わ なかった だろう 。

こうして 、 ラインハルト と キルヒアイス が それぞれ の 地歩 を 確立 し つつ ある とき 、 彼ら の 前 に 、 半 白 の 頭髪 の オーベルシュタイン 大佐 が あらわれた のだ 。

参謀 が ほしい ―― ラインハルト の 願望 は この ところ 強まる いっぽう だった 。

彼 の のぞむ 参謀 と は 、 かならずしも 軍事 上 の もの と は いえ ない 。 それ なら ラインハルト 自身 と キルヒアイス で 充分だ 。 むしろ 政略 ・ 謀略 方面 の 色彩 が 濃い 。 これ から は 、 宮廷 に 巣 喰 う 貴族 ども を 相手 に 、 その 種 の 闘争 が 、 はっきり 言えば 陰謀 や だまし あい が ふえる だろう 、 と 、 ラインハルト は 予想 して いる 。 とすると 、 その 方面 に おける 相談 の 相手 と して は キルヒアイス は むいて いない のだ 。 これ は 知能 の 問題 で は なく 性格 や 思考 法 の 問題 な のである 。

衛兵 に ブラスター を あずけ 、 非 武装 で 執務 室 に は いって きた 男 の 姿 を 、 ラインハルト は 脳裏 の 人名 カード で 確認 した 。 彼 に かんして 好意 的である べき 理由 は 、 それ に は 記されて い なかった 。 「 オーベルシュタイン 大佐 だった な 。 私 に どんな 用件 が ある のだ ? 」

「 まず 、 お 人 払い を 願います 」 尊大 と 称する に ちかい 態度 で 、 招か れ ざる 客人 は 要求 した 。

「 ここ に は 三 人 しか いない 」 「 そう 、 キルヒアイス 中将 が おら れる 。 ですから お 人 払い を と 願って います 」 キルヒアイス は 黙 然 と 、 ラインハルト は するどい 眼光 で 、 ともに 客人 を 見つめた 。

「 キルヒアイス 中将 は 私 自身 も 同様だ 。 それ を 卿 は 知ら ない の か 」

「 存じて おります 」 「 あえて 彼 に 聞か せ たく ない 話 が ある と いう のだ な 。 だが あと で 私 が 彼 に 話せば 、 けっきょく は おなじ こと だ ぞ 」

「 それ は むろん 、 閣下 の ご 自由に 。 ですが 閣下 、 覇業 を 成就 さ れる に は 、 さまざまな ことなる タイプ の 人材 が 必要でしょう 。 A に は A に むいた 話 、 B に は B に ふさわしい 任務 、 と いう もの が ある と 思います が ……」 キルヒアイス が ラインハルト を 見 やって 遠慮がちに 言った 。

「 元帥 閣下 、 わたくし は 隣室 に ひかえて いた ほう が よろしい か と ……」

「 そう か 」

ラインハルト は なに か 考える 表情 で うなずいた 。 キルヒアイス が たち去る と 、 オーベルシュタイン は ようやく 本題 に はいった 。

「 じつは 閣下 、 私 は 現在 、 いささか 苦しい 立場 に たた されて います 。 ご存じ か と 思います が ……」 「 イゼルローン から の 逃亡 者 。 糾弾 されて 当然だろう な 。 ゼークト 提督 は 壮烈な 玉砕 を とげた と いう のに 」

ラインハルト の 返答 は 冷たい 。 しかし オーベルシュタイン に 動じる 気配 は なかった 。

「 凡 百 の 指揮 官 に とって 、 私 は 卑劣な 逃亡 者 に すぎます まい 。 しかし 閣下 、 私 に は 私 の 言い ぶん が あります 。 閣下 に それ を 聞いて いただきたい のです 」 「 筋違いだ な 。 卿 が それ を 主張 す べき は 私 に で は なく 軍 法 会議 で だろう 」

イゼルローン 駐留 艦隊 旗 艦 の ただ ひと り の 生存 者 である オーベルシュタイン は 、 生き残った と いう 、 まさに その 一事 に よって 処 断 さ れ かね ない 立場 に あった 。 指揮 官 を 補佐 しそ の 誤り を 矯正 する 、 と いう 任務 を まっとうせ ず 、 しかも 一身 の 安全 を はかった ―― それ が 白 眼 視 と 弾劾 の 理由 であった が 、 イゼルローン 失 陥 の 場 に 居合わせた 適当な 人物 に なんらか の 責任 を とら せ ねば なら ない 、 と いう 事情 も あった 。

ラインハルト の 冷淡な 応答 を 聞く と 、 オーベルシュタイン は 不意に 右 眼 に 手 を やった 。 やがて 手 が おろさ れる と 、 顔 の 一部 に 、 小さい が 異様な 空洞 が 生じた 。 右 の 掌 に のせた 小さな 、 ほぼ 球 型 の 結晶 体 に 似た もの を 、 半 白 の 髪 の 男 は 若い 元帥 の ほう へ さしだした 。

