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悪人 (Villain) (1st Book), 第二章 彼は誰に会いたかったか?【2】

第二章 彼は誰に会いたかったか?【2】

平たい ドラム缶 に 溜 め た 水 で 、 熱心に 指 の 汚れ を 洗い 落として いる 祐一 の 背中 を 、 矢島 憲夫 は たばこ を 吸い ながら 眺めて いた 。

ドラム缶 は コンクリ を こねる とき に 使わ れる もの で 、 いくら 真水 が 入って いる と は いえ 、 洗った 手 が 乾けば 蛇 の ような 模様 が 皮膚 に 浮かぶ 。

すでに 夕方 の 六 時 を 回り 、 作業 場 の あちこち で 各 組 の 人 夫 たち が 帰り 支度 を 始めて いた 。

さっき まで 外壁 を 壊して いた 数 台 の 重機 も 、 今では 一 カ所 に おとなしく 並んで いる 。

元 産婦人科 の 病棟 だった ビル も 、 作業 を 始めて すでに 四 日 目 、 その 三 分 の 二 が 無惨に 取り壊されて いる 。 こういう 大きな 現場 の 場合 、 憲夫 の 会社 は 下請け に 回る 。 いちおう 自社 でも 15 m ロング の 重機 を 一 台 所有 して いる のだ が 、 鉄筋 の 三 階建て と も なる と 一 台 で は どうにも なら ず 、 大手 の 解体 業者 の 下請け に 回る しか ない 。

ドラム缶 の 水 で 洗った 手 を 、 首 に かけた タオル で 拭き 始めた 祐一 に 、「 お前 も 、 そろそろ 重機 の 免許 取ったら どう や ? 」 と 憲夫 は 声 を かけ 、 吸って いた たばこ を 灰皿 に 押しつけた 。

憲夫 の 言葉 に 振り返った 祐一 が 、

「 は ぁ 」

と なんとも やる 気 の ない 返事 を し 、 今度 は 顔 を ゴシゴシ と タオル で こする 。

こすれば こする ほど 、 顔 の 汚れ が 目立つ 。

「 来月 、 一 週間 くらい 休んで よ かけ ん 、 免許 取り に 行か ん か ? 憲夫 の 言葉 に 、 行きたい と いう 意味 な の か 、 行き たく ない と いう 意味 な の か 、 祐一 が 口 を 尖 がら せ ながら も 小さく 頷く 。 正直な ところ 、 祐一 の ほう から この 話 を 言い出して くれ ない もの か と 、 憲夫 は ずっと 待って いる のだ が 、 いくら 待って も 祐一 が 積極 的に なる こと は なかった 。

ゴム 手袋 など を 自分 の バッグ に しまい 始めた 祐一 に 、「 ところで 気分 は もう よか と か ? と 憲夫 は 声 を かけた 。 今朝 、 車 の 中 で とつぜん 顔色 を 変えて 吐き そうに なった わりに 、 現場 に 着く と いつも と 変わら ず おとなしく 働いて いた 。 ただ 、 いつも 持参 して くる 弁当 に 、 ほとんど 手 を つけ なかった こと を 憲夫 は 知っている 。

「 今日 帰ったら すぐ 、 じいさん 、 病院 に 連れて 行く と やろ ? 」 と 憲夫 は 訊 いた 。

「 たぶん メシ 食う て から 」

埃っぽい 寒風 の 中 、 バッグ を 抱えて 立ち上がった 祐一 が 、 ぼ そっと 答える 。 憲夫 は 、 いつも の ように 倉 見 、 吉岡 、 そして 祐一 を ワゴン 車 に 乗せた 。

夕日 に 赤く 染まった 長崎 湾 を 眺め ながら 国道 を 走って いる と 、 また いつも の 如く 倉 見 が 焼酎 の ワンカップ を 飲み 始める 。

「 家 に 着く まで 、 たかが 三十 分 くらい 我慢 でき ん と や ? 憲夫 は 鼻先 へ 流れて きた 焼酎 の 臭い に 顔 を しかめた 。

「 仕事 が 終わる 一 時間 も 前 から 我慢 し とる と に 、 それ から また 三十 分 も 我慢 できる もん ね 」

倉 見 が 呆れた と ばかり に 笑って 、 カップ から こぼれ そうな 焼酎 に 口 を つけ 、 濃い 無 精 髭 が とろっと した 液体 に 濡れる 。 窓 を 開けて いる に も かかわら ず 、 焼酎 と 乾いた 土 の に おい が 車 内 で 混じる 。

「 そう 言えば 、 きのう 、 福岡 の 三瀬 峠 で 女の子 が 殺さ れたら しか な 」

窓 の 外 を 眺めて いた 吉岡 が 、 ふと 思い出した ように 言った 。

「 保険 の 勧誘 し とる 女の子 らし か けど 、 あげ ん こと さ れたら 親 は たまった もん じゃ なか ねえ 」

同じ 年頃 の 娘 を 持つ 倉 見 が そう 言って 、 焼酎 で 濡れた 指 を 舐める 。

内縁 の 妻 と 二 人 で 暮らして いる 吉岡 に は 、 被害 者 の 親 の 気持ち は 実感 でき ない ようで 、「 三瀬って 言えば 、 俺 が 、 前 に トラック 運転 し よる とき 、 よう 使い よった 道 や もん ね 」 と 話 を 変える 。 吉岡 本人 が 詳しく 話す こと は ない が 、 県営 住宅 で 一緒に 暮らして いる 女 は 、 もう 十 年 に なる と いう のに 、 まだ 前 の 旦那 と の 籍 を 抜いて いない らしい 。 「 祐一 、 お前 も 三瀬 の 峠 と か 、 よう ドライブ する と やろ が ? 吉岡 に 声 を かけ られて 、 一 番 後ろ に 座って いる 祐一 が 窓 の 外 から 車 内 に 視線 を 戻した 。

その 様子 が ルームミラー に 映る 。

市 内 へ 向かう 反対 車線 が 渋滞 し 始めて いた 。

造船 所 で 一 日 働いた 男 たち の 車 が 、 数珠 繋ぎ に 街道 を 伸びて いる 。 夕日 を 浴びた 男 たち の 顔 は 、 どこ か 般若 の 面 の ように 見える 。

「 なぁ 、 三瀬 峠 と か 、 よう ドライブ する と やろ が ? 返事 を し ない 祐一 に 、 改めて 吉岡 が 訊 いた 。

「 三瀬 は …… あんまり 好か ん 。

あそこ 、 夜 走る と 気色 悪 か 」

ぼ そっと 答えた 祐一 の 言葉 が 、 なぜ か ハンドル を 握る 憲夫 の 耳 に 残った 。

倉 見 と 吉岡 を 順番 に 降ろす と 、 憲夫 は 祐一 の 実家 へ と 車 を 走ら せた 。

国道 から 狭い 路地 に 入り 、 軒先 の 表札 が サイドミラー に 触れて しまう ような 道 が 、 くねくね と 漁港 の ほう へ 伸びる 。

埋め立て で ほとんど の 海岸 線 を 奪わ れた あと 、 辛うじて 残った 小さな 漁港 に は 、 小型の 漁船 が 数 艘 停泊 して いる 。 波 止め で 囲ま れた 湾 内 は おだやかで 、 漁船 を 繋ぐ ロープ の 軋む 音 だけ が 、 ときどき 思い出した ように 辺り に 響く 。

漁港 の 周囲 に は いく つ か シャッター を 下ろした 倉庫 が ある 。

一見 、 漁業 関係 の 倉庫 に 見える が 、 中 に は ペーロン と 呼ば れる 競技 用 ボート が 収納 されて いる 。 この 地域 は ペーロン が 盛んで 、 毎年 夏 に なる と 各 地区 対抗 の 大会 が 開か れる 。

十 数 人 の 男 たち が 一斉に 櫂 を 漕ぐ 姿 は 勇壮で 、 毎年 数 多く の 見物 客 も 集まって くる 。

「 来年 も 、 ペーロン 出る と やろ ? たまたま 半分 ほど シャッター の 開いて いる 倉庫 を 目 に して 、 憲夫 は 祐一 に 声 を かけた 。

荷物 を 膝 に 抱え 、 祐一 は すでに 車 を 降りる 準備 を して いた 。

「 練習 は いつごろ から 始まる と か ? ルームミラー 越し に 尋ねる と 、「 いつも と 一緒 やろ 」 と 、 祐一 が 答える 。

高校 生 だった 祐一 が 初めて ペーロン に 参加 した とき 、 地区 の リーダー を 務めた の が 憲夫 だった 。

練習 中 、 ぶつ くさ と 文句 ばかり 言う 他 の 少年 たち と 違い 、 黙々と 櫂 を 漕ぐ の は いい のだ が 、 祐一 は 加減 と いう もの を 知ら ず 、 手のひら の 皮 が 剥ける まで 練習 して しまい 、 結局 、 大会 当日 に は 使い物 に なら なかった 。

あれ から 十 年 近く 経つ が 、 祐一 は 毎年 ペーロン 大会 に 参加 して いる 。

「 好きな の か ? 」 と 問えば 、「 別に 」 と 答える くせ に 、 毎年 練習 が 始まる と 、 誰 より も 先 に 倉庫 に 現れる らしい 。

「 ちょっと 寄って 行こう か な 」

祐一 の 家 の 前 で 車 を 停める と 、 憲夫 は そう 言って エンジン を 切った 。

すでに 降りよう と して いた 祐一 が 、 ちらっと 憲夫 へ 目 を 向ける 。

「 今日 は 何時ごろ 、 じいさん 、 病院 に 連れて 行く と か ? 」 と 憲夫 は また 訊 いた 。

「 晩 メシ 食う て から 」

祐一 が また ぼ そっと 呟いて 車 を 降りる 。

祐一 の あと を 追って 玄関 に 入る と 、 病人 が いる 家 特有 のに おい が した 。

祐一 が 一緒に 暮らして いる と は いえ 、 元 は 老 夫婦 の 家 な ので 、 一 歩 足 を 踏み入れた だけ で 、 視界 から 色 が 抜け落ちて しまった ような 感覚 に 襲わ れる 。 祐一 が 脱ぎ捨てた 赤い スニーカー だけ が 、 汚れて は いて も 、 唯一 、 そこ に 明るい 色 を 残す 。

「 おばさん ! さっさと 廊下 を 歩いて いく 祐一 に 呆れ ながら 、 憲夫 は 奥 へ 声 を かけた 。

靴 を 脱いで いる と 、「 あら 、 憲夫 が 来た と ね ?

珍 しか 」 と 祐一 に 尋ねる 房枝 の 声 が 聞こえた 。

「 じいさん 、 これ から 病院 に 行くって ? 靴 を 脱いで 廊下 に 上がる と 、 台所 に いた らしい 房枝 が 出て きて 、「 この前 、 退院 した か と 思う たら 、 また 入院 よ 」 と 言い ながら 濡れた 手 を 首 に かけた 手ぬぐい で 拭く 。

「 うん 、 祐一 が そう 言う けんさ ……」

憲夫 は 気兼ね なく 廊下 を 進み 、 勝治 の 寝て いる 部屋 の 障子 を 開けた 。

「 じいさん 、 また 入院 するって ? 病院 より 家 の ほう が よか やろ が ? 障子 を 開けた 途端 に 、 かすかに し もの に おい が した 。

畳 に 差し込んで いる 街灯 が 、 古い 畳 の 上 で 点滅 する 蛍光 灯 と 混じって いる 。

「 病院 に 行けば 、 家 に 帰りたいって 言う し 、 家 に 連れて くれば 、 病院 の ほう が よかって 言う し 、 ほんと 、 もう どうにも なら ん よ 、 この 人 は 」 房枝 が そう 言い ながら 蛍光 灯 を つけ 直す 。 布団 の 中 で 、 勝治 の 濁った 咳 が こもる 。

憲夫 は 枕元 に 腰 を 下ろす と 、 乱暴に 布団 を 捲った 。

固 そうな 枕 に 染み だらけ の 勝治 の 顔 が のって いる 。

「 じいさん 」

憲夫 は 声 を かけ ながら 、 勝治 の 額 に 手のひら を のせた 。

自分 の 手 が 熱かった の か 、 一瞬 、 ぞっと する ほど 冷たかった 。

「 祐一 は ? 痰 を からま せる ように 勝治 が 尋ね 、 額 に のせ られた 憲夫 の 手 を 払う 。

ちょうど その とき 、 祐一 が 階段 を 上がって いく 足音 が 聞こえ 、 家 全体 が 揺れた 。

「 なんでもかんでも 祐一 に 頼っとったら 駄目 ばい 」 憲夫 は 寝て いる 勝治 だけ で は なく 、 背後 に 立つ 房枝 に も 伝わる ように 言った 。 「 なん も 頼って ばっかり おる もん ね 」

蛍光 灯 の 下 で 房枝 が 口 を 尖ら せる 。

「 いや 、 そりゃ そう やろう けど 、 祐一 も まだ 若っか 男 よ 。 じいさん 、 ばあさん の 世話 ばっかり さ せ とっても 、 それ こそ 嫁 も もらえ んたい 」 憲夫 は わざと ふざけた 口調 で 言い返した 。 おかげ で 房枝 の 険しい 表情 が 少し だけ 弛 む 。

「 そい で も さ 、 正直 、 祐一 が おら ん やったら 、 それ こそ 、 じいさん ば 、 風呂 に 入れる こと も でき ん と よ 」

「 それ こそ 、 ホーム ヘルパー でも 頼めば よかろう に 」

「 あんた も 簡単に 言う ねぇ 、 ヘルパー さん に 来て もらう と に 、 いくら お 金 が かかる か 知ら ん と やろ ? 「 高い と ね ? 「 そりゃ 、 あんた 、 そこ の 岡崎 の ばあさん なんて ……」

房枝 が そこ まで 言った とき 、 布団 の 中 で 、「 うるさい ! 」 と 勝治 が 怒鳴り 、 苦し そうに 咳き込んだ 。

「 ごめん 、 ごめん 」

憲夫 は 布団 を 軽く 叩いて 立ち上がり 、 房枝 の 背中 を 押して 部屋 を 出た 。

台所 の まな板 に 活 き の 良 さ そうな ブリ が のって いた 。

どす黒い 血 が 濡れた まな板 に 広がって いる 。 天井 に 向け られた 眼 と 半 開き の 口 が 、 何 か を 訴え かけて いる ように 見える 。

「 そうい や 、 祐一 は 昨日 、 遅かった と やろ ? 包丁 を 握った 房枝 の 背中 に 、 憲夫 は 何気なく 声 を かけた 。

今朝 、 現場 へ 向かう 途中 に 顔色 を 変えて 車 を 飛び降り 、 苦し そうに え ず いた こと を 思い出した のだ 。

「 さ ぁ 、 知ら ん 。 出かけ とった と やろ か ? 「 珍しゅう 、 二日酔い やった ばい 」

「 二日酔い ? 祐一 が ね ? 「 今朝 、 顔 真っ青 させて ……」

「 へ ぇ 、 どこ で 飲んだ と やろ か 、 車 で 出かけた と やろう に 」

年季 の 入った 包丁 で 、 房枝 が ブリ の 身 を 切り分けて いく 。

グツッ 、 グツッ と 包丁 が 骨 を 砕く 。

「 あんた 、 ブリ 一 匹 、 実千代 さん に 持って 帰ら ん ね 。

今朝 、 漁協 の 森下 さん に もろう た と やけど 、 うち じゃ 、 祐一 くらい しか おら ん けん 」

房枝 が 包丁 を 握った まま 振り返り 、 テーブル の 下 を 指す 。

濡れた 包丁 から 水 が 一 滴 、 黒 光り した 床 に 落ちる 。

テーブル の 下 を 覗き込む と 、 発泡 スチロール の ケース に ブリ が 一 匹 入って いた 。

房枝 に もらった ブリ を ケース ごと 玄関 へ 運んで 、 憲夫 は 横 の 階段 を 二 階 へ 上がった 。

上がる と すぐに 祐一 の 部屋 の ドア が ある 。

ノック する の も 気恥ずかしく 、 憲夫 は 、「 おい 」 と 声 を かけ ながら 勝手に ドア を 開けた 。

風呂 に でも 向かう つもりだった の か 、 パンツ 一 枚 で 立って いた 祐一 が 、 開けた ドア に ぶつかり そうに なる 。

「 今 から 風呂 か ? 筋肉 に 薄い 皮膚 が 貼り ついた ような 祐一 の 上半身 を 眺め ながら 憲夫 は 言った 。

「…… 風呂 入って 、 メシ 食 うて 、 病院 」

祐一 が 頷いて 部屋 を 出て 行こう と する 。

憲夫 は からだ を 躱 して 祐一 を 通した 。

一緒に 下りる つもりだった が 、 部屋 の 床 に 「 クレーン 免許 」 と 書か れた パンフレット が 落ちて いる の が 目 に ついた 。

「 ほう 、 一応 、 取る つもり は ある とたい 」 返事 は なく 、 すでに 階段 を 下りて いく 足音 が 高く なる 。 憲夫 は なんとなく 部屋 に 入って 床 から パンフレット を 拾い上げた 。

