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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (7)

悪人 下 (7)

祐一 の 車 は 、 唐津 市 内 を 抜けて 、 呼子 へ 向かう 道 を 走って いた 。 背後 に 流れる 景色 は 変わって いく のだ が 、 いくら 走って も 道 の 先 に は ゴール が ない 。 国道 が 終われば 県道 に 繋がり 、 県道 を 抜ければ 市道 や 町 道 が 伸びて いる 。 光代 は ダッシュボード に 置か れた 道 路地 図 を 手 に 取った 。 適当な ページ を 捲る と 、 全面 に 色とりどりの 道 が 記 栽 されて いる 。 オレンジ色 の 国道 、 緑色 の 県道 、 青い 地方 道路 に 、 白い 路地 。 まるで ここ に 描か れた 無 数 の 道路 が 、 自分 と 祐一 が 乗る この 車 を がんじがらめ に して いる 網 の ように 思えた 。 仕 事 を さ ぼって 好きな 人 と ドライブ して いる だけ な のに 、 逃げて も 逃げて も 道 は 追いかけ て くる 。 走って も 走って も 道 は どこ か へ 繋がって いる 。 嫌な 思い を 断ち切る ように 、 光代 は 音 を 立てて 地図 を 閉じた 。 その 音 に ちらっと 目 を 向けた 祐一 に 、「 車 の 中 で 地図 見たら 、 私 、 酔う と さ れ -」 と 嘘 を つく と 、 祐一 は 、「 呼子 まで の 道 なら 知っと る よ 」 と 答えた 。 今朝 、 ラブ ホテル を 出て 、 すぐに 入った コンビニ で 買った おにぎり を 食べ 終えた 祐一 に 、「 仕事 先 に 休むって 連絡 入れ ん で よか と ? 」 と 光代 は 尋ねた 。 だが 、 祐一 は 、「 いや 、 よか 」 と 首 を 振った だけ で 、 目 を 合わせよう と も し なかった 。 代わり と 言って は なんだ が 、 光代 が 妹 の 珠代 に 連絡 を 入れた 。 すでに 出勤 して いた 珠 代 は 、 昨夜 いったん 家 に 戻って すぐに 出かけ 、 そのまま 帰って こ なかった 姉 の こと を か なり 心配 して いた ようで 、「 よかった 〜。 もし 今日 連絡 なかったら 、 警察 に 電話 しようって 思う とった と よ 〜」 と 、 安心 した ような 、 怒って いる ような 声 を 出した 。 「 ごめん ねえ 、 実は ちょっと いろいろ あって さ 。 って いう て も 、 大した こと じゃ なか と けど 。 とにかく 心配 せ ん でよ かけ ん 。 話 は 帰って から ちゃんと する し 」 「 帰って からって 、 今日 は 帰って くる と やる ? 」 「 ごめん 、 それ も まだ 分から ん と さ れ 」 「 分から んって ……。 さっき 光代 の 店 に 電話 した と よ ・ 仕事 に は 出 とる か な あって 思う て 。 そ したら 水谷 さん が 出て 、『 お 父さん 、 大変 や ねえ 」って 言う けん 、 とりあえず 話 は 合わせ とった けど 」 「 ごめん 、 ありがとう 」 「 ねえ 、 なん の あった と ? 」 「 なんって ……、 なんて いう か 、 なんか 急に 仕事 休み と うなった と さ 。 あんた だって あ る やろ ? ほら 、 キャディ し よった とき 、 よう ズル 休み し よったたい 」 光代 の 会話 を 祐一 は ハンドル を 握った まま じっと 聞いて いる 。 「 ほんとに それ だけ ? 」 半信半疑 らしい 珠代 に 訊 かれて 、「 そう 、 それ だけ 」 と 光代 は 断言 した 。 「 それ なら 、 よか けど ……。 ねえ 、 今 、 どこ ? 」 「 今 、 ちょっと ドライブ 中 」 「 ド 、 ドライブ ? 誰 と 」 「 誰 とって ……」 意識 した わけで は ない が 、 返した 言葉 が どこ か 甘ったるかった 。 それ を 悟った らしい 珠代 が 、「 え -? うそ -、 いつの間に -? 」 と 声 を 高める 。 「 とにかく 帰ったら 話す けん 」 と 光代 は 言った 。 ちょうど 車 が 呼子 港 に 入り 、 道ばた に 干し イカ を たくさん 吊るして いる 露店 が いく つ も 並んで いる 。 真相 を 訊 き 出そう と する 珠代 を 遮って 、 光代 は 一方的に 電話 を 切った 。 切る 間際 、 「 私 の 知っと る 人 ? 」 と 訊 く 珠代 の 声 が 聞こえた が 、「 じゃあ ね 」 と 答えた だけ だった 。 港 の 奥 に ある 駐車 場 に 車 を 停めて 外 へ 出る と 、 海 から 冷たい 潮風 が 吹きつけた 。 駐車 場 の 近く に も 露店 が あり 、 吊るさ れたいくつ もの干し イカ が 潮風 に なぶられて いる 。 光代 は 大きく 身震い する と 、 運転 席 から 降りて きた 祐一 に 、「 あそこ 、 本当に 美味し か と よ 」 と 海 沿い に 立つ 民宿 兼 レストラン の 建物 を 指さした 。 祐一 が 何も 答え ない ので 振り返る と 、 祐一 が 、「 あり が と 」 と とつぜん 眩 く 。 つえ ? 。」 光代 は 潮風 に 乱れる 髪 を 押さえた 。 「 今 日一日 、 一緒に おって くれて 」 祐一 が 手のひら で 車 の キー を 握りしめる 。 「 だけ ん 、 昨日 言う たた い 。 私 は ずっと 祐一 の そば に おるって 」 「 あり が と 。 …… あの さ 、 そこ で イカ 食う たら 、 車 で 灯台 の ほう に 行って みよう 。 灯台 と して は 小さ か けど 、 見晴らし の よか 公園 の 先 に ぽつ んって 建つ とって 、 そこ まで 歩く だけ でも 気持ちよ かけ ん 」 せき 車 の 中 で ほとんど 口 を 開か なかった 祐一 が 、 とつぜん 堰 を 切った ように 話し出す 。 「 う 鼎 うん ……」 あまり の 変わり よう に 光代 は 思わず 言葉 を 失った 。 駐車 場 に 若い カップル の 車 が 入って くる 。 光代 は 祐一 の 腕 を 取る ように 道 を あけた 。 「 そこって 、 イカ 料理 だけ ? 」 何 か を 吹っ切った ように 祐一 が 明るい 声 で 尋ねて くる 。 光代 は 、「 う 、 うん 」 と 驚き ながら も 頷き 、「 最初 が 刺身 で 、 脚 は 唐 揚げ と か 、 天ぷら に して くれて :…・」 と 説明 し た 。 まだ 十二 時 前 だ と いう のに 、 店 は かなり 混雑 して いた 。 大きな いけす を 囲む 一 階 の テ かっぽう ざ - ブル は 満席 で 、 割烹着 姿 の おばさん に 、「 二 人 な んです けど 」 と 光代 が 声 を かける と 、 「 二 階 に どうぞ 」 と 背中 を 押さ れた 。 階段 を 上がって 靴 を 脱いだ 。 軋み の ひどい 廊下 を 進む と 、 海 に 開けた 大きな 窓 の ある 広間 に 通さ れた 。 これ から 埋まる の かも しれ ない が 、 まだ 客 は おら ず 古い 畳 の 上 に 八 つ テーブル が 並んで いる 。 光代 は 迷わ ず 窓 側 の テーブル を 選んだ 。 前 に 座った 祐一 も 、 眼 前 に 広がる 港 の 風景 から 目 を 離さ ない 。 凪いだ 港 に は イカ 釣り 漁船 が 並び 、 波 止め の 遠 く 向こう に は 冬 日 を 浴びた 海原 に 、 白い 波頭 が 躍って 見える 。 窓 を 閉めて いて も 、 岸壁 に 打ち寄せる 波 の 音 が した 。 「 一 階 より 、 こっち が 景色 よかった ねえ 。 なんか 得した 気分 」 熱い お しぼり で 手 を 拭き ながら 光代 が 言う と 、「 ここ 、 前 に も 来た こと ある と ? 」 と 祐一 が 訊 く 。 「 妹 たち と 何度 か 来た こと ある けど 、 そん とき は いつも 一 階 やった 。 一 階 も いけす の あって よか と けど ね 」 熱い お茶 を 運んで きた おばさん に 、 光代 は 定食 を 二 人 前 注文 した 。 注文 して 外 へ 目 を 向ける と 、「 なんか 、 うち の 近所 に 似 とる 」 と 祐一 が 眩 く ・ 「 あ 、 そう か 。 祐一 の 家って 、 港町 やった よ ねえ 」 「 港町って いう か 、 ここ と 同じ ただ の 漁村 」 「 いい なぁ 。 私 、 こういう 景色 大好き 。 ほら 、 雑誌 と か で 、 博多 や 東京 なんか の オシャ レ なお 店 紹介 し とる やろ ? ああいう の に 出て る シーフード 料理 と か 見る と 、「 値段 ばっか り 高くて 、 絶対 、 呼子 の イカ の ほう が 美味 しか 」って 思う て しまう 」 「 でも 、 女の子 は そういう 店 の ほう が 好きじゃ ない と ? 」 「 うち の 妹 と か は 、 天神 の なん ちや らって いう フレンチレストラン と か に 行き た がる け ど ね 。 私 は こういう ところ の ほう が 好き 。 って いう か 、 絶対 に こっち の ほう が 美味 しか もん 。 でも テレビ と か で は 、 こういう 店って B 級 グルメ と かって 紹介 さ れる やろ 。 あれ 大嫌い 。 だって どう 考えたって 、 こっち の ほう が A 級 の 素材 や のに 」 いつき かせい 光代 は 一気呵成 に そこ まで 言った 。 仕事 を さ ぼ り 、 丸一 日 自由な 時間 を 得た こと に 、 知らず知らず に 興奮 して いた 。 ふと 前 を 見る と 、 祐一 が 肩 を 震わせ 、 目 を 真っ赤に して いる 。 慌てて 、「 ど 、 どうした と ? 」 と 声 を かけた 。 テーブル の 上 で 祐一 の 拳 が 強く 握りしめられ 、 音 を 立てる ほど 震えて いる 。 「.:… 俺 、:…・ 人 、 殺して し も た 」 「 噌 え ? 。」 「…… 俺 、 ごめん 」 一瞬 、 祐一 が 何 を 言った の か 分から ず 、 光代 は また 、「 え ? 何 ? 」 と 素っ頓狂な 声 を 上げた 。 祐一 は 傭 いた まま 、 テーブル で 拳 を 握りしめる だけ で 、 それ 以上 の こと を 言 わ ない 。 涙 目 で 肩 を 震わせ 、「 俺 、…… 人 殺して し も た 」 と 漏らした きり 、 それ 以上 の こと を 言わ ない 。 安物 の テーブル に 、 硬く 握りしめられた 祐一 の 拳 が あった 。 本当に す ぐ そこ に あった 。 「 ちよ 、 ちょっと 、 な 、 なん ば 言い よっと ? 」 光代 は 思わず 差し出そう と した 自分 の 手 を 、 一瞬 、 迷って 引っ込めた 。 自分 で 引っ込 め た のに 、 別の 誰 か に 引か れた ような 感覚 だった 。 「 ひ 、 人 殺して し もう たって ……」 自然 と 言葉 が 口 から 漏れた 。 窓 の 外 に は 凪いだ 漁港 が 広がって いる 。 停泊 した 漁船 が 揺れて 、 太い ロープ が 軋む ような 音 を 立てる 。 「・…: 本当 は もっと 早う 、 話さ ん と いけん やった 。 けど 、 どうしても 話せ ん やった 。 光 代 と 一緒に おったら 、 何もかも なかった こと に なり そうな 気 が した 。 何も なくなる わけ ない と に ……。 