三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 09
9 カップル 誕生
「 そう か 」
と 、 父 は 肯 いた 。
「 申し訳 ありません 」 と 、 綾子 が 頭 を 垂れた まま 、 言った 。 「 謝って 済む と いう もの で は ない ぞ 。
分って いる んだろう な ? 父 の 言葉 は 厳しかった 。
「 はい 。
よく 分って います 」 綾子 は 、 うなだれて いた 。 「 お前 は 佐々 本家 の 長女 だ 。
と いう こと は 、 私 が 留守 の 間 は 、 お前 が 責任 を 持って 、 妹 二 人 の 面倒 を みて やら なくて は なら ん のだ 」
「 はい 」
「 ところが 、 珠美 が 誘拐 されて しまった 」 「 はい ……」 「 この 責任 は お前 に ある 。 分って いる だろう な 」 「 はい 」 と 、 綾子 は 肯 いて 、 言った 。 「 私 ──」
「 うむ 。
どう する つもりだ ? 「 死んで お 詫び を したい と 思います 」 「 よく 言った 」 と 、 父 は 肯 いた 。 「 覚悟 は できて いる か ? 「 はい 。
この 場 にて 切腹 して 果てる つもりで ございます 」
「 うむ 。
── やむ を 得 まい 。 では 、 みごと 切腹 して 、 己 れ の 落度 を 償え 」
「 はい 。
── で は 、 短刀 を お 貸し 下さい 」
「 うむ 。
ちょっと 今 、 短刀 が 品 切に なって おる 。 包丁 で は どう だ ? 「 でも 、 うち の 包丁 は 豆腐 も ろくに 切れません 」 「 お前 は 豆腐 か ? 「 いいえ 」
「 では 何とか しろ 」
「 そんな 無 茶 な !
お 父さん 、 冗談 も いい加減に して よ ! 「 どっち が 冗談 だ 。
珠美 が 誘拐 さ れた の は 、 お前 の せい だ ぞ 」
「 お 父さん が 年中 出張 で 家 を 留守 に する から いけない の よ !
お 父さん が いない と 、 ろくな こと が 起ら ない んだ から 」 「 お前 は 自分 の 責任 を 私 に 押し付けよう と いう の か ! 「 何 言って や がん だ 、 この ヘボ 親父 !
── まあ 、 私 、 何て 口 の きき 方 を して る の かしら !
綾子 は 、 自分 が 父親 に 向って 怒鳴って いる の を 見 ながら 、 思わず 顔 を 赤らめた 。 そして ── ふっと 目 を 開いた 。
「 夢 …… か あ 」
ソファ に 寝て いる のだった 。
何だか 部屋 は 薄暗くて 、 家 の 中 は 、 いやに 静かだ 。
ああ 、 やれやれ 、 と ため息 を つく 。
パッと 起き上る と 貧血 を 起す 恐れ が ある ので 、 しばらく 横 に なった まま 、 天井 を 眺めて いる 。
でも 、 変な 夢 を 見た もん だ わ 、 と 思った 。
父親 に あんな 口 を きく なんて 、 何 か 潜在 的に 反抗 したい と いう 欲求 が ある の かしら ? 「 変だ わ 」
と 、 綾子 は 呟いた 。
いや 、 父親 を 、「 ヘボ 親父 」 と 呼んだ こと を 言って いる ので は ない 。
どうして こんな 所 で 寝て いる のだろう 、 と いう 疑問 が 、 やっと 頭 に 浮んだ のである 。
それ に 何だか 後 頭部 が やけに 痛い 。
まるで 殴ら れ でも した か の ように ……。
あれ は ── まさか 、 あれ が 「 事実 」 だ なんて こと が ……。
珠美 が 本当に 誘拐 さ れた と したら ……。
突然 、 綾子 は はっきり と 思い出した 。
国友 刑事 が やって 来て いた とき 、 何だか 変な 女の子 が 訪ねて 来た 。
そして 、 珠美 が 誰 やら の 車 に 押し込められて 連れ 去ら れる の を 見た 、 と 言った のだ ……。 「 ああ 、 どう しよう !
