三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 04 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

４　 葬儀 の 客 そうぎ||きゃく

「 ああ 、 アホ らしい 」

校長 室 を 出る と 、 珠美 は そう 呟いた 。 こうちょう|しつ||でる||たまみ|||つぶやいた

何で 、 やって も い ない こと で 反省 したり 謝ったり し なきゃ なん ない の ？ なんで|||||||はんせい||あやまったり||||| Why do you have to reflect on and apologize for what you are not doing?

停学 処分 の 三 日間 を 終えて 、 今日 から 登校 して 来た のである 。 ていがく|しょぶん||みっ|にち かん||おえて|きょう||とうこう||きた|

しかし 、 停学 中 、 充分に 反省 した か どう か 、 校長 室 で 質問 さ れた のだった 。 |ていがく|なか|じゅうぶんに|はんせい|||||こうちょう|しつ||しつもん|||

もっとも 、 校長 から 、 |こうちょう| However, from the principal,

「 よく 反省 した か ？ |はんせい||

と 訊 かれて 、 |じん|

「 し ませ ん 」

なんて 答える 馬鹿 が いる わけ は ない ので 、 珠美 と して も 、 やや 抵抗 は あった もの の 、 |こたえる|ばか|||||||たまみ|||||ていこう||||

「 はい 」

と 返事 を して 来た のである 。 |へんじ|||きた|

「 よろしい 」

で 、 終り 。 |おわり

所要 時間 、 正味 十 秒 。 しょよう|じかん|しょうみ|じゅう|びょう

── 珠美 が 「 アホ らしい 」 と 呟く の も 当然 と いえよう 。 たまみ|||||つぶやく|||とうぜん||

職員 室 の 前 を 通り かかる と 、 一 年 の とき 担任 だった 教師 、 田所 が 出て 来た 。 しょくいん|しつ||ぜん||とおり|||ひと|とし|||たんにん||きょうし|たどころ||でて|きた As I passed in front of the staff room, a teacher, a homeroom teacher, came out in a year.

「 何 だ 、 佐々 本 か 」 なん||ささ|ほん|

野暮ったい 背広 に 黒 の ネクタイ を して いる 。 やぼったい|せびろ||くろ||ねくたい|||

「 先生 、 こんち は 」 せんせい||

「 そう か 。

お前 、 停学 に なった んだ な 」 おまえ|ていがく||||

「 もう 済んだ んです 」 |すんだ|

「 そう か 。

早い じゃ ない か 。 はやい||| どうせ やる なら 、 派手な こと を やれ 」 |||はでな||| If you can do anything, do something gaudy. "

と 、 けしかけて いる 。

一風 変った 、 昔風の 教師 で 、 生徒 に は なかなか 人気 が ある 。 いっぷう|かわった|むかしふうの|きょうし||せいと||||にんき|| It is an unusual, old-fashioned teacher, which is quite popular among students.

「 先生 、 どこ に 行く んです か ？ せんせい|||いく||

と 、 廊下 を 歩き ながら 珠美 が 訊 く 。 |ろうか||あるき||たまみ||じん|

「 葬式 だ 」 そうしき|

「 誰 か 亡くなった んです か ？ だれ||なくなった||

「 ほら 、 この 前 この 学校 の 中 で 殺さ れた 女 が いたろう 」 ||ぜん||がっこう||なか||ころさ||おんな||

「 有田 信子 ……」 ありた|のぶこ

「 何 だ 、 よく 知って る な 」 なん|||しって||

「 ちょっと 、 新聞 で 読んで 」 |しんぶん||よんで

と 、 珠美 は あわてて 言った 。 |たまみ|||いった

「 あの 人 の お 葬式 ？ |じん|||そうしき 「 そう な んだ 。

息子 が 、 元 ここ の 生徒 だった って いう んで な 。 むすこ||もと|||せいと||||| 一応 顔 を 出して くれ って こと な んだ 」 いちおう|かお||だして|||||