今日 だけ 、 あと 一 日 だけ 光代 と 一緒に おり たかった 。 昨日 、 車 の 中 で 話 そう と も 思う た 。 でも 、 ちゃんと 最後 まで 話せる か 自信 なかった 」 祐一 の 声 が ひどく 震えて いた 。 まるで 波 に 揺れて いる ようだった 。 「 俺 、 光代 と 知り合う 前 に 、 ある 女の子 と 知り合う た 。 博多 に 住 ん ど る 子 で :…・」 一言 ずつ 言葉 を 区切る ように 祐一 は 話し出す 。 なぜ か 光代 は さっき 歩いて きた 岸壁 を 思い出して いた 。 遠く を 見れば 奇麗な のに 、 足元 の 岸壁 に は ゴミ が 溜まって 、 波 に 揺れ て いた 。 洗剤 の ペットボトル 。 汚れた 発泡 スチロール の 箱 。 片方 だけ の ビーチ サンダル 。 「:.… メール で 知り合う て 、 何 回 か 会う た 。 会いたい なら 金 払えって 言われて ……」 その とき 、 とつぜん 襖 が 開いて 、 割烹着 姿 の おばさん が 、 大きな Ⅲ を 抱えて 入って く う 「 すいません ねえ 、 お 待た せ して 」 おばさん が 重 そうな Ⅲ を テーブル に 置く 。 Ⅲ に は イカ の 活 き 造り が 盛られて いる 。 「 そこ の 醤油 、 使う て 下さい ね 」 白い Ⅲ に は 色 鮮やかな 海藻 が 盛ら れ 、 見事な イカ が 丸一 匹 のって いる 。 イカ の 身 は 透 明 で 、 下 に 敷か れた 海藻 まで 透かして 見える 。 まるで 金属 の ような 銀色 の 月 が 、 焦点 を 失って 虚 空 を 見つめて いる 。 まるで 自分 だけ でも 、 この Ⅲ から 逃れよう と して 、 何 本 も の 脚 だけ が 生々しく のた打って いる 。 「 脚 やら 残った ところ は 、 あと で 天ぷら か 唐 揚げ に します けん ね 」 おばさん は それ だけ 言う と 、 テーブル を ボン と 叩いて 立ち上がった 。 そのまま 姿 を 消 あし きよ 、 つ す か と 思えば 、 ふと 振り返り 、「 あら 、 まだ 飲み物 ば 訊 いと らん やった ねえ 」 と 愛 嬬 の ある 笑み を 浮かべる 。 「 ビール か 何 か 持ってき ま しょか ? 」 そう 尋ねる おばさん に 、 光代 は 咄嵯 に 首 を 振った 。 「 い 、 いえ 。 大丈夫です 」 と 答え ながら 、 なぜ か ハンドル を 握る 真似 を した 。 おばさん は 襖 を 開けた まま 出て 行った 。 広間 に は ぽつんと 二 人 だけ が 残さ れた 。 イカ う なだ の 活 き 造り を 前 に して 、 祐一 が 項 垂れて いる 。 たった今 、 信じ がたい 告白 を さ れた ばか り な のに 、 光代 は ほとんど 無意識に 、 醤油 を 小 Ⅲ に 垂らして いた 。 醤油 を 垂らした 小 皿 が 二 枚 、 手元 に 並ぶ 。 光代 は 一瞬 迷って から 、 その 一 つ を 祐一 の ほう へ 押しやった 。 「 どこ から 話せば いい の か 分から ん ……」 祐一 が 小 皿 の 醤油 を 覗き込む ように 眩 く ・ 「….: あの 晩 、 その 女 と 会う 約束 し とった 。 博多 の 東公園って いう 場所 で 」 話し 始めた 祐一 に 、 光代 は 思わず 質問 し そうに なって やめた 。 その 女 が 、 どういう 女 で 、 それ まで に 何 度 会った こと が あって …:・・ 訊 きたい こと が 次 から 次に 浮かんで くる 。 それ くらい 祐一 の 話 が 前 へ 進ま ない 。 光代 は 辛うじて 、「 ねえ 、 それって いつ の 話 ? 」 と だけ 尋ねた 。 傭 いて いた 祐一 が 顔 を 上げる 。 答えよう と は する のだ が 、 唇 が 震えて いて 、 うまく 言 葉 に なら ない 。 「 光代 と 会う 前 ……。 光代 から メール もらった やろ ? あの 前 ……」 やっと 祐一 が それ だけ 答える 。 「 メールって 、 最初の ? 」 光代 の 質問 に 、 祐一 が 力なく 首 を 振る 。 「…… あの とき 、 俺 、 どう すれば いい の か 分から んで 、 毎晩 、 寝よう と して も 眠れ ん で 、 苦しくて 、 誰 か と 話し たくて ….:、 そ したら 光代 から メール もろう て 」 廊下 の ほう で 来客 を 迎える おばさん の 声 が する 。 「:…・ あの 晩 、 ちゃんと 待ち合わせ し とった と に 、 あの 女 、 別の 男 と も 同じ 場所 で 会う 約束 し とって 。 『 今日 、 あんた と 一緒に おる 時間 などって 言われて 、 その 男 の 車 に 乗って し も うて 、 そのまま どっか に 行って し も うた 。 …… 俺 、 バカに さ れた ようで 悔しく て 、 その 車 、 追いかけて ……」 二 人 の 間 で 、 イカ の 脚 が のた打って いた 。 ◇ 寒い 夜 だった 。 吐く 息 が はっきり と 見える ほど 凍 て つく 夜 だった 。 公園 沿い の 歩道 を 歩いて くる 佳乃 の 姿 が 、 車 の ルームミラー に 映った 。 祐一 は 合図 を 送ろう と クラクション を 鳴らした 。 音 に 驚いた 佳乃 が 一瞬 足 を 止め 、 歩道 の 先 の ほう を 見つめて 駆け出した 。 あっという間 だった 。 駆け出した 佳乃 が 、 祐一 の 待つ 車 を 素通り して しまう 。 慌てて 目 を 向ける と 、 歩道 の 先 に 、 見知らぬ 男 が 立って いた 。 佳乃 は 親し そうに 男 の 腕 を 掴んで 話し 始めた 。 その 問 、 男 が じっと 嫌な 目つき で こ ち ら を 見て いた 。 偶然に 会った のだろう と 祐一 は 思った 。 挨拶 が 済めば 、 戻って くる のだ ろうと 。 案の定 、 佳乃 は すぐに こちら へ 歩いて きた 。 祐一 が 助手 席 の ドア を 開けて やろう と す る と 、 それ を 察した ように 歩調 を 速め 、 自分 で その ドア を 開け 、「 ごめん 。 今日 、 ちょっと 無理 。 お 金 、 私 の 口座 に 振り込 ん どって 。 あと で 口座 番号 と か メール する けん 」 と 一言 、っ。 呆 気 に とら れた 祐一 を よそ に 、 佳乃 は 乱暴に ドア を 閉め 、 スキップ する ような 足取り で 、 見知らぬ 男 の 元 へ 戻った 。 あっという間 だった 。 祐一 は 口 を 開く こと は おろか 、 自 分 で 自分 の 気持ち を 感じる こと も でき なかった 。 歩道 に 立つ 男 は 、 近寄って くる 佳乃 で は なく 、 祐一 を じっと 見て いた 。 口元 に こちら を 馬鹿に する ような 笑み を 浮かべて いる ように 見えた の は 、 街灯 の せい か 、 それとも 実 際 に 浮かべて いた の か 。 佳乃 は 一 度 も 振り返ら ず に 、 男 の 車 に 乗って しまった 。 走り出した 車 は 紺色 の アウデ ィ で 、 どんな ローン を 組んだ と して も 、 祐一 に は 手 の 出 なかった A 6 だった 。 がらんと した 公園 沿い の 並木 道 を 、 男 の 車 が 走り出す 。 凍えた 地面 に 白い 排気 ガス が はっきり と 見えた 。 自分 が 置き去り に さ れた のだ と 、 祐一 は そこ で 初めて 気づいた 。 それほど あっけない 一幕 だった 。 置き去り に さ れた と 思う と 、 とつぜん 全身 の 皮膚 を 破る ような 血 が 立った 。 怒り で から だ が 膨張 する ようだった 。 祐一 は アクセル を 踏み込んで 、 車 を 急 発進 さ せた 。 すでに 男 の 車 は 前方 の 交差 点 を 左 へ 曲がろう と して いる 。 その 車体 に 、 車 ごと 衝突 さ せて やろう と 思う ほど の 急 発進 だった 。 実際 、 祐一 は 男 の 車 の 前 に 回り込んで 、 佳乃 を 奪い 返そう と 思って いた 。 思って いた と いう より も 、 からだ が 勝手に そう 動き出して いた 。 一 つ 目 の 交差 点 を 曲がった ところ で 、 男 の 車 は 先 の 信号 を 直進 して いた 。 アクセル を 踏み込んだ が 信号 が 変わり 、 左右 から 車 が 走り込んで くる 。 が 、 横断 する 車 の 数 は 少な く 、 車 列 が 切れる と 、 祐一 は 信号 を 無視 して 走り出した 。 佳乃 を 乗せた 男 の 車 に 追いつ いた の は 、 百 メートル ほど 走った 場所 だった 。 追突 さ せる 勢い で 走り出した のに 、 男 の 車 を 捕らえた 途端 、 急に 気 が 変わった 。 怒り が 収まった と いう より も 、 追突 すれば 自分 の 車 が 傷つく こと に 今さら 気づいた のだ 。 祐一 は 更に スピード を 上げ 、 男 の 車 の 横 を 走った 。 ハンドル を 握り ながら 、 車 の 中 を 窺 う と 、 助手 席 に 座った 佳乃 が 、 満面 の 笑み を 浮かべて 喋って いた 。 一言 、 謝って ほし かった 。 約束 を 破った の は 佳乃 な のだ から 、 一言 謝って ほしかった 。 道 は 天神 の 繁華街 に 向かって いた 。 祐一 は 速度 を 落とし 、 男 の 車 の 後ろ に ついた 。 途 中 、 何 台 か の 車 が 、 間 に 入って 来て は 出て 行った が 、 三瀬 峠 へ 向かう 街道 まで 来る と 、 少し 車 間 距離 を 開けて も 、 間 に 入って くる 車 は なく なった 。 街道 に ぽつ ん ぽつんと 立てられた 街灯 が 、 暗い 夜 の 中 、 赤い ポスト や 町 内 の 掲示板 を 浮かび上がら せて いる 。 道 が 上り坂 に なり 、 前 を 走る 男 の 車 の ライト が 、 アスファルト を 青く 照らして いる の が はっきり と 見える 。 車体 で は なく 、 まるで 光 の 塊 が 、 細い 山道 を 駆け上がって いく ようだった 。 祐一 は 距離 を 縮め ない ように 車 を 追った 。 赤い テールランプ が カーブ の たび に 強く な せつな る 。 その 刹那 、 前方 の 森 が 赤く 染まる 。 スピード は 出て いた が 下手 クソ な 運転 だった 。 急 カーブ で も ない のに 、 男 は すぐに ブレーキ を 踏む 。 その たび に 祐一 の 車 が 近づいて し まう 。 祐一 は わざと スピード を 落とした 。 峠 道 を 駆け上がって いく 男 の 車 と 徐々に 距離 が 開いて くる 。 それ でも 真っ暗闇の 峠 道 、 カーブ を 曲がれば 、 生い茂った 樹 々 の 向こう に 、 離れた 車 の ライト が 見える 。 どれ くらい 走った の か 、 男 の 車 が 急 停車 した の は 峠 の 頂上 に 差し掛かる 場所 だった 。 祐一 は 慌てて ブレーキ を 踏んで 、 ライト を 消した 。 真っ暗な 闇 の 中 、 赤い テールランプ が 、 まるで 巨大な 森 の 赤い 眼光 の ようだった 。

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悪人 下 (7) あくにん|した Evil Man (7) 惡棍第二部 (7)

