episode 05「 悲劇 の ヒロイン は 嫌いじゃない !?」
( 阿部 ( あ べ )) お 願い し ます !
( 女子 学生 ) 無理です ごめんなさい
( 菜緒 ( なお )) ねえ 今日 の 夕飯 何 食べ たい ?
( 上原 ( うえ はら )) うーん
煮込み ハンバーグ
了解
( 阿部 ) お 願い し ます
( 女子 学生 ) いや あり え ない から
あれ って もし かして あ べ っち ?
( 上原 ) あいつ また 懲り ず に 告 って ん の か
( 菜緒 ) みたいだ ね
あっ …
もし かして また 私 告白 さ れちゃ う の か な
いや それ は ないだ ろ
( 菜緒 ) あっ
( 菜緒 ) わ あっ !
( 阿部 ) 頼む ! 俺 の 絶体絶命の ピンチ を 救って くれ
“ 演劇 研究 部 新人 公演 「 眠り 姫 」”?
あ べ っち 演劇 部 入った の ?
( 阿部 ) まあ な
え ? “ 脚本 ・ 演出 阿部 順 ( じゅん )”?
( 阿部 ) まあ 俺 そっち の 才能 ある っぽい し ?
立候補 した
相変わらず 己 を 知ら ない ヤツ だ な
で さ 本番 間近な のに
姫 役 と 王子 役 が 高熱 で ダウン しちゃ って
え ? どう す ん の ?
頼む !
代役 で 出て ほしい
ええ …
いや そんな 演技 と か やった こと ないし
( 阿部 ) 頼む 上原 ! ( 菜緒 ) そんな 私 じゃ …
え ? えっ えっ …
ねえ ねえ ねえ ねえ …
( 阿部 ) 上原 この とおり
断る
ハァ …
王 子役 は 上原 しか い ない と 思った のに
もう 上原 君 ばっかり
あっ …
あっ ステキ
分かる か ? 吉川 ( よし かわ )
これ 上原 君 やったら 絶対 かっこいい よ
( 阿部 ) だ ろ
あっ そう か 王子 が 上原 って こと は
姫 は やっぱり …
( 菜緒 )“ そう !”
“ あの 日 ―”
“ あたたかな 春 の 木漏れ日 に 包ま れる 中 ”
イテッ
“ スミレ の 花 が 咲きほこる あの 場所 で ”
“ あな … 貴方 ( あなた ) と 出会えた こと が ”
“ 私 に は 運命 に 思えて なら ない のです ”
はい 次 ! 上原 君 どうぞ
( 上原 ) だ から やら ねえ って
そして 見え ねえ
いい じゃ ん 少し ぐらい 手伝って くれた って
って か あ べ っち の ピンチ な んだ よ
俺 もう 寝る から ほら 帰った 帰った
( 菜緒 ) え ? え ? あっ 分かった
分かった 分かった ごめん 分かった 分かった
じゃあ 王子 の
“ そんな 悲しい 顔 は し ないで どうか 笑って ください ”
“ あな … 僕 は 僕 は 貴方 の その …”
ちょっと 上原 君 言って よ
“ 僕 は … 僕 は 僕 は 貴方 の …”
お やすみ
( 菜緒 ) あっ “ 僕 は 貴方 の …”
そんな セリフ 言える か
( 菜緒 ) う う …
永遠の 愛 を 誓って もらえる チャンス だった のに
♪~
~♪
( 菜緒 ) ダメでした 上原 君
こん だけ 期待 さ せ と いて
( 菜緒 ) ごめん ね
( 太田 ( おお た )) あっ でも ほら
菜緒 ちゃん が お姫様 役 やって くれる ん なら
ねっ
まっ だ よ な
まあ 妥協 した 感 は ある けど 姫 は 決まった わけだ し
あと は 王子 さえ …
あの …
あの 上原 君 が やら ない ん なら …
( テーブル を たたく 音 )
吉川 お前 って ヤツ は …
( 菜緒 ) ああ そう だ
あの さ 姫 と 王子 を さ 抜いちゃ う の は どうか な
ハハハ …
終わった
俺 の 一世一代 の 晴れ舞台 が
終わった ー
( 菜緒 ) ご … ごめん ね あ べ っち
ねえ ごめん って ば だって 私 …
あっ !
