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三姉妹探偵団 3 珠美・初恋篇, 三姉妹探偵団 3 Chapter 02

三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 02

2 勇一

「── 何 だ 、 狩り 出さ れた の か 」

検死 官 が 、 国友 の 顔 を 見て 、 ちょっと 笑った 。

「 え ?

国友 の 方 は 訳 が 分 ら ない 。

「 確か 出張 中 だった んだ ろ ?

さっき 、 三崎 が そう 言って た 」

三崎 刑事 は 、 国友 の 「 親分 」 に 当る 。

いつも 、 どこ か 素 っと ぼけた 雰囲気 の 五十男 である 。

「 三崎 さん が 来て た んです か ?

「 ああ 。

お前 さん が 後 で来る と 言って 、 帰った よ 」

「 ちえっ 。

僕 に は 、 今 手 が 離せ なくて 行け ない と か 伝言 し といて ……」

と 、 国友 は ため息 を ついた 。

「 若くて 独り じゃ 、 こき使って 下さい と 言って る ような もん だ から な 」

「 ま 、 いい です 」

国友 は 肩 を すくめた 。

「── どう です 、 被害 者 の 方 は ? 「 大分 、 派手に 争った ようだ な 」

と 、 検死 官 は 言った が 、 その 点 は 、 現場 と なった 教室 を 見回せば 一目 で 分 った 。

── 机 が あちこち 、 倒れたり 引っくり返ったり して いた から だ 。

国友 は 、 ちょっと 身震い した 。

もちろん 、 空っぽの 教室 と いう の は 寒々 と して いる し 、 実際 、 こんな 夜中 に は 寒い もの である 。

そして 、 床 に 女 の 死体 が ある 、 と なれば 、 なおさら の こと ……。

四十 代 ── たぶん 四十二 、 三 か な 、 と 国友 は 思った 。

ちょっと 小柄で 太り 気味 。

まあ 、 この 年齢 の 、 標準 的 体型 と 言える だろう 。

「 PTA の 会合 で も あった の か な 」

と 、 検死 官 が 言った 。

「 まさか 」

しかし 、 そんな 格好で は あった 。

── ちょっと その辺 に 出かける 、 と いう スタイル で は ない 。 やや 地味な スーツ と 、 ハイヒール 。

もちろん ハイヒール の 方 は 、 争って いて 脱げて しまって いた 。

「 死因 は ?

と 、 国友 は 訊 いた 。

「 後 頭部 を 殴ら れて いる 。

かなり の 力 だ な 。 それ も くり返し やられて いる んだ 」

「 凶器 は どんな ──」

と 言い かけて 、 国友 は 言葉 を 切った 。

「 あれ か ……」

固い 木 の 椅子 。

いや 、 正確に は 、 板 と スチール パイプ を 組み合せた 、 生徒 用 の 椅子 の 一 つ が 、 壊れて 転 って いる 。 板 が 割れ 、 裂けて 、 パイプ が 曲って しまって いた 。

「── 指紋 は 出そう か ?

と 、 国友 は 、 鑑識 の 人間 に 声 を かけた 。

「 今や って ます が ね 。

── ちょっと 見た ところ で は 拭き取って ある みたいだ な 」

「 よく 見てくれ 」

「 OK 」

国友 は 、 被害 者 の もの らしい ハンドバッグ を 拾い上げた 。

「 中 の もの は ?

「 そこ です 」

広げた 布 の 上 に 、 手帳 や コンパクト など が 並べて ある 。

口紅 、 メガネ も 入って いた 。 レンズ も 割れて い ない 。 コンパクト の 鏡 も だ 。

「 これ は ?

国友 が 、 クシャクシャ に なった 紙 を 拾い上げる 。

「 その バッグ の 中 に 入って た んです 」

と 、 若い 刑事 が 言った 。

広げて みる 。

── 国友 は 、 ちょっと 眉 を 寄せた 。

試験 の 問題 らしい 。

手書き の 、 数学 の 問題 である 。 しかし 、 正式の 問題 用紙 で ない の は 、 名前 や クラス 名 を 書く 欄 が ない の を 見て も 分 る 。 それ に 、 これ は コピー だ 。

「 問題 の …… コピー か 」

と 、 国友 は 呟いた 。

佐々 本 珠美 が 、 鞄 の 中 へ 知ら ない 内 に 入れ られて いた の も 、 何やら テスト の 問題 を コピー した もの だった ……。

まさか 。

── おい 、 やめて くれよ 。

また 、 あの 三 姉妹 が 、 この 殺人 事件 に 巻き込ま れる んじゃ ない だろう な !

それ だけ は 避け なきゃ 。

しかも 、 巻き込ま れる の を 喜んで る 「 変り 者 」 が いる んだ から !

「── 家族 に 連絡 は ?

と 、 国友 は 訊 いた 。

「 手帳 の 電話 番号 へ 、 かけて み ました が 、 誰 も 出 ませ ん 」

と 、 若い 刑事 が 言った 。

若 いった って 、 国友 も 若い のだ が 、 一応 、 後輩 の いる 身 である 。

「 誰 か 、 家 へ 巡査 を 一 人 やって くれ 」

「 分 り ました 」

手帳 に は 、〈 有田 信子 〉 と あった 。

住所 は ここ に 近い 。 国友 は 、 そば に いた 巡査 へ 、

「 発見 者 は ?

と 訊 いた 。

「 向 う に 待た せて あり ます が ……」

と 、 巡査 が ためらう 。

「 どうかした の か ?

「 は あ 。

── さっき から うるさくて 」

「 うるさい ?

国友 は 、 ちょっと いぶかし げ に 言った 。

「 うるさい って 、 どういう こと だ ? ── 行って みる と 、 すぐに 分 った 。

発見 した の は 、 ここ の 生徒 だった のである 。

現場 から 少し 離れた 教室 に 入って みる と 、 やけに 背 の 高い 、 いかにも ひ弱な 感じ の 男の子 が 、 長い 足 を 持て余し 気味に して 、 椅子 の 一 つ に 腰かけて いる 。

少し 離れて 、 こちら は 、 ちょっと 小 太り の 女の子 。

髪 が 長い 、 丸顔 の 子 だ が 、 大分 ふてくされて いる 様子 である 。

「 君 ら が 、 あの 女 の 人 が 死んで る の を 見付けた んだ ね 」

と 、 国友 は 言った 。

だが 、 質問 に は 答え ず 、

「 おじさん 、 刑事 ?

と 、 女の子 の 方 が 訊 いて きた 。

国友 と して は 、「 おじさん 」 と 呼ば れる の に まだ 不慣れな ため 、 ちょっと 引きつった ような 笑顔 で 、

「 まあ ね 」

と 答える しか なかった 。

「 早く 帰して よ 。

私 たち 、 何も した わけじゃ ない んだ もん 」

「 うん 、 そりゃ そう だろう が ね 。

しかし 、 これ は 殺人 事件 な んだ 。 君 ら が 死体 を 見付けた とき の 状況 を はっきり 聞いて おき たい 。 犯人 を 捕まえる 手がかり に なる かも しれ ない から ね 」

国友 と して は 、 極力 優しく 、 穏やかに 説明 を した のである 。

「 関係ない もん 」

と 、 女の子 は 口 を 尖ら せた 。

「 ただ 見付けた だけ よ 。 それ しか 言う こと ない 」

「 そりゃ まあ 、 そう かも しれ ない な 」

内心 ムカッ と 来た が 、 そこ は ぐっと 押えて 、

「 しかし ね 、 たとえば 君 ら が 何 時 何 分 ごろ ここ に 来た と か 、 それ だけ だって 、 犯行 時間 を 決める 手がかり に なる んだ よ 。

もし 、 誰 か を 見かけた と か ──」

「 だ から 、 よそう って 言った じゃ ない !

