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Readings, 牛女 - 小川未明

牛 女 - 小川 未明

牛 女 - 小川 未明

ある 村 に 、 脊 の 高い 、 大きな 女 が ありました 。 あまり 大きい ので 、 くび を 垂れて 歩きました 。 その 女 は 、 おし でありました 。 性質 は 、 いたって やさしく 、 涙もろくて 、 よく 、 一 人 の 子供 を かわいがりました 。 ・・

女 は 、 いつも 黒い ような 着物 を きて いました 。 ただ 子供 と 二 人 ぎり で ありました 。 まだ 年 の いか ない 子供 の 手 を 引いて 、 道 を 歩いて いる の を 、 村 の 人 は よく 見た のであります 。 そして 、 大 女 で やさしい ところ から 、 だれ が いった もの か 「 牛 女 」 と 名づけた のであります 。 ・・

村 の 子供 ら は 、 この 女 が 通る と 、「 牛 女 」 が 通った と いって 、 珍しい もの でも 見る ように 、 みんな して 、 後ろ に ついていって 、 いろいろの こと を いい はやしました けれど 、 女 は おし で 、 耳 が 聞こえません から 、 黙って 、 いつも の ように 下 を 向いて 、 の そり の そり と 歩いて ゆく ようす が 、 いかにも かわいそうであった のであります 。 ・・

牛 女 は 、 自分 の 子供 を かわいがる こと は 、 一 通り で ありません でした 。 自分 が 不 具 者 だ と いう こと も 、 子供 が 、 不 具 者 の 子だから 、 みんな に ばかに さ れる のだろう と いう こと も 、 父親 が ない から 、 ほか に だれ も 子供 を 育てて くれる もの が ない と いう こと も 、 よく 知っていました 。 ・・

それ です から 、 いっそう 子供 に 対する 不憫 がました と みえて 、 子供 を かわいがった のであります 。 ・・

子供 は 男の子 で 、 母親 を 慕いました 。 そして 、 母親 の ゆく ところ へ は 、 どこ へ でも ついて ゆきました 。 ・・

牛 女 は 、 大 女 で 、 力 も 、 また ほか の 人 たち より は 、 幾 倍 も ありました うえ に 、 性質 が 、 やさしく あった から 、 人々 は 、 牛 女 に 力 仕事 を 頼みました 。 たき ぎ を しょったり 、 石 を 運んだり 、 また 、 荷物 を かつが したり 、 いろいろの こと を 頼みました 。 牛 女 は 、 よく 働きました 。 そして 、 その 金 で 二 人 は 、 その 日 、 その 日 を 暮らして いました 。 ・・

こんなに 大きくて 、 力 の 強い 牛 女 も 、 病気 に なりました 。 どんな もの でも 、 病気 に かから ない もの は ないで ありましょう 。 しかも 、 牛 女 の 病気 は 、 なかなか 重かった のであります 。 そして 働く こと も でき なく なりました 。 ・・

牛 女 は 、 自分 は 死ぬ ので ない か と 思いました 。 もし 、 自分 が 死ぬ ような こと が あった なら 、 子供 を だれ が 見て くれよう と 思いました 。 そう 思う と 、 たとえ 死んで も 死に きれ ない 。 自分 の 霊魂 は 、 なに か に 化けて きて も 、 きっと 子供 の 行く末 を 見守ろう と 思いました 。 牛 女 の 大きな やさしい 目 の 中 から 、 大粒の 涙 が 、 ぽと り ぽと り と 流れた のであります 。 ・・

しかし 、 運命 に は 牛 女 も 、 しかたがなかった と みえます 。 病気 が 重く なって 、 とうとう 牛 女 は 死んで しまいました 。 ・・

村 の 人々 は 、 牛 女 を かわいそうに 思いました 。 どんなに 置いて いった 子供 の こと に 心 を 取ら たろう と 、 だれしも 深く 察して 、 牛 女 を あわれま ぬ もの は なかった のであります 。 ・・

人々 は 寄り集まって 、 牛 女 の 葬式 を 出して 、 墓地 に うずめて やりました 。 そして 、 後 に 残った 子供 を 、 みんな が めんどう を 見て 育てて やる こと に なりました 。 ・・

子供 は 、 ここの 家 から 、 かしこ の 家 へ と いう ふうに 移り変わって 、 だんだん 月日 と ともに 大きく なって いった のであります 。 しかし 、 うれしい こと 、 また 、 悲しい こと が ある に つけて 、 子供 は 死んだ 母親 を 恋しく 思いました 。 ・・

村 に は 、 春 が き 、 夏 が き 、 秋 と なり 、 冬 と なりました 。 子供 は 、 だんだん 死んだ 母親 を なつかしく 思い 、 恋しく 思う ばかりでありました 。 ・・

ある 冬 の 日 の こと 、 子供 は 、 村 は ずれ に 立って 、 かなた の 国境 の 山々 を ながめて います と 、 大きな 山 の 半 腹 に 、 母 の 姿 が はっきり と 、 真っ白な 雪 の 上 に 黒く 浮き出 して 見えた のであります 。 これ を 見る と 、 子供 は びっくり しました 。 けれど 、 この こと を 口 に 出して だれ に も いいません でした 。 ・・

子供 は 、 母親 が 恋しく なる と 、 村 は ずれ に 立って 、 かなた の 山 を 見ました 。 すると 、 天気 の いい 晴れた 日 に は 、 いつでも 母親 の 黒い 姿 を ありあり と 見る こと が できた のです 。 ちょうど 母親 は 、 黙って 、 じっと こちら を 見つめて 、 我が 子 の 身の上 を 見守って いる ように 思わ れた ので ありました 。 ・・