フフッ
うわ あ す っ ごい かわいい !
菜緒 ちゃん すごく 似合う
そう か なあ
( 太田 ) ジャーン
これ が お姫様 用 の ティアラ
うわ あ !
( 太田 ) はい
( 菜緒 ) フフフッ
( 太田 ) 完璧
かわいい
でも 何で 太田 ちゃん が 演劇 部 の 衣装 作って ん の ?
( 太田 ) ああ …
あ べ っち に 手伝って ほしい って 頼ま れちゃ って さ
で 人手 が 足りない から
私 が 魔女 役
え ? 太田 ちゃん 魔女 やる の ?
うん そう
( 菜緒 ) そ っか
菜緒 ちゃん あの 一緒に やら ない ?
こんな かれんな ドレス ―
着こな せる の 菜緒 ちゃん しか い ない と 思う んだ よ ね
フフッ
よっ しゃ ー !
( 阿部 ) ハァー あと は 王子 役 さえ 決まれば
誰 か い ない か な
( 菜緒 ) あっ 私 もう 1 回 上原 君 説得 して みよ っか ?
( 阿部 ) 大丈夫 もう 吉川 に は 頼ま ない から
( 太田 ) うーん 王子 と いえば やっぱり イケメン だ よ ね
品 が ある 感じ の
( 菜緒 ) そう そう 優しくて 紳士 的で
あっ いい 香り し そう
( 太田 ) する かも … フフッ
( 菜緒 ) 国 中 の 女の子 たち が ―
みんな “ 王子 ー !” って 目 キラキラ さ せちゃ って さ
( 阿部 ) でも 上原 以外 に そんな ヤツ いるか ?
いる ! ねえ いる よ
フフフフッ
今度 こそ 私 に 任せて
お 願い し ます !
( 大地 ( だいち )) ごめん
俺 ハンド 部 の 練習 毎日 ある し
人前 で こういう こと やる の って 苦手だ しな
( 菜緒 ) そうだ よ ね
上原 は …
あっ あいつ は こういう の 絶対 拒否 る か
その とおり です
( 七瀬 ( なな せ )) 大地 ここ に いたんだ
( 大地 ) 七瀬
( 大地 ) とりあえず 興味 あり そうな ヤツ いたら
声 かけ とく から 頑張れよ
うん あり が と 大 ちゃん
( 菜緒 ) また ね ( 大地 ) おう
本当 菜緒 の 周り は
次 から 次 へ と いろんな こと が 起こる わ
だ ね
あの さ
( 大地 ) ん ?
( 七 瀬 ) はい
( 大地 ) ん ?
何 これ
この 前 の 大会 優勝 おめでとう の プレゼント
マジ で ? どう した んだ よ 急に
大 活躍 の エース を ねぎらう の も マネージャー の 務め でしょ
さすが 敏腕 マネージャー
何 だろう
へえ いい じゃ ん
サンキュー すげ え うれしい
( 菜緒 ) あー あ
大 ちゃん も ダメだった か
うーん …
( 女子 学生 ) 柊 ( しゅう ) また 手芸 ? もう つま ん ない
( 女子 学生 ) 今度 お茶 しよう よ ねっ いい でしょ ?
( 女子 学生 ) お 願い
( 夏目 ( なつ め )) また 今度 ね
( 女子 学生 ) キャー かっこいい ! ( 菜緒 ) あっ
ここ に も いた
ごめん 俺 こういう の 無理
笑顔 で バッサリ
みんな で ワイワイ って かった るいし
やっぱり もう 1 回 上原 君 説得 して みる
( 太田 ) 何とか なり そう ?
