三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 14
14 狂気 の 朝
少し 時間 を 戻して ── 夕 里子 が 目 を 覚ました の は 、 やっと 夜 が 明けた ころ だった 。
「── 起きた の ?
と 、 みどり が 言った 。
「 あなた 、 寝 なかった の ?
夕 里子 は 、 燃え 続けて いる 火 を 見て 、 訊 いた 。
「 私 は 大丈夫 」
と 、 みどり は 肯 いて 、「 何 日 も 眠ら ない こと も ある の よ 」
「 体 が おかしく なら ない の ?
「 その代り 、 三 日 ぐらい 眠り っ放し の こと も ある わ 」
「 へえ 」
充分に 眠ら ない と だめな 夕 里子 に とって は 驚き である 。
「 やっぱり 、 霊感 と 関係 ある の ? 「 たぶん ね 。
── 精神 の 集中 って いう の か な 、 それ が できる と 、 三 日 ぐらい 眠ら なくて も 、 全然 平気 」
「 へえ ……」
夕 里子 が 感心 して いる と 、 奥 の 方 から 、 石垣 が 現われた 。
「 や あ 、 眠れた か ね 」
と 、 微笑み かける が 、 当人 の 目 は 充血 して いて 、 ほとんど 眠って い ない の が 分 る 。
「 ええ 。
── 外 は 明るい ようです ね 」
「 もう 少し だ ね 。
まだ 、 危 いよ 」
「 じゃ 、 明るく なったら 、 上 へ 行って み ます わ 」
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 姉 や 妹 、 それ に 友だち の こと も 心配です から 」
「 うん 、 分 る よ 」
石垣 は 、 火 の そば に 腰 を おろした 。
「 まだ 大丈夫だ と は 思う が ……」
夕 里子 は 、 その 前 に 座り 直した 。
「 石垣 さん 。
── この 山荘 で 、 一体 何 が あった んです か ? 夕 里子 の 問い に 、 石垣 は 、 目 を そらして 、 赤く 燃え 上る 炎 を 見 やった 。
「── 妻 の 園子 は 、 昔 から 、 異常な ほど 潔癖 で ね 」
と 、 石垣 は 言った 。
「 もちろん 、 若い 内 は よく そんな 女の子 が いる もの だ 。 私 も 、 園子 と 結婚 する とき 、 その 内 に は 園子 も ごく 普通に なる だろう と 楽観 して いた 」
「 それ が 、 そう は なら なかった んです ね 」
「 それどころか 、 逆に 極端に なる ばかりだった よ 」
と 、 石垣 は 首 を 振った 。
「 秀 哉 が 生れて 、 その とき 、 大変な 難産 だった こと も あり 、 園子 は 、 軽い ノイローゼ に なって 、 しばらく 入院 して いた 」
「 じゃ 、 あなた が あの 子供 を ?
「 ほんの 半年 ほど だ が ね 。
── しかし 、 退院 して から 、 園子 は 今度 は 極度に 疑り 深く なった 。 私 が 仕事 に 忙しくて 、 夜 遅く 帰る と 、 女 が いる のじゃ ない か と 疑って 、 ワイシャツ や 下着 まで 調べる 始末 だった 」
「 嫉妬 です か 」
「 とても 、 そんな もの じゃ なかった ね 」
石垣 は 、 苦笑 した 。
「 考えて みて くれ 。 仕事 で 、 女性 と 会う だけ でも 、 園子 は ヒステリー を 起す くらい だった 。 ── 一体 どうした の か 、 私 も 戸惑った よ 」
「 で 、 どうした ん です か ?
「 ともかく 、 差し当り は 私 が 注意 を して いれば 、 騒ぎ に は なら ない 。
── 十 年 余り は 、 それ で 無事に 過ぎた 」
と 、 石垣 は 言った 。
「 それ に 比べて 、 子供 の 秀 哉 の 方 は 、 母親 と は 逆の 意味 で 、 まともじゃ なかった 。 ── ほとんど 感情 なんて もの が ない んじゃ ない か と 思う ほど 、 いつも 冷たい んだ 」
「 母親 と 正反対です ね 」
「 そう 。
── それでいて 、 二 人 は いい パートナー だった 。 私 は 二 人 に とって 、 攻撃 の 目標 か 、 でなければ 他人 だった 」
石垣 は 、 ため息 を ついた 。
「 そして ── あの 事件 が あった 」
「 事件 ?