ソファ に 起き上った 綾子 は 、 痛む 後 頭部 を さすり ながら 言った 。
── 話 を 聞いて 、 失神 し 、 倒れた 拍子 に 頭 を 打った のだ 。
呑気 に (?
) 気 を 失って なんか いられ ない わ 、 と 綾子 は 自分 へ 言い聞かせた 。 私 が しっかり し なきゃ ! 私 は 長女 な の よ 。 年上 で 、 年長な の よ ( 同じ こと だ が )。
「 夕 里子 !
どこ に いる の ? 綾子 は 、 声 を 上げて 呼んだ 。
「 珠美 ! ── は 、 いる わけ ない か 」
綾子 は 、 家中 を 捜し 回った 。
もちろん 、 たかが マンション の 一室 である 。 夕 里子 は もちろん 、 国友 の 姿 も 見え ない こと は 、 すぐに 分った 。 「 どこ 行っちゃった の かしら ! 珠美 が 誘拐 さ れたって いう のに 、 二 人 で きっと デート なんか して る んだ わ 。 呑気 なんだ から ! 姉 の 私 の 心痛 も 知ら ず に ──」
どうも 綾子 は 、 おとなしい ロマンチスト の 常 と して 、 多少 思い込み の 激しい ところ が ある 。
玄関 の チャイム が 鳴った 。
「 帰って 来た !
もう ! 勘弁 し ない から ね 」
綾子 は 、 腕 まくり し ながら 、 玄関 へ 出て 行った 。
ドア を パッと 開けて 、
「 今 まで 何 やって た の よ !
姉 の 威厳 を 示さ ん と 、 頭 の 天辺 から 突き抜ける ような 金切り声 を 上げて やった 。
が ── 目の前 に 立って いた の は 、 ヒョロリ と 背 は 高い が 、 やけに オドオド した 感じ の 男の子 であった 。
ドア が 開く なり 、 綾子 が かみつき そうな 顔 で 怒鳴った ので 、 男の子 の 方 は 仰天 して 飛び上った 。
「 す 、 すみません !
勘弁 して ! 「 あら ──」
綾子 も 、 人違い と 分って 、 相手 に 劣ら ず びっくり した 。 「 ごめんなさい 、 てっきり 妹 か と 思って ……」
「 は あ 」
男の子 は 、 胸 を 押えて ハアハア 喘いで いる 。
よっぽど 気 が 弱い らしい 。
よく 見る と 、 背 は 高い が 、 せいぜい 十五 、 六 歳 の 顔 を して いる 。
「 あの ── 何 か ご用 ?
と 、 綾子 は 、 打って変った 優しい 口調 で 言った 。
「 ええ と …… 僕 、 坂口 正明 と いいます 」 と 、 男の子 は 、 律 儀 に 名乗って 、「 ここ に 、 彼女 、 来ません でした ? 「 彼女 ?
── その 人 、 名前 ない の ? 「 いいえ 、 あります 」 「 彼女 、 じゃ 分 ら ない わ 」 「 すみません 」 よく 謝る 子 である 。 「 あの ── 杉下 ルミって いう んです 」 「 杉下 ……」 「 ここ に ── 国友って 刑事 が 来ません でした ? 「 国友 さん ?
ええ 、 来た わ よ 。 あなた 、 ちゃんと 年上 の 人 に は 『 さん 』 を つけ なさい よ 」
「 すみません 」
「 ああ 、 分った ! ── 国友 さん の こと を 、『 私 の 国友 さん 』って 呼んで た 変な 女の子 ね ? 「 そ 、 そうです 。
でも ── 変な 女の子 、 じゃ ありません 。 とても 可愛い んです 」
と 、 坂口 正明 は ふくれっつ ら に なった 。 「 そんな こと 関係ない でしょ !
私 も 会い たかった の 。 その子 ── ルミって 子 は 、 どこ に いる の ? 「 ここ に いる か と 思って 捜し に 来た んです 。
いま せんか ? 「 いりゃ 私 だって 訊 か ない わ よ 」
「 すみません 」
「 大変な こと に なって る の よ 。
妹 が 誘拐 されて 、 妹 が い なく なって ……。 妹 と 来たら 、 本当に 無鉄砲な んだ から ! 何だか わけ の 分 ら ない 様子 で 、 坂口 正明 は 目 を パチクリ さ せて いた 。
「 じゃ ── い なきゃ いい んです 」
ペコン と 頭 を 下げ 、「 失礼 しました 」 と 、 帰り かける の を 、 綾子 はぐ いと 腕 を つかんで 引き戻した 。 「 待って よ !