「 ご苦労様 」 ごくろうさま

と 、 珠美 は 言って 、「── 先生 、 その 子供 の 方 、 知って た んです か ？ |たまみ||いって|せんせい||こども||かた|しって|||

「 その 息子 か ？ |むすこ|

── 教えた こと は ある 。 おしえた||| ほん の 短い 期間 だ が な 」 ||みじかい|きかん|||

「 憶 えて ます ？ おく||

「 うん 」

と 、 田所 は 肯 いた 。 |たどころ||こう|

「 妙な もん だ が ── 何しろ 、 さ ぼ って ばかり で 、 滅多に 学校 に 来 なかった し 、 授業 に も ろくに 出て ない 奴 だった が 、 これ が よく 憶 えて る んだ な 。 みょうな||||なにしろ||||||めったに|がっこう||らい|||じゅぎょう||||でて||やつ||||||おく|||| "It is strange, but in any case, it was a lot of things, rarely came to school, and he was a bad teacher, but I remember this well. 一 日 も 休ま ず 、 皆勤 賞 を 取った 奴 より よく 憶 え とる 」 ひと|ひ||やすま||かいきん|しょう||とった|やつ|||おく||

「 不良 ── だった んでしょ ？ ふりょう||

「 不良 と いや 、 誰 だって 、 どこ か 不良だ 。 ふりょう|||だれ||||ふりょうだ "No, bad, anyone, somewhere bad.

子供 って の は 、 そんな もん だ 」 こども||||||

と 、 田所 は 自己 流 の 「 不良 論 」 を 述べて 、 |たどころ||じこ|りゅう||ふりょう|ろん||のべて

「 しかし 、 不良に も 色々 ある 。 |ふりょうに||いろいろ|

甘えたり 逃げたり して 不良に なる 奴 と 、 覚悟 の 上 で 不良に なる 奴 と な 。 あまえたり|にげたり||ふりょうに||やつ||かくご||うえ||ふりょうに||やつ|| ── 有田 は 、 どことなく 芯 の ある 奴 だった 」 ありた|||しん|||やつ| ── Arita was something with a core. "

芯 の ある 、 か 。 しん|||

── 鉛筆 みたい ね 、 と 珠美 は 思った 。 えんぴつ||||たまみ||おもった

「 そう だ 」

と 田所 は 珠美 を 見て 、「 お前 、 一緒に 来い 」 |たどころ||たまみ||みて|おまえ|いっしょに|こい

「 え ？

珠美 は 目 を 丸く した 。 たまみ||め||まるく|

「 一緒に 、 って ……。 いっしょに| どこ へ ？ 「 葬式 だ 」 そうしき|

「 私 、 関係 ない です けど 」 わたくし|かんけい|||

「 生徒 代表 って の が 一 人 いた 方 が いい 」 せいと|だいひょう||||ひと|じん||かた||

「 だけど 、 授業 が ──」 |じゅぎょう|

「 もう 一 日 停学 だ と 思えば いい だ ろ 」 |ひと|ひ|ていがく|||おもえば|||

「 そんな 無 茶 な 」 |む|ちゃ|

「 俺 が ちゃんと 言 っと いて やる 」 おれ|||げん|||

と 、 田所 は 、 ポン と 珠美 の 肩 を 叩いた 。 |たどころ||||たまみ||かた||たたいた

「 忘れ なきゃ な 」 わすれ|| "I must not forget"

── 有田 信子 は 、 大分 古ぼけた 団地 に 住んで いた のだった 。 ありた|のぶこ||だいぶ|ふるぼけた|だんち||すんで||

四 階 建 の 、 かつて は 白かった らしい 棟 が 、 五 つ 並んで いる 。 よっ|かい|けん||||しろかった||むね||いつ||ならんで|

それ だけ の 団地 だった 。 |||だんち|

「 その 内 、 取り壊して 建て直す んだろう な 」 |うち|とりこわして|たてなおす||

田所 は 、 のんびり と 中 を 見 回した 。 たどころ||||なか||み|まわした

「 でも 、 家賃 、 安い でしょう ね 」 |やちん|やすい||

「 お前 は 、 相 変ら ず ガッチリ し とる な 」 おまえ||そう|かわら||がっちり|||

「 苦労 して ます から 」 くろう|||

教師 と 生徒 の 会話 と は 思え ない 。 きょうし||せいと||かいわ|||おもえ|

「 あそこ らしい な 」

団地 の 中 に 、 小さな 小屋 ── と いって は 悪い が 、 どうにも そういう イメージ の 、 建物 が あった 。 だんち||なか||ちいさな|こや||||わるい||||いめーじ||たてもの||