「 秀 哉 の ところ に 来た 家庭 教師 の 女子 学生 と 、 私 は 恋 に 落ちた のだ 」
と 、 石垣 は 言った 。
もちろん 、 今 は 石垣 の 話 だけ を 聞いて いる のだ から 、 必ずしも 事実 が その 通り だった と は 限ら ない が 、 まあ 無理 も ない 話 で は ある 。
「 笹 田 直子 と いう 女子 大 生 だった 」
と 、 石垣 は 続けた 。
「 私 も 彼女 も 充分に 用心 した つもりだった 。 もし 園子 に 気付か れたら 、 とんでもない こと に なる と 分 って いた から だ 」
「 でも 、 ばれちゃ った んでしょう 。
隠そう たって 、 無理です よ 」
夕 里子 の 言葉 に 、 石垣 は 苦笑 した 。
「 全く だ 。
妻 は 、 初め から 気付いて いた らしい 。 私 は 、 何とか 、 穏やかに 妻 と 別れて 、 笹 田 直子 と 結婚 し たい と 思って いた ……」
石垣 は 、 少し 間 を 置いて 、「 その 内 、 恐ろしい こと が 起った 。
── ある 日 、 突然 、 彼女 が 姿 を 消した んだ 。 一体 何 が あった の か 、 私 に は 分 ら なかった が 、 ともかく 園子 が 何 か を した の に 違いない と 思った 。 妻 も 姿 を 消して いた から だ 」
「 それ で ?
「 この 山荘 へ 、 電話 が あった 。
笹 田 直子 で 、 ひどく 怯えて いた 。 ホテル に いる と 言う ので 、 私 は 駆けつけた 。 と いって も 、 遠い 道 だ 。 ── 辿りついて みる と 、 彼女 は 刺し殺さ れて いた 」
「 殺さ れて ?
「 そう 。
そして 、 その そば に は 、 見た こと の ない 男 が 、 剃刀 で 手首 を 切って 、 倒れて いた のだ 。 園子 が 、 どこ から と も なく 、 姿 を 現わした ……」
「 奥さん が ── 殺した んです ね 」
「 そう 。
そして 、 その 男 も 、 園子 が 見付けて 来た のだ 。 浮 浪 者 で 、 年 格好 が 私 に 近い 男 だった 。 身 ぎれい に さ せ 、 その ホテル へ 連れて 行って 、 睡眠 薬 で 眠ら せ 、 手首 を 切って 、 自殺 に 見せかけた 」
「 じゃ ── 無理 心中 ?
「 そうだ 。
そして 園子 は 、 その 浮 浪 者 を 、 私 だ と 証言 した ……」
「 どうして 石垣 さん は 黙って た んです か ?
「 私 か ね 。
── 私 は 、 だらしない と 思わ れる だろう が 、 園子 が 怖かった のだ 。 もう 、 園子 は 完全に 狂って しまって いる 。 それ に 、 恋人 を 殺さ れた ショック ── それ も 、 私 の せい で 、 だ 。 気落ち して 、 どうにでも なれば いい と いう 気持 だった 」
石垣 は 、 そう 言って から 、「 それ に ── 秀 哉 の こと を 考えた んだ 。
まあ 、 普通の 親子 と は 違う が 、 それ でも 息子 は 息子 だ 。 園子 一 人 の そば に おく の は 不安だった 。 それ に ── 実のところ 、 私 は 、 この 山荘 へ 戻って 来て いて 、 園子 が 、 私 が 死んだ と 証言 した こと など 、 その とき に は 知ら なかった のだ よ 」
夕 里子 は 肯 いて 、
「 その 事件 の こと は 、 よく 分 り ました 。
でも 、 今度 の こと は どう な んです か ? と 訊 いた 。
「 うん ……。
その後 、 園子 は 少し 落ちついた ように 見えた 。 もちろん 、 あれ は 人 を 殺して いる 。 それ も 二 人 だ 。 しかし 、 私 と して は 、 妻 を 警察 へ 突き出す わけに も いか ない 。 それ に ──」
と 、 石垣 は 、 ちょっと 視線 を 上 の 方 へ 向けて 、「 こんな 山 の 中 で 暮して いる と 、 いわゆる 世間 の 法律 など と いう もの が 、 どうでも いい ように 思えて 来る 。
毎日 の 暮し の 方 が 、 優先 して ね 。 分 って くれる かな ? 「 何となく ……」
「 あの 山荘 は 、 もともと コテージ と して 、 客 を 泊め られる ように 作ら れて いる 。
── 園子 は 、 民宿 の ように 、 時々 、 若者 たち を 泊めて いた 。 別に 、 そう し なくて は 食べて いけ ない わけじゃ ない 。 ただ 、 私 も 、 若い 人 たち を 見る の は 好きだった し ね 」
「 こんな 所 に 三 人 だけ で いたら 、 おかしく なっちゃ い ます もの ね 」
「 その 通り 。
私 に は 、 いわば いい 刺激 だった んだ よ 」
と 、 石垣 は 肯 いた 。
「 山荘 の 仕事 の 方 は 、 ほとんど 園子 に 任せ 切って いた ので 、 私 は 、 そこ で 何 が 起って いる か 、 知ら なかった んだ ……」
石垣 は 、 言葉 を 切った 。
「 何 が …… 起って いた んです か 」
と 、 夕 里子 は 訊 いた 。
石垣 は 、 ふと 立ち上った 。
じっと 座って い られ ない 、 と いう 様子 だった 。
「 三 日 前 、 二十六 日 の こと だ 。
私 は …… 園子 と 秀 哉 が 出かけた 後 、 裏庭 を ぶらついて いて 、 地下 道 を 見付けた 」
「 地下 道 ?
