21. 父 帰る - 小林 多 喜二 ちち|かえる|こばやし|おお|よしじ

父 帰る - 小林 多 喜二 ちち|かえる|こばやし|おお|よしじ Батько повертається - Кідзі Кобаясі

夫 が 豊 多摩 刑務所 に 入って から 、 七八 ヵ 月 ほど して 赤ん坊 が 生れた 。 おっと||とよ|たま|けいむしょ||はいって||しちはち||つき|||あかんぼう||うまれた それ で お産 の 間 だけ お 君 は メリヤス 工場 を 休ま なければ なら なかった 。 ||おさん||あいだ|||きみ|||こうじょう||やすま||| 工場 で は 共産党 に 入って いた 男 の 女房 を 一 日 も 早く 首 に し たかった ので 、 それ が この上 も なく い ゝ 機会 だった 。 こうじょう|||きょうさんとう||はいって||おとこ||にょうぼう||ひと|ひ||はやく|くび|||||||このうえ|||||きかい| ―― それ で お 君 は 首 に なって しまった 。 |||きみ||くび||| ・・

お 君 は 監獄 の 中 に いる 夫 に 、 赤ん坊 を 見せて やる ため に 、 久し振りで 面会 に 出掛けて 行った 。 |きみ||かんごく||なか|||おっと||あかんぼう||みせて||||ひさしぶりで|めんかい||でかけて|おこなった 夫 の 顔 は 少し 白く なって いた が 大変 元気だった 。 おっと||かお||すこし|しろく||||たいへん|げんきだった お 君 の 首 に なった の を 聞く と 、 編 笠 を テーブル に 叩きつけて 怒った 。 |きみ||くび|||||きく||へん|かさ||てーぶる||たたきつけて|いかった それ でも 胸 に つけて ある 番号 の き れ を いじり ながら 、 自分 の 子供 を 眼 を 細く して 見て いた 。 ||むね||||ばんごう|||||||じぶん||こども||がん||ほそく||みて| そして 半分 テレ ながら 、 赤ん坊 の 頬 ぺた を 突 ッ ついたり して 、 大きな 声 を 出して 笑った 。 |はんぶん|||あかんぼう||ほお|||つ||||おおきな|こえ||だして|わらった ・・

帰り際 に 、・・ かえりぎわ|

「 これ で 俺 も 安心 した 。 ||おれ||あんしん| 俺 の 後 取り が 出来た のだ から 、 卑怯 な 真似 まで して 此処 を 出たい など 考え なくて も よく なった から な ア ！ おれ||あと|とり||できた|||ひきょう||まね|||ここ||でたい||かんがえ||||||| 」・・

と 云った 。 |うんった それ から 一 寸 間 を 置いて 何気ない 風 に 笑 い乍ら 、・・ ||ひと|すん|あいだ||おいて|なにげない|かぜ||わら|いながら

「―― そう すれば お前 の 役目 も 大きく なる ワケ だ ……。」 ||おまえ||やくめ||おおきく||| ・・

と 云った 。 |うんった ・・

お 君 は 涙 が 一杯に 溢れて くる の を 感じ ながら 、 ジッと こらえて うなずいて 見せた 。 |きみ||なみだ||いっぱいに|あふれて||||かんじ||じっと|||みせた ―― 赤ん坊 は 何にも 知ら ず に 、 くたびれた 手足 を バタ ／＼ さ せ ながら 、 あー あ 、 あー あ 、 あ 、 あ …… あと 声 を 立て ゝ いた 。 あかんぼう||なんにも|しら||||てあし|||||||||||||こえ||たて|| ・・

「 うまい 乳 を 一杯の ませて 、 ウン と 丈夫に 育て ゝ くれ ！ |ちち||いっぱいの||||じょうぶに|そだて|| …… は ゝ ゝ ゝ ゝ 、 首 を 切ら れた んじゃ うまい 乳 も 出 ない か 。」 |||||くび||きら||||ちち||だ|| ・・

お 君 は 刑務所 から の 帰り に 、 何度 も 何度 も 考えた ―― うまい 乳 が 出 なかったら 、 よろしい ！ |きみ||けいむしょ|||かえり||なんど||なんど||かんがえた||ちち||だ|| 彼 奴 等 に 対する 「 憎悪 」 で この 赤ん坊 を 育て上げて やる んだ 、 と 。 かれ|やつ|とう||たいする|ぞうお|||あかんぼう||そだてあげて||| ・・