女の子 が 、 いきなり 、 男の子 を つついて 、

「 後 が 面倒だ から 、 って 言った のに 。

あんた が やっぱり 知らせた 方 が いい 、 と か 言う から ……」

「 だって ──」

と 、 男の子 の 方 は オドオド し ながら 、「 もし 黙って て 後 で 分 ったら 、 まずい と 思って さあ 」

「 放っときゃ 、 分 り ゃ し なかった の よ 。

それ を ご ていねいに 、 訊 かれる 通り 、 名前 まで 電話 で しゃべっちゃ って さ 。 ── 馬鹿じゃ ない の 、 あんた ? 「 でも さあ ……」

と 、 男の子 の 方 は 不服 顔 。

「 これ で 、 あんた と 逢 引き して た の まで 、 バレ ちゃ う じゃ ない の 。

退学 に なって も 知ら ない から ね 」

「 お前 、 大丈夫じゃ ない か 。

親父 さん に 言えば ──」

「 私 は ね 。

でも 、 あんた の 方 まで 手 が 回 ん ない よ 」

「 そりゃ ない よ !

── なあ 、 怒 んな よ 」

「 お腹 空いて 、 寒くて 、 おまけに あんた みたいな 能 なし と デート して た の か と 思う と 、 怒ら ず に い られ ない わ よ 」

と 、 やり合って いる ところ へ ──。

「 いい加減に しろ !

国友 の 怒り が 爆発 した 。

「 人 が 一 人 、 殺さ れた んだ ぞ ! それ を 、 放っとけば 良かった と は 何 だ ! 男の子 の 方 は 青く なって 小さく なって いる 。

しかし 、 女の子 の 方 は 、 逆に 顔 を 真 赤 に して 立ち上る と 、 国友 に かみついて 来た 。

「 何 よ !

あんた なんか に 怒鳴ら れる 覚え 、 ない わ よ ! 金切り声 と いう やつ が 、 大体 国友 は 好きで ない 。

加えて 、 小 生意気な 子供 と いう やつ も 好きで ない 。 加えて 、 中学生 と いえば 、 まだ 純情 と いう 「 神話 」 が 、 国友 の 中 に 生きて いる 。 加えて ── いや 、 もう これ だけ あれば 充分だった 。

刑事 と いう 立場 を 一瞬 忘れて 、 その 女の子 を ひっぱ たく に は ……。

バン 、 と いう 音 が 、 空っぽの 教室 に 反響 して 、 びっくり する ほど 大きく 聞こえた 。

確かに 、 誰 も が びっくり した 。

男の子 の 方 は 、 まるで 自分 が ひっぱ たか れた みたいに 、 キャッ と 悲鳴 を 上げて 飛び上った し 、 そば に 立って いた 巡査 は 啞然 と して 、 ポカン と 口 を 開けた まま 、 国友 を 見つめて いた 。

叩か れた 女の子 は 、 二 、 三 歩 よろけて 、 踏み止まった が 、 痛み より は 、 驚き の 方 が 大きかった ようで 、 はっきり と 手 の あと が 頰 に ついて いる の を 、 片手 で 隠す ように し ながら 、 目 を 大きく 見開いて いた 。

しかし ── 一 番 びっくり した の は 国友 自身 だった かも しれ ない 。

今 の は ── 俺 な の か ?

俺 が やった の か 、 と 自分 へ 問いかけて いた 。

「 いや …… すま ん 」

ほとんど 無意識に 口 を 開いて いた 。

「 殴る つもりじゃ …… なかった んだ 」

そこ へ 、 全く 別の 声 が 割り込んで 来た 。

「 何て こと だ !

太い 男 の 声 に 、 国友 は びっくり して 振り返った 。

── こんな 夜中 だ と いう のに 、 きちんと ダブル の 背広 を 着込み 、 ネクタイ を しめた 五十 がらみ の 、 堂々と した 体格 の 男 が 、 目 を むいて 、「 暴力 を 振った な ! と 、 国友 を にらみつけて いる 。

「 パパ !

女の子 が 、 その 男 へ 向 って 駆け寄る と 、 胸 に 飛び込んで 、 ワーッ と 泣き出した 。

「── 私 は 杉下 だ 」

と 、 その 男 は 、 女の子 を 抱き 寄せ ながら 、

「 区 の 教育 委員 を して いる 。

君 は ? 「 M 署 の ── 国友 です 」

「 国友 か 。

憶 えて おこう 。 私 は 弁護 士 で 、 警察 に も 大勢 知り合い が いる 。 十五 歳 の 女の子 に 刑事 が 暴力 を 振った と あって は 見 過 す わけに は いかん 」

国友 と して は 、 反論 の 余地 も ある はずだ が 、 今 は 、 自分 でも 女の子 を 殴った と いう ショック で 、 呆然と して いた 。

「 娘 の ルミ に 訊 く こと が あれば 、 私 が 立ち合う 。

ともかく 、 今日 は 話 の できる 状態 で は ない 。 引き取ら せて もらう 。 構わ んだろう ね ? 国友 は 、 黙って 肯 いた 。

「── さあ 、 行こう 」

杉下 は 、 ルミ と いう 娘 の 肩 を 抱いて 、 促した 。

── 教室 を 出て 行こう と して 、 ルミ が 、 ふと 振り向いた 。

涙 に 濡れた 目 で 、 ちょっと 国友 を 見つめる と 、 無表情の まま 、 父親 と 共に 姿 を 消した 。

「 あの ……」

と 、 男の子 の 方 が 、 恐る恐る 言った 。

「 僕 も 帰って いい ? 「 ん ?

── 何 か 言った か ? と 国友 が 振り向く 。

「 あの ──」

と 、 男の子 が 言い かけた とき 、 廊下 に ドタドタ と 凄い 足音 が した 。

「 正明 ちゃん !

けたたましい ソプラノ ── いや 、 やや 低 目 の メゾ ・ ソプラノ ぐらい か ── の 声 が 、 教室 の 中 を 駆け回った 。

胸 、 胴 、 腰 ── ほとんど 同 サイズ と いう 「 豊かな 」 体格 の 女性 が 、 飛び込む ように 入って 来る と 、

「 まあ 、 正明 ちゃん !

と 、 例の 「 かよわい 男の子 」 へ と 駆け寄った のである 。

国友 は 我 に 返って 、

「 あの ── お 母さん です か ?

と 、 声 を かけた 。

「 あなた は 誰 ?

「 は ?

「 名前 を 訊 いて る の よ !

「 M 署 の ── 国友 です が 」

「 国友 さん ね 。

私 、 母親 と して 、 断固と して 抗議 し ます ! 「 抗議 ?

「 この 寒い 教室 に 、 うち の 子 を 閉じ込めて おく なんて !

正明 は とても デリケートで 、 風邪 を ひき やすい 性質 な んです ! 「 は あ ……」

「 もし 、 これ が 原因 で 熱 を 出し 、 肺炎 に でも なったら 、 その 責任 は どうして くれる んです か !

