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悪人 (Villain) (1st Book), 第三章 彼女は誰に出会ったか?【2】

第 三 章 彼女 は 誰 に 出会った か?【2】

ベッド の 軋み 方 を 確かめる ように 、 祐一 は 何度 も 寝返り を 打った 。

午後 八 時 五十 分 。

まだ 眠る に は 早 すぎる 時間 だった が 、 ここ 数 日 、 できれば 一刻 も 早く 眠り に 落ち たくて 、 風呂 に 入って 夕食 を 済ませる と 、 まだ 目 を ギラギラ さ せた まま ベッド に 入る 。

入った ところ で 眠れる わけ も ない 。

こう やって 何度 も 寝返り を 繰り返して いる うち に 、 枕 の 臭い が 気 に なり 出し 、 首筋 に 触れる 毛布 の 毛 羽 立ち に イライラ して くる 。

たいてい 気 が つく と 、 性器 を 弄って いる 。

布団 の 中 で 硬く なった 性器 は 、 横顔 に 当たる 赤外線 ストーブ の 熱 と 同じ くらい に 熱い 。

事件 から すでに 九 日 が 経って いた 。

重要 参考人 である 福岡 の 大学生 の 行方 が 未 だに 分から ない と いう ところ まで 伝えて いた テレビ の ワイドショー も 、 ここ 数 日 は まったく 三瀬 の 事件 を 扱って い ない 。

駐在 所 の 巡査 が こっそり と 房枝 に 告げた ように 、 実際 に 警察 は 、 未 だ 行方 の 分から ない その 大学生 を 追って いる と しか 考え られ ない 。

あれ 以来 、 祐一 の 元 に 警察 から の 連絡 や 聞き込み は ない 。

捜査 線上 から 完全に 消えた か の よう に 何も 起こら ない 。

目 を 閉じる と 、 あの 夜 、 三瀬 峠 を 走り抜けた とき の 感触 が 未 だに 手 に 蘇る 。

強く ハンドル を 握って いた せい で 、 何度 も カーブ で スピン し かけた 。 車 の ライト が 藪 を 照らし 、 真っ白な ガード レール が 迫る 。

また 寝返り を 打った 祐一 は 、「 早く 眠って しまえ 」 と 自分 に 言い聞かせる ように 臭い 枕 に 顔 を 埋めた 。

汗 と 体 臭 と シャンプー が 混じり合った イライラ する 臭い だった 。

床 に 脱ぎ捨てた ズボン から メール の 着信 音 が 聞こえた の は その とき だった 。

祐一 は 眠る こと へ の 強迫 から 解放 して もらえた ような 気 が して 、 すぐに 腕 を 伸ばして 携帯 を 取り出した 。

どうせ 一二三 から だろう と 思った が 、 送信 者 欄 に 見知らぬ アドレス が あった 。

ベッド から 抜け出して 床 に あぐら を かいた 。

真冬 でも パンツ だけ で 寝る 習慣 が ある ので 、 赤外線 ストーブ に 向け られた 背中 が 熱い 。

〈 こんにちは 。 覚えて ます か ? 三 カ月 くらい 前 に ちょっと だけ メール を やりとり した 者 です 。 私 は 佐賀 に 住んで いる 双子 姉妹 の 姉 で 、 その とき あなた と 灯台 の 話 で 盛り上がった んだ けど 、 もう 忘れ ちゃ い ました か ? 急な メール ごめんなさい 〉

メール を 読み 終える と 、 祐一 は 赤外線 ストーブ が 当たる 背中 を 掻いた 。

数 十 秒 の こと だった が 、 肌 が 焼けた ように 熱く なって いた 。

あぐら を かいた まま 、 畳 の 上 を 移動 した 。

横 に あった ズボン や トレーナー が 、 その 膝 に 絡まって 一緒に ついてくる 。

メール を 送って きた 相手 の 女 を 祐一 は 覚えて いた 。

三 カ月 ほど 前 、 出会い 系 サイト に 自分 の アドレス を 登録 した とき 、 五 、 六 通 の メール が あった うち の 一 人 で 、 しばらく は メール の やりとり を して いた のだ が 、 祐一 が ドライブ に 誘った とたん 、 いきなり 返信 が こ なく なった 。

〈 久しぶり 。 急に どうした と ? 自然に 指 が 動いた 。

普段 、 喋る とき に は 頭 に 浮かんだ 言葉 が 口 から 出る 前 に 、 必ず 何 か に 突っかかる のに 、 こう やって メール を 打つ とき だけ は 、 その 言葉 が すら すら と 指先 に 伝わって いく 。

〈 覚えて て くれた ? よかった 。 別に 用 は ない の 。 ただ 、 急に メール し たく なって 〉

女 から すぐに 返信 が あった 。

名前 を 思い出せ なかった が 、 思い出した ところ で 偽名 に 決まって いる 。

〈 あれ から 元気 やった ?

車 買う と か 言い よった けど 、 買った と ? 〉 と 祐一 は 返信 した 。

〈 買って ない よ 。 相変わらず 自転車 で 通勤 中 。 そっち は なんか いい こと あった ? 〈 いい こと ? 〈 彼女 できた と か ? 〈 でき とら ん よ 。 そっち は ? 〈 私 も 。 ねえ 、 あれ から どこ か 新しい 灯台 行った ? 〈 最近 ぜんぜん 行 っと らん 。 週 末 も 家 で 寝て ばっかり 〉

〈 そう な んだ 。 ねえ 、 どこ だ っけ ? 前 に 勧めて くれた 奇麗な 灯台 って 〉

〈 どこ の 灯台 ? 長崎 ? 佐賀 ? 〈 長崎 の 。 灯台 の 先 に 展望 台 が ある 小さな 島 が あって 、 そこ まで 歩いて 行ける って 。 そこ から 夕日 見たら 泣き たく なる くらい 奇麗 だって 〉

〈 ああ 、 それ やったら 樺島 の 灯台 やろ 。 うち から 近い よ 〉

〈 どれ くらい ? 〈 車 で 十五 分 か 二十 分 くらい 〉

〈 そ っか ぁ 。 いい 所 に 住 ん ど る と ね ー 〉

〈 別に いい 所 じゃ なか よ 〉

〈 でも 海 の 近く やろ ? 〈 海 なら 、 すぐ そこ に ある 〉

〈 海 なら 、 すぐ そこ に ある 〉 と 打った メール を 送った とたん 、 窓 の 外 から 波 止め で 砕ける 波 の 音 が 聞こえた 。

夜 に なる と 波 の 音 は 高く なる 。 波 の 音 は 夜通し 聞こえ 、 小さな ベッド で 眠る 祐一 の からだ を 浸して いく 。

そんな とき 、 祐一 は 波打ち際 の 流木 の ような 気持ち に なる 。

波 に 攫 われ そうで 攫 われ ず 、 砂浜 に 打ち上げ られ そうで 打ち上げ られ ない 。 いつまでも いつまでも 、 流木 は 砂 の 上 を 転がさ れ 続ける 。

〈 佐賀 に も ある ? 奇麗な 灯台 〉

すぐに 送ら れて きた メール に 、〈 ある ばい 。 佐賀 に も 〉 と 祐一 は 送り 返した 。

〈 でも 唐津 の ほう やろ ? うち 市 内 の ほう やけん 〉

送ら れて くる 一 文字 一 文字 に 音 が あって 、 聞いた こと も ない 女 の 声 が はっきり と 耳 に 届いた 。

祐一 は 車 で 何 度 か 走った こと の ある 佐賀 の 風景 を 思い描いた 。

長崎 と 違い 、 気 が 抜けて しまう ほど 平坦な 土地 で 、 どこまでも 単調な 街道 が 伸びて いる 。 前 に も 後ろ に も 山 は ない 。 急な 坂道 も なければ 、 石畳 の 路地 も ない 。 真 新しい アスファルト 道路 が ただ 真っすぐに 伸びて いる 。

道 の 両側 に は 本屋 や パチンコ 屋 や ファーストフード の 大型 店 が 並んで いる 。

どの 店舗 に も 大きな 駐車 場 が あり 、 たくさん 車 は 停 まって いる のに 、 なぜ か その 風景 の 中 に 人 だけ が い ない 。

ふと 、 今 、 メール の やりとり を して いる 女 は 、 あの 町 を 歩いて いる んだ 、 と 祐一 は 思った 。

とても 当たり前の こと だ が 、 車 から の 景色 しか 知ら ない 祐一 に とって 、 あの 単調な 町 を 歩く とき 、 風景 が どのように 見える の か 分から なかった 。 歩いて も 歩いて も 景色 は 変わら ない 。 まるで スローモーション の ような 景色 。 いつまでも いつまでも 打ち上げ られ ない 流木 が 見て いる ような 景色 。

〈 最近 、 誰 と も 話し とら ん 〉

手元 を 見る と 、 そう 書いて あった 。

送ら れて きた もの で は なく 、 自分 が 自分 の 指 で 無意識に 打って いた 文章 だった 。

祐一 は すぐに 消そう と した が 、 その あと に 〈 仕事 と 家 の 往復 だけ で 〉 と 付け加え 、 一瞬 迷い ながら 送信 した 。

これ まで 寂しい と 思った こと は なかった 。

寂しい と いう の が どういう もの な の か 分かって い なかった 。 ただ 、 あの 夜 を 境 に 、 今 、 寂しくて 仕方 が ない 。 寂し さ と いう の は 、 自分 の 話 を 誰 か に 聞いて もらい たい と 切望 する 気持ち な の かも しれ ない と 祐一 は 思う 。 これ まで は 誰 か に 伝え たい 自分 の 話 など なかった のだ 。 でも 、 今 の 自分 に は それ が あった 。 伝える 誰 か に 出会い たかった 。

「 珠代 ! 私 、 今夜 ちょっと 遅く なる かも しれ ん けん 」

妹 の 珠代 が 襖 の 向こう で 出勤 の 支度 を する 音 を 布団 の 中 で 聞き ながら 、 光代 は 言おう か 言う まい か と 悩んで いた 言葉 を 、 いよいよ 珠代 が 玄関 で 靴 を 履き 始めた とき に 告げた 。

「 棚卸し ? 玄関 から 珠代 の 声 が 返って くる 。

「 う 、…… うん 。 あ 、 いや 、 そう じゃ なくて 、 仕事 休み やけん ……。 とにかく 、 ちょっと 用 が あって 遅く なる と 思う 」

光代 は 布団 から 這い 出し 、 襖 を 開けて 玄関 の ほう へ 顔 を 出した 。

すでに 靴 を 履き 終えた 珠代 は ドアノブ に 手 を かけて いる 。

「 用 ? 何の ? 何時ごろ に なる と ? ごはん も いら ん って こと ? 矢継ぎ早に 質問 して くる わりに は 興味 も ない らしく 、 珠代 は ドア を 開け 、 片足 は 外 に 出して いる 。

「 起きる なら 、 鍵 か けん で いい ?

