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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (5)

悪人 下 (5)

手 を 振る 光代 の 姿 が ルームミラー から 消えて 、 もう どれ くらい 走った の か 。 すぐ そこ に 高速の 入口 が 見える 交差 点 で 、 車 は 赤 信号 に 捕まった 。 祐一 は 尻 ポケット から 財布 を 出した 。 中 に は 五千 円 に 満たない 金 しか 入って いない 。 もしも 光代 が ホテル に 行く こと を 承諾 したら 、 帰り は いくら 遅く なろう と 一般 道 で 帰る つもりだった 。 幸い 光代 が 明日 の 仕事 を 心配 して くれた おかげ で 、 祐一 は これ から 高速に 乗る こと が できる 。 会い たくて 、 会い たくて 仕方なかった 。 つい 数 日 前 に 出会った ばかりな のに 、 一 日 で も 会え ない と 、 それ で 何もかも が 終わって しまい そうで 恐ろしかった 。 夜 、 電話 で いく ら 話して も 、 恐ろし さ は 拭え なかった 。 電話 を 切った とたん に 苦しく なって 、 もう 会え ない ような 気 が した 。 眠る と 光代 が い なく なる 夢 を 見た 。 朝 起きて 、 すぐに 電話 を かけ たかった が 、 早朝 五 時 に かける 勇気 は なく 、 仕事 中 も ずっと 光代 の こと だけ を 考えて い た 。 仕事 が 終わる ころ に は もう 居て も 立って も いられ なく なり 、 気 が つけば 、 車 で 佐賀 に 向かって いた 。 朝 、 おじ の ワゴン で は なく 、 自分 の 車 で 現場 へ 向かった 時点 で 、 もう 行こう と 決めて いた の かも しれ ない 。 祐一 は なかなか 変わら ない 信号 を 待ち ながら 、 力一杯 ハンドル を 両手 で 叩いた 。 横 に 車 が 並んで い なければ 、 そのまま 額 を 打ち付けたい 気分 だった 。 あれ は まだ 祖父母 の 家 に 連れて 来られる 前 、 おふくろ と 市 内 の アパート に 住んで いた 。 ある 日 、「 今 から お 父さん に 会い に 行く よ 」 と 、 とつぜん おふくろ が 言った 。 喜んで 支 度 を して 、 一緒に 路面 電車 に 乗った 。 「 駅 に 着いたら 汽車 に 乗り換える けん ね 」 と お ふ くろ は 言った 。 「 遠い と ? 」 と 尋ねる と 、「 ものすご -、 遠い よ 」 と 答えた 。 混 んだ 路面 電車 で 、 おふくろ は 吊り革 を 掴んだ 。 俺 は その スカート を 掴んだ 。 電車 が そ 走り出す と 、 前 に 座って いる 男 たち が 、 互い の 肩 を 突き 合い クスクス と 笑い 出した 。 剃 わき げ り 忘れた おふくろ の 腋毛 を 笑って いる らしかった 。 おふくろ は 顔 を 真っ赤に して 腋 を ハ ンカチ で 隠した 。 暑い 日 だった 。 混 んだ 電車 は 大きく 揺れて 、 おふくろ の ハンカチ が ず れる たび に 、 男 たち が 笑い を 堪えた 。 国鉄 の 駅 に 着いて 、 汽車 に 乗り換えた 。 揺れる 路面 電車 で 必死に 腋 を 隠して いた お ふ くろ は 、 水 を 浴びた ように 汗だくだった 。 切符 を 買おう と 混 んだ 窓口 に 並んで いる とき 、 俺 は 、「 ごめん ね 」 と 謝った 。 おふくろ は きょとんと して 首 を 捻り 、「 暑 か ねえ 」 と 微笑 む と 、 俺 の 鼻 に 浮かんだ 汗 を 、 その ハンカチ で 拭って くれた 。 とつぜん 背後 で クラクション を 鳴らさ れ 、 祐一 は 我 に 返った 。 慌てて アクセル を 踏み 込む と 、 ハンドル に しがみついて いた から だ が シート に 叩きつけられる 。 気 が 動転 して 、 高速 入口 へ の 車線 に 入れ ず に 、 そのまま 高架 を くぐって しまった 。 次の 信号 で Uターン しよう と 速度 を 落とし 、 気分 転換 に ラジオ を つける と 、 地元 の ニ ュース 番組 が 流れた 。 祐一 は 車 を 大きく Uターン さ せた 。 入り 損ねた 高速の 入口 が すぐ に 近づいて くる 。 「 では 次の ニュース です 。 今月 十 日 未明 、 福岡 と 佐賀 の 県境 、 三瀬 峠 で 起こった 殺人 事 件 の 重要 参考人 と して 指名 手配 されて いた 二十二 歳 の 男性 が 、 昨夜 、 名古屋 市 内 の サウ ナ 店 で 、 店員 から の 通報 で 駆けつけた 警官 に より 身柄 を 拘束 、 すぐに 移送 さ れ 、 現在 、 取り調べ を 受けて いる 模様 です 。 詳しい 情報 が 入り 次第 、 十一 時 の ニュース でも お 伝え します 」 ニュース が 終わり 、 保険 の コマーシャル が 流れる 。 祐一 は 高速の 入口 へ 切り かけて い た ハンドル を 戻し 、 思い切り アクセル を 踏み込んだ 。 とつぜん 割り込んで きた 祐一 の 車 に 、 背後 の 車 から 激しい クラクション が 鳴らさ れる 。 祐一 は それ でも アクセル を 踏み 続 け 、 前 を 走る もう 一 台 の 車 を 抜き去る と 、 やっと スピード を 弛 め て 、 自動 販売 機 の 立つ 路肩 に 車 を 停めた 。 ラジオ は 懐かしい クリスマス ソング を 流して いた 。 祐一 は すぐに チャンネル を 変えて みた が 、 三瀬 峠 の 事件 を 伝える 番組 は 他 に なかった 。 路肩 に 停めた 車 の 中 で 、 祐一 は ハンドル を 抱え込んだ 。 すぐ 横 を 大型 トラック が 走り 抜けて いき 、 その 風圧 で 車体 が ふっと 浮かぶ 。 祐一 は 掴んだ ハンドル を 大きく 揺すった 。 揺すった ところ で 、 ハンドル は ビク と も し ない 。 祐一 は もう 一 度 、 ハンドル を 揺さぶった 。 力 を 込めて 揺さぶれば 揺さぶる ほど 、 ハンドル で は なく 、 自分 の からだ が 前後 に 揺れる 。 あいつ が 捕まった 。 逃げて いた あの 男 が 捕まった 。 石橋 佳乃 を 三瀬 峠 へ 連れて 行った あの 男 が 、 名古屋 で 捕まった 。 知らず知らず に 、 祐一 は そう 眩 いて いた 。 そう 眩 いて いる のに 、 なぜ か 昔 、 おふくろ と 一緒に 親父 に 会い に 行った 日 の 情景 が 思い出さ れる 。 路面 電車 の 中 で 、 おふくろ の 腋 毛 を 笑った 男 たち 。 混 んだ 切符 売り場 の 窓口 で 、 鼻 の 汗 を 拭いて くれた おふくろ の 顔 。 どうして 今 、 あの とき の こと が 浮かんで くる の か 分から なかった 。 ただ 、 忘れよう と し て も 、 浮かんで くる 情景 を 消して しまう こと が でき なかった 。 路面 電車 で 国鉄 の 駅 へ 向かい 、 そこ で 列車 に 乗り換えた 。 おふくろ は 俺 を 窓際 の 席 に 座ら せ 、 横 で ずっと うとうと して いた 。 親父 が 出て いった ばかりの ころ 、 おふくろ は 毎晩 の ように 泣いて いた 。 心細くて 横 に 座る と 、 俺 の 頭 を 撫で ながら 、「 嫌な こと は ぜ 〜 ん ぶ 忘れて しまおう ねえ 。 一緒に ぜ 〜 ん ぶ 忘れて しまおう ねえ 」 と ますます 声 を 上げて 泣いた 。 おふくろ と 一緒に 乗った 列車 の 窓 から は 、 海 が 見えた 。 座った の が 山側 の 座席 で 、 海 側 の 座席 に は お 揃い の 帽子 を かぶった 小学生 の 兄弟 と その 両親 が 座って いた 。 首 を 伸ば して 、 海 を 見よう と する と 、 うとうと して いた おふくろ が 目 を 覚まし 、「 ほら 、 ちゃん と 座 つ とき なさい よ 。 危ない けん 」 と 頭 を 押さえた 。 「 着いたら 、 海 なら いくら でも 見られる けん 」 と 。 どれ くらい 乗って いた の か 、 気 が つく と 、 おふくろ と 同じ ように うとうと して いた 。 「 ほら 、 降りる よ 」 と 、 とつぜん 腕 を 掴まれて 、 寝ぼけた まま 列車 を 降りた 。 駅 から し ばら く 歩いた 。 着いた ところ は フェリー 乗り場 だった 。 「 ここ から 船 に 乗って 、 向こう に 行く けん ね 」 おふくろ は そう 言って 、 対岸 を 指さした 。 フェリー 乗り場 の 駐車 場 に は 、 たくさんの 車 が 並んで いた 。 この 車 も 全部 、 一緒に フ ェリー に 乗る のだ と おふくろ は 教えて くれた 。 列車 の 中 で おふくろ が 言った 通り 、 目の前 に は 海 が あり 、 遠く に 対岸 の 灯台 が 小さく 見えた 。 灯台 を 見た の は あの とき が 初めて だった 。 ポケット で 携帯 が 鳴って いた 。 祐一 は 路肩 に 停めた 車 の 中 で 、 ハンドル を 握りしめた まま だった 。 相変わらず 横 を トラック が 走り抜けて いく 。 通る たび に 風圧 で こちら の 車体 が ふっと そう です か 。 祐一 は あん とき の こと を まだ 覚え とった です か ……。 あれ は 祐一 が 五 歳 か 、 六 歳 :….。 てっきり 、 祐一 は もう 忘れ とるって 思う とった です よ 。 前 に も 話し まし た けど 、 祐一 が 私 の ところ で 働く ように なって から は 、 前 に も 増して 祐一 は 自分 の 息子 の よう やった で すけ ん ねえ 。 最近 で は 仕事 も 覚えて 、 クレーン 免許 ば 取る 気 も あった み 浮かぶ 。 祐一 は 携帯 を 取り出した 。 「 家 」 から だった 。 電話 に 出る と 、 少し オドオド した よう な 祖母 の 声 が 聞こえて くる 。 「 ゆ 、 祐一 ね ? あんた 、 今 、 どこ に おる と ? 」 近く に 誰 か が いて 、 その 誰 か に 確認 し ながら 話して いる ようだった 。 「 なんで ? 」 と 祐一 は 訊 いた 。 「 い 、 今 、 警察 の 人 が 来 と んな つと さ 、 ここ に 」 わざと 明るく 振る舞おう と して いる が 、 祖母 の 声 が 震えて いる 。 「 どこ に おる と ? すぐ 帰って こ れる と やる ? 」 また 一 台 、 トラック が 横 を 走り抜けて いく 。 祐一 は 電話 を 切った 。 ほとんど 反射 的に 指 が 動いた 。 た いやし 。 ぱあ じい 考えて みれば 、 あれ が 原因 で 祐一 は 婆さん 爺さん の 家 で 暮らす ように なった と です ょ 。 そう です か :….。 祐一 は 未 だに 、 父ちゃん に 会い に 行った と 思う とる と です か 。 切 なか です ねえ 。 ほんと は 自分 の 母親 に 捨てられよう と し とった と に ねぇ 。 祐一 が どう 話した か 知ら んです けど 、 あの とき もう 祐一 の 母親 は どうにも なら ん よう かいしよう に なっとった と です よ 。 周り の 反対 を 押し切って 、 甲斐 性 なし の 男 と くっついて 、 すぐ に 祐一 ば 産んだ まで は よかった ばってん 、 五 年 も 経た ん うち に 男 は 二 人 ば 置いて 出て 行って しも うて 。 祐一 の 母親 の 肩 持つ わけじゃ な かばって ん 、 キャバレー で 働いて 、 自分 なり に 祐一 の こと 育てよう と は 思う とった と でしょう ね 。 