「 これ を ごらん ください 、 閣下 」

「…………」

「 キルヒアイス 中将 から お 聞き に なった と 思います が 、 この とおり 私 の 両眼 は 義 眼 です 。 あの ルドルフ 大帝 の 治 世 であれば 〝 劣悪 遺伝子 排除 法 〟 に よって 赤ん坊 の ころ に 抹殺 されて いた でしょう 」 はずした 義 眼 を ふたたび 眼 窩 に はめこむ と 、 オーベルシュタイン は 正面 から ラインハルト の 視界 に えぐる ような 眼光 を 送りこんで きた 。

「 お わかり に なります か 。 私 は 憎んで いる のです 。 ルドルフ 大帝 と 彼 の 子孫 と 彼 の 産み だした すべて の もの を …… ゴールデンバウム 朝 銀河 帝国 そのもの を ね 」

「 大胆な 発言 だ な 」

閉 所 恐怖 症 患者 の おぼえる ような 息苦し さ が 、 若い 元帥 を 一瞬 だ が とらえた 。 この 男 の 義 眼 の 機能 に は 人 を 圧倒 する ―― あるいは 圧迫 する 素子 が セット されて いる ので は ない か 、 と いう 非 合理 的な 疑惑 さえ そそら れた 。 防音 装置 が 完備 した 室 内 で 、 オーベルシュタイン の 声 は 低かった が 、 ときならぬ 春 雷 の ように 轟いた 。

「 銀河 帝国 、 いや 、 ゴールデンバウム 王朝 は 滅びる べきです 。 可能であれば 私 自身 の 手 で 滅ぼして やりたい 。 ですが 、 私 に は その 力量 が ありません 。 私 に できる こと は あらたな 覇者 の 登場 に 協力 する こと 、 ただ それ だけ です 。 つまり あなた です 、 帝国 元帥 、 ローエングラム 伯 ラインハルト 閣下 」

帯 電 した 空気 が ひび割れる 音 を ラインハルト は 聴いた 。

「 キルヒアイス ! 」

椅子 から たちあがり ながら 、 ラインハルト は 腹心 の 友 を 呼んだ 。 壁 が 音 も なく 開き 、 赤毛 の 若者 が 丈 高い 姿 を あらわす 。 ラインハルト の 指 が オーベルシュタイン を さした 。

「 キルヒアイス 、 オーベルシュタイン 大佐 を 逮捕 しろ 。 帝国 にたいし 不 逞 な 反逆 の 言 辞 が あった 。 帝国 軍人 と して 看過 でき ぬ 」

オーベルシュタイン は 義 眼 を 激しく 光らせた 。 赤毛 の 青年 士官 は 神 速 の 技 で 右手 に ブラスター を 抜き もって 、 彼 の 胸 の 中央 に 狙い を さだめて いた 。 幼年 学校 以来 、 射撃 の 技 倆 で 彼 を 凌ぐ 者 は すくない 。 たとえ オーベルシュタイン が 拳銃 を 所持 して おり 、 抵抗 を 試みた と して も 無益であったろう 。

「 しょせん 、 あなた も この ていど の 人 か ……」

オーベルシュタイン は つぶやいた 。 失望 と 自嘲 の 苦い 陰 翳 が 、 もともと 血の気 の 薄い 顔 に さしこんで いる 。

「 けっこう 、 キルヒアイス 中将 ひと り を 腹心 と たのんで 、 あなた の 狭い 道 を お 征 き なさい 」

なかば 演技 、 なかば 本心 の 発言 だった 。 ラインハルト の 沈黙 する 姿 に 視線 を 投げる と 、 彼 は キルヒアイス に むきなおった 。

「 キルヒアイス 中将 、 私 を 撃てる か 。 私 は この とおり 丸 腰 だ 。 それ でも 撃てる か ? 」

ラインハルト が あらためて 命令 を ださ なかった こと も ある が 、 キルヒアイス は 狙い を さだめた まま 、 引金 に かけた 指 に 力 を いれる こと を ためらった 。

「 撃て んだろう 。 貴 官 は そういう 男 だ 。 尊敬 に 値する が 、 それ だけ で は 覇業 を なす に 充分 と は 言え ん のだ 。 光 に は 影 が したがう …… しかし お 若い ローエングラム 伯 に は まだ ご 理解 いただけ ぬ か 」

ラインハルト は オーベルシュタイン を 凝視 した まま 、 ブラスター を おさめる よう キルヒアイス に 合図 した 。 微妙に 表情 が 変わって いた 。