もう ッ 、 なんで 土曜日 に 出勤 な わけ ッ 」

珠代 は 光代 の 答え も 待た ず に ドア を 閉めた 。

閉まった ドア に 向かって 、「 いって らっしゃい 」 と 光代 は 声 を かけた 。

珠代 が 電気 カーペット を つけて いた おかげ で 、 這い 出した 手のひら や 膝 が ぽかぽか と 温かい 。

光代 は カレンダー を 手 に 取り 、 青い 22 と いう 数字 に 指 で 触れた 。

考えて みれば 、 店 の 繁盛 日 である 土 日 に 、 連続 して 休暇 を 取る の は あの 日 以来 だ 。

今 から 一 年 半 ほど 前 の ゴールデンウィーク 、 博多 で 暮らす 高校 時代 の 友人 の 家 に 泊まり に 行く 予定 で 、 溜まって いた 有給 休暇 を 取った のだ 。

友人 の 旦那 が その 週 末 法事 で 里帰り して おり 、 久しぶりに 二 人 で 夜通し お 喋り する 計画 だった 。 彼女 の 二 歳 に なる 息子 も 一 度 抱いて み たい と 思って いた 。

天神 行き の バス は 佐賀 駅前 に 乗り場 が ある 。

その 日 、 自転車 で 駅 に 着いた の は 十二 時 半 を 回った ころ で 、 あと 十 数 分 で 博多 行き の 高速 バス が 出発 する ところ だった 。

友人 から 「 ごめん 。 子供 が 熱 の ある みたいな ん よ 」 と いう 電話 が 入った の は 切符 を 買おう と 列 に 並んで いる とき だ 。 今更 と 言えば 今更 だ が 、 子供 が 病気 と なれば 無理 は 言え ない 。 光代 は 潔く 諦めて 列 を 離れ 、 半分 不貞腐れて アパート へ 戻った 。

乗る はずだった その 高速 バス が 、 若い 男 に 乗っ取ら れた こと を 知った の は 、 戻った アパート で 無駄に 取って しまった 有給 休暇 を どう 使おう か と 悩んで いる とき だった 。

つけた まま 、 見て も い なかった テレビ 画面 に 、 何 か の ニュース 速報 が 流れ出した とき 、 光代 は また どこ か で 何 年 も 監禁 さ れて いた 少女 が 見つかった の か と ぞっと した 。

それ くらい あの 事件 は 恐ろしかった 。

しかし 流れて きた の は バスジャック を 知らせる ニュース だった 。

光代 は 一瞬 、 ほっと 胸 を 撫で下ろし 、 次の 瞬間 、「 え ? 」 と 声 を 上げた 。

画面 に は 、 つい さっき 自分 が 乗ろう と して いた 高速 バス の 名前 が 出て いた 。

「 え ? ええ ? 誰 も い ない 部屋 で 光代 は また 声 を 上げた 。

慌てて チャンネル を 変える と 、 ちょうど バスジャック さ れた バス を 実況 中継 する 特別 番組 を 始めた 局 が あった 。

「 うそ 、 うそ ……」

声 など 出す つもりじゃ ない のに 、 自然 と そんな 声 が 漏れた 。

九州 自動車 道 を 疾走 する バス の 映像 を ヘリコプター の カメラ が 捉えて いた 。

映像 に は ローター の 轟音 に 、 興奮 した レポーター の 「 ああ 、 危ない ! また 一 台 トラック を 抜き ました ッ 」 と いう 絶叫 が 重なって いる 。

テーブル に 投げ出して いた 携帯 が 鳴った の は その とき で 、 相手 は 博多 の 友人 だった 。

「 あんた 、 今 どこ ? いきなり 詰問 さ れ 、「 だ 、 大丈夫 。 家 に おる 。 家 に 」 と 光代 は 答えた 。

友人 も 事件 を テレビ で 知った らしかった 。

光代 が 諦めて 家 に 戻った と は 思って いた が 、 万が一 、 この バス に 乗って いたら どう しよう か と 慌てて 電話 を かけて きた らしい 。 携帯 を 握りしめた まま 、 光代 は テレビ 画面 に 見入った 。 スピード を 上げた バス が 、 何も 知ら ず に 走って いる 何 台 も の 車 を ギリギリ の ところ で 避けて 抜きさって いく 。

「 ああ 、 私 、 これ に 乗っとった と よ 。 本当 なら 、 この バス に 乗っとった と よ ……」

光代 は テレビ を 見つめ ながら 呟いた 。

一応 安心 した らしい 友人 から の 電話 を 切って も テレビ から 目 が 離せ なかった 。

アナウンサー が 高速 バス の 正確な 出発 時刻 と 経路 を 説明 して いた 。

紛れ も なく 自分 が 乗る はずの バス だった 。 切符 売り場 の 列 に 並んだ とき 、 外 に 停 まって いた バス だった 。 目の前 の 賑やかな 女子 高 生 たち や その 前 に 並んで いた おばさん が 、 乗り込んで いった バス だった 。

バスジャック を 中継 する 映像 を 、 それ こそ 齧りつく ように 光代 は 見 続けた 。

車 内 の 様子 が まったく 分から ない と 、 しきりに 嘆く アナウンサー に 、「 だけ ん 、 私 の 前 に 並 ん ど った あの おばさん と か 、 女の子 たち が 乗っとる と って ! 」 と 、 アナウンサー に 言い返し たい 気持ち だった 。

画面 に 映って いる の は 、 高速 を ひた走る バス の 屋根 だった 。

それなのに 光代 は まるで 自分 が その バス に 乗って いる ような 感覚 に 陥って いた 。 流れて いく 車窓 の 景色 が 見える のだ 。 通路 を 挟んだ 隣 の 座席 に は 、 営業 所 の 切符 売り場 で 前 に 並んで いた おばさん が 真っ青な 顔 で 座って いる 。 ちょっと 離れた 前 の 席 に は 、 自分 の 前 に 並んで いた 女の子 たち が 肩 を 寄せ合って 泣いて いる 。

バス が スピード を 落とす 気配 は ない 。

次 から 次に バス は ゴールデンウィーク の ドライブ を 楽しむ 家族 連れ の 車 を 追い抜いて いく 。

光代 は 通路 側 から 窓 側 に 移動 し たくて たまらない 。

見る な と 言わ れて も 、 つい 前方 に 目 が 行って しまう 。 運転 席 の 横 に は 若い 男 が 立って いる 。 手 に は ナイフ を 持って いる 。 ときどき ナイフ で 座席 の スポンジ を 切り裂き ながら 、 訳 の 分から ない 叫び を 上げて いる 。

「 バス が ! バス が サービス エリア に 入る 模様 です ! レポーター の 怒声 に 光代 は ハッと 我 に 返った 。

バス は 目的 地 の 天神 を 遥かに 越え 、 九州 道 から 中国 道 へ 入って いる 。

警察 の 車 に 誘導 さ れて バス が サービス エリア 内 の 駐車 場 に 停車 する 。

その 映像 を テレビ で 見て いる はずな のに 、 光代 の 目 は なぜ か バス の 内 に あり 、 窓 の 外 に 取り囲む 警官 たち が 見える 。

「 中 に 、 中 に 怪我人 が いる 模様 です ! ナイフ で 刺さ れ 重傷 を 負って いる 模様 です ! レポーター の 声 が だだっ広い 駐車 場 の 映像 に 重なる 。

横 を 向けば 、 そこ に 胸 を 刺さ れた あの おばさん が いる ようだった 。

自分 が 自宅 アパート の 居間 で テレビ を 見て いる こと は 分かって いた が 、 それ でも 光代 は 怖くて 顔 を 横 に 動かせ なかった 。

子供 の ころ から 自分 が 「 ついて いる 」 と 感じる こと が まったく なかった 。

世の中 に は いろんな 人間 が いて 、 その 中 で 「 ついて いる 人 」 と 「 ついて い ない 人 」 に 分類 さ れたら 、 自分 は 間違い なく 後者 で 、 その 後者 グループ で 分類 さ れて も 、 やっぱり 「 ついて ない 」 方 に 選り分け られる 。 自分 は そんな 人間 だ と 思い込んで 生きて いた 。

たまたま 有給 を 取った の が 、 あの 日 と 同じ 休日 だった と いう こと で 嫌 な 記憶 が 蘇って いた 。

光代 は 気分 を 変えよう と 窓 を 開けた 。

暖まって いた 部屋 の 空気 が す っと 外 へ 流れ 、 冬 の 日 を 浴びた 寒風 が からだ を 撫でて 部屋 へ 流れ込んで くる 。

光代 は 一 度 身震い する と 、 大きく 背伸び して 深呼吸 した 。

選り分け られたら 、 必ず 悪い ほう へ 入れ られて しまう 。

それ が 自分 だ と 、 光代 は ずっと 思い込んで いた 。 でも 、 あの とき 、 あの 高速 バス に 、 私 は 乗ら なかった 。 あの バス に ギリギリ に なって 乗ら なかった 私 は 、 きっと 生まれて 初めて 、 良い 方 に 選り分け られた のだ 。