その 入口 に 受付 らしき もの が 作って ある のだ が ……。 |いりぐち||うけつけ||||つくって|||

「 時間 、 間違えた んじゃ あり ませ ん ？ じかん|まちがえた||||

と 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 うむ 」

田所 も 、 空っぽの 受付 を 見て 、 首 を かしげる 。 たどころ||からっぽの|うけつけ||みて|くび||

「 俺 は 、 聞いて 来た だけ だ ぞ 。 おれ||きいて|きた||| 事務 の 奴 が 間違えた の か な 」 じむ||やつ||まちがえた|||

「 でも ── お 経 が ……」 ||へ|

なるほど 、 入口 の 前 に 立つ と 、 中 で お 経 を あげて いる の が 聞こえて 来る 。 |いりぐち||ぜん||たつ||なか|||へ||||||きこえて|くる

香 の 匂い も 漂って 来た 。 かおり||におい||ただよって|きた

「 間違っちゃ い なかった ようだ な 」 まちがっちゃ||||

「 でも 、 誰 も いま せ ん ね 」 |だれ|||||

「 中 へ 入ろう 」 なか||はいろう

上って みる と 、 畳 十 畳 ぐらい の 部屋 で 、 正面 に 棺 も 安置 さ れて いる 。 のぼって|||たたみ|じゅう|たたみ|||へや||しょうめん||ひつぎ||あんち|||

お 坊さん が 一応 お 経 を 上げて は いる のだ が 、 肝心の 会葬 者 が ── 遺族 の 所 に も 、 誰 も い ない 。 |ぼうさん||いちおう||へ||あげて|||||かんじんの|かいそう|もの||いぞく||しょ|||だれ|||

珠美 と 田所 が 顔 を 見合わせて いる と 、 急に 後ろ で 、 たまみ||たどころ||かお||みあわせて|||きゅうに|うしろ|

「 どなた です か 」

と 声 が して 、 珠美 は 、 キャッ と 声 を 上げて 飛び上った 。 |こえ|||たまみ||||こえ||あげて|とびあがった

立って いた の は ずんぐり した 体つき の 中年 男 で 、 田所 が 名乗る と 、 たって||||||からだつき||ちゅうねん|おとこ||たどころ||なのる|

「 それ は どうも 、 ご 丁寧に 」 ||||ていねいに

と 礼 を 言った 。 |れい||いった

「 誰 も 焼香 に 来 ない もん で 、 こっち も 気 が 重かった んです 。 だれ||しょうこう||らい||||||き||おもかった| ぜひ 焼香 して やって 下さい 」 |しょうこう|||ください

「 は あ 」

取りあえず 、 田所 と 珠美 が 順番 に 焼香 する 。 とりあえず|たどころ||たまみ||じゅんばん||しょうこう|

表 に 出る と 、 さっき の 男 が 、 周囲 を キョロキョロ 見 回して いた 。 ひょう||でる||||おとこ||しゅうい|||み|まわして|

「── や 、 どうも 」

と 、 田所 に 頭 を 下げる 。 |たどころ||あたま||さげる

「 私 は 大 倉 と いい ます 」 わたくし||だい|くら|||

「 ああ 、 聞いて ます よ 」 |きいて||

と 、 田所 が 肯 く 。 |たどころ||こう|

「 有田 勇一 が いる 施設 の ──」 ありた|ゆういち|||しせつ|

「 所長 を し とり ます 」 しょちょう||||

大倉 と いう 男 、 外見 上 は ともかく 、 印象 が どことなく 田所 に 似て いる 。 おおくら|||おとこ|がいけん|うえ|||いんしょう|||たどころ||にて|