祐一 の 車 は 、 唐津 市 内 を 抜けて 、 呼子 へ 向かう 道 を 走って いた 。 ゆういち||くるま||からつ|し|うち||ぬけて|よびこ||むかう|どう||はしって| ||||Karatsu||||||||||| ||||Karatsu||||passing through|Yobuko|||||| Yuichi's car was traveling through Karatsu City on the way to Yobuko. 背後 に 流れる 景色 は 変わって いく のだ が 、 いくら 走って も 道 の 先 に は ゴール が ない 。 はいご||ながれる|けしき||かわって|||||はしって||どう||さき|||ごーる|| |||scenery|||||||||||||||| The scenery behind me changes, but no matter how fast I run, there is no goal at the end of the road. 国道 が 終われば 県道 に 繋がり 、 県道 を 抜ければ 市道 や 町 道 が 伸びて いる 。 こくどう||おわれば|けんどう||つながり|けんどう||ぬければ|しどう||まち|どう||のびて| ||finishes|||connects|||pass through|city road|||||extends| The national road ends at a prefectural road, and city and town roads extend past the prefectural road. 光代 は ダッシュボード に 置か れた 道 路地 図 を 手 に 取った 。 てるよ||||おか||どう|ろじ|ず||て||とった |||||||back road|map|||| 適当な ページ を 捲る と 、 全面 に 色とりどりの 道 が 記 栽 されて いる 。 てきとうな|ぺーじ||まくる||ぜんめん||いろとりどりの|どう||き|さい|さ れて| |||turn||entire surface||colorful|||recorded|noted|| |||||||色とりどりの|||||| オレンジ色 の 国道 、 緑色 の 県道 、 青い 地方 道路 に 、 白い 路地 。 おれんじいろ||こくどう|みどりいろ||けんどう|あおい|ちほう|どうろ||しろい|ろじ |||green||||||||alley まるで ここ に 描か れた 無 数 の 道路 が 、 自分 と 祐一 が 乗る この 車 を がんじがらめ に して いる 網 の ように 思えた 。 |||えがか||む|すう||どうろ||じぶん||ゆういち||のる||くるま||||||あみ|||おもえた ||||||||||||||to ride||||tightly bound||||net||| ||||||||||||||||||絡めて||||||| It was as if the countless roads painted here were a net that held the car that Yuichi and I were riding in in place. 仕 事 を さ ぼって 好きな 人 と ドライブ して いる だけ な のに 、 逃げて も 逃げて も 道 は 追いかけ て くる 。 し|こと|||ぼ って|すきな|じん||どらいぶ||||||にげて||にげて||どう||おいかけ|| work||||||||||||||||||||chase|| I skip work and just drive around with the person I love, but the road chases me no matter how hard I run away. 走って も 走って も 道 は どこ か へ 繋がって いる 。 はしって||はしって||どう|||||つながって| |||||||||connected| No matter how fast you run, the road always leads somewhere. 嫌な 思い を 断ち切る ように 、 光代 は 音 を 立てて 地図 を 閉じた 。 いやな|おもい||たちきる||てるよ||おと||たてて|ちず||とじた |||cut off||||||||| |||断ち切る||||||||| その 音 に ちらっと 目 を 向けた 祐一 に 、「 車 の 中 で 地図 見たら 、 私 、 酔う と さ れ -」 と 嘘 を つく と 、 祐一 は 、「 呼子 まで の 道 なら 知っと る よ 」 と 答えた 。 |おと|||め||むけた|ゆういち||くるま||なか||ちず|みたら|わたくし|よう|||||うそ||||ゆういち||よびこ|||どう||ち っと||||こたえた |||||||||||||||||||||||||||Yobuko||||||||| When Yuichi glanced at the sound and lied to him, saying, "I'm supposed to get drunk if I look at the map in the car," Yuichi replied, "I know the way to Yobuko. 今朝 、 ラブ ホテル を 出て 、 すぐに 入った コンビニ で 買った おにぎり を 食べ 終えた 祐一 に 、「 仕事 先 に 休むって 連絡 入れ ん で よか と ? けさ|らぶ|ほてる||でて||はいった|こんびに||かった|||たべ|おえた|ゆういち||しごと|さき||やすむ って|れんらく|いれ|||| |||||||||||||||||||take a day off|||||| When Yuichi finished eating the onigiri he bought at the convenience store he went into right after leaving the love hotel this morning, he asked me, "Do you want me to call my work place and tell them I'm taking a day off? 」 と 光代 は 尋ねた 。 |てるよ||たずねた Mitsuyo asked. だが 、 祐一 は 、「 いや 、 よか 」 と 首 を 振った だけ で 、 目 を 合わせよう と も し なかった 。 |ゆういち|||||くび||ふった|||め||あわせよう|||| ||||||||shook|||||make eye contact|||| 代わり と 言って は なんだ が 、 光代 が 妹 の 珠代 に 連絡 を 入れた 。 かわり||いって||||てるよ||いもうと||たまよ||れんらく||いれた ||||||||||珠代|||| すでに 出勤 して いた 珠 代 は 、 昨夜 いったん 家 に 戻って すぐに 出かけ 、 そのまま 帰って こ なかった 姉 の こと を か なり 心配 して いた ようで 、「 よかった 〜。 |しゅっきん|||しゅ|だい||さくや||いえ||もどって||でかけ||かえって|||あね||||||しんぱい|||| ||||||||for a while||||||||||sister|||||||||| もし 今日 連絡 なかったら 、 警察 に 電話 しようって 思う とった と よ 〜」 と 、 安心 した ような 、 怒って いる ような 声 を 出した 。 |きょう|れんらく||けいさつ||でんわ|しよう って|おもう|||||あんしん|||いかって|||こえ||だした 「 ごめん ねえ 、 実は ちょっと いろいろ あって さ 。 ||じつは|||| って いう て も 、 大した こと じゃ なか と けど 。 ||||たいした||||| |||||||||but とにかく 心配 せ ん でよ かけ ん 。 |しんぱい||||| 話 は 帰って から ちゃんと する し 」 「 帰って からって 、 今日 は 帰って くる と やる ? はなし||かえって|||||かえって|から って|きょう||かえって||| 」 「 ごめん 、 それ も まだ 分から ん と さ れ 」 「 分から んって ……。 ||||わから|||||わから|ん って さっき 光代 の 店 に 電話 した と よ ・ 仕事 に は 出 とる か な あって 思う て 。 |てるよ||てん||でんわ||||しごと|||だ|||||おもう| そ したら 水谷 さん が 出て 、『 お 父さん 、 大変 や ねえ 」って 言う けん 、 とりあえず 話 は 合わせ とった けど 」 「 ごめん 、 ありがとう 」 「 ねえ 、 なん の あった と ? ||みずたに|||でて||とうさん|たいへん||||いう|||はなし||あわせ||||||||| I'm sorry, but thank you. 」 「 なんって ……、 なんて いう か 、 なんか 急に 仕事 休み と うなった と さ 。 なん って|||||きゅうに|しごと|やすみ|||| what|||||||||decided||quotation particle What do you mean, ......, he suddenly decided to take a day off from work. あんた だって あ る やろ ? You have your own, don't you? ほら 、 キャディ し よった とき 、 よう ズル 休み し よったたい 」 光代 の 会話 を 祐一 は ハンドル を 握った まま じっと 聞いて いる 。 |||||||やすみ||よった たい|てるよ||かいわ||ゆういち||はんどる||にぎった|||きいて| |caddy|||||sneak|||pretended||||||||||||| ||||||ズル休み|||||||||||||||| 「 ほんとに それ だけ ? 」 半信半疑 らしい 珠代 に 訊 かれて 、「 そう 、 それ だけ 」 と 光代 は 断言 した 。 はんしんはんぎ||たまよ||じん||||||てるよ||だんげん| half-convinced||||asked||||||||asserted| When asked by Tamayo, who seemed skeptical, Mitsuyo assured her, "Yes, that's it. 「 それ なら 、 よか けど ……。 Well, that's all well and good, but ....... ねえ 、 今 、 どこ ? |いま| Hey, where are you? 」 「 今 、 ちょっと ドライブ 中 」 「 ド 、 ドライブ ? いま||どらいぶ|なか||どらいぶ 誰 と 」 「 誰 とって ……」 意識 した わけで は ない が 、 返した 言葉 が どこ か 甘ったるかった 。 だれ||だれ||いしき||||||かえした|ことば||||あまったるかった |||||||||||||||overly sweet |||||||||||||||甘い感じ I wasn't consciously aware of it, but the words I replied were somewhat sweet. それ を 悟った らしい 珠代 が 、「 え -? ||さとった||たまよ|| ||realized|||| Tamayo, who seemed to have realized this, said, "What? うそ -、 いつの間に -? |いつのまに Oh, my God. When did that happen? 」 と 声 を 高める 。 |こえ||たかめる 「 とにかく 帰ったら 話す けん 」 と 光代 は 言った 。 |かえったら|はなす|||てるよ||いった ちょうど 車 が 呼子 港 に 入り 、 道ばた に 干し イカ を たくさん 吊るして いる 露店 が いく つ も 並んで いる 。 |くるま||よびこ|こう||はいり|みちばた||ほし|いか|||つるして||ろてん|||||ならんで| |||Yobuko|port|||roadside||dried||||hanging||food stalls|||||| |||||||||dried||||||露店|||||| 真相 を 訊 き 出そう と する 珠代 を 遮って 、 光代 は 一方的に 電話 を 切った 。 しんそう||じん||だそう|||たまよ||さえぎって|てるよ||いっぽうてきに|でんわ||きった truth|||||||||interrupt|||unilaterally||| |||||||||遮って|||||| 切る 間際 、 「 私 の 知っと る 人 ? きる|まぎわ|わたくし||ち っと||じん |just before||||| 切る|直前||||| 」 と 訊 く 珠代 の 声 が 聞こえた が 、「 じゃあ ね 」 と 答えた だけ だった 。 |じん||たまよ||こえ||きこえた|||||こたえた|| 港 の 奥 に ある 駐車 場 に 車 を 停めて 外 へ 出る と 、 海 から 冷たい 潮風 が 吹きつけた 。 こう||おく|||ちゅうしゃ|じょう||くるま||とめて|がい||でる||うみ||つめたい|しおかぜ||ふきつけた ||||||||||parked||||||||sea breeze||blew ||||||||||||||||||ocean breeze|| 駐車 場 の 近く に も 露店 が あり 、 吊るさ れたいくつ もの干し イカ が 潮風 に なぶられて いる 。 ちゅうしゃ|じょう||ちかく|||ろてん|||つるさ|れ たいくつ|ものほし|いか||しおかぜ||なぶら れて| |||||||||suspended|pairs of dried squid|dried squid|||sea breeze||swaying| ||||||||||||||||揺らされて| 光代 は 大きく 身震い する と 、 運転 席 から 降りて きた 祐一 に 、「 あそこ 、 本当に 美味し か と よ 」 と 海 沿い に 立つ 民宿 兼 レストラン の 建物 を 指さした 。 てるよ||おおきく|みぶるい|||うんてん|せき||おりて||ゆういち|||ほんとうに|おいし|||||うみ|ぞい||たつ|みんしゅく|けん|れすとらん||たてもの||ゆびさした |||shudder||||||||||||delicious|||||||||guesthouse|and||||| 祐一 が 何も 答え ない ので 振り返る と 、 祐一 が 、「 あり が と 」 と とつぜん 眩 く 。 ゆういち||なにも|こたえ|||ふりかえる||ゆういち|||||||くら| つえ ? stick 。」 光代 は 潮風 に 乱れる 髪 を 押さえた 。 てるよ||しおかぜ||みだれる|かみ||おさえた ||||flutter|||pressed down 「 今 日一日 、 一緒に おって くれて 」 祐一 が 手のひら で 車 の キー を 握りしめる 。 いま|ひいちにち|いっしょに|||ゆういち||てのひら||くるま||きー||にぎりしめる |every day||||||||||||gripping tightly 「 だけ ん 、 昨日 言う たた い 。 ||きのう|いう|| ||||たった| 私 は ずっと 祐一 の そば に おるって 」 「 あり が と 。 わたくし|||ゆういち||||おる って||| |||||||being||| …… あの さ 、 そこ で イカ 食う たら 、 車 で 灯台 の ほう に 行って みよう 。 ||||いか|くう||くるま||とうだい||||おこなって| 灯台 と して は 小さ か けど 、 見晴らし の よか 公園 の 先 に ぽつ んって 建つ とって 、 そこ まで 歩く だけ でも 気持ちよ かけ ん 」 せき 車 の 中 で ほとんど 口 を 開か なかった 祐一 が 、 とつぜん 堰 を 切った ように 話し出す 。 とうだい||||ちいさ|||みはらし|||こうえん||さき|||ん って|たつ||||あるく|||きもちよ||||くるま||なか|||くち||あか||ゆういち|||せき||きった||はなしだす lighthouse|||||||view||good||||||||||||||refreshing|||suddenly|||||||||||||dam||||started talking ||||||||||||||ぽつん||||||||||||||||||||||||||||| It's a small lighthouse, but it stands at the end of a park with a great view, and it's a pleasant walk to the lighthouse," Yuichi, who had hardly opened his mouth in the coughing car, suddenly spoke up. 「 う 鼎 うん ……」 あまり の 変わり よう に 光代 は 思わず 言葉 を 失った 。 |かなえ||||かわり|||てるよ||おもわず|ことば||うしなった |鼎||||||||||||lost The fact that the company is so different from its competitors makes Mitsuyo speechless. 駐車 場 に 若い カップル の 車 が 入って くる 。 ちゅうしゃ|じょう||わかい|かっぷる||くるま||はいって| A young couple's car pulls into the parking lot. 光代 は 祐一 の 腕 を 取る ように 道 を あけた 。 てるよ||ゆういち||うで||とる||どう|| ||||||||||opened 「 そこって 、 イカ 料理 だけ ? そこ って|いか|りょうり| there||| 」 何 か を 吹っ切った ように 祐一 が 明るい 声 で 尋ねて くる 。 なん|||ふ っ きった||ゆういち||あかるい|こえ||たずねて| |||refreshed|||||||| |||吹っ切った|||||||| 光代 は 、「 う 、 うん 」 と 驚き ながら も 頷き 、「 最初 が 刺身 で 、 脚 は 唐 揚げ と か 、 天ぷら に して くれて :…・」 と 説明 し た 。 てるよ|||||おどろき|||うなずき|さいしょ||さしみ||あし||とう|あげ|||てんぷら|||||せつめい|| |||||surprise||||||||leg||||||tempura||||||| まだ 十二 時 前 だ と いう のに 、 店 は かなり 混雑 して いた 。 |じゅうに|じ|ぜん|||||てん|||こんざつ|| |||||||||||crowded|| 大きな いけす を 囲む 一 階 の テ かっぽう ざ - ブル は 満席 で 、 割烹着 姿 の おばさん に 、「 二 人 な んです けど 」 と 光代 が 声 を かける と 、 「 二 階 に どうぞ 」 と 背中 を 押さ れた 。 おおきな|||かこむ|ひと|かい|||||ぶる||まんせき||かっぽうぎ|すがた||||ふた|じん|||||てるよ||こえ||||ふた|かい||||せなか||おさ| |pond||||||restaurant|counter||blue||full house||apron||||||||||||||||||||||||| |いけす|||||||||||||apron||||||||||||||||||||||||| 階段 を 上がって 靴 を 脱いだ 。 かいだん||あがって|くつ||ぬいだ |||||took off 軋み の ひどい 廊下 を 進む と 、 海 に 開けた 大きな 窓 の ある 広間 に 通さ れた 。 きしみ|||ろうか||すすむ||うみ||あけた|おおきな|まど|||ひろま||つう さ| creaking||||||||||||||large room||guided to| We were led down a creaky corridor to a hall with a large window opening onto the ocean. これ から 埋まる の かも しれ ない が 、 まだ 客 は おら ず 古い 畳 の 上 に 八 つ テーブル が 並んで いる 。 ||うずまる|||||||きゃく||||ふるい|たたみ||うえ||やっ||てーぶる||ならんで| ||filled||||||||||||||||||||| There are no customers yet, but eight tables are lined up on the old tatami mats, which may be filled from now on. 光代 は 迷わ ず 窓 側 の テーブル を 選んだ 。 てるよ||まよわ||まど|がわ||てーぶる||えらんだ Mitsuyo||||||||| Without hesitation, Mitsuyo chose the table by the window. 前 に 座った 祐一 も 、 眼 前 に 広がる 港 の 風景 から 目 を 離さ ない 。 ぜん||すわった|ゆういち||がん|ぜん||ひろがる|こう||ふうけい||め||はなさ| |||||eye||||||||||| 凪いだ 港 に は イカ 釣り 漁船 が 並び 、 波 止め の 遠 く 向こう に は 冬 日 を 浴びた 海原 に 、 白い 波頭 が 躍って 見える 。 ないだ|こう|||いか|つり|ぎょせん||ならび|なみ|とどめ||とお||むこう|||ふゆ|ひ||あびた|うなばら||しろい|なみがしら||おどって|みえる calm||||||fishing boat||lined up|wave|||distant|||||winter|||bathed|ocean|||whitecaps||leaping| calm|||||||||||||||||||||海原|||波の先端||| Squid fishing boats line the calm harbor, and in the distance, far beyond the surf stop, the white heads of the waves can be seen leaping in the winter sun on the ocean. 窓 を 閉めて いて も 、 岸壁 に 打ち寄せる 波 の 音 が した 。 まど||しめて|||がんぺき||うちよせる|なみ||おと|| |||||pier||crashing against||||| Even with the windows closed, I could hear the waves crashing on the shore. 「 一 階 より 、 こっち が 景色 よかった ねえ 。 ひと|かい||||けしき|| The view was better than on the first floor. なんか 得した 気分 」 熱い お しぼり で 手 を 拭き ながら 光代 が 言う と 、「 ここ 、 前 に も 来た こと ある と ? |とくした|きぶん|あつい||||て||ふき||てるよ||いう|||ぜん|||きた||| |gained something||||wet towel||||||||||||||||| |||||おしぼり||||||||||||||||| 」 と 祐一 が 訊 く 。 |ゆういち||じん| 「 妹 たち と 何度 か 来た こと ある けど 、 そん とき は いつも 一 階 やった 。 