気 が つく と 、 光代 は そんな こと を 考えて いた 。

目の前 に は 静かな 田んぼ の 風景 が 広がって いる 。

光代 は 窓 を 開けた まま 、 その 日差し の 中 で 携帯 を 見た 。

メール を 開く と 、 昨日 の 夜 まで もう 何 十 通 と 交わした 履歴 が 残って いる 。

四 日 前 、 勇気 を 振り絞って 出した メール に 、 清水 祐一 と 名乗る 男 は 親切に 応対 して くれた 。

三 カ月 前 、 久しぶりに 職場 の 飲み 会 に 出て 酔った 夜 、 遊び半分で 初めて 出会い 系 サイト を 覗いた 。 使い 方 が よく 分から ず 、 新 着 欄 に あった 中 から 長崎 に 住む 彼 を 選んだ 。

長崎 を 選んだ の は 、 佐賀 で は 知り合い の 可能 性 が ある し 、 福岡 だ と 都会 過ぎる し 、 鹿児島 や 大分 だ と 遠 すぎる 。

そんな 簡単な 理由 から だった 。

三 カ月 前 は ドライブ に 誘わ れた とたん に 返事 を 出せ なく なった 。

四 日 前 も 実際 に 会う 気 など まったく なかった 。

ただ 、 その 晩 、 寝る 前 に 誰 か と メール で いい から 言葉 を 交わして み たい だけ だ 。 それなのに メール 交換 は 四 日 も 続いた 。 会う 気 など なかった くせ に 、 いつの間にか 会い たくて 仕方なく なって いた 。

彼 の 何 が そう 思わ せた の か 分から ない が 、 彼 と メール を 交わして いる と 、 あの 日 、 あの バス に 乗ら なかった 自分 で い られた 。

何の 確信 も なかった が 、 ここ で 勇気 を 振り絞れば 、 もう 二度と あの バス に 乗ら ず に 済む ような 気 が した 。

光代 は 差し込む 冬 の 日差し の 中 、 昨夜 最後に 送ら れて きた メール を 改めて 読んだ 。

〈 じゃあ 、 明日 、 十一 時 に 佐賀 駅前 で 。 お やすみ 〉

簡単な 言葉 だった が 、 キラキラ と 輝いて 見えた 。

今日 、 これ から 私 は 彼 の 車 で ドライブ する 。

灯台 を 見 に 行く 。 海 に 向かって 立つ 、 美しい 灯台 を 二 人 で 見 に 行く 。

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第 三 章 彼女 は 誰 に 出会った か?【2】 だい|みっ|しょう|かのじょ||だれ||であった| |||||||met| Kapitel 3: Wen hat sie getroffen? [2 Chapter 3 Who did she meet? [2 Capítulo 3: ¿A quién conoció? [2 제3장 그녀는 누구를 만났을까? (2)【제3장】그녀는 누구를 만났을까? Kapitel 3: Vem träffade hon [2]? 第3章:她遇见了谁? [2] 第 3 章:她遇见了谁?[2

ベッド の 軋み 方 を 確かめる ように 、 祐一 は 何度 も 寝返り を 打った 。 べっど||きしみ|かた||たしかめる||ゆういち||なんど||ねがえり||うった ||creaking|||check||Yuichi||||turning over||rolled To check how the bed creaked, Yuichi turned over many times.

午後 八 時 五十 分 。 ごご|やっ|じ|ごじゅう|ぶん |||fifty| 8:50 PM.

まだ 眠る に は 早 すぎる 時間 だった が 、 ここ 数 日 、 できれば 一刻 も 早く 眠り に 落ち たくて 、 風呂 に 入って 夕食 を 済ませる と 、 まだ 目 を ギラギラ さ せた まま ベッド に 入る 。 |ねむる|||はや||じかん||||すう|ひ||いっこく||はやく|ねむり||おち||ふろ||はいって|ゆうしょく||すませる|||め||ぎらぎら||||べっど||はいる |||||||||||||moment||||||||||||finish|||||glittering|||||| ||||||||||||||||||||||||||||||ギラギラ|||||| Although it was still too early to sleep, for the past few days, he wanted to fall asleep as soon as possible, so after taking a bath and finishing dinner, he got into bed with his eyes still gleaming.

入った ところ で 眠れる わけ も ない 。 はいった|||ねむれる||| |||can sleep||| There's no way I can sleep right after entering.

こう やって 何度 も 寝返り を 繰り返して いる うち に 、 枕 の 臭い が 気 に なり 出し 、 首筋 に 触れる 毛布 の 毛 羽 立ち に イライラ して くる 。 ||なんど||ねがえり||くりかえして||||まくら||くさい||き|||だし|くびすじ||ふれる|もうふ||け|はね|たち||いらいら|| ||||rolling over||||||pillow||||||||base of the neck|||||hair|||||| As I keep tossing and turning like this, I start to notice the smell of the pillow, and I get irritated by the fluff of the blanket touching my neck.

たいてい 気 が つく と 、 性器 を 弄って いる 。 |き||||せいき||いじって| |||||genitals||playing| Usually, when I notice, I am playing with my genitals.

布団 の 中 で 硬く なった 性器 は 、 横顔 に 当たる 赤外線 ストーブ の 熱 と 同じ くらい に 熱い 。 ふとん||なか||かたく||せいき||よこがお||あたる|せきがいせん|すとーぶ||ねつ||おなじ|||あつい futon||||firmly||||profile|||infrared|||heat||||| ||||||||profile||||||||||| The hard genitals inside the futon are as hot as the heat from the infrared heater hitting my profile.

事件 から すでに 九 日 が 経って いた 。 じけん|||ここの|ひ||たって| incident||||||passed| It has already been nine days since the incident.

重要 参考人 である 福岡 の 大学生 の 行方 が 未 だに 分から ない と いう ところ まで 伝えて いた テレビ の ワイドショー も 、 ここ 数 日 は まったく 三瀬 の 事件 を 扱って い ない 。 じゅうよう|さんこうにん||ふくおか||だいがくせい||ゆくえ||み||わから||||||つたえて||てれび|||||すう|ひ|||みせ||じけん||あつかって|| |reference person||||||||||||||||||||wide show|||||||Mise||||covering|| The TV wide show had conveyed that the whereabouts of the important witness, a university student from Fukuoka, are still unknown, but for the past few days, they have not covered the Sanze case at all.

駐在 所 の 巡査 が こっそり と 房枝 に 告げた ように 、 実際 に 警察 は 、 未 だ 行方 の 分から ない その 大学生 を 追って いる と しか 考え られ ない 。 ちゅうざい|しょ||じゅんさ||||ふさえ||つげた||じっさい||けいさつ||み||ゆくえ||わから|||だいがくせい||おって||||かんがえ|| station|station||police officer||secretly||small branch||||||||||||||||||||||| As the officer at the police station secretly informed Fusaeda, it can only be considered that the police are indeed tracking that university student whose whereabouts are still unknown.

あれ 以来 、 祐一 の 元 に 警察 から の 連絡 や 聞き込み は ない 。 |いらい|ゆういち||もと||けいさつ|||れんらく||ききこみ|| ||||||police|||||police questioning|| Since then, there has been no contact or inquiries from the police to Yuichi.

捜査 線上 から 完全に 消えた か の よう に 何も 起こら ない 。 そうさ|せんじょう||かんぜんに|きえた|||||なにも|おこら| investigation|on the line|||disappeared||||||occurred| It seems as if nothing has happened, as if it has completely disappeared from the investigation.

目 を 閉じる と 、 あの 夜 、 三瀬 峠 を 走り抜けた とき の 感触 が 未 だに 手 に 蘇る 。 め||とじる|||よ|みつせ|とうげ||はしりぬけた|||かんしょく||み||て||よみがえる |||||||mountain pass||raced through|||sensation||||||revived ||||||||||||||||||よみがえる When I close my eyes, the sensation of driving through the Samise Pass that night still comes back to me.

強く ハンドル を 握って いた せい で 、 何度 も カーブ で スピン し かけた 。 つよく|はんどる||にぎって||||なんど||かーぶ|||| |||||||||||spin|| |||||||||||スピン|| Because I was gripping the steering wheel tightly, I almost spun out on the curves several times. 車 の ライト が 藪 を 照らし 、 真っ白な ガード レール が 迫る 。 くるま||らいと||やぶ||てらし|まっしろな|がーど|れーる||せまる ||||bush||||guard|guard rail||approaching ||||||||ガードレール|ガードレール||

また 寝返り を 打った 祐一 は 、「 早く 眠って しまえ 」 と 自分 に 言い聞かせる ように 臭い 枕 に 顔 を 埋めた 。 |ねがえり||うった|ゆういち||はやく|ねむって|||じぶん||いいきかせる||くさい|まくら||かお||うずめた ||||||||quickly||||self-talk|||||||buried

汗 と 体 臭 と シャンプー が 混じり合った イライラ する 臭い だった 。 あせ||からだ|くさ||しゃんぷー||まじりあった|いらいら||くさい| ||body|||||mixed together||||

床 に 脱ぎ捨てた ズボン から メール の 着信 音 が 聞こえた の は その とき だった 。 ゆか||ぬぎすてた|ずぼん||めーる||ちゃくしん|おと||きこえた||||| floor||discarded|||||incoming call|||||||| It was then that I heard the ringtone of an email coming from the pants I had thrown on the floor.