「 勇一 の こと は よく 憶 えて ます よ 。 ゆういち|||||おく|||

真面目 と は 言いがたかった が 、 どことなく 、 他 と は 違った ところ が あった 」 まじめ|||いいがたかった|||た|||ちがった|||

「 そう おっしゃって いただく と 嬉しい です な 」 ||||うれしい||

大倉 が 、 顔 を ほころば せた 。 おおくら||かお|||

「 私 も 、 あいつ に は 見どころ が ある と 思って る んです 」 わたくし|||||みどころ||||おもって||

「 同感 です 」 どうかん|

田所 は 、 そう 言って から 、「 で ── どこ に いる んです か ？ たどころ|||いって|||||||

と 周囲 を 見 回した 。 |しゅうい||み|まわした

「 それ な んです 。

頭 を 痛めて る んです よ 」 あたま||いためて|||

大倉 は ため息 を ついた 。 おおくら||ためいき||

「 姿 を くらまし ち まったん です 」 すがた|||||

「 する と ── 逃げた んです か 」 ||にげた||

「 逃げた の なら 、 そう 心配 せ ん のです が ね 」 にげた||||しんぱい|||||

と 、 大倉 は 首 を 振った 。 |おおくら||くび||ふった

「 あいつ は 母親 思い でした から 。 ||ははおや|おもい|| ── 自分 で 犯人 を 見付ける んだ 、 と 思い つめて 、 姿 を くらました と したら ……。 じぶん||はんにん||みつける|||おもい||すがた|||| 危険な こと も やり かね ませ ん 」 きけんな||||||

もう やって ます よ 、 と 珠美 は 、 心 の 中 で 呟いた が 、 勇一 が やって 来た こと を 、 田所 たち に 話して やる 気 に は なれ なかった 。 |||||たまみ||こころ||なか||つぶやいた||ゆういち|||きた|||たどころ|||はなして||き||||

今 どこ に いる か は 、 どうせ 珠美 だって 知ら ない こと な のだ から 。 いま|||||||たまみ||しら|||||

「 母親 の 葬式 ぐらい に は 、 現われる と 思 っと った んです が 」 ははおや||そうしき||||あらわれる||おも||||

大倉 は 、 肩 を すくめて 、「 仕方ない 。 おおくら||かた|||しかたない

── ま 、 お 二 人 が 来て 下さった だけ でも ありがたい です よ 」 ||ふた|じん||きて|くださった|||||

「 殺さ れた 人 、 ここ に 住んで いた んでしょ ？ ころさ||じん|||すんで||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 それなのに 、 どうして 誰 も 焼香 に 来 ない んです か ？ ||だれ||しょうこう||らい||| 「 そい つ が 私 も 不思議で ね 」 |||わたくし||ふしぎで|

と 、 大倉 は 、 団地 の 棟 々 を 眺めて 、「 と いって 、 いちいち 呼んで 回る わけに も いか ない し ……」 |おおくら||だんち||むね|||ながめて||||よんで|まわる|||||

何 か 事情 が あり そうだ わ 、 と 珠美 は 思った 。 なん||じじょう|||そう だ|||たまみ||おもった

夕 里子 姉ちゃん なら 、 目 を 輝か せる ところ だろう 。 ゆう|さとご|ねえちゃん||め||かがやか|||

しかし 、 珠美 は 、 一 文 に も なら ない 「 謎 」 なんて 、 一向に 興味 が なかった 。 |たまみ||ひと|ぶん|||||なぞ||いっこうに|きょうみ||

もっとも 、 誰一人 焼香 に 来 ない 寂しい お 葬式 に 、 少々 胸 を 痛めた の は 事実 である 。 |だれひとり|しょうこう||らい||さびしい||そうしき||しょうしょう|むね||いためた|||じじつ|