( 菜緒 ) 何とか なる まで 粘る
大 ちゃん も 夏目 君 も かっこいい けど ―
やっぱり 王子 様 は 上原 君 だ から
やって も いい けど 王子
( 太田 ・ 阿部 ) え ?
お姫様 役 の 子 が かわいかったら だけど
( 太田 ・ 阿部 ) ハハハハ …
菜緒 ちゃん な の ?
うん
また この パターン か よ
や … やっぱり 私 じゃ ダメでしょう か
いや 別に ダメ って わけじゃ …
( 阿部 ) よっ しゃ ー 王子 決定 !
( 太田 ) ありがとう 夏目 君
これ で この 衣装 たち も 日 の 目 を 見る こと が できる よ
エヘヘヘ …
姫 と 王子 は 互いに 身分 を 隠した まま 出会い
一目 で 激しい 恋 に 落ちた
しかし 2 つ の 国 は いがみ合った 敵国 同士 だった
( 夏目 ) それ 「 ロミジュリ 」 じゃ ね ?
( 阿部 ) 強引に 引き裂か れる 2 人
ハッ ひどい !
( 阿部 ) そこ に 新たなる 試練 が 訪れる !
姫 の こと を やっかん で いた 魔女 が
永遠の 眠り に つく 呪い を かけた のだ !
ハッハッハッハッハ …
これ は あんた を 心 の 底 から 愛する 男 に しか 解け ない 呪い だ
そんな 男 が 現れる かしら ?
( 太田 の 笑い声 )
( 夏目 ) 太田 ちゃん 何で こんな うまい の ?
時 が たち 呪い の こと を 知った 王子 は
ひた走る
国 も 身分 も 全て を 捨てて
たった 1 人 の 愛する 姫 の ため に
( 菜緒 ) ステキ
この 物語 は 2 人 の 男女 が 織りなす
狂 おしい ほど に 純粋な 愛 の 物語
あ べ っち 私 姫 に なりきる よ
( 阿部 ) よく 言った 吉川 !
じゃあ 稽古 の 準備 しよう ね 夏目 君
ハハハ … ハハッ オーケー
( 菜緒 ) どうして ー
どうして ー !
どうして 貴方 は トンタギュー 国 の 王子 な のです か
それ を 言う なら 姫
どうして 君 は カプレット 国 の …
あっ ごめん 上原 うるさい ?
( 上原 ) 今さら かよ
って か 何で 俺 の 部屋 な んだ よ
吉川 の 部屋 で やれば いい じゃ ん
菜緒 ちゃん の 部屋 上原 以外 の 男 出 禁 なんだ ろ ?
王子 ー !
私 の 太陽
貴方 の い ない 日々 は 真っ暗な 闇 に
ほ … 放り込ま れる ような もの
大根 役者
( 夏目 ) それ は 僕 も 同じです 麗しき 姫
貴方 は 僕 と 共に 生きる 運命
こっち は ホスト だ な
そんな 悲しい 顔 し ないで
どうか 笑って ください
おお … 王子
貴方 の その 微笑み に
( 上原 ) 何 か 飲 も
永遠の 愛 を 誓い ます
( 上原 ) どけ ( 菜緒 ) あっ
( 菜緒 ) ちょっと 何で わざわざ ここ 通る の ?
( 上原 ) どこ 通ろう と 俺 の 勝手だろう が
分 っか り やす
( 菜緒 ) フンッ もう 1 回 やろ 夏目 君
( 夏目 ) えー っと
そんなに 悲しい 顔 し ないで
どうか 笑って ください
( 菜緒 ) あっ
また …
こっち 通って って 言って る じゃ ん
( 上原 ) いや そこ が 最短 距離 だ ろ
( 菜緒 ) 最短 距離 は ―
こう 行って こう !
分かる ?
( 上原 ) これ だ から 数学 の でき ねえ ヤツ は
は あ ?