お 君 が 首 に なった と いう ので 、 メリヤス 工場 の 若い 職 工 たち は 寄 々 協議 を して いた 。 |きみ||くび|||||||こうじょう||わかい|しょく|こう|||よ||きょうぎ||| お 君 の 夫 が この 工場 から 抜かれて 行って から 、 工場 主 は 恐い もの が い なく なった ので 、 勝手な こと を 職 工 達 に 押しつけよう と して いた 。 |きみ||おっと|||こうじょう||ぬかれて|おこなって||こうじょう|おも||こわい|||||||かってな|||しょく|こう|さとる||おしつけよう||| 首切り 、 それ は もはや お 君 一 人 の こと で は なかった 。 くびきり|||||きみ|ひと|じん||||| ―― お 君 は 面会 に 行った 帰り に 、 皆 の 集まって いる 所 へ 行って 、 夫 に 会って 来た こと を 話した 。 |きみ||めんかい||おこなった|かえり||みな||あつまって||しょ||おこなって|おっと||あって|きた|||はなした ・・

赤ん坊 の 顔 を 見て 、「 後 取り が 出来た 、 これ で 俺 も 安心だ 」 と 云った 所 に 話 が 行く と 、 皆 は 息 を のんだ 。 あかんぼう||かお||みて|あと|とり||できた|||おれ||あんしんだ||うんった|しょ||はなし||いく||みな||いき|| 誰 か ゞ ソッ と 側 の 方 を 向いて 、 鼻 を かんだ 。 だれ|||||がわ||かた||むいて|はな|| ある 者 は 何 か 云 おうと した が 、 唇 が ふるえて 云 え なかった 。 |もの||なん||うん||||くちびる|||うん|| 皆 は 一言 も 云 わ なかった 。 みな||いちげん||うん|| ―― 然 し 皆 の 胸 の 中 に は 固い 、 固い 決意 が 結ばれて 行った 。 ぜん||みな||むね||なか|||かたい|かたい|けつい||むすばれて|おこなった ・・

＊ メリヤス 工場 で は 又 々 首切り が ある らしかった 。 |こうじょう|||また||くびきり||| 何 処 を 見て も 、 仕事 が なくて 、 食え ない 人 が ウヨウヨ して いた 。 なん|しょ||みて||しごと|||くえ||じん||うようよ|| お 君 は ストライキ の 準備 を 進め ながら 、 暇 を 見て は 仕事 を 探して 歩いた 。 |きみ||すとらいき||じゅんび||すすめ||いとま||みて||しごと||さがして|あるいた この頃 で は 赤ん坊 の 腹 が 不気味に ふくれて 、 手 と 足 と 頸 が 細って 行き 、 泣いて ばかり いた 。 このごろ|||あかんぼう||はら||ぶきみに||て||あし||けい||ほそって|いき|ないて|| ―― お 君 は 気 が 気 で なかった 。 |きみ||き||き|| ―― 何事 が あろう と 、 赤子 を 死な して は なら ない と 思った 。 なにごと||||あかご||しな||||||おもった ・・

資本 家 は 不景気 の 責任 を 労働 者 に 転嫁 して 、 首切り を やる 。 しほん|いえ||ふけいき||せきにん||ろうどう|もの||てんか||くびきり|| それ を 安全に やる ため に 、 われ ／＼ の 前衛 を 牢獄 に つないで 置く のだ 、―― 今に なって 見る と 、 お 君 に は その こと が よく 分った 。 ||あんぜんに||||||ぜんえい||ろうごく|||おく||いまに||みる|||きみ|||||||ぶんった メリヤス 工場 でも その 手 を やって いた のだ 。 |こうじょう|||て|||| 今 夫 が 帰って 来て くれたら ！ いま|おっと||かえって|きて| ・・

職業 紹介 所 の 帰り だった 。 しょくぎょう|しょうかい|しょ||かえり| お 君 は フト 電信柱 に 、「 共産党 の 公判 が 又 始まる ぞ 。 |きみ|||でんしんばしら||きょうさんとう||こうはん||また|はじまる| ストライキ と デモ で 我等 の 前衛 を 奪 カン せよ ！ すとらいき||でも||われら||ぜんえい||だつ|かん| 」 と 書かれて いる ビラ を 見た 。 |かかれて||びら||みた ストライキ と デモ で …… お 君 は 口 の 中 で くりかえして 見た …… 我等 の 前衛 を 奪 カン せよ 。 すとらいき||でも|||きみ||くち||なか|||みた|われら||ぜんえい||だつ|かん| ―― 日本 中 の 工場 が みんな その 為 に ストライキ を 起したら 、 そう だ 、 その 通り だ と 思った 。 にっぽん|なか||こうじょう||||ため||すとらいき||おこしたら||||とおり|||おもった お 君 は 不意に 走り出した 。 |きみ||ふいに|はしりだした 何 か ジッと して いられ ない 気持 に なった のだ 。 なん||じっと||いら れ||きもち||| 皆 の 所 へ 行か なければ なら ない と 思った 。 みな||しょ||いか|||||おもった ・・

「 さ 、 坊や 、 お 父ちゃん が 帰って くる んだ よ 。 |ぼうや||とうちゃん||かえって||| お 父ちゃん が ！！」・・ |とうちゃん|

お 君 は 背中 の 子供 を ゆすり 上げ 上げ 、 炎天 の 下 を 走った 。 |きみ||せなか||こども|||あげ|あげ|えんてん||した||はしった