「 は あ 」

「 私 、 坂口 爽子 です 。

何 か この 子 に お 訊 ね の こと が あれば 、 私 が 『 代って 』 お 答え し ます ! 坂口 爽子 は 、「 代って 」 と いう ところ を 、 あたかも オペラ の アリア の 聞か せ どころ でも あるか の ように 、 高く 張り上げて 言った 。

「 しかし 、 お 子 さん は ── 死体 の 発見 者 でして 、 どうしても 話 を ──」

「 死体 で すって !

と 、 坂口 爽子 は 、 目 を 飛び出さ ん ばかりに 見開いて 、「 この 子 の 繊細な 神経 が 、 どれ だけ 痛めつけ られて いる か 、 お 分 り に なら ない の ?

この上 、 無神経で が さつ な 刑事 の 訊問 など に 会ったら 、 この 子 は 哀れ ノイローゼ に なって しまい ます わ 」

「 しかし ──」

「 帰ら せて いただき ます !

断固たる その 口調 は 、 全く 異論 を さしはさむ 余地 を 残して い なかった 。

「 さ 、 正明 ちゃん 。 行き ま しょ 」

「 怖かった よ 、 ママ ……」

「 そう よ ね 。

可哀そうに 」

母 と 子 は 、 身 を 寄せ合い ながら 、 教室 を 出て 行って しまう 。

国友 は 、 ただ 呆然と して 、 その 場 に 突っ立って いた ……。

その 少年 は 、 いとも 軽々 と 、 雨 樋 を よじ 上って いた 。

よほど 慣れて いる と 見えて 、 もう いい加減 古びて 、 あちこち ガタ が 来て いる 雨 樋 な のに 、 ほとんど きしむ 音 一 つ たて ず に 、 しっかり した 所 へ 手足 を かけて 上って 行く 。

二 階 の 窓 の 高 さ まで 上って 来る と 、 巧みに バランス を 取り ながら 、 窓 の へり へ 足 を かけた 。

窓 の 鍵 は 、 ちゃんと 開けて あった らしい 。

スッ と 窓 が 開いて 、 少年 の 姿 は 、 その 中 へ と 吸い込ま れる ように 消えた 。

「── やった 」

と 、 暗がり の 中 へ 一旦 身 を 沈めた 少年 は 、 得意 げ に 呟いた 。

とたん に 、 パッと 明り が 点いて 、 少年 は 飛び上り そうに なった 。

「 待って た ぞ 」

ドア の 所 に 立って いる の は 、 ずんぐり した 中年 男 で 、 腕組み を して 、 少年 を にらんで いた 。

「── ち ぇっ 。

知って た の か 」

少年 は 舌打ち した 。

「 だったら 、 出る とき に 止めりゃ いい じゃ ない か 」

「 勇一 」

と 、 その 男 が 言った 。

「 仕度 しろ 」

「 分 った よ 」

少年 は 、 ふてくされた 顔 で 、「 地下 室 で 一 日 、 飯 抜き だ ろ 。

いい よ 、 この 格好で 行く から 」

「 そう じゃ ない 。

荷物 を まとめろ 」

「 へえ 。

── 追 ん 出す の かい 、 ここ から ? こっち は 大喜びだ けど 」

「 お前 の お袋 さん が 死んだ 」

少年 は 、 ちょっと 間 を 置いて から 、

「 所長 さん 、 そんな 冗談 、 いくら 何でも ひどい よ 」

と 、 唇 を 歪めて 笑った 。

「 本当だ 」

所長 さん 、 と 呼ば れた 男 は 、 無表情に 言った 。

「 さっき 、 警察 から 連絡 が あった 。

お前 の お袋 さん が 、 誰 か に 殺さ れた そうだ 」

勇一 と いう その 少年 は 、 じっと 立ちつくして いた が 、

「── 噓 じゃ ない んだ な 」

と 、 呟く ように 言った 。

「 早く 仕度 しろ 。

ここ へ 来た とき の 服 を 着て 、 髪 の 毛 も ちゃんと とかし とけ 。 俺 が 車 で 送って やる 」

所長 は 、 部屋 を 出て 行き かけて 、 ちょっと 足 を 止めて 振り向いた 。

「 勇一 。 しっかり しろ よ 」

勇一 は 、 答え なかった 。

── ベッド と 、 机 の 他 に は 、 ほとんど 何も ない 簡素な 部屋 に 一 人 に なる と 、 有田 勇一 は 、 初めて 我 に 返った ように 、 周囲 を 見回した 。

「 母さん ……」

と 、 呟き が 洩 れる 。

「── 畜生 ! ベッド に 腰 を 落とす と 、 勇一 は 、 頭 を 垂れた 。

母さん が 死んだ ……。

殺さ れた って ?

誰 が やった んだ ?

── 畜生 ! 畜生 !

「 おい 」

ドア が 開いて 、 所長 が 顔 を 出す 。

「 大丈夫 か ? 「 うん 」

勇一 は 、 パッと 立ち上る と 、 急いで ジーパン を 脱いだ 。

仕度 、 と いって も 簡単である 。

三 分 と たた ない 内 に 、 勇一 は 、 小さな ボストン バッグ 一 つ を 手 に 、 部屋 を 出て いた 。

所長 は 、 いい加減 くたびれ 切った 背広 を 着て いた 。

勇一 は 、 所長 が それ 以外 の 背広 を 着て いる の を 、 見た こと が なかった 。

── 所長 の 車 も 、 背広 に 劣ら ず 、 古ぼけて いる 。

しかし 、 ともかく 夜道 を 、 歩く より は 速い スピード で 急いで いた ……。

「 親類 は いる の か 」

と 、 運転 し ながら 、 所長 が 言った 。

「 葬式 やって くれる ような 親戚 は い ない よ 」

助手 席 で 、 勇一 は 言った 。

「 そう か 」

所長 は 、 それ きり 黙って 車 を 走ら せて いる 。

「 所長 さん 」

「 うむ 」

「 殺さ れた って ── どうして だい ?

「 知ら ん 。

しかし 、 警察 が そう 言う んだ 」

「 母さん を ── 殺す ような 奴 、 いる の か な 」

「 いい 人 だ から な 、 お前 の お袋 さん は 」

勇一 は 、 ちょっと 目頭 が 熱く なった の を 、 気付か れ ない ように しよう と して 、 わき を 向いた 。

でも 、 たぶん 所長 は 気付いて いた だろう 。 勇一 に も 、 それ は 分 って いた 。

所長 に は 、 たいてい の こと は 分 って しまう のだ 。

母親 の こと を 、「 いい 人だった 」 と 言わ ず に 、「 いい 人 だ から な 」 と 言って くれた の が 、 勇一 に は 嬉しかった 。

「 勇一 」

と 、 所長 が 真 直ぐ 前 を 見た まま 、 言った 。

「 親類 も い ない と なる と 、 お前 が 喪主 だ ぞ 。

しっかり しろ よ 」

「 うん 」

と 、 勇一 は 肯 いた 。

「 分かって る 」

しかし 、 勇一 は 他の こと を 考えて いた 。

母さん を 、 誰 が 殺した んだ 。

── 誰 が 。

窓 の 外 の 闇 は 、 もう すぐ 朝 に なる と いう のに 、 まだ どこまでも 暗かった 。


三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 02 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 3 Chapter 02 Trois sœurs détectives 3 Chapitre 02.

