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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 62. 百日紅 - 高浜虚子
62. 百日紅 - 高浜 虚 子
百日紅 - 高浜 虚 子
昔 俳句 を 作り はじめた 時分 に 、 はじめて 百日紅 と いふ 樹 を 見た 。
それ 迄 も 見た こと が あつ た の かも 知れ ない が 、 一 向 気 が つか なか つた 。
成 程 なるほど 百日紅 と いふ 名前 の ある 通り 真 赤 な 花 が 永い 間 咲いて ゐる も のである わ い と つく /″\ 其梢 を 眺めた 。
又 さるすべり と いふ 別 の 名前 の ある 通り 木 の 膚 の すべ つ こい もの で は ある と 、 其皮 の 無い や う な 膚 を も つく /″\ 見た 。
. 其後 百日紅 と いふ 題 で 句 作 する 時分 に 、 私 の 頭 の 中 で は 、 真夏 の 炎天 下 に すべ つ こい 肌 を 持つ た 木 の 真 赤 な 花 を 想像 する ので あつ た 。
さ う して 葉 は どう か と 思 つた が 、 葉 は 全然 眼 に 入ら なか つた から 無 か つたの で あらう 、 葉 は 花 が 散 つた 後 に 出る もの で あらう と 考 へて ゐた 。
た ゞ ぼんやり と さ う 考 へて ゐた 。
. 其後 実際 よそ の 垣根 や 森 の 中 など に 百日紅 の 咲いて ゐる の を 見た こと が ある が 、 唯 百日紅 が 咲いて ゐる わ いと 考 へる 許 ばかりで 別に 右 の 印象 を 訂正 する や うな こと に も 出 食 は さなか つた 。
. 私 の 庭 に 百日紅 を 植 ゑて から よく 見て 居る と 、 事実 は 全然 間違 つて ゐた 。
葉 が 無い どころ か 、 葉 は ある のである 。
真 赤 な 花 は 葉 の 先 に 咲く のである 。
それ に 真夏 の 炎天 下 に は まだ 花 を つけ はじめた 時分 で 花 の 盛り で は ない のである 。
. 先 づ 冬 は 唯 枯木 である 。
他の 落葉 する 木 と 共に 全く 枯木 である が 、 唯 肌 の すべ つ こい の が 特に 目立つ て 見える 。
春 の 間 は 外 の 木 が 花 を つけたり 木 の 芽 を 吹いたり する に 拘 かかわら ず 、 素知らぬ 風 を して 枯木 の ま ゝ である 。
夏 の 始 に な つて も 尚 ほ 枯木 である 。
外 の 木 が 大方 若葉 を 吹き出す 頃 に な つて も 尚 ほ 枯木 である 。
私 の 家 の 庭 に ある 木 の 中 で は 一 番 最後 迄枯 木 の 儘 まま で あつ た 。
さ う して 外 の 木 の 若葉 が もう 若葉 とい は れ ぬ 位 、 緑 も 濃い 色 に な つた 時分 に 漸 く 若葉 らしい もの を 着け はじめた 。
もと から あつ た 枝 に 一応 葉 が 揃 つた 時分 に 、 新 らしい 枝 が つい /\ と 出 はじめて 其枝 に み づ /\ と 柔 かい 大きな 葉 が 出 はじめた 。
夏 も 末 の 頃 に な つて 漸 く 新 らしい 枝 の さき に 白い 粉 の 吹いた や う な 莟 つぼみ が 沢山に つき はじめて 、 其 の 苔 が ほころびる と はじめて 赤い 花 が 咲く ので あつ た 。
其 の 赤い 花 は 長い 間 咲いて を る が 、 其 は 夏 の 末 から 秋 に かけて 咲く ので あ つて 、 むしろ 秋 の 部分 が 多い のである 。
. 実際 庭 に 植 ゑた 百日紅 を 見て 、 はじめて 右 の や うな こと が 判 つた 。
. が 、 しかし 席 題 に 百日紅 と いふ 題 が 出た 時 など は 、 ふと 真夏 の 炎天 下 に 真 赤 に 咲いて ゐる 、 葉 の 無い 、 花 ばかり が 梢 に ある 、 肌 の つる /\ した 木 を 想像 する のである 。
さ うで は なか つた と 考 へて も どうも 其最 初 の 印象 が こびりついて 居る のである 。
. 其最 初 の 印象 と いふ の は 、 子 規 に 俳句 を 見て もら ひ はじめた 時分 の こと である 。
一 本 の 百日紅 を 、 こんな 変てこな 、 肌 の すべ つ こい 、 真 赤 な 花 の 群がり 咲いて ゐる 木 が ある もの か と 、 熱心に 見上げて ゐる 若い 自分 の 姿 さ へ を も は つき り と 思 ひ 浮べる こと が 出来る のである 。
. ( 昭和 六 年 九 月 )
62. 百日紅 - 高浜 虚 子
さるすべり|たかはま|きょ|こ
62. whooping sun
62. le soleil qui crie - Takahama Kyoshi
62. Колючее солнце - Такахама Кёси
62. 紫薇花 - 高濱恭志
百日紅 - 高浜 虚 子
さるすべり|たかはま|きょ|こ
crepe myrtle|||
昔 俳句 を 作り はじめた 時分 に 、 はじめて 百日紅 と いふ 樹 を 見た 。
むかし|はいく||つくり||じぶん|||さるすべり|||き||みた
||||||||rose of sharon|||||
When I started writing haiku a long time ago, I saw a tree called "Hyakkanen" for the first time.