祐一 は 眠る こと へ の 強迫 から 解放 して もらえた ような 気 が して 、 すぐに 腕 を 伸ばして 携帯 を 取り出した 。 ゆういち||ねむる||||きょうはく||かいほう||||き||||うで||のばして|けいたい||とりだした ||||||compulsion||freed||||||||arm||||| I felt as if I had been freed from the compulsion to sleep, and I immediately伸し my arm to take out my cell phone.

どうせ 一二三 から だろう と 思った が 、 送信 者 欄 に 見知らぬ アドレス が あった 。 |ひふみ||||おもった||そうしん|もの|らん||みしらぬ|あどれす|| anyway|one two three||||||sending||field||unfamiliar|address|| I thought it was probably from Ichihisa, but there was an unknown address in the sender's column.

ベッド から 抜け出して 床 に あぐら を かいた 。 べっど||ぬけだして|とこ|||| ||escaped|||cross-legged||crossed I got out of bed and sat cross-legged on the floor.

真冬 でも パンツ だけ で 寝る 習慣 が ある ので 、 赤外線 ストーブ に 向け られた 背中 が 熱い 。 まふゆ||ぱんつ|||ねる|しゅうかん||||せきがいせん|すとーぶ||むけ||せなか||あつい midwinter||||||habit||||infrared||||was directed|back|| Even in the middle of winter, I have a habit of sleeping in only my underwear, so my back facing the infrared heater is hot.

〈 こんにちは 。 Hello. 覚えて ます か ? おぼえて|| 三 カ月 くらい 前 に ちょっと だけ メール を やりとり した 者 です 。 みっ|かげつ||ぜん||||めーる||||もの| |||||||||exchanging||| 私 は 佐賀 に 住んで いる 双子 姉妹 の 姉 で 、 その とき あなた と 灯台 の 話 で 盛り上がった んだ けど 、 もう 忘れ ちゃ い ました か ? わたくし||さが||すんで||ふたご|しまい||あね||||||とうだい||はなし||もりあがった||||わすれ|||| |||||||||older sister||||||lighthouse||||got excited|||||||did| I am the older twin sister living in Saga, and at that time, we had a lively conversation about lighthouses, but have you already forgotten? 急な メール ごめんなさい 〉 きゅうな|めーる| sudden|| I'm sorry for the sudden email.

メール を 読み 終える と 、 祐一 は 赤外線 ストーブ が 当たる 背中 を 掻いた 。 めーる||よみ|おえる||ゆういち||せきがいせん|すとーぶ||あたる|せなか||かいた |||||||||||||scratched |||||||||||||scratch After finishing reading the email, Yuichi scratched his back, which was warmed by the infrared heater.

数 十 秒 の こと だった が 、 肌 が 焼けた ように 熱く なって いた 。 すう|じゅう|びょう|||||はだ||やけた||あつく|| |||||||||burned||||

あぐら を かいた まま 、 畳 の 上 を 移動 した 。 ||||たたみ||うえ||いどう| cross-legged||||tatami||||moved| I moved around on the tatami while sitting cross-legged.

横 に あった ズボン や トレーナー が 、 その 膝 に 絡まって 一緒に ついてくる 。 よこ|||ずぼん||とれーなー|||ひざ||からまって|いっしょに| ||||||||knee||tangled||follow The pants and sweatshirt that were next to me got tangled around my knees and came along with me.

メール を 送って きた 相手 の 女 を 祐一 は 覚えて いた 。 めーる||おくって||あいて||おんな||ゆういち||おぼえて| Yuichi remembered the woman who had sent him an email.

三 カ月 ほど 前 、 出会い 系 サイト に 自分 の アドレス を 登録 した とき 、 五 、 六 通 の メール が あった うち の 一 人 で 、 しばらく は メール の やりとり を して いた のだ が 、 祐一 が ドライブ に 誘った とたん 、 いきなり 返信 が こ なく なった 。 みっ|かげつ||ぜん|であい|けい|さいと||じぶん||あどれす||とうろく|||いつ|むっ|つう||めーる|||||ひと|じん||||めーる||||||||ゆういち||どらいぶ||さそった|||へんしん|||| ||||||||||address|||||||||||||||||||||||||||||||||||||| About three months ago, when I registered my address on a dating site, I received about five or six emails. I was exchanging emails with one of them for a while, but as soon as Yuichi invited me for a drive, they suddenly stopped replying.

〈 久しぶり 。 ひさしぶり long time no see It's been a while. 急に どうした と ? きゅうに|| suddenly|| What happened all of a sudden? 自然に 指 が 動いた 。 しぜんに|ゆび||うごいた |||moved

普段 、 喋る とき に は 頭 に 浮かんだ 言葉 が 口 から 出る 前 に 、 必ず 何 か に 突っかかる のに 、 こう やって メール を 打つ とき だけ は 、 その 言葉 が すら すら と 指先 に 伝わって いく 。 ふだん|しゃべる||||あたま||うかんだ|ことば||くち||でる|ぜん||かならず|なん|||つっかかる||||めーる||うつ|||||ことば|||||ゆびさき||つたわって| |||||||||||||||必ず||||to come to mind||||||||||||||||||| |||||||||||||||||||引っかかる||||||||||||||||||| Usually, when I speak, the words that come to mind always get stuck on something before they come out of my mouth, but when I'm typing an email like this, those words smoothly convey to my fingertips.

〈 覚えて て くれた ? おぼえて|| Did you remember? よかった 。 That's good. 別に 用 は ない の 。 べつに|よう||| ただ 、 急に メール し たく なって 〉 |きゅうに|めーる|||

女 から すぐに 返信 が あった 。 おんな|||へんしん||

名前 を 思い出せ なかった が 、 思い出した ところ で 偽名 に 決まって いる 。 なまえ||おもいだせ|||おもいだした|||ぎめい||きまって| ||||||||false name||| I couldn't remember the name, but even if I remembered, it would be a pseudonym anyway.

〈 あれ から 元気 やった ? ||げんき| Have you been doing well since then?

車 買う と か 言い よった けど 、 買った と ? くるま|かう|||いい|||かった| |||||said||| You said you were going to buy a car, did you actually buy it? 〉 と 祐一 は 返信 した 。 |ゆういち||へんしん|

〈 買って ない よ 。 かって|| 相変わらず 自転車 で 通勤 中 。 あいかわらず|じてんしゃ||つうきん|なか |||commuting| そっち は なんか いい こと あった ? Did you have something good happen over there? 〈 いい こと ? Good thing? 〈 彼女 できた と か ? かのじょ||| Did you get a girlfriend or something? 〈 でき とら ん よ 。 そっち は ? 〈 私 も 。 わたくし| ねえ 、 あれ から どこ か 新しい 灯台 行った ? |||||あたらしい|とうだい|おこなった |||||new|lighthouse| ||||||lighthouse| Hey, have you been to any new lighthouses since then? 〈 最近 ぜんぜん 行 っと らん 。 さいきん||ぎょう|| ||||not going I haven't gone at all recently. 週 末 も 家 で 寝て ばっかり 〉 しゅう|すえ||いえ||ねて| I've just been sleeping at home on the weekends.

〈 そう な んだ 。 ねえ 、 どこ だ っけ ? |||quotation particle 前 に 勧めて くれた 奇麗な 灯台 って 〉 ぜん||すすめて||きれいな|とうだい| ||recommended||beautiful|lighthouse|

〈 どこ の 灯台 ? ||とうだい 長崎 ? ながさき 佐賀 ? さが 〈 長崎 の 。 ながさき| 灯台 の 先 に 展望 台 が ある 小さな 島 が あって 、 そこ まで 歩いて 行ける って 。 とうだい||さき||てんぼう|だい|||ちいさな|しま|||||あるいて|いける| そこ から 夕日 見たら 泣き たく なる くらい 奇麗 だって 〉 ||ゆうひ|みたら|なき||||きれい| ||sunset||||||beautiful|

〈 ああ 、 それ やったら 樺島 の 灯台 やろ 。 |||かばしま||とうだい| |||Kashima||| うち から 近い よ 〉 ||ちかい|

〈 どれ くらい ? 〈 車 で 十五 分 か 二十 分 くらい 〉 くるま||じゅうご|ぶん||にじゅう|ぶん|

〈 そ っか ぁ 。 いい 所 に 住 ん ど る と ね ー 〉 |しょ||じゅう||||||-

〈 別に いい 所 じゃ なか よ 〉 べつに||しょ|||

〈 でも 海 の 近く やろ ? |うみ||ちかく| 〈 海 なら 、 すぐ そこ に ある 〉 うみ||||| If it's the sea, it's right there.

〈 海 なら 、 すぐ そこ に ある 〉 と 打った メール を 送った とたん 、 窓 の 外 から 波 止め で 砕ける 波 の 音 が 聞こえた 。 うみ|||||||うった|めーる||おくった||まど||がい||なみ|とどめ||くだける|なみ||おと||きこえた |||||||||||||||||||crashing||||| The moment I sent the email saying, 'If it's the sea, it's right there,' I heard the sound of waves crashing against the breakwater from outside the window.

夜 に なる と 波 の 音 は 高く なる 。 よ||||なみ||おと||たかく| |||quotation particle|||||| At night, the sound of the waves becomes louder. 波 の 音 は 夜通し 聞こえ 、 小さな ベッド で 眠る 祐一 の からだ を 浸して いく 。 なみ||おと||よどおし|きこえ|ちいさな|べっど||ねむる|ゆういち||||ひたして| wave||||all night||||||||||soaking| ||||throughout the night||||||||||| The sound of the waves can be heard all night long, soaking into the body of Yuichi, who is sleeping in a small bed.

そんな とき 、 祐一 は 波打ち際 の 流木 の ような 気持ち に なる 。 ||ゆういち||なみうちぎわ||りゅうぼく|||きもち|| ||||water's edge||driftwood||||| ||||||driftwood||||| At such times, Yuichi feels like a piece of driftwood at the water's edge.

