麦 の 粉
麦 の 粉
むかし むかし 、 吉 四六 さん と 言う 、 とても ゆかいな 人 が い ました 。 ある 時 、 吉 四六 さん は 町 へ 野菜 を 売り に 行き ました が 、 どうした わけ か 、 その 日 は なかなか 売れ ませ ん 。 「 野菜 は いり ませ ん か ? 取り立て の こまつ 菜 に 、 ほうれん草 も あり ます よ 」 すると 吉 四六 さん に 、 声 を 掛ける 者 が あり ました 。 「 お ー い 、 吉 四六 さん 、 吉 四六 さん 」 見る と 、 顔見知り の 粉 屋 の 主人 です 。 「 はい 。 何 か 用 です か ? 」 「 実は その 野菜 を 、 全部 買って やろう と 思って な 」 「 へい 、 それ は どうも 、 ありがとう ございます 」「 ただし 、 買う と いって も お 金 じゃ ない 。 麦 の 粉 と 交換 して もらい たい のだ が 」「 いい です よ 。 ところで 麦 の 粉 は 、 どれほど あり ます か ? 」「 待て 待て 、 それ に は 、 こちら から 注文 が ある 。 もし お前 さん が 、 その 野菜 を 入れて ある ざる に 、 紙 も 布 も 木 の 葉 もし かず に 、 麦 の 粉 が もら ぬ よう に かついで いけたら 、 両方 の ざる に いっぱいやろう 」 それ を 聞いた 吉 四六 さん は 、 粉 屋 の 主人 が とんち 勝負 を しよう と して いる の が わかり ました 。 ( なるほど 、 とんち 勝負 なら 受けて やろう ) 吉 四六 さん に は 望む ところ です が 、 穴 の たくさん 開いて いる ざる で 粉 を 運ぶ の は 、 かなり の 難問 です 。 「 はっ はっ はっ 。 どう だ ね 吉 四六 さん 、 さすが の あんた でも 、 これ に は 参った だろう 」 粉 屋 の 主人 は 得意 そうです が 、 でも 吉 四六 さん は 、 しばらく 考える と ニッコリ 笑い ました 。 「 へい 、 では こぼれ ぬ ように 、 いただいて まいり ます 。 ちょっと 、 井戸 を 借り ます よ 」 吉 四六 さん は 空 に なった 両方 の ざる を 持って 井戸 に 行く と 、 それ に 水 を かけて 帰って 来 ました 。 「 さあ 、 今 から この ざる に 、 粉 を 入れ ます ね 」 「 えっ ? そんな 事 を したら 、 粉 が こぼれて 」 粉 屋 の 主人 が 不思議 そうな 顔 を して いる 前 で 、 吉 四六 さん は 濡れた ざる に 麦 の 粉 を 山盛り に 入れ ました 。 そして 吉 四六 さん が てんびん 棒 の 両端 に ざる を 引っかけて 持ち 上げる と 、 ざる から は 一 粒 の 粉 も もれ ませ ん 。 「 こりゃ また 、 どういう 事 だ ? 」 頭 を 傾げる 主人 に 、 吉 四六 さん は 説明 し ました 。 「 こうして ざる を 濡らして から 粉 を 入れる と 、 うまい 具合 に 底 の 方 の 粉 が 固まって 、 ざる の 目 を ふさいで くれる のです 。 それ に 今 、 ざる を 良く 洗って きた から 、 ざる の 目 に 詰まった 分 も 乾かせば そのまま 使え ます 」 「 なるほど 」「 では 、 粉 を あり が とうさん でした 」 そう 言って 帰ろう と する 吉 四六 さん を 、 粉 屋 の 主人 が あわてて 引き止め ました 。 「 ま 、 待って くれ ! 麦 の 粉 を ざる いっぱい 持って 行か れて は 大 損だ ! 野菜 は 倍 の 値段 で 買う から 、 粉 を 返して くれ 」 吉 四六 さん は 、 心 の 中 で ニンマリ 笑う と 、( それ は 助かった 。 こんなに 重い 粉 を 持って 帰る の は 、 一苦労 だ から な ) と 、 思い つつ も 、 粉 屋 の 主人 に は 、 いかにも 仕方ない と いう 顔 で 言い ました 。 「 やれやれ 、 それでは 野菜 が 全部 で 五十 文 な ので 、 倍 の 百 文 もらい ます よ 」 こうして 吉 四六 さん は 空 の ざる を かついで 、 ほくほく 顔 で 帰って 行き ました 。
おしまい