「 山荘 そのもの は 新しい が 、 ここ は もともと 、 ある 政治 家 の 古い 別荘 の あった ところ だ 。
地下 道 は 、 たぶん 、 その 前 から あった もの だろう 」
「 そこ に 何 か ──」
「 私 は 、 それ を 辿 って 行って みた 。
その 更に 奥 の 地下 へ 降りた 所 に 、 部屋 が あった 。 牢獄 の ような 、 石 造り の 、 暗い 部屋 だ 」
夕 里子 は 、 何となく 、 そう 聞いた だけ で ゾッと した 。
「 見える わ 」
と 、 それ まで じっと 黙って 聞いて いた みどり が 、 突然 言った 。
夕 里子 が 見る と 、 みどり は 、 忘我 状態 に でも 入った ように 、 じっと 目 を 閉じて いる 。
「 見える 、 って ?
と 、 夕 里子 は 言った 。
「 何 が 見える の ? 「 血 の 流れた 部屋 ……。
血 の 匂い の 充満 した 部屋 。 ── 女の子 が 死んで る わ 。 三 人 、 いえ 四 人 も 五 人 も ……」
みどり は 、 独り言 の ように 言った 。
「 その 通り だ 」
と 、 石垣 は 肯 いた 。
「 そこ に 、 その とき 鎖 で つなが れて いた の は 、 一 人 だった 。 しかし 、 その 前 に 、 殺さ れて は 、 どこ か に 埋め られた 娘 が いた に 違いない 。 君 は 、 その 何 人 も の イメージ を 、 見て いる んだ 」
「 殺さ れて ?
でも ── どうして ? 「 その 、 鎖 に つなが れた 娘 は 、 虫 の 息 だった が 、 まだ 死んで い なかった 。
ともかく 、 水 を やる と 、 かすかに 意識 を 取り戻した が 、 その 口 から 、 とぎれ とぎれ に 、 何 が あった の か を 聞いた のだ 」
「 それ も ── 奥さん が ?
「 そうだ 。
一体 何 が きっかけ だった の か 分 ら ない が ……。 園子 は 、 血 を ── それ も 若い 娘 の 血 を 飲む ように なって いた んだ 」
夕 里子 は 、 言葉 も なかった 。
── 吸 血 鬼 !
そんな 話 は 、 小説 と 映画 の 中 だけ の もの か と 思って いた のに !
「 しかも 、 園子 は 、 それ が 必要だ と 思って いた んだ 。
自分 に も 、 息子 に も 」
「 秀 哉 君 に も ?
「 そう 。
── 狂気 と しか 言い よう が ない 。 若者 たち を 泊めた の も 、 後 で ここ に 泊った こと が 分 ら ない ような 、 都合 の いい 娘 を 見付ける ため だった 。 捕えて は 、 その 地下 牢 へ つなぎ 、 血 を 抜き取って いた ……」
夕 里子 も 、 実際 の 歴史 上 に 、 そういう 例 が ない こと も ない と 知って いた 。
どこ だ か の 城 の 女 城主 が 、 若 さ を 保つ ため に 、 若い 娘 たち の 血 で 風呂 に 入った と か ……。 犠牲 者 は 何 百 人 に も 上った と いう こと だ が 、 しかし 、 それ は 中世 の 話 だ 。
まさか この 現代 に !
「 その 話 を して くれた 娘 も 、 こ と 切れて しまった 。
── 私 は しばし 呆然と して いた が 、 ともかく 、 放って は おけ なかった ……」
「 それ で ?