ただ 、 そう 簡単に いく もん で す か 。 あげ ん 所 で 働けば 、 すぐに また 悪 か 男 の 目 に ついて 、 あっという間 に 金 は 筆 り 取られて 、 挙げ句 の 果て に 病気 して ……、 実家 の 婆さん に 一 本 電話 かければ よかろう に 、 それ も でき ん 。 結局 、 頼る 者 も おら んで ……。 あの 日 は 、 いよいよ 切羽詰まった と でしょう ねえ 。 祐一 に 「 お 父さん に 会い に 行く よ 」 なんて 嘘 ついて 、 男 の 居場所 なんか 知り も せ ん くせ に 。 あの 日 、 祐一 は フェリー 乗り場 に 置き去り に さ れた と です よ 、 結局 、 翌朝 まで じっと 一 人 で 待つ とったら しか です 。 切符 ば 買い に 行くって 言う て 、 そのまま 逃げた 母親 ば 、 フェリー 乗り場 の 桟橋 の 柱 に 隠れて 、 朝 まで ずっと 待つ とったら しか です 。 翌朝 、 係員 に 見つけられた とき 、 祐一 は それ でも 動こう と せ ん や つたって 。 「 母 ちゃ ん が ここ に おれって 言う たも ん ! 」って 、 その 人 の 腕 に 噛みついたって 。 置き去り に する 前 に 、 母親 が 言う たら しかと です よ 。 「 向こう に 灯台 の 見える やろ う ? 」って 、「 あの 灯台 ば 見 とき なさい 」って 、「 そ したら すぐ お母さん 、 切符 買う て 戻って くる けん 」って 。 結局 、 母親 が 連絡 して きた と は その 一 週間 後 です よ 。 自分 で は 死ぬ 気 やったって 言い よった ばってん 、 俺 に は そう 思え んです ねえ 。 結局 その あと は 、 児童 相談 所 や 家庭 裁判 所 の 世話に なって 、 婆さん たち が 二 人 を 引き取って 、 それ から また すぐです もん ねえ 、 母親 が 男 作って 逃げ出した と は 。 それ でも ねえ 、 親子って いう と は 不思議な もん です よ 。 あれ は ちょうど 祐一 が うち で 働き 出した ころ やった か ねえ 、 なんか の 拍子 に 、「 母 ち ゃん から は ぜんぜん 連絡 な しか ? 」って 、 私 が 訊 いた と です よ 。 たしか 爺さん の 具合 が 悪う なった とき で 、 私 と して も 、 もし 万が一 の こと が あったら 、 葬式 くらい 呼んで やら ん と なぁ 、 なんて 心 のどっか で 思う とって 、 それ が ぼろっと 出た と やろう と 思う と です けど ね 。 母親 が 男 作って 家 を 出た あと は 、 てっきり 音沙汰 なしって 思う とったん です よ 。 実際 、 婆さん や 爺さん も 、「 何 年 か に 一 度 、 思い出した ように 年賀 状 が 来る だけ 。 年賀 状 が 来 る たんび に 住所 が 変わ つとって …・・・、 たぶん その たんび に 男 も 変わっと る の やろう 」 な ん て 言い よった し 。 だけ ん 、 祐一 に 「 ぜんぜん 連絡 な しか ? 」って 訊 いた とき も 、 祐一 が 頷いて 終わりって 思う とった と です よ 。 そ したら 、「 爺ちゃん の こと なら 、 もう 知らせて ある 」って 。 「 知らせて あるって 、 お前 ……。 母ちゃん と 連絡 取り合い よっと か ? 」 「 たまに 一緒に メシ 食い よる 」 「 たまにって ……」 「 年 に 一 回 あるか ない か 」 「 婆さん たち は 知っと る と か ? 」 祐一 は 、「 いや 、 知ら ん 」って 首 振りました よ 。 ほら 、 あの 婆さん も 祐一 は 自分 が 育 て たって 自負 も ある し 、 祐一 も 言いにくかった と でしょう ねえ 。 「 お前 、 母ちゃん に 会う て 、 腹 立た ん と か ? 」 思わず 、 そう 訊 きました よ 。 だって 、 ろくに 食べ物 も 与え ん で 、 その 上 、 フェリー 乗 り 場 に 置き去り に して 、 挙げ句 の 果て が 婆さん に 預けた まま です よ 。 でも 、 祐一 は 、 「 腹 立た ん 」って 言い よりました 。 「 腹 立てる ほど 、 会 うて ない 」って 。 「 母ちゃん 、 今 、 どこ で 何 し よる と か ? 」って 訊 いたら 、「 雲仙 の 旅館 で 働 い とる 」って 。 あれ が もう 三 年 か 四 年 前 。 祐一 を 見送った あと 、 光代 は しばらく アパート の 外 階段 に 座り込んで いた 。 硬い コン クリート が 尻 を 冷やし 、 一 階 の 部屋 から は 赤ん坊 を あやす 若い 男 の 声 が 聞こえた 。 さすが に 寒く なって 二 階 の 自室 へ 向かった 。 鍵 を 開け 、「 ただいま -」 と 声 を かける と 、 トイレ の 中 から 、「 残業 やった と ? 」 と 珠代 の 声 が 聞こえる 。 光代 は 、「 あ 、 うん 」 と 暖昧 に 答え ながら 靴 を 脱いだ 。 廊下 を 進んで 居間 へ 入る と 、 テーブル に シチュー を 食 べ た あと らしい Ⅲ が あった 。 「 自分 で 作った と ? 」 トイレ に 声 を かけて みる が 、 返事 は ない 。 襖 を 開けて 、 寝室 に して いる 六 畳 間 に 入った 。 祐一 は もう 高速に 乗った だろう か 。 な 祐一 自身 も たまに 車 で 会い に 行ったり する こと も あったら しか です よ 。 「 二 人 で 何の 話 する と か ? 」って 訊 いたら 、「 別に 何も 話さ ん 」って 。 私 は ね 、 正直 、 祐一 の 母親 ぱ 許す 気 は ない と です よ 。 未 だに フェリー 乗り場 に 置き 去 り に さ れた 祐一 が 目 に 浮かんで しまう 。 私 だけ じゃ なくて 、 婆さん も 爺さん も 、 親戚 中 の 人間 が そう です よ 。 ただ 、 ほんとに 不思議な もん で 、 当の 祐一 は その 母親 ば 、 もう 許 し とる と です もん ねえ 。 ん と なく 窓際 に 向かい 、 レース の カーテン を 開けた 。 さっき 祐一 を 見送った 場所 を 野良 猫 が 一 匹 駆け抜ける 。 その とき だった 。 表通り を ものすごい スピード で 走って きた 車 が 、 まるで スピン でも する ような 勢い で 、 そこ に 滑り込んで きた のだ 。 その 瞬間 、 ゴミ 捨て 場 に 駆け込もう と した 野良 猫 が 、 青い ライト に 浮かび上がった 。 光代 は 思わず 両手 を 握りしめた 。 「 危ない ! 」 と 心 の 中 で 叫んだ 。 車 が ゴミ 捨て場 の ポリバケッ に ぶつかる 寸前 で 停 まる 。 身 を 縮めて いた 野良 猫 が 、 青い ライト の 中 、 ふと 我 に 返った ように 逃げ出して いく 。 「 祐一 ? ……」 滑り込んで きた の は 祐一 の 車 に 違いなかった 。 野良 猫 の い なく なった 空き地 を 、 青い ライト が 照らして いる 。 光代 は 反射 的に カーテン を 閉め 、 慌てて 玄関 へ 腓 け 出した 。 あまりに も 急いで いる の で 、 うまく 踵 が 靴 に 入ら ない 。 床 に 置かれて いた バッグ を 反射 的に 取る と 、「 どこ 行く と ? 」 と 、 トイレ から 呑気 な 珠代 の 声 が 聞こえる 。 光代 は 何も 答え ず に 玄関 を 飛び出し た 。 アパート の 階段 から 、 暗い 車 内 で ハンドル に 突っ伏して いる 祐一 が 見えた 。 車 の ライ ト が 汚れた ポリバケッ を 照らして いる 。 光代 は 階段 を 下りた ところ で 思わず 足 を 止めた 。 目の前 の 光景 が 幻覚 の ように 思えた のだ 。 会いたい と 思う 気持ち が 、 こんな 光景 を 見せて いる ので は ない か と 。 それ でも ゆっくり と 近寄る と 、 足元 で 砂利 が 鳴った 。 光代 は 運転 席 の ガラス を 指先 で 叩いた 。 叩いた 瞬間 、 祐一 が ビクッ と 起き上がる 。 「 どうした と ? 」 と 光代 は 声 を 出さ ず に 尋ねた 。 その 口元 を 見つめて いる 祐一 の 目 が 、 どこ か とても 遠い 場所 を 見て いる よ うだった 。 光代 は もう 一 度 ガラス を 叩いた 。 叩き ながら 、「 どうした と ? 」 と 目 で 尋ねた 。 それ に 答える ように 祐一 が 目 を 逸ら す 。 光代 は また ガラス を 叩いた 。 しばらく ハンドル を 握った まま 傭 いて いた 祐一 が ゆっくり と ドア を 開ける 。 光代 は 一 歩 あと ず さった 。 車 を 降りて きた 祐一 が 、 何も 言わ ず に 光代 の 前 に 立つ 。 光代 は その 顔 を 見上げ ながら 、 「 どうした と ? 」 と また 訊 いた 。 通り を 車 が 一 台 走って いく 。 路肩 の 雑草 が その 風圧 で 激しく 揺れる 。 その とき だった 。 祐一 が とつぜん 光代 を 抱きしめた 。 あまりに も とつぜんで 、 光代 は 短い 声 を 上げた 。 「 俺 、 もっと 早う 光代 に 会 つ とれ ぱ よかった 。 もっと 早う 会っと れば 、 こげ ん こと に は なら ん やった ……」 抱きしめる 祐一 の 胸 から 声 が する 。 「』 え ? 。」 「 車 に 、 俺 の 車 に 乗って くれ ん や ? 」 「 え 」 「 俺 の 車 に 乗って くれって ! 」 とつぜん 声 を 荒らげた 祐一 が 、 光代 の 腕 を 引っ張って 、 助手 席 の ほう へ 回り込む 。 「 ど 、 どうした と ? 」 あまりに も 急で 、 光代 は 思わず 腰 を 引き 、 引きずら れる 踵 が 砂利 に 埋まった 。 「 よ かけ ん 、 乗れって ! 」 祐一 は ほとんど 光代 を 小 脇 に 抱える ように して 、 助手 席 の ドア を 開けた 。 両側 の ドア が 開いた 車 内 を 風 が 吹き抜け 、 暖房 で 暖まった 風 が 流れ出て くる 。 「 ちよ 、 ちょっと 」 光代 は 抵抗 した 。 乗り たく なかった わけで は なくて 、 一言 で いい から 何 か 説明 して ほ しかった 。 「 ど 、 どうした と ? ねぇ ? 」 乱暴に からだ を 押さ れ ながら 、 光代 は 祐一 の 手首 を 掴んだ 。 とても 乱暴な 物言い で 、 とても 乱暴に 扱われて いる のに 、 祐一 の 震える 手首 が とても 弱々しく 感じられた 。 光代 を 助手 席 に 押し込む と 、 祐一 は ドア を 閉めて 運転 席 へ 回った 。 まるで 転がり込む ように 乗り込んで 、 息 を 荒く した まま サイド ブレーキ を 下ろす 。 下ろした 途端 、 タイヤ が 地面 の 砂利 を 蹴飛ばして 、 猛 スピード で 発車 する 。 アパート 前 の 空き地 を 飛び出し 、 311 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? 急 ハンドル で 左 へ 曲がる 。 曲がった 瞬間 、 対向 車 と ぶつかり そうに なり 、 光代 は また 声 を 上げた 。 間一髪 、 対向 車 を 媒 した 車 は 、 畑 の 中 を 一直線 に 伸びる 暗い 道 を 加速 した 。

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悪人 下 (5) あくにん|した villain| Evil Man (5) Le méchant, en bas (5).

