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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 101. ある夏の日のこと - 小川未明

101. ある夏の日のこと - 小川未明

ある 夏 の 日 の こと - 小川 未明

姉さん は 、 庭 前 の つつじ の 枝 に 、 はち の 巣 を 見つけました 。 ・・

「 まあ 、 こんな ところ へ 巣 を 造って 、 あぶない から 落として しまおう か 。」 と 、 ほうき を 持った 手 を 抑えて ためらいました が 、・・

「 さわら なければ 、 なんにも し ない でしょう 。」 ・・

せっかく 造り かけた 巣 を こわす の も かわいそうだ と 考え 直して 、 しばらく 立ち止まって 、 一 ぴき の 親 ばち が 、 わき見 も せ ず 、 熱心に 小さな 口 で 、 だんだん と 大きく しよう と 、 固めて いく の を ながめて いました 。 その うち に 、 はち は どこ へ か 飛び去りました 。 なに か 材料 を 探し に いった のでしょう 、 しばらく する と 、 また もどって きました 。 そして 、 同じ ような こと を うま ず に 繰り返して いました 。 ・・

「 この はち 一 ぴき だけ だろう か 。」 ・・

彼女 は 、 同じ 一 ぴき の はち が 、 往ったり 返ったり して 、 働いて いる の しか 見 なかった から です 。 ・・

「 勇 ちゃん に 、 だまって いよう 。」 ・・

見つけたら 、 きっと 巣 を 取る であろう と 思いました 。 ・・

姉さん は 、 すわって 、 仕事 を し ながら 、 ときどき 思い出した ように 、 日 の 当たる 庭 前 を 見ました 。 葉 の 黒ずんだ ざくろ の 木 に 、 真っ赤な 花 が 、 点々 と 火 の ともる ように 咲いて いました 。 そして 、 水 盤 の 水 に 浮いた すいれん の 葉 に 、 はち が 下りて 止まって いる の を 見ました 。 ・・

「 あの はち は 、 さっき の はち か しら ん 。」 ・・

目 を はなさ ず に 見て いる と 、 はち は 、 しばらく たって 、 つつじ の 枝 の 方 へ 飛んで いきました 。 ・・

「 やはり そう だ わ 。 水 を 飲み に きた んでしょう 。」 ・・

翌朝 、 庭 を そう じする とき に 、 姉さん は 、 はち が どうして いる だろう と わざわざ つつじ の 木 の ところ へ いって 、 巣 を のぞいて みました 。 そこ に は 、 昨日 の 親 ばち が 、 やはり 一 ぴき で 、 いっしょうけんめいに 巣 を 大きく しよう と して いました 。 彼女 は 、 はじめて その とき 、 一 ぴき の はち の 力 で 造ら れた 巣 に 注意 を 向けた のです 。 ・・

なんと 並々 なら ぬ 心遣い と 、 努力 が 、 その 巣 に 傾けられて いる こと か 。 たとえば 、 雨 風 に 吹かれて も 容易に 折れ そう も ない 、 じょうぶな 枝 が 選ばれて いました 。 また 、 巣 の つけ根 は 、 さわって も 落ち ない ように 、 強そうに 黒 光り が して いました 。 小さな はち に どうして 、 こんな 智 慧 が ある か と 不思議に 思わ れた ほど でした 。 ・・

「 そう だ 、 これ を 弟 に 見せて やろう 。 そして 、 りこうな はち が 、 どうして 巣 を 造り 、 また 子供 を 育てる の に 苦心 する か を 教えて やろう 。 そう すれば 弟 は 、 ここ に 巣 の ある こと を 知って も 、 けっして 落とす こと は ある まい 。」 と 、 考えた のでした 。 午後 に なって 勇 ちゃん は 、 学校 から 帰る と 、 庭 に 出て 、 一 人 で 遊んで いました 。 ・・