階段 を 下りた 祐一 の 足音 が 今度 は 廊下 を 遠ざかって いく 。

潰れた 座布団 に 腰 を 下ろす と 、 憲夫 は 部屋 の 中 を ぐるり と 見渡した 。

古い 土 壁 に は 、 すっかり 黄ばんで しまった セロハンテープ で 、 いく つ か 車 の ポスター が 貼って あり 、 床 に は 同じく 車 関係 の 雑誌 が あちこち に 積まれて いる 。 正直 、 それ 以外 、 何も ない 部屋 だった 。

若い 女 の ポスター が ある わけで も なし 、 テレビ も 、 ラジカセ も ない 。

ある とき 房枝 が 、「 祐一 の 部屋 は ここ じゃ なくて 、 自分 の 車 の 中 や もん 」 と 言って いた が 、 この 部屋 を 見る と 、 房枝 の 言葉 が 大げさで は なかった の が よく 分かる 。

捲ろう と した パンフレット を 投げ出して 、 憲夫 は 低い テーブル に 置か れた 給料 袋 を 手 に 取った 。

先週 、 自分 が 渡した 袋 だった が 、 手 に した 瞬間 、 中 に 何も 入って いない の が 分かる 。 封筒 の 横 に ガソリン スタンド の レシート が あった 。

見る つもり も なかった のだ が 、 やはり なんとなく 手 に 取る と 、5990 円 と 記さ れた 金額 の 下 に 、 佐賀 大和 の 地名 が ある 。

「 昨日 か 」

憲夫 は レシート の 日付 を 口 に した 。

口 に して すぐ 、「『 昨日 は どこ に も 行っと らん よ 』って 言い よった のに なぁ 」 と 首 を 傾げた 。 ボトッ と 重い 音 が シンク に 響いて 、 半 開き の 口 を こちら に 向けた 頭 が 、 排水 口 へ 滑って いく 。

廊下 を 歩いて くる 足音 に 振り返る と 、 パンツ 一 枚 の 祐一 が 、 テーブル に あった かまぼこ を 一 つ くわえて 風呂 場 へ 向かう 。

「 憲夫 は もう 帰った と ね ? 房枝 は その 背中 に 尋ねた 。

くちゃ くちゃ と かまぼこ を 噛み ながら 振り返った 祐一 が 、 黙って 自分 の 部屋 を 指さす 。

「 お前 の 部屋 で 何 し よる と ? 「 さ ぁ 」

祐一 は 首 を 傾げて 風呂 場 の ドア を 開けた 。

木枠 に ガラス を はめ込んだ ドア が 、 まるで 薄い トタン の ように 大きく し なり 、 大げさな 音 を 立てる 。

脱衣 所 が ない ので 、 祐一 は その場で パンツ を さっと おろし 、 身 を 震わせ ながら 風呂 場 へ 駆け込んだ 。

白い 尻 が すっと 残像 の ように 流れて いく 。 再び 閉め られた ドア が 、 割れ そうな ほど ガシャン と 音 を 立てた 。

房枝 は 包丁 を 持ち 直して 、 ブリ の 身 を 切り分け 始めた 。

階段 を 下りて くる 足音 が 響き 、「 おばさん 、 帰る けん 」 と 憲夫 の 声 が 聞こえた とき 、 房枝 は 鍋 の 中 に みそ を といて いた 。

手 が 離せ ず 、「 ああ 、 また おいで よ 」 と 声 を 返した 。

立て付け の 悪い 玄関 が ガラガラ と 音 を 立て 、 家 全体 が 軋む ように ドア が 閉まる 。

遠ざかる 憲夫 の 足音 が 消えて しまう と 、 一瞬 、 台所 に は 鍋 の 音 だけ が 残る 。

静かな もん だ 、 と 房枝 は 思う 。

ほとんど 寝たきり と は いえ 勝治 が おり 、 年 を とった と は いえ 自分 が いる 。 その 上 、 若い 盛り の 祐一 が すぐ そこ で 風呂 に 入って いる に も かかわら ず 、 恐ろしい ほど 静かな 家 だった 。

みそ の 香り を 嗅ぎ ながら 、 房枝 は 風呂 場 の 祐一 に 声 を かけた 。

「 今朝 、 二日酔い やったって ? と 訊 く と 、 返事 の 代わり に 、 ザブン と 湯 から 出る 水音 が する 。

「 どこ で 飲 ん どった と ね ? 返事 は なく 、 お 湯 を かぶる 音 が 返って くる 。

「 車 で 出かけた と やろう に 、 危な か ねぇ 」

房枝 は もう 返事 を 期待 して い なかった 。

沸騰 し そうな 鍋 の 火 を 消し 、 魚 の 血 で 汚れた まな板 を 水 に つけた 。

風呂 から 出た 祐一 が すぐに 食べられる ように 、 ブリ の 刺身 を 盛りつけ 、 夕方 の うち に 揚げて おいた すり身 と 一緒に 食卓 に 並べた 。 炊飯 器 を 開ける と 、 米 も ふっくら 炊き あがって おり 、 肌寒い 台所 に 濃い 湯気 が 立つ 。

勝治 が 病 に 臥 す 前 は 、 朝 三 合 、 夕方 五 合 の 米 を 毎日 炊いた 。

男 二 人 の 胃袋 を 満たす のに 、 この 十五 年 、 ずっと 米 を 研いで いた ような 気 さえ する 。

子供 の ころ から 、 祐一 は よく ごはん を 食べた 。

沢庵 一 切れ 与えれば 、 それ で 軽々 と 茶碗 一 杯 の ごはん を 食べる ほど 、 炊き たて の 米 が 好きだった 。

食べた もの は 全部 身 に なった 。

中学 に 入学 した ぐらい から 、 毎朝 、 祐一 の 身長 が ちょっと ずつ 伸びて いる ので は ない か と 思う ほど だった 。

房枝 は 自分 が 作り 与える 食事 で 、 一 人 の 少年 が 一端 の 男 に 成長 して いく 姿 を 、 呆れ ながら も 感嘆 の 思い で 眺めて きた 。

男の子 に 恵まれ なかった こと も ある が 、 娘 たち の とき に は 味わえ なかった 何 か 、 女 の 本能 の ような もの を 、 孫 を 育てて いく うち に 感じて いる 自分 に 気づいた 。

もちろん 当初 は 、 実の 親 である 次女 の 依子 に どこ か 遠慮 して いた ところ も あった 。

しかし 、 その 依子 が まだ 小学生 の 祐一 を 置いて 、 男 と 姿 を 消して から は 、 これ で 自分 が 祐一 を 育てられる のだ と 、 娘 の 不 貞 を 嘆き ながら も 、 力 の 漲って くる 思い が あった 。 房枝 は 、 五十 歳 に なろう と して いた 。

男 に 捨て られた 依子 に 連れ られて 、 この 家 に やってきた とき 、 祐一 は すでに 母親 を 信じて いない ように 見えた 。 口 で は 、「 お母さん 、 お母さん 」 と 甘えて み せる のだ が 、 その 目 は もう 依子 を 見て い なかった 。 当時 、 依子 の 目 を 盗んで 、 房枝 は 孫 の 祐一 に こっそり と 昔 の 写真 を 見せ 、「 お母さん より 、 おばあ ちゃん の ほう が 美人 やろ が ? 」 と 冗談 半分 に 訊 いた こと が ある 。

自分 で は 冗談 の つもり だった のだ が 、 埃 を 被った 結婚 式 の アルバム を 押し入れ から 取り出す とき 、 どこ か 緊張 して いる 自分 に 気づいて も いた 。

祐一 は 差し出さ れた 写真 を 見て 、 しばらく 黙り 込んで いた 。

その 小さな 後 頭部 を 見下ろして いる うち に 、 自分 が とんでもない こと を して いる ような 気 が とつぜん して きた 。

房枝 は 思わず アルバム を 閉じ 、「 おばあ ちゃん が 美人 な もんか ね 、 あー 、 恥ずかし 、 恥ずかし 」 と 年 甲斐 も なく 顔 を 赤らめた 。

初めて 入院 した とき に 買った 合 革 の バッグ だった が 、 どうせ 一 度 使う だけ だろう と 安物 を 選んだ のに 、 入 退院 の 繰り返し で 、 今では 縫い目 まで 綻び 始めて いる 。

「 お茶 やら 、 ふり かけ は 、 明日 、 私 が 持っていく けん 」

口 の 中 が 渇く らしく 、 音 を 立てて 唾 を 呑み込んで いる 勝治 に 、 房枝 は 声 を かけた 。

「 祐一 は もう メシ 食 うた と か ? 時間 を かけて 寝返り を 打った 勝治 が 、 這う ように 布団 を 出て 、 房枝 が 運んで きた 夕食 の 盆 へ 近づいて いく 。

「 ブリ の 刺身 、 食べる なら 持ってくる よ 」

野菜 の 煮物 と おかゆ だけ の 食事 に 、 勝治 が ため息 を ついた ので 、 房枝 は 慌てて そう 言った 。

「 刺身 は いら ん 。 それ より 病院 の 看護 婦 たち に 、 ちょっと 渡し とけよ 」

勝治 が かすかに 震える 手 で 箸 を 握る 。

「 渡し と けって 、 何 を ? 「 何って 、 金 に 決 まっとる やろ 」 「 金 ? また ぁ 、 そげ ん こと 言い出して 、 今どき 、 そんな もん 受け取って くれる 看護 婦 さん が おる もん ね 」

いつも の ように 房枝 は 撥ねつけ ながら 、 こういう ところ が 、 勝治 と いう か 、 男 の 悪い ところ だ と ほとほと 嫌に なる 。

体裁 を 気 に する の は いい が 、 その ため の 金 が 空 から 降って くる と でも 思って いる のだ 。

「 今どき 、 そんな もん もらったって サービス なんて よう なら ん と よ 。 立派な 仕事 し とる のに 、 そんな もん もらったら 、 逆に バカに さ れた ように 思う に 決 まっとるたい ね 」 房枝 は そこ まで 言う と 、「 ヨイショ 」 と 声 を かけて 立ち上がった 。 最近 、 注意 し ない と 、 立ち上がる とき に 膝 に 痛み が 走る 。

背中 を 丸めて おかゆ を 掻き 込む 勝治 を 、 房枝 は 眺めた 。

その 背中 に 、 一昨年 夫 を 亡くした 岡崎 の ばあさん の 声 が 重なる 。

「 二 月 に 一 回 、 年金 が 振り込ま れる たんび に 、『 ああ 、 あの 人 は もう 死んだ と や ねぇ 』って 思わさ れる よ 」 最初 、 房枝 は この 言葉 を 聞いて 、 ばあさん も ばあさん なり に 、 旦那 を 愛して いた のだろう と 思って いた 。 ただ 、 勝治 が からだ を 壊し 、 日に日に 衰えて いく 姿 を 見る に つけ 、 この 言葉 が まったく 違った 意味 を 持って いた こと に 気 が ついた 。 夫婦 の どちら か が 亡くなれば 、 生活 費 も また 半分 なくなる と いう こと な のだ 。

風呂 上がり の 祐一 が 椅子 に あぐら を かいて 、 ごはん を 掻き 込んで いた 。

よほど 腹 が 減って いた の か 、 みそ汁 も つが ず に 、 ブリ の 刺身 一 切れ に 対して 、 ごはん を さ さっと 二 、 三 口 、 掻き 込む 。

「 大根 の みそ汁 が ある と よ 」

房枝 は 声 を かけ ながら 、 ひっくり返して 置か れた まま だった お 椀 に 、 みそ汁 を ついで やった 。

渡せば すぐに 手 に とって 、 熱い ながら も 音 を 立てて 旨 そうに 啜 る 。

「 ばあちゃん も 一緒に 行った ほう が いい や ろか ? 房枝 は 椅子 に 座る と 、 顎 に 米粒 を 一 つ つけた 祐一 に 尋ねた 。

「 来 ん で いい よ 。 五 階 の ナースステーション に 連れて け ば いい と やろ ? 九州 特有 の 甘い 刺身 醤油 に 、 祐一 が ねり わさび を といて いく 。

「 七 時 から そこ の 公民 館 で 、 また 寄り合い が ある と や もん ね 。

ほら 、 健康 食品 の 説明 会 。 …… いや 、 買う つもり は ない と よ 。 でも 、 ほら 、 話 ば 聞く だけ なら 無料 タダ やけん 」

房枝 は 魔法 瓶 から 急須 に お 湯 を 入れた 。

残り が 少なかった らしく 、 二 、 三 度 押す と 、 ゴボゴボ と 嫌な 音 が 立つ 。

湯 を 足そう と 椅子 から 立ち上がった とき だった 。

たった今 まで 旨 そうに 刺身 や すり身 揚げ を 口 に 入れて いた 祐一 が 、 とつぜん 、「 うっ」 と 唸って 口 を 押さえた 。 「 どうした ? 房枝 は 慌てて 祐一 の 背後 に 回る と 、 その 広い 背中 を 強く 叩いた 。

何 か 喉 に 詰まら せた と 思った のだ が 、 房枝 を 押しのける ように 立ち上がった 祐一 が 、 口 を 押さえた まま 便所 へ 駆け込んで いく 。

房枝 は 呆 気 に とられて 立ちすくんだ 。 便所 から すぐに 嘔吐 する 声 が 聞こえた 。

房枝 は 慌てて 食卓 に 並んだ 刺身 や すり身 揚げ の に おい を 嗅いだ が 、 もちろん 腐って いる もの など ない 。

しばらく 苦し そうに え ず いた あと 、 顔 を 真っ青に した 祐一 が 出て きた 。

「 どうした と ね ? 房枝 が 顔 を 覗き込もう と する と 、 その 肩 を 押しのけた 祐一 が 、「 なんでもない 。 …… ちょっと 喉 に 詰まった 」 と 見え透いた 言い訳 を する 。

「 喉 に つまったって 、 あんた ……」 房枝 は 床 に 落ちた 箸 を 拾った 。 目の前 に 祐一 の 脚 が あった 。 風呂 から 出た ばかりで 、 寒い わけで も ない だろう に 、 その 脚 が 小刻みに 震えて いた

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第二章 彼は誰に会いたかったか?【2】 だい ふた しょう|かれ は だれ に あい たかった か Chapter two|who he wanted Kapitel 2: Wen wollte er treffen? [2 Chapter 2 Who Did He Want to See? [2 Capítulo 2: ¿A quién quería conocer? [2 Chapitre 2 : Qui voulait-il rencontrer ? [2 제2장 그는 누구를 만나고 싶었나? (2)【제2장】그는 누구를 만나고 싶었나? Hoofdstuk 2: Wie wilde hij ontmoeten? [2 Kapitel 2: Vem missade han [2]? 第2章 他想见谁? [2] 第 2 章:他想见谁?[2

平たい ドラム缶 に 溜 め た 水 で 、 熱心に 指 の 汚れ を 洗い 落として いる 祐一 の 背中 を 、 矢島 憲夫 は たばこ を 吸い ながら 眺めて いた 。 ひらたい|どらむかん||たま|||すい||ねっしんに|ゆび||けがれ||あらい|おとして||ゆういち||せなか||やしま|のりお||||すい||ながめて| flach|Ölfass|||me|||mit|eifrig|Finger||Schmutz||waschen|waschen||||||Yajima|Ken'ō Yajima||||||| flat|drum can||accumulated|||||enthusiastically|||dirt|||washed away||Yuichi||||Yajima|Norio||||||| Yuuichi was washing the dirt off his fingers in a flat drum filled with water, while Norio Yajima watched him, smoking a cigarette. Norio Yajima patrzył na plecy Yuichiego, podczas palenia entuzjastycznie zmywając brud z palców wodą przechowywaną w płaskim bębnie. 矢岛纪夫正看着友一的背部,一边吸烟一边用扁鼓中储存的水热情地洗去了手指上的污垢。

ドラム缶 は コンクリ を こねる とき に 使わ れる もの で 、 いくら 真水 が 入って いる と は いえ 、 洗った 手 が 乾けば 蛇 の ような 模様 が 皮膚 に 浮かぶ 。 どらむかん|||||||つかわ|||||まみず||はいって|||||あらった|て||かわけば|へび|||もよう||ひふ||うかぶ ||Beton||mischen||||||||Reines Wasser|||||||gewaschen|||Wenn sie trocken sind|Schlange|||Muster||Haut|| drum can||concrete||knead||||||||fresh water|||||||washed|||dries|snake|||||skin||float drum can||||mix||||||||真水|||||||||||||||||| Trommeln werden zum Kneten von Beton verwendet, und egal wie viel frisches Wasser darin ist, sobald Ihre Hände gewaschen und trocken sind, erscheint ein schlangenartiges Muster auf Ihrer Haut. The drum is used for mixing concrete, and although it contains fresh water, patterns like those of a snake appear on the skin once the washed hands dry.