いもうと|||なんど||きた||||||||ひと|かい| 一 階 も いけす の あって よか と けど ね 」 熱い お茶 を 運んで きた おばさん に 、 光代 は 定食 を 二 人 前 注文 した 。 ひと|かい|||||||||あつい|おちゃ||はこんで||||てるよ||ていしょく||ふた|じん|ぜん|ちゅうもん| |||fish tank|||||||hot|||carried||||||set meal|||||| 注文 して 外 へ 目 を 向ける と 、「 なんか 、 うち の 近所 に 似 とる 」 と 祐一 が 眩 く ・ 「 あ 、 そう か 。 ちゅうもん||がい||め||むける|||||きんじょ||に|||ゆういち||くら|||| ||||||||||||||||||dazzling|||| 祐一 の 家って 、 港町 やった よ ねえ 」 「 港町って いう か 、 ここ と 同じ ただ の 漁村 」 「 いい なぁ 。 ゆういち||いえ って|みなとまち||||みなとまち って|||||おなじ|||ぎょそん|| ||house|port town||||port town|||||||||| 私 、 こういう 景色 大好き 。 わたくし||けしき|だいすき |||love it ほら 、 雑誌 と か で 、 博多 や 東京 なんか の オシャ レ なお 店 紹介 し とる やろ ? |ざっし||||はかた||とうきょう||||||てん|しょうかい||| |||||||||possessive particle|stylish||||||| You know, the magazines and such that introduce fashionable stores in Hakata or Tokyo or something? ああいう の に 出て る シーフード 料理 と か 見る と 、「 値段 ばっか り 高くて 、 絶対 、 呼子 の イカ の ほう が 美味 しか 」って 思う て しまう 」 「 でも 、 女の子 は そういう 店 の ほう が 好きじゃ ない と ? |||でて|||りょうり|||みる||ねだん|ばっ か||たかくて|ぜったい|よびこ||いか||||びみ|||おもう||||おんなのこ|||てん||||すきじゃ|| |||||seafood|||||||only||||squid||||||delicious|||||||||||||||| ||||||||||||ばかり|||||||||||||||||||||||||| When I see seafood dishes served at such places, I think, "The price is too high, and I would definitely prefer the squid from Hobuko. 」 「 うち の 妹 と か は 、 天神 の なん ちや らって いう フレンチレストラン と か に 行き た がる け ど ね 。 ||いもうと||||てんじん||||ら って||||||いき||||| ||||||Tenjin|||like|quotation particle||French restaurant||||||||| ||||||||何|なん|||||||||||| My sister likes to go to a French restaurant called Nanjiara in Tenjin. 私 は こういう ところ の ほう が 好き 。 わたくし|||||||すき って いう か 、 絶対 に こっち の ほう が 美味 しか もん 。 |||ぜったい||||||びみ|| でも テレビ と か で は 、 こういう 店って B 級 グルメ と かって 紹介 さ れる やろ 。 |てれび||||||てん って|b|きゅう|ぐるめ|||しょうかい||| |||||||store|||B-grade gourmet|||||| あれ 大嫌い 。 |だいきらい だって どう 考えたって 、 こっち の ほう が A 級 の 素材 や のに 」 いつき かせい 光代 は 一気呵成 に そこ まで 言った 。 ||かんがえた って|||||a|きゅう||そざい|||||てるよ||いっきかせい||||いった ||no matter how||||||||material|||Itsuki|all at once|||all at once|||| |||||||||||||||||一気に|||| 仕事 を さ ぼ り 、 丸一 日 自由な 時間 を 得た こと に 、 知らず知らず に 興奮 して いた 。 しごと|||||まるいち|ひ|じゆうな|じかん||えた|||しらずしらず||こうふん|| |||||one||||||||unconsciously|||| ふと 前 を 見る と 、 祐一 が 肩 を 震わせ 、 目 を 真っ赤に して いる 。 |ぜん||みる||ゆういち||かた||ふるわせ|め||まっかに|| |||||||||shaking|||bright red|| 慌てて 、「 ど 、 どうした と ? あわてて||| 」 と 声 を かけた 。 |こえ|| テーブル の 上 で 祐一 の 拳 が 強く 握りしめられ 、 音 を 立てる ほど 震えて いる 。 てーぶる||うえ||ゆういち||けん||つよく|にぎりしめ られ|おと||たてる||ふるえて| ||||||fist|||gripped tightly|||||| 「.:… 俺 、:…・ 人 、 殺して し も た 」 「 噌 え ? おれ|じん|ころして||||そ| ||||||huh| I... I... killed a man. 。」 ." 「…… 俺 、 ごめん 」 一瞬 、 祐一 が 何 を 言った の か 分から ず 、 光代 は また 、「 え ? おれ||いっしゅん|ゆういち||なん||いった|||わから||てるよ||| The first thing that comes to mind is the fact that the two of them have been in the same room together for a long time, and that they have been in the same room together for a long time. 何 ? なん 」 と 素っ頓狂な 声 を 上げた 。 |すっとんきょうな|こえ||あげた |absurd||| |突拍子もない||| 祐一 は 傭 いた まま 、 テーブル で 拳 を 握りしめる だけ で 、 それ 以上 の こと を 言 わ ない 。 ゆういち||よう|||てーぶる||けん||にぎりしめる||||いじょう||||げん|| ||hired|||||fist|||||||||||| 涙 目 で 肩 を 震わせ 、「 俺 、…… 人 殺して し も た 」 と 漏らした きり 、 それ 以上 の こと を 言わ ない 。 なみだ|め||かた||ふるわせ|おれ|じん|ころして|||||もらした|||いじょう||||いわ| |||||shaking||||||||let slip|||||||| 涙||||||||||||||||||||| Teary-eyed and shaking his shoulders, he blurted out, "I've killed ...... people," but said nothing more than that. 安物 の テーブル に 、 硬く 握りしめられた 祐一 の 拳 が あった 。 やすもの||てーぶる||かたく|にぎりしめ られた|ゆういち||けん|| cheap item||||firmly|gripped tightly|||fist|| On the cheap table, Yuichi's fist was clenched tightly. 本当に す ぐ そこ に あった 。 ほんとうに||||| It was really right there. 「 ちよ 、 ちょっと 、 な 、 なん ば 言い よっと ? |||||いい|よっ と 」 光代 は 思わず 差し出そう と した 自分 の 手 を 、 一瞬 、 迷って 引っ込めた 。 てるよ||おもわず|さしで そう|||じぶん||て||いっしゅん|まよって|ひっこめた Mitsuyo|||offer|||||||||withdrew 自分 で 引っ込 め た のに 、 別の 誰 か に 引か れた ような 感覚 だった 。 じぶん||ひっこ||||べつの|だれ|||ひか|||かんかく| ||pulled back|||||||||||sensation| 「 ひ 、 人 殺して し もう たって ……」 自然 と 言葉 が 口 から 漏れた 。 |じん|ころして||||しぜん||ことば||くち||もれた 窓 の 外 に は 凪いだ 漁港 が 広がって いる 。 まど||がい|||ないだ|ぎょこう||ひろがって| 停泊 した 漁船 が 揺れて 、 太い ロープ が 軋む ような 音 を 立てる 。 ていはく||ぎょせん||ゆれて|ふとい|ろーぷ||きしむ||おと||たてる anchored||||swaying||||creaks|||| 「・…: 本当 は もっと 早う 、 話さ ん と いけん やった 。 ほんとう|||はやう|はなさ|||| ...: I really should have spoken to you sooner. けど 、 どうしても 話せ ん やった 。 ||はなせ|| But I just couldn't talk to him. 光 代 と 一緒に おったら 、 何もかも なかった こと に なり そうな 気 が した 。 ひかり|だい||いっしょに||なにもかも|||||そう な|き|| I felt like if I stayed with Koyo, everything would never have happened. 何も なくなる わけ ない と に ……。 なにも||||| 今日 だけ 、 あと 一 日 だけ 光代 と 一緒に おり たかった 。 きょう|||ひと|ひ||てるよ||いっしょに|| 昨日 、 車 の 中 で 話 そう と も 思う た 。 きのう|くるま||なか||はなし||||おもう| でも 、 ちゃんと 最後 まで 話せる か 自信 なかった 」 祐一 の 声 が ひどく 震えて いた 。 ||さいご||はなせる||じしん||ゆういち||こえ|||ふるえて| まるで 波 に 揺れて いる ようだった 。 |なみ||ゆれて|| |||swaying|| 「 俺 、 光代 と 知り合う 前 に 、 ある 女の子 と 知り合う た 。 おれ|てるよ||しりあう|ぜん|||おんなのこ||しりあう| 博多 に 住 ん ど る 子 で :…・」 一言 ずつ 言葉 を 区切る ように 祐一 は 話し出す 。 はかた||じゅう||||こ||いちげん||ことば||くぎる||ゆういち||はなしだす ||||||||||||separate|||| なぜ か 光代 は さっき 歩いて きた 岸壁 を 思い出して いた 。 ||てるよ|||あるいて||がんぺき||おもいだして| |||||||pier||| 遠く を 見れば 奇麗な のに 、 足元 の 岸壁 に は ゴミ が 溜まって 、 波 に 揺れ て いた 。 とおく||みれば|きれいな||あしもと||がんぺき|||ごみ||たまって|なみ||ゆれ|| ||||||||||||accumulated||||| The shoreline was beautiful from a distance, but the waves were lapping at its feet, and trash had accumulated on the shoreline. 