2  勇一 ゆういち

「── 何 だ 、 狩り 出さ れた の か 」 なん||かり|ださ||| "──Why was it hunted?"

検死 官 が 、 国友 の 顔 を 見て 、 ちょっと 笑った 。 けんし|かん||くにとも||かお||みて||わらった

「 え ?

国友 の 方 は 訳 が 分 ら ない 。 くにとも||かた||やく||ぶん||

「 確か 出張 中 だった んだ ろ ? たしか|しゅっちょう|なか|||

さっき 、 三崎 が そう 言って た 」 |みさき|||いって|

三崎 刑事 は 、 国友 の 「 親分 」 に 当る 。 みさき|けいじ||くにとも||おやぶん||あたる

いつも 、 どこ か 素 っと ぼけた 雰囲気 の 五十男 である 。 |||そ|||ふんいき||いそお|

「 三崎 さん が 来て た んです か ? みさき|||きて|||

「 ああ 。

お前 さん が 後 で来る と 言って 、 帰った よ 」 おまえ|||あと|できる||いって|かえった|

「 ちえっ 。

僕 に は 、 今 手 が 離せ なくて 行け ない と か 伝言 し といて ……」 ぼく|||いま|て||はなせ||いけ||||でんごん||

と 、 国友 は ため息 を ついた 。 |くにとも||ためいき||

「 若くて 独り じゃ 、 こき使って 下さい と 言って る ような もん だ から な 」 わかくて|ひとり||こきつかって|ください||いって||||||

「 ま 、 いい です 」

国友 は 肩 を すくめた 。 くにとも||かた||

「── どう です 、 被害 者 の 方 は ? ||ひがい|もの||かた| 「 大分 、 派手に 争った ようだ な 」 だいぶ|はでに|あらそった||

と 、 検死 官 は 言った が 、 その 点 は 、 現場 と なった 教室 を 見回せば 一目 で 分 った 。 |けんし|かん||いった|||てん||げんば|||きょうしつ||みまわせば|いちもく||ぶん|

── 机 が あちこち 、 倒れたり 引っくり返ったり して いた から だ 。 つくえ|||たおれたり|ひっくりかえったり||||

国友 は 、 ちょっと 身震い した 。 くにとも|||みぶるい|

もちろん 、 空っぽの 教室 と いう の は 寒々 と して いる し 、 実際 、 こんな 夜中 に は 寒い もの である 。 |からっぽの|きょうしつ|||||さむざむ|||||じっさい||よなか|||さむい||

そして 、 床 に 女 の 死体 が ある 、 と なれば 、 なおさら の こと ……。 |とこ||おんな||したい|||||||

四十 代 ── たぶん 四十二 、 三 か な 、 と 国友 は 思った 。 しじゅう|だい||しじゅうに|みっ||||くにとも||おもった

ちょっと 小柄で 太り 気味 。 |こがらで|ふとり|きみ

まあ 、 この 年齢 の 、 標準 的 体型 と 言える だろう 。 ||ねんれい||ひょうじゅん|てき|たいけい||いえる|

「 PTA の 会合 で も あった の か な 」 pta||かいごう||||||

と 、 検死 官 が 言った 。 |けんし|かん||いった

「 まさか 」

しかし 、 そんな 格好で は あった 。 ||かっこうで||

── ちょっと その辺 に 出かける 、 と いう スタイル で は ない 。 |そのへん||でかける|||すたいる||| やや 地味な スーツ と 、 ハイヒール 。 |じみな|すーつ||はいひーる

もちろん ハイヒール の 方 は 、 争って いて 脱げて しまって いた 。 |はいひーる||かた||あらそって||ぬげて||

「 死因 は ? しいん|

と 、 国友 は 訊 いた 。 |くにとも||じん|

「 後 頭部 を 殴ら れて いる 。 あと|とうぶ||なぐら||

かなり の 力 だ な 。 ||ちから|| それ も くり返し やられて いる んだ 」 ||くりかえし|||

「 凶器 は どんな ──」 きょうき||

と 言い かけて 、 国友 は 言葉 を 切った 。 |いい||くにとも||ことば||きった

「 あれ か ……」

固い 木 の 椅子 。 かたい|き||いす

いや 、 正確に は 、 板 と スチール パイプ を 組み合せた 、 生徒 用 の 椅子 の 一 つ が 、 壊れて 転 って いる 。 |せいかくに||いた||すちーる|ぱいぷ||くみあわせた|せいと|よう||いす||ひと|||こぼれて|てん|| 板 が 割れ 、 裂けて 、 パイプ が 曲って しまって いた 。 いた||われ|さけて|ぱいぷ||まがって||

「── 指紋 は 出そう か ? しもん||だそう|

と 、 国友 は 、 鑑識 の 人間 に 声 を かけた 。 |くにとも||かんしき||にんげん||こえ||

「 今や って ます が ね 。 いまや||||

── ちょっと 見た ところ で は 拭き取って ある みたいだ な 」 |みた||||ふきとって|||

「 よく 見てくれ 」 |みてくれ

「 OK 」 ok

国友 は 、 被害 者 の もの らしい ハンドバッグ を 拾い上げた 。 くにとも||ひがい|もの||||はんどばっぐ||ひろいあげた

「 中 の もの は ? なか|||

「 そこ です 」

広げた 布 の 上 に 、 手帳 や コンパクト など が 並べて ある 。 ひろげた|ぬの||うえ||てちょう||こんぱくと|||ならべて|

口紅 、 メガネ も 入って いた 。 くちべに|めがね||はいって| レンズ も 割れて い ない 。 れんず||われて|| コンパクト の 鏡 も だ 。 こんぱくと||きよう||

「 これ は ?

国友 が 、 クシャクシャ に なった 紙 を 拾い上げる 。 くにとも||くしゃくしゃ|||かみ||ひろいあげる

「 その バッグ の 中 に 入って た んです 」 |ばっぐ||なか||はいって||

と 、 若い 刑事 が 言った 。 |わかい|けいじ||いった

広げて みる 。 ひろげて|

── 国友 は 、 ちょっと 眉 を 寄せた 。 くにとも|||まゆ||よせた

試験 の 問題 らしい 。 しけん||もんだい|

手書き の 、 数学 の 問題 である 。 てがき||すうがく||もんだい| しかし 、 正式の 問題 用紙 で ない の は 、 名前 や クラス 名 を 書く 欄 が ない の を 見て も 分 る 。 |せいしきの|もんだい|ようし|||||なまえ||くらす|な||かく|らん|||||みて||ぶん| それ に 、 これ は コピー だ 。 ||||こぴー|

「 問題 の …… コピー か 」 もんだい||こぴー|

と 、 国友 は 呟いた 。 |くにとも||つぶやいた

佐々 本 珠美 が 、 鞄 の 中 へ 知ら ない 内 に 入れ られて いた の も 、 何やら テスト の 問題 を コピー した もの だった ……。 ささ|ほん|たまみ||かばん||なか||しら||うち||いれ|||||なにやら|てすと||もんだい||こぴー|||

まさか 。

── おい 、 やめて くれよ 。

また 、 あの 三 姉妹 が 、 この 殺人 事件 に 巻き込ま れる んじゃ ない だろう な ! ||みっ|しまい|||さつじん|じけん||まきこま|||||