すでに 夕方 の 六 時 を 回り 、 作業 場 の あちこち で 各 組 の 人 夫 たち が 帰り 支度 を 始めて いた 。 |ゆうがた||むっ|じ||まわり|さぎょう|じょう||||かく|くみ||じん|おっと|||かえり|したく||はじめて| bereits||||||||||überall||||||Arbeiter||von|nach Hause gehen|Vorbereitungen treffen||| already|||||||work|||||each|||workers|workers||||preparations||| ||||||||||||||||||||帰る準備||| It was already past six in the evening, and workers from various groups were starting to prepare to go home in different parts of the work area.

さっき まで 外壁 を 壊して いた 数 台 の 重機 も 、 今では 一 カ所 に おとなしく 並んで いる 。 ||がいへき||こわして||すう|だい||じゅうき||いまでは|ひと|かしょ|||ならんで| ||Außenwand||zerstören|hatte||||Baumaschinen|||||||| ||exterior wall||broken|||||heavy machinery||||||quietly|| The several heavy machines that were tearing down the exterior walls earlier now stand meekly lined up in one place.

元 産婦人科 の 病棟 だった ビル も 、 作業 を 始めて すでに 四 日 目 、 その 三 分 の 二 が 無惨に 取り壊されて いる 。 もと|さんふじんか||びょうとう||びる||さぎょう||はじめて||よっ|ひ|め||みっ|ぶん||ふた||むざんに|とりこわさ れて| |Frauenheilkunde||Station|||||||bereits||||||||||grausam|abgerissen| |maternity and gynecology||hospital ward|||||||||||||||||miserably|being demolished| ||||||||||||||||||||無惨に|| Bereits vier Tage nach Beginn der Arbeiten an dem Gebäude, das früher eine Geburtshilfe- und Gynäkologiestation war, sind zwei Drittel des Gebäudes auf grausame Weise abgerissen worden. The building that used to be a maternity ward has already been under construction for four days, and two-thirds of it has been tragically demolished. こういう 大きな 現場 の 場合 、 憲夫 の 会社 は 下請け に 回る 。 |おおきな|げんば||ばあい|のりお||かいしゃ||したうけ||まわる |||||Kenbo||||Subunternehmer|| |||||Kenji||||subcontractor||subcontract In large construction sites like this, Kenji's company usually becomes a subcontractor. いちおう 自社 でも 15 m ロング の 重機 を 一 台 所有 して いる のだ が 、 鉄筋 の 三 階建て と も なる と 一 台 で は どうにも なら ず 、 大手 の 解体 業者 の 下請け に 回る しか ない 。 |じしゃ|||ろんぐ||じゅうき||ひと|だい|しょゆう|||||てっきん||みっ|かいだて|||||ひと|だい||||||おおて||かいたい|ぎょうしゃ||したうけ||まわる|| |eigenes Unternehmen||m|lang||Baumaschine|zu|||besitzen|||||Eisen|||drei Etagen||||||||||||große||Abbruch|Abbruchunternehmen|||||| more or less|in-house||meters|long||heavy machinery||||to own|||||reinforcing bars|||three-story||||||||||||major||demolition|contractor||subcontractor|||| |||||||||||||||||||||||||||||||||||下請け業者|||| Although the company does own one 15-meter-long heavy machinery, when it comes to a three-story building with reinforced concrete, one machine is not enough, and they have no choice but to become a subcontractor under a major demolition contractor.

ドラム缶 の 水 で 洗った 手 を 、 首 に かけた タオル で 拭き 始めた 祐一 に 、「 お前 も 、 そろそろ 重機 の 免許 取ったら どう や ? どらむかん||すい||あらった|て||くび|||たおる||ふき|はじめた|ゆういち||おまえ|||じゅうき||めんきょ|とったら|| Fass||||||||||||abwischen|||||||Schwergerät||Führerschein||| ||||||||||towel||||Yuichi|||||heavy machinery|||you get|about| 」 と 憲夫 は 声 を かけ 、 吸って いた たばこ を 灰皿 に 押しつけた 。 |のりお||こえ|||すって||||はいざら||おしつけた ||||||rauchend||||Aschenbecher||drückte hinein |Kenbo|||||||||ashtray||pressed ||||||||||ashtray|| Kenyu called out and pressed the cigarette he had been smoking into the ashtray.

憲夫 の 言葉 に 振り返った 祐一 が 、 のりお||ことば||ふりかえった|ゆういち| ||||looked back|| Yuichi, who turned back at Kenyu's words, said,

「 は ぁ 」 ‘Huh’

と なんとも やる 気 の ない 返事 を し 、 今度 は 顔 を ゴシゴシ と タオル で こする 。 |||き|||へんじ|||こんど||かお||||たおる|| |||||||||||||rub|und|||reiben |||||||||||||vigorously||||rub |||||||||||||ゴシゴシ||||こする

こすれば こする ほど 、 顔 の 汚れ が 目立つ 。 |||かお||けがれ||めだつ je mehr|||||||auffällig rub|rubbing|||||| The more you rub, the more dirt you will see on your face.

「 来月 、 一 週間 くらい 休んで よ かけ ん 、 免許 取り に 行か ん か ? らいげつ|ひと|しゅうかん||やすんで||||めんきょ|とり||いか|| |||||bitte|||||||| next month||||rest||||||||| Next month, should I take about a week off and go get my driver's license? 憲夫 の 言葉 に 、 行きたい と いう 意味 な の か 、 行き たく ない と いう 意味 な の か 、 祐一 が 口 を 尖 がら せ ながら も 小さく 頷く 。 のりお||ことば||いき たい|||いみ||||いき|||||いみ||||ゆういち||くち||とが|||||ちいさく|うなずく |||||||||||||||||||||||||尖がら|||||nickt er ||||||||||||||||||||||||pursed||||||nods ||||||||||||||||||||||口|||||||| In response to Ken'ichi's words, Yuichi, while pouting his lips, small nods, unsure if it means he wants to go or not. 正直な ところ 、 祐一 の ほう から この 話 を 言い出して くれ ない もの か と 、 憲夫 は ずっと 待って いる のだ が 、 いくら 待って も 祐一 が 積極 的に なる こと は なかった 。 しょうじきな||ゆういち|||||はなし||いいだして||||||のりお|||まって|||||まって||ゆういち||せっきょく|てきに|||| |||||||||ansprechen||||||||||||||||||||||| |||||||||started talking||||||||||||||||||proactive||||| To be honest, Ken'ichi has been waiting for Yuichi to bring up this topic, but no matter how long he waits, Yuichi has never been proactive about it.

ゴム 手袋 など を 自分 の バッグ に しまい 始めた 祐一 に 、「 ところで 気分 は もう よか と か ? ごむ|てぶくろ|||じぶん||ばっぐ|||はじめた|ゆういち|||きぶん||||| Gummihandschuhe|Handschuhe|||||||||||||||gut|| rubber|gloves||||||||||||||||| Yuichi, who had started putting rubber gloves and other items into his bag, was approached by Norio, who said, 'By the way, are you feeling alright yet?' と 憲夫 は 声 を かけた 。 |のりお||こえ|| This morning, he suddenly changed color and looked like he was about to throw up in the car, but once he arrived at the site, he worked quietly as usual. 今朝 、 車 の 中 で とつぜん 顔色 を 変えて 吐き そうに なった わりに 、 現場 に 着く と いつも と 変わら ず おとなしく 働いて いた 。 けさ|くるま||なか|||かおいろ||かえて|はき|そう に|||げんば||つく||||かわら|||はたらいて| ||||||complexion||||||||||||||||| Although he had a sudden change in complexion and looked like he was going to be sick in the car this morning, once he got to the site, he worked quietly as usual. ただ 、 いつも 持参 して くる 弁当 に 、 ほとんど 手 を つけ なかった こと を 憲夫 は 知っている 。 ||じさん|||べんとう|||て||||||のりお||しっている |||||Lunchbox||||||||||| ||bringing|||||||||||||| However, Kenbo knows that I hardly ever touched the bento that I always brought with me.

「 今日 帰ったら すぐ 、 じいさん 、 病院 に 連れて 行く と やろ ? きょう|かえったら|||びょういん||つれて|いく|| As soon as I get home today, I'll take the old man to the hospital, right? 」 と 憲夫 は 訊 いた 。 |のりお||じん| |||fragen| Kenei asked.

「 たぶん メシ 食う て から 」 |めし|くう|| |food|eat|| Maybe after I eat.

埃っぽい 寒風 の 中 、 バッグ を 抱えて 立ち上がった 祐一 が 、 ぼ そっと 答える 。 ほこり っぽい|かんぷう||なか|ばっぐ||かかえて|たちあがった|ゆういち||||こたえる staubig|kalter Wind|||||||||leise|leise| dusty|cold wind|||||holding|stood up|||in a low voice|| In the dusty cold wind, Yuichi, holding his bag, stood up and muttered a reply. 憲夫 は 、 いつも の ように 倉 見 、 吉岡 、 そして 祐一 を ワゴン 車 に 乗せた 。 のりお|||||くら|み|よしおか||ゆういち||わごん|くるま||のせた |||||倉 (Kura||||||Wagen||| |||||warehouse||Yoshioka||||wagon|||loaded Kenenobu hatte wie immer Kurami, Yoshioka und Yuichi in den Wagen gesetzt. Norio, as usual, put Kurami, Yoshioka, and Yuichi in the wagon.

夕日 に 赤く 染まった 長崎 湾 を 眺め ながら 国道 を 走って いる と 、 また いつも の 如く 倉 見 が 焼酎 の ワンカップ を 飲み 始める 。 ゆうひ||あかく|そまった|ながさき|わん||ながめ||こくどう||はしって||||||ごとく|くら|み||しょうちゅう||わんかっぷ||のみ|はじめる |||gefärbt|Nagasaki|||||||||||||wie gewohnt||||Schnaps||Wankapp||| |||colored||bay||||||||||||as||||shochu||single cup||| Während wir die Nationalstraße entlang fuhren und den in rotes Licht getauchten Nagasaki-Bucht betrachteten, begann Kurami, wie immer, einen Becher Sake zu trinken. While running on the national highway, looking at the Nagasaki Bay dyed red by the sunset, Kurami begins to drink a cup of shochu as usual.

「 家 に 着く まで 、 たかが 三十 分 くらい 我慢 でき ん と や ? いえ||つく|||さんじゅう|ぶん||がまん|||| ||||nur||||aushalten|||| „Kannst du nicht bis wir zu Hause sind etwa dreißig Minuten warten?“ Can't you hold out for just about thirty more minutes until we get home? 憲夫 は 鼻先 へ 流れて きた 焼酎 の 臭い に 顔 を しかめた 。 のりお||はなさき||ながれて||しょうちゅう||くさい||かお|| ||Nase||||||||Gesicht||verzog das Gesicht ||nose||wafting||shochu||smell||||frowned ||nose|||||||||| Nori-o wrinkled his face at the smell of shochu that flowed toward his nose.

「 仕事 が 終わる 一 時間 も 前 から 我慢 し とる と に 、 それ から また 三十 分 も 我慢 できる もん ね 」 しごと||おわる|ひと|じかん||ぜん||がまん||||||||さんじゅう|ぶん||がまん||| ||||||||||gerade|||||||||||| ||||||||||waiting|||||||||||you know| „Ich halte es sogar eine halbe Stunde länger aus, obwohl ich schon eine Stunde vor Feierabend anfangen muss, mich zu gedulden.“ Even if I endure for an hour before work ends, I can hold back for another thirty minutes after that.

倉 見 が 呆れた と ばかり に 笑って 、 カップ から こぼれ そうな 焼酎 に 口 を つけ 、 濃い 無 精 髭 が とろっと した 液体 に 濡れる 。 くら|み||あきれた||||わらって|かっぷ|||そう な|しょうちゅう||くち|||こい|む|せい|ひげ||とろ っと||えきたい||ぬれる |||verblüfft|||||||||||||||||||dickflüssig||||nass werden |||astonished||just like|||cup||overflowing||shochu||||put to|thick|unshaven|non-spirited|stubbly beard||thick||||got wet ||||||||||||||||||||||とろり|||| Kurami lachte, als wäre sie erstaunt, nippte an dem fast überlaufenden Shōchū aus der Tasse, und ihr dichter, struppiger Bart wurde mit der zähflüssigen Flüssigkeit nass. Kurami laughed as if in disbelief, took a sip from his cup filled with shochu that was about to spill over, and his thick, unkempt beard got wet with the viscous liquid. 窓 を 開けて いる に も かかわら ず 、 焼酎 と 乾いた 土 の に おい が 車 内 で 混じる 。 まど||あけて||||||しょうちゅう||かわいた|つち|||||くるま|うち||まじる |||||||||||||||||||mischen window||||||despite||shochu||dry||||smell|||||mix Trotz dass das Fenster geöffnet ist, vermischen sich der Geruch von Shōchū und trockenem Boden im Inneren des Autos. Despite having the window open, the smell of shochu mixed with dry earth filled the car.

「 そう 言えば 、 きのう 、 福岡 の 三瀬 峠 で 女の子 が 殺さ れたら しか な 」 |いえば||ふくおか||みつせ|とうげ||おんなのこ||ころさ||| ||yesterday|||||||||if killed||

窓 の 外 を 眺めて いた 吉岡 が 、 ふと 思い出した ように 言った 。 まど||がい||ながめて||よしおか|||おもいだした||いった window||||looking at||||suddenly||| Yoshioka, who had been looking out the window, suddenly said as if he remembered something.

「 保険 の 勧誘 し とる 女の子 らし か けど 、 あげ ん こと さ れたら 親 は たまった もん じゃ なか ねえ 」 ほけん||かんゆう|||おんなのこ|||||||||おや|||||| |von|||vermitteln||scheinbar||||||Betonungspartikel|wenn||||||| ||sales pitch|doing|taking||like|||giving||||if given|||saved|||not|hey ||sales|||||||||||||||||| Die Mädchen, die Versicherungen verkaufen, sind zwar nett, aber wenn sie meinen Eltern etwas andrehen würden, wäre das nicht gerade erfreulich. "It seems like they're girls trying to sell insurance, but if they get invited in, parents wouldn't be too happy about it."

同じ 年頃 の 娘 を 持つ 倉 見 が そう 言って 、 焼酎 で 濡れた 指 を 舐める 。 おなじ|としごろ||むすめ||もつ|くら|み|||いって|しょうちゅう||ぬれた|ゆび||なめる |||Tochter||||||||||nassen|||lecken |age||||||||||shochu||wet|||licks Kurami, der eine Tochter im gleichen Alter hat, sagt das und leckt seinen mit Shochu feuchten Finger. Kurami, who has a daughter around the same age, said this while licking his fingers dampened with shochu.

内縁 の 妻 と 二 人 で 暮らして いる 吉岡 に は 、 被害 者 の 親 の 気持ち は 実感 でき ない ようで 、「 三瀬って 言えば 、 俺 が 、 前 に トラック 運転 し よる とき 、 よう 使い よった 道 や もん ね 」 と 話 を 変える 。 ないえん||つま||ふた|じん||くらして||よしおか|||ひがい|もの||おや||きもち||じっかん||||みつせ って|いえば|おれ||ぜん||とらっく|うんてん|||||つかい||どう|||||はなし||かえる Lebensgefährtin|||||||||||||||||||nachvollziehen||||Mise||||||||||||||||||||| common-law|||||||||Yoshioka||||||||||realization|||it seems|Mise|||||||||by||||used|||quotation particle||||| 内縁の妻|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| Yoshioka, der mit seiner Lebensgefährtin zusammenlebt, scheint Verständnis für die Gefühle der Eltern der Opfer nicht zu haben und wechselt das Thema: „Wenn ich an Sanze denke, denke ich an die Straßen, die ich frühere benutzt habe, als ich Lkw gefahren bin.“ Yoshioka, who lives with his common-law wife, seems unable to feel the parents' emotions of the victim, and changes the subject by saying, 'When you say Sanze, that's the road I used to drive my truck on.' 吉岡 本人 が 詳しく 話す こと は ない が 、 県営 住宅 で 一緒に 暮らして いる 女 は 、 もう 十 年 に なる と いう のに 、 まだ 前 の 旦那 と の 籍 を 抜いて いない らしい 。 よしおか|ほんにん||くわしく|はなす|||||けんえい|じゅうたく||いっしょに|くらして||おんな|||じゅう|とし|||||||ぜん||だんな|||せき||ぬいて|| |||||||||Staats-|||||||||||||||||||Ehemann||||||| |||||||||public|public housing|||living|||||||||||||||husband|||family register|(object marker)|||it seems Yoshioka selbst spricht nicht viel darüber, aber die Frau, die mit ihm in der staatlichen Wohnung lebt, scheint, obwohl es schon zehn Jahre her ist, noch immer nicht von ihrem früheren Ehemann geschieden zu sein. Yoshioka himself does not talk about it in detail, but the woman he lives with in the public housing has been with him for ten years and apparently still hasn't divorced her former husband. 「 祐一 、 お前 も 三瀬 の 峠 と か 、 よう ドライブ する と やろ が ? ゆういち|おまえ||みつせ||とうげ||||どらいぶ|||| ||||||||ja||||| ||||'s|||||drive|||| „Yuichi, du fährst doch auch oft zum Sanze-Pass, oder?“ 吉岡 に 声 を かけ られて 、 一 番 後ろ に 座って いる 祐一 が 窓 の 外 から 車 内 に 視線 を 戻した 。 よしおか||こえ||||ひと|ばん|うしろ||すわって||ゆういち||まど||がい||くるま|うち||しせん||もどした ||||ansprechen|passiviert|||hinten|||||||||||||Blick||zurückgebracht Yoshioka||||to call|was called||||||||||||||||line of sight|| Als Yoshioka ihn ansprach, wandte Yuichi, der ganz hinten saß, seinen Blick vom Fenster zurück ins Auto. Yuki, who was sitting at the very back, turned his gaze back inside the car from outside the window when Yoshitaka called out to him.