その ルミって 子 に 私 も 会わ なきゃ なら ない の 。 どこ に いる か 、 心当り ない の ? 綾子 の 剣幕 に 、 坂口 正明 は 少々 恐れ を なした 様子 で 、
「 あ 、 あの ── たぶん パーティ に ──」
「 パーティ ?
「 そ 、 そう な んです 。
すみません 」
「 謝ら なく たって い いわ よ 。
でも 、 ルミって 子 が パーティ に 行って る の は 確かな の ? 「 たぶん ……。
あの 国友 ── さんって 刑事 を 誘って 行く と 言って た んです 。 だから 、 僕 、 もしかしたら ここ へ 来た か と ──」
「 そう ……」
綾子 は 肯 いた 。
「 あなた 、 これ から その パーティ に 行く の ? 「 行きたい んです けど ……。 入れて くれ ない かも 」
「 どうして ?
綾子 は 、 坂口 正明 が やけに 大人っぽい 、 タキ シード など 着込んで いる のに 、 初めて 気付いた 。
今 まで は 、 そこ まで 頭 が 回ら なかった のである 。
「 カップル で ない と だめな んです 」
「 カッポレ ?
「 カップル です 。
女の子 同伴 で ない と 入れて くれ ない から ……」
綾子 は 、 ほんの 少し 迷った だけ で 、 言った 。
「 いい わ 」
「 え ?
「 私 が あなた と カップル に なる 。
それ で いい でしょ ? 坂口 正明 は 目 を 丸く した 。
「 あなた が ?
── でも 、『 女の子 』 で ない と だめな んだ けど なあ ……」
綾子 は 、 表情 を こわばら せた 。
「 私 が 『 女の子 』 で ないって いう の ? 男 に 見える ? 夕 里子 なら ともかく 、 自分 が 「 男 みたい 」 と 言わ れた こと の ない 綾子 に は 、 いささか ショック だった 。
「 いいえ 。
でも ……」
「 何 な の よ ?
はっきり 言って 」
「 ええ ……。
でも ……『 おばさん 』 で も いい の か なあ ……」
「 く 、 苦しい よ ……」
「 何 よ 、 男 でしょ 。
しっかり し なさい ! と 、 夕 里子 は 叱りつけた 。
「 そんな こと 言ったって ──」 と 、 ふてくされて いる の は 、 有田 勇一 である 。 「 男 は 、 ネクタイ ぐらい しめられ なきゃ 」 エイッ 、 と 締めて 、「 これ で いい や 」 勇一 は 目 を 白黒 さ せて いる 。 か の パーティ へ と 向 う 車 の 中 。
車 は 、 国友 の 車 で は ボロ すぎて ( 杉下 ルミ の 言葉 である ) 入れて くれ ない かも しれ ない と いう ので 、 ルミ の 家 の 自家 用 車 。 ベンツ で 、 かつ 運転 手つき である 。
「 しかし 、 全く 君 ら 姉妹 は 危 い こと が 好きだ なあ 」
と 、 国友 は 言った が 、 怒って いる と いう より 、 笑って いる の に 近かった 。
「 好きで やって る んじゃ ない わ 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 俺 の せい で 、 悪い なあ 」
と 、 首 の まわり を 指 で ゆるめる べく 空しい 努力 を し つつ 、 勇一 が 言った 。
「 お前 が 丸山 を 殺して ない と して も 、 素直に 出頭 して 、 事情 話して て くれりゃ 、 こんな こと に は なら なかった んだ ぞ 」
と 、 国友 が 言った 。
「 そう よ 。
ねえ 、 私 の 国友 さん 」
助手 席 に 座った ルミ が 甘ったれた 声 を 出す 。
夕 里子 は ムッと した が 、 ここ は ルミ と いう 娘 の 協力 が ない と 、 どうにも なら ない 。 ぐっと こらえて 口 を つぐんで いた 。