洗剤 の ペットボトル 。 せんざい||ぺっとぼとる detergent|| PET bottles of detergent . 汚れた 発泡 スチロール の 箱 。 けがれた|はっぽう|||はこ |foam|styrofoam|| Dirty styrofoam box . 片方 だけ の ビーチ サンダル 。 かたほう|||びーち|さんだる one side||||sandal One-sided flip flops . 「:.… メール で 知り合う て 、 何 回 か 会う た 。 めーる||しりあう||なん|かい||あう| ": ... we met through e-mail and met a few times...". 会いたい なら 金 払えって 言われて ……」 その とき 、 とつぜん 襖 が 開いて 、 割烹着 姿 の おばさん が 、 大きな Ⅲ を 抱えて 入って く う 「 すいません ねえ 、 お 待た せ して 」 おばさん が 重 そうな Ⅲ を テーブル に 置く 。 あい たい||きむ|はらえ って|いわ れて||||ふすま||あいて|かっぽうぎ|すがた||||おおきな||かかえて|はいって||||||また|||||おも|そう な||てーぶる||おく |||pay up|was told||||sliding door||opened|apron|||||||holding|||||||||||||||||put down The fusuma (sliding door) opens and an aunt in a kappogi apron enters carrying a large Ⅲ. Ⅲ に は イカ の 活 き 造り が 盛られて いる 。 ||いか||かつ||つくり||もら れて| ||||live||sashimi||served| ||||生き||||| The Ⅲ is served with live squid. 「 そこ の 醤油 、 使う て 下さい ね 」 白い Ⅲ に は 色 鮮やかな 海藻 が 盛ら れ 、 見事な イカ が 丸一 匹 のって いる 。 ||しょうゆ|つかう||ください||しろい|||いろ|あざやかな|かいそう||もら||みごとな|いか||まるいち|ひき|| ||||||||||||seaweed||piled on|||||||| A white Ⅲ is served with brightly colored seaweed and a whole, magnificent squid. イカ の 身 は 透 明 で 、 下 に 敷か れた 海藻 まで 透かして 見える 。 いか||み||とおる|あき||した||しか||かいそう||すかして|みえる ||||transparent|||||laid beneath||seaweed||透けて見える| The squid body is so transparent that even the seaweed underneath can be seen through it. まるで 金属 の ような 銀色 の 月 が 、 焦点 を 失って 虚 空 を 見つめて いる 。 |きんぞく|||ぎんいろ||つき||しょうてん||うしなって|きょ|から||みつめて| |metal|||silver||||focus|||emptiness|||| まるで 自分 だけ でも 、 この Ⅲ から 逃れよう と して 、 何 本 も の 脚 だけ が 生々しく のた打って いる 。 |じぶん|||||のがれよう|||なん|ほん|||あし|||なまなましく|のたうって| ||||||try to escape|||||||legs|||vividly|thrashing| ||||||||||||||||生々しく|もがいて| 「 脚 やら 残った ところ は 、 あと で 天ぷら か 唐 揚げ に します けん ね 」 おばさん は それ だけ 言う と 、 テーブル を ボン と 叩いて 立ち上がった 。 あし||のこった|||||てんぷら||とう|あげ||し ます|||||||いう||てーぶる||ぼん||たたいて|たちあがった |||||||||||||||||||||||with a thud||hit| そのまま 姿 を 消 あし きよ 、 つ す か と 思えば 、 ふと 振り返り 、「 あら 、 まだ 飲み物 ば 訊 いと らん やった ねえ 」 と 愛 嬬 の ある 笑み を 浮かべる 。 |すがた||け|||||||おもえば||ふりかえり|||のみもの||じん||||||あい|じゅ|||えみ||うかべる ||||to disappear|pure|just||||||||still|||||||||love|beloved|||smile|| I'm afraid I'll have to settle for disappearing without a trace," he said with an affectionate smile, "Oh, I didn't ask you to drink yet, did I? 「 ビール か 何 か 持ってき ま しょか ? びーる||なん||もってき|| ||||bring||shall I "Would you like me to bring you a beer or something? 」 そう 尋ねる おばさん に 、 光代 は 咄嵯 に 首 を 振った 。 |たずねる|||てるよ||はなしさ||くび||ふった ||||||suddenly|||| ||||||咄嗟|||| Mitsuyo shook her head as quickly as she could at the aunt who asked her that. 「 い 、 いえ 。 大丈夫です 」 と 答え ながら 、 なぜ か ハンドル を 握る 真似 を した 。 だいじょうぶです||こたえ||||はんどる||にぎる|まね|| ||||||handle|||pretend|| While answering, "I'll be fine," he somehow made a gesture of gripping the steering wheel. おばさん は 襖 を 開けた まま 出て 行った 。 ||ふすま||あけた||でて|おこなった ||sliding door||||| The woman left the sliding door open. 広間 に は ぽつんと 二 人 だけ が 残さ れた 。 ひろま||||ふた|じん|||のこさ| |||just|||||| Two people were left alone in the hall. イカ う なだ の 活 き 造り を 前 に して 、 祐一 が 項 垂れて いる 。 いか||||かつ||つくり||ぜん|||ゆういち||うなじ|しだれて| ||squid|||||||||||neck|drooping| |||||||||||||頭を|| Yuichi is drooping in front of a freshly made squid eel. たった今 、 信じ がたい 告白 を さ れた ばか り な のに 、 光代 は ほとんど 無意識に 、 醤油 を 小 Ⅲ に 垂らして いた 。 たったいま|しんじ||こくはく||||||||てるよ|||むいしきに|しょうゆ||しょう||たらして| |believe|hard to believe|||||||||||||||||dripping| Although she had just received an unbelievable confession, Mitsuyo almost unconsciously dripped soy sauce into a small cup of Ⅲ. 醤油 を 垂らした 小 皿 が 二 枚 、 手元 に 並ぶ 。 しょうゆ||たらした|しょう|さら||ふた|まい|てもと||ならぶ ||dripped||small plate||||||line up Two small plates dripping with soy sauce are placed in front of you. 光代 は 一瞬 迷って から 、 その 一 つ を 祐一 の ほう へ 押しやった 。 てるよ||いっしゅん|まよって|||ひと|||ゆういち||||おしやった |||||||||||||pushed 「 どこ から 話せば いい の か 分から ん ……」 祐一 が 小 皿 の 醤油 を 覗き込む ように 眩 く ・ 「….: あの 晩 、 その 女 と 会う 約束 し とった 。 ||はなせば||||わから||ゆういち||しょう|さら||しょうゆ||のぞきこむ||くら|||ばん||おんな||あう|やくそく|| 博多 の 東公園って いう 場所 で 」 話し 始めた 祐一 に 、 光代 は 思わず 質問 し そうに なって やめた 。 はかた||ひがしこうえん って||ばしょ||はなし|はじめた|ゆういち||てるよ||おもわず|しつもん||そう に|| ||East Park||||||||||||||| その 女 が 、 どういう 女 で 、 それ まで に 何 度 会った こと が あって …:・・ 訊 きたい こと が 次 から 次に 浮かんで くる 。 |おんな|||おんな|||||なん|たび|あった||||じん||||つぎ||つぎに|うかんで| それ くらい 祐一 の 話 が 前 へ 進ま ない 。 ||ゆういち||はなし||ぜん||すすま| 光代 は 辛うじて 、「 ねえ 、 それって いつ の 話 ? てるよ||かろうじて||それ って|||はなし ||barely||||| Mitsuyo barely managed to say, "Hey, when was that? 」 と だけ 尋ねた 。 ||たずねた I just asked. 傭 いて いた 祐一 が 顔 を 上げる 。 よう|||ゆういち||かお||あげる hired||||||| Yuichi, who was mercenary, looks up. 答えよう と は する のだ が 、 唇 が 震えて いて 、 うまく 言 葉 に なら ない 。 こたえよう||||||くちびる||ふるえて|||げん|は||| to answer||||||||||||||| 「 光代 と 会う 前 ……。 てるよ||あう|ぜん 光代 から メール もらった やろ ? てるよ||めーる|| あの 前 ……」 やっと 祐一 が それ だけ 答える 。 |ぜん||ゆういち||||こたえる 「 メールって 、 最初の ? めーる って|さいしょの email|first 」 光代 の 質問 に 、 祐一 が 力なく 首 を 振る 。 てるよ||しつもん||ゆういち||ちからなく|くび||ふる ||||||weakly||| 「…… あの とき 、 俺 、 どう すれば いい の か 分から んで 、 毎晩 、 寝よう と して も 眠れ ん で 、 苦しくて 、 誰 か と 話し たくて ….:、 そ したら 光代 から メール もろう て 」 廊下 の ほう で 来客 を 迎える おばさん の 声 が する 。 ||おれ||||||わから||まいばん|ねよう||||ねむれ|||くるしくて|だれ|||はなし||||てるよ||めーる|||ろうか||||らいきゃく||むかえる|||こえ|| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||welcomeing||||| 「:…・ あの 晩 、 ちゃんと 待ち合わせ し とった と に 、 あの 女 、 別の 男 と も 同じ 場所 で 会う 約束 し とって 。 |ばん||まちあわせ||||||おんな|べつの|おとこ|||おなじ|ばしょ||あう|やくそく|| 『 今日 、 あんた と 一緒に おる 時間 などって 言われて 、 その 男 の 車 に 乗って し も うて 、 そのまま どっか に 行って し も うた 。 きょう|||いっしょに||じかん|など って|いわ れて||おとこ||くるま||のって|||||ど っか||おこなって||| ||||||such as||||||||||||||||| …… 俺 、 バカに さ れた ようで 悔しく て 、 その 車 、 追いかけて ……」 二 人 の 間 で 、 イカ の 脚 が のた打って いた 。 おれ|ばかに||||くやしく|||くるま|おいかけて|ふた|じん||あいだ||いか||あし||のたうって| |||||frustrated||||||||||||||squirming| ◇ 寒い 夜 だった 。 さむい|よ| 吐く 息 が はっきり と 見える ほど 凍 て つく 夜 だった 。 はく|いき||||みえる||こお|||よ| |||||||freezing|||| |||||||凍って|||| 公園 沿い の 歩道 を 歩いて くる 佳乃 の 姿 が 、 車 の ルームミラー に 映った 。 こうえん|ぞい||ほどう||あるいて||よしの||すがた||くるま||||うつった |||sidewalk||||Yoshino|||||||| In the rear view mirror of the car, I saw Kano walking along the sidewalk along the park. 祐一 は 合図 を 送ろう と クラクション を 鳴らした 。 ゆういち||あいず||おくろう||||ならした ||signal|||||| Yuichi honked his horn to send a signal. 音 に 驚いた 佳乃 が 一瞬 足 を 止め 、 歩道 の 先 の ほう を 見つめて 駆け出した 。 おと||おどろいた|よしの||いっしゅん|あし||とどめ|ほどう||さき||||みつめて|かけだした ||||||||||||||||started running Startled by the sound, Kano stopped for a moment, looked toward the end of the sidewalk, and started to run. あっという間 だった 。 あっというま| 駆け出した 佳乃 が 、 祐一 の 待つ 車 を 素通り して しまう 。 かけだした|よしの||ゆういち||まつ|くるま||すどおり|| ||||||||passed by|| ||||||||通り過ぎる|| 慌てて 目 を 向ける と 、 歩道 の 先 に 、 見知らぬ 男 が 立って いた 。 あわてて|め||むける||ほどう||さき||みしらぬ|おとこ||たって| |||||sidewalk|||||||| 佳乃 は 親し そうに 男 の 腕 を 掴んで 話し 始めた 。 よしの||したし|そう に|おとこ||うで||つかんで|はなし|はじめた ||||||||grabbed|| その 問 、 男 が じっと 嫌な 目つき で こ ち ら を 見て いた 。 |とい|おとこ|||いやな|めつき||||||みて| |question|||||glare||||||| The man was staring at us with a disgusted look in his eyes. 偶然に 会った のだろう と 祐一 は 思った 。 ぐうぜんに|あった|||ゆういち||おもった by chance||||||thought Yuichi thought that they must have met by chance. 挨拶 が 済めば 、 戻って くる のだ ろうと 。 あいさつ||すめば|もどって||| greeting||finished||||probably I thought he would come back once he had said his goodbyes. 案の定 、 佳乃 は すぐに こちら へ 歩いて きた 。 あんのじょう|よしの|||||あるいて| as expected||||||| 祐一 が 助手 席 の ドア を 開けて やろう と す る と 、 それ を 察した ように 歩調 を 速め 、 自分 で その ドア を 開け 、「 ごめん 。 ゆういち||じょしゅ|せき||どあ||あけて||||||||さっした||ほちょう||はやめ|じぶん|||どあ||あけ| |||||||||||||||sensed||pace||quickened||||||| 今日 、 ちょっと 無理 。 きょう||むり お 金 、 私 の 口座 に 振り込 ん どって 。 |きむ|わたくし||こうざ||ふりこ||ど って ||||||transfer|| あと で 口座 番号 と か メール する けん 」 と 一言 、っ。 ||こうざ|ばんごう|||めーる||||いちげん| 呆 気 に とら れた 祐一 を よそ に 、 佳乃 は 乱暴に ドア を 閉め 、 スキップ する ような 足取り で 、 見知らぬ 男 の 元 へ 戻った 。 ぼけ|き||||ゆういち||||よしの||らんぼうに|どあ||しめ|すきっぷ|||あしどり||みしらぬ|おとこ||もと||もどった astonished|||||||||||||||skip|||step||||||| |||||||||||||||跳ねるように|||||||||| あっという間 だった 。 あっというま| 祐一 は 口 を 開く こと は おろか 、 自 分 で 自分 の 気持ち を 感じる こと も でき なかった 。 ゆういち||くち||あく||||じ|ぶん||じぶん||きもち||かんじる|||| Yuichi was unable to open his mouth, let alone feel his own feelings. 歩道 に 立つ 男 は 、 近寄って くる 佳乃 で は なく 、 祐一 を じっと 見て いた 。 ほどう||たつ|おとこ||ちかよって||よしの||||ゆういち|||みて| |||||approaching|||||||||| The man standing on the sidewalk was staring at Yuichi, not at Yoshino who was approaching him. 口元 に こちら を 馬鹿に する ような 笑み を 浮かべて いる ように 見えた の は 、 街灯 の せい か 、 それとも 実 際 に 浮かべて いた の か 。 くちもと||||ばかに|||えみ||うかべて|||みえた|||がいとう|||||み|さい||うかべて||| mouth|||||||||||||||streetlight||||||||||| Was it because of the streetlight or was he actually smiling? 佳乃 は 一 度 も 振り返ら ず に 、 男 の 車 に 乗って しまった 。 よしの||ひと|たび||ふりかえら|||おとこ||くるま||のって| 走り出した 車 は 紺色 の アウデ ィ で 、 どんな ローン を 組んだ と して も 、 祐一 に は 手 の 出 なかった A 6 だった 。 はしりだした|くるま||こんいろ||||||ろーん||くんだ||||ゆういち|||て||だ||a| |||navy blue||Audi|Audi|||||took out|||||||||||| The car that started running was a navy blue Audi, an A6 that Yuichi could not afford, no matter what kind of loan he could get. がらんと した 公園 沿い の 並木 道 を 、 男 の 車 が 走り出す 。 ||こうえん|ぞい||なみき|どう||おとこ||くるま||はしりだす empty|||||tree-lined street||||||| A man's car pulls out of a tree-lined street along a deserted park. 凍えた 地面 に 白い 排気 ガス が はっきり と 見えた 。 こごえた|じめん||しろい|はいき|がす||||みえた frozen||||exhaust||||| The white exhaust gas was clearly visible on the frozen ground. 自分 が 置き去り に さ れた のだ と 、 祐一 は そこ で 初めて 気づいた 。 じぶん||おきざり||||||ゆういち||||はじめて|きづいた ||left behind||||||||||| それほど あっけない 一幕 だった 。 ||ひとまく| |disappointingly brief|scene| |あっけなかった|| 置き去り に さ れた と 思う と 、 とつぜん 全身 の 皮膚 を 破る ような 血 が 立った 。 おきざり|||||おもう|||ぜんしん||ひふ||やぶる||ち||たった abandonment||||||||||skin||bursting through|||| 怒り で から だ が 膨張 する ようだった 。 いかり|||||ぼうちょう|| |||||expansion|| 祐一 は アクセル を 踏み込んで 、 車 を 急 発進 さ せた 。 ゆういち||あくせる||ふみこんで|くるま||きゅう|はっしん|| ||||||||sudden start|| すでに 男 の 車 は 前方 の 交差 点 を 左 へ 曲がろう と して いる 。 |おとこ||くるま||ぜんぽう||こうさ|てん||ひだり||まがろう||| already|||||ahead||intersection|||left||about to turn||| その 車体 に 、 車 ごと 衝突 さ せて やろう と 思う ほど の 急 発進 だった 。 |しゃたい||くるま||しょうとつ|||||おもう|||きゅう|はっしん| |car body||||collision|||||||||sudden acceleration| 実際 、 祐一 は 男 の 車 の 前 に 回り込んで 、 佳乃 を 奪い 返そう と 思って いた 。 じっさい|ゆういち||おとこ||くるま||ぜん||まわりこんで|よしの||うばい|かえそう||おもって| |||||||||around|||snatch|||| |||||||||around||||||| In fact, Yuichi wanted to go around in front of the man's car and take Kano away from him. 思って いた と いう より も 、 からだ が 勝手に そう 動き出して いた 。 おもって||||||||かってに||うごきだして| ||||||||||started moving| It's not that I thought it was happening, but rather that my body was doing it on its own. 一 つ 目 の 交差 点 を 曲がった ところ で 、 男 の 車 は 先 の 信号 を 直進 して いた 。 ひと||め||こうさ|てん||まがった|||おとこ||くるま||さき||しんごう||ちょくしん|| |||||||turned|at||||||||||straight ahead|| At the first intersection, the man's car went straight through the light ahead. アクセル を 踏み込んだ が 信号 が 変わり 、 左右 から 車 が 走り込んで くる 。 