その 様子 が ルームミラー に 映る 。 |ようす||||うつる |||||spiegelt sich |||rearview mirror|| That scene was reflected in the rearview mirror.

市 内 へ 向かう 反対 車線 が 渋滞 し 始めて いた 。 し|うち||むかう|はんたい|しゃせん||じゅうたい||はじめて| ||||Gegenverkehr|Gegenfahrbahn||Stau||| ||||opposite|lane||traffic jam||| The opposite lane heading towards the city was starting to get congested.

造船 所 で 一 日 働いた 男 たち の 車 が 、 数珠 繋ぎ に 街道 を 伸びて いる 。 ぞうせん|しょ||ひと|ひ|はたらいた|おとこ|||くるま||じゅず|つなぎ||かいどう||のびて| Schiffswerft|||||||||||Perlenkette|in einer Reihe||Straße||sich erstrecken| shipbuilding|||||worked||||||string of prayer beads|linked||||stretch| |||||||||||数珠繋ぎ|||||| Die Autos der Männer, die einen Tag in der Werft gearbeitet haben, sind in einer langen Reihe auf der Straße aufgereiht. The cars of the men who worked a day at the shipyard are lined up in a row along the highway. 夕日 を 浴びた 男 たち の 顔 は 、 どこ か 般若 の 面 の ように 見える 。 ゆうひ||あびた|おとこ|||かお||||はんにゃ||おもて|||みえる Sonnenuntergang||in der Abendsonne||||||||Hannya||Maske||| sunset||bathed||||||||wisdom||||| ||||||||||般若||||| Die Gesichter der Männer, die im Sonnenuntergang baden, wirken irgendwie wie Masken eines Hanya. The faces of the men bathed in the evening sun look somewhat like masks of a demon.

「 なぁ 、 三瀬 峠 と か 、 よう ドライブ する と やろ が ? |みつせ|とうげ||||どらいぶ|||| ||||||drive|||| „Hey, fährst du oft über den Mitsuse-Pass? "Hey, you often go driving over the Misesu Pass, right?" 返事 を し ない 祐一 に 、 改めて 吉岡 が 訊 いた 。 へんじ||||ゆういち||あらためて|よしおか||じん| ||||||erneut|||| ||||||once again|Yoshioka|||

「 三瀬 は …… あんまり 好か ん 。 みつせ|||すか| |||mag| Mise... I don't really like it.

あそこ 、 夜 走る と 気色 悪 か 」 |よ|はしる||けしき|あく| ||||schlecht|| ||||feeling|| ||||気持ち|| It's unpleasant when you run at night over there.

ぼ そっと 答えた 祐一 の 言葉 が 、 なぜ か ハンドル を 握る 憲夫 の 耳 に 残った 。 ||こたえた|ゆういち||ことば||||はんどる||にぎる|のりお||みみ||のこった |||||||||||festhalten|Kenbo|||| The words that Yuichi muttered in response somehow lingered in Ken-chan's ears who was gripping the steering wheel.

倉 見 と 吉岡 を 順番 に 降ろす と 、 憲夫 は 祐一 の 実家 へ と 車 を 走ら せた 。 くら|み||よしおか||じゅんばん||おろす||のりお||ゆういち||じっか|||くるま||はしら| |Mitsuru||||||absetzen|||||||||||fahren|fuhr store|see||||||dropped|||||||||||| After dropping off Kurami and Yoshioka in turn, Norio drove the car towards Yuichi's family home.

国道 から 狭い 路地 に 入り 、 軒先 の 表札 が サイドミラー に 触れて しまう ような 道 が 、 くねくね と 漁港 の ほう へ 伸びる 。 こくどう||せまい|ろじ||はいり|のきさき||ひょうさつ||||ふれて|||どう||||ぎょこう||||のびる |||Gasse|||Vordach||Namensschild||||berührt|||||kurvig||Fischereihafen||||sich erstreckt ||||||eaves||house number plate||side mirror||touched|||||winding||fishing port|||| ||||||house eaves||nameplate|||||||||曲がりくね||漁港|||| Die Straße, die von der Nationalstraße in eine schmale Gasse führt, windet sich so, dass das Namensschild am Vordach den Seitenspiegel berührt und in Richtung des Fischereihafens führt. Entering a narrow alley from the national highway, a road that brushes against the nameplate at the eaves twists and stretches toward the fishing port.

埋め立て で ほとんど の 海岸 線 を 奪わ れた あと 、 辛うじて 残った 小さな 漁港 に は 、 小型の 漁船 が 数 艘 停泊 して いる 。 うめたて||||かいがん|せん||うばわ|||かろうじて|のこった|ちいさな|ぎょこう|||こがたの|ぎょせん||すう|そう|ていはく|| Landaufschüttung||||Küstenlinie|||entfernt|passiv verb||gerade noch|verbliebenen|kleinen|Fischereihafen||||Fischerboot|||Stücke|liegen|liegen|liegt reclaimed||||coast|||taken|was taken||barely|||fishing port|||small|fishing boat|||counter for boats|anchored|| Nachdem fast die gesamte Küstenlinie durch Landaufschüttung verloren ging, liegen einige kleine Fischerboote in dem kleinen, mühsam verbliebenen Fischereihafen vor Anker. After most of the coastline was taken away by land reclamation, a small fishing port that barely remained has several small fishing boats anchored. 波 止め で 囲ま れた 湾 内 は おだやかで 、 漁船 を 繋ぐ ロープ の 軋む 音 だけ が 、 ときどき 思い出した ように 辺り に 響く 。 なみ|とどめ||かこま||わん|うち|||ぎょせん||つなぐ|ろーぷ||きしむ|おと||||おもいだした||あたり||ひびく |||umgeben||Bucht|||ruhig|||verankern|||knarrenden||||||||| wave|stop|||surrounded|bay|||calm|fishing boat||tie|rope||creaking|||||||area|| ||||||||||||||きしむ||||||||| Die in einem Wellenbrecher geschützte Bucht ist ruhig, und nur das Quietschen der Seile, die die Fischerboote festmachen, hallt gelegentlich erinnernd in der Umgebung wider. The bay, surrounded by wave breakers, is calm, and the only sound that occasionally echoes around is the creaking of the ropes tying up the fishing boats.

漁港 の 周囲 に は いく つ か シャッター を 下ろした 倉庫 が ある 。 ぎょこう||しゅうい||||||しゃったー||おろした|そうこ|| Fischereihafen||Umgebung||||||Laden||heruntergelassen|Lagerhäuser|| ||surroundings||||||||closed|warehouse|| Around the fishing port, there are several warehouses with their shutters closed.

一見 、 漁業 関係 の 倉庫 に 見える が 、 中 に は ペーロン と 呼ば れる 競技 用 ボート が 収納 されて いる 。 いっけん|ぎょぎょう|かんけい||そうこ||みえる||なか|||||よば||きょうぎ|よう|ぼーと||しゅうのう|さ れて| auf den ersten Blick|Fischerei|||Lagerhaus|||||||Paddelboot||||||Ruderboot||untergebracht|| |fishing industry|||warehouse|||||||dragon boat||||sport||boat||storage|| |||||||||||競技用ボート|||||||||| At a glance, they look like warehouses related to the fishing industry, but inside, there are racing boats called 'peron' stored. この 地域 は ペーロン が 盛んで 、 毎年 夏 に なる と 各 地区 対抗 の 大会 が 開か れる 。 |ちいき||||さかんで|まいとし|なつ||||かく|ちく|たいこう||たいかい||あか| |||Drachenboot|||jedes Jahr|||||||Wettbewerb||||| |region||dragon boat||popular||||||||competition||tournament||| This region is famous for its dragon boat racing, and every summer a competition is held between various districts.

十 数 人 の 男 たち が 一斉に 櫂 を 漕ぐ 姿 は 勇壮で 、 毎年 数 多く の 見物 客 も 集まって くる 。 じゅう|すう|じん||おとこ|||いっせいに|かい||こぐ|すがた||ゆうそうで|まいとし|すう|おおく||けんぶつ|きゃく||あつまって| |Zahl|||||||Ruder||rudern|||heldenhaft|jedes Jahr|||||Zuschauer||| |||||||all at once|oar||row|||heroic|||||sightseeing|||| The sight of a dozen or so men rowing in unison is splendid, and many spectators gather every year.

「 来年 も 、 ペーロン 出る と やろ ? らいねん|||でる|| |||teilnehmen|| ||dragon boat||| Will we participate in the dragon boat race next year too? たまたま 半分 ほど シャッター の 開いて いる 倉庫 を 目 に して 、 憲夫 は 祐一 に 声 を かけた 。 |はんぶん||しゃったー||あいて||そうこ||め|||のりお||ゆういち||こえ|| by chance|||shutter|||||||||||||||called By chance, Kenji noticed a warehouse with the shutter open halfway and called out to Yuichi.

荷物 を 膝 に 抱え 、 祐一 は すでに 車 を 降りる 準備 を して いた 。 にもつ||ひざ||かかえ|ゆういち|||くるま||おりる|じゅんび||| ||knees||holding||||||getting off|preparation||| With the luggage in his lap, Yuichi was already preparing to get out of the car.

「 練習 は いつごろ から 始まる と か ? れんしゅう||||はじまる|| ||around when|||| "When does practice start or something?" ルームミラー 越し に 尋ねる と 、「 いつも と 一緒 やろ 」 と 、 祐一 が 答える 。 |こし||たずねる||||いっしょ|||ゆういち||こたえる rearview mirror|through||ask|||||||||

高校 生 だった 祐一 が 初めて ペーロン に 参加 した とき 、 地区 の リーダー を 務めた の が 憲夫 だった 。 こうこう|せい||ゆういち||はじめて|||さんか|||ちく||りーだー||つとめた|||のりお| ||||||Pérolon|||||||Anführer||war|||| ||||||dragon boat|||||||leader||served|||| In high school, when Yuichi first participated in the peiron, the district leader was Norio.

練習 中 、 ぶつ くさ と 文句 ばかり 言う 他 の 少年 たち と 違い 、 黙々と 櫂 を 漕ぐ の は いい のだ が 、 祐一 は 加減 と いう もの を 知ら ず 、 手のひら の 皮 が 剥ける まで 練習 して しまい 、 結局 、 大会 当日 に は 使い物 に なら なかった 。 れんしゅう|なか||||もんく||いう|た||しょうねん|||ちがい|もくもくと|かい||こぐ||||||ゆういち||かげん|||||しら||てのひら||かわ||むける||れんしゅう|||けっきょく|たいかい|とうじつ|||つかいもの||| Übung|||verdammt|||||||||||still||||||||||||||||||||||abblättern|||||letztendlich|||||brauchbar||| ||to hit||||just||||||||silently|oar||row||||||||sense of moderation||||||continuously|||skin||peeled||||ended up||||||usable||| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||役に立たな||| During practice, unlike the other boys who complained and grumbled about everything, Yuichi quietly paddled. However, he didn't understand moderation and practiced until the skin on his palms peeled off, ultimately rendering him useless on the day of the tournament.

あれ から 十 年 近く 経つ が 、 祐一 は 毎年 ペーロン 大会 に 参加 して いる 。 ||じゅう|とし|ちかく|たつ||ゆういち||まいとし||たいかい||さんか|| |||||passed|||||dragon boat||||| Nearly ten years have passed since then, but Yuichi has been participating in the peiron tournament every year.

「 好きな の か ? すきな|| 」 と 問えば 、「 別に 」 と 答える くせ に 、 毎年 練習 が 始まる と 、 誰 より も 先 に 倉庫 に 現れる らしい 。 |とえば|べつに||こたえる|||まいとし|れんしゅう||はじまる||だれ|||さき||そうこ||あらわれる| |wenn man fragt||||||||||||||||||| |if asked||||habit|||||||||||||||it seems When asked, 'Is there anything in particular?', he usually replies, 'Not really,' yet every year when practice starts, he seems to appear in the warehouse earlier than anyone else.

「 ちょっと 寄って 行こう か な 」 |よって|いこう|| |stop by||| I wonder if I should stop by for a bit.

祐一 の 家 の 前 で 車 を 停める と 、 憲夫 は そう 言って エンジン を 切った 。 ゆういち||いえ||ぜん||くるま||とめる||のりお|||いって|えんじん||きった ||||||||parken|||||||| ||||||||parked||||||engine|| When they stopped the car in front of Yuichi's house, Norio said that and turned off the engine.

すでに 降りよう と して いた 祐一 が 、 ちらっと 憲夫 へ 目 を 向ける 。 |おりよう||||ゆういち|||のりお||め||むける |herunterkommen||||||||||| |about to get off||||||glanced|||||

「 今日 は 何時ごろ 、 じいさん 、 病院 に 連れて 行く と か ? きょう||いつごろ||びょういん||つれて|いく|| ||ungefähr um||||||| ||around what time||||taking||| What time are you going to take grandpa to the hospital today? 」 と 憲夫 は また 訊 いた 。 |のりお|||じん| ||||fragen| Katsu asked again.

「 晩 メシ 食う て から 」 ばん|めし|くう|| |dinner||and| After dinner.

祐一 が また ぼ そっと 呟いて 車 を 降りる 。 ゆういち|||||つぶやいて|くるま||おりる |||ich||||| ||||quietly|muttered|||

祐一 の あと を 追って 玄関 に 入る と 、 病人 が いる 家 特有 のに おい が した 。 ゆういち||||おって|げんかん||はいる||びょうにん|||いえ|とくゆう|||| |||||||||Patient||||eigenen|||| |||||entrance||||patient||||unique||smell|| As I followed Yuichi into the entrance, I was hit by the distinctive smell of a house with a sick person.

祐一 が 一緒に 暮らして いる と は いえ 、 元 は 老 夫婦 の 家 な ので 、 一 歩 足 を 踏み入れた だけ で 、 視界 から 色 が 抜け落ちて しまった ような 感覚 に 襲わ れる 。 ゆういち||いっしょに|くらして|||||もと||ろう|ふうふ||いえ|||ひと|ふ|あし||ふみいれた|||しかい||いろ||ぬけおちて|||かんかく||おそわ| |||||||||||||Haus|||ein||||betreten|||||||entfernt||||in|| ||||||||origin||||||||||||stepped|||field of vision||||lost|||sensation||struck| Even though Yuichi lives here, it was originally an old couple's house, so just stepping inside, I was struck by a sensation as if the color had drained from my view. 祐一 が 脱ぎ捨てた 赤い スニーカー だけ が 、 汚れて は いて も 、 唯一 、 そこ に 明るい 色 を 残す 。 ゆういち||ぬぎすてた|あかい|すにーかー|||けがれて||||ゆいいつ|||あかるい|いろ||のこす Yūichi||hat ausgezogen||Sneaker|||schmutzig|||||||||| ||thrown off|||||dirty|||||||||| Only the red sneakers that Yuichi had discarded remained, dirty but the only bright color left there.

「 おばさん ! Tante さっさと 廊下 を 歩いて いく 祐一 に 呆れ ながら 、 憲夫 は 奥 へ 声 を かけた 。 |ろうか||あるいて||ゆういち||あきれ||のりお||おく||こえ|| |||||||verblüfft|||||||| promptly|hallway||||||amazement||||||||called While being amazed at Yuichi walking down the hallway quickly, Ken'ichi called out to the back.

靴 を 脱いで いる と 、「 あら 、 憲夫 が 来た と ね ? くつ||ぬいで||||のりお||きた|| ||ausziehen|||||||| |||||oh||||| As I was taking off my shoes, I heard Fusaeda's voice asking, 'Oh, Ken'ichi has come, hasn't he?'

珍 しか 」 と 祐一 に 尋ねる 房枝 の 声 が 聞こえた 。 ちん|||ゆういち||たずねる|ふさえ||こえ||きこえた strange|only|||||Fusae|||| I heard Fusaeda's voice asking Yuichi, 'Isn't it rare?'