だって 冷蔵 庫 は そこ なんだ から こっち から こう やって …
( 上原 ) 違 ( ち げ ) えよ 俺 は こう 立つ んだ よ
( 菜緒 ) だ から 椅子 ずらせば いい じゃ ん
( 夏目 ) はい はい はい
こんなんじゃ いつまで たって も 終わ ん ない よ
最後 の キス シーン まで まだまだ ある のに
え ? キスシーン ?
え ?
もし かして 最後 まで 読んで なかった の ?
( 菜緒 ) うん
( 夏目 ) まあ 台本 に も 書いて ある し
キス する しか ない よ ね
冗談 だって
まあ こういう の は 大概 キス した フリ でしょ
あっ … ハハッ だ よ ね
そう だ よ ね
( 阿部 ) ヤバ い ヤバ すぎる
片 っぽ は 断トツ に 下手だ し
もう 片 っぽ は チャラ すぎる
って いう か セリフ 覚えて くれよ 吉川
私 今 まで で いっち ばん の 出来 だった よ
あっ そ
あ べ っち ?
( 菜緒 ) ねえ 夏目 君 ( 夏目 ) ああ …
まり な ?
( 菜緒 ) みっ ちゃん と 別れる かも ?
え ?
えっ …
え えっ どうして ? どうして ? 何で ?
( まり な ) ここ 最近 ずっと うまく いって なかった んだ よ ね
電話 して も い っつ も 忙し そうで
毎回 ケンカ っぽく なっちゃ って
いや でも さ
みっ ちゃん は 獣医 学部 の 実習 と か で 忙しい んじゃ ない ?
そう な んだ よ ね
でも 私 だけ 待って る って いう か そういう の に モヤモヤ しちゃ って
で 1 週間 前 電話 したら 女 の 人 が 出て
え ?
あっ その 人 は ただ の 研究 所 の 先輩 だった んだ けど
でも さ いろいろ たまって たから
私 たくさん ひどい こと 言っちゃ って
で …
“ まり な は 俺 を 信用 でき ない んだ な ” って 言わ れて
“ そう だ ね ” って 返して おしまい
( チャイム )
( キーボード を 打つ 音 )
( 紗栄 子 ( さえ こ )) ふ ー ん
彼女 と 友達 が 恋人 役 ねえ
芽生えちゃ う かも よ 愛
な いっす ね
それ 100 パー コメディー なんで
え ? “ 結ばれ ぬ 運命 の 男女 が 織りなす ―”
“ 究極 の 恋愛 悲劇 ” って 書いて ある けど
いや コメディー っす
あっ そう
でも いい よ ね “ 究極 の 恋愛 ” だって
何 ?
ああ … ちょっと 意外 すぎて
失礼 ね 私 に だって
いつか は 誰 か と 共に 生きて いく って いう 夢 は ある わ よ
紗栄 子 さん と やって ける 人 か
え ? いない って 言い たい の ?
結構 限ら れて は くる なあ と
( せきばらい )
意外 と 上原 君 と か いい かも ね
いや 仕事 に は 理解 ある し 束縛 し な そうだ し
ハハハハ … 何 つ って
まあ そう っす ね
( 紗栄 子 ) あっ
すいません 先 あがり ます
( 光 石 ( み ついし )) ここ か
菜緒 と 上原 は うまく やって んだ
何 か 懐かしくて 涙 出そう
あっ それ 吉川 が 手芸 部 入って さ
フフッ 変わ ん ねえ な 菜緒 は
( 上原 ) うん
あの ころ の 俺 たち は さ
い っつ も 笑って たよ な
( 上原 ) と に かくさ 本人 と ちゃんと 話せよ
( 光 石 ) なあ マジ で 俺 どう したら いい と 思う ?
って か 別れる と か 言わ れたら どう しよう
( 菜緒 ) とりあえず ゆっくり 話そう
吉川 ? 早 ( はえ ) え な
( 光 石 ) ちょっと … ちょっと 待った
何 言う 気 ?
( 上原 ) いや 何 って 吉川 に …
( 菜緒 ) あっ そうだ まり な 今日 おいしい ケーキ ある んだ
フフフッ
( まり な ) や っぱ 今日 は 帰る わ
( 菜緒 ) え ?