あくせる||ふみこんだ||しんごう||かわり|さゆう||くるま||はしりこんで| |||||||left and right||||| The accelerator pedal is depressed, but the traffic light changes, and cars come running in from both sides. が 、 横断 する 車 の 数 は 少な く 、 車 列 が 切れる と 、 祐一 は 信号 を 無視 して 走り出した 。 |おうだん||くるま||すう||すくな||くるま|れつ||きれる||ゆういち||しんごう||むし||はしりだした |crossing||||||few||||||||||||| However, there were only a few cars crossing the street, and when the line of cars cut through, Yuichi ignored the signal and started to run. 佳乃 を 乗せた 男 の 車 に 追いつ いた の は 、 百 メートル ほど 走った 場所 だった 。 よしの||のせた|おとこ||くるま||おいつ||||ひゃく|めーとる||はしった|ばしょ| |||||||caught up with||||||||| I caught up to the man's car with Kano about 100 meters away. 追突 さ せる 勢い で 走り出した のに 、 男 の 車 を 捕らえた 途端 、 急に 気 が 変わった 。 ついとつ|||いきおい||はしりだした||おとこ||くるま||とらえた|とたん|きゅうに|き||かわった rear-end collision|||||||||||caught|at that moment|||| He started running with the force to rear-end the car, but as soon as he caught the man's car, he suddenly changed his mind. 怒り が 収まった と いう より も 、 追突 すれば 自分 の 車 が 傷つく こと に 今さら 気づいた のだ 。 いかり||おさまった|||||ついとつ||じぶん||くるま||きずつく|||いまさら|きづいた| |||||||rear-end collision||||||would be damaged||||| It's not so much that he's less angry, but more that he now realizes that he will damage his car if he rear-ends it. 祐一 は 更に スピード を 上げ 、 男 の 車 の 横 を 走った 。 ゆういち||さらに|すぴーど||あげ|おとこ||くるま||よこ||はしった ||further||||||||||ran Yuichi increased his speed and ran beside the man's car. ハンドル を 握り ながら 、 車 の 中 を 窺 う と 、 助手 席 に 座った 佳乃 が 、 満面 の 笑み を 浮かべて 喋って いた 。 はんどる||にぎり||くるま||なか||き|||じょしゅ|せき||すわった|よしの||まんめん||えみ||うかべて|しゃべって| ||||||||peeked at|||||||||full face|||||| I looked inside the car with my hands on the steering wheel and saw Kano sitting in the passenger seat with a big smile on her face. 一言 、 謝って ほし かった 。 いちげん|あやまって|| ||wanted| I wanted to apologize. 約束 を 破った の は 佳乃 な のだ から 、 一言 謝って ほしかった 。 やくそく||やぶった|||よしの||||いちげん|あやまって| promise|||||||||a word||wanted Since it was Kano who broke the promise, I wish she would have apologized to me. 道 は 天神 の 繁華街 に 向かって いた 。 どう||てんじん||はんかがい||むかって| ||||shopping district||| 祐一 は 速度 を 落とし 、 男 の 車 の 後ろ に ついた 。 ゆういち||そくど||おとし|おとこ||くるま||うしろ|| ||speed||||||||| 途 中 、 何 台 か の 車 が 、 間 に 入って 来て は 出て 行った が 、 三瀬 峠 へ 向かう 街道 まで 来る と 、 少し 車 間 距離 を 開けて も 、 間 に 入って くる 車 は なく なった 。 と|なか|なん|だい|||くるま||あいだ||はいって|きて||でて|おこなった||みつせ|とうげ||むかう|かいどう||くる||すこし|くるま|あいだ|きょり||あけて||あいだ||はいって||くるま||| way||what|vehicles|||||||||||||||||highway|||||car||||||||||||| Some cars came and went along the way, but when we reached the road to Mise Pass, no more cars came between us, even if we gave them a little more space. 街道 に ぽつ ん ぽつんと 立てられた 街灯 が 、 暗い 夜 の 中 、 赤い ポスト や 町 内 の 掲示板 を 浮かび上がら せて いる 。 かいどう|||||たて られた|がいとう||くらい|よ||なか|あかい|ぽすと||まち|うち||けいじばん||うかびあがら|| |||||set up|streetlight||||||||||||bulletin board||lighting up|| The street lamps standing along the street make the red post boxes and the bulletin boards in the town stand out in the dark night. 道 が 上り坂 に なり 、 前 を 走る 男 の 車 の ライト が 、 アスファルト を 青く 照らして いる の が はっきり と 見える 。 どう||のぼりざか|||ぜん||はしる|おとこ||くるま||らいと||||あおく|てらして||||||みえる ||uphill||||||||||||||blue||||||| ||||||||||||||アスファルト||||||||| As the road goes uphill, I can clearly see the man's car in front of me with its lights shining blue on the asphalt. 車体 で は なく 、 まるで 光 の 塊 が 、 細い 山道 を 駆け上がって いく ようだった 。 しゃたい|||||ひかり||かたまり||ほそい|やまみち||かけあがって|| car body|||||light||||narrow|||running up|| 祐一 は 距離 を 縮め ない ように 車 を 追った 。 ゆういち||きょり||ちぢめ|||くるま||おった ||||shorten|||||followed 赤い テールランプ が カーブ の たび に 強く な せつな る 。 あかい|||かーぶ||||つよく||| |tail lamp|||||||strongly|suddenly| Every time a red tail light comes around a curve, it strongly assaults the driver. その 刹那 、 前方 の 森 が 赤く 染まる 。 |せつな|ぜんぽう||しげる||あかく|そまる |moment|ahead||||red|colored red |瞬間|||||| A moment later, the forest in front of us turns red. スピード は 出て いた が 下手 クソ な 運転 だった 。 すぴーど||でて|||へた|くそ||うんてん| He was driving fast, but he was a lousy driver. 急 カーブ で も ない のに 、 男 は すぐに ブレーキ を 踏む 。 きゅう|かーぶ|||||おとこ|||ぶれーき||ふむ The man immediately slams on the brakes, even though it is not a sharp curve. その たび に 祐一 の 車 が 近づいて し まう 。 |||ゆういち||くるま||ちかづいて|| Every time a car of Yuichi's approached me. 祐一 は わざと スピード を 落とした 。 ゆういち|||すぴーど||おとした Yuichi intentionally slowed down. 峠 道 を 駆け上がって いく 男 の 車 と 徐々に 距離 が 開いて くる 。 とうげ|どう||かけあがって||おとこ||くるま||じょじょに|きょり||あいて| mountain pass||||||||||||| The distance between the man's car and the car rushing up the pass gradually widens. それ でも 真っ暗闇の 峠 道 、 カーブ を 曲がれば 、 生い茂った 樹 々 の 向こう に 、 離れた 車 の ライト が 見える 。 ||まっくらやみの|とうげ|どう|かーぶ||まがれば|おいしげった|き|||むこう||はなれた|くるま||らいと||みえる ||pitch darkness||||||thickly grown||||||||||| ||||||||茂った||||||||||| But when I rounded a curve in the pitch-darkness of the pass, I could see the lights of a distant car behind a thick canopy of trees. どれ くらい 走った の か 、 男 の 車 が 急 停車 した の は 峠 の 頂上 に 差し掛かる 場所 だった 。 ||はしった|||おとこ||くるま||きゅう|ていしゃ||||とうげ||ちょうじょう||さしかかる|ばしょ| ||||||||||||||||summit||approaching|| ||||||||||||||||||差し掛かる|| I don't know how long he had been driving when his car came to a sudden stop just at the top of the pass. 祐一 は 慌てて ブレーキ を 踏んで 、 ライト を 消した 。 ゆういち||あわてて|ぶれーき||ふんで|らいと||けした |||||stepped on||| 真っ暗な 闇 の 中 、 赤い テールランプ が 、 まるで 巨大な 森 の 赤い 眼光 の ようだった 。 まっくらな|やみ||なか|あかい||||きょだいな|しげる||あかい|がんこう|| |darkness|||||||||||red light||seemed like ||||||||||||目の光||