「 じいさん 、 これ から 病院 に 行くって ? |||びょういん||いく って |||||gehen wir 靴 を 脱いで 廊下 に 上がる と 、 台所 に いた らしい 房枝 が 出て きて 、「 この前 、 退院 した か と 思う たら 、 また 入院 よ 」 と 言い ながら 濡れた 手 を 首 に かけた 手ぬぐい で 拭く 。 くつ||ぬいで|ろうか||あがる||だいどころ||||ふさえ||でて||この まえ|たいいん||||おもう|||にゅういん|||いい||ぬれた|て||くび|||てぬぐい||ふく ||||||||||||||||Entlassung||||||||ja||||nassen||||||Handtuch||abwischen |||hallway||||kitchen|||it seems||||||being discharged|||||if||hospitalization||||||||||hung|hand towel||wipe |||||||||||房枝|||||||||||||||||||||||手ぬぐい|| As I took off my shoes and went up the hallway, it seemed that Houseki, who was in the kitchen, came out and said, 'I thought you had just been discharged from the hospital, but here you are again admitted,' while wiping her wet hands with a hand towel over her neck.

「 うん 、 祐一 が そう 言う けんさ ……」 |ゆういち|||いう| |||||also |||||you know Yeah, that's what Yuichi said...

憲夫 は 気兼ね なく 廊下 を 進み 、 勝治 の 寝て いる 部屋 の 障子 を 開けた 。 のりお||きがね||ろうか||すすみ|かつじ||ねて||へや||しょうじ||あけた ||ohne Zögern||||||||||||| ||hesitation||hallway|||Katsuji||||||sliding door||opened ||遠慮||||||||||||| Kenei walked down the hallway without hesitation and opened the shoji door to Katsuji's sleeping room.

「 じいさん 、 また 入院 するって ? ||にゅういん|する って 病院 より 家 の ほう が よか やろ が ? びょういん||いえ|||||| ||||||better|| Isn't it better to be at home than in the hospital? 障子 を 開けた 途端 に 、 かすかに し もの に おい が した 。 しょうじ||あけた|とたん|||||||| Shōji||||||死||||| sliding door|||at that moment||faintly|doing|||smell|| ||||||しない||||| As soon as I opened the shoji, I caught a faint scent of something.

畳 に 差し込んで いる 街灯 が 、 古い 畳 の 上 で 点滅 する 蛍光 灯 と 混じって いる 。 たたみ||さしこんで||がいとう||ふるい|たたみ||うえ||てんめつ||けいこう|とう||まじって| Tatami|||||||Tatami||||blinkt|||||vermischt| tatami||||streetlight|||||||blinking||fluorescent|||mixed| |||||||||||||灯|||| Die Straßenlaterne, die in die Tatami scheint, vermischt sich mit der blinkenden Leuchtstofflampe auf dem alten Tatami. The streetlight shining on the tatami is mixing with the flickering fluorescent light on the old tatami.

「 病院 に 行けば 、 家 に 帰りたいって 言う し 、 家 に 連れて くれば 、 病院 の ほう が よかって 言う し 、 ほんと 、 もう どうにも なら ん よ 、 この 人 は 」 房枝 が そう 言い ながら 蛍光 灯 を つけ 直す 。 びょういん||いけば|いえ||かえり たい って|いう||いえ||つれて||びょういん||||よか って|いう|||||||||じん||ふさえ|||いい||けいこう|とう|||なおす |||||nach Hause zurück||||||kommt|||||besser||||||||||||||||||||ein| |||||wants to go home|||||||||||better|||||||||||||||||||||turns on „Wenn ich ins Krankenhaus gehe, sagt er, dass er nach Hause will, und wenn ich ihn nach Hause bringe, sagt er, dass es im Krankenhaus besser ist. Wirklich, ich kann einfach nichts mehr tun. Dieser Mensch!“ sagt Yasue und schaltet die Leuchtstofflampe neu ein. "When I take him to the hospital, he says he wants to go home, and when I bring him home, he says the hospital is better. Honestly, I just can't deal with this person anymore," Mie said as she adjusted the fluorescent light. 布団 の 中 で 、 勝治 の 濁った 咳 が こもる 。 ふとん||なか||かつじ||にごった|せき|| Bettdecke||||||heisere||| ||||||hoarse|cough||muffled ||||||濁った|咳||こもっている Im Futon hallt Katsuji's verschleierter Husten wider. Inside the futon, Katsuji's muffled cough echoes.

憲夫 は 枕元 に 腰 を 下ろす と 、 乱暴に 布団 を 捲った 。 のりお||まくらもと||こし||おろす||らんぼうに|ふとん||まくった |||||||||Bettdecke||decke hochziehen ||by the pillow|||||||||flipped |||||腰|||||| Kento setzte sich grob an den Rand des Bettes und schlug die Decke zurück. Norio sat down at the bedside and roughly pulled back the futon.

固 そうな 枕 に 染み だらけ の 勝治 の 顔 が のって いる 。 かた|そう な|まくら||しみ|||かつじ||かお||| ||||Fleck|||||Gesicht||| stiff||pillow||stain|||||face||| ||||stains|||||||| Das Gesicht von Katsuji, das auf dem harten Kopfkissen lag, war voller Flecken. Katsuharu's face, covered in stains, is resting on a solid pillow.

「 じいさん 」 "Opa" "Old man"

憲夫 は 声 を かけ ながら 、 勝治 の 額 に 手のひら を のせた 。 のりお||こえ||||かつじ||がく||てのひら|| ||||||Katsuharu||||||placed Noriaki legte seine Handfläche auf Katsuharus Stirn, während er ihn ansprach. Noriaki called out while placing his palm on Katsuharu's forehead.

自分 の 手 が 熱かった の か 、 一瞬 、 ぞっと する ほど 冷たかった 。 じぶん||て||あつかった|||いっしゅん||||つめたかった |||||||||||kalt ||||hot||||shuddering|||cold My hand was hot, but for a moment, it was chillingly cold.

「 祐一 は ? ゆういち| Where's Yuichi? 痰 を からま せる ように 勝治 が 尋ね 、 額 に のせ られた 憲夫 の 手 を 払う 。 たん|||||かつじ||たずね|がく||||のりお||て||はらう ||||||||||auf|||||| phlegm||entangled|||||asked|forehead||placed||||||push Katsuji asked, as if to clear his throat, brushing away Ken'ichiro's hand that was placed on his forehead.

ちょうど その とき 、 祐一 が 階段 を 上がって いく 足音 が 聞こえ 、 家 全体 が 揺れた 。 |||ゆういち||かいだん||あがって||あしおと||きこえ|いえ|ぜんたい||ゆれた ||||||||||||Haus||partikel für Subjekt|wackelte |||||||||||||||shook

「 なんでもかんでも 祐一 に 頼っとったら 駄目 ばい 」 憲夫 は 寝て いる 勝治 だけ で は なく 、 背後 に 立つ 房枝 に も 伝わる ように 言った 。 |ゆういち||たの っと ったら|だめ||のりお||ねて||かつじ|||||はいご||たつ|ふさえ|||つたわる||いった alles mögliche|||vertraut hätte|schlecht||||||||||||||||||| everything|||relied||particle||||||||||||||||was conveyed|| „Du kannst nicht einfach alles Yuuichi überlassen“, sagte Ken'ō, nicht nur zu den schlafenden Katsuji, sondern auch zu Aoi, die hinter ihm stand. You can't just rely on Yuichi for everything, you know.” Ken'ichi said this not only to Katsuji, who was sleeping, but also to Fusaeda, who was standing behind him. 「 なん も 頼って ばっかり おる もん ね 」 ||たよって|||| ||relying|||| „Man verlässt sich immer nur auf andere, nicht wahr?“ You always just depend on others, don't you?

蛍光 灯 の 下 で 房枝 が 口 を 尖ら せる 。 けいこう|とう||した||ふさえ||くち||とがら| |||||||||spitzen| |||||||||pointed| |||||||口||| Unter dem Neonlicht schnürt Aoi ihren Mund zusammen. Under the fluorescent light, Fusaeda pouted.

「 いや 、 そりゃ そう やろう けど 、 祐一 も まだ 若っか 男 よ 。 |||||ゆういち|||わか っか|おとこ| ||||||||young|| "Well, that's true, but Yuuichi is still a young man." じいさん 、 ばあさん の 世話 ばっかり さ せ とっても 、 それ こそ 嫁 も もらえ んたい 」 憲夫 は わざと ふざけた 口調 で 言い返した 。 |||せわ|||||||よめ|||ん たい|のりお||||くちょう||いいかえした |||||||||||||kann||partikel||verrückte|||hatte geantwortet ||||||||||bride|||able to||||joking|||retorted |||||||||||||||||冗談の||| „Wenn ich mich nur um den alten Mann und die alte Frau kümmern muss, werde ich wohl nie eine Frau heiraten können!“ sagte Norio absichtlich in einem spaßigen Ton zurück. Grandpa and Grandma are always making me take care of them, at this rate there's no way I could ever get a wife, right? おかげ で 房枝 の 険しい 表情 が 少し だけ 弛 む 。 ||ふさえ||けわしい|ひょうじょう||すこし||ち| ||||||||||entspannt ||||severe|||||relaxed| Thanks to that, Fusaeda's stern expression softened a little.

「 そい で も さ 、 正直 、 祐一 が おら ん やったら 、 それ こそ 、 じいさん ば 、 風呂 に 入れる こと も でき ん と よ 」 ||||しょうじき|ゆういち|||||||||ふろ||いれる|||||| so||||||||||||||Bad|||||||| ||||||||||||||bath|||||||| But honestly, if Yuichi weren't here, I wouldn't even be able to get Grandpa to take a bath.

「 それ こそ 、 ホーム ヘルパー でも 頼めば よかろう に 」 ||ほーむ|へるぱー||たのめば|| |||Helfer||fragen|| |||helper||if you ask|probably| "Well then, it should be fine to ask a home helper for it."

「 あんた も 簡単に 言う ねぇ 、 ヘルパー さん に 来て もらう と に 、 いくら お 金 が かかる か 知ら ん と やろ ? ||かんたんに|いう||へるぱー|||きて||||||きむ||||しら||| |||||Helfer|||||||||||||||| "You say that so easily, but do you even know how much it costs to have a helper come?" 「 高い と ね ? たかい|| "Isn't it expensive?" 「 そりゃ 、 あんた 、 そこ の 岡崎 の ばあさん なんて ……」 ||||おかざき||| ||||Okazaki||| ||||Okazaki|||

房枝 が そこ まで 言った とき 、 布団 の 中 で 、「 うるさい ! ふさえ||||いった||ふとん||なか|| ||||||Futon|||| 」 と 勝治 が 怒鳴り 、 苦し そうに 咳き込んだ 。 |かつじ||どなり|にがし|そう に|せきこんだ ||||||hustete |||shouted|painful||coughed ||||||coughing

「 ごめん 、 ごめん 」

憲夫 は 布団 を 軽く 叩いて 立ち上がり 、 房枝 の 背中 を 押して 部屋 を 出た 。 のりお||ふとん||かるく|たたいて|たちあがり|ふさえ||せなか||おして|へや||でた |||||||||Rücken||drückte||| |||||tapped||||||||| Kenyu lightly tapped the futon, stood up, and pushed Fusae's back as they left the room.

台所 の まな板 に 活 き の 良 さ そうな ブリ が のって いた 。 だいどころ||まないた||かつ|||よ||そう な|ぶり||| ||Schneidebrett||活||||||Buri||| ||cutting board||fresh||||||yellowtail||| ||cutting board||||||||fish||| On the kitchen cutting board, a fresh-looking yellowtail was lying.

どす黒い 血 が 濡れた まな板 に 広がって いる 。 どすぐろい|ち||ぬれた|まないた||ひろがって| dunkelrot|||nass|||| pitch-black||||cutting board||| どす黒い||||||| Dark blood was spreading on the wet cutting board. 天井 に 向け られた 眼 と 半 開き の 口 が 、 何 か を 訴え かけて いる ように 見える 。 てんじょう||むけ||がん||はん|あき||くち||なん|||うったえ||||みえる ||||||halb|halb geöffnet||||etwas||||||| ceiling||||eye||||||||||appeal|||| The eyes directed towards the ceiling and the half-open mouth seem to be pleading for something.

「 そうい や 、 祐一 は 昨日 、 遅かった と やろ ? そう い||ゆういち||きのう|おそかった|| "By the way, Yuichi was late yesterday, right? 包丁 を 握った 房枝 の 背中 に 、 憲夫 は 何気なく 声 を かけた 。 ほうちょう||にぎった|ふさえ||せなか||のりお||なにげなく|こえ|| kitchen knife|||||||||casually||| Ken'ichi casually called out to Fusaeda, who was holding a kitchen knife.

今朝 、 現場 へ 向かう 途中 に 顔色 を 変えて 車 を 飛び降り 、 苦し そうに え ず いた こと を 思い出した のだ 。 けさ|げんば||むかう|とちゅう||かおいろ||かえて|くるま||とびおり|にがし|そう に||||||おもいだした| ||||||Gesichtsausdruck||veränderte||||leidend||え|||||| |work site|||||complexion||changed|||jumped out|suffered|||||||| This morning, I remembered that I changed color on my way to the site, jumped out of the car, and seemed to be in distress.

「 さ ぁ 、 知ら ん 。 ||しら| Well, I don't know. 出かけ とった と やろ か ? でかけ|||| I wonder if they were out. 「 珍しゅう 、 二日酔い やった ばい 」 めずらしゅう|ふつかよい|| seltsam||| unusually||| "Rarely, I had a hangover."

「 二日酔い ? ふつかよい hangover "Hangover?" 祐一 が ね ? ゆういち|| "You know, Yuichi?" 「 今朝 、 顔 真っ青 させて ……」 けさ|かお|まっさお|さ せて this morning||pale| ||pale| This morning, I was pale in the face...

「 へ ぇ 、 どこ で 飲んだ と やろ か 、 車 で 出かけた と やろう に 」 ||||のんだ||||くるま||でかけた||| |eh|||||||||ausgegangen||| Oh, where did you drink, I wonder, since you took the car out?

年季 の 入った 包丁 で 、 房枝 が ブリ の 身 を 切り分けて いく 。 ねんき||はいった|ほうちょう||ふさえ||ぶり||み||きりわけて| Jahrgang|||Messer||||||||schneidet| seasoning|||||||yellowtail||flesh||cut| seasoned|||||||||||| With a well-worn knife, Fusaeda began to cut the meat of the yellowtail.

グツッ 、 グツッ と 包丁 が 骨 を 砕く 。 |||ほうちょう||こつ||くだく gutz|gutz|||||Akkusativpartikel|zerbrechen sound|||||||crush

「 あんた 、 ブリ 一 匹 、 実千代 さん に 持って 帰ら ん ね 。 |ぶり|ひと|ひき|みちよ|||もって|かえら|| ||||Miyochiyo||||bringen|| |yellowtail|||Sanjuro|||||| „Du, bring einen Barsch für Michiyo mit nach Hause.“ You, don't bring a single fish back to Michiyo.

今朝 、 漁協 の 森下 さん に もろう た と やけど 、 うち じゃ 、 祐一 くらい しか おら ん けん 」 けさ|ぎょきょう||もりした|||||||||ゆういち||||| heute Morgen|Fischereigenossenschaft||Morishita|||もろう (1) - bekommen|||||nun|||||| |fishermen's cooperative||Morishita|||burned||||||||||| „Heute Morgen habe ich ihn von Morishita-san von der Fischereigenossenschaft bekommen, aber bei uns ist nur Yuichi da.“ This morning, I received it from Morishita at the fishery, but there’s only Yuichi at home.

房枝 が 包丁 を 握った まま 振り返り 、 テーブル の 下 を 指す 。 ふさえ||ほうちょう||にぎった||ふりかえり|てーぶる||した||さす ||||griff|bleibend|sich umdrehen|||||zeigt |||||||||||pointing at Boueida drehte sich mit dem Messer in der Hand um und zeigte unter den Tisch. Fusaeda turned around while still holding the knife and pointed to under the table.

濡れた 包丁 から 水 が 一 滴 、 黒 光り した 床 に 落ちる 。 ぬれた|ほうちょう||すい||ひと|しずく|くろ|ひかり||とこ||おちる ||||||Tropfen|schwarz|glänzend|||| wet||||||drop||gleam||floor|| A drop of water falls from the wet knife onto the shiny black floor.

テーブル の 下 を 覗き込む と 、 発泡 スチロール の ケース に ブリ が 一 匹 入って いた 。 てーぶる||した||のぞきこむ||はっぽう|||けーす||ぶり||ひと|ひき|はいって| Tisch||||hineinschauen||Schaum|Styropor||Kiste||||||| ||||peered||foam|styrofoam||||||||| ||||||発泡スチロ|発泡スチロ||||||||| When I looked under the table, there was a single yellowtail in a styrofoam case.

房枝 に もらった ブリ を ケース ごと 玄関 へ 運んで 、 憲夫 は 横 の 階段 を 二 階 へ 上がった 。 ふさえ|||ぶり||けーす||げんかん||はこんで|のりお||よこ||かいだん||ふた|かい||あがった |partikel für Richtung|||||||||||||||||| |||||||||carrying|||side||stairs||||| Ken'ichi carried the yellowtail that Fusaeda gave him, along with the case, to the entrance and went up the stairs to the second floor.