( まり な ) いろいろ 聞いて くれて ありがとう
あの さ まり な
私 みっ ちゃん に 連絡 して みよ っか ?
お互い どんどん イヤな 気持ち に なる より は さ
すっぱ り 別れた ほう が いい って 気 も して る んだ
え ?
でも さ まり な みっ ちゃん は まり な の こと 大切に …
次の 恋 探して みよ っか な
みっ ちゃん だけ が 男 じゃ ないし
じゃあ ね
まり な
( ドア が 開く 音 )
( 菜緒 ) 上原 君
とどめ だ な
聞いて た の ?
( 上原 ) って か 聞いて た の 俺 だけ じゃ ない けど
( 菜緒 ) ん ?
ハッ ! みっ ちゃん ?
どう しよう
( 菜緒 ) まり な
絶対 ダメ このまま じゃ
あった
これ だ
これ しか ない
( 菜緒 ) ねえ ねえ ねえ ねえ
眠り 姫 と 王子 を ―
まり な と みっ ちゃん に すり替える の は どうか な
は ? 何 じゃ そりゃ
お互い ちゃん と 顔 見て 話し合えば
わだかまり も 解ける と 思う んだ よ ね
絶対 うまく いく と 思う んだ けど どう 思う ?
あん ま 口出し し ない ほう が いい と 思う けど
何で ?
いや だって 2 人 の こと は 2 人 で 決めた ほう が いい だ ろ
でも …
まり な 本当に みっ ちゃん と 別れ たい なんて 思って ない
まり な の 顔 見たら 分かる から
何 が あいつ ら に とって いい の か は
あいつ ら が 決める こと だ ろ
何でもかんでも 1 人 で 決め られたら 誰 も 相談 なんか し ない よ
まり な と みっ ちゃん が 私 たち に 話して くれた の は
1 人 じゃ 決め られ ない くらい 迷って た から でしょ
もう いい よ
( 上原 ) おい
( ドア が 閉まる 音 )
菜緒 ちゃん ?
あっ …
どうした の ? これ から 練習 でしょ ?
あっ …
( 夏目 ) なるほど ね
まあ 正直に 言う と 俺 も 上原 寄り
男 だ から かな
修復 の きっかけ が 欲しい って 思う 時 ある けど
最終 的に は 自分 ら で 決め たい って 思う
あん ま 外野 に 指図 さ れ たく ない って いう か
構わ ないで ほしい って いう か
( 菜緒 ) そ っか
そういう 考え 方 も ある の か な
大人 の 付き合い 方 … みたいな
菜緒 ちゃん
( 上原 ) 別に 無理 して 大人 に なる 必要 ねえ んじゃ ねえ の
上原 君
吉川 まだまだ ガキ ん ちょ だ しな
上原 君 に 言わ れ たく ない し
で どう し たい んだ よ
( 菜緒 ) 私 は …
私 は やっぱり
まり な と みっ ちゃん に は 別れて ほしく ない し
私 が できる こと が あったら 何でも やり たい
だって 2 人 と も 全然 ちゃん と 笑えて ない んだ もん
今 まり な を 笑顔 に できる の は みっ ちゃん だ し
みっ ちゃん を 笑顔 に できる の は まり な しか い ない と 思う から
じゃあ やる か
本当 ? 上原 君
おう
うん !
( 菜緒 ) ありがとう
( 夏目 ) 僕 も お 手伝い し ましょう か 姫
( 菜緒 ) え ? 夏目 君 も ?
( 夏目 ) うん ( 菜緒 ) 本当 ?
何 か うまく いく 気 が して きた
あっ じゃあ みっ ちゃん に 早く 言わ ない と ね
( ドア が 開く 音 )
( 菜緒 ) みっ ちゃん !
みっ ちゃん
みっ ちゃん みっ ちゃん みっ ちゃん みっ ちゃん
今日 から 特訓 だ よ
( 光 石 ) な … 何の ?