「 勇 ちゃん 、 はち の 巣 が あって よ 。」 ・・

彼女 は 、 弟 の 顔 を 見ました 。 ・・

「 ああ 、 知っている 。」 ・・

「 え 、 知っている の 。」 ・・

弟 が 、 どうして 、 それ を 落とさ なかったろう と 疑わ れました 。 ・・

「 姉さん 、 つつじ の 木 だろう 。 お母さん ばち が ひと り で 巣 を 造って いる のだ よ 。」 ・・

「 ええ 、 そう な の 。」 ・・

「 この あいだ から 見る と 、 だいぶ 大きく なった 。 あの 穴 の 中 に 子供 が いる んだ ね 。 暑い とき は 、 水 盤 の 水 を 含んで いって 、 巣 の 上 を 冷やして いる よ 。」 ・・

「 まあ 。」 ・・

そんな くわしい こと まで 、 いつ 弟 は 観察 して いた のだろう と びっくり しました 。 ・・

しかし 、 姉さん は 、 弟 が 、 どんなに その はち を かわいがって いる か を 、 まだ 知ら なかった のです 。 ・・

「 君 、 はち の 子 を 持っていく と 、 ほんとうに よく 釣れる よ 。」 ・・

子供 たち は 、 日課 の ように 、 みんな で 川 へ 釣り に 出かけました 。 彼ら は 、 血眼 に なって 、 はち の 巣 を さがして いた のです 。 勇 ちゃん は 、 その 話 を 聞く たび に 、 庭 の はち の 巣 を 目 に 浮かべました 。 このごろ 母 ばち の 片方 の 羽 が すこし 破れて いる の を 考える と 、 胸 が 痛く なる の を 感じました 。 ほか の 子供 は 、 どこ から か 、 はち の 子 を さがして 持っていく こと が あった が 、 勇 ちゃん だけ は 、 いつも うどん 粉 の 餌 を 造って 、 釣り に 出かけた のでした 。

101. ある夏の日のこと - 小川未明 ある なつ の ひ の こと|おがわ みめい one summer day| 101. One Summer Day - Mimei Ogawa 101. un día de verano - Mimei Ogawa. 101. Один летний день - Мимэй Огава.

ある 夏 の 日 の こと - 小川 未明 |なつ||ひ|||おがわ|みめい One summer day-Mimei Ogawa

姉さん は 、 庭 前 の つつじ の 枝 に 、 はち の 巣 を 見つけました 。 ねえさん||にわ|ぜん||||えだ||||す||みつけ ました ||garden|front||azalea||||||nest|| Meine Schwester fand einen Bienenstock auf einem Ast einer Azalee vor dem Garten. My sister found a beehive on a branch of an azalea in front of the garden. ・・

「 まあ 、 こんな ところ へ 巣 を 造って 、 あぶない から 落として しまおう か 。」 ||||す||つくって|||おとして|| ||||||built|dangerous|||| "Nun, lass uns an einem solchen Ort ein Nest bauen und es von dem gefährlichen Ort fallen lassen." と 、 ほうき を 持った 手 を 抑えて ためらいました が 、・・ |||もった|て||おさえて|ためらい ました| |broom|||||restrained|hesitated| Ich zögerte, meine Hand mit dem Besen zu halten, aber ... I hesitated, holding my broom in my hand, but...

「 さわら なければ 、 なんにも し ない でしょう 。」 do||||| "Wenn du es nicht berührst, wirst du nichts tun." ・・

せっかく 造り かけた 巣 を こわす の も かわいそうだ と 考え 直して 、 しばらく 立ち止まって 、 一 ぴき の 親 ばち が 、 わき見 も せ ず 、 熱心に 小さな 口 で 、 だんだん と 大きく しよう と 、 固めて いく の を ながめて いました 。 |つくり||す|||||||かんがえ|なおして||たちどまって|ひと|||おや|||わきみ||||ねっしんに|ちいさな|くち||||おおきく|||かためて|||||い ました |built||||destroy|||||||for a while|stopped||counter for small animals|||bee||glancing||||enthusiastically|||||||||firm||||| その うち に 、 はち は どこ へ か 飛び去りました 。 ||||||||とびさり ました ||||||||flew away In der Zwischenzeit flog Hachi irgendwo weg. なに か 材料 を 探し に いった のでしょう 、 しばらく する と 、 また もどって きました 。 ||ざいりょう||さがし|||||||||き ました ||ingredients||||||||||returned| そして 、 同じ ような こと を うま ず に 繰り返して いました 。 |おなじ|||||||くりかえして|い ました |||||skill|||| ・・