手 を 振る 光代 の 姿 が ルームミラー から 消えて 、 もう どれ くらい 走った の か 。 て||ふる|てるよ||すがた||||きえて||||はしった|| ||waving|Mitsuyo|||||||||||| The appearance of Mitsuyo waving his hand disappeared from the rear-view mirror, and how long did he run? すぐ そこ に 高速の 入口 が 見える 交差 点 で 、 車 は 赤 信号 に 捕まった 。 |||こうそくの|いりぐち||みえる|こうさ|てん||くるま||あか|しんごう||つかまった |||||||||||||||caught 祐一 は 尻 ポケット から 財布 を 出した 。 ゆういち||しり|ぽけっと||さいふ||だした 中 に は 五千 円 に 満たない 金 しか 入って いない 。 なか|||ごせん|えん||みたない|きむ||はいって| もしも 光代 が ホテル に 行く こと を 承諾 したら 、 帰り は いくら 遅く なろう と 一般 道 で 帰る つもりだった 。 |てるよ||ほてる||いく|||しょうだく||かえり|||おそく|||いっぱん|どう||かえる| ||||||||consent||||||||||||was planning to 幸い 光代 が 明日 の 仕事 を 心配 して くれた おかげ で 、 祐一 は これ から 高速に 乗る こと が できる 。 さいわい|てるよ||あした||しごと||しんぱい|||||ゆういち||||こうそくに|のる||| fortunately||||||||||||||||quickly|||| 会い たくて 、 会い たくて 仕方なかった 。 あい||あい||しかたなかった ||||inevitable I wanted to meet, I couldn't help it. つい 数 日 前 に 出会った ばかりな のに 、 一 日 で も 会え ない と 、 それ で 何もかも が 終わって しまい そうで 恐ろしかった 。 |すう|ひ|ぜん||であった|||ひと|ひ|||あえ|||||なにもかも||おわって||そう で|おそろしかった just||||||||||||||||||||||frightening ||||||||一日|||||||||すべて||||| Just a few days ago, we had just met, but I was terrified that if I couldn't see them for even a day, it would feel like everything was over. 夜 、 電話 で いく ら 話して も 、 恐ろし さ は 拭え なかった 。 よ|でんわ||||はなして||おそろし|||ぬぐえ| |||||||frightening|||erased| At night, no matter how much we talked on the phone, the fear couldn't be shaken off. 電話 を 切った とたん に 苦しく なって 、 もう 会え ない ような 気 が した 。 でんわ||きった|||くるしく|||あえ|||き|| |||||painfully|||||||| The moment I hung up the phone, I felt a pang of pain and got the impression that I wouldn't be able to see them again. 眠る と 光代 が い なく なる 夢 を 見た 。 ねむる||てるよ|||||ゆめ||みた When I fell asleep, I dreamed that Mitsuyo disappeared. 朝 起きて 、 すぐに 電話 を かけ たかった が 、 早朝 五 時 に かける 勇気 は なく 、 仕事 中 も ずっと 光代 の こと だけ を 考えて い た 。 あさ|おきて||でんわ|||||そうちょう|いつ|じ|||ゆうき|||しごと|なか|||てるよ|||||かんがえて|| ||||||||early morning||||||||||||||||||| I wanted to call her as soon as I woke up, but I didn't have the courage to do so at 5 a.m. I thought about Mitsuyo the whole time I was at work. 仕事 が 終わる ころ に は もう 居て も 立って も いられ なく なり 、 気 が つけば 、 車 で 佐賀 に 向かって いた 。 しごと||おわる|||||いて||たって||いら れ|||き|||くるま||さが||むかって| |||||||already there||||||||||||||| |||||||いた||||||||||||||| By the time I finished work, I couldn't stand still and found myself driving to Saga. 朝 、 おじ の ワゴン で は なく 、 自分 の 車 で 現場 へ 向かった 時点 で 、 もう 行こう と 決めて いた の かも しれ ない 。 あさ|||わごん||||じぶん||くるま||げんば||むかった|じてん|||いこう||きめて||||| |uncle||||||||||||||||||||||| I may have already decided to go when I drove my own car to the site in the morning instead of my uncle's wagon. 祐一 は なかなか 変わら ない 信号 を 待ち ながら 、 力一杯 ハンドル を 両手 で 叩いた 。 ゆういち|||かわら||しんごう||まち||ちからいっぱい|はんどる||りょうて||たたいた |||||||||with all one's strength||||| Yuichi tapped the steering wheel with both hands as hard as he could while waiting for the signal, which did not change easily. 横 に 車 が 並んで い なければ 、 そのまま 額 を 打ち付けたい 気分 だった 。 よこ||くるま||ならんで||||がく||うちつけ たい|きぶん| ||||lined up||||forehead||wanted to bang|| ||||parked||||||打ち付けたい|| If there had been no cars alongside me, I would have wanted to smash my forehead into the ground. あれ は まだ 祖父母 の 家 に 連れて 来られる 前 、 おふくろ と 市 内 の アパート に 住んで いた 。 |||そふぼ||いえ||つれて|こ られる|ぜん|||し|うち||あぱーと||すんで| |||grandparents||||||||||||||| I was living with my mother in an apartment in the city before I was brought to my grandparents' house. ある 日 、「 今 から お 父さん に 会い に 行く よ 」 と 、 とつぜん おふくろ が 言った 。 |ひ|いま|||とうさん||あい||いく||||||いった |||||||||||||mother|| One day, my mother suddenly said, "I'm going to see my father now. 喜んで 支 度 を して 、 一緒に 路面 電車 に 乗った 。 よろこんで|し|たび|||いっしょに|ろめん|でんしゃ||のった happily|support|||||street||| |支援|||||||| I gladly got ready and we rode the tram together. 「 駅 に 着いたら 汽車 に 乗り換える けん ね 」 と お ふ くろ は 言った 。 えき||ついたら|きしゃ||のりかえる||||||||いった ||arrive|train||transfer||||||mother|| When we get to the station, we'll change to the train," Ofuro said. 「 遠い と ? とおい| far away| "Far away"? 」 と 尋ねる と 、「 ものすご -、 遠い よ 」 と 答えた 。 |たずねる|||とおい|||こたえた |||amazing|||| He replied, "It's too far away. 混 んだ 路面 電車 で 、 おふくろ は 吊り革 を 掴んだ 。 こん||ろめん|でんしゃ||||つりかわ||つかんだ ||road surface|||mother||hanging strap||grabbed On a crowded streetcar, my mother grabbed the strap. 俺 は その スカート を 掴んだ 。 おれ|||すかーと||つかんだ |||||grabbed I grabbed the skirt. 電車 が そ 走り出す と 、 前 に 座って いる 男 たち が 、 互い の 肩 を 突き 合い クスクス と 笑い 出した 。 でんしゃ|||はしりだす||ぜん||すわって||おとこ|||たがい||かた||つき|あい|くすくす||わらい|だした |||started running|||||||||each||||||snickered||| ||||||||||||||||||くすくす||| As the train started to run, the men sitting in front of it started to giggle, rubbing shoulders with each other. 剃 わき げ り 忘れた おふくろ の 腋毛 を 笑って いる らしかった 。 てい||||わすれた|||わきげ||わらって|| shave|armpit||||||armpit hair|(object marker)||| |||||||armpit hair|||| He seemed to be laughing at his mother's armpit hair, which she had forgotten to shave. おふくろ は 顔 を 真っ赤に して 腋 を ハ ンカチ で 隠した 。 ||かお||まっかに||わき|||||かくした ||||bright red||||topic marker|handkerchief|| ||||||||ハンカチ||| Mother's face turned red and she hid her armpits with a handkerchief. 暑い 日 だった 。 あつい|ひ| 混 んだ 電車 は 大きく 揺れて 、 おふくろ の ハンカチ が ず れる たび に 、 男 たち が 笑い を 堪えた 。 こん||でんしゃ||おおきく|ゆれて|||はんかち||||||おとこ|||わらい||こらえた |||||swaying||||||slipped||||||||suppressed The crowded train shook so much that every time my mother's handkerchief slipped, the men burst into laughter. 国鉄 の 駅 に 着いて 、 汽車 に 乗り換えた 。 こくてつ||えき||ついて|きしゃ||のりかえた national railway|||||train||transferred I arrived at the train station and transferred to the train. 揺れる 路面 電車 で 必死に 腋 を 隠して いた お ふ くろ は 、 水 を 浴びた ように 汗だくだった 。 ゆれる|ろめん|でんしゃ||ひっしに|わき||かくして||||||すい||あびた||あせだくだった |||||armpit|(object marker)|hiding||||||||||covered in sweat |||||||||||||||||びっしょり Ofuro, who was desperately hiding his armpits in the swaying tram, was sweating as if he had been drenched in water. 切符 を 買おう と 混 んだ 窓口 に 並んで いる とき 、 俺 は 、「 ごめん ね 」 と 謝った 。 きっぷ||かおう||こん||まどぐち||ならんで|||おれ|||||あやまった ticket||||||ticket window|||||||||| おふくろ は きょとんと して 首 を 捻り 、「 暑 か ねえ 」 と 微笑 む と 、 俺 の 鼻 に 浮かんだ 汗 を 、 その ハンカチ で 拭って くれた 。 ||||くび||ねじり|あつ||||びしょう|||おれ||はな||うかんだ|あせ|||はんかち||ぬぐって| ||puzzled||||twisted|||||smiled|smile||||nose||noticed||||||wiped off| My mother twisted her head around, smiled, said, "It's hot, isn't it?" and wiped the sweat from my nose with her handkerchief. とつぜん 背後 で クラクション を 鳴らさ れ 、 祐一 は 我 に 返った 。 |はいご||||ならさ||ゆういち||われ||かえった |behind||||sounded||||||turned |||||||||私|| Suddenly, a horn sounded behind him and Yuichi came to his senses. 慌てて アクセル を 踏み 込む と 、 ハンドル に しがみついて いた から だ が シート に 叩きつけられる 。 あわてて|あくせる||ふみ|こむ||はんどる|||||||しーと||たたきつけ られる ||||||||clinging to|||||seat||slammed When the driver rushes to the gas pedal, his body, which had been clinging to the steering wheel, is slammed against the seat. 