それ 迄 も 見た こと が あつ た の かも 知れ ない が 、 一 向 気 が つか なか つた 。
|まで||みた|||||||しれ|||ひと|むかい|き||||
I may have seen it before, but I never noticed it.
成 程 なるほど 百日紅 と いふ 名前 の ある 通り 真 赤 な 花 が 永い 間 咲いて ゐる も のである わ い と つく /″\ 其梢 を 眺めた 。
しげ|ほど||さるすべり|||なまえ|||とおり|まこと|あか||か||ながい|あいだ|さいて||||||||そのこずえ||ながめた
|||||||||||||||||||||||||top||
I saw that the red flowers had been blooming for a long time, just as their name implies.
又 さるすべり と いふ 別 の 名前 の ある 通り 木 の 膚 の すべ つ こい もの で は ある と 、 其皮 の 無い や う な 膚 を も つく /″\ 見た 。
また||||べつ||なまえ|||とおり|き||はだ||||||||||そのかわ||ない||||はだ||||みた
|sliding down|||||||||||||||||||||skin||||||||||
I also saw a crape myrtle, which, as its other name implies, has the smooth skin of wood, but no skin at all.
.
其後 百日紅 と いふ 題 で 句 作 する 時分 に 、 私 の 頭 の 中 で は 、 真夏 の 炎天 下 に すべ つ こい 肌 を 持つ た 木 の 真 赤 な 花 を 想像 する ので あつ た 。
そののち|さるすべり|||だい||く|さく||じぶん||わたくし||あたま||なか|||まなつ||えんてん|した|||||はだ||もつ||き||まこと|あか||か||そうぞう||||
later|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
. When I was composing my haiku on the theme of "Hundred Days Red", I imagined the red blossoms of a tree with a tough skin under the blazing sun in the middle of summer.
さ う して 葉 は どう か と 思 つた が 、 葉 は 全然 眼 に 入ら なか つた から 無 か つたの で あらう 、 葉 は 花 が 散 つた 後 に 出る もの で あらう と 考 へて ゐた 。
|||は|||||おも|||は||ぜんぜん|がん||はいら||||む|||||は||か||ち||あと||でる|||||こう||
た ゞ ぼんやり と さ う 考 へて ゐた 。
||||||こう||
.
其後 実際 よそ の 垣根 や 森 の 中 など に 百日紅 の 咲いて ゐる の を 見た こと が ある が 、 唯 百日紅 が 咲いて ゐる わ いと 考 へる 許 ばかりで 別に 右 の 印象 を 訂正 する や うな こと に も 出 食 は さなか つた 。
そののち|じっさい|||かきね||しげる||なか|||さるすべり||さいて||||みた|||||ただ|さるすべり||さいて||||こう||ゆる||べつに|みぎ||いんしょう||ていせい|||||||だ|しょく|||
.
私 の 庭 に 百日紅 を 植 ゑて から よく 見て 居る と 、 事実 は 全然 間違 つて ゐた 。
わたくし||にわ||さるすべり||しょく||||みて|いる||じじつ||ぜんぜん|まちが||
|||||||planted|||||||||||
葉 が 無い どころ か 、 葉 は ある のである 。
は||ない|||は|||
Instead of being leafless, it has leaves.
真 赤 な 花 は 葉 の 先 に 咲く のである 。
まこと|あか||か||は||さき||さく|
それ に 真夏 の 炎天 下 に は まだ 花 を つけ はじめた 時分 で 花 の 盛り で は ない のである 。
||まなつ||えんてん|した||||か||||じぶん||か||さかり||||
In addition, under the blazing sun in midsummer, the flowers have only just begun to form and are not at their peak yet.
.