「 言いたい こと を 言う 男 だ な 」 「 恐縮 です 」

「 ゼークト 提督 から も さぞ 嫌わ れた こと だろう 、 ちがう か 」

「 あの 提督 は 部下 の 忠誠 心 を 刺激 する 人 では ありません でした 」 平然と オーベルシュタイン は 答えた 。 賭け に 勝った こと を 彼 は 知った 。

ラインハルト は うなずいた 。

「 よかろう 、 卿 を 貴族 ども から 買う 」

軍務 尚 書 、 統帥 本部 総長 、 宇宙 艦隊 司令 長官 の 三 者 を 帝国 軍 三 長官 と 称する が 、 ひと り で この 三 者 を 兼任 した 例 は 、 一 世紀 ちかく も 昔 に 当時 の 皇太子 オトフリート が ある だけ である 。

彼 は また 帝国 宰相 を も かねた が 、 その後 、 帝国 宰相 が 正式に おか れ ず 、 国務 尚 書 を その 代理 に あてる ように なった の は 、 臣下 が 皇帝 の 先例 に ならう こと を 避ける ため だった 。

オトフリート は 皇太子 時代 は 有能で 人望 も あった が 、 即位 して 皇帝 オトフリート 三 世 と なって から は 、 たびかさなる 宮廷 陰謀 の 渦中 で 猜 疑心 のみ が 肥大 し 、 四 度 に わたって 皇后 を かえ 、 五 度 に わたって 帝 位 継承 者 を かえ 、 最後に は 毒殺 を おそれる あまり 食事 も ひかえる ように なって 、 四〇 代 なかば で 衰弱 死 して いる ……。

その 帝国 軍 三 長官 ―― 軍務 尚 書 エーレンベルク 、 統帥 本部 総長 シュタインホフ 、 宇宙 艦隊 司令 長官 ミュッケンベルガー は 、 帝国 宰相 代理 たる 国務 尚 書 リヒテンラーデ 侯 に 辞表 を 提出 した 。 イゼルローン 失 陥 の 責任 を とる ため である 。

「 卿 ら は 責任 を 回避 して 地位 に 執着 しよう と せ ぬ 。 その いさぎよ さ は 賞す べき と 思う 。 しかし 三 長官 の ポスト が 一 時 に 空けば 、 すくなくとも その ひと つ は ローエングラム 伯 の える ところ と なろう 。 彼 の 階 位 が すすむ 手助け を 卿 ら が わざわざ する こと は ある まい 。 経済 的に こまって おら ぬ 卿 ら だ 、 今後 一 年 ほど 俸給 を 返上 する と いう こと で どう か 」

国務 尚 書 が 言う と 、 シュタインホフ 元帥 が 苦渋 の 表情 を 浮かべて 答えた 。

「 その 点 を 考え ないで も ありません でした が 、 私 ども も 武人 です 。 地位 に 恋 々 と して 出 処 進退 を 誤った と 評さ れる の は あまりに 無念 …… どう か お 受けとり 願います 」 やむ を え ず 、 リヒテンラーデ 侯 は 宮廷 に おもむき 、 皇帝 フリードリヒ 四 世 に 三 長官 の 辞表 を とりついだ 。

あいかわらず 無気力 そうに 国務 尚 書 の 話 を 聞いて いた 皇帝 は 、 侍 従 に 命じて ラインハルト を 元帥 府 から 呼びよせた 。 TV 電話 を 使えば すむ ところ を 、 わざわざ 呼びよせる の が 、 皇帝 の 権力 に 必要な 形式 の 一端 である 。

ラインハルト が 参内 する と 、 皇帝 は 三 通 の 辞表 を 若い 帝国 元帥 に しめして 、 どの 職 が ほしい か 、 と 玩具 でも えらば せる ような 語調 で 訊 ねた 。 憮然と して たたずむ 国務 尚 書 を ちらり と 見る と 、 ラインハルト は 答えた 。

「 みずから 功績 を たてた わけで も ございませ ん のに 、 ほか の 方 の 席 を 奪う こと は できません 。 イゼルローン の 失 陥 は 、 ゼークト 、 シュトックハウゼン 両 提督 の 不覚に よる もの 、 しかも ゼークト 提督 は 死 を もって 罪 を つぐなって おり 、 いま ひと り は 敵 の 獄中 に あります 。 ほか に 罪 を える べき 者 が いる と は 、 わたくし は 思いません 。 なにとぞ 三 長官 を お 咎め なき よう 、 つつしんで 陛下 に お 願い 申しあげます 」 「 ふむ 、 そち は 無欲だ な 」

皇帝 は 事態 の 意外 さ に おどろく 国務 尚 書 を かえりみた 。

「 伯 は こう 申して おる 。