子供 は 、 口 に 出して 、 その こと を いいません でした けれど 、 いつか 村人 は 、 ついに これ を 見つけました 。 ・・

「 西 の 山 に 、 牛 女 が 現れた 。」 と 、 いいふらしました 。 そして 、 みんな 外 に 出て 、 西 の 山 を ながめた のであります 。 ・・

「 きっと 、 子供 の こと を 思って 、 あの 山 に 現れた のだろう 。」 と 、 みんな は 口々に いいました 。 子供 ら は 、 天気 の いい 晩 方 に は 、 西 の 国境 の 山 の 方 を 見て 、・・

「 牛 女 ! 牛 女 ! 」 と 、 口々に いって 、 その 話 で もち きった のです 。 ・・

ところが 、 いつしか 春 が きて 、 雪 が 消え かかる と 、 牛 女 の 姿 も だんだん うすく なって いって 、 まったく 雪 が 消えて しまう 春 の 半ば ごろ に なる と 、 牛 女 の 姿 は 見られ なく なって しまった のです 。 ・・

しかし 、 冬 と なって 、 雪 が 山 に 積もり 里 に 降る ころ に なる と 、 西 の 山 に 、 またしても 、 ありあり と 牛 女 の 黒い 姿 が 現れました 。 村 の 人々 や 子供 ら は 冬 の 間 、 牛 女 の うわさ で もちきりました 。 そして 、 牛 女 の 残して いった 子供 は 、 恋しい 母親 の 姿 を 、 毎日 の ように 村 は ずれ に 立って ながめた のであります 。 ・・

「 牛 女 が 、 また 西 の 山 に 現れた 。 あんなに 子供 の 身の上 を 心配 して いる 。 かわいそうな もの だ 。」 と 、 村人 は いって 、 その 子供 の めんどう を よく 見て やった のす 。 ・・

やがて 春 が きて 、 暖かに なる と 、 牛 女 の 姿 は 、 その 雪 と ともに 消えて しまった のでありました 。 ・・

こうして 、 くる 年 も 、 くる 年 も 、 西 の 山 に 牛 女 の 黒い 姿 は 現れました 。 その うち に 、 子供 は 大きく なった もの です から 、 この 村 から 程近い 、 町 の ある 商家 へ 、 奉公 さ せられる こと に なった のであります 。 ・・

子供 は 、 町 に いって から も 、 西 の 山 を 見て 恋しい 母親 の 姿 を ながめました 。 村 の 人々 は 、 その 子供 が い なく なって から も 、 雪 が 降って 、 西 の 山 に 牛 女 の 姿 が 現れる と 、 母親 と 、 子供 の 情 合い に ついて 、 語り合った ので ありました 。 ・・

「 ああ 、 牛 女 の 姿 が あんなに うすく なった もの 、 暖かに なった はずだ 。」 と 、 しまい に は 、 季節 の 移り変わり を 、 牛 女 に ついて 人々 は いう ように なった のでした 。 ・・

牛 女 の 子供 は 、 ある 年 の 春 、 西 の 山 に 現れた 母親 の 許し も 受け ず に 、 かってに その 商家 から 飛び出して 、 汽車 に 乗って 、 故郷 を 見捨てて 、 南 の 方 の 国 へ いって しまった のであります 。 ・・

村 の 人 も 、 町 の 人 も 、 もう だれ も 、 その 子供 の こと に ついて 、 その後 の こと を 知る こと が できません でした 。 その うち に 、 夏 も 過ぎ 、 秋 も 去って 、 冬 と なりました 。 ・・

やがて 、 山 に も 、 村 に も 、 町 に も 、 雪 が 降って 積もりました 。 ただ 不思議な の は 、 どうした こと か 、 今年 に かぎって 、 西 の 山 に 牛 女 の 姿 が 見え ない こと で ありました 。 ・・

人々 は 、 牛 女 の 姿 が 見え ない の を いぶかし がって 、・・

「 子供 が 、 もう 町 に い なく なった から 、 牛 女 は 見守る 必要 が なくなった のだろう 。」 と 、 語り合いました 。 ・・

その 冬 も 、 いつしか 過ぎて 春 が きた ころ で あります 。 町 の 中 に は 、 まだ ところどころ に 雪 が 消え ず に 残って いました 。 ある 日 の 夜 の こと であります 。 町 の 中 を 大きな 女 が 、 の そり の そり と 歩いて いました 。 それ を 見た 人々 は 、 びっくり しました 。 まさしく 、 それ は 牛 女 であった から であります 。 ・・

どうして 牛 女 が 、 どこ から きた もの か と 、 みんな は 語り合いました 。 人々 は その後 も たびたび 真 夜中 に 、 牛 女 が さびし そうに 町 の 中 を 歩いて いる 姿 を 見た ので ありました 。 ・・

「 きっと 牛 女 は 、 子供 が 故郷 から 出て いって しまった の を 知ら ない のだろう 。 それ で 、 この 町 の 中 を 歩いて 、 子供 を 探して いる の に ちがいない 。」 と 、 人々 は いいました 。 ・・

雪 が まったく 消えて 、 町 の 中 に は 跡 を も 止め なく なりました 。 木々 は 、 みんな 銀色 の 芽 を ふいて 、 夜 もうす 明るくて いい 季節 と なりました 。 ・・

ある 夜 、 人 は 牛 女 が 町 の 暗い 路 次に 立って 、 さめざめ と 泣いて いる の を 見た と いいます 。 しかし その後 、 だれひとり 、 また 牛 女 の 姿 を 見た もの が ありません 。 牛 女 は どうした こと か 、 もはや この 町 に は おら なかった のです 。 ・・