波 に 攫 われ そうで 攫 われ ず 、 砂浜 に 打ち上げ られ そうで 打ち上げ られ ない 。 なみ||つか||そう で|つか|||すなはま||うちあげ||そう で|うちあげ|| ||snatched|||snatch|||sandy beach||washed up|||washed up|| It feels as if he might be swept away by the waves, yet he is not, and it seems like he could be washed up on the beach, but he isn't. いつまでも いつまでも 、 流木 は 砂 の 上 を 転がさ れ 続ける 。 ||りゅうぼく||すな||うえ||ころがさ||つづける forever||||sand||||rolled|| ||||||||転がり続ける|| Forever and ever, driftwood will continue to roll on the sand.

〈 佐賀 に も ある ? さが||| < Is there one in Saga? 奇麗な 灯台 〉 きれいな|とうだい beautiful|lighthouse A beautiful lighthouse >

すぐに 送ら れて きた メール に 、〈 ある ばい 。 |おくら|||めーる||| 佐賀 に も 〉 と 祐一 は 送り 返した 。 さが||||ゆういち||おくり|かえした |||||||sent back Yuichi returned it to Saga.

〈 でも 唐津 の ほう やろ ? |からつ||| |Karatsu||| But you mean Karatsu, right? うち 市 内 の ほう やけん 〉 |し|うち||| It's more in the city area.

送ら れて くる 一 文字 一 文字 に 音 が あって 、 聞いた こと も ない 女 の 声 が はっきり と 耳 に 届いた 。 おくら|||ひと|もじ|ひと|もじ||おと|||きいた||||おんな||こえ||||みみ||とどいた ||||||character||||||||||||||||| With each character that came, there was a sound, and a voice of a woman I had never heard before clearly reached my ears.

祐一 は 車 で 何 度 か 走った こと の ある 佐賀 の 風景 を 思い描いた 。 ゆういち||くるま||なん|たび||はしった||||さが||ふうけい||おもいえがいた |||||||driven||||||||imagined Yuichi imagined the scenery of Saga, which he had driven through several times in a car.

長崎 と 違い 、 気 が 抜けて しまう ほど 平坦な 土地 で 、 どこまでも 単調な 街道 が 伸びて いる 。 ながさき||ちがい|き||ぬけて|||へいたんな|とち|||たんちょうな|かいどう||のびて| |||||lacking|||flat|land|||monotonous|||| Unlike Nagasaki, it was such a flat land that it made one feel relaxed, with a monotonous highway stretching endlessly. 前 に も 後ろ に も 山 は ない 。 ぜん|||うしろ|||やま|| There are no mountains in front or behind. 急な 坂道 も なければ 、 石畳 の 路地 も ない 。 きゅうな|さかみち|||いしだたみ||ろじ|| |hill|||paved street|||| There are no steep slopes, nor are there cobblestone alleys. 真 新しい アスファルト 道路 が ただ 真っすぐに 伸びて いる 。 まこと|あたらしい||どうろ|||まっすぐに|のびて| real|||||||| A brand new asphalt road stretches straight ahead.

道 の 両側 に は 本屋 や パチンコ 屋 や ファーストフード の 大型 店 が 並んで いる 。 どう||りょうがわ|||ほんや||ぱちんこ|や||||おおがた|てん||ならんで| ||both sides||||||||||large||||

どの 店舗 に も 大きな 駐車 場 が あり 、 たくさん 車 は 停 まって いる のに 、 なぜ か その 風景 の 中 に 人 だけ が い ない 。 |てんぽ|||おおきな|ちゅうしゃ|じょう||||くるま||てい|||||||ふうけい||なか||じん|||| |store|||||||||||||||||||||||||| Every store has a large parking lot, and many cars are parked, yet for some reason, there are no people in that scenery.

ふと 、 今 、 メール の やりとり を して いる 女 は 、 あの 町 を 歩いて いる んだ 、 と 祐一 は 思った 。 |いま|めーる||||||おんな|||まち||あるいて||||ゆういち||おもった suddenly||||exchange||||||||||||||| Suddenly, Yuichi thought, the woman he is exchanging emails with is walking in that town.

とても 当たり前の こと だ が 、 車 から の 景色 しか 知ら ない 祐一 に とって 、 あの 単調な 町 を 歩く とき 、 風景 が どのように 見える の か 分から なかった 。 |あたりまえの||||くるま|||けしき||しら||ゆういち||||たんちょうな|まち||あるく||ふうけい|||みえる|||わから| |natural||||||||||||||||||||||||||| It is very obvious, but for Yuichi, who only knows the scenery from the car, he didn't know how the scenery would look when walking through that monotonous town. 歩いて も 歩いて も 景色 は 変わら ない 。 あるいて||あるいて||けしき||かわら| ||||scenery||| まるで スローモーション の ような 景色 。 ||||けしき |slow motion||| いつまでも いつまでも 打ち上げ られ ない 流木 が 見て いる ような 景色 。 ||うちあげ|||りゅうぼく||みて|||けしき |forever||||||||| A scene that looks like driftwood that can never be launched, forever and ever.

〈 最近 、 誰 と も 話し とら ん 〉 さいきん|だれ|||はなし|| <Recently, I haven't talked to anyone>

手元 を 見る と 、 そう 書いて あった 。 てもと||みる|||かいて| When I look at my hands, it was written like that.

送ら れて きた もの で は なく 、 自分 が 自分 の 指 で 無意識に 打って いた 文章 だった 。 おくら|||||||じぶん||じぶん||ゆび||むいしきに|うって||ぶんしょう| |||||||||||||unconsciously|||sentence| It was not something that had been sent, but rather a text that I had unconsciously typed with my own fingers.

祐一 は すぐに 消そう と した が 、 その あと に 〈 仕事 と 家 の 往復 だけ で 〉 と 付け加え 、 一瞬 迷い ながら 送信 した 。 ゆういち|||けそう|||||||しごと||いえ||おうふく||||つけくわえ|いっしゅん|まよい||そうしん| ||||||||||||||back and forth||||added||||sent| Yuichi immediately tried to delete it, but then added 'just going back and forth between work and home' and sent it after a moment of hesitation.

これ まで 寂しい と 思った こと は なかった 。 ||さびしい||おもった||| ||lonely||||| I had never felt lonely until now.

寂しい と いう の が どういう もの な の か 分かって い なかった 。 さびしい||||||||||わかって|| ただ 、 あの 夜 を 境 に 、 今 、 寂しくて 仕方 が ない 。 ||よ||さかい||いま|さびしくて|しかた|| ||||turn|||lonely||| But since that night, I can't help but feel lonely now. 寂し さ と いう の は 、 自分 の 話 を 誰 か に 聞いて もらい たい と 切望 する 気持ち な の かも しれ ない と 祐一 は 思う 。 さびし||||||じぶん||はなし||だれ|||きいて||||せつぼう||きもち|||||||ゆういち||おもう lonely|||||||||||||||||earnestly desire||||||||||| |||||||||||||||||強い願望|する|||||||||| Yuichi thinks that loneliness may be a desire to have someone listen to one's story. これ まで は 誰 か に 伝え たい 自分 の 話 など なかった のだ 。 |||だれ|||つたえ||じぶん||はなし||| Until now, I had no story I wanted to tell anyone. でも 、 今 の 自分 に は それ が あった 。 |いま||じぶん||||| 伝える 誰 か に 出会い たかった 。 つたえる|だれ|||であい|

「 珠代 ! たまよ Tamayo 私 、 今夜 ちょっと 遅く なる かも しれ ん けん 」 わたくし|こんや||おそく|||||

妹 の 珠代 が 襖 の 向こう で 出勤 の 支度 を する 音 を 布団 の 中 で 聞き ながら 、 光代 は 言おう か 言う まい か と 悩んで いた 言葉 を 、 いよいよ 珠代 が 玄関 で 靴 を 履き 始めた とき に 告げた 。 いもうと||たまよ||ふすま||むこう||しゅっきん||したく|||おと||ふとん||なか||きき||みつよ||いおう||いう||||なやんで||ことば|||たまよ||げんかん||くつ||はき|はじめた|||つげた ||Tamayo||sliding door||||going to work||preparations|||||futon||||||Mitsuyo||||||||worrying|||||Tamayo|||||||||| Listening to the sound of her sister Tamayo getting ready for work beyond the sliding door while wrapped in the futon, Mitsuyo was troubled whether to speak or not, and finally, when Tamayo started putting on her shoes at the entrance, she spoke up.

「 棚卸し ? たなおろし inventory Inventory? 玄関 から 珠代 の 声 が 返って くる 。 げんかん||たまよ||こえ||かえって| ||Tamayo||||| Tamayo's voice comes back from the entrance.

「 う 、…… うん 。 あ 、 いや 、 そう じゃ なくて 、 仕事 休み やけん ……。 |||||しごと|やすみ| |no|||||| とにかく 、 ちょっと 用 が あって 遅く なる と 思う 」 ||よう|||おそく|||おもう

光代 は 布団 から 這い 出し 、 襖 を 開けて 玄関 の ほう へ 顔 を 出した 。 てるよ||ふとん||はい|だし|ふすま||あけて|げんかん||||かお||だした Mitsuyo||||crawled||sliding door|||||||||

すでに 靴 を 履き 終えた 珠代 は ドアノブ に 手 を かけて いる 。 |くつ||はき|おえた|たまよ||||て||| |||wearing||Tamayo||door knob||||| |||||||door knob|||||

「 用 ? よう 何の ? なんの 何時ごろ に なる と ? いつごろ||| about what time||| ごはん も いら ん って こと ? 矢継ぎ早に 質問 して くる わりに は 興味 も ない らしく 、 珠代 は ドア を 開け 、 片足 は 外 に 出して いる 。 やつぎばやに|しつもん|||||きょうみ||||たまよ||どあ||あけ|かたあし||がい||だして| rapidly||||||||||Tamayo|||||one foot||||| 次々に||||||||||||||||||||

「 起きる なら 、 鍵 か けん で いい ? おきる||かぎ|||| get up||key|||| ||||かける||

もう ッ 、 なんで 土曜日 に 出勤 な わけ ッ 」 |||どようび||しゅっきん||| Geez, why do I have to work on Saturday?

