7. 走れ メロス - 太 宰 治
はしれ||ふと|おさむ|ち
7. run, Meros - Osamu Dazai
言う に や 及ぶ 。
いう|||およぶ
まだ 陽 は 沈ま ぬ 。
|よう||しずま|
最後 の 死力 を 尽して 、 メロス は 走った 。
さいご||しりょく||つくして|||はしった
||全力|||||
メロス の 頭 は 、 からっぽだ 。
||あたま||
何一つ 考えて いない 。
なにひとつ|かんがえて|
ただ 、 わけ の わから ぬ 大きな 力 に ひきずられて 走った 。
|||||おおきな|ちから|||はしった
||||||||被拖拽|
||||||||引きずられて|
陽 は 、 ゆらゆら 地平 線 に 没し 、 まさに 最後 の 一片 の 残 光 も 、 消えよう と した 時 、 メロス は 疾風 の 如く 刑 場 に 突入 した 。
よう|||ちへい|せん||ぼっし||さいご||いっぺん||ざん|ひかり||きえよう|||じ|||しっぷう||ごとく|けい|じょう||とつにゅう|
||搖曳|||||正要|||一片|||||||||||疾風||||||闖入|
間に合った 。
まにあった
「 待て 。
まて
その 人 を 殺して は なら ぬ 。
|じん||ころして|||
メロス が 帰って 来た 。
||かえって|きた
約束 の とおり 、 いま 、 帰って 来た 。」
やくそく||||かえって|きた
と 大声 で 刑 場 の 群衆 に むかって 叫んだ つもりであった が 、 喉 が つぶれて 嗄れた 声 が 幽 か に 出た ばかり 、 群衆 は 、 ひと り と して 彼 の 到着 に 気 が つか ない 。
|おおごえ||けい|じょう||ぐんしゅう|||さけんだ|||のど|||しわがれた|こえ||ゆう|||でた||ぐんしゅう||||||かれ||とうちゃく||き|||
||||||人群||||||||潰れて|沙啞的|||||||||||||||||||||
他本來想向刑場的眾人大聲喊叫,但他的喉嚨被壓碎,嘶啞的聲音剛剛傳出,人群中就沒有一個人注意到他的到來。
すでに 磔 の 柱 が 高々 と 立てられ 、 縄 を 打た れた セリヌンティウス は 、 徐々に 釣り 上げられて ゆく 。
|はりつけ||ちゅう||たかだか||たてられ|なわ||うた||||じょじょに|つり|あげられて|
|||||高高|||||打|||||||
メロス は それ を 目撃 して 最後 の 勇 、 先刻 、 濁流 を 泳いだ ように 群衆 を 掻きわけ 、 掻きわけ 、
||||もくげき||さいご||いさみ|せんこく|だくりゅう||およいだ|よう に|ぐんしゅう||かき わけ|かき わけ
||||||||勇氣|||||||||
「 私 だ 、 刑 吏 !
わたくし||けい|り
殺さ れる の は 、 私 だ 。
ころさ||||わたくし|
メロス だ 。
彼 を 人質 に した 私 は 、 ここ に いる !
かれ||ひとじち|||わたくし||||
」 と 、 かすれた 声 で 精一ぱい に 叫び ながら 、 ついに 磔 台 に 昇り 、 釣り 上げられて ゆく 友 の 両足 に 、 齧りついた 。
||こえ||せいいっぱい||さけび|||はりつけ|だい||のぼり|つり|あげられて||とも||りょうあし||かじりついた
||||||||||||||||||||咬住
|かすれた|||||||||||||||||||かじりついた
群衆 は 、 どよめいた 。
ぐんしゅう||
||喧嘩了
||ざわめいた
あっぱれ 。
真棒
あっぱれ
ゆるせ 、 と 口々に わめいた 。
||くちぐちに|
原諒||口口相傳|大喊
許せ|||叫んだ
セリヌンティウス の 縄 は 、 ほどか れた のである 。
||なわ||||
||||解開||
||||ほどか||
「 セリヌンティウス 。」
メロス は 眼 に 涙 を 浮べて 言った 。
||がん||なみだ||うかべて|いった
「 私 を 殴れ 。
わたくし||なぐれ
ちから一ぱい に 頬 を 殴れ 。
ちからいっぱい||ほお||なぐれ
私 は 、 途中 で 一 度 、 悪い 夢 を 見た 。
わたくし||とちゅう||ひと|たび|わるい|ゆめ||みた
君 が 若し 私 を 殴って くれ なかったら 、 私 は 君 と 抱擁 する 資格 さえ 無い のだ 。
きみ||わかし|わたくし||なぐって|||わたくし||きみ||ほうよう||しかく||ない|