その 年 以来 、 冬 に なって も 、 ふたたび 山 に は 牛 女 の 黒い 姿 は 見え なかった のであります 。 ・・

牛 女 の 子供 は 、 南 の 方 の 雪 の 降ら ない 国 へ いって 、 そこ で いっしょうけんめいに 働きました 。 そして 、 かなり の 金持ち と なりました 。 そう する と 、 自分 の 生まれた 国 が なつかしく なった のであります 。 国 へ 帰って も 、 母親 も なければ 、 兄弟 も ありません けれど 、 子供 の 時分 に 自分 を 育てて くれた しんせつな 人々 が ありました 。 彼 は 、 その 人 たち や 、 村 の こと を 思い出しました 。 その 人 たち に 対して 、 お 礼 を いわ なければ なら ぬ と 思いました 。 ・・

子供 は 、 たくさんの 土産物 と 、 お 金 と を 持って 、 はるばる と 故郷 に 帰って きた のであります 。 そして 、 村 の 人々 に 厚く お 礼 を 申しました 。 村 の 人 たち は 、 牛 女 の 子供 が 出世 を した の を 喜び 、 祝いました 。 ・・

牛 女 の 子供 は 、 なに か 、 自分 は 事業 を しなければ なら ぬ と 考えました 。 そこ で 村 に 広い 地面 を 買って 、 たくさんの りんご の 木 を 植えました 。 大きな いい りんご の 実 を 結ば して 、 それ を 諸国 に 出そう と した のであります 。 ・・

彼 は 、 多く の 人 を 雇って 、 木 に 肥料 を やったり 、 冬 に なる と 囲い を して 、 雪 の ため に 折れ ない ように 手 を かけたり しました 。 その うち に 木 は だんだん 大きく 伸びて 、 ある 年 の 春 に は 、 広い 畑 一面 に 、 さながら 雪 の 降った ように 、 りんご の 花 が 咲きました 。 太陽 は 終日 、 花 の 上 を 明るく 照らして 、 みつばち は 、 朝 から 日 の 暮れる まで 、 花 の 中 を うなり つづけて いました 。 ・・

初夏 の ころ に は 、 青い 、 小さな 実 が 鈴 生 り に なりました 。 そして 、 その実 が だんだん 大きく なり かけた 時分 に 、 一 時 に 虫 が ついて 、 畑 全体 に りんご の 実 が 落ちて しまいました 。 ・・

明くる 年 も 、 その 明くる 年 も 、 同じ ように 、 りんご の 実 は 落ちて しまいました 。 それ は なんとなく 、 子細 の ある らしい こと で ありました 。 村 の もの の わかった じいさん は 、 牛 女 の 子供 に 向かって 、・・

「 なに か の たたり かも しれ ない 。 おまえ さん に は 、 心 あたり に なる ような こと は ない か な 。」 と 、 ある とき 、 聞きました 。 牛 女 の 子供 は 、 その とき は 、 なにも それ に ついて 思い出す こと は ありません でした 。 ・・

しかし 、 彼 は 独り と なって 、 静かに 考えた とき 、 自分 は 町 から 出て 、 遠方 へ いった 時分 に も 、 母親 の 霊魂 に 無断 であった こと を 思いました 。 また 、 故郷 へ 帰って きて から も 、 母親 の お 墓 に おまいり を した ばかりで 、 まだ 法事 も 営ま なかった こと を 思い出しました 。 ・・

あれほど 、 母親 は 、 自分 を かわいがって くれた のに 、 そして 、 死んで から も ああして 自分 の 身の上 を 守って くれた のに 、 自分 は それ に 対して 、 あまり 冷淡であった こと に 、 心 づきました 。 きっと 、 これ は 母 の 怒り であろう と 思いました から 、 子供 は 、 懇ろに 母親 の 霊魂 を 弔って 、 坊さん を 呼び 、 村 の 人々 を 呼び 、 真心 を こめて 母親 の 法事 を 営んだ ので ありました 。 ・・

明くる 年 の 春 、 また りんご の 花 は 真っ白に 雪 の ごとく 咲きました 。 そして 、 夏 に は 、 青々 と 実りました 。 毎年 この ころ に なる と 、 悪い 虫 が つく ので ありました から 、 今年 は 、 どう か 満足に 実 を 結ば せたい と 思いました 。 ・・

する と 、 その 年 の 夏 の 日 暮れ方 の こと であります 。 どこ から と なく 、 たくさんの こうもり が 飛んで きて 、 毎晩 の ように りんご 畑 の 上 を 飛びまわって 、 悪い 虫 を みんな 食べた のであります 。 その 中 に 、 一 ぴき 大きな こうもり が ありました 。 その 大きな こうもり は 、 ちょうど 女王 の ように 、 ほか の こうもり を 率いて いる ごとく 、 見えました 。 月 が 円く 、 東 の 空 から 上る 晩 も 、 また 、 黒 雲 が 出て 外 の 真っ暗な 晩 も 、 こうもり は 、 りんご 畑 の 上 を 飛びまわりました 。 その 年 は 、 りんご に 虫 が つか ず よく 実って 、 予想 した より も 、 多く の 収穫 が あった のであります 。 村 の 人々 は 、 たがいに 語らいました 。 ・・

「 牛 女 が 、 こうもり に なって きて 、 子供 の 身の上 を 守る んだ 。」 と 、 その やさしい 、 情 の 深い 、 心根 を 哀れに 思った のであります 。 ・・