珠代 は 光代 の 答え も 待た ず に ドア を 閉めた 。 たまよ||てるよ||こたえ||また|||どあ||しめた |||||||||||closed Tamayo closed the door without waiting for Mitsuyo's answer.

閉まった ドア に 向かって 、「 いって らっしゃい 」 と 光代 は 声 を かけた 。 しまった|どあ||むかって||||てるよ||こえ|| |||||||Mitsuyo|||| Mitsuyo called out, 'Take care!' towards the closed door.

珠代 が 電気 カーペット を つけて いた おかげ で 、 這い 出した 手のひら や 膝 が ぽかぽか と 温かい 。 たまよ||でんき|||||||はい|だした|てのひら||ひざ||||あたたかい |||||||||||palm||knee||warm||warm Thanks to Tamayo turning on the electric carpet, the palms and knees that crawled out are warm and cozy.

光代 は カレンダー を 手 に 取り 、 青い 22 と いう 数字 に 指 で 触れた 。 みつよ||かれんだー||て||とり|あおい|||すうじ||ゆび||ふれた Mitsuyo||||||taking||||||||touched ||カレンダー|||||||||||| Mitsuyo picked up the calendar and touched the blue number 22 with her finger.

考えて みれば 、 店 の 繁盛 日 である 土 日 に 、 連続 して 休暇 を 取る の は あの 日 以来 だ 。 かんがえて||てん||はんじょう|ひ||つち|ひ||れんぞく||きゅうか||とる||||ひ|いらい| ||||prosperity|||Saturday|||consecutively||vacation|||||||| When I think about it, taking consecutive days off on the busy days for the store, Saturday and Sunday, has been since that day.

今 から 一 年 半 ほど 前 の ゴールデンウィーク 、 博多 で 暮らす 高校 時代 の 友人 の 家 に 泊まり に 行く 予定 で 、 溜まって いた 有給 休暇 を 取った のだ 。 いま||ひと|とし|はん||ぜん|||はかた||くらす|こうこう|じだい||ゆうじん||いえ||とまり||いく|よてい||たまって||ゆうきゅう|きゅうか||とった| ||||||||Golden Week||||||||||||||||had built up||paid|||| ||||||||ゴールデンウィーク|||||||||||||||||||||| About a year and a half ago during Golden Week, I planned to stay at the house of a high school friend who lives in Hakata, and took some accumulated paid leave.

友人 の 旦那 が その 週 末 法事 で 里帰り して おり 、 久しぶりに 二 人 で 夜通し お 喋り する 計画 だった 。 ゆうじん||だんな|||しゅう|すえ|ほうじ||さとがえり|||ひさしぶりに|ふた|じん||よどおし||しゃべり||けいかく| |||||||Buddhist memorial service||returning to one's hometown|||||||all night||||plan| |||||||法事|||||||||||||| My friend's husband was going back to his hometown for a memorial service that weekend, and we had made plans to chat all night long after a long time. 彼女 の 二 歳 に なる 息子 も 一 度 抱いて み たい と 思って いた 。 かのじょ||ふた|さい|||むすこ||ひと|たび|いだいて||||おもって| ||||to||||||||||| I had also been wanting to hold her two-year-old son at least once.

天神 行き の バス は 佐賀 駅前 に 乗り場 が ある 。 てんじん|いき||ばす||さが|えきまえ||のりば|| Tenjin||||||||bus stop|| The bus to Tenjin has a stop in front of Saga Station.

その 日 、 自転車 で 駅 に 着いた の は 十二 時 半 を 回った ころ で 、 あと 十 数 分 で 博多 行き の 高速 バス が 出発 する ところ だった 。 |ひ|じてんしゃ||えき||ついた|||じゅうに|じ|はん||まわった||||じゅう|すう|ぶん||はかた|いき||こうそく|ばす||しゅっぱつ||| On that day, I arrived at the station by bicycle around half past twelve, just as the highway bus to Hakata was about to depart in a few minutes.

友人 から 「 ごめん 。 ゆうじん|| My friend said, 'I'm sorry.' 子供 が 熱 の ある みたいな ん よ 」 と いう 電話 が 入った の は 切符 を 買おう と 列 に 並んで いる とき だ 。 こども||ねつ||||||||でんわ||はいった|||きっぷ||かおう||れつ||ならんで||| |||||||||||||||ticket||to buy||line||||| The phone call saying, "It seems like the child has a fever," came while I was standing in line to buy tickets. 今更 と 言えば 今更 だ が 、 子供 が 病気 と なれば 無理 は 言え ない 。 いまさら||いえば|いまさら|||こども||びょうき|||むり||いえ| now|||||||||||||| It may be too late to say this, but if the child is sick, I can't insist on anything. 光代 は 潔く 諦めて 列 を 離れ 、 半分 不貞腐れて アパート へ 戻った 。 てるよ||いさぎよく|あきらめて|れつ||はなれ|はんぶん|ふてくされて|あぱーと||もどった ||resolutely|giving up|||||dejected||| ||||||||不貞腐れて||| Mitsuyo gracefully gave up, left the line, and returned to the apartment half sulking.

乗る はずだった その 高速 バス が 、 若い 男 に 乗っ取ら れた こと を 知った の は 、 戻った アパート で 無駄に 取って しまった 有給 休暇 を どう 使おう か と 悩んで いる とき だった 。 のる|||こうそく|ばす||わかい|おとこ||のっとら||||しった|||もどった|あぱーと||むだに|とって||ゆうきゅう|きゅうか|||つかおう|||なやんで||| |was supposed to||highway||||||taken over|||||||returned|||in vain||||||||||||| |||||||||られた|||||||||||||||||||||||

つけた まま 、 見て も い なかった テレビ 画面 に 、 何 か の ニュース 速報 が 流れ出した とき 、 光代 は また どこ か で 何 年 も 監禁 さ れて いた 少女 が 見つかった の か と ぞっと した 。 ||みて||||てれび|がめん||なん|||にゅーす|そくほう||ながれだした||てるよ||||||なん|とし||かんきん||||しょうじょ||みつかった||||| |||||||||||||breaking news||started flowing|||||||||||confinement||||||||||sent a shiver| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||ぞっとした| When the news alert started to play on the TV screen that I hadn't been watching while it was on, Mitsuyo shuddered at the thought that perhaps another girl who had been held captive for years had been found somewhere.

それ くらい あの 事件 は 恐ろしかった 。 |||じけん||おそろしかった |||||frightening That incident was that terrifying.

しかし 流れて きた の は バスジャック を 知らせる ニュース だった 。 |ながれて||||||しらせる|にゅーす| |||||bus hijacking|||| |||||バスジャック|||| However, what came on was a news report informing about a bus hijacking.

光代 は 一瞬 、 ほっと 胸 を 撫で下ろし 、 次の 瞬間 、「 え ? みつよ||いっしゅん||むね||なでおろし|つぎの|しゅんかん| Mitsuyo||||||breathed a sigh||| ||||||胸を撫で下ろし||| Mitsuyo briefly sighed in relief, and the next moment, she exclaimed, "Huh? 」 と 声 を 上げた 。 |こえ||あげた

画面 に は 、 つい さっき 自分 が 乗ろう と して いた 高速 バス の 名前 が 出て いた 。 がめん|||||じぶん||のろう||||こうそく|ばす||なまえ||でて| |||||||going to ride|||||||||| The name of the highway bus I was just about to board appeared on the screen.

「 え ? Huh? ええ ? Huh? 誰 も い ない 部屋 で 光代 は また 声 を 上げた 。 だれ||||へや||てるよ|||こえ||あげた

慌てて チャンネル を 変える と 、 ちょうど バスジャック さ れた バス を 実況 中継 する 特別 番組 を 始めた 局 が あった 。 あわてて|ちゃんねる||かえる||||||ばす||じっきょう|ちゅうけい||とくべつ|ばんぐみ||はじめた|きょく|| |||||||||||live commentary|live coverage||||||||

「 うそ 、 うそ ……」

声 など 出す つもりじゃ ない のに 、 自然 と そんな 声 が 漏れた 。 こえ||だす||||しぜん|||こえ||もれた |||||||||||leaked

九州 自動車 道 を 疾走 する バス の 映像 を ヘリコプター の カメラ が 捉えて いた 。 きゅうしゅう|じどうしゃ|どう||しっそう||ばす||えいぞう||へりこぷたー||かめら||とらえて| ||||sprinting||||image||||||captured|

映像 に は ローター の 轟音 に 、 興奮 した レポーター の 「 ああ 、 危ない ! えいぞう|||||ごうおん||こうふん||れぽーたー|||あぶない video|||rotor||roar||excitement|||||dangerous また 一 台 トラック を 抜き ました ッ 」 と いう 絶叫 が 重なって いる 。 |ひと|だい|とらっく||ぬき|||||ぜっきょう||かさなって| |one||||passed|||||scream||overlapping| At that moment, there was a scream saying, 'I just overtook another truck!'

テーブル に 投げ出して いた 携帯 が 鳴った の は その とき で 、 相手 は 博多 の 友人 だった 。 てーぶる||なげだして||けいたい||なった||||||あいて||はかた||ゆうじん| It was then that my phone, which I had tossed on the table, rang, and the caller was a friend from Hakata.