あの 勇一 と いう 子 、 ここ に い なくて 却って 良かった の かも しれ ない わ ……。 |ゆういち|||こ|||||かえって|よかった|||||

「 では 、 もう 切り上げる ように 言い ましょう か 」 ||きりあげる||いい||

大倉 は 腕 時計 を 見て 、「 まだ 少し 時間 は ある が 、 誰 も 来そう も ない し 」 おおくら||うで|とけい||みて||すこし|じかん||||だれ||きたそう|||

「 だけど ──」

珠美 が 、 つい 口 を 挟んで いた 。 たまみ|||くち||はさんで|

大倉 と 田所 に 、 同時に 見 られて 、 ちょっと 焦り つつ 、 おおくら||たどころ||どうじに|み|||あせり|

「 あの ── やっぱり 時間 通り 、 待って て あげた 方 が ── その ──」 ||じかん|とおり|まって|||かた||

「 いや 、 その 通り だ 」 ||とおり|

と 、 田所 が 肯 く 。 |たどころ||こう|

「 我々 だけ でも 、 ずっと いて あげ ます よ 」 われわれ|||||||

「 そう です か 」

大倉 も 、 いくらか ホッと した ようだった 。 おおくら|||ほっと||

珠美 は 、 何となく 、 周囲 を のんびり と 見 回して いた が ……。 たまみ||なんとなく|しゅうい||||み|まわして||

「 アッ ！

と 、 思わず 声 を 上げた 。 |おもわず|こえ||あげた

「 どうした ？

田所 に 訊 かれて 、 たどころ||じん|

「 いえ ── あの 、 目 に ごみ が 入った だけ です 」 ||め||||はいった||

珠美 は あわてて 言い訳 する と 、「 ちょっと 洗って 来 ます 」 たまみ|||いいわけ||||あらって|らい|

と 、 小さな 砂場 の 方 へ 歩いて 行った 。 |ちいさな|すなば||かた||あるいて|おこなった

水飲み 場 が ある 。 みずのみ|じょう||

── 珠美 は 、 田所 たち の 方 を ちょっと 振り向く と 、 茂み の 方 へ 駆けて 行った 。 たまみ||たどころ|||かた|||ふりむく||しげみ||かた||かけて|おこなった

「── あんた 、 何 して ん の よ ！ |なん||||

「 で かい 声 出す な 」 ||こえ|だす|

と 、 勇一 が 言い 返す 。 |ゆういち||いい|かえす

「 出て 来たら いい じゃ ない の 。 でて|きたら||||

あんた の お 母さん の お 葬式 よ 」 |||かあさん|||そうしき|

「 分 って ら 。 ぶん||

だけど 出て 行きゃ 、 また 施設 へ 戻る んだ 」 |でて|いきゃ||しせつ||もどる|

「 仕方ない でしょ 」 しかたない|

「 犯人 を 自分 で 見付けて やる んだ ！ はんにん||じぶん||みつけて||

茂み の 陰 に しゃがみ 込んで 、 勇一 は 、 言った 。 しげみ||かげ|||こんで|ゆういち||いった

「 警察 が 見付けて くれる わ よ 。 けいさつ||みつけて|||

その ため に 税金 払って んだ から 」 |||ぜいきん|はらって||

勇一 は 、 ふと 優しい 目 に なって 、 珠美 を 見る と 、 ゆういち|||やさしい|め|||たまみ||みる|

「 この前 は ありがとう 」 この まえ||

と 言った 。 |いった

珠美 は どぎまぎ して 、 たまみ|||

「 そんな ── 急に 態度 変え ないで よ 」 |きゅうに|たいど|かえ||

と 、 目 を そらした が 、 何だか イヤに 顔 が カッ と 熱く なって いた 。 |め||||なんだか|いやに|かお||||あつく||

「 先生 たち に 、 黙って て くれよ な 」 せんせい|||だまって|||

と 、 勇一 が 静かに 言った 。 |ゆういち||しずかに|いった

「 いい けど さ ……。

でも 、 危 いよ 、 殺人 事件 な んだ から 」 |き||さつじん|じけん|||

珠美 は 何しろ 経験 豊富だ 。 たまみ||なにしろ|けいけん|ほうふだ

「 分 って る よ 」 ぶん|||

勇一 は 肯 いて 、「 だけど 、 お 袋 は 俺 に とっちゃ 、『 借り 』 の ある 相手 だった んだ 」 ゆういち||こう||||ふくろ||おれ|||かり|||あいて||