また 、 つぎ の 、 つぎの 年 も 、 夏 に なる と 、 一 ぴき の 大きな こうもり が 、 多く の こうもり を 率いて きて 、 りんご 畑 の 上 を 毎晩 の ように 飛びまわりました 。 そして 、 りんご に は 、 おかげ で 悪い 虫 が つか ず に よく 実りました 。 ・・

こうして 、 それ から 四 、 五 年 の 後 に は 、 牛 女 の 子供 は 、 この 地方 で の 幸福な 身の上 の 百姓 と なった のであります 。 ・・


牛 女 - 小川 未明 うし|おんな|おがわ|みめい Cow Woman OGAWA Mimei

牛 女 - 小川 未明 うし|おんな|おがわ|みめい Cow Woman-Mimei Ogawa

ある 村 に 、 脊 の 高い 、 大きな 女 が ありました 。 |むら||せき||たかい|おおきな|おんな|| あまり 大きい ので 、 くび を 垂れて 歩きました 。 |おおきい||||しだれて|あるきました その 女 は 、 おし でありました 。 |おんな|||で ありました The woman was a man. 性質 は 、 いたって やさしく 、 涙もろくて 、 よく 、 一 人 の 子供 を かわいがりました 。 せいしつ||||なみだもろくて||ひと|じん||こども|| The nature was very gentle, fragile, and well petted for one child. ・・

女 は 、 いつも 黒い ような 着物 を きて いました 。 おんな|||くろい||きもの||| ただ 子供 と 二 人 ぎり で ありました 。 |こども||ふた|じん||| I was just with my child. まだ 年 の いか ない 子供 の 手 を 引いて 、 道 を 歩いて いる の を 、 村 の 人 は よく 見た のであります 。 |とし||||こども||て||ひいて|どう||あるいて||||むら||じん|||みた| Villagers often saw them walking down the road, pulling the hand of a young child. そして 、 大 女 で やさしい ところ から 、 だれ が いった もの か 「 牛 女 」 と 名づけた のであります 。 |だい|おんな||||||||||うし|おんな||なづけた| And because he was a big woman and kind, he named him "cow woman". ・・

村 の 子供 ら は 、 この 女 が 通る と 、「 牛 女 」 が 通った と いって 、 珍しい もの でも 見る ように 、 みんな して 、 後ろ に ついていって 、 いろいろの こと を いい はやしました けれど 、 女 は おし で 、 耳 が 聞こえません から 、 黙って 、 いつも の ように 下 を 向いて 、 の そり の そり と 歩いて ゆく ようす が 、 いかにも かわいそうであった のであります 。 むら||こども||||おんな||とおる||うし|おんな||かよった|||めずらしい|||みる|よう に|||うしろ|||||||||おんな||||みみ||きこえません||だまって|||よう に|した||むいて||||||あるいて|||||| ・・

牛 女 は 、 自分 の 子供 を かわいがる こと は 、 一 通り で ありません でした 。 うし|おんな||じぶん||こども|||||ひと|とおり||| 自分 が 不 具 者 だ と いう こと も 、 子供 が 、 不 具 者 の 子だから 、 みんな に ばかに さ れる のだろう と いう こと も 、 父親 が ない から 、 ほか に だれ も 子供 を 育てて くれる もの が ない と いう こと も 、 よく 知っていました 。 じぶん||ふ|つぶさ|もの||||||こども||ふ|つぶさ|もの||こだから|||||||||||ちちおや||||||||こども||そだてて||||||||||しっていました ・・

それ です から 、 いっそう 子供 に 対する 不憫 がました と みえて 、 子供 を かわいがった のであります 。 ||||こども||たいする|ふびん||||こども||| ・・

子供 は 男の子 で 、 母親 を 慕いました 。 こども||おとこのこ||ははおや||したいました そして 、 母親 の ゆく ところ へ は 、 どこ へ でも ついて ゆきました 。 |ははおや|||||||||| ・・

牛 女 は 、 大 女 で 、 力 も 、 また ほか の 人 たち より は 、 幾 倍 も ありました うえ に 、 性質 が 、 やさしく あった から 、 人々 は 、 牛 女 に 力 仕事 を 頼みました 。 うし|おんな||だい|おんな||ちから|||||じん||||いく|ばい|||||せいしつ|||||ひとびと||うし|おんな||ちから|しごと||たのみました たき ぎ を しょったり 、 石 を 運んだり 、 また 、 荷物 を かつが したり 、 いろいろの こと を 頼みました 。 ||||いし||はこんだり||にもつ||かつ が|||||たのみました 牛 女 は 、 よく 働きました 。 うし|おんな|||はたらきました そして 、 その 金 で 二 人 は 、 その 日 、 その 日 を 暮らして いました 。 ||きむ||ふた|じん|||ひ||ひ||くらして| ・・

こんなに 大きくて 、 力 の 強い 牛 女 も 、 病気 に なりました 。 |おおきくて|ちから||つよい|うし|おんな||びょうき|| どんな もの でも 、 病気 に かから ない もの は ないで ありましょう 。 |||びょうき||||||| しかも 、 牛 女 の 病気 は 、 なかなか 重かった のであります 。 |うし|おんな||びょうき|||おもかった| そして 働く こと も でき なく なりました 。 |はたらく||||| ・・