( 菜緒 ) みっ ちゃん 王子 役 ねっ
王 子役
らしく なって きた って 感じ ?
だ な
( 夏目 ) まっ とにもかくにも うまく いけば いい けど ね
ああ
あっ そうだ
俺 と 菜緒 ちゃん 本番 ある から 彼 の 担当 は 上原 ね
( 女子 学生 ) め っちゃ ポスター 貼って ある
( 女子 学生 ) えっ ヤバ い
えっ 待って 待って … あ べ っち 作 演
( 女子 学生 ) マジ で あ べ っち
急に お 願い しちゃ って ごめん ね まり な っち
う うん ここ から 応援 して る から 頑張って
サンキュー
みっ ちゃん 準備 オーケー ?
おう 任せろ
大丈夫
絶対 うまく いく よ
みっ ちゃん なら できる
うん
( 阿部 ) ただ今 より 東京 明憲 大学 演劇 研究 部 「 眠り 姫 」
脚本 ・ 演出 阿部 順
阿部 順 に よる 舞台 を 上演 いたし ます
どうぞ 皆様 最後 まで ご ゆっくり お楽しみ ください ませ
( 拍手 )
( ブザー )
( 音楽 )
( 菜緒 ) あっ あっ
( 観客 の 笑い声 )
王子 !
( 拍手 と 歓声 )
そう !
あの 日 春 の 木漏れ日 に 包ま れる 中
包ま れる 中 …
( 菜緒 ) 何 だ っけ ( 阿部 ) 初 っぱな から …
( 阿部 ) あん だけ セリフ 覚えろ って 言った のに
あっ そうだった
( 阿部 ) 何で 全部 声 に 出す かな ( 菜緒 ) スミレ の 花 が
咲きほこる この 場所 で …
( 夏目 ) 姫 !
僕 は 今 まで 本当の 美 を 目 に した こと は なかった
( 太田 ) うん み ゃか そわ か ー
うん み ゃか そわ か ー
そわ か ー !
これ は あんた を 心 の 底 から 愛する 男 に しか 解け ない 呪い だ
そんな 男 が 現れる かしら ?
アッハッハッハッ …
アーッハッハッハ …
( 菜緒 ) ああ 意識 が 遠のいて いく …
か は っ …
( 阿部 ) ただ今 より 15 分間 の 休憩 に 入り ます
( うめき声 )
( まり な ) ちょっと 菜緒 ? ( 菜緒 ) う う ー っ
大丈夫 ? お腹 ? お腹 痛い の ?
( 菜緒 ) ダメ …
( まり な ) え ?
お 願い まり な
あっ ああ …
わ … 私 の 代わり に 姫 役 やって
は あ ? ちょっと 待って よ そんな 急に …
大丈夫 ひつぎ の 中 で 寝て る だけ だ から ねっ
いや “ ねっ ” て 言わ れて も
まり な …
う う …
みっ ちゃん
あれ ?
あっ みっ ちゃん ?
( 夏目 ) 菜緒 ちゃん そろそろ
( 菜緒 ) えっ … ( 夏目 ) え ?
もし かして 逃げた ?
あっ …
( 菜緒 ) みっ ちゃん
みっ ちゃん !
( 上原 ) 吉川
みっ ちゃん ったら おじけづいた の か な
ハァ … もう しょうがない な
バーカ
そんな 心配 す んな
俺 が 絶対 見つけ出して 連れて きて やる
あん だけ 練習 に 付き合った んだ 逃がして たまる か よ
上原 君
だから
吉川 は 俺 を 信じて 待て
以上
( 菜緒 ) 上原 君
( 夏目 ) 待って いて ください
たとえ 貴方 が 最 果て の 海 の かなた に いよう と も
必ず たどり着いて みせ ます
( 拍手 )
大丈夫 だって
上原 やる 時 は やる 男 だ から
( 菜緒 ) うん
きっと うまく いく
上原 君 信じて 待つ
( 光 石 ) ヒツジ が 65 匹 ヒツジ が 66 匹
ヒツジ が 67 匹 ヒツジ が 68 匹
ヒツジ が 69 匹 ヒツジ が 70 匹
ヒツジ が 71 匹 …
( 光 石 ) や っち まった
もう ダメだ
いた ! お前 何 やって んだ よ
イテテッ
おい !