「 この はち 一 ぴき だけ だろう か 。」 ||ひと|||| ・・

彼女 は 、 同じ 一 ぴき の はち が 、 往ったり 返ったり して 、 働いて いる の しか 見 なかった から です 。 かのじょ||おなじ|ひと|||||おう ったり|かえったり||はたらいて||||み||| ||||||||coming and going|coming and going||||||||| ・・

「 勇 ちゃん に 、 だまって いよう 。」 いさみ|||| "Lass uns bei Yuu-chan bleiben." ・・

見つけたら 、 きっと 巣 を 取る であろう と 思いました 。 みつけたら||す||とる|||おもい ました ・・

姉さん は 、 すわって 、 仕事 を し ながら 、 ときどき 思い出した ように 、 日 の 当たる 庭 前 を 見ました 。 ねえさん|||しごと|||||おもいだした||ひ||あたる|にわ|ぜん||み ました 葉 の 黒ずんだ ざくろ の 木 に 、 真っ赤な 花 が 、 点々 と 火 の ともる ように 咲いて いました 。 は||くろずんだ|||き||まっかな|か||てんてん||ひ||||さいて|い ました leaf||blackened|pomegranate|||||||||||lit up||blooming| そして 、 水 盤 の 水 に 浮いた すいれん の 葉 に 、 はち が 下りて 止まって いる の を 見ました 。 |すい|ばん||すい||ういた|||は||||おりて|とまって||||み ました ||tray||||floating|water lily||||||flew||||| ・・

「 あの はち は 、 さっき の はち か しら ん 。」 |||||||wonder| ・・

目 を はなさ ず に 見て いる と 、 はち は 、 しばらく たって 、 つつじ の 枝 の 方 へ 飛んで いきました 。 め|||||みて|||||||||えだ||かた||とんで|いき ました ||taking off||||||||||azalea||||||| ・・

「 やはり そう だ わ 。 水 を 飲み に きた んでしょう 。」 すい||のみ||| ・・

翌朝 、 庭 を そう じする とき に 、 姉さん は 、 はち が どうして いる だろう と わざわざ つつじ の 木 の ところ へ いって 、 巣 を のぞいて みました 。 よくあさ|にわ||||||ねえさん|||||||||||き|||||す|||み ました ||||clean|||||||why||||||||||||||peeked| The next morning, when she was tidying the garden, she went all the way to the azalea tree to peek into the nest to see what the bees were doing there. そこ に は 、 昨日 の 親 ばち が 、 やはり 一 ぴき で 、 いっしょうけんめいに 巣 を 大きく しよう と して いました 。 |||きのう||おや||||ひと||||す||おおきく||||い ました ||||||||||||with all one's might||||||| 彼女 は 、 はじめて その とき 、 一 ぴき の はち の 力 で 造ら れた 巣 に 注意 を 向けた のです 。 かのじょ|||||ひと|||||ちから||つくら||す||ちゅうい||むけた| ||||||||||||built||||||directed| ・・

なんと 並々 なら ぬ 心遣い と 、 努力 が 、 その 巣 に 傾けられて いる こと か 。 |なみなみ|||こころづかい||どりょく|||す||かたむけ られて||| |patient|||thoughtfulness||effort|||||devoted||| たとえば 、 雨 風 に 吹かれて も 容易に 折れ そう も ない 、 じょうぶな 枝 が 選ばれて いました 。 |あめ|かぜ||ふか れて||よういに|おれ|||||えだ||えらば れて|い ました ||||blown|||broken||||strong|||chosen| また 、 巣 の つけ根 は 、 さわって も 落ち ない ように 、 強そうに 黒 光り が して いました 。 |す||つけね||||おち|||きょうそうに|くろ|ひかり|||い ました |||base||touched||||as|strong||shiny||| The nest's false roots had a strong, black glow so that they would not fall off when touched. 小さな はち に どうして 、 こんな 智 慧 が ある か と 不思議に 思わ れた ほど でした 。 ちいさな|||||さとし|さとし|||||ふしぎに|おもわ||| |||||wisdom|wisdom||||||||| ・・