牛 女 は 、 自分 は 死ぬ ので ない か と 思いました 。 うし|おんな||じぶん||しぬ|||||おもいました もし 、 自分 が 死ぬ ような こと が あった なら 、 子供 を だれ が 見て くれよう と 思いました 。 |じぶん||しぬ||||||こども||||みて|||おもいました そう 思う と 、 たとえ 死んで も 死に きれ ない 。 |おもう|||しんで||しに|| 自分 の 霊魂 は 、 なに か に 化けて きて も 、 きっと 子供 の 行く末 を 見守ろう と 思いました 。 じぶん||れいこん|||||ばけて||||こども||ゆくすえ||みまもろう||おもいました 牛 女 の 大きな やさしい 目 の 中 から 、 大粒の 涙 が 、 ぽと り ぽと り と 流れた のであります 。 うし|おんな||おおきな||め||なか||おおつぶの|なみだ|||||||ながれた| ・・

しかし 、 運命 に は 牛 女 も 、 しかたがなかった と みえます 。 |うんめい|||うし|おんな|||| 病気 が 重く なって 、 とうとう 牛 女 は 死んで しまいました 。 びょうき||おもく|||うし|おんな||しんで| ・・

村 の 人々 は 、 牛 女 を かわいそうに 思いました 。 むら||ひとびと||うし|おんな|||おもいました どんなに 置いて いった 子供 の こと に 心 を 取ら たろう と 、 だれしも 深く 察して 、 牛 女 を あわれま ぬ もの は なかった のであります 。 |おいて||こども||||こころ||とら||||ふかく|さっして|うし|おんな||||||| ・・

人々 は 寄り集まって 、 牛 女 の 葬式 を 出して 、 墓地 に うずめて やりました 。 ひとびと||よりあつまって|うし|おんな||そうしき||だして|ぼち||| そして 、 後 に 残った 子供 を 、 みんな が めんどう を 見て 育てて やる こと に なりました 。 |あと||のこった|こども||||||みて|そだてて|||| ・・

子供 は 、 ここの 家 から 、 かしこ の 家 へ と いう ふうに 移り変わって 、 だんだん 月日 と ともに 大きく なって いった のであります 。 こども||ここ の|いえ||||いえ|||||うつりかわって||つきひ|||おおきく||| しかし 、 うれしい こと 、 また 、 悲しい こと が ある に つけて 、 子供 は 死んだ 母親 を 恋しく 思いました 。 ||||かなしい||||||こども||しんだ|ははおや||こいしく|おもいました ・・

村 に は 、 春 が き 、 夏 が き 、 秋 と なり 、 冬 と なりました 。 むら|||はる|||なつ|||あき|||ふゆ|| 子供 は 、 だんだん 死んだ 母親 を なつかしく 思い 、 恋しく 思う ばかりでありました 。 こども|||しんだ|ははおや|||おもい|こいしく|おもう| ・・

ある 冬 の 日 の こと 、 子供 は 、 村 は ずれ に 立って 、 かなた の 国境 の 山々 を ながめて います と 、 大きな 山 の 半 腹 に 、 母 の 姿 が はっきり と 、 真っ白な 雪 の 上 に 黒く 浮き出 して 見えた のであります 。 |ふゆ||ひ|||こども||むら||||たって|||くにざかい||やまやま|||||おおきな|やま||はん|はら||はは||すがた||||まっしろな|ゆき||うえ||くろく|うきで||みえた| これ を 見る と 、 子供 は びっくり しました 。 ||みる||こども||| けれど 、 この こと を 口 に 出して だれ に も いいません でした 。 ||||くち||だして||||| ・・

子供 は 、 母親 が 恋しく なる と 、 村 は ずれ に 立って 、 かなた の 山 を 見ました 。 こども||ははおや||こいしく|||むら||||たって|||やま||みました すると 、 天気 の いい 晴れた 日 に は 、 いつでも 母親 の 黒い 姿 を ありあり と 見る こと が できた のです 。 |てんき|||はれた|ひ||||ははおや||くろい|すがた||||みる||||の です ちょうど 母親 は 、 黙って 、 じっと こちら を 見つめて 、 我が 子 の 身の上 を 見守って いる ように 思わ れた ので ありました 。 |ははおや||だまって||||みつめて|わが|こ||みのうえ||みまもって||よう に|おもわ||| ・・

子供 は 、 口 に 出して 、 その こと を いいません でした けれど 、 いつか 村人 は 、 ついに これ を 見つけました 。 こども||くち||だして||||||||むらびと|||||みつけました ・・

「 西 の 山 に 、 牛 女 が 現れた 。」 にし||やま||うし|おんな||あらわれた と 、 いいふらしました 。 そして 、 みんな 外 に 出て 、 西 の 山 を ながめた のであります 。 ||がい||でて|にし||やま||| ・・

「 きっと 、 子供 の こと を 思って 、 あの 山 に 現れた のだろう 。」 |こども||||おもって||やま||あらわれた| と 、 みんな は 口々に いいました 。 |||くちぐちに| 子供 ら は 、 天気 の いい 晩 方 に は 、 西 の 国境 の 山 の 方 を 見て 、・・ こども|||てんき|||ばん|かた|||にし||くにざかい||やま||かた||みて

「 牛 女 ! うし|おんな 牛 女 ! うし|おんな 」 と 、 口々に いって 、 その 話 で もち きった のです 。 |くちぐちに|||はなし||||の です ・・

ところが 、 いつしか 春 が きて 、 雪 が 消え かかる と 、 牛 女 の 姿 も だんだん うすく なって いって 、 まったく 雪 が 消えて しまう 春 の 半ば ごろ に なる と 、 牛 女 の 姿 は 見られ なく なって しまった のです 。 ||はる|||ゆき||きえ|||うし|おんな||すがた|||||||ゆき||きえて||はる||なかば|||||うし|おんな||すがた||みられ||||の です ・・