それ だけ は 避け なきゃ 。 |||さけ|

しかも 、 巻き込ま れる の を 喜んで る 「 変り 者 」 が いる んだ から ! |まきこま||||よろこんで||かわり|もの||||

「── 家族 に 連絡 は ? かぞく||れんらく|

と 、 国友 は 訊 いた 。 |くにとも||じん|

「 手帳 の 電話 番号 へ 、 かけて み ました が 、 誰 も 出 ませ ん 」 てちょう||でんわ|ばんごう||||||だれ||だ||

と 、 若い 刑事 が 言った 。 |わかい|けいじ||いった

若 いった って 、 国友 も 若い のだ が 、 一応 、 後輩 の いる 身 である 。 わか|||くにとも||わかい|||いちおう|こうはい|||み|

「 誰 か 、 家 へ 巡査 を 一 人 やって くれ 」 だれ||いえ||じゅんさ||ひと|じん||

「 分 り ました 」 ぶん||

手帳 に は 、〈 有田 信子 〉 と あった 。 てちょう|||ありた|のぶこ||

住所 は ここ に 近い 。 じゅうしょ||||ちかい 国友 は 、 そば に いた 巡査 へ 、 くにとも|||||じゅんさ|

「 発見 者 は ? はっけん|もの|

と 訊 いた 。 |じん|

「 向 う に 待た せて あり ます が ……」 むかい|||また|||| "I have kept you waiting, but ... ...."

と 、 巡査 が ためらう 。 |じゅんさ|| And the patrols hesitate.

「 どうかした の か ? "What's wrong?

「 は あ 。 "Well.

── さっき から うるさくて 」 ── Noisy from a little while ago. "

「 うるさい ?

国友 は 、 ちょっと いぶかし げ に 言った 。 くにとも||||||いった Kunitomu said a little idiot.

「 うるさい って 、 どういう こと だ ? "What do you mean by" noisy "? ── 行って みる と 、 すぐに 分 った 。 おこなって||||ぶん| ── As I went, I quickly understood.

発見 した の は 、 ここ の 生徒 だった のである 。 はっけん||||||せいと|| It was the student here that I found.

現場 から 少し 離れた 教室 に 入って みる と 、 やけに 背 の 高い 、 いかにも ひ弱な 感じ の 男の子 が 、 長い 足 を 持て余し 気味に して 、 椅子 の 一 つ に 腰かけて いる 。 げんば||すこし|はなれた|きょうしつ||はいって||||せ||たかい||ひよわな|かんじ||おとこのこ||ながい|あし||もてあまし|ぎみに||いす||ひと|||こしかけて| When entering a classroom slightly away from the scene, a tall boy with a bad temper, a very weak feeling, has long legs and is sitting on one of the chairs, making it look a little scary.

少し 離れて 、 こちら は 、 ちょっと 小 太り の 女の子 。 すこし|はなれて||||しょう|ふとり||おんなのこ

髪 が 長い 、 丸顔 の 子 だ が 、 大分 ふてくされて いる 様子 である 。 かみ||ながい|まるがお||こ|||だいぶ|||ようす|

「 君 ら が 、 あの 女 の 人 が 死んで る の を 見付けた んだ ね 」 きみ||||おんな||じん||しんで||||みつけた||

と 、 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

だが 、 質問 に は 答え ず 、 |しつもん|||こたえ|

「 おじさん 、 刑事 ? |けいじ

と 、 女の子 の 方 が 訊 いて きた 。 |おんなのこ||かた||じん||

国友 と して は 、「 おじさん 」 と 呼ば れる の に まだ 不慣れな ため 、 ちょっと 引きつった ような 笑顔 で 、 くにとも||||||よば|||||ふなれな|||ひきつった||えがお|

「 まあ ね 」

と 答える しか なかった 。 |こたえる||

「 早く 帰して よ 。 はやく|かえして|

私 たち 、 何も した わけじゃ ない んだ もん 」 わたくし||なにも|||||

「 うん 、 そりゃ そう だろう が ね 。

しかし 、 これ は 殺人 事件 な んだ 。 |||さつじん|じけん|| 君 ら が 死体 を 見付けた とき の 状況 を はっきり 聞いて おき たい 。 きみ|||したい||みつけた|||じょうきょう|||きいて|| 犯人 を 捕まえる 手がかり に なる かも しれ ない から ね 」 はんにん||つかまえる|てがかり|||||||

国友 と して は 、 極力 優しく 、 穏やかに 説明 を した のである 。 くにとも||||きょくりょく|やさしく|おだやかに|せつめい|||

「 関係ない もん 」 かんけいない|

と 、 女の子 は 口 を 尖ら せた 。 |おんなのこ||くち||とがら|

「 ただ 見付けた だけ よ 。 |みつけた|| それ しか 言う こと ない 」 ||いう||

「 そりゃ まあ 、 そう かも しれ ない な 」

内心 ムカッ と 来た が 、 そこ は ぐっと 押えて 、 ないしん|||きた|||||おさえて I came with inner confusion, but I kept pressing down there,

「 しかし ね 、 たとえば 君 ら が 何 時 何 分 ごろ ここ に 来た と か 、 それ だけ だって 、 犯行 時間 を 決める 手がかり に なる んだ よ 。 |||きみ|||なん|じ|なん|ぶん||||きた||||||はんこう|じかん||きめる|てがかり||||

もし 、 誰 か を 見かけた と か ──」 |だれ|||みかけた||

「 だ から 、 よそう って 言った じゃ ない ! ||||いった||

女の子 が 、 いきなり 、 男の子 を つついて 、 おんなのこ|||おとこのこ||

「 後 が 面倒だ から 、 って 言った のに 。 あと||めんどうだ|||いった|

あんた が やっぱり 知らせた 方 が いい 、 と か 言う から ……」 |||しらせた|かた|||||いう|

「 だって ──」

と 、 男の子 の 方 は オドオド し ながら 、「 もし 黙って て 後 で 分 ったら 、 まずい と 思って さあ 」 |おとこのこ||かた||||||だまって||あと||ぶん||||おもって|

「 放っときゃ 、 分 り ゃ し なかった の よ 。 ほっときゃ|ぶん||||||

それ を ご ていねいに 、 訊 かれる 通り 、 名前 まで 電話 で しゃべっちゃ って さ 。 ||||じん||とおり|なまえ||でんわ|||| ── 馬鹿じゃ ない の 、 あんた ? ばかじゃ||| 「 でも さあ ……」

と 、 男の子 の 方 は 不服 顔 。 |おとこのこ||かた||ふふく|かお

「 これ で 、 あんた と 逢 引き して た の まで 、 バレ ちゃ う じゃ ない の 。 ||||あ|ひき||||||||||

退学 に なって も 知ら ない から ね 」 たいがく||||しら|||

「 お前 、 大丈夫じゃ ない か 。 おまえ|だいじょうぶじゃ||

親父 さん に 言えば ──」 おやじ|||いえば

「 私 は ね 。 わたくし||

でも 、 あんた の 方 まで 手 が 回 ん ない よ 」 |||かた||て||かい|||

「 そりゃ ない よ !