「 借金 でも して た の ？ しゃっきん||||

「 苦労 かけ たって こと さ 」 くろう||||

「 ああ 。

── でも 、 子供 って 、 たいてい そう じゃ ない ？ |こども||||| 「 お前 、 面白い 奴 だ な 」 おまえ|おもしろい|やつ||

と 、 勇一 は ちょっと 笑った 。 |ゆういち|||わらった

「 それ で 賞 め たつ もり ？ ||しょう|||

「── ともかく 、 俺 、 もう 少し 姿 を 隠して 、 犯人 を 捜して やる つもりだ 」 |おれ||すこし|すがた||かくして|はんにん||さがして||

「 危 い と 思う けど なあ 」 き|||おもう||

「 いい んだ 」

と 、 勇一 は 軽い 口調 で 言った 。 |ゆういち||かるい|くちょう||いった

「 別に それ で 死んだ って 、 一向に 構わ ねえ 」 べつに|||しんだ||いっこうに|かまわ|

珠美 は 、 ギョッ と した 。 たまみ||||

── 自分 と 同じ 年齢 の 子 から 、「 死んで も いい 」 なんて 言葉 を 、 それ も 真剣に 言った 言葉 を 聞く の は 、 初めて だった から だ 。 じぶん||おなじ|ねんれい||こ||しんで||||ことば||||しんけんに|いった|ことば||きく|||はじめて|||

そりゃ 、 女の子 たち が 、「×× ちゃん の ため なら 死んで も いい ！ |おんなのこ|||||||しんで||

」 と か 言う こと は よく ある が 、 スター や タレント に 憧れて 本当に 死ぬ こと は 、 まず ない 。 ||いう||||||すたー||たれんと||あこがれて|ほんとうに|しぬ|||| 今 の 勇一 の 言葉 は 、 アッサリ 言わ れた だけ に 、 珠美 に とって は ショック な のであった 。 いま||ゆういち||ことば|||いわ||||たまみ||||しょっく||

珠美 が 何 か 言おう と 口 を 開き かけた とき 、 たまみ||なん||いおう||くち||あき||

「 誰 か 来た みたいだ な 」 だれ||きた||

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

なるほど 、 あの 受付 の 辺り に 人 の 声 が する 。 ||うけつけ||あたり||じん||こえ||

「 行く わ 、 もう 」 いく||

「 ああ 。

── 元気で な 」 げんきで|

珠美 は 、 歩き かけて 、 振り向く と 、 たまみ||あるき||ふりむく|

「 行く 所 に 困ったら 、 うち へ おい で よ 」 いく|しょ||こまったら|||||

と 言った 。 |いった

── 受付 の 方 へ 戻り ながら 、 珠美 は 、 どうして 自分 が あんな こと を 言った の か 、 不思議だった 。 うけつけ||かた||もどり||たまみ|||じぶん|||||いった|||ふしぎだった

一 泊 いくら 、 と いって も 、 どうせ お 金 なんて 持って ない んだろう し 。 ひと|はく|||||||きむ||もって|||

「 しかし 、 それ は ──」

と 、 田所 の 声 。 |たどころ||こえ

「 こちら へ 任せて いた だこう 」 ||まかせて||

と 言って いる の は 、 白髪 の 紳士 だった 。 |いって||||しらが||しんし|

珠美 は 、 その 紳士 の 背広 が 英国 製 の 生地 だ と いう の を 、 一目 で 見てとって いた 。 たまみ|||しんし||せびろ||えいこく|せい||きじ||||||いちもく||みてとって|