気 が 動転 して 、 高速 入口 へ の 車線 に 入れ ず に 、 そのまま 高架 を くぐって しまった 。 き||どうてん||こうそく|いりぐち|||しゃせん||いれ||||こうか||| ||flustered||||||||||||elevated road||passed under| ||||||||||||||||くぐってしまった| I was so upset that I went through the elevated highway without getting into the lane to enter the expressway. 次の 信号 で Uターン しよう と 速度 を 落とし 、 気分 転換 に ラジオ を つける と 、 地元 の ニ ュース 番組 が 流れた 。 つぎの|しんごう||u たーん|||そくど||おとし|きぶん|てんかん||らじお||||じもと||||ばんぐみ||ながれた |||U-turn|||||slowing||change||||||||news|news||| I slowed down to make a U-turn at the next traffic light and turned on the radio to refresh myself, and a local news program came on. 祐一 は 車 を 大きく Uターン さ せた 。 ゆういち||くるま||おおきく|u たーん|| |||||U-turn|| Yuichi made a wide U-turn. 入り 損ねた 高速の 入口 が すぐ に 近づいて くる 。 はいり|そこねた|こうそくの|いりぐち||||ちかづいて| |missed|highway|||||approaching| The entrance to the expressway, which we missed, is approaching quickly. 「 では 次の ニュース です 。 |つぎの|にゅーす| Next news . 今月 十 日 未明 、 福岡 と 佐賀 の 県境 、 三瀬 峠 で 起こった 殺人 事 件 の 重要 参考人 と して 指名 手配 されて いた 二十二 歳 の 男性 が 、 昨夜 、 名古屋 市 内 の サウ ナ 店 で 、 店員 から の 通報 で 駆けつけた 警官 に より 身柄 を 拘束 、 すぐに 移送 さ れ 、 現在 、 取り調べ を 受けて いる 模様 です 。 こんげつ|じゅう|ひ|みめい|ふくおか||さが||けんきょう|みつせ|とうげ||おこった|さつじん|こと|けん||じゅうよう|さんこうにん|||しめい|てはい|さ れて||にじゅうに|さい||だんせい||さくや|なごや|し|うち||||てん||てんいん|||つうほう||かけつけた|けいかん|||みがら||こうそく||いそう|||げんざい|とりしらべ||うけて||もよう| this month|||early morning|||||prefectural border|Mise|||||||||key witness|||wanted|wanted|||||||||||||saw|||||||report||rushed||||person||detained||transfer||||interrogation||||situation| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||身柄確保||||||||||||| A 22-year-old man wanted as a person of interest in the murder case at Mise Pass on the border between Fukuoka and Saga prefectures on the 10th of this month was taken into custody last night at a sauna in Nagoya by police officers who responded to a call from a sauna attendant, and was immediately transported to a sauna for questioning. 詳しい 情報 が 入り 次第 、 十一 時 の ニュース でも お 伝え します 」 ニュース が 終わり 、 保険 の コマーシャル が 流れる 。 くわしい|じょうほう||はいり|しだい|じゅういち|じ||にゅーす|||つたえ|し ます|にゅーす||おわり|ほけん||こまーしゃる||ながれる detailed||||||||||||||||insurance||commercial||flows 祐一 は 高速の 入口 へ 切り かけて い た ハンドル を 戻し 、 思い切り アクセル を 踏み込んだ 。 ゆういち||こうそくの|いりぐち||きり||||はんどる||もどし|おもいきり|あくせる||ふみこんだ |||||||||||pulled back|with all one's strength|accelerator||stepped on Yuichi returned the steering wheel to the entrance of the highway and stepped on the gas pedal as hard as he could. とつぜん 割り込んで きた 祐一 の 車 に 、 背後 の 車 から 激しい クラクション が 鳴らさ れる 。 |わりこんで||ゆういち||くるま||はいご||くるま||はげしい|||ならさ| |cutting in||||||behind||||loud|||| Yuichi's car suddenly intervenes, and the car behind him honks its horn violently. 祐一 は それ でも アクセル を 踏み 続 け 、 前 を 走る もう 一 台 の 車 を 抜き去る と 、 やっと スピード を 弛 め て 、 自動 販売 機 の 立つ 路肩 に 車 を 停めた 。 ゆういち||||あくせる||ふみ|つづ||ぜん||はしる||ひと|だい||くるま||ぬきさる|||すぴーど||ち|||じどう|はんばい|き||たつ|ろかた||くるま||とめた ||||||||||||||||||overtake|||||ease||||||||roadside|||| Yuichi continued to press the gas pedal, passed the other car in front of him, and finally slowed down and parked on the shoulder of the road where a vending machine stood. ラジオ は 懐かしい クリスマス ソング を 流して いた 。 らじお||なつかしい|くりすます|そんぐ||ながして| ||||song||playing| 祐一 は すぐに チャンネル を 変えて みた が 、 三瀬 峠 の 事件 を 伝える 番組 は 他 に なかった 。 ゆういち|||ちゃんねる||かえて|||みつせ|とうげ||じけん||つたえる|ばんぐみ||た|| 路肩 に 停めた 車 の 中 で 、 祐一 は ハンドル を 抱え込んだ 。 ろかた||とめた|くるま||なか||ゆういち||はんどる||かかえこんだ |||||||||||clutch Yuichi was in the car parked on the shoulder of the road, holding the steering wheel. すぐ 横 を 大型 トラック が 走り 抜けて いき 、 その 風圧 で 車体 が ふっと 浮かぶ 。 |よこ||おおがた|とらっく||はしり|ぬけて|||ふうあつ||しゃたい|||うかぶ immediately|||large|||||||wind pressure||body||| A large truck drives right next to the car, and the wind pressure causes the body of the car to float. 祐一 は 掴んだ ハンドル を 大きく 揺すった 。 ゆういち||つかんだ|はんどる||おおきく|ゆすった ||grabbed|||greatly|shook Yuichi shook the steering wheel he had grabbed. 揺すった ところ で 、 ハンドル は ビク と も し ない 。 ゆすった|||はんどる|||||| shook|||||budged|||| |||||びくっと|||| Even if you shake it, the handle doesn't budge at all. 祐一 は もう 一 度 、 ハンドル を 揺さぶった 。 ゆういち|||ひと|たび|はんどる||ゆさぶった |||||||shook |||||||shook Yuichi shook the handle once more. 力 を 込めて 揺さぶれば 揺さぶる ほど 、 ハンドル で は なく 、 自分 の からだ が 前後 に 揺れる 。 ちから||こめて|ゆさぶれば|ゆさぶる||はんどる||||じぶん||||ぜんご||ゆれる ||with|shaking|shake||||||||||back and forth||sways The harder you shake it with force, the more your own body sways back and forth, rather than the handle. あいつ が 捕まった 。 ||つかまった ||caught That guy got caught. 逃げて いた あの 男 が 捕まった 。 にげて|||おとこ||つかまった |||||caught The man who was running away got caught. 石橋 佳乃 を 三瀬 峠 へ 連れて 行った あの 男 が 、 名古屋 で 捕まった 。 いしばし|よしの||みつせ|とうげ||つれて|おこなった||おとこ||なごや||つかまった |||||||||||Nagoya|| The man who took Yoshino Ishibashi to Minase Pass was caught in Nagoya. 知らず知らず に 、 祐一 は そう 眩 いて いた 。 しらずしらず||ゆういち|||くら|| unbeknownst to|||||dazzling|| Unknowingly, Yuichi was shining so brightly. そう 眩 いて いる のに 、 なぜ か 昔 、 おふくろ と 一緒に 親父 に 会い に 行った 日 の 情景 が 思い出さ れる 。 |くら||||||むかし|||いっしょに|おやじ||あい||おこなった|ひ||じょうけい||おもいださ| |dazzling|||||||mother|||father|||||||scene||| Even though he was shining so brightly, for some reason, the scenes from the day he went to meet his father with his mother long ago came to mind. 路面 電車 の 中 で 、 おふくろ の 腋 毛 を 笑った 男 たち 。 ろめん|でんしゃ||なか||||わき|け||わらった|おとこ| road|||||mother||armpit||||| The men who laughed at his mother's armpit hair on the streetcar. 混 んだ 切符 売り場 の 窓口 で 、 鼻 の 汗 を 拭いて くれた おふくろ の 顔 。 こん||きっぷ|うりば||まどぐち||はな||あせ||ふいて||||かお mixed||ticket|||||nose||sweat||wiped|||| The face of my mother, who wiped the sweat from my nose at the crowded ticket sales window. どうして 今 、 あの とき の こと が 浮かんで くる の か 分から なかった 。 |いま||||||うかんで||||わから| I did not know why, right now, those memories were coming to me. ただ 、 忘れよう と し て も 、 浮かんで くる 情景 を 消して しまう こと が でき なかった 。 |わすれよう|||||うかんで||じょうけい||けして||||| |to forget|||||||scene||erased||||| However, even though I tried to forget, I could not erase the scenes that came to mind. 路面 電車 で 国鉄 の 駅 へ 向かい 、 そこ で 列車 に 乗り換えた 。 ろめん|でんしゃ||こくてつ||えき||むかい|||れっしゃ||のりかえた road|||national railway|||||||train||transferred to I took the tram heading to the national railway station and transferred to a train there. おふくろ は 俺 を 窓際 の 席 に 座ら せ 、 横 で ずっと うとうと して いた 。 ||おれ||まどぎわ||せき||すわら||よこ||||| ||||window side||||sat|||||dozing off|| |||||||||||||居眠り|| My mother made me sit by the window seat and dozed off beside me the whole time. 親父 が 出て いった ばかりの ころ 、 おふくろ は 毎晩 の ように 泣いて いた 。 おやじ||でて||||||まいばん|||ないて| father||||||||every night|||| When my father had just left, my mother cried almost every night. 心細くて 横 に 座る と 、 俺 の 頭 を 撫で ながら 、「 嫌な こと は ぜ 〜 ん ぶ 忘れて しまおう ねえ 。 こころぼそくて|よこ||すわる||おれ||あたま||なで||いやな||||||わすれて|| lonely|||||||head||pet||unpleasant|||||||| 不安で||||||||||||||||||| Feeling lonely, when I sat next to him, while stroking my head, he said, 'Let's forget all the unpleasant things, okay?' 