しかし 、 冬 と なって 、 雪 が 山 に 積もり 里 に 降る ころ に なる と 、 西 の 山 に 、 またしても 、 ありあり と 牛 女 の 黒い 姿 が 現れました 。 |ふゆ|||ゆき||やま||つもり|さと||ふる|||||にし||やま|||||うし|おんな||くろい|すがた||あらわれました 村 の 人々 や 子供 ら は 冬 の 間 、 牛 女 の うわさ で もちきりました 。 むら||ひとびと||こども|||ふゆ||あいだ|うし|おんな|||| そして 、 牛 女 の 残して いった 子供 は 、 恋しい 母親 の 姿 を 、 毎日 の ように 村 は ずれ に 立って ながめた のであります 。 |うし|おんな||のこして||こども||こいしい|ははおや||すがた||まいにち||よう に|むら||||たって|| ・・

「 牛 女 が 、 また 西 の 山 に 現れた 。 うし|おんな|||にし||やま||あらわれた あんなに 子供 の 身の上 を 心配 して いる 。 |こども||みのうえ||しんぱい|| かわいそうな もの だ 。」 と 、 村人 は いって 、 その 子供 の めんどう を よく 見て やった のす 。 |むらびと||||こども|||||みて|| ・・

やがて 春 が きて 、 暖かに なる と 、 牛 女 の 姿 は 、 その 雪 と ともに 消えて しまった のでありました 。 |はる|||あたたかに|||うし|おんな||すがた|||ゆき|||きえて|| ・・

こうして 、 くる 年 も 、 くる 年 も 、 西 の 山 に 牛 女 の 黒い 姿 は 現れました 。 ||とし|||とし||にし||やま||うし|おんな||くろい|すがた||あらわれました その うち に 、 子供 は 大きく なった もの です から 、 この 村 から 程近い 、 町 の ある 商家 へ 、 奉公 さ せられる こと に なった のであります 。 |||こども||おおきく||||||むら||ほどちかい|まち|||しょうか||ほうこう||せら れる|||| ・・

子供 は 、 町 に いって から も 、 西 の 山 を 見て 恋しい 母親 の 姿 を ながめました 。 こども||まち|||||にし||やま||みて|こいしい|ははおや||すがた|| 村 の 人々 は 、 その 子供 が い なく なって から も 、 雪 が 降って 、 西 の 山 に 牛 女 の 姿 が 現れる と 、 母親 と 、 子供 の 情 合い に ついて 、 語り合った ので ありました 。 むら||ひとびと|||こども|||||||ゆき||ふって|にし||やま||うし|おんな||すがた||あらわれる||ははおや||こども||じょう|あい|||かたりあった|| ・・

「 ああ 、 牛 女 の 姿 が あんなに うすく なった もの 、 暖かに なった はずだ 。」 |うし|おんな||すがた||||||あたたかに|| と 、 しまい に は 、 季節 の 移り変わり を 、 牛 女 に ついて 人々 は いう ように なった のでした 。 ||||きせつ||うつりかわり||うし|おんな|||ひとびと|||よう に|| ・・

牛 女 の 子供 は 、 ある 年 の 春 、 西 の 山 に 現れた 母親 の 許し も 受け ず に 、 かってに その 商家 から 飛び出して 、 汽車 に 乗って 、 故郷 を 見捨てて 、 南 の 方 の 国 へ いって しまった のであります 。 うし|おんな||こども|||とし||はる|にし||やま||あらわれた|ははおや||ゆるし||うけ|||||しょうか||とびだして|きしゃ||のって|こきょう||みすてて|みなみ||かた||くに|||| ・・

村 の 人 も 、 町 の 人 も 、 もう だれ も 、 その 子供 の こと に ついて 、 その後 の こと を 知る こと が できません でした 。 むら||じん||まち||じん||||||こども|||||そのご||||しる|||| その うち に 、 夏 も 過ぎ 、 秋 も 去って 、 冬 と なりました 。 |||なつ||すぎ|あき||さって|ふゆ|| ・・

やがて 、 山 に も 、 村 に も 、 町 に も 、 雪 が 降って 積もりました 。 |やま|||むら|||まち|||ゆき||ふって|つもりました ただ 不思議な の は 、 どうした こと か 、 今年 に かぎって 、 西 の 山 に 牛 女 の 姿 が 見え ない こと で ありました 。 |ふしぎな||||||ことし|||にし||やま||うし|おんな||すがた||みえ|||| ・・

人々 は 、 牛 女 の 姿 が 見え ない の を いぶかし がって 、・・ ひとびと||うし|おんな||すがた||みえ|||||

「 子供 が 、 もう 町 に い なく なった から 、 牛 女 は 見守る 必要 が なくなった のだろう 。」 こども|||まち||||||うし|おんな||みまもる|ひつよう||| と 、 語り合いました 。 |かたりあいました ・・

その 冬 も 、 いつしか 過ぎて 春 が きた ころ で あります 。 |ふゆ|||すぎて|はる||||| 町 の 中 に は 、 まだ ところどころ に 雪 が 消え ず に 残って いました 。 まち||なか||||||ゆき||きえ|||のこって| ある 日 の 夜 の こと であります 。 |ひ||よ||| 町 の 中 を 大きな 女 が 、 の そり の そり と 歩いて いました 。 まち||なか||おおきな|おんな|||||||あるいて| それ を 見た 人々 は 、 びっくり しました 。 ||みた|ひとびと||| まさしく 、 それ は 牛 女 であった から であります 。 |||うし|おんな||| ・・