しかも 、 傍 に 、 秘書 らしい 若い 男 を 連れ 、 団地 の 入口 に 、 その 紳士 が 乗って 来た に 違いない 車 ── ロールス ・ ロイス ── が 停めて ある の に も 気付いた 。 |そば||ひしょ||わかい|おとこ||つれ|だんち||いりぐち|||しんし||のって|きた||ちがいない|くるま||||とめて|||||きづいた

これ は 凄い 金持 だ ！ ||すごい|かねもち|

でも 、 何 し に 来た んだろう ？ |なん|||きた|

「 ちょっと お 待ち 下さい 」 ||まち|ください

と 、 大倉 が 割って 入った 。 |おおくら||わって|はいった

「 あなた は 、 亡くなった 有田 信子 さん と どういう ご 関係 の 方 です か ？ ||なくなった|ありた|のぶこ|||||かんけい||かた|| 白髪 の 紳士 は 、 ちょっと 息 を ついた 。 しらが||しんし|||いき||

── そして 、 高飛車に 出た の を やや 恥じる ように 、 |たかびしゃに|でた||||はじる|

「 これ は 失礼 した 」 ||しつれい|

と 言った 。 |いった

「 こちら が 名乗り も せ ず に 、 勝手な こと を 言って は 、 驚か れる の も 無理 は ない 。 ||なのり|||||かってな|||いって||おどろか||||むり|| ── 私 は 小 峰 と いう 者 です 。 わたくし||しょう|みね|||もの| 信子 は 私 の 娘 です 」 のぶこ||わたくし||むすめ|

エッ 、 と 思わず 声 を 上げて 、 珠美 は あわてて 口 を 押えた 。 えっ||おもわず|こえ||あげて|たまみ|||くち||おさえた

しかし 、 これ が びっくり せ ず に い られよう か 。

小 峰 と いう 老 紳士 は 、 珠美 の 方 へ 目 を 向けた 。 しょう|みね|||ろう|しんし||たまみ||かた||め||むけた

「 す 、 すみません 」

珠美 は 謝った 。 たまみ||あやまった

しかし ── 何だか 変だった 。 |なんだか|へんだった その 紳士 が 、 じっと 、 珠美 を 見つめて いる のだ 。 |しんし|||たまみ||みつめて|| にらんで いる 、 と いう の と は 違う 。 |||||||ちがう

珠美 は 、 顔 に 何 か つけて た の か なあ 、 と 思った ……。 たまみ||かお||なん||||||||おもった

「 有田 信子 さん の 父親 ！ ありた|のぶこ|||ちちおや

そう でした か 」

田所 の 声 で 、 小峰 は 、 ふっと 我 に 返った 様子 だった 。 たどころ||こえ||こみね|||われ||かえった|ようす|

「 信子 は 、 男 と 駆け落ち して 、 それ きり 姿 を くらまして しまった のです 」 のぶこ||おとこ||かけおち||||すがた||||

と 、 小峰 は 言った 。 |こみね||いった

「 私 に とって は 、 たった 一 人 の 子供 でした が 、 私 も 頑固でして 、 信子 が 望んだ 相手 と の 結婚 を 許さ なかった 。 わたくし|||||ひと|じん||こども|||わたくし||がんこでして|のぶこ||のぞんだ|あいて|||けっこん||ゆるさ| ── 家 を 出て 行って も 、 どうせ すぐ 戻って 来る 、 と 思って いた のです が ……」 いえ||でて|おこなって||||もどって|くる||おもって|||

「 では 、 それ っきり ？

「 信子 は 戻り ませ ん でした 。 のぶこ||もどり|||

私 も 意地 に なって いて 、 捜さ せ も し なかった のです が 。 わたくし||いじ||||さがさ|||||| 最近 に なって 、 人 を 雇って 、 行方 を 調べ 始めて いた ところ 、 あの 殺人 事件 の ニュース で ……。 さいきん|||じん||やとって|ゆくえ||しらべ|はじめて||||さつじん|じけん||にゅーす| よく 調べて みる と 、 間違い なく 信子 でした 」 |しらべて|||まちがい||のぶこ|