一緒に ぜ 〜 ん ぶ 忘れて しまおう ねえ 」 と ますます 声 を 上げて 泣いた 。 いっしょに||||わすれて|||||こえ||あげて|ないた ||||||||more and more|||| 'Let's forget everything together, okay?' he cried out louder and louder. おふくろ と 一緒に 乗った 列車 の 窓 から は 、 海 が 見えた 。 ||いっしょに|のった|れっしゃ||まど|||うみ||みえた ||||train||||||| From the window of the train I rode with my mother, I could see the sea. 座った の が 山側 の 座席 で 、 海 側 の 座席 に は お 揃い の 帽子 を かぶった 小学生 の 兄弟 と その 両親 が 座って いた 。 すわった|||やまがわ||ざせき||うみ|がわ||ざせき||||そろい||ぼうし|||しょうがくせい||きょうだい|||りょうしん||すわって| |||mountain side||seat|||side||seat|||honorable|matching||||wore|||brothers|||parents||| The seat on the mountain side was the seat on the mountain side, and the seat on the sea side was the seat of an elementary school sibling and his parents wearing matching hats. 首 を 伸ば して 、 海 を 見よう と する と 、 うとうと して いた おふくろ が 目 を 覚まし 、「 ほら 、 ちゃん と 座 つ とき なさい よ 。 くび||のば||うみ||みよう|||||||||め||さまし||||ざ|||| neck||stretch||||let's see||||dozing off|||||||woke up|||quotation particle||||| When I stretched my neck to look at the sea, my dozing mother woke up and said, 'Look, sit properly.' 危ない けん 」 と 頭 を 押さえた 。 あぶない|||あたま||おさえた |||head||pressed down She pressed my head down, saying, 'It's dangerous.' 「 着いたら 、 海 なら いくら でも 見られる けん 」 と 。 ついたら|うみ||||み られる|| when I arrive||||||| 'Once we arrive, you'll be able to see the sea as much as you want,' she added. どれ くらい 乗って いた の か 、 気 が つく と 、 おふくろ と 同じ ように うとうと して いた 。 ||のって||||き||||||おなじ|||| ||||||||||mother||||dozing off|| 「 ほら 、 降りる よ 」 と 、 とつぜん 腕 を 掴まれて 、 寝ぼけた まま 列車 を 降りた 。 |おりる||||うで||つかま れて|ねぼけた||れっしゃ||おりた |got off||||arm||grabbed by|sleepy||train|| "Look, let's get off," I was suddenly grabbed by the arm and got off the train while still half asleep. 駅 から し ばら く 歩いた 。 えき|||||あるいた station||||| I walked for a little while from the station. 着いた ところ は フェリー 乗り場 だった 。 ついた|||ふぇりー|のりば| |||ferry|| The place I arrived at was the ferry terminal. 「 ここ から 船 に 乗って 、 向こう に 行く けん ね 」 おふくろ は そう 言って 、 対岸 を 指さした 。 ||せん||のって|むこう||いく||||||いって|たいがん||ゆびさした ||||||||||||||opposite bank|(object marker)|pointed "From here, we'll take a boat and go over there," my mother said, pointing to the opposite shore. フェリー 乗り場 の 駐車 場 に は 、 たくさんの 車 が 並んで いた 。 ふぇりー|のりば||ちゅうしゃ|じょう||||くるま||ならんで| ferry|boarding place||parking|||||||| In the parking lot of the ferry terminal, there were many cars lined up. この 車 も 全部 、 一緒に フ ェリー に 乗る のだ と おふくろ は 教えて くれた 。 |くるま||ぜんぶ|いっしょに||||のる|||||おしえて| ||||||ferry|||||||| My mother told me that all these cars would also go on the ferry together. 列車 の 中 で おふくろ が 言った 通り 、 目の前 に は 海 が あり 、 遠く に 対岸 の 灯台 が 小さく 見えた 。 れっしゃ||なか||||いった|とおり|めのまえ|||うみ|||とおく||たいがん||とうだい||ちいさく|みえた train||||||||||||||||opposite shore||||| 灯台 を 見た の は あの とき が 初めて だった 。 とうだい||みた||||||はじめて| ポケット で 携帯 が 鳴って いた 。 ぽけっと||けいたい||なって| ||||ringing| 祐一 は 路肩 に 停めた 車 の 中 で 、 ハンドル を 握りしめた まま だった 。 ゆういち||ろかた||とめた|くるま||なか||はんどる||にぎりしめた|| Yuichi||roadside||stopped|||||||gripped|| Yuichi was gripping the steering wheel while sitting in the car parked on the roadside. 相変わらず 横 を トラック が 走り抜けて いく 。 あいかわらず|よこ||とらっく||はしりぬけて| as usual|||||| As always, trucks were passing by beside him. 通る たび に 風圧 で こちら の 車体 が ふっと そう です か 。 とおる|||ふうあつ||||しゃたい||||| passes|||wind pressure||||body||suddenly|||quotation particle Every time they passed, the wind pressure would slightly impact his vehicle. 祐一 は あん とき の こと を まだ 覚え とった です か ……。 ゆういち||||||||おぼえ||| Did Yuichi still remember that time ...? あれ は 祐一 が 五 歳 か 、 六 歳 :….。 ||ゆういち||いつ|さい||むっ|さい ||Yuichi|||||| Is that Yuichi 5 years old or 6 years old:…. .. てっきり 、 祐一 は もう 忘れ とるって 思う とった です よ 。 |ゆういち|||わすれ|とる って|おもう||| surely|||||had forgotten|||| I thought for sure that Yuichi had already forgotten. 前 に も 話し まし た けど 、 祐一 が 私 の ところ で 働く ように なって から は 、 前 に も 増して 祐一 は 自分 の 息子 の よう やった で すけ ん ねえ 。 ぜん|||はなし||||ゆういち||わたくし||||はたらく|||||ぜん|||まして|ゆういち||じぶん||むすこ||||||| |||||||||||||working||||||||more than before||||||||||you know|| I mentioned this before, but since Yuichi started working for me, he has felt even more like my own son. 最近 で は 仕事 も 覚えて 、 クレーン 免許 ば 取る 気 も あった み 浮かぶ 。 さいきん|||しごと||おぼえて|くれーん|めんきょ||とる|き||||うかぶ ||||||crane|license||||||| Recently, he seems to have learned the job, and it seems he also had the desire to get a crane license. 祐一 は 携帯 を 取り出した 。 ゆういち||けいたい||とりだした Yuichi took out his mobile phone. 「 家 」 から だった 。 いえ|| It was from 'home.' 電話 に 出る と 、 少し オドオド した よう な 祖母 の 声 が 聞こえて くる 。 でんわ||でる||すこし|||||そぼ||こえ||きこえて| |||||nervously||||grandmother||||| |||||おどおど||||||||| When he answered the phone, he could hear the voice of his grandmother, who seemed a bit flustered. 「 ゆ 、 祐一 ね ? |ゆういち| あんた 、 今 、 どこ に おる と ? |いま|||| 」 近く に 誰 か が いて 、 その 誰 か に 確認 し ながら 話して いる ようだった 。 ちかく||だれ|||||だれ|||かくにん|||はなして|| It seemed like someone was nearby and talking while checking with that someone. 「 なんで ? Why? 」 と 祐一 は 訊 いた 。 |ゆういち||じん| Yuichi asked. 「 い 、 今 、 警察 の 人 が 来 と んな つと さ 、 ここ に 」 わざと 明るく 振る舞おう と して いる が 、 祖母 の 声 が 震えて いる 。 |いま|けいさつ||じん||らい||||||||あかるく|ふるまおう|||||そぼ||こえ||ふるえて| ||police|||||||just||||||act like|||||grandmother||||trembling| |||||||||||||||振る舞おう|||||||||| "Now, the police are coming here," he is deliberately trying to behave brightly, but his grandmother's voice is quivering. 「 どこ に おる と ? すぐ 帰って こ れる と やる ? |かえって|||| 」 また 一 台 、 トラック が 横 を 走り抜けて いく 。 |ひと|だい|とらっく||よこ||はしりぬけて| |||||||running through| Another truck runs sideways. 祐一 は 電話 を 切った 。 ゆういち||でんわ||きった ほとんど 反射 的に 指 が 動いた 。 |はんしゃ|てきに|ゆび||うごいた |almost automatically|||| Almost instinctively, my fingers moved. た いやし 。 past tense|healing Healing. ぱあ じい 考えて みれば 、 あれ が 原因 で 祐一 は 婆さん 爺さん の 家 で 暮らす ように なった と です ょ 。 ||かんがえて||||げんいん||ゆういち||ばあさん|じいさん||いえ||くらす||||| suddenly||||||cause||||grandmother|grandfather||||||||| If I think about it, that was the reason Yuichi started living at his grandparents' house. そう です か :….。 祐一 は 未 だに 、 父ちゃん に 会い に 行った と 思う とる と です か 。 ゆういち||み||とうちゃん||あい||おこなった||おもう|||| ||||dad|||||||||| Yuichi still thinks that he'll go to meet his dad, doesn't he? 切 なか です ねえ 。 せつ||| cut||| That is heartbreaking, isn't it? ほんと は 自分 の 母親 に 捨てられよう と し とった と に ねぇ 。 ||じぶん||ははおや||すて られよう|||||| really||||mother||about to be abandoned|||||| In reality, he was trying to be abandoned by his own mother, you know? 祐一 が どう 話した か 知ら んです けど 、 あの とき もう 祐一 の 母親 は どうにも なら ん よう かいしよう に なっとった と です よ 。 ゆういち|||はなした||しら||||||ゆういち||ははおや||||||||な っと った||| |||||||||||||||somehow||||couldn't be helped||had become||| I don't know how Yuichi talked, but at that time, Yuichi's mother seemed to have reached a point where she couldn't do anything about it. 周り の 反対 を 押し切って 、 甲斐 性 なし の 男 と くっついて 、 すぐ に 祐一 ば 産んだ まで は よかった ばってん 、 五 年 も 経た ん うち に 男 は 二 人 ば 置いて 出て 行って しも うて 。 