おい !
おい 光 石
腹 くくって 出て こい
上原 何で ここ が
( 上原 ) もう 時間 が ねえ から
とりあえず 行く ぞ
( 光 石 ) 行く ぞ って …
何で お前 ら って 2 人 して こう 強引な の か なあ
グダグダ 言って んじゃ ねえ よ
そんな とこ 籠もって たって 何も 変わら ねえ だろう が
もう ほっといて くれよ
( 上原 ) ほっと ける か よ
お前 ら が うまく いか ねえ と な
吉川 が 1 人 で テンパ って 空 回って 迷惑な んだ よ
( 上原 ) おい 光 石
( 上原 ) おい 光 石
( ドア を たたく 音 )
( 上原 ) おい 光 石
お前 聞いて ん の か
何 だ よ
分かって た けど 菜緒 が 一 番 大事 って こと ね
( 鍵 を 開ける 音 )
お前 ら って 本当 変わ ん ねえ のな
何 か すげ えよ
お前 ら は 違え の か よ
お前 は 何 か 変わった の か よ
( 民 たち の 泣き声 )
( 民 ) 姫 …
( 民 たち の 泣き声 )
本当に 寝て る だけ で いい んだ
( 民 ) 貴方 は ?
( 民 ) 貴方 は トンタギュー 国 の 王子 なぜ ここ に ?
大丈夫 俺 が バッチリ キス で 起こして あげる から ねっ
( まり な ) 夏目 君 に 本当に キス さ れちゃ う の か な
( 足音 )
( まり な の 鼓動 )
( ひつぎ が 開く 音 )
( まり な ) イヤ !
みっ ちゃん ?
ハァ … どうにか 間に合った か
紺野 ( こん の ) と 光 石 ?
えっ 何 これ ?
( 光 石 ) やっと 目覚めて くれた かい 僕 の いとしい 人
( まり な ) お … 王子
貴方 が どうして ここ に ?
貴方 に 魔女 の 呪い が かけ られた と 知り
3 日 3 晩 寝 ず に 馬 を はせて きた
随分 と
貴方 を 待た せて しまった この 僕 を
どうか 許して ほしい
どんなに 離れて も
貴方 へ の 愛 は 決して 変わる こと は なかった
朝 も
昼 も
夜 も
貴方 だけ を …
もう いい よ
え ?
私 ね
疲れちゃ った
だって 私 だけ なんだ もん
うれしく なったり 寂しく なったり 不安に なったり
みっ ちゃん から したら 何でもない こと で
私 の 中 あっという間 に めちゃくちゃに なっちゃ う んだ よ
こういう 気持ち で 待ち 続ける の って
や っぱ 結構 キツ いんだ よ ね
だから …
( 光 石 ) 何 だ よ それ
え ?
何 な んだ よ それ
何で 自分 だけ 寂しい みたいに なって んだ よ
す っげ え つらい みたいに なって んだ よ
俺 だって さ
俺 だって まり な に 会い たいよ
いつも 一緒に い たい し 抱きしめ たい って 思う よ
でも 俺 男 だし さ
そういう の す っげ え 言い づらい んだ っつ ー の
( まり な ) そう … な の ?
だから
不安 と か 全然 まったく なる 必要な いから
うん
もし かして …
うまく いった ?
だ な
フフッ
上原 君 やった ー !
フフフッ
( 上原 ) うるさい うるさい よ シーッ
うるさい よ ほら
( 阿部 ) もう 何 が 何だか 分から ん
( 太田 ) でも このまま 終わる わけに いか ない よ ね
よし … はい !
うん
( 拍手 と 歓声 )
( 太田 ・ 阿部 ) ありがとう ございました
( 女子 学生 たち の 歓声 )
まり な ー !