「 それ は お 気の毒な こと で 」 |||きのどくな||

と 、 大倉 が 言った 。 |おおくら||いった

「 ぜひ 、 私 の 手 で 娘 の 葬儀 を 、 と 思い まして 。 |わたくし||て||むすめ||そうぎ|||おもい|

── そちら に は ご 迷惑 と 思い ます が 」 ||||めいわく||おもい||

「 いや 、 そういう 事情 なら 」 ||じじょう|

と 、 田所 が 肯 いた 。 |たどころ||こう|

「 ただ ── そうなる と 勇一 君 は あなた の 孫 と いう こと に なり ます ね 」 |そう なる||ゆういち|きみ||||まご|||||||

「 勇一 ？ ゆういち

── それ は 信子 の ──」 ||のぶこ|

「 子供 です 。 こども|

今 十五 歳 で 。 いま|じゅうご|さい| そこ は 色々 と 事情 が あり まして 。 ||いろいろ||じじょう||| ── ともかく 、 一旦 お 上り に なり ませ ん か 」 |いったん||のぼり|||||

「 そう さ せて いただき ましょう 」

小峰 は 、 若い 秘書 らしい 男 の 方 へ 向いて 、 こみね||わかい|ひしょ||おとこ||かた||むいて

「 お前 は 車 で 待って いろ 」 おまえ||くるま||まって|

と 言った 。 |いった

「 おい 、 佐々 本 」 |ささ|ほん

田所 が 、 珠美 に 声 を かけた 。 たどころ||たまみ||こえ||

「 お前 、 学校 へ 戻って ろ 。 おまえ|がっこう||もどって| 俺 が 遅く なる と 言 っと いて くれ ん か 」 おれ||おそく|||げん|||||

「 分 り ました 」 ぶん||

珠美 は 、「 お 先 に 失礼 し ます 」 たまみ|||さき||しつれい||

と 頭 を 下げて おいて 歩き 出した 。 |あたま||さげて||あるき|だした

── その 後ろ姿 を 見送って いた 小 峰 は 、 田所 の 方 へ 、 |うしろすがた||みおくって||しょう|みね||たどころ||かた|

「 あの 女の子 は ？ |おんなのこ|

と 訊 いた 。 |じん|

「 生徒 の 代表 で 、 焼香 に 来た んです 。 せいと||だいひょう||しょうこう||きた|

佐々 本 珠美 と いい まして 」 ささ|ほん|たまみ|||

「 佐々 本 ……。 ささ|ほん

そう です か 」

小峰 は 、 何となく 考え 込んで いる 様子 で 肯 く と 、 田所 に ついて 、 棺 の 安置 さ れた 部屋 に 上って 行った 。 こみね||なんとなく|かんがえ|こんで||ようす||こう|||たどころ|||ひつぎ||あんち|||へや||のぼって|おこなった

一方 、 珠美 は 、 団地 の 外側 を 回って 、 さっき 、 勇一 の いた 茂み の 辺り へ 行って みた が 、 もう どこ に も その 姿 は 見え なかった 。 いっぽう|たまみ||だんち||そとがわ||まわって||ゆういち|||しげみ||あたり||おこなって||||||||すがた||みえ|

今 の 話 、 勇一 は 耳 に した だろう か ？ いま||はなし|ゆういち||みみ||||

珠美 は 、 ちょっと 肩 を すくめて 、 たまみ|||かた||

「 ま 、 いい や 」

と 呟く と 、 さっさと 歩き 出した 。 |つぶやく|||あるき|だした

あんな 奴 の こと なんか 気 に して たって 、 一 文 に も なりゃ し ない 。 |やつ||||き||||ひと|ぶん|||||

放っときゃ いい んだ 。 ほっときゃ||

でも ── どこ で ご飯 を 食べ 、 どこ で 寝て る んだろう ？ |||ごはん||たべ|||ねて||

珠美 は 、 つい 心配 して いる のだった 。 たまみ|||しんぱい|||