4. 愚かな 男 の 話 - 岡本 か の 子
愚かな 男 の 話 - 岡本 か の 子
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「 或る 田舎 に 二 人 の 農夫 が あった 。 両方 共 農 作 自慢 の 男 であった 。 或る 時 、 二 人 は 自慢 の 鼻 突き合せて 喋 べ り 争った 末 、 それでは 実際 の 成績 の 上 で 証拠 を 見せ 合おう と いう 事 に なった 。 それ に は 互 に 甘 蔗 を 栽培 して 、 どっち が 甘い の が 出来る か 、 それ に よって 勝負 を 決しよう と 約束 した 。 ・・
ところで 一方 の 男 が 考えた 。 甘 蔗 は 元来 甘い もの である が 、 その 甘い もの へ もって 来て 砂糖 の 汁 を 肥料 と して かけたら 一層 甘い 甘 蔗 が 出来る に 相違 ない 。 これ は 名案 々々 ! と 、 せっせと 甘 蔗 の 苗 に 砂糖 汁 を かけた 。 そし たら 苗 は 腐って しまった 」・・
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「 或 ところ に 愚 な 男 が あった 。 知人 が 家屋 を 新築 した と いう ので 拝見 に 出かけた 。 普請 は 上出来で 、 何 処 も 彼 処 も 感心 した 中 に 特に 壁 の 塗り の 出来栄え が 目 に 止まった 。 そこ で 男 は 知人 に 其 の 塗り 方 を 訊 いて みた 。 知人 が 言う に は 、 此の 壁 は 土 に 籾殻 を 混ぜて 塗った ので 斯 う 丈夫に 出来た のである と 答えた 。 ・・
愚 な 男 は 考えた 。 土 に 籾殻 を 混ぜて さえ ああ 美 事 に 出来る のである 。 一層 、 実 の 入って いる 籾 を 混ぜて 塗ったら どんなに 立派な 壁 が 出来る だろう 。 そして 今度 は 自分 の 家 を 新築 する 際 に 、 此の プラン を 実行 して みた 。 そし たら 壁 は 腐った 」・・
以上 二 話 と も 、 あまり 意気込んで 程度 を 越した 考え は 、 却って 不 成績 を 招く と いう 道理 の 譬 え 話 に なる ようである 。 ・・
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「 或る ところ に 狡 く て 知 慧 の 足りない 男 が あった 。 一 月 ばかり 先 に 客 を 招 んで 宴会 を する こと に なった 。 ところで 其 の 宴会 に 使う 牛乳 である が 、 相当 沢山の 分量 が 要る のである 。 ・・
それ を 其 の 時 、 方々 から 買い 集める ので は 費用 も かかり 手数 も かかる と 、 男 は 考えた のである 。 そこ で 知人 から 乳 の 出る 牝牛 を 一 ヶ月 の 約束 で 賃借 りして 庭 に 繋いで 飼って 置いた 。 ・・
牝牛 の 腹 から 出る 牛乳 を 毎日 搾ら ず に 牝牛 の 腹 に 貯 め て 置いた なら 、 宴会 まで に は 三十 日 分 の もの が 貯って 充分 入用の 量 に は なる だろう と 思った のである 。 ・・
宴会 の 日 が 来た 。 男 は して やったり と 許 り 牝牛 の 乳 を 搾った 。 そし たら 牝牛 の 腹 から は やっぱり 一 日 分 の 分量 しか 牛乳 は 出 なかった 」・・
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「 何 か 勲 功 が あった ので 褒美 に 王様 から 屠った 駱駝 を 一 匹 貰った 男 が あった 。 男 は 喜んで 料理 に 取りかかった 。 なにしろ 大きな 駱駝 一 匹 料理 する のである から 手数 が かかる 。 切り 剖 く 庖丁 は じき 切れ なく なって 何遍 も 研ぎ 直さ ねば なら なかった 。 男 は 考えた 。 こう 一 々 研ぎ 直す ので は 手数 が かかって やり切れない 。 一遍に 幾 度 分 も 研 いど いて やろう 。 そこ で 男 は 二三 日 がかり で 庖丁 ばかり 研ぎ に かかった 。 ・・
かくて 、 庖丁 の 刃 金 は 研ぎ 減り 、 駱駝 は 暑気 に 腐って しまった 」・・
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「 やはり 愚 な 男 が あった 。 腹 が 減って いた ので 有り合せ の 煎餅 を つまんで は 食べた 。 一 枚 食べ 、 二 枚 食べ して 行って 七 枚 目 の 煎餅 を 半分 食べた とき 、 彼 の 腹 は ちょうど 一 ぱい に なった の を 感じた 。 男 は 考えた 、 腹 を くちく した の は 此の 七 枚 目 の 半分 である のだ 。 さすれば 前 に 食べた 六 枚 の 煎餅 は 無駄 と いう もの である 。 それ から と いう もの は 、 この 男 は 腹 が 減って 煎餅 を 食べる とき に は 、 先 ず 煎餅 を 取って 数えた 。 一 枚 、 二 枚 、 三 枚 、 四 枚 、 五 枚 、 六 枚 、 そして これ 等 の 六 枚 の 煎餅 は 数えた だけ で 食わ ない のである 。 彼 は 七 枚 目 に 当った 煎餅 を 口 へ 持って行き 半分 だけ 食った 。 そして それ だけ で は 一 向 腹 が くちく なら ない の を 如何にも 不思議 そうに 考え込んだ 」( 百 喩経 より )