「 あんた 、 今 どこ ? |いま| "Hey, where are you now?" いきなり 詰問 さ れ 、「 だ 、 大丈夫 。 |きつもん||||だいじょうぶ |question|||| 家 に おる 。 いえ|| 家 に 」 と 光代 は 答えた 。 いえ|||てるよ||こたえた |||Mitsuyo||

友人 も 事件 を テレビ で 知った らしかった 。 ゆうじん||じけん||てれび||しった|

光代 が 諦めて 家 に 戻った と は 思って いた が 、 万が一 、 この バス に 乗って いたら どう しよう か と 慌てて 電話 を かけて きた らしい 。 てるよ||あきらめて|いえ||もどった|||おもって|||まんがいち||ばす||のって||||||あわてて|でんわ|||| ||given up|||||||||||||||||||in a panic||||| 携帯 を 握りしめた まま 、 光代 は テレビ 画面 に 見入った 。 けいたい||にぎりしめた||てるよ||てれび|がめん||みいった ||clutched|||||||gazed |||||||||見つめた Holding her mobile phone tightly, Mitsuyo was absorbed in the television screen. スピード を 上げた バス が 、 何も 知ら ず に 走って いる 何 台 も の 車 を ギリギリ の ところ で 避けて 抜きさって いく 。 すぴーど||あげた|ばす||なにも|しら|||はしって||なん|だい|||くるま||ぎりぎり||||さけて|ぬきさって| |||||||||||||||||||||avoid|overtaking| ||||||||||||||||||||||抜き去って| The speeding bus swerved dangerously close to several unaware cars as it passed by.

「 ああ 、 私 、 これ に 乗っとった と よ 。 |わたくし|||のっとった|| ||||got on|| Ah, I was in this thing. 本当 なら 、 この バス に 乗っとった と よ ……」 ほんとう|||ばす||のっとった|| |||||got on||

光代 は テレビ を 見つめ ながら 呟いた 。 てるよ||てれび||みつめ||つぶやいた

一応 安心 した らしい 友人 から の 電話 を 切って も テレビ から 目 が 離せ なかった 。 いちおう|あんしん|||ゆうじん|||でんわ||きって||てれび||め||はなせ| |||||||||||||||away|

アナウンサー が 高速 バス の 正確な 出発 時刻 と 経路 を 説明 して いた 。 あなうんさー||こうそく|ばす||せいかくな|しゅっぱつ|じこく||けいろ||せつめい|| |||||accurate||time||route||||

紛れ も なく 自分 が 乗る はずの バス だった 。 まぎれ|||じぶん||のる||ばす| distracted|||||||| 切符 売り場 の 列 に 並んだ とき 、 外 に 停 まって いた バス だった 。 きっぷ|うりば||れつ||ならんだ||がい||てい|||ばす| ticket||||||||||||| 目の前 の 賑やかな 女子 高 生 たち や その 前 に 並んで いた おばさん が 、 乗り込んで いった バス だった 。 めのまえ||にぎやかな|じょし|たか|せい||||ぜん||ならんで||||のりこんで||ばす| ||lively|||||||||||||||| It was the bus that the lively high school girls in front of me and the aunt who was lined up in front of them boarded.

バスジャック を 中継 する 映像 を 、 それ こそ 齧りつく ように 光代 は 見 続けた 。 ||ちゅうけい||えいぞう||||かじりつく||てるよ||み|つづけた ||relay||||||devour||||| ||||||||食い入るように||||| Hikari continued to watch the video of the bus hijacking as if she were devouring it.

車 内 の 様子 が まったく 分から ない と 、 しきりに 嘆く アナウンサー に 、「 だけ ん 、 私 の 前 に 並 ん ど った あの おばさん と か 、 女の子 たち が 乗っとる と って ! くるま|うち||ようす|||わから||||なげく|あなうんさー||||わたくし||ぜん||なみ||||||||おんなのこ|||のっとる|| |||||||||repeatedly|lament|||||||||lined up||||||||||||| As the announcer lamented that they had no idea what was happening inside the bus, I said, 'But, the aunt who was lined up in front of me and the girls are on it!' 」 と 、 アナウンサー に 言い返し たい 気持ち だった 。 |あなうんさー||いいかえし||きもち| |||wanted to retort||| |||retort|||

画面 に 映って いる の は 、 高速 を ひた走る バス の 屋根 だった 。 がめん||うつって||||こうそく||ひたはしる|ばす||やね| ||||||||speeding|||roof| ||||||||ひた走る|||| What is reflected on the screen is the roof of a bus speeding down the highway.

それなのに 光代 は まるで 自分 が その バス に 乗って いる ような 感覚 に 陥って いた 。 |てるよ|||じぶん|||ばす||のって|||かんかく||おちいって| ||||||||||||sensation||fall| Yet, Hiroko felt as if she were riding on that bus. 流れて いく 車窓 の 景色 が 見える のだ 。 ながれて||しゃそう||けしき||みえる| ||train window||||| ||train window||||| She could see the scenery flowing by from the window. 通路 を 挟んだ 隣 の 座席 に は 、 営業 所 の 切符 売り場 で 前 に 並んで いた おばさん が 真っ青な 顔 で 座って いる 。 つうろ||はさんだ|となり||ざせき|||えいぎょう|しょ||きっぷ|うりば||ぜん||ならんで||||まっさおな|かお||すわって| aisle|||next|||||||||||||||||pale|||| In the seat next to me across the aisle, there is an aunt who was standing in line at the ticket counter of the station, sitting with a pale face. ちょっと 離れた 前 の 席 に は 、 自分 の 前 に 並んで いた 女の子 たち が 肩 を 寄せ合って 泣いて いる 。 |はなれた|ぜん||せき|||じぶん||ぜん||ならんで||おんなのこ|||かた||よせあって|ないて| ||||||||||||||||||huddling|| ||||||||||||||||||寄り添って|| In the seat a little further in front, the girls who were standing in line in front of me are huddled together and crying.

バス が スピード を 落とす 気配 は ない 。 ばす||すぴーど||おとす|けはい|| |||||sign|| There is no sign that the bus is slowing down.

次 から 次に バス は ゴールデンウィーク の ドライブ を 楽しむ 家族 連れ の 車 を 追い抜いて いく 。 つぎ||つぎに|ばす||||どらいぶ||たのしむ|かぞく|つれ||くるま||おいぬいて| |||||||||||||||passing| Next, the bus overtakes cars of families enjoying their Golden Week drives.

光代 は 通路 側 から 窓 側 に 移動 し たくて たまらない 。 てるよ||つうろ|がわ||まど|がわ||いどう||| Mitsuyo||aisle|side|||||move|||unbearable Mitsuyo can't help but want to move from the aisle side to the window side.

見る な と 言わ れて も 、 つい 前方 に 目 が 行って しまう 。 みる|||いわ||||ぜんぽう||め||おこなって| |||||||front||||| Even though I'm told not to look, my eyes inevitably go forward. 運転 席 の 横 に は 若い 男 が 立って いる 。 うんてん|せき||よこ|||わかい|おとこ||たって| 手 に は ナイフ を 持って いる 。 て|||ないふ||もって| ときどき ナイフ で 座席 の スポンジ を 切り裂き ながら 、 訳 の 分から ない 叫び を 上げて いる 。 |ないふ||ざせき||||きりさき||やく||わから||さけび||あげて| |||||||tearing||reason||||||| |||||座席のスポンジ|||||||||||

「 バス が ! ばす| バス が サービス エリア に 入る 模様 です ! ばす||さーびす|えりあ||はいる|もよう| |||area|||appearance| It seems that the bus is entering the service area! レポーター の 怒声 に 光代 は ハッと 我 に 返った 。 れぽーたー||どせい||てるよ||はっと|われ||かえった ||angry voice||Mitsuyo||startled|I||returned to me ||angry voice||||驚いて||| At the reporter's angry voice, Mitsuyo snapped back to reality.

バス は 目的 地 の 天神 を 遥かに 越え 、 九州 道 から 中国 道 へ 入って いる 。 ばす||もくてき|ち||てんじん||はるかに|こえ|きゅうしゅう|どう||ちゅうごく|どう||はいって| |||||Tenjin||far|surpass|||||||| The bus has far surpassed its destination of Tenjin and is now entering the Chugoku Expressway from the Kyushu Expressway.

警察 の 車 に 誘導 さ れて バス が サービス エリア 内 の 駐車 場 に 停車 する 。 けいさつ||くるま||ゆうどう|||ばす||さーびす|えりあ|うち||ちゅうしゃ|じょう||ていしゃ| ||||guided||||||||||||| The bus is guided by the police car and stops in the parking lot of the service area.

その 映像 を テレビ で 見て いる はずな のに 、 光代 の 目 は なぜ か バス の 内 に あり 、 窓 の 外 に 取り囲む 警官 たち が 見える 。 |えいぞう||てれび||みて||||てるよ||め||||ばす||うち|||まど||がい||とりかこむ|けいかん|||みえる |||||||||Mitsuyo||||||||inside|||||||surround|||| Even though she should be watching that footage on TV, for some reason, Hikaru's gaze is inside the bus, where she can see the surrounding police officers outside the window.

「 中 に 、 中 に 怪我人 が いる 模様 です ! なか||なか||けがにん|||もよう| ||||injured person|||condition| "It seems there are injured people inside!" ナイフ で 刺さ れ 重傷 を 負って いる 模様 です ! ないふ||ささ||じゅうしょう||おって||もよう| ||stabbed||serious injury||wounded||| ||||||負傷して||| レポーター の 声 が だだっ広い 駐車 場 の 映像 に 重なる 。 れぽーたー||こえ||だだっぴろい|ちゅうしゃ|じょう||えいぞう||かさなる ||||booming||||||overlap

横 を 向けば 、 そこ に 胸 を 刺さ れた あの おばさん が いる ようだった 。 よこ||むけば|||むね||ささ|||||| ||if||||||||||| When I turned sideways, it seemed like there was that woman with a dagger in her chest.