上がる と すぐに 祐一 の 部屋 の ドア が ある 。 あがる|||ゆういち||へや||どあ|| steigen|||||||||

ノック する の も 気恥ずかしく 、 憲夫 は 、「 おい 」 と 声 を かけ ながら 勝手に ドア を 開けた 。 ||||きはずかしく|のりお||||こえ||||かってに|どあ||あけた ||||verlegen|||||||||||| ||||embarrassed||||||||||||

風呂 に でも 向かう つもりだった の か 、 パンツ 一 枚 で 立って いた 祐一 が 、 開けた ドア に ぶつかり そうに なる 。 ふろ|||むかう||||ぱんつ|ひと|まい||たって||ゆういち||あけた|どあ|||そう に| ||||||||||||||||||stoßen|| |||||||underwear||||||||||||| ||||||||||||||||||ぶつかりそう|| Yuichi, who was standing in just his underwear, seemed like he was going to bump into the open door as he was headed towards the bath.

「 今 から 風呂 か ? いま||ふろ| Are you going to take a bath now? 筋肉 に 薄い 皮膚 が 貼り ついた ような 祐一 の 上半身 を 眺め ながら 憲夫 は 言った 。 きんにく||うすい|ひふ||はり|||ゆういち||じょうはんしん||ながめ||のりお||いった ||||||||||Oberkörper|||||| muscles||thin|||stuck|||||upper body|||||| Looking at Yuichi's upper body, which had thin skin stretched over muscles, Kenji said.

「…… 風呂 入って 、 メシ 食 うて 、 病院 」 ふろ|はいって|めし|しょく||びょういん ||||eat|

祐一 が 頷いて 部屋 を 出て 行こう と する 。 ゆういち||うなずいて|へや||でて|いこう|| ||nodding|||||| Yuichi nodded and was about to leave the room.

憲夫 は からだ を 躱 して 祐一 を 通した 。 のりお||||た||ゆういち||とおした ||||vermeiden||||durchgelassen ||body|(object marker)|dodged||||let pass Noriyuki dodged and let Yuichi pass.

一緒に 下りる つもりだった が 、 部屋 の 床 に 「 クレーン 免許 」 と 書か れた パンフレット が 落ちて いる の が 目 に ついた 。 いっしょに|おりる|||へや||とこ||くれーん|めんきょ||かか||ぱんふれっと||おちて||||め|| |||||||||||geschrieben||Broschüre|||||||| |to get off|||||||crane|||||pamphlet||fell down|||||| I was planning to go down together, but my eye was caught by a pamphlet on the floor of the room that said 'Crane License.'

「 ほう 、 一応 、 取る つもり は ある とたい 」 返事 は なく 、 すでに 階段 を 下りて いく 足音 が 高く なる 。 |いちおう|とる||||と たい|へんじ||||かいだん||おりて||あしおと||たかく| ||||||そうだ|||||||||||| |for now|||||intention|||||||||||loudly| Well, I do intend to take it, at least for now. There was no response, and the sound of footsteps going down the stairs grew louder. 憲夫 は なんとなく 部屋 に 入って 床 から パンフレット を 拾い上げた 。 のりお|||へや||はいって|とこ||ぱんふれっと||ひろいあげた ||||||||||aufgehoben ||||||||||picked up Norio somehow entered the room and picked up a pamphlet from the floor.

階段 を 下りた 祐一 の 足音 が 今度 は 廊下 を 遠ざかって いく 。 かいだん||おりた|ゆういち||あしおと||こんど||ろうか||とおざかって| |||||||||||entfernt| ||went down|||||||||| |||||||||||遠ざかってい| The sound of Yuichi's footsteps, who went down the stairs, now receded down the hallway.

潰れた 座布団 に 腰 を 下ろす と 、 憲夫 は 部屋 の 中 を ぐるり と 見渡した 。 つぶれた|ざぶとん||こし||おろす||のりお||へや||なか||||みわたした zerstörte|||||||||||||rundherum|| squashed|cushion||||sat down||||||||around|| As he sat down on the crushed cushion, Ken-ichi looked around the room.

古い 土 壁 に は 、 すっかり 黄ばんで しまった セロハンテープ で 、 いく つ か 車 の ポスター が 貼って あり 、 床 に は 同じく 車 関係 の 雑誌 が あちこち に 積まれて いる 。 ふるい|つち|かべ||||きばんで|||||||くるま||ぽすたー||はって||とこ|||おなじく|くるま|かんけい||ざっし||||つま れて| ||||||vergilbt||Klebeband||||||||||||||||||||||gestapelt| ||wall||||yellowed||cellophane tape|||||||poster||pasted|||||||||magazine||||stacked| ||||||黄ばんでしまった||セロハンテ||||||||||||||||||||||| The old earthen walls had a few car posters stuck on with completely yellowed cellophane tape, and car-related magazines were piled up here and there on the floor. 正直 、 それ 以外 、 何も ない 部屋 だった 。 しょうじき||いがい|なにも||へや| honestly|||||| Honestly, it was a room that had nothing else.

若い 女 の ポスター が ある わけで も なし 、 テレビ も 、 ラジカセ も ない 。 わかい|おんな||ぽすたー||||||てれび||らじかせ|| |||||||||||Kassette|| |||||||||||radio cassette player||

ある とき 房枝 が 、「 祐一 の 部屋 は ここ じゃ なくて 、 自分 の 車 の 中 や もん 」 と 言って いた が 、 この 部屋 を 見る と 、 房枝 の 言葉 が 大げさで は なかった の が よく 分かる 。 ||ふさえ||ゆういち||へや|||||じぶん||くるま||なか||||いって||||へや||みる||ふさえ||ことば||おおげさで||||||わかる |||||||||||||||||||||||||||||||übertrieben|||||| |||||||||||||||||||||||||||||||exaggerated||||||

捲ろう と した パンフレット を 投げ出して 、 憲夫 は 低い テーブル に 置か れた 給料 袋 を 手 に 取った 。 まくろう|||ぱんふれっと||なげだして|のりお||ひくい|てーぶる||おか||きゅうりょう|ふくろ||て||とった rollen|||||weggeworfen||||||gelegt||Gehalt|Tüte||||genommen picked up|||||threw|||low|||placed||salary|salary bag|||| Konstitution warf das gefaltete Handbuch weg und nahm die Gehaltstüte, die auf dem niedrigen Tisch lag. Kenyu threw aside the pamphlet he was trying to roll up and picked up the paycheck bag placed on the low table.

先週 、 自分 が 渡した 袋 だった が 、 手 に した 瞬間 、 中 に 何も 入って いない の が 分かる 。 せんしゅう|じぶん||わたした|ふくろ|||て|||しゅんかん|なか||なにも|はいって||||わかる |||gegeben|Tüte|||||||||||||| |||gave|||(subject marker)||||||||entered|||| Es war die Tüte, die ich letzte Woche gegeben hatte, aber in dem Moment, als ich sie in die Hand nahm, wusste ich, dass nichts darin war. It was the bag he had handed over last week, but the moment he held it, he realized it was empty inside. 封筒 の 横 に ガソリン スタンド の レシート が あった 。 ふうとう||よこ||がそりん|すたんど||れしーと|| ||||gasoline||||| Neben dem Umschlag lag die Quittung von der Tankstelle. There was a gas station receipt next to the envelope.

見る つもり も なかった のだ が 、 やはり なんとなく 手 に 取る と 、5990 円 と 記さ れた 金額 の 下 に 、 佐賀 大和 の 地名 が ある 。 みる||||||||て||とる||えん||しるさ||きんがく||した||さが|だいわ||ちめい|| |||||||irgendwie|||||||vermerkt|||||||||Ortsname|| |intention|||||||||||||written|||||||Yamato||place name||

「 昨日 か 」 きのう|

憲夫 は レシート の 日付 を 口 に した 。 のりお||れしーと||ひづけ||くち|| ||||Datum|||| ||||date|||| Keniu mouthed the date on the receipt.

口 に して すぐ 、「『 昨日 は どこ に も 行っと らん よ 』って 言い よった のに なぁ 」 と 首 を 傾げた 。 くち||||きのう|||||ぎょう っと||||いい|||||くび||かしげた |||||||||went|||||||||||tilted As soon as he mouthed it, he tilted his head and said, 'I said I didn't go anywhere yesterday, didn't I?' ボトッ と 重い 音 が シンク に 響いて 、 半 開き の 口 を こちら に 向けた 頭 が 、 排水 口 へ 滑って いく 。 ||おもい|おと||||ひびいて|はん|あき||くち||||むけた|あたま||はいすい|くち||すべって| Plumps|||||Spüle||hallte|||||||||||Abfluss|||rutscht| with a thud|||||sink||echoed|||||||||head||drain|||slid| 落ちる音|||||シンク||||||||||||||||| Ein dumpfer, schwerer Geräusch ertönt und hallt in der Spüle wider, während ein Kopf mit halb geöffnetem Mund in unsere Richtung zeigt und zum Abfluss hinabrutscht. A heavy sound echoed in the sink, and a head with its half-open mouth slid towards the drain.

廊下 を 歩いて くる 足音 に 振り返る と 、 パンツ 一 枚 の 祐一 が 、 テーブル に あった かまぼこ を 一 つ くわえて 風呂 場 へ 向かう 。 ろうか||あるいて||あしおと||ふりかえる||ぱんつ|ひと|まい||ゆういち||てーぶる|||||ひと|||ふろ|じょう||むかう |||||||||||||||||Kamaboko|||||||| |||||||||||||||||fish cake||||holding|||| Als ich mich umdrehe wegen der Schritte, die im Flur näherkommen, sieht mich Yuichi in nichts als Unterhosen an, während er ein Stück Kamaboko vom Tisch nimmt und in Richtung Badezimmer geht. When I turned around at the sound of footsteps coming down the hallway, Yuichi, wearing only his pants, was heading towards the bathroom with a piece of kamaboko he grabbed from the table.

「 憲夫 は もう 帰った と ね ? のりお|||かえった|| "Ist Ken-o schon zurückgekommen, oder?" Is Ken-chan already back? 房枝 は その 背中 に 尋ねた 。 ふさえ|||せなか||たずねた

くちゃ くちゃ と かまぼこ を 噛み ながら 振り返った 祐一 が 、 黙って 自分 の 部屋 を 指さす 。 |||||かみ||ふりかえった|ゆういち||だまって|じぶん||へや||ゆびさす Kücha|Küchlein|und||||||||||||| chewing|||fish cake||||||||||||pointed くちゃ||||||||||||||| Yuichi, chewing on some kamaboko with a crunch, turned around and silently pointed to his own room.

「 お前 の 部屋 で 何 し よる と ? おまえ||へや||なん||| |||||||partikel für Frage "What are you doing in your room?" 「 さ ぁ 」 "I don't know."

祐一 は 首 を 傾げて 風呂 場 の ドア を 開けた 。 ゆういち||くび||かしげて|ふろ|じょう||どあ||あけた ||||neigte|||||| ||||tilting|||||| Yuichi tilted his head and opened the door to the bathroom.

木枠 に ガラス を はめ込んだ ドア が 、 まるで 薄い トタン の ように 大きく し なり 、 大げさな 音 を 立てる 。 きわく||がらす||はめこんだ|どあ|||うすい|とたん|||おおきく|||おおげさな|おと||たてる Holrahmen||||eingesetzt|||||Blech|||groß|werden|||Geräusch||macht wooden frame||||fitted|||||metal||||||exaggerated||| wood frame|||||||||||||||||| Eine Tür, in die Glas in einen Holzrahmen eingesetzt ist, biegt sich groß und übertrieben wie dünnes Blech und verursacht ein lautes Geräusch. The door, framed in wood and fitted with glass, bent greatly like thin tin and made an exaggerated noise.

脱衣 所 が ない ので 、 祐一 は その場で パンツ を さっと おろし 、 身 を 震わせ ながら 風呂 場 へ 駆け込んだ 。 だつい|しょ||||ゆういち||そのばで|ぱんつ||||み||ふるわせ||ふろ|じょう||かけこんだ Umkleideraum|||nicht||Yūichi|||||||||||||| undressing|||||||||||pulled down|||shivering|||||rushed Da es keinen Umkleideraum gibt, zog Yuichi schnell seine Unterhose herunter und rannte zitternd ins Bad. Since there was no changing room, Yuichi quickly pulled down his pants right there and, shivering, dashed into the bathroom.

白い 尻 が すっと 残像 の ように 流れて いく 。 しろい|しり||す っと|ざんぞう|||ながれて| |||schnell|Nachbild|||| |||smoothly|afterimage|||flowing| Der weiße Hintern fließt wie ein Nachbild davon. The white bottom flows away like an afterimage. 再び 閉め られた ドア が 、 割れ そうな ほど ガシャン と 音 を 立てた 。 ふたたび|しめ||どあ||われ|そう な||||おと||たてた ||||||||krachend|||| |closed|||||||with a loud bang||||stood ||||||||大きな音|||| The door that was closed again made a loud sound as if it would shatter.

房枝 は 包丁 を 持ち 直して 、 ブリ の 身 を 切り分け 始めた 。 ふさえ||ほうちょう||もち|なおして|ぶり||み||きりわけ|はじめた ||||||||||stücken| |||||held again|||||cut up| Fusaeda adjusted her grip on the knife and began to cut up the filefish.

階段 を 下りて くる 足音 が 響き 、「 おばさん 、 帰る けん 」 と 憲夫 の 声 が 聞こえた とき 、 房枝 は 鍋 の 中 に みそ を といて いた 。 かいだん||おりて||あしおと||ひびき||かえる|||のりお||こえ||きこえた||ふさえ||なべ||なか||||| |||||||||||||||||||Topf||||Miso||auflösen| |||||(subject marker)|echoed|||||||||||||pot||||miso||dissolving| As the sound of footsteps descending the stairs echoed, and when Ken'uo's voice was heard saying, 'Aunt, I'm going home,' Casae was dissolving miso in the pot. 下楼的脚步声响起,传来诺里奥的声音:“阿姨,我要回家了。”房江正在锅里挑味噌。

手 が 離せ ず 、「 ああ 、 また おいで よ 」 と 声 を 返した 。 て||はなせ|||||||こえ||かえした ||could not let go||||||||| Unable to free her hands, she replied, 'Ah, come again!'

立て付け の 悪い 玄関 が ガラガラ と 音 を 立て 、 家 全体 が 軋む ように ドア が 閉まる 。 たてつけ||わるい|げんかん||||おと||たて|いえ|ぜんたい||きしむ||どあ||しまる Türbeschlag||||||||||||||||| condition|||||rattling||||||||creak||||closes 調整|||||ガラガラ音|||||||||||| The poorly fitting entrance door rattled, making noise, and the entire house creaked as the door closed.

遠ざかる 憲夫 の 足音 が 消えて しまう と 、 一瞬 、 台所 に は 鍋 の 音 だけ が 残る 。 とおざかる|のりお||あしおと||きえて|||いっしゅん|だいどころ|||なべ||おと|||のこる ||||||vergeht|||||||||nur|| move away|||||||||||||||||

静かな もん だ 、 と 房枝 は 思う 。 しずかな||||ふさえ||おもう ruhige||||||

ほとんど 寝たきり と は いえ 勝治 が おり 、 年 を とった と は いえ 自分 が いる 。 |ねたきり||||かつじ|||とし||||||じぶん|| Although almost bedridden, Katsuji is here, and although he has aged, I am still here. その 上 、 若い 盛り の 祐一 が すぐ そこ で 風呂 に 入って いる に も かかわら ず 、 恐ろしい ほど 静かな 家 だった 。 |うえ|わかい|さかり||ゆういち|||||ふろ||はいって||||||おそろしい||しずかな|いえ| ||jung|Blütezeit||||||||||||||||||| |||prime||||||||||||||||||| Moreover, despite the fact that the young and vibrant Yuichi is right there taking a bath, the house was terrifyingly quiet.

みそ の 香り を 嗅ぎ ながら 、 房枝 は 風呂 場 の 祐一 に 声 を かけた 。 ||かおり||かぎ||ふさえ||ふろ|じょう||ゆういち||こえ|| ||||smelling||||||||||| While smelling the scent of miso, Fusaeda called out to Yuichi in the bathroom.

「 今朝 、 二日酔い やったって ? けさ|ふつかよい|やった って ||had it と 訊 く と 、 返事 の 代わり に 、 ザブン と 湯 から 出る 水音 が する 。 |じん|||へんじ||かわり||||ゆ||でる|みずおと|| ||||||||plumps||Wasser|||Geräusch des Wassers|| ||||||||splashing|||||sound of water|| ||||||||水音||||||| When I ask, instead of a reply, I hear the sound of water splashing as someone gets out of the hot water.

「 どこ で 飲 ん どった と ね ? ||いん||ど った|| ||||war|| ||drinking||drank|| Where have you been drinking? 返事 は なく 、 お 湯 を かぶる 音 が 返って くる 。 へんじ||||ゆ|||おと||かえって| ||||||splashing|||| There is no answer, just the sound of pouring water.