夕 里子 は 、 パーティ なんて もの と は 無縁である 。
ドレス なんて もの は 、 小さい ころ の 、 お 人形 の 着て いた もの ぐらい しか 持って いない 。 従って 、 ここ は 目一杯 、 外出 用 の 一 番 上等な ワンピース を 着る こと に した 。
ただ 、 ちょっと 涼しかった 。
何しろ 、 今 は 冬 だ と いう のに 、 夏 の ワンピース な のだ から ……。
国友 は 、 ごく 当り前の 背広 姿 。
これ ばかり は 仕方ない 。 勇一 は 、 夕 里子 が 父 の 服 を 、 無理に 着せて しまった ので 、 チンチクリン で は ある が 、 まあ 品物 は 悪く ない 。
「 息 が 詰り そうだ 」
と 、 勇一 は ハアハア 舌 を 出して 言った 。
「 犬 みたい よ 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 私 を エスコート する んだったら 、 もう 少し シャンと して て ! 「 分った よ 」 勇一 は 渋い 顔 で 言った 。 夕 里子 は 、 まだ 心 の 中 に 引っかかって いる 。
── 国友 の 話 が 、 である 。
珠美 が もしかしたら この 勇一 と ……。
珠美 が 、 何 を 好んで か 、 この 不良 じみ た少 年 に 恋して いる の は 分って いた が 、 二 人 の 仲 が どこ まで 進んで いる の か ── 国友 が 見た と いう ように 、 珠美 と この 勇一 が 、「 怪しい 仲 」 に なって いる の か ……。 珠美 に も 、 この 勇一 に も 、 訊 いて は みたい が 、 答え を 聞く の が 怖く も ある のである 。 下手 すりゃ 、 珠美 を 十六 ぐらい で 嫁 に 出す なんて こと に なり かね ない ……?
夕 里子 は 、 珠美 の 花嫁 姿 なんて の を 、 とても 想像 でき なかった ……。
「── で 、 パーティ は 、 何て ところ で やって る んだ ?
と 、 国友 が ルミ に 訊 いた 。
「 回り 持ち みたい よ 」 と 、 ルミ が 助手 席 から 答える 。 「 何 人 か 、 中心 に なる 大 金持 の 人 が いて 、 その 人 たち が 順番 で 、 屋敷 を 開放 する の 。 そこ の 中 や 外 で 、 夜っぴ て パーティ を 続ける の よ 」 「 へえ ……」 と 、 夕 里子 は 呆れて 、 言った 。 世の中 に ゃ 、 暇な 人間 が 多い もの な んだ わ 。
「 今回 は 、 小峰って 家 な の 」 と 、 ルミ が 言った 。 「 前 に も 私 、 行った こと ある けど 、 凄い 屋敷 よ 」
「 小峰 ?
「 そう 。
── 何 やって ん の かしら ね 、 ああいう 人って 。 私 の 家 なんか 、 せいぜい 敷地 が 千 坪 しか ない のに 、 あそこ は 三千 坪 以上 じゃ ない か なあ 」
「 せ 、 千 坪 ?
夕 里子 が 思わず 言った 。
── 確か 、 焼けちゃった 前 の 家 が 、 敷地 五十 坪 ……。 あまり 考え ない ように しよう 、 と 思った 。
負けちゃ い そうだ 。
「 小峰 か ……」
国友 が 考え込んだ 。
「 どこ か で 聞いた 名 だ な 」
「 そう だ わ !
千 坪 に 気 を 取られて いた 夕 里子 も 、 やっと 気付いた 。 「 珠美 が 言って た 。 殺さ れた 有田 信子 が ──」
夕 里子 が ハッと 口 を つぐんだ 。
勇一 が 眉 を ひそめて 、
「 お袋 が ?
お袋 が 何 だって ? 「 そう か 。
僕 も 思い出した 」
国友 が 肯 いた 。
「 おい 、 お前 は 知ら ない の か ? 「 何 を ?
「 小峰って 名 に 、 聞き 憶 え は ? 「 小峰 ?
知ら ない ぜ 」
と 、 勇一 は 言って 、「 何 だ よ 、 そ いつ ?