── なあ 、 怒 んな よ 」 |いか||

「 お腹 空いて 、 寒くて 、 おまけに あんた みたいな 能 なし と デート して た の か と 思う と 、 怒ら ず に い られ ない わ よ 」 おなか|あいて|さむくて||||のう|||でーと||||||おもう||いから||||||| "When I think that I am hungry, cold, and I wonder if I have dated like No you like you, I can not help being angry."

と 、 やり合って いる ところ へ ──。 |やりあって|||

「 いい加減に しろ ! いいかげんに|

国友 の 怒り が 爆発 した 。 くにとも||いかり||ばくはつ|

「 人 が 一 人 、 殺さ れた んだ ぞ ! じん||ひと|じん|ころさ||| それ を 、 放っとけば 良かった と は 何 だ ! ||ほっとけば|よかった|||なん| 男の子 の 方 は 青く なって 小さく なって いる 。 おとこのこ||かた||あおく||ちいさく||

しかし 、 女の子 の 方 は 、 逆に 顔 を 真 赤 に して 立ち上る と 、 国友 に かみついて 来た 。 |おんなのこ||かた||ぎゃくに|かお||まこと|あか|||たちのぼる||くにとも|||きた

「 何 よ ! なん|

あんた なんか に 怒鳴ら れる 覚え 、 ない わ よ ! |||どなら||おぼえ||| I do not remember getting scolded by you! 金切り声 と いう やつ が 、 大体 国友 は 好きで ない 。 かなきりごえ|||||だいたい|くにとも||すきで| I do not like Kombato in general, he is a screech.

加えて 、 小 生意気な 子供 と いう やつ も 好きで ない 。 くわえて|しょう|なまいきな|こども|||||すきで| In addition, I do not like small cheeky children. 加えて 、 中学生 と いえば 、 まだ 純情 と いう 「 神話 」 が 、 国友 の 中 に 生きて いる 。 くわえて|ちゅうがくせい||||じゅんじょう|||しんわ||くにとも||なか||いきて| In addition, speaking of junior high school students, the "myth" that is still pure is living among the good friends. 加えて ── いや 、 もう これ だけ あれば 充分だった 。 くわえて||||||じゅうぶんだった In addition ─ ─ No, this was enough.

刑事 と いう 立場 を 一瞬 忘れて 、 その 女の子 を ひっぱ たく に は ……。 けいじ|||たちば||いっしゅん|わすれて||おんなのこ||||| For a moment to forget the standpoint of a criminal, I want to hold that girl ... ....

バン 、 と いう 音 が 、 空っぽの 教室 に 反響 して 、 びっくり する ほど 大きく 聞こえた 。 ばん|||おと||からっぽの|きょうしつ||はんきょう|||||おおきく|きこえた The sound of a van echoed in an empty classroom and it sounded surprisingly big.

確かに 、 誰 も が びっくり した 。 たしかに|だれ||||

男の子 の 方 は 、 まるで 自分 が ひっぱ たか れた みたいに 、 キャッ と 悲鳴 を 上げて 飛び上った し 、 そば に 立って いた 巡査 は 啞然 と して 、 ポカン と 口 を 開けた まま 、 国友 を 見つめて いた 。 おとこのこ||かた|||じぶん||||||||ひめい||あげて|とびあがった||||たって||じゅんさ||啞ぜん|||||くち||あけた||くにとも||みつめて| The boys screamed and screamed as if they were pulled up, and the police standing by by themselves was stupid, staring at the mouth and keeping the mouth staring at the national friend It was.

叩か れた 女の子 は 、 二 、 三 歩 よろけて 、 踏み止まった が 、 痛み より は 、 驚き の 方 が 大きかった ようで 、 はっきり と 手 の あと が 頰 に ついて いる の を 、 片手 で 隠す ように し ながら 、 目 を 大きく 見開いて いた 。 たたか||おんなのこ||ふた|みっ|ふ||ふみとどまった||いたみ|||おどろき||かた||おおきかった||||て||||||||||かたて||かくす||||め||おおきく|みひらいて| The struck girl tripped a few steps and was trampled down, but it seemed that the surprise was bigger than the pain, so as to hide the side of the hand clearly with one hand clearly While I was wide open my eyes.

しかし ── 一 番 びっくり した の は 国友 自身 だった かも しれ ない 。 |ひと|ばん|||||くにとも|じしん||||

今 の は ── 俺 な の か ? いま|||おれ|||

俺 が やった の か 、 と 自分 へ 問いかけて いた 。 おれ||||||じぶん||といかけて|

「 いや …… すま ん 」

ほとんど 無意識に 口 を 開いて いた 。 |むいしきに|くち||あいて|

「 殴る つもりじゃ …… なかった んだ 」 なぐる|||

そこ へ 、 全く 別の 声 が 割り込んで 来た 。 ||まったく|べつの|こえ||わりこんで|きた

「 何て こと だ ! なんて||

太い 男 の 声 に 、 国友 は びっくり して 振り返った 。 ふとい|おとこ||こえ||くにとも||||ふりかえった

── こんな 夜中 だ と いう のに 、 きちんと ダブル の 背広 を 着込み 、 ネクタイ を しめた 五十 がらみ の 、 堂々と した 体格 の 男 が 、 目 を むいて 、「 暴力 を 振った な ! |よなか||||||だぶる||せびろ||きこみ|ねくたい|||ごじゅう|||どうどうと||たいかく||おとこ||め|||ぼうりょく||ふった| と 、 国友 を にらみつけて いる 。 |くにとも|||

「 パパ ! ぱぱ

女の子 が 、 その 男 へ 向 って 駆け寄る と 、 胸 に 飛び込んで 、 ワーッ と 泣き出した 。 おんなのこ|||おとこ||むかい||かけよる||むね||とびこんで|||なきだした

「── 私 は 杉下 だ 」 わたくし||すぎした|

と 、 その 男 は 、 女の子 を 抱き 寄せ ながら 、 ||おとこ||おんなのこ||いだき|よせ|

「 区 の 教育 委員 を して いる 。 く||きょういく|いいん|||

君 は ? きみ| 「 M 署 の ── 国友 です 」 m|しょ||くにとも|

「 国友 か 。 くにとも|

憶 えて おこう 。 おく|| 私 は 弁護 士 で 、 警察 に も 大勢 知り合い が いる 。 わたくし||べんご|し||けいさつ|||おおぜい|しりあい|| 十五 歳 の 女の子 に 刑事 が 暴力 を 振った と あって は 見 過 す わけに は いかん 」 じゅうご|さい||おんなのこ||けいじ||ぼうりょく||ふった||||み|か||||

国友 と して は 、 反論 の 余地 も ある はずだ が 、 今 は 、 自分 でも 女の子 を 殴った と いう ショック で 、 呆然と して いた 。 くにとも||||はんろん||よち|||||いま||じぶん||おんなのこ||なぐった|||しょっく||ぼうぜんと||

「 娘 の ルミ に 訊 く こと が あれば 、 私 が 立ち合う 。 むすめ||るみ||じん|||||わたくし||たちあう

ともかく 、 今日 は 話 の できる 状態 で は ない 。 |きょう||はなし|||じょうたい||| 引き取ら せて もらう 。 ひきとら|| 構わ んだろう ね ? かまわ|| 国友 は 、 黙って 肯 いた 。 くにとも||だまって|こう|

「── さあ 、 行こう 」 |いこう

杉下 は 、 ルミ と いう 娘 の 肩 を 抱いて 、 促した 。 すぎした||るみ|||むすめ||かた||いだいて|うながした

── 教室 を 出て 行こう と して 、 ルミ が 、 ふと 振り向いた 。 きょうしつ||でて|いこう|||るみ|||ふりむいた

涙 に 濡れた 目 で 、 ちょっと 国友 を 見つめる と 、 無表情の まま 、 父親 と 共に 姿 を 消した 。 なみだ||ぬれた|め|||くにとも||みつめる||むひょうじょうの||ちちおや||ともに|すがた||けした

「 あの ……」

と 、 男の子 の 方 が 、 恐る恐る 言った 。 |おとこのこ||かた||おそるおそる|いった

「 僕 も 帰って いい ? ぼく||かえって| 「 ん ?