「 車 で 出かけた と やろう に 、 危な か ねぇ 」 くるま||でかけた||||あぶな|| ||||||gefährlich|| ||||||dangerous||

房枝 は もう 返事 を 期待 して い なかった 。 ふさえ|||へんじ||きたい|||

沸騰 し そうな 鍋 の 火 を 消し 、 魚 の 血 で 汚れた まな板 を 水 に つけた 。 ふっとう||そう な|なべ||ひ||けし|ぎょ||ち||けがれた|まないた||すい|| Kochen||||||||||||schmutzige||||| boiling|||||||||||||||||

風呂 から 出た 祐一 が すぐに 食べられる ように 、 ブリ の 刺身 を 盛りつけ 、 夕方 の うち に 揚げて おいた すり身 と 一緒に 食卓 に 並べた 。 ふろ||でた|ゆういち|||たべ られる||ぶり||さしみ||もりつけ|ゆうがた||||あげて||すりみ||いっしょに|しょくたく||ならべた ||||||||||Sashimi||anrichten|||||frittierte|hatte vorbereitet|Fischpaste|||||hingestellt ||||||eaten||||sashimi||plating|||||fried||minced fish|||dining table||arranged |||||||||||||||||||すり身||||| After Yuuichi got out of the bath, he arranged the sliced amberjack sashimi so that it could be eaten right away and laid it out on the table together with the ground fish that had been fried earlier in the evening. 炊飯 器 を 開ける と 、 米 も ふっくら 炊き あがって おり 、 肌寒い 台所 に 濃い 湯気 が 立つ 。 すいはん|うつわ||あける||べい|||たき|||はださむい|だいどころ||こい|ゆげ||たつ Reis kochen|||||||flauschig|gekocht|||kühler||||Dampf|| cooking rice|pot||||||plump|cooked|cooked up||chilly||||steam|| |||||||ふっくら|炊き上が||||||||| When I opened the rice cooker, the rice was fluffy and cooked perfectly, and thick steam rose in the chilly kitchen.

勝治 が 病 に 臥 す 前 は 、 朝 三 合 、 夕方 五 合 の 米 を 毎日 炊いた 。 かつじ||びょう||が||ぜん||あさ|みっ|ごう|ゆうがた|いつ|ごう||べい||まいにち|たいた ||||liegen||||||||||||||gekocht ||ill|locative particle|lying||||||||||||||cooked ||||寝る|||||||||||||| Before Katsuji fell ill, he cooked three go of rice in the morning and five go in the evening every day.

男 二 人 の 胃袋 を 満たす のに 、 この 十五 年 、 ずっと 米 を 研いで いた ような 気 さえ する 。 おとこ|ふた|じん||いぶくろ||みたす|||じゅうご|とし||べい||といで|||き|| Mann||||Magen||füllen||diese||||||gekocht||||| ||||stomach||satisfy||||||||polished||||| ||||||||||||ご飯||研いでいた||||| Es scheint, als hätte ich in den letzten fünfzehn Jahren ständig Reis gewaschen, um die Mägen von zwei Männern zu füllen. It feels like I've been washing rice for the past fifteen years to fill the stomachs of two men.

子供 の ころ から 、 祐一 は よく ごはん を 食べた 。 こども||||ゆういち|||||たべた Seit er ein Kind war, hat Yuichi oft Reis gegessen. Since he was a child, Yuichi ate a lot of rice.

沢庵 一 切れ 与えれば 、 それ で 軽々 と 茶碗 一 杯 の ごはん を 食べる ほど 、 炊き たて の 米 が 好きだった 。 たくあん|ひと|きれ|あたえれば|||かるがる||ちゃわん|ひと|さかずき||||たべる||たき|||べい||すきだった |||geben würde|||||Teeschale|eine|||||||gekocht||||| pickles|||if given|||easily||rice bowl||||||||cooked|just cooked||rice|| pickled radish||||||||||||||||||||| Wenn man ihm ein Stück Takuan (eingelegter Rettich) gab, konnte er damit leicht eine Schüssel frisch gekochten Reis essen, da er frischen Reis sehr mochte. If I were given a slice of pickled daikon, I liked freshly cooked rice enough to easily eat a bowl of it.

食べた もの は 全部 身 に なった 。 たべた|||ぜんぶ|み|| Everything I ate became part of me.

中学 に 入学 した ぐらい から 、 毎朝 、 祐一 の 身長 が ちょっと ずつ 伸びて いる ので は ない か と 思う ほど だった 。 ちゅうがく||にゅうがく||||まいあさ|ゆういち||しんちょう||||のびて|||||||おもう|| ||||||||||||||||||||||だった Since about the time I entered middle school, I began to think that Yuichi's height was gradually increasing every morning.

房枝 は 自分 が 作り 与える 食事 で 、 一 人 の 少年 が 一端 の 男 に 成長 して いく 姿 を 、 呆れ ながら も 感嘆 の 思い で 眺めて きた 。 ふさえ||じぶん||つくり|あたえる|しょくじ||ひと|じん||しょうねん||いったん||おとこ||せいちょう|||すがた||あきれ|||かんたん||おもい||ながめて| ||||machen|||||||||einem Teil|||||||||verwundert|||||||| |||||to give||||||||a little||||grown|||appearance||amazement|||admiration||||looking at| Hōe beobachtete fasziniert und zugleich erstaunt, wie ein Junge, den sie mit ihrer selbst zubereiteten Nahrung versorgte, zu einem jungen Mann heranwuchs. Yasue has been watching with a mix of disbelief and admiration as a boy grows into a man through the meals she prepares for him.

男の子 に 恵まれ なかった こと も ある が 、 娘 たち の とき に は 味わえ なかった 何 か 、 女 の 本能 の ような もの を 、 孫 を 育てて いく うち に 感じて いる 自分 に 気づいた 。 おとこのこ||めぐまれ||||||むすめ||||||あじわえ||なん||おんな||ほんのう|||||まご||そだてて||||かんじて||じぶん||きづいた ||gesegnet||||||Tochter|||||partikel für das Subjekt|||||||||||||||||||||| ||blessed||||||daughter||||||experienced||||||maternal instinct|||||grandchild||raising|||||||| ||恵まれな||||||||||||||||||||||||||||||||| Es gab zwar Zeiten, in denen ich keinen Sohn hatte, aber während ich meine Enkel aufzog, bemerkte ich etwas, das ich bei meinen Töchtern nicht erleben konnte, ein instinktives Gefühl der Weiblichkeit. While she didn't have blessings with boys, she realized that there was something like a woman's instinct that she couldn't experience when raising her daughters, and she felt this as she raised her grandchildren.

もちろん 当初 は 、 実の 親 である 次女 の 依子 に どこ か 遠慮 して いた ところ も あった 。 |とうしょ||じつの|おや||じじょ||よりこ||||えんりょ||||| ||||||||||||Rücksicht||||| |initially||real|||second daughter||Yoriko||||hesitation||||| ||||||||||||遠慮して||||| Natürlich gab es zu Beginn Momente, in denen ich ein bisschen Rücksicht auf meine Tochter Eiko, die die leibliche Mutter war, nahm. Of course, at the beginning, there was a part of her that hesitated due to a certain consideration for her second daughter, Yoshiko, who is the boy's real mother.

しかし 、 その 依子 が まだ 小学生 の 祐一 を 置いて 、 男 と 姿 を 消して から は 、 これ で 自分 が 祐一 を 育てられる のだ と 、 娘 の 不 貞 を 嘆き ながら も 、 力 の 漲って くる 思い が あった 。 ||よりこ|||しょうがくせい||ゆういち||おいて|おとこ||すがた||けして|||||じぶん||ゆういち||そだて られる|||むすめ||ふ|さだ||なげき|||ちから||みなぎって||おもい|| ||Yoko|||Grundschüler||Yūichi|||Mann|in|||verschwunden|||||||||erziehen||||||Untreue||trauern|||力||strömend|||| but||reliance||still|||Yuuichi||abandoning|||appearance||disappear|||||||||able to raise|||||distrust|faith||lament|||||swelling|||| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||力強く|||| However, since that Yoshiko left the elementary school student Yuichi and vanished with a man, there was a feeling of empowerment that came from the thought that I could raise Yuichi, even while lamenting my daughter's infidelity. 房枝 は 、 五十 歳 に なろう と して いた 。 ふさえ||ごじゅう|さい||||| |||||||war| |||||about to become||| Masae was about to turn fifty.

男 に 捨て られた 依子 に 連れ られて 、 この 家 に やってきた とき 、 祐一 は すでに 母親 を 信じて いない ように 見えた 。 おとこ||すて||よりこ||つれ|||いえ||||ゆういち|||ははおや||しんじて|||みえた ||werfen|||||||||||||schon|||glauben||| ||abandoned|was abandoned|Yoriko||brought|abandoned by||||||||already|||trusted||| When Yuichi came to this house with Yoshiko, who had been abandoned by a man, he already seemed not to trust his mother. 口 で は 、「 お母さん 、 お母さん 」 と 甘えて み せる のだ が 、 その 目 は もう 依子 を 見て い なかった 。 くち|||お かあさん|お かあさん||あまえて||||||め|||よりこ||みて|| ||||||sich anlehnen||||||||||||| ||||||acting spoiled||||||||||||| 当時 、 依子 の 目 を 盗んで 、 房枝 は 孫 の 祐一 に こっそり と 昔 の 写真 を 見せ 、「 お母さん より 、 おばあ ちゃん の ほう が 美人 やろ が ? とうじ|よりこ||め||ぬすんで|ふさえ||まご||ゆういち||||むかし||しゃしん||みせ|お かあさん|||||||びじん|| |||||gestohlen|||||||||||||||||||||schöne Frau|| at that time|||||stole|||||||secretly||old||||||||||||beautiful woman|| At that time, secretly from Eiko, Hosei quietly showed her grandchild Yuichi an old photograph and asked half-jokingly, 'Isn't your grandmother more beautiful than your mother?' 」 と 冗談 半分 に 訊 いた こと が ある 。 |じょうだん|はんぶん||じん|||| |joke|half|locative particle|asked|||| There was a time when I asked that.

自分 で は 冗談 の つもり だった のだ が 、 埃 を 被った 結婚 式 の アルバム を 押し入れ から 取り出す とき 、 どこ か 緊張 して いる 自分 に 気づいて も いた 。 じぶん|||じょうだん||||||ほこり||おおった|けっこん|しき||あるばむ||おしいれ||とりだす||||きんちょう|||じぶん||きづいて|| |||||||||Staub||getragen||||Album||aus dem Schrank||||||nervös||||||auch| |||joke||intention||||||was covered||||album||closet||||||nervous||||||| |||||||||||被っていた||||||||||||||||||| Ich hatte zwar die Absicht, einen Witz zu machen, aber als ich das mit Staub bedeckte Hochzeitsalbum aus dem Schrank nahm, bemerkte ich auch, dass ich irgendwo angespannt war. Although I intended it as a joke, when I took out the dust-covered wedding album from the closet, I realized I was somewhat nervous.

祐一 は 差し出さ れた 写真 を 見て 、 しばらく 黙り 込んで いた 。 ゆういち||さしで さ||しゃしん||みて||だまり|こんで| ||sichere|||||||| ||handed|was presented||||for a while||| Yuichi schaute auf das angebotene Foto und schwieg eine Weile. Yuichi looked at the photo that was handed to him and fell silent for a while.

その 小さな 後 頭部 を 見下ろして いる うち に 、 自分 が とんでもない こと を して いる ような 気 が とつぜん して きた 。 |ちいさな|あと|とうぶ||みおろして||||じぶん||||||||き|||| ||||||||||||Sache||||||||| |||back of the head||looking down at||||||||||||||suddenly|| |||||||||||驚くべき|||||||||| Während ich auf den kleinen Hinterkopf herabblickte, hatte ich plötzlich das Gefühl, etwas ungehöriges zu tun. As he looked down at the small back of the head, he suddenly felt as if he was doing something outrageous.

房枝 は 思わず アルバム を 閉じ 、「 おばあ ちゃん が 美人 な もんか ね 、 あー 、 恥ずかし 、 恥ずかし 」 と 年 甲斐 も なく 顔 を 赤らめた 。 ふさえ||おもわず|あるばむ||とじ||||びじん|||||はずかし|はずかし||とし|かい|||かお||あからめた ||||||||||||||||||年齢|||||errötete ||unintentionally|album||closed||||||after all|||||||age|||||turned red Fusae klappte das Album unbeabsichtigt zu, errötete unkontrolliert und sagte: "Ich frage mich, ob Großmutter schön ist, ah, peinlich, peinlich. Moeha instinctively closed the album and said, 'Isn't grandma a beauty? Ah, how embarrassing, how embarrassing,' blushing despite her age.

初めて 入院 した とき に 買った 合 革 の バッグ だった が 、 どうせ 一 度 使う だけ だろう と 安物 を 選んだ のに 、 入 退院 の 繰り返し で 、 今では 縫い目 まで 綻び 始めて いる 。 はじめて|にゅういん||||かった|ごう|かわ||ばっぐ||||ひと|たび|つかう||||やすもの||えらんだ||はい|たいいん||くりかえし||いまでは|ぬいめ||ほころび|はじめて| zum ersten Mal|||||||||||||||||||Billigware||gewählt||Ein||||||Nähte||aufreißen|| ||||||synthetic||||||anyway|||||||||||hospitalization|discharge||repeatedly|||stitch||started to come apart|| |||||||||||||||||||||||||||||||ほころび|| Ich habe diese Kunstledertasche gekauft, als ich zum ersten Mal im Krankenhaus war, aber ich habe eine billige Tasche gewählt, weil ich dachte, dass ich sie nur einmal benutzen würde, und jetzt fangen sogar die Nähte an, sich aufzulösen, weil ich so oft im Krankenhaus ein- und ausgegangen bin. It was a synthetic bag that I bought when I was hospitalized for the first time, but since I thought I would only use it once, I chose a cheap one. However, after going through repeated hospital admissions and discharges, it has now started to fray even at the seams.

「 お茶 やら 、 ふり かけ は 、 明日 、 私 が 持っていく けん 」 おちゃ|||||あした|わたくし||もっていく| |||||morgen|ich||mitbringen| |and other things||sprinkle|||||going to bring| I'll bring tea and furikake tomorrow.

口 の 中 が 渇く らしく 、 音 を 立てて 唾 を 呑み込んで いる 勝治 に 、 房枝 は 声 を かけた 。 くち||なか||かわく||おと||たてて|つば||のみこんで||かつじ||ふさえ||こえ|| Mund||||trocken sein|||||Speichel|partikel für das direkte Objekt|schluckt|||||||| ||||thirsty|it seems||||saliva|(object marker)|swallow||||||||seemed to Seeing Katsuji swallowing his saliva loudly, seemingly thirsty, Fusaeda called out to him.

「 祐一 は もう メシ 食 うた と か ? ゆういち|||めし|しょく||| |||Essen||singen|| |||meal|||| 時間 を かけて 寝返り を 打った 勝治 が 、 這う ように 布団 を 出て 、 房枝 が 運んで きた 夕食 の 盆 へ 近づいて いく 。 じかん|||ねがえり||うった|かつじ||はう||ふとん||でて|ふさえ||はこんで||ゆうしょく||ぼん||ちかづいて| |||Umdrehen||schlug|||kriechen|||||||||||Tablett||| ||spent|rolling over|||||crawl||futon|||Fusae||brought||||tray||| |||||||||||||||||||トレイ||| Katsuji, having taken his time to turn over in bed, crawled out of the futon and approached the tray of dinner that Fusae had brought.

「 ブリ の 刺身 、 食べる なら 持ってくる よ 」 ぶり||さしみ|たべる||もってくる| ||Sashimi|||| ||sliced raw fish|||| "If you want to eat the yellowtail sashimi, I'll bring it to you."

野菜 の 煮物 と おかゆ だけ の 食事 に 、 勝治 が ため息 を ついた ので 、 房枝 は 慌てて そう 言った 。 やさい||にもの|||||しょくじ||かつじ||ためいき||||ふさえ||あわてて||いった Gemüse||Eintopf||Reisbrei|||||||Seufzer||||||eilig|| ||simmered dish||rice porridge|||||||sigh||let out||Kazue||in a hurry|| ||||rice porridge||||||||||||||| Als Katsuji bei der Mahlzeit aus gekochtem Gemüse und Haferbrei seufzte, sagte Fusae eilig. Katsuji sighed at the meal consisting only of boiled vegetables and rice porridge, so Fusae hurriedly said that.

「 刺身 は いら ん 。 さしみ||| sliced raw fish||unnecessary| I don't need sashimi. それ より 病院 の 看護 婦 たち に 、 ちょっと 渡し とけよ 」 ||びょういん||かんご|ふ||||わたし| ||||Pflege|||||übergeben|übergeben ||||nurses|nurse||||hand|hand it over Besser noch, du gibst sie den Krankenschwestern im Krankenhaus." Instead, just give a little to the nurses at the hospital.