── 夕 里子 は 、 話した もの か 、 ちょっと 迷った 。
その 小峰 と いう 紳士 が 、 有田 信子 の 父親 ── つまり 、 勇一 の 祖父 に 当る 、 と いう こと な のだ が ……。
しかし 、 話 は 、 その先 まで 進ま なかった 。
ルミ が 呑気 な 声 を 上げた のである 。
「 ほら 見えた !
あの 塀 、 ずーっと 続いて る でしょ ? あそこ が 全部 小峰って 家 な の よ 」 ベンツ が 、 門 の 前 に 着く と 、 がっしり した 体格 の 男 が 二 人 、 車 の 方 へ やって 来た 。 「 失礼 します 。 パーティ へ ご 出席 で ? 「 ええ 」
と 、 ルミ が にこやかに 、「 はい 、 これ 、 招待 状 」
やたら 大判 の 封筒 を 出す と 、 相手 が ちょっと 敬礼 する ような 手つき を して 、
「 失礼 しました 。 中 へ 入られて ──」 「 分って る わ 。 駐車 場 は 左 ね 」
ルミ が 軽く 手 を 振る と 、 門 が サッと 開いた 。
ベンツ が 中 へ 乗り入れる 。
へえ 、 と 夕 里子 は 感心 した 。
── さすが に ルミ と いう 娘 、 こういう 場 で は 決って いる 。 駐車 場 と いって も 、 庭 の 一角 を 、 それ に あてて いる ようだった が 、 そこ だけ だって いい加減 広い 。
すでに 車 が 三十 台 以上 並んで いた 。
「 まだ 始まった と こね 」
と 、 ルミ が 外 へ 出て 言った 。
「 百 台 ぐらい すぐ 並ぶ んだ から 」
貸 駐車 場 なら 、 いくら に なる かしら 、 など と 、 夕 里子 は 珠美 みたいな こと を 考えて いた 。
「 じゃ 、 問題 の 車 を 捜して みよう 」
と 、 国友 が 言った 。
「 しかし 、 で かい 車 ばかり だ なあ 」
── ざっと 見て 回った が 、 それ らしい ビュイック は 見当ら ない 。
「 もう 少し 時間 が たったら 、 また 来て みる と いい わ 」
ルミ が そう 言って 、「 さ 、 私 の 国友 さん 。
── 行き ま しょ 」
「 分った よ 」 国友 が ため息 を つく 。 「 この 安物 の 背広 でも 大丈夫 か ね 」
「 そう ねえ 。
── 確かに 安物 ね 」
「 はっきり 言う な よ 」
「 そういう 当り前の 格好 、 却って 目 に つく の よ ね 。
── じゃ 、 こう しよう 」
ルミ は 、 国友 の 頭 に 手 を やる と 、 いきなり 髪 を くしゃくしゃに した 。
「 お 、 おい ──」
「 じっと して !
ルミ は 、 国友 の ネクタイ を ぐ いと ゆるめて 、 ワイシャツ の 一 番 上 の ボタン を 外した 。
それ から 、 ワイシャツ を ズボン から エイッ と 引 張り出して 、 外 へ 出した まま に して 、
「 うん !
これ で ナウ く なった ! と 、 肯 いた 。
「 おい ……。
これ じゃ 、 まるで 大 喧嘩 した 後 みたいじゃ ない か 」
「 いい の 。
それ なら パーティ 用 の スタイル に 見える の よ 」
「 シャツ を 出した まま に する の が ?
「 そこ が 若々しい んじゃ ない 。
だらしなく 着こなす の が 、 今 の 流行 。 さ 、 行き ま しょ 」
と 、 国友 の 腕 を 取って 、 言った 。
夕 里子 は 、 ポカン と して 、 それ を 眺めて いた が 、
「── さ 、 私 たち も 行く の よ 」
と 、 勇一 を 促した 。
「 どうした の ? 「 俺 ── いやだ ぜ 、 シャツ を 出して 行く の なんて 」
と 、 勇一 が 、 少々 恐れ を なした 様子 で 言った 。
「 私 だって 、 そんな の と 一緒に 行く の なんて ごめん よ !
夕 里子 は 、 勇一 の 腕 を ぐ い と つかんで 、
「 早く いらっしゃい !
と 、 叱りつける ように 言った 。