── 何 か 言った か ? なん||いった| と 国友 が 振り向く 。 |くにとも||ふりむく

「 あの ──」

と 、 男の子 が 言い かけた とき 、 廊下 に ドタドタ と 凄い 足音 が した 。 |おとこのこ||いい|||ろうか||||すごい|あしおと||

「 正明 ちゃん ! まさあき|

けたたましい ソプラノ ── いや 、 やや 低 目 の メゾ ・ ソプラノ ぐらい か ── の 声 が 、 教室 の 中 を 駆け回った 。 |そぷらの|||てい|め|||そぷらの||||こえ||きょうしつ||なか||かけまわった

胸 、 胴 、 腰 ── ほとんど 同 サイズ と いう 「 豊かな 」 体格 の 女性 が 、 飛び込む ように 入って 来る と 、 むね|どう|こし||どう|さいず|||ゆたかな|たいかく||じょせい||とびこむ||はいって|くる|

「 まあ 、 正明 ちゃん ! |まさあき|

と 、 例の 「 かよわい 男の子 」 へ と 駆け寄った のである 。 |れいの||おとこのこ|||かけよった|

国友 は 我 に 返って 、 くにとも||われ||かえって

「 あの ── お 母さん です か ? ||かあさん||

と 、 声 を かけた 。 |こえ||

「 あなた は 誰 ? ||だれ

「 は ?

「 名前 を 訊 いて る の よ ! なまえ||じん||||

「 M 署 の ── 国友 です が 」 m|しょ||くにとも||

「 国友 さん ね 。 くにとも||

私 、 母親 と して 、 断固と して 抗議 し ます ! わたくし|ははおや|||だんこと||こうぎ|| 「 抗議 ? こうぎ

「 この 寒い 教室 に 、 うち の 子 を 閉じ込めて おく なんて ! |さむい|きょうしつ||||こ||とじこめて||

正明 は とても デリケートで 、 風邪 を ひき やすい 性質 な んです ! まさあき|||でりけーとで|かぜ||||せいしつ|| 「 は あ ……」

「 もし 、 これ が 原因 で 熱 を 出し 、 肺炎 に でも なったら 、 その 責任 は どうして くれる んです か ! |||げんいん||ねつ||だし|はいえん|||||せきにん|||||

「 は あ 」

「 私 、 坂口 爽子 です 。 わたくし|さかぐち|そうこ|

何 か この 子 に お 訊 ね の こと が あれば 、 私 が 『 代って 』 お 答え し ます ! なん|||こ|||じん||||||わたくし||かわって||こたえ|| 坂口 爽子 は 、「 代って 」 と いう ところ を 、 あたかも オペラ の アリア の 聞か せ どころ でも あるか の ように 、 高く 張り上げて 言った 。 さかぐち|そうこ||かわって||||||おぺら||||きか|||||||たかく|はりあげて|いった

「 しかし 、 お 子 さん は ── 死体 の 発見 者 でして 、 どうしても 話 を ──」 ||こ|||したい||はっけん|もの|||はなし|

「 死体 で すって ! したい||

と 、 坂口 爽子 は 、 目 を 飛び出さ ん ばかりに 見開いて 、「 この 子 の 繊細な 神経 が 、 どれ だけ 痛めつけ られて いる か 、 お 分 り に なら ない の ? |さかぐち|そうこ||め||とびで さ|||みひらいて||こ||せんさいな|しんけい||||いためつけ|||||ぶん|||||

この上 、 無神経で が さつ な 刑事 の 訊問 など に 会ったら 、 この 子 は 哀れ ノイローゼ に なって しまい ます わ 」 このうえ|むしんけいで||||けいじ||じんもん|||あったら||こ||あわれ|のいろーぜ|||||

「 しかし ──」

「 帰ら せて いただき ます ! かえら|||

断固たる その 口調 は 、 全く 異論 を さしはさむ 余地 を 残して い なかった 。 だんこたる||くちょう||まったく|いろん|||よち||のこして||

「 さ 、 正明 ちゃん 。 |まさあき| 行き ま しょ 」 いき||

「 怖かった よ 、 ママ ……」 こわかった||まま

「 そう よ ね 。

可哀そうに 」 かわいそうに

母 と 子 は 、 身 を 寄せ合い ながら 、 教室 を 出て 行って しまう 。 はは||こ||み||よせあい||きょうしつ||でて|おこなって|

国友 は 、 ただ 呆然と して 、 その 場 に 突っ立って いた ……。 くにとも|||ぼうぜんと|||じょう||つったって|

その 少年 は 、 いとも 軽々 と 、 雨 樋 を よじ 上って いた 。 |しょうねん|||かるがる||あめ|ひ|||のぼって|

よほど 慣れて いる と 見えて 、 もう いい加減 古びて 、 あちこち ガタ が 来て いる 雨 樋 な のに 、 ほとんど きしむ 音 一 つ たて ず に 、 しっかり した 所 へ 手足 を かけて 上って 行く 。 |なれて|||みえて||いいかげん|ふるびて||||きて||あめ|ひ|||||おと|ひと|||||||しょ||てあし|||のぼって|いく

二 階 の 窓 の 高 さ まで 上って 来る と 、 巧みに バランス を 取り ながら 、 窓 の へり へ 足 を かけた 。 ふた|かい||まど||たか|||のぼって|くる||たくみに|ばらんす||とり||まど||||あし||

窓 の 鍵 は 、 ちゃんと 開けて あった らしい 。 まど||かぎ|||あけて||

スッ と 窓 が 開いて 、 少年 の 姿 は 、 その 中 へ と 吸い込ま れる ように 消えた 。 ||まど||あいて|しょうねん||すがた|||なか|||すいこま|||きえた

「── やった 」

と 、 暗がり の 中 へ 一旦 身 を 沈めた 少年 は 、 得意 げ に 呟いた 。 |くらがり||なか||いったん|み||しずめた|しょうねん||とくい|||つぶやいた

とたん に 、 パッと 明り が 点いて 、 少年 は 飛び上り そうに なった 。 ||ぱっと|あかり||ついて|しょうねん||とびあがり|そう に|

「 待って た ぞ 」 まって||

ドア の 所 に 立って いる の は 、 ずんぐり した 中年 男 で 、 腕組み を して 、 少年 を にらんで いた 。 どあ||しょ||たって||||||ちゅうねん|おとこ||うでぐみ|||しょうねん|||