勝治 が かすかに 震える 手 で 箸 を 握る 。 かつじ|||ふるえる|て||はし||にぎる ||schwach|zittert|||Stäbchen||greifen ||slightly|trembling|||chopsticks||held Katsuji grips his chopsticks with slightly trembling hands.

「 渡し と けって 、 何 を ? わたし|||なん| Überquerung||verlassen|| ||by the way|| What are you saying about the crossing? 「 何って 、 金 に 決 まっとる やろ 」 「 金 ? なん って|きむ||けっ|まっ とる||きむ |||entschieden|entscheidet|| what|||decision|decided|| What do you mean, it's obviously about money. また ぁ 、 そげ ん こと 言い出して 、 今どき 、 そんな もん 受け取って くれる 看護 婦 さん が おる もん ね 」 |||||いいだして|いまどき|||うけとって||かんご|ふ||||| ||solche||||heutzutage||||||||||| |ah|nonsense|||started to say|these days|||accepted|will accept|nurse|nurse||||| ||そんな||||||||||||||| Jetzt fängst du schon wieder an so zu reden, welche Krankenschwester würde so etwas heutzutage noch akzeptieren?" Come on, saying things like that, in this day and age, there are nurses who would accept such things.

いつも の ように 房枝 は 撥ねつけ ながら 、 こういう ところ が 、 勝治 と いう か 、 男 の 悪い ところ だ と ほとほと 嫌に なる 。 |||ふさえ||はねつけ|||||かつじ||||おとこ||わるい|||||いやに| |||||abweisen|||||||||||schlechte||||ganz schön|| |||||brushed off||like this|||||||||||||completely|displeasing| |||||はねつけ||||||||||||||||| As always, while Fusaeda brushes him off, I really dislike how this part of men, like Katsuji, is such a bad thing.

体裁 を 気 に する の は いい が 、 その ため の 金 が 空 から 降って くる と でも 思って いる のだ 。 ていさい||き||||||||||きむ||から||ふって||||おもって|| Äußeres|||||||||||||||||||||| appearance||||||||||||||out of the blue||||||||it is 体裁|||||||||||||||||||||| It's fine to care about appearances, but do you really think money for that just falls from the sky?

「 今どき 、 そんな もん もらったって サービス なんて よう なら ん と よ 。 いまどき|||もらった って|さーびす|||||| |||bekommen|||Art|||nicht| |||received||||||| Heutzutage, selbst wenn man so etwas bekommt, kann man damit keinen Service erwarten. These days, even if you received something like that, it's not really going to lead to any service or anything. 立派な 仕事 し とる のに 、 そんな もん もらったら 、 逆に バカに さ れた ように 思う に 決 まっとるたい ね 」 房枝 は そこ まで 言う と 、「 ヨイショ 」 と 声 を かけて 立ち上がった 。 りっぱな|しごと|||||||ぎゃくに|ばかに||||おもう||けっ|まっ とる たい||ふさえ||||いう||||こえ|||たちあがった hervorragend||||||||||||||||sein||||||||Juchhu||||| admirable|||||||received||made a fool of||||||of course|definitely||||||||heave ho||||| Obwohl ich eine hervorragende Arbeit mache, würde ich mich, wenn ich so etwas bekomme, ganz sicher wie ein Dummkopf fühlen. Even though I'm doing a great job, if I were to receive something like that, I would surely feel like I'm being looked down upon," after saying that, Hōe stood up and called out, "Hey there!" 最近 、 注意 し ない と 、 立ち上がる とき に 膝 に 痛み が 走る 。 さいきん|ちゅうい||||たちあがる|||ひざ||いたみ||はしる |||||to stand up|||knee||pain||runs through In letzter Zeit, wenn ich nicht aufpasse, spüre ich beim Aufstehen ein Ziehen im Knie. Recently, if I'm not careful, a pain shoots through my knees when I get up.

背中 を 丸めて おかゆ を 掻き 込む 勝治 を 、 房枝 は 眺めた 。 せなか||まるめて|||かき|こむ|かつじ||ふさえ||ながめた ||rund machen||||geben||||| ||rounded|||mixed|scooping up||||| Hōe watched Katsuji as he hunched over and scooped up his porridge.

その 背中 に 、 一昨年 夫 を 亡くした 岡崎 の ばあさん の 声 が 重なる 。 |せなか||おととし|おっと||なくした|おかざき||||こえ||かさなる |||vorletztes Jahr|Ehemann|||Okazaki||Oma||||überlagern |||the year before last|||passed away|||||||overlap Auf ihrem Rücken überschneidet sich die Stimme der alten Dame aus Okazaki, die vor zwei Jahren ihren Mann verloren hat. On that back, the voice of an old woman from Okazaki who lost her husband two years ago overlaps.

「 二 月 に 一 回 、 年金 が 振り込ま れる たんび に 、『 ああ 、 あの 人 は もう 死んだ と や ねぇ 』って 思わさ れる よ 」 最初 、 房枝 は この 言葉 を 聞いて 、 ばあさん も ばあさん なり に 、 旦那 を 愛して いた のだろう と 思って いた 。 ふた|つき||ひと|かい|ねんきん||ふりこま||||||じん|||しんだ|||||おもわさ|||さいしょ|ふさえ|||ことば||きいて||||||だんな||あいして||||おもって| |||||||überwiesen||||||||||||||思わさ(1)|||||||||||||||||||||| |||||pension||transferred||each time||ah||||||||||made to think|||beginning||||||||||||||loved||||| Jeden Monat im Februar, wenn die Rente überwiesen wird, werde ich immer daran erinnert: 'Ach, diese Person ist ja schon gestorben.' Zuerst dachte Fusaeda, dass die alte Dame ihren Mann auf ihre Weise geliebt hat. "Every time my pension is deposited once a month in February, I can't help but think, 'Ah, that person is already dead.'" At first, Fusae thought that the old woman, in her own way, must have loved her husband. ただ 、 勝治 が からだ を 壊し 、 日に日に 衰えて いく 姿 を 見る に つけ 、 この 言葉 が まったく 違った 意味 を 持って いた こと に 気 が ついた 。 |かつじ||||こわし|ひにひに|おとろえて||すがた||みる||||ことば|||ちがった|いみ||もって||||き|| |||||zerstören|von Tag zu Tag||||||||||||||||||||| |||||breaking|day by day|weakening||||||||||||||||fact|||| |||||||衰えていく|||||||||||||||||||| Doch als ich sah, wie Katsuharu seinen Körper ruinierte und Tag für Tag schwächer wurde, wurde mir klar, dass diese Worte eine ganz andere Bedeutung hatten. However, as she watched Katsuji deteriorate day by day, she realized that this statement held a completely different meaning. 夫婦 の どちら か が 亡くなれば 、 生活 費 も また 半分 なくなる と いう こと な のだ 。 ふうふ|||||なくなれば|せいかつ|ひ|||はんぶん|||||| |||||stirbt||||||||||| |||||passes away||||||||||| Wenn einer der Ehepartner stirbt, bedeutet das, dass auch die Lebenshaltungskosten um die Hälfte sinken. If either spouse passes away, it means that the living expenses will also be cut in half.

風呂 上がり の 祐一 が 椅子 に あぐら を かいて 、 ごはん を 掻き 込んで いた 。 ふろ|あがり||ゆういち||いす|||||||かき|こんで| |||||chair||cross-legged|||||mix|| |||||||座って||||||| Yuichi saß nach dem Bad im Schneidersitz auf dem Stuhl und schlang das Essen hinunter. After his bath, Yuichi was sitting cross-legged on the chair, scarfing down his meal.

よほど 腹 が 減って いた の か 、 みそ汁 も つが ず に 、 ブリ の 刺身 一 切れ に 対して 、 ごはん を さ さっと 二 、 三 口 、 掻き 込む 。 |はら||へって||||みそしる|||||ぶり||さしみ|ひと|きれ||たいして|||||ふた|みっ|くち|かき|こむ |||||||||つが(1)|||||||||||||||drei||| very|||||||miso soup|also|disappeared|||||||||||||quickly||||| Es scheint, als ob sie sehr hungrig war, denn ohne den Miso-Suppe zu nehmen, schlang sie schnell zwei oder drei Bissen Reis zu einem Stück Sashimi vom Barramundi. Perhaps he was very hungry, as he quickly shoved two or three bites of rice into his mouth without even pouring the miso soup, after just one piece of sashimi of yellowtail.

「 大根 の みそ汁 が ある と よ 」 だいこん||みそしる|||| radish||miso soup|||| "Es gibt eine Miso-Suppe mit Daikon, weißt du?" There is radish miso soup.

房枝 は 声 を かけ ながら 、 ひっくり返して 置か れた まま だった お 椀 に 、 みそ汁 を ついで やった 。 ふさえ||こえ||||ひっくりかえして|おか|||||わん||みそしる||| ||||||umgedreht||||war|das|Schale||||| ||||||turned over|placed|||||bowl||||served| Mit diesen Worten füllte Buaneda die Miso-Suppe in die Schüssel, die immer noch auf dem Kopf lag. Housekeeper called out and poured the miso soup into the bowl that had been turned upside down.

渡せば すぐに 手 に とって 、 熱い ながら も 音 を 立てて 旨 そうに 啜 る 。 わたせば||て|||あつい|||おと||たてて|むね|そう に|せつ| wenn (man) reicht|||||||||||||| if (I) give||||||||sound|||delicious||sipping| |||||||||||美味しそう||| As soon as it was handed over, he took it in his hand and slurped it up with a sound, despite it being hot and looking delicious.

「 ばあちゃん も 一緒に 行った ほう が いい や ろか ? ||いっしょに|おこなった||||| Oma|||||||| grandma|||||||| 房枝 は 椅子 に 座る と 、 顎 に 米粒 を 一 つ つけた 祐一 に 尋ねた 。 ふさえ||いす||すわる||あご||こめつぶ||ひと|||ゆういち||たずねた ||||||||Reiskorn||||||| ||chair||||||grain of rice||||||| ||||||||a grain of rice||||||| Houe sat in the chair and asked Yuichi, who had a grain of rice stuck to his chin.

「 来 ん で いい よ 。 らい|||| You don't have to come. 五 階 の ナースステーション に 連れて け ば いい と やろ ? いつ|かい||||つれて||||| |||Pflegezimmer||||||| |||nurse station|||||||right I just have to take you to the nurse's station on the fifth floor, right? 九州 特有 の 甘い 刺身 醤油 に 、 祐一 が ねり わさび を といて いく 。 きゅうしゅう|とくゆう||あまい|さしみ|しょうゆ||ゆういち|||||| |||||||||neue|Wasabi||| Kyushu|unique||||soy sauce||||wasabi|wasabi||diluting| |||||||||練り|wasabi||| Yuichi mixes wasabi into the sweet sashimi soy sauce unique to Kyushu.

「 七 時 から そこ の 公民 館 で 、 また 寄り合い が ある と や もん ね 。 なな|じ||||こうみん|かん|||よりあい|||||| |||||Bürger||||Treffen|||||| |||||community||||gathering|||||| |||||||||集まり|||||| There’s another meeting there at the community center from seven o'clock.

ほら 、 健康 食品 の 説明 会 。 |けんこう|しょくひん||せつめい|かい Look, it's a seminar on health foods. …… いや 、 買う つもり は ない と よ 。 |かう||||| ...... No, I don't intend to buy it. でも 、 ほら 、 話 ば 聞く だけ なら 無料 タダ やけん 」 ||はなし||きく|||むりょう|ただ| |||||||kostenlos|kostenlos| ||||||||free| But, you see, just listening to the story is free.

房枝 は 魔法 瓶 から 急須 に お 湯 を 入れた 。 ふさえ||まほう|びん||きゅうす|||ゆ||いれた |||||Teekanne||||| ||magic|bottle||teapot|||hot water|| |||||teapot||||| Fusaeda poured hot water from the magic bottle into the teapot.

残り が 少なかった らしく 、 二 、 三 度 押す と 、 ゴボゴボ と 嫌な 音 が 立つ 。 のこり||すくなかった||ふた|みっ|たび|おす||||いやな|おと||たつ |||||||||gurgeln||||| |||||||||muffled||unpleasant||| |||||||||bubbling sound||||| It seemed that there was little left, and with two or three pushes, it made an unpleasant gurgling sound.

湯 を 足そう と 椅子 から 立ち上がった とき だった 。 ゆ||たそう||いす||たちあがった|| ||hinzufügen||Stuhl|||| ||about to||chair||||

たった今 まで 旨 そうに 刺身 や すり身 揚げ を 口 に 入れて いた 祐一 が 、 とつぜん 、「 うっ」 と 唸って 口 を 押さえた 。 たったいま||むね|そう に|さしみ||すりみ|あげ||くち||いれて||ゆういち|||う っ||うなって|くち||おさえた |||||||frittieren|||||||||||stöhnen||| just now|||||||fried||||||||suddenly|ugh||groaned|||held down ||||||||||||||||||うめき声||| Just now, Yuichi, who had been putting delicious-looking sashimi and deep-fried fish paste into his mouth, suddenly groaned 'Ugh' and pressed his mouth. 「 どうした ? What happened What's wrong? 房枝 は 慌てて 祐一 の 背後 に 回る と 、 その 広い 背中 を 強く 叩いた 。 ふさえ||あわてて|ゆういち||はいご||まわる|||ひろい|せなか||つよく|たたいた ||in a hurry|||back||turned||||||strongly| Fumie hurriedly went behind Yuichi and firmly slapped his wide back.

何 か 喉 に 詰まら せた と 思った のだ が 、 房枝 を 押しのける ように 立ち上がった 祐一 が 、 口 を 押さえた まま 便所 へ 駆け込んで いく 。 なん||のど||つまら|||おもった|||ふさえ||おしのける||たちあがった|ゆういち||くち||おさえた||べんじょ||かけこんで| ||||stecken geblieben||||||||schubsen|||||||||||| ||throat||stuck||||||||push aside|||||||||toilet||| ||||||||||||押しのける|||||||||||| I thought something was stuck in my throat, but Yuichi, standing up as if to push Rika aside, dashed into the bathroom while covering his mouth.

房枝 は 呆 気 に とられて 立ちすくんだ 。 ふさえ||ぼけ|き||とら れて|たちすくんだ ||verwirrt||||blieb stehen ||dumbfounded|||captivated|stood still ||||||standing frozen Rika stood frozen in shock. 便所 から すぐに 嘔吐 する 声 が 聞こえた 。 べんじょ|||おうと||こえ||きこえた |||Erbrechen|||| |||vomiting|||| |||vomiting|||| A voice of retching could be heard immediately from the bathroom.

房枝 は 慌てて 食卓 に 並んだ 刺身 や すり身 揚げ の に おい を 嗅いだ が 、 もちろん 腐って いる もの など ない 。 ふさえ||あわてて|しょくたく||ならんだ|さしみ||すりみ|あげ|||||かいだ|||くさって|||| |||||||||||||||||verderben|||| Kazue|||dining table|locative particle||||||||||smelled||of course|rotten||||not Houe sniffed the smell of sashimi and fried fish paste lined up on the dining table, but of course, there was nothing rotten.

しばらく 苦し そうに え ず いた あと 、 顔 を 真っ青に した 祐一 が 出て きた 。 |にがし|そう に|||||かお||まっさおに||ゆういち||でて| |||||||||blass||||| |||||||||pale||||came out| After a while of seeming to suffer and gagging, Yuichi came out with a pale face.

「 どうした と ね ? "What's wrong?" 房枝 が 顔 を 覗き込もう と する と 、 その 肩 を 押しのけた 祐一 が 、「 なんでもない 。 ふさえ||かお||のぞきこもう|||||かた||おしのけた|ゆういち|| ||||reinschauen|||||||geschubst|||nichts Kazue|||(object marker)|tried to look||to do|||shoulder||pushed|||nothing special |||||||||||押しのけた||| When Fuae tried to peek into his face, Yuichi pushed her shoulder away and said, 'It's nothing.' …… ちょっと 喉 に 詰まった 」 と 見え透いた 言い訳 を する 。 |のど||つまった||みえすいた|いいわけ|| |||||durchsichtig||| a little|throat||||transparent||| |||||見え透いた||| ... I just choked a little,' he made a transparent excuse.

「 喉 に つまったって 、 あんた ……」 房枝 は 床 に 落ちた 箸 を 拾った 。 のど||つまった って||ふさえ||とこ||おちた|はし||ひろった ||stecken geblieben|||||||Stäbchen|| ||choked||||floor|||chopsticks||picked up 'Choked? You...' 目の前 に 祐一 の 脚 が あった 。 めのまえ||ゆういち||あし|| ||||leg|| 風呂 から 出た ばかりで 、 寒い わけで も ない だろう に 、 その 脚 が 小刻みに 震えて いた ふろ||でた||さむい|||||||あし||こきざみに|ふるえて| ||||||||||||||zitterte| |||||||||||||in quick succession|| |||||||||||||小刻みに|| Having just come out of the bath, it wasn't as if it were cold, yet her legs were shaking slightly.