||||||||||||擁抱|||||
殴れ 。」
なぐれ
セリヌンティウス は 、 すべて を 察した 様子 で 首肯き 、 刑 場 一 ぱい に 鳴り響く ほど 音 高く メロス の 右 頬 を 殴った 。
||||さっした|ようす||うなずき|けい|じょう|ひと|||なりひびく||おと|たかく|||みぎ|ほお||なぐった
||||察覺|||||||||響亮|那麼||||||右臉頰||
賽利農提烏斯似乎明白了一切,點了點頭,一拳打在了梅洛斯的右臉上,聲音響徹整個刑場。
殴って から 優しく 微笑み 、
なぐって||やさしく|ほおえみ
「 メロス 、 私 を 殴れ 。
|わたくし||なぐれ
同じ くらい 音 高く 私 の 頬 を 殴れ 。
おなじ||おと|たかく|わたくし||ほお||なぐれ
私 は この 三 日 の 間 、 たった 一 度 だけ 、 ちら と 君 を 疑った 。
わたくし|||みっ|ひ||あいだ||ひと|たび||||きみ||うたがった
生れて 、 はじめて 君 を 疑った 。
うまれて||きみ||うたがった
||||懷疑
君 が 私 を 殴って くれ なければ 、 私 は 君 と 抱擁 でき ない 。」
きみ||わたくし||なぐって|||わたくし||きみ||ほうよう||
メロス は 腕 に 唸り を つけて セリヌンティウス の 頬 を 殴った 。
||うで||うなり|||||ほお||なぐった
梅洛斯||||吼叫|||||||
「 ありがとう 、 友 よ 。」
|とも|
二 人 同時に 言い 、 ひしと 抱き合い 、 それ から 嬉し泣き に おいおい 声 を 放って 泣いた 。
ふた|じん|どうじに|いい||だきあい|||うれしなき|||こえ||はなって|ないた
||||紧紧||||喜極而泣||哎呀||||
群衆 の 中 から も 、 歔欷 の 声 が 聞えた 。
ぐんしゅう||なか|||きょき||こえ||きこえた
|||||啜泣||||
|||||泣き声||||
暴君 ディオニス は 、 群衆 の 背後 から 二 人 の 様 を 、 まじまじ と 見つめて いた が 、 やがて 静かに 二 人 に 近づき 、 顔 を あからめて 、 こう 言った 。
ぼうくん|||ぐんしゅう||はいご||ふた|じん||さま||||みつめて||||しずかに|ふた|じん||ちかづき|かお||||いった
||||||||||||凝視|||||||||||||臉紅||
「 おまえ ら の 望み は 叶った ぞ 。
|||のぞみ||かなった|
おまえ ら は 、 わし の 心 に 勝った のだ 。
|||||こころ||かった|
信 実 と は 、 決して 空虚な 妄想 で は なかった 。
しん|み|||けっして|くうきょな|もうそう|||
|實||||空虛|妄想|||
どう か 、 わし を も 仲間 に 入れて くれ まい か 。
|||||なかま||いれて|||
どう か 、 わし の 願い を 聞き入れて 、 おまえ ら の 仲間 の 一 人 に して ほしい 。」
||||ねがい||ききいれて||||なかま||ひと|じん|||
||||||聽取||||||||||
どっと 群衆 の 間 に 、 歓声 が 起った 。
|ぐんしゅう||あいだ||かんせい||おこった
突然地|||||||
「 万歳 、 王様 万歳 。」
ばんざい|おうさま|ばんざい
ひと り の 少女 が 、 緋 の マント を メロス に 捧げた 。
|||しょうじょ||ひ||まんと||||ささげた
|||||紅色||斗篷||||獻上
メロス は 、 まごついた 。
||踌躇
||戸惑った
佳 き 友 は 、 気 を きかせて 教えて やった 。
か||とも||き|||おしえて|
|好的|||||讓我知道||
我的好朋友很用心地教導我。
「 メロス 、 君 は 、 まっぱだ か じゃ ない か 。
|きみ||||||
|||光著身||||
早く その マント を 着る が いい 。
はやく||まんと||きる||
この 可愛い 娘 さん は 、 メロス の 裸体 を 、 皆 に 見られる の が 、 たまらなく 口惜しい のだ 。」
|かわいい|むすめ|||||らたい||みな||みられる||||くちおしい|
||||||||||||||無法忍受|可惜|
勇者 は 、 ひどく 赤面 した 。
ゆうしゃ|||せきめん|
|||紅著臉|
|||赤面|
( 古 伝説 と 、 シルレル の 詩 から 。 )
ふる|でんせつ||||し|
|||シルレル|||