自分 が 自宅 アパート の 居間 で テレビ を 見て いる こと は 分かって いた が 、 それ でも 光代 は 怖くて 顔 を 横 に 動かせ なかった 。 じぶん||じたく|あぱーと||いま||てれび||みて||||わかって|||||てるよ||こわくて|かお||よこ||うごかせ| |||||||||||||||||||||||||move| I knew I was watching TV in my living room at home, but still, Mitsuyo was so scared that she couldn't move her face to the side.

子供 の ころ から 自分 が 「 ついて いる 」 と 感じる こと が まったく なかった 。 こども||||じぶん|||||かんじる|||| I have never felt that I was 'being followed' since I was a child.

世の中 に は いろんな 人間 が いて 、 その 中 で 「 ついて いる 人 」 と 「 ついて い ない 人 」 に 分類 さ れたら 、 自分 は 間違い なく 後者 で 、 その 後者 グループ で 分類 さ れて も 、 やっぱり 「 ついて ない 」 方 に 選り分け られる 。 よのなか||||にんげん||||なか||||じん|||||じん||ぶんるい|||じぶん||まちがい||こうしゃ|||こうしゃ|ぐるーぷ||ぶんるい|||||||かた||えりわけ| ||||||||||||||following|||||classification|||||||latter|||latter||||||||||||sorting| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||選ばれる| In this world, there are various types of people, and if they were categorized into 'lucky people' and 'unlucky people', I would undoubtedly be in the latter group. Even within that group, I would still be classified as one of the 'unlucky ones.' 自分 は そんな 人間 だ と 思い込んで 生きて いた 。 じぶん|||にんげん|||おもいこんで|いきて| ||||||convinced|| I lived believing that I was that kind of person.

たまたま 有給 を 取った の が 、 あの 日 と 同じ 休日 だった と いう こと で 嫌 な 記憶 が 蘇って いた 。 |ゆうきゅう||とった||||ひ||おなじ|きゅうじつ||||||いや||きおく||よみがえって| ||||||||||||||||||||resurfaced| It just so happened that the paid leave I took was on the same holiday as that day, which caused unpleasant memories to resurface.

光代 は 気分 を 変えよう と 窓 を 開けた 。 てるよ||きぶん||かえよう||まど||あけた

暖まって いた 部屋 の 空気 が す っと 外 へ 流れ 、 冬 の 日 を 浴びた 寒風 が からだ を 撫でて 部屋 へ 流れ込んで くる 。 あたたまって||へや||くうき||||がい||ながれ|ふゆ||ひ||あびた|かんぷう||||なでて|へや||ながれこんで| warmed up|||||||||||||||bathed|cold wind||||caressed|||flowing in|

光代 は 一 度 身震い する と 、 大きく 背伸び して 深呼吸 した 。 てるよ||ひと|たび|みぶるい|||おおきく|せのび||しんこきゅう| ||||shudder||||stretching||deep breath| ||||||||背を伸ばした||| Mitsuyo shuddered once, then stretched her back and took a deep breath.

選り分け られたら 、 必ず 悪い ほう へ 入れ られて しまう 。 えりわけ||かならず|わるい|||いれ|| |if||||||| If sorted, I will always be placed in the bad category.

それ が 自分 だ と 、 光代 は ずっと 思い込んで いた 。 ||じぶん|||てるよ|||おもいこんで| Mitsuyo had always believed that this was who she was. でも 、 あの とき 、 あの 高速 バス に 、 私 は 乗ら なかった 。 ||||こうそく|ばす||わたくし||のら| あの バス に ギリギリ に なって 乗ら なかった 私 は 、 きっと 生まれて 初めて 、 良い 方 に 選り分け られた のだ 。 |ばす||ぎりぎり|||のら||わたくし|||うまれて|はじめて|よい|かた||えりわけ|| ||||||||||||||||選ばれた||

気 が つく と 、 光代 は そんな こと を 考えて いた 。 き||||てるよ|||||かんがえて|

目の前 に は 静かな 田んぼ の 風景 が 広がって いる 。 めのまえ|||しずかな|たんぼ||ふうけい||ひろがって| |||quiet|||||| In front of me, a peaceful rice field landscape is spreading out.

光代 は 窓 を 開けた まま 、 その 日差し の 中 で 携帯 を 見た 。 てるよ||まど||あけた|||ひざし||なか||けいたい||みた |||||||sunlight|||||| Hikariyo looked at her phone in the sunlight with the window open.

メール を 開く と 、 昨日 の 夜 まで もう 何 十 通 と 交わした 履歴 が 残って いる 。 めーる||あく||きのう||よ|||なん|じゅう|つう||かわした|りれき||のこって| When she opened her email, there were dozens of messages exchanged until last night still remaining.

四 日 前 、 勇気 を 振り絞って 出した メール に 、 清水 祐一 と 名乗る 男 は 親切に 応対 して くれた 。 よっ|ひ|ぜん|ゆうき||ふりしぼって|だした|めーる||きよみず|ゆういち||なのる|おとこ||しんせつに|おうたい|| |||||mustering|||||||identified|||kindly||| |||||振り絞って||||||||||||| Four days ago, a man claiming to be Yuichi Shimizu kindly responded to an email I managed to muster the courage to send.

三 カ月 前 、 久しぶりに 職場 の 飲み 会 に 出て 酔った 夜 、 遊び半分で 初めて 出会い 系 サイト を 覗いた 。 みっ|かげつ|ぜん|ひさしぶりに|しょくば||のみ|かい||でて|よった|よ|あそびはんぶんで|はじめて|であい|けい|さいと||のぞいた ||||||||||drunk||half-jokingly||||||peeked Three months ago, after a long time, I attended a workplace drinking party and on a drunken night, I casually checked out a dating site for the first time. 使い 方 が よく 分から ず 、 新 着 欄 に あった 中 から 長崎 に 住む 彼 を 選んだ 。 つかい|かた|||わから||しん|ちゃく|らん|||なか||ながさき||すむ|かれ||えらんだ |||||||arrival||||||||||| Not knowing how to use it well, I chose him from the newcomers' section, among those who live in Nagasaki.

長崎 を 選んだ の は 、 佐賀 で は 知り合い の 可能 性 が ある し 、 福岡 だ と 都会 過ぎる し 、 鹿児島 や 大分 だ と 遠 すぎる 。 ながさき||えらんだ|||さが|||しりあい||かのう|せい||||ふくおか|||とかい|すぎる||かごしま||だいぶ|||とお| |||||||||||||||||||||||Oita|||far| |||||||||||||||||||||||大分は||||

そんな 簡単な 理由 から だった 。 |かんたんな|りゆう||

三 カ月 前 は ドライブ に 誘わ れた とたん に 返事 を 出せ なく なった 。 みっ|かげつ|ぜん||どらいぶ||さそわ||||へんじ||だせ|| ||||||||||||could not give||

四 日 前 も 実際 に 会う 気 など まったく なかった 。 よっ|ひ|ぜん||じっさい||あう|き||| Four days ago, I had no intention of actually meeting anyone.

ただ 、 その 晩 、 寝る 前 に 誰 か と メール で いい から 言葉 を 交わして み たい だけ だ 。 ||ばん|ねる|ぜん||だれ|||めーる||||ことば||かわして|||| |||||||||||||||exchanging|||| I just wanted to exchange a few words with someone over email before going to bed that night. それなのに メール 交換 は 四 日 も 続いた 。 |めーる|こうかん||よっ|ひ||つづいた ||exchange||four|day||continued Yet, the email exchange continued for four days. 会う 気 など なかった くせ に 、 いつの間にか 会い たくて 仕方なく なって いた 。 あう|き|||||いつのまにか|あい||しかたなく|| Even though I had no intention of meeting, before I knew it, I was dying to see him.

彼 の 何 が そう 思わ せた の か 分から ない が 、 彼 と メール を 交わして いる と 、 あの 日 、 あの バス に 乗ら なかった 自分 で い られた 。 かれ||なん|||おもわ||||わから|||かれ||めーる||かわして||||ひ||ばす||のら||じぶん||| ||||||||||||||||exchanging|||||||||||||could I don't understand what made me think that way, but while exchanging emails with him, I felt like I could still be the person who didn't get on that bus that day.

何の 確信 も なかった が 、 ここ で 勇気 を 振り絞れば 、 もう 二度と あの バス に 乗ら ず に 済む ような 気 が した 。 なんの|かくしん||||||ゆうき||ふりしぼれば||にどと||ばす||のら|||すむ||き|| |confidence||||||||mustering||||||||||||| I had no certainty, but I felt that if I summoned my courage here, it might mean I wouldn't have to get on that bus ever again.

光代 は 差し込む 冬 の 日差し の 中 、 昨夜 最後に 送ら れて きた メール を 改めて 読んだ 。 てるよ||さしこむ|ふゆ||ひざし||なか|さくや|さいごに|おくら|||めーる||あらためて|よんだ ||stream in|||sunlight|||last night|||||||once again| Hikariyo read again the email that was finally sent last night, in the sunlight of a winter day streaming in.

〈 じゃあ 、 明日 、 十一 時 に 佐賀 駅前 で 。 |あした|じゅういち|じ||さが|えきまえ| <Then, tomorrow, at 11 o'clock in front of Saga Station.> お やすみ 〉 Good night.

簡単な 言葉 だった が 、 キラキラ と 輝いて 見えた 。 かんたんな|ことば|||きらきら||かがやいて|みえた ||||||sparkling|

今日 、 これ から 私 は 彼 の 車 で ドライブ する 。 きょう|||わたくし||かれ||くるま||どらいぶ|

灯台 を 見 に 行く 。 とうだい||み||いく lighthouse|||| 海 に 向かって 立つ 、 美しい 灯台 を 二 人 で 見 に 行く 。 うみ||むかって|たつ|うつくしい|とうだい||ふた|じん||み||いく |||||lighthouse|||||||