まわり||はんたい||おしきって|かい|せい|||おとこ|||||ゆういち||うんだ||||ばっ てん|いつ|とし||へた||||おとこ||ふた|じん||おいて|でて|おこなって|| ||opposition||pushed through|worth|sincerity|||||stuck with|||||gave birth to||||but||||passed||||||||||||| ||||押し切って||||||||||||||||||||||||||||||||| Despite opposition from those around her, she got together with a useless man and quickly gave birth to Yuichi, which was fine, but five years later, the man left her with two children. 祐一 の 母親 の 肩 持つ わけじゃ な かばって ん 、 キャバレー で 働いて 、 自分 なり に 祐一 の こと 育てよう と は 思う とった と でしょう ね 。 ゆういち||ははおや||かた|もつ|||||||はたらいて|じぶん|||ゆういち|||そだてよう|||おもう|||| ||||shoulder|support|||protecting||café||working at|||||||raise up||||||| ||||||||||キャバレー|||||||||||||||| I'm not supporting Yuichi's mother, but she was working in a cabaret and probably thought she could raise Yuichi in her own way. ただ 、 そう 簡単に いく もん で す か 。 ||かんたんに||||| But, is it that easy? あげ ん 所 で 働けば 、 すぐに また 悪 か 男 の 目 に ついて 、 あっという間 に 金 は 筆 り 取られて 、 挙げ句 の 果て に 病気 して ……、 実家 の 婆さん に 一 本 電話 かければ よかろう に 、 それ も でき ん 。 ||しょ||はたらけば|||あく||おとこ||め|||あっというま||きむ||ふで||とら れて|あげく||はて||びょうき||じっか||ばあさん||ひと|ほん|でんわ||||||| ||||if you work||||||||||||||pen||taken|eventually||finally||sickness||family home||grandmother||||||probably||||| If you work at a place where they look after you, you'll quickly catch the attention of some bad guys, and in no time the money will be taken from you, and in the end, you'll get sick... It would be fine to just call my grandmother back home, but I can't even do that. 結局 、 頼る 者 も おら んで ……。 けっきょく|たよる|もの||| after all|depend on|||| In the end, I have no one to rely on... あの 日 は 、 いよいよ 切羽詰まった と でしょう ねえ 。 |ひ|||せっぱつまった||| |||finally|pressed for time||| ||||切羽詰まった||| That day must have been really urgent, right? 祐一 に 「 お 父さん に 会い に 行く よ 」 なんて 嘘 ついて 、 男 の 居場所 なんか 知り も せ ん くせ に 。 ゆういち|||とうさん||あい||いく|||うそ||おとこ||いばしょ||しり||||| ||||||||||lie||||place||||||| Lying to Yuichi saying, 'I'm going to see dad,' when I didn't even know where the man was. あの 日 、 祐一 は フェリー 乗り場 に 置き去り に さ れた と です よ 、 結局 、 翌朝 まで じっと 一 人 で 待つ とったら しか です 。 |ひ|ゆういち||ふぇりー|のりば||おきざり|||||||けっきょく|よくあさ|||ひと|じん||まつ||| |||||||left behind|||||||eventually|the next morning||||||||| That day, Yuichi was left behind at the ferry terminal, and in the end, he just waited alone until the next morning. 切符 ば 買い に 行くって 言う て 、 そのまま 逃げた 母親 ば 、 フェリー 乗り場 の 桟橋 の 柱 に 隠れて 、 朝 まで ずっと 待つ とったら しか です 。 きっぷ||かい||いく って|いう|||にげた|ははおや||ふぇりー|のりば||さんばし||ちゅう||かくれて|あさ|||まつ||| ticket|||||||||mother|||ferry terminal||pier||post||hidden|||||if|| The mother who said she would go buy a ticket just ran away and hid behind the pillar of the ferry terminal's dock, waiting there until the morning. 翌朝 、 係員 に 見つけられた とき 、 祐一 は それ でも 動こう と せ ん や つたって 。 よくあさ|かかりいん||みつけ られた||ゆういち||||うごこう||||| the next morning|staff member||was found|||||but|try to move|||||still |staff member||||||||||||| The next morning, when found by the staff, Yuichi still didn't want to move. 「 母 ちゃ ん が ここ に おれって 言う たも ん ! はは||||||おれ って|いう|| ||||||I||also| "Mom told me to stay here!" 」って 、 その 人 の 腕 に 噛みついたって 。 ||じん||うで||かみついた って ||||||bitten 置き去り に する 前 に 、 母親 が 言う たら しかと です よ 。 おきざり|||ぜん||ははおや||いう|||| abandonment|||||||||certainly|| Before leaving you behind, your mother told you so, didn't she? 「 向こう に 灯台 の 見える やろ う ? むこう||とうだい||みえる|| You can see the lighthouse over there, right? 」って 、「 あの 灯台 ば 見 とき なさい 」って 、「 そ したら すぐ お母さん 、 切符 買う て 戻って くる けん 」って 。 ||とうだい||み|||||||お かあさん|きっぷ|かう||もどって||| ||lighthouse|||||||||||||||| |||場所||||||||||||||| She said, 'Just look at that lighthouse,' and 'Then I will buy the ticket and come back right away.' 結局 、 母親 が 連絡 して きた と は その 一 週間 後 です よ 。 けっきょく|ははおや||れんらく||||||ひと|しゅうかん|あと|| |mother||contact|||||||||| In the end, it was a week later that the mother contacted us. 自分 で は 死ぬ 気 やったって 言い よった ばってん 、 俺 に は そう 思え んです ねえ 。 じぶん|||しぬ|き|やった って|いい||ばっ てん|おれ||||おもえ|| ||||||||but||||||| I said I felt like I wanted to die myself, but I just can’t believe that. 結局 その あと は 、 児童 相談 所 や 家庭 裁判 所 の 世話に なって 、 婆さん たち が 二 人 を 引き取って 、 それ から また すぐです もん ねえ 、 母親 が 男 作って 逃げ出した と は 。 けっきょく||||じどう|そうだん|しょ||かてい|さいばん|しょ||せわに||ばあさん|||ふた|じん||ひきとって|||||||ははおや||おとこ|つくって|にげだした|| ||||children|consultation|consultation office||home|family court|||||grandmother||||||took in||||right away||||||||| After that, we were taken care of by the children's consultation center and the family court, and soon after that, the grandmothers took the two of them in, and then, the mother made a man and ran away. それ でも ねえ 、 親子って いう と は 不思議な もん です よ 。 |||おやこ って||||ふしぎな||| |||parent and child||||||| あれ は ちょうど 祐一 が うち で 働き 出した ころ やった か ねえ 、 なんか の 拍子 に 、「 母 ち ゃん から は ぜんぜん 連絡 な しか ? |||ゆういち||||はたらき|だした|||||||ひょうし||はは||||||れんらく|| |||||||||||||somehow||chance|||||||||| |||||||||||||||きっかけ|||||||||| Wasn't it around the time when Yuichi just started working at our place? By some chance, I asked, 'Haven't you heard anything from mom at all?' 」って 、 私 が 訊 いた と です よ 。 |わたくし||じん|||| I remember asking that. たしか 爺さん の 具合 が 悪う なった とき で 、 私 と して も 、 もし 万が一 の こと が あったら 、 葬式 くらい 呼んで やら ん と なぁ 、 なんて 心 のどっか で 思う とって 、 それ が ぼろっと 出た と やろう と 思う と です けど ね 。 |じいさん||ぐあい||わるう||||わたくし|||||まんがいち|||||そうしき||よんで||||||こころ|のど っか||おもう||||ぼろ っと|でた||||おもう|||| probably|grandfather||condition||bad|||||||||just in case|||||funeral||call|would do||||||somewhere||||||suddenly||||||||| ||||||||||||||||||||||||||||||||||ぽろっと||||||||| If I recall correctly, it was when my grandfather's health was declining, and somewhere in my mind, I thought, 'If something were to happen, I should at least invite them to the funeral.' I think that thought just slipped out. 母親 が 男 作って 家 を 出た あと は 、 てっきり 音沙汰 なしって 思う とったん です よ 。 ははおや||おとこ|つくって|いえ||でた||||おとさた|なし って|おもう||| |||||||||surely|no contact|no contact||it|| ||||||||||音沙汰||||| After my mother left the house with a man, I thought there would be no news at all. 実際 、 婆さん や 爺さん も 、「 何 年 か に 一 度 、 思い出した ように 年賀 状 が 来る だけ 。 じっさい|ばあさん||じいさん||なん|とし|||ひと|たび|おもいだした||ねんが|じょう||くる| actually|grandmother||grandfather||||||||||New Year's card|greeting card||comes| In reality, my grandmother and grandfather would only receive New Year's cards every few years as if suddenly remembering. 年賀 状 が 来 る たんび に 住所 が 変わ つとって …・・・、 たぶん その たんび に 男 も 変わっと る の やろう 」 な ん て 言い よった し 。 ねんが|じょう||らい||||じゅうしょ||かわ|つと って|||||おとこ||かわ っと|||||||いい|| New Year's greeting|||||every time||address||changed|has changed|||every time||||changed||||||||| Every time the New Year's card arrived, the address would change... so they would say, 'Probably, the man changes too every time.' だけ ん 、 祐一 に 「 ぜんぜん 連絡 な しか ? ||ゆういち|||れんらく|| 」って 訊 いた とき も 、 祐一 が 頷いて 終わりって 思う とった と です よ 。 |じん||||ゆういち||うなずいて|おわり って|おもう|||| |||||||nodded|the end||||| When I asked, 'Is that so?', I thought Yuichi just nodded and that was the end of it. そ したら 、「 爺ちゃん の こと なら 、 もう 知らせて ある 」って 。 ||じいちゃん|||||しらせて|| ||grandfather|||||let you know|| Then he said, 'As for Grandpa, I have already notified him.' 「 知らせて あるって 、 お前 ……。 しらせて|ある って|おまえ 'You already notified him, you...'. 母ちゃん と 連絡 取り合い よっと か ? かあちゃん||れんらく|とりあい|よっ と| mom||||| Are you in touch with mom? 」 「 たまに 一緒に メシ 食い よる 」 「 たまにって ……」 「 年 に 一 回 あるか ない か 」 「 婆さん たち は 知っと る と か ? |いっしょに|めし|くい||たまに って|とし||ひと|かい||||ばあさん|||ち っと||| |||||sometimes|||||exists or not|||grandmother|||||| Sometimes we eat meals together. Sometimes... It happens once a year, if that. Do the old ladies know? 」 祐一 は 、「 いや 、 知ら ん 」って 首 振りました よ 。 ゆういち|||しら|||くび|ふり ました| ||||||head|shook his head| Yuichi shook his head and said, 'No, I don't know.' ほら 、 あの 婆さん も 祐一 は 自分 が 育 て たって 自負 も ある し 、 祐一 も 言いにくかった と でしょう ねえ 。 ||ばあさん||ゆういち||じぶん||いく|||じふ||||ゆういち||いいにくかった||| ||old woman||||||||stood|pride||||||hard to say||| Look, that old woman also takes pride in having raised Yuichi, and it must have been hard for Yuichi to say that, right? 「 お前 、 母ちゃん に 会う て 、 腹 立た ん と か ? おまえ|かあちゃん||あう||はら|たた||| |||||stomach|will get angry||| Aren't you pissed off at your mom when you meet her? 」 思わず 、 そう 訊 きました よ 。 おもわず||じん|き ました| I couldn't help but ask that. だって 、 ろくに 食べ物 も 与え ん で 、 その 上 、 フェリー 乗 り 場 に 置き去り に して 、 挙げ句 の 果て が 婆さん に 預けた まま です よ 。 ||たべもの||あたえ||||うえ|ふぇりー|じょう||じょう||おきざり|||あげく||はて||ばあさん||あずけた||| |barely|||provided||||||boarding|riding|||abandoned|||after all||after all||grandmother||entrusted||| Well, they didn't even provide enough food, and on top of that, they left me behind at the ferry terminal, and in the end, they just left me with the old lady. でも 、 祐一 は 、 「 腹 立た ん 」って 言い よりました 。 |ゆういち||はら|たた|||いい|より ました ||||||||said ||||||||言った However, Yuichi said, 'I'm not angry.' 「 腹 立てる ほど 、 会 うて ない 」って 。 はら|たてる||かい||| ||||||quotation particle 'It's not like I've met them enough to get angry.' 「 母ちゃん 、 今 、 どこ で 何 し よる と か ? かあちゃん|いま|||なん|||| "Mom, where and what are you doing now? 」って 訊 いたら 、「 雲仙 の 旅館 で 働 い とる 」って 。 |じん||うんぜん||りょかん||はたら||| |||Unzen||inn||working||| When asked, "I will work at an inn in Unzen." あれ が もう 三 年 か 四 年 前 。 |||みっ|とし||よっ|とし|ぜん 祐一 を 見送った あと 、 光代 は しばらく アパート の 外 階段 に 座り込んで いた 。 ゆういち||みおくった||てるよ|||あぱーと||がい|かいだん||すわりこんで| ||saw off||Mitsuyo|(topic marker)||||outside|||sitting| After seeing off Yuichi, Mitsuyo sat down on the outer staircase of the apartment for a while. 硬い コン クリート が 尻 を 冷やし 、 一 階 の 部屋 から は 赤ん坊 を あやす 若い 男 の 声 が 聞こえた 。 かたい||||しり||ひやし|ひと|かい||へや|||あかんぼう|||わかい|おとこ||こえ||きこえた hard|con|concrete||butt||cooled down||first floor|||||baby||rocking|||||| |||||||||||||||あやす|||||| The hard concrete chilled her bottom, and from the room on the first floor, she could hear the voice of a young man soothing a baby. さすが に 寒く なって 二 階 の 自室 へ 向かった 。 ||さむく||ふた|かい||じしつ||むかった ||cold|||||own room|| It became quite cold, so she headed toward her room on the second floor. 鍵 を 開け 、「 ただいま -」 と 声 を かける と 、 トイレ の 中 から 、「 残業 やった と ? かぎ||あけ|||こえ||||といれ||なか||ざんぎょう|| key||opened|just now||||||||||overtime|| 」 と 珠代 の 声 が 聞こえる 。 |たまよ||こえ||きこえる |Tamayo|||| 光代 は 、「 あ 、 うん 」 と 暖昧 に 答え ながら 靴 を 脱いだ 。 てるよ|||||だんまい||こたえ||くつ||ぬいだ Mitsuyo|||||vaguely||||||took off 廊下 を 進んで 居間 へ 入る と 、 テーブル に シチュー を 食 べ た あと らしい Ⅲ が あった 。 ろうか||すすんで|いま||はいる||てーぶる||しちゅー||しょく|||||| hallway|||living room||||||stew|||||||| As I walked down the hallway and entered the living room, there seemed to be a sign that stew had been eaten from the table. 「 自分 で 作った と ? じぶん||つくった| Did you make it yourself? 」 トイレ に 声 を かけて みる が 、 返事 は ない 。 といれ||こえ|||||へんじ|| |||||||reply|| I tried calling out to the toilet, but there was no response. 襖 を 開けて 、 寝室 に して いる 六 畳 間 に 入った 。 ふすま||あけて|しんしつ||||むっ|たたみ|あいだ||はいった sliding door|||bedroom|||||tatami||| 祐一 は もう 高速に 乗った だろう か 。 ゆういち|||こうそくに|のった|| |||highway||| な 祐一 自身 も たまに 車 で 会い に 行ったり する こと も あったら しか です よ 。 |ゆういち|じしん|||くるま||あい||おこなったり||||||| ||himself|||||||||||||| Yuichi himself would sometimes go to meet them by car, that's about it. 「 二 人 で 何の 話 する と か ? ふた|じん||なんの|はなし||| What do you two talk about? 」って 訊 いたら 、「 別に 何も 話さ ん 」って 。 |じん||べつに|なにも|はなさ|| When I asked, they said, 'Not really anything.' 私 は ね 、 正直 、 祐一 の 母親 ぱ 許す 気 は ない と です よ 。 わたくし|||しょうじき|ゆういち||ははおや||ゆるす|き||||| ||||||mother||forgive|||||| To be honest, I have no intention of forgiving Yuichi's mother. 未 だに フェリー 乗り場 に 置き 去 り に さ れた 祐一 が 目 に 浮かんで しまう 。 み||ふぇりー|のりば||おき|さ|||||ゆういち||め||うかんで| |||boarding place|||left|||||||||| I can still vividly imagine Yuichi being left behind at the ferry terminal. 私 だけ じゃ なくて 、 婆さん も 爺さん も 、 親戚 中 の 人間 が そう です よ 。 わたくし||||ばあさん||じいさん||しんせき|なか||にんげん|||| ||||grandmother||grandfather||relatives||||||| It's not just me; even my grandmother and grandfather, all of our relatives feel the same way. ただ 、 ほんとに 不思議な もん で 、 当の 祐一 は その 母親 ば 、 もう 許 し とる と です もん ねえ 。 ||ふしぎな|||とうの|ゆういち|||ははおや|||ゆる|||||| ||mysterious|||that|||||||forgiven|||||| It's really strange, but Yuichi himself has already forgiven his mother, you know. ん と なく 窓際 に 向かい 、 レース の カーテン を 開けた 。 |||まどぎわ||むかい|れーす||かーてん||あけた |||window side|||lace|||| Somehow, I faced the window and opened the lace curtains. さっき 祐一 を 見送った 場所 を 野良 猫 が 一 匹 駆け抜ける 。 |ゆういち||みおくった|ばしょ||のら|ねこ||ひと|ひき|かけぬける |||saw off|||stray|cat||||ran through |||||||||||running through A stray cat dashed through the place where I just saw Yuichi off. その とき だった 。 表通り を ものすごい スピード で 走って きた 車 が 、 まるで スピン でも する ような 勢い で 、 そこ に 滑り込んで きた のだ 。 おもてどおり|||すぴーど||はしって||くるま|||||||いきおい||||すべりこんで|| main street|||||running||car|||||||momentum||||slid in|| その 瞬間 、 ゴミ 捨て 場 に 駆け込もう と した 野良 猫 が 、 青い ライト に 浮かび上がった 。 |しゅんかん|ごみ|すて|じょう||かけこもう|||のら|ねこ||あおい|らいと||うかびあがった |moment||throwing away|||to rush in|||stray|||blue|||appeared At that moment, a stray cat that was about to dash into the garbage dump was illuminated by a blue light. 光代 は 思わず 両手 を 握りしめた 。 てるよ||おもわず|りょうて||にぎりしめた Mitsuyo|||||gripped tightly Hikari involuntarily clenched her hands. 「 危ない ! あぶない "That's dangerous!" 」 と 心 の 中 で 叫んだ 。 |こころ||なか||さけんだ 車 が ゴミ 捨て場 の ポリバケッ に ぶつかる 寸前 で 停 まる 。 くるま||ごみ|すてば|||||すんぜん||てい| |||dumping ground||garbage can||collides with|just before||stops| |||||ゴミ箱|||||| The car stops just before hitting the garbage bin. 身 を 縮めて いた 野良 猫 が 、 青い ライト の 中 、 ふと 我 に 返った ように 逃げ出して いく 。 み||ちぢめて||のら|ねこ||あおい|らいと||なか||われ||かえった||にげだして| ||shrinking down||||||||||||||escaped| The stray cat, which had been cowering, suddenly seemed to come to its senses and ran away in the blue light. 「 祐一 ? ゆういち "Yuuichi?" ……」 滑り込んで きた の は 祐一 の 車 に 違いなかった 。 