先 づ 冬 は 唯 枯木 である 。
さき||ふゆ||ただ|かれき|
他の 落葉 する 木 と 共に 全く 枯木 である が 、 唯 肌 の すべ つ こい の が 特に 目立つ て 見える 。
たの|らくよう||き||ともに|まったく|かれき|||ただ|はだ|||||||とくに|めだつ||みえる
春 の 間 は 外 の 木 が 花 を つけたり 木 の 芽 を 吹いたり する に 拘 かかわら ず 、 素知らぬ 風 を して 枯木 の ま ゝ である 。
はる||あいだ||がい||き||か|||き||め||ふいたり|||こだわ|||そしらぬ|かぜ|||かれき||||
|||||||||||||||||||||unknown||||||||
夏 の 始 に な つて も 尚 ほ 枯木 である 。
なつ||はじめ|||||しよう||かれき|
外 の 木 が 大方 若葉 を 吹き出す 頃 に な つて も 尚 ほ 枯木 である 。
がい||き||おおかた|わかば||ふきだす|ころ|||||しよう||かれき|
|||||||to bud|||||||||
私 の 家 の 庭 に ある 木 の 中 で は 一 番 最後 迄枯 木 の 儘 まま で あつ た 。
わたくし||いえ||にわ|||き||なか|||ひと|ばん|さいご|までこ|き||まま||||
|||||||||||||||dead|||just||||
さ う して 外 の 木 の 若葉 が もう 若葉 とい は れ ぬ 位 、 緑 も 濃い 色 に な つた 時分 に 漸 く 若葉 らしい もの を 着け はじめた 。
|||がい||き||わかば|||わかば|||||くらい|みどり||こい|いろ||||じぶん||すすむ||わかば||||つけ|
もと から あつ た 枝 に 一応 葉 が 揃 つた 時分 に 、 新 らしい 枝 が つい /\ と 出 はじめて 其枝 に み づ /\ と 柔 かい 大きな 葉 が 出 はじめた 。
||||えだ||いちおう|は||そろ||じぶん||しん||えだ||||だ||そのえだ|||||じゅう||おおきな|は||だ|
|||||||||||||||||||||branch|||||||||||
夏 も 末 の 頃 に な つて 漸 く 新 らしい 枝 の さき に 白い 粉 の 吹いた や う な 莟 つぼみ が 沢山に つき はじめて 、 其 の 苔 が ほころびる と はじめて 赤い 花 が 咲く ので あつ た 。
なつ||すえ||ころ||||すすむ||しん||えだ||||しろい|こな||ふいた||||つぼみ|||たくさんに|||その||こけ|||||あかい|か||さく|||
|||||||||||||||||||||||seed pod|||abundantly|||||||started to open|||||||||
其 の 赤い 花 は 長い 間 咲いて を る が 、 其 は 夏 の 末 から 秋 に かけて 咲く ので あ つて 、 むしろ 秋 の 部分 が 多い のである 。
その||あかい|か||ながい|あいだ|さいて||||その||なつ||すえ||あき|||さく|||||あき||ぶぶん||おおい|
.
実際 庭 に 植 ゑた 百日紅 を 見て 、 はじめて 右 の や うな こと が 判 つた 。
じっさい|にわ||しょく||さるすべり||みて||みぎ||||||はん|
||||planted|rose of sharon|||||||||||
.
が 、 しかし 席 題 に 百日紅 と いふ 題 が 出た 時 など は 、 ふと 真夏 の 炎天 下 に 真 赤 に 咲いて ゐる 、 葉 の 無い 、 花 ばかり が 梢 に ある 、 肌 の つる /\ した 木 を 想像 する のである 。
||せき|だい||さるすべり|||だい||でた|じ||||まなつ||えんてん|した||まこと|あか||さいて||は||ない|か|||こずえ|||はだ||||き||そうぞう||
さ うで は なか つた と 考 へて も どうも 其最 初 の 印象 が こびりついて 居る のである 。
||||||こう||||そのさい|はつ||いんしょう|||いる|
||||||||||first|||||stuck||
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其最 初 の 印象 と いふ の は 、 子 規 に 俳句 を 見て もら ひ はじめた 時分 の こと である 。
そのさい|はつ||いんしょう|||||こ|ただし||はいく||みて||||じぶん|||
一 本 の 百日紅 を 、 こんな 変てこな 、 肌 の すべ つ こい 、 真 赤 な 花 の 群がり 咲いて ゐる 木 が ある もの か と 、 熱心に 見上げて ゐる 若い 自分 の 姿 さ へ を も は つき り と 思 ひ 浮べる こと が 出来る のである 。
ひと|ほん||さるすべり|||へんてこな|はだ|||||まこと|あか||か||むらがり|さいて||き||||||ねっしんに|みあげて||わかい|じぶん||すがた|||||||||おも||うかべる|||できる|
||||||bizarre|||||||||||cluster||||||||||||||||||||||||||||||
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( 昭和 六 年 九 月 )
しょうわ|むっ|とし|ここの|つき