夕 里子 は 、 先 を 聞く の が 怖い ような 気 が した 。
「 私 は 、 心配だった 。
ちょうど 、 また 秀 哉 に 家庭 教師 の 女子 大 生 が 来て いた から だ 。 この ところ 、 この 山荘 に 泊る 若者 は 、 あまり い なかった から 、 その 女子 大 生 も 、 危険 かも しれ ない と 思った んだ 」
「 その 人 が ──」
あの 、 国 友 の 見た 死体 かも しれ ない 、 と 夕 里子 は 思った 。
「 私 は 、 その 女子 大 生 を 捜した 。
しかし 、 山荘 の どこ に も 、 見当ら ない 。 手遅れだった の か と 青く なり 、 それ でも 、 何とか 園子 たち に 追いつけば 、 間に合わ ない と も 限ら ない 。 私 も 車 で 、 園子 と 秀 哉 を 追って 東京 へ と 向 った ……」
「 でも 、 間に合わ なかった んです ね 」
「 その ようだ 」
石垣 は 、 ため息 を ついた 。
「 私 は 、 妻 と 息子 を 、 見付け られ なかった んだ 。 仕方ない 。 一旦 山荘 へ 戻って 、 待ち受ける こと に した 。
ところが 、 園子 たち の 車 が 見えて 、 よく 見る と 、 他 に も 大勢 乗って いる 。
私 は 、 もしかしたら 、 園子 が 、 誰 か 仲間 を 連れて 来た の かも しれ ない と 思って 、 怖く なった 。 そして 、 ここ へ 隠れる こと に した んだ よ 」
「 それ が 私 たち だった んです ね 」
「 そうだ 。
── しかし 、 園子 に とって は 、 君 ら は 正に 格好の 獲物 だ 。 ともかく 、 早く 逃げる こと だ よ 」
夕 里子 は 、 立ち上った 。
「 お 話 を 聞いて 、 姉 と 妹 の こと 、 ますます 心配に なり ました 。
もう 朝 に なった でしょう し 、 上 へ 行って み ます 」
「 そう か 。
それ が いい かも しれ ない 」
みどり も 加わり 、 三 人 は 、 洞窟 の 出口 の 方 へ と 、 足下 に 用心 し ながら 、 進んで 行った 。
「── 石垣 さん 、 ここ は どうして 見付けた んです か ?
「 この 洞窟 か ね ?
一 人 で いる とき 、 危うく 落 っこ ち かけて ね 、 この上 の 出っ張り で 、 命拾い を した んだ 。 その とき 、 偶然に ね 」
「 大きな 洞窟 です ね ──。
あら ! と 、 夕 里子 は 足 を 止めた 。
「 あの 声 ……」
その とき 、 夕 里子 は 、 国 友 と 水谷 の 呼ぶ 声 に 気付いた のである 。
夕 里子 は 駆けて 行って 、
「 国 友 さ ー ん !
と 、 力一杯 の 声 で 呼んだ ……。
「── 恨ま ない こと ね 」
と 、 園子 は 言った 。
「 どちら が 先 でも 、 同じ こと でしょ 」
珠美 は 、 じっと 園子 を にらみ つけて いた が 、 いくら にらんで も 、 この 鉄 の 足かせ が 外れる わけで は ない 。
「 珠美 ……」
綾子 が 、 言った 。
── 椅子 に 縛り つけ られて いる 。
首筋 に ピタリ と ナイフ の 刃 が 当て られて 、 少し でも 身動き すれば 、 切り裂か れ そうな 様子 だった 。
綾子 は 、 左 の 腕 を テーブル の 上 に 置いて 、 ベルト で 縛り つけ られて いた 。
右手 は 椅子 の 背 に 縛ら れ 、 両足 も 椅子 の 足 に 結びつけ られて いた 。
「 私 、 低 血圧 です 」
と 、 綾子 は 言った 。
「 それ に 、 貧血 症 です し ……」
「 結構 よ 」
園子 は 、 微笑んだ 。
「 必要な の は 『 若 さ 』 な の 。 それ に 、 この 山荘 で は 、 充分に 食べて いた でしょ ? 「 ええ 、 味 は 良かった です 」
と 、 綾子 は 呑気 な も のである 。
「 賞 め て いただいて 嬉しい わ 」
園子 は 、 少しも 無気味な 様子 で は なかった 。
魔法使い の 老婆 みたいな 声 も 出さ なければ 、 下 から 光 で 、 顔 が 浮かび 上って いる わけで も ない 。
そこ が 却って 、 薄気味悪い のだった 。
「 じゃ 、 血 を 抜き ましょう ね 」
園子 は 、 注射 針 を ゴム の 管 に セット する と 、
「 痛く は ない わ 。
ただ ── スーッ と 意識 が 薄れて 行く だけ 」
「 でも 、 死ぬ んでしょ 」
と 、 綾子 は 訊 いた 。
「 そう ね 。
その 点 は 気の毒だ けど 」
「 私 は いい んです けど 、 そこ の 妹 は 、 まだ 十五 です 。
もう 少し 、 人生 を 楽しま せて やり たい んです 」
「 お 姉ちゃん !