「── ち ぇっ 。

知って た の か 」 しって|||

少年 は 舌打ち した 。 しょうねん||したうち|

「 だったら 、 出る とき に 止めりゃ いい じゃ ない か 」 |でる|||とどめりゃ||||

「 勇一 」 ゆういち

と 、 その 男 が 言った 。 ||おとこ||いった

「 仕度 しろ 」 したく|

「 分 った よ 」 ぶん||

少年 は 、 ふてくされた 顔 で 、「 地下 室 で 一 日 、 飯 抜き だ ろ 。 しょうねん|||かお||ちか|しつ||ひと|ひ|めし|ぬき||

いい よ 、 この 格好で 行く から 」 |||かっこうで|いく|

「 そう じゃ ない 。

荷物 を まとめろ 」 にもつ||

「 へえ 。

── 追 ん 出す の かい 、 ここ から ? つい||だす|||| こっち は 大喜びだ けど 」 ||おおよろこびだ|

「 お前 の お袋 さん が 死んだ 」 おまえ||おふくろ|||しんだ

少年 は 、 ちょっと 間 を 置いて から 、 しょうねん|||あいだ||おいて|

「 所長 さん 、 そんな 冗談 、 いくら 何でも ひどい よ 」 しょちょう|||じょうだん||なんでも||

と 、 唇 を 歪めて 笑った 。 |くちびる||ゆがめて|わらった

「 本当だ 」 ほんとうだ

所長 さん 、 と 呼ば れた 男 は 、 無表情に 言った 。 しょちょう|||よば||おとこ||むひょうじょうに|いった

「 さっき 、 警察 から 連絡 が あった 。 |けいさつ||れんらく||

お前 の お袋 さん が 、 誰 か に 殺さ れた そうだ 」 おまえ||おふくろ|||だれ|||ころさ||そう だ

勇一 と いう その 少年 は 、 じっと 立ちつくして いた が 、 ゆういち||||しょうねん|||たちつくして||

「── 噓 じゃ ない んだ な 」

と 、 呟く ように 言った 。 |つぶやく||いった

「 早く 仕度 しろ 。 はやく|したく|

ここ へ 来た とき の 服 を 着て 、 髪 の 毛 も ちゃんと とかし とけ 。 ||きた|||ふく||きて|かみ||け|||| 俺 が 車 で 送って やる 」 おれ||くるま||おくって|

所長 は 、 部屋 を 出て 行き かけて 、 ちょっと 足 を 止めて 振り向いた 。 しょちょう||へや||でて|いき|||あし||とどめて|ふりむいた

「 勇一 。 ゆういち しっかり しろ よ 」

勇一 は 、 答え なかった 。 ゆういち||こたえ|

── ベッド と 、 机 の 他 に は 、 ほとんど 何も ない 簡素な 部屋 に 一 人 に なる と 、 有田 勇一 は 、 初めて 我 に 返った ように 、 周囲 を 見回した 。 べっど||つくえ||た||||なにも||かんそな|へや||ひと|じん||||ありた|ゆういち||はじめて|われ||かえった||しゅうい||みまわした

「 母さん ……」 かあさん

と 、 呟き が 洩 れる 。 |つぶやき||えい|

「── 畜生 ! ちくしょう ベッド に 腰 を 落とす と 、 勇一 は 、 頭 を 垂れた 。 べっど||こし||おとす||ゆういち||あたま||しだれた

母さん が 死んだ ……。 かあさん||しんだ

殺さ れた って ? ころさ||

誰 が やった んだ ? だれ|||

── 畜生 ! ちくしょう 畜生 ! ちくしょう

「 おい 」

ドア が 開いて 、 所長 が 顔 を 出す 。 どあ||あいて|しょちょう||かお||だす

「 大丈夫 か ? だいじょうぶ| 「 うん 」

勇一 は 、 パッと 立ち上る と 、 急いで ジーパン を 脱いだ 。 ゆういち||ぱっと|たちのぼる||いそいで|じーぱん||ぬいだ

仕度 、 と いって も 簡単である 。 したく||||かんたんである

三 分 と たた ない 内 に 、 勇一 は 、 小さな ボストン バッグ 一 つ を 手 に 、 部屋 を 出て いた 。 みっ|ぶん||||うち||ゆういち||ちいさな|ぼすとん|ばっぐ|ひと|||て||へや||でて|

所長 は 、 いい加減 くたびれ 切った 背広 を 着て いた 。 しょちょう||いいかげん||きった|せびろ||きて|

勇一 は 、 所長 が それ 以外 の 背広 を 着て いる の を 、 見た こと が なかった 。 ゆういち||しょちょう|||いがい||せびろ||きて||||みた|||

── 所長 の 車 も 、 背広 に 劣ら ず 、 古ぼけて いる 。 しょちょう||くるま||せびろ||おとら||ふるぼけて|

しかし 、 ともかく 夜道 を 、 歩く より は 速い スピード で 急いで いた ……。 ||よみち||あるく|||はやい|すぴーど||いそいで|

「 親類 は いる の か 」 しんるい||||

と 、 運転 し ながら 、 所長 が 言った 。 |うんてん|||しょちょう||いった

「 葬式 やって くれる ような 親戚 は い ない よ 」 そうしき||||しんせき||||

助手 席 で 、 勇一 は 言った 。 じょしゅ|せき||ゆういち||いった

「 そう か 」

所長 は 、 それ きり 黙って 車 を 走ら せて いる 。 しょちょう||||だまって|くるま||はしら||

「 所長 さん 」 しょちょう|

「 うむ 」

「 殺さ れた って ── どうして だい ? ころさ||||

「 知ら ん 。 しら|

しかし 、 警察 が そう 言う んだ 」 |けいさつ|||いう|

「 母さん を ── 殺す ような 奴 、 いる の か な 」 かあさん||ころす||やつ||||

「 いい 人 だ から な 、 お前 の お袋 さん は 」 |じん||||おまえ||おふくろ||

勇一 は 、 ちょっと 目頭 が 熱く なった の を 、 気付か れ ない ように しよう と して 、 わき を 向いた 。 ゆういち|||めがしら||あつく||||きづか|||||||||むいた

でも 、 たぶん 所長 は 気付いて いた だろう 。 ||しょちょう||きづいて|| 勇一 に も 、 それ は 分 って いた 。 ゆういち|||||ぶん||

所長 に は 、 たいてい の こと は 分 って しまう のだ 。 しょちょう|||||||ぶん|||

母親 の こと を 、「 いい 人だった 」 と 言わ ず に 、「 いい 人 だ から な 」 と 言って くれた の が 、 勇一 に は 嬉しかった 。 ははおや|||||ひとだった||いわ||||じん|||||いって||||ゆういち|||うれしかった

「 勇一 」 ゆういち

と 、 所長 が 真 直ぐ 前 を 見た まま 、 言った 。 |しょちょう||まこと|すぐ|ぜん||みた||いった

「 親類 も い ない と なる と 、 お前 が 喪主 だ ぞ 。 しんるい|||||||おまえ||もしゅ||

しっかり しろ よ 」

「 うん 」

と 、 勇一 は 肯 いた 。 |ゆういち||こう|

「 分かって る 」 わかって|

しかし 、 勇一 は 他の こと を 考えて いた 。 |ゆういち||たの|||かんがえて|

母さん を 、 誰 が 殺した んだ 。 かあさん||だれ||ころした|

── 誰 が 。 だれ|

窓 の 外 の 闇 は 、 もう すぐ 朝 に なる と いう のに 、 まだ どこまでも 暗かった 。 まど||がい||やみ||||あさ||||||||くらかった