どうして 牛 女 が 、 どこ から きた もの か と 、 みんな は 語り合いました 。 |うし|おんな||||||||||かたりあいました 人々 は その後 も たびたび 真 夜中 に 、 牛 女 が さびし そうに 町 の 中 を 歩いて いる 姿 を 見た ので ありました 。 ひとびと||そのご|||まこと|よなか||うし|おんな|||そう に|まち||なか||あるいて||すがた||みた|| ・・

「 きっと 牛 女 は 、 子供 が 故郷 から 出て いって しまった の を 知ら ない のだろう 。 |うし|おんな||こども||こきょう||でて|||||しら|| それ で 、 この 町 の 中 を 歩いて 、 子供 を 探して いる の に ちがいない 。」 |||まち||なか||あるいて|こども||さがして|||| と 、 人々 は いいました 。 |ひとびと|| ・・

雪 が まったく 消えて 、 町 の 中 に は 跡 を も 止め なく なりました 。 ゆき|||きえて|まち||なか|||あと|||とどめ|| 木々 は 、 みんな 銀色 の 芽 を ふいて 、 夜 もうす 明るくて いい 季節 と なりました 。 きぎ|||ぎんいろ||め|||よ||あかるくて||きせつ|| ・・

ある 夜 、 人 は 牛 女 が 町 の 暗い 路 次に 立って 、 さめざめ と 泣いて いる の を 見た と いいます 。 |よ|じん||うし|おんな||まち||くらい|じ|つぎに|たって|||ないて||||みた|| しかし その後 、 だれひとり 、 また 牛 女 の 姿 を 見た もの が ありません 。 |そのご|||うし|おんな||すがた||みた||| 牛 女 は どうした こと か 、 もはや この 町 に は おら なかった のです 。 うし|おんな|||||||まち|||||の です ・・

その 年 以来 、 冬 に なって も 、 ふたたび 山 に は 牛 女 の 黒い 姿 は 見え なかった のであります 。 |とし|いらい|ふゆ|||||やま|||うし|おんな||くろい|すがた||みえ|| ・・

牛 女 の 子供 は 、 南 の 方 の 雪 の 降ら ない 国 へ いって 、 そこ で いっしょうけんめいに 働きました 。 うし|おんな||こども||みなみ||かた||ゆき||ふら||くに||||||はたらきました そして 、 かなり の 金持ち と なりました 。 |||かねもち|| そう する と 、 自分 の 生まれた 国 が なつかしく なった のであります 。 |||じぶん||うまれた|くに|||| 国 へ 帰って も 、 母親 も なければ 、 兄弟 も ありません けれど 、 子供 の 時分 に 自分 を 育てて くれた しんせつな 人々 が ありました 。 くに||かえって||ははおや|||きょうだい||||こども||じぶん||じぶん||そだてて|||ひとびと|| 彼 は 、 その 人 たち や 、 村 の こと を 思い出しました 。 かれ|||じん|||むら||||おもいだしました その 人 たち に 対して 、 お 礼 を いわ なければ なら ぬ と 思いました 。 |じん|||たいして||れい|||||||おもいました ・・

子供 は 、 たくさんの 土産物 と 、 お 金 と を 持って 、 はるばる と 故郷 に 帰って きた のであります 。 こども|||みやげもの|||きむ|||もって|||こきょう||かえって|| そして 、 村 の 人々 に 厚く お 礼 を 申しました 。 |むら||ひとびと||あつく||れい||もうしました 村 の 人 たち は 、 牛 女 の 子供 が 出世 を した の を 喜び 、 祝いました 。 むら||じん|||うし|おんな||こども||しゅっせ|||||よろこび|いわいました ・・

牛 女 の 子供 は 、 なに か 、 自分 は 事業 を しなければ なら ぬ と 考えました 。 うし|おんな||こども||||じぶん||じぎょう||||||かんがえました そこ で 村 に 広い 地面 を 買って 、 たくさんの りんご の 木 を 植えました 。 ||むら||ひろい|じめん||かって||||き||うえました 大きな いい りんご の 実 を 結ば して 、 それ を 諸国 に 出そう と した のであります 。 おおきな||||み||むすば||||しょこく||だそう||| ・・

彼 は 、 多く の 人 を 雇って 、 木 に 肥料 を やったり 、 冬 に なる と 囲い を して 、 雪 の ため に 折れ ない ように 手 を かけたり しました 。 かれ||おおく||じん||やとって|き||ひりょう|||ふゆ||||かこい|||ゆき||||おれ||よう に|て||| その うち に 木 は だんだん 大きく 伸びて 、 ある 年 の 春 に は 、 広い 畑 一面 に 、 さながら 雪 の 降った ように 、 りんご の 花 が 咲きました 。 |||き|||おおきく|のびて||とし||はる|||ひろい|はたけ|いちめん|||ゆき||ふった|よう に|||か||さきました 太陽 は 終日 、 花 の 上 を 明るく 照らして 、 みつばち は 、 朝 から 日 の 暮れる まで 、 花 の 中 を うなり つづけて いました 。 たいよう||しゅうじつ|か||うえ||あかるく|てらして|||あさ||ひ||くれる||か||なか|||| ・・

初夏 の ころ に は 、 青い 、 小さな 実 が 鈴 生 り に なりました 。 しょか|||||あおい|ちいさな|み||すず|せい||| そして 、 その実 が だんだん 大きく なり かけた 時分 に 、 一 時 に 虫 が ついて 、 畑 全体 に りんご の 実 が 落ちて しまいました 。 |そのじつ|||おおきく|||じぶん||ひと|じ||ちゅう|||はたけ|ぜんたい||||み||おちて| ・・