珠美 は 、 怒鳴った 。
「 そんな 奴 に 、 まともな 話 なんて した って むだだ よ ! 暴れて ! 逃げ なきゃ ! 「 どっち に して も 死ぬ よ 」
と 、 秀 哉 が 、 ちょっと ナイフ を 持ち 上げて 見せた 。
「 切ら れりゃ 痛い と 思う けど 」
「 自分 の 首 で も 切れば ?
すげ かえて やる から 」
と 、 珠美 は 、 かみつく ように 言った 。
「 妹 の 方 が 元 気 いい みたい 」
と 、 秀 哉 は 言った 。
「 当り前 よ !
たとえ 殺さ れた って 、 化けて 出て やる から ね ! その とき に 後悔 した って 遅い んだ から ! 「 まあ 、 大した 元気 ね 」
と 、 園子 は 笑った 。
「 じゃ 、 楽しみ は 後 に とっておき ま しょ 」
「 綾子 姉ちゃん ──」
「 珠美 」
と 、 綾子 は 、 言った 。
「 もし 、 あんた だけ 生き残ったら ──」
「 お 姉ちゃん !
「 お 墓 の 掃除 して よ ね 」
変な こと に こだわって いる 。
「 動か ないで 。
── 針 が 入ら ない から 」
と 、 園子 が 言って 、 針 を 手 に 取る と 、 綾子 の 腕 を 押える 。
「 あの ──」
と 、 綾子 が 言った 。
「 その 針 、 消毒 して あり ます ? 「 やめて !
と 、 珠美 は 叫んだ 。
「 私 を やって よ ! そんな 、 お 姉ちゃん の 血 なんか おいしく ない わ よ ! 「 珠美 !
綾子 が 、 急に キッ と なって 、「 長女 な んだ から 、 私 は 。
最初に 犠牲 に なる 立場 な の 。 分 った ? 「 お 姉ちゃん ……」
珠美 も 、 さすが に 、 シュン と して いる 。
「 さあ 、 それ じゃ 、 始め ましょう か 」
園子 は 、 綾子 の 腕 に 、 針 を 突き 立てよう と した 。
と ── ドドド 、 と いう 音 。
園子 が 顔 を 上げた 。
「 足音 だ よ 、 ママ 」
と 、 秀 哉 が 言った 。
「 お 姉ちゃん !
と 、 叫ぶ 声 が した 。
「 珠美 !
「 夕 里子 姉ちゃん だ !
珠美 が 、 飛び上ら ん ばかりに して 、「 ここ よ !
早く 来て ! と 叫んだ 。
「── ママ 」
秀 哉 が 園子 を 見る 。
「 仕方ない わ 」
園子 は 、 秀 哉 を 促して 、 壁 の 一 つ へ と 駆け寄る と 、 それ を 押した 。
壁 が 音 を 立てて 動き 、 扉 の ように 開いた 。
「 早く !
秀 哉 を 押し 込んで 、 園子 は 、 自分 も 中 へ 入った 。
その 壁 の 扉 が 、 閉じる と 同時に 、 地下 道 から の 扉 が 大きく 開いて 、 夕 里子 が 飛び 込んで 来た 。
「 お 姉ちゃん !
大丈夫 ? と 、 駆け寄って 、「 血 を 抜か れた ?
「 まだ よ 。
もし 少し でも 抜か れて たら 、 それ だけ で 貧血 起こして る わ よ 」
平然と して い られる の が 、 綾子 らしい ところ だ 。
「 大丈夫 か !
国 友 と 水谷 が 飛び 込んで 来る 。
「 国 友 さん !
珠美 を ──」
「 分 った !
国 友 は 、 珠美 の 足かせ に つながって いる 鎖 を つかんで 、 壁 から 引っこ抜こう と 必死で 引 張った が 、 とても 歯 が 立た ない 。
当り前だろう 。 すると 、
「── 国 友 さん 」
綾子 が 縄 を とか れて 、「 そこ に 鍵 が 置いて ある わ 。
私 の を 外した やつ 」
と 、 テーブル の 上 の 鍵 を 指さした のだった 。