すべりこんで||||ゆういち||くるま||ちがいなかった The one that slipped into the car must have been Yuichi's car. 野良 猫 の い なく なった 空き地 を 、 青い ライト が 照らして いる 。 のら|ねこ|||||あきち||あおい|らいと||てらして| ||||||vacant lot|||||| A blue light illuminates a vacant lot where stray cats have disappeared. 光代 は 反射 的に カーテン を 閉め 、 慌てて 玄関 へ 腓 け 出した 。 てるよ||はんしゃ|てきに|かーてん||しめ|あわてて|げんかん||ふくらはぎ||だした Mitsuyo||||||||entrance||stepped|| Mitsuyo reflexively closed the curtains and hurried to the front door. あまりに も 急いで いる の で 、 うまく 踵 が 靴 に 入ら ない 。 ||いそいで|||||かかと||くつ||はいら| |||||||heel||||| |||||||かかと||||| I'm in such a hurry that I can't get my heel into the shoe. 床 に 置かれて いた バッグ を 反射 的に 取る と 、「 どこ 行く と ? とこ||おか れて||ばっぐ||はんしゃ|てきに|とる|||いく| floor||placed|||||||||| Reflexively taking the bag on the floor, he asked, "Where are you going? 」 と 、 トイレ から 呑気 な 珠代 の 声 が 聞こえる 。 |といれ||のんき||たまよ||こえ||きこえる |||carefree||Tamayo|||| Tamayo's voice comes from the toilet. 光代 は 何も 答え ず に 玄関 を 飛び出し た 。 てるよ||なにも|こたえ|||げんかん||とびだし| ||||||||ran out| Mitsuyo ran out the front door without answering. アパート の 階段 から 、 暗い 車 内 で ハンドル に 突っ伏して いる 祐一 が 見えた 。 あぱーと||かいだん||くらい|くるま|うち||はんどる||つ っ ふくして||ゆういち||みえた ||||||||||leaning forward|||| ||||||||||顔を伏せて|||| From the stairs of the apartment, I saw Yuichi lying on the steering wheel in the dark car. 車 の ライ ト が 汚れた ポリバケッ を 照らして いる 。 くるま|||||けがれた|||てらして| ||light|||dirty|||| The car's lights are illuminating the dirty poly bucket. 光代 は 階段 を 下りた ところ で 思わず 足 を 止めた 。 てるよ||かいだん||おりた|||おもわず|あし||とどめた 目の前 の 光景 が 幻覚 の ように 思えた のだ 。 めのまえ||こうけい||げんかく|||おもえた| ||scene||hallucination|||| The scene in front of me seemed like a hallucination. 会いたい と 思う 気持ち が 、 こんな 光景 を 見せて いる ので は ない か と 。 あい たい||おもう|きもち|||こうけい||みせて|||||| ||||||scene|||||||| I think that the desire to see you is what is giving me this view. それ でも ゆっくり と 近寄る と 、 足元 で 砂利 が 鳴った 。 ||||ちかよる||あしもと||じゃり||なった ||||approach||||gravel||sounded But as I slowly approached, I heard gravel crunching underfoot. 光代 は 運転 席 の ガラス を 指先 で 叩いた 。 てるよ||うんてん|せき||がらす||ゆびさき||たたいた 叩いた 瞬間 、 祐一 が ビクッ と 起き上がる 。 たたいた|しゅんかん|ゆういち||||おきあがる ||||startled||suddenly sits up Yuichi wakes up with a start the moment I hit him. 「 どうした と ? "What's wrong? 」 と 光代 は 声 を 出さ ず に 尋ねた 。 |てるよ||こえ||ださ|||たずねた Mitsuyo asked without making a sound. その 口元 を 見つめて いる 祐一 の 目 が 、 どこ か とても 遠い 場所 を 見て いる よ うだった 。 |くちもと||みつめて||ゆういち||め|||||とおい|ばしょ||みて||| |mouth|||||||||||||||||seemed 光代 は もう 一 度 ガラス を 叩いた 。 てるよ|||ひと|たび|がらす||たたいた 叩き ながら 、「 どうした と ? たたき||| hitting||| 」 と 目 で 尋ねた 。 |め||たずねた それ に 答える ように 祐一 が 目 を 逸ら す 。 ||こたえる||ゆういち||め||はやら| ||||||||look away| Yuichi looks away in response. 光代 は また ガラス を 叩いた 。 てるよ|||がらす||たたいた Mitsuyo tapped the glass again. しばらく ハンドル を 握った まま 傭 いて いた 祐一 が ゆっくり と ドア を 開ける 。 |はんどる||にぎった||よう|||ゆういち||||どあ||あける for a while|||held||hired||||||||| Yuichi, who had been holding the steering wheel for a while, slowly opens the door. 光代 は 一 歩 あと ず さった 。 てるよ||ひと|ふ||| |||step||back|stepped ||||||後ろに下がった Mitsuyo stepped back. 車 を 降りて きた 祐一 が 、 何も 言わ ず に 光代 の 前 に 立つ 。 くるま||おりて||ゆういち||なにも|いわ|||てるよ||ぜん||たつ Yuichi gets out of the car and stands in front of Mitsuyo without saying anything. 光代 は その 顔 を 見上げ ながら 、 「 どうした と ? てるよ|||かお||みあげ||| Mitsuyo|||||||| 」 と また 訊 いた 。 ||じん| 通り を 車 が 一 台 走って いく 。 とおり||くるま||ひと|だい|はしって| A car drives down the street. 路肩 の 雑草 が その 風圧 で 激しく 揺れる 。 ろかた||ざっそう|||ふうあつ||はげしく|ゆれる roadside||weeds|||wind pressure||violently|sways violently The weeds on the shoulder of the road sway violently under the pressure of the wind. その とき だった 。 It was time. 祐一 が とつぜん 光代 を 抱きしめた 。 ゆういち|||てるよ||だきしめた あまりに も とつぜんで 、 光代 は 短い 声 を 上げた 。 |||てるよ||みじかい|こえ||あげた ||suddenly|||||| 「 俺 、 もっと 早う 光代 に 会 つ とれ ぱ よかった 。 おれ||はやう|てるよ||かい|||| |||Mitsuyo|||||| I should have met Mitsuyo sooner. もっと 早う 会っと れば 、 こげ ん こと に は なら ん やった ……」 抱きしめる 祐一 の 胸 から 声 が する 。 |はやう|かい っと||||||||||だきしめる|ゆういち||むね||こえ|| ||met||like this||||||||||||||| The first thing you need to do is to make sure that you have a good understanding of what is going on in your life. 「』 え ? What? 。」 「 車 に 、 俺 の 車 に 乗って くれ ん や ? くるま||おれ||くるま||のって||| "Will you get in my car? 」 「 え 」 「 俺 の 車 に 乗って くれって ! |おれ||くるま||のって|くれ って He asked me to get in my car! 」 とつぜん 声 を 荒らげた 祐一 が 、 光代 の 腕 を 引っ張って 、 助手 席 の ほう へ 回り込む 。 |こえ||あららげた|ゆういち||てるよ||うで||ひっぱって|じょしゅ|せき||||まわりこむ |||raised||||||||||||| The first thing to do is to make sure that you have a good idea of what you want to do. 「 ど 、 どうした と ? 」 あまりに も 急で 、 光代 は 思わず 腰 を 引き 、 引きずら れる 踵 が 砂利 に 埋まった 。 ||きゅうで|てるよ||おもわず|こし||ひき|ひきずら||かかと||じゃり||うずまった ||sudden||||waist||pulled|dragged||heel||gravel||buried 「 よ かけ ん 、 乗れって ! |||のれ って |||get on "Yo, Ken, get in! 」 祐一 は ほとんど 光代 を 小 脇 に 抱える ように して 、 助手 席 の ドア を 開けた 。 ゆういち|||てるよ||しょう|わき||かかえる|||じょしゅ|せき||どあ||あけた ||||(object marker)|under|underarm||to hold|||assistant||||| 両側 の ドア が 開いた 車 内 を 風 が 吹き抜け 、 暖房 で 暖まった 風 が 流れ出て くる 。 りょうがわ||どあ||あいた|くるま|うち||かぜ||ふきぬけ|だんぼう||あたたまった|かぜ||ながれでて| ||||||||||blew through|heating||warmed up|||| 「 ちよ 、 ちょっと 」 光代 は 抵抗 した 。 ||てるよ||ていこう| Chiyo||||resistance| "Chiyo, hey," Mitsuyo resisted. 乗り たく なかった わけで は なくて 、 一言 で いい から 何 か 説明 して ほ しかった 。 のり||||||ひとこと||||なん||せつめい||| ||||||a word|||||||||wanted It's not that I didn't want to ride, but I just needed a word of explanation. 「 ど 、 どうした と ? "What's wrong? ねぇ ? 」 乱暴に からだ を 押さ れ ながら 、 光代 は 祐一 の 手首 を 掴んだ 。 らんぼうに|||おさ|||てるよ||ゆういち||てくび||つかんだ Mitsuyo grabbed Yuichi's wrist while being roughly pushed by his body. とても 乱暴な 物言い で 、 とても 乱暴に 扱われて いる のに 、 祐一 の 震える 手首 が とても 弱々しく 感じられた 。 |らんぼうな|ものいい|||らんぼうに|あつかわ れて|||ゆういち||ふるえる|てくび|||よわよわしく|かんじ られた ||way of speaking||||treated|||||trembling|wrist|||very weakly| 光代 を 助手 席 に 押し込む と 、 祐一 は ドア を 閉めて 運転 席 へ 回った 。 てるよ||じょしゅ|せき||おしこむ||ゆういち||どあ||しめて|うんてん|せき||まわった |||||pushed|||||||||| まるで 転がり込む ように 乗り込んで 、 息 を 荒く した まま サイド ブレーキ を 下ろす 。 |ころがりこむ||のりこんで|いき||あらく|||さいど|ぶれーき||おろす |rolls in|||||roughly|||||| 下ろした 途端 、 タイヤ が 地面 の 砂利 を 蹴飛ばして 、 猛 スピード で 発車 する 。 おろした|とたん|たいや||じめん||じゃり||けとばして|もう|すぴーど||はっしゃ| |just as|||||||kicked up|great|||departing| アパート 前 の 空き地 を 飛び出し 、 311 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? あぱーと|ぜん||あきち||とびだし|だい|よっ|しょう|かれ||だれ||であった| |||vacant lot||||||||||| 急 ハンドル で 左 へ 曲がる 。 きゅう|はんどる||ひだり||まがる |||||turns 曲がった 瞬間 、 対向 車 と ぶつかり そうに なり 、 光代 は また 声 を 上げた 。 まがった|しゅんかん|たいこう|くるま|||そう に||てるよ|||こえ||あげた bent||oncoming||||||Mitsuyo||||| 間一髪 、 対向 車 を 媒 した 車 は 、 畑 の 中 を 一直線 に 伸びる 暗い 道 を 加速 した 。 かんいっぱつ|たいこう|くるま||ばい||くるま||はたけ||なか||いっちょくせん||のびる|くらい|どう||かそく| a hair's breadth|oncoming|||mediated||||field||||straight line||||||accelerated| 危機一髪||||||||||||||||||| The car, having intercepted an oncoming car just in time, accelerates down a dark road that stretches in a straight line through a field.