「 そう だ 、 これ を 弟 に 見せて やろう 。 ||||おとうと||みせて| そして 、 りこうな はち が 、 どうして 巣 を 造り 、 また 子供 を 育てる の に 苦心 する か を 教えて やろう 。 |||||す||つくり||こども||そだてる|||くしん||||おしえて| |clever|||||||||||||effort||||| そう すれば 弟 は 、 ここ に 巣 の ある こと を 知って も 、 けっして 落とす こと は ある まい 。」 ||おとうと||||す|||||しって|||おとす|||| と 、 考えた のでした 。 |かんがえた| 午後 に なって 勇 ちゃん は 、 学校 から 帰る と 、 庭 に 出て 、 一 人 で 遊んで いました 。 ごご|||いさみ|||がっこう||かえる||にわ||でて|ひと|じん||あそんで|い ました ・・

「 勇 ちゃん 、 はち の 巣 が あって よ 。」 いさみ||||す||| ・・

彼女 は 、 弟 の 顔 を 見ました 。 かのじょ||おとうと||かお||み ました ・・

「 ああ 、 知っている 。」 |しっている ・・

「 え 、 知っている の 。」 |しっている| ・・

弟 が 、 どうして 、 それ を 落とさ なかったろう と 疑わ れました 。 おとうと|||||おとさ|||うたがわ|れ ました ||||||probably not||suspected| ・・

「 姉さん 、 つつじ の 木 だろう 。 ねえさん|||き| お母さん ばち が ひと り で 巣 を 造って いる のだ よ 。」 お かあさん||||||す||つくって||| ・・

「 ええ 、 そう な の 。」 ・・

「 この あいだ から 見る と 、 だいぶ 大きく なった 。 |||みる|||おおきく| あの 穴 の 中 に 子供 が いる んだ ね 。 |あな||なか||こども|||| 暑い とき は 、 水 盤 の 水 を 含んで いって 、 巣 の 上 を 冷やして いる よ 。」 あつい|||すい|ばん||すい||ふくんで||す||うえ||ひやして|| ||||||||||||||cool|| ・・

「 まあ 。」 ・・

そんな くわしい こと まで 、 いつ 弟 は 観察 して いた のだろう と びっくり しました 。 |||||おとうと||かんさつ||||||し ました |detailed|||||||||||| ・・

しかし 、 姉さん は 、 弟 が 、 どんなに その はち を かわいがって いる か を 、 まだ 知ら なかった のです 。 |ねえさん||おとうと|||||||||||しら|| |||||||||fondled||||||| ・・

「 君 、 はち の 子 を 持っていく と 、 ほんとうに よく 釣れる よ 。」 きみ|||こ||もっていく||||つれる| |||||||||caught| ・・

子供 たち は 、 日課 の ように 、 みんな で 川 へ 釣り に 出かけました 。 こども|||にっか|||||かわ||つり||でかけ ました |||daily routine||||||||| 彼ら は 、 血眼 に なって 、 はち の 巣 を さがして いた のです 。 かれら||ちまなこ|||||す|||| ||frantically||||||||| 勇 ちゃん は 、 その 話 を 聞く たび に 、 庭 の はち の 巣 を 目 に 浮かべました 。 いさみ||||はなし||きく|||にわ||||す||め||うかべ ました |||||||||||||||||came to mind このごろ 母 ばち の 片方 の 羽 が すこし 破れて いる の を 考える と 、 胸 が 痛く なる の を 感じました 。 |はは|||かたほう||はね|||やぶれて||||かんがえる||むね||いたく||||かんじ ました lately|||||||||torn||||||||||||felt ほか の 子供 は 、 どこ から か 、 はち の 子 を さがして 持っていく こと が あった が 、 勇 ちゃん だけ は 、 いつも うどん 粉 の 餌 を 造って 、 釣り に 出かけた のでした 。 ||こども|||||||こ|||もっていく|||||いさみ||||||こな||えさ||つくって|つり||でかけた| |||||||||||||||||||||||||bait|||||went out|