明くる 年 も 、 その 明くる 年 も 、 同じ ように 、 りんご の 実 は 落ちて しまいました 。 あくる|とし|||あくる|とし||おなじ|よう に|||み||おちて| それ は なんとなく 、 子細 の ある らしい こと で ありました 。 |||しさい|||||| 村 の もの の わかった じいさん は 、 牛 女 の 子供 に 向かって 、・・ むら|||||||うし|おんな||こども||むかって

「 なに か の たたり かも しれ ない 。 おまえ さん に は 、 心 あたり に なる ような こと は ない か な 。」 ||||こころ||||||||| と 、 ある とき 、 聞きました 。 |||ききました 牛 女 の 子供 は 、 その とき は 、 なにも それ に ついて 思い出す こと は ありません でした 。 うし|おんな||こども|||||||||おもいだす|||| ・・

しかし 、 彼 は 独り と なって 、 静かに 考えた とき 、 自分 は 町 から 出て 、 遠方 へ いった 時分 に も 、 母親 の 霊魂 に 無断 であった こと を 思いました 。 |かれ||ひとり|||しずかに|かんがえた||じぶん||まち||でて|えんぽう|||じぶん|||ははおや||れいこん||むだん||||おもいました また 、 故郷 へ 帰って きて から も 、 母親 の お 墓 に おまいり を した ばかりで 、 まだ 法事 も 営ま なかった こと を 思い出しました 。 |こきょう||かえって||||ははおや|||はか|||||||ほうじ||いとなま||||おもいだしました ・・

あれほど 、 母親 は 、 自分 を かわいがって くれた のに 、 そして 、 死んで から も ああして 自分 の 身の上 を 守って くれた のに 、 自分 は それ に 対して 、 あまり 冷淡であった こと に 、 心 づきました 。 |ははおや||じぶん||||||しんで||||じぶん||みのうえ||まもって|||じぶん||||たいして||れいたんであった|||こころ| きっと 、 これ は 母 の 怒り であろう と 思いました から 、 子供 は 、 懇ろに 母親 の 霊魂 を 弔って 、 坊さん を 呼び 、 村 の 人々 を 呼び 、 真心 を こめて 母親 の 法事 を 営んだ ので ありました 。 |||はは||いかり|||おもいました||こども||ねんごろに|ははおや||れいこん||とむらって|ぼうさん||よび|むら||ひとびと||よび|まごころ|||ははおや||ほうじ||いとなんだ|| ・・

明くる 年 の 春 、 また りんご の 花 は 真っ白に 雪 の ごとく 咲きました 。 あくる|とし||はる||||か||まっしろに|ゆき|||さきました そして 、 夏 に は 、 青々 と 実りました 。 |なつ|||あおあお||みのりました 毎年 この ころ に なる と 、 悪い 虫 が つく ので ありました から 、 今年 は 、 どう か 満足に 実 を 結ば せたい と 思いました 。 まいとし||||||わるい|ちゅう||||||ことし||||まんぞくに|み||むすば|||おもいました ・・

する と 、 その 年 の 夏 の 日 暮れ方 の こと であります 。 |||とし||なつ||ひ|くれがた||| どこ から と なく 、 たくさんの こうもり が 飛んで きて 、 毎晩 の ように りんご 畑 の 上 を 飛びまわって 、 悪い 虫 を みんな 食べた のであります 。 |||||||とんで||まいばん||よう に||はたけ||うえ||とびまわって|わるい|ちゅう|||たべた| その 中 に 、 一 ぴき 大きな こうもり が ありました 。 |なか||ひと||おおきな||| その 大きな こうもり は 、 ちょうど 女王 の ように 、 ほか の こうもり を 率いて いる ごとく 、 見えました 。 |おおきな||||じょおう||よう に|||||ひきいて|||みえました 月 が 円く 、 東 の 空 から 上る 晩 も 、 また 、 黒 雲 が 出て 外 の 真っ暗な 晩 も 、 こうもり は 、 りんご 畑 の 上 を 飛びまわりました 。 つき||まるく|ひがし||から||のぼる|ばん|||くろ|くも||でて|がい||まっくらな|ばん|||||はたけ||うえ||とびまわりました その 年 は 、 りんご に 虫 が つか ず よく 実って 、 予想 した より も 、 多く の 収穫 が あった のであります 。 |とし||||ちゅう|||||みのって|よそう||||おおく||しゅうかく||| 村 の 人々 は 、 たがいに 語らいました 。 むら||ひとびと|||かたらいました ・・

「 牛 女 が 、 こうもり に なって きて 、 子供 の 身の上 を 守る んだ 。」 うし|おんな||||||こども||みのうえ||まもる| と 、 その やさしい 、 情 の 深い 、 心根 を 哀れに 思った のであります 。 |||じょう||ふかい|こころね||あわれに|おもった| ・・

また 、 つぎ の 、 つぎの 年 も 、 夏 に なる と 、 一 ぴき の 大きな こうもり が 、 多く の こうもり を 率いて きて 、 りんご 畑 の 上 を 毎晩 の ように 飛びまわりました 。 ||||とし||なつ||||ひと|||おおきな|||おおく||||ひきいて|||はたけ||うえ||まいばん||よう に|とびまわりました そして 、 りんご に は 、 おかげ で 悪い 虫 が つか ず に よく 実りました 。 ||||||わるい|ちゅう||||||みのりました ・・

こうして 、 それ から 四 、 五 年 の 後 に は 、 牛 女 の 子供 は 、 この 地方 で の 幸福な 身の上 の 百姓 と なった のであります 。 |||よっ|いつ|とし||あと|||うし|おんな||こども|||ちほう|||こうふくな|みのうえ||ひゃくしょう||| ・・