もう ない わ ー ない ! め っちゃ 恥ずかしかった
ごめん ね でも …
( まり な ) ありがとう 菜緒
まり な ー !
( まり な ) 菜緒 ー !
みっ ちゃん かっこよかった
( 光 石 ) そう か ? ( 菜緒 ) うん
ハハハッ 恥ずかしい
本当に あり が と ね 菜緒
よかった
久々に まり な ちゃん と 笑って る
菜緒 …
やっぱり 持つ べき もの は 友達 だ な
この度 は お 世話に なり ました
まったく だ
俺 捜し に 来た 時 の 上原 見て 感動 しちゃ った もん ねえ
本当 上原 は 菜緒 の こと が …
( 上原 の せきばらい )
( 上原 ) ここ ホコリ すげ え な
( 光 石 ) そうだ ねえ
まっ とりあえず 上原 と 菜緒 が 俺 たち の 目標 って こと
2 人 に は これ から も ずーっと その まん まで いて もらわ ない と な
フフッ だ ね
いや そこら 辺 は …
多分 …
大丈夫じゃ ねえ の
だ よ ね
( 阿部 ) お 疲れ ー !
お 疲れ お 疲れ お 疲れ お 疲れ ー !
そう いえば 打ち上げ やる けど みんな 来る よ な
( 太田 ) 大 成功 を 祝して 演出 が おごっちゃ い ます
( まり な ) さすが 演出 ! ( 光 石 ) 太っ腹 !
そう いえば 何で 紺野 と 光 石 が 出てん の ?
( 光 石 ) まあまあ …
そんな 細かい こと 気 に して たら 大物 に なれ ねえ ぞ
( 菜緒 ) よし みんな 行こう !
( 太田 ) 行こう !
あっ 上原 君 も 行く よ ね
( 上原 ) 俺 は いい よ
え ? 何で よ
( 菜緒 ) 行こう よ ( 上原 ) いい って
いい じゃ ん みんな で 行こう よ
( 上原 ) マジ か
もう …
( 菜緒 ) 今 まり な を 笑顔 に できる の は みっ ちゃん だ し ―
みっ ちゃん を 笑顔 に できる の は まり な しか い ない と 思う から
上原 君 やった ー ! フフフッ
( 菜緒 ) 上原 君 も 行く ? ( 上原 ) だって 関係 ねえ もん
( 菜緒 ) いい じゃ ん
( 菜緒 ) 上原 君 ?
あれ ?
あっ 夏目 君
何 して ん の ?
菜緒 ちゃん こそ
( 菜緒 ) あっ 打ち上げ 行く って 言って た のに
上原 君 い なく なっちゃ って
そう
( 菜緒 ) あっ 夏目 君 も 早く 行か ない と
もう みんな お 店 向かっちゃ って る よ
ああ … 俺 パス
( 菜緒 ) え ?
団体 行動 向か ない んで
また そんな こと 言っちゃ って
夏目 君 あり が と ね
( 夏目 ) え ?
いろいろ 手伝って くれて
本当 ありがとう
どう いたし まして
( 菜緒 ・ 夏目 ) フフッ
( 菜緒 ) あっ
( 菜緒 ) あっ 上原 君 だ
って か 捜し に 来て 本人 迷う って どういう こと だ よ
ちょ … ちょっと 夏目 君
( 夏目 ) ハァ …
大 満足
( 菜緒 ) は ?
( 夏目 ) 王 子役 な のに 女の子 と の 絡み ない から さ
ずっと 消化 不良 だった んだ よ ね
( 菜緒 ) は あ ?
( 夏目 ) って こと で 俺 満ち足りた んで
打ち上げ いって らっしゃい
もう 本当 チャラ すぎ
何 な の ?
( ドア が 開く 音 )
( 菜緒 ) 最悪
( ドア が 閉まる 音 )
( 夏目 ) ハァ …
何 やって んだ か
♪~
~♪