2. 浦島 太郎
まもなく 、 かめ は また 出て きて 、・・
「 さあ 、 こちら へ 」・・
と 、 浦島 を 御殿 の なか へ 案内 しました 。 たい や 、 ひらめ や かれい や 、 いろいろの お さかな が 、 ものめずらし そうな 目 で 見て いる なか を とおって 、 は いって 行きます と 、 乙姫 さま が おおぜい の 腰元 を つれて 、 お迎え に 出て きました 。 やがて 乙姫 さま に ついて 、 浦島 はず ん ず ん 奥 へ とおって 行きました 。 めの う の 天井 に さんご の 柱 、 廊下 に は るり が しきつめて ありました 。 こわごわ その 上 を あるいて 行きます と 、 どこ から と も なく いい に おい が して 、 たのしい 楽 の 音 が きこえて きました 。 ・・
やがて 、 水晶 の 壁 に 、 いろいろの 宝石 を ちりばめた 大広間 に とおります と 、・・ 「 浦島 さん 、 ようこそ おい で くださ いました 。 先日 は かめ の いのち を お 助け ください まして 、 まことに ありがとう ございます 。 なんにも おもて なし は ございませ ん が 、 どうぞ ゆっくり お あそび ください まし 」・・
と 、 乙姫 さま は いって 、 ていねいに おじぎ しました 。 やがて 、たい を かしら に 、 かつお だの 、 ふぐ だの 、 えび だの 、 たこ だの 、 大小 いろいろ の お さかな が 、 めずらしい ごちそう を 山 と はこんで きて 、 にぎやかな お 酒盛 が はじまりました 。 きれいな 腰元 たち は 、 歌 を うたったり 踊り を おどったり しました 。 浦島 は ただ もう 夢 の なか で 夢 を 見て いる ようでした 。 ・・
ごちそう が すむ と 、 浦島 は また 乙姫 さま の 案内 で 、 御殿 の なか を のこらず 見せて もらいました 。 どの お へや も 、 どの お へや も 、 めずらしい 宝石 で かざり立てて あります から その うつくし さ は 、 とても 口 や ことば で は いえ ない くらい でした 。 ひととおり 見て しまう と 、 乙姫 さま は 、・・
「 こんど は 四季 の けしき を お 目 に かけましょう 」・・
と いって 、 まず 、 東 の 戸 を お あけ に なりました 。 そこ は 春 の けしき で 、 いちめん 、 ぼうっと かすんだ なか に 、 さくら の 花 が 、 うつくしい 絵 の ように 咲き乱れて いました 。 青青 と した やなぎ の 枝 が 風 に なびいて 、 その なか で 小鳥 が ないたり 、 ちょうちょう が 舞ったり して いました 。 ・・
次に 、 南 の 戸 を お あけ に なりました 。 そこ は 夏 の けしき で 、 垣根 に は 白い う の 花 が 咲いて 、 お 庭 の 木 の 青葉 の なか で は 、 せみ や ひ ぐ らし が ないて いました 。 お 池 に は 赤 と 白 の はす の 花 が 咲いて 、 その 葉 の 上 に は 、 水晶 の 珠 の ように 露 が たまって いました 。 お 池 の ふち に は 、 きれいな さざ波 が 立って 、 おしどり や かも が うかんで いました 。 ・・
次に 西 の 戸 を お あけ に なりました 。 そこ は 秋 の けしき で 花壇 の なか に は 、 黄 ぎ く 、 白 ぎ く が 咲き乱れて 、 ぷん と いい かおり を 立てました 。 むこう を 見る と 、 かっと もえ 立つ ような もみじ の 林 の 奥 に 、 白い 霧 が たちこめて いて 、 しか の なく 声 が かなしく きこえました 。 ・・
いちばん おしまい に 、 北 の 戸 を お あけ に なりました 。 そこ は 冬 の けしき で 、 野 に は 散り のこった 枯葉 の 上 に 、 霜 が きらきら 光って いました 。 山 から 谷 に かけて 、 雪 が まっ白 に 降り 埋 んだ なか から 、 柴 を たく けむり が ほそぼそ と あがって いました 。 ・・
浦島 は 何 を 見て も 、 おどろき あきれて 、 目 ばかり 見はって いました 。 その うち だんだん ぼうっと して きて 、 お 酒 に 酔った 人